(1)全体構成
図1は、本発明の一実施形態にかかる予混合圧縮着火式エンジン(以下、単にエンジンともいう)の構成を示す概略平面図である。本図に示されるエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載された4サイクルのガソリン直噴エンジンであり、列状に並ぶ4つの気筒2を含む直列多気筒型のエンジン本体1と、エンジン本体1に導入される吸気が流通する吸気通路50と、エンジン本体1から排出される排気ガスが流通する排気通路60と、排気通路60を流通する排気ガスの一部を吸気通路50に還流するEGR装置70を備えている。
エンジン本体1には、気筒2の中心軸線Xを通る面Pを挟んで一方側に後述する吸気弁11が設けられて他方側に後述する排気弁12が設けられている。本実施形態では、気筒2の配列方向(以下、気筒列方向という)に沿う面Pを挟んで一方側と他方側とにそれぞれ吸気弁11と排気弁12とが設けられている。以下では、前記面Pと直交する方向を吸排気方向といい、この吸排気方向において、吸気弁11が設けられる側を吸気側、排気弁12が設けられる側を排気側という。
図2は、エンジン本体1の吸排気方向に沿った断面を模式的に示した図であり、図3は、吸排気方向と直交する方向(気筒列方向)に沿ったエンジン本体1の断面を模式的に示した図である。なお、図2中のINは吸気側を、EXは排気側を示している。これら図2および図3に示すように、エンジン本体1は、前記4つの気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、各気筒2を上から閉塞するようにシリンダブロック3の上面に取り付けられたシリンダヘッド4と、各気筒2に往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。
ピストン5の上方には、気筒2の周面とピストン5の冠面Sとシリンダヘッド4の下面とに囲まれた燃焼室6が形成されている。シリンダヘッド4の下面のうち燃焼室6を覆う部分である天井面28は、いわゆるペントルーフ状(三角屋根状)に形成されている。すなわち、燃焼室6の天井面28は、図2に示す断面視(つまり吸排気方向に沿った断面視)において、気筒軸線X(気筒2の中心軸)から吸気側に離れるほど高さが低くなる傾斜面と、気筒軸線Xから排気側に離れるほど高さが低くなる傾斜面とを有している。
燃焼室6には、ガソリンを主成分とする燃料が、後述するインジェクタ15からの噴射によって供給される。そして、供給された燃料が燃焼室6で空気と混合されつつ圧縮着火により燃焼し、その燃焼による膨張力で押し下げられたピストン5が上下方向に往復運動する。なお、燃焼室6に噴射される燃料は、主成分としてガソリンを含有していればよく、例えばガソリンに加えてバイオエタノール等の副成分を含んでいてもよい。
ピストン5の下方には、エンジン本体1の出力軸であるクランク軸7が設けられている。クランク軸7は、ピストン5とコネクティングロッド8を介して連結され、ピストン5の往復運動(上下運動)に応じて中心軸回りに回転駆動される。
シリンダブロック3には、クランク軸7の回転角度(クランク角)およびクランク軸7の回転速度(エンジン回転速度)を検出するクランク角センサSN1が設けられている。
気筒2の幾何学的圧縮比、つまりピストン5が上死点にあるときの燃焼室6の容積とピストン5が下死点にあるときの燃焼室の容積との比は、ガソリン含有燃料を予混合圧縮着火燃焼させるのに好適な値として、15以上30以下に設定されている。
図4は、ピストン5の冠面Sを後述するプラズマ生成プラグ16の先端部(放電電極33)と併せて示した平面図である。図4等に示すように、シリンダヘッド4には、気筒2ごとに、吸気通路50から供給される空気を燃焼室6に導入するための吸気ポート9と、燃焼室6で生成された排気ガスを排気通路60に導出するための排気ポート10と、吸気ポート9の燃焼室6側の開口を開閉する吸気弁11と、排気ポート10の燃焼室6側の開口を開閉する排気弁12とがそれぞれ設けられている。吸気ポート9と排気ポート10とは、1つの気筒に対してそれぞれ2つずつ設けられており、吸気弁11と排気弁12とは、1つの気筒にそれぞれ2つずつ設けられている。吸気弁11および排気弁12は、シリンダヘッド4に配設された一対のカム軸等を含む図外の動弁機構により、クランク軸7の回転に連動して開閉駆動される。
図5は、吸気弁11の開弁時の燃焼室6内の様子を模式的に示した図である。吸気ポート9は、燃焼室6の天井面28から上方に延びるように形成されており、吸気弁11の開弁に伴って、燃焼室6内にはタンブル流が形成される。本実施形態では、燃焼室6の天井面28に対して吸気ポート9が直角に近い角度で接続されている(吸気ポート9の燃焼室6側の開口部分の内周面と燃焼室6の天井面28とのなす角度がより90度に近い状態とされている)。また、吸気ポート9の燃焼室6側の開口部分の面積が大きくされている。これにより、タンブル流の渦径は比較的小さくなる。具体的には、矢印Y1で示すように、吸気ポート9から燃焼室6に流入した後、燃焼室6内の排気側部分に向かう主たる吸気の流れが、より下向き(ピストン5の冠面S向き)とされる。また、矢印Y2で示すように、吸気ポート9から吸気側部分にも比較的多くの吸気が流れ込む。前記の主たる吸気流れY1は、ピストン5の冠面S付近において燃焼室6の吸気側に向かおうとするが、この流れが矢印Y2で示した流れにより阻害される。これらにより、本実施形態では、燃焼室6内に形成されるタンブル流は、燃焼室6の中央付近を通る径の小さい渦となる。また、これに伴い、吸気弁11の開弁中および吸気弁11の閉弁直後において、燃焼室6の天井面28の外周縁付近のガス流動は小さく抑えられる。なお、図5において、破線の矢印Y11は、吸気ポート9を図5の実線に示す状態よりも寝かせた状態で燃焼室6の天井面28に接続し、且つ、吸気ポート9の燃焼室6側の開口部分の面積を本実施形態よりも小さくしたときの比較例に係るタンブル流を例示したものである。
図4等に示すように、燃焼室6の底面を規定するピストン5の冠面Sは、その外周縁部に位置する平面状の基準面21と、基準面21よりも上方(シリンダヘッド4に近づく側)に隆起する隆起部20とを有している。隆起部20は、ペントルーフ状の燃焼室6の天井面28に沿うように、図2の断面視(つまり吸排気方向に沿った断面視)において気筒軸線Xに近づくほど高さが高くなるように形成されている。隆起部20の中央部、言い換えるとピストン5の冠面Sの中央部には、下方(シリンダヘッド4とは反対側)に窪むキャビティCが形成されている。
キャビティCは、平面視略円形を呈する平面状の底面部22と、底面部22の外周縁から上方かつ径方向外側に傾斜しつつ立ち上がる周面部23とを有している。周面部23の上端であるキャビティCの開口縁C1は、平面視でほぼ楕円形をなすように形成されており、吸排気方向の寸法よりも気筒列方向(吸排気方向と直交する方向)の寸法の方が長くなるように形成されている。
隆起部20は、キャビティCの吸気側に形成された吸気側傾斜面24と、キャビティCの排気側に形成された排気側傾斜面25とを有している。吸気側傾斜面24は、キャビティCの吸気側の開口縁C1から吸気側に離れるほど(径方向外側ほど)高さが低くなるように形成されており、排気側傾斜面25は、キャビティCの排気側の開口縁C1から排気側に離れるほど(径方向外側ほど)高さが低くなるように形成されている。
キャビティCの気筒列方向の外側であって吸気側傾斜面24と排気側傾斜面25との間に位置する領域には、一対の峰部26が形成されている。一対の峰部26は、冠面Sの中でも最も高い位置において略平面状に形成されている。
ここで、ピストン5の冠面SにおけるキャビティCの開口縁C1よりも径方向外側の領域(つまり吸気側・排気側傾斜面24、25、峰部26、基準面21)を「冠面Sの径方向外側領域」、ピストン5の冠面SにおけるキャビティCの開口縁C1よりも径方向内側の領域(つまりキャビティCの形成面22、23)を「冠面Sの径方向内側領域」という。本実施形態では、燃焼室6の天井面28とは反対側に窪むようにキャビティCが形成されているため、当然ながら、冠面Sの径方向外側領域とこれに対向する燃焼室6の天井面28との間の上下方向(ピストン摺動方向)の距離は、冠面Sの径方向内側領域とこれに対向する燃焼室6の天井面28との間の上下方向の距離よりも小さい。このため、ピストン5が上死点に接近したとき、冠面Sの径方向外側領域と天井面28との間の空間には、径方向外側から内側へと向かうガス流れであるスキッシュ流が形成される。以下では、燃焼室6のうち当該スキッシュ流が形成される部分、つまり冠面Sの径方向外側領域(キャビティCの開口縁C1よりも径方向外側の領域)と天井面28との間の部分を、スキッシュエリアと称する。
図1〜図3に示すように、シリンダヘッド4には、燃焼室6に燃料(主にガソリン)を噴射するインジェクタ15と、燃焼室6に非平衡プラズマを放電するプラズマ生成プラグ16とが、各気筒2に対し1組ずつ設けられている。なお、非平衡プラズマとは、電子、イオン、分子等のエネルギーが一様でない(電子のエネルギーがイオンや分子等のエネルギーよりも大きい)熱的に非平衡なプラズマのことである。非平衡プラズマは、温度上昇を伴わないことから、低温プラズマとも呼ばれる。このような性質の非平衡プラズマの供給は、燃焼室6内のガス温度をほとんど上昇させないが、燃焼室6内のガス成分を改質することにつながる(詳細は後述する)。
図6(a)(b)は、プラズマ生成プラグ16の先端部を拡大して示す図である。図7は、インジェクタ15単体の断面図である。図8は、燃焼室6およびその周辺部を拡大して示す断面図である。
図6(a)(b)に示すように、プラズマ生成プラグ16は、筒状のプラグ本体31と、プラグ本体31の内部に挿入された中心電極32と、中心電極32の先端から放射状に延びる複数(ここでは4つ)の放電電極33とを有している。本実施形態では、これら放電電極33が、請求項の「電極」に相当する。中心電極32の中心軸に沿う方向から見て、各放電電極33は、中心電極32の中心軸回りに90度ずつ互いに離間するように配設されている。各放電電極33は同じ形状を有している。
図4および図8等に示すように、プラズマ生成プラグ16は、放電電極33が平面視で(気筒軸線Xに沿う方向から見て)キャビティCの底面部22と重複する領域に、中心電極32の先端部分および放電電極33の全体が燃焼室6に露出する状態でシリンダヘッド4に取り付けられている。プラズマ生成プラグ16は、4つの放電電極33の先端がそれぞれ2つの吸気弁11と2つの排気弁12の各バルブ面の略中心とをそれぞれ向くような姿勢でシリンダヘッド4に取り付けられている。つまり、4つの放電電極33は、吸排気方向および気筒列方向とそれぞれ約45度の角度をもって交差する方向に延びている。
プラズマ生成プラグ16は、吸気側寄りの位置に取り付けられている。具体的には、気筒列方向について、プラズマ生成プラグ16の中心軸X2の位置と気筒軸線Xとはほぼ同じ位置である。一方、吸排気方向について、プラズマ生成プラグ16の中心軸X2は、気筒軸線Xよりも吸気側に位置している。つまり、プラズマ生成プラグ16の中心軸X2は、平面視で、気筒軸線Xと交差して吸排気方向に延びる第1基準線Z1上に位置し、かつ、気筒軸線Xと交差して気筒列方向に延びる第2基準線Z2よりも吸気側の領域に位置している。図例では、放電電極33の全体が、第2基準線Z2よりも吸気側の領域内となるように、プラズマ生成プラグ16は配置されている。
ここで、キャビティCの開口縁C1は、平面視で、第2基準線Z2について概ね対称となる形状を有している。これより、プラズマ生成プラグ16が前記のように配設されていることで、プラズマ生成プラグ16の放電電極33とキャビティCの開口縁C1との距離は、吸気側の方が排気側よりも短くなっている。つまり、放電電極33のうち吸気側に延びる電極(プラズマ生成プラグ16の中心軸X2から吸気弁11に向かって延びる電極、以下、吸気側電極33iという場合がある)の先端と、これに対向するキャビティCの開口縁C1との距離d1の方が、排気側に延びる電極(プラズマ生成プラグ16の中心軸X2から排気弁12に向かって延びる電極、以下、排気側電極33eという場合がある)の先端と、これに対向するキャビティCの開口縁C1との距離d2よりも短くなっている。
また、図7に示すように、プラズマ生成プラグ16の4つの放電電極33は、プラズマ生成プラグ16の中心軸に対応する位置から燃焼室6の外周側に向かうに従って下方(ピストン5の冠面Sに近づく方向)に傾斜しており、各放電電極33と燃焼室6の天井面28との離間量は、放電電極33の先端側(燃焼室6の外周側)ほど大きくなっている。
図6(a)に示すように、中心電極32は、アルミナ等からなる絶縁体34(碍子)によって覆われている。また、各放電電極33の上面(燃焼室6の天井面28側の面)も、アルミナ等からなる絶縁体34(碍子)によって覆われている。
中心電極32に所定のパルス電圧が印加されると(詳細は後述する)、この印加電圧に応じて各放電電極33から燃焼室6に設けられたアース側電極に向けて放電がなされる。これにより、放電電極33とアース側電極とを結ぶ放電経路に沿って非平衡プラズマが生成される。そして、電荷をもったプラズマの粒子(イオンと電子)が電場の作用によってガス分子と衝突し、オゾン(O3)やOHといった活性種が生成されるとともに、これら活性種が放電電極33からアース側電極に向かって移動する流れ(誘起流)が形成される。
図3に示すように、インジェクタ15は、燃料の噴出口(後述するノズル口44)が形成された先端部が燃焼室6の天井面28の中央付近に位置するように取り付けられている。本実施形態では、インジェクタ15は、その先端部が図3の断面視において気筒軸線X上に位置するように配設されている。
図7に示すように、インジェクタ15は、いわゆる外開式のインジェクタであり、筒状のバルブボディ41と、バルブボディ41内に進退可能に挿入されたニードル弁42と、印加された電圧に応じて変形するピエゾ素子を含む駆動部43とを有している。ニードル弁42は、先端側ほど外径が小さくなる略円錐台状の先端部42aを有している。
インジェクタ15の閉弁時、ニードル弁42は、その先端部42aの最大径部の周面がバルブボディ41の先端部の内周面に密着する状態でバルブボディ41に収容されている。このような外開式のインジェクタ15では、その開弁時にニードル弁42が突出方向に駆動されることにより、ニードル弁42の先端部42aとバルブボディ41との間に連続したリング状のスリットからなるノズル口44が形成される。このため、インジェクタ15の開弁時、燃料はノズル口44を通じてコーン状(詳しくはホローコーン状)に噴射されることになる。なお、本明細書では、このようなコーン状の燃料噴射も放射状に燃料を噴射する一態様である。
ニードル弁42のリフト量は、ピエゾ素子に印加される電圧の大きさおよび印加期間に応じて変化する。このようなリフト量の変化に応じて、ノズル口44から噴射される燃料の噴霧の拡がりや噴霧のペネトレーション(貫徹力)を調整することができる。
図8に示すように、燃焼室6を区画する各壁面、つまり気筒2の周面と、ピストン5の冠面Sと、燃焼室6の天井面28と、吸気弁11および排気弁12の各バルブヘッドの下面とには、それぞれ遮熱層19が設けられている。なお、気筒2の周面に設けられる遮熱層19は、ピストン5が上死点にあるときのピストンリング5aよりも上側(シリンダヘッド4側)の位置に限定されており、ピストンリング5aが遮熱層19上を摺動しないようになっている。
遮熱層19は、シリンダブロック3、シリンダヘッド4、ピストン5、および吸・排気弁11、12のいずれよりも熱伝導率および容積比熱が小さい材質により構成されている。これは、燃焼室6で生成された燃焼ガスの熱が燃焼室6の外部に放出されるのを抑制し、エンジンの冷却損失を低減するためである。なお、遮熱層19としては、シリコーン系の主材にシリカ系の多孔質粒子を含有させたものを好適に用いることができる。
前記のように、遮熱層19は、ピストン5が上死点にあるときの燃焼室6をほぼ全面的に覆っているが、燃焼室6の天井面28の一部の領域Dと、ピストン5のキャビティCの開口縁C1とには遮熱層19が形成されていない。遮熱層19は、例えばアルミ合金等からなるピストン5に比べて高い絶縁性を有している。従って、前記の領域DとキャビティCの開口縁C1との絶縁性は、燃焼室6の壁面の他の領域に比べて低くなっている。以下では、燃焼室6の天井面28に形成された絶縁性の低い領域Dを天井側非絶縁領域Dという。これより、プラズマ生成プラグ16の放電電極33から放電がなされたとき、この非平衡プラズマは、遮熱層19により覆われていない天井側非絶縁領域DまたはキャビティCの開口縁C1へと導かれる。具体的には、ピストン5が比較的下方に位置して、放電電極33の先端と天井側非絶縁領域Dとの距離の方が放電電極33の先端とキャビティCの開口縁C1との距離よりも短いときは、非平衡プラズマは基本的に天井側非絶縁領域Dに導かれ、ピストン5が比較的上方に位置して、放電電極33の先端と天井側非絶縁領域Dとの距離の方が放電電極33の先端とキャビティCの開口縁C1との距離よりも長いときは、非平衡プラズマは基本的にキャビティCの開口縁C1に導かれる。このように、プラズマ放電時には、放電電極33がアノードとして機能し、天井側非絶縁領域DまたはキャビティCの開口縁C1がカソードつまりアース側電極として機能する。
図9は、燃焼室6の天井面28を示した概略平面図である。図9に示すように、天井側非絶縁領域Dは、気筒軸線Xおよびプラズマ生成プラグ16の中心軸を中心とするリング状に設けられている。本実施形態では、天井側非絶縁領域Dは、吸気弁11および排気弁12の各バルブ面の中心付近を通るように構成されており、吸気弁11および排気弁12のバルブ面の一部にそれぞれ絶縁性の低い領域が形成されている。また、ピストン5が上死点と下死点の中央位置付近から上死点までの位置にあるときは、プラズマ生成プラグ16の放電電極33の先端とキャビティCの開口縁C1との距離の方が、放電電極33の先端と天井側非絶縁領域Dとの距離よりも短くなるような位置に、天井側非絶縁領域Dは設けられている。
図1に戻ってエンジンの吸排気系について説明する。吸気通路50は、4つの気筒2の各吸気ポート9と連通する4本の独立吸気通路51と、各独立吸気通路51の上流端部(吸気流れ方向の上流側の端部)に接続されたサージタンク52と、サージタンク52から上流側に延びる単管状の共通吸気通路53とを有している。共通吸気通路53の途中部には、エンジン本体1に導入される吸気の流量を調節する開閉可能なスロットル弁54が設けられている。サージタンク52には、エンジン本体1に導入される吸気の流量を検出するエアフローセンサSN2が設けられている。
排気通路60は、4つの気筒2の各排気ポート10と連通する4本の独立排気通路61と、各独立排気通路61の下流端部(排気ガス流れ方向の下流側の端部)が1箇所に集合した集合部62と、集合部62から下流側に延びる単管状の共通排気通路63とを有している。共通排気通路63には、排気ガスを浄化するための触媒コンバータ65が設けられている。触媒コンバータ65には、例えば、排気ガス中に含まれるHCおよびCOを酸化して無害化する酸化触媒と、排気ガス中に含まれる粒子状物質(PM)を捕集するGPF(ガソリン・パティキュレート・フィルタ)とが内蔵されている。
EGR装置70は、共通排気通路63とサージタンク52とを連通するEGR通路71と、EGR通路71を通じて吸気通路50に還流される排気ガス(EGRガス)を冷却するEGRクーラ72と、EGRガスの流量を調整するためにEGR通路71に開閉可能に設けられたEGR弁73とを有している。
(2)エンジンの制御系統
図10は、エンジンの制御系統を示すブロック図である。本図に示されるPCM100は、エンジンを統括的に制御するためのマイクロプロセッサであり、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されている。なお、PCM100は、請求項にいう「制御装置」の一例に該当する。
PCM100には各種センサによる検出信号が入力される。例えば、PCM100は、前述したクランク角センサSN1およびエアフローセンサSN2と電気的に接続されており、これらのセンサによって検出された情報(つまりクランク角、エンジン回転速度、吸気流量等)が電気信号としてPCM100に逐次入力されるようになっている。
また、車両には、当該車両を運転するドライバーにより操作されるアクセルペダル(図示省略)の開度を検出するアクセルセンサSN3が設けられており、このアクセルセンサSN3による検出信号もPCM100に入力される。
PCM100は、前記各種センサからの入力信号に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつエンジンの各部を制御する。すなわち、PCM100は、インジェクタ15、プラズマ生成プラグ16、スロットル弁54、およびEGR弁73等と電気的に接続されており、前記演算の結果等に基づいてこれらの機器にそれぞれ制御用の信号を出力する。
例えば、PCM50は、アクセルセンサSN3により検出されるアクセル開度等に基づいてエンジンの負荷(要求トルク)を算出し、算出したエンジン負荷と、エアフローセンサSN2により検出される吸気流量と、クランク角センサSN1により検出されるエンジン回転速度とに基づいて、気筒2に噴射すべき燃料の量(目標噴射量)および燃料の噴射タイミングを決定し、その決定に従ってインジェクタ15を制御する。
また、PCM100は、前記エンジン負荷およびエンジン回転速度に基づいて、プラズマ生成プラグ16から非平衡プラズマを放電すべきタイミングおよび放電期間を決定し、その決定に従ってプラズマ生成プラグ16を制御する。
図11は、非平衡プラズマの生成条件を説明するためのグラフであり、プラズマ生成プラグ16に印加されるパルス電圧の条件(パルス幅および印加電圧)と、生成されるプラズマの種類との関係を示している。グラフの横軸はパルス幅を、縦軸は印加電圧のピーク値をそれぞれ示しており、各軸のスケールはともに対数スケールである。この図11のグラフに示すように、非平衡プラズマを生成するには、パルス幅を0.01μsec以上かつ1μsec未満に設定することが必要である。これに対し、パルス幅を1μsec以上まで長くすると、熱平衡プラズマが生成されるようになる。このように、パルス幅の短いパルス電圧を印加すると非平衡プラズマが生成されるのは、パルス幅が短い条件下では電子のみが反応して、イオンや分子はほとんど反応しないからである。
前記の知見より、本実施形態では、PCM100により、図12に示すような条件でプラズマ生成プラグ16への印加電圧が制御される。すなわち、PCM100は、10kVのピーク電圧と0.1μsecのパルス幅をもったパルス電圧がプラズマ生成プラグ16の中心電極32に印加されるように、図外の電源部から中心電極32への電力の供給を制御する。このとき、PCM100は、パルス電圧を100kHzの周波数で繰り返し印加する。これにより、プラズマ生成プラグ16の4つの放電電極33と、絶縁性の低い天井側非絶縁領域Dまたはピストン5のキャビティCの開口縁C1との間で非平衡プラズマが生成される。
なお、非平衡プラズマを生成するためのパルス電圧のピーク電圧は、運転条件に応じて1kV〜30kVの範囲で変更してもよい。例えば、燃焼室6の圧力(筒内圧)が高くなる運転条件であるほどピーク電圧を高く設定することが考えられる。
燃焼室6内で非平衡プラズマが生成されると、プラズマ生成プラグ16の放電電極33の周辺の環境に応じて、種々の物質が生成される。特に、放電電極33の周辺が空燃比の大きいリーンな環境であった場合には、非平衡プラズマの作用により、前記のように、オゾン(O3)やOH等の、燃焼室6内での混合気の燃焼を促進させる物質である活性種(ラジカル)が生成される。
(3)運転条件に応じた制御
図13は、エンジンの運転条件(負荷/回転速度)に応じた制御の相違を説明するためのマップ図である。本図に示される運転マップは、所定負荷Ts未満の低負荷域A1と、所定負荷Ts以上の高負荷域A2とに大別される。PCM100は、エンジンの運転ポイントが低負荷域A1および高負荷域A2のいずれに含まれるかを各センサSN1〜SN3の検出値等に基づいて都度判定し、判定された運転領域に適合する燃焼が実現されるようにエンジンの各部を制御する。例えば、高負荷域A2での運転時、PCM100は、燃焼室6のほぼ全体にわたって(キャビティCの内側と外側の双方において)混合気が形成されかつ当該混合気が圧縮着火により燃焼するように、インジェクタ15およびプラズマ生成プラグ16を制御する。一方、低負荷域A1での運転時、PCM100は、キャビティCの内部に限定的に混合気が形成されかつ当該混合気が圧縮着火により燃焼するように、インジェクタ15およびプラズマ生成プラグ16を制御する。
高負荷域A2および低負荷域A1での燃焼制御の具体例はそれぞれ次のとおりである。
(a)高負荷域での制御
図14、図15は、高負荷域A2での運転時にPCM100により実行される燃焼制御の内容を例示するためのタイムチャートである。図14は、高負荷域A2のうちエンジン回転数が予め設定された基準回転数N1以下の高負荷低速域A21での運転時の例を示している。図15は、高負荷域A2のうちエンジン回転数が基準回転数N1よりも高い高負荷高速域A22での運転時の例を示している。例えば、図14は、高負荷高速域A21に含まれる、エンジン負荷が全負荷(最大負荷)の2/3程度で、エンジン回転数が3000rpmのときに実行される燃料噴射およびプラズマ放電のタイミングを示している。これら図14、図15に示すように、高負荷域A2での運転時、PCM100は、吸気行程と圧縮行程とにそれぞれインジェクタ15から燃料を噴射させるとともに、プラズマ生成プラグ16から非平衡プラズマを放電させる。
(高負荷低速域での制御)
高負荷低速域A21では、吸気行程の前半と圧縮行程の後半とにそれぞれインジェクタ15から燃料が噴射される。以下では、吸気行程の前半に行われる燃料噴射を前段噴射、圧縮行程の後半に行われる燃焼噴射を後段噴射という。
前段噴射は、吸気行程の開始時期である排気上死点(図14の左側のTDC)から吸気行程の1/2が経過した時点までの間にまとめて(分割されることなく)実行される。吸気弁11は、吸気行程中の全期間で開弁しており、吸気弁11の開弁中に前段噴射は実施される。例えば、吸気弁11は、排気上死点前約20°CA〜吸気下死点後約60°CAで閉弁し、吸気弁11のリフト量が比較的高いときに前段噴射は実施される。
後段噴射は、圧縮行程の1/4が経過した時点から圧縮行程の3/4が経過した時点までの間に実行される。
後段噴射のタイミングについてより詳しく説明する。圧縮行程の1/2が経過した時点とは、圧縮上死点(図12の右側のTDC)から90°進角したBTDC90°CAのことであり(「°CA」はクランク角を表す)、圧縮行程の3/4が経過した時点とは、圧縮上死点から45°進角したBTDC45°CAのことである。言い換えると、本実施形態では、後段噴射として、BTDC90°CAからBTDC45°CAまでの間に、インジェクタ15から燃料が噴射される。以下では、後段噴射が行われる前記の期間(BTDC45°CAからBTDC45°CAまでの期間)のことを「圧縮行程の1/2〜3/4」などということがある。
図16は、高負荷域A2での運転時にインジェクタ15から噴射された燃料の挙動を説明するための図である。なお、図16では便宜上、プラズマ生成プラグ16の図示を省略するとともに、これよりも紙面手前に位置するインジェクタ15を本来のプラズマ生成プラグ16の位置に図示している。
図16(a)に示すように、前段噴射により吸気行程前半に噴射された燃料は、燃焼室6の天井面28の中央付近に配置されたインジェクタ15からコーン状に拡がる。噴射された燃料の多くは、燃焼室6内に拡散する。しかし、前段噴射の実施中に吸気弁11が開弁していることで、図16(a)に示すように、インジェクタ15から噴射された燃料の一部は、充分に拡がる前、および、充分に気化する前に、吸気弁11に衝突する。その結果、吸気弁11には、排気弁12に比べて、比較的多くの燃料が液滴状態で付着することになる。また、一部の燃料は、吸気弁11との衝突によって吸気弁11まわりの燃焼室6の天井面28に飛散し、吸気弁11まわりの燃焼室6の天井面28にも、比較的多くの燃料が液滴状態で付着することになる。
このように、本実施形態では、前段噴射の実施時に、吸気弁11およびその周囲の燃焼室6の天井面28に、多くの燃料が液滴状態で付着する。なお、吸気弁11およびその周囲の燃焼室6の天井面28に付着した燃料の一部は、天井面28を伝って気筒2の内周面の吸気側部分に移動する。
図16(b)に示すように、後段噴射が行われる圧縮行程後半の時点において、燃焼室6の各所には前段噴射に係る燃料と空気の混合気が形成される。ただし、図16(b)において濃い目の着色領域で示した燃焼室6の吸気側の壁面(吸気弁11のバルブ面を含む天井面28の吸気側の部分および気筒2の内周面の吸気側の部分)近傍には、前記のように前段噴射時に液滴状態で付着した燃料によって比較的リッチな(他の領域よりも燃料濃度の濃い)混合気が形成される。なお、図16(b)において濃い目の着色領域以外の領域を薄く着色しているのは、相対的にリーンな(燃料濃度の薄い)混合気が存在していることを表している。ここで、前段噴射によって気筒2の内周面の排気側の部分にも燃料は付着するが、その量は吸気側の部分に比べて少なく抑えられる。
一方、後段噴射により圧縮行程の1/2〜3/4に噴射された燃料は、ピストン5のキャビティCに導入されて、圧縮上死点までキャビティCの内部に留まる。すなわち、本実施形態では、キャビティCと対向する燃焼室6の天井面28の中央付近にインジェクタ15が配置されるので、圧縮行程の1/2〜3/4というタイミングでインジェクタ15からコーン状に燃料が噴射されると、噴射された燃料は、径方向に十分に拡がる前にキャビティCに導入される(図13(b)参照)。
図16(c)に示すように、一旦キャビティCに導入された燃料は、そのほとんどが、キャビティCの外部に漏れ出ることなく、圧縮上死点まで(着火直前まで)キャビティCの内部に留まることになる。これに伴い、圧縮上死点付近において、キャビティCの上方の混合気は、比較的リーンな状態に維持される。
ここで、ピストン5が上死点に近づく過程で、気筒2の内周面に付着していた燃料の一部は気化する。そのため、キャビティCの開口縁C1よりも径方向外側に位置するスキッシュエリアにも、比較的(キャビティCの上方部分よりも)リッチな混合気が形成される。
このように、本実施形態では、圧縮上死点近傍における燃焼室6において、前段噴射に基づく相対的にリッチな混合気(燃料濃度が高い混合気)が燃焼室6の外周側部分つまりスキッシュエリア(キャビティCの外側)に形成されるとともに、後段噴射に基づくよりリッチな混合気(燃料濃度が高い混合気)がキャビティCの内部に形成される。また、燃焼室6の吸気側部分の壁面近傍には、特にリッチな混合気(燃料濃度が高い混合気)が形成される。
図14に示すように、高負荷低速域A21では、プラズマ生成プラグ16からの非平衡プラズマの放電は、前段噴射の終了後から後段噴射の開始前までの期間に実行される。以下では、この前段噴射の終了後から後段噴射の開始前までの期間に実行される放電を主放電という。
図17は、主放電が実行されたときの燃焼室6内の状況を模式的に示す図である。本実施形態では、主放電は、吸気下死点(BDC)から吸気弁11の閉弁時期付近の所定時期までの期間にわたって実行され、この期間中、継続して中心電極32にパルス電圧が印加される。前記のように吸気弁11は吸気下死点よりも前の所定時期に開弁するようになっており、吸気弁11が開弁している状態で主放電は開始される。
本実施形態では、エンジン回転数によらず主放電の開始時期は一定に維持される。一方、エンジン回転数が高くなるほど、クランク角度において主放電の終了時期は遅角される。すなわち、エンジン回転数が低いときは図17の実線で示す期間中、主放電が実施され、エンジン回転数が高いときは図17の破線で示す期間中、主放電が実施される。
前記のように、ピストン5が上死点と下死点の中央位置付近から上死点までの位置にあるときは、プラズマ生成プラグ16の放電電極33の先端とキャビティCの開口縁C1との距離の方が、放電電極33の先端と天井側非絶縁領域Dとの距離よりも短く設定されている。これより、主放電では、図17に示すように放電電極33と天井側非絶縁領域Dとを結ぶラインに沿って非平衡プラズマが放電される。つまり、非平衡プラズマは放電電極33の先端から燃焼室6の外周に向かって放出されて絶縁レベルの低い天井側非絶縁領域Dに導かれる。
主放電は、後段噴射よりも前であって燃焼室6内の燃料濃度が低く、オゾン(O3)やOH等の活性種が生成されやすい状態で実行される。また、主放電は、吸気下死点付近であって燃焼室6内の圧力が比較的低い時期に実施される。プラズマ放電では、放電がなされる場の圧力すなわち雰囲気圧力が低いときの方が高いときよりも、形成されるオゾン(O3)やOH等の活性種が多くなる。そのため、主放電が前記のようなタイミングで実施されることによって、燃焼室6内には多くの活性種が生成される。
オゾン(O3)等の活性種は、前記のように、放電経路上で生成されて、放電電極33からアース側電極側に向かって流れる。そのため、主放電では、プラズマ生成プラグ16の放電電極33と天井側非絶縁領域Dとを結ぶライン回りでオゾン(O3)等の活性種が生成されて、放電電極33から天井側非絶縁領域Dに向かってこの活性種が流動する。本実施形態では、吸気弁11と排気弁12の各バルブ面に天井側非絶縁領域Dが形成されているとともに、各放電電極(吸気側電極33iおよび排気側電極33e)が吸気弁11および排気弁12の各バルブ面の中心に向かって延びるように配設されているため、吸気弁11および排気弁12回りに活性種が供給される。
また、前記のように、本実施形態では、プラズマ生成プラグ16が吸気側寄りに配置されており、天井側非絶縁領域Dのうち吸気側の部分と放電電極33との距離(換言すると、吸気側電極33iと天井側非絶縁領域Dとの距離)の方が、天井側非絶縁領域Dのうち排気側の部分と放電電極33との距離(換言すると、排気側電極33eと天井側非絶縁領域Dとの距離)よりも短い。そのため、中心電極32に加えられた電気は、排気側電極33eと天井側非絶縁領域Dとの間よりも、吸気側電極33iと天井側非絶縁領域Dとの間の方に流れやすく、放電電極33(吸気側電極33i)から天井側非絶縁領域Dのうちの吸気側の領域に向けて流れる電気エネルギーの方が、放電電極33(排気側電極33e)から天井側非絶縁領域Dのうちの排気側の領域に向けて流れる電気エネルギーの方が大きくなる。これにより、主放電では、吸気側電極33iと天井側非絶縁領域DとをむすぶラインL1回りで生成される活性種の方が、排気側電極33eと天井側非絶縁領域DとをむすぶラインL2回りで生成される活性種よりも多くなり、吸気弁11回りにより多くの(排気弁12回りに比べて)活性種が供給される。
ここで、吸気弁11の開弁に伴って燃焼室6内にはタンブル流が形成される。ただし、図5の破線や実線および図17の破線Y1に示すように、タンブル流は主として吸気弁11から下方に向かう流れであり、天井側非絶縁領域Dが位置する燃焼室6の天井面の外周縁付近の流れは比較的弱く抑えられる。特に、本実施形態では、図5の実線についての前記説明のように、燃焼室6の天井面の外周縁付近の流れは非常に弱くされる。そのため、生成された活性種は放電電極33から天井側非絶縁領域Dに向かった後、この領域D付近つまり燃焼室6の天井面の外周縁付近に滞留する。
主放電の後は、前記のように、後段噴射が実施されてキャビティC内にリッチな混合気が形成される。その後、圧縮上死点付近において、燃料濃度が高く且つ比較的低温の燃焼室6の壁面から遠いキャビティC内に存在する混合気が着火、燃焼する。これに続いて燃焼室6の外周側部分つまりスキッシュエリアに存在する混合気が着火、燃焼する。このとき、燃焼室6の外周縁付近に留まっている活性種によって、スキッシュエリアに存在する混合気の着火、燃焼が促進される。具体的には、活性種がない場合よりもスキッシュエリアに存在する混合気の着火が早期に開始し、且つ、この混合気の燃焼速度が早められる。
本実施形態では、前記のように、吸気弁11回りにより多くの活性種が供給されるようになっていることで、前段噴射に起因して燃焼室6の吸気側の壁面近傍に形成された燃料濃度が非常に高い混合気も、活性種の作用によって適切に燃焼することになる。また、排気弁12は高温の排気が流通することで低温の空気が流通する吸気弁11よりも高温に維持される。そのため、吸気側のスキッシュエリアの方が排気側のスキッシュエリアよりも温度が低くなりやすく、吸気側のスキッシュエリア内の混合気の方が排気側のスキッシュエリア内の混合気よりも燃焼しにくい傾向にある。これに対して、吸気弁11回りつまり吸気側のスキッシュエリアにより多くの活性種が供給されることで、吸気側のスキッシュエリア内の混合気の燃焼が効果的に促進される。
(高負荷高速域での制御)
図15に示すように、高負荷高速域A22でも、高負荷低速域A21と同様に吸気行程の前半と圧縮行程の後半とにそれぞれインジェクタ15から燃料が噴射される。この燃料噴射の制御は、高負荷高速域A22と高負荷低速域A21とで同様であり、ここでの説明は省略する。
一方、図15に示すように、高負荷高速域A22では、プラズマ生成プラグ16からの放電として、前段噴射の終了後から後段噴射の開始前までの期間に実行される主放電に加えて、後段噴射の終了後、圧縮上死点を含む所定の期間に亘って実行される追加放電が実施される。主放電の制御内容は、高負荷高速域A22と高負荷低速域A21とで同様であり、ここでの説明は省略する。
本実施形態では、追加放電は、スキッシュ流が弱くなり始める圧縮行程後期の所定時期から混合気が着火するまでの間に実行される。本実施形態の場合、ピストン5の上昇に伴いスキッシュエリア(キャビティCの開口縁C1よりも径方向外側に位置する領域)に形成されるスキッシュ流、つまり径方向外側から内側へと向かうガス流れは、圧縮上死点から10°進角したBTDC10°CAから弱くなり始める。これに伴い、追加放電を開始する最早時期はBTDC10°CAとされる。また、本実施形態では、高負荷高速域A22での運転時に、混合気は遅くとも、圧縮上死点から10°遅角したATDC10°CAまでには着火する。このため、前記プラズマ放電を終了する最遅時期はATDC10°CAとされる。言い換えると、本実施形態では、スキッシュ流が弱くなり始めるBTDC10°CAから、混合気着火の最遅時期であるATDC10°CAまでの間に、プラズマ放電が開始および終了される。図12の例では、プラズマ生成プラグ16からの非平衡プラズマの放電がBTDC5°CAからATDC5°CAまでの間に継続的に実行される。なお、本明細書において、混合気の着火時点とは、燃料の熱炎反応の開始時点のことである。この熱炎反応の開始時期は、供給された全燃料の約10%質量分が燃焼した時点(MFB10%)として定義することができる。
図18は、追加放電が実行されたときの燃焼室6内の状況を模式的に示す図である。本実施形態では、追加放電がBTDC10°CA以降に実施されることに伴い、追加放電の実施時において、放電電極33の先端とキャビティCの開口縁C1との距離の方が放電電極33の先端と天井側非絶縁領域Dとの距離よりも短くなる。そのため、追加放電では、主に放電電極33からキャビティCの開口縁C1に向かって非平衡プラズマが放電される。つまり、非平衡プラズマは、放電電極33とキャビティCの開口縁C1とを結ぶラインに沿い、放電電極33の先端からキャビティCの開口縁C1に向かって燃焼室6の外周側向き且つ下向きに流れ、このライン回りでて非平衡プラズマが生成される。なお、一部の非平衡プラズマが放電電極33から天井側非絶縁領域Dに流れることもある。
図16(c)に示したように、圧縮上死点付近では、前段噴射と後段噴射とによって、スキッシュエリアとキャビティCの内部とに、それぞれ比較的リッチな混合気が形成されている。一方で、放電電極33の先端とキャビティCの開口縁C1とを結ぶ放電経路L11、L12は、前記2箇所の混合気領域の間(スキッシュエリアとキャビティCとの間)に位置しており、ここに存在する混合気は比較的リーンである。また、前記のように、後段噴射に係る燃料はキャビティC内に留まり、キャビティCの上方に存在する混合気は比較的リーンである。そのため、追加放電によっても、放電電極33の先端とキャビティCの開口縁C1とを結ぶ放電経路L11、L12回りで非平衡プラズマオゾン(O3)やOH等の活性種が生成される。
ここで、前記のように、プラズマ生成プラグ16は、吸気側電極33iの先端とキャビティCの開口縁C1との距離d1の方が、排気側電極33eの先端とキャビティCの開口縁C1との距離d2よりも短く、キャビティCの開口縁C1のうち吸気側の部分と放電電極33との距離の方が、キャビティCの開口縁C1のうち排気側の部分と放電電極33との距離よりも短い。そのため、放電電極33(吸気側電極33i)からキャビティCの開口縁C1のうちの吸気側の領域に向けて流れる電気エネルギーの方が、放電電極33(排気側電極33e)からキャビティCの開口縁C1のうちの排気側の領域に向けて流れる電気エネルギーの方が大きくなる。これにより、追加放電では、吸気側電極33iとキャビティCの開口縁C1とをむすぶラインL11回りで生成される活性種の方が、排気側電極33eとキャビティCの開口縁C1とをむすぶラインL12回りで生成される活性種よりも多くなり、追加放電においても、吸気弁11回りにより多くの(排気弁12回りに比べて)活性種が供給される。
このようにして圧縮上死点付近で活性種が混合気に追加供給されるのと併せて、ピストン5が下降を開始する。ピストン5が下降を開始すると、スキッシュエリアには、径方向内側から外側へと流れる逆スキッシュ流が形成され始める。このため、放電電極33とキャビティCの開口縁C1とを結ぶライン回りで生成された活性種は、その多くが前記逆スキッシュ流に乗ってスキッシュエリアへと移動することになる。
このように、高負荷高速域A22では、主噴射によって生成された活性種に加えて追加放電によって生成された活性種がスキッシュエリアに供給されて、スキッシュエリアに存在する混合気の着火、燃焼が促進される。特に、吸気弁11回りすなわち吸気側のスキッシュエリアにより多くの活性種が供給されることで、吸気側のスキッシュエリアに存在する燃料濃度が高く且つ温度が比較的低い混合気が適切に燃焼することになる。
本実施形態では、追加放電の終了とほぼ同時に(つまりATDC5°CAの近傍で)混合気は着火する。例えばATDC5〜10°CA程度で混合気は着火し、圧縮着火燃焼が開始される。
(吸気の制御)
前記のように、高負荷域A2での運転時は、主にキャビティCの内部とスキッシュエリアとに混合気が形成される(つまり燃焼室6内の広い範囲に燃料が分布する)が、その一方で、燃焼室6に導入される空気の量はかなり多くされ、その結果、燃焼室6内の空燃比(A/F)は、理論空燃比(14.7)よりも大幅にリーンな値に設定される。具体的に、高負荷域A2では、燃焼室6全体における平均の空燃比、つまり1サイクル中にインジェクタ15から噴射される燃料の量と燃焼室6内の空気量との比(質量比)が、理論空燃比に対し2倍を超えて大きい値に設定される。言い換えると、高負荷域A2では、空気過剰率λが2よりも大きくなる(λ>2相当の空気が燃焼室6に導入される)ように、スロットル弁54が十分に高い開度まで開かれる。また、高負荷域A2では、少なくとも最高負荷の近傍を除いて、EGR弁73が開弁され、所定量のEGRガスが燃焼室6に導入される。例えば、高負荷域A2では、インジェクタ15から噴射される燃料の量と燃焼室6内の全ガス量(空気およびEGRガスの合計量)との比であるガス空燃比(G/F)が、30以上に設定される。なお、高負荷域A2でλ>2相当の空気量を確保しようとしても、自然吸気だけでは空気量が不足するおそれがあるが、このような場合は過給機を追加すればよい。
このように、高負荷域A2では、燃焼室6内の空気過剰率λが2よりも大きい非常にリーンな状態とされるが、前述した活性種の存在によって特にスキッシュエリア内の混合気(言い換えるとキャビティCの内部よりも低温の環境にある混合気)の燃焼が促進されるので、λ>2というリーンな環境下であるにもかかわらず、混合気の燃焼速度が速められ、比較的短時間のうちに燃焼が終了することになる。
(b)低負荷域での制御
詳細な図示は省略するが、前記高負荷域A2よりもエンジン負荷が低い(つまり燃料の所要量が減る)低負荷域A1では、インジェクタ15からの燃料噴射が圧縮行程の後半にのみ実行され、かつ当該燃焼噴射が終了してから圧縮上死点までの間にプラズマ生成プラグ16から非平衡プラズマが放電される。
例えば、低負荷域A1では、圧縮行程の1/2〜3/4において複数回に分けてインジェクタ15から燃料が噴射される。これにより、低負荷域A1では、キャビティCの内部に限定して混合気が形成される。すなわち、混合気の全部または大部分がキャビティCの内部に形成され、キャビティCの外部にはほとんど混合気が形成されない。
また、低負荷域A1では、圧縮行程の3/4経過時点(BTDC45°CA)以降であって燃料噴射が終了してから圧縮上死点までの間にプラズマ生成プラグ16から放電がなされる。このタイミングで放電がなされることで、低負荷域A1では、前記の追加噴射と同様に放電電極33の先端とキャビティCの開口縁C1とを結ぶライン回りで非平衡プラズマおよび活性種が生成されるとともに、主としてスキッシュエリアに活性種が供給される。これにより、キャビティCの中心部に比べれば温度が低い傾向にあるスキッシュエリアの混合気の燃焼速度が速くなり、混合気の燃焼期間が短縮される。特に、前記のように、追加放電によって吸気側のスキッシュエリアに多量の活性種が供給されることで、排気側に比べて温度が低い吸気側のスキッシュエリアの混合気の燃焼速度が効果的に高められる。
燃焼室6全体の混合気の空燃比(A/F)は、理論空燃比に対し2倍を超えて大きい値に設定される(つまりλ>2とされる)。このように、本実施形態では、高負荷域A2でも低負荷域A1でも(エンジンの全ての運転領域において)、λ>2というリーンな環境下で混合気を圧縮着火燃焼させる制御が実行される。
(4)作用効果
以上説明したように、本実施形態では、非平衡プラズマを生成可能なプラズマ生成プラグ16が設けられるとともに、このプラズマ生成プラグ16が吸気側寄りに設けられて、キャビティCの開口縁C1のうち吸気側に位置する部分と放電電極33との距離の方がキャビティCの開口縁C1のうち排気側に位置する部分と放電電極33との距離よりも短くなるように構成されている。そして、エンジンが高負荷高速域A22で運転されているときに、前段噴射が実施されてキャビティCの内部と当該キャビティCよりも径方向外側のスキッシュエリアつまり燃焼室6の外周部分に混合気が形成されるようにインジェクタ15が制御されるとともに、前段噴射および後段噴射の実施後であってインジェクタ15から燃料が噴射された後、混合気が着火する前に、追加放電が実施されて、放電電極33からキャビティCの開口縁C1に向けて放電がなされるようになっている。そのため、予混合圧縮着火式エンジンにおける高負荷高速域A22の運転時において、燃焼騒音を適正なレベルに抑えながら燃焼速度を速めることができるという利点がある。また、低負荷域A1においても、同様に追加放電が実施されるようになっており、低負荷域A1の運転時においても燃焼騒音を適正なレベルに抑えながら燃焼速度を速めることができる。
具体的には、プラズマ生成プラグ16から放電がなされることで燃焼室6内に非平衡プラズマおよびオゾン(O3)等の活性種を生成することができる。ここで、放電電極33とキャビティCの開口縁C1との距離が前記のように設定されていることで、放電電極33からはキャビティCの開口縁C1のうち吸気側の領域に向けて多くの電気エネルギーが供給される。この結果、オゾン(O3)等の活性種の多くが吸気側のスキッシュエリアに生成されることになる。そのため、吸気側のスキッシュエリアにおける混合気の燃焼を活性種の作用によって促進して、この混合気の燃焼速度を速めて燃焼期間を短縮することができる。
ここで、燃焼室6の外周に位置するスキッシュエリア内の温度は、燃焼室6の中央に位置するキャビティC内の温度よりも低くなる。さらに、吸気弁11が配置された吸気側のスキッシュエリアの温度は、高温に維持される排気弁12が配置された排気側のスキッシュエリアの温度に比べて低くなりやすく、吸気側のスキッシュエリアの温度は燃焼室6内の他の領域よりも特に低くなる傾向にある。また、吸気弁11の開弁中に前段噴射が実施されて燃料の一部が吸気弁11に衝突することで、吸気側のスキッシュエリア(より詳細には、燃焼室6の吸気側の壁面近傍)には燃料濃度が非常に高い混合気が形成される。このため、仮に吸気側のスキッシュエリアへの活性種の供給がなかった場合、吸気側のスキッシュエリア内の混合気は、キャビティC内の混合気に対し相当程度遅れて着火し、着火後の燃焼速度もかなり遅くなってしまう。これに対し、前記実施形態では、吸気側のスキッシュエリアに多量の活性種が供給されるので、吸気側のスキッシュエリア内の混合気の着火遅れを短縮できるとともに、当該混合気の燃焼速度(つまり燃焼の後半部の燃焼速度)を速めることができる。
さらに、前記実施形態では、吸気側よりは少ないが、排気側のスキッシュエリアにも活性種が供給される。そのため、キャビティC内よりも低温に抑えられる排気側スキッシュエリア内の混合気の燃焼も促進することができる。
しかも、先に着火するキャビティC内の混合気の燃焼速度はほぼ変わらないので、燃焼の前半部に生じる圧力上昇が顕著になることはない。このため、燃焼騒音を適正なレベルに抑えながら、混合気の全体を短期間のうちに燃焼させることができ、十分に高い熱効率を得ることができる。
図19は、前記の作用効果を説明するための図である。この図19では、前記実施形態の方法により混合気を燃焼させた場合の熱発生率の波形をW1で示している。この波形W1に示すように、非平衡プラズマ(活性種)を利用してスキッシュエリア内の混合気の燃焼速度を速めた場合(つまり前記実施形態の方法による場合)には、燃焼騒音を考慮した上限の熱発生率である「燃焼騒音限界」のラインよりも下側において(つまり過大な燃焼騒音が発生しない範囲で)、比較的急激に立ち上がりかつ落ち込む十分にピーキーな燃焼波形を得ることができる。これにより、燃焼期間が短く熱効率に優れ、しかも過大な燃焼騒音を伴わない理想に近い燃焼を実現することができる。
図15における波形W2は、非平衡プラズマに基づく活性種の供給がなかった場合の熱発生率の波形を示している。この波形W2に示すように、スキッシュエリアに活性種が供給されなかった場合には、温度が高いキャビティC内の混合気が燃焼するステージである燃焼の前半部こそ速い燃焼速度が得られるが、温度が低いスキッシュエリア内の混合気が燃焼するステージである燃焼の後半部については燃焼速度が大幅に低下し、全体として燃焼期間が長期化してしまう。すなわち、燃焼の後半部では、ピストン5の低下(燃焼室6の膨張)が進んでいるため、スキッシュエリア内の温度が元々低かったことと相俟って、このスキッシュエリア内の混合気の燃焼速度は大幅に低下せざるを得ない。このように、プラズマ放電(活性種の供給)がされなかった場合には、スキッシュエリア内の混合気の燃焼が緩慢化する結果、全体として燃焼期間が長期化し、熱効率の低下を招くことが理解される。
なお、仮に燃焼室6の全体に活性種を供給するなどして、スキッシュエリア内の混合気とキャビティC内の混合気の双方の燃焼を促進するようにした場合には、例えば図15に波形W3で示すように、より燃焼期間を短縮して熱効率を高めることが可能になる。しかしながら、このようにすると、元々高温であるために燃焼が急峻化し易いキャビティC内の混合気の燃焼がますます急峻化してしまい、燃焼騒音限界を超えるほど燃焼初期の熱発生率の立ち上がりが急になってしまう。これでは、熱効率の面では優れていても、燃焼騒音が大きくなりすぎて商品性を維持することができなくなる。同様に、仮に、吸気側と排気側のスキッシュエリアの双方に多量の活性種を供給すると、排気側のスキッシュエリア内での燃焼が過度に促進されることで、この部分の混合気がキャビティC内の混合気と同時期に燃焼してしまい燃焼騒音が過大になってしまう。これに対し、前記実施形態では、スキッシュエリア内の混合気の燃焼のみが促進(高速化)されるとともに、吸気側のスキッシュエリア内の混合気の燃焼が効果的に促進されるため、燃焼騒音が過大にならない範囲で可及的に燃焼速度を速めることができ、商品性と熱効率とを高次元に両立することができる。
また、前記実施形態では、高負荷域A2での運転時に、燃焼室6内の空気過剰率λが2より大きくされるので、混合気の燃焼温度を大幅に低下させることができ、燃焼に伴うNOxの発生量を十分に抑制することができる。ここで、図19中の「NOx限界」のラインは、NOxを還元するための触媒(NOx触媒)が不要なほどNOxの発生量を抑えることが可能な下限の熱発生率を示している。このNOx限界のラインと波形W1との比較から明らかなように、λ>2という大幅にリーンな環境下で混合気を燃焼させる前記実施形態によれば、NOx限界を超えるような高温の燃焼が起きるのを回避することができ、NOx触媒を不要にできるほどNOx発生量を低減することができる。
前記実施形態では、高負荷域A2において、吸気行程中にインジェクタ15から燃料を噴射する前段噴射に加えて、圧縮行程中にインジェクタ15から燃料を噴射する後段噴射が実施される。そのため、燃焼室6の中央部分に位置するキャビティCの内部に燃料濃度が適度に高い混合気を形成することができる。従って、燃焼室6の中央部分の混合気を確実に着火させて、これにより燃焼室全体の混合気を確実に燃焼させることができる。そして、前記のように比較的着火しにくい燃焼室の外周部分に存在する混合気を非平衡プラズマの作用によって早期に燃焼させることができる。
また、前記実施形態では、高負荷低速域A21において、吸気行程中に実施される前段噴射が終了してから圧縮行程中に実施される後段噴射が開始されるまでの期間中に主放電が実施される。つまり、燃焼室内の圧力が比較的低いときに主放電が実施される。そのため、より確実に多量の活性種をスキッシュエリアに供給することができる。
また、主放電および追加放電の実施時期と燃料噴射の時期とが重ならないように設定されていることで、活性種によって混合気の燃焼を確実に促進することができる。具体的には、燃料と非平衡プラズマとが接触すると、ホルムアルデヒド等の燃焼を抑制する物質(以下、抑制種という)が生成されやすくなる。これに対して、後段噴射が開始されるまでの期間中に主放電が実施されること、および、後段噴射の終了後に追加放電が実施されることで、インジェクタ15から燃焼室6に噴射された燃料と非平衡プラズマとの接触を回避することができる。従って、ホルムアルデヒド等の抑制種によって混合気の燃焼が阻害されるのを防止することができる。
また、前記実施形態では、後段噴射が、圧縮行程の1/2が経過した時点から圧縮行程の3/4が経過した時点までの間(BTDC90°CAからBTDC45°CAまでの間に)に実施される。そのため、後段噴射によりインジェクタ15から噴射された燃料を圧縮上死点までキャビティCの内部に留めることができ、キャビティC内の混合気をより確実着火させて混合気全体を確実に燃焼させることができる。また、キャビティCの上方の混合気の燃料濃度を小さく抑えることができる。従って、追加放電の実施時に、ホルムアルデヒド等の抑制種の生成を抑制することができ、混合気の燃焼を適切に促進できる。
また、前記実施形態では、燃焼室6の壁面に遮熱層19が設けられている。そのため、燃焼室6の外周部分での混合気の燃焼によって生じた熱エネルギーが燃焼室6の壁面を介して外部に放出されるのを防止することができる。特に、前記のように、燃焼室6の吸気側の壁面近傍では燃料濃度が高い混合気の燃焼によって高い熱エネルギーが生成されるが、この熱エネルギーが外部に放出されるのを防止でき、冷却損失を小さく抑えて燃費性能をより一層高めることができる。
(5)変形例
前記実施形態では、燃焼室6の天井面28の中央付近にインジェクタ15を配置するととともに、高負荷域A2での運転時に、スキッシュエリアとキャビティCの内部とにそれぞれ相対的にリッチな混合気が形成されるように、吸気行程の前半および圧縮行程の1/2〜3/4においてそれぞれインジェクタ15から燃料を噴射するようにしたが、インジェクタ15の位置や燃料噴射の時期はこれに限られない。すなわち、インジェクタ15の位置や当該インジェクタ15からの燃料の噴射時期を適宜変更してもよい。ただし、キャビティCの内部にリッチな混合気を形成するためには、圧縮行程の1/4が経過した時点(圧縮上死点前135°CA)以降に燃料を噴射するのが望ましい。
前記実施形態では、高負荷低速域A21では主放電のみを行い、高負荷高速域A22では主放電と追加放電とを実施する場合について説明したが、高負荷低速域A21においても主放電に加えて追加放電を実施してもよい。また、高負荷低速域A21および高負荷高速域A22において、主放電を省略して追加放電のみを実施してもよい。
前記実施形態では、キャビティCの開口縁C1に加えて燃焼室6の天井面28の一部である天井側非絶縁領域Dの絶縁性を低くして、天井側非絶縁領域Dをプラズマ放電時のアース側電極として機能させるようにしたが、キャビティCの開口縁C1のみをアース側電極として機能させてもよい。また、燃焼室6にアース側電極として機能させる部位を設ける場合であっても、その位置は前記のような吸、排気弁12のバルブ面を含む位置に限らない。ただし、吸気弁11のバルブ面の一部をアース側電極として機能させれば、吸気弁11回りに多量の活性種を供給でき、吸気弁11回りの燃料濃度の高い混合気を確実に燃焼させることができる。また、前記実施形態では、キャビティCの開口縁C1を遮熱層19で覆わないことで、これをアース側電極として機能させた場合について説明したが、キャビティCの開口縁C1も遮熱層19で覆ってもよい。この場合であっても、キャビティCの開口縁C1は上方(燃焼室6の天井面28側)に突出しており、ピストン5の冠面Sのうちで、プラズマ生成プラグ16の放電電極33との距離が最も短くなっていることで、放電電極33から放電された非平衡プラズマはキャビティCの開口縁C1に導かれることになる。ただし、キャビティCの開口縁C1を遮熱層19(絶縁性の高い)で覆わないようにする、あるいは、キャビティCの開口縁C1を覆う遮熱層19の厚さを薄くすれば、より確実に、非平衡プラズマをキャビティCの開口縁C1に導くことができる。
また、図20に示すように、各放電電極33の上面33b(燃焼室6の天井面28側の面)を、アルミナ等からなる絶縁体(碍子)によって覆うようにしてよい。このようにすれば、各放電電極33の上面から上方すなわち燃焼室6の天井面28の中央部に向かって非平衡プラズマが放電されるのを防止して、放電電極33から燃焼室6の外周側により確実に活性種を供給することができる。
また、前記実施形態では、キャビティCの開口縁C1が、平面視で第2基準線Z2について概ね対称となる形状を有する場合について説明したが、キャビティCの開口縁C1を図21および図22に示すように構成してもよい。具体的には、図21、図22に示した例では、平面視で、キャビティCの開口縁C1の吸気側の部分のうち各吸気側電極33iとそれぞれ対向する2つの部位C1_aが燃焼室6の中央側に向けて膨出するように構成されている。つまり、キャビティCの周面部23のうち各吸気側電極33iとそれぞれ対向する部分の立ち上がりが他の部分よりも急峻となるように構成されている。なこの構成によれば、キャビティCの開口縁C1の吸気側の部分と各吸気側電極33iとの距離d1をより一層短くすることができ、吸気側のスキッシュエリアにより多くの活性種を供給することが可能となる。お、図22には、鎖線で、吸気側の周面部23の底面部22に対する立ち上がり角度を排気側の周面部23と同じにした場合の周面部23を示している。また、図22では図を明瞭にするために、キャビティCの遮熱層19は省略している。また、図20および後述する図22、図23では、図を明瞭にするためにインジェクタ15およびプラズマ生成プラグ16を実線で示している。
また、図23に示すように、キャビティCの周面部23および開口縁C1を図21および図22に示したように吸気側の開口縁C1が排気側の開口縁C1よりも燃焼室6の内側に位置する構成としつつ、プラズマ生成プラグ16を燃焼室6の中央であってプラズマ生成プラグの中心軸と気筒軸線Xとが一致する位置に配置してもよい。この場合においても、キャビティCの開口縁C1のうち吸気側電極33iと対向する部分の方が、キャビティCの開口縁C1のうち排気側電極33eと対向する部分よりも燃焼室6の径方向内側に位置していることで、キャビティCの開口縁C1と吸気側電極33iとの距離d1を、キャビティCの開口縁C1と排気側電極33eとの距離d2よりも短くすることができる。従って、この構成においても、吸気側のスキッシュエリアにより多くの活性種を供給することができる。つまり、前記の実施形態に代えて、プラズマ生成プラグ16を燃焼室6の中央に配置する一方、キャビティCの開口縁C1を、その吸気側の部分の方が排気側の部分よりも燃焼室6の径方向内側に位置するように構成することで、キャビティCの開口縁C1のうち吸気側に位置する部分と放電電極33との距離の方がキャビティCの開口縁C1のうち排気側に位置する部分と放電電極との距離よりも短くなるようにしてもよい。
また、図24に示すように、プラズマ生成プラグ16が、放電電極33として、第1基準線Z1に沿って吸気側に延びる放電電極33iと排気側に延びる放電電極33eと吸排気方向と直交する方向に延びる2つの放電電極33cとを備えるように、プラズマ生成プラグ16を配置してもよい。また、図24に示すように、このようなプラズマ生成プラグ16を燃焼室6の天井面の中央に配置し、キャビティCの開口縁C1のうち第1基準線Z1上の部分C1_cを燃焼室6の径方向内側に膨出させるようにしてもよい。
また、前記実施形態では、プラズマ生成プラグ16として、中心電極32の先端から放射状に突出する複数の放電電極33を有するものを用いたが(図5参照)、これに代えて、例えば図25(a)(b)に示されるような、浅皿状の放電電極133を有するプラズマ生成プラグ116を用いてもよい。
より具体的に、前記変形例にかかるプラズマ生成プラグ116は、筒状のプラグ本体131と、プラグ本体131の内部に挿入された中心電極132と、中心電極132の先端から径方向外側に拡がる浅皿状の放電電極133と、プラグ本体131の端面と放電電極133との間に設けられた絶縁体134とを有している。放電電極133は、底面視で中心電極132の先端部を中心とした円形状に形成され、かつ断面視で径方向外側ほど高さが低くなるように形成されている。絶縁体134は、放電電極133の裏面(シリンダヘッド4側の面つまり燃焼室6の天井面を向く面)をほぼ全面的に覆うように形成されている。
前記実施形態では、インジェクタ15として、開弁時にリング状のノズル口44が形成される外開式のものを用いたが(図7参照)、これに代えて、インジェクタの先端部に周状に並ぶ複数の噴孔を有する多噴孔式のものを用いてもよい。
前記実施形態では、ガソリンを主成分とする燃料を空気と混合しつつ圧縮着火させる予混合圧縮着火式のガソリンエンジンに本発明を適用した例について説明したが、例えば軽油を主成分とする燃料を空気と混合しつつ圧縮着火させる予混合圧縮着火式のディーゼルエンジンに本発明を適用してもよい。