以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
(接着接合構造体の構成について)
図1は、本発明の実施形態に係る接着接合構造体の模式的な斜視図であり、図2は、図1に示す接着接合構造体の接着接合領域の部分拡大断面図であり、図3は、図1に示す接着接合構造体の接着接合領域の他の一例の部分拡大断面図である。
図1に示す接着接合構造体1は、第1の部材2と第2の部材3とを有する。第1の部材2は、いわゆるハット型の金属部材である。そして、第2の部材3は、第1の部材2のウェブ部分の内側に沿った形状を有し、ウェブ部分の内側にある接着領域5において、接着剤層4を介して第1の部材2に接合されている。
なお、本発明に係る接着接合構造体の構成の説明を容易とするために、図1においては、第1の部材2がハット型であることを前提に説明するが、後述するように当然、本発明において接着接合構造体を構成する各部材は、図示の態様の形状に限定されるものではない。また、本発明においては、接着剤層を介して接合されるいずれかの部材が金属部材であればよいが、以下の説明においては、一例として、第1の部材2及び第2の部材3が共に金属部を有する金属部材である場合について説明する。以下、接着領域5における構成について、図2及び図3を参照しつつ説明する。
<第1の部材2について>
第1の部材2は、上述したように金属部材であり、例えば図2に示したように、金属部21を有しており、かかる金属部21は、接着剤層4を介して、第2の部材3と接合されている。また、本実施形態において、第1の部材2は、例えば図3に示したように、金属部21に加えて、当該金属部21の表面の少なくとも一部に形成される皮膜部22を有していることが好ましい。
≪金属部21≫
金属部21の材質としては、例えば、鉄、チタン、アルミニウム、マグネシウム及びこれらの合金などが挙げられる。ここで、合金の例としては、例えば、鉄系合金(ステンレス鋼含む)、Ti系合金、Al系合金、Mg合金などが挙げられる。金属部21の材質は、鉄鋼材料(鋼材)、鉄系合金、チタン及びアルミニウムであることが好ましく、他の金属種に比べて引張強度が高い鉄鋼材料であることがより好ましい。そのような鉄鋼材料としては、例えば、日本工業規格(JIS)等で規格された鉄鋼材料があり、一般構造用や機械構造用として使用される炭素鋼、合金鋼、高張力鋼等を挙げることができる。このような鉄鋼材料の具体例としては、冷間圧延鋼材、熱間圧延鋼材、自動車構造用熱間圧延鋼板材、自動車加工用熱間圧延高張力鋼板材、自動車構造用冷間圧延鋼板材、自動車加工用冷間圧延高張力鋼板材、熱間加工時に焼き入れを行った一般にホットスタンプ材と呼ばれる高張力鋼材などを挙げることができる。鋼材の場合成分は特に規定するものではないが、Fe、Cに加え、Si、Mn、S、P、Al、N、Cr、Mo、Ni、Cu、Ca、Mg、Ce、Hf、La、Zr、Sbのうち1種又は2種以上を添加することができる。これら添加元素は求める材料強度及び成形性を得るために適宜1種又は2種以上を選定し、添加量も適宜調整することができる。
また、金属部21がアルミニウム合金であると部材の軽量化が達成されるため、好適である。アルミニウム合金としては、アルミニウムにSi、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn、Ti、V、Zr、Pb、Biのうち1種又は2種以上を添加したもので、例えばJIS H4000:2006に記載される1000番台系、2000番台系、3000番台系、4000番台系、5000番台系、6000番台系、7000番台系など一般に公知のものを使用することができる。強度と成形性を有する5000番台系や6000番台系などは、好適である。マグネシウム合金としては、マグネシウムにAl、Zn、Mn、Fe、Si、Cu、Ni、Ca、Zr、Li、Pb、Ag、Cr、Sn、Y、Sbその他希土類元素のうち1種又は2種以上を添加したもので、Alを添加したASTM規格に記載されているAM系、AlとZnを添加したAZ系、Znを添加したZK系など一般に公知のものを使用することができる。なお、金属部21が板状である場合、これらは成形されていてもよい。
鉄鋼材料には、任意の表面処理が施されていてもよい。ここで、表面処理とは、例えば、亜鉛系めっき及びアルミニウム系めっき、スズ系めっきなどの各種めっき処理、リン酸亜鉛処理、クロメート処理及びクロメートフリー処理などの化成処理、並びに、サンドブラストのような物理的もしくはケミカルエッチングのような化学的な表面粗化処理が挙げられるが、これらに限られるものではない。また、複数種の表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、少なくとも防錆性の付与を目的とした処理が行われていることが好ましい。
特に、鉄鋼材料の中でもめっき処理が施されためっき鋼材は、耐食性に優れることから好ましい。金属部21として特に好ましいめっき鋼材としては、亜鉛系めっき鋼板、Niめっき鋼板もしくはこれらを熱処理してNiめっき中にFeを拡散させることで合金化させた合金化Niめっき鋼板、Alめっき鋼板、スズめっき鋼板、クロムめっき鋼板等が挙げられる。
上記のような各種のめっき鋼板の中でも、亜鉛系めっき鋼板は耐食性に優れるため、金属部21として好適に利用可能である。特に、鋼板に亜鉛めっきを施した後に合金化させて亜鉛めっき中に鉄を拡散させた合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、接着剤の経時による強度低下がより抑制されるため、より好適である。
ところで、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、一部に硬い合金層(一般に、キャピタルΓ層と呼ばれる。)が存在し、接合強度の高い接着剤(例えば、構造用接着剤)を用いた場合、当該合金層が破壊し、接着強度が低下する可能性がある。しかしながら、本発明者らは、高強度の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を金属部21とすると、めっき合金層の破壊を抑制でき、第1の部材2と第2の部材3との間の接着強度を高めることが可能なことを見出した。
これは、接着接合構造体1に応力が負荷された場合で、高強度の鋼板が変形しにくいことが一因であると考えられる。すなわち、一般には、低強度の鋼板同士が接着されている場合、鋼板に引張応力、せん断応力等の応力が生じた際に、接着剤に加え、鋼板も変形する。特に接着部位の端部に変形が集中する。この結果、変形集中部のめっき合金層が破壊し、早期に剥離が生じる。これに対し、高強度鋼板を使用した場合、負荷された応力よる変形が小さいことから、接着部位の端部の変形集中が防止される。この結果、接着部位において、めっき合金層の破壊が抑制され、接着剤層全体で応力を受けることが可能となる。
従って、金属部21としては、高強度の合金化溶融亜鉛めっき鋼板、例えば引張強度が590MPa以上の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用いることが好ましく、引張強度が980MPa以上の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用いることがより好ましい。これにより、第1の部材2と第2の部材3との間の接着強度をより一層高いものとすることができる。この場合、接着接合構造体1が応力を受けた際には接着剤層4全体で応力を受けることが可能となることから、後述する本発明における接着耐久性の効果をより一層得ることが可能となる。なお、鋼板の引張強度は、JIS Z2241:2011に準じて測定することができる。
以下、溶融亜鉛めっき鋼板及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、詳細に説明する。
溶融亜鉛めっき鋼板及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板の母材である鋼板は、一般に公知の鋼板を用いることが可能である。このような鋼板として、例えば、JIS G3131に記載の熱間圧延軟鋼板及び鋼帯、JIS G3113に記載の自動車用熱間圧延鋼板及び鋼帯、JIS G3141に記載の冷間圧延鋼板及び鋼帯などを用いることができる。母材となる鋼板として、自動車用途等に用いられる高強度鋼板を用いるとより好適であり、引張強度が590MPa以上の高強度鋼板、更には、引張強度が980MPa以上の高強度鋼板を用いることがより一層好適であることは、上記の通りである。
かかる高強度鋼板は、C(炭素)を0.050質量%以上0.400質量%以下、Si(ケイ素)を0.10質量%以上2.50質量%以下、Mn(マンガン)を1.20質量%以上3.50質量%以下含有し、残部がFe(鉄)及び不純物である組成を有していることが好ましい。また、かかる高強度鋼板は、C、Si、Mnを上記の含有量で含み、更に、残部のFeの一部に換えて、P(リン):0.100質量%以下、S(硫黄):0.0100質量%以下、Al(アルミニウム):1.200質量%以下、N(窒素):0.0100質量%以下を含有していると、より好ましい。
以下では、かかる高強度鋼板を構成する鋼板の化学成分(組成)について、詳細に説明する。
[C:0.050質量%以上0.400質量%以下]
Cは、マルテンサイト、焼戻マルテンサイト、ベイナイト及び残留オーステナイト等の硬質組織を形成し、鋼板の強度を向上させるために必須の元素である。そこで、本実施形態では、引張強度を590MPa以上あるいは980MPa以上とするために、Cの含有量を0.050質量%以上とすることが好ましい。引張強度をより一層高めるため、Cの含有量は0.075質量%以上であることがより好ましい。一方、過度にCの含有量を高めると溶接性が劣化することから、Cの含有量は0.400質量%以下とすることが好ましく、0.300質量%以下とすることがより好ましい。
[Si:0.10質量%以上2.50質量%以下]
Siは、鋼板の伸びを確保して、加工性を大きく阻害することなく、強度を向上させる作用効果を有する元素である。そこで、本実施形態では、加工性と強度を十分に確保するために、Siの含有量を0.10質量%以上とすることが好ましい。加工性と強度とをより確実に確保するため、Siの含有量は、0.45質量%以上であることがより好ましい。一方、過度にSiの含有量を高めると、靭性が低下し、却って加工性が劣化することから、Siの含有量は2.50質量%以下とすることが好ましく、2.30質量%以下とすることがより好ましい。
[Mn:1.20質量%以上3.50質量%以下]
Mnは、Siと同等の作用効果を有する元素である。そこで、本実施形態では、加工性と強度を十分に確保するために、Mnの含有量を1.20質量%以上とすることが好ましい。加工性と強度とをより確実に確保するため、Mnの含有量は、1.50質量%以上とすることがより好ましい。一方、過度にMnの含有量を高めると、溶接性が劣化することから、Mnの含有量は、3.50質量%以下とすることが好ましく、3.30質量%以下とすることがより好ましい。
[P:0.100質量%以下]
Pは、鋼材を脆化させる元素であり、更に、Pの含有量が0.100質量%を超えると、鋳造したスラブが割れるなどのトラブルが起こりやすくなる。そのため、Pの含有量は、0.100質量%以下であることが好ましく、0.050質量%以下であることがより好ましい。一方、Pの含有量を0.001%未満とすることは、製造コストの大幅な増加を伴うことから、Pの含有量は、0.001%を下限値とすることが好ましい。
[S:0.0100質量%以下]
Sは、延性、曲げ性といった加工性を低下させる元素であるため、Sの含有量は、0.0100質量%以下であることが好ましい。また、Sは、溶接性を劣化させる元素でもあるため、0.0080質量%以下に制限することがより好ましい。一方、Sの含有量を0.0001%未満とすることは、製造コストの大幅な増加を伴うため、Sの含有量は、0.0001%を下限値とすることが好ましい。
[Al:1.200質量%以下]
Alは、鋼材を脆化させる元素であり、Alの含有量が1.200質量%を超えると、鋳造したスラブが割れるなどのトラブルが起こりやすくなる。そのため、Alの含有量は、1.200質量%以下であることが好ましい。また、Alの含有量が増えると溶接性が劣化するため、Alの含有量は、1.100質量%以下であることがより好ましい。一方、Alの含有量の下限は特に定めずとも本発明の効果は発揮されるが、Alは、原料中に微量に存在する不可避不純物であり、その含有量を0.001%未満とするには製造コストの大幅な増加が伴う。そのため、Al含有量は、0.001質量%を下限値とすることが好ましい。
[N:0.0100質量%以下]
Nは、粗大な窒化物を形成し、延性、曲げ性といった加工性を劣化させる元素である。Nの含有量が0.0100%を超えると、加工性の劣化が顕著となることから、N含有量は、0.0100%以下とすることが好ましい。また、Nの含有量が過剰となると、溶接時のブローホール発生の原因になることから、含有量は少ない方がよい。これらの観点から、N含有量は、0.0090質量%以下とすることがより好ましい。一方、Nの含有量の下限は、特に定めなくても本発明の効果は発揮されるが、Nの含有量を0.0005質量%未満にすることは、製造コストの大幅な増加を招く。このことから、N含有量の下限は0.0005質量%以上とすることが好ましい。
本実施形態で用いることが好ましい高強度鋼板は、上記に加え、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて他の元素を含有していてもよい。
例えば、鋼板の強度をより一層高めるために、残部のFeの一部に換えて、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、Ni(ニッケル)、又は、Cu(銅)の少なくとも何れかを、合計で1.20質量%を上限として、含有してもよい。
また、鋼板の強度をより一層高めるために、残部のFeの一部に換えて、Nb(ニオブ)、Ti(チタン)、又は、V(バナジウム)の少なくとも何れかを、合計で0.200質量%を上限として、含有してもよい。
更に、B(ホウ素)は、高強度化に有効な元素であるため、残部のFeの一部に換えて、0.0075質量%を上限として、含有してもよい。
また、鋼板の成形性を高めるため、残部のFeの一部に換えて、Ca(カルシウム)、Mg(マグネシウム)、Ce(セリウム)、Hf(ハフニウム)、La(ランタン)、Zr(ジルコニウム)、Sb(アンチモン)、又は、REM(希土類元素)の少なくとも何れかを、合計で0.1000質量%を上限として、含有してもよい。
本実施形態において用いることが好ましい高強度鋼板における化学成分において、以上説明した各元素の残部は、Fe及び不純物である。
なお、前述のCr、Mo、Ni、Cu、Nb、Ti、V、B、Ca、Mg、Ce、Hf、La、Zr、Sb及びREMについては、いずれも前記下限値未満の微量を不純物として含有していることは許容される。
かかる高強度鋼板は、前述のように、亜鉛系めっきが施されていると耐食性に優れるためより好適である。このような亜鉛系めっき鋼板として、例えば、JIS G3313に記載の電気亜鉛めっき鋼板、JIS G3302に記載の溶融亜鉛めっき鋼板等を挙げることができる。
電気亜鉛めっき鋼板の場合は、亜鉛のみをめっきしたもの(一般にEGと呼ばれる)でも良いし、亜鉛−ニッケル電気めっき鋼板を用いても良い。また、溶融亜鉛めっき鋼板は、亜鉛めっき層にAl0.2%含有する一般にGIと呼ばれるものを用いても良いし、亜鉛めっき層中にAl:1〜10%を含む一般にZn−Al合金めっき鋼板と呼ばれる鋼板を用いても良い。更に、亜鉛めっき層中にAl:1〜10%、Mg:1〜15%含む一般にZn−Al−Mg合金めっき鋼板と呼ばれる鋼板を用いても良い。
かかる亜鉛めっき層が、Fe:7〜15質量%、Al:0.05〜0.5質量%を含有し、残部がZn及び不純物からなる合金化溶融亜鉛めっき層であると、接着剤接合強度が経時で低下しにくく、より好適である。本実施形態において、合金化溶融亜鉛めっき層とは、合金化反応によってZnめっき中に鋼中のFeが拡散しできたFe−Zn合金を主体としためっき層のことである。Feの含有率は特に限定しないが、めっき中のFeの含有量が7質量%未満では、めっき表面に柔らかいZn−Fe合金が形成されプレス成形性を劣化させ、Feの含有量が15質量%を超えると、地鉄界面に脆い合金層が発達し過ぎてめっき密着性が劣化する。そのため、Feの含有量は、7〜15質量%が適切である。また、一般に連続的に溶融亜鉛めっきを施す際、めっき浴中での合金化反応を制御する目的でめっき浴にAlを添加するため、めっき中には0.05〜0.5質量%のAlが含まれる。また、合金化の過程では、Feの拡散と同時に鋼中に添加した元素も拡散するため、めっき中にはこれらの元素も含まれる。
以下に、上記のような溶融亜鉛めっき鋼板を得るための製造方法の一例を示す。ただし、上記のような高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、以下に例示する製造方法以外の方法を用いて製造してもよく、以下に説明する各条件は好適なものを挙げたにすぎず、一例に過ぎない。
かかる亜鉛系めっき鋼板に用いられる、母材となる鋼板は、鋳片を熱間圧延することで製造されたり、熱感圧延後に冷間圧延し、その後、必要に応じて焼鈍することによって製造されたりする。かかる焼鈍が、連続焼鈍工程を行うことによってなされると、より好適である。更には、かかる鋼板を連続電気めっきラインにて電気めっきすることができる。溶融亜鉛めっき鋼板の場合は、かかる熱延鋼板もしくは冷延鋼板を連続めっきラインで加熱したのちに、還元雰囲気(水素を1〜5%含む窒素ガス雰囲気)にて加熱した状態(一般に、還元炉と呼ばれる。)で保定して鋼板表面の酸化物を還元させて(一般に、酸化還元法と呼ばれる。)、冷却させた後に溶融亜鉛系めっき浴に浸漬し、引き上げてガスワイピングでめっき付着量を調整することで製造される。ワイピングガスは、エアーや窒素ガスなど一般的なものを用いることができるが、窒素ガスであるとめっき層の酸化を抑制できるため、より好適である。合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合は、かかる工程のガスワイピングでめっき付着量を調整した後に、合金化炉で400〜500℃に加熱して合金化処理を施すことで製造される。
≪皮膜部22≫
上述したように、第1の部材2の表面の少なくとも一部は、皮膜部22を有していることが好ましい。すなわち、金属部21の表面の少なくとも一部に、皮膜部22が形成されていることが好ましい。皮膜部22が形成されている場合、かかる皮膜部22は、少なくともその一部が接着剤層4と接し、結果、第1の部材2は、皮膜部22を介して接着剤層4により第2の部材3と接着する。かかる皮膜部22は、Si元素を含み、かつ、水系ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂のうち1種以上を含む有機皮膜部である。以下、本実施形態に係る接着接合構造体1が有していると好ましい皮膜部22の構成について、詳細に説明する。
本実施形態に係る皮膜部22は、上記のように、Si元素を含み、かつ、水系ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂のうち1種以上を含む。より具体的には、図3に模式的に示したように、皮膜部22において、上記水系ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂の少なくとも何れかは、主に樹脂粒子221として存在しており、Si元素を含む化合物相223中に、かかる樹脂粒子221が分散した構造を有している。かかる化合物相223は、各種のシラン化合物に由来するSi元素を含む化合物相であることが好ましく、有機シラン化合物に由来するSi元素を含む化合物相であることがより好ましい。
皮膜部22中に、Si元素を含む化合物相223が存在することで、金属部21を構成する元素との間で、Si−O−Me結合という一次結合が形成される。ここで、Meは、金属部21の主成分である金属元素(換言すれば、含有量が、金属部21の全質量に対して50質量%以上である金属元素)を示す。例えば、金属部21が鉄鋼材料である場合、上記Meは、Feであり、金属部21がアルミニウム材料である場合、上記Meは、Alである。このような一次結合が形成されることで、金属部21と皮膜部22との間の接合状態はより強固なものとなり、金属部21と皮膜部22との間の密着性が更に向上する。その結果、水が外部より金属部21と皮膜部22との間の界面に浸入しにくい状態が、より確実に実現される。これにより、本実施形態に係る接着接合構造体1において、金属部21と皮膜部22との間の接着耐久性を、更に向上させることができる。
また、皮膜部22において、樹脂粒子221は、化合物相223中に分散しているが、かかる樹脂粒子221は、水系ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、又は、ポリエステル樹脂の少なくとも何れかを含有している。これらの樹脂のうちエポキシ樹脂は、以下で詳述するように、本実施形態に係る接着接合構造体1の接着剤層4を構成するフェノキシ樹脂と、化学的構造が類似した樹脂である。また、水系ポリウレタン樹脂、及び、ポリエステル樹脂は、エポキシ樹脂と親和性の高い樹脂であり、本実施形態に係る接着接合構造体1の接着剤層4を構成するフェノキシ樹脂とも、親和性が高い。そのため、皮膜部22が上記のような樹脂で構成される樹脂粒子221を含むことで、皮膜部22と、接着剤層4との間の界面における密着性が向上する。その結果、水が外部より皮膜部22と接着剤層4との間の界面に浸入しにくい状態が、より確実に実現される。これにより、本実施形態に係る接着接合構造体1において、皮膜部22と接着剤層4との間の接着耐久性を、更に向上させることができる。
以上説明したように、皮膜部22が、Si元素を含有する化合物相と、特定の樹脂からなる有機樹脂相とから構成されることで、皮膜部22における2つの界面(皮膜部22−金属部10界面、皮膜部22−接着剤層4界面)における密着性が更に向上し、接着接合構造体1の接着耐久性をより向上させることができる。
ここで、上記のような樹脂粒子221は、水系ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂のうち1種以上で構成されているものであれば、具体的な化学構造は特に限定されるものではない。例えば、エポキシ樹脂及びポリエステル樹脂は、水に溶解又は分散する水溶性又は水分散性の水系樹脂、及び、有機溶剤に溶解又は分散する溶剤系樹脂の何れであってもよいが、製造コスト及び環境適性の点から、水系樹脂であることが好ましい。また、水系ポリウレタン樹脂は、水に溶解又は分散する水溶性又は水分散性の水系樹脂であれば、具体的な化学構造は、特に限定されるものではない。
かかる水系樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、これら2種以上の樹脂の混合樹脂等の水溶性又は水分散性の樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂を用いる場合には、分子量は10000〜30000であることが好ましい。分子量が10000未満であると十分な加工性を確保するのが困難になることがある。一方、分子量が30000を超えると樹脂自体の結合サイトが低下し、接着剤層4と優れた密着性を確保するのが困難になることがある。また、メラミン等の硬化剤を使用して架橋させる場合、架橋反応が十分に行われず、皮膜部22としての性能が低下することがある。ウレタン樹脂を用いる場合には、ポリウレタン樹脂の形態は、エマルション粒子径が10〜100nm(好ましくは20〜60nm)のエマルションであることが好ましい。エマルション粒子径が過度に小さいものは、コスト高になることがある。一方、エマルション粒子径が過度に大きいものは、塗膜化した際にエマルション同士の隙間が大きくなるため、皮膜部22としてのバリア性が低下することがある。ポリウレタン樹脂のタイプとしては、エーテル系、ポリカーボネイト系、エステル系、アクリルグラファイトタイプ等が挙げられる。これらは、単独で用いても、または、併用してもよい。
一方、溶剤系樹脂としては、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、これら2種以上の樹脂の混合樹脂等が挙げられる。
ここで、皮膜部22に含まれる樹脂は、架橋構造を有する架橋樹脂であってもよいし、架橋構造を有さない非架橋樹脂であってもよいが、皮膜部22の低温製膜の点から、非架橋樹脂であることが好ましい。樹脂に架橋構造を付与する架橋剤(硬化剤)としては、水溶性の架橋剤が好ましい。架橋剤として具体的には、メラミン、イソシアネート、シラン化合物、ジルコニウム化合物、チタン化合物等が好ましい。
架橋剤の添加量は、樹脂固形分100質量部に対して5質量部〜30質量部が好ましい。架橋剤の添加量が5質量部未満だと、樹脂との架橋反応が低下し、塗膜としての性能が不十分となることがある。一方、架橋剤の添加量が30質量部より多くなると、架橋反応が進みすぎて、皮膜部22が過度に硬くなり、加工性が低下することに加え、シラン化合物、ジルコニウム化合物、チタン化合物では、更に塗料安定性が低下することがある。
樹脂粒子221の粒子形状は、特に限定されず、例えば、球状、擬球状(例えば楕円球体状、鶏卵状、ラグビーボール状等)、または、多面体状(例えばサッカーボール状、サイコロ状、各種宝石のブリリアントカット形状等)のような、球に近い形状や、細長い形状(例えば棒状、針状、繊維状等)、または、平面形状(例えばフレーク状、平板状、薄片状等)であることができる。
本実施形態に係る皮膜部22において、上記樹脂粒子221の平均粒径は、例えば、20nm以上であることが好ましい。樹脂粒子221の平均粒径が20nm以上となることで、上記のような接着剤層4との間の親和性をより確実に向上させることができる。樹脂粒子221の平均粒径は、より好ましくは、30nm以上であり、更に好ましくは、50nm以上である。一方、樹脂粒子221の平均粒径が200nm未満となることで、より緻密な樹脂バリア層を形成すことが可能となり、皮膜部22と接着剤層4との間の密着性をより向上させることができる。樹脂粒子221の平均粒径は、より好ましくは、180nm以下であり、更に好ましくは、150nm以下である。
ここで、樹脂粒子221の「平均粒径」とは、皮膜部22中に存在する樹脂粒子221が単独で存在する場合は、平均1次粒径を指し、樹脂粒子221同士が凝集して存在する場合は、凝集時の樹脂粒子の粒径を表す平均2次粒径を意味する。樹脂粒子221の平均粒径は、次の計測方法で求めることが好ましい。
まず、接着接合構造体1の皮膜部22が配置された部位を切断することにより、その断面を露出させ、その断面を更に研摩し、第1の部材2の皮膜部22の厚さ方向における断面試料を得る。次いで、断面試料の皮膜部22の部分を、走査型電子顕微鏡で観察し、皮膜部22の断面の観察像を得る。その観察像の視野に存在する樹脂粒子221から数個を任意に選び出し、それぞれの樹脂粒子221の長辺長さ及び短辺長さを測定する。最後に、長辺長さの平均値及び短辺長さの平均値を算出し、更に、長辺長さの平均値及び短辺長さの平均値を平均することにより、平均粒径を算出する。
なお、平均粒径の数値は、計測方法によって若干変動する。例えば、粒度分布計を用いる場合には測定原理によって、画像解析の場合には画像処理方法によって変動しうる。しかしながら、本明細書において規定される樹脂粒子の粒径の範囲は、こうした変動を考慮したものである。いずれの方法によって得られた平均粒径であっても、本明細書に規定される範囲であれば、上記の効果を安定的に得ることができる。
ここで、本実施形態に係る皮膜部22が、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂の少なくとも何れかを有しているか否かについては、以下の方法で判定することが可能である。
まず、接着接合構造体1の皮膜部22が配置された部位を斜め切削により切削することにより、その断面を露出させ、その断面を更に研摩し、第1の部材2の皮膜部22の厚さ方向における断面試料を得る。次いで、断面試料の皮膜部22の部分を、顕微IR分光装置により分析し、得られた皮膜部22の赤外吸収スペクトルに、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂に由来する振動ピークが観測されているか否かに基づき、判定することが可能である。具体的には、得られた赤外吸収スペクトルにおいて、1550cm−1付近のC−N基に帰属されるピーク、及び、1740cm−1付近のC=O基に帰属されるピークが観測された場合に、水系ポリウレタン樹脂を含むと判定し、830cm−1付近のエポキシ基に帰属されるピークが観測された場合に、エポキシ樹脂を含むと判定し、1720〜1740cm−1付近のC=O基に帰属されるピークが観測された場合に、ポリエステル樹脂を含むと判定することが可能である。なお、皮膜部22を十分拡大することができれば、斜め切削における切削角度は、任意の角度で良い。
また、本実施形態に係る皮膜部22の厚み方向に沿った断面(例えば、図3に示したような断面)において、樹脂粒子221が、皮膜部22の断面積の20%以上を占めることが好ましい。すなわち、上記断面において、樹脂粒子221の面積率が、皮膜部22の断面積に対して、20%以上であることが好ましい。樹脂粒子221の面積率が20%以上となることで、上記のような接着剤層4との間の親和性をより確実に向上させることが可能となる。皮膜部22の断面における樹脂粒子221の面積率は、より好ましくは、30%以上であり、更に好ましくは、40%以上である。一方、断面における樹脂粒子221の面積率が80%未満となることで、皮膜部22と金属部21との間の密着性を確実に保持しつつ、皮膜部22と接着剤層4との間の親和性をより向上させることができる。皮膜部22の断面における樹脂粒子221の面積率は、より好ましくは、70%以下であり、更に好ましくは、60%以下である。
皮膜部22の断面における樹脂粒子221の面積率、及び、皮膜部22がSi元素を有しているか否かは、次の計測方法で特定することが好ましい。まず、接着接合構造体1の皮膜部22が配置された部位を切断することにより、その断面を露出させ、その断面を更に研摩し、第1の部材2の皮膜部22の厚さ方向における断面試料を得る。次いで、断面試料の皮膜部22の部分を、FIB−マイクロサンプリング法及びクライオFIB−マイクロサンプリング法によりTEM観察用薄膜試料を作成し、微小領域の分析が可能なFE−TEMを用いて、得られたTEM観察用薄膜試料を観察する。金属部と接着剤層との間の界面付近の任意の3箇所について、EDS分析(元素マッピング)を行って、C、O、Siの各元素マップを得る。その後、得られた元素マップについて、Cとそれ以外の元素について二値化して、皮膜部における樹脂粒子の平均粒径、及び、面積率を算出する。
また、本実施形態に係る化合物相223は、Si元素を含有するシラン化合物で構成されていれば、特に限定されるものではなく、一般的なコロイダルシリカ等の無機シラン化合物を用いることも可能であるが、例えば、グリシドキシ基又はメルカプト基を有するシラン化合物のような有機シラン化合物を用いることが好ましい。シラン化合物として、グリシドキシ基又はメルカプト基を有する有機シラン化合物を用いることで、以下で詳述するようなSi−O−Me結合の形成状態をより確実、かつ、より好ましい状態で実現することが可能となり、より確実に長期にわたる接着耐久性を実現することが可能となる。なお、有機シラン化合物には、グリシドキシ基又はメルカプト基を有する有機シラン化合物以外にも、例えばアミノ基、ビニル基、メタクリル基等を有する有機シラン化合物も存在しうるが、本発明者らによる検証の結果、アミノ基、ビニル基、メタクリル基等を有する有機シラン化合物を用いた場合、金属部21と皮膜部22との界面における反応よりも、皮膜部22の内部におけるシラン化合物と有機樹脂相を構成する樹脂との反応がより促進されてしまい、長期にわたる接着耐久性が得られにくいことが明らかとなった。従って、水などの電解液の浸入を防止することで長期にわたる接着耐久性を実現するという観点からは、グリシドキシ基又はメルカプト基を有する有機シラン化合物を用いることが好ましい。なお、グリシドキシ基又はメルカプト基を有する有機シラン化合物としては、条件に合致する市販のものを使用してもよいし、自身で合成したものを使用してもよい。
ここで、本実施形態に係る皮膜部22において、金属部21と皮膜部22との界面の任意の箇所を含むように皮膜部22を接着剤層4側から金属部21側に向かってアルゴンスパッタリングしながら、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)により分析したときに、以下のような分析結果が得られることが好ましい。すなわち、TOF−SIMSの分析結果において、Si−O−Me結合(Me:金属部21を構成する金属元素)に対応するピークが観測され、かつ、Si−O−Me結合を示すカウント値が15以上であることが好ましい。
ここで、Si−O−Me結合に対応するピークは、元素Meの具体的な種類に応じて、かかる元素Me毎に特徴的な位置に観測される。例えば、Me=Feの場合、Si−O−Fe結合に対応する代表的なピークは、TOF−SIMSの分析結果において、質量100±0.1の位置に観測されるピークであり、Me=Znの場合、Si−O−Zn結合に対応する代表的なピークは、TOF−SIMSの分析結果において、質量108±0.1の位置に観測されるピークであり、Me=Alの場合、Si−O−Al結合に対応する代表的なピークは、TOF−SIMSの分析結果において、質量71±0.1の位置に観測されるピークである。
かかる分析結果は、金属部21と皮膜部22との間の界面においてSi−O−Me結合の生成反応が効率的に進行して、金属部21と皮膜部22との間の界面に、一定量以上のSi−O−Me結合が生成されていることを示している。一定量以上のSi−O−Me結合が金属部21と皮膜部22との間の界面に生成されることにより、接着接合構造体1が湿潤環境に曝された場合であっても、水が金属部21と皮膜部22との間の界面に浸入してくるのを防止することができ、より長期にわたる接着耐久性が保持される。
上記のようなSi−O−Me結合を示すカウント値は、より好ましくは20以上であり、更に好ましくは30である。
なお、上記のような金属部21と皮膜部22との間の界面におけるSi−O−Me結合に対応するピークのカウント数は、以下のようにして測定することが可能である。まず、金属部21と皮膜部22との接着接合部を、接着剤層4の側から金属部21の側に向けて、斜め切削装置(SAICAS)で5度の傾斜をつけて切削するとともに、Arスパッタリングを併用することより、接着剤層の厚みを1μm程度まで薄くしたサンプルを作製する。接着剤層の厚みを1μm程度まで薄くした部分を、接着剤層の側から金属部の側に向かって、アルゴンスパッタリングをしながらTOF−SIMSで分析する。表面からArビームで一定深さまでスパッタリングした後にTOF−SIMS測定し、その後同様に、スパッタリングを行った後にTOF−SIMS測定を行うことを繰り返し、各種元素及び結合について、深さ方向分布を取得する。一次イオン種は、Au3 +とし、加速電圧は30kVとし、スパッタ速度は約80nm/min(SiO2換算)とし、測定領域は50μm×50μmとする。
各イオンには、特定の質量数が存在するため、上記のTOF−SIMS測定では、目的のSi−O−Me結合の理論的質量数の深さ方向プロファイルを測定する。Si−O−Me結合に対応する質量の深さ方向プロファイルとともに、金属部の主成分であるMeイオン、及び、樹脂の主成分であるCイオンについてのそれぞれの深さ方向プロファイルから、Meイオンのカウント値の立ち上がり部分、かつ、Cイオンのカウント値の立ち下がり部分となる部位から、Cイオンのカウント数がほぼ一定となるまでの部位を界面部と見なし、かかる界面部におけるSi−O−Me結合に対応するカウント値を測定する。
なお、上記のような樹脂粒子221の面積率、及び、TOF−SIMSにおけるSi−O−Me結合のカウント値は、本実施形態に係る皮膜部22を形成する際において、有機樹脂相の原料となる素材、並びに、化合物相の原料となる素材の選択及び含有量をそれぞれ適切に調整することで、所望の範囲内とすることができる。
≪その他の成分≫
皮膜部22は、上記の成分以外に、その他添加剤を含んでいてもよい。その他添加剤としては、例えば、酸化物粒子、体質顔料、固体潤滑剤、防錆剤、レベリング剤、粘性付与剤、顔料沈降防止剤、消泡剤等の周知の添加剤が挙げられる。
≪皮膜部22の平均厚み≫
本実施形態において、以上説明したような皮膜部22の平均厚みは、第1の部材2の片面あたり(換言すれば、金属部21の片面あたり)、0.2μm以上であることが好ましい。皮膜部22の片面あたりの平均厚みを0.2μm以上とすることで、皮膜部22を設けることによる上記のような効果を、より確実に発現させることが可能となる。皮膜部22の片面あたりの平均厚みは、より好ましくは、0.4μm以上であり、更に好ましくは、0.5μm以上である。一方、皮膜部22の片面あたりの平均厚みを1.5μm以下とすることで、皮膜部22を介した金属部21への導電性を担保することが可能となり、例えば、皮膜部22を介して金属部21に対して電着塗装を行ったり、皮膜部22を介して金属部21にスポット溶接を行ったりすることが可能となる。皮膜部22の片面あたりの平均厚みは、より好ましくは、1.2μm以下であり、更に好ましくは、1.0μm以下である。
なお、皮膜部22の平均厚みは、以下のようにして測定することができる。まず、接着接合構造体1の皮膜部22が配置された部位を切断することにより、その断面を露出させ、その断面を更に研摩し、第1の部材2の皮膜部22の厚み方向における断面試料を得る。次いで、断面試料の皮膜部22部分を、走査型電子顕微鏡で観察し、皮膜部22の断面の観察像を得る。その観察像の視野に存在する皮膜部22について、厚みを測定し、その平均値を算出して、皮膜部22の平均厚みとする。
なお、以上説明した第1の部材2の接着剤層4と接しない部位において、公知の化成処理皮膜が形成されていてもよい。
<第2の部材3について>
本実施形態において、第2の部材3は、上述したように金属部材であり、金属部31を有している。また、第2の部材3は、金属部31に加えて、当該金属部31の表面の少なくとも一部に形成される皮膜部32を有していることが好ましい。
金属部31及び皮膜部32の構成は、それぞれ第1の部材2における金属部21及び皮膜部22の構成と同様であることができ、第1の部材2における金属部21及び皮膜部22と同様の効果を奏することができるため、以下では詳細な説明を省略する。
<接着剤層4について>
接着剤層4は、接着領域5において、第1の部材2と第2の部材3との間に配置され、第1の部材2と第2の部材3とを接着する。
接着剤層4は、主として接着剤により構成されており、かかる接着剤を構成する樹脂は、フェノキシ樹脂となっている。フェノキシ樹脂は、エポキシ樹脂と分子構造が酷似しているため、エポキシ樹脂と同程度の耐熱性を有し、また、金属部21との接着性が良好となる。
また、熱可塑性樹脂の中でもフェノキシ樹脂は、良成形性を備え、金属部21との接着性に優れる他、酸無水物やイソシアネート化合物、カプロラクタム等を架橋剤として使用することで、成形後に高耐熱性の熱硬化性樹脂と同様の性質を持たせることもできる。よって、本実施形態では、接着剤層4を構成する接着剤の樹脂成分として、樹脂成分100質量部に対してフェノキシ樹脂を50質量部以上含む樹脂組成物を用いる。このような樹脂組成物を使用することによって、金属部21を強固に接合することが可能になる。樹脂組成物は、樹脂成分100質量部のうちフェノキシ樹脂を55質量部以上含むことがより好ましい。接着樹脂組成物の形態は、例えば、粉体、ワニスなどの液体、フィルムなどの固体とすることができる。
なお、フェノキシ樹脂の含有量は、以下のように、赤外分光法(IR:InfraRed spectroscopy)を用いて測定可能であり、赤外分光法で対象とする樹脂組成物からフェノキシ樹脂の含有割合を分析する場合、透過法やATR反射法など、赤外分光分析の一般的な方法を使うことで、測定することができる。
鋭利な刃物等で樹脂組成物の固化物又は硬化物を削り出し、対象となる樹脂組成物をサンプリングする。透過法の場合は、KBr粉末と分析対象となる樹脂組成物の粉末とを乳鉢などで均一に混合しながら潰すことで薄膜を作製して、試料とする。ATR反射法の場合は、透過法同様に粉末を乳鉢で均一に混合しながら潰すことで錠剤を作製して、試料を作製しても良いし、単結晶KBr錠剤(例えば直径2mm×厚み1.8mm)の表面にヤスリなどで傷をつけ、分析対象となる樹脂組成物の粉末をまぶして付着させて試料としても良い。いずれの方法においても、分析対象となる樹脂と混合する前のKBr単体におけるバックグラウンドを測定しておくことが重要である。IR測定装置は、市販されている一般的なものを用いることができるが、精度としては吸収(Absorbance)は1%単位で、波数(Wavenumber)は1cm−1単位で区別が出来る分析精度をもつ装置が好ましく、例えば、日本分光株式会社製のFT/IR−6300などが挙げられる。
フェノキシ樹脂の含有量を調査する場合、フェノキシ樹脂の吸収ピークは、例えば1450〜1480cm−1、1500cm−1近傍、1600cm−1近傍などに存在する。そのため、予め作成しておいた、上記吸収ピークの強度とフェノキシ樹脂の含有量との関係を示した検量線と、測定された吸収ピークの強度と、に基づいて、フェノキシ樹脂の含有量を計算することが可能である。
ここで、「フェノキシ樹脂」とは、2価フェノール化合物とエピハロヒドリンとの縮合反応、又は2価フェノール化合物と2官能エポキシ樹脂との重付加反応から得られる線形の高分子であり、非晶質の熱可塑性樹脂である。フェノキシ樹脂は、溶液中又は無溶媒下で従来公知の方法で得ることができ、粉体、ワニス及びフィルムのいずれの形態でも使用することができる。フェノキシ樹脂の平均分子量は、質量平均分子量(Mw)として、例えば、10000以上200000以下の範囲内であるが、好ましくは20000以上100000以下の範囲内であり、より好ましくは30000以上80000以下の範囲内である。フェノキシ樹脂のMwを10000以上の範囲内とすることで、成形体の強度を高めることができ、この効果は、Mwを20000以上、更には30000以上とすることで、更に高まる。一方、フェノキシ樹脂のMwを200000以下とすることで、作業性や加工性に優れるものとすることができ、この効果は、Mwを100000以下、更には80000以下とすることで、更に高まる。なお、本明細書におけるMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値とする。
本実施形態で用いるフェノキシ樹脂の水酸基当量(g/eq)は、例えば、50以上1000以下の範囲内であるが、好ましくは50以上750以下の範囲内であり、より好ましくは50以上500以下の範囲内である。フェノキシ樹脂の水酸基当量を50以上とすることで、水酸基が減ることで吸水率が下がるため、硬化物の機械物性を向上させることができる。一方、フェノキシ樹脂の水酸基当量を1,000以下とすることで、水酸基が少なくなるのを抑制できるので、被着体との親和性を向上させ、接着接合構造体1の機械物性を向上させることができる。この効果は、水酸基当量を750以下、更には500以下とすることで、更に高まる。
また、フェノキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば、65℃以上150℃以下の範囲内のものが適するが、好ましくは70℃以上150℃以下の範囲内である。Tgが65℃以上であると、成形性を確保しつつ、樹脂の流動性が大きくなりすぎることを抑制できるため、接着剤層4の厚みを十分に確保できる。一方、Tgが150℃以下であると、溶融粘度が低くなるため、より低温の接合プロセスとすることができる。なお、本明細書における樹脂のTgは、示差走査熱量測定装置を用い、10℃/分の昇温条件で、20〜280℃の範囲内の温度で測定し、セカンドスキャンのピーク値より計算された数値である。
フェノキシ樹脂は、上記のようなガラス転移温度Tgを有しているため、フェノキシ樹脂による接着剤層4を設けることで接着接合構造体1を製造した場合に、かかる接着接合構造体1をガラス転移温度Tg以上(例えば、200℃以上)に加熱することで、容易に、第1の部材2と、第2の部材3とに解体することができる。そのため、第1の部材2と、第2の部材3とをリサイクルすることが可能となり、好適である。
フェノキシ樹脂としては、上記の物性を満足するものであれば特に限定されないが、好ましいものとして、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製フェノトートYP−50、フェノトートYP−50S、フェノトートYP−55Uとして入手可能)、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製フェノトートFX−316として入手可能)、ビスフェノールAとビスフェノールFの共重合型フェノキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製YP−70として入手可能)、上記に挙げたフェノキシ樹脂以外の臭素化フェノキシ樹脂やリン含有フェノキシ樹脂、スルホン基含有フェノキシ樹脂などの特殊フェノキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製フェノトートYPB−43C、フェノトートFX293、YPS−007等として入手可能)などを挙げることができる。これらの樹脂は、1種を単独で、又は2種以上を混合して使用できる。
以上、本発明の一実施形態に係る接着接合構造体1について詳細に説明した。本実施形態によれば、フェノキシ樹脂を用いた接着剤層4を設け、金属部21と接着剤層4との間で強固な結合を形成させることで、第1の部材2と接着剤層4との界面、及び、第2の部材3と接着剤層4との界面への水の浸入が抑制され、更にこの結果、接着剤層4の劣化、第1の部材2、第2の部材3の腐食が抑制される。また、金属部21と接着剤層4との間に、Si元素を含有し、かつ、水系ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂の少なくとも何れかを含む皮膜部を更に設けることで、第1の部材2と接着剤層4との界面、及び、第2の部材3と接着剤層4との界面への水の浸入がより一層抑制され、更にこの結果、接着剤層4の劣化、第1の部材2、第2の部材3の腐食がより一層抑制される。このため、接着接合構造体1は、接着強度の低下が抑制されている。すなわち、接着接合構造体1は、接着耐久性に優れたものとなる。
(変形例について)
以上、本発明の一実施形態を説明した。以下では、本発明の上記実施形態の幾つかの変形例を説明する。なお、以下に説明する各変形例は、単独で本発明の上記実施形態に適用されてもよいし、組み合わせで本発明の上記実施形態に適用されてもよい。また、各変形例は、本発明の上記実施形態で説明した構成に代えて適用されてもよいし、本発明の上記実施形態で説明した構成に対して追加的に適用されてもよい。以下、上述した実施形態と各変形例の差異点を中心に説明し、同様の事項については説明を適宜省略する。
例えば、上記では、第2の部材3が皮膜部32を有するものとして説明したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、第2の部材は、上述した皮膜部32を有していなくてもよい。図4は、本発明の一変形例に係る接着接合構造体の接着領域を説明する部分拡大断面図である。
図4に示す接着接合構造体1Aは、第1の部材2Aと第2の部材3Aとを有し、接着剤層4Aにより、これら第1の部材2Aと第2の部材3Aとが接着されている。第1の部材2Aは、金属部21Aと、金属部21Aの表面に形成された皮膜部22Aとを有している。そして、皮膜部22Aは、樹脂粒子221と、化合物相223とを有している。
第2の部材3Aは、接着剤層4Aを介して第1の部材2Aに接着された部材である。そして、第2の部材3Aは、上述した実施形態とは異なり、皮膜部32を有していない。この場合において、第2の部材3Aは、任意の材料により構成することができる。
例えば、第2の部材3Aに用いることのできる材料としては、上述した金属部21の材料に加え、樹脂材料、強化繊維をマトリクス樹脂に含有させて複合化した繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)や、セラミックス材料等が挙げられる。また、繊維強化プラスチック中に用いられる強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。
上記の場合においても、接着接合構造体1Aは、皮膜部22Aを有することにより、皮膜部22Aを有さない接着接合構造体と比較して、接着耐久性が優れている。
また、本発明に係る接着接合構造体の形状は、上述した実施形態のものに限定されない。本発明に係る接着接合構造体を構成する第1の部材及び第2の部材の形状は任意のものとすることができ、また、第1の部材と第2の部材の接着部位も任意の部位を選択することができる。更に、本発明に係る接着接合構造体は、第1の部材および第2の部材以外の他の部材を有していてもよい。図5、図6は、本発明の他の変形例に係る接着接合構造体の模式的な斜視図であり、図7は、本発明の他の変形例に係る接着接合構造体の接着状態を説明する模式図である。
図5に示す接着接合構造体1Bは、ハット型の第1の部材2Bと、平板状の第2の部材3Bとを有し、第1の部材2Bのフランジ部にある接着領域5Bにおいて、接着剤層4を介して第2の部材3Bとが接着されている。図6に示す接着接合構造体1Cは、ハット型の第1の部材2C及びハット型の第2の部材3Cを有し、これらがそれぞれのフランジ部が互いに対向するように配置されている。そして、第1の部材2C及び第2の部材3Cの対向するフランジ部は、接着剤層4Cを介して接着され、接着領域5Cを形成している。更に、図7に示す接着接合構造体1Dは、第1の部材2Dの板状部分の端部を、第2の部材3Dがヘム折りにより覆うことで、ヘム部を形成している。そして、ヘム部において、第1の部材2Dと第2の部材3Dとは、接着剤層4Dを介して接着されている。
図5〜図7に示すいずれの変形例においても、第1の部材2B〜2Dの接着剤層4B〜4Dと接する表面に、樹脂粒子221と化合物相223とを含む皮膜部が形成されている。これにより、接着接合構造体1B〜1Dも、接着耐久性に優れている。
なお、以上の説明においては、第1の部材が金属部を有するものとして説明したが、上記第1の部材に代えて第2の部材が金属部を有してもよい。本発明の接着接合構造体の形状が限定されない以上、このような場合においても、接着接合構造体の接着耐久性が優れていることは明らかである。
さらに、上述した実施形態では、接着剤層4のみにより第1の部材2と第2の部材3とが接着されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、接着剤層による接着接合と他の接合方法とを組み合わせることができる。
接着接合と組み合わせることのできる接合方法としては、特に限定されず、任意の接合方法を採用することができる。このような接合方法として、具体的には、溶融接合、非溶融接合、機械接合等が挙げられる。
溶融接合としては、例えば、スポット溶接、アーク溶接、レーザー溶接等を用いることができる。溶融接合は、第1の部材及び第2の部材が金属部を有する場合に適用することができる。なお、溶融接合は、接着剤層を除去して行ってもよいが、接着剤層が導電性を有する場合、接着剤層を除去せずに行うことができる。
非溶融接合としては、例えば、摩擦撹拌接合、拡散接合、圧接等が挙げられる。機械接合としては、例えばリベット接合や螺子による接合が挙げられる。
(用途について)
次に、本発明に係る接着接合構造体の用途について説明する。本発明に係る接着接合構造体の用途は、特に限定されず、任意の機械、建築物、構造物等の部材として用いることができる。特に、本発明に係る接着接合構造体は、耐水接着性に優れているとともに、接着剤を使用していることから比較的軽量である。従って、本発明に係る接着接合構造体は、水と接触する環境下に置かれやすく、軽量化が常に求められる輸送機器用部品、特に自動車用部品に適している。従って、本発明は、その一側面において、本発明に係る接着接合構造体を備える自動車用部品にも関する。
本発明に係る接着接合構造体が適用される自動車用部品としては、特に限定されないが、例えばフランジで接着した閉断面部材(例えば、Aピラー、Bピラー、サイドシル等)、補強・補剛等を目的に部分的に材料を積層した部材(例えば、Bピラーレインフォースメント、アウターパネル)、ヘム加工部を有するパネル部材(ドア、フード等)等が挙げられる。
(接着接合構造体の製造方法について)
続いて、本実施形態に係る接着接合構造体1の製造方法について、簡単に説明する。
本実施形態に係る接着接合構造体1の製造方法は、接着接合構造体1を構成する第1の部材2及び第2の部材3のそれぞれを形成する部材形成工程と、形成された第1の部材2と第2の部材3とを、所定の接着剤を用いて接合する接着接合工程と、を含む。
<部材形成工程>
部材形成工程は、第1の部材2及び第2の部材3の素材となる物品を用いて、第1の部材2及び第2の部材の母材を製造する母材製造工程と、必要に応じて実施される、少なくとも第1の部材2となる母材の金属部21の少なくとも一部に対して、皮膜部22を形成するための皮膜塗布液を塗布した後、乾燥又は焼き付けを行って、皮膜部22を形成する皮膜部形成工程と、第1の部材2の母材と、第2の部材3の母材と、を必要に応じて所望の形状へと成形加工する成形加工工程と、を含む。
≪母材製造工程≫
母材製造工程では、第1の部材2及び第2の部材3の素材となる物品を用いて、第1の部材2及び第2の部材の母材が製造される。母材の製造方法については、特に限定されるものではなく、所望の母材を形成するために用いられる公知の各種の製造方法を用い、常法に従って母材を製造すればよい。
例えば、第1の部材2及び第2の部材3として、亜鉛系めっき鋼板が利用される場合、常法に従い熱延鋼板又は冷延鋼板を製造し、得られた熱延鋼板又は冷延鋼板に対して、常法に従い亜鉛系めっき層を形成すればよい。また、その他の金属材料、樹脂材料、FRP材料、セラミックス材料等を母材として用いる場合においても、公知の各種の製造方法を用い、常法に従って、その他の金属材料、樹脂材料、FRP材料、セラミックス材料等を製造すればよい。
なお、後段の皮膜部形成工程を実施する場合には、母材製造工程が終了した後、後段の皮膜部形成工程を実施するに先立ち、第1の部材2となる金属部材に対して、公知の各種の塗装下地処理を実施してもよい。このような塗装下地処理の方法としては、公知の各種の処理方式を適宜用いることが可能である。かかる処理方式として、例えば、浸漬乾燥方式、浸漬・水洗・乾燥方式、スプレー・水洗・乾燥方式、塗布・乾燥方式、塗布・乾燥硬化方式等が挙げられる。また、塗布方法についても、特に限定されるものではなく、浸漬、刷毛塗り、スプレー、ロールコーター、バーコーター、ブレードコーター等の公知の各種の塗布方法を用いることが可能である。
≪皮膜部形成工程≫
皮膜部形成工程は、必要に応じて実施される工程である。かかる皮膜部形成工程では、少なくとも第1の部材2となる母材の金属部21の少なくとも一部に対して、皮膜部22を形成するための皮膜塗布液が塗布され、その後、乾燥又は焼き付けが行われることで、皮膜部22が形成される。
ここで、皮膜塗布液の製造方法については、特に限定されるものではなく、例えば水などの、用いる有機樹脂に応じた溶媒を用い、かかる溶媒中に、水系ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、エステル樹脂のうち1種以上を含む有機樹脂と、Si元素を含む化合物と、所望の固形分比率で配合し、公知の各種の方法により混合及び攪拌すればよい。
皮膜部22を形成するための皮膜塗布液を塗布する方法としては、特に限定されるものではなく、公知の各種の方法を適宜利用することが可能である。例えば、皮膜塗布液が粘性液体である場合、スリットノズルや円形状のノズルからの吐出方式での塗工、刷毛塗り、ブレート塗り、ヘラ塗り等の公知の方法を用いて、皮膜塗布液を塗布することができる。また、上記成分が所定の溶剤に溶解した皮膜塗布液を用いる場合には、例えば、刷毛塗り、スプレー塗工、バーコーター、各種形状のノズルからの吐出塗布、ダイコーター塗布、カーテンコーター塗布、ロールコーター塗布、インクジェット塗布等の公知の各種の塗布方法を用いることができる。それ以外にも、バーコーター、ロールコーター、スクリーン印刷、粉体塗装等といった、公知の各種の方法を採用することができる。
また、乾燥・焼き付けは、例えば、加熱処理等により行うことができる。加熱条件としては、特に限定されるものではなく、例えば、80℃以上250℃以下の温度条件で、5秒以上30分以下の乾燥・焼き付け時間とすることができる。
≪成形加工工程≫
成形加工工程では、第1の部材2の母材と、第2の部材3の母材とが、必要に応じて所望の形状へと成形加工される。ここで、成形加工方法については、特に限定されるものではなく、目的の成形品の形状得るための加工手段を公知の金属加工方法から選択すればよい。また、必要に応じて、かかる成形加工工程の一部と、後述する接着接合工程と、を同時に実施してもよい。
<接着接合工程>
接着接合工程は、形成された第1の部材2と第2の部材3とを、フェノキシ樹脂で構成される接着剤を用いて接合する工程である。かかる工程では、まず、得られた第1の部材2及び第2の部材3における接着させる部分(例えば、フランジ部分等)に対して、フェノキシ樹脂で構成される接着剤を配置して、接着領域5が形成される。その後、かかる接着領域5を介して第1の部材2と第2の部材3とを積層させた後、加熱処理することにより、フェノキシ樹脂で構成される接着剤を硬化させる。ここで、フェノキシ樹脂で構成される接着剤を配置する方法については、特に限定されるものではなく、フェノキシ樹脂で構成される接着剤を塗布したり、フェノキシ樹脂で構成される接着樹脂シートを配置したりすればよい。これにより、接着剤層4を介して第1の部材2と第2の部材3とが接着接合された、本実施形態に係る接着接合構造体1を得ることができる。
なお、上記接着接合工程においては、必要に応じて、各種の塗装処理や、他の接合処理が実施されてもよい。例えば、接合処理として、ボルトやリベット留めなどによる機械接合や、スポット溶接等の溶接処理等が実施されてもよい。
より具体的には、例えば、図7に示す接着接合構造体1Dを製造する場合、形成された第1の部材2と第2の部材3とを接合するフランジ部分の片面もしくは両面に接着剤を塗布し、接着剤を介して第1の部材2と第2の部材3の接合する部分を積層し、常温保持もしくは加熱処理することにより接着剤を硬化させることで、得ることができる。
また、例えば、図1に示す接着接合構造体1のように金属部材としての第1の部材2を繊維強化プラスチックとしての第2の部材3により補強する場合、第1の部材2と第2の部材3とを接着剤を介して積層した状態で、温間成形することにより、接着接合構造体1を得ることができる。
以上、本実施形態に係る接着接合構造体1の製造方法について、簡単に説明した。なお、本発明に係る接着接合構造体は、上述した製造方法により製造されるものに限定されず、任意の製造方法により製造されることができる。
例えば、皮膜部形成工程は、成形加工工程後に行われてもよい。具体的には、第1の部材2及び第2の部材3の母材を、所望の形状に成形加工する。次いで、成形加工後の当該母材に対し、接着接合する部位(接着領域5に対応する部位)のみに皮膜部を形成する。その後、当該部位に対して接着剤を配置し、第1の部材2及び第2の部材3を接着剤を介して積層し、接着剤を硬化させることにより、第1の部材2及び第2の部材3が接着剤層4を介して接合された接着接合構造体1を得ることもできる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、あくまでも本発明の一例であって、本発明を限定するものではない。
(接着接合構造体の製造)
<金属部>
接着接合構造体の金属部として、以下に示す10種類の金属部材を準備した。
(a)厚み1.0mmの引張強度が270MPaである合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA270)
(b)厚み1.0mmの引張強度が590MPaである合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA590)
(c)厚み1.0mmの引張強度が980MPaである合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA980)
(d)厚み1.0mmの引張強度が1300MPaである合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA1300)
(e)厚み1.0mmの引張強度が270MPaである冷延鋼板(CR270)
(f)厚み1.0mmの引張強度が590MPaである冷延鋼板(CR590)
(g)厚み1.0mmの引張強度が980MPaである冷延鋼板(CR980)
(h)厚み1.0mmの引張強度が1300MPaである冷延鋼板(CR1300)
(i)厚み1.0mmの引張強度が980MPaである溶融亜鉛めっき鋼板(GI980)
(j)厚み1.0mmの引張強度が290MPaである規格A5052のアルミニウム板(Al)
ここで、上記(a)〜(i)の鋼板及びめっき鋼板の製造方法について、以下に記述する。
以下の表1に示す成分組成からなる鋼を、常法に従い、熱間圧延、酸洗、冷間圧延を行い、厚さ1.0mmの冷延鋼板を得た。次に、金属部材(e),(f),(g),(h)については、作製した冷延鋼板を、昇温炉内で、最高到達温度である820℃となるまで、3.5℃/秒の平均昇温速度で昇温し、その後、820℃で一定時間均熱炉内にて均熱することで焼鈍し、サンプルを得た。昇温炉と均熱炉における雰囲気は、3%水素を含む窒素ガス雰囲気とした。
金属部材(i)については、作製した冷延鋼板を、昇温炉内で、最高到達温度である820℃となるまで、3.5℃/秒の平均昇温速度で昇温し、その後、820℃で一定時間均熱炉内にて均熱することで焼鈍し、450℃まで冷却した。その後、Zn−0.2%Alである成分の溶融めっきの入った溶融めっき浴中に浸漬し、めっき浴から鋼板を引き抜きながら、スリットノズルから窒素ガスを吹き付けてガスワイピングし、付着量を調整した。付着量は片面60g/m2となるように調整した。昇温炉と均熱炉における雰囲気は、3%水素を含む窒素ガス雰囲気とした。
金属部材(a),(b),(c),(d)については、作製した冷延鋼板を、昇温炉内で、最高到達温度である820℃となるまで、3.5℃/秒の平均昇温速度で昇温し、その後、820℃で一定時間均熱炉内にて均熱することで焼鈍し、450℃まで冷却した。その後、Zn−0.1%Alである成分の溶融めっきの入った溶融めっき浴中に浸漬し、めっき浴から鋼板を引き抜きながら、スリットノズルから窒素ガスを吹き付けてガスワイピングし、付着量を調整した。更に、合金化炉にて480℃に加熱することで、めっき層を合金化させて、めっき中にFeを拡散させた。付着量は、片面45g/m2となるように調整した。昇温炉と均熱炉における雰囲気は、3%水素を含む窒素ガス雰囲気とした。
また、金属部材(j)は、市販のA5052のアルミニウム板を用いた。
<皮膜塗布液>
皮膜部の形成用に、以下の8種類の皮膜塗布液を準備した。
(a)第一工業社製の水分散型エマルジョンタイプのポリウレタン樹脂SF−150と3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランとを、固形分比率で3:2の割合で配合し、皮膜塗布液A1とした。
(b)第一工業社製の水分散型エマルジョンタイプのポリウレタン樹脂SF−150と3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランとを、固形分比率で5:1の割合で配合し、皮膜塗布液A2とした。
(c)第一工業社製の水分散型エマルジョンタイプのポリウレタン樹脂SF−150と3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランとを、固形分比率で1:5の割合で配合し、皮膜塗布液A3とした。
(d)ADEKA社製の水分散型エマルジョンタイプのエポキシ樹脂EM−0461Nと3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランとを、固形分比率で3:2の割合で配合し、皮膜塗布液Bとした。
(e)東洋紡社製の水分散型エマルジョンタイプのポリウレタン樹脂MD−1100と3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランとを、固形分比率で3:2の割合で配合し、皮膜塗布液Cとした。
(f)第一工業社製の水分散型エマルジョンタイプのポリウレタン樹脂SF−150とコロイダルシリカとを、固形分比率で3:2の割合で配合し、皮膜塗布液Dとした。
(g)第一工業社製の水分散型エマルジョンタイプのポリウレタン樹脂SF−150のみの水溶液とした皮膜塗布液Eを準備した。
(h)3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランのみの水溶液とした皮膜塗布液Fを準備した。
<第1の部材の作製>
作製した皮膜塗布液を、上記の金属部材上にバーコーターにて、以下の表2に示した各平均厚みとなる条件で塗布し、誘導加熱炉において、最高到達板温(PMT150℃)で乾燥焼き付けることで、皮膜部の形成された第1の部材を作製した。皮膜の平均厚みは、TEM又はSEMを用いて第1の部材の断面を観察し、任意の5箇所で皮膜の厚みを測定し、その平均値を算出することにより求めた。また、塗布してから乾燥を開始するまで、塗膜の状態で5秒間保持した。かかる塗膜保持時間は、塗布から加熱炉までの鋼板の搬送速度を制御することにより調整した。塗膜の乾燥は、誘導加熱炉を用いて最高到達板温(PMT)150℃で行った。なお、比較例1及び実施例1においては、皮膜部の形成を行わなかった。
<接着接合構造体の作製>
≪フランジ部材≫
準備した第1の部材を成形加工することで、フランジを有する金属性ハット型の部材を作製した。次に、作成した成形体のフランジ部に対し、新日鉄住金化学社製のフェノキシ樹脂フェノトートYP−50S(新日鉄住金化学製)ペレットを敷き詰め、ガラスビーズを5質量%添加した後に、更にその上に、もう一つの第1の部材を貼り付けた。その後、200℃の温度、5MPaの圧力で5分間加温加圧することでホットメルトさせて、閉断面構造体を作成した。
なお、比較例として、引張強度が270MPaである合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA270)の表面に対し、サンスター社製のエポキシ樹脂系接着剤ペンギンセメント#1066に対し200μmのガラスビーズを5質量%添加したものを塗布し、その上に、もう一つの合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA270)を貼り付け、170℃の雰囲気で30分放置することで接着剤を硬化させて、閉断面構造体を作成した。
また、実施例22では、接着剤を塗布したフランジ部に対し、スポット溶接も併用した接合部材の構造体も作製した。具体的には、先端径5mm、R40のCF型Cr−Cu電極を用い、ナゲット径が3×t0.5(tは、板厚[mm])となる溶接条件にて、打点間隔30mmピッチで、スポット溶接を行った。なお、スポット溶接部は、スポット溶接前に予め接着剤層を除去した。
(評価試験方法)
<皮膜部の断面分析>
得られた接着接合構造体における金属部と接着剤層との間の界面付近の垂直断面について、先だって説明した方法に則して、IR分析、TEM観察、TOF−SIMS分析を実施した。
得られた接着接合構造体における金属部と接着剤層との間の界面付近の垂直断面の皮膜部分について、斜め切削装置(SAICAS、ダイプラ・ウィンテス社製 DN―20S型)で5度の傾斜をつけて切削することにより皮膜部分を拡大した。皮膜部における顕微IR(赤外線分光)分析として、日本分光社製IRT−5200を用いてマッピング測定を行い、得られた皮膜の赤外吸収スペクトルにおける樹脂成分由来の観測ピークの帰属から、水系ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂のうち1種以上を含むかどうかを判定した。具体的には、得られた赤外吸収スペクトルにおいて、1550cm−1付近のC−N基に帰属されるピーク、及び、1740cm−1付近のC=O基に帰属されるピークが観測された場合に、水系ポリウレタン樹脂を含むと判定し、830cm−1付近のエポキシ基に帰属されるピークが観測された場合に、エポキシ樹脂を含むと判定し、1720〜1740cm−1付近のC=O基に帰属されるピークが観測された場合に、ポリエステル樹脂を含むと判定した。
金属部と接着剤層との間の界面付近の垂直断面をOs染色を行った後に、クライオ及び常温FIB−マイクロサンプリング法により切り出し、TEM観察用薄膜試料を作成した。次いで、FE−TEM(日立ハイテクノロジーズ社製 NB5000)を用いて観察し、金属部と接着剤層との間の界面付近の任意の3箇所について、プローブ径約2nm、加速電圧200kVの条件でEDS分析(元素マッピング)を行って、C、O、Siの各元素マップを得た。得られた元素マップの皮膜部における、Cとそれ以外の元素について二値化して、皮膜部におけるSi元素の有無、並びに、樹脂粒子の平均粒径及び面積率を算出した。これらの結果について、以下のように評価した。
皮膜部が、Si元素を含む化合物相の中に、水系ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂のうち1種以上を含む樹脂粒子が分散している構造であり、樹脂粒子の平均粒径が20nm以上200nm未満であり、かつ、樹脂粒子が皮膜の断面積の20%以上80%未満を占める場合をAと評価し、上記のような構造ではなかった場合をBと評価した。
<接着界面のTOF−SIMS分析>
接着接合部を、接着剤層側から金属部側に向けて、斜め切削装置(SAICAS、ダイプラ・ウィンテス社製 DN―20S型)で5度の傾斜をつけて切削するとともに、Arスパッタリングを併用することより、接着剤層の厚みを1μm程度まで薄くしたサンプルを作製した。接着剤層の厚みを1μm程度まで薄くした部分の任意の1点を、接着剤層の側から金属部の側に向かって、アルゴンスパッタリングをしながらTOF−SIMSで分析した。用いた分析機器は、ULVAC−PHI社製 TOF−SIMS TRIFT−Vである。表面からArビームで一定深さまでスパッタリングした後にTOF−SIMS測定し、その後同様に、スパッタリングを行った後にTOF−SIMS測定を行うことを繰り返し、各種元素及び結合について、深さ方向分布を取得した。一次イオン種はAu3 +であり、加速電圧は30kVであり、スパッタ速度は約80nm/min(SiO2換算)であり、測定領域は50μm×50μmである。皮膜部(皮膜部を有していない場合は接着剤層)と金属部との間の界面部について、Si−O−Me結合を示すピークが存在し、かつ、かかるピークのカウント値が15以上であった場合をAと評価し、上記のようなカウント値を示すピークが存在しなかった場合をBと評価した。
なお、本実施例では、金属部材として、冷延鋼板、2種類の亜鉛系めっき鋼板、及び、アルミニウム板を用いているため、Si−O−Me結合として、Si−O−Fe結合、Si−O−Zn結合、Si−O−Al結合の3つの結合が生成されうる。ここで、上記3つの結合に対応するTOF−SIMSにおける代表的なピーク位置は、先だって言及した通りである。
また、亜鉛系めっき鋼板(GA/GI)を用いた場合には、Si−O−Fe結合、及び、Si−O−Zn結合の2つの結合が生成されうる。この場合に、Si−O−Fe結合に対応するピーク、又は、Si−O−Zn結合に対応するピークの少なくとも何れかのカウント値が15以上となった場合に、Aと評価した。
<接合耐久性評価>
得られた各例に係る接着接合構造体について、接合耐久性の評価を行った。
まず、各例に係る接着接合構造体について、ねじり試験機によりねじり剛性を測定、算出した。具体的には、各例に係る接着接合構造体の両端を治具で固定し、一方の端部のみを接着接合構造体の中心軸を回転軸として回転させて、接着接合構造体にねじり変形を加えた。この際のねじり角とねじりモーメントを測定し、弾性変形範囲のねじり角とねじりモーメントの関係より、各接着接合構造体のねじり剛性を算出した。弾性変形範囲のねじり角とねじりモーメントの関係としては、具体的には、ねじり角−ねじりモーメント線図の初期傾きを用いた。
次に、50℃、相対湿度95%の湿潤環境とした恒温恒湿槽に、各例に係る接着接合構造体を1000時間静置し、接着剤層、接着剤層/皮膜部界面の劣化を促進させた。恒温恒湿槽に静置後の各例に係る接着接合構造体について、ねじり試験機によりねじり剛性を測定、算出した。そして、劣化試験未実施の各例に係る接着接合体のねじり剛性と比較し、劣化によるねじり剛性の低下率を算出した。得られた低下率が10%未満であればAと評価し、10%以上20%未満であればBと評価し、20%以上30%未満であればCと評価し、40%以上であればDと評価した。
また、接合部材破壊後の破断面を観察し、接着剤層の内部で破壊しているものを「接着剤の凝集破壊」と定義し、金属板と接着剤層との間の界面で破壊しているものを「界面破壊」と定義し、めっき鋼板のめっき層と母材との間の界面で破壊しているものを「めっき破壊」と定義して、それぞれの面積率を測定した。各破壊面積率が0%の場合はAと評価し、0%以上10%未満の場合はBと評価し、10%以上50%未満の場合はCと評価し、50%以上の場合はDと評価した。
得られた結果を、以下の表2にまとめて示した。
表2に示したように、実施例1〜実施例22の接着接合構造体は、比較例1に係る接着接合構造体と比較して、大幅にねじり剛性の低下が抑制されており、接着耐久性に優れていた。
一方、比較例1の接着接合構造体は、エポキシ樹脂がフェノキシ樹脂よりも金属部との密着性に劣るため、水の侵入を抑制することができず、接着耐久性の向上効果が得られなかった。
実施例1〜実施例5を比較すると、皮膜部を更に設けることで接着耐久性の向上効果を得ることができ、皮膜部の平均厚みが0.2μm以上1.5μm以下の範囲内であるときに、最も接着耐久性の向上効果を得ることができた。一方で、皮膜部の平均厚みが厚すぎる場合、又は、薄すぎる場合には、接着耐久性の効果が得られにくいことが判明した。更に、平均厚みが厚すぎる場合には、スポット溶接の併用ができなくなる可能性がある。
実施例3、実施例6〜実施例12を比較すると、皮膜部の構造が、Si元素からなる相の中に、水系ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂のうち1種以上を含む樹脂粒子が分散しており、樹脂粒子の平均粒径が20nm以上200nm未満であり、かつ、樹脂粒子が皮膜の断面積の20%以上80%未満を占めるような構造である場合の方が、接着耐久性の向上効果を得ることができた。かかる構造を有する場合、金属部と皮膜部との密着性と、皮膜部と接着剤層との密着性と、を両立できたためと考えられる。
実施例3と実施例10とを比較すると、有機シラン化合物を用いた実施例3の接着接合構造体の方が、無機シラン化合物を用いた実施例10の接着接合構造体と比べて、接着耐久性の向上効果をより一層得ることができた。これは、実施例3の接着接合構造体におけるSi−O−Me結合が非常に強固な結合なため、水分が金属部と皮膜部との間に浸入することを抑制し、結果的に、金属部と皮膜部との密着性が向上したためと考えられる。
実施例13〜実施例21では、金属部の種別に依らず、皮膜部を形成することで接着耐久性が向上した。実施例3、実施例13〜実施例15を比較すると、GAの低強度鋼板ではねじり剛性試験時に板の変形に伴う応力集中が起こるため、GA鋼板のめっきと母材の間でめっき破壊を起こしやすいものの、高強度化するにつれて板の変形が抑制されることによりめっき剥離が抑制されることが明らかとなった。
実施例3と実施例22とを比較すると、スポット溶接併用時は、更に接着耐久性の向上効果が得られた。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。