以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は原則的に繰返さないものとする。
図1は、本実施の形態に従う分析システムの構成例を説明する概略図である。
図1を参照して、本実施の形態に従う分析システム100は、試料の分析を行なうシステムであり、N台(Nは整数)の分析装置AD1〜ADNと、サーバ4と、データベース5とを備える。
分析装置AD1〜ADNの各々は、試料の分析を行なう装置である。以下の説明では、分析装置AD1〜ADNを分析装置ADとも総称する。本実施の形態では、分析装置ADとして、液体クロマトグラフ質量分析装置(LC/MS)を例示する。
分析装置ADは、装置本体1および情報処理装置2を有する。装置本体1は試料の測定を行なう。情報処理装置2は、装置本体1における測定を制御するとともに、装置本体1による測定データの定量分析を行なう。情報処理装置2は、通信網の代表例であるインターネット3に接続されている。これにより、分析装置AD1〜ADNの各々の情報処理装置2は、インターネット3を介して相互に通信可能に接続される。
さらに、分析システム100では、サーバ4がインターネット3に接続されている。したがって、分析装置ADの情報処理装置2は、インターネット3を経由して、サーバ4との間で双方向にデータを送受信することができる。
サーバ4は、主として、分析システム100が運用されるN台の分析装置ADを管理するためのサーバである。サーバ4は、N台の分析装置ADとの間で通信することにより、N台の分析装置ADに関する情報を収集するとともに管理する。サーバ4は、例えば、分析システム100を管理する管理センターに設置されたクラウドサーバである。
サーバ4にはデータベース5が接続されている。データベース5は、サーバ4と分析装置ADとの間で遣り取りされるデータを保存するための記憶部である。図1の例では、メモリとサーバ4に外付けされたデータベース5で構成しているが、サーバ4に記憶部を内蔵する構成としてもよい。データベース5は「記憶部」の一実施例に対応する。
図2は、図1に示した分析装置ADの構成例を概略的に示す図である。
図2を参照して、分析装置ADは、液体クロマトグラフ質量分析装置(LC/MS)である。装置本体1は、液体クロマトグラフ(LC)部1Aと、質量分析(MS)部1Bとを備える。
LC部1Aは、移動相容器30、送液ポンプ31、インジェクタ32、カラム33、バルブ34、および調整用試料導入部35を含む。送液ポンプ31は、移動相容器30に貯留されている移動相を吸引し、一定流量でインジェクタ32を通してカラム33へと送給する。インジェクタ32により試料が注入されると、移動相の流れに乗って試料はカラム33へと導入され、カラム33を通過する間に試料中の各種成分は分離されて、時間的にずれてカラム33の出口から溶出する。カラム33の出口には流路切替用のバルブ34が設けられており、通常の分析時には、カラム33からの溶出液がバルブ34を経てMS部1Bに導入される。
バルブ34の他方には、調整用試料導入部35が接続されており、後述する自動調整(オートチューニング)の実行時において、バルブ34が切り替えられて調整用試料導入部35からの試料液がMS部1Bに導入される。ただし、調整用試料の導入方法はこれに限らず、例えばインジェクタ32により調整用試料を移動相中に注入し、カラム33で成分を分離させてもよい。また、インジェクタ32で調整用試料が注入された移動相がカラム33を迂回して流れる迂回流路を設け、この迂回流路を経た移動相がMS部1Bに導入されるようにしてもよい。
MS部1Bは、略大気圧雰囲気であるイオン化室40と、図示しない高性能の真空ポンプにより真空排気される高真空雰囲気である分析室48との間に、第1中間真空室43および第2中間真空室46の2室が設けられた多段差動排気系の構成である。イオン化室40と第1中間真空室43との間は細径の脱溶媒管42で連通し、第1中間真空室43と第2中間真空室46との間はスキマー45の頂部に設けられた極小径の通過孔(オリフィス)を通して連通している。
MS部1Bでは、試料成分を含む溶出液はエレクトロスプレイ部41において電荷を付与されながら略大気圧雰囲気にあるイオン化室40中に噴霧され、それにより試料成分がイオン化される。なお、エレクトロスプレイイオン化法でなく、大気圧化学イオン化法など他の大気圧イオン化法を用いてイオン化を行なってもよい。イオン化室40で生成されたイオンや未だ完全に溶媒が気化していない微細液滴が差圧によって脱溶媒管42中に引き込まれ、加熱された脱溶媒管42中を通過する間にさらに微細液滴からの溶媒の気化が進んでイオンが発生する。
第1中間真空室43内には、イオン光軸Cに直交する面内でイオン光軸Cを取り囲む4枚の電極板が、イオン光軸C方向に複数配列されて成る第1イオンガイド44が設けられている。イオンはこの第1イオンガイド44で収束されてオリフィスを通過し、第2中間真空室46に入る。第2中間真空室46内にはイオン光軸Cを取り囲むように配置された8本のロッド電極から成る第2イオンガイド47が設けられ、イオンは第2イオンガイド47により収束されて分析室48に送り込まれる。分析室48内には、4本のロッド電極からなる四重極質量フィルタ50とその前段にあってイオン光軸C方向に短い4本のロッド電極から成るプリロッド電極49とが配設されている。各種イオンの中で特定の質量電荷比を有するイオンのみ四重極質量フィルタ50を通り抜けてイオン検出器51に到達する。
情報処理装置2は、演算処理部であるCPU(Central Processing Unit)を主体として構成される。情報処理装置2は、例えばパーソナルコンピュータなどを利用することができる。情報処理装置2は、データ処理部60、分析制御部62および中央制御部64を有する。イオン検出器51による検出信号はデータ処理部60に入力され、例えばマススペクトル、マスクロマトグラム、トータルイオンクロマトグラムの作成などの各種のデータ処理が実行される。分析制御部62は、中央制御部64からの指示に基づいてLC/MS分析を実行するために、後述する電源部52〜56などを含めてLC部1AおよびMS部1Bの各部の動作を制御する。中央制御部64には、ユーザインターフェースとしての入力部22、ディスプレイ24が接続されている。中央制御部64は、入力部22によるオペレータの操作を受けて分析のための各種の指令を分析制御部62またはデータ処理部60に出力する。また、中央制御部64は、マススペクトルなどの分析結果をディスプレイ24に出力する。なお、情報処理装置2において、中央制御部64、分析制御部62およびデータ処理部60の大部分は、所定の制御/処理ソフトウェアを搭載したパーソナルコンピュータにより具現化することができる。
四重極質量フィルタ50の各ロッド電極には、第5電源部56から高周波電圧と直流電圧とを重畳した電圧に、さらに所定の直流バイアス電圧が加算された電圧V5が印加される。この高周波電圧と直流電圧とに応じて通り抜け得る質量電荷比が決まる。
また、脱溶媒管42には第1電源部52から所定の直流バイアス電圧V1が印加される。第1イオンガイド44には第2電源部53から所定の高周波電圧に直流バイアス電圧を加算した電圧V2が印加される。第2イオンガイド47には第3電源部54から所定の高周波電圧に直流バイアス電圧を加算した電圧V3が印加される。また、プリロッド電極49には、第4電源部55から高周波電圧と直流電圧とを重畳した電圧に、さらに所定の直流バイアス電圧が加算された電圧V4が印加される。なお、実際にはそれ以外にスキマー45などにも直流バイアス電圧が印加されるが、記載が煩雑になるのを避けるため、ここでは代表的なもののみ記載している。
図3は、情報処理装置2の構成を概略的に示す図である。
図3を参照して、情報処理装置2は、装置全体を制御するためのCPU10と、プログラムおよびデータを格納する記憶部とを備えており、プログラムに従って動作するように構成される。記憶部は、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)14およびHDD(Hard Disk Drive)18を含む。
ROM12は、CPU10にて実行されるプログラムを格納することができる。RAM14は、CPU10におけるプログラムの実行中に利用されるデータを一時的に格納することができ、作業領域として利用される一時的なデータメモリとして機能することができる。HDD18は、不揮発性の記憶装置であり、装置本体1による測定データおよび、情報処理装置2による分析結果など情報処理装置2で生成された情報を格納することができる。HDD18に加えて、あるいは、HDD18に代えて、フラッシュメモリなどの半導体記憶装置を採用してもよい。
情報処理装置2は、さらに、通信インターフェイス20、I/O(Input/Output)インターフェイス16、入力部22およびディスプレイ24を含む。通信インターフェイス20は、情報処理装置2が装置本体1およびサーバ4を含む外部機器と通信するためのインターフェイスである。
I/Oインターフェイス16は、情報処理装置2への入力または情報処理装置2からの出力のインターフェイスである。図3に示すように、I/Oインターフェイス16は、入力部22およびディスプレイ24に接続される。
入力部22は、測定者からの情報処理装置2に対する指示を含む入力を受け付ける。入力部22は、キーボード、マウスおよび、ディスプレイ24の表示画面と一体的に構成されたタッチパネルなどを含み、試料の測定条件などを受け付ける。
ディスプレイ24は、測定条件を設定する際に、例えば測定条件の入力画面および装置本体1による測定データなどを表示することができる。
図4は、サーバ4の構成を概略的に示す図である。
図4を参照して、サーバ4は、装置全体を制御するためのCPU68と、プログラムおよびデータを格納する記憶部とを備えており、プログラムに従って動作するように構成される。記憶部は、ROM72、RAM74、HDD78およびデータベース5を含む。
ROM72は、CPU68にて実行されるプログラムを格納することができる。RAM74は、CPU68におけるプログラムの実行中に利用されるデータを一時的に格納することができ、作業領域として利用される一時的なデータメモリとして機能することができる。HDD78およびデータベース5は、不揮発性の記憶装置であり、情報処理装置2から送信された情報を格納することができる。
情報処理装置2は、さらに、通信インターフェイス75およびI/Oインターフェイス76を含む。通信インターフェイス75は、サーバ4が情報処理装置2を含む外部機器と通信するためのインターフェイスである。
I/Oインターフェイス76は、サーバ4への入力またはサーバ4からの出力のインターフェイスである。I/Oインターフェイス76はデータベース5に接続される。データベース5は、サーバ4および情報処理装置2の間で送受信されるデータを蓄積するためのメモリである。
サーバ4は一般的なコンピュータに相当する機能を有して構成することができる。サーバ4は表示部および入力部をさらに含んでもよい。
<自動調整機能>
再び図2を参照して、分析装置ADである液体クロマトグラフ質量分析装置においては、質量電荷比の校正および質量分解能・分析感度の調整などを行なうために多くのパラメータが存在する。上記パラメータには、イオン化インターフェイス部、イオンガイド、四重極質量フィルタ50、イオントラップおよびイオン検出器51の各々への印加電圧などが含まれる。
質量電荷比の校正および装置調整では、一般的に、成分および濃度が既知である標準試料を質量分析することによりマススペクトルを取得しながら、そのスペクトルに現れているピークが適切な位置に来るように、かつ、ピーク強度ができるだけ高くかつ半値幅が狭くなるように、各種パラメータを最適な値に調整する。近年では、このような各種パラメータの調整を自動的に行なう自動調整機能(オートチューニング)が装置に備わっていることが多い。例えばひと月に一度程度の頻度で自動調整を定期的に実行することにより、質量分解能および分析感度を常に高いレベルに保つことができる。
ここで、液体クロマトグラフ質量分析装置において、高い質量分解能および分析感度を実現するためには、イオン化室40内(または脱溶媒管42、第1中間真空室43)で生成されたイオンのうち、分析対象であるイオンが出来るだけ高い効率で四重極質量フィルタ50に導入されることが必要である。そのためには、上述した各イオン輸送光学素子におけるイオン通過効率をそれぞれ最大にする必要がある。
その一例として、イオン化室40から第2中間真空室46に入射するまでのイオンの輸送効率に着目すると、イオンの輸送効率を出来るだけ高くするためには、第1電源部52から脱溶媒管42に印加される直流バイアス電圧V1と第2電源部53から第2イオンガイド47に印加される直流バイアス電圧V2とを、通過するイオンの質量電荷比に応じて適切に設定することが重要となる。そのため、自動調整機能の一環として、各箇所への印加電圧の調整を自動的に行なう自動電圧調整が実行される。以下、自動電圧調整を実行するときの分析装置ADの動作について説明する。
図5は、自動電圧調整を実行するときの処理手順を説明するためのフローチャートである。
図5を参照して、まず、ステップS01にて、オペレータは、入力部22により所定操作を行ない、SIM(選択イオンモニタリング)測定の分析条件と電圧調整実行条件とを設定する。SIM測定分析条件とは、例えば、SIM測定の対象となる1または複数の質量電荷比(m/z値)、装置各部の温度などである。
電圧調整実行条件を設定するために、オペレータは、入力部22で所定操作を行ない、図6に示す設定画面70をディスプレイ24の表示画面に表示する。オペレータは、入力部22により、電圧最適化を行なう対象(イオン輸送光学系)の種類、電圧値の調整範囲と電圧ステップ数、最適値を判断するために使用するデータの種類などを設定する。図6の例では、最適化の対象はQアレイ(第1イオンガイド44)へ印加される直流電圧であり、電圧値の調整範囲は0〜80[V]であり、電圧ステップ数は5であり、最適値の計算にはクロマトグラムピークの高さまたは面積を使用する。
図6の設定画面70において必要な条件およびパラメータを設定した後、オペレータが「開始」ボタン71をクリック操作すると、中央制御部64は、ステップS02にて、電圧最適化のための電圧調整動作を開始する。最初に、ステップS03により、ステップS01で設定された各種条件およびパラメータに基づいて、分析を実行するための分析メソッドファイルを作成する。次に、ステップS04により、分析制御部62は、作成された分析メソッドファイルに従って、実際の測定を実行する。
ここで、第2イオンガイド47へ印加する直流電圧を0〜50[V]の範囲で10[V]ステップで変化させる場合を想定する。SIM測定の対象のm/z値がM1,M2,M3の3つであるとする。
この場合、最初に、m/z=M1に対し、V1=0,10,20,30,40,50[V]の順に変化させ、調整用試料導入部35に用意された調整用試料に対する測定を実行する。あるいは、印加電圧をV1=0に固定した状態で、m/z=M1,M2,M3の順番に変更して測定を行ない、その測定終了後に、V1=10[V]に変更して同様の測定を繰り返すようにしてもよい。いずれにおいても、設定されたすべてのm/z値と印加電圧との組み合わせについて、同一の調整用試料に対する測定を実行すればよい。
調整用試料は、調整用試料導入部35から移動相に乗ってMS部1Bに導入される。調整用試料は、分析装置ADの製造メーカなどが用意した標準試料であり、既知の成分を既知の濃度を含む。ただし、調整用試料は分析装置ADのユーザが用意した目的試料(通常は成分が既知である試料)であってもよい。
ステップS04における調整用試料の測定中、データ処理部60は、ステップS05により、分析装置ADの内部動作についてのログ(以下、「動作ログ」とも称する)を収集する。データ処理部60は、収集した動作ログを情報処理装置2内部のHDD40(図2参照)に保存する。本願明細書において「動作ログ」は、分析条件および/または動作条件に基づいて分析装置ADの内部(情報処理装置2)で発行された動作命令を示す情報と、この動作命令に応答して実際に分析装置AD(装置本体1)が行なった動作内容を示す情報とを含んでいる。HDD40に保存された動作ログは、後述するように、自動電圧調整の実行中に異常が検知された場合において異常解析に用いることができる。
データ処理部60は、イオン検出器51からの検出信号に基づいて、着目するm/z値における信号強度の時間的変化を示すクロマトグラムを作成する。次に、データ処理部60は、作成したクロマトグラムおけるピークを検出し、例えばピークの面積を計算する。各m/z値および各印加電圧についてクロマトグラムが作成され、ピークの面積値が得られる。データ処理部60は、ステップS06にて、同一のm/z値に対して印加電圧を変化させたときに得られる面積値を比較し、面積値が最大となる印加電圧を、最適電圧値と定めることができる。
次に、ステップS07にて、データ処理部60は、図7に示す最適化結果画面80をディスプレイ24の表示画面に表示する。最適化結果画面80は、信号強度と印加電圧との関係を示すグラフ81を含む。グラフ81の縦軸はピーク面積値であり、横軸は電圧値である。最適化結果画面80には、各電圧値に対して得られたクロマトグラム82も含まれる。また、自動的に定められた最適電圧値83(図7の例では40.0V)も含まれる。
オペレータは、ステップS08にて、図7の最適化結果画面80でグラフ81およびクロマトグラム82の形状などを確認し、最適電圧値83が適当であるか否かを判定する。図7の例では、グラフ81のカーブは、最適電圧値40Vをピークとして低電圧側および高電圧側に面積値が裾状に広がっている。また、クロマトグラム82の波形の形状は乱れがなく、電圧値によらず比較的相似している。これらのことから、最適電圧値が適当であると判断できる。最適電圧値が適当であれば(S08のYES判定時)、オペレータが最適化結果画面80に含まれる「メソッドに適用」ボタン84をクリック操作すると、ステップS09にて、中央制御部64はこの操作を受けて最適電圧値を確定し、これをSIM測定の分析条件に反映させる。
これに対して、最適電圧値が適当でない場合(S08のNO判定時)、オペレータが最適化結果画面80に含まれる「非適用」ボタン85をクリック操作する。例えば、図8に示すように、最適化結果画面80に示されたグラフ81において、2つのピークが存在している場合、または、ピークの面積値が、標準試料に対する想定値から大きくずれている場合には、最適電圧値が適当でないと判定する。あるいは、各電圧値に対して得られたクロマトグラム82のうち少なくとも1つにおいて波形の形状が歪んでいる場合には、最適電圧値が適当でないと判定する。このように最適電圧値が適当でない場合には、装置本体1の内部で何らかの異常が発生している可能性があると検知することができる。
なお、ステップS08における最適電圧値が適当か否かの判定は、オペレータが行なう構成に代えて、情報処理装置2が行なう構成としてもよい。これによると、オペレータの負担を軽減できるとともに、オペレータの経験や熟練度などの影響を受けずに適切に判定することができる。中央制御部64は、最適電圧値が適当であると判定した場合には、自動的に最適電圧値を確定し、これをSIM測定の分析条件に反映させる。一方、最適電圧値が適当でないと判定した場合には、中央制御部64は、自動電圧調整が正常に実行できないこと、および、装置本体1に異常発生の可能性があることを、ディスプレイ24の表示画面その他の報知手段を用いてオペレータに知らせることができる。
最適電圧値が適当でない場合(S08のNO判定時)、ステップS10にて、中央制御部64はこの操作を受けて、HDD40に保存されている動作ログを、インターネット3を経由してサーバ4へ送信する。具体的には、HDD40に保存されている動作ログのうち、今回の自動電圧調整に関連する動作ログが抽出されてサーバ4へ送信される。
サーバ4は、ステップS21にて、インターネット3を経由して分析装置ADの情報処理装置2から送信された動作ログを受信すると、受信した動作ログをデータベース5に格納する。図9にデータベース5の構成例を示す。図9を参照して、データベース5には、サーバ4に通信接続されるN台の分析装置AD1〜ADN(図1参照)の各々の動作ログが保存されている。動作ログは、分析装置ADごとに1つのファイルに格納されている。各ファイルに格納されている動作ログは、対応する分析装置ADにおいて異常が検知されたときの分析装置ADの内部動作を示している。
分析システム100を管理する管理センター(例えば、分析装置ADの装置メーカ等によって運営されるサポートセンター)では、異常が検知された分析装置ADに対応する動作ログをデータベース5から読み出し、この読み出した動作ログを用いて、分析装置ADの異常を解析することができる。
上述したように、動作ログは、情報処理装置2で発行された動作命令と、この動作命令に応答して実際に装置本体1が行なった動作内容を示す情報とを含んでいる。したがって、動作命令と実際の動作内容とを照らし合わせることにより、動作命令に違背した誤った動作を検出することができる。そして、検出された誤動作の内容から、誤動作を引き起こした故障箇所、当該故障箇所の故障の内容、および故障の原因などを特定することが可能となる。
図5に戻って、サーバ4は、ステップS22にて、動作ログを用いて分析装置ADの異常解析が行なわれると、ステップS23に進み、異常解析の結果を、インターネット3を経由して分析装置ADの情報処理装置2に送信する。情報処理装置2は、ステップS11にて、サーバ4から送信される異常解析結果を受け付けると、受け付けた異常解析結果をディスプレイ24の表示画面に表示する。オペレータまたは分析装置ADのユーザは、異常解析結果に基づいて、故障箇所の修理または部品交換を依頼するなどの対応をとることができる。サーバ4は「解析部」の一実施例に対応する。
なお、上述した実施の形態では、データベース5に蓄積されている動作ログを用いて異常解析が行なわれる構成について説明したが、情報処理装置2のHDD40に蓄積されている動作ログを読み出して異常解析を行なう構成とすることも可能である。
<動作ログ>
次に、図10から図12を用いて、動作ログの構成例を説明する。
(構成例1)
図10は、動作ログの第1構成例を示す図である。図10を参照して、第1構成例では、動作ログは、テキストファイルの形式を有している。動作ログは、情報処理装置2で発行された動作命令(Command)と、この動作命令に応答して装置本体1が実際に行なった動作内容(Response)とを含む。図7の例では、動作命令を示す文字列200,202と、動作内容を示す文字列201,203とが示されている。
これらの文字列は時系列に並べられている。文字列200〜203は、複数のコードで表現されたメッセージ部分110を有している。図10の例では、複数のコードの各々は、数桁の数字で構成されている。動作命令を示す文字列200,202において、各コードは、動作命令の出力先、動作命令の内容などの情報を表している。動作内容を示す文字列201,203において、各コードは、動作の内容などの情報を表している。
上述した電圧調整動作の場合、動作命令を示す文字列200,202には、SIM測定の分析条件や電圧調整実行条件(例えば、電圧値の調整範囲と電圧ステップ数を示す情報)が含まれる。動作内容を示す文字列201,203には、実際の印加電圧値およびイオン検出器51の検出信号などが含まれる。文字列201,203には、さらに、各電圧値に対して得られたクロマトグラムが含まれる。
図10に示すように、動作ログにおいて、動作命令を示す文字列200と、この動作命令に応答した動作内容を示す文字列201とは、一対一に対応付けられている。また、動作命令を示す文字列202と、この動作命令に応答した動作内容を示す文字列204とは、一対一に対応付けられている。このように動作命令を示す文字列とその動作命令に応答した動作内容を示す文字列とを一組として記憶することで、異常解析の担当者は、動作命令と実際の動作内容とを容易に照らし合わせることができるため、動作命令に違背した誤った動作を検出しやすくなる。その結果、異常解析を効率的に行なうことが可能となる。
なお、動作命令を示す文字列200,202の先頭部分には[Command]というタグ101が付され、動作を示す文字列201,203の先頭部分には[Response]というタグ101が付されている。各文字列にタグ101を付けることで、動作命令を示す情報と動作内容を示す情報とを容易に識別することができる。
(構成例2)
図11は、動作ログの第2構成例を示す図である。図11を参照して、第2構成例は、図7に示した第1構成例と比較して、分析装置AD(装置本体1)の動作の目的を示す文字列204を付加したものである。
分析装置ADの自動調整機能では、上述した電圧調整動作の他に、各部の感度調整および分解能調整などが所定の手順に従って順番に実行される。そのため、動作ログにおいても、自動調整機能のどの段階(フェーズ)を実行しているかを明確にすることが必要となる。図8の例では、文字列204は、自動調整のフェーズ(Phase)を示すメッセージ部分112を有している。これによると、どのような調整を目的として分析装置ADを動作させたのかが明確になる。
また、文字列204の先頭部分には[Phase]というタグ102が付されている。タグ102を付けることで、異常解析の担当者はフェーズを示す文字列であることを容易に認識することができる。
(構成例3)
図12は、動作ログの第3構成例を示す図である。図12を参照して、第3構成例は、図8に示した第2構成例と比較して、装置本体1の動作に基づいて情報処理装置2により導出された結果(Result)を示す文字列205をさらに付加したものである。
上述した電圧調整動作の場合、文字列205には、データ処理部60によって設定された最適電圧値を示す情報が含まれる。図示は省略するが、文字列205には、調整フェーズごとに、設定された各種パラメータを示す情報を含めることができる。これによると、動作命令に応答した動作と、この動作に基づいて設定されたパラメータとが対応付けて示されているため、異常解析の担当者は異常解析をより効率的に行なうことができる。
また、文字列205の先頭部分には[Result]というタグ103が付されている。タグ103を付けることで、解析担当者は、結果を示す文字列であることを容易に認識することができる。
<動作ログの活用例>
上述した実施の形態では、動作ログを分析装置ADの異常解析に用いる構成について説明したが、以下に説明するように、分析装置ADの異常予兆診断、および分析装置ADの分析精度保証などにも動作ログを活用することができる。
(1)異常予兆診断
分析装置ADの異常予兆診断では、自動調整時において収集される動作ログを用いて、分析装置ADの異常予兆の有無を診断する。本実施の形態では、分析装置ADが正常に稼働しているときに収集された動作ログを基準の動作ログとして記憶しておき、新たに収集された動作ログと基準の動作ログとに基づいて、分析装置ADの異常の予兆の有無を診断するものとする。
図13は、自動電圧調整および異常予兆診断を実行するときの処理手順を説明するためのフローチャートである。図13に示すフローチャートは、図5に示すフローチャートと比較して、動作ログを送信する処理(ステップS10)のタイミング、およびサーバ4が異常予兆診断処理(ステップS22A)を実行する点が異なる。
具体的には、図13を参照して、分析装置ADは、図5と同じステップS01〜S06の処理を実行することによって電圧調整動作を実行し、かつ、電圧調整動作の実行中の動作ログを収集し、収集した動作ログを情報処理装置2内部のHDD40(図2参照)に保存する。
分析装置ADは、ステップS06にて最適電圧値を決定すると、ステップS10に進み、HDD40に保存されている動作ログを、インターネット3を経由してサーバ4へ送信する。具体的には、HDD40に保存されている動作ログのうち、今回の自動電圧調整に関連する動作ログが抽出されてサーバ4へ送信される。
図13のフローチャートでは、電圧調整動作が実行される毎に、そのときの動作ログがサーバ4へ送信される。これによると、例えばひと月に一度程度の頻度で定期的に自動電圧調整が実行される場合、動作ログも定期的にサーバ4へ送信されることになる。
サーバ4では、ステップS21にて、インターネット3を経由して分析装置ADの情報処理装置2から送信された動作ログを受信すると、受信した動作ログをデータベース5に格納する(図9参照)。
ステップS22Aにて、分析システム100を管理する管理センターでは、分析装置ADに対応する動作ログをデータベース5から読み出し、この読み出した動作ログを用いて、分析装置ADの異常予兆診断を実行することができる。具体的には、分析担当者は、予めデータベース5に記憶されている基準の動作ログと、今回新たに取得された動作ログとの間で、同じ動作命令(Command)に応答して実行された動作(Response)の内容を比較する。これら2つの動作ログの間で動作内容が一致している場合、異常予兆が無いと診断することができる。
一方、動作内容が一致していない場合には、異常予兆が有りと診断することができる。例えば、基準の動作ログと今回の動作ログとの間で、ある電圧値に対して得られたクロマトグラム形状を比較する。基準の動作ログでは見られないクロマトグラムの波形の乱れが、今回の動作ログにおいて出現している場合には、異常予兆が有りと診断することができる。
分析装置ADに発生する異常は、主に、分析装置ADの使用を重ねることで試料が各部の表面に付着する、表面が酸化する、物理的配置にずれが生じるなどの要因によって劣化が生じることによって起こり得る。上述した異常予兆診断を行なうことによって、異常を予兆の段階で早期に検知することができる。そして、ステップS23Aにて、異常予兆が検知されたことをサーバ4から分析装置ADのユーザに知らせることにより、劣化している部品の交換などを推奨することができる。この結果、分析装置ADにおける異常の発生を未然に防止することができる。サーバ4は「診断部」の一実施例に対応する。
なお、上述した実施の形態では、1つの分析装置ADについて予め記憶されている基準の動作ログと新たに収集された動作ログとを比較した結果に基づいて異常予兆の有無を診断する構成について説明したが、サーバ4に通信接続されている複数の分析装置ADにおいてそれぞれ収集された複数の動作ログを互いに比較することで、異常予兆の有無を診断する構成とすることができる。
(2)分析精度保証
分析装置ADの分析精度保証では、自動調整時において収集される動作ログを用いて、分析装置ADの分析精度を保証するための校正を実行する。
図14は、第1イオンガイド44(図2参照)へ印加される高周波電圧の電圧値とイオン検出器51で検出される信号強度(ここでは規格化されたイオン強度)との関係を、複数の質量電荷比において実測した結果を示す図である。図15は、図14の実測結果に基づいて得られた、質量電荷比と最適電圧値(最大イオン強度を与える電圧値)との関係を示す図である。
図14を参照して、高周波電圧の電圧値の変化に対する信号強度の変化は略山型のピークを示すが、質量電荷比が大きいほど最適電圧値は高くなり、また、ピークの幅は質量電荷比が大きいほど広くなっていることが分かる。
また、図15の結果から、質量電荷比と最適電圧値とは比例関係を有することが分かる。図15では質量電荷比と最適電圧値との関係が直線で近似されている。図15中に示した直線を表す関係式は、初期的には分析装置ADの装置メーカが実測結果に基づいて算出することができる。なお、関係式を示すデータの代わりに、質量電荷比と最適電圧値との関係を示すテーブルを作成してもよい。
しかしながら、例えば第1イオンガイド44の汚れを除去する等の目的で分析装置ADの分解および再組立が行なわれた場合や、第1イオンガイド44が新品に交換された場合などには、電極板の配置等がわずかに変化するために、上記関係式が変化する可能性がある。そのような場合のために、定期的に上記関係式を新たに求めるための処理が実行される。この処理に、自動調整時に収集される動作ログが用いられる。
具体的には、第1イオンガイド44へ印加される高周波電圧の電圧値が変化するごとに、データ処理部60は、複数の質量電荷比において信号強度データを取得し、取得した信号強度データに基づいて信号強度が最大となる電圧値を最適電圧値として算出する。データ処理部60は、実測結果に基づいて得られた質量電荷比と最適電圧値との関係を、動作ログとして収集してHDD40に保存する。情報処理装置2は、HDD40に保存されている動作ログを、インターネット3を経由してサーバ4へ送信する。
サーバ4は、インターネット3を経由して分析装置ADの情報処理装置2から送信された動作ログを受信すると、受信した動作ログをデータベース5に格納する(図9参照)。分析システム100を管理する管理センターでは、分析装置ADに対応する動作ログをデータベース5から読み出し、この読み出した動作ログを用いて関係式を算出する。
関係式を算出するにあたり、サーバ4は、動作ログに含まれる質量電荷比と最適電圧値とが比例関係を有しているか否かを判定する。質量電荷比と最適電圧値との関係を示す複数の測定点に、図15の直線から大きく外れて存在している測定点が含まれている場合がある。この要因としては、図14に示す信号強度のピークの形状が山型から崩れたことで、最適電圧値が正しく検出されなかったことが考えられる。このような測定点を用いると、正しい関係式を得ることができなくなることが懸念される。
そこで、サーバ4では、動作ログから得られる複数の測定点から適当でない測定点を除外して関係式を算出することとする。このようにすると、正しい関係式を得ることができるため、分析装置ADの分析精度を保証することができる。
図16は、自動電圧調整および分析装置の校正を実行するときの処理手順を説明するためのフローチャートである。図16に示すフローチャートは、図5に示すフローチャートと比較して、動作ログを送信する処理(ステップS10)のタイミング、およびサーバ4が分析装置ADの関係式(またはテーブル)を作成する処理(ステップS22B)を実行する点が異なる。
具体的には、図16を参照して、分析装置ADは、図5と同じステップS01〜S06の処理を実行することによって電圧調整動作を実行し、かつ、電圧調整動作の実行中の動作ログを収集し、収集した動作ログを情報処理装置2内部のHDD40(図2参照)に保存する。
分析装置ADは、ステップS05にて動作ログを収集してHDD40に保存すると、ステップS10に進み、HDD40に保存されている動作ログを、インターネット3を経由してサーバ4へ送信する。
図16のフローチャートでは、ステップS22Bにて、電圧調整動作が実行される毎に送信される動作ログを用いて分析装置ADの校正が実行される。具体的には、サーバ4は、ステップS21にて、インターネット3を経由して分析装置ADの情報処理装置2から送信された動作ログを受信すると、受信した動作ログをデータベース5に格納する(図9参照)。
サーバ4は、ステップS22Bにて、分析装置ADに対応する動作ログをデータベース5から読み出し、この読み出した動作ログを用いて、質量電荷比と最適電圧値との関係を示す関係式またはテーブルを作成する。このとき、サーバ4は、動作ログから得られる複数の測定点から適当でない測定点を除外して関係式またはテーブルを算出する。サーバ4は、ステップS23Bにより、作成された関係式またはテーブルを分析装置ADに送信する。分析装置ADは、ステップS11Bにて関係式またはテーブルを受信すると、HDD40に保存する。
なお、本実施の形態では、分析装置として液体クロマトグラフ質量分析装置を例示して説明したが、分析装置は液体クロマトグラフ質量分析装置以外であっても、試料の分析を行なう装置であって、サーバとの間でデータを遣り取りする機能を有する分析装置を適用することが可能である。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。