本発明の銀微粒子分散体は、銀微粒子、ヒドロキシ基を有する有機溶媒、及び、チタンキレートを含み、上記銀微粒子は、少なくとも一部がアルコキシアミンで被覆されていることを特徴とする。
本発明では、有機金属化合物の中でもチタンキレートを用いる。また、チタンキレートの架橋効果を高めるために、ヒドロキシル基を有する有機溶媒とヒドロキシル基に安定な銀ナノ粒子を用いる。すなわち、銀微粒子は、少なくとも一部がアルコキシアミンで被覆されたものが用いられる。
有機金属化合物は水、アンモニア、アルコール等が溶媒として存在するとアルコーリシスが起こりやすくなる。アルコーリシスとは溶媒分子が反応物の溶質分子に作用して起こす分解反応あるいは複分解反応であり、加溶媒分解あるいは溶媒化分解ともいう。一部の水安定性の高いチタン化合物以外は、水存在下で簡単に加水分解が進行してしまい、安定してインク溶液として存在させうることができない。
上記チタンキレートは、エステル交換反応やアシレート化、キレート交換等の架橋反応を行うことができるため、銀微粒子と基材(樹脂又はガラス)間の架橋による密着性向上や、銀微粒子同士の架橋による膜強度向上が期待できるが、その反応性は溶媒に依存すると考えられる。アルコール存在下の場合は上記のようにアルコーリシスが起こりやすくなり、樹脂や銀微粒子表面の官能基が架橋し易くなると考えられる。チタンキレートと溶媒の相互作用においては、溶媒のドナー性(電子供与性;ルイス塩基性)、アクセプター性(電子受容性;ルイス酸性)が重要な寄与をするためであり、ヒドロキシ基を含む溶媒の方がドナー性、アクセプター性が高くなる。
本発明者が実験した結果、アルコール溶媒存在下でチタンキレートを使用することで、出来上がった銀被膜と樹脂間の密着性及び高湿耐性が向上することが分かった。ごく微量のチタンキレートの添加で、効率よく粒子表面にチタンキレートを配し架橋出来ることが可能となり、大きな密着効果が得られたものと推測される。
また、下記に示した種々のチタン化合物の中でも、チタンアルコキシドは4価6配位のチタンキレートと異なり、4配位正方平面型の構造を取るため、チタン原子が水から攻撃を受けやすく加水分解反応速度がチタンキレート比べて格段に早く、保存安定性の問題が有る。チタンキレートであれば、ジケトン、ケトエステル、ヒドロキシアミネート、ヒドロキシアシレート等の配位子を持たせることが可能で、使用する溶媒に応じて安定性の高い配位子を選択することも可能である。
また、チタンキレートは、アルコキシ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基等の官能基と反応することから、銀微粒子表面にアルコキシ基やヒドロキシ基が存在することで、銀微粒子表面とチタンキレートとの反応が進むことが期待できる。
本発明の銀微粒子分散体によれば、低温焼成で低抵抗化が可能であると共にバインダー樹脂を使わずに密着性を発現させることができた。また、ナノ粒子ベースで実現可能である。具体的には、例えば80〜100℃程度の低温焼結条件下で基材に表面処理なしで高湿条件下でも密着性と低抵抗化を達成することができる。
以下、本発明の銀微粒子分散体に含まれる各成分について説明する。
(A)銀微粒子
銀微粒子の平均粒径は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されず、融点降下が生じるような平均粒径を有することが好ましく、具体的には、1〜400nmであることが好ましい。銀微粒子の平均粒径が1nm以上であれば、導電性に優れた導電膜を形成でき、かつ、銀微粒子の製造コストを低く抑えることができる。銀微粒子の平均粒径が400nm以下であれば、銀微粒子の分散安定性が経時的に変化しにくくなる。本発明の銀微粒子分散体は、用途に応じて粘度を調整することができ、例えば、低粘度のインクとして用いられてもよいし、高粘度のペーストとして用いられてもよい。低粘度のインクとして用いる場合、溶媒中への分散性を良好なものとする観点から、銀微粒子の平均粒径は10〜100nmであることがより好ましい。
銀微粒子の平均粒径は、例えば、動的光散乱法(ドップラー散乱光解析)を用いて、粒径基準を体積基準としたメジアン径(D50)として測定可能である。このような測定は、例えば、堀場製作所社製の動的光散乱式粒径分布測定装置「LB−550」により行うことができる。
本発明の銀微粒子分散体は、平均粒径が400nm以下の銀微粒子(以下、「銀ナノ粒子」という)に加えて、銀ナノ粒子よりも平均粒径が大きい(例えば、平均粒径が1μm以下)サブミクロンサイズの銀サブミクロン粒子を含有していてもよい。ナノサイズの銀ナノ粒子とサブミクロンサイズの銀サブミクロン粒子とを併用することで、銀ナノ粒子が銀サブミクロン粒子の周囲で融点降下するため、良好な導電パスが得られる。
本発明の銀微粒子分散体中の銀微粒子の含有量は、好ましくは10〜70質量%、より好ましくは20〜60質量%である。銀微粒子の含有量が10質量%以上であれば、導電性が充分に高い導電膜を形成できる。銀微粒子の含有量が70質量%以下であれば、銀微粒子分散体の粘度が高くなり過ぎず、塗布性(例えば、インクジェットヘッドからの吐出性)が充分に確保される。
本発明の銀微粒子分散体は、上記銀微粒子に加えて、銀以外の金属の粒子を少なくとも1種含有してもよい。銀以外の金属の粒子を配合することにより、本発明の銀微粒子分散体によって形成される導電膜においてマイグレーションが発生しにくくなる。銀以外の金属としては、イオン化列が水素より貴である金属が好ましい。イオン化列が水素より貴である金属としては、金、銅、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、レニウムが好ましく、金、銅、白金、パラジウムがより好ましい。これらの金属は、1種のみの単独で用いられてもよいし、2種以上で併用されてもよい。銀以外の金属の粒子は、ナノサイズの粒子であってもよいし、サブミクロンサイズの粒子であってもよい。
(B)アルコキシアミン等の有機成分
上記銀微粒子は、少なくとも一部がアルコキシアミンで被覆されている。アルコキシアミンは、銀微粒子の表面に適度な強さで吸着し、銀微粒子を被覆することができる。また、銀微粒子の表面にアルコキシ基を配することにより、銀微粒子の表面でのチタンキレートの反応を促進することができる。アルコキシアミンとしては、N−(3−メトキシプロピル)プロパン−1,3−ジアミン、2−メトキシエチルアミン、3−メトキシプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン等を用いることができる。
上記アルコキシアミンは、炭素数が5以下であるものが好適に用いられる。炭素数が5以下のアルコキシアミンは高極性であるため、シュウ酸銀等のカルボン酸銀の銀原子と配位結合して錯体を形成し易く、カルボン酸銀とアミンの錯体を熱分解して銀微粒子を作製する方法に適している。また、炭素数が5以下のアルコキシアミンは比較的低沸点であるため、焼成時に銀微粒子から脱離し易く、銀微粒子分散体を焼成して得られる導電膜の体積抵抗値が高くなることを防止できる。
アルコキシアミンによる被覆の形態については特に限定されないが、上記アルコキシアミンは、いわゆる分散剤として上記銀微粒子とともに実質的に無機コロイド粒子を構成する。
上記銀微粒子の表面には、アルコキシアミン以外の有機成分が付着していてもよい。上記「有機成分」の用語は、銀微粒子に最初から不純物として含まれる微量有機物、後述する製造過程で混入して銀微粒子に付着した微量有機物、洗浄過程で除去しきれなかった残留還元剤、残留分散剤等のように、銀微粒子に微量付着した有機物等は含まれない概念であり、以下の説明では、アルコキシアミンも含める。なお、上記「微量」とは、具体的には、無機コロイド粒子中1質量%未満が意図される。
上記有機成分は、銀微粒子の表面に付着して銀微粒子の凝集を防止するとともに無機コロイド粒子を形成することが可能な有機物であり、分散性及び導電性等の観点から、アミン及びカルボン酸を含むことが好ましい。なお、これらの有機成分は、銀微粒子と化学的あるいは物理的に結合している場合、アニオンやカチオンに変化していることも考えられ、これらの有機成分に由来するイオンや錯体等も上記有機成分に含まれる。
上記アミンとしては、種々のアミンを用いることができ、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、また、側鎖を有していてもよい。具体的には、1,2−エタンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン等のジアミン;ペンタノールアミン、アミノイソブタノール等のアミノアルコール;プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン等のアルキルアミン(直鎖状アルキルアミン、側鎖を有していてもよい。);シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン等のシクロアルキルアミン;アニリン、アリルアミン等の第1級アミン;ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ピペリジン、ヘキサメチレンイミン等の第2級アミン;トリプロピルアミン、ジメチルプロパンジアミン、シクロヘキシルジメチルアミン、ピリジン、キノリン等の第3級アミン等が挙げられる。
上記アミンは、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、カルボニル基、エステル基、メルカプト基等のアミン以外の官能基を含む化合物であってもよい。また、上記アミンは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記アミンは、常圧での沸点が300℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましい。
本発明の効果を損なわない範囲であれは、上記のアミンに加えて、カルボン酸を含んでいてもよい。カルボン酸の一分子内におけるカルボキシル基が、比較的高い極性を有し、水素結合による相互作用を生じ易いが、これら官能基以外の部分は比較的低い極性を有する。更に、カルボキシル基は、酸性的性質を示し易い。
上記カルボン酸としては、少なくとも1つのカルボキシル基を有する化合物を広く用いることができ、例えば、ギ酸、シュウ酸、酢酸、ヘキサン酸、アクリル酸、オクチル酸、オレイン酸等が挙げられる。カルボン酸の一部のカルボキシル基が金属イオンと塩を形成していてもよい。なお、上記金属イオンについては、2種以上の金属イオンが含まれていてもよい。
上記カルボン酸は、例えば、アミノ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボニル基、エステル基、メルカプト基等の、カルボキシル基以外の官能基を含む化合物であってもよい。この場合、カルボキシル基の数が、カルボキシル基以外の官能基の数以上であることが好ましい。また、上記カルボン酸は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記カルボン酸は、常圧での沸点が300℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましい。また、アミンとカルボン酸はアミド基を形成する。上記アミド基も銀微粒子表面に適度に吸着するため、有機成分にはアミド基が含まれていてもよい。
本発明の導電性微粒子分散体における無機コロイド中の有機成分の含有量は、0.5〜50質量%であることが好ましい。有機成分含有量が0.5質量%以上であれば、得られる銀微粒子分散体の貯蔵安定性が良くなる傾向があり、50質量%以下であれば、得られる導電膜の導電性が良い傾向がある。有機成分のより好ましい含有量は1〜30質量%であり、更に好ましい含有量は2〜15質量%である。
上記アミンと上記カルボン酸とを併用する場合、上記アミンと上記カルボン酸との組成比(重量)は、1/99〜99/1の範囲で任意に選択することができる。好ましくは、上記アミンと上記カルボン酸との組成比が20/80〜98/2であり、更に好ましくは30/70〜97/3である。なお、上記アミン又は上記カルボン酸は、それぞれ複数種類のアミン又はカルボン酸を用いてもよい。
上記有機成分が表面に付着した銀微粒子の製造方法としては、例えば、還元により分解して銀を生成しうる銀化合物と、アミンと、分散剤との混合液を調製する第1工程と、上記混合液中の上記銀化合物を還元することで表面の少なくとも一部に上記アミンが付着した銀微粒子を生成する第2工程とを含む方法が挙げられる。
上記第1工程においては、アミンを銀1molに対して2mol以上添加することが好ましい。上記アミンの添加量を銀1molに対して2mol以上とすることで、還元によって生成される銀微粒子の表面に上記アミンを適量付着させることができ、上記銀微粒子に種々の分散媒に対する優れた分散性と低温焼結性とを付与することができる。
なお、上記第1工程における混合液の組成、及び、上記第2工程における還元条件(例えば、加熱温度及び加熱時間等)は、得られる銀微粒子の粒子径をナノメートルサイズとするように調整することが好ましい。銀微粒子の粒子径をナノメートルサイズとすることで、融点降下が生じ、低温で焼成できるためである。得られる銀微粒子の粒子径は、1〜400nmとすることがより好ましい。必要に応じてミクロンサイズの粒子が含まれていてもよい。上記第2工程で得られる銀微粒子を含むコロイド液から銀微粒子を取り出す方法は特に限定されないが、例えば、そのコロイド液の洗浄を行う方法等が挙げられる。
第2工程で得られたコロイド液には、銀微粒子の他に、分散剤等が存在しており、溶液全体の電解質濃度が高い傾向にある。このような状態のコロイド液では、電導度が高い等の理由で、銀微粒子の凝析が起こり、沈殿しやすい。そこで、このコロイド液を洗浄して余分な電解質を取り除くことが好ましい。
コロイド液の洗浄方法としては、例えば、調製されたコロイド液を一定期間静置して上澄み液を取り除いた後、純水を加えて撹拌し、更に一定期間静置して上澄み液を取り除く工程を幾度か繰り返す方法が挙げられる。その他の洗浄方法としては、例えば、上述した静置の代わりに遠心分離を行う方法、限外濾過装置、イオン交換装置等により脱塩する方法等が挙げられる。中でも、脱塩する方法が好ましい。脱塩した液は、適宜濃縮されてもよい。
上記銀化合物としては、種々の公知の銀化合物を用いることができ、例えば、銀塩又は銀塩の水和物を用いることができる。具体的には、硝酸銀、硫酸銀、塩化銀、酸化銀、酢酸銀、シュウ酸銀、ギ酸銀、亜硝酸銀、塩素酸銀、硫化銀等の銀塩が挙げられる。これらは還元可能なものであれば特に限定されず、適当な溶媒中に溶解させても、溶媒中に分散させたまま使用してもよい。また、これらは単独で用いても複数併用してもよい。なかでも、シュウ酸銀が好ましい。シュウ酸銀は、最も単純なジカルボン酸銀であり、シュウ酸銀を用いて合成されるシュウ酸銀アミン錯体は、低温かつ短時間で還元が進むことから、ナノメートルサイズの銀微粒子の合成に好適である。更に、シュウ酸銀を用いると、合成時には副生成物が発生せず、系外にシュウ酸イオン由来の二酸化炭素が出るのみであるため、合成後に精製の手間が少ない。
上記分散剤としては、例えば、市販されている湿潤分散剤を使用することができる。市販の湿潤分散剤としては、例えば、ソルスパース(SOLSPERSE)11200、ソルスパース13940、ソルスパース16000、ソルスパース17000、ソルスパース18000、ソルスパース20000、ソルスパース24000、ソルスパース26000、ソルスパース27000、ソルスパース28000(日本ルーブリゾール社製);DISPERBYK−102、110、111、170、190.194N、2015、2090、2096(ビックケミー・ジャパン社製);EFKA−46、EFKA−47、EFKA−48、EFKA−49(EFKAケミカル社製);ポリマー100、ポリマー120、ポリマー150、ポリマー400、ポリマー401、ポリマー402、ポリマー403、ポリマー450、ポリマー451、ポリマー452、ポリマー453(EFKAケミカル社製);アジスパーPB711、アジスパーPA111、アジスパーPB811、アジスパーPW911(味の素社製);フローレンDOPA−15B、フローレンDOPA−22、フローレンDOPA−17、フローレンTG−730W、フローレンG−700、フローレンTG−720W(共栄社化学工業社製)が挙げられる。また、エボニック社のTEGO Dispersシリーズの610、610S、630、651、655、750W、755W等;楠本化成社のディスパロンシリーズのDA−375、DA−1200等を用いてもよい。低温焼結性及び分散安定性の観点からは、DISPERBYK−102、ソルスパース11200、ソルスパース13940、ソルスパース16000、ソルスパース17000、ソルスパース18000、ソルスパース28000等を用いることが好ましい。
上記銀化合物を還元する方法としては、加熱する方法が好ましい。上記加熱方法は特に限定されない。上記加熱により上記銀化合物を還元する方法としては、例えば、シュウ酸銀等の銀化合物とアミン等の有機成分から生成される錯化合物を加熱して、上記錯化合物に含まれるシュウ酸イオン等の金属化合物を分解して生成する原子状の銀を凝集させる方法が挙げられる。上記方法により、アミン等の有機成分の保護膜に保護された銀微粒子を製造することができる。
このように、銀化合物の錯化合物をアミンの存在下で熱分解することで、アミンにより被覆された銀微粒子を製造する金属アミン錯体分解法においては、単一種の分子である銀アミン錯体の分解反応により原子状銀が生成するため、反応系内に均一に原子状銀を生成することが可能であり、複数の成分間の反応により銀原子を生成する場合に比較して、反応を構成する成分の組成揺らぎに起因する反応の不均一が抑制され、特に工業的規模で多量の銀粉末を製造する際に有利である。
また、金属アミン錯体分解法においては、生成する銀原子にアミン分子が配位結合しており、上記銀原子に配位したアミン分子の働きにより凝集を生じる際の銀原子の運動がコントロールされるものと推察される。この結果として、金属アミン錯体分解法によれば非常に微細で、粒度分布が狭い金属粒子を製造することが可能となる。
更に、製造される銀微粒子の表面にも多数のアミン分子が比較的弱い力の配位結合を生じており、これらが銀微粒子の表面に緻密な保護被膜を形成するため、保存安定性に優れる表面の清浄な有機被覆銀微粒子を製造することが可能となる。また、上記被膜を形成するアミン分子は加熱等により容易に脱離可能であるため、非常に低温で焼結可能な銀微粒子を製造することが可能となる。
コロイド液中の銀微粒子の含有量は、好ましくは1〜70質量%、より好ましくは10〜65質量%である。銀微粒子の含有量が1質量%以上であれば、充分な導電性を有する導電膜を実現可能な量の銀微粒子が、導電性微粒子分散体中に確保される。銀微粒子の含有量が70質量%以下であれば、コロイド液の粘度が高くなり過ぎず、取り扱いが容易となる。
(C)チタンキレート
本発明の銀微粒子分散体は、チタンキレートを含むことで、焼結温度が低い(例えば、100℃以下)場合でも抵抗値の増加を招くことなく密着性を改善することができる。そのため、比較的耐熱性が低い樹脂に対しても、低抵抗値及び密着性を有する導電膜を形成できる。
上記チタンキレートとしては、例えば、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン、テトラキス(2,4−ペンタンジオナト)チタニウム(IV)、チタニウムジ−2−エチルヘキソキシ.ビス(2−エチル−3−ヒドロキシヘキソキシド)、ジ−i−プロポキシビス(アセチルアセトナト)チタン、ジ−n−ブトキシビス(トリエタノールアミナト)チタン、チタニウム−i−プロポキシオクチレングリコレート、チタニウムステアレート、チタンアセチルアセトナート、チタンテトラアセチルアセトナート、ポリチタンアセチルアセチルアセトナート、チタンオクチレングリコレート、チタンエチルアセトアセテート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート等が挙げられる。
上記チタンキレートは、官能基としてアルコキシ基、配位子としてケトエステルを有するものが好適に用いられる。アルコキシ基は、下記式に示したエステル交換反応やアシレート化のようなアルコールの脱離を伴う架橋反応を生じさせることができる。ケトエステルは、求電子部位であるカルボニル基と求核部位である活性メチレン部位を併せ持つため、縮合反応やアルキル化等の基質として用いることができる有用性の高い化学種である。
上記チタンキレートの含有量は、銀微粒子100質量部に対して、0.6〜10.0質量部であることが好ましい。チタンキレートの含有量が0.6質量部未満であると、密着性の改善効果が得られないおそれがあり、10.0質量部を超えると、導電性や保存安定性を阻害するおそれがあるためである。
(D)ヒドロキシ基を有する有機溶媒等の分散媒
本発明の銀微粒子分散体は、分散媒中に銀微粒子を分散させたものであり、分散媒は、少なくともヒドロキシ基を有する有機溶媒を含有する。
上記ヒドロキシ基を有する有機溶媒としては、例えば、アルコール、片末端にヒドロキシ基を有するグリコールエーテル等が挙げられる。
上記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、2−ブタノール、ヘキサノール、イソアミルアルコール、フルフリルアルコール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、3−メチル−1−ペンタノール、3−メチル−2−ペンタノール、2−ブタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、2−ヘキシルオキシエタノールが挙げられる。
上記アルコールは、多価アルコールであってもよい。多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−ブタンジオール、プロピレングリコール、2−メチルペンタン−2,4−ジオール、ブチルトリグリコール、イソブチルジグリコール、2−ブトキシエタノール、3−メトキシ−3−メチルブタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−(2−ヘキシルオキシエトキシ)エタノール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールが挙げられる。
上記グリコールエーテルとしては、例えば、トリプロピレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、1.3ブチレングリコール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、2−ブテン−1,4−ジオールが挙げられる。
また、上記アルコールとしては、脂肪族アルコール、環状アルコール、脂環式アルコール等を用いることができる。
上記脂肪族アルコールとしては、例えば、ヘプタノール、オクタノール(1−オクタノール、2−オクタノール、3−オクタノール等)、デカノール(1−デカノール等)、トリデカノール(イソトリデカノール等)、ラウリルアルコール、テトラデシルアルコール、セチルアルコール、2−エチル−1−ヘキサノール、オクタデシルアルコール、ヘキサデセノール、オレイルアルコール等の炭素数が6〜30の飽和又は不飽和脂肪族アルコール等が挙げられる。
上記環状アルコールとしては、例えば、クレゾール、オイゲノール、ターピネオール等が挙げられる。
上記脂環式アルコールとしては、例えば、シクロヘキサノール等のシクロアルカノール、テルピネオール(α、β、γ異性体、又はこれらの任意の混合物を含む。)、ジヒドロテルピネオール等のテルペンアルコール(モノテルペンアルコール等)、ジヒドロターピネオール、ミルテノール、ソブレロール、メントール、カルベオール、ペリリルアルコール、ピノカルベオール、ソブレロール、ベルベノール等が挙げられる。
上記分散媒としては、有機溶媒が好適に用いられる。有機溶媒は、一般的に沸点が高く乾燥し難いことから、インクジェット印刷で吐出可能な粘度に調整しやすく、銀微粒子分散体の塗布性(例えば、インクジェットヘッドからの吐出性)を高めることができる。
上記分散媒は、常圧での沸点が170℃以上であることが好ましい。分散媒の常圧での沸点が170℃以上であることで、銀微粒子分散体が塗布後に過度に乾燥することを抑制できる。
本発明の銀微粒子分散体全体に対する上記分散媒の含有量及び上記ヒドロキシ基を有する有機溶媒の含有量は、銀微粒子分散体の塗布方法や用途に応じて適宜調整することができる。インクジェットインクのように低粘度に調整する場合、銀微粒子分散体(銀インク)は、上記ヒドロキシ基を有する有機溶媒を40〜80質量%程度含有することが好ましい。また、銀ペーストのように高粘度に調整する場合、銀微粒子分散体(銀ペースト)は、上記ヒドロキシ基を有する有機溶媒を10〜30質量%程度含有することが好ましい。
本発明の銀微粒子分散体は、界面活性剤を含んでもよい。多成分溶媒系の無機コロイド分散液においては、乾燥時の揮発速度の違いによる被膜表面の荒れ及び固形分の偏りが生じ易い。本発明の銀微粒子分散体に界面活性剤を添加することによって、これらの不利益を抑制し、均一な導電膜を形成することができる。
上記界面活性剤としては、特に限定されず、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等を用いることができる。具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸塩、4級アンモニウム塩等が挙げられる。少量の添加量で効果が得られる観点からは、フッ素系界面活性剤がより好ましい。
本発明の銀微粒子分散体の製造方法は特に限定されず、例えば、次の方法が挙げられる。まず、有機成分が表面に付着した銀微粒子を固形分として含有するコロイド液を調製する。次に、得られたコロイド液と、分散媒と、チタンキレートと、必要に応じて上述した任意の成分とを混合することにより、本発明の銀微粒子分散体が得られる。
本発明の銀微粒子分散体は、基材上に塗布した後、焼成することで、導電膜を形成することができる。本発明の銀微粒子分散体は、プリンテッドエレクトロニクス分野において、導電性インクとして好適に用いることができる。上記導電膜は、電子回路基板(例えば、半導体集積回路)、プリント配線基板、薄膜トランジスタ基板の配線、電極等として用いることができる。
上記基材の材料としては、種々のインク吸収性材料(例えば、紙、布帛、多孔性セラミックス等)の他に、インク非吸収性材料が用いられてもよく、耐熱性に優れたものが好ましく用いられる。インク非吸収性材料としては、例えば、ポリカーボネート(PC)、ABS、AS、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリイミド(PI)、ポリ塩化ビニル(PVC)等の樹脂(エンプラ、スーパーエンプラ)が挙げられる。ここで、インク非吸収性材料とは、インク受容機能を有する構造を有さない材料を意味する。基材の表面には、導電膜との密着性を高める目的で、表面層(プライマー層)が設けられていてもよく、親水化処理等の表面処理が施されていてもよい。表面処理の方法としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、UV処理、電子線処理等のドライ処理が挙げられる。
上記塗布とは、銀微粒子分散体を面状に塗布する場合も線状に塗布(描画)する場合も含む概念である。塗膜(導電膜)の形状は、面状であってもよく、線状であってもよく、これらを組み合わせた形状であってもよい。また、塗膜(導電膜)は、連続するパターンであってもよく、不連続なパターンであってもよく、これらを組み合わせたパターンであってもよい。
本発明の銀微粒子分散体の塗布方法としては特に限定されず、例えば、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法、反転印刷法、マイクロコンタクト印刷法、ディッピング法、スプレー法、バーコート法、スピンコート法、ディスペンサー法、流延法、フレキソ法、グラビア法、シリンジ法、刷毛による塗布法等が挙げられる。中でも、本発明の銀微粒子分散体は、インクジェット印刷用のインクであることが好ましい。
上記塗膜を焼成すると、塗膜に含まれる銀微粒子同士の結合が高まり、焼結される。塗膜の焼成温度は特に限定されず、例えば、60〜300℃の範囲内とされる。塗膜の焼成温度は、基材の表面上に導電膜を形成可能な温度であって、かつ、本発明の効果を損なわない範囲で溶媒を蒸発可能な(一部が残存していてもよいが、全て除去されるのが好ましい)温度であることが好ましい。塗膜の焼成時間は、特に限定されず、焼成温度に応じて適宜設定すればよい。
上記塗膜の焼成方法としては、特に限定されず、例えば、従来公知のギヤオーブン等を用いる方法が挙げられる。
上記導電膜の膜厚は、例えば、0.1〜5μmであり、好ましくは0.2〜3μmである。上記導電膜の体積抵抗値は、好ましくは50μΩ・cm以下、より好ましくは20μΩ・cm以下、更に好ましくは10μΩ・cm以下である。
以下、本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
下記の実施例及び比較例において銀微粒子分散体を作製するために使用した金属化合物の詳細を下記表1に示す。
上記表1中の「金属含有量」は、溶媒を含む添加剤全体の質量に対する、添加剤に含まれる金属原子の質量割合を表し、「成分濃度」は、添加剤全体の質量に対する、添加剤に含まれる金属化合物の質量割合を表す。また、「IPA」は、イソプロピルアルコール(2−プロパノール)を表す。
(実施例1)
3−メトキシプロピルアミン8.0gと分散剤であるDISPERBYK−102(ビックケミー・ジャパン社製)0.2gとを混合し、マグネティックスターラーにてよく撹梓してアミン混合液を調製した。次いで、撹梓を行いながら、シュウ酸銀3.0gを添加した。シュウ酸銀の添加後、室温で攪拌を続けることでシュウ酸銀を粘性のある白色の物質へと変化させ、当該変化が外見的に終了したと認められる時点で攪拌を終了した。
得られた混合液をオイルバスに移し、120℃で加熱攪拌を行った。攪拌の開始直後にニ酸化炭素の発生を伴う反応が開始し、その後、二酸化炭素の発生が完了するまで攪拌を行うことで、銀微粒子がアミン混合物中に懸濁した懸濁液を得た。
次に、当該懸濁液の分散媒を置換するため、水とメタノールの混合溶媒10mLを加えて攪拌後、遠心分離により銀微粒子を沈殿させて分離し、分離した銀微粒子に対してメタノール10mLを加え、攪拌、遠心分離を行うことで銀微粒子を沈殿させて分離させて銀スラリーを得た。有機溶媒である2−ヘキシルオキシエタノール49.0質量部に、金属化合物としてチタンキレートであるチタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)を含有する添加剤Aを1.0質量部添加し、得られた混合溶液50.0質量部を銀スラリー50質量部に加えて分散させ、銀微粒子分散体1を得た。
銀微粒子分散体1中の銀微粒子の粒径は、10〜100nmの範囲で分布しており、メジアン径(D50)は、30nmであった。粒径は、下記の方法で測定された。まず、純水10mL中に銀微粒子分散体1を数滴滴下し、手で振動させることで分散させて、測定用試料を調製した。次に、測定用試料3mLを、堀場製作所社製の動的光散乱式粒径分布測定装置「LB−550」のセル内に投入し、下記の条件にて粒径を測定した。
<測定条件>
データ読み込み回数:100回
セルホルダー内温度:25℃
<表示条件>
分布形態:標準
反復回数:50回
粒径基準:体積基準
分散質の屈折率:0.200〜3.900(銀)
分散媒の屈折率:1.33(水)
<システム条件>
強度基準:Dynamic
散乱強度レンジ上限:10000.00
散乱強度レンジ下限:1.00
(実施例2)
混合溶液の調製に用いた添加剤の種類を、チタンキレートであるジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタンを含有した添加剤Bに変えたこと以外は実施例1と同様にして銀微粒子分散体2を得た。
(実施例3)
混合溶液の調製に用いた有機溶媒の種類を、4−メチル−2−ペンタノールに変えたこと以外は実施例2と同様にして銀微粒子分散体3を得た。
(実施例4)
混合溶液の調製に用いた添加剤の種類を、チタンキレートであるテトラキス(2,4−ペンタンジオナト)チタニウム(IV)を含有した添加剤Cに変えたこと以外は実施例1と同様にして銀微粒子分散体4を得た。
(実施例5)
実施例1と同様の方法で銀スラリーを得た後、2−ヘキシルオキシエタノール45.0質量部に対して、チタンキレートであるジイソブロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタンを含有する添加剤Cを5.0質量部添加し、得られた混合溶液50.0質量部を銀スラリー50.0質量部に加えて分散させ、銀微粒子分散体5を得た。
(実施例6)
実施例1と同様の方法で銀スラリーを得た後、2−ヘキシルオキシエタノール49.5質量部に対して、チタンキレートであるジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタンを含有した添加剤Cを0.5質量部添加し、得られた混合溶液50.0質量部を銀スラリー50.0質量部に加えて分散させ、銀微粒子分散体6を得た。
(実施例7)
混合溶液の調製に用いた添加剤の種類を、チタンキレートであるチタニウムジ−2−エチルヘキソキシ.ビス(2−エチル−3−ヒドロキシヘキソキシド)を含有した添加剤Dに変えたこと以外は実施例1と同様にして銀微粒子分散体7を得た。
(比較例1)
混合溶液の調製に用いた添加剤の種類を、ジルコニアアルコキシドであるジルコルコニウムテトラノルマルプロポキシドを含有した添加剤Eに変えたこと以外は実施例1と同様にして銀微粒子分散体8を得た。
(比較例2)
混合溶液の調製に用いた添加剤の種類を、ジルコニアキレートであるテトラキス(2,4−ペンタンジオナト)ジルコニウム(IV)を含有した添加剤Fに変えたこと以外は実施例1と同様にして銀微粒子分散体9を得た。
(比較例3)
混合溶液の調製に用いた添加剤の種類を、チタンアシレートであるチタンインステアレートを含有した添加剤Gに変えたこと以外は実施例1と同様にして銀微粒子分散体10を得た。
(比較例4)
混合溶液の調製に用いた添加剤の種類を、チタンアルコキシドであるオルトチタン酸テトラインプロピルを含有した添加剤Hに変えたこと以外は実施例1と同様にして銀微粒子分散体11を得た。
(比較例5)
混合溶液の調製に用いた有機溶媒の種類を、ブチルカルビトールアセテートに変えたこと以外は実施例2と同様にして銀微粒子分散体12を得た。
(比較例6)
銀スラリーの調製に用いたアミンを、3−メトキシプロピルアミン8.0gからヘキシルアミン4.0gとブチルアミン2.0gに変えたこと以外は実施例1と同様にして銀微粒子分散体13を得た。
[評価試験]
作製した銀微粒子分散体について、分散性、希釈性、体積抵抗値、密着性試験(プルオフ法)の評価を行った。結果を下記表2に示した。
(1) 分散性
銀微粒子分散体を容器中に入れ、室温環境で1日静置した後、沈殿の有無及び上澄みの状態を目視で観察した。容器下に沈降物がほとんど認められなかった場合を「○」、沈降物が少量認められた場合を「△」、容器上下で明らかに濃度差があり、沈降物がはっきり認められた場合を「×」と評価した。なお、「〇」と「△」の中間であると思われた場合には、「〇〜△」、「△」と「×」の中間であると思われた場合には、「△〜×」と評価した。
(2) 希釈性
銀微粒子分散体を分散媒に100倍希釈し、希釈直後及び希釈から7日後の分散状態を目視で評価した。分散した場合を「○」、一部凝集や銀鏡が見られた場合を「△」、凝集・沈殿が生じた場合を「×」と評価した。
なお、上記銀鏡は、大半の粒子は分散したものの、一部の粒子がサンプル管の壁面に付着したために、光沢のような反射が起こった状態を指し、上記沈澱は、サンプル管の底に粒子が沈降し、液と粒子が分離した状態を指す。
(3) 体積抵抗値
銀微粒子分散体を2.5cm角のスライドガラスにスピンコート(回転速度:2000rpm、回転時間:20sec)して塗膜を形成し、ギヤオープン中で90℃・1時間の条件で加熱・焼成することにより焼結させ、導電性被膜を形成した。
得られた被膜の表面抵抗を、三菱化学アナテリツク社製の「ロレスタGP MCP−T610」を用いて測定し、得られた表面抵抗に膜厚を乗することで体積抵抗値を算出した。
(4) 密着性試験
銀微粒子分散体を2.5cm角の基材にスピンコート(回転速度:2000rpm、回転時間:20sec)して塗膜を形成し、ギヤオープン中で100℃・30分の条件で加熱・焼成することにより焼結させ、導電性被膜を形成した。
得られた被膜について、碁盤目試験によるテープ剥離を行った。評価は、ASTM D3359−09に則り実施した。試験面にカッターナイフを用いて、素地に達する縦6本、横6本の切り傷をつけた。切り傷の間隔は1mmとし、25個の碁盤目を作った。ニチバン社製のテープ「CT−24」を用い、碁盤目部分にテープを強く圧着させ、テープの端を持ち一気に引き剥がし、碁盤目の剥離状態を下記判定基準に基づき評価した。
<判定基準>
5B:剥離無し
4B:剥離した部分が明確に5%を上回らない
3B:剥離した部分が5%以上15%未満である
2B:剥離した部分が15%以上35%未満である
1B:剥離した部分が35%以上65%未満である
0B:剥離した部分が65%以上である
PET、ポリカーボネート、ABS、ポリイミド及びガラスの5種類の基材を用いて密着性試験を行った。密着性試験の総合評価として、全ての基材に対し4B以上の評価であった場合を「〇」、全ての基材に対し3B以上の評価であった場合を「△」、どれか1種類の基材でも2B以下の評価であった場合を「×」とした。
(5) 高温高湿密着性試験
上記(4)の密着性試験方法と同様にして、ABS基材上に形成した導電性被膜について、60℃、80RH%の高温高湿槽に投入してから4時間後の密着性を評価した。
実施例及び比較例について、銀微粒子分散体の材料、及び、評価試験の結果を下記表2にまとめた。
実施例1〜7の銀微粒子分散体は、ヒドロキシ基を有する有機溶媒とチタンキレートを含有した添加剤(チタンキレート添加剤)の両方を含んでおり、幅広い基材において密着性が得られた。実施例5の結果より、チタンキレート添加剤が銀微粒子分散体中に5質量部含まれていれば、体積抵抗値が若干上昇したものの、全種類の基材に対して剥離が発生せず密着性を大幅に改善することができた。また、実施例6の結果より、チタンキレート添加剤が銀微粒子分散体中に0.5質量部含まれていれば、難接着性であるポリイミド等の基材に対する密着性が若干低いものの、チタンキレート添加剤以外の添加剤が用いられた比較例1〜4よりも密着性が発現していた。また、実施例6の銀微粒子分散体は、チタンキレート添加剤の配合量が少ないことにより低抵抗化することができた。
一方、比較例1〜4の銀微粒子分散体は、ヒドロキシ基を有する有機溶媒を含むものの、チタンキレート添加剤を含まないものであった。比較例1、3、4の銀微粒子分散体は、ジルコニアアルコキシド、チタンアシレート又はチタンアルコキシドを含有した添加剤を用いたものであったが、チタンキレート添加剤を用いたものよりも密着性において劣っていた。また、比較例2の銀微粒子分散体は、ジルコニアキレート添加剤が沈降し、分散させることができず、導電性インクとしての取り扱い性が劣っていた。
比較例5の銀微粒子分散体は、チタンキレート添加剤を含むものの、ヒドロキシ基を有する有機溶媒を含まないものであり、密着性において劣っていた。すなわち、実施例2と比較例5の比較より、チタンキレートを用いても、ヒドロキシ基を有する有機溶媒が存在しなければ密着性の改善効果が低いことが分かる。
比較例6の銀微粒子分散体は、銀微粒子の保護剤としてアルコキシアミンではなく、アルキルアミンが用いられており、密着性において劣っていた。