(構成概要)
以下、本発明にかかるモータユニットの実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本発明のモータユニットをその一部に備える排水弁駆動装置900の内部構造を示す平面図である。図2は、排水弁駆動装置900の展開断面図である。なお、以下の説明における「上」および「下」とは、図2における上下方向をいうものとする。
排水弁駆動装置900は、モータ100の駆動力により外部部材である排水弁Vを開放する装置である。本実施形態の排水弁Vは、その初期状態において閉塞されており、また、図示しない付勢手段により排水弁Vには常にこれを閉塞させる方向に付勢力が作用している。排水弁駆動装置900は、かかる付勢力に抗して排水弁Vを牽引することでこれを開放させ、また、その開放状態を維持する。
排水弁駆動装置900は、駆動源であるモータ100、モータ100の駆動力を被駆動体である排水弁Vに伝達する動力伝達経路である第1経路P1、第1経路P1による駆動力の伝達を「継」状態または「断」状態に切り替えるクラッチ機構C、モータ100の正転時の駆動力を第1経路P1に伝達させるフィルタ機構F、および、フィルタ機構Fにモータ100の駆動力を伝達する動力伝達経路である第2経路P2と、を備えている。
(モータ)
図3は、モータ100の構造を示す側面視断面図である。モータ100は後述するフィルタ機構Fの一部である逆転防止機構Sにより回転方向が一方向に制御される単相のAC同期モータである。本例では、これらモータ100および逆転防止機構Sが本発明のモータユニットを構成している。
モータ100は、上部が開口した略カップ形状の金属製のモータケース190、モータケース190の内周面に沿って配置された円環形状のステータ110、ステータ110の内側に配置されたロータ120、および、ロータ120内に配置され、ロータ120と回転中心を同じくする回転体である誘導回転体150により構成されている。
モータケース190は、ロータ120を回転可能に支持するロータ支軸131を有している。ロータ支軸131は、ステンレス等の金属で形成された固定軸であり、モータケース190の底部中央にその基端部が圧入固定されている。なお、ステータ110の上面には、排水弁駆動装置900を構成する他の回転部材や、回動部材を支持する支軸・軸受が立設されている。
ロータ120は、ロータマグネット121、ロータボス122、および磁気誘導マグネット123により構成されている。
ロータマグネット121は、永久磁石からなる略円筒形状の部材である。ロータマグネット121は、その外周面をステータ110の内周面に対向させて配置されており、ステータ110が発生させる磁界により回転する。
ロータマグネット121の上端には、その外周面側の縁部に、後述する逆転防止機構S(フィルタ機構F)の一部を構成する切り欠き状の凹部である係合部121aが設けられている。係合部121aは、ロータマグネット121の周方向に沿って等間隔に4箇所設けられている。
ロータボス122は、ロータマグネット121とともにインサート成形された樹脂製の軸体であり、モータ100の出力軸である。ロータボス122は、その径方向中心に軸線方向に貫通された軸穴122bを有しており、軸穴122bにはロータ支軸131が挿通されている。ロータボス122およびロータマグネット121は、これらの下端部から互いに他方の部材側に向かって径方向に延びた部分が結合されており、かかる結合部はロータ120の底部120aを構成している。これにより、ロータ120の内部には、上部が開口した略円柱形状の空間が形成されている。また、ロータボス122の上面には、ロータボス122に隣接する歯車部材であるクラッチ歯車200にモータ100の駆動力を伝達する複数の凸部である駆動側係合爪122aが形成されている。
磁気誘導マグネット123は、ロータマグネット121の内周面に貼着された環状の永久磁石である。
磁気誘導マグネット123の内側には誘導回転体150が配置されている。誘導回転体150は、誘導リング部R、および誘導リング部Rとともにインサート成形された樹脂製の軸体であるボス部153により構成されている。誘導回転体150は、磁気誘導マグネット123が回転することにより生じる渦電流の電磁誘導作用により、ロータ120に連れ回って回転する。
誘導リング部Rは、略円筒形状の銅管151、および、銅管151の筒内に圧入される略円筒形状の鉄管152により構成されている。銅管151は、非磁性導体である銅からなる誘導体である。鉄管152は、強磁性体である鉄製の部材であり、磁気誘導マグネット123の磁気吸引力が作用するバックヨーク部である。
ボス部153は、その径方向中心に沿って貫通された軸穴153bを有しており、軸穴153bにはロータボス122が挿通されている。ボス部153は、ロータボス122によりスラスト方向およびラジアル方向に支持されている。なお、ボス部153はロータボス122には固定されていない。そのため、誘導回転体150は、誘導回転体150に対する電磁誘導作用が、誘導回転体150に加えられた回転抵抗を上回るときにロータ120に連れ回って回転する。また、ボス部153の上端には、逆転防止機構S(フィルタ機構F)の一部を構成する平歯車である歯車部153aが設けられている。
(第1経路)
以下、図1および図2を参照して第1経路P1の構成について説明する。第1経路P1は、モータ100の正転時の駆動力により排水弁Vをワイヤー450で牽引する出力経路である。
第1経路P1は、駆動源側から排水弁V側に向かって、モータ100のロータ120、クラッチ歯車200、遊星歯車機構300、第1経路第4歯車410(以下、単に「歯車410」という。)、第1経路第5歯車420(以下、単に「歯車420」という。)、ウインチ部材430、およびワイヤー450により構成されている。なお、ワイヤー450の先端部には排水弁V側に取り付けられる留め金451が固定されている。
ロータ120のロータボス122上面に設けられた駆動側係合爪122aが、クラッチ歯車200の下面から下方に突出した複数の凸部である従動側係合爪210と係合することにより、モータ100の駆動力がクラッチ歯車200に伝達される。
クラッチ歯車200の外周面に形成された平歯車である歯車部220は、遊星歯車機構300の入力部である入力歯車311と噛合している。入力歯車311はクラッチ歯車200よりも大径の歯車であり、これによりモータ100の回転は減速されて遊星歯車機構300に入力される。そして、遊星歯車機構300内でモータ100の回転はさらに減速され、出力される。
遊星歯車機構300の出力部である出力歯車333には、歯車410の大径歯車部411が噛合しており、歯車410の小径歯車部412には、歯車420の大径歯車部421が噛合している。歯車420は、そのセレーション部422が、ウインチ部材430に形成された貫通孔431に嵌合されており、歯車420とウインチ部材430とは周方向へ一体的に回転する。これによりモータ100の回転はさらに減速され、ワイヤー450を介して排水弁Vに伝達される。
(遊星歯車機構)
遊星歯車機構300は、第1経路P1の一部を構成するとともに、その差動歯車構造を利用して、後述するフィルタ機構Fの一部を構成している。図4は、遊星歯車機構300の構造を示す側面視断面図である。遊星歯車機構300は、太陽歯車部材310、内歯車部材320、3つの遊星歯車331、および遊星キャリア部材330により構成されている。
太陽歯車部材310は、太陽歯車312が形成された内筒310aと、遊星歯車機構300の入力部である入力歯車311が外周面に形成された外筒310bとが、これらの上端部で一体化された二重筒構造の歯車部材である。外筒310bの入力歯車311は、クラッチ歯車200の歯車部220と噛合しており、内筒310aの太陽歯車312は、太陽歯車部材310の内部で3つの遊星歯車331と噛合している。これにより、クラッチ歯車200の回転は、入力歯車311から太陽歯車312を経て、これら遊星歯車331に伝達される。
内歯車部材320は、その内周面に内歯車322が形成された略キャップ形状の歯車部材である。内歯車部材320は、その上部が太陽歯車部材310の外筒310b内に嵌合されており、太陽歯車部材310から露出した下端部にはフィルタ歯車321が形成されている。フィルタ歯車321は、内歯車部材320の下端部から径方向外側に円環状に延出したフランジ状の平歯車である。内歯車部材320の内歯車322は遊星歯車331と噛合しており、フィルタ歯車321は後述する第2経路P2を構成する第2経路第4歯車720(以下、単に「歯車720」という。)の小径歯車部722と噛合している。
遊星キャリア部材330は、遊星歯車331を回転可能に支持する枠体である遊星支持部332と、遊星支持部332から下方に延出した、遊星歯車機構300の出力部である出力歯車333と、が一体化された部材である。遊星キャリア部材320の出力歯車333は、第1経路P1を構成する歯車410の大径歯車部411と噛合している。
遊星歯車機構300において、入力歯車311の回転、つまり太陽歯車312の回転が出力歯車333に伝達されるかどうかは、フィルタ歯車321の角度位置が固定されているかどうかにより決定される。フィルタ歯車321の回転が歯車720の小径歯車部722に係止されると、フィルタ歯車321とともに、内歯車部材320の内歯車322の角度位置も固定される。フィルタ歯車321が固定されているときに太陽歯車312が回転すると、その回転は遊星歯車331に伝えられ、遊星歯車331は、固定された内歯車322に沿って公転し、遊星支持部332とともに出力歯車333を回転させる。一方、フィルタ歯車321が固定されていないときには、太陽歯車312の回転は遊星歯車331の自転を経て内歯車322の空転により消費され、出力歯車333には伝達されない。
つまり、モータ100の正転時にフィルタ歯車321を固定することで、モータ100正転時の駆動力を第1経路P1に伝達させることができ、モータ100逆回転時の駆動力を内歯車322の空転により消失させることができる。
(第2経路およびフィルタ機構)
以下、図5、図6、図2、および図11を参照して第2経路P2およびフィルタ機構Fの具体的な構成について説明する。フィルタ機構Fはモータ100の正転時の駆動力を第1経路P1に伝達させる機構である。第2経路P2は、かかるフィルタ機構Fを作動させる出力経路である。
フィルタ機構Fおよび第2経路P2は、駆動源側から遊星歯車機構300側に向かって、誘導回転体150、扇形ギヤ600、扇形ギヤ600に隣接する歯車部材である第2経路第3歯車710(以下、単に「歯車710」という。)、歯車720(第2経路第4歯車720)、および遊星歯車機構300の内歯車部材320により構成されている。
図5(a)は、モータ100が逆転したときのフィルタ機構Fの動作を示す平面図である。図5(b)は、フィルタ機構Fの一部である逆転防止機構Sを構成する部材を拡大した部分拡大図である。本例の逆転防止機構Sは、主に、ロータ120の係合部121a、扇形ギヤ600の歯車部611とアーム部620、および誘導回転体150により構成されている。なお、本実施形態におけるモータ100の正転とは、ロータ120が図5視時計回りに回転することをいい、モータ100の逆転とは、ロータ120が図5視反時計回りに回転することをいう。
モータ100が逆転すると、これに連れ回って誘導回転体150が反時計回りに回転する。そして、誘導回転体150の歯車部153aに噛合する扇形ギヤ600は時計回りに回動する。扇形ギヤ600側面に設けられた円弧形状の切欠き612(図11参照)が歯車710の基端部に当接する位置まで扇形ギヤ600が回動すると、扇形ギヤ600はそれ以上回動することができなくなる。そして、扇形ギヤ600と噛合する誘導回転体150も、それ以降の回転が扇形ギヤ600により係止される。
上でも述べたように、誘導回転体150のボス部153はロータボス122には固定されておらず、誘導回転体150は、誘導回転体150に対する電磁誘導作用が、誘導回転体150に加えられた回転抵抗を上回るときロータ120に連れ回って回転する。そのため、誘導回転体150の回転が扇形ギヤ600に係止された後も、ロータ120は逆転を継続する。
扇形ギヤ600が歯車710の基端部に当接する位置まで回動した状態でロータ120が逆転すると、ロータ120の係合部121aが扇形ギヤ600のアーム部620の先端部620aに衝突する。この衝撃により、ロータ120の回転方向は正転に修正される。なお、本例の係合部121aはロータ120の外面に設けられた凹部であるが、本発明の係合部はロータ120と一体に回転する凸部であってもよい。
図11は扇形ギヤ600の構造を示す平面図(図11(a))および斜視図(図11(b))である。扇形ギヤ600は、モータ100がその始動時に逆転したときに、係合部121aの周回軌道に進入して係合部121aと衝突するストッパ部材である。以下、図11および図5を参照して、扇形ギヤ600の構造についてより詳細に説明する。
扇形ギヤ600は、平面視略扇形の本体部610と、本体部610から延出したアーム部620とを有している。アーム部620は、本体部610のその扇形の一方の半径部分を構成する側面からコの字型に延びており、その先端は、本体部610を平面視したときに、本体部610の円弧部分の一方の端部の外側に回り込んでいる。
アーム部620は、本体部610よりも容易に弾性変形する緩衝部である。また、アーム部620は、その基端部620bが本体部610に固定された片持ちのアームであり、先端部620aは自由端となっている。モータ100が逆転したときには、アーム部620は、その自由端である先端部620aがロータ120の係合部121aと接触する。
このように本例では、本体部610よりも弾性変形しやすいアーム部620が扇形ギヤ600に設けられ、逆転したモータ100(ロータ120)の係合部121aがこのアーム部620に衝突することにより、衝突時に発生する衝突音が軽減される。また、本例のアーム部620は、その基端が本体部610に固定された片持ち構造とされていることにより、先端部620aを含む自由端側621がさらに変形しやすくなっている。そして、この先端部620aに係合部121aを衝突させることで、衝突時に発生する衝突音が軽減されている。これに加え、アーム部620がコの字型に形成されていることにより、アーム部620の基端部620bから先端部620aまでの長さが長くとられている。このことによってもアーム部620は変形しやすくなっている。なお、アーム部620の形状がU字型であっても同様の効果を得ることはできる。
なお、本例のアーム部620は、扇形ギヤ600の側面から側方(水平方向)に張り出しているが、例えば排水弁駆動装置900内の上下方向のスペースに余裕があるときには、扇形ギヤ600の上面から上方に張り出してコの字型・U字型を形成するアーム部とすることも考えられる。
ここで、本例の係合部121aは、ロータ120の死点(いわゆるデッドポイント)を避けた位置でアーム部620に衝突するように配置されている。本例の排水弁駆動装置900では、構造が単純な単相モータを駆動源として採用することにより部品コストが抑えられている。一方、アーム部620に逆転が阻止されたときのロータ120の配置角度がロータ120の死点位置と重なった場合、ロータ120が始動不能に陥るおそれがある。本例では、ロータ120の死点を避けるように係合部121aが配置されていることにより、このような動作異常が未然に防止されている。
また、係合部121aには、弾性変形したアーム部620が突き当たることでアーム部620の変形可能な限界位置を定める変形制限部Lが設けられている。
これまで述べたように、アーム部620は弾性変形しやすいように工夫されており、これにより係合部121aが衝突したときに発生する衝突音が軽減されている。その反面、係合部121aが先端部620aに勢いよく衝突したときや、ロータ120のトルクが大きいときには、係合部121aが先端部620aを退けて逆転を継続するおそれがある。変形制限部Lは、所定量変形したアーム部620がこれに突き当たることで、アーム部620のそれ以上の変形を阻止する。これにより衝突音の軽減と逆転の確実な修正との両立が図られている。なお、変形制限部Lは常にロータ120に設けられる必要はなく、例えば扇形ギヤ600の本体部610に設けられていてもよい。
扇形ギヤ600の本体部610の円弧に相当する部分には、誘導回転体150の歯車部153aに噛合する歯車部611が形成されている。そして、係合部121aがアーム部620に衝突するときには、扇形ギヤ600は、歯車部611のうち歯丈が他の歯部よりも長く形成された部分である丈長部611aで誘導回転体150と噛合する。これにより、扇形ギヤ600と誘導回転体150の噛み合いが衝突の衝撃で外れることが防止されている。
また、扇形ギヤ600の回動中心部からは円筒形状の軸体630が上方に延出している。軸体630の上部には、軸体630の径方向外側に突出した係止片である正転時係止片635が形成されている。また、扇形ギヤ600の回動中心部からはさらに、誘導回転体150側の略反対方向に向かって、棒状のレバー部640が延出している。レバー部640の先端にはコイルばね690の一端が取り付けられるばねポスト641が設けられており、コイルばね690の他端は、ステータ110上に設けられたピン135に取り付けられている。
歯車710は、その上部の外周面に、扇形ギヤ600の正転時係止片635と係合可能な複数の係合突起711が形成されている。また、歯車710の下部には平歯車である歯車部712が設けられている。
歯車720は、同軸上に重ねられた大径歯車721および小径歯車722が一体成形された複合歯車である。歯車720の大径歯車721は歯車710の歯車部712と噛合しており、歯車720の小径歯車722は内歯車部材320のフィルタ歯車321と噛合している。
図6は、モータ100が正転したときのフィルタ機構Fの動作を示す平面図である。モータ100が正転すると、これに連れ回って誘導回転体150が時計回りに回転する。そして、誘導回転体150の歯車部153aに噛合する扇形ギヤ600は反時計回りに回動する。なお、このとき、コイルばね690は、扇形ギヤ600に引張され、扇形ギヤ600を原位置に戻すように扇形ギヤ600を付勢する。
扇形ギヤ600の正転時係止片635が歯車710の外周面に当接する位置まで扇形ギヤ600が回動すると、扇形ギヤ600はそれ以上回動することができなくなる。そして、扇形ギヤ600と噛合する誘導回転体150も、それ以降の回転が扇形ギヤ600により係止される。なお、この場合でもロータ120は正転を継続する。
扇形ギヤ600の正転時係止片635が歯車710の外周面に当接すると、歯車710の係合突起711が正転時係止片635に係合することで、歯車710の回転が係止される。なお、モータ100が正転したときには、歯車710は、フィルタ歯車321から逆流してきた駆動力により時計回りに回転しようとする。
歯車710の時計回りの回転が係止されると、これに連動して、歯車720とフィルタ歯車321(内歯車部材320)の回転も係止される。これにより、第1経路P1にモータ100の駆動力が伝達されるようになる。
(クラッチ機構)
以下、図7乃至図10を参照して排水弁駆動装置900のクラッチ機構Cについて説明する。図7は、排水弁Vを駆動しているときのクラッチ機構Cの動作状態を示す平面図(図8を矢示B方向から見た図)であり、図8はクラッチ機構Cの同動作状態を示す側面図(図7を矢示A方向から見た図)である。なお、排水弁駆動装置900を停止したときも、クラッチ機構Cは、図7および図8に示される状態となる。図9は、排水弁Vの開放状態を維持しているときのクラッチ機構Cの動作状態を示す平面図(図10を矢示B方向から見た図)であり、図10はクラッチ機構Cの同動作状態を示す側面図(図9を矢示A方向から見た図)である。なお、図8および図10では、歯車420の記載を省略している。
クラッチ機構Cは、第1経路P1によるモータ100の駆動力の伝達を「継」状態または「断」状態に切り替える機構である。クラッチ機構Cは、主に、モータ100のロータボス122、第1経路P1においてロータボス122の従動側に隣接する歯車部材であるクラッチ歯車200、略扇形の板状部材であるクラッチレバー500により構成されている。クラッチレバー500は、排水弁Vの開閉状態に合わせて、その基端部の支軸136を回動中心として所定の角度範囲内を水平方向へ往復移動する部材である。
ロータボス122およびクラッチ歯車200は、ロータ支軸131により同軸線上で支持されている。クラッチ歯車200の軸方向位置は固定されておらず、クラッチ歯車200は、ロータ支軸131上を上下方向に移動可能である。ロータボス122のクラッチ歯車200側の端面である上面122sと、クラッチ歯車200のロータボス122側の端面である下面200sとの間には、これらを離間方向へ付勢する付勢部材であるコイルばね250が配置されている。
ロータボス122の上面122sには、クラッチ歯車200側に突出した複数の凸部である駆動側係合爪122aが形成されている。そして、クラッチ歯車200の下面200sには、ロータボス122側に突出した複数の凸部である従動側係合爪210が形成されている。従動側係合爪210が駆動側係合爪122aに係合することにより、モータ100の駆動力はクラッチ歯車200に伝達される。すなわち、第1経路P1が「継」状態となる。また、これら従動側係合爪210および駆動側係合爪122aの係合が解除されることにより、第1経路P1は「断」状態となる。
クラッチ歯車200は、その歯車部220から上方に突出した筒状の従動軸240を有している。クラッチレバー500はその下面に、ロータボス122とクラッチ歯車200との間隔を制御するカムであるスロープ部510を有している。スロープ部510は、クラッチ歯車200の従動軸240が接触するテーパ面511を有している。スロープ部510は、テーパ面511でクラッチ歯車200の従動軸240を押圧することにより、クラッチ歯車200の軸方向位置を制御する。より具体的には、排水弁Vの開放時には、クラッチ歯車200を押圧してその軸方向位置を下げることにより、従動側係合爪210を駆動側係合爪122aに係合させ、排水弁Vの開放が完了し、その開放状態を維持するときには、押圧を解除して従動側係合爪210を駆動側係合爪122aから離間させる。
また、図10に示されるように、スロープ部510のテーパ面511は、ロータボス122とクラッチ歯車200とが離間しているときの従動軸240の位置(図10視左側)から、これらが係合しているときの従動軸240の位置(図10視右側)に向かって、順に、面位置が次第に高くなる第1テーパ面511aと、頂部を経て面位置が次第に低くなる第2テーパ面511bと、を有している。なお、第2テーパ面511bにおける面位置の低下量Dは、第1テーパ面511aにおける面位置の上昇量Uよりも小さい。例えば図8に示されるように、ロータボス122とクラッチ歯車200とを係合させたときに、第1テーパ面511aとは逆方向に傾斜した第2テーパ面511bで従動軸240を支持することにより、装置の振動などのはずみでクラッチ歯車200が第1テーパ面511aを下ってしまうことが抑制されている。
図7および図9に示されるように、歯車420の上面420aには、その周方向位置により溝幅を変えて形成された略円弧形状の溝部であるカム溝423が設けられている。一方、クラッチレバー500の下面には、歯車420とその水平方向における位置が重なる部分に、下方に突出した軸部である従動軸530が形成されている。クラッチレバー500の従動軸530は、歯車420のカム溝423に嵌合されている。つまり、歯車420およびクラッチレバー500は表面カムを構成している。クラッチレバー500は歯車420のカムフォロアーであり、歯車420の回動に追従して、水平方向における所定の角度範囲内を往復移動する。
また、クラッチレバー500には、ロータ支軸131が挿通される長穴であるガイド穴540が形成されている。ガイド穴540は、クラッチレバー500の可動範囲内において、ロータ支軸131と位置が重なる部分の全長にわたって形成されている。また、ガイド穴540はスロープ部510にも及んでおり、このため、スロープ部510は平面視略U字形に形成されている。
また、クラッチレバー500の下面には、下方に突出した凸部である係止片520が形成されている。そして、クラッチ歯車200には、その従動軸240から径方向外側に延出した凸部である被係止片230が設けられている。クラッチ歯車200の被係止片230が、クラッチレバー500の係止片520と周方向に係合することにより、クラッチ歯車200はその回転が係止される。なお、クラッチ歯車200の被係止片230は、平面視点対象に二つ形成されている。クラッチ歯車200の逆転がクラッチレバー500に阻止されることにより、排水弁Vの開放後に、排水弁V自体の付勢力に抗して排水弁Vの開放状態を維持することが可能とされている。
図7および図8に示すように、排水弁Vの開放時には、クラッチレバー500のスロープ部510でクラッチ歯車200が下方に押圧されることにより、従動側係合爪210が駆動側係合爪122aに係合する。これにより第1経路P1が「継」状態となり、モータ100の駆動力で排水弁Vが開放される。
図9および図10に示すように、排水弁Vの開放後、その開放状態を維持するときには、クラッチレバー500によるクラッチ歯車200の押圧が解除され、従動側係合爪210が駆動側係合爪122aから離間する。これにより第1経路P1は「断」状態となり、ロータボス122は空転することとなる。そして、クラッチ歯車200の被係止片230が、クラッチレバー500の係止片520と周方向に係合し、クラッチ歯車200の逆転が阻止される。これにより、排水弁V自体の付勢力に抗して排水弁Vの開放状態が維持される。
(排水弁駆動装置の動作)
以下、排水弁駆動装置900の動作について説明する。以下の説明では、排水弁駆動装置900の動作を、初期状態(閉塞位置)にある排水弁Vを開放するときの動作、および、開放状態にある排水弁Vを閉塞するときの動作に分けて説明する。
(1)排水弁開放動作
排水弁Vは初期状態(ワイヤー450がウインチ部材430に巻き上げられていない状態)において閉塞位置にある。このとき、クラッチレバー500はそのスロープ部510でクラッチ歯車200を押し下げており、クラッチ歯車200の従動側係合爪210は、ロータボス122の駆動側係合爪122aに係合した状態にある。すなわち、クラッチ機構Cは図7および図8に示される状態にあり、第1経路P1は「継」状態にある。
この状態からモータ100が逆転すると、そのロータ120内に配置された誘導回転体150もロータ120に連れ回って逆転方向へ回転する。誘導回転体150が逆転すると、その歯車部153aに噛合する扇形ギヤ600は、アーム部620をロータ120の係合部121aの周回軌道に進入させる向きに回動する。係合部121aがアーム部620に衝突することによりモータ100の逆転は正転に修正される。
モータ100が正転方向へ駆動されると、ロータボス122とともにクラッチ歯車200が回転する。そして、ロータ120内に配置された誘導回転体150もロータ120に連れ回って回転する。誘導回転体150が回転すると、その歯車部153aに噛合する扇形ギヤ600も回動する。このとき、扇形ギヤ600は、コイルばね690の付勢力に抗して、正転時係止片635が歯車710(係合突起711)に接近する方向に回動する。
正転時係止片635が係合突起711に係合すると、歯車710の回転が係止される。歯車710の回転が係止されると、歯車710に噛合する歯車720の回転も係止される。歯車720の回転が係止されると、歯車720に噛合するフィルタ歯車321、つまり内歯車部材320の回転も係止される。すなわち、フィルタ機構Fにより、内歯車部材320の角度位置が固定され、第1経路P1がモータ100の正転駆動力を伝達可能な状態となる。なお、扇形ギヤ600および歯車710が係合することで誘導回転体150が回転不能となった後も、ロータ120は誘導回転体150とは非同期に正転を継続する。
クラッチ歯車200の歯車部220は、遊星歯車機構300の入力歯車部311と噛合している。クラッチ歯車200の回転は入力歯車部311を経て太陽歯車312に伝達され、太陽歯車部材312が回転する。
太陽歯車312は、遊星歯車機構300の内部において3つの遊星歯車331と噛合している。また、これら遊星歯車331は、内歯車部材320の内歯車322とも噛合している。上で述べたように、内歯車部材320は、フィルタ機構Fによりその角度位置が固定された状態にある。そのため、太陽歯車312が回転すると、遊星歯車331は内歯車部材320の内歯車322に沿って太陽歯車312の周りを公転する。遊星歯車331が公転すると、遊星歯車331を支持する遊星キャリア330とともに、遊星歯車機構300の出力歯車333が回転する。
なお、モータ100が逆転した時には、フィルタ機構Fが内歯車部材320の回転を係止しないから、仮に太陽歯車312が回転したとしても、その太陽歯車312の回転は、遊星歯車331の自転を経て内歯車部材320の空転により消費される。遊星歯車機構300の出力歯車333には、第1経路P1を介して排水弁V自体の付勢力が作用しており、入力歯車部311に伝えられた駆動力が、回転抵抗の少ない内歯車部材320側に流れてしまうからである。
出力歯車333には歯車410が噛合しており、歯車410には歯車420が噛合している。歯車420の上面には、歯車420と周方向へ一体的に回転するウインチ部材430が取り付けられている。ウインチ部材430が回動すると、ウインチ部材430に接続されたワイヤー450が巻き取られる。ワイヤー450の先端には排水弁Vが固定されており、これにより、排水弁Vが開放される。
歯車420が所定位置まで回動すると(ワイヤー450が所定量巻き取られると)、歯車420のカムフォロアーであるクラッチレバー500が、歯車420から離れる方向へ移動する。すなわち、クラッチ機構Cが図9および図10に示される状態となる。
クラッチレバー500の移動により、クラッチ歯車200の押圧は解除され、クラッチ歯車200はコイルばね250の付勢力により上方へと移動する。これにより、クラッチ歯車200の従動側係合爪210と、ロータボス122の駆動側係合爪122aとの係合が解除され、モータ100の駆動力がクラッチ歯車200に伝達されない状態となる。つまり、第1経路P1は「断」状態となる。
また、クラッチレバー500の上記移動により、クラッチ歯車200の被係止片230が、クラッチレバー500に設けられた係止片520に周方向に当接する。すなわち、クラッチ歯車200の回転がクラッチレバー500により係止された状態となる。クラッチ歯車200の回転が係止されると、第1経路P1を構成するクラッチ歯車200以降の部材の角度位置も固定される。なお、このときも、フィルタ機構Fは内歯車部材320の回転を係止しており、第1経路P1には排水弁V自体の付勢力が作用している。しかし、クラッチ歯車200の回転はクラッチレバー500により係止されているため、クラッチ歯車200が逆転することはない。これにより、排水弁V自体の付勢力に抗して排水弁Vの開放状態が維持される。
(2)排水弁閉塞動作
排水の完了後、排水弁Vを閉塞させるときには、モータ100への給電を停止する。モータ100への給電を停止することにより、モータ100による誘導回転体150の電磁誘導力が消失する。これにより、扇形ギヤ600がコイルばね690の付勢力に屈して原位置へと戻り、扇形ギヤ600から歯車710、歯車720、そしてフィルタ歯車321へと続く係止関係が解除される。つまりフィルタ機構Fが無効化され、内歯車部材320が空転可能な状態となる。
排水弁Vには常に、排水弁Vを閉塞させる方向に付勢力が作用している。そのため、フィルタ機構Fが無効化され、内歯車部材320が空転可能になると、排水弁Vの開放状態を維持していた牽引力は内歯車部材320の空転により消失する。これにより排水弁Vは排水弁V自体の付勢力により閉塞する。
さらに、排水弁Vの閉塞方向に歯車420が回動すると、クラッチレバー500は歯車420に近づく方向へ移動する。すなわち、クラッチ機構Cが図7および図8に示される状態となる。これにより、クラッチ歯車200の従動側係合爪210が、ロータボス122の駆動側係合爪122aに係合し、モータ100の駆動力がクラッチ歯車200に伝達される状態となる。つまり、第1経路P1が「継」状態となる。
(扇形ギヤの変形例)
図12は扇形ギヤ600の変形例である扇形ギヤ800の構造を示す平面図(図12(a))および斜視図(図12(b))である。扇形ギヤ800の役割や基本的な構造は上記実施形態の扇形ギヤ600と同様である。以下、図12を参照して、変形例にかかる扇形ギヤ800の構造についてより詳細に説明する。
扇形ギヤ800は、平面視略扇形の本体部810と、本体部810から延出したアーム部820とを有している。アーム部820は、本体部810のその扇形の一方の半径部分を構成するリブ850から山なりに湾曲するように延びており、その先端部820aは、扇形ギヤ800を平面視したときに、リブ850の先端の先に回り込んでいる。
アーム部820は、本体部810よりも容易に弾性変形する緩衝部である。また、アーム部820は、その基端部820bが本体部810に固定された片持ちのアームであり、先端部820aは自由端となっている。モータ100が逆転したときには、アーム部820はその自由端である先端部820aがロータ120の係合部121aと接触する。
アーム部820は、その山なりの頂部Tを境とする根元側の部分である固定端側822よりも、先端部820aを含む先端側の部分である自由端側821の方が長い。本例の扇形ギヤ800は、アーム部820を山なりに湾曲させ、その自由端側821を固定端側822よりも長く設けることにより、自由端側821がより曲がりやすくなっている。これにより、係合部121aがアーム部820に衝突するときの衝撃がアーム部820の自由端側821の変形により緩和され、衝突音が軽減される。
また、上記実施形態の扇形ギヤ600は、固定端側822に相当する部分が自由端側821に相当する部分よりも肉厚に形成されており、係合部121aとの衝突によりたわむのは専ら自由端側相当部である。一方、本例のアーム部820は、応力の集中を防ぐアールが設けられた基端部820bを除き、アーム部820の全長において、その延出方向に直交する方向の断面積がほぼ同一である。扇形ギヤ800は、アーム部820の自由端側821だけでなく、固定端側822も自由端側821と同様に変形可能な太さであることにより、アーム部820のその全長をたわませて衝突時の衝撃を吸収することができる。これにより扇形ギヤ800は、自由端側821だけが曲がる構成に比べて衝突音をより小さく抑えることが可能とされている。
なお、図14に示すように、アーム部820の固定端側822をより長く形成することによりアーム部820をさらに曲がりやすくすることもできる。
また、本例のアーム部820は、本体部810のリブ850から側方(水平方向)に延出しているが、例えば排水弁駆動装置900内の上下方向のスペースに余裕があるときには、扇形ギヤ800の上面から上方に延出させることも考えられる。
本体部810のリブ850の先端には、弾性変形したアーム部820が突き当たることでアーム部820の変形可能な限界位置を定める変形制限部Lが設けられている。アーム部820の自由端側821は、先端部820aが係合部121aと衝突したときに変形制限部Lに近づくように弾性変形する。扇形ギヤ800には、アーム部820の自由端側821と変形制限部Lとの間に隙間Gが設けられている。隙間Gは、先端部820aが係合部121aと衝突したときに自由端側821が変形により移動する平均移動幅よりも広い隙間である。すなわち本例の扇形ギヤ800は、アーム部820が係合部121aと衝突したときに、弾性変形したアーム部820が変形制限部Lに到達する頻度は1/2以下である。係合部121aがアーム部820の先端部820aに衝突し、これにより変形したアーム部820がさらに変形制限部Lに衝突すると、衝突音が時間差で2回生じることとなる。アーム部820の自由端側821と変形制限部Lとの間に十分な広さの隙間を設け、通常の衝突ではアーム部821が変形制限部Lまで到達しない構成とすることにより、衝突音の発生源を減らすことができる。また、アーム部820と係合部121aとが偶発的に強く衝突し、アーム部820が変形制限部Lに当たる位置まで変形する場合でも、アーム部820は隙間Gを経て減速された上で変形制限部Lに接触するため、変形制限部Lとの衝突音は小さく抑えられる。
図13は、ロータマグネット121の係合部121aとの衝突によりアーム部820が弾性変形する様子を示す部分拡大平面図である。
図13(a)に示すように、モータ100がその始動時に逆転し、アーム部820の先端部820aが係合部121aの周回軌道に進入すると、先端部821aの角に設けられた曲面が係合部121aの面に線接触する。これにより、アーム部820の先端部820aと係合部121aとが衝突する面積が小さく抑えられており、これらが衝突したときの衝突音が軽減されている。その他、例えば先端部821aまたは係合部121aに突起を設け、先端部821aと係合部121aとを点接触させても同様の効果を得ることができる。
そして、図13(b)に示すように、係合部121aとの接触後に係合部121aがアーム部820の先端部820aを退けるようにさらに回転すると、アーム部820の自由端側821は係合部121aに押されて変形制限部L側に湾曲する。係合部121aとの衝突の勢いが強く、隙間Gでその衝撃を吸収しきれなかった場合には、自由端側821は変形制限部Lに接触する。ここで、変形制限部Lはその先端の曲面でアーム部820の自由端側821と線接触する。これにより、アーム部820の自由端側821と変形制限部Lとが接触する面積が小さく抑えられており、これらが接触したときの衝突音がさらに軽減されている。なお、例えば自由端側821または変形制限部Lに突起を設け、自由端側821と変形制限部Lを点接触させても同様の効果を得ることができる。
またこのとき、アーム部820の先端部820aは本体部810に設けられた切欠き813に退避しており、先端部820aよりも根元側の部分が変形制限部Lに接触する。係合部121aとの衝突によりアーム部820が弾性変形するときには、その先端部820aが最も高速に移動する。アーム部820の先端部820aではなく先端部820aよりも根元側の部分を変形制限部Lに接触させることにより、アーム部820が変形制限部Lに衝突するときの勢いが軽減される。
その他、扇形ギヤ800の本体部810の円弧に相当する部分には、誘導回転体150の歯車部153aに噛合する歯車部811が形成されている。そして、係合部121aがアーム部820に衝突するときには、扇形ギヤ800は、歯車部811のうち歯丈が他の歯部よりも長く形成された部分である丈長部811aで誘導回転体150と噛合する。これにより、扇形ギヤ800と誘導回転体150の噛み合いが衝突の衝撃で外れることが防止されている。
また、扇形ギヤ800の回動中心部からは円筒形状の軸体830が上方に延出している。軸体830の上部には、軸体830の径方向外側に突出した係止片である正転時係止片835が形成されている。また、扇形ギヤ800の回動中心部からはさらに、誘導回転体150側の略反対方向に向かって、棒状のレバー部840が延出している。レバー部840の先端にはコイルばね690の一端が取り付けられるばねポスト841が設けられており、コイルばね690の他端は、ステータ110上に設けられたピン135に取り付けられる。
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。