JP7040312B2 - 予混合圧縮着火式エンジン - Google Patents

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Description

本発明は、予混合圧縮着火式エンジンに関する技術分野に属する。
従来より、燃焼室内で燃料と空気との混合気を自着火させる(HCCI燃焼させる)予混合圧縮着火式エンジンが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、特許文献1では、エンジンの燃焼室の壁面に遮熱層(断熱層)を設けることによって、該壁面からの燃焼熱の放出を抑制して、冷却損失を低減することで、エンジンの熱効率を向上させるようにしている。
また、例えば特許文献2では、吸気へのオゾン添加によって燃焼室内の燃焼を早め、それによって、燃料噴霧の飛翔と共に燃焼室の中心部から外周部の方向に拡がる火炎が、燃焼室を区画する壁面に到達する前に燃焼を終了させ、これにより、冷却損失を低減するようにしている。また、特許文献2においても、燃焼室を区画する壁面に断熱層が設けられている。
特開2015-081527号公報 特開2013-194712号公報
ところで、予混合圧縮着火式エンジンにおいては、所定負荷よりも低負荷側の運転領域で、圧縮行程の後期(圧縮行程を初期、中期及び後期と3等分したときの後期)に燃料が噴射されることがある。これにより、燃料を良好に燃焼させて燃え残りを少なくすることができるとともに、燃料が自着火する時点において、燃焼室の中央部に混合気層を形成しかつその周囲に空気(又は、空気及びEGRガス)を含むガス層を形成して、冷却損失を低減することができる。
ここで、燃焼室の天井壁には、金属製の放電電極部が燃焼室の天井面から該燃焼室に臨むように、放電プラグが設けられる場合がある。この放電プラグは、放電電極部での放電により、放電電極部に非平衡プラズマ(低温プラズマとも呼ばれる)を生成するものである。放電電極部の周辺に、空気又は空燃比のかなり大きい燃料リーンな混合気(基本的に空気)が存在しているときに、放電電極部での放電により非平衡プラズマが生成されたときには、空気から、混合気の自着火及び燃焼を促進する物質(例えばオゾン、OH等)が生成される。一方、放電電極部の周辺に、燃料又は比較的燃料リッチな混合気が存在しているときに、放電電極部での放電により非平衡プラズマが生成されたときには、燃料から、混合気の自着火及び燃焼を抑制する物質(例えばホルムアルデヒド、二酸化窒素等)が生成される。このように、放電電極部の周辺の空燃比に応じて、非平衡プラズマを生成することにより、混合気の燃焼を制御できるようになる。
上記のような放電プラグの放電電極部が燃料噴射弁の燃料噴射口の近傍に設けられている場合、圧縮行程の後期に燃料を噴射すると、混合気が自着火する時点(圧縮上死点付近)において放電電極部の直ぐ近くに燃料リッチな混合気が存在することになり、放電電極部は熱伝達率が高い金属製であるので、その混合気の燃焼熱が、特に放電電極部を介して燃焼室の外部に逃げ易く、この結果、冷却損失が増大することになる。
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、予混合圧縮着火式エンジンが、燃焼室の天井面における燃料噴射弁の燃料噴射口の近傍から該燃焼室に臨む金属製の放電電極部を備えている場合に、所定負荷よりも低負荷側の運転領域において、冷却損失を低減して、予混合圧縮着火式エンジンの熱効率を向上させようとすることにある。
上記の目的を達成するために、本発明では、燃焼室が形成された気筒を有するエンジン本体を備え、該燃焼室内で燃料と空気との混合気を自着火させる予混合圧縮着火式エンジンを対象として、上記エンジン本体の幾何学的圧縮比が、16以上30以下であり、燃料噴射口が上記燃焼室の天井面の略中央から該燃焼室に臨み、該燃料噴射口から燃料をピストンの冠面に向かって噴射する燃料噴射弁と、上記燃焼室の天井面における上記燃料噴射口の近傍から該燃焼室に臨み、非平衡プラズマを生成する金属製の放電電極部と、上記燃料噴射弁の作動を制御する燃料噴射弁制御手段とを備え、上記燃料噴射弁制御手段は、上記エンジン本体の運転状態が、負荷が所定負荷よりも低負荷側でかつロードロードライン以上でかつ、回転数が第2所定回転数以下である特定運転領域にあるときにおいて、上記混合気が自着火する時点で、上記燃焼室の天井面及び上記ピストンの冠面から離間して混合気層が形成されるように、上記燃料噴射弁に対して、圧縮行程を初期、中期及び後期と3等分したときの中期に、燃料噴射を複数回に分けて行わせるように構成されており、上記所定負荷は、回転数が上記第2所定回転数以下のときには、ロードロードラインよりも高い負荷に設定される一方、回転数が上記第2所定回転数より高い回転数では上記ロードロードラインの負荷に設定されており、上記特定運転領域のうち回転数が、上記第2所定回転数よりも低い第1所定回転数以下である特定低回転運転領域は、上記所定負荷未満でかつ上記ロードロードラインよりも高い負荷に設定されかつ回転数が高いほど高負荷側に位置する特定境界が設定されており、上記エンジン本体の運転状態が、上記特定低回転運転領域にあるときにおいて、上記燃料噴射弁による圧縮行程の上記中期における噴射回数は、該運転状態が上記特定境界の高負荷側かつ低回転側にあるときの方が、該運転状態が上記特定境界の低負荷側かつ高回転側にあるときと比べて、多くなるように設定されている、という構成とした。
上記の構成により、所定負荷よりも低負荷側の運転領域において、混合気が自着火する時点において、燃焼室の天井面及びピストンの冠面から離間するように燃料リッチな混合気層が形成され、放電電極部の周囲を含む該混合気層の周囲には、空気(又は、空気及びEGRガス)を含むガス層が形成される。このガス層が断熱層となって、燃焼室の天井面(放電電極部)及びピストンの冠面からの燃焼熱の放出を抑制することができ、この結果、冷却損失を低減することができる。特に圧縮行程の中期に燃料を噴射することで、混合気が自着火する時点において、燃焼室の天井面(放電電極部)から離間するように燃料リッチな混合気層を形成することができるとともに、圧縮行程の中期ではピストンの上昇速度が速くなるので、ピストンの上昇によりピストンの上側に発生する上昇流によって、燃料がピストンの冠面に付着し難くなる。しかも、高圧縮比であるので、圧縮行程の中期に噴射された燃料は飛びに難くなり、このことからも、燃料がピストンの冠面に付着し難くなり、燃料リッチな混合気層がピストンの冠面からも離間するようになる。したがって、冷却損失を低減することができ、よって、予混合圧縮着火式エンジンの熱効率を向上させることができる。
また、このように燃料が分割噴射されることで、圧縮行程の中期に噴射された燃料はより一層飛びに難くなり、ピストンの冠面に付着し難くなる。よって、冷却損失をより一層低減することができる。
また、エンジン本体の負荷が高いときには、該負荷が低いときに比べて、燃料のトータル噴射量が多くなる。このため、負荷が高いときの噴射回数が、負荷が低いときの噴射回数と同じであれば、負荷が高いときの各回の噴射量が、負荷が低いときの各回の噴射量に比べて多くなる。各回の噴射量が多くなると、各回で噴射される燃料が遠くに飛び易くなる。しかし、負荷が高いときの噴射回数を、負荷が低いときの噴射回数に比べて多くすることで、負荷が高くても、負荷が低いときと同様に、各回で噴射される燃料を飛び難くすることができる。よって、所定負荷よりも低負荷側の運転領域において、エンジン本体の負荷の高低に関係なく、冷却損失を低減することができる。
また、エンジン本体の回転数が低いときには、該回転数が高いときに比べて、ピストンの上昇による上昇流が弱くなる。このため、回転数が低いときの噴射回数が、回転数が高いときの噴射回数と同じであれば、回転数が低いときに噴射された各回の燃料は、回転数が高いときに噴射された各回の燃料に比べて、ピストンの冠面に向かって飛び易くなる。しかし、回転数が低いときの噴射回数を、回転数が高いときの噴射回数に比べて多くすることで、回転数が低いときの各回の噴射量を、回転数が高いときの各回の噴射量よりも少なくして、ピストンの上昇による上昇流が弱くても、上昇流が強いときと同様に、各回で噴射される燃料を飛び難くすることができる。よって、所定負荷よりも低負荷側の運転領域において、エンジン本体の回転数の高低に関係なく、冷却損失を低減することができる。
上記予混合圧縮着火式エンジンにおいて、上記燃焼室の天井面に、遮熱層が設けられている、ことが好ましい。
このことにより、燃焼室の天井面からの燃焼熱の放出を良好に抑制することができる。このように天井面に遮熱層が設けられても、天井面における放電電極部が燃焼室に臨む部分には、遮熱層を設けることができず、圧縮行程の後期に燃料を噴射したのでは、放電電極部からの放熱が避けられないが、上記のように、圧縮行程の中期に燃料が噴射されることで、放電電極部から離間するように燃料リッチな混合気層が形成されて、放電電極部からの放熱を抑制することができる。
上記予混合圧縮着火式エンジンにおいて、上記燃料噴射弁の燃料噴射口から噴射される燃料の燃圧が、15MPa以上60MPa以下に設定されている、ことが好ましい。
このことで、所定負荷よりも低負荷側の運転領域において、圧縮行程における高圧の燃焼室内に燃料を噴射して、燃焼室の天井面(放電電極部)及びピストンの冠面から離間するように燃料リッチな混合気層を適切に形成することができる。
上記予混合圧縮着火式エンジンにおいて、上記燃料噴射弁は、上記燃料噴射口から燃料を上記ピストンの冠面に向かって円錐状に拡がるように噴射するよう構成されている、ことが好ましい。
このことで、燃料噴射弁より噴射される燃料噴霧のペネトレーションを低くすることができ、燃料がピストンの冠面により一層付着し難くなる
以上説明したように、本発明の予混合圧縮着火式エンジンによると、エンジン本体の幾何学的圧縮比が16以上30以下であり、燃料噴射口が上記燃焼室の天井面の略中央から該燃焼室に臨み、該燃料噴射口から燃料をピストンの冠面に向かって噴射する燃料噴射弁と、上記燃焼室の天井面における上記燃料噴射弁の近傍から該燃焼室に臨み、非平衡プラズマを生成する金属製の放電電極部と、燃料噴射弁制御手段とを備え、上記燃料噴射弁制御手段は、上記エンジン本体の運転状態が所定負荷よりも低負荷側の運転領域にあるときにおいて、混合気が自着火する時点で、上記燃焼室の天井面及び上記ピストンの冠面から離間して混合気層が形成されるように、上記燃料噴射弁に対して、圧縮行程を初期、中期及び後期と3等分したときの中期に、燃料噴射を行わせるようにしたことにより、所定負荷よりも低負荷側の運転領域において、冷却損失を低減して、予混合圧縮着火式エンジンの熱効率を向上させることができる。
本発明の実施形態に係る予混合圧縮着火式エンジンの概略構成を示す図である。 上記エンジンの要部を拡大して示す断面図である。 外開弁式の燃料噴射弁における燃料噴射口の周辺を示す断面図であって、(a)は、外開弁によって燃料噴射口が閉じられている状態を示し、(b)は、燃料噴射口が開放されて燃料を噴射している状態を示す。 多噴孔型の燃料噴射弁における噴口の周辺を示す断面図であって、(a)は、芯弁によって噴口が閉じられている状態を示し、(b)は、噴口が開放されて燃料を噴射している状態を示す。 上記エンジンの燃焼室の天井面及びピストンの冠面に設けられた遮熱層を拡大して示す断面図である。 上記エンジンの制御系を示すブロック図である。 上記放電プラグの放電電極部に印加するパルス電圧のパルス幅とピーク値とに応じて、放電電極部での放電により生成されるプラズマの種類を示す図である。 非平衡プラズマを生成する際のパルス電圧の波形の一例を示すグラフである。 エンジン本体の運転状態に応じた、燃料噴射弁の燃料噴射形態のマップの一例を示す図である。 第1所定負荷以上の運転領域(燃料噴射形態のマップの運転領域A)における燃料噴射のタイミングを示すタイムチャートである。 第1所定負荷以上の運転領域において、混合気が自着火する時点における燃焼室内の燃料分布を示す図である。 外開弁式の燃料噴射弁により燃料を一括噴射したときの燃料噴霧の様子を示す図である。 圧縮行程で燃料を一括噴射した場合及び分割噴射した場合の燃料の噴射開始時期(分割噴射の場合は、1回目の噴射開始時期)と、排気ガス中のCO濃度及びTHC濃度との関係を調べた結果を示すグラフである。 第1所定負荷よりも低負荷側の運転領域(燃料噴射形態のマップの運転領域B)における燃料噴射のタイミングを示すタイムチャートである。 第1所定負荷よりも低負荷側の運転領域において、混合気が自着火する時点における燃焼室内の燃料分布を示す図である。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る予混合圧縮着火式エンジン1(以下、エンジン1という)を示す。本実施形態では、エンジン1は、燃焼室6が形成された4つの気筒2(シリンダ)を有するエンジン本体1aを備えていて、各気筒2における燃焼室6内で燃料と空気との混合気を自着火させるエンジンである。
エンジン1は、エンジン本体1aの4つの気筒2が図1の紙面に垂直な方向に直列に配置された直列4気筒エンジンである。エンジン1は、車両に搭載されて、該車両の駆動源として利用される。本実施形態では、エンジン1は、少なくともガソリンを含有する燃料の供給を受けて駆動される。燃料は、ガソリンに加えて、例えばバイオエタノール等が含有されていてもよい。
エンジン本体1aは、4つの気筒2が設けられたシリンダブロック3と、このシリンダブロック3上に配設されたシリンダヘッド4とを有している。各気筒2内には、シリンダヘッド4との間に燃焼室6を区画するピストン5が往復動(上下動)可能にそれぞれ嵌挿されている。各気筒2のピストン5は、コンロッド8を介して、気筒列方向に延びる不図示のクランクシャフトと連結されている。
燃焼室6は、いわゆるペントルーフ型であり、シリンダヘッド4の下面で構成される、燃焼室6の天井面が、吸気側及び排気側の2つの傾斜面からなる三角屋根状をなしている。
ピストン5の冠面5aには、該冠面5aの中心部をシリンダヘッド4とは反対側(下側)に凹ませたキャビティ5bが形成されている。ピストン5の側周面における冠面5aの近傍には、複数(本実施形態では、3つ)のピストンリング5c(図2参照)が嵌められている。
エンジン本体1aの幾何学的圧縮比、つまり、ピストン5が上死点にあるときの燃焼室6の容積に対して、ピストン5が下死点にあるときの燃焼室6の容積の比は、16以上30以下(より好ましくは、20以上25以下)に設定されている。
シリンダヘッド4には、吸気通路20から供給される空気を気筒2(燃焼室6)内に導入するための吸気ポート9と、気筒2内で生成された排気ガスを排気通路30に導出するための排気ポート10とが形成されている。本実施形態では、吸気ポート9及び排気ポート10は、各気筒2毎にそれぞれ2つずつ形成されている。本実施形態では、吸気ポート9の形状により、燃焼室6内には、吸気ポート9から燃焼室6に吸入された空気のタンブル流T(図2参照)が生成されるようになっている。
また、シリンダヘッド4には、各吸気ポート9の燃焼室6側の開口をそれぞれ開閉する吸気弁11と、各排気ポート10の燃焼室6側の開口をそれぞれ開閉する排気弁12とが設けられている。
吸気弁11は、吸気動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。吸気動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構とされている。本実施形態では、この可変動弁機構は、吸気電動S-VT(Sequential-Valve Timing)17を有している。吸気電動S-VT17は、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更するよう構成されている。それによって、吸気弁11の開弁時期及び閉弁時期は、連続的に変化する。尚、吸気動弁機構は、電動S-VTに代えて、油圧式のS-VTを有していてもよい。
排気弁12は、排気動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。排気動弁機構も、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構とされている。本実施形態では、この可変動弁機構は、排気電動S-VT18を有している。排気電動S-VT18は、排気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更するよう構成されている。それによって、排気弁12の開弁時期及び閉弁時期は、連続的に変化する。尚、排気動弁機構は、電動S-VTに代えて、油圧式のS-VTを有していてもよい。
さらに、図2にも示すように、シリンダヘッド4には、各気筒2毎に、燃料をピストン5の冠面5aに向かって噴射する燃料噴射弁14が設けられている。燃料噴射弁14は、各気筒2の燃焼室6の天井壁の略中央に取り付けられている。燃料噴射弁14は、その先端部に、燃料を噴射する燃料噴射口(後述の燃料噴射口61又は噴孔66)を有し、該燃料噴射口が燃焼室6の天井面の略中央から燃焼室6に臨んでいる。燃料噴射弁14の燃料噴射口から噴射される燃料の燃圧は、15MPa以上60MPa以下に設定される。
燃料噴射弁14は、外開弁式であってもよく、多噴孔型であってもよい。燃料噴射弁14が外開弁式である場合、図3に示すように、燃料噴射弁14は、燃料噴射口61を開閉する外開弁62を有している。燃料噴射口61は、先端側ほど径が大きくなるテーパ状に形成されている。外開弁62の先端側は、燃料噴射口61の外側に突出しており、その突出した部分が、燃料噴射口61を塞ぐように燃料噴射口61に当接(着座)する。そして、外開弁62が、燃料噴射口61を閉じた状態(図3(a)参照)から燃料噴射口61の外側(燃焼室6側)にリフトされたとき、燃料噴射口61が開放され、この開放された燃料噴射口61から、燃料がピストン5の冠面5aに向かって略円錐状(詳しくはホローコーン状)に拡がるように噴射される(図3(b)参照)。この円錐のテーパ角は、例えば90°~100°である(内側の中空部のテーパ角は70°程度である)。
一方、燃料噴射弁14が多噴孔型である場合、燃料噴射弁14は、図4に示すように、燃料噴射弁14の先端部を構成する有底筒状の噴孔形成部材65の底部に形成された複数(例えば、10~20個)の噴孔66(燃料噴射口)と、噴孔形成部材65の内側に入り込み、噴孔形成部材65の底部における複数の噴孔66よりも径方向外側部分に当接(着座)して該複数の噴孔66を同時に塞ぐ芯弁67とを有している。複数の噴孔66は、燃料噴射弁14の中心軸から放射状に拡がるように燃料噴射弁14の先端に向かって延びている。芯弁67が、複数の噴孔66を閉じた状態(図4(a)参照)から燃焼室6とは反対側にリフトされたとき、複数の噴孔66全てが開放され、これら開放された複数の噴孔66から、燃料がピストン5の冠面5aに向かって、該複数の噴孔全体で略円錐状に拡がるように噴射される(図4(b)参照)。この円錐のテーパ角も、例えば90°~100°である(内側の中空部のテーパ角は70°程度である)。
また、シリンダヘッド4には、各気筒2毎に、燃焼室6の天井壁に取り付けられた放電プラグ13が設けられている。本実施形態では、放電プラグ13は、燃焼室6の天井壁の燃料噴射弁14の近傍における2つの排気ポート10の間の部分に設けられているが、燃焼室6の天井壁の燃料噴射弁14の近傍における2つの吸気ポート9の間の部分に設けられていてもよい。放電プラグ13は、金属製の放電電極部13aを有している。この放電電極部13aは、燃焼室6の天井面における上記燃料噴射口の近傍(天井面の中央近傍)における2つの排気ポート10の開口の間から燃焼室6に臨んでいる。
放電電極部13aは、放電プラグ13の中心軸方向に互いに対向する金属製の中心電極13b及び接地電極13cで構成されている。中心電極13bは、中心電極13b及び接地電極13c間(つまり放電電極部13a)にプラズマを生成するための所定の電圧を印加する電圧印加回路91(図6参照)に接続されており、該電圧印加回路91により中心電極13b及び接地電極13c間に上記所定の電圧が印加されると、中心電極13bと接地電極13cとの間で放電して、該放電のエネルギーにより、放電電極部13aにプラズマ(本実施形態では、非平衡プラズマ)が生成されるようになっている。
吸気ポート9には、吸気通路20が連通接続されている。この吸気通路20の上流側端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ21が配設されており、このエアクリーナ21で濾過した吸入空気が吸気通路20及び吸気ポート9を介して各気筒2の燃焼室6に供給される。
吸気通路20におけるエアクリーナ21の下流側近傍には、吸気通路20に吸入された吸入空気量を検出するエアフローセンサSN2が配設されている。また、吸気通路20における下流端の近傍には、サージタンク25が配設されている。このサージタンク25よりも下流側の吸気通路20は、各気筒2毎に分岐する独立通路とされ、これら各独立通路の下流端が各気筒2の吸気ポート9にそれぞれ接続されている。
さらに、吸気通路20におけるエアフローセンサSN2とサージタンク25との間には、吸気通路20を開閉するためのスロットル弁22が配設されている。本実施形態では、スロットル弁22は、エンジン1の運転中、基本的に全開又はこれに近い開度に維持され、エンジン1を停止させるとき等の限られた運転条件のときにのみ閉弁されて吸気通路20を遮断する。
排気ポート10には、各気筒2の燃焼室6からの排気ガスを排出する排気通路30が連通接続されている。この排気通路30の上流側の部分は、各気筒2毎に分岐して排気ポート10に接続された独立通路と該各独立通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。
排気通路30(排気マニホールドよりも下流側の部分)には、排気を浄化する排気浄化装置31が設けられている。本実施形態では、排気浄化装置31は、3元触媒を含む。
エンジン1は、排気ガスの一部を排気通路30から吸気通路20にEGRガスとして還流するためのEGR通路41を備える。このEGR通路41は、排気通路30における排気浄化装置31よりも上流側でかつ上記排気マニホールドよりも下流側の部分と、吸気通路20におけるサージタンク25の部分とを連通するように、該両部分に接続されている。
EGR通路41には、該EGR通路41を開閉するEGR弁42と、該EGR通路41を通過するEGRガスを冷却するためのEGRクーラ43とが設けられている。EGRガスは、EGRクーラ43によって冷却された後に吸気通路20に還流される。
尚、本実施形態では、エンジン1は、過給機を備えていないが、過給機を備えていてもよい。
燃焼室6の天井面及びピストン5の冠面5aには、遮熱層7が設けられている。遮熱層7は、シリンダヘッド4及びピストン5の母材(本実施形態では、共にアルミニウム合金)よりも熱伝導率が低い低熱伝導性の層とされている。本実施形態では、遮熱層7は、図5に示すように、シリコン樹脂等のバインダ材7aと、その中に分散された多数の中空粒子7bとを含む。中空粒子7bとしては、例えば、ガラスバルーン、シラスバルーン、シリカバルーン等が採用される。遮熱層7は、燃焼室6内の燃焼ガスの熱が、燃焼室6の天井面及びピストン5の冠面5aを通じて放出されることを抑制する。遮熱層7の厚みは、75μm以上100μm以下であることが好ましい。
また、遮熱層7は、シリンダヘッド4及びピストン5の母材よりも容積比熱が小さいことが好ましい。つまり、遮熱層7の熱容量を小さくして、燃焼室6の天井面及びピストン5の冠面5aの温度が、燃焼室6内のガス温度の変動に追従して変化することが好ましい。こうすることで、燃焼ガスの温度と燃焼室6の天井面及びピストン5の冠面5aの温度との差が小さくなり、この結果、燃焼ガスの熱が、燃焼室6の天井面及びピストン5の冠面5aを通じて母材に伝わり難くなる。
遮熱層7は、バインダ材7aと中空粒子7bとを含有する遮熱材料を、燃焼室6の天井面及びピストン5の冠面5a上に塗布した後、加熱処理によってバインダ材7aを硬化させることにより形成することができる。
尚、遮熱層7は必ずしも必要なものではなく、なくてもよい。また、ピストン5の冠面5a及び燃焼室6の天井面のうち、燃焼室6の天井面のみに遮熱層7を設けるようにしてもよい。ピストン5の冠面5aの温度が比較的高いので、ピストン5の冠面5aからの燃焼熱の放出量が、燃焼室6の天井面からの燃焼熱の放出量よりも少ないからである。
図6に示すように、エンジン1は、ECU(Engine ControlUnit)100によって制御される。ECU100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラーである。ECU100は、CPU101、メモリ102、入出力バス103等を備えている。CPU101は、コンピュータプログラム(OS等の基本制御プログラム、及び、OS上で起動されて特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)を実行する中央演算処理装置である。メモリ102は、RAM及びROMにより構成されている。ROMには、種々のコンピュータプログラム(特にエンジン1を制御するための制御プログラム)や、該コンピュータプログラムの実行時に用いられる後述のマップを含むデータ等が格納されている。RAMは、CPU101が一連の処理を行う際に使用される処理領域が設けられるメモリである。入出力バス103は、ECU100に対して電気信号の入出力をするものである。
ECU100には、クランク角センサSN1、エアフローセンサSN2、アクセル開度センサSN3等の各種のセンサが電気的に接続されている。クランク角センサSN1は、シリンダブロック3に設けられていて、クランクシャフトの回転角を検出する。アクセル開度センサSN3は、車両のアクセルペダル機構に取り付けられていて、アクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を検出する。これらセンサSN1~SN3等は、検知信号をECU100に出力する。
ECU100は、センサSN1~SN3等からの入力信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断するとともに、電圧印加回路91、燃料噴射弁14、吸気電動S-VT17、排気電動S-VT18、スロットル弁22、EGR弁42等といった、エンジン1の各デバイスに対して制御信号を出力して、各デバイスを制御する。ECU100は、燃料噴射弁14の作動を制御する燃料噴射弁制御手段を構成することになる。
本実施形態では、エンジン本体1aの燃焼サイクルにおいて、放電プラグ13の放電電極部13aでの放電により非平衡プラズマ(低温プラズマとも呼ばれる)を生成することによって、燃焼室6内での燃焼を制御するようにしている。尚、非平衡プラズマとは、燃焼室6内のガス温度の上昇を伴わず、燃焼室6内の電子と、燃焼室6内のガスのイオンや分子とが熱平衡状態にないプラズマのことをいう。
非平衡プラズマは、放電プラグ13の放電電極部13a(中心電極13b及び接地電極13c間)に印加するパルス電圧のパルス幅及びピーク値を適切な値に設定することによって生成することができる。図7は、パルス電圧のパルス幅とピーク値とに応じて、放電電極部13aでの放電により生成されるプラズマの種類を示す。図7の横軸はパルス電圧のパルス幅であり、対数スケールで示している。一方、図7の縦軸はパルス電圧のピーク値であり、対数スケールで示している。図7に示すように、パルス幅を短くすると(具体的には、0.01μsec以上かつ1μsec未満にすると)、非平衡プラズマが生成されることが分かる。これは、パルス幅の短いパルス電圧では、電子のみが反応して、イオンや分子はほとんど反応しないためである。一方、パルス幅を長くすると(1μsec以上にすると)、熱平衡プラズマ(高温プラズマとも呼ばれる)が生成されることが分かる。非平衡プラズマは、混合気を着火する点火源とはならないが、熱平衡プラズマは、混合気を着火する点火源となる。
本実施形態では、図8に示すように、電圧印加回路91により放電プラグ13の放電電極部13aに印加する上記所定の電圧は、ピーク値が10kVでかつパルス幅が0.1μsecのパルス電圧であり、このパルス電圧により、非平衡プラズマを生成する。ECU100は、非平衡プラズマを生成する際には、電圧印加回路91を作動させて、該電圧印加回路91により、上記パルス電圧を100kHzの周波数でもって放電電極部13aに繰り返し印加させるようにする。図8では、パルス電圧は三角波であるが、方形波であってもよい。
尚、非平衡プラズマを生成する際の放電電極部13aに印加するパルス電圧のピーク値は、10kVに固定する必要はなく、例えば燃焼室6内の圧力(圧力センサにより検出する)等に基づいて、1kV~30kVの範囲で変更してもよい。詳しくは、燃焼室6内の圧力が高いほど、パルス電圧のピーク値を高く設定してもよい。
放電電極部13aに非平衡プラズマが生成されたとき、放電電極部13aの周辺の空燃比に応じて、燃焼室6内において生成される物質が異なる。すなわち、放電電極部13aの周辺に、空気、又は、第1所定空燃比以上の燃料リーンな混合気(基本的に空気)が存在している場合に、放電電極部13aに非平衡プラズマが生成されると、その空気又は燃料リーンな混合気に非平衡プラズマが照射されて、空気から、オゾン(O)やOH等のような、燃焼室6内での混合気の自着火及び燃焼を促進させる物質である活性種が生成される。一方、放電電極部13aの周辺に、燃料、又は、上記第1所定空燃比よりも小さい第2所定空燃比未満の燃料リッチな混合気が存在している場合に、放電電極部13aに非平衡プラズマが生成されると、その燃料又は燃料リッチな混合気に非平衡プラズマが照射されて、燃料を基にして、ホルムアルデヒド(CHO)や二酸化窒素(NO)等のような、燃焼室6内での混合気の自着火及び燃焼を抑制させる物質である抑制種が生成される。
したがって、基本的に、放電電極部13aの近傍に位置する燃料噴射弁14より燃料を噴射しているときに、放電電極部13aに非平衡プラズマが生成されたときには、抑制種が生成される一方、吸気行程で吸気を行っていて燃料を噴射してないときに、非平衡プラズマが生成されたときには、活性種が生成されることになる。このようにして燃焼室6に活性種及び/又は抑制種を生成することによって、混合気の燃焼を早めたり遅らせたりすることで燃焼を制御する。
本実施形態では、エンジン本体1aの全運転領域において、圧縮着火燃焼(CI燃焼)が実施される。具体的には、エンジン本体1aの運転時における圧縮上死点よりも前に燃料噴射弁14から燃焼室6内に燃料が噴射され、この燃料と空気との混合気を圧縮することで昇温し、圧縮上死点付近で混合気を自着火させる。
図9は、エンジン本体1aの運転状態に応じた、燃料噴射弁14の燃料噴射形態のマップの一例である。このマップは、ECU100のメモリ102に記憶されている。このマップにおいて、エンジン本体1aの回転数及び負荷に応じて、第1所定負荷L1以上の運転領域Aと、該第1所定負荷L1よりも低負荷側の運転領域Bとが設定されている。運転領域Bは、後に詳細に説明するように、3つの運転領域B1,B2,B3に分けられている。
尚、図9にRLで示すラインは、ロードロードラインであり、ここでは、ロードロードラインRLよりも負荷が小さい領域では、燃料噴射形態が設定されていない。
第1所定負荷L1は、エンジン本体1aの回転数に応じて変化し、回転数が第1所定回転数N1以下では、回転数が高くなるほど高くなり、回転数が第1所定回転数N1よりも高くかつ第2所定回転数N2(第1所定回転数N1よりも高い回転数)以下では、一定値となる。また、第1所定負荷L1は、回転数が第2所定回転数N2よりも高いときには、ロードロードラインRLの負荷となる。
運転領域Aでは、図10に示すように、ECU100は、燃料噴射弁14に対して、吸気行程と圧縮行程とに分けて燃料噴射を行わせるとともに、圧縮行程においては、圧縮行程の特定期間に、複数回(本実施形態では、3回)に分けて燃料噴射を行わせる。尚、図10の横軸のクランク角度は、圧縮上死点を0°として、圧縮上死点前を負の値としている。
上記特定期間は、圧縮行程の1/4を経過した時期から3/4を経過した時期までの間である。燃料の噴射は、吸気弁11の全閉タイミングとの関係で、上記特定期間の中でも遅角側が望ましい。但し、エンジン本体1aの回転数が高くなる(例えば4000rpmを超える)と、狭い期間に分割噴射することが困難になるので、上記特定期間の間であれば、どこで噴射してもよい。尚、吸気弁11の全閉タイミングは、圧縮行程の1/4を経過した時期と略同じか、又は、該時期よりも進角側であることが好ましい。
第1所定負荷L1以上の運転領域Aにおいては、噴射すべき燃料の量が多いので、少なくとも吸気行程で燃料を噴射する必要がある。しかし、吸気行程のみで燃料を噴射したのでは、吸気行程で噴射されかつ吸気流(ここでは、タンブル流T)に流されて各気筒2のシリンダ壁面に付着する燃料の量が多くなる。シリンダ壁面に付着した燃料の一部は、圧縮行程でピストンリング5cによって掻き上げられるが、シリンダ壁面に付着する燃料の量が多いために、多量の燃料がシリンダ壁面とピストン5の周側面(ピストンリング5cよりも冠面5a側の部分)との間に残ったままとなり、この残った燃料は燃焼せず、その分だけ未燃損失が増大することになる。
本実施形態では、運転領域Aにおいて、吸気行程と圧縮行程とに分けて燃料噴射を行うので、吸気行程で噴射されかつ吸気流(タンブル流T)に流されて各気筒2のシリンダ壁面に付着する燃料の量が少なくなる。これにより、未燃損失が低減される。
また、圧縮行程において圧縮行程の3/4を経過した時期までに燃料が噴射されることで、混合気が自着火する時点において、図11に示すエリア51に、比較的燃料リッチな混合気が存在し、燃料噴射弁14の燃料噴射口及び放電プラグ13の放電電極部13aの周囲には、比較的燃料リッチな混合気が存在しなくなる。燃料噴射弁14の燃料噴射口及び放電電極部13aの周囲には、吸気行程で噴射された燃料と空気との混合気である比較的燃料リーンな混合気が存在する。
さらに、圧縮行程において圧縮行程の1/4を経過した時期以降に燃料が噴射されることで、該時期以降では燃焼室6内の圧力が高くなるので、燃料が遠くに飛び難くなる。また、上記特定期間では、ピストンの上昇速度が速くなるので、ピストン5の上昇によりピストン5の上側に発生する上昇流によっても、燃料が遠くに飛び難くなる。
しかも、上記特定期間に燃料が分割噴射されることで、燃料がより一層遠くに飛びに難くなる。上記特定期間の最初に噴射された燃料は、シリンダ壁面に到達する可能性はあるが、たとえシリンダ壁面に到達したとしても、分割噴射されていることで、燃料噴霧としてシリンダ壁面の近傍で浮遊した状態にあり、シリンダ壁面に多量に付着することはない。この結果、圧縮行程の燃料噴射においても、シリンダ壁面に付着する燃料の量を少なくすることができて、未燃損失を低減することができる。そして、シリンダ壁面の近傍で浮遊している燃料噴霧は、上記上昇流によって上昇し、燃焼室6の天井壁面に到達した後は、燃焼室6の中央に向かう。これにより、混合気が自着火する時点において、シリンダ壁面の近傍にも、比較的燃料リッチな混合気が存在しなくなる。シリンダ壁面の近傍には、燃料噴射弁14の燃料噴射口及び放電電極部13aの周囲と同様に、比較的燃料リーンな混合気が存在する。
このように運転領域Aでは、混合気が自着火する時点において、燃焼室6内における、燃料噴射弁14の燃料噴射口及び放電電極部13aの周囲並びにシリンダ壁面の近傍を除く部分に、比較的燃料リッチな混合気が存在することになる。
運転領域Aでは、圧縮上死点付近において、比較的燃料リッチな混合気の中央部分で混合気が自着火し、燃焼がその周囲へと拡がる。ここで、圧縮行程の3/4を経過した時期以降に燃料を噴射したのでは、混合気が自着火する時点において、比較的燃料リッチな混合気が燃料噴射弁14及び放電電極部13aの直ぐ近くに存在することになり、放電電極部13aは熱伝達率が高い金属製であるので、混合気の燃焼熱が、特に放電電極部13aを介して燃焼室6の外部に逃げ易くなる。
しかし、本実施形態では、混合気が自着火する時点において、燃料噴射弁14及び放電電極部13aの周囲には、比較的燃料リッチな混合気が存在しないので、放電電極部13aからの燃焼熱の放出を抑制して、冷却損失を低減することができる。
また、燃焼し難いシリンダ壁面の近傍にも、比較的燃料リッチな混合気が存在しないので、未燃損失をより一層低減することができるとともに、シリンダ壁面からの燃焼熱の放出を抑制することができる。
さらに、本実施形態では、燃焼室6の天井面及びピストン5の冠面5aに遮熱層7が設けられているので、冷却損失をより一層低減することができる。
圧縮行程における燃料の噴射時期としては、例えば、1回目の噴射は、クランク角度で圧縮上死点前90°で開始し、圧縮上死点前86°で終了する。2回目の噴射は、圧縮上死点前70°で開始し、圧縮上死点前63°で終了する。3回目の噴射は、圧縮上死点前49°で開始し、圧縮上死点前45°で終了する。図10に記載の圧縮行程における燃料の噴射時期は、これらの噴射時期に合わせている。また、1回目の噴射時における外開弁62又は芯弁67のリフト量は、最大リフト量の1/5であり、2回目の同リフト量は、最大リフト量の1/3であり、3回目の同リフト量は、最大リフト量の1/5である。
このように、2回目の噴射時における噴射期間が、他の回の噴射時における噴射期間よりも長く、かつ、2回目の噴射時におけるリフト量が、他の回のリフト量よりも大きい。すなわち、2回目の噴射時における噴射量が、他の回の噴射時における噴射量よりも多くされている。これは、1回目の噴射時よりも2回目の噴射時の方が燃焼室6内の圧力が高くなっているので、より多くの燃料を噴射しても、燃料を遠くに飛ばないようすることができるからである。一方、3回目の噴射では、燃焼室6内の圧力がより高くなるものの、1回目及び2回目に噴射されて浮遊している燃料噴霧を進行方向に押す可能性が高くなるので、1回目と同程度の噴射量とされている。
ここで、燃料が分割噴射されたときに燃料が遠くに飛び難くなる理由を、図3(b)の分割噴射時と図12の一括噴射時とを比較して説明する。図3(b)は、燃料を3分割噴射したときの燃料噴霧の様子を示し、図12は、図3(b)の分割噴射時のトータル噴射量と同じ量の燃料を一括噴射したときの燃料噴霧の様子を示す。
図12に示すように、一括噴射の場合には、先に噴射された燃料(燃料噴霧)は、後から噴射された燃料によって押されて遠くに飛び易くなる。また、先に噴射された燃料噴霧の先端には、燃料噴霧の進行に伴って、燃料噴霧を巻き上げる渦流が発生し、その渦流によって、燃料噴霧の一部は、巻き上げられるが、その渦流が、後から噴射された燃料を進行方向に押す働きをして、これによっても、燃料噴霧が遠くに飛び易くなる。
一方、図3(b)に示すように、分割噴射の場合には、各回の噴射量が少量であることから、噴射直後に燃料噴霧が浮遊した状態になり易く、一括噴射の場合のような渦流が生じ難い。また、先の回に噴射された燃料噴霧が、その直後の回に噴射された燃料噴霧によって進行方向に押され難い。したがって、分割噴射の場合には、燃料が遠くに飛び難くなる。
図13は、圧縮行程で燃料を一括噴射した場合及び分割噴射した場合の燃料の噴射開始時期(分割噴射の場合は、1回目の噴射開始時期)と、排気ガス中のCO濃度及びTHC濃度との関係を調べた結果を示す。THC濃度は、全炭化水素の濃度であって、メタン及び非メタン炭化水素の濃度である。
図13では、横軸は、燃料の噴射開始時期であって、圧縮上死点を0°としたクランク角度である。ここでは、圧縮上死点前のクランク角度を正の値としている。縦軸は、排気ガス中のCO濃度又はTHC濃度である。
上記関係を調べたエンジンでは、吸気弁の全閉タイミングが、圧縮上死点前135°となっている。また、一括噴射では、外開弁のリフト量が最大リフト量とされ、噴射期間はクランク角度で4°とされる。分割噴射では、トータル噴射量を一括噴射の噴射量と同じになるようにするとともに、上記特定期間内に各回の噴射が行われるように、出来る限り3回噴射する(1回目の噴射開始時期が遅角して3回では上記特定期間内に噴射できない場合には、2回噴射する)とともに、トータル噴射量を一括噴射の噴射量と同じになるようにした。分割噴射の場合は、上記特定期間内に2回噴射できなくなるまで、1回目の噴射開始時期を遅角させた。
図13より、一括噴射の場合には、上記特定期間に噴射すると、CO濃度及びTHC濃度が増大する(すなわち、燃料の燃え残りが多い)ことが分かる。一方、一括噴射の場合であっても、圧縮行程の3/4を経過した時期以降に燃料を噴射すれば、燃料が良好に燃焼(酸化)して燃料の燃え残りが少なくなる。しかし、圧縮行程の3/4を経過した時期以降に燃料を噴射したのでは、上記したように、混合気の燃焼熱が、特に放電電極部13aを介して燃焼室6の外部に逃げ易くなるので、燃料を上記特定期間に分割噴射する。
図13より、燃料を上記特定期間に分割噴射すれば、CO濃度及びTHC濃度がかなり低下する(すなわち、燃料の燃え残りが少なくなる)ことが分かる。特に吸気弁の全閉タイミング(圧縮上死点前135°)以降に燃料を噴射することで、CO濃度及びTHC濃度がより一層低下する。これは、吸気弁の全閉によって、燃焼室内の圧力が高くなって、燃料が飛び難くなるからである。
したがって、上記特定期間に燃料が噴射されても、分割噴射することにより、該特定期間に噴射された燃料が燃焼し易くなり、上記特定期間に噴射された燃料の燃え残りを少なくすることができる。
また、分割噴射の場合、空気過剰率が5未満となる混合気(燃焼可能な混合気)が、燃焼室全体の混合気に対してシリンダ壁面に接触する割合を調べたところ、1回目の噴射開始時期が遅角するほど、その割合が少なくなった。このことから、上記特定期間の中で出来る限り遅く噴射することで、シリンダ壁面からの燃焼熱の放出を抑制することができる。
運転領域Bでは、ECU100は、混合気が自着火する時点で、燃焼室6の天井面及びピストン5の冠面5aから離間して混合気層54(図15参照)が形成されるように、燃料噴射弁14に対して、圧縮行程を初期、中期及び後期と3等分したときの中期に燃料噴射を行わせる(図14参照)。運転領域Bでは、吸気行程での燃料噴射は行われない。
本実施形態では、運転領域Bでは、燃料噴射弁14に対して、圧縮行程の中期において燃料噴射を複数回に分けて行わせる。燃料噴射弁による圧縮行程の中期における噴射回数は、運転領域Bにおける3つの運転領域B1,B2,B3毎に設定されている。
運転領域B1は、エンジン本体1aの回転数が第1所定回転数N1以下であるとともに、エンジン本体1aの負荷が第2所定負荷L2以上かつ第1所定負荷L1未満である領域である。運転領域B1では、燃料噴射弁14による圧縮行程の中期における噴射回数は、3回に設定されている。尚、第2所定負荷L2は、回転数が高くなるほど高くなる。
運転領域B2は、エンジン本体1aの回転数が第1所定回転数N1以下であるとともに、エンジン本体1aの負荷がロードロードラインRLの負荷以上かつ第2所定負荷L2未満の領域である。運転領域B2では、燃料噴射弁14による圧縮行程の中期における噴射回数は、2回に設定されている。
運転領域B3は、エンジン本体1aの回転数が第1所定回転数N1を超えかつ第2所定回転数N2以下であるとともに、エンジン本体1aの負荷がロードロードラインRLの負荷以上かつ第1所定負荷L1未満である領域である。運転領域B3では、燃料噴射弁14による圧縮行程の中期における噴射回数は、3回に設定されている。
したがって、燃料噴射弁14による圧縮行程の中期における噴射回数は、エンジン本体1aの負荷が高いときには、該負荷が低いときに比べて、多くなるように設定されていることになる。また、燃料噴射弁14による圧縮行程の中期における噴射回数は、エンジン本体1aの回転数が低いときには、該回転数が高いときに比べて、多くなるように設定されていることになる。
運転領域Bにおいては、圧縮行程の中期に燃料が噴射される。これにより、図15に示すように、混合気が自着火する時点において、燃焼室6の天井面(特に放電プラグ13の放電電極部13a)から離間するように比較的燃料リッチな混合気層54が形成されるとともに、燃料噴射弁14の燃料噴射口及び放電電極部13aの周囲を含む、燃焼室6の天井面と混合気層54との間には、空気(又は、空気及びEGRガス)を含むガス層55が形成される。また、ピストン5の上昇による上昇流と分割噴射とによって、混合気層54がピストン5の冠面5aからも離間するようになる。すなわち、ピストン5の冠面5aと混合気層54との間にも、ガス層55が形成されることになる。
尚、本実施形態とは異なる参考形態において、運転領域Bにおいては、必ずしも分割噴射を行わなくてもよい。この場合でも、燃料の噴射量が少なくて済むとともに、高圧縮比であるので、圧縮行程の中期に噴射された燃料は飛びに難く、混合気層54を燃焼室6の天井面及びピストン5の冠面5aから離間させることができる。
ここで、運転領域Bにおいて、エンジン本体1aの負荷が高いときの噴射回数が、負荷が低いときの噴射回数と同じであれば、負荷が高いときの各回の噴射量が、負荷が低いときの各回の噴射量に比べて多くなる。各回の噴射量が多くなると、各回で噴射される燃料が遠くに飛び易くなる。しかし、本実施形態では、負荷が高いときの噴射回数(運転領域B1の噴射回数)を、負荷が低いときの噴射回数(運転領域B2の噴射回数)に比べて多くすることで、負荷が高くても、負荷が低いときと同様に、各回で噴射される燃料を飛び難くすることができる。よって、運転領域Bにおいて、エンジン本体1aの負荷の高低に関係なく、冷却損失を低減することができる。
また、エンジン本体1aの回転数が低いときの噴射回数が、回転数が高いときの噴射回数と同じであれば、回転数が低いときに噴射された各回の燃料は、回転数が高いときに噴射された各回の燃料に比べて、ピストン5の上昇による上昇流の影響を受けずに、ピストン5の冠面5aに向かって飛び易くなる。しかし、本実施形態では、エンジン本体1aの回転数が低いときの噴射回数(運転領域B1の噴射回数)を、回転数が高いときの噴射回数(運転領域B3の噴射回数)に比べて多くすることで、回転数が低いときの各回の噴射量を、回転数が高いときの各回の噴射量よりも少なくして、ピストン5の上昇による上昇流が弱くても、上昇流が強いときと同様に、各回で噴射される燃料を飛び難くすることができる。よって、運転領域Bにおいて、エンジン本体1aの回転数の高低に関係なく、冷却損失を低減することができる。
したがって、本実施形態では、エンジン本体1aの運転状態が所定負荷よりも低負荷側の運転領域(運転領域B)にあるときにおいて、混合気が自着火する時点で、燃焼室6の天井面及びピストン5の冠面5aから離間して混合気層54が形成されるように、圧縮行程の中期に、燃料噴射を行うようにしたので、運転領域Bにおいて、冷却損失を低減して、エンジン1の熱効率を向上させることができる。
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
本発明は、燃焼室が形成された気筒を有するエンジン本体を備え、該燃焼室内で燃料と空気との混合気を自着火させる予混合圧縮着火式エンジンに有用である。
1 予混合圧縮着火式エンジン
1a エンジン本体
2 気筒
5 ピストン
5a 冠面
6 燃焼室
13 放電プラグ
13a 放電電極部
14 燃料噴射弁
100 ECU(燃料噴射弁制御手段)

Claims (4)

  1. 燃焼室が形成された気筒を有するエンジン本体を備え、該燃焼室内で燃料と空気との混合気を自着火させる予混合圧縮着火式エンジンであって、
    上記エンジン本体の幾何学的圧縮比が、16以上30以下であり、
    燃料噴射口が上記燃焼室の天井面の略中央から該燃焼室に臨み、該燃料噴射口から燃料をピストンの冠面に向かって噴射する燃料噴射弁と、
    上記燃焼室の天井面における上記燃料噴射口の近傍から該燃焼室に臨み、非平衡プラズマを生成する金属製の放電電極部と、
    上記燃料噴射弁の作動を制御する燃料噴射弁制御手段とを備え、
    上記燃料噴射弁制御手段は、上記エンジン本体の運転状態が、負荷が所定負荷よりも低負荷側でかつロードロードライン以上でかつ、回転数が第2所定回転数以下である特定運転領域にあるときにおいて、上記混合気が自着火する時点で、上記燃焼室の天井面及び上記ピストンの冠面から離間して混合気層が形成されるように、上記燃料噴射弁に対して、圧縮行程を初期、中期及び後期と3等分したときの中期に、燃料噴射を複数回に分けて行わせるように構成されており、
    上記所定負荷は、回転数が上記第2所定回転数以下のときには、ロードロードラインよりも高い負荷に設定される一方、回転数が上記第2所定回転数より高い回転数では上記ロードロードラインの負荷に設定されており、
    上記特定運転領域のうち回転数が、上記第2所定回転数よりも低い第1所定回転数以下である特定低回転運転領域は、上記所定負荷未満でかつ上記ロードロードラインよりも高い負荷に設定されかつ回転数が高いほど高負荷側に位置する特定境界が設定されており、
    上記エンジン本体の運転状態が、上記特定低回転運転領域にあるときにおいて、上記燃料噴射弁による圧縮行程の上記中期における噴射回数は、該運転状態が上記特定境界の高負荷側かつ低回転側にあるときの方が、該運転状態が上記特定境界の低負荷側かつ高回転側にあるときと比べて、多くなるように設定されている、ことを特徴とする予混合圧縮着火式エンジン。
  2. 請求項1記載の予混合圧縮着火式エンジンにおいて、
    上記燃焼室の天井面に、遮熱層が設けられていることを特徴とする予混合圧縮着火式エンジン。
  3. 請求項1又は2記載の予混合圧縮着火式エンジンにおいて、
    上記燃料噴射弁の燃料噴射口から噴射される燃料の燃圧が、15MPa以上60MPa以下に設定されていることを特徴とする予混合圧縮着火式エンジン。
  4. 請求項1~3のいずれか1つに記載の予混合圧縮着火式エンジンにおいて、
    上記燃料噴射弁は、上記燃料噴射口から燃料を上記ピストンの冠面に向かって円錐状に拡がるように噴射するよう構成されていることを特徴とする予混合圧縮着火式エンジン。
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