以下に図面を用いて本開示に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、車両に搭載される回転電機制御システムを述べるが、これは説明のための例示であって、車両搭載以外の用途に用いられてもよい。以下では、車両として、外部電源から充電できるプラグインハイブリッド車両を述べるが、これは説明のための例示であって、二次電池の電力で回転電機を駆動して走行する二次電池式電動車両であればよい。例えば、内燃機関を備えず、二次電池の電力のみで走行する電気自動車であってもよい。以下では、全ての図面において対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、プラグインハイブリッド車両に搭載される回転電機制御システム10の構成図である。以下では、回転電機制御システム10を、特に断らない限り、システム10と呼ぶ。システム10は、第1電源12、第2電源14、第1インバータ20、第2インバータ22、回転電機30、充電器32、及び制御装置60を含む。
第1電源12と第2電源14とは、充放電が可能な二次電池である。二次電池としては、高電圧用のリチウムイオン組電池が用いられる。端子間電圧は、約200Vから約300Vである。リチウムイオン組電池は、単電池または電池セルと呼ばれる端子間電圧が1Vから数Vのリチウムイオン電池を複数個組み合わせたもので、上記の所定の端子間電圧を出力する。リチウムイオン組電池に代えて、ニッケル水素組電池等を用いてもよく、あるいは、電気二重層キャパシタ等の大容量コンデンサを用いてもよい。
第1インバータ20は、第1電源12側と回転電機30側との間に配置される三相電力変換回路である。第2インバータ22は、第2電源14側と回転電機30側との間に配置される三相電力変換回路である。第1電源12と第1インバータ20との間に設けられるコンデンサ16と、第2電源14と第2インバータ22との間に設けられるコンデンサ18は、平滑用コンデンサである。
第1インバータ20と第2インバータ22とは、基本構成が同じであるので、第1インバータ20を主に述べる。第1インバータ20の第1電源12側は、第1電源12の正極側母線40と負極側母線41の間に接続され、直流電力が入出力する側である。回転電機30側は、三相電力線に接続され、三相交流電力が入出力する側である。第1インバータ20は、回転電機30を発電機として機能させるときは、回転電機30からの交流三相回生電力を直流電力に変換し、第1電源12側に充電電力として供給する交直変換機能を有する。また、回転電機30をモータとして機能させるときは、第1電源12側からの直流電力を交流三相駆動電力に変換し、回転電機30に交流駆動電力として供給する直交変換機能を有する。かかる第1インバータ20の動作は、制御装置60の制御の下で行われる。
第1インバータ20は、並列接続されたU相レグ44、V相レグ46、W相レグ48の3つのレグを有する。各相レグはいずれも、直列接続された上アーム素子と下アーム素子とで構成される。例えば、U相レグ44は、上アーム素子44aと下アーム素子44bとが直列接続されて構成される。同様に、V相レグ46は、上アーム素子46aと下アーム素子46bとが直列接続され、W相レグ48は、上アーム素子48aと下アーム素子48bとが直列接続されて構成される。図1において下アーム素子44bに代表させて示すように、各上アーム素子と下アーム素子は、いずれも、スイッチング素子56と、スイッチング素子56と逆方向に電流を流す整流素子58とが並列接続されて構成される。スイッチング素子56としては、例えばIGBT等のトランジスタが用いられ、整流素子58としては、例えば逆流ダイオードが用いられる。
同様に、第2インバータ22の第2電源14側は、正極側母線42と負極側母線43に接続され、直流電力が入出力する側であり、回転電機30側は、三相電力線に接続され、三相交流電力が入出力する側である。第2インバータ22は、並列接続されたU相レグ50、V相レグ52、W相レグ54の3つのレグを有する。U相レグ50は、上アーム素子50aと下アーム素子50bとが直列接続され、V相レグ52は、上アーム素子52aと下アーム素子52bとが直列接続され、W相レグ54は、上アーム素子54aと下アーム素子54bとが直列接続されて、それぞれ構成される。
回転電機30は、車両に搭載されるモータ・ジェネレータ(MG)であって三相同期型回転電機である。回転電機30は、第1インバータ20及び第2インバータ22を介して第1電源12及び第2電源14から電力が供給されるときはモータとして機能し、図示しないエンジンによる駆動時、あるいは車両の制動時には発電機として機能する。
回転電機30は、U相コイル30u、V相コイル30v、W相コイル30wを有する。U相コイル30u、V相コイル30v、W相コイル30wのそれぞれの一端には、第1インバータ20が接続され、U相コイル30u、V相コイル30v、W相コイル30wのそれぞれの他端には、第2インバータ22が接続される。U相コイル30uの一端は、第1インバータ20のU相レグ44の上アーム素子44aと下アーム素子44bの接続点に接続され、U相コイル30uの他端は、第2インバータ22のU相レグ50の上アーム素子50aと下アーム素子50bの接続点に接続される。V相コイル30vの一端は、第1インバータ20のV相レグ46の上アーム素子46aと下アーム素子46bの接続点に接続され、V相コイル30vの他端は、第2インバータ22のV相レグ52の上アーム素子52aと下アーム素子52bの接続点に接続される。W相コイル30wの一端は、第1インバータ20のW相レグ48の上アーム素子48aと下アーム素子48bの接続点に接続され、W相コイル30wの他端は、第2インバータ22のW相レグ54の上アーム素子54aと下アーム素子54bの接続点に接続される。
例えば、第1インバータ20の上アーム素子のスイッチング素子56をオンすることで回転電機30の対応する相のコイルに向けて電流が流れ、下アーム素子のスイッチング素子56をオンすることで回転電機30の対応する相のコイルから電流が引き抜かれる。第2インバータ22についても同様である。したがって、回転電機30が力行の際には、第1電源12からの電力が第1インバータ20を介して回転電機30に供給され、回生(発電)の際には回転電機30からの電力が第1インバータ20を介して第1電源12に供給される。第2インバータ20、第2電源14についても、回転電機30と同様の電力のやり取りを行う。
充電器32は、外部電源からの充電プラグが挿入される充電口33を有し、外部電源からの外部電力を第1電源12の充電に適合する直流電力に変換する電力変換器を内蔵するプラグイン充電器である。充電口33には、通常はオフ状態で、充電プラグが挿入されて外部充電が実行される場合にオンするリレーが設けられる。外部電力が商用交流電力である場合には、電力変換器は交直電力変換器であり、外部電力が直流電力である場合には、電力変換器は直流電圧変換器である。充電器32の2つの電力供給線34,36は、それぞれ第1電源12の正極側母線40と負極側母線41に接続される。
上記では、充電プラグ及び充電口33を利用した有線のプラグイン充電を述べたが、有線のプラグイン充電に代えて、外部電源装置及び車両それぞれに設けられた共振コイルを利用した無線充電としてもよい。この場合、充電器32は、車両に設けられた共振コイル(受電部)に接続される。いずれにしても、外部電力で充電(外部充電)する場合、車両、及び回転電機30は、静止していることが望ましい。
制御装置60は、車両の動作等に関する車両情報、第1電源12及び第2電源14の電圧及び充電状態に関する電源情報、回転電機30の動作等に関する回転電機情報等に基づいて、第1インバータ20と第2インバータ22のスイッチング信号の生成制御を行う。ここでは、特に、第1電源12、第2電源14の充電制御のために、外部電力充電部62と、電力充電部64とを含む。外部電力充電部62は、充電器32を介して第1電源12に供給された電力を第2電源14側に送電して第2電源14を充電する。電力充電部64は、回転電機30が回生状態等にある場合に、回生電力等を第2電源14に積極的に優先して充当する。これらの詳細については後述する。
図2は、制御装置60において、スイッチング信号の生成制御に関する部分のブロック図である。制御装置60は、車両制御部70、三相電圧指令算出部72、及び、第1インバータ制御部74と第2インバータ制御部76とを含む。
車両制御部70は、アクセルペダルの操作量、ブレーキペダルの操作量、車速等の車両走行に関する車両情報に基づき、回転電機30の出力要求に関するトルク指令を算出する。第1電源12及び第2電源14の充電状態、温度等の電源情報、外部充電の指示状況や充電口33と充電プラグの接続状況等の充電情報に基づき、外部充電が必要な場合には、トルク指令に変えて、充電指令を出力する。ここで、第1電源12の充電状態を示す第1SOCをSOC1とし、第2電源14の充電状態を示す第2SOCをSOC2とし、第1電源12の温度をT1とし、第2電源14の温度をT2とする。なお、道路状況や、目的地等のナビゲーション情報等も車両制御部70に供給されるとよい。
算出されたトルク指令または充電指令は、三相電圧指令算出部72の電流指令生成部80に供給される。電流指令生成部80は、トルク指令または充電指令に基づいて、回転電機30のベクトル制御における目標となる電流指令であるd軸電流指令idcomとq軸電流指令iqcomとを算出する。なお、外部充電を行なう場合の電流指令の算出形態については、後に詳説する。三相/二相変換部82には、回転電機30におけるU相コイル30u、V相コイル30v、W相コイル30wの現在の電流である三相電流iu,iv,iwが供給される。また、第1電源12の第1電源電圧VB1、第2電源14の第2電源電圧VB2、回転電機30のロータ回転角θも三相/二相変換部82に供給される。そして、三相/二相変換部82は、各相電流iu,iv,iwを、d軸電流idとq軸電流iqとに変換する。電流指令生成部80からのd軸電流指令idcom及びq軸電流指令iqcomと、三相/二相変換部82からの現在のd軸電流id及びq軸電流iqとは、PI制御部84に供給される。PI制御部84は、P(比例)制御、I(積分)制御等のフィードバック制御により、回転電機30に対する電圧指令である電圧ベクトルVを算出する。電圧ベクトルVは、d軸電圧指令vdとq軸電圧指令vqとを含む。なお、予測制御等のフィードフォワード制御を組み合わせてもよい。
算出された電圧ベクトルVは、分配部86に供給される。分配部86は、電圧ベクトルVを、第1インバータ20用の電圧ベクトルV1と、第2インバータ22用の電圧ベクトルV2とに分配する。電圧ベクトルV1は、第1インバータ20に対するd軸電圧指令vd1とq軸電圧指令vq1とを含み、電圧ベクトルV2は、第2インバータ22に対するd軸電圧指令vd2とq軸電圧指令vq2とを含む。
分配部86の電圧ベクトルの分配において、回転電機30に対する電圧ベクトルVを維持しつつ、第1インバータ20用の電圧ベクトルV1及び第2インバータ22用の電圧ベクトルV2のそれぞれの大きさの変更を行うことができる。また、回転電機30に対する電圧ベクトルVを維持しつつ、第1インバータ20用の電圧ベクトルV1及び第2インバータ22用の電圧ベクトルV2のそれぞれの位相の変更を行うことができる。位相の変更として電流ベクトルIの位相との間を調整することで、力率の変更ができる。また、回転電機30に対する電圧ベクトルVを維持しつつ、第1インバータ20用の電圧ベクトルV1及び第2インバータ22用の電圧ベクトルV2のそれぞれの正負の変更を行うことができる。電圧ベクトルの向きにより、力行か回生かは変わるので、回転電機30に対する電圧ベクトルVを維持しつつ、第1インバータ20用の電圧ベクトルV1及び第2インバータ22用の電圧ベクトルV2の間で、力行と回生の分配を行うことが可能である。このように、電圧ベクトルVの分配を通して、回転電機30の動作制御の自由度が向上する。
分配部86からの第1インバータ20用の電圧ベクトルV1を構成するd軸電圧指令vd1とq軸電圧指令vq1は、第1インバータ20用の二相/三相変換部88に供給される。入力されたvd1,vq1は、第1インバータ20用の三相の電圧指令Vu1,Vv1,Vw1に変換されて出力される。同様に、第2インバータ22用の電圧ベクトルV2を構成するd軸電圧指令vd2とq軸電圧指令vq2は、第2インバータ22用の二相/三相変換部90に供給され、第2インバータ22用の三相の電圧指令Vu2,Vv2,Vw2に変換されて出力される。
第1インバータ20用の二相/三相変換部88からの三相の電圧指令Vu1,Vv1,Vw1は第1インバータ制御部74に供給される。第1インバータ制御部74は、PWM用の搬送波である三角波と電圧指令Vu1,Vv1,Vw1の比較によって第1インバータ20における各スイッチング素子56のON/OFF用のスイッチング信号を生成し、これを第1インバータ20に供給する。
同様に、第2インバータ22用の二相/三相変換部90からの三相の電圧指令Vu2,Vv2,Vw2は第2インバータ制御部76に供給される。第2インバータ制御部76は、PWM用の搬送波である三角波と電圧指令Vu2,Vv2,Vw2の比較によって第2インバータ22における各スイッチング素子56のON/OFF用のスイッチング信号を生成し、これを第2インバータ22に供給する。
このようにして、制御装置60からの信号によって、第1インバータ20、第2インバータ22のスイッチングが制御され、所望の電流が回転電機30に供給される。
上記では、d軸電流指令idcom、q軸電流指令iqcom等に基づいてPI演算することで、回転電機30に対する電圧ベクトルVを算出した。そして、これを分配して、第1インバータ20用の電圧ベクトルV1と第2インバータ22用の電圧ベクトルV2を算出した。これに代えて、PI演算を行なわずに、直接的に、第1インバータ20用の電圧ベクトルV1と第2インバータ22用の電圧ベクトルV2を生成してもよい。例えば、外部充電時に第2電源14に供給する電力(充電電力)と、第1インバータ20用の電圧ベクトルV1及び、第2インバータ22用の電圧ベクトルV2との相関関係の関連マップを記憶しておく。第2電源14の充電が指示された場合は、この関連マップを参照して、充電電力に対応する電圧ベクトルV1及び電圧ベクトルV2を読み出してもよい。
上記では、三相電圧指令算出部72は、車両制御部70と別の構成とした。これに代えて、車両制御部70が三相電圧指令算出部72の機能を実行してもよい。あるいは、三相電圧指令算出部72を下位のマイクロプロセッサ等で構成してもよい。三相電圧指令算出部72の一部または全部をハードウェアで構成してもよい。また、三相電圧指令算出部72を複数のマイクロプロセッサで構成することができ、この場合には、三相電圧指令算出部72の機能を各マイクロプロセッサで分担して実行することができる。あるいは、複数のマイクロプロセッサで構成する場合、各マイクロプロセッサが、三相電圧指令算出部72の全体の処理を実行できるように構成してもよい。また、回転電機制御システム10において第1インバータ20と第2インバータ22の制御を2つのマイクロプロセッサを用いて制御してもよい。この構成によれば、1つのマイクロプロセッサが故障しても他のマイクロプロセッサのみで回転電機30の動作制御が可能となる。
次に、制御装置60における外部電力充電部62と電力充電部64について述べる。最初に、外部電力充電部62について述べ、その後で、電力充電部64について述べる。
外部電力充電部62は、充電器32から外部電力を第1電源12に給電して第1電源12を充電する。さらに、回転電機30を静止させた状態で第1インバータ20及び第2インバータ22の動作を制御し、第1電源12に供給された電力を、第1インバータ20、回転電機30、及び第2インバータ22を介して第2電源14に送電して第2電源14を充電する。
第1電源12の外部充電が上位の制御装置から指示された場合には、三相電圧指令算出部72は、第1インバータ20及び第2インバータ22の双方をシャットダウン(全アームオフ)したうえで、充電器32と第1電源12の間に介在するリレーをオンする。これにより、充電器32から外部電力を第1電源12に給電して第1電源12を充電することができる。
充電器32が接続されていない第2電源14の外部充電が上位の制御装置から指示された場合には、三相電圧指令算出部72は、「シャットダウン方式」または「回生方式」を用いて、第1電源12または充電器32からの電力を第2電源14に送電する。最初にシャットダウン方式による外部充電を述べ、その後に、回生方式による外部充電を述べる。
シャットダウン方式による第2電源14の外部充電は、第2インバータ22の全アームをオフにしたシャットダウン状態にして行われる。そして、第1インバータ20は、回転電機30の電流指令としてq軸電流指令iqcomをゼロ、d軸電流指令idcomを一定値(ゼロ以外)とする力行駆動状態にして行われる。トルク電流であるq軸電流指令iqcomがゼロとなることで、回転電機30の出力トルクもゼロとなり、回転電機30は、静止した状態を維持する。また、第1インバータ20からの電流は、回転電機30のU相コイル30u、V相コイル30v、W相コイル30wを経た後、第2インバータ22の整流素子58である逆流ダイオードを介して第2電源14へ流れる。これにより、第2電源14に送電が行われ、第2電源14が充電される。なお、このシャットダウン方式の外部充電は、電力供給側(第1電源12または充電器32)の電位が、受電側(第2電源14)の電位よりも高くなければならない。
図2を参照して、シャットダウン方式での外部充電の制御の流れをより具体的に説明する。電流指令生成部80は、車両制御部70から第2電源14の外部充電を指示されると、回転電機30の電流指令として、d軸電流指令idcom=Ia、q軸電流指令iqcom=0を出力する(なお、Ia≠0)。なお、d軸電流指令idcomの値Iaは、第2電源14の状態(例えば許容できる最大入力電力値、SOC等)や、外部電力(外部電力装置の最大出力電力値等)の状態等に応じて設定される。
電流指令生成部80から電流指令が出力されると、PI制御部84は、通常の制御と同様に、回転電機30に対する電圧指令である電圧ベクトルVを算出する。分配部86は、電圧ベクトルVを第1インバータ20用の電圧ベクトルV1と第2インバータ22用の電圧ベクトルV2に分配する。ここで、第2インバータ22については全アームをオフしてシャットダウンするため、回転電機30に対する電圧ベクトルVは、第1インバータ20用の電圧ベクトルV1に100%を、第2インバータ22用の電圧ベクトルV2に0%を分配する。分配部86は、100%に分配された電圧ベクトルV1を第1インバータ20用の二相/三相変換部88に出力し、シャットダウンとして0%に分配された電圧ベクトルV2を第2インバータ22用の二相/三相変換部90に出力する。
第1インバータ20用の二相/三相変換部88は、100%に分配された電圧ベクトルV1に応じた電圧指令Vu1,Vv1,Vw1を出力し、第1インバータ制御部74は、この電圧指令に応じたスイッチング信号を生成し、第1インバータ20を駆動させる。第2インバータ22用の二相/三相変換部90は、0%に分配された電圧ベクトルV2に対応して、電圧指令Vu2=Vv2=Vw2=0を出力する。電圧指令Vu2=Vv2=Vw2=0を受け取った第2インバータ制御部76は、第2インバータ22の全アームをオフにして、第2インバータ22をシャットダウンさせる。
上記制御においては、電流指令は、q軸電流指令iqcom=0、d軸電流指令idcom=Iaであるので、回転電機30の発生トルクはゼロとなり、回転電機30の回転数もゼロとなり、回転電機30は静止状態である。回転電機30が静止状態であるので、回転電機30のU相コイル30u、V相コイル30v、W相コイル30wのそれぞれに流れる電流iu,iv,iwは直流となる。第1インバータ20は、iqcom=0、idcom=Iaを満たすように駆動されることで、出力電力が正の値の力行状態(エネルギー消費状態)となる。一方、第2インバータ22は、整流素子58を通じて電流が流れ込むため、出力電力が負の値の回生状態(エネルギー回収状態)となるので、第2電源14が充電される。
次に、回生方式での外部充電方法を述べる。回生方式で第2電源14を外部充電する場合には、回転電機30の電流指令としてq軸電流指令iqcomをゼロ、d軸電流指令idcomを一定値(ゼロ以外)になるように、第1インバータ20を力行駆動し、第2インバータ22を回生駆動する。トルク電流であるq軸電流指令iqcomがゼロとなることで、回転電機30の出力トルクもゼロとなり、回転電機30は、静止した状態を維持する。その状態で、分配部86は、第1インバータ20用の電圧ベクトルV1を正の値の力行状態とし、第2インバータ22用の電圧ベクトルV2を負の値の回生状態として、V1とV2の合成ベクトルが回転電機30に対する電圧ベクトルVと等しくなるように分配する。第2インバータ22用の電圧ベクトルV2を負の値の回生状態(エネルギー回収状態)とすることで、第2電源14が充電される。
図2を参照して、回生方式で第2電源14を外部充電する際の制御の流れをより具体的に説明する。電流指令生成部80は、車両制御部70から第2電源14の外部充電が指示されると、回転電機30の電流指令として、d軸電流指令idcom=Ia、q軸電流指令iqcom=0を出力する(なお、Ia≠0)。
電流指令生成部80から電流指令が出力されると、PI制御部84は、通常の制御と同様に、回転電機30に対する電圧ベクトルVを算出する。分配部86は、電圧ベクトルVを第1インバータ20用の電圧ベクトルV1と第2インバータ22用の電圧ベクトルV2に分配する。分配部86は、第1インバータ20用の電圧ベクトルV1を正の値の力行状態とし、第2インバータ22用の電圧ベクトルV2を負の値の回生状態として、V1とV2の合成ベクトルが回転電機30に対する電圧ベクトルVと等しくなるように分配する。分配部86は、この分配結果に応じた第1インバータ20用の電圧ベクトルV1を第1インバータ20用の二相/三相変換部88に出力し、第2インバータ22用の電圧ベクトルV2を第2インバータ22用の二相/三相変換部90に出力する。
第1インバータ20用の二相/三相変換部88は、正の値に分配された電圧ベクトルV1に応じた電圧指令Vu1,Vv1,Vw1を出力し、第1インバータ制御部74は、この電圧指令に応じたスイッチング信号を生成し、第1インバータ20を力行駆動させる。第2インバータ22用の二相/三相変換部90は、負の値に分配された電圧ベクトルV2に応じた電圧指令Vu2,Vv2,Vw2を出力し、第2インバータ制御部76は、この電圧指令に応じたスイッチング信号を生成し、第2インバータ20を回生駆動させる。
回生方式の外部充電では、電流ベクトルIは、q軸成分(q軸電流)がゼロであり、d軸成分(d軸電流)が一定値となる。また、回転電機30に対する電圧ベクトルVは、q軸成分(q軸電圧)が、ゼロであり、d軸成分(d軸電圧)が、一定値となる。そして、第1インバータ20用の電圧ベクトルV1の位相は電圧ベクトルVと同一位相とし、且つ、第1インバータ20用の電圧ベクトルV1の大きさは、回転電機30に対する電圧ベクトルVよりも大きくする。第2インバータ22用の電圧ベクトルV2は、第1インバータ20用の電圧ベクトルV1の位相と180度反転する。また、第2インバータ22用の電圧ベクトルV2の大きさは、第1インバータ20用の電圧ベクトルV1の大きさから、回転電機30に対する電圧ベクトルVの大きさを引いた値とする。これにより、第1インバータ20は、力行状態(エネルギー消費状態)となり、第2インバータ22は、回生状態(エネルギー回収状態)となり、第2電源14が充電される。なお、この回生方式の場合、電力供給側(第1電源12または充電器32)の電位が、受電側(第2電源14)の電位よりも低くても、充電が可能となる。
シャットダウン方式及び回生方式のいずれで充電するかは、状況に応じて、適宜、切り替えてよい。例えば、シャットダウン方式を採用した方が、制御が容易であり、スイッチングロスを低減できるため、送電側(第1電源12または充電器32)の電位が、受電側(第2電源14)の電位より高い場合には、原則、シャットダウン方式で充電することが好ましい。
上記で述べた構成は、一例であり、回転電機30を静止させた状態で、第1インバータ20からの電力を、第2インバータ22を経て、第2電源14に送るのであれば、その他の構成は、適宜、変更されてもよい。例えば、上記では、回転電機30を静止させるために、q軸電流iqをゼロとしているが、q軸電流iqは、回転電機30の静止トルク未満であれば、ゼロより大きくてもよい。また、q軸電流iqを制御するのではなく、回転電機30を、機械的なブレーキで静止させてもよい。
以上で、制御装置60における外部電力充電部62の説明が終了したので、次に、電力充電部64について述べる。
図3は、外部電力充電部62による外部電力による充電において、第2電源14に送電される電力の流れを示す図である。第1電源12側に充電器32が設けられる構成において、充電器32から、あるいは第1電源12から、電力を送電して第2電源14を充電する場合には、送電経路100に第1インバータ20と、回転電機30、及び第2インバータ22が存在する。外部電力充電部62においてシャットダウン方式を用いる場合も回生方式を用いる場合も回転電機30は静止状態であるので、U相コイル30u、V相コイル30v、W相コイル30wのそれぞれに流れる電流iu,iv,iwは直流となる。したがって、U相コイル30u、V相コイル30v、W相コイル30wは抵抗素子として作用する。また、外部電力充電部62においてシャットダウン方式を用いる場合も回生方式を用いる場合も、第1インバータ20は力行状態で、エネルギー消費状態である。したがって、送電経路100に電力を送電する場合に損失が発生し、充電器32に接続された第1電源12への充電の効率に比べて、充電器32から離れた第2電源14への充電の効率が低下する。電力充電部64は、外部充電における送電経路100に起因する充電効率の低下を補って、第2電源14の充電効率を向上させるために、回転電機30が回生状態等にある場合に、電力を第2電源14の充電に積極的に優先的に充当する処理を行う。
図4は、回転電機30が回生状態等の場合に、回生電力等による充電について電力充電部64が実行する手順を示すフローチャートである。最初に、回転電機30が回生状態か否かが判定される(S10)。S10の回生状態は、外部充電における回生方式の回生状態と異なり、車両が走行中の回生状態を示し、回転電機30がエンジンによって発電されている状態あるいは車両が制動状態で回転電機30が発電機として回転している状態をいう。回生電力等とは、回生状態の他に、力行状態でも充電が可能であるため、外部充電と区別して回転電機30の電力であることを示すためである。S10の判定が否定される場合は、回生電力等による充電は行われない(S18)。
S10の判定が肯定される場合は、次に、第2電源14のSOC2がこれ以上充電できない上限値であるSOCUL以上か否かが判定される(S12)。SOCULは、第2電源14が過充電状態となる場合のSOCで、第2電源14の仕様、充放電履歴等で定まる。以下では、第1電源12と第2電源14は、仕様と充放電履歴が同じとして、同じSOCULを有するものとするが、場合によって、第1電源12のSOCULと第2電源14のSOCULを異なるものとしてよい。S12の判定が肯定される場合は、次に、第1電源14のSOC1が、これ以上充電できない上限値であるSOCUL以上か否かかが判定される(S14)。S14の判定が肯定される場合は、第1電源12も第2電源14もこれ以上充電できない状態であるので、回生電力等による充電が不可能な状態である(S20)。S14の判定が否定される場合は、第2電源14の充電は不可能であるが、第1電源12の充電が可能であるので、回生電力等は第1電源12の充電に優先的に充当される(S22)。
S12の判定が否定される場合は、第2電源14が充電可能な状態であるが、第1電源12も充電可能な状態であり得る。そこで、回生電力等の回転電機30の電力の充当の優先順位を定めるために、第1電源12のSOC1が、充電を必要とする下限値であるSOCLL以下か否かかが判定される(S16)。SOCLLは、第1電源12が過放電状態となる場合のSOCで、第1電源12の仕様、充放電履歴等で定まる。S16が肯定される場合には、充電を必要とする第1電源12の充電に回生電力等が優先的に充当される(S24)。S16が否定される場合には、充電可能な状態である第2電源14の充電に回生電力等が優先的に充当される(S26)。
図5は、回転電機30が回生状態にある場合に、回転電機30の回生電力が第2電源14に向かって流れる送電経路102を示す図である。このように、電力充電部64は、回転電機30が回生状態にあって、第2電源14のSOC2が充電可能な範囲であり、且つ、第1電源12のSOC1が充電を必要とするまでは低下していない場合に、回生電力を第2電源14の充電に優先的に充当する。外部充電において、充電器32が接続されない第2電源14への送電経路100に電力を送電する場合に損失が発生し、第2電源14の充電効率が低下するが、回転電機30が車両走行中の回生状態等にある場合に電力を第2電源14の充電に積極的に回して補う。これにより、外部電源に対し非接続側に配置される第2電源14の充電効率が向上する。
上記構成の作用効果について、従来技術等と比較してさらに説明する。図6は、従来技術の回転電機制御システム104の構成図である。回転電機制御システム104は、1つの第1電源12、電圧変換器106、1つの第1インバータ20、回転電機30で構成される回転電機駆動システムにおいて、第1電源12に充電器32を接続し、充電口33を用いて外部充電する。ここでは、電源は第1電源12の1つであるので、1つの充電器32を設けることで、外部充電が可能で、図3で述べた充電効率の低下の課題が生じない。これに対し、図1、図2の回転電機制御システム10においては、第1電源12と第2電源14の2つの電源、及び、第1インバータ20と第2インバータ22の2つのインバータを備え、三相電圧指令算出部72に分配部86を有する。分配部86は、回転電機30に対する電圧ベクトルVを第1インバータ20用の電圧ベクトルV1と第2インバータ22用の電圧ベクトルV2に分配でき、この分配を通して、回転電機30の動作制御の自由度が、図6の構成よりも格段に向上させることができる。
図7は、比較例として、図1の回転電機制御システム10において、第1電源12に充電器32aを接続するとともに、さらに、第2電源14に充電器32bを接続した回転電機制御システム108を示す図である。充電器32aは第1電源12を外部充電でき、充電器32bは第2電源14を外部充電できるので、図3で述べた送電経路100が生じず、第2電源14の充電効率が低下することもない。回転電機制御システム108において、第1電源12を外部充電する場合は、外部電源の充電プラグを充電器32aの充電口33aに挿入する。第2電源14を外部充電する場合は、外部電源の充電プラグを充電器32bの充電口33bに挿入する。外部電源の充電プラグが1つである場合には、例えば第1電源12を充電した後に、充電口33aに挿し込まれた充電プラグを、第2電源14用の充電口33bに挿し替える必要がある。充電プラグの挿し替えは、手間が掛り、特に、自宅等で夜間に充電する場合に挿し替えが困難で、利便性がよくない。また、車両に2つの充電口33a,33b、及び2つの充電器32a,32bを設けることでコストアップになる。
これに対し、図1、図2の回転電機制御システム10においては、充電器32は1つで済み、コスト増がなく、充電プラグの挿し替えもなく、利便性がよい。また、外部充電における第2電源14の充電効率の低下は、制御装置60の電力充電部64の作用によって、回転電機30が回生状態等の場合の電力を第2電源14の充電に優先的、積極的に回すことで補えるので、充電効率の向上を図ることができる。