JP2020063195A - 糖鎖をエピトープとして特異的に認識する新規抗体及びその用途 - Google Patents
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Abstract
Description
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖を特異的に認識する新規抗体、当該抗体を用いた当該糖鎖を有する細胞の検出方法および当該方法に用いる検出試薬、ならびに当該抗体を用いたiPS細胞またはES細胞から分化させた均一な分化細胞集団の作製方法に関する。
本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
[1]下記式:
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖をエピトープとして特異的に認識するモノクローナル抗体。
[2]シアル酸がN-アセチルノイラミン酸である、[1]に記載の抗体。
[3](a)GFSLTSYA(配列番号:1)で示されるアミノ酸配列を含むCDR、
(b)IWTGGGP(配列番号:2)で示されるアミノ酸配列を含むCDR、
(c)ARKLDGSISNYFDY(配列番号:3)で示されるアミノ酸配列を含むCDR、
(d)QGISNY(配列番号:4)で示されるアミノ酸配列を含むCDR、
(e)YTSで示されるアミノ酸配列を含むCDR、及び
(f)QQYSKLPWT(配列番号:5)で示されるアミノ酸配列を含むCDR
を含む、[1]または[2]に記載の抗体。
[4](1)配列番号:7に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び
(2)配列番号:9に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む[3]に記載の抗体。
[5]モノクローナル抗体のアイソタイプがIgMである、[1]〜[4]のいずれか1つに記載の抗体。
[6][1]〜[5]のいずれか1つに記載の抗体を含有してなる、膜貫通タンパク質上に下記式:
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖を有する細胞の検出用試薬。
[7]シアル酸がN-アセチルノイラミン酸である、[6]に記載の試薬。
[8]膜貫通タンパク質がポドカリキシンである、[6]または[7]に記載の試薬。
[9]膜貫通タンパク質上に下記式:
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖を有する細胞がiPS細胞、ES細胞またはがん細胞である、[6]〜[8]のいずれか1つに記載の試薬。
[10]がん細胞が胎児性がん細胞である、[9]に記載の試薬。
[11]細胞サンプルを[1]〜[5]のいずれか1つに記載の抗体と接触させ、該抗体と結合した該サンプル中の細胞を検出することを含む、膜貫通タンパク質上に下記式:
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖を有する該細胞の検出方法。
[12]シアル酸がN-アセチルノイラミン酸である、[11]に記載の方法。
[13]膜貫通タンパク質がポドカリキシンである、[11]または[12]に記載の方法。
[14]抗体と結合した細胞がiPS細胞、ES細胞またはがん細胞である、[11]〜[13]のいずれか1つに記載の方法。
[15]がん細胞が胎児性がん細胞である、[14]に記載の方法。
[16]iPS細胞またはES細胞から分化させた細胞集団を[1]〜[5]のいずれか1つに記載の抗体と接触させ、該抗体と結合した細胞を除去することを含む、膜貫通タンパク質上に下記式:
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖を有する該細胞を含まない均一な分化細胞集団の作製方法。
[17]シアル酸がN-アセチルノイラミン酸である、[16]に記載の方法。
[18]膜貫通タンパク質がポドカリキシンである、[16]または[17]に記載の方法。
本発明は、下記式:
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖をエピトープとして特異的に認識するモノクローナル抗体(以下、「本発明の抗体」という場合がある。)を提供する。
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖である。後述する実施例の通り、R-6Cに対して種々の化学合成糖鎖をプローブとしてELISAで解析を行った。その結果、R-6Cは、Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖に結合した。さらに、後述の実施例では、糖鎖を修飾する際に使用したシアル酸として、N-アセチルノイラミン酸を用いた。従って、本発明のエピトープに含まれるシアル酸は、好ましくは、N-アセチルノイラミン酸である。
抗体分子の基本構造は、各クラス共通で、分子量5-7万の重鎖と2-3万の軽鎖から構成される(免疫学イラストレイテッド (I. Roitt, J. Brostoff, D. Male編))。重鎖は、通常約440個のアミノ酸を含むポリペプチド鎖からなり、クラスごとに特徴的な構造をもち、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEに対応してγ、μ、α、δ、ε鎖とよばれる。さらにIgGには、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4が存在し、それぞれγ1、γ2、γ3、γ4とよばれている。軽鎖は、通常約220個のアミノ酸を含むポリペプチド鎖からなり、L型とK型の2種が知られており、それぞれλ、κ鎖とよばれる。抗体分子の基本構造のペプチド構成は、それぞれ相同な2本の重鎖及び2本の軽鎖が、ジスルフィド結合(S-S結合)及び非共有結合によって結合され、分子量15-19万である。2種の軽鎖は、どの重鎖とも対をなすことができる。個々の抗体分子は、常に同一の軽鎖2本と同一の重鎖2本からできている。
R-6Cの場合、重鎖可変領域のCDRは、配列番号:7で表されるアミノ酸配列中アミノ酸番号26〜33(CDR1-H)、51〜57(CDR2-H)及び96〜109(CDR3-H)であり、軽鎖可変領域のCDRは、配列番号:9で表されるアミノ酸配列中アミノ酸番号27〜32(CDR1-L)、50〜52(CDR2-L)及び89〜97(CDR3-L)である。
(1)(a)GFSLTSYA(配列番号:1)で示されるアミノ酸配列を含むCDR、
(b)IWTGGGP(配列番号:2)で示されるアミノ酸配列を含むCDR、
(c)ARKLDGSISNYFDY(配列番号:3)で示されるアミノ酸配列を含むCDR、
(d)QGISNY(配列番号:4)で示されるアミノ酸配列を含むCDR、
(e)YTSで示されるアミノ酸配列を含むCDR、及び
(f)QQYSKLPWT(配列番号:5)で示されるアミノ酸配列を含むCDR
を含む抗体、あるいは
(2)配列番号:1〜5およびYTSで示されるアミノ酸配列より選択される1以上(例、1、2、3、4、5もしくは6)のアミノ酸配列の各々において、1もしくは2個のアミノ酸残基が置換及び/又は欠失及び/又は付加及び/又は挿入された、上記(a)〜(f)のCDRを含む抗体であって、下記式:
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖を特異的に認識する抗体である。
(1)上記(a)〜(c)のCDRを含む重鎖可変領域と、上記(d)〜(f)のCDRを含む軽鎖可変領域とを含む抗体、又は
(2) 配列番号:1〜6に示されるアミノ酸配列より選択される1以上(例、1、2、3、4、5もしくは6)のアミノ酸配列の各々において、1もしくは2個のアミノ酸残基が置換及び/又は欠失及び/又は付加及び/又は挿入された、上記(1)の重鎖及び軽鎖可変領域を含む抗体であって、下記式:
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖を特異的に認識する抗体である。
(1)配列番号:7に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号:9に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む抗体、又は
(2)配列番号:7及び9のいずれか一方もしくは両方において、1以上、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、いっそう好ましくは1〜数(例、1、2、3、4もしくは5)個のアミノ酸残基が置換及び/又は欠失及び/又は付加及び/又は挿入された、上記(1)の重鎖及び軽鎖可変領域を含む抗体であって、下記式:
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖を特異的に認識する抗体である。
本発明の抗体は、抗原決定基(エピトープ)を特異的に認識し、結合するための相補性決定領域 (CDR) を少なくとも有するものであれば、分子の形態に特に制限はなく、完全抗体分子の他、例えばFab、Fab'、F(ab’)2等のフラグメント、scFv、scFv-Fc、ミニボディー、ダイアボディー等の遺伝子工学的に作製されたコンジュゲート分子、あるいはポリエチレングリコール (PEG) 等のタンパク質安定化作用を有する分子などで修飾されたそれらの誘導体などであってもよい。
本発明の抗体は自体公知の抗体製造法によって作製することができる。以下に、本発明の抗体作製のための免疫原(iPS細胞)の調製方法、並びに該抗体の製造方法について説明する。
本発明の抗体の作製に用いられる抗原としては、iPS細胞又は細胞表面の糖鎖を含有するその画分(例、膜画分)などを使用することができる。
また、iPS細胞は、様々な公的もしくは私的寄託機関から入手することもでき、また市販されている。例えば、ヒトiPS細胞株201B7及び235G1は理研バイオリソースセンターのセルバンクから入手することができ、また、Tic(JCRB1331)は国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 JCRB細胞バンクから入手可能である。
あるいは、本発明の抗体の作製のための免疫原として、iPS細胞の細胞膜画分を用いることもできる。該細胞膜画分は、iPS細胞をホモジナイズし、低速遠心により細胞デブリスを除去した後、上清を高速遠心して細胞膜含有画分を沈殿させる(必要に応じて、さらに密度勾配遠心等により細胞膜画分を精製する)ことにより、調製することができる。
(a) モノクローナル抗体産生細胞の作製
上記のようにして調製された免疫原は、温血動物に対して、例えば腹腔内注入、静脈注入、皮下注射、皮内注射などの投与方法によって、抗体産生が可能な部位にそれ自体単独であるいは担体、希釈剤と共に投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は、通常1〜6週毎に1回ずつ、計2〜10回程度行われる。温血動物としては、例えばマウス、ラット、ウサギ、ヤギ、サル、イヌ、モルモット、ヒツジ、ロバ、ニワトリ等が用いられるが、マウス、ラット及びウサギが好ましい。
モノクローナル抗体の分離精製は、自体公知の方法、例えば、免疫グロブリンの分離精製法[例:塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例:DEAE、QEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相あるいはプロテインAあるいはプロテインGなどの活性吸着剤により抗体のみを採取し、結合を解離させて抗体を得る特異的精製法など]に従って行うことができる。
以上のようにして、ハイブリドーマを温血動物の生体内又は生体外で培養し、その体液または培養物から抗体を採取することによって、モノクローナル抗体を製造することができる。
別の実施態様において、こうして得られた本発明の抗体の重鎖及び軽鎖をコードするcDNAを、該抗体を産生するハイブリドーマのcDNAライブラリーから単離し、常法に従って、目的の宿主細胞で機能的な適当な発現ベクターにクローニングすることができる。次いで、こうして得られた重鎖及び軽鎖発現ベクターを宿主細胞に導入する。有用な宿主細胞としては、動物細胞、例えば上記したマウス骨髄腫細胞の他、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、サル由来のCOS-7細胞、Vero細胞、ラット由来のGHS細胞などが挙げられる。遺伝子導入は動物細胞に適用可能ないかなる方法を用いてもよいが、好ましくはエレクトロポレーション法又はカチオン性脂質を用いた方法などが挙げられる。宿主細胞に適した培地中で一定期間培養後、培養上清を回収して抗体タンパク質を常法により精製することにより、本発明の抗体を単離することができる。あるいは、宿主細胞としてウシ、ヤギ、ニワトリ等のトランスジェニック技術が確立し、且つ家畜(家禽)として大量繁殖のノウハウが蓄積されている動物の生殖系列細胞を用い、常法によってトランスジェニック動物を作製することにより、得られる動物の乳汁もしくは卵から容易に且つ大量に本発明の抗体を得ることもできる。さらに、トウモロコシ、イネ、コムギ、ダイズ、タバコなどのトランスジェニック技術が確立し、且つ主要作物として大量に栽培されている植物細胞を宿主細胞として、プロトプラストへのマイクロインジェクションやエレクトロポレーション、無傷細胞へのパーティクルガン法やTiベクター法などを用いてトランスジェニック植物を作製し、得られる種子や葉などから大量に本発明の抗体を得ることも可能である。
本明細書において「キメラ抗体」とは、重鎖及び軽鎖の可変領域(VH及びVL)の配列が非ヒト動物種に由来し、定常領域(CH及びCL)の配列がヒトに由来する抗体を意味する。可変領域の配列は、例えばマウス、ラット、ウサギ等の容易にハイブリドーマを作製することができる動物種由来であることが好ましく、定常領域の配列は投与対象となる動物種由来であることが好ましい。
本明細書において「ヒト化抗体」とは、可変領域に存在する相補性決定領域(CDR)以外のすべての領域(即ち、定常領域及び可変領域中のフレームワーク領域(FR))の配列がヒト由来であり、CDRの配列のみが他の哺乳動物種由来である抗体を意味する。他の哺乳動物種としては、例えばマウス、ラット、ウサギ等の容易にハイブリドーマを作製することができる動物種が好ましい。
本発明の抗体は、膜貫通タンパク質上に下記式:
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖を有する細胞(以下、「本発明のエピトープを有する細胞」という場合がある。)を特異的に認識することができるので、不特定の細胞を含む細胞サンプル中に存在する本発明のエピトープを有する細胞の検出及び定量、特に免疫細胞化学的な検出及び定量に用いることができる。これらの目的には、抗体分子そのものを用いてもよく、また、抗体分子のF(ab')2、Fab'、あるいはFab画分などいかなるフラグメントを用いてもよい。本発明の抗体を用いる測定法は特に制限されるべきものではなく、いかなる測定法を用いてもよいが、例えば、標識物質を用いる測定法などが挙げられる。本発明のエピトープを有する細胞としては、本発明のエピトープを有する細胞であれば特に制限されないが、好ましくは、iPS細胞、ES細胞またはがん細胞が挙げられ、より好ましくは、iPS細胞が挙げられる。また、がん細胞としては、上記の通り本発明のエピトープを有する限り特に制限されないが、例えば、乳がん細胞、胃がん細胞、肝臓がん細胞、大腸がん細胞、膵臓がん細胞、胆嚢がん細胞、腎臓がん細胞、肺がん細胞、卵巣がん細胞、子宮頚がん細胞、子宮体がん細胞、胎児性がん細胞などが挙げられ、好ましくは、胎児性がん細胞が挙げられる。
この目的のためには、例えば、本発明の抗体をアガロース、アクリルアミド、セファロース、セファデックス等の任意の適切なマトリクスを含む固相上に固定化することができる。該固相は、マイクロタイタープレート等の任意の適切な培養器であってもよい。サンプルを該固相と接触させると、サンプル中の本発明のエピトープを有する細胞は該固相上に固定される。該細胞は適当な溶出バッファーを用いて固相から遊離させることができる。
例えば、ヒトES細胞を放射線照射したC3H10T1/2細胞株と共培養して嚢状構造体(ES-sac)を誘導することにより造血前駆細胞に分化させることができる(Blood, 111: 5298-306, 2008)。ES細胞からの神経幹細胞、神経細胞の分化誘導法としては、胚様体形成法(Mech Div 59(1) 89-102, 1996)、レチノイン酸法(Dev Biol 168(2) 342-57, 1995)、SDIA法(Neuron 28(1) 31-40, 2000)、NSS法(Neurosci Res 46(2) 241-9, 2003)など様々な方法が知られている。ES細胞から心筋細胞への誘導方法としては、これまでにレチノイン酸、TGFβ1、FGF、dynorphin B、アスコルビン酸、一酸化窒素、FGF2とBMP2、Wnt11、PP2、Wnt3a/Wnt阻害剤などの因子を培地に添加する方法や、Nogginによる心筋分化誘導法(Nat Biotechnol 23(5) 611, 2005)などが報告されている。さらに、SDIA法およびSFEB法によるiPS細胞からの網膜細胞の分化誘導法(Nat Neurosci 8 288-96, 2005)なども知られているが、これらに限定されない。
反応終了後、培地を除去し、新鮮な培地もしくはPBS等の適当な緩衝液で細胞を洗浄した後、常法により本発明の抗体と結合した本発明のエピトープを有する細胞を除去することにより、本発明のエピトープを有する細胞が除去された均一な分化細胞集団を得ることができる。ここで、除去される本発明のエピトープを有する細胞は、本発明のエピトープを有する細胞であれば特に制限されないが、好ましくは、iPS細胞またはES細胞が挙げられ、より好ましくは、iPS細胞が挙げられる。
本発明の移植療法剤は、細胞の凍結保存に通常使用される条件で凍結保存された状態で提供され、用時融解して用いることもできる。その場合、血清もしくはその代替物、有機溶剤(例、DMSO)等をさらに含んでいてもよい。この場合、血清もしくはその代替物の濃度は、特に限定されるものではないが約1〜約30% (v/v)、好ましくは約5〜約20% (v/v) であり得る。有機溶剤の濃度は、特に限定されるものではないが0〜約50% (v/v)、好ましくは約5〜約20% (v/v) であり得る。
1) 抗体、基質、細胞
TRA-1-60 (R) (マウスIgM、ノイラミニダーゼ耐性エピトープ抗体)はR&D Systems Inc. (Minneapolis, MN)から、TRA-1-60 (マウスIgM)はSanta Cruz Biotechnology, Inc. (Sant Cruz, CA)から、TRA-1-60 (マウスIgM;シアリダーゼ感受性エピトープと反応する;以下TRA-1-60 (S)と記載する)はMerk Millipore (Billerca, MA)から、それぞれ購入した。HRPコンジュゲートウサギ抗マウスIgはAgilent Technology (Santa Clara, CA)から購入した。ビオチン化ヤギ抗マウスIgG(H+L)はKPL, Inc. (Gaithersburg, MD)から購入した。ビオチン化ヤギ抗マウスIgM (μ鎖特異的)はVector Laboratories, Maraval LifeSciences (Chicago, IL)から購入した。CMPシアル酸 (ナトリウム塩)はCayman Chemical (Ann Arbor, MI)から購入した。ヒトiPS細胞株Tic (JCRB1331)は、国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 JCRB細胞バンク (大阪, 日本)から購入し、201B7 (HPS0063)は京都大学iPS細胞研究所 (CiRA) (京都, 日本)から提供された。R-10GおよびR-17F (hiPS (Tic strain)に対するマウスIgG抗体)はこれまでに報告した方法で調製した (Kawabe K, et.al., Glycobiology, 23, 322-336, (2013)、Matsumoto S.et al., J. Biol. Chem. 290: 20071-20085, (2015))。
PNGase F (Escherichia coli由来の組換えタンパク質)はRoche Diagnostics GmbH (Mannheim, Germany)から、ノイラミニダーゼ (Arthrobacter ureafaciens)はNacalai Tesque (京都, 日本)から、ノイラミニダーゼ (Vibrio cholerae)はRoche Diagnostics GmbHから、α2-3ノイラミニダーゼS(Streptococcus pneumonia; Escherichia coli由来の組換えタンパク質)はNew England Biolabs (Ipswich, MA)から、α1-3/4フコシダーゼはTakara Bio (滋賀, 日本)から、α1-2フコシダーゼはNew England Biolabs (Ipswich, MA)から、コンドロイチナーゼABC (Proteus vulgaris)、ヘパリナーゼミックス(ヘパリナーゼIおよびヘパリナーゼIIの混合物)、ケラタナーゼ (Pseudomonas sp.)、ケラタナーゼII (Bacillus sp.)およびエンド-β-ガラクトシダーゼ (Escherichia freundii)は生化学バイオビジネスから、β-ガラクトシド α2-3シアリルトランスフェラーゼ (Photobacterium phosphoreum JT-ISH-467; Escherichia coli由来の組換えタンパク質)はCosmo Bio Co., LTD. (東京, 日本)から、それぞれ購入した。
培養3−5日後、201B7細胞を室温、15分間、4% PFA/PBS (Wako)中で固定し、30分間、2% BSA/PBSでブロックし、次いで4℃、一晩、1次抗体 (R-10G (IgG) 1 μg/ml、R-17F (IgG) 0.1 μg/ml、R-6C (IgM) 0.1 μg/mlおよびTRA1-60 (IgM) 0.2 μg/ml)でインキュベートした。2% BSA/PBSで3回洗浄後、細胞を室温、60分間、2% BSA/PBS中で2次抗体 (Alexa Fluor 488コンジュゲートヤギ抗マウスIgM (R-6CおよびTRA-1-60)およびAlexa Fluor 594コンジュゲートヤギ抗マウスIgG (R-10G))でインキュベートした。洗浄後、核を4’ 6-ジアミジノ-2-フェニルインドール (DAPI: Sigma)で室温、15分間標識し、イメージをBZ-X700 顕微鏡 (KEYENCE)で撮影した。
37℃、7分間、Accutase (Merk-Millipore)中でインキューべーションすることによって回収した201B7細胞 (1.5×106細胞)を0℃、25分間、1% FBS-PBS (100 μl)中で各1次抗体(R-10G (10 μg/ml)、R-17F (2 μg/ml)、TRA-1-60 (2 μg/ml)およびR-6C (1 μg/ml))でインキュベートした。1% FBS-PBSで洗浄後、細胞を遮光状態で0℃、15分間、2次抗体(100 μl) (R-10Gに対してはAlexa Fluor 488コンジュゲートヤギ抗マウスIgG1、TRA-1-60およびR-6Cに対してはAlexa Fluor 488コンジュゲートヤギ抗マウスIgM)でインキュベートした。1% FBS-PBSで洗浄後、細胞ペレットを同じバッファー (0.5 ml)に再懸濁し、5 mlセルストレーナー丸底キャップチューブ (BD Falcon Biosciences, Lexington, TN)でフィルター処理した。7-アミノアクチノマイシンD (eBioscience Inc.)染色によって死細胞を除去した。FACSDivaソフトウェア (BD Biosciences)およびFlowJoソフトウェア (BD Biosciences)を用いてLSRFortessaフローサイトメーター (BD Biosciences)で分析した。
本発明者らのこれまでの研究において、C57BL/6マウスをヒトiPS細胞株(Tic)で免疫し、ハイブリドーマをスクリーニングし、Tic細胞(Kawabe K, et.al., Glycobiology, 23, 322-336, (2013))上の表面抗原に反応性を示した29のハイブリドーマを得た。これまでにKawabe K, et.al., Glycobiology, 23, 322-336, (2013)およびMatsumoto S, et.al., J. Biol. Chem., 290, 20071-20085, (2015)において報告した通り、これらのハイブリドーマから、抗ヒトiPS/ES抗体であるR-10G (マウスIgG1)およびR-17F (マウスIgG1)をそれぞれクローニングし、解析した。本実施例においては、発明者らは、プローブとしてTic細胞抽出液(6 μgタンパク質)を用い、還元条件下のSDS-PAGE後のウェスタンブロットによって、このハイブリドーマライブラリー(24ハイブリドーマ)のリクローニングを実施した。
R-6Cハイブリドーマ細胞の培養液50mLに硫酸アンモニウム飽和水溶液50mLを加え、混合液を4℃で一晩静置した。11,000 rpmで遠心分離後、沈殿を少量のPBSに溶解し、PBSに対して透析した。透析液を遠心分離して不溶残渣を除去し、製造者指示書に従い前処理したRapid Spin LTMカラムProteNova (神奈川, 日本)に上清をアプライした。撹拌しながら1時間インキュベーションした後、スピンカラムを遠視分離して溶媒を遠沈し、600 μLのPBSでスピンカラムをを3度洗浄した。カラムに結合したタンパク質を200 μLの溶出バッファー(0.1M Glycin-HCl, pH 2.3)で溶出し、中性バッファー(1M Tris)を含むチューブに遠心分離によって回収した。PBSで透析後、R-6Cを-80℃で保存した。
SDS-PAGE及びウェスタンブロッティングは、Laemmli U.K., Nature. 227:680-685, (1970)及びTowbin H. et al., Biotechnology. 24:145-149, (1979) の方法に従って実施した。簡単にいうと、サンプルを、還元条件下、4-15%グラジエントのSDS-アクリルアミドゲル (Mini-PROTEAN TGX-gel, BioRad Laboratories, Hercules, CA) 上の電気泳動により分離した後、ウェスタンブロッティング又はタンパク質染色のいずれかを行った。ウェスタンブロッティングについては、分離したタンパク質をImmobilion Transferメンブレン (Millipore, Billerica, MA)上に転写した後、TRA-1-60 (3 μg/mL)、R-10G(10 μg/mL)、R-17F (3 μg/mL)又はR-6C (3 μg/mL)を用いてイムノブロット検出を行った。可視化には、化学発光基質キット (Pierce-Thermo Scientific) とHRP標識ウサギ抗マウスIg (DAKO Cytomation, Denmark A/S) を用い、LuminoImage Analyzer, Las 4000 mini (GE Healthcare, Buckinghamshire, UK) により解析した。
Tic細胞抽出液(完全RIPAバッファー中にタンパク質13.5 μg)のグリコシダーゼ分解はNakao H. et al., Glycoconjugate J. 34:779-787, (2017)に記載の通りに実施した。以下の条件下、37℃、18時間、各種のグリコシダーゼで反応混合物を分解した。PNGase F分解については、0.6% Nonidet P-40、2% SDS、50 mM 2-メルカプトエタノールおよび50 mM Tris-HClバッファー(pH 8.2)からなる溶液中でサンプルを100℃、5分間加熱した。0.3% Nonidet P-40、4%オクチルグルコシド、2 mM EDTAおよび0.02% PMSFを含む20μlの50 mM Tris-HCl(pH 8.2)中で1mUの酵素で一定分量の変性タンパク質を分解した。Arthrobacter ureafaciens由来ノイラミニダーゼ分解については、20 μlの25 mM酢酸ナトリウムバッファー(pH 4.5)中で10mUの酵素でサンプルを分解した。Vibrio cholerae由来ノイラミニダーゼ分解については、122 mM NaCl、4.5 mM CaCl2および0.01% BSAを含む20 μlの50 mM酢酸ナトリウムバッファー(pH 5.5)中で10mUの酵素でサンプルを分解した。α2-3ノイラミニダーゼS分解については、5 mM CaCl2を含む20 μlの50 mM酢酸ナトリウムバッファー(pH 5.5)中で0.4mUの酵素でサンプルを分解した。ケラタナーゼ分解については、12.5 mM Tris-HCl(pH 7.4)中で0.835mUの酵素でサンプルを分解した。ケラタナーゼII分解については、20 μlの10 mM酢酸ナトリウムバッファー(pH 6.0)中で5mUの酵素でサンプルを分解した。エンド-β-ガラクトシダーゼ分解については、20 μlの10 mM酢酸ナトリウムバッファー(pH 5.8)中で5mUの酵素でサンプルを分解した。α1-2フコシダーゼ分解については、100 mM NaClおよび0.01% BSAを含む20 μlの50 mMクエン酸ナトリウムバッファー(pH 6.0)中で0.66mUの酵素でサンプルを分解した。α1-3/4フコシダーゼ分解については、1 M 硫酸アンモニウムを含む20 μlの50 mMリン酸カリウムバッファー(pH 6.0)中で2μUの酵素でサンプルを分解した。コンドロイチナーゼABC分解については、20 μlの50 mM Tris酢酸バッファー(pH 8.0)中で2mUの酵素でサンプルを分解した。ヘパリナーゼミックス分解については、2.5 mM 酢酸カルシウムを含む20 μlの25 mM酢酸ナトリウムバッファー(pH 7.0)中で6mUの酵素でサンプルを分解した。
PBS (300 μl/ウェル× 3)で洗浄した、アビジンでコートされたウェル(アビジンプレート, BS-X7603; Sumitomo Bakelite Co., Ltd., (東京, 日本))に、PBSに溶解したビオチン化KS(20 pmol/100 μl/ウェル)を加えて、ゆっくり撹拌しながら、1.5時間、室温でインキュベートした。PBS/0.05% Tween 20 (PBST) (300 μl/ウェル× 3)でウェルを洗浄した後、R-10G、R-17F、TRA-1-60(0-200 ng/100 μl in 0.1% BSA/PBST/ウェル)を各KSでコートされたウェルに加えて、2時間、室温でインキュベートした。PBST (300 μl/ウェル× 3)でウェルを洗浄した後、HRP標識二次抗体(Agilent Technologyから購入した、HRPコンジュゲートウサギ抗マウスIg) (65 ng/100 μl in 0.1% BSA/PBST/ウェル)と共に1時間、室温でインキュベートし、Sumitomo Bakelite Co., Ltd.から購入したペルオキシダーゼ発色キットT (3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン, TMBZ)で処理し、マルチラベルプレートリーダーWallac 1420 ARVO(PerkinElmer, Inc. (Waltham, MA))で450 nmで可視化することによって、KSに結合した一次抗体の量を測定した。α2-3シアル酸化されたKSの調製については、20 μlの50 mM bis-trisバッファー(pH 6.0)中でα2-3シアリルトランスフェラーゼ (4 mU)およびCMP-N-アセチルノイラミン酸(10 nmol)と共にビオチン化KS (各1nmol)を37℃で一晩インキュベートした。インキュベーション混合液を100°C、2分間加熱した後、混合液の一定分量(10 pmol相当)をELISAプレートのウェルに加えた。
TRI試薬(Sigma-Aldrich)でR-6Cハイブリドーマ(1 × 106 細胞)から全RNAを抽出した。gDNA Eraser (Takara Bio)と共にPrimeScriptTM RT試薬キットを用いて、全RNA(1 μg)を抽出した。製造者指示書に従い、総量20 μlで逆転写反応を実施した。cDNAは使用まで-20°Cで保存した。プライマーは従来の報告(Tiller T, et al., J Immunol Methods. 350 (1-2):183-93, (2009))に従って選択した。
重鎖:
5’EcoMsVHE
GGGAATTCGAGGTGCAGCTGCAGGAGTCTGG (配列番号:10)
3’IgM outer
AGGGGGCTCTCGCAGGAGACGAGG (配列番号:11)
軽鎖:
5’MsL-Vk3
TGCTGCTGCTCTGGGTTCCAG (配列番号:12)
5’MsL-Vk4
ATTWTCAGCTTCCTGCTAATC (配列番号:13)
5’MsL-Vk5
TTTTGCTTTTCTGGATTYCAG (配列番号:14)
5’MsL-Vk6
TCGTGTTKCTSTGGTTGTCTG (配列番号:15)
5’MsL-Vk6,8,9
ATGGAATCACAGRCYCWGGT (配列番号:16)
5’MsL-Vk14
TCTTGTTGCTCTGGTTYCCAG (配列番号:17)
5’MsL-Vk19
CAGTTCCTGGGGCTCTTGTTGTTC (配列番号:18)
5’MsL-Vk20
CTCACTAGCTCTTCTCCTC (配列番号:19)
(5’は以上の8種類の混合)
3’mCk
GATGGTGGGAAGATGGATACAGTT (配列番号:20)
マウスIghおよびIgkのV遺伝子転写産物をPCRで各々増幅した。PCR産物を1%アガロースゲルで解析し、各プライマーで配列解析した。IgBlast用いてヌクレオチド配列を解析し、最も高い配列相同性を有する生殖細胞系列V、DおよびJ遺伝子を同定した。
1. R-6Cのクローニングおよび精製
最近、発明者らは、プローブとしてTic細胞抽出液を用いて、還元条件下SDS-PAGE後のウェスタンブロット解析によって、細胞結合アッセイ(Kawabe K, et.al., Glycobiology, 23, 322-336, (2013))によって得られたハイブリドーマライブラリーから数個の新しいハイブリドーマを作製した。そのうちの一つR-6Cは、マウスモノクローナル抗体アイソタイプ試験キット(MMT1, BioRad)でマウスIgM抗体として同定され、ヒトiPS/ES細胞のみならず、2102Ep細胞を含むヒトEC細胞とも反応した。
Rapid Spin LTMカラムによるR-6Cの精製を効率的に実施し、50 mlのハイブリドーマ培養培地から約2mgの精製R-6C抗体(IgM)を得た。図1に示されるように、Tic細胞抽出液のウェスタンブロットにおいて、R-6Cは、R-10G、R-17FおよびTRA-1-60のそれぞれとほとんど同じ位置である250 kDa超の分子領域に単一の広いバンドを示した。R-6Cの免疫親和性カラムクロマトグラフィー上では、R-10G免疫親和性カラムクロマトグラフィーおよびR-17F免疫親和性カラムクロマトグラフィーについて以前示されたように、R-6C反応タンパク質の大部分はカラムに結合し、酸性条件下で溶出した(データ示さず)。また、溶出画分は、R-10GだけでなくR-17Fに対しても陽性染色を示し、R-6Cのエピトープもまた、ヒトiPS細胞の主要な膜貫通糖タンパク質の1つであるポドカリキシン上に発現していることを示唆した(Kawabe K, et.al., Glycobiology, 23, 322-336, (2013)、Nakao H. et al., Glycoconjugate J. 34:789-795, (2017))。
蛍光顕微鏡を用いた免疫細胞化学的実験手法によってhiPS (201B7)細胞表面上のR-6Cエピトープの局在を調べた。図2Aに示される通り、R-6CエピトープはhiPS細胞表面上にほとんど普遍的かつ一様に分布していた。これらのプロフィールは、R-10G染色が細胞毎に染色レベルにやや不均一性を示した点を除き、R-10Gのプロフィール(図2B)と類似していた。図2CのR-6CとR-10Gのマージ像は、hiPS細胞のかなりの部分がR-6Cによって染色され、hiPS細胞のいくらかがR-10Gに染色されているが、両方に染色されているかなりの数の細胞があったことを示していた。このことは、大部分の細胞は、hiPS細胞表面のすぐ近くにおいて、かなりの割合でR-6CエピトープおよびR-10Gエピトープの両方を発現していたことを示唆した。hiPS細胞に対するマーカー抗体として頻繁に使用されるTRA-1-60は、ほとんど全ての細胞を染色したが(図2D)、染色レベルは細胞間でかなり不均一であった。
201B7細胞に対するR-6C結合のフローサイトメトリーによって、hiPSに対するマーカー抗体としてのR-6Cの高いポテンシャルを示す更なる根拠が提示された。図3Bに示される通り、R-6Cを201B7細胞と4 ℃でインキュベートすると、高レベルな蛍光領域にシャープな対称性ピークが観察された。このプロファイルは、図3Bに示されるR-17Fのプロファイルと類似しており、TRA-1-60のプロファイルよりもシャープであった。その一方、R-10Gは広範で低いピークを示し、各hiPS細胞間のR-10Gエピトープの発現レベルにおけるかなりの不均一性を反映した(Kawabe K, et.al., Glycobiology, 23, 322-336, (2013))。これらの結果は、R-6Cが、R-10G、R-17FおよびTRA-1-60に匹敵する最も有用なマーカー抗体の1つであることを示唆した。
図4の通り、PNGase F(レーン1&2)によるTic細胞抽出液の分解では検出可能な変化は検出されず、R-6Cエピトープの主要構成要素はN-グリカンとは関連しないことが示唆された。一方、ノイラミニダーゼ(Arthrobacter ureafaciens)(レーン3&4)、ノイラミニダーゼ(Vibrio cholerae)(レーン5&6)またはα2-3ノイラミニダーゼS(レーン7&8)によるTic細胞抽出液の分解では、Tic細胞抽出液に対するR-6C結合活性は完全に消滅した。これらの結果は、R-6Cエピトープ構成要素において末端α2-3結合されたシアル酸残基の決定的な役割を示唆した。ケラタン硫酸を特異的に分解するエンド型酵素である、ケラタナーゼ(レーン9&10)およびケラタナーゼII(レーン11&12)によるTic細胞抽出液の分解では、250kDaを超えるバンドの強度が有意に減少した。また、ポリラクトサミン型オリゴ糖を分解するエンド-β-ガラクトシダーゼ(レーン13&14)による分解では、R-6C染色バンドがほとんど完全に消失した。これらの結果は、R-6Cによる認識に重要なシアル酸残基がケラタン硫酸上に発現していることを示唆した。一方、α1-2フコシダーゼ(レーン15&16)またはα1-3/4フコシダーゼ(レーン17&18)による分解では、ウェスタンブロットプロファイルは影響を受けなかった。このことは、α1-2フコースまたはα1-3/4フコース残基はR-6Cによる認識には関連しないことを示唆した。コンドロイチナーゼABC(レーン19&20)による分解では、R-6Cエピトープがわずかに増加したように見た、減少しなかった。このことは、コンドロイチンA、B、CのいずれもR-6Cエピトープには関連しないことを示唆した。ヘパリナーゼミックスによる分解では、R-6C染色がわずかに消え、R-6Cエピトープの一部がヘパラン硫酸上に発現している可能性を示唆した。
発明者らは以前の研究において、合成オリゴ糖リガンドを用いたELISAは、ケラタン硫酸関連構造のエピトープを有するR-10G、R-17FおよびTRA-1-60の結合特異性の試験に有用であることを示した(Nakao H. et al., Glycoconjugate J. 34:789-795, (2017))。発明者らは、異なる数の硫酸と異なる構造を有する一連のKS(表1に列挙されたKS1〜KS7)のビオチン化誘導体の有用性を利用し、アビジンコートプレート上でELISAによって結合特異性を調べた。図5に示される通り、R-6Cはこれらのオリゴ糖のいずれにも結合しなかった。これらの結果は、上記の通り、R-6Cが、エピトープの決定的な要素として、α2-3結合されたシアル酸を必要とすることから予想された。そこで、発明者らは、KS1、KS2、KS3、KS4、KS5、KS6およびKS7をα2-3シアリルトランスフェラーゼおよびCMPシアル酸と共にインキュベートし、α2-3結合シアル酸化KS1、KS2、KS3、KS4、KS5、KS6およびKS7を調製し、R-6Cに対するその結合活性を調べた(図5)。興味深いことに、R-6Cはシアル酸化KS5(Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-(シアル酸化type 1-type 2, 2硫酸, (以下、KS8)))に効率的に結合したが、他のシアル酸化KSには全く結合しなかった。これらの結果は、末端のSia(α2-3)Gal構造が、R-6Cの認識に決定的に重要であることを示した。さらに、KS8分子内の他の部分も認識に重要な役割を果たしていることが示唆される。例えば、シアル酸化KS2およびシアル酸化KS7は、type1-type 2 (KS8)に対してtype2-type2 (シアル酸化KS2)およびtype1-type 1 (シアル酸化KS7)という結合型の違いを除いてKS8と同一である。また、type1-type 2結合を有するがGlcNAc残基の硫酸化がないシアル酸化KS4はR-6Cによって認識されなかったため、GlcNAc残基の硫酸化もまた必要である。
さらに、発明者らは合成KS8 (シアル酸化KS5)(Tokyo chemical industry Co., Ltd.)を購入し、α2-3シアリルトランスフェラーゼによって調製されたKS8とR-6C結合活性を比較した。図6Aの通り、化学合成されたKS8(a)の用量依存的曲線は、シアリルトランスフェラーゼによって調製されたKS8(b)の用量依存的曲線とほとんど同一であり、使用された条件下における酵素によって量的シアル酸化は達成されており、上記の酵素的に合成されたKSを用いた研究戦略を実証している。
以上の点から、KS8(Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1- (シアル酸化type 1-type 2, 2硫酸))は、R-6Cの最少必須エピトープであり、ポドカリキシン上のケラタン硫酸オリゴ糖鎖の遠隔末端に発現していることが示唆された。
TRA-1-60は、hiPS細胞の多能性ステータスを調査するためによく用いられるマーカー抗体である。これらの抗体によって認識されるエピトープは、元々シアル酸化ケラタン硫酸として報告されていた(Badcock G.et al., Cancer Res. 59: 4715-4719, (1999))。しかし、数年前、グリカンアレイ分析(Consortium for Functional Glycomics) によって得られた結果に主に基づき、TRA-1-60のエピトープが、ムチン型O-グリカン上のGal(β1-3)GlcNAc(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(β1- (表1におけるKS4)であることが提案された(Natunen S. et al., Glycobiology. 21: 1125-1130, (2011))。最近、発明者らは、TRA-1-60が、KS4に加えて、その硫酸化アナログである、Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc (6S) (β1- (表1におけるKS5)を認識することを示した。今日、2つの異なるタイプのTRA-1-60が市販されており、1つはTRA-1-60 (R) (マウスIgM、ノイラミニダーゼ耐性エピトープ抗体)、もう1つはTRA-1-60 (S) (マウスIgM;シアリダーゼ感受性エピトープと反応する)である。ところで、TRA-1-60の結合特異性の問題は未だに十分明らかにされていない。この背景から、発明者らは、α2-3シアリルトランスフェラーゼによるTRA-1-60 (R)およびTRA-1-60 (S)上の末端Gal残基のシアル酸化の効果を調べた。図7Aに示される通り、TRA-1-60 (S)は、Gal(β1-3)GlcNAc(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(β1- (KS4)に結合特異性を示した。末端Gal残基のシアル酸化またはGlcNAc残基の硫酸化(KS5)は、TRA-1-60 (S)の結合を阻害した。このことは、TRA-1-60 (S)は、エピトープ部分の負電荷の存在に感受性があることを示唆する。一方、TRA-1-60 (R)は、以前TRA-1-60について報告された通り(Nakao H. et al., Glycoconjugate J. 34:789-795, (2017))、KS4およびKS5のみならず、シアル酸化KS4および硫酸化KS5 (即ち、KS8)にも非シアル酸化KS4に匹敵する水準で結合した。これらの結果は、これらのオリゴ糖に対するTRA-1-60 (R)の結合は、エピトープ部分中のシアル酸基または硫酸基のいずれかの負電荷の存在には感受性を示さないが、エピトープ中にシアル酸基および硫酸基が両方存在する場合は感受性になることを示唆した。
ハイブリドーマR-6Cから調製したトータル RNAを用いて、逆転写反応により、重鎖、軽鎖それぞれの可変領域を含むcDNAを増幅した。さらに該cDNAを基に増幅産物をプラスミドベクターにクローニングし、塩基配列解析を行い、得られた塩基配列結果をもとにコードされるアミノ酸配列を推定した(図8)。CDRの解析はIMGT/V-QUEST (http://www.imgt.org/IMGT_vquest/vquest)を用いて行った。その結果、重鎖および軽鎖のCDRは以下のように推定された。
重鎖 CDR 1 GFSLTSYA(配列番号:1)
CDR 2 IWTGGGP(配列番号:2)
CDR 3 ARKLDGSISNYFDY(配列番号:3)
軽鎖 CDR 1 QGISNY(配列番号:4)
CDR 2 YTS
CDR 3 QQYSKLPWT(配列番号:5)
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖を認識することによって、細胞サンプル中のヒトiPS細胞、ES細胞およびEC細胞を検出することができる。また公知の細胞分離技術と本発明の抗体を組み合わせることによって、iPS細胞またはES細胞から分化された細胞集団から、未分化細胞を分離することが可能となり、腫瘍化リスクのない安全な移植細胞を提供し、幹細胞を用いた細胞移植治療の実用化、創薬開発の進展への途を開くことが可能となる。
Claims (10)
- 下記式:
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖をエピトープとして特異的に認識するモノクローナル抗体。 - シアル酸がN-アセチルノイラミン酸である、請求項1に記載の抗体。
- (a)GFSLTSYA(配列番号:1)で示されるアミノ酸配列を含むCDR、
(b)IWTGGGP(配列番号:2)で示されるアミノ酸配列を含むCDR、
(c)ARKLDGSISNYFDY(配列番号:3)で示されるアミノ酸配列を含むCDR、
(d)QGISNY(配列番号:4)で示されるアミノ酸配列を含むCDR、
(e)YTSで示されるアミノ酸配列を含むCDR、及び
(f)QQYSKLPWT(配列番号:5)で示されるアミノ酸配列を含むCDR
を含む、請求項1または2に記載の抗体。 - (1)配列番号:7に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び
(2)配列番号:9に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む請求項3に記載の抗体。 - モノクローナル抗体のアイソタイプがIgMである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗体。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗体を含有してなる、膜貫通タンパク質上に下記式:
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖を有する細胞の検出用試薬。 - シアル酸がN-アセチルノイラミン酸である、請求項6に記載の試薬。
- 膜貫通タンパク質がポドカリキシンである、請求項6または7に記載の試薬。
- 膜貫通タンパク質上に下記式:
Sia(α2-3)Gal(β1-3)GlcNAc(6S)(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(6S)(β1-
(式中、Siaはシアル酸、Galはガラクトース、GlcNAc(6S)は6位の炭素に硫酸基が結合したN-アセチルグルコサミン、(α2-3)はα2-3結合、(β1-3)はβ1-3結合、(β1-4)はβ1-4結合、(β1-はGlcNAc(6S)の1位の炭素のβグリコシド結合を示す。)を含む糖鎖を有する細胞がiPS細胞、ES細胞またはがん細胞である、請求項6〜8のいずれか1項に記載の試薬。 - がん細胞が胎児性がん細胞である、請求項9に記載の試薬。
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