JP2020028232A - アポリポ蛋白e産生促進用組成物 - Google Patents

アポリポ蛋白e産生促進用組成物 Download PDF

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誠 道川
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直樹 湯田
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美順 田中
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Abstract

【課題】ApoE産生を促進するための手段の提供。【解決手段】本技術により、Met−Lys−Proのアミノ酸配列からなるペプチドを有効成分として含むアポリポ蛋白E産生促進用組成物が提供される。前記組成物は、グリア細胞によるアポリポ蛋白E産生を促進するためのものであり、より好ましくはアストロサイトによるアポリポ蛋白E産生を促進するためのものである。また、当該組成物は、飲食品組成物又は医薬組成物であってもよい。当該組成物は、ABCタンパク質A1を産生することもできる。【選択図】なし

Description

本技術は、アポリポ蛋白E産生促進用組成物に関する。
コレステロールは細胞膜の重要な脂質構成成分であり、例えば細胞膜の流動性など、その物理化学的特性を調節し、細胞膜機能と恒常性に大きな役割を果たしている。ニューロン及びグリアなどの神経系細胞は、いずれも多数の突起をもった特異的な形態と広い細胞表面積を有していることから大量のコレステロールを含有する。ヒトでは体全体のコレステロールの実に約25%が中枢神経組織に分布する。したがって、中枢神経組織は、コレステロール要求性の高い臓器である。例えば、培養系におけるニューロンは、コレステロール合成が阻害されると生存率が著しく低下する。
アポリポ蛋白E(Apolipoprotein E、以下「ApoE」ともいう)は、中枢神経組織、特に脳脊髄液における蛋白レベルの最も高いアポリポ蛋白質であり、HDL(high density lipoprotein)粒子(ApoE/HDL)として存在している。ApoEは、脳内での細胞間コレステロール輸送において中心的な役割を担っている。脳内ApoEはその大部分がアストロサイトによって産生及び分泌され、また、アストロサイトには多種のApoE受容体が存在することから、アストロサイトは脳のコレステロールホメオスタシスに重要な役割をもつ細胞と言える(非特許文献1)。
アストロサイトにおけるApoE産生は、正常な脳神経系の発達や再生に重要である。これまでに、アストロサイトにおけるApoE産生を促進する物質として、9−cisレチノイン酸が、アストロサイトのAktリン酸化を促進し、ApoEの分泌を亢進したことが記載されている(非特許文献1)。
伊藤仁一, 膜(MEMBRANE), Vol.32, No.5, pp.259-265, 2007
上記のとおり、ApoEは中枢神経組織において重要な役割を果たす。そのため、ApoEの産生を促進できる手段があれば、脳神経系の発達や再生に資すると考えられる。そこで、本技術は、ApoEの産生を促進する手段を提供することを目的とする。
本発明者らは、カゼインに由来する特定のトリペプチドがApoEの産生を促進することを見出した。すなわち、本技術は以下を提供する。
[1]Met−Lys−Proのアミノ酸配列からなるペプチドを有効成分として含むアポリポ蛋白E産生促進用組成物。
[2]前記組成物が、グリア細胞によるアポリポ蛋白E産生を促進するためのものである、[1]に記載の組成物。
[3]前記グリア細胞がアストロサイトである、[2]に記載の組成物。
[4]前記組成物が、アポリポ蛋白E及びABCA1の産生を促進するためのものである、[1]〜[3]のいずれか一つに記載の組成物。
[5]前記組成物が、グリア細胞によるアポリポ蛋白E及びABCA1の産生を促進するためのものである、[4]に記載の組成物。
[6]前記組成物が飲食品組成物である、[1]〜[5]のいずれか一つに記載の組成物。
[7]前記組成物が医薬組成物である、[1]〜[5]のいずれか一つに記載の組成物。
本技術によれば、アポリポ蛋白Eの産生を促進することができる。それ故に、本技術によって、例えばアポリポ蛋白Eが中心的な役割を果たす脳神経系の発達又は再生が、より望ましく行われる。
なお、本技術の効果は、ここに記載された効果に限定されず、本明細書内に記載されたいずれかの効果であってもよい。
Met−Lys−Proのアミノ酸配列からなるペプチドの存在下におけるApoE産生に関する試験の結果を表すグラフである。 Met−Lys−Proのアミノ酸配列からなるペプチドの存在下におけるABCA1産生に関する試験の結果を表すグラフである。
以下に本技術の好ましい実施形態について説明する。ただし、本技術は以下の好ましい実施形態に限定されず、本技術の範囲内で自由に変更することができるものである。尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。
<アポリポ蛋白E産生促進用組成物>
本技術のアポリポ蛋白E産生促進用組成物は、Met−Lys−Proのアミノ酸配列(配列番号1)からなるペプチド(以下、「配列番号1のペプチド」ともいう)を有効成分として含む。
本技術の組成物によって、アポリポ蛋白Eの産生が促進される。アポリポ蛋白Eは、例えば脳神経系の発達及び/又は再生にとって重要な成分である。そのため、本技術の組成物によりアポリポ蛋白Eの産生が促進されることで、脳神経系のより良い発達及び/又は再生を実現することができる。
また、配列番号1のペプチドは、乳蛋白質であるカゼインの加水分解物から得られるものであり、腸管からの吸収性に優れている。さらに、配列番号1のペプチドはほとんど無味無臭である。そのため、当該ペプチドは摂取しやすい。また、配列番号1のペプチドを含む組成物は、風味の調整がしやすい。
また、配列番号1のペプチドは、食品として長年使用されてきた乳蛋白質であるカゼインに由来する。そのため、配列番号1のペプチドは生体に対する安全性が高く、配列番号1のペプチドを含む本技術の組成物は、安心してヒトに投与することができると考えられる。また、本技術の組成物を長期間、連続的に投与しても副作用を心配する必要性が少ない。
アポリポ蛋白E(ApoE)は、リポ蛋白質を構成している主要なアポリポ蛋白の一つである。ApoEは、細胞表面のLDLレセプターファミリーのリガンドとして機能し、例えばキロミクロン及びVLDLなどのリポ蛋白質の細胞への取り込みや血漿からの除去において重要な役割を果たす。ApoEは第19番染色体上にその遺伝子がコードされている。ApoEは、317個のアミノ酸からなる蛋白質として合成され、N末端の18個のアミノ酸からなるシグナルペプチドが切り離され、そして、299個のアミノ酸からなる成熟蛋白(分子量:約34,000)として細胞外に分泌される。
ApoEは脳内の脳脊髄液中ではApoE/HDLとして存在し、神経細胞表面に存在するApoE受容体(VLDL受容体、LDL受容体、及びLRP受容体)を介して神経細胞内に取り込まれる。ApoEの中枢神経系での機能としては、中枢神経系の発達時期や神経細胞損傷後の修復期に必要なコレステロールなどの脂質の神経細胞への輸送、及び、抗酸化作用などが報告されている。そのため、ApoE産生の促進によって、これらの機能が発揮されると考えられる。そこで、ApoE産生を促進することができる本技術の組成物は、ApoEによるこれらの作用を増強するために用いることもできる。
例えば、本技術の組成物は、コレステロールなどの脂質の神経細胞へのApoEによる輸送を促進するために用いられる。当該輸送は、中枢神経系の発達時期及び神経細胞損傷後の修復時期において特に重要である。そのため、本技術の組成物は、当該発達時期又は当該修復時期において、投与されることが好ましい。
配列番号1のアミノ酸配列のうち、Met(M)はメチオニン残基であり、Lys(K)はリジン残基であり、且つ、Pro(P)はプロリン残基である。いずれのアミノ酸もL−型アミノ酸であることが好ましい。
また、本技術の有効成分であるペプチドは、配列番号1のペプチドの塩類であってもよい。当該塩類として、例えば、カリウム及びナトリウムなどのアルカリ金属類、並びに、カルシウム及びマグネシウムなどのアルカリ土類金属類を挙げることができる。
本技術の組成物は、グリア細胞によるアポリポ蛋白E産生を促進するのに特に適している。そのため、本技術の組成物は、好ましくは、グリア細胞によるアポリポ蛋白E産生を促進するために用いられる。グリア細胞は、脳に存在する細胞であり、神経細胞をサポートする役割を果たしていると考えられている。グリア細胞は、さらにアストロサイト、オリゴデンドロサイト、及びミクログリアの3種類に分類することができる。本技術の組成物により脳内におけるグリア細胞によるアポリポ蛋白E産生が促進されることで、脳神経系のより良い発達及び再生を行うことが可能となる。
本技術の組成物は、アストロサイトによるアポリポ蛋白E産生を促進するのに特に適している。そのため、本技術の組成物は、好ましくは、アストロサイトによるアポリポ蛋白E産生を促進するために用いられる。脳内のアポリポ蛋白Eの大部分は、前記3種類のグリア細胞のうちアストロサイトによって産生及び分泌される。本技術の組成物は、アストロサイトによるアポリポ蛋白E産生を促進できるので、脳内でのアポリポ蛋白E産生を効率的に促進でき、その結果、脳神経系のより良い発達及び/又は再生が可能となる。
本技術の組成物は、ATP結合性カセットタンパク質A1(ATP-binding cassette protein A1、以下「ABCA1」ともいう)の産生を促進することもできる。すなわち、本技術の組成物は、例えばABCA1の産生を促進するために用いられてもよく、より好ましくはアポリポ蛋白E及びABCA1の産生を促進するために用いられてもよい。
ABCA1は、ABCシグネチャー(ATP-binding cassette signature)モチーフにより特徴付けられるABCタンパク質の一つである。ABCA1の脳内における機能に関して、例えばアストロサイトにて合成されたコレステロールのApoEへの排出、HDL粒子の形成、及びHDL粒子へのコレステロール排出などにABCA1が関与すると示唆されている。そのため、ABCA1産生の促進によっても、中枢神経系の発達時期や神経細胞損傷後の修復期に必要なコレステロールなどの脂質の神経細胞への輸送、及び、抗酸化作用などの機能が発揮されると考えられる。そこで、ApoE産生だけでなくABCA1産生も促進することができる本技術の組成物は、これらの作用を増強するために用いることもできる。例えば中枢神経系の発達時期において、これらの作用を増強するために本技術の組成物がヒトに経口的に投与されてよい。
本技術の有効成分である配列番号1のペプチドの含有量は、本技術の組成物の全質量に対して0.01〜2質量%の範囲であることが好ましく、0.02〜0.5質量%の範囲であることがより好ましく、0.05〜0.2質量%の範囲であることが更に好ましい。
本技術の組成物の適用対象者は、好ましくは脳神経系の発達及び/又は再生の支援若しくは促進が必要なヒトである。
本技術の組成物は、例えば医薬、飲食品、又は飼料として用いられてよい。本技術の組成物には、これらの用途に用いられる場合に含まれる追加成分が適宜含まれてよい。
また、本技術の組成物は、例えば脳神経系の発達及び/又は再生にとって有用な成分をさらに含んでもよい。当該成分として、例えば、コレステロール、レチノイン酸、好ましくは9−cisレチノイン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、リン脂質、ドコサヘキサエン酸(DHA)、アラキドン酸、スフィンゴミエリン、ビフィズス菌及び乳酸菌を挙げることができる。本技術の組成物は、これら成分の1つ又は2つ以上を含んでよい。これらの成分をさらに含むことで、より良い脳神経系の発達及び/又は再生に資することができる。
配列番号1のペプチドは、例えば、以下の方法により得ることができる。(1)加水分解法:Met−Lys−Proのアミノ酸配列(以下、「MKP配列」ともいう)を含む蛋白質又はペプチドを加水分解酵素などの加水分解手段により分解し、その後、必要に応じて、得られた分解物から配列番号1のペプチドを分離又は精製する、(2)化学合成法:ペプチドの化学合成法にて配列番号1のペプチドを合成し、その後、必要に応じて、当該ペプチドを分離又は精製する、又は、(3)配列番号1のペプチドを生産する植物、動物、又は微生物から当該ペプチドを抽出し、その後、必要に応じて、得られた抽出物から当該ペプチドを分離又は精製する。以下で、上記(1)及び(2)の方法についてより詳細に説明する。
(1)加水分解法
加水分解に付される蛋白質の性状に応じて、蛋白質は適宜水に溶解、分散又は懸濁されてよい。例えば、加水分解に付される蛋白質が可溶性である場合は、当該蛋白質は水又は温水に分散させて溶解されてよい。また、加水分解に付される蛋白質が難溶性である場合には、当該蛋白質は、熱水に混合撹拌されて均質化されてよい。また、前記蛋白質を含有する液に、アルカリ剤又は酸剤が添加されて当該液のpHが調整されてもよい。当該pHは、使用する加水分解酵素の至適pH又はその付近のpHに調整されることが好ましい。
加水分解法において加水分解に付される蛋白質として、例えば乳蛋白質であるカゼインを挙げることができる。また、加水分解手段として、例えば、蛋白質加水分解酵素、酸、又はアルカリを挙げることができる。
本技術の好ましい実施態様に従い、加水分解法において、カゼインが蛋白質加水分解酵素により加水分解される。そして、必要に応じて、得られた加水分解物から、配列番号1のペプチドが分離又は精製される。カゼインを加水分解酵素で加水分解する前に、カゼインは、水に溶解、分散又は懸濁されてよい。そして、カゼイン含有水に加水分解酵素が添加されて、加水分解が行われてよい。
カゼインは、MKP配列をその一次構造中に含む蛋白質である。そのため、カゼインを加水分解酵素で適宜消化することによって、本技術の有効成分である配列番号1のペプチドを生成することができる。なお、加水分解により本技術の有効成分である配列番号1のペプチドが得られる限り、加水分解に付される蛋白質として、カゼイン以外の蛋白質が用いられてもよい。当該カゼイン以外の蛋白質は、例えば動物由来、植物由来、又は微生物由来の蛋白質であってよい。
カゼインを加水分解する際のカゼイン含有液の温度は、例えば10℃〜85℃であり、より好ましくは30℃〜60℃であり、さらにより好ましくは45℃〜55℃である。加水分解反応の時間は、例えば0.1時間〜48時間であってよい。
前記加水分解法において用いられる加水分解酵素は、好ましくは蛋白質を加水分解して本技術の有効成分である配列番号1のペプチドを生成することができる酵素である。本技術の好ましい実施態様に従い、当該酵素として、好ましくはエンドペプチダーゼが用いられる。当該エンドペプチダーゼとして、例えば微生物由来又は動物由来のエンドペプチダーゼが挙げられ、より具体的には例えばバチルス(Bacillus)属細菌由来のプロテアーゼ及び動物膵臓由来のプロテアーゼなどが挙げられる。これらのプロテアーゼとして、市販入手可能なものを利用することができる。市販入手可能なプロテアーゼとして、例えばビオプラーゼsp−20(長瀬生化学工業社製)又はプロテアーゼN(天野エンザイム社製)などのバチルス属細菌由来のプロテアーゼ、及び、例えばPTN6.0S(ノボザイムズ・ジャパン社製)などの動物膵臓由来のプロテアーゼを例示することができる。
バチルス属細菌由来のプロテアーゼが加水分解酵素として用いられる場合、蛋白質1g当たり100〜5000活性単位の割合で当該プロテアーゼを蛋白質含有液に添加することが望ましい。また、動物膵臓由来のプロテアーゼが加水分解酵素として用いられる場合、蛋白質1g当たり3000〜8000活性単位の割合で当該プロテアーゼを蛋白質含有液に添加することが望ましい。
前記加水分解において、1種の加水分解酵素が用いられてよく、又は、2種以上の加水分解酵素の組み合わせが用いられてもよい。2種以上の加水分解酵素を用いる場合には、それぞれの加水分解酵素による酵素反応は同時に又は別々に行われてよい。本技術において、好ましくはバチルス属細菌由来のプロテアーゼ及び動物膵臓由来のプロテアーゼの組み合わせが加水分解酵素として用いられ、より好ましくはビオプラーゼsp−20、プロテアーゼN及びPTN6.0Sの組み合わせが加水分解酵素として用いられ、特に好ましくはこれら3種の酵素が混合して使用される。
本技術の他の好ましい実施態様に従い、当該酵素として、好ましくはプロリン特異的エンドプロテアーゼが用いられる。プロリン特異的エンドプロテアーゼを用いた加水分解は、例えば特開2018−057346号公報に記載されたとおりに行われてよい。
加水分解反応は、酵素反応の分解率をモニターしながら、好ましい分解率に達するまで続けられてよい。例えば、原料蛋白質としてカゼインを用いた場合、分解率は20〜30%であることが好ましい。
原料蛋白質の分解率は以下のとおりに算出される。すなわち、ケルダール法(日本食品工業学会編、「食品分析法」、第102頁、株式会社光琳、昭和59年)により試料の全窒素量を測定し、ホルモール滴定法(満田他編、「食品工学実験書」、上巻、第547ページ、養賢堂、1970年)により試料のホルモール態窒素量を測定し、これらの測定値から、次式により分解率が算出される。
分解率(%)=(ホルモール態窒素量/全窒素量)×100
加水分解反応の停止は、例えば、常法により加水分解物中の酵素を失活することにより行われる。例えば、加熱により酵素を失活させる場合、加熱温度及び当該温度での保持時間は、使用した酵素の熱安定性に応じて、当業者が適宜設定することができる。
加水分解物の加熱殺菌処理により、酵素の加熱失活が行われてもよい。加熱殺菌処理における加熱温度と当該温度での保持時間は、当業者により適宜設定されてよく、例えば80〜140℃で2秒間〜30分間であってよい。
加熱殺菌処理の方式としては、バッチ方式又は連続方式のいずれの方式も可能である。連続方式として、例えばプレート熱交換方式、インフュージョン方式、又はインジェクション方式を用いることができる。
加水分解酵素による酵素反応により得られた加水分解物は、加熱殺菌処理後に、さらに配列番号1のペプチドの純度を高めるための分離又は精製処理に付される。例えば、イオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、又はゲル濾過クロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー、溶媒沈殿、塩析、2種の液相間での分配等の方法を適宜組み合わせることによって、配列番号1のペプチドが分離又は精製されてよい。
分離又は精製により得られた分画物が配列番号1のペプチドを含むかどうかを確認するために、例えば質量分析法により配列番号1のペプチドの同定が行われてよい。
以上のとおりに得られた配列番号1のペプチドを含む加水分解物は、そのまま本技術の有効成分として使用することができる。当該加水分解物を公知の方法により濃縮して得られた濃縮物を、本技術の有効成分として使用することもできる。また、当該加水分解物又は当該濃縮液は、公知の方法により乾燥して粉末化されてもよい。得られた粉末が本技術の有効成分として使用されてもよい。
(2)化学合成により得る方法
配列番号1のペプチドは、化学合成によっても製造することができる。配列番号1のペプチドの化学合成は、オリゴペプチドの合成に通常用いられている液相法又は固相法によって行うことができる。合成されたペプチドは必要に応じて脱保護され、未反応試薬や副生物等を除去して、本技術の有効成分である配列番号1のペプチドを単離することが可能である。当該化学合成は、市販のペプチド合成装置を用いて行うことができる。
<医薬組成物>
本技術のアポリポ蛋白E産生促進用組成物は、医薬組成物として用いることができる。本技術の医薬組成物は、脳神経系の発達及び/又は再生を支援若しくは促進するために用いられてよい。
本技術における有効成分は、食品として長年使用されてきた乳由来の成分を有効成分とするため、患者の疾患の種類に関係なく安心して投与できる可能性が高い。また、長期間、連続的に投与しても副作用を心配する必要性も少ない。更に、他の薬剤との併用においても安全性が高い。
本技術の組成物を医薬組成物として利用する場合、当該医薬組成物は、経口投与及び非経口投与のいずれでもよく、投与方法に応じて、適宜所望の剤形に製剤化することができる。例えば、経口投与の場合、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の固形製剤;溶液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等に製剤化することができる。また、非経口投与の場合、例えば胃ろうを介して投与されてよい。
また、製剤化に際しては、本技術の医薬組成物には、通常製剤化に用いられている賦形剤、pH調整剤、着色剤、矯味剤などの種々の成分が含まれてよい。また、本技術の効果を損なわない限り、本技術の医薬組成物には、公知の又は将来的に見出される脳神経系の発達及び/又は再生のために用いられる医薬成分が含まれてよい。本技術の医薬組成物の製剤化は、剤形に応じて適宜公知の方法により実施できる。製剤化に際しては、適宜、製剤担体を配合して製剤化してもよい。
加えて、製剤化は剤形に応じて適宜公知の方法により実施できる。製剤化に際しては、有効成分である配列番号1のペプチドのみを製剤化してもよく、適宜、製剤担体を配合して製剤化してもよい。
なお、製剤担体を配合する場合、本技術の有効成分である配列番号1のペプチドの含有量は、剤形に合わせて適宜選択されてよい。本技術の有効成分である配列番号1のペプチドの含有量は、医薬組成物の全質量に対して0.1〜50質量%の範囲であることが好ましく、0.5〜20質量%の範囲であることがより好ましく、1〜5質量%の範囲であることが更に好ましい。
本技術の医薬組成物の投与期間は、ApoE産生促進が必要とされる期間に応じて適宜決定されてよい。例えば、本技術の医薬組成物は、例えば2週間以上、好ましくは4週間以上、より好ましくは2か月以上にわたって継続的に摂取されてよい。本技術の医薬組成物の摂取は、例えば摂取開始から例えば3か月後、好ましくは6か月後、より好ましくは1年後に終了されてもよい。
本技術の医薬組成物は、例えば毎日摂取されてよく、又は、例えば1日おき又は2日おきなど所定の間隔で摂取されてもよい。
本技術の医薬組成物を摂取する場合、配列番号1のペプチドの摂取量は、1日当たり例えば1〜500μg/kg体重、好ましくは5〜100μg/kg体重、より好ましくは10〜50μg/kg体重であってよい。
また、前記製剤担体としては、剤形に応じて、各種有機又は無機の担体や基剤を用いることができる。本技術の組成物の製剤化のために用いられる成分として、例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、及び矯味矯臭剤が挙げられる。
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニット、ソルビット等の糖誘導体;トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、α−デンプン、デキストリン、カルボキシメチルデンプン等のデンプン誘導体;結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等のセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルラン;軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム等の珪酸塩誘導体;リン酸カルシウム等のリン酸塩誘導体;炭酸カルシウム等の炭酸塩誘導体;硫酸カルシウム等の硫酸塩誘導体等が挙げられる。
結合剤としては、例えば、上記賦形剤の他、ゼラチン;ポリビニルピロリドン;マクロゴール等が挙げられる。
崩壊剤としては、例えば、上記賦形剤の他、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン等の化学修飾されたデンプン又はセルロース誘導体等が挙げられる。
滑沢剤としては、例えば、タルク;ステアリン酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸金属塩;コロイドシリカ;ピーガム、ゲイロウ等のワックス類;硼酸;グリコール;フマル酸、アジピン酸等のカルボン酸類;安息香酸ナトリウム等のカルボン酸ナトリウム塩;硫酸ナトリウム等の硫酸塩類;ロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム等のラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物等の珪酸類;デンプン誘導体等が挙げられる。
安定剤としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等のアルコール類;塩化ベンザルコニウム;無水酢酸;ソルビン酸等が挙げられる。
矯味矯臭剤としては、例えば、甘味料、酸味料、香料等が挙げられる。
<飲食品>
本技術の組成物は、飲食品組成物であってよい。すなわち、本技術は、ApoE産生促進用飲食品組成物を提供する。本技術の飲食品組成物は、ApoE産生促進作用を効果的に発揮することができる。
本技術の飲食品組成物の例として、例えば清涼飲料若しくは乳飲料などの飲料又は当該飲料の濃縮原液及び当該飲料を調製するために用いられる粉末;例えば加工乳及び発酵乳などの乳製品;育児用調製粉乳;経腸栄養食;及び機能性食品が挙げられる。
また、本技術の飲食品組成物の例として、例えば炭酸飲料、栄養飲料、若しくは果実飲料などの飲料又は当該飲料の濃縮原液及び当該飲料を調製するために用いられる粉末;例えばアイスクリーム、アイスシャーベット、及びかき氷などの冷菓;例えばそば、うどん、はるさめ、餃子の皮、しゅうまいの皮、中華麺、及び即席麺などの麺類;例えばキャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、及び焼き菓子などの菓子類;例えばかまぼこ、ハム、及びソーセージなどの水産又は畜産加工食品;例えばサラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、及びドレッシングなどの油脂及び油脂加工食品;例えばソース及びたれなどの調味料;例えばスープ、シチュー、サラダ、惣菜、漬物、及びパンなどの調理された食品を挙げることができる。本技術の飲食品組成物は、例えば液状及びタブレット状のサプリメントであってもよい。
これらの飲食品は、当業者に既知の方法により製造されてよい。これらの飲食品の製造方法において、配列番号1のペプチドを添加する時点及び方法は、当業者により適宜選択されてよい。
また、本技術の飲食品組成物は、例えばApoE産生促進用という保健用途又はApoE産生促進作用に起因して奏される作用に関する保健用途が表示された飲食品として提供又は販売されることが可能である。
「表示」行為には、需要者に対して前記用途を知らしめるための全ての行為が含まれ、前記用途を想起又は類推させうるような表現であれば、表示の目的、表示の内容、及び表示する対象物又は媒体等の如何に拘わらず、全て本技術の「表示」行為に該当する。
本技術の飲食品は、例えば「健全な脳の発達のために」、「脳の健康のために」又は「正常な精神活動のために」などの表示が付されてよい。
「表示」は、需要者が上記用途を直接的に認識できるような表現により行われることが好ましい。具体的には、飲食品に係る商品又は商品の包装に前記用途を記載したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引き渡しのために展示し、輸入する行為、商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に上記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁的(インターネット等)方法により提供する行為等が挙げられる。
表示内容としては、行政等によって認可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示等)であることが好ましい。また、そのような表示内容を、包装、容器、カタログ、パンフレット、POP(Point of purchase advertising)等の販売現場における宣伝材、その他の書類等へ付することが好ましい。
また、「表示」には、例えば健康食品、機能性表示食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、及び医薬用部外品などの製品であることを示す表示が含まれる。より具体的な表示の例として、好ましくは消費者庁によって認可される表示、例えば特定保健用食品制度又はこれに類似する制度にて認可される表示などが挙げられる。消費者庁によって認可される表示の例として、例えば特定保健用食品としての表示、条件付き特定保健用食品としての表示、身体の構造や機能に影響を与える旨の表示、及び疾病リスク減少表示などを挙げることができる。より具体的には、健康増進法施行規則(平成15年4月30日日本国厚生労働省令第86号)に定められた特定保健用食品としての表示(特に保健の用途の表示)及びこれに類する表示が、典型的な例である。
本技術の飲食品組成物に含まれる配列番号1のペプチドの含有量は、当業者により適宜選択されてよい。本技術の有効成分である配列番号1のペプチドの含有量は、飲食品組成物の全質量に対して0.0001〜2質量%の範囲であることが好ましく、0.0002〜0.5質量%の範囲であることがより好ましく、0.0005〜0.2質量%の範囲であることが更に好ましい。
本技術の飲食品組成物の摂取期間は、ApoE産生促進が必要とされる期間に応じて適宜決定されてよい。例えば、本技術の飲食品は、例えば2週間以上、好ましくは4週間以上、より好ましくは2か月以上にわたって継続的に摂取されてよい。本技術の飲食品の摂取は、例えば摂取開始から例えば3か月後、好ましくは6か月後、より好ましくは1年後に終了されてもよい。また、本技術の飲食品は、例えば0歳から100歳の間のいずれかの期間に継続して摂取されてよい。
本技術の飲食品組成物は、例えば毎日摂取されてよく、又は、例えば1日おき又は2日おきなど所定の間隔で摂取されてもよい。
本技術の飲食品組成物を摂取する場合、配列番号1のペプチドの摂取量は、1日当たり例えば1〜500μg/kg体重、好ましくは5〜100μg/kg体重、より好ましくは10〜50μg/kg体重であってよい。
<アポリポ蛋白Eの製造方法>
本技術は、アポリポ蛋白Eを産生する能力を有する細胞を、配列番号1のペプチドの存在下で培養することを含む、アポリポ蛋白Eの製造方法も提供する。当該製造方法において、前記細胞は、アポリポ蛋白Eに加えて、ABCA1を産生する能力を有する細胞であってもよい。
配列番号1のペプチドはアポリポ蛋白E産生を促進することができる。よって、本技術の製造方法によって、アポリポ蛋白Eをより効率的に製造することが可能となる。さらに、配列番号1のペプチドはABCA1産生を促進することもできる。そのため、本技術の製造方法によって、アポリポ蛋白E及びABCA1をより効率的に製造することができる。
また、本技術は、ABCA1を産生する能力を有する細胞を、配列番号1のペプチドの存在下で培養することを含む、ABCA1の製造方法も提供する。
本技術の製造方法において、アポリポ蛋白Eを産生する能力を有する細胞が用いられる。好ましくは、当該細胞として、例えば中枢神経系に存在する細胞、好ましくはグリア細胞が用いられる。グリア細胞には、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、及びミクログリアが包含される。本技術の製造方法において、好ましくはアストロサイトが用いられる。アストロサイトを用いることにより、より効率的にアポリポ蛋白E及び/又はABCA1が産生される。
また、本技術の製造方法において、前記培養の条件は、アポリポ蛋白E及び/又はABCA1を産生する能力を有する細胞の種類に応じて当業者により適宜選択されてよい。培養に用いる培地も、培養される細胞の種類に応じて当業者により適宜選択されてよい。
<スクリーニング方法>
本技術は、アポリポ蛋白E産生促進作用を有する物質のスクリーニング方法も提供する。当該スクリーニング方法は、アポリポ蛋白Eを産生する能力を有する細胞を、配列番号1のペプチドの存在下で培養する第一培養工程と、前記細胞を、被検物質の存在下で培養する第二培養工程と、前記第一培養工程において産生されたアポリポ蛋白Eの量と前記第二培養工程において産生されたアポリポ蛋白Eの量とを比較して、当該被検物質のアポリポ蛋白Eの産生促進能を判定する判定工程と、を含む。
すなわち、本技術のスクリーニング方法では、配列番号1のペプチドが、アポリポ蛋白Eの産生促進能の指標となる物質として用いられる。本技術のスクリーニング方法によって、ある物質のアポリポ蛋白Eの産生促進能を判定することができる。
また、前記スクリーニング方法において、アポリポ蛋白E産生促進作用を有する物質の代わりに、ABCA1産生促進作用を有する物質がスクリーニングされてもよい。すなわち、前記スクリーニング方法において、アポリポ蛋白Eを産生する能力を有する細胞の代わりにABCA1産生促進作用を有する細胞を用い、且つ、アポリポ蛋白Eの量の比較の代わりにABCA1の量の比較を行うことで、被検物質のABCA1産生促進能が判定されてよい。
本技術のスクリーニング方法において用いられるアポリポ蛋白E及び/又はABCA1産生能力を有する細胞として、例えば中枢神経系に存在する細胞、好ましくはグリア細胞が用いられる。当該細胞は、好ましくはアストロサイトである。アストロサイトを用いることにより、より効率的にアポリポ蛋白E及び/又はABCA1が産生されるので、前記第一培養工程と前記第二培養工程において産生されたアポリポ蛋白E及び/又はABCA1の量の比較をより容易に行うことができる。
また、前記第一培養工程と前記第二培養工程における培養条件は、アポリポ蛋白E及び/又はABCA1を産生する能力を有する細胞の種類に応じて当業者により適宜選択されてよい。培養に用いる培地も、培養される細胞の種類に応じて当業者により適宜選択されてよい。
本技術は、以下の方法及び物も提供する。
[1]
Met−Lys−Proのアミノ酸配列からなるペプチドを、ApoE産生促進用組成物の製造のために使用する方法。
[2]
ApoE産生促進のための、Met−Lys−Proのアミノ酸配列からなるペプチド。
[3]
Met−Lys−Proのアミノ酸配列からなるペプチドを投与することで、ApoE産生を促進する方法。
以下に実施例を用いて本技術をさらに詳しく説明するが、本技術はこれら実施例に限定されるものではない。
(1)ペプチドの調製
市販のカゼイン(フォンテラ社製)100gに水900gを加えて分散させ、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを7.0に調整して、カゼインを完全に溶解した。溶解後のカゼイン水溶液の濃度は、約10質量%であった。該カゼイン水溶液を85℃で10分間加熱殺菌し、50℃に温度調整し、水酸化ナトリウムを添加してpHを9.5に調整した。
その後、pH調整したカゼイン水溶液にビオプラーゼsp−20(長瀬生化学工業社製)100,800活性単位(蛋白質1g当り1,200活性単位)、プロテアーゼN(天野エンザイム社製)168,000活性単位(蛋白質1g当り2,000活性単位)、及びPTN6.0S(ノボザイムズ・ジャパン社製)588,000活性単位(蛋白質1g当り7,000活性単位)を添加して、加水分解反応を開始させた。カゼインの分解率が24.1%に達した時点で、80℃で6分間加熱して酵素を失活させて酵素反応を停止し、10℃に冷却した。この加水分解液を分画分子量3,000の限外ろ過膜(旭化成社製)で限外ろ過し、濃縮後に凍結乾燥し、カゼイン加水分解物の凍結乾燥粉末85gを得た。
逆相HPLCで上記カゼイン加水分解物の分離精製を行った。このHPLC条件は下記HPLC条件1に示されたとおりである。
〔HPLC条件1〕
カラム :カプセルパックC18(UG120、粒子径5μm) 20mmI.D.×250mm(株式会社資生堂)
検 出 :UV 215nm
流 速 :16ml/分
溶離液A:0.05% TFAを含む1%アセトニトリル水溶液
溶離液B:0.05% TFAを含む25%アセトニトリル水溶液
溶離液の送液は、溶離液Aの割合100%から、40分後に溶離液Bの割合が100%になるように直線的に濃度勾配をかけたグラジエント法で行った。得られた溶出画分のそれぞれについて、Applied Biosystem社のプロテイン・シーケンサー(Model−473A)を用いてアミノ酸配列を同定したところ、リテンションタイム22分に溶出された画分が、Met−Lys−Proの配列を持つペプチドMKPであることが確認された。このペプチドを精製するため、さらにHPLCで精製した。
このときの条件を下記HPLC条件2に示した。
〔HPLC条件2〕
カラム :カプセルパックC18(UG300、粒子径5μm) 2.0mmI.D.×250mm(株式会社資生堂)
検 出 :UV 215nm
流 速 :0.2ml/分
溶離液A:0.05% TFAを含む1%アセトニトリル水溶液
溶離液B:0.05% TFAを含む10%アセトニトリル水溶液
溶離液の送液は、溶離液Aの割合100%から15分後に溶離液Bの割合100%になるように直線的に濃度勾配をかけたグラジエント法で行った。得られた溶出画分のそれぞれについて、前記と同様にアミノ酸配列を同定したところ、リテンションタイム13分のピークに溶出された画分が、配列番号1のペプチドであることが確認された。
なお、前記カゼイン加水分解物の凍結乾燥粉末85g中に、配列番号1のペプチドは、42.5mg含まれていた。
(2)細胞培養試験
生まれて1日目のWistarラットから大脳皮質を採取し、当該大脳皮質から髄膜を除去して、脳組織を得た。当該脳組織を、メスを用いて細切した。細切した脳組織を、トリプシン(0.25%)及びDNaseI(0.1mg/ml)を含むDMEM培地に入れ、37℃で15分間インキュベートし組織を破砕した。その後、800rpmで5分間遠心してから上清を吸引して除去し、沈殿物に10%ウシ胎児血清及び100μg/mlペニシリン−ストレプトマイシンを含んだDMEM溶液を加えて、沈殿物を分散させた。分散物を培養フラスコに播き、培養を行った(37℃、5%CO2)。細胞がconfluentになり次第、恒温振とう機を用い37℃、200rpmの条件で1時間振とうし、接着力が弱いミクログリアを除去して、アストロサイトを得た。
次いで、10%ウシ胎児血清及び100μg/mlペニシリン−ストレプトマイシンを含んだDMEM溶液を入れた60mmdishに1×10個のアストロサイトを播き72時間培養した後、血清を除去するために、細胞が、無血清のDMEM培養液で1回洗浄した。当該洗浄後、当該細胞を、無血清DMEM培養液中で1若しくは10μg/ml濃度の配列番号1のペプチドの存在下又は当該ペプチドの不在下でさらに48時間培養した。48時間の培養後、上清を1.5mlチューブに移し、10,000rpmで15分間遠心し、上清を回収した。
また、同様に、無血清DMEM培養液中で1若しくは10μg/ml濃度の配列番号1のペプチドの存在下又は当該ペプチドの不在下でさらに48時間培養した。48時間の培養後、上清を1.5mlチューブに移し、10,000rpmで15分間遠心し、上清を回収した。
次に、回収された上清に対して、抗ApoE抗体を用いてWestern blotを行った。これにより培養液中に分泌されたApoEレベルを測定した。また、培養から細胞を回収し、細胞内に発現しているABCA1レベルをABCA1抗体を用いて、Western blotを行い測定した。
これらのWestern blotは、以下のとおりに行われた。
10%ポリアクリルアミドゲルに、各上清10ulに4XSDSサンプルバッファー2.5ulを加えた溶液を入れて電気泳動を行い蛋白質を分離した。分離された蛋白質をPVDF(ポリビニリデンジフロライド)メンブレンにトランスファーした後、室温で1時間ブロッキング(5% skimmilk/TBS−Tween20、TBS−T)を行った。その後、メンブレンを洗浄バッファー(TBS−T)で10分間、3回洗浄した。洗浄後、goat anti−ApolipoproteinE (ApoE)抗体(Millipore,Cat No.AB947)又は抗ABCA1抗体(abcam社「抗ヒトABCA1抗体、ab18180」)をTBS−Tバッファーで1,000倍希釈した抗体溶液をメンブレンと接触させ、4℃で16時間反応を行った。反応後、メンブレンを洗浄バッファーで10分間、3回洗浄した後、HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)標識goat二次抗体(2.5% skimmilk/TBS−Tween20で5,000倍希釈)を入れて室温で1時間反応させた後、化学発光をAmersham Imager−600(GE Healthcare Life Sciences)装置で検出した。
配列番号1のペプチドの存在下(1、又は10μg/ml)でアストロサイトを48時間培養した場合に得られた発光強度を、当該ペプチドの不在下(0μg/ml)でアストロサイトを48時間培養した場合に得られた発光強度により除した値(以下、相対発光強度という)を算出した。
以上の、細胞培養試験を3回(n=3)行い、3回の試験で得られた相対発光強度の平均値を算出した。
(3)結果
上記細胞培養試験の結果得られた平均値を以下の表1〜2及び図1〜2に示す。表1〜2が、図1〜2にそれぞれ対応する。図1〜2に示されるグラフにおいて、縦軸が相対発光強度であり、横軸は配列番号1のペプチドMKPの濃度である。
表1〜2及び図1〜2に示されるとおり、配列番号1のペプチドの存在下でアストロサイトを培養した場合に得られた発光強度の平均値は、当該ペプチドの濃度がいずれの場合においても、当該ペプチドの不在下の場合と比べて、より高かった。すなわち、当該ペプチドによってアストロサイトを処理することで、アストロサイトによるApoE産生及びABCA1産生が促進された。
以上の結果より、配列番号1のペプチドはアストロサイトによるApoE産生を促進することができることが分かる。また、配列番号1のペプチドはApoE産生だけでなく、ABCA1を促進することもできることが分かる。

Claims (7)

  1. Met−Lys−Proのアミノ酸配列からなるペプチドを有効成分として含むアポリポ蛋白E産生促進用組成物。
  2. 前記組成物が、グリア細胞によるアポリポ蛋白E産生を促進するためのものである、請求項1に記載の組成物。
  3. 前記グリア細胞がアストロサイトである、請求項2に記載の組成物。
  4. 前記組成物が、アポリポ蛋白E及びABCA1の産生を促進するためのものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
  5. 前記組成物が、グリア細胞によるアポリポ蛋白E及びABCA1の産生を促進するためのものである、請求項4に記載の組成物。
  6. 前記組成物が飲食品組成物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
  7. 前記組成物が医薬組成物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
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