以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら具体的に説明する。なお、本発明は、下記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施することができるものである。以下の図においては、説明の便宜上、一部の構成を省略することがある。
先ず、図1及び図2を参照して、実施の形態に係る手ブレーキ装置の構成について以下に説明する。図1及び図2は、実施の形態に係る手ブレーキ装置の概略構成図であり、図1は手ブレーキ装置の緩解状態、図2は手ブレーキ装置の緊締状態を示す。なお、以下の説明において、左右方向は鉄道車両の幅方向、前後方向は鉄道車両の走行方向として用い、「左」、「右」、「前」、「後」の各方向を図1及び図2中の矢印にて示す。
本実施の形態において、手ブレーキ装置は、鉄道車両としての貨車2(図4参照)に設けられ、留置中の貨車の転動を防止するために使用される。図1に示すように、手ブレーキ装置10は、不図示の貨車における車体内部に設けられるリンク機構11と、リンク機構11の動作を介して車輪Wに接触及び離反する制輪子12と、リンク機構11を動作させるための操作ハンドル13とを備えている。
リンク機構11は、一端(右端)に操作ハンドル13が固定されて左右方向に延びる回転軸15と、回転軸15の他端(左端)に設けられた巻取部16と、巻取部16に巻き取られる鎖17とを備えている。
回転軸15は、操作ハンドル13の回転操作によって軸中心周りに回転可能に設けられる。これにより、図1の矢印R1方向に操作ハンドル13を回転することで、回転軸15を介して巻取部16に矢印R1方向と同じ方向となる矢印R2方向の回転力が伝達される。鎖17の一端は、巻取部16に巻き取り可能に接続され、鎖17の中間部はローラ19に巻き掛けられつつ延出方向が反転するように設けられている。そして、不図示となる鎖17の他端は、巻取部16付近の車体の一部に固定されている。従って、操作ハンドル13及び回転軸15を回転して巻取部16における鎖17の巻き取り量を増加させることで、ローラ19を巻取部16に近付く方向(前方向、矢印D1方向)に移動させることができる。
リンク機構11は、ローラ19に一端(前端)側が連結されて前後方向に延びるブレーキ軸20と、ブレーキ軸20の他端(後端)側に連結される水平梃子21及びばね部材22とを更に備えている。ブレーキ軸20とばね部材22とは、前後方向に延びる概略同一軸上に沿って配置されている。
水平梃子21は、左右方向に細長い概ね菱形の平面形状を備えた板部材とされる。水平梃子21の左側の頂点付近では、ブレーキ軸20の他端側及びばね部材22の一端(前端)側が連結されている。また、水平梃子21は、その中央部より右寄りの位置にてピン25を介して水平面内で回動可能に設けられている。従って、ブレーキ軸20が矢印D1方向に移動したときに、水平梃子21は、矢印R3方向に回動される。
ばね部材22は、本実施の形態では引張りコイルばねにより構成されて前後方向に延在している。ばね部材22の他端(後端)は、検知部30を介して車体に支持されている。なお、検知部30の具体的な構成については後述する。
ばね部材22は、ブレーキ軸20及びローラ19を水平梃子21側となる後方に引っ張り、水平梃子21を図1にて反時計回りに回動させる弾性力を発揮可能とされる。従って、ブレーキ軸20が矢印D1方向に移動し、水平梃子21が矢印R3方向に回動したときに、ばね部材22は伸長し、それらの方向に抗する引張力を発揮するようになる。
リンク機構11は、水平梃子21より後方に配置されて制輪子12を車輪Wの後方で支持する支持部材28と、前後方向に延びて支持部材28と水平梃子21とを連結軸29とを更に備えている。支持部材28は、不図示のスライド機構を介して車体に前後方向可能に支持されている。連結軸29の一端(前端)は、水平梃子21の後部側であってピン25より左側に連結されている。従って、水平梃子21が矢印R3方向に回動したときに、連結軸29を介して支持部材28が矢印D2方向となる前方に移動し、車輪Wに制輪子12を押し付け可能となる。
続いて、手ブレーキ装置10における緩解状態から緊締状態に移行する際の動作を説明する。ここで、図1に示す緩解状態にて、ばね部材22は自然長より伸長されており、ブレーキ軸20及び水平梃子21に対して所定の付勢力を付与している。
緩解状態から緊締状態に移行するには、図1の矢印R1方向に操作ハンドル13を回転する。これにより、回転軸15を介して巻取部16が矢印R2方向の回転し、巻取部16に鎖17が巻き付けられることで、鎖17に巻き掛けられたローラ19及びブレーキ軸20が前方となる矢印D1方向に移動する。ブレーキ軸20は、ばね部材22に連結されるので、前方への移動の際にばね部材22による後方への引張力を受けることとなり、該引張力はブレーキ軸20の移動量に比例して増大することとなる。ばね部材22の引張力は検知部30によって検知される。
操作ハンドル13の回転によってブレーキ軸20が前方に移動すると、水平梃子21が矢印R3方向に回動して連結軸29及び支持部材28が前方となる矢印D2方向に移動する。これにより、制輪子12も前方となる矢印D2方向に移動して車輪Wに押し付けられ、図2に示すような緊締状態となる。
なお、回転軸15には不図示のラチェット機構が設けられ、該ラチェット機構では矢印R1方向の回転が許容される一方、矢印R1方向とは反対方向の回転がストッパを介して規制される。従って、ばね部材22の引張力が伝達して矢印R1方向と反対方向に回転する力が作用しても、その回転がラチェット機構で規制され、ひいてはリンク機構11の各構成の動作も規制されて緊締状態を維持可能となる。
また、緊締状態でラチェット機構のストッパを解除すると、該ストッパによる回転軸15の回転規制が解除される。これにより、ばね部材22の引張力によって水平梃子21が回転することが許容され、連結軸29及び支持部材28が後方に移動して車輪Wから制輪子12が離間する緩解状態(図1参照)となる。ここで、ばね部材22は、緩解状態と緊締状態との間におけるブレーキ軸20の移動量に応じて伸縮し、前記ストッパ及び操作ハンドル13による緩解状態と緊締状態との間での切り換え操作に応じて引張力が変化する。
次に、図3を参照して、実施の形態に係る検知部の構成について以下に説明する。図3は、実施の形態に係る検知部の内部を示す概略構成図である。なお、以下の検知部の説明において、左右方向及び前後方向は上記説明と同様であり、「左」、「右」、「前」、「後」の各方向を図3中の矢印にて示す。
図3に示すように、検知部30には、貨車の車体と一体となって車体の一部を構成するブラケット31に装着されている。ブラケット31には、ばね部材22の後端に接続されて前後方向に延びるボルト32が貫通しており、ボルト32及び検知部30を介してブラケット31によりばね部材22の後端側が支持される。ボルト32は、ブラケット31を厚さ方向に貫通する孔に空間的に余裕のある状態で挿入されている。
検知部30は、ブラケット31の後面側にスペーサ33を介して固定されたロードセル35を備えている。スペーサ33及びロードセル35は、ボルト32を軸回りにて囲う位置に設けられている。ロードセル35は、前後方向からの圧縮力を検知可能に設けられている。
検知部30は、ボルト32が挿入される筒状体36と、筒状体36の外周面から外方に突出する押圧体37とを更に備えている。ボルト32の後端側には、筒状体36の後端に接触する位置に2個のナット39が設けられている。押圧体37は、ロードセル35の後部に当接するように設けられ、それらが当接した状態で筒状体36の前端はブラケット31から離間するように形成される。
上述のようにばね部材22が引張力を発揮する場合、ボルト32に対して前方の力が作用する。この力は、ナット39を介して筒状体36の後端面で受け止められ、筒状体36にも前方の力が作用する。筒状体36に作用する前方の力は、押圧体37を介してロードセル35で受け止められ、押圧体37がロードセル35を押圧しつつ、この押圧に対する反力がスペーサ33からロードセル35に加わりロードセル35に圧縮力が作用する。つまり、ロードセル35にはばね部材22の引張力に応じた圧縮力が作用し、かかる圧縮力を検知することで、ばね部材22の引張力を検知することができる。
なお、スペーサ33、ロードセル35及び押圧体37と筒状体36の大部分とは、ケース40内に配置される。ケース40内における筒状体36周りのスペースには、電池41や基板42が配置され、基板42には通信機能や電池41の残量を検知する検知機能等を有する各種チップが搭載される。
続いて、実施の形態に係る手ブレーキ装置の検知システムの構成について説明する。図4は、実施の形態に係る手ブレーキ装置の検知システムの全体構成を示す図である。図4に示すように、手ブレーキ装置の検知システム1(以下、「検知システム」と称する)は、各貨車2に設けられる手ブレーキ装置10と、手ブレーキ装置10から送信される情報をインターネット網3を介して通信するサーバ5とを備えている。貨車2及びこれを牽引する機関車6は、鉄道における不図示の線路上を走行可能とされる。
サーバ5では、検知システム1とは別の車両管理システムや運転支援システムに対し、各種情報の入出力(連動)が行われる。また、サーバ5は、手ブレーキ装置10から送信される情報や該情報に基づいて処理した情報を送信する機能を備えている。具体的な送信先としては、機関車6の運転士が携帯、或いは、運転台に設置される端末装置6aや、駅や指令所等の施設7における端末装置7aに送信する。端末装置6a、7aは、機関車6の運転や鉄道の運行に用いられる専用処理装置でもよいし、汎用されているコンピュータやタブレット等としてもよい。
図5は、手ブレーキ装置の構成を示すブロック図である。図5に示すように、手ブレーキ装置10は、制御部101と、入力部102と、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)信号受信部103と、残量検知部104と、通信部105と、を備えている。
制御部101は、中央処理装置(CPU)等からなり、通信部105を介して受信した指令やプログラム、その他の入力信号に基づき、手ブレーキ装置10の各部を制御する。制御部101は、ロードセル35が検知を行うタイミングの制御に加え、通信部105での通信やGPS信号受信部103での受信の制御、残量検知部104の制御等を行う手段として機能する。
入力部102は、ロードセル35からの出力を取得して制御部101に出力する機能を有する。
GPS信号受信部103は、GPS衛星Sから発せられるGPS電波を受信し、制御部101に出力する機能を有する。残量検知部104は、電池41の残量を検知し、制御部101に出力する機能を有する。GPS信号受信部103でGPS電波を受信するタイミングや頻度、残量検知部104で電池41の残量を検知するタイミングや頻度は、制御部101によって制御される。
通信部105は、手ブレーキ装置10の外部通信インターフェースを構成する。通信部105は、インターネット網3を介してサーバ5に対し、ロードセル35の出力値や、GPS信号受信部103が受信したデータ、残量検知部104が検知した電池残量を送信する機能を有する。通信部105は、インターネット網3を介して、サーバ5からの各種情報、プログラム、指令等を受信し、制御部101に出力する機能を有する。
図6Aは、サーバの構成を示すブロック図である。図6Aに示すように、サーバ5は、制御部121と、記憶部122と、通信部123と、を備えている。
制御部121は、中央処理装置(CPU)等からなり、記憶部122などに記憶されたプログラムや通信部123が受信した検知部30の出力値、その他の入力信号に基づき、サーバ5の各部を制御する。制御部121の具体的な機能は、図6Bを用いて後述する。
記憶部122は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等を備えている。RAMは、制御部121の作業領域として用いられたり、制御部121で演算した後述する閾値等の値や、通信部123から出力されたロードセル35での出力値等の情報が制御部121を介して記憶される。ROMでは、制御部121が各種の演算、制御を行うためのプログラムや、アプリケーションとして機能するためのプログラム、データ等が記憶される。
通信部123は、手ブレーキ装置10の外部通信インターフェースを構成する。通信部123は、インターネット網3を介して手ブレーキ装置10に対し、記憶部122に記憶された手ブレーキ装置10の制御プログラムやデータ等を送信する機能を有する。通信部123は、インターネット網3を介して、手ブレーキ装置10からロードセル35での出力値等を受信し、制御部121に出力する機能を有する。また、通信部123は、各種の端末装置6a、7aの他、検知システム1とは別の車両管理システムや運転支援システムに対して各種情報を送受信する機能を備えている。
図6Bは、制御部の機能ブロック図である。図6Bに示すように、制御部121は、演算部121aと、更新部121bと、比較判定部121cと、閾値補正部121dとして機能する。これらの機能ブロックは、記憶部122に記憶されたプログラムが制御部121で実行されることによって実現される。なお、図6Bに示す制御部121の機能ブロックは、本発明に関連する構成のみを示しており、それ以外の構成については省略している。
演算部121aは、記憶部122に記憶した情報に基づき、各種の値を演算する。具体的には、演算部121aは、記憶部122に記憶した緩解状態及び緊締状態におけるロードセル35の出力値に基づき、それらの状態を判定するための閾値を演算する。また、演算部121aは、ロードセル35の最新の出力値となる現在出力値と、現在出力値の検知以前に検知した過去出力値との差分を演算し、その絶対値も演算する。
更新部121bは、通信部123がロードセル35の新たな出力値を受信すると、記憶部122に記憶していた現在出力値を前回出力値に更新し、最新の出力値を現在出力値として記憶部122に記憶する。
比較判定部121cは、記憶部122に記憶した現在出力値と過去出力値との比較に基づき、手ブレーキ装置10が緊締状態か否か、緊締状態及び緩解状態の何れであるかを判定する。比較判定部121cは、演算部121aで演算したロードセル35が出力した現在出力値及び過去出力値の差分と、閾値との比較に基づき、緊締状態及び緩解状態の切り換えが実施されているか否かを判定する。
閾値補正部121dは、ロードセル35の現在出力値と過去出力値とに基づいて閾値を補正し、記憶部122に記憶した閾値を更新する。閾値補正部121dにおいて、閾値の補正は、記憶部122に記憶した現在出力値と過去出力値との差分、更新前の閾値、各種係数を利用して演算することを例示できる。
続いて、本実施の形態における手ブレーキ装置10の緊締状態及び緩解状態を検知する処理について説明する。図7は、時間と検知部の出力値との関係を示すグラフである。図7のグラフにて、横軸は時間を示し、縦軸は検知部30での出力値、言い換えると、ばね部材22に作用する引張力の大きさを示す。また、図7のグラフにて、黒塗りの円マークは緊締状態の出力値、白塗りの円マークは緩解状態の出力値を示す。更に、図7のグラフにて、上向き三角マークは緩解状態から緊締状態への切り換えを判定するための閾値、下向き三角マークは緊締状態から緩解状態への切り換えを判定するための閾値を示す。
手ブレーキ装置10においては、図7のグラフに示すように、緩解状態と緊締状態とが交互に繰り返されるようになる。なお、図7のグラフでは、緩解状態と緊締状態との繰り返しが同一時間毎に行われているが、これに限られるものでなく、緊締状態及び緩解状態の時間の間隔は、貨車2の使用状態に応じて任意に設定される。先ず、上記閾値の設定方法について以下に説明する。
閾値の設定あたり、図1に示すように、手ブレーキ装置10のラチェット機構におけるストッパ(不図示)を操作し、制輪子12が車輪Wから離れた緩解状態にする。緩解状態では、上述したリンク機構11の動作によって、図7のグラフに示すように出力値(ばね部材22の引張力)が緊締状態に比べて所定量小さくなる。次いで、作業者による所望のタイミングにて検知部30におけるロードセル35の出力値を取得し、該出力値を手ブレーキ装置10からインターネット網3を介してサーバ5に送信する。ここでの検知部30の出力値は、緩解状態での出力値の初期値とすることが例示できる。
特に限定されるものでないが、本実施の形態では、検知部30にて一定時間毎にロードセル35の検知が実施され、また、検知部30は、防水対応とすべく物理的な構造を外部に有するスイッチを設けないようにしている。よって、検知部30においては、非接触式スイッチを含む構成が採用され、該非接触式スイッチとしては、磁石が接近したときに、その接近のタイミングで強制的にロードセル35の出力値を取得するものが例示できる。なお、所望の防水性能を発揮し得るのであれば、検知部30に物理的な構造を有するスイッチを採用することを妨げるものでない。
サーバ5では、送信された緩解状態でのロードセル35の出力値を受信すると、記憶部122に記憶する。その後、作業者が端末装置6a、7a等を介してサーバ5にアクセスし、記憶した出力値を緩解状態の出力値として登録する。
緩解状態の出力値を登録後、手ブレーキ装置10の操作ハンドル13を操作し、制輪子12を車輪Wに押し付けた緊締状態にする。緊締状態では、上述したリンク機構11の動作によって、図7のグラフに示すように出力値(ばね部材22の引張力)が緩解状態に比べて所定量大きくなる。次いで、作業者による所望のタイミングにて、上述と同様にしてロードセル35の出力値を取得し、該出力値を手ブレーキ装置10からインターネット網3を介してサーバ5に送信する。ここでの検知部30の出力値は、緊締状態での出力値の初期値とすることが例示できる。
サーバ5では、送信された緊締状態でのロードセル35の出力値を受信すると、記憶部122に記憶する。そして、作業者が端末装置6a、7a等を介してサーバ5にアクセスし、記憶した出力値を緊締状態の出力値として登録する。その後、サーバ5における制御部121の演算部121aでは、記憶部122に記憶した緩解状態の出力値と緊締状態の出力値に基づき閾値を演算する。この演算の計算式としては、以下の式(1)を例示することができる。
閾値={(緩解状態の出力値)+(緊締状態の出力値)}×係数・・・(1)
ここで、式(1)の係数は、0より大きく1より小さい値とされ、実験データから最適値を割り出して演算に用いることが好ましい。例えば、係数を0.5とすると、緩解状態及び緊締状態の各出力値の中間値となる。図7のグラフでは、一例として係数を0.5に設定した場合の閾値を三角マークにて表している。係数にあっては、上記範囲内にて値が大きくなるに従い、手ブレーキ装置の状態が緊締状態及び緩解状態の間で変化しない場合の誤検知を生じ難くすることができる。一方、上記範囲内にて係数の値が小さくなるに従い、手ブレーキ装置の状態が緊締状態及び緩解状態の間で変化する場合の未検知が生じ難くなる。よって、式(1)の係数にあっては、上記の傾向を考慮して適宜な値に調整及び設定される。
ところで、手ブレーキ装置の緊締状態及び緩解状態を検知する処理について、本発明者等は、本実施の形態に対する比較方法を検討した。該比較方法では、先ず、上記のように緊締状態及び緩解状態の初期値となる出力値を取得した。そして、比較方法における緊締状態の閾値として、取得した緊締状態の初期値が概ね中間値となる所定レンジRa(図7参照)を設定し、緩解状態の閾値として、取得した緩解状態の初期値が概ね中間値となる所定レンジRb(図7参照)を設定した。そして、これら所定レンジRa、Rb内に、ばね部材22の引張力の検出値が収まれば、緊締状態や緩解状態と判定処理することとした。
ところが、貨車や手ブレーキ装置について複数タイプが存在したり、同じタイプでも個体差が生じたりすると、緊締状態及び緩解状態でのばね部材の引張力が所定レンジRa、Rbより広い範囲で変化する可能性がある。また、ばね部材の引張力の変化は、手ブレーキ装置の経時変化やメンテナンスの前後等においても発生する可能性がある。このようにばね部材の引張力が変化し、ばね部材の引張力を検知する検知部の検出値が所定レンジRa、Rb内に収まらなくなると、緊締状態及び緩解状態について判定不能になる、という問題があった。
そこで、本実施の形態では、かかる問題を解消すべく、以下に述べるようにして手ブレーキ装置10の緊締状態及び緩解状態を検知している。以下、本実施の形態における手ブレーキ装置10の緊締状態及び緩解状態を検知するフローについて、図8を参照して説明する。図8は、緊締状態及び緩解状態の検知の流れを示すフロー図である。
ここでは、手ブレーキ装置10において、緊締状態及び緩解状態の切り換えが数時間ないし数日の間隔を空けて実施されるものであり、検知部30では、数分程度の所定間隔でロードセル35の検知が実施される。そして、検知部30の出力値は、上述と同様にして手ブレーキ装置10からインターネット網3を介してサーバ5に送信され、継続的に記憶されるものとする。
サーバ5では、受信した検知部30の最新の出力値を現在出力値として記憶する(ステップ(以下、「S」という)101)。また、現在出力値を検知する直前に検知して登録されていた現在出力値を前回出力値(過去出力値)として記憶する(S102)。つまり、サーバ5の制御部121では、新たな出力値を受信すると、記憶部122に記憶していた現在出力値を前回出力値に更新し、最新の出力値を現在出力値として記憶部122に記憶するよう更新部121bで制御する。
S102の実施後、サーバ5における制御部121の演算部121aでは、現在出力値から前回出力値を差し引いた差分を演算する(S103)。そして、制御部121の比較判定部121cにて、S103で演算した差分の絶対値と上述のように演算した閾値とを比較する(S104)。比較判定部121cでは、差分の絶対値が閾値以下の場合(S104:No、|差分|≦閾値)、緊締状態及び緩解状態の切り換えが実施されていないと判定し、S101に戻る処理を行う。つまり、差分の絶対値が閾値以下の場合には、連続する2回の検知部30の検知において、出力値が変化していない、或いは、出力値が変化するものの変化量が小さく、振動や温度等の要因による変化に過ぎないものとされる。よって、手ブレーキ装置10の使用状態が変化せずに維持されているものとして、検知部30での検知を引き続き継続するよう制御する。
これとは反対に、差分の絶対値が閾値より大きくなる場合(S104:Yes、|差分|>閾値)、比較判定部121cでは緊締状態及び緩解状態の切り換えが実施されていると判定し、S105に進行する処理を行う。言い換えると、連続する2回の検知部30の検知で、ばね部材22の引張力が振動や温度等の要因による変化より相当大きい変化があった場合となり、図7のグラフで出力値が大きく変化して緊締状態と緩解状態との間で切り換えが実施された場合となる。
S104にて|差分|>閾値と判定された後、比較判定部121cでは、差分が0より大きいか否か(現在出力値が前回出力値より大きいか否か)を判定する(S105)。差分が0より大きい場合(S105:Yes、差分>0)、現在出力値が前回出力値より大きくなり、ばね部材22の引張力が増大するので、緩解状態から緊締状態に切り換えられたものと判定する(S106)。また、差分が0以下の場合(S105:No、差分≦0)、現在出力値が前回出力値より小さくなり、ばね部材22の引張力が減少するので、緊締状態から緩解状態に切り換えられたものと判定する(S107)。S106、S107の判定結果は、手ブレーキ装置10の緊締状態、緩解状態の検知結果として、サーバ5から各種システムや端末装置6a、7aに送信するよう制御される。これにより、ディスプレイによる表示やアラームの発生等によって、運転士や駅員等に手ブレーキ装置10の状態を認識させることができる。
上記処理によれば、現在出力値と前回出力値との差分を演算し、該差分と閾値とを比較することにより、手ブレーキ装置10にて緊締状態と緩解状態との間で切り換えがあったか否かを判定(検知)することができる。言い換えると、上記比較方法のように図7の所定レンジRa、Rbに出力値が収まるか否かで判定せず、所定時間前の出力値と現時点の出力値との変化量に応じて手ブレーキ装置10の状態を判定することができる。これにより、リンク機構11や手ブレーキ装置10が複数タイプとなる他、それらの個体差や、ばね部材22の経時変化によって検出値にばらつきが発生しても、手ブレーキ装置10の状態の判定にて、該ばらつきの影響を受け難くすることができる。これにより、手ブレーキ装置10の緊締状態、緩解状態についての判定を安定して実施することができる。
ところで、上記の説明では閾値を不変として継続使用する場合を説明したが、これに限定されるものでなく、緊締状態及び緩解状態での出力値が変化する場合、その変化に応じて閾値を補正するようにしてもよい。この場合、図8のフローのS106、S107の実施後、閾値を補正する処理を実施する。
閾値を補正するにあたり、下記式(2)の補正式にて閾値を演算することが例示できる。
閾値=|差分|×係数×α+前回閾値×(1−α)・・・(2)
式(2)にて、差分は、現在出力値から前回出力値を差し引いた値である。係数は、式(1)と同じく0より大きく1より小さい値とされ、「α」も、0より大きく1より小さい値とされる。係数及び「α」は、実験データから最適値を割り出して演算に用いることが好ましく、係数を0.5、「α」を0.3に設定することが例示できる。ここで、「α」にあっては、上記範囲内にて値が大きくなるに従い、出力値の経時的な変化にレスポンス良く対応した閾値とし易くなる。一方、上記範囲内にて「α」の値が小さくなるに従い、突発的な出力値の変化に引きずられて閾値が大きく変化することを回避することができる。よって、式(2)の「α」にあっては、上記の傾向を考慮して適宜な値に調整及び設定される。以下、閾値の補正処理の流れについて、図9を参照して説明する。図9は、閾値の補正処理の流れに関する説明図である。
図9Aに示すように、時間t0の緩解状態から時間t1の緊締状態に切り換えが行われた場合、その判定処理に用いる閾値が「閾値(t0)」とされる。このとき、時間t1での、現在出力値と前回出力値との差分が「差分(t1)」と演算される。時間t1の緊締状態への切り換えを判定後、サーバ5における制御部121の閾値補正部121dでは、図9Bに示す閾値(t1)を演算し、判定に用いる閾値を閾値(t0)から閾値(t1)に補正して更新し、記憶部122に記憶する。閾値(t1)の演算は、上記条件を式(2)に代入した下記式(2a)の補正式で演算される。
閾値(t1)=|差分(t1)|×係数×α+閾値(t0)×(1−α)
・・・(2a)
続いて、図9Cに示すように、時間t1の緊締状態から時間t2の緩解状態に切り換えが行われた場合、その判定処理に用いる閾値は、式(2a)の演算にて補正された「閾値(t1)」とされる。このとき、時間t1での、現在出力値と前回出力値との差分が「差分(t2)」と演算される。時間t2の緩解状態への切り換えを判定後、サーバ5における制御部121の閾値補正部121dでは、図9Dに示す閾値(t2)を演算し、判定に用いる閾値を閾値(t1)から閾値(t2)に補正して更新し、記憶部122に記憶する。閾値(t2)の演算は、上記条件を式(2)に代入した下記式(2b)の補正式で演算される。
閾値(t2)=|差分(t2)|×係数×α+閾値(t1)×(1−α)
・・・(2b)
時間t2の緩解状態から、その後の緊締状態(不図示)に切り換えが行われた場合、その判定処理に用いる閾値は、式(2b)の演算にて補正された「閾値(t2)」とされる。なお、図示例にあっては、差分(t1)の絶対値と差分(t2)の絶対値とが同一となるので、閾値(t1)と閾値(t2)とは同一とされる。
これにより、例えば、緊締状態での出力値が経時的に減少する図10に示すような場合、上述のように閾値を更新及び補正することで、出力値の減少に応じて閾値も減少するよう補正することができる。従って、検知部30における出力値が経時的に変化し、現在出力値と前回出力値との差分の値が変化しても、これに応じて閾値も変化させることができる。これにより、使用中において、手ブレーキ装置10の緊締状態及び緩解状態が判定不能になることを回避でき、判定をより安定して行うことが可能となる。
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状、方向などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
例えば、上記実施の形態では、手ブレーキ装置10における使用状態の判定処理や閾値補正処理をサーバ5にて行ったが、手ブレーキ装置10に記憶部を設け、該判定処理を手ブレーキ装置10の制御部101で行うようにしてもよい。
また、上記実施の形態における処理にて、現在出力値の直前に検知された前回出力値を過去出力値としたが、これに限られず、過去出力値は前回出力値よりも前に検知した出力値としてもよい。
また、手ブレーキ装置10の使用状態の検知にあたり、上記実施の形態では緊締状態と緩解状態との両方を検知する処理を実施したが、これに限定されるものでなく、緩解状態を検知せずに緊締状態であるか否かを検知する処理としてもよい。
また、上記実施の形態における処理では、緩解状態から緊締状態、緊締状態から緩解状態の各判定にて同じ閾値を用いたが、それらで別の閾値を用いても良い。この場合、現在出力値及び前回出力値の差分と閾値とを比較するにあたり、差分の絶対値を演算する処理を省略してもよい。