以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
(繊維状セルロース含有固形状体)
本発明は、繊維状セルロース含有固形状体に関する。具体的には、本発明は、アニオン性基を有する繊維状セルロースと、水と、を含む固形状体であって、アニオン性基の対イオンとして有機オニウムイオンを含む固形状体に関する。そして、下記測定条件で測定した固形状体の保水度は40%以上である。
(測定条件)
固形状体の固形分濃度が5質量%となるようにイオン交換水に24時間浸漬する。その後、さらにイオン交換水を添加して固形分濃度が1.5質量%の懸濁液とし、この懸濁液を5m/秒で10分間撹拌する。次いで、得られた懸濁液から固形分濃度が10±5質量%、絶乾坪量が1700±100g/m2のシートを形成し、シートへの遠心加速度が3950Gとなるように15分間遠心分離処理をする。遠心分離処理後のシートの質量と、絶乾後のシートの質量から、以下の式により保水度を算出する。
保水度(%)=(遠心分離処理後のシートの質量−シートの絶乾質量)/シートの絶乾質量×100
本発明の繊維状セルロース含有固形状体は、上記構成を有するものであるため、有機溶媒への再分散性に優れている。このため、繊維状セルロース含有固形状体を有機溶媒に分散させた際、再分散液中には沈降物が生じにくい。また、繊維状セルロース含有固形状体を有機溶媒に分散させた、再分散液は高透明であり、かつ高粘度となる。さらに本発明の繊維状セルロース含有固形状体は、有機溶媒への分散性が良好であるため、繊維状セルロースを有機溶媒に分散させる際にかかるエネルギーを減らすことができる。
従来、繊維状セルロースを有機溶媒に分散させる際には、繊維状セルロースが有機溶媒と直接接することを嫌うために、繊維状セルロース同士が集まり、その結果として繊維状セルロースの凝集物が生じることがあった。しかし、本発明においては、繊維状セルロース含有固形状体の保水度を所定範囲とすることにより、溶媒系の水分が保水度の高い繊維状セルロースの近傍に存在しやすくなり、これにより、水分子に被覆された状態の繊維状セルロース(水和層に覆われた繊維状セルロース)が得られることになる。水分子に被覆された状態の繊維状セルロースは、有機溶媒と直接接することがなくなるため、繊維状セルロース同士の凝集が抑制され、その結果、有機溶媒への再分散性が高まるものと考えられる。
繊維状セルロース含有固形状体の保水度は、固形状体の水との親和性を表す指標であると言える。具体的には、固形状体の保水度は、固形状体を十分量の水に浸漬し、所定条件で遠心分離処理を行った際に、どの程度の水を抱え込むことができるかの指標である。ここで、保水度は、SCAN−C62に準拠して測定することができる。但し、保水度を測定する際には、固形状体から所定条件で懸濁液を作製し、該懸濁液から固形分濃度が10±5質量%、絶乾坪量が1700±100g/m2のシートを形成する。そして、遠心分離処理を、シートへの遠心加速度が3950G(回転速度4400rpm)となるように20℃で15分間行うことで保水度算出用のサンプルシートを作製する。遠心分離装置としては、例えば、コクサン社製のH−3Rを用いることができる。
保水度(%)=(遠心分離処理後のシートの質量−シートの絶乾質量)/シートの絶乾質量×100
ここで、保水度を測定するためのサンプルシートは以下の方法で作製される。
まず、繊維状セルロース含有固形状体に、固形分濃度が5質量%となるようイオン交換水を添加したのち、24時間の間浸漬する。その後、さらにイオン交換水を添加して固形分濃度が1.5質量%の懸濁液を得る。得られた懸濁液を、周速5m/秒の条件で10分間撹拌する。例えば、半径15mmの撹拌羽根を備えたディスパーザーを用いて、懸濁液を3000rpmで10分間撹拌する。この場合、撹拌する懸濁液の量は、例えば100gとし、ディスパーザーとしては、例えば、プライミクス社製のTKロボミックスを用いることができる。
得られた保水度測定用サンプルから固形分濃度が10±5質量%、絶乾坪量が1700±100g/m2のサンプルシートを作製する。この場合、例えば、保水度測定用サンプルを、金属メッシュ(目開き125μm 線径90μm)上に注ぎ入れ、吸引濾過を行うことでサンプルシートを作製することができる。
上述した測定方法で測定される繊維状セルロース含有固形状体の保水度は40%以上であればよく、45%以上であることが好ましい。なお、保水度の上限値は特に限定されるものではないが、1000%以下であることが好ましく、500%以下であることがより好ましい。繊維状セルロース含有固形状体の保水度を上記範囲内とすることにより、本発明では、有機溶媒に対する分散性に優れた固形状体を得ることができる。
なお、繊維状セルロース含有固形状体の上記保水度は、水分含有量、有機オニウムの種類、有機オニウムの含有量、固形状体の粒子径、固形状体の比表面積、固形状体の表面粗さ、繊維状セルロースのアニオン性基量、繊維状セルロースの繊維幅、製造時の乾燥温度や湿度、乾燥溶媒、乾燥時間等を適切にコントロールすることによって達成される。中でも、繊維状セルロース含有固形状体の上記保水度を達成するためには、水分含有量、製造時の乾燥温度や湿度、乾燥時間等を適切にコントロールすることが好ましい。
本発明の繊維状セルロース含有固形状体の形態は、特に限定されるものではなく、例えば、シート状や粉粒状であってもよい。なお、繊維状セルロース含有固形状体はゲル状体であってもよい。中でも、繊維状セルロース含有固形状体は、粉粒状であることが好ましい。ここで、粉粒状体は、粉状及び/又は粒状の物質である。なお、粉状物質は、粒状物質よりも小さいものをいう。一般的には、粉状物質は粒子径が1nm以上0.1mm未満の微粒子をいい、粒状物質は、粒子径が0.1mm以上10mm以下の粒子をいうが、特に限定されない。なお、本明細書においては、粉粒状体は粉体と呼ぶこともある。本明細書における粉粒状体の粒子径はレーザー回折法を用いて測定・算出することができる。具体的には、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置(Microtrac3300EXII、日機装株式会社)を用いて測定した値とする。
繊維状セルロース含有固形状体の固形分濃度は、繊維状セルロース含有固形状体の全質量に対して、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。なお、繊維状セルロース含有固形状体の固形分濃度は、99.5質量%以下であることが好ましい。
繊維状セルロース含有固形状体の水分含有量は、繊維状セルロース含有固形状体の全質量に対して、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましく、5質量%以上であることが特に好ましい。また、繊維状セルロース含有固形状体の水分含有量は、繊維状セルロース含有固形状体の全質量に対して、80質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましい。なお、繊維状セルロース含有固形状体中の水分含有量は、繊維状セルロース含有固形状体を水分計(エー・アンド・デイ社製、MS−70)に200mg載せ、140℃で加熱することで測定することができる。測定された水分量から繊維状セルロース含有固形状体中の水分含有量を算出することができる。
繊維状セルロース含有固形状体を有機溶媒中に分散させて得られる有機溶媒スラリーの粘度は、分散媒である有機溶媒の種類と分散液中の繊維状セルロースの濃度に依存する。例えば、有機溶媒スラリー中の繊維状セルロースの濃度が4質量%であって、有機溶媒がメチルエチルケトンである場合、分散液の粘度は、100mPa・s以上であることが好ましく、1000mPa・s以上であることがより好ましく、5000mPa・s以上であることがさらに好ましい。また、有機溶媒スラリー中の繊維状セルロースの濃度が4質量%であって、有機溶媒がトルエンの場合は、分散液の粘度は、100mPa・s以上であることが好ましく、200mPa・s以上であることがより好ましく、500mPa・s以上であることがさらに好ましい。有機溶媒スラリー中の繊維状セルロースの濃度が4質量%であって、有機溶媒が酢酸エチルの場合は、分散液の粘度は、100mPa・s以上であることが好ましく、1000mPa・s以上であることがより好ましく、5000mPa・s以上であることがさらに好ましい。
繊維状セルロース含有固形状体を有機溶媒中に分散させて得られる有機溶媒スラリーの粘度を測定する際は、固形分濃度が4質量%となるように繊維状セルロースを有機溶媒中に分散して得られる有機溶媒スラリーを、23℃、相対湿度50%の条件下に、溶剤の揮発が起こらないよう密閉した状態で24時間静置した後、B型粘度計を用いて測定する。B型粘度計としては、例えば、BLOOKFIELD社製のアナログ粘度計T−LVTを用いることができる。測定条件は、23℃の条件とし、3rpmで3分間回転させた際の粘度を測定する。
(繊維状セルロース)
本発明の繊維状セルロース含有固形状体は、アニオン性基を有する繊維状セルロースを含有する。ここで、繊維状セルロースの繊維幅は特に限定されるものではなく、繊維幅は1000nmを超えるものであってもよいが、繊維状セルロースの繊維幅は1000nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、8nm以下であることがさらに好ましい。これにより、有機溶媒に対する分散性をより効果的に高めることができる。なお、本明細書において、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを微細繊維状セルロースと呼ぶこともある。
繊維状セルロースの繊維幅は、たとえば電子顕微鏡観察などにより測定することが可能である。繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば1000nm以下である。繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば2nm以上1000nm以下であることが好ましく、2nm以上100nm以下であることがより好ましく、2nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、2nm以上10nm以下であることがとくに好ましい。繊維状セルロースの平均繊維幅を2nm以上とすることにより、セルロース分子として水に溶解することを抑制し、繊維状セルロースによる強度や剛性、寸法安定性の向上という効果をより発現しやすくすることができる。なお、繊維状セルロースは、たとえば単繊維状のセルロースである。
繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば電子顕微鏡を用いて以下のようにして測定される。まず、濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。次いで、観察対象となる繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を目視で読み取る。このようにして、少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得る。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。これにより、少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。そして、読み取った繊維幅の平均値を、繊維状セルロースの平均繊維幅とする。
繊維状セルロースの繊維長は、とくに限定されないが、たとえば0.1μm以上1000μm以下であることが好ましく、0.1μm以上800μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上600μm以下であることがさらに好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制できる。また、繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることも可能となる。なお、繊維状セルロースの繊維長は、たとえばTEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、繊維状セルロースがI型結晶構造を有することは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は、たとえば30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。これにより、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
繊維状セルロースの軸比(繊維長/繊維幅)は、とくに限定されないが、たとえば20以上10000以下であることが好ましく、50以上1000以下であることがより好ましい。軸比を上記下限値以上とすることにより、微細繊維状セルロースを含有するシートを形成しやすい。軸比を上記上限値以下とすることにより、たとえば繊維状セルロースを水分散液として扱う際に、希釈等のハンドリングがしやすくなる点で好ましい。
本実施形態における繊維状セルロースは、たとえば結晶領域と非結晶領域をともに有している。とくに、結晶領域と非結晶領域をともに有し、かつ軸比が高い微細繊維状セルロースは、後述する微細繊維状セルロースの製造方法により実現されるものである。
繊維状セルロースはアニオン性基を有する。アニオン性基としては、たとえばリン酸基またはリン酸基に由来する置換基(単にリン酸基ということもある)、カルボキシ基またはカルボキシ基に由来する置換基(単にカルボキシ基ということもある)、およびスルホン基またはスルホン基に由来する置換基(単にスルホン基ということもある)から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸基およびカルボキシ基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン酸基であることがとくに好ましい。リン酸基は、カルボキシ基等と比較して、1分子あたりのアニオン性基数が多いため、より多くの有機オニウムイオンを対イオンとして有し得る。これにより、微細繊維状セルロースの分散性等をより高めることができるものと考えられる。
リン酸基又はリン酸基に由来する置換基は、たとえば下記式(1)で表される置換基であり、リンオキソ酸基またはリンオキソ酸に由来する置換基として一般化される。
リン酸基は、たとえばリン酸からヒドロキシ基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には−PO3H2で表される基である。リン酸基に由来する置換基には、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの置換基が含まれる。なお、リン酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮合した基(たとえばピロリン酸基)として繊維状セルロースに含まれていてもよい。また、リン酸基は、たとえば、亜リン酸基(ホスホン酸基)であってもよく、リン酸基に由来する置換基は、亜リン酸基の塩、亜リン酸エステル基などであってもよい。
式(1)中、a、b及びnは自然数である(ただし、a=b×mである)。α1,α2,・・・,αn及びα’のうちa個がO-であり、残りはR,ORのいずれかである。なお、各αn及びα’の全てがO-であっても構わない。Rは、各々、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、不飽和−環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。なお、βb+の少なくとも一部は後述する有機オニウムイオンである。
飽和−直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、又はn−ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和−分岐鎖状炭化水素基としては、i−プロピル基、又はt−ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和−環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、又はシクロヘキシル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和−直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、又はアリル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和−分岐鎖状炭化水素基としては、i−プロペニル基、又は3−ブテニル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和−環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、特に限定されない。芳香族基としては、フェニル基、又はナフチル基等が挙げられるが、特に限定されない。
また、Rにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖又は側鎖に対し、カルボキシ基、ヒドロキシ基、又はアミノ基などの官能基のうち、少なくとも1種類が付加又は置換した状態の官能基が挙げられるが、特に限定されない。また、Rの主鎖を構成する炭素原子数は特に限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、リン酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、微細セルロース繊維の収率を高めることもできる。
βb+は有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、脂肪族アンモニウム、又は芳香族アンモニウムが挙げられ、βb+の少なくとも一部は後述する有機オニウムイオンである。また、無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属の陽イオン、又は水素イオン等が挙げられるが、特に限定されない。これらは1種又は2種類以上を組み合わせて適用することもできる。有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βを含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、又はカリウムのイオンが好ましいが、とくに限定されない。
繊維状セルロースにおけるアニオン性基の導入量(アニオン性基量)は、たとえば繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、繊維状セルロースにおけるアニオン性基の導入量は、たとえば繊維状セルロース1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。ここで、単位mmol/gは、アニオン性基の対イオンが水素イオン(H+)であるときの繊維状セルロースの質量1gあたりの置換基量を示す。アニオン性基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易とすることができ、繊維状セルロースの安定性を高めることが可能となる。さらに、アニオン性基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロースが含み得る有機オニウムイオンの含有量を適切な範囲とすることができ、これにより、繊維状セルロースの有機溶媒に対する分散性を効果的に高めることができる。
繊維状セルロースに対するアニオン性基の導入量は、たとえば伝導度滴定法により測定することができる。伝導度滴定法による測定では、得られた繊維状セルロースを含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながら伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定する。
図1は、リン酸基を有する繊維状セルロースに対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。繊維状セルロースに対するリン酸基の導入量は、たとえば次のように測定される。まず、繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を観察し、図1に示すような滴定曲線を得る。図1に示すように、最初は急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。なお、第2領域と第3領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。このように、滴定曲線には、3つの領域が現れる。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。このため、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。したがって、上記で得られた滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リン酸基導入量(mmol/g)となる。
図2は、カルボキシ基を有する繊維状セルロースに対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。繊維状セルロースに対するカルボキシ基の導入量は、たとえば次のように測定される。まず、繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を観察し、図2に示すような滴定曲線を得る。滴定曲線は、図2に示すように、電気伝導度が減少した後、伝導度の増分(傾き)がほぼ一定となるまでの第1領域と、その後に伝導度の増分(傾き)が増加する第2領域に区分される。なお、第1領域、第2領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。そして、滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象の微細繊維状セルロース含有スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、カルボキシ基の導入量(mmol/g)となる。
なお、上述のカルボキシ基導入量(mmol/g)は、カルボキシ基の対イオンが水素イオン(H+)であるときの繊維状セルロースの質量1gあたりの置換基量(以降、カルボキシ基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、カルボキシ基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの繊維状セルロースの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである繊維状セルロースが有するカルボキシ基量(以降、カルボキシ基量(C型))を求めることができる。
すなわち、下記計算式によってカルボキシ基導入量を算出する。
カルボキシ基導入量(C型)=カルボキシ基量(酸型)/[1+(W−1)×(カルボキシ基量(酸型))/1000]
W:陽イオンCの1価あたりの式量(例えば、Naは23、Alは9)
なお、滴定法による置換基量の測定においては、水酸化ナトリウム水溶液の滴定間隔が短すぎる場合、本来より低い置換基量となることがあるため、適切な滴定間隔、例えば、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を30秒に50μLずつ滴定するなどが望ましい。
<微細繊維状セルロースの製造工程>
<繊維原料>
微細繊維状セルロースは、セルロースを含む繊維原料から製造される。セルロースを含む繊維原料としては、とくに限定されないが、入手しやすく安価である点からパルプを用いることが好ましい。パルプとしては、たとえば木材パルプ、非木材パルプ、および脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、とくに限定されないが、たとえば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、とくに限定されないが、たとえばコットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わらおよびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、とくに限定されないが、たとえば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
上記パルプの中でも、入手のしやすさという観点からは、たとえば木材パルプおよび脱墨パルプが好ましい。また、木材パルプの中でも、セルロース比率が大きく解繊処理時の微細繊維状セルロースの収率が高い観点や、パルプ中のセルロースの分解が小さく軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる観点から、たとえば化学パルプがより好ましく、クラフトパルプ、サルファイトパルプがさらに好ましい。なお、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを用いると粘度が高くなる傾向がある。
セルロースを含む繊維原料としては、たとえばホヤ類に含まれるセルロースや、酢酸菌が生成するバクテリアセルロースを利用することもできる。また、セルロースを含む繊維原料に代えて、キチン、キトサンなどの直鎖型の含窒素多糖高分子が形成する繊維を用いることもできる。
<リン酸基導入工程>
微細繊維状セルロースがリン酸基を有する場合、微細繊維状セルロースの製造工程は、リン酸基導入工程を含む。リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、リン酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物A」ともいう)を、セルロースを含む繊維原料に作用させる工程である。この工程により、リン酸基導入繊維が得られることとなる。
本実施形態に係るリン酸基導入工程では、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行ってもよい。一方で、化合物Bが存在しない状態において、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を行ってもよい。
化合物Aを化合物Bとの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態、湿潤状態またはスラリー状の繊維原料に対して、化合物Aと化合物Bを混合する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料を用いることが好ましく、特に乾燥状態の繊維原料を用いることが好ましい。繊維原料の形態は、とくに限定されないが、たとえば綿状や薄いシート状であることが好ましい。化合物Aおよび化合物Bは、それぞれ粉末状または溶媒に溶解させた溶液状または融点以上まで加熱して溶融させた状態で繊維原料に添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、溶媒に溶解させた溶液状、特に水溶液の状態で添加することが好ましい。また、化合物Aと化合物Bは繊維原料に対して同時に添加してもよく、別々に添加してもよく、混合物として添加してもよい。化合物Aと化合物Bの添加方法としては、とくに限定されないが、化合物Aと化合物Bが溶液状の場合は、繊維原料を溶液内に浸漬し吸液させたのちに取り出してもよいし、繊維原料に溶液を滴下してもよい。また、必要量の化合物Aと化合物Bを繊維原料に添加してもよいし、過剰量の化合物Aと化合物Bをそれぞれ繊維原料に添加した後に、圧搾や濾過によって余剰の化合物Aと化合物Bを除去してもよい。
本実施態様で使用する化合物Aとしては、リン原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物が挙げられ、具体的には、リン酸もしくはその塩、亜リン酸もしくはその塩、脱水縮合リン酸もしくはその塩、無水リン酸(五酸化二リン)などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸としては、種々の純度のものを使用することができ、たとえば100%リン酸(正リン酸)や85%リン酸を使用することができる。亜リン酸としては、たとえば99%亜リン酸(ホスホン酸)が挙げられる。脱水縮合リン酸は、リン酸が脱水反応により2分子以上縮合したものであり、例えばピロリン酸、ポリリン酸等を挙げることができる。リン酸塩、亜リン酸塩、脱水縮合リン酸塩としては、リン酸、亜リン酸または脱水縮合リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。これらのうち、リン酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、またはリン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、またはリン酸二水素アンモニウムがより好ましい。
繊維原料に対する化合物Aの添加量は、特に限定されないが、たとえば化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合において、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量が0.5質量%以上100質量%以下となることが好ましく、1質量%以上50質量%以下となることがより好ましく、2質量%以上30質量%以下となることがさらに好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。一方で、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記上限値以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。
本実施態様で使用する化合物Bは、上述のとおり尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種である。化合物Bとしては、たとえば尿素、ビウレット、1−フェニル尿素、1−ベンジル尿素、1−メチル尿素、および1−エチル尿素などが挙げられる。
反応の均一性を向上させる観点から、化合物Bは水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は、とくに限定されないが、たとえば1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましい。
セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応においては、化合物Bの他に、たとえばアミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、たとえばホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、たとえばメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
リン酸基導入工程においては、繊維原料に化合物A等を添加又は混合した後、当該繊維原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、たとえば撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いることができる。
本実施形態に係る加熱処理においては、たとえば薄いシート状の繊維原料に化合物Aを含浸等の方法により添加した後、加熱する方法や、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は撹拌しながら加熱する方法を採用することができる。これにより、繊維原料における化合物Aの濃度ムラを抑制して、繊維原料に含まれるセルロース繊維表面へより均一にリン酸基を導入することが可能となる。これは、乾燥に伴い水分子が繊維原料表面に移動する際、溶存する化合物Aが表面張力によって水分子に引き付けられ、同様に繊維原料表面に移動してしまう(すなわち、化合物Aの濃度ムラを生じてしまう)ことを抑制できることに起因するものと考えられる。
また、加熱処理に用いる加熱装置は、たとえばスラリーが保持する水分、及び化合物Aと繊維原料中のセルロース等が含む水酸基等との脱水縮合(リン酸エステル化)反応に伴って生じる水分、を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、例えば送風方式のオーブン等が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもできる。このため、軸比の高い微細繊維状セルロースを得ることが可能となる。
加熱処理の時間は、たとえば繊維原料から実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本実施形態では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、2回以上繰り返して行うこともできる。2回以上のリン酸基導入工程を行うことにより、繊維原料に対して多くのリン酸基を導入することができる。本実施形態においては、好ましい態様の一例として、リン酸基導入工程を2回行う場合が挙げられる。
繊維原料に対するリン酸基の導入量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、繊維原料に対するリン酸基の導入量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。さらに、リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロースが含み得る有機オニウムイオンの含有量を適切な範囲とすることができ、これにより、繊維状セルロースの有機溶媒に対する分散性を効果的に高めることができる。
<カルボキシ基導入工程>
微細繊維状セルロースがカルボキシ基を有する場合、微細繊維状セルロースの製造工程は、カルボキシ基導入工程を含む。カルボキシ基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、オゾン酸化やフェントン法による酸化、TEMPO酸化処理などの酸化処理やカルボン酸由来の基を有する化合物もしくはその誘導体、またはカルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物もしくはその誘導体によって処理することにより行われる。
カルボン酸由来の基を有する化合物としては、特に限定されないが、たとえばマレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等のトリカルボン酸化合物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の誘導体としては、特に限定されないが、たとえばカルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては、特に限定されないが、たとえばマレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物としては、特に限定されないが、たとえば無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては、特に限定されないが、たとえばジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等のカルボキシ基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が、アルキル基、フェニル基等の置換基により置換されたものが挙げられる。
カルボキシ基導入工程において、TEMPO酸化処理を行う場合には、たとえばその処理をpHが6以上8以下の条件で行うことが好ましい。このような処理は、中性TEMPO酸化処理ともいう。中性TEMPO酸化処理は、例えばリン酸ナトリウム緩衝液(pH=6.8)に、繊維原料としてパルプと、触媒としてTEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル)等のニトロキシラジカル、犠牲試薬として次亜塩素酸ナトリウムを添加することで行うことができる。さらに亜塩素酸ナトリウムを共存させることによって、酸化の過程で発生するアルデヒドを、効率的にカルボキシ基まで酸化することができる。
また、TEMPO酸化処理は、その処理をpHが10以上11以下の条件で行ってもよい。このような処理は、アルカリTEMPO酸化処理ともいう。アルカリTEMPO酸化処理は、たとえば繊維原料としてのパルプに対し、触媒としてTEMPO等のニトロキシラジカルと、共触媒として臭化ナトリウムと、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを添加することにより行うことができる。
繊維原料に対するカルボキシ基の導入量は、置換基の種類によっても変わるが、たとえばTEMPO酸化によりカルボキシ基を導入する場合、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.90mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、2.5mmol/g以下であることが好ましく、2.20mmol/g以下であることがより好ましく、2.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。その他、置換基がカルボキシメチル基である場合、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり5.8mmol/g以下であってもよい。さらに、カルボキシ基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロースが含み得る有機オニウムイオンの含有量を適切な範囲とすることができ、これにより、繊維状セルロースの有機溶媒に対する分散性を効果的に高めることができる。
<洗浄工程>
本実施形態における微細繊維状セルロースの製造方法においては、必要に応じてアニオン性基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、たとえば水や有機溶媒によりアニオン性基導入繊維を洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、とくに限定されない。
<アルカリ処理工程>
微細繊維状セルロースを製造する場合、アニオン性基導入工程と、後述する解繊処理工程との間に、繊維原料に対してアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えばアルカリ溶液中に、アニオン性基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水または有機溶媒のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、またはアルコールに例示される極性有機溶媒などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましい。アルカリ処理工程におけるアニオン性基導入繊維のアルカリ溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上30分以下であることが好ましく、10分以上20分以下であることがより好ましい。アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえばアニオン性基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の使用量を減らすために、アニオン性基導入工程の後であってアルカリ処理工程の前に、アニオン性基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄してもよい。アルカリ処理工程の後であって解繊処理工程の前には、取り扱い性を向上させる観点から、アルカリ処理を行ったアニオン性基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
<酸処理工程>
微細繊維状セルロースを製造する場合、アニオン性基を導入する工程と、後述する解繊処理工程の間に、繊維原料に対して酸処理を行ってもよい。例えば、アニオン性基導入工程、酸処理、アルカリ処理及び解繊処理をこの順で行ってもよい。
酸処理の方法としては、特に限定されないが、たとえば酸を含有する酸性液中に繊維原料を浸漬する方法が挙げられる。使用する酸性液の濃度は、特に限定されないが、たとえば10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、使用する酸性液のpHは、特に限定されないが、たとえば0以上4以下であることが好ましく、1以上3以下であることがより好ましい。酸性液に含まれる酸としては、たとえば無機酸、スルホン酸、カルボン酸等を用いることができる。無機酸としては、たとえば硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。スルホン酸としては、たとえばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、たとえばギ酸、酢酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸等が挙げられる。これらの中でも、塩酸または硫酸を用いることがとくに好ましい。
酸処理における酸溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上100℃以下が好ましく、20℃以上90℃以下がより好ましい。酸処理における酸溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上120分以下が好ましく、10分以上60分以下がより好ましい。酸処理における酸溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえば繊維原料の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
<解繊処理>
アニオン性基導入繊維を解繊処理工程で解繊処理することにより、微細繊維状セルロースが得られる。解繊処理工程においては、たとえば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、特に限定されないが、たとえば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いるのがより好ましい。
解繊処理工程においては、たとえばアニオン性基導入繊維を、分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水、および極性有機溶媒などの有機溶媒から選択される1種または2種以上を使用することができる。極性有機溶媒としては、とくに限定されないが、たとえばアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、非プロトン極性溶媒等が好ましい。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、たとえばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
解繊処理時の微細繊維状セルロースの固形分濃度は適宜設定できる。また、アニオン性基導入繊維を分散媒に分散させて得たスラリー中には、例えば水素結合性のある尿素などのアニオン性基導入繊維以外の固形分が含まれていてもよい。
(有機オニウムイオン)
本発明の繊維状セルロース含有固形状体は、繊維状セルロースが有するアニオン性基の対イオンとして、有機オニウムイオンを含む。本発明においては、少なくとも一部の有機オニウムイオンは、繊維状セルロースの対イオンとして存在しているが、繊維状セルロース含有固形状体中には、遊離した有機オニウムイオンが存在していてもよい。なお、有機オニウムイオンは、繊維状セルロースと共有結合を形成するものではない。
有機オニウムイオンは、下記(a)及び(b)から選択される少なくとも一方の条件を満たすものであることが好ましい。
(a)炭素数が5以上の炭化水素基を含む。
(b)総炭素数が17以上である。
すなわち、繊維状セルロースは、炭素数が5以上の炭化水素基を含む有機オニウムイオン、及び総炭素数が17以上の有機オニウムイオンから選択される少なくとも一方を、アニオン性基の対イオンとして含むことが好ましい。有機オニウムイオンを、上記(a)及び(b)から選択される少なくとも一方の条件を満たすものとすることにより、有機溶媒に対する繊維状セルロースの分散性をより効果的に高めることができる。
炭素数が5以上の炭化水素基は、炭素数が5以上のアルキル基又は炭素数が5以上のアルキレン基であることが好ましく、炭素数が6以上のアルキル基又は炭素数が6以上のアルキレン基であることがより好ましく、炭素数が7以上のアルキル基又は炭素数が7以上のアルキレン基であることがさらに好ましく、炭素数が10以上のアルキル基又は炭素数が10以上のアルキレン基であることが特に好ましい。中でも、有機オニウムイオンは炭素数が5以上のアルキル基を有するものであることが好ましく、炭素数が5以上のアルキル基を含み、かつ総炭素数が17以上の有機オニウムイオンであることがより好ましい。
有機オニウムイオンは、下記一般式(A)で表される有機オニウムイオンであることが好ましい。
上記一般式(A)中、Mは窒素原子又はリン原子であり、R1〜R4は、それぞれ独立に水素原子又は有機基を表す。但し、R1〜R4の少なくとも1つは、炭素数が5以上の有機基であるか、R1〜R4の炭素数の合計が17以上であることが好ましい。
中でも、Mは、窒素原子であることが好ましい。すなわち、有機オニウムイオンは有機アンモニウムイオンであることが好ましい。また、R1〜R4の少なくとも1つは、炭素数が5以上のアルキル基であり、かつR1〜R4の炭素数の合計が17以上であることが好ましい。
このような有機オニウムイオンとしては、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウム、オクチルジメチルエチルアンモニウム、ラウリルジメチルエチルアンモニウム、ジデシルジメチルアンモニウム、ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、トリブチルベンジルアンモニウム、メチルトリ−n−オクチルアンモニウム、ヘキシルアンモニウム、n−オクチルアンモニウム、ドデシルアンモニウム、テトラデシルアンモニウム、ヘキサデシルアンモニウム、ステアリルアンモニウム、N,N−ジメチルドデシルアンモニウム、N,N−ジメチルテトラデシルアンモニウム、N,N−ジメチルヘキサデシルアンモニウム、N,N−ジメチル−n−オクタデシルアンモニウム、ジヘキシルアンモニウム、ジ(2−エチルヘキシル)アンモニウム、ジーn−オクチルアンモニウム、ジデシルアンモニウム、ジドデシルアンモニウム、ジデシルメチルアンモニウム、N,N−ジドデシルメチルアンモニウム、ポリオキシエチレンドデシルアンモニウム、アルキルジメチルベンジルアンモニウム、ジ−n−アルキルジメチルアンモニウム、ベヘニルトリメチルアンモニウム、テトラフェニルホスホニウム、テトラオクチルホスホニウム、アセトニルトリフェニルホスホニウム、アリルトリフェニルホスホニウム、アミルトリフェニルホスホニウム、ベンジルトリフェニルホスホニウム、エチルトリフェニルホスホニウム、ジフェニルプロピルホスホニウム、トリフェニルホスホニウム、トリシクロヘキシルホスホニウム、トリ−n−オクチルホスホニウム等を挙げることができる。なお、アルキルジメチルベンジルアンモニウム、ジ−n−アルキルジメチルアンモニウムにおけるアルキル基として、炭素数が8以上18以下の直鎖アルキル基が挙げられる。
なお、一般式(A)に示した通り、有機オニウムイオンの中心元素は合計4つの基または水素と結合している。上述した有機オニウムイオンの名称で、結合している基が4つ未満である場合、残りは水素原子が結合して有機オニウムイオンを形成している。例えば、N,N−ジドデシルメチルアンモニウムであれば、名称からドデシル基が2つ、メチル基が1つ結合していると判断できる。この場合、残りの1つには水素が結合し、有機オニウムイオンを形成している。
有機オニウムがO原子を含む場合、O原子に対するC原子の質量比率(C/O比)は大きいほど好ましく、例えば、C/O>5であることが好ましい。C/O比を5よりも大きくすることにより、繊維状セルロース含有スラリーに、有機オニウムイオンまたは、中和により有機オニウムイオンを形成する化合物を添加した際に、繊維状セルロース濃縮物が得られやすくなる。
有機オニウムイオンの分子量は、2000以下であることが好ましく、1800以下であることがより好ましい。有機オニウムイオンの分子量を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロースのハンドリング性を高めることができる。また、有機オニウムイオンの分子量を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロース含有固形状体における繊維状セルロースの含有率が低下してしまうことを抑制できる。
有機オニウムイオンの含有量は、繊維状セルロース含有固形状体の全質量に対して1.0質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましく、2.0質量%以上であることがさらに好ましい。また、有機オニウムイオンの含有量は繊維状セルロース含有固形状体の全質量に対して90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。
また、繊維状セルロース含有固形状体における有機オニウムイオンの含有量は、繊維状セルロース中に含まれるアニオン性基量に対して、等モル量から2倍モル量であることが好ましいが、特に限定されない。なお、有機オニウムイオンの含有量は、有機オニウムイオンに典型的に含まれる原子を追跡することで測定することができる。具体的には、有機オニウムイオンがアンモニウムイオンの場合は窒素原子を、有機オニウムイオンがホスホニウムイオンの場合はリン原子の量を測定する。なお、繊維状セルロースが有機オニウムイオン以外に、窒素原子やリン原子を含む場合は、有機オニウムイオンのみを抽出する方法、例えば、酸による抽出操作などを行ってから、目的の原子の量を測定すれば良い。
有機オニウムイオンは、上述したとおり、疎水性を発揮するイオンであることが好ましい。すなわち、本発明における繊維状セルロースは、有機オニウムイオンを有することにより疎水性を発揮する。一方で、繊維状セルロース含有固形状体は、所定条件で測定した保水度がある程度以上に高いことが好ましい。通常、疎水性の有機オニウムイオンを有する繊維状セルロースにおいては、保水能力が低下するものと考えられるが、本発明においては、例えば、繊維状セルロース含有固形状体の製造条件等を適切にコントロールすることにより、相反する2つの特性を両立することに成功した。
(繊維状セルロース含有組成物)
本発明は、上述した繊維状セルロース含有固形状体と、有機溶媒と、を混合してなる繊維状セルロース含有組成物に関するものでもある。このような繊維状セルロース含有組成物は、固形状組成物であってもよく、液状組成物であってもよい。
有機溶媒は、特に限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール(IPA)、1−ブタノール、m−クレゾール、グリセリン、酢酸、ピリジン、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、酢酸エチル、アニリン、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、p−キシレン、ジエチルエーテルクロロホルム等を挙げることができる。中でも、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、メチルエチルケトン(MEK)、トルエン、メタノールは好ましく用いられる。
有機溶媒の25℃における比誘電率は、60以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましい。本発明で用いられる繊維状セルロースは、比誘電率の低い有機溶媒中においても優れた分散性を発揮することができるため、有機溶媒の25℃における比誘電率は、40以下であってもよく、30以下であってもよく、20以下であってもよい。
有機溶媒のハンセン溶解度パラメーター(Hansen solubility parameter,HSP値)のδpは、5MPa1/2以上20MPa1/2以下であることが好ましく、10MPa1/2以上19MPa1/2以下であることがより好ましく、12MPa1/2以上18MPa1/2以下であることがさらに好ましい。また、HSP値の水素結合項であるδhは、20MPa1/2以下であることが好ましく、15MPa1/2以下であることがより好ましく、7.5MPa1/2以下であることがさらに好ましい。また、δhは、1.0MPa1/2以上であることが好ましい。本発明の繊維状セルロース含有固形状体は、保水度が所定値以上であるため、HSP値の水素結合項がある程度低い値の有機溶媒であっても、分散性が低下することはない。
有機溶媒の含有量は、繊維状セルロース含有組成物中に含まれる固形分の全質量に対して、10質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。また、有機溶媒の含有量は、繊維状セルロース含有組成物中に含まれる固形分の全質量に対して、99.9質量%以下であることが好ましく、99.0質量%以下であることがより好ましく、95.0質量%以下であることがさらに好ましい。
なお、繊維状セルロース含有組成物の分散媒は有機溶媒であることが好ましいが、有機溶媒の他に水をさらに含有していてもよい。繊維状セルロース含有組成物における水分含有量は、繊維状セルロース含有組成物の全質量に対して、0.005質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましい。また、繊維状セルロース含有組成物における水分含有量は、繊維状セルロース含有組成物の全質量に対して、50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
繊維状セルロース含有組成物における固形分濃度は、繊維状セルロース含有組成物の全質量に対して、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましい。また、繊維状セルロース含有組成物における固形分濃度は、繊維状セルロース含有組成物の全質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
(任意成分)
繊維状セルロース含有固形状体もしくは繊維状セルロース含有組成物は、樹脂をさらに含むものであってもよい。樹脂の種類は特に限定されるものではないが、例えば、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を挙げることができる。
樹脂としては、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、塩素系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、アルコール系樹脂、セルロース誘導体、これらの樹脂の前駆体を挙げることができる。なお、セルロース誘導体としては、たとえば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどを挙げることができる。
繊維状セルロース含有固形状体もしくは繊維状セルロース含有組成物は、樹脂として、樹脂の前駆体を含んでいてもよい。樹脂の前駆体の種類は特に限定されるものではないが、たとえば、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の前駆体を挙げることができる。熱可塑性樹脂の前駆体とは、熱可塑性樹脂を製造するために使用されるモノマーや分子量が比較的低いオリゴマーを意味する。また、熱硬化性樹脂の前駆体とは、光、熱、硬化剤の作用によって重合反応または架橋反応を起こして熱硬化性樹脂を形成しうるモノマーや分子量が比較的低いオリゴマーを意味する。
繊維状セルロース含有固形状体もしくは繊維状セルロース含有組成物は、樹脂として、上述した樹脂種とは別にさらに水溶性高分子を含んでいてもよい。水溶性高分子としては、たとえば、合成水溶性高分子(例えば、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、メタクリル酸アルキル・アクリル酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、イソプレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリアクリルアミドなど)、増粘多糖類(例えば、キサンタンガム、グアーガム、タマリンドガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、クインスシード、アルギン酸、プルラン、カラギーナン、ペクチンなど)、カチオン化デンプン、生デンプン、酸化デンプン、エーテル化デンプン、エステル化デンプン、アミロース等のデンプン類、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン類等、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸の金属塩等を挙げることができる。
繊維状セルロース含有固形状体中に含まれる樹脂の含有量は、繊維状セルロース含有固形状体中に含まれる固形分の全質量に対して、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。また、繊維状セルロース含有組成物中に含まれる樹脂の含有量は、繊維状セルロース含有固形状体中に含まれる固形分の全質量に対して、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。
繊維状セルロース含有固形状体もしくは繊維状セルロース含有組成物は、さらに他の任意成分を含有していてもよい。
任意成分としては、例えば吸湿剤を挙げることができる。吸湿剤としては、例えば、シリカゲル、ゼオライト、アルミナ、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール水溶性酢酸セルロース、ポリエチレングリコール、セピオライト、酸化カルシウム、ケイソウ土、活性炭、活性白土、ホワイトカーボン、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、第二リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム及び吸水性ポリマー等が挙げられる。
さらに、任意成分としては、界面活性剤、有機イオン、カップリング剤、無機層状化合物、無機化合物、レベリング剤、防腐剤、消泡剤、有機系粒子、潤滑剤、帯電防止剤、紫外線防御剤、染料、顔料、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、分散剤、架橋剤等を挙げることができる。
繊維状セルロース含有固形状体もしくは繊維状セルロース含有組成物中に含まれる任意成分の含有量は、繊維状セルロース含有固形状体中に含まれる固形分の全質量に対して、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
(繊維状セルロース含有固形状体の製造方法)
繊維状セルロース含有固形状体の製造工程は、繊維状セルロース含有スラリーに、有機オニウムイオンまたは、中和により有機オニウムイオンを形成する化合物を添加する工程を含む。具体的には、上述した解繊処理工程で得られた繊維状セルロース含有スラリーに、上述したような有機オニウムイオンまたは、中和により有機オニウムイオンを形成する化合物を添加する。この際、有機オニウムイオンは、有機オニウムイオンを含有した溶液として添加することが好ましく、有機オニウムイオンを含有した水溶液として添加することがより好ましい。
有機オニウムイオンを含有した水溶液は、通常、有機オニウムイオンと、対イオン(アニオン)を含んでいる。有機オニウムイオンの水溶液を調製する際、有機オニウムイオンと、対応する対イオンが既に塩を形成している場合は、そのまま水に溶解させればよい。有機オニウムイオンの水溶液を調製する際、有機オニウムイオンと、対応する対イオンが既に塩を形成している場合は、水又は熱水に溶解することが好ましい。
また、有機オニウムイオンは、例えば、ドデシルアミンなどのように、酸によって中和されて始めて生成する場合もある。この場合、有機オニウムイオンは、中和により有機オニウムイオンを形成する化合物と酸との反応により得られる。この場合、中和に使用する酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸や乳酸、酢酸、ギ酸、シュウ酸等の有機酸が挙げられる。凝集工程では、中和により有機オニウムを形成する化合物を繊維状セルロース含有スラリーに直接加え、繊維状セルロースが含むアニオン性基を対イオンとして、有機オニウムイオン化させても良い。
有機オニウムイオンの添加量は、繊維状セルロースの全質量に対し、2質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%以上であることが特に好ましい。なお、有機オニウムイオンの添加量は、繊維状セルロースの全質量に対し、1000質量%以下であることが好ましい。
また、添加する有機オニウムイオンのモル数は、繊維状セルロースが含むアニオン性基の量(モル数)に価数を乗じた値の0.2倍以上であることが好ましく、0.5倍以上であることがより好ましく、1.0倍以上であることがさらに好ましい。なお、添加する有機オニウムイオンのモル数は、繊維状セルロースが含むアニオン性基の量(モル数)に価数を乗じた値の10倍以下であることが好ましい。
有機オニウムイオンを添加し、撹拌を行うと、繊維状セルロース含有スラリー中に凝集物が生じる。この凝集物は、対イオンとして有機オニウムイオンを有する繊維状セルロースが凝集したものである。凝集物が生じた繊維状セルロース含有スラリーを減圧濾過することで、繊維状セルロース凝集物を回収することができる。
得られた繊維状セルロース凝集物は、イオン交換水で洗浄してもよい。繊維状セルロース凝集物をイオン交換水で繰り返し洗うことで、繊維状セルロース凝集物に含まれる余剰な有機オニウムイオン等を除去することができる。
得られた繊維状セルロース凝集物中のP原子の含有量に対するN原子の含有量の比(N/Pの値)は1.2よりも大きいことが好ましく、2.0よりも大きいことがより好ましい。また、得られた繊維状セルロース凝集物中のP原子の含有量に対するN原子の含有量の比(N/Pの値)は5.0以下であることが好ましい。なお、繊維状セルロース凝集物中のP原子の含有量とN原子の含有量は適宜元素分析により算出することができる。元素分析としては、例えば、適当な前処理の後に微量窒素分析やモリブデンブルー法などを行うことができる。なお、繊維状セルロース凝集物以外の組成物が、P原子、N原子を含む場合は、当該組成物と繊維状セルロース凝集物を適当な方法で分離した後に元素分析を行ってもよい。
得られた繊維状セルロース凝集物の固形分濃度は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。なお、繊維状セルロース凝集物の固形分濃度は、99.5質量%以下であることが好ましい。
得られた繊維状セルロース凝集物(濃縮物)から、所定の保水度を有する繊維状セルロース含有固形状体を得るためには、乾燥工程、エージング工程、スプレードライ工程、造粒工程、シート化工程、加熱工程、湿潤工程、粉砕工程、噴霧工程、浸漬工程、濾過工程、凍結工程、昇華工程、搾水工程、加圧脱水工程、遠心脱水工程、表面処理工程等を経ることが好ましい。
繊維状セルロース凝集物(濃縮物)を恒温恒湿条件下で乾燥する際の温度は、10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましい。恒温恒湿条件における温度は、100℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましく、60℃以下であることがさらに好ましい。また、恒温恒湿条件における相対湿度は、20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。恒温恒湿条件における相対湿度は、70%以下であることが好ましい。なお、恒温恒湿条件下で乾燥する際の乾燥時間は、10分以上であることが好ましく、20分以上であることがより好ましく、30分以上であることがさらに好ましい。恒温恒湿条件下で乾燥する際の乾燥時間は、100時間以下であることが好ましく、80時間以下であることがより好ましい。
(用途)
本発明の繊維状セルロース含有固形状体は、有機溶媒混合用として好ましく用いられる。すなわち、有機溶媒を含む系の増粘剤や粒子分散安定剤として使用することができる。特に樹脂成分を含む有機溶媒との混合に好ましく用いることができる。本発明の繊維状セルロースと、樹脂成分を含む有機溶媒を混合することで、繊維状セルロースが均一に分散した樹脂複合体を形成することができる。このような樹脂複合体は高透明であり、かつ高強度である。同様に繊維状セルロース再分散スラリーを用いて製膜し、各種フィルムとして使用することができる。
また、本発明の繊維状セルロース含有固形状体は、例えば、補強剤や添加剤として、セメント、塗料、インク、潤滑剤などに使用することができる。また、繊維状セルロース含有固形状体を基材上に塗工することで得られる成形体は、補強材、内装材、外装材、包装用資材、電子材料、光学材料、音響材料、プロセス材料、輸送機器の部材、電子機器の部材、電気化学素子の部材等の用途にも適している。
(成形体)
本発明は、上述した繊維状セルロース含有組成物から形成される成形体に関するものであってもよい。この場合、繊維状セルロース含有組成物は樹脂を含むものであることが好ましい。本発明では、有機溶媒及び樹脂との相溶性に優れた繊維状セルロースを用いているため、成形体は、優れた曲げ弾性率を有し、さらに強度と寸法安定性にも優れている。加えて、本発明の成形体は透明性にも優れている。
本発明の成形体の形態は特に限定されるものではないが、成形体は、例えば、シート状であることが好ましい。本発明は、上述した繊維状セルロース含有組成物から形成されるシートに関するものであってもよい。
成形体の成形方法には特に制限はなく、射出成形法や加熱加圧成形法等を採用することができる。また、成形体をシートから成形する場合、プレス成形法又は真空成形法によって成形してもよい。
成形体がシート状である場合、成形体の成形方法は、上述した液状組成物を基材上に塗工する工程を含むことが好ましい。塗工工程で用いる基材の材質は、とくに限定されないが、組成物に対する濡れ性が高いものの方が乾燥時のシートの収縮等を抑制することができて良いが、乾燥後に形成されたシートが容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂製のフィルムや板または金属製のフィルムや板が好ましいが、とくに限定されない。たとえばアクリル、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニリデン等の樹脂のフィルムや板、アルミ、亜鉛、銅、鉄板の金属のフィルムや板、および、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレスのフィルムや板、真ちゅうのフィルムや板等を用いることができる。
塗工工程において、組成物の粘度が低く、基材上で展開してしまう場合には、所定の厚みおよび坪量のシートを得るため、基材上に堰止用の枠を固定して使用してもよい。堰止用の枠としては、とくに限定されないが、たとえば乾燥後に付着するシートの端部が容易に剥離できるものを選択することが好ましい。このような観点から、樹脂板または金属板を成形したものがより好ましい。本実施形態においては、たとえばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリプロピレン板、ポリカーボネート板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛板、銅板、鉄板等の金属板、およびこれらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を成形したものを用いることができる。
組成物を基材に塗工する塗工機としては、とくに限定されないが、たとえばロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。被膜(シート)の厚みをより均一にできることから、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターがとくに好ましい。
組成物を基材へ塗工する際の液状組成物の温度および雰囲気温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましく、15℃以上50℃以下であることがさらに好ましく、20℃以上40℃以下であることが特に好ましい。
塗工工程においては、シートの仕上がり坪量が好ましくは10g/m2以上100g/m2以下となるように、より好ましくは20g/m2以上60g/m2以下となるように、組成物を基材に塗工することが好ましい。坪量が上記範囲内となるように塗工することで、より強度に優れたシートが得られる。
塗工工程は、基材上に塗工した組成物を乾燥させる工程を含む。組成物を乾燥させる工程は、とくに限定されないが、たとえば非接触の乾燥方法、もしくはシートを拘束しながら乾燥する方法、またはこれらの組み合わせにより行われる。非接触の乾燥方法としては、とくに限定されないが、たとえば熱風、赤外線、遠赤外線もしくは近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、または真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、とくに限定されないが、たとえば赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができる。加熱乾燥法における加熱温度は、とくに限定されないが、たとえば20℃以上150℃以下とすることが好ましく、25℃以上105℃以下とすることがより好ましい。加熱温度を上記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができる。また、加熱温度を上記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制および繊維状セルロースの熱による変色の抑制を実現できる。
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例により限定されるものではない。
<製造例1>
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量208g/m2シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を使用した。
この原料パルプに対してリン酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を添加して、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調整し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で200秒加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。
次いで、得られたリン酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、リン酸化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
洗浄後のリン酸化パルプに対して、さらに上記リン酸化処理、上記洗浄処理をこの順に1回ずつ行った。
次いで、洗浄後のリン酸化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後のリン酸化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下のリン酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該リン酸化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施されたリン酸化パルプを得た。次いで、中和処理後のリン酸化パルプに対して、上記洗浄処理を行った。
得られたリン酸化パルプに対しFT−IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1230cm-1付近にリン酸基に基づく吸収が観察され、パルプにリン酸基が付加されていることが確認された。
また、得られたリン酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
得られたリン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、スターバースト)で200MPaの圧力にて6回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液Aを得た。
X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を、透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3〜5nmであった。なお、後述する測定方法で測定されるリン酸基量(強酸性基量)は、2.00mmol/gだった。
3.60質量%のジ−n−アルキルジメチルアンモニウムクロリド(アルキル鎖の炭素原子数は16個又は18個)水溶液100gを、微細繊維状セルロース分散液A100gに添加して5分間撹拌したところ、微細繊維状セルロース分散液中に凝集物が生じた。凝集物が生じた微細繊維状セルロース分散液を減圧濾過することにより、微細繊維状セルロース凝集物を得た。得られた微細繊維状セルロース凝集物をイオン交換水で繰り返し洗うことで、微細繊維状セルロース凝集物に含まれる余剰なジ−n−アルキルジメチルアンモニウムクロリド(アルキル鎖の炭素原子数は16個又は18個)及び溶出したイオンを除去し、微細繊維状セルロース濃縮物Aを得た。
<製造例2>
製造例1において3.60質量%のジ−n−アルキルジメチルアンモニウムクロリド(アルキル鎖の炭素原子数は16個又は18個)水溶液100gの代わりに、2.26質量%のN,N−ジドデシルメチルアミン水溶液100gに6.16mLの1N塩酸を添加して得られた水溶液を用いた以外は、製造例1と同様にして、微細繊維状セルロース濃縮物Bを得た。
<製造例3>
製造例1において、3.60質量%のジ−n−アルキルジメチルアンモニウムクロリド(アルキル鎖の炭素原子数は16個又は18個)水溶液100gの代わりに、1.71質量%のポリオキシエチレンドデシルアミン水溶液100gに6.08mLの1N塩酸を添加して得られた水溶液を用いた以外は、製造例1と同様にして、微細繊維状セルロース濃縮物Cを得た。
<製造例4>
製造例1において、3.60質量%のジ−n−アルキルジメチルアンモニウムクロリド(アルキル鎖の炭素原子数は16個又は18個)水溶液100gの代わりに、2.18質量%のアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロリド(東京化成工業社製 塩化ベンザルコニウム)水溶液100gを用いた以外は、製造例1と同様にして、微細繊維状セルロース濃縮物Dを得た。
<製造例5>
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量208g/m2シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を使用した。この原料パルプに対してTEMPO酸化処理を次のようにして行った。
まず、乾燥質量100質量部相当の上記原料パルプと、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル)1.6質量部と、臭化ナトリウム10質量部を、水10000質量部に分散させた。次いで、13質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、パルプ1.0gに対して10mmolになるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10以上10.5以下に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なした。
次いで、得られたTEMPO酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、TEMPO酸化後のパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、5000質量部のイオン交換水を注ぎ、撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終了とした。
また、得られたTEMPO酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
得られたTEMPO酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、スターバースト)で200MPaの圧力にて6回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液Bを得た。
X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を、透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3〜5nmであった。なお、後述する測定方法で測定されるカルボキシ基量は、1.80mmol/gだった。
得られた微細繊維状セルロース分散液Bを、微細繊維状セルロース分散液Aの代わりに用い、3.60質量%のジ−n−アルキルジメチルアンモニウムクロリド(アルキル鎖の炭素原子数は16個又は18個)水溶液100gの代わりに、2.03質量%のジ−n−アルキルジメチルアンモニウムクロリド(アルキル鎖の炭素原子数は16個又は18個)水溶液100gを、微細繊維状セルロース分散液B100gに添加した以外は、製造例1と同様にして微細繊維状セルロース濃縮物Eを得た。
<実施例1>
〔固形状体の調製〕
微細繊維状セルロース濃縮物Aを、恒温恒湿機(ESPEC社製 PR−2KT)を用いて30℃、相対湿度40%の条件下に24時間静置して、微細繊維状セルロース含有固形状体を得た。なお、得られた固形状体の固形分濃度は93.6質量%であった。
〔再分散液の調製〕
得られた微細繊維状セルロース含有固形状体に、固形分濃度が4質量%となるようにトルエンを添加した。その後、超音波処理装置(hielscher製、UP400S)を用いて超音波処理を10分間行い、微細繊維状セルロース再分散液を得た。また、得られた再分散液中の水含有量は、供試した微細繊維状セルロース含有固形状体の添加量から計算したところ、0.3質量%であった。
<実施例2>
実施例1の固形状体の調製工程において、恒温恒湿機における処理時間を24時間から1時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、微細繊維状セルロース含有固形状体および再分散液を得た。なお、得られた固形状体の固形分濃度は43.3質量%であった。また、得られた再分散液中の水含有量は、供試した微細繊維状セルロース含有固形状体の添加量から計算したところ、5質量%であった。
<実施例3>
微細繊維状セルロース濃縮物Aの代わりに、微細繊維状セルロース濃縮物Eを用いた以外は、実施例1と同様にして、微細繊維状セルロース含有固形状体および再分散液を得た。なお、得られた固形状体の固形分濃度は89.3質量%であった。また、得られた再分散液中の水含有量は、供試した微細繊維状セルロース含有固形状体の添加量から計算したところ、0.5質量%であった。
<比較例1>
実施例1の固形状体の調製工程において、30℃、相対湿度40%の条件下に24時間静置する代わりに、105℃、相対湿度0%の条件下に4時間静置した以外は、実施例1と同様にして、微細繊維状セルロース含有固形状体および再分散液を得た。なお、得られた固形状体の固形分濃度は99.9質量%であった。また、得られた再分散液中の水含有量は、供試した微細繊維状セルロース含有固形状体の添加量から計算したところ、0.004質量%であった。
<比較例2>
比較例1と同様にして微細繊維状セルロース含有固形状体を得た。得られた微細繊維状セルロース含有固形状体に、固形分濃度が4質量%かつ水含有量が5質量%となるようにトルエンとイオン交換水を添加した。その後、超音波処理装置(hielscher製、UP400S)を用いて超音波処理を10分間行い、微細繊維状セルロース再分散液を得た。
<比較例3>
微細繊維状セルロース濃縮物Aの代わりに、微細繊維状セルロース濃縮物Eを用いた以外は、比較例1と同様にして、微細繊維状セルロース含有固形状体および再分散液を得た。なお、得られた固形状体の固形分濃度は99.9質量%であった。また、得られた再分散液中の水含有量は、供試した微細繊維状セルロース含有固形状体の添加量から計算したところ、0.004質量%であった。
<実施例4>
微細繊維状セルロース濃縮物Aの代わりに、微細繊維状セルロース濃縮物Bを用い、再分散液の調製工程においてトルエンの代わりに酢酸エチルを用いた以外は、実施例2と同様にして、微細繊維状セルロース含有固形状体および再分散液を得た。なお、得られた固形状体の固形分濃度は28.2質量%であった。また、得られた再分散液中の水含有量は、供試した微細繊維状セルロース含有固形状体の添加量から計算したところ、10質量%であった。
<比較例4>
実施例4の固形状体の調製工程において、30℃、相対湿度40%の条件下に1時間静置する代わりに、105℃、相対湿度0%の条件下に4時間静置した以外は、実施例4と同様にして、微細繊維状セルロース含有固形状体および再分散液を得た。なお、得られた固形状体の固形分濃度は99.9質量%であった。また、得られた再分散液中の水含有量は、供試した微細繊維状セルロース含有固形状体の添加量から計算したところ、0.004質量%であった。
<実施例5>
微細繊維状セルロース濃縮物Aの代わりに、微細繊維状セルロース濃縮物Cを用い、再分散液の調製工程においてトルエンの代わりにメチルエチルケトンを用いた以外は、実施例2と同様にして、微細繊維状セルロース含有固形状体および再分散液を得た。なお、得られた固形状体の固形分濃度は27.7質量%であった。また、得られた再分散液中の水含有量は、供試した微細繊維状セルロース含有固形状体の添加量から計算したところ、10質量%であった。
<実施例6>
微細繊維状セルロース濃縮物Aの代わりに、微細繊維状セルロース濃縮物Dを用い、再分散液の調製工程においてトルエンの代わりにメチルエチルケトンを用いた以外は、実施例2と同様にして、微細繊維状セルロース含有固形状体および再分散液を得た。なお、得られた固形状体の固形分濃度は48.8質量%であった。また、得られた再分散液中の水含有量は、供試した微細繊維状セルロース含有固形状体の添加量から計算したところ、4質量%であった。
<評価方法>
〔リン酸基量の測定〕
微細繊維状セルロースのリン酸基量は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作製した繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を、30秒に1回、50μLずつ加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測することにより行った。リン酸基量(mmol/g)は、計測結果のうち図1に示す第1領域に相当する領域において必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して算出した。
〔カルボキシ基量の測定〕
微細繊維状セルロースのカルボキシ基量は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作成した繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を30秒に1回、50μLずつ加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測することにより行った。カルボキシ基量(mmol/g)は、計測結果のうち図2に示す第1領域に相当する領域において必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して算出した。
〔保水度測定用サンプルの調製〕
実施例および比較例で得た微細繊維状セルロース含有固形状体から、保水度測定用サンプルを調製した。
具体的には、まず、固形状体に、固形分濃度が5質量%となるようイオン交換水を添加して、固形状体をイオン交換水に24時間浸漬した。その後、さらにイオン交換水を添加して固形分濃度が1.5質量%の懸濁液を得た。得られた懸濁液を、ディスパーザー(TKロボミックス プライミクス社製 半径15mmの撹拌羽根を使用)を用いて、3000rpmで10分間撹拌した。このようにして保水度測定用サンプルを得た。次いで、さらにイオン交換水を添加して固形分濃度を0.5質量%として、保水度測定用サンプルを得た。
〔保水度の測定〕
得られた保水度測定用サンプルを用いて、実施例および比較例で得た微細繊維状セルロース含有固形状体の保水度を、SCAN−C62に準拠して測定した。ただし、遠心分離処理は、後述するように3950Gの条件に変更した。
具体的には、得られた保水度測定用サンプル100gを、金属メッシュ(目開き125μm 線径90μm)上に注ぎ入れ、吸引濾過を行うことで固形分濃度が10±5質量%、絶乾坪量が1700±100g/m2のシートを得た。得られたシートを遠心分離装置(コクサン社製 H−3R)に設置し、20℃、4400rpm(シートへの遠心加速度3950G)の条件で15分間遠心分離処理を行った。そして、遠心分離処理後のシートの質量と、絶乾後のシートの質量を測定し、保水度を以下の式により算出した。
保水度(%)=(遠心分離処理後のシートの質量−シートの絶乾質量)/シートの絶乾質量×100
〔沈降物の評価〕
実施例および比較例で得た微細繊維状セルロース再分散液を23℃、相対湿度50%の条件下に24時間静置した。次いで、再分散液の沈降物の有無を下記の評価基準に従って評価した。
有:再分散液が固液2層に分離しており、目視でその境界が観察される
無:再分散液が均一であり、目視で固液の境界が観察されない
〔粘度の測定〕
実施例および比較例で得た微細繊維状セルロース再分散液を23℃、相対湿度50%の条件下に、溶剤の揮発が起こらないよう密閉して24時間静置した。次いで、再分散液の粘度を、JIS−K 7117−1に準拠して、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて、23℃、3rpmの条件で測定し、測定開始3分後の値を記録した。
実施例で得られた微細繊維状セルロース含有固形状体は、保水度が所定範囲であったため、再分散液における沈降物の発生が抑制されていた。また、同種溶媒における粘度を比較した場合、実施例で得られた微細繊維状セルロース含有固形状体を含む再分散液の粘度が高い傾向が見られた。
なお、比較例で得られた微細繊維状セルロース含有固形状体は、保水度が所定範囲内になかったため、再分散液において沈降物の発生が見られた。なお、比較例2では、微細繊維状セルロース含有固形状体を再分散させる際に、イオン交換水を添加して再分散液中の水含有量を実施例2と同等としたが分散性は向上しなかった。つまり、分散性の向上には再分散液中の水含有量の調節では十分でなく、乾燥時の条件等を適切に調整することが必要であることが示唆された。