JP2020063195A - 糖鎖をエピトープとして特異的に認識する新規抗体及びその用途 - Google Patents

糖鎖をエピトープとして特異的に認識する新規抗体及びその用途 Download PDF

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Abstract

【課題】これまでに報告された抗iPS/ES細胞抗体が認識する糖鎖とは異なる糖鎖を特異的に認識する新規モノクローナル抗体を提供すること、および該抗体を用いた細胞検出方法、未分化細胞を含まない均一な分化細胞集団の作製方法の提供。【解決手段】下記式:Sia(α2−3)Gal(β1−3)GlcNAC(6S)(β1−3)Gal(β1−4)GlcNAc(6S)(β1−(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、Glc NAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN−アセチルグルコサミン、(α2−3)はα2−3結合、(β1−3)はβ1−3結合、(β1−4)はβ1−4結合、(β1−はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖をエピトープとして特異的に認識するモノクローナル抗体。【選択図】なし

Description

本発明は、糖鎖をエピトープとして特異的に認識する新規抗体及びその用途に関する。より詳細には、本発明は、Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖を特異的に認識する新規抗体、当該抗体を用いた当該糖鎖を有する細胞の検出方法および当該方法に用いる検出試薬、ならびに当該抗体を用いたiPS細胞またはES細胞から分化させた均一な分化細胞集団の作製方法に関する。
ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)の樹立により、多能性幹細胞を用いた細胞移植治療の実用化への扉が開かれた。例えば、加齢黄斑変性症患者に対して患者本人からiPS細胞を樹立し、網膜色素上皮細胞に分化誘導した後に該患者に自家移植する臨床試験が行われている。また、iPS細胞の樹立から目的細胞への分化誘導まで最短でも2-3ヶ月を要することから、脊髄損傷や劇症肝炎などの早期治療を必要とする疾患については、様々なHLAタイプのiPS細胞またはそれら由来の分化細胞をバンキングしておき、それらを用いて同種移植を行うことが考えられる。しかし、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞を心筋や神経などの細胞に分化させる条件下で培養すると、分化した細胞集団の中に未分化細胞が残存し、腫瘍化(奇形腫、発癌)の原因となっており、ES細胞やiPS細胞を用いた再生移植治療の実用化には、未分化細胞を除去することが不可欠である。
糖鎖認識抗体は、細胞表面糖鎖の変化を鋭敏に察知するプローブであり、ヒトiPS/ES細胞のマーカー抗体としても広く利用されている。ヒトiPS/ES細胞の糖鎖認識抗体を用いたフローサイトメトリーやアフィニティー担体を用いた分離操作によって、分化細胞集団中の残存ヒトiPS/ES細胞の除去に使用することが可能となる。これまでに本発明者らは、ヒトiPS細胞(Tic)を免疫原としてマウスを免疫し、得られたハイブリドーマについて、ヒトiPS細胞及びヒトEC細胞(embryonal carcinoma cell、胎児性がん細胞)によるdifferential screeningを行なうことにより、iPS/ES細胞陽性かつEC細胞陰性の抗体(R-10G)の取得について報告した(非特許文献1)。また、本発明者らは、iPS/ES細胞陽性かつEC細胞陰性であって、iPS/ES細胞に対して細胞障害活性を有する抗体(R-17F)の取得についても報告した(非特許文献2)。さらに本発明者らは、R-17F、R-10Gが認識するエピトープが膜貫通タンパク質ポドカリキシン上に存在する糖鎖であること、およびR-17F、R-10Gによって認識される糖鎖の構造についても報告した(非特許文献3、4)。
Kawabe K, et.al., Glycobiology, 23, 322-336, (2013) Matsumoto S, et.al., J. Biol. Chem., 290, 20071-20085, (2015) Nakao H, et al., Glycoconj. J., 34(6) 779-787 (2017) Nakao H, et al., Glycoconj. J., 34(6) 789-795 (2017)
本発明の目的は、これまでに本発明者らが報告した抗体R-10G、R-17Fが認識するエピトープとは異なるエピトープを特異的に認識する新規抗体を提供することであり、それによってiPS細胞またはES細胞から分化させた細胞集団から未分化細胞を除去し、腫瘍化リスクのない安全な移植細胞を提供することである。
本発明者らは、新たに見出した抗体R-6Cが、ヒトiPS細胞、ES細胞およびEC細胞と反応し、そのアイソタイプがIgMであることを確認した。また、R-6CとTic細胞可溶化物との結合性をウェスタンブロットで調べたところ、TRA-1-60、R-10GおよびR-17Fと同じく分子量250kDa近傍のタンパク質と結合した。これは、R-6Cのエピトープは、TRA-1-60、R-10GおよびR-17Fのエピトープと同様に、ヒトiPS細胞においては細胞膜の膜貫通タンパク質であるポドカリキシン上に発現していることを示唆している。さらに、R-6CとTic細胞可溶化物の各種グリコシダーゼ消化物との反応性をウェスタンブロットで調べた結果、R-6Cのエピトープは、N-Glycan上にはなく、かつその基本骨格はポリラクトサミン構造であることがわかった。さらに、特徴的な性質として、R-6Cが特異的に認識するエピトープにはシアル酸が含まれることがわかった。以上の知見から、化学合成糖鎖をプローブとしてELISAで解析を行ったところ、R-6CのエピトープはSia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-を含む糖鎖であることが分かった。
本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
[1]下記式:
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖をエピトープとして特異的に認識するモノクローナル抗体。
[2]シアル酸がN-アセチルノイラミン酸である、[1]に記載の抗体。
[3](a)GFSLTSYA(配列番号:1)で示されるアミノ酸配列を含むCDR、
(b)IWTGGGP(配列番号:2)で示されるアミノ酸配列を含むCDR、
(c)ARKLDGSISNYFDY(配列番号:3)で示されるアミノ酸配列を含むCDR、
(d)QGISNY(配列番号:4)で示されるアミノ酸配列を含むCDR、
(e)YTSで示されるアミノ酸配列を含むCDR、及び
(f)QQYSKLPWT(配列番号:5)で示されるアミノ酸配列を含むCDR
を含む、[1]または[2]に記載の抗体。
[4](1)配列番号:7に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び
(2)配列番号:9に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む[3]に記載の抗体。
[5]モノクローナル抗体のアイソタイプがIgMである、[1]〜[4]のいずれか1つに記載の抗体。
[6][1]〜[5]のいずれか1つに記載の抗体を含有してなる、膜貫通タンパク質上に下記式:
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖を有する細胞の検出用試薬。
[7]シアル酸がN-アセチルノイラミン酸である、[6]に記載の試薬。
[8]膜貫通タンパク質がポドカリキシンである、[6]または[7]に記載の試薬。
[9]膜貫通タンパク質上に下記式:
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖を有する細胞がiPS細胞、ES細胞またはがん細胞である、[6]〜[8]のいずれか1つに記載の試薬。
[10]がん細胞が胎児性がん細胞である、[9]に記載の試薬。
[11]細胞サンプルを[1]〜[5]のいずれか1つに記載の抗体と接触させ、該抗体と結合した該サンプル中の細胞を検出することを含む、膜貫通タンパク質上に下記式:
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖を有する該細胞の検出方法。
[12]シアル酸がN-アセチルノイラミン酸である、[11]に記載の方法。
[13]膜貫通タンパク質がポドカリキシンである、[11]または[12]に記載の方法。
[14]抗体と結合した細胞がiPS細胞、ES細胞またはがん細胞である、[11]〜[13]のいずれか1つに記載の方法。
[15]がん細胞が胎児性がん細胞である、[14]に記載の方法。
[16]iPS細胞またはES細胞から分化させた細胞集団を[1]〜[5]のいずれか1つに記載の抗体と接触させ、該抗体と結合した細胞を除去することを含む、膜貫通タンパク質上に下記式:
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖を有する該細胞を含まない均一な分化細胞集団の作製方法。
[17]シアル酸がN-アセチルノイラミン酸である、[16]に記載の方法。
[18]膜貫通タンパク質がポドカリキシンである、[16]または[17]に記載の方法。
本発明の抗体は、膜貫通タンパク質上の上記の糖鎖を特異的に認識することによって、細胞サンプル中のヒトiPS細胞、ES細胞およびEC細胞を検出することができる。また公知の細胞分離技術と本発明の抗体を組み合わせることによって、iPS細胞またはES細胞から分化された細胞集団から、未分化細胞を分離することが可能となる。
hiPS (Tic)細胞抽出液に対するR-6Cおよび他のhiPSマーカー抗体によるウェスタンブロット。Tic細胞抽出液(5 ×104 細胞相当のタンパク質5.7 μg)を還元条件下4-15 %グラジエントポリアクリルアミドゲル上でSDS-PAGEを行い、TRA-1-60 (レーン1)、R-10G (レーン2)、R-17F (レーン3)およびR-6C (レーン4)でウェスタンブロットを行った。分子量マーカーをパネルの左側に示す。 蛍光顕微鏡上で可視化された培養hiPS細胞上におけるR-6C、R-10GおよびTRA-1-60エピトープの局在性。(A) 樹脂チャンバー中の培養201B7細胞をR-6Cとインキュベートし、次いでAlexa Fluor 488-コンジュゲートヤギ抗マウスIgMで染色した。(B) 細胞をR-10Gとインキュベートし、次いでAlexa Fluor 594-コンジュゲートヤギ抗マウスIgGで染色した。(C) (A)と(B)のマージ像。(D) 細胞をTRA-1-60とインキュベートし、次いでAlexa Fluor 488-コンジュゲートヤギ抗マウスIgMで染色した。 hiPS細胞に対するR-6Cおよび他のマーカー抗体のフローサイトメトリー。(A) 201B7細胞を(a)コントロールIgG抗体、(b) R-10G、または(c) R-17Fと4℃、25分間インキュベートし、次いでAlexa Fluor 488-コンジュゲートヤギ抗マウスIgGと4℃、15分間インキュベートした。(B) 201B7細胞を(a)コントロールIgM抗体、(b) TRA-1-60、または(c) R-6Cとインキュベートし、次いでAlexa Fluor 488-コンジュゲートヤギ抗マウスIgMとインキュベートした。 グリコシダーゼ分解およびウェスタンブロットによるR-6Cエピトープの解析。種々のグリコシダーゼによる前分解が有るまたは無い条件下でインキュベーションした細胞溶解液(タンパク質13.5 μg)を還元条件下4-15 % グラジエントポリアクリルアミドゲル上でSDS-PAGEを行い、R-6Cでウェスタンブロットを行った。Tic細胞抽出液をPNGase F(レーン2)、Arthrobacter ureafaciens由来ノイラミニダーゼ(レーン4)、Vibrio cholerae由来ノイラミニダーゼ(レーン6)、α2-3ノイラミニダーゼS(レーン8)、ケラタナーゼ(レーン10)、ケラタナーゼII(レーン12)、エンド-β-ガラクトシダーゼ(レーン14)、α1-2フコシダーゼ(レーン16)、α1-3/4フコシダーゼ(レーン18)、コンドロイチナーゼABC(レーン20)およびヘパリナーゼミックス(レーン22)で分解した。レーン1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21:酵素無添加。分子量マーカーをパネルの左側に示す。 合成オリゴ糖を用いて検証されたR-6Cの結合特異性。アビジンコートされたウェルにビオチン化KSまたはシアル酸化KS (10 pmol/100 μl/ウェル)を添加し、次いでR-6C抗体(50 ng)でインキュベーションし、HRP標識二次抗体でインキュベーションすることによって、KSまたはシアル酸化KSに結合するR-6Cの量を測定した。Sia (-) :非シアル酸化KS。Sia (+) :シアル酸化KS。KSオリゴ糖の構造は表1に示す。 KSに対するR-6CまたはTRA-1-60 (S)の結合の用量依存的曲線。(A) (a)化学的に合成されたα2-3シアル酸化KS5 (10 pmol/100 μl/ウェル)または(b)酵素的に合成されたα2-3シアル酸化KS5に対するR-6C(0-200ng)の結合曲線。(B) (a)α2-3シアル酸化KS5 (10 pmol/100 μl/ウェル)に対するR-6C、(b) KS4に対するTRA-1-60 (S)、(c) KS4に対するR-6C、および(d)α2-3シアル酸化KS5に対するTRA-1-60 (S)の結合曲線。 種々のKSに対するTRA-1-60 (R)またはTRA-1-60 (S)の結合活性。アビジンコートされたウェルにビオチン化(シアル酸化または非シアル酸化)KS (10 pmol/100 μl/ウェル)を添加し、次いでTRA-1-60 (R)またはTRA-1-60 (S) (200 ng/ウェル)でインキュベーションし、HRP標識二次抗体でインキュベーションすることによって、KSに結合するR-6Cの量を測定した。 R-6CのCDRのアミノ酸配列。
[I] 本発明の抗体
本発明は、下記式:
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖をエピトープとして特異的に認識するモノクローナル抗体(以下、「本発明の抗体」という場合がある。)を提供する。
本発明の抗体が特異的に認識するエピトープ(以下、「本発明のエピトープ」という場合がある。)は、細胞の膜貫通タンパク質上に存在することを特徴とする。本発明のエピトープが、細胞の膜貫通タンパク質上に存在することは、公知の手段によって確認することができる。例えば、iPS細胞、ES細胞又はEC細胞の細胞膜から界面活性剤等により膜貫通タンパク質成分を抽出し、ポリアクリルアミドゲルにより該膜貫通タンパク質を分離し、メンブレンフィルターに転写した後、本発明の抗体で免疫染色することにより、確認することができる。後述する実施例においては、R6-CとTic細胞可溶化物との結合性をウェスタンブロット法で調べたところ、本発明の抗体は、TRA-1-60、R-10GおよびR-17Fと同じく分子量250kDa近傍のタンパク質と結合した。本発明者らは、R-10GおよびR-17Fが認識するエピトープは、膜貫通タンパク質ポドカリキシン上に存在することを既に報告している。従って、本発明のエピトープが存在する膜貫通タンパク質は、好ましくは、ポドカリキシンである。
また、本発明のエピトープは、下記式:
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖である。後述する実施例の通り、R-6Cに対して種々の化学合成糖鎖をプローブとしてELISAで解析を行った。その結果、R-6Cは、Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖に結合した。さらに、後述の実施例では、糖鎖を修飾する際に使用したシアル酸として、N-アセチルノイラミン酸を用いた。従って、本発明のエピトープに含まれるシアル酸は、好ましくは、N-アセチルノイラミン酸である。
好ましい一実施態様において、本発明の抗体は、R-6Cもしくはそれと同じ相補性決定領域(CDR)を有する抗体である。
抗体分子の基本構造は、各クラス共通で、分子量5-7万の重鎖と2-3万の軽鎖から構成される(免疫学イラストレイテッド (I. Roitt, J. Brostoff, D. Male編))。重鎖は、通常約440個のアミノ酸を含むポリペプチド鎖からなり、クラスごとに特徴的な構造をもち、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEに対応してγ、μ、α、δ、ε鎖とよばれる。さらにIgGには、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4が存在し、それぞれγ1、γ2、γ3、γ4とよばれている。軽鎖は、通常約220個のアミノ酸を含むポリペプチド鎖からなり、L型とK型の2種が知られており、それぞれλ、κ鎖とよばれる。抗体分子の基本構造のペプチド構成は、それぞれ相同な2本の重鎖及び2本の軽鎖が、ジスルフィド結合(S-S結合)及び非共有結合によって結合され、分子量15-19万である。2種の軽鎖は、どの重鎖とも対をなすことができる。個々の抗体分子は、常に同一の軽鎖2本と同一の重鎖2本からできている。
鎖内S-S結合は、重鎖に4つ(μ、ε鎖には5つ)、軽鎖には2つあって、アミノ酸100-110残基ごとに1つのループを形成し、この立体構造は各ループ間で類似していて、構造単位あるいはドメインとよばれる。重鎖、軽鎖ともにN末端に位置するドメインは、同種動物の同一クラス(サブクラス)からの標品であっても、そのアミノ酸配列が一定せず、可変領域(V領域)とよばれている(重鎖可変領域ドメインはVH、軽鎖可変領域ドメインはVLと表される)。これよりC末端側のアミノ酸配列は、各クラスあるいはサブクラスごとにほぼ一定で定常領域(C領域)とよばれている(各ドメインは、それぞれ、CH1、CH2、CH3あるいはCLと表される)。
抗体の抗原決定部位はVH及びVLによって構成され、結合の特異性はこの部位のアミノ酸配列によっている。一方、補体や各種細胞との結合といった生物学的活性は各クラスIgのC領域の構造の差を反映している。軽鎖と重鎖の可変領域の可変性は、どちらの鎖にも存在する3つの小さな超可変領域にほぼ限られることが分かっており、これらの領域を相補性決定領域(CDR)と呼んでいる。可変領域のうち、CDRを除く部分はフレームワーク領域(FR)とよばれ、比較的一定である。フレームワーク領域は、βシートコンフォメーションを採用しておりそしてCDRはβシート構造を接続するループを形成することができる。各鎖におけるCDRは、フレームワーク領域によりそれらの三次元構造に保持されそして他の鎖からのCDRと共に抗原結合部位を形成する。
CDRを同定するためのいくつかのナンバリングシステムが一般に使用されている。Kabat定義は、配列変化性に基づき、Chothia定義は、構造ループ領域の位置に基づく。AbM定義は、Kabat及びChothiaアプローチの間の折衷である。軽鎖、重鎖の可変領域のCDRは、Kabat、Chothia又はAbMアルゴリズムにしたがって、境界を示される(Martin et al. (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86: 9268-9272; Martin et al. (1991) Methods Enzymol. 203: 121-153; Pedersen et al. (1992) Immunomethods 1: 126; 及びRees et al. (1996) In Sternberg M.J.E. (ed.), Protein Structure Prediction, Oxford University Press, Oxford, pp. 141-172)。
本発明の抗体のCDRは、該抗体の重鎖及び軽鎖遺伝子の可変領域(VH及びVL)のヌクレオチド配列を、免疫グロブリン及びT細胞レセプターの再構成されたヌクレオチド配列の標準化解析のための統合システムであるIMGT/V-QUEST (http://www.imgt.org/IMGT_vquest/vquest)を用いて解析することにより同定されるCDRであると定義づけられる。
R-6Cの場合、重鎖可変領域のCDRは、配列番号:7で表されるアミノ酸配列中アミノ酸番号26〜33(CDR1-H)、51〜57(CDR2-H)及び96〜109(CDR3-H)であり、軽鎖可変領域のCDRは、配列番号:9で表されるアミノ酸配列中アミノ酸番号27〜32(CDR1-L)、50〜52(CDR2-L)及び89〜97(CDR3-L)である。
従って、好ましい一実施態様において、本発明の抗体は、
(1)(a)GFSLTSYA(配列番号:1)で示されるアミノ酸配列を含むCDR、
(b)IWTGGGP(配列番号:2)で示されるアミノ酸配列を含むCDR、
(c)ARKLDGSISNYFDY(配列番号:3)で示されるアミノ酸配列を含むCDR、
(d)QGISNY(配列番号:4)で示されるアミノ酸配列を含むCDR、
(e)YTSで示されるアミノ酸配列を含むCDR、及び
(f)QQYSKLPWT(配列番号:5)で示されるアミノ酸配列を含むCDR
を含む抗体、あるいは
(2)配列番号:1〜5およびYTSで示されるアミノ酸配列より選択される1以上(例、1、2、3、4、5もしくは6)のアミノ酸配列の各々において、1もしくは2個のアミノ酸残基が置換及び/又は欠失及び/又は付加及び/又は挿入された、上記(a)〜(f)のCDRを含む抗体であって、下記式:
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖を特異的に認識する抗体である。
より好ましくは、
(1)上記(a)〜(c)のCDRを含む重鎖可変領域と、上記(d)〜(f)のCDRを含む軽鎖可変領域とを含む抗体、又は
(2) 配列番号:1〜6に示されるアミノ酸配列より選択される1以上(例、1、2、3、4、5もしくは6)のアミノ酸配列の各々において、1もしくは2個のアミノ酸残基が置換及び/又は欠失及び/又は付加及び/又は挿入された、上記(1)の重鎖及び軽鎖可変領域を含む抗体であって、下記式:
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖を特異的に認識する抗体である。
より好ましくは、上記の抗体において、(a)、(b)及び(c)のCDRは、重鎖のN末端からこの順に配置される。即ち、(a)、(b)及び(c)のCDRは、それぞれ重鎖のCDR1、CDR2及びCDR3に相当する。同様に、(d)、(e)及び(f)のCDRは、軽鎖のN末端からこの順に配置される。即ち、(d)、(e)及び(f)のCDRは、それぞれ軽鎖のCDR1、CDR2及びCDR3に相当する。
本発明の抗体のより一層好ましい例は、
(1)配列番号:7に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号:9に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む抗体、又は
(2)配列番号:7及び9のいずれか一方もしくは両方において、1以上、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、いっそう好ましくは1〜数(例、1、2、3、4もしくは5)個のアミノ酸残基が置換及び/又は欠失及び/又は付加及び/又は挿入された、上記(1)の重鎖及び軽鎖可変領域を含む抗体であって、下記式:
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖を特異的に認識する抗体である。
本発明の抗体のアイソタイプは特に限定されないが、好ましくはIgG、IgMまたはIgA、特に好ましくはIgMが挙げられる。
本発明の抗体は、抗原決定基(エピトープ)を特異的に認識し、結合するための相補性決定領域 (CDR) を少なくとも有するものであれば、分子の形態に特に制限はなく、完全抗体分子の他、例えばFab、Fab'、F(ab’)2等のフラグメント、scFv、scFv-Fc、ミニボディー、ダイアボディー等の遺伝子工学的に作製されたコンジュゲート分子、あるいはポリエチレングリコール (PEG) 等のタンパク質安定化作用を有する分子などで修飾されたそれらの誘導体などであってもよい。
[II] 本発明の抗体の作製
本発明の抗体は自体公知の抗体製造法によって作製することができる。以下に、本発明の抗体作製のための免疫原(iPS細胞)の調製方法、並びに該抗体の製造方法について説明する。
(1) 免疫原の調製
本発明の抗体の作製に用いられる抗原としては、iPS細胞又は細胞表面の糖鎖を含有するその画分(例、膜画分)などを使用することができる。
iPS細胞は、任意の方法により哺乳動物から採取した体細胞を初期化することによって作製することができる [例えば、Cell 2007;131:861-72, Science 2007;318:1917-20 (human); Cell 2006;126:663-76 (mouse); Cell Stem Cell 2008;3 (6) :587-90 (Rhesus monkey); Cell Stem Cell 2008; (1) : 11-5, Cell Stem Cell 2008; 4 (1) : 16-9 (rat); J Mol Cell Biol 2009; 1 (1) : 6-54 (pig); Mol Reprod Dev 2010; 77(1): 2 (dog); Stem Cell Res 2010; 4 (3) : 180-8, Genes Cells 2010; 15 (9) : 959-69 (marmoset); J Biol Chem 2010;285 (41) : 31362-9 (rabbit)を参照]。
また、iPS細胞は、様々な公的もしくは私的寄託機関から入手することもでき、また市販されている。例えば、ヒトiPS細胞株201B7及び235G1は理研バイオリソースセンターのセルバンクから入手することができ、また、Tic(JCRB1331)は国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 JCRB細胞バンクから入手可能である。
無傷のiPS細胞を免疫のために用いてもよいし、凍結融解、放射線照射もしくはグルタルアルデヒド処理したiPS細胞を用いることもできる。
あるいは、本発明の抗体の作製のための免疫原として、iPS細胞の細胞膜画分を用いることもできる。該細胞膜画分は、iPS細胞をホモジナイズし、低速遠心により細胞デブリスを除去した後、上清を高速遠心して細胞膜含有画分を沈殿させる(必要に応じて、さらに密度勾配遠心等により細胞膜画分を精製する)ことにより、調製することができる。
(2) モノクローナル抗体の作製
(a) モノクローナル抗体産生細胞の作製
上記のようにして調製された免疫原は、温血動物に対して、例えば腹腔内注入、静脈注入、皮下注射、皮内注射などの投与方法によって、抗体産生が可能な部位にそれ自体単独であるいは担体、希釈剤と共に投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は、通常1〜6週毎に1回ずつ、計2〜10回程度行われる。温血動物としては、例えばマウス、ラット、ウサギ、ヤギ、サル、イヌ、モルモット、ヒツジ、ロバ、ニワトリ等が用いられるが、マウス、ラット及びウサギが好ましい。
あるいは、免疫原を体外免疫法に供することもできる。体外免疫法に用いられる動物細胞としては、ヒトおよび上記した温血動物(好ましくはマウス、ラット)の末梢血、脾臓、リンパ節などから単離されるリンパ球、好ましくはBリンパ球等が挙げられる。例えば、マウスやラット細胞の場合、4〜12週齢程度の動物から脾臓を摘出・脾細胞を分離し、適当な培地(例:ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、ハムF12培地等)で洗浄した後、抗原を含む胎仔ウシ血清(FCS;5〜20%程度)添加培地に浮遊させて4〜10日間程度CO2インキュベーターなどを用いて培養する。抗原濃度としては、例えば0.05〜5μgが挙げられるがこれに限定されない。同一系統の動物(1〜2週齢程度が好ましい)の胸腺細胞培養上清を常法に従って調製し、培地に添加することが好ましい。
ヒト細胞の体外免疫では、胸腺細胞培養上清を得ることは困難なので、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6等数種のサイトカインおよび必要に応じてアジュバント物質(例:ムラミルジペプチド等)を抗原とともに培地に添加して免疫感作を行うことが好ましい。
モノクローナル抗体の作製に際しては、抗原を免疫された温血動物(例:マウス、ラット)もしくは動物細胞(例:ヒト、マウス、ラット)から抗体価の上昇が認められた個体もしくは細胞集団を選択し、最終免疫の2〜5日後に脾臓またはリンパ節を採取もしくは体外免疫後4〜10日間培養した後に細胞を回収して抗体産生細胞を単離し、これと骨髄腫細胞とを融合させることにより抗体産生ハイブリドーマを調製することができる。血清中の抗体価の測定は、例えば標識化した本発明のエピトープと抗血清とを反応させた後、エピトープに結合した標識剤の活性を測定することにより行うことができる。
骨髄腫細胞は多量の抗体を分泌するハイブリドーマを産生し得るものであれば特に制限はないが、自身は抗体を産生もしくは分泌しないものが好ましく、また、細胞融合効率が高いものがより好ましい。また、ハイブリドーマの選択を容易にするために、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)感受性の株を用いることが好ましい。例えばマウス骨髄腫細胞としてはNS-1、P3U1、SP2/0、AP-1等が、ラット骨髄腫細胞としてはR210.RCY3、Y3-Ag 1.2.3等が、ヒト骨髄腫細胞としてはSKO-007、GM 1500-6TG-2、LICR-LON-HMy2、UC729-6等が挙げられる。
融合操作は既知の方法、例えばケーラーとミルスタインの方法[ネイチャー(Nature)、256巻、495頁(1975年)]に従って実施することができる。融合促進剤としては、ポリエチレングリコール(PEG)やセンダイウィルスなどが挙げられるが、好ましくはPEGなどが用いられる。PEGの分子量は特に制限はないが、低毒性で且つ粘性が比較的低いPEG1000〜PEG6000が好ましい。PEG濃度としては例えば10〜80%程度、好ましくは30〜50%程度が例示される。PEGの希釈用溶液としては無血清培地(例:RPMI1640)、5〜20%程度の血清を含む完全培地、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリス緩衝液等の各種緩衝液を用いることができる。所望によりDMSO(例:10〜20%程度)を添加することもできる。融合液のpHとしては、例えば4〜10程度、好ましくは6〜8程度が挙げられる。
抗体産生細胞(脾細胞)数と骨髄腫細胞数との好ましい比率は、通常1:1〜20:1程度であり、通常20〜40℃、好ましくは30〜37℃で通常1〜10分間インキュベートすることにより効率よく細胞融合を実施できる。
抗体産生細胞株はまた、リンパ球をトランスフォームし得るウイルスに抗体産生細胞を感染させて該細胞を不死化することによっても得ることができる。そのようなウイルスとしては、例えばエプスタイン−バー(EB)ウイルス等が挙げられる。大多数の人は伝染性単核球症の無症状感染としてこのウイルスに感染した経験があるので免疫を有しているが、通常のEBウイルスを用いた場合にはウイルス粒子も産生されるので、適切な精製を行うべきである。ウイルス混入の可能性のないEBシステムとして、Bリンパ球を不死化する能力を保持するがウイルス粒子の複製能力を欠損した組換えEBウイルス(例えば、潜伏感染状態から溶解感染状態への移行のスイッチ遺伝子における欠損など)を用いることもまた好ましい。
マーモセット由来のB95-8細胞はEBウイルスを分泌しているので、その培養上清を用いれば容易にBリンパ球をトランスフォームすることができる。この細胞を例えば血清及びペニシリン/ストレプトマイシン(P/S)添加培地(例:RPMI1640)もしくは細胞増殖因子を添加した無血清培地で培養した後、濾過もしくは遠心分離等により培養上清を分離し、これに抗体産生Bリンパ球を適当な濃度(例:約107細胞/mL)で浮遊させて、通常20〜40℃、好ましくは30〜37℃で通常0.5〜2時間程度インキュベートすることにより抗体産生B細胞株を得ることができる。ヒトの抗体産生細胞が混合リンパ球として提供される場合、大部分の人はEBウイルス感染細胞に対して傷害性を示すTリンパ球を有しているので、トランスフォーメーション頻度を高めるためには、例えばヒツジ赤血球等とEロゼットを形成させることによってTリンパ球を予め除去しておくことが好ましい。また、可溶性抗原を結合したヒツジ赤血球を抗体産生Bリンパ球と混合し、パーコール等の密度勾配を用いてロゼットを分離することにより標的抗原に特異的なリンパ球を選別することができる。さらに、大過剰の本発明のエピトープを添加することにより本発明のエピトープ特異的なBリンパ球はキャップされて表面にIgGを提示しなくなるので、抗IgG抗体を結合したヒツジ赤血球と混合すると本発明のエピトープ非特異的なBリンパ球のみがロゼットを形成する。従って、この混合物からパーコール等の密度勾配を用いてロゼット非形成層を採取することにより、本発明のエピトープ特異的Bリンパ球を選別することができる。
トランスフォーメーションによって無限増殖能を獲得したヒト抗体分泌細胞は、抗体分泌能を安定に持続させるためにマウスもしくはヒトの骨髄腫細胞と戻し融合させることができる。骨髄腫細胞としては上記と同様のものが用いられ得る。
ハイブリドーマのスクリーニング、育種は通常HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)を添加して、5〜20% FCSを含む動物細胞用培地(例:RPMI1640)もしくは細胞増殖因子を添加した無血清培地で行われる。ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンの濃度としては、例えばそれぞれ約0.1mM、約0.4μMおよび約0.016mM等が挙げられる。ヒト−マウスハイブリドーマの選択にはウワバイン耐性を用いることができる。ヒト細胞株はマウス細胞株に比べてウワバインに対する感受性が高いので、10-7〜10-3M程度で培地に添加することにより未融合のヒト細胞を排除することができる。
ハイブリドーマの選択にはフィーダー細胞やある種の細胞培養上清を用いることが好ましい。フィーダー細胞としては、ハイブリドーマの出現を助けて自身は死滅するように生存期間が限られた異系の細胞種、ハイブリドーマの出現に有用な増殖因子を大量に産生し得る細胞を放射線照射等して増殖力を低減させたもの等が用いられる。例えば、マウスのフィーダー細胞としては、脾細胞、マクロファージ、血液、胸腺細胞等が、ヒトのフィーダー細胞としては、末梢血単核細胞等が挙げられる。細胞培養上清としては、例えば上記の各種細胞の初代培養上清や種々の株化細胞の培養上清が挙げられる。
目的の抗体を産生するハイブリドーマの選択は、後述する実施例の通り、本発明の抗体の作製のための免疫原として用いたiPS細胞の細胞膜画分をSDS-PAGEにより分離し、細胞膜タンパク質をメンブレンフィルターに転写し、ハイブリドーマの培養上清とメンブレンフィルター上の膜タンパク質と反応させることによって実施することができる。あるいは、本発明のエピトープを蛍光標識して融合細胞と反応させた後、蛍光活性化セルソータ(FACS)を用いて本発明のエピトープと結合する細胞を分離することによってもハイブリドーマを選択することができる。この場合、本発明のエピトープに対する抗体を産生するハイブリドーマを直接選択することができるので、クローニングの労力を大いに軽減することが可能である。
本発明のエピトープに対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマのクローニングには種々の方法が使用できる。
アミノプテリンは多くの細胞機能を阻害するので、できるだけ早く培地から除去することが好ましい。マウスやラットの場合、ほとんどの骨髄腫細胞は10〜14日以内に死滅するので、融合2週間後からはアミノプテリンを除去することができる。但し、ヒトハイブリドーマについては通常融合後4〜6週間程度はアミノプテリン添加培地で維持される。ヒポキサンチン、チミジンはアミノプテリン除去後1週間以上後に除去するのが望ましい。即ち、マウス細胞の場合、例えば融合7〜10日後にヒポキサンチンおよびチミジン(HT)添加完全培地(例:10% FCS添加RPMI1640)の添加または交換を行う。融合後8〜14日程度で目視可能なクローンが出現する。クローンの直径が1mm程度になれば培養上清中の抗体量の測定が可能となる。
抗体量の測定は、例えば本発明のエピトープを直接あるいは担体とともに吸着させた固相(例:マイクロプレート)にハイブリドーマ培養上清を添加し、次に放射性物質(例:125I、131I、3H、14C)、酵素(例:β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン)などで標識した抗免疫グロブリン(IgG)抗体(もとの抗体産生細胞が由来する動物と同一種の動物由来のIgGに対する抗体が用いられる)またはプロテインAを加え、固相に結合した本発明のエピトープに対する抗体を検出する方法、抗IgG抗体またはプロテインAを吸着させた固相にハイブリドーマ培養上清を添加し、上記と同様の標識剤で標識した本発明のエピトープを加え、固相に結合した本発明のエピトープに対する抗体を検出する方法などによって行うことができる。
クローニング方法としては限界希釈法が通常用いられるが、軟寒天を用いたクローニングやFACSを用いたクローニング(上述)も可能である。限界希釈法によるクローニングは、例えば以下の手順で行うことができるがこれに限定されない。
上記のようにして抗体量を測定して陽性ウェルを選択する。適当なフィーダー細胞を選択して96ウェルプレートに添加しておく。抗体陽性ウェルから細胞を吸い出し、完全培地(例:10% FCSおよびP/S添加RMPI1640)中に30細胞/mLの密度となるように浮遊させ、フィーダー細胞を添加したウェルプレートに0.1mL(3細胞/ウェル)加え、残りの細胞懸濁液を10細胞/mLに希釈して別のウェルに同様にまき(1細胞/ウェル)、さらに残りの細胞懸濁液を3細胞/mLに希釈して別のウェルにまく(0.3細胞/ウェル)。目視可能なクローンが出現するまで2〜3週間程度培養し、抗体量を測定・陽性ウェルを選択し、再度クローニングする。ヒト細胞の場合はクローニングが比較的困難なので、10細胞/ウェルのプレートも調製しておく。通常2回のサブクローニングでモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを得ることができるが、その安定性を確認するためにさらに数ヶ月間定期的に再クローニングを行うことが望ましい。
こうして得られたハイブリドーマはin vitro又はin vivoで培養することができる。in vitroでの培養法としては、上記のようにして得られるモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを、細胞密度を例えば105〜106細胞/mL程度に保ちながら、また、FCS濃度を徐々に減らしながら、ウェルプレートから徐々にスケールアップしていく方法が挙げられる。in vivoでの培養法としては、例えば、腹腔内にミネラルオイルを注入して形質細胞腫(MOPC)を誘導したマウス(ハイブリドーマの親株と組織適合性のマウス)に、5〜10日後に106〜107細胞程度のハイブリドーマを腹腔内注射し、2〜5週間後に麻酔下で腹水を採取する方法が挙げられる。
(b) モノクローナル抗体の精製
モノクローナル抗体の分離精製は、自体公知の方法、例えば、免疫グロブリンの分離精製法[例:塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例:DEAE、QEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相あるいはプロテインAあるいはプロテインGなどの活性吸着剤により抗体のみを採取し、結合を解離させて抗体を得る特異的精製法など]に従って行うことができる。
以上のようにして、ハイブリドーマを温血動物の生体内又は生体外で培養し、その体液または培養物から抗体を採取することによって、モノクローナル抗体を製造することができる。
(c) 組換え抗体の作製
別の実施態様において、こうして得られた本発明の抗体の重鎖及び軽鎖をコードするcDNAを、該抗体を産生するハイブリドーマのcDNAライブラリーから単離し、常法に従って、目的の宿主細胞で機能的な適当な発現ベクターにクローニングすることができる。次いで、こうして得られた重鎖及び軽鎖発現ベクターを宿主細胞に導入する。有用な宿主細胞としては、動物細胞、例えば上記したマウス骨髄腫細胞の他、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、サル由来のCOS-7細胞、Vero細胞、ラット由来のGHS細胞などが挙げられる。遺伝子導入は動物細胞に適用可能ないかなる方法を用いてもよいが、好ましくはエレクトロポレーション法又はカチオン性脂質を用いた方法などが挙げられる。宿主細胞に適した培地中で一定期間培養後、培養上清を回収して抗体タンパク質を常法により精製することにより、本発明の抗体を単離することができる。あるいは、宿主細胞としてウシ、ヤギ、ニワトリ等のトランスジェニック技術が確立し、且つ家畜(家禽)として大量繁殖のノウハウが蓄積されている動物の生殖系列細胞を用い、常法によってトランスジェニック動物を作製することにより、得られる動物の乳汁もしくは卵から容易に且つ大量に本発明の抗体を得ることもできる。さらに、トウモロコシ、イネ、コムギ、ダイズ、タバコなどのトランスジェニック技術が確立し、且つ主要作物として大量に栽培されている植物細胞を宿主細胞として、プロトプラストへのマイクロインジェクションやエレクトロポレーション、無傷細胞へのパーティクルガン法やTiベクター法などを用いてトランスジェニック植物を作製し、得られる種子や葉などから大量に本発明の抗体を得ることも可能である。
(d)キメラ抗体の作製
本明細書において「キメラ抗体」とは、重鎖及び軽鎖の可変領域(VH及びVL)の配列が非ヒト動物種に由来し、定常領域(CH及びCL)の配列がヒトに由来する抗体を意味する。可変領域の配列は、例えばマウス、ラット、ウサギ等の容易にハイブリドーマを作製することができる動物種由来であることが好ましく、定常領域の配列は投与対象となる動物種由来であることが好ましい。
キメラ抗体の作製法としては、例えば米国特許第6,331,415号明細書に記載される方法あるいはそれを一部改変した方法などが挙げられる。
得られたキメラ重鎖及びキメラ軽鎖発現ベクターで宿主細胞を形質転換する。宿主細胞、形質転換法等は、上記(d)組換え抗体の作製において例示したものが、同様に好ましく用いられ得る。
(e)ヒト化抗体
本明細書において「ヒト化抗体」とは、可変領域に存在する相補性決定領域(CDR)以外のすべての領域(即ち、定常領域及び可変領域中のフレームワーク領域(FR))の配列がヒト由来であり、CDRの配列のみが他の哺乳動物種由来である抗体を意味する。他の哺乳動物種としては、例えばマウス、ラット、ウサギ等の容易にハイブリドーマを作製することができる動物種が好ましい。
ヒト化抗体の作製法としては、例えば米国特許第5,225,539号、第5,585,089号、第5,693,761号、第5,693,762号、欧州特許出願公開第239400号、国際公開第92/19759号に記載される方法あるいはそれらを一部改変した方法などが挙げられる。具体的には、上記キメラ抗体の場合と同様にして、ヒト以外の哺乳動物種(例、マウス)由来のVH及びVLをコードするDNAを単離した後、常法により自動DNAシークエンサー(例、Applied Biosystems社製等)を用いてシークエンスを行い、得られる塩基配列もしくはそこから推定されるアミノ酸配列を公知の抗体配列データベース[例えば、Kabat database (Kabatら,「Sequences of Proteins of Immunological Interest」,US Department of Health and Human Services, Public Health Service, NIH編, 第5版, 1991参照) 等]を用いて解析し、両鎖のCDR及びFRを決定する。決定されたFR配列に類似したFR配列を有するヒト抗体の軽鎖及び重鎖をコードする塩基配列のCDRコード領域を、決定された異種CDRをコードする塩基配列で置換した塩基配列を設計し、該塩基配列を20〜40塩基程度のフラグメントに区分し、さらに該塩基配列に相補的な配列を、前記フラグメントと交互にオーバーラップするように20〜40塩基程度のフラグメントに区分する。各フラグメントをDNAシンセサイザーを用いて合成し、常法に従ってこれらをハイブリダイズ及びライゲートさせることにより、ヒト由来のFRと他の哺乳動物種由来のCDRを有するVH及びVLをコードするDNAを構築することができる。より迅速かつ効率的に他の哺乳動物種由来CDRをヒト由来VH及びVLに移植するには、PCRによる部位特異的変異誘発を用いることが好ましい。そのような方法としては、例えば特開平5-227970号公報に記載の逐次CDR移植法等が挙げられる。
なお、上記のような方法によるヒト化抗体の作製において、CDRのアミノ酸配列のみを鋳型のヒト抗体FRに移植しただけでは、オリジナルの非ヒト抗体よりも抗原結合活性が低下することがある。このような場合、CDRの周辺のFRアミノ酸のいくつかを併せて移植することが効果的である。移植される非ヒト抗体FRアミノ酸としては、各CDRの立体構造を維持するのに重要なアミノ酸残基が挙げられ、そのようなアミノ酸残基はコンピュータを用いた立体構造予測により推定することができる。
このようにして得られるVH及びVLをコードするDNAを、ヒト由来のCH及びCLをコードするDNAとそれぞれ連結して適当な宿主細胞に導入することにより、ヒト化抗体を産生する細胞あるいはトランスジェニック動植物を得ることができる。
マウスCDRをヒト抗体の可変領域に移植するCDRグラフティングを用いずにヒト化抗体を作製する代替的方法として、例えば、抗体間での保存された構造−機能相関に基づいて、非ヒト可変領域内のどのアミノ酸残基が置換し得る候補であるかを決定する方法が挙げられる。この方法は、例えば欧州特許第 0571613号、米国特許第5,766,886号、米国特許第5,770,196号、米国特許5,821,123号、米国特許第5,869,619号等の記載に従って実施することができる。また、当該方法を用いたヒト化抗体作製は、もととなる非ヒト抗体のVH及びVLの各アミノ酸配列情報が得られれば、例えば、Xoma社が提供する受託抗体作製サービスを利用することにより容易に行うことができる。
ヒト化抗体もキメラ抗体と同様に遺伝子工学的手法を用いてscFv、scFv-Fc、minibody、dsFv、Fvなどに改変することができ、適当なプロモーターを用いることで大腸菌や酵母などの微生物でも生産させることができる。
[III] 本発明の抗体の用途
本発明の抗体は、膜貫通タンパク質上に下記式:
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖を有する細胞(以下、「本発明のエピトープを有する細胞」という場合がある。)を特異的に認識することができるので、不特定の細胞を含む細胞サンプル中に存在する本発明のエピトープを有する細胞の検出及び定量、特に免疫細胞化学的な検出及び定量に用いることができる。これらの目的には、抗体分子そのものを用いてもよく、また、抗体分子のF(ab')2、Fab'、あるいはFab画分などいかなるフラグメントを用いてもよい。本発明の抗体を用いる測定法は特に制限されるべきものではなく、いかなる測定法を用いてもよいが、例えば、標識物質を用いる測定法などが挙げられる。本発明のエピトープを有する細胞としては、本発明のエピトープを有する細胞であれば特に制限されないが、好ましくは、iPS細胞、ES細胞またはがん細胞が挙げられ、より好ましくは、iPS細胞が挙げられる。また、がん細胞としては、上記の通り本発明のエピトープを有する限り特に制限されないが、例えば、乳がん細胞、胃がん細胞、肝臓がん細胞、大腸がん細胞、膵臓がん細胞、胆嚢がん細胞、腎臓がん細胞、肺がん細胞、卵巣がん細胞、子宮頚がん細胞、子宮体がん細胞、胎児性がん細胞などが挙げられ、好ましくは、胎児性がん細胞が挙げられる。
標識物質を用いる測定法に用いられる標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、[125I]、[131I]、[3H]、[14C]などが用いられる。上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート(FITC)、フィコエリスリン(PE)などが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。
本発明の抗体を直接標識物質で標識してもよいし、間接的に標識してもよい。好ましい態様においては、本発明の抗体は非標識抗体とし、本発明の抗体を作製した動物に対する抗血清や抗Ig抗体等の標識された二次抗体により、本発明のエピトープを有する細胞を検出することができる。あるいは、ビオチン化した二次抗体を用いて、本発明のエピトープを有する細胞-本発明の抗体-二次抗体の複合体を形成させ、これを標識したストレプトアビジンを用いて可視化することもできる。
例えば、細胞サンプルをグルタルアルデヒド、パラホルムアルデヒド等で固定・透過処理しPBS等の緩衝液で洗浄、BSA等でブロッキングした後、本発明の抗体とインキュベートする。PBS等の緩衝液で洗浄して未反応の抗体を除去した後、本発明の抗体と反応した細胞を標識した二次抗体で可視化し、共焦点レーザー走査型顕微鏡や、IN Cell Analyzer(Amarsham/GE)等の自動化された生細胞画像解析装置等を用いて解析することができる。
別の実施態様では、本発明の抗体を用いて、本発明のエピトープを有する細胞を含む細胞集団から、当該細胞を単離(除去)することができる。ここで本発明のエピトープを有する細胞を含む(含み得る)細胞集団としては、例えば、iPS細胞又はES細胞を分化誘導して得られた任意の分化細胞集団や、iPS細胞又はES細胞の継代培養サンプル等が挙げられる。
この目的のためには、例えば、本発明の抗体をアガロース、アクリルアミド、セファロース、セファデックス等の任意の適切なマトリクスを含む固相上に固定化することができる。該固相は、マイクロタイタープレート等の任意の適切な培養器であってもよい。サンプルを該固相と接触させると、サンプル中の本発明のエピトープを有する細胞は該固相上に固定される。該細胞は適当な溶出バッファーを用いて固相から遊離させることができる。
好ましい実施態様においては、本発明の抗体を磁性ビーズ上に固定化し、磁場を与えると本発明のエピトープを有する細胞がサンプルから分離(即ち、磁気活性化細胞分離(MACS))するようにすることができる。別の好ましい態様においては、本発明の抗体を、上述のような任意の適切な蛍光分子で直接もしくは間接的に標識し、蛍光活性化セルソーター(FACS)を用いて本発明のエピトープを有する細胞を単離することができる。
本発明の均一な分化細胞集団の作製に供される分化細胞は、iPS細胞又はES細胞を自体公知の分化誘導法を用いて所望の体細胞に分化させることにより提供される。
例えば、ヒトES細胞を放射線照射したC3H10T1/2細胞株と共培養して嚢状構造体(ES-sac)を誘導することにより造血前駆細胞に分化させることができる(Blood, 111: 5298-306, 2008)。ES細胞からの神経幹細胞、神経細胞の分化誘導法としては、胚様体形成法(Mech Div 59(1) 89-102, 1996)、レチノイン酸法(Dev Biol 168(2) 342-57, 1995)、SDIA法(Neuron 28(1) 31-40, 2000)、NSS法(Neurosci Res 46(2) 241-9, 2003)など様々な方法が知られている。ES細胞から心筋細胞への誘導方法としては、これまでにレチノイン酸、TGFβ1、FGF、dynorphin B、アスコルビン酸、一酸化窒素、FGF2とBMP2、Wnt11、PP2、Wnt3a/Wnt阻害剤などの因子を培地に添加する方法や、Nogginによる心筋分化誘導法(Nat Biotechnol 23(5) 611, 2005)などが報告されている。さらに、SDIA法およびSFEB法によるiPS細胞からの網膜細胞の分化誘導法(Nat Neurosci 8 288-96, 2005)なども知られているが、これらに限定されない。
上記のようにして得られるiPS細胞又はES細胞から分化誘導された細胞集団と、本発明の抗体との接触は、分化細胞の培養に適した培地中に適当な濃度の本発明の抗体(及び二次抗体)を添加し、該分化細胞集団を一定時間インキュベートすることにより行うことができる。本発明の抗体の添加濃度は、抗体の種類、細胞密度、反応温度、反応時間等によって異なるが、例えば0.1〜1000μg/mL、好ましくは1〜100μg/mLの範囲内で適宜選択することができる。反応温度は分化細胞の生存に適した温度であれば特に制限はなく、0〜40℃、好ましくは20〜40℃、より好ましくは30〜40℃の範囲内で適宜選択することができる。反応時間は、本発明のエピトープを有する細胞に結合するために十分な時間であり、かつ分化細胞の生存に悪影響を与えない時間であれば特に制限はないが、例えば3時間以内、好ましくは1分〜2時間、より好ましくは15分〜1時間である。二次抗体をさらに添加する場合、その濃度は分化細胞に対して細胞毒性を示さない範囲であれば特に制限されないが、例えば0.01〜10μg/mL、好ましくは0.1〜1.0μg/mL、より好ましくは0.2〜0.5μg/mLの範囲内で適宜選択することができる。
反応終了後、培地を除去し、新鮮な培地もしくはPBS等の適当な緩衝液で細胞を洗浄した後、常法により本発明の抗体と結合した本発明のエピトープを有する細胞を除去することにより、本発明のエピトープを有する細胞が除去された均一な分化細胞集団を得ることができる。ここで、除去される本発明のエピトープを有する細胞は、本発明のエピトープを有する細胞であれば特に制限されないが、好ましくは、iPS細胞またはES細胞が挙げられ、より好ましくは、iPS細胞が挙げられる。
上記のようにして得られる、均一な分化細胞集団は、常套手段にしたがって医薬上許容される担体と混合するなどして、注射剤、懸濁剤、点滴剤等の細胞移植用の非経口製剤として製造される。当該非経口製剤に含まれ得る医薬上許容される担体としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウムなど)などの注射用の水性液を挙げることができる。本発明の移植療法剤は、例えば、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤、酸化防止剤などと配合しても良い。本発明の移植療法剤を水性懸濁液剤として製剤化する場合、上記水性液に約1×106〜約1×108細胞/mLとなるように、分化細胞を懸濁させればよい。
本発明の移植療法剤は、細胞の凍結保存に通常使用される条件で凍結保存された状態で提供され、用時融解して用いることもできる。その場合、血清もしくはその代替物、有機溶剤(例、DMSO)等をさらに含んでいてもよい。この場合、血清もしくはその代替物の濃度は、特に限定されるものではないが約1〜約30% (v/v)、好ましくは約5〜約20% (v/v) であり得る。有機溶剤の濃度は、特に限定されるものではないが0〜約50% (v/v)、好ましくは約5〜約20% (v/v) であり得る。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[材料及び方法]
1) 抗体、基質、細胞
TRA-1-60 (R) (マウスIgM、ノイラミニダーゼ耐性エピトープ抗体)はR&D Systems Inc. (Minneapolis, MN)から、TRA-1-60 (マウスIgM)はSanta Cruz Biotechnology, Inc. (Sant Cruz, CA)から、TRA-1-60 (マウスIgM;シアリダーゼ感受性エピトープと反応する;以下TRA-1-60 (S)と記載する)はMerk Millipore (Billerca, MA)から、それぞれ購入した。HRPコンジュゲートウサギ抗マウスIgはAgilent Technology (Santa Clara, CA)から購入した。ビオチン化ヤギ抗マウスIgG(H+L)はKPL, Inc. (Gaithersburg, MD)から購入した。ビオチン化ヤギ抗マウスIgM (μ鎖特異的)はVector Laboratories, Maraval LifeSciences (Chicago, IL)から購入した。CMPシアル酸 (ナトリウム塩)はCayman Chemical (Ann Arbor, MI)から購入した。ヒトiPS細胞株Tic (JCRB1331)は、国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 JCRB細胞バンク (大阪, 日本)から購入し、201B7 (HPS0063)は京都大学iPS細胞研究所 (CiRA) (京都, 日本)から提供された。R-10GおよびR-17F (hiPS (Tic strain)に対するマウスIgG抗体)はこれまでに報告した方法で調製した (Kawabe K, et.al., Glycobiology, 23, 322-336, (2013)、Matsumoto S.et al., J. Biol. Chem. 290: 20071-20085, (2015))。
2)酵素
PNGase F (Escherichia coli由来の組換えタンパク質)はRoche Diagnostics GmbH (Mannheim, Germany)から、ノイラミニダーゼ (Arthrobacter ureafaciens)はNacalai Tesque (京都, 日本)から、ノイラミニダーゼ (Vibrio cholerae)はRoche Diagnostics GmbHから、α2-3ノイラミニダーゼS(Streptococcus pneumonia; Escherichia coli由来の組換えタンパク質)はNew England Biolabs (Ipswich, MA)から、α1-3/4フコシダーゼはTakara Bio (滋賀, 日本)から、α1-2フコシダーゼはNew England Biolabs (Ipswich, MA)から、コンドロイチナーゼABC (Proteus vulgaris)、ヘパリナーゼミックス(ヘパリナーゼIおよびヘパリナーゼIIの混合物)、ケラタナーゼ (Pseudomonas sp.)、ケラタナーゼII (Bacillus sp.)およびエンド-β-ガラクトシダーゼ (Escherichia freundii)は生化学バイオビジネスから、β-ガラクトシド α2-3シアリルトランスフェラーゼ (Photobacterium phosphoreum JT-ISH-467; Escherichia coli由来の組換えタンパク質)はCosmo Bio Co., LTD. (東京, 日本)から、それぞれ購入した。
3)免疫細胞化学
培養3−5日後、201B7細胞を室温、15分間、4% PFA/PBS (Wako)中で固定し、30分間、2% BSA/PBSでブロックし、次いで4℃、一晩、1次抗体 (R-10G (IgG) 1 μg/ml、R-17F (IgG) 0.1 μg/ml、R-6C (IgM) 0.1 μg/mlおよびTRA1-60 (IgM) 0.2 μg/ml)でインキュベートした。2% BSA/PBSで3回洗浄後、細胞を室温、60分間、2% BSA/PBS中で2次抗体 (Alexa Fluor 488コンジュゲートヤギ抗マウスIgM (R-6CおよびTRA-1-60)およびAlexa Fluor 594コンジュゲートヤギ抗マウスIgG (R-10G))でインキュベートした。洗浄後、核を4’ 6-ジアミジノ-2-フェニルインドール (DAPI: Sigma)で室温、15分間標識し、イメージをBZ-X700 顕微鏡 (KEYENCE)で撮影した。
4)フローサイトメトリー
37℃、7分間、Accutase (Merk-Millipore)中でインキューべーションすることによって回収した201B7細胞 (1.5×106細胞)を0℃、25分間、1% FBS-PBS (100 μl)中で各1次抗体(R-10G (10 μg/ml)、R-17F (2 μg/ml)、TRA-1-60 (2 μg/ml)およびR-6C (1 μg/ml))でインキュベートした。1% FBS-PBSで洗浄後、細胞を遮光状態で0℃、15分間、2次抗体(100 μl) (R-10Gに対してはAlexa Fluor 488コンジュゲートヤギ抗マウスIgG1、TRA-1-60およびR-6Cに対してはAlexa Fluor 488コンジュゲートヤギ抗マウスIgM)でインキュベートした。1% FBS-PBSで洗浄後、細胞ペレットを同じバッファー (0.5 ml)に再懸濁し、5 mlセルストレーナー丸底キャップチューブ (BD Falcon Biosciences, Lexington, TN)でフィルター処理した。7-アミノアクチノマイシンD (eBioscience Inc.)染色によって死細胞を除去した。FACSDivaソフトウェア (BD Biosciences)およびFlowJoソフトウェア (BD Biosciences)を用いてLSRFortessaフローサイトメーター (BD Biosciences)で分析した。
5)ウェスタンブロットによるモノクローナル抗体R-6Cのスクリーニング
本発明者らのこれまでの研究において、C57BL/6マウスをヒトiPS細胞株(Tic)で免疫し、ハイブリドーマをスクリーニングし、Tic細胞(Kawabe K, et.al., Glycobiology, 23, 322-336, (2013))上の表面抗原に反応性を示した29のハイブリドーマを得た。これまでにKawabe K, et.al., Glycobiology, 23, 322-336, (2013)およびMatsumoto S, et.al., J. Biol. Chem., 290, 20071-20085, (2015)において報告した通り、これらのハイブリドーマから、抗ヒトiPS/ES抗体であるR-10G (マウスIgG1)およびR-17F (マウスIgG1)をそれぞれクローニングし、解析した。本実施例においては、発明者らは、プローブとしてTic細胞抽出液(6 μgタンパク質)を用い、還元条件下のSDS-PAGE後のウェスタンブロットによって、このハイブリドーマライブラリー(24ハイブリドーマ)のリクローニングを実施した。
6)R-6C抗体の精製
R-6Cハイブリドーマ細胞の培養液50mLに硫酸アンモニウム飽和水溶液50mLを加え、混合液を4℃で一晩静置した。11,000 rpmで遠心分離後、沈殿を少量のPBSに溶解し、PBSに対して透析した。透析液を遠心分離して不溶残渣を除去し、製造者指示書に従い前処理したRapid Spin LTMカラムProteNova (神奈川, 日本)に上清をアプライした。撹拌しながら1時間インキュベーションした後、スピンカラムを遠視分離して溶媒を遠沈し、600 μLのPBSでスピンカラムをを3度洗浄した。カラムに結合したタンパク質を200 μLの溶出バッファー(0.1M Glycin-HCl, pH 2.3)で溶出し、中性バッファー(1M Tris)を含むチューブに遠心分離によって回収した。PBSで透析後、R-6Cを-80℃で保存した。
7)SDS-PAGEおよびウェスタンブロット
SDS-PAGE及びウェスタンブロッティングは、Laemmli U.K., Nature. 227:680-685, (1970)及びTowbin H. et al., Biotechnology. 24:145-149, (1979) の方法に従って実施した。簡単にいうと、サンプルを、還元条件下、4-15%グラジエントのSDS-アクリルアミドゲル (Mini-PROTEAN TGX-gel, BioRad Laboratories, Hercules, CA) 上の電気泳動により分離した後、ウェスタンブロッティング又はタンパク質染色のいずれかを行った。ウェスタンブロッティングについては、分離したタンパク質をImmobilion Transferメンブレン (Millipore, Billerica, MA)上に転写した後、TRA-1-60 (3 μg/mL)、R-10G(10 μg/mL)、R-17F (3 μg/mL)又はR-6C (3 μg/mL)を用いてイムノブロット検出を行った。可視化には、化学発光基質キット (Pierce-Thermo Scientific) とHRP標識ウサギ抗マウスIg (DAKO Cytomation, Denmark A/S) を用い、LuminoImage Analyzer, Las 4000 mini (GE Healthcare, Buckinghamshire, UK) により解析した。
8)ウェスタンブロットのためのグリコシダーゼ分解
Tic細胞抽出液(完全RIPAバッファー中にタンパク質13.5 μg)のグリコシダーゼ分解はNakao H. et al., Glycoconjugate J. 34:779-787, (2017)に記載の通りに実施した。以下の条件下、37℃、18時間、各種のグリコシダーゼで反応混合物を分解した。PNGase F分解については、0.6% Nonidet P-40、2% SDS、50 mM 2-メルカプトエタノールおよび50 mM Tris-HClバッファー(pH 8.2)からなる溶液中でサンプルを100℃、5分間加熱した。0.3% Nonidet P-40、4%オクチルグルコシド、2 mM EDTAおよび0.02% PMSFを含む20μlの50 mM Tris-HCl(pH 8.2)中で1mUの酵素で一定分量の変性タンパク質を分解した。Arthrobacter ureafaciens由来ノイラミニダーゼ分解については、20 μlの25 mM酢酸ナトリウムバッファー(pH 4.5)中で10mUの酵素でサンプルを分解した。Vibrio cholerae由来ノイラミニダーゼ分解については、122 mM NaCl、4.5 mM CaCl2および0.01% BSAを含む20 μlの50 mM酢酸ナトリウムバッファー(pH 5.5)中で10mUの酵素でサンプルを分解した。α2-3ノイラミニダーゼS分解については、5 mM CaCl2を含む20 μlの50 mM酢酸ナトリウムバッファー(pH 5.5)中で0.4mUの酵素でサンプルを分解した。ケラタナーゼ分解については、12.5 mM Tris-HCl(pH 7.4)中で0.835mUの酵素でサンプルを分解した。ケラタナーゼII分解については、20 μlの10 mM酢酸ナトリウムバッファー(pH 6.0)中で5mUの酵素でサンプルを分解した。エンド-β-ガラクトシダーゼ分解については、20 μlの10 mM酢酸ナトリウムバッファー(pH 5.8)中で5mUの酵素でサンプルを分解した。α1-2フコシダーゼ分解については、100 mM NaClおよび0.01% BSAを含む20 μlの50 mMクエン酸ナトリウムバッファー(pH 6.0)中で0.66mUの酵素でサンプルを分解した。α1-3/4フコシダーゼ分解については、1 M 硫酸アンモニウムを含む20 μlの50 mMリン酸カリウムバッファー(pH 6.0)中で2μUの酵素でサンプルを分解した。コンドロイチナーゼABC分解については、20 μlの50 mM Tris酢酸バッファー(pH 8.0)中で2mUの酵素でサンプルを分解した。ヘパリナーゼミックス分解については、2.5 mM 酢酸カルシウムを含む20 μlの25 mM酢酸ナトリウムバッファー(pH 7.0)中で6mUの酵素でサンプルを分解した。
9)ELISAによるビオチン化KSに対するR-6Cの結合活性の測定
PBS (300 μl/ウェル× 3)で洗浄した、アビジンでコートされたウェル(アビジンプレート, BS-X7603; Sumitomo Bakelite Co., Ltd., (東京, 日本))に、PBSに溶解したビオチン化KS(20 pmol/100 μl/ウェル)を加えて、ゆっくり撹拌しながら、1.5時間、室温でインキュベートした。PBS/0.05% Tween 20 (PBST) (300 μl/ウェル× 3)でウェルを洗浄した後、R-10G、R-17F、TRA-1-60(0-200 ng/100 μl in 0.1% BSA/PBST/ウェル)を各KSでコートされたウェルに加えて、2時間、室温でインキュベートした。PBST (300 μl/ウェル× 3)でウェルを洗浄した後、HRP標識二次抗体(Agilent Technologyから購入した、HRPコンジュゲートウサギ抗マウスIg) (65 ng/100 μl in 0.1% BSA/PBST/ウェル)と共に1時間、室温でインキュベートし、Sumitomo Bakelite Co., Ltd.から購入したペルオキシダーゼ発色キットT (3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン, TMBZ)で処理し、マルチラベルプレートリーダーWallac 1420 ARVO(PerkinElmer, Inc. (Waltham, MA))で450 nmで可視化することによって、KSに結合した一次抗体の量を測定した。α2-3シアル酸化されたKSの調製については、20 μlの50 mM bis-trisバッファー(pH 6.0)中でα2-3シアリルトランスフェラーゼ (4 mU)およびCMP-N-アセチルノイラミン酸(10 nmol)と共にビオチン化KS (各1nmol)を37℃で一晩インキュベートした。インキュベーション混合液を100°C、2分間加熱した後、混合液の一定分量(10 pmol相当)をELISAプレートのウェルに加えた。
10)R-6C抗体のCDRのアミノ酸配列の決定
TRI試薬(Sigma-Aldrich)でR-6Cハイブリドーマ(1 × 106 細胞)から全RNAを抽出した。gDNA Eraser (Takara Bio)と共にPrimeScriptTM RT試薬キットを用いて、全RNA(1 μg)を抽出した。製造者指示書に従い、総量20 μlで逆転写反応を実施した。cDNAは使用まで-20°Cで保存した。プライマーは従来の報告(Tiller T, et al., J Immunol Methods. 350 (1-2):183-93, (2009))に従って選択した。
重鎖:
5’EcoMsVHE
GGGAATTCGAGGTGCAGCTGCAGGAGTCTGG (配列番号:10)
3’IgM outer
AGGGGGCTCTCGCAGGAGACGAGG (配列番号:11)
軽鎖:
5’MsL-Vk3
TGCTGCTGCTCTGGGTTCCAG (配列番号:12)
5’MsL-Vk4
ATTWTCAGCTTCCTGCTAATC (配列番号:13)
5’MsL-Vk5
TTTTGCTTTTCTGGATTYCAG (配列番号:14)
5’MsL-Vk6
TCGTGTTKCTSTGGTTGTCTG (配列番号:15)
5’MsL-Vk6,8,9
ATGGAATCACAGRCYCWGGT (配列番号:16)
5’MsL-Vk14
TCTTGTTGCTCTGGTTYCCAG (配列番号:17)
5’MsL-Vk19
CAGTTCCTGGGGCTCTTGTTGTTC (配列番号:18)
5’MsL-Vk20
CTCACTAGCTCTTCTCCTC (配列番号:19)
(5’は以上の8種類の混合)
3’mCk
GATGGTGGGAAGATGGATACAGTT (配列番号:20)
マウスIghおよびIgkのV遺伝子転写産物をPCRで各々増幅した。PCR産物を1%アガロースゲルで解析し、各プライマーで配列解析した。IgBlast用いてヌクレオチド配列を解析し、最も高い配列相同性を有する生殖細胞系列V、DおよびJ遺伝子を同定した。
[結果]
1. R-6Cのクローニングおよび精製
最近、発明者らは、プローブとしてTic細胞抽出液を用いて、還元条件下SDS-PAGE後のウェスタンブロット解析によって、細胞結合アッセイ(Kawabe K, et.al., Glycobiology, 23, 322-336, (2013))によって得られたハイブリドーマライブラリーから数個の新しいハイブリドーマを作製した。そのうちの一つR-6Cは、マウスモノクローナル抗体アイソタイプ試験キット(MMT1, BioRad)でマウスIgM抗体として同定され、ヒトiPS/ES細胞のみならず、2102Ep細胞を含むヒトEC細胞とも反応した。
Rapid Spin LTMカラムによるR-6Cの精製を効率的に実施し、50 mlのハイブリドーマ培養培地から約2mgの精製R-6C抗体(IgM)を得た。図1に示されるように、Tic細胞抽出液のウェスタンブロットにおいて、R-6Cは、R-10G、R-17FおよびTRA-1-60のそれぞれとほとんど同じ位置である250 kDa超の分子領域に単一の広いバンドを示した。R-6Cの免疫親和性カラムクロマトグラフィー上では、R-10G免疫親和性カラムクロマトグラフィーおよびR-17F免疫親和性カラムクロマトグラフィーについて以前示されたように、R-6C反応タンパク質の大部分はカラムに結合し、酸性条件下で溶出した(データ示さず)。また、溶出画分は、R-10GだけでなくR-17Fに対しても陽性染色を示し、R-6Cのエピトープもまた、ヒトiPS細胞の主要な膜貫通糖タンパク質の1つであるポドカリキシン上に発現していることを示唆した(Kawabe K, et.al., Glycobiology, 23, 322-336, (2013)、Nakao H. et al., Glycoconjugate J. 34:789-795, (2017))。
2. 蛍光顕微鏡およびフローサイトメトリーによるR-6Cエピトープの解析
蛍光顕微鏡を用いた免疫細胞化学的実験手法によってhiPS (201B7)細胞表面上のR-6Cエピトープの局在を調べた。図2Aに示される通り、R-6CエピトープはhiPS細胞表面上にほとんど普遍的かつ一様に分布していた。これらのプロフィールは、R-10G染色が細胞毎に染色レベルにやや不均一性を示した点を除き、R-10Gのプロフィール(図2B)と類似していた。図2CのR-6CとR-10Gのマージ像は、hiPS細胞のかなりの部分がR-6Cによって染色され、hiPS細胞のいくらかがR-10Gに染色されているが、両方に染色されているかなりの数の細胞があったことを示していた。このことは、大部分の細胞は、hiPS細胞表面のすぐ近くにおいて、かなりの割合でR-6CエピトープおよびR-10Gエピトープの両方を発現していたことを示唆した。hiPS細胞に対するマーカー抗体として頻繁に使用されるTRA-1-60は、ほとんど全ての細胞を染色したが(図2D)、染色レベルは細胞間でかなり不均一であった。
201B7細胞に対するR-6C結合のフローサイトメトリーによって、hiPSに対するマーカー抗体としてのR-6Cの高いポテンシャルを示す更なる根拠が提示された。図3Bに示される通り、R-6Cを201B7細胞と4 ℃でインキュベートすると、高レベルな蛍光領域にシャープな対称性ピークが観察された。このプロファイルは、図3Bに示されるR-17Fのプロファイルと類似しており、TRA-1-60のプロファイルよりもシャープであった。その一方、R-10Gは広範で低いピークを示し、各hiPS細胞間のR-10Gエピトープの発現レベルにおけるかなりの不均一性を反映した(Kawabe K, et.al., Glycobiology, 23, 322-336, (2013))。これらの結果は、R-6Cが、R-10G、R-17FおよびTRA-1-60に匹敵する最も有用なマーカー抗体の1つであることを示唆した。
3. グリコシダーゼ分解と組み合わせたTic細胞抽出液のSDS-PAGE後のウェスタンブロット解析によるR-6Cエピトープの解析
図4の通り、PNGase F(レーン1&2)によるTic細胞抽出液の分解では検出可能な変化は検出されず、R-6Cエピトープの主要構成要素はN-グリカンとは関連しないことが示唆された。一方、ノイラミニダーゼ(Arthrobacter ureafaciens)(レーン3&4)、ノイラミニダーゼ(Vibrio cholerae)(レーン5&6)またはα2-3ノイラミニダーゼS(レーン7&8)によるTic細胞抽出液の分解では、Tic細胞抽出液に対するR-6C結合活性は完全に消滅した。これらの結果は、R-6Cエピトープ構成要素において末端α2-3結合されたシアル酸残基の決定的な役割を示唆した。ケラタン硫酸を特異的に分解するエンド型酵素である、ケラタナーゼ(レーン9&10)およびケラタナーゼII(レーン11&12)によるTic細胞抽出液の分解では、250kDaを超えるバンドの強度が有意に減少した。また、ポリラクトサミン型オリゴ糖を分解するエンド-β-ガラクトシダーゼ(レーン13&14)による分解では、R-6C染色バンドがほとんど完全に消失した。これらの結果は、R-6Cによる認識に重要なシアル酸残基がケラタン硫酸上に発現していることを示唆した。一方、α1-2フコシダーゼ(レーン15&16)またはα1-3/4フコシダーゼ(レーン17&18)による分解では、ウェスタンブロットプロファイルは影響を受けなかった。このことは、α1-2フコースまたはα1-3/4フコース残基はR-6Cによる認識には関連しないことを示唆した。コンドロイチナーゼABC(レーン19&20)による分解では、R-6Cエピトープがわずかに増加したように見た、減少しなかった。このことは、コンドロイチンA、B、CのいずれもR-6Cエピトープには関連しないことを示唆した。ヘパリナーゼミックスによる分解では、R-6C染色がわずかに消え、R-6Cエピトープの一部がヘパラン硫酸上に発現している可能性を示唆した。
4. 合成オリゴ糖を用いたELISAによるR-6Cの結合特異性の解析
発明者らは以前の研究において、合成オリゴ糖リガンドを用いたELISAは、ケラタン硫酸関連構造のエピトープを有するR-10G、R-17FおよびTRA-1-60の結合特異性の試験に有用であることを示した(Nakao H. et al., Glycoconjugate J. 34:789-795, (2017))。発明者らは、異なる数の硫酸と異なる構造を有する一連のKS(表1に列挙されたKS1〜KS7)のビオチン化誘導体の有用性を利用し、アビジンコートプレート上でELISAによって結合特異性を調べた。図5に示される通り、R-6Cはこれらのオリゴ糖のいずれにも結合しなかった。これらの結果は、上記の通り、R-6Cが、エピトープの決定的な要素として、α2-3結合されたシアル酸を必要とすることから予想された。そこで、発明者らは、KS1、KS2、KS3、KS4、KS5、KS6およびKS7をα2-3シアリルトランスフェラーゼおよびCMPシアル酸と共にインキュベートし、α2-3結合シアル酸化KS1、KS2、KS3、KS4、KS5、KS6およびKS7を調製し、R-6Cに対するその結合活性を調べた(図5)。興味深いことに、R-6Cはシアル酸化KS5(Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-(シアル酸化type 1-type 2, 2硫酸, (以下、KS8)))に効率的に結合したが、他のシアル酸化KSには全く結合しなかった。これらの結果は、末端のSia(α2-3)Gal構造が、R-6Cの認識に決定的に重要であることを示した。さらに、KS8分子内の他の部分も認識に重要な役割を果たしていることが示唆される。例えば、シアル酸化KS2およびシアル酸化KS7は、type1-type 2 (KS8)に対してtype2-type2 (シアル酸化KS2)およびtype1-type 1 (シアル酸化KS7)という結合型の違いを除いてKS8と同一である。また、type1-type 2結合を有するがGlcNAc残基の硫酸化がないシアル酸化KS4はR-6Cによって認識されなかったため、GlcNAc残基の硫酸化もまた必要である。
さらに、発明者らは合成KS8 (シアル酸化KS5)(Tokyo chemical industry Co., Ltd.)を購入し、α2-3シアリルトランスフェラーゼによって調製されたKS8とR-6C結合活性を比較した。図6Aの通り、化学合成されたKS8(a)の用量依存的曲線は、シアリルトランスフェラーゼによって調製されたKS8(b)の用量依存的曲線とほとんど同一であり、使用された条件下における酵素によって量的シアル酸化は達成されており、上記の酵素的に合成されたKSを用いた研究戦略を実証している。
以上の点から、KS8(Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1- (シアル酸化type 1-type 2, 2硫酸))は、R-6Cの最少必須エピトープであり、ポドカリキシン上のケラタン硫酸オリゴ糖鎖の遠隔末端に発現していることが示唆された。
5. シアル酸化かつ硫酸化KSオリゴ糖に対するTRA-1-60の結合活性
TRA-1-60は、hiPS細胞の多能性ステータスを調査するためによく用いられるマーカー抗体である。これらの抗体によって認識されるエピトープは、元々シアル酸化ケラタン硫酸として報告されていた(Badcock G.et al., Cancer Res. 59: 4715-4719, (1999))。しかし、数年前、グリカンアレイ分析(Consortium for Functional Glycomics) によって得られた結果に主に基づき、TRA-1-60のエピトープが、ムチン型O-グリカン上のGal(β1-3)GlcNAc(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(β1- (表1におけるKS4)であることが提案された(Natunen S. et al., Glycobiology. 21: 1125-1130, (2011))。最近、発明者らは、TRA-1-60が、KS4に加えて、その硫酸化アナログである、Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc (6S) (β1- (表1におけるKS5)を認識することを示した。今日、2つの異なるタイプのTRA-1-60が市販されており、1つはTRA-1-60 (R) (マウスIgM、ノイラミニダーゼ耐性エピトープ抗体)、もう1つはTRA-1-60 (S) (マウスIgM;シアリダーゼ感受性エピトープと反応する)である。ところで、TRA-1-60の結合特異性の問題は未だに十分明らかにされていない。この背景から、発明者らは、α2-3シアリルトランスフェラーゼによるTRA-1-60 (R)およびTRA-1-60 (S)上の末端Gal残基のシアル酸化の効果を調べた。図7Aに示される通り、TRA-1-60 (S)は、Gal(β1-3)GlcNAc(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(β1- (KS4)に結合特異性を示した。末端Gal残基のシアル酸化またはGlcNAc残基の硫酸化(KS5)は、TRA-1-60 (S)の結合を阻害した。このことは、TRA-1-60 (S)は、エピトープ部分の負電荷の存在に感受性があることを示唆する。一方、TRA-1-60 (R)は、以前TRA-1-60について報告された通り(Nakao H. et al., Glycoconjugate J. 34:789-795, (2017))、KS4およびKS5のみならず、シアル酸化KS4および硫酸化KS5 (即ち、KS8)にも非シアル酸化KS4に匹敵する水準で結合した。これらの結果は、これらのオリゴ糖に対するTRA-1-60 (R)の結合は、エピトープ部分中のシアル酸基または硫酸基のいずれかの負電荷の存在には感受性を示さないが、エピトープ中にシアル酸基および硫酸基が両方存在する場合は感受性になることを示唆した。
6. R-6CのCDRのアミノ酸配列解析
ハイブリドーマR-6Cから調製したトータル RNAを用いて、逆転写反応により、重鎖、軽鎖それぞれの可変領域を含むcDNAを増幅した。さらに該cDNAを基に増幅産物をプラスミドベクターにクローニングし、塩基配列解析を行い、得られた塩基配列結果をもとにコードされるアミノ酸配列を推定した(図8)。CDRの解析はIMGT/V-QUEST (http://www.imgt.org/IMGT_vquest/vquest)を用いて行った。その結果、重鎖および軽鎖のCDRは以下のように推定された。
重鎖 CDR 1 GFSLTSYA(配列番号:1)
CDR 2 IWTGGGP(配列番号:2)
CDR 3 ARKLDGSISNYFDY(配列番号:3)
軽鎖 CDR 1 QGISNY(配列番号:4)
CDR 2 YTS
CDR 3 QQYSKLPWT(配列番号:5)
本発明の抗体は、膜貫通タンパク質上の下記式:
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖を認識することによって、細胞サンプル中のヒトiPS細胞、ES細胞およびEC細胞を検出することができる。また公知の細胞分離技術と本発明の抗体を組み合わせることによって、iPS細胞またはES細胞から分化された細胞集団から、未分化細胞を分離することが可能となり、腫瘍化リスクのない安全な移植細胞を提供し、幹細胞を用いた細胞移植治療の実用化、創薬開発の進展への途を開くことが可能となる。

Claims (10)

  1. 下記式:
    Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
    (式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖をエピトープとして特異的に認識するモノクローナル抗体。
  2. シアル酸がN-アセチルノイラミン酸である、請求項1に記載の抗体。
  3. (a)GFSLTSYA(配列番号:1)で示されるアミノ酸配列を含むCDR、
    (b)IWTGGGP(配列番号:2)で示されるアミノ酸配列を含むCDR、
    (c)ARKLDGSISNYFDY(配列番号:3)で示されるアミノ酸配列を含むCDR、
    (d)QGISNY(配列番号:4)で示されるアミノ酸配列を含むCDR、
    (e)YTSで示されるアミノ酸配列を含むCDR、及び
    (f)QQYSKLPWT(配列番号:5)で示されるアミノ酸配列を含むCDR
    を含む、請求項1または2に記載の抗体。
  4. (1)配列番号:7に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び
    (2)配列番号:9に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
    を含む請求項3に記載の抗体。
  5. モノクローナル抗体のアイソタイプがIgMである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗体。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗体を含有してなる、膜貫通タンパク質上に下記式:
    Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
    (式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖を有する細胞の検出用試薬。
  7. シアル酸がN-アセチルノイラミン酸である、請求項6に記載の試薬。
  8. 膜貫通タンパク質がポドカリキシンである、請求項6または7に記載の試薬。
  9. 膜貫通タンパク質上に下記式:
    Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
    (式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖を有する細胞がiPS細胞、ES細胞またはがん細胞である、請求項6〜8のいずれか1項に記載の試薬。
  10. がん細胞が胎児性がん細胞である、請求項9に記載の試薬。
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