JP2020015049A - 合金の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】生産効率を低下させることなくフレッケル偏析の生成を抑制すること。【解決手段】まず、合金の液相密度差Δρ(=ρ0−ρ0.35)と、フレッケル偏析生成の臨界値α(=V×R1.1)との関係を表す予測式を、Δρ≧0である場合とΔρ<0である場合に分けて、それぞれ、予め取得しておく。次に、製造しようとする合金(X)の液相密度差ΔρXを算出する。次に、算出されたΔρXを予測式に代入し、合金(X)のフレッケル偏析生成の臨界値αXを算出する。次に、特定の溶解・鋳造装置を用いて、特定の溶解・鋳造条件(Y)下において合金(X)を製造したと仮定した時の冷却指数βY(=VY×RY1.1)をシミュレーションにより算出し、βY≧αXとなる溶解・鋳造条件(Y)を見出す。さらに、当該溶解・鋳造装置を用いて、βY≧αXとなる溶解・鋳造条件(Y)下で合金(X)を製造する。【選択図】図4

Description

本発明は、合金の製造方法に関し、さらに詳しくは、Ni基合金などの合金の生産効率を低下させることなくフレッケル偏析の生成を抑制することが可能な合金の製造方法に関する。
「Ni基合金(又は、Ni基超合金)」とは、Niを主成分とし、Al、Ti、W、Mo、Ta、Cr等を添加することにより固溶強化及び/又は析出強化させた合金をいう。Ni基合金は、高温強度、耐食性、耐酸化性等に優れていることから、航空機用ジェットエンジンや発電用ガスタービンの動翼や静翼、ターボチャージャー用タービンなどに賞用されている。そのため、このようなNi基合金に関し、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、
(A)0.001<C<0.100mass%、11.0≦Cr<19.0mass%、0.5≦Co<22.0mass%、0.5≦Fe<10.0mass%、Si≦0.1mass%、2.0<Mo<5.0mass%、1.0<W<5.0mass%、2.5≦Mo+1/2W<5.5mass%、S≦0.010mass%、0.3≦Nb<2.0mass%、3.0<Al<6.5mass%、及び、0.2≦Ti<2.49mass%を含み、残部がNi及び不可避的不純物からなり、
(B)元素Mの原子%を[M]とすると、0.2≦[Ti]/[Al]×10<4.0、及び、8.5≦[Al]+[Ti]+[Nb]<13.0を満たす
熱間鍛造用のNi基超合金が開示されている。
同文献には、Ti量を少なくしてAl量を多くすると、熱間鍛造加工性と高温強度特性との両立が可能となる点が記載されている。
また、特許文献2には、
(A)0.001<C<0.100mass%、11≦Cr<19mass%、5<Co<25mass%、0.1≦Fe<4.0mass%、2.0<Mo<5.0mass%、1.0<W<5.0mass%、2.0≦Nb<4.0mass%、3.0<Al<5.0mass%、及び、1.0<Ti<3.0mass%を含み、残部がNi及び不可避的不純物からなり、
(B)元素Mの原子%を[M]とすると、3.5≦([Ti]+[Nb])/[Al]×10<6.5、及び、9.5≦[Al]+[Ti]+[Nb]<13.0を満たす
熱間鍛造用のNi基超合金が開示されている。
同文献には、Al、Ti、及びNbの含有量を最適化すると、γ'相の固溶温度を低下させることができることができ、これによって低温での熱間鍛造が可能となる点が記載されている。
また、特許文献3には、
(A)0.001<C<0.100mass%、11≦Cr<19mass%、5<Co<25mass%、0.1≦Fe<4.0mass%、2.0<Mo<5.0mass%、1.0<W<5.0mass%、0.3≦Nb<4.0mass%、3.0<Al<5.0mass%、1.0<Ti<3.4mass%、及び、0.01≦Ta<2.0mass%を含み、残部がNi及び不可避的不純物からなり、
(B)元素Mの原子%を[M]とすると、3.5≦([Ti]+[Nb])/[Al]×10<6.5、及び、9.5≦[Al]+[Ti]+[Nb]<13.0を満たす
熱間鍛造用のNi基超合金が開示されている。
同文献には、Al、Ti、及びNbの含有量を最適化すると、γ'相の固溶温度を低下させることができることができ、これによって低温での熱間鍛造が可能となる点が記載されている。
さらに、非特許文献1には、横型一方向凝固試験炉を用いたストリーク状偏析(フレッケル偏析)の再現試験の結果が開示されている。
同文献には、
(a)偏析ストリークは、凝固方向ベクトルと、母液相との比重差を駆動力とした濃化液相の移動方向ベクトルとの和の方向に成長する点、
(b)Ni基超合金は、添加される成分に応じて、偏析ストリークが凝固前面から上方に伸びる浮上型と、凝固前面から下方に伸びる沈降型に分類される点、及び、
(c)ε×R1.1値(ε:冷却速度、R:凝固速度)を偏析生成の臨界値とする方法で、Ni基超合金のストリーク偏析傾向を整理することができる点、
が記載されている。
Ni基合金は、多量の合金元素を含むため、凝固時に徐冷されるとフレッケルと呼ばれるマクロ偏析が発生しやすい。そのため、Ni基合金の製造には、一般に、エレクトロスラグ再溶解(ESR)法や真空アーク再溶解(VAR)法などの偏析の出にくい製造方法が採用されている。しかし、Ni基合金の製造方法としてESR法やVAR法を採用した場合であっても、鋳塊のサイズが大きくなるほど、凝固時にフレッケル偏析が発生しやすくなるという問題がある。さらに、このような問題は、Ni基合金だけでなく、他の合金でも起こりうる。
一方、ESR法やVAR法を用いる場合において、消耗電極の溶解速度を遅くすると、溶湯の冷却速度が速くなる。その結果、フレッケル偏析を抑制することができる。しかしながら、この方法では、凝固速度が極端に遅くなり、高い生産効率は得られない。
さらに、フレッケル偏析が生成する臨界値は、合金組成によって異なる。そのため、フレッケル偏析が発生せず、かつ、高い生産効率が得られる製造条件を選定するためには、各合金組成毎に一方向凝固試験を実施し、臨界値を実験により求める必要があった。しかしながら、このような方法は、極めて煩雑である。
特開2015−129341号公報 特開2017−145479号公報 特開2017−145478号公報
鉄と鋼、Vol.95(2009)、No.8、P613
本発明が解決しようとする課題は、合金を溶解・鋳造する場合において、生産効率を低下させることなくフレッケル偏析の生成を抑制することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、Ni基合金を溶解・鋳造する場合において、生産効率を低下させることなくフレッケル偏析の生成を抑制することにある。
上記課題を解決するために本発明に係る合金の製造方法は、
合金の液相密度差Δρ(=ρ0−ρ0.35)と、フレッケル偏析生成の臨界値α(=V×R1.1)との関係を表す予測式を、Δρ≧0である場合(浮上型)とΔρ<0である場合(沈降型)に分けて、それぞれ、予め取得しておく予測式取得工程と、
製造しようとする合金(X)の組成に基づいて、前記合金(X)の液相密度差ΔρXを算出するΔρ算出工程と、
算出された前記ΔρXを前記予測式に代入し、前記合金(X)のフレッケル偏析生成の臨界値αXを算出する臨界値算出工程と、
特定の溶解・鋳造装置を用いて、特定の溶解・鋳造条件(Y)下において前記合金(X)を製造したと仮定した時の冷却指数βY(=VY×RY 1.1)をシミュレーションにより算出し、βY≧αXとなる前記溶解・鋳造条件(Y)を見出す製造条件選定工程と、
前記溶解・鋳造装置を用いて、βY≧αXとなる前記溶解・鋳造条件(Y)下で前記合金(X)を製造する溶解・鋳造工程と
を備えていることを要旨とする。
但し、
ρ0は、前記合金の母液相(固相率:ゼロ)の密度(g/cm3)、
ρ0.35は、前記合金の濃化液相(固相率:0.35)の密度(g/cm3)、
Vは、前記合金が凝固する時の冷却速度(℃/nin)、
Rは、前記合金が凝固する時の凝固速度(mm/min)、
Yは、前記溶解・鋳造装置を用いて、前記溶解・鋳造条件(Y)下において前記合金(X)を製造した時の冷却速度(℃/min)、
Yは、前記溶解・鋳造装置を用いて、前記溶解・鋳造条件(Y)下において前記合金(X)を製造した時の凝固速度(mm/min)。
Ni基合金などの合金をゆっくりと凝固させると、凝固の進行に伴い溶質が所定の比率で固相と液相に分配される。その結果、凝固中に、母液相とは密度が異なる濃化液相が生成する。フレッケル偏析は、母液相と濃化液相との間の液相密度差Δρを駆動力として成長すると考えられている。また、凝固時の冷却条件(V:冷却速度、R:凝固速度)がフレッケル偏析の臨界値α(=V×R1.1)を下回ると、フレッケル偏析が生成しやすいことが知られている。さらに、フレッケル偏析生成の臨界値α(=V×R1.1)とΔρとの間には相関があることも知られている。しかし、このΔρとαとの間の相関が、合金が浮上型(Δρ≧0)であるか、あるいは、沈降型(Δρ<0)であるかによって大きく異なることは知られていなかった。
これに対し、Δρとαとの関係を表す予測式をΔρ≧0である場合とΔρ<0である場合に分けて、それぞれ、予め取得しておくと、実際に製造しようとする合金(X)のフレッケル偏析生成の臨界値αXを正確に予測することができる。
次に、合金(X)を製造するための溶解・鋳造装置が決まると、ある溶解・鋳造条件(Y)下で合金(X)を製造した時の冷却指数βY(=VY×RY 1.1)を推定することができる。そのため、当該溶解・鋳造装置を用いて合金(X)を製造する場合において、βY≧αXとなり、かつ、凝固速度RYが最大である溶解・鋳造条件(Y)を選定すれば、生産効率を低下させることなくフレッケル偏析の生成を抑制することができる。
真空アーク再溶解(VAR)法を用いて、通常の条件下で製造されたNi基合金の鋳造組織の模式図(左図)、及び顕微鏡写真(右図)である。 一方向凝固試験装置の概略図である。 一方向凝固試験後のマクロ評価結果(上図:観察面の写真、下図:観察面の模式図)の一例である。 液相密度差Δρとフレッケル偏析生成の臨界値α(=V×R1.1)との関係を示す図である。
真空アーク再溶解(VAR)法を用いて製造されたNi基合金の断面写真(図5(A):溶解速度=180kg/hr、図5(B):溶解速度=216kg/hr)である。 図6(A)〜図6(F)は、それぞれ、液相密度差Δρに及ぼすC、Cr、Co、Fe、Mo、又はWの含有量の差Δxの影響を示す図である。 図7(A)〜図7(D)は、それぞれ、液相密度差Δρに及ぼすNb、Ti、Zr、又はAlの含有量の差Δxの影響を示す図である。
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 適用合金]
本発明は、凝固時にフレッケル偏析が生じうるあらゆる合金に対して適用することができる。本発明が適用される合金としては、例えば、
(a)Ni基合金(又は、Ni基超合金)、
(b)CrMo鋼、CrMoV鋼、
(c)Co基合金、
などがある。
合金は、特にNi基合金が好ましい。Niは、種々の元素を固溶しやすい性質、及び強化層を析出する性質があることから、多数元素を混ぜて固溶強化、析出強化をしている。また、フレッケル偏析は、液相密度差で生じるため、多量の合金元素を含むNi基合金で発生しやすく、特に冷却が遅い大型品に起こりやすい。そのため、Ni基合金に対して本発明を適用すると、高い効果が得られる。
[2. Ni基合金]
[2.1. 定義]
「Ni基合金(又は、Ni基超合金)」とは、Niを主成分とし、Al、Ti、W、Mo、Ta、Cr等を添加することにより固溶強化及び/又は析出強化させた合金をいう。
「Niを主成分とする」とは、Ni含有量が20mass%以上であることをいう。
Ni基合金としては、例えば、インコネル(登録商標)、ハステロイ(登録商標)、インコロイ(登録商標)、モネル(登録商標)、インバー(登録商標)などがある。本発明は、いずれのNi基合金に対しても適用することができる。
[2.2. 具体例]
本発明が適用される合金は、特に、
0.001≦C≦0.1mass%、
11.0≦Cr≦23.0mass%、
0.5≦Co≦22.0mass%、
0.5≦Fe≦37.0mass%、
2.0≦Mo≦18.5mass%、
0.3≦Nb≦5.5mass%、
0.1≦Al≦6.5mass%、及び、
0.2≦Ti≦3.7mass%
を含み、残部がNi及び不可避的不純物からなるNi基合金が好ましい。
Ni基合金は、さらに、
1.0≦W≦5.0mass%
をさらに含んでいても良い。
[2.2.1. 主構成元素]
Ni基合金は、以下のような元素を含み、残部がNi及び不可避的不純物からなる。添加元素の種類、その成分範囲、及び、その限定理由は、以下の通りである。
(1)0.001≦C≦0.1mass%:
Cは、Cr、Nb、Ti、W、Mo等と結合し、種々の炭化物を生成する。炭化物のうち固溶温度の高いもの(Nb系及びTi系炭化物)は、ピンニング効果によって高温下での結晶粒の粗大化を抑制し、熱間加工性の改善に寄与する。また、Cr系、Mo系、及びW系の炭化物は、粒界に析出して粒界強化することで、機械特性の改善に寄与する。このような効果を得るためには、C含有量は、0.001mass%以上が好ましい。C含有量は、好ましくは、0.004mass%以上、さらに好ましくは、0.02mass%以上である。
一方、C含有量が過剰になると、炭化物量が過剰となる。その結果、炭化物の偏析による組織の不均一化、粒界炭化物の過剰析出による熱間加工性及び機械特性の低下などを招く。従って、C含有量は、0.1mass%以下が好ましい。C含有量は、好ましくは、0.055mass%以下、さらに好ましくは、0.05mass%以下である。
(2)11.0≦Cr≦23.0mass%:
Crは、Cr23の保護酸化膜を形成し、耐食性及び耐酸化性を向上させるために不可欠な元素である。また、Crは、Cと結合してCr236炭化物を生成し、強度特性の向上に寄与する。このような効果を得るためには、Cr含有量は、11.0mass%以上が好ましい。Cr含有量は、好ましくは、12.0mass%以上、さらに好ましくは、12.3mass%以上である。
一方、Crは、フェライト安定化元素である。そのため、Cr含有量が過剰になると、オーステナイトが不安定化し、脆化相であるσ相やラーベス相の生成が促進される。その結果、熱間加工性、並びに、強度や衝撃値などの機械的特性の低下を招く。従って、Cr含有量は、23.0mass%以下が好ましい。Cr含有量は、好ましくは、22.0mass%以下、さらに好ましくは、20.4mass%以下である。
(3)0.5≦Co≦22.0mass%:
Coは、Ni基合金の母相であるオーステナイト相に固溶して加工性を改善する。また、Coは、γ'相の析出を促進し、引張特性等の高温強度を向上させる。このような効果を得るためには、Co含有量は、0.5mass%以上が好ましい。Co含有量は、好ましくは、1.0mass%以上、さらに好ましくは、12.0mass%以上である。
一方、Coは高価であるため、過剰な添加は高コスト化を招く。従って、Co含有量は、22.0mass%以下が好ましい。Co含有量は、好ましくは、20.0mass%以下、さらに好ましくは、13.5mass%以下である。
(4)0.5≦Fe≦37.0mass%:
Feは、Ni基合金の母相であるオーステナイト相に固溶する。Feは、少量であれば強度特性及び加工性への影響はない。また、Feは、合金製造時の原料に混入することがある成分であり、原料の選択によってはFe含有量が多量となるものの、原料コストの低下に繋がる。このような効果を得るためには、Fe含有量は、0.5mass%以上が好ましい。Fe含有量は、好ましくは、0.95mass%以上、さらに好ましくは、1.0mass%以上である。
一方、Fe含有量が過剰になると、強度が低下する。従って、Fe含有量は、37.0mass%以下が好ましい。Fe含有量は、好ましくは、19.0mass%以下、さらに好ましくは、4.0mass%以下である。
(5)2.0≦Mo≦18.5mass%:
Moは、固溶強化元素であり、Ni基合金の母相であるオーステナイト相に固溶して合金を強化する。また、Moは、Cと結合して炭化物を生成し、粒界を強化して機械強度の向上に寄与する。このような効果を得るためには、Mo含有量は、2.0mass%以上が好ましい。Mo含有量は、好ましくは、3.0mass%以上、さらに好ましくは、4.0mass%以上である。
一方、Mo含有量が過剰になると、有害相であるσ相やラーベス相の生成を促進し、熱間加工性及び機械的特性を低下させる。従って、Mo含有量は、18.5mass%以下が好ましい。Mo含有量は、好ましくは、9.5mass%以下、さらに好ましくは、4.5mass%以下である。
(6)0.3≦Nb≦5.5mass%:
Nbは、Cと結合して比較的固溶温度の高いMC型炭化物を生成させる。そのため、Nbを添加すると、ピンニング効果により固溶化熱処理後の結晶粒の粗大化が抑制され、高温強度特性、及び熱間加工性が改善される。また、Nbは、Tiとともに強化相であるγ'相(Ni3Al)のAlサイトを置換し、Ni3(Al,Ti,Nb)となってγ'相を固溶強化させる。このような効果を得るためには、Nb含有量は、0.3mass%以上が好ましい。Nb含有量は、好ましくは、0.7mass%以上、さらに好ましくは、1.0mass%以上である。
一方、Nb含有量が過剰になると、γ'相の固溶温度が上昇し、熱間加工性が低下する。また、脆化相であるラーベス相が生成し、高温強度の低下を招く。従って、Nb含有量は、5.5mass%以下が好ましい。Nb含有量は、好ましくは、5.1mass%以下、さらに好ましくは、3.6mass%以下である。
(7)0.1≦Al≦6.5mass%:
Alは、強化相であるγ'相(Ni3Al)の生成元素として働き、高温強度特性の改善に特に重要な元素である。また、Alは、γ'相の固溶温度を上昇させるが、NbやTiに比べて固溶温度上昇への影響は小さい。むしろ、Alは、γ'相の固溶温度の上昇を抑えつつ、時効温度域におけるγ'相の析出量を増加させる作用がある。さらに、Alは、Oと結合してAl23からなる保護酸化被膜を形成し、耐食性及び耐酸化性の改善にも有効である。このような効果を得るためには、Al含有量は、0.1mass%以上が好ましい。Al含有量は、好ましくは、0.12mass%以上、さらに好ましくは、0.27mass%以上である。
一方、Al含有量が過剰になると、γ'相の固溶温度が上昇する。また、γ'相の析出量が増加し、熱間加工性が低下するおそれがある。従って、Al含有量は、6.5mass%以下が好ましい。Al含有量は、好ましくは、5.0mass%以下、さらに好ましくは、4.0mass%以下である。
(8)0.2≦Ti≦3.7mass%:
Tiは、Cと結合して比較的固溶温度の高いMC型炭化物を生成させる。そのため、Tiを添加すると、ピンニング効果により固溶化熱処理後の結晶粒の粗大化が抑制され、高温強度特性、及び熱間加工性が改善される。また、Tiは、Nbとともに強化相であるγ'相(Ni3Al)のAlサイトを置換し、Ni3(Al,Ti,Nb)となってγ'相を固溶強化させる。このような効果を得るためには、Ti含有量は、0.2mass%以上が好ましい。Ti含有量は、好ましくは、0.23mass%以上、さらに好ましくは、0.5mass%以上である。
一方、Ti含有量が過剰になると、γ'相の固溶温度が上昇し、熱間加工性が低下する。また、脆化相であるラーベス相が生成し、高温強度の低下を招く。従って、Ti含有量は、3.7mass%以下が好ましい。Ti含有量は、好ましくは、3.2mass%以下、さらに好ましくは、2.5mass%以下である。
[2.2.2. 副構成元素]
Ni基合金は、上述した主構成元素に加えて、以下のような1又は2以上の元素をさらに含んでいても良い。添加元素の種類、その成分範囲、及び、その限定理由は、以下の通りである。
(9)Si≦0.1mass%:
Siを添加すると、Si酸化物のスケール層が形成され、耐酸化性が改善される。しかしながら、Si含有量が過剰になると、Siが偏析することにより局部的な低融点部を生成し、熱間加工性を低下させる。従って、Si含有量は、0.1mass%以下が好ましい。Si含有量は、好ましくは、0.09mass%以下、さらに好ましくは、0.05mass%以下である。
(10)1.0≦W≦5.0mass%:
Wは、固溶強化元素であり、Ni基合金の母相であるオーステナイト相に固溶して合金を強化する。また、Wは、Cと結合して炭化物を生成し、粒界を強化して機械強度の向上に寄与する。このような効果を得るためには、W含有量は、1.0mass%以上が好ましい。W含有量は、好ましくは、2.0mass%以上、さらに好ましくは、2.5mass%以上である。
一方、W含有量が過剰になると、有害相であるσ相やラーベス相の生成を促進し、熱間加工性及び機械的特性を低下させる。従って、W含有量は、5.0mass%以下が好ましい。W含有量は、好ましくは、4.5mass%以下、さらに好ましくは、4.0mass%以下である。
(11)S≦0.01mass%:
Sは、不可避的不純物として微量含まれる成分である。Sが過剰に存在すると、Sが粒界に濃化し、低融点の化合物を形成することで熱間加工性の低下を招く。従って、S含有量は、0.01mass%以下が好ましい。S含有量は、好ましくは、0.005mass%以下、さらに好ましくは、0.001mass%以下である。
(12)0.5≦Ta≦2.0mass%:
Taは、Cと結合して比較的固溶温度の高いMC型炭化物を生成させる。そのため、Taを添加すると、ピンニング効果により固溶化熱処理後の結晶粒の粗大化が抑制され、高温強度特性、及び熱間加工性が改善される。また、Taは、Nb、Tiとともに強化相であるγ'相(Ni3Al)のAlサイトを置換し、Ni3(Al,Ti,Nb,Ta)となってγ'相を固溶強化させる。このような効果を得るためには、Ta含有量は、0.5mass%以上が好ましい。Ta含有量は、好ましくは、0.9mass%以上、さらに好ましくは、1.0mass%以上である。
一方、Ta含有量が過剰になると、γ'相の固溶温度が上昇し、熱間加工性が低下する。また、脆化相であるラーベス相が生成し、高温強度の低下を招く。従って、Ta含有量は、2.0mass%以下が好ましい。Ta含有量は、好ましくは、1.5mass%以下である。
(13)0.005≦B≦0.03mass%:
Bは、結晶粒界に偏析して粒界を強化し、加工性及び機械特性を改善する。このような効果を得るためには、B含有量は、0.005mass%以上が好ましい。B含有量は、好ましくは、0.015mass%以上、さらに好ましくは、0.016mass%以上である。
一方、B含有量が過剰になると、粒界への過剰偏析により延性が失われ、熱間加工性が低下する。従って、B含有量は、0.03mass%以下が好ましい。B含有量は、好ましくは、0.025mass%以下、さらに好ましくは、0.02mass%以下である。
(14)0.03≦Zr≦0.1mass%:
Zrは、結晶粒界に偏析して粒界を強化し、加工性及び機械特性を改善する。このような効果を得るためには、Zr含有量は、0.03mass%以上が好ましい。Zr含有量は、好ましくは、0.045mass%以上である。
一方、Zr含有量が過剰になると、粒界への過剰偏析により延性が失われ、熱間加工性が低下する。従って、Zr含有量は、0.1mass%以下が好ましい。
(15)0.005≦Mg≦0.03mass%:
Mgは、合金の溶製時に脱酸・脱硫剤として添加される場合がある。適量のMgは、合金の熱間加工性の向上に寄与する。このような効果を得るためには、Mg含有量は、0.005mass%以上が好ましい。Mg含有量は、好ましくは、0.01mass%以上である。
一方、Mg含有量が過剰になると、かえって加工性を低下させる。従って、Mg含有量は、0.03mass%以下が好ましい。Mg含有量は、好ましくは、0.025mass%以下、さらに好ましくは、0.02mass%以下である。
(16)0.005≦Ca≦0.03mass%:
Caは、合金の溶製時に脱酸・脱硫剤として添加される場合がある。適量のCaは、合金の熱間加工性の向上に寄与する。このような効果を得るためには、Ca含有量は、0.005mass%以上が好ましい。Ca含有量は、好ましくは、0.01mass%以上である。
一方、Ca含有量が過剰になると、かえって加工性を低下させる。従って、Ca含有量は、0.03mass%以下が好ましい。Ca含有量は、好ましくは、0.025mass%以下、さらに好ましくは、0.02mass%以下である。
(17)0.05≦REM≦0.2mass%:
REMは、熱間加工性及び耐酸化性の向上に有効な元素である。このような効果を得るためには、REM含有量は、0.05mass%以上が好ましい。REM含有量は、好ましくは、0.10mass%以上、さらに好ましくは、0.15mass%以上である。
一方、REM含有量が過剰になると、REMが粒界に濃化することで融点を下げ、かえって熱間加工性の低下を招く。従って、REM含有量は、0.2mass%以下が好ましい。
[3. 合金の製造方法]
本発明に係る合金の製造方法は、予測式取得工程と、Δρ算出工程と、臨界値算出工程と、製造条件選定工程と、溶解・鋳造工程とを備えている。
[3.1. 予測式取得工程]
まず、合金の液相密度差Δρ(=ρ0−ρ0.35)と、フレッケル偏析生成の臨界値α(=V×R1.1)との関係を表す予測式を、Δρ≧0である場合(浮上型)とΔρ<0である場合(沈降型)に分けて、それぞれ、予め取得しておく(予測式取得工程)。
但し、
ρ0は、前記合金の母液相(固相率:ゼロ)の密度(g/cm3)、
ρ0.35は、前記合金の濃化液相(固相率:0.35)の密度(g/cm3)、
Vは、前記合金が凝固する時の冷却速度(℃/nin)、
Rは、前記合金が凝固する時の凝固速度(mm/min)。
合金をゆっくりと凝固させると、鋳壁にデンドライトの核が生成し、デンドライトが鋳型の内部に向かって成長する。この時、溶質が所定の比率で固相と液相に分配される。通常、凝固の進行に伴って固相から溶質が掃き出されるため、液相中の溶質の濃度が上昇する。その結果、凝固中に母液相(固相率:ゼロ)とは密度が異なる濃化液相が生成する場合がある。母液相の密度と濃化液相の密度との差(液相密度差)Δρは、固相率により異なる。本発明において、液相密度差Δρの算出には、固相率が0.35である時の濃化液相の密度ρ0.35を用いる。これは、固相率が0.35の時にΔρが最大となる場合が多いためである。
フレッケル偏析は、母液相と濃化液相との間の液相密度差Δρを駆動力として成長すると考えられている。また、フレッケル偏析生成の臨界値α(=V×R1.1)とΔρとの間には相関があり、凝固時の冷却条件が臨界値αを下回ると、フレッケル偏析が生成しやすいことが知られている。しかしながら、従来は、合金が浮上型(Δρ≧0)であるか、あるいは、沈降型(Δρ<0)であるかを区別することなく、Δρとαとの関係を論ずるのが一般的であった。
これに対し、Δρとαとの間の相関は、合金が浮上型(Δρ≧0)であるか、あるいは、沈降型(Δρ<0)であるかによって大きく異なる。この点は、本願発明者らによって初めて見出された知見である。そのため、本発明においては、Δρとαとの関係を表す予測式を浮上型(Δρ≧0)である場合と沈降型(Δρ<0)である場合に分けて、それぞれ、予め取得しておく。この点が、従来とは異なる。
Δρとαとの関係(予測式)は、一般に、合金の種類により異なる。しかし、類似の組成及び性質を有すると見なすことができる一群の合金については、1組の予測式を用いてαを推定することができる。
ここで、「類似の組成及び性質を有すると見なすことができる一群の合金」とは、
(a)同一の主構成元素を含んでおり、
(b)同一の結晶構造を備えており、
(c)類似の物理的性質及び化学的性質を備えた合金
をいう。
例えば、合金がNi基合金である場合において、Ni基合金が浮上型(Δρ≧0)である時には、前記予測式として次の式(1)を用いるのが好ましい。
また、合金がNi基合金である場合において、Ni基合金が沈降型(Δρ<0)である時には、前記予測式として、次の式(2)を用いるのが好ましい。
V×R1.1=353.42Δρ+4.11 ・・・(1)
V×R1.1=167.64Δρ−0.29 ・・・(2)
なお、「V×R1.1」は、現実にはマイナスの値を取ることはないが、Δρがマイナスの値を取る時には、便宜的にV×R1.1をマイナスの値で表す。
溶質の平衡分配係数は既知であるため、合金組成が決まると、理論計算によりΔρを算出することができる。一方、ある組成を持つ合金の臨界値αは、一方向凝固試験(具体的には、縦型一方向凝固試験が好ましいが、これに限らない)により求めることができる。そのため、
(a)一群の合金の中からΔρが大きく異なる合金組成であって、Δρ≧0であるものとΔρ<0であるものとを、それぞれ、複数個(好ましくは、2個以上)選択し、
(b)選択された合金組成について、それぞれ、凝固試験を行い、
(c)理論計算から求められたΔρと、凝固試験から求められた臨界値α(=V×R1.1)とを、それぞれ、Δρ≧0である場合とΔρ<0である場合に分けて直線回帰する
ことにより、予測式を得ることができる。
[3.2. Δρ算出工程]
次に、製造しようとする合金(X)の組成に基づいて、前記合金(X)の液相密度差ΔρXを算出する(Δρ算出工程)。
上述したように、溶質の平衡分配係数は既知である。そのため、製造しようとする合金(X)の組成が決まると、理論計算により液相密度差ΔρXを算出することができる。
[3.3. 臨界値算出工程]
次に、算出された前記ΔρXを前記予測式に代入し、前記合金(X)のフレッケル偏析生成の臨界値αXを算出する(臨界値算出工程)。
予測式は予め取得されているので、ΔρXを予測式に代入することにより、臨界値αXを容易に算出することができる。
[3.4. 製造条件選定工程]
次に、特定の溶解・鋳造装置を用いて、特定の溶解・鋳造条件(Y)下において前記合金(X)を製造したと仮定した時の冷却指数βY(=VY×RY 1.1)をシミュレーションにより算出し、βY≧αXとなる前記溶解・鋳造条件(Y)を見出す(製造条件選定工程)。
但し、
Yは、前記溶解・鋳造装置を用いて、前記溶解・鋳造条件(Y)下において前記合金(X)を製造した時の冷却速度(℃/min)、
Yは、前記溶解・鋳造装置を用いて、前記溶解・鋳造条件(Y)下において前記合金(X)を製造した時の凝固速度(mm/min)。
溶解・鋳造装置は、一般に、
(a)溶湯を凝固させるための鋳型、
(b)鋳型を冷却するための鋳型冷却装置、
(c)鋳塊外表面と鋳型の内表面との間に熱伝導性の良好なガス(例えば、ヘリウムガス)を供給し、鋳塊を直接、冷却するための鋳塊冷却装置、
(d)所定の温度を有する溶湯を得るための加熱装置、
(e)所定の温度の溶湯を所定の速度で鋳型に供給するための溶湯供給装置、
などを備えている。
溶解・鋳造装置の構成要素の熱定数は既知であるため、溶解・鋳造条件(Y)が決まると、その溶解・鋳造条件(Y)で合金(X)を製造した時の、冷却速度VY及び凝固速度RYをシミュレーションにより求めることができる。
例えば、Ni基合金の溶解・鋳造には、一般に、エレクトロスラグ再溶解(ESR)法や真空アーク再溶解(VAR)法などの偏析の出にくい製造方法が採用されている。
ここで、「ESR法」とは、溶融スラグの電気抵抗熱によって消耗電極を溶解させ、溶融スラグを通過した溶湯を水冷鋳型内で連続的に凝固させる方法をいう。
「VAR法」とは、真空容器内で消耗電極を溶解させ、消耗電極から滴下した溶湯を水冷鋳型内で連続的に凝固させる方法をいう。
VAR法やESR法を用いて溶湯を凝固させる場合、水冷鋳型の冷却能(冷却水の温度、冷却水の流量など)を制御することにより、凝固速度RYや冷却速度VYを制御することもできる。しかし、このような方法は、一般に煩雑である。そのため、VAR法やESR法を用いる場合、消耗電極を溶解させるための投入電力により、凝固速度RY及び冷却速度VYを制御するのが好ましい。
一般に、鋳型の冷却能が同一である場合、消耗電極を溶解させるための投入電力が大きくなるほど、消耗電極の溶解速度が速くなる。そのため、投入電力が大きくなるほど、凝固速度RYは速くなるが、冷却速度VYは遅くなる傾向がある。
特定の溶解・鋳造装置を用いて、種々の溶解・鋳造条件(Y)下において前記合金(X)を製造したと仮定してシミュレーションを行うと、各溶解・鋳造条件(Y)下での冷却指数βY(=VY×RY 1.1)を算出することができる。この時、βY≧αXとなる溶解・鋳造条件(Y)が発見された場合には、そのような溶解・鋳造条件(Y)下で合金(X)を製造すれば、フレッケル偏析が発生する確率は低いと判断することができる。また、βY≧αXとなる溶解・鋳造条件(Y)の中で、凝固速度RYが最大であるものを選択すれば、高い生産効率が得られる。
[3.5. 溶解・鋳造工程]
次に、前記溶解・鋳造装置を用いて、βY≧αXとなる前記溶解・鋳造条件(Y)下で前記合金(X)を製造する(溶解・鋳造工程)。これにより、生産効率を低下させることなくフレッケル偏析の生成を抑制することができる。
[4. 作用]
図1に、真空アーク再溶解(VAR)法を用いて、通常の条件下で製造されたNi基合金の鋳造組織の模式図(左図)、及び顕微鏡写真(右図)を示す。Ni基合金などの合金をエレクトロスラグ再溶解(ESR)法やVAR法を用いて溶製する際、図1に示すように、フレッケルと呼ばれるマクロ偏析が発生することがある。フレッケル偏析は、熱処理や機械的処理を施しても除去できず、割れの起点となる可能性があるため、フレッケル偏析をできるだけ生成させないことが望ましい。しかしながら、特に大型の鋳塊を製造する場合には、フレッケル偏析の生成を抑制するのが難しい。
Ni基合金などの合金をゆっくりと凝固させると、凝固の進行に伴い溶質が所定の比率で固相と液相に分配される。その結果、凝固中に、母液相とは密度が異なる濃化液相が生成する。フレッケル偏析は、母液相と濃化液相との間の液相密度差Δρを駆動力として成長すると考えられている。また、凝固時の冷却条件(V:冷却速度、R:凝固速度)がフレッケル偏析の臨界値α(=V×R1.1)を下回ると、フレッケル偏析が生成しやすいことが知られている。さらに、フレッケル偏析生成の臨界値α(=V×R1.1)とΔρとの間には相関があることも知られている。しかし、このΔρとαとの間の相関が、合金が浮上型(Δρ≧0)であるか、あるいは、沈降型(Δρ<0)であるかによって大きく異なることは知られていなかった。
これに対し、Δρとαとの関係を表す予測式をΔρ≧0である場合とΔρ<0である場合に分けて、それぞれ、予め取得しておくと、実際に製造しようとする合金(X)のフレッケル偏析生成の臨界値αXを正確に予測することができる。
次に、合金(X)を製造するための溶解・鋳造装置が決まると、ある溶解・鋳造条件(Y)下で合金(X)を製造した時の冷却指数βY(=VY×RY 1.1)を推定することができる。そのため、当該溶解・鋳造装置を用いて合金(X)を製造する場合において、βY≧αXとなり、かつ、凝固速度RYが最大である溶解・鋳造条件(Y)を選定すれば、生産効率を低下させることなくフレッケル偏析の生成を抑制することができる。
(実施例1)
[1. 試験方法]
[1.1. 一方向凝固試験]
種々の組成を有するNi基合金に対して、一方向凝固試験を行った。表1に、実験に用いたNi基合金の組成を示す。なお、表1には、後述する液相密度差Δρ、及びフレッケル偏析生成の臨界値α(実測値)も併せて示した。
Figure 2020015049
図2に、一方向凝固試験装置の概略図を示す。図2において、一方向凝固試験装置は、加熱炉と、加熱炉内に設置されたルツボとを備えている。ルツボの左端であってルツボの内側には、冷却水を流すことが可能な水冷プレートが設置され、ルツボの右端であってルツボの外側には発熱体が設置されている。さらに、ルツボ内には、熱電対を挿入した複数個の保護管が水平方向に設置されている。一方向凝固試験の際には、タンディッシュからルツボに溶湯を流し込み、左端を水冷プレートで冷却し、右端を発熱体で加熱しながら、溶湯を水平方向に凝固させた。
凝固終了後、鋳塊の断面観察を行い、フレッケル偏析の発生位置を測定した。図3に、一方向凝固試験後のマクロ評価結果(上図:観察面の写真、下図:観察面の模式図)の一例を示す。図2に示す一方向凝固試験装置では、左端を冷却し、右端を加熱しながら凝固させるため、冷却速度V及び凝固速度Rは、右端(発熱体)に近づくほど遅くなる。凝固時の溶湯(鋳塊)の温度変化と、フレッケル偏析の発生位置から、フレッケル偏析が発生する時の冷却速度V及び凝固速度R(すなわち、臨界値α)を算出した。
[1.2. 液相密度差Δρの算出]
熱物性計算ソフト:JMatPro(登録商標)を用いて、母液相の密度ρ0、及び固相率が0.35である時の濃化液相の密度ρ0.35を算出した。さらに、母液相の密度及び濃化液相の密度から、液相密度差Δρを算出した。
[1.3. 回帰式の算出]
Δρ≧0である場合、及びΔρ<0である場合に分けて、それぞれ、Δρとαとの間の関係式(回帰式)を算出した。
[2. 結果]
図4に、液相密度差Δρとフレッケル偏析生成の臨界値α(=V×R1.1)との関係を示す。図4より、Δρ≧0である場合、及びΔρ<0である場合について、回帰式として、それぞれ、次の式(1)及び式(2)が求められた。
V×R1.1=353.42Δρ+4.11 ・・・(1)
V×R1.1=167.64Δρ−0.29 ・・・(2)
(実施例2、比較例1)
[1. 試験方法]
VAR法を用いて、Ni基合金を製造した。Ni基合金には、表1に示す試料No.9を用いた。また、消耗電極の溶解速度は、180kg/hr(実施例2)、又は216kg/hr(比較例1)とした。表2に、詳細な試験条件を示す。
Figure 2020015049
[2. 結果]
図5に、真空アーク再溶解(VAR)法を用いて製造されたNi基合金の断面写真(図5(A):溶解速度=180kg/hr、図5(B):溶解速度=216kg/hr)を示す。VARにおいては、一般に消耗電極の溶解速度が遅くなるほど、フレッケル偏析は発生し難くなるが、生産性に劣る。従って、フレッケル偏析が発生しない範囲で最も速い溶解速度が最適溶解条件となる。ヘリウムガス冷却を行う場合において、溶解速度が216kg/hrである時にはフレッケル偏析が発生したのに対し、溶解速度が180kg/hrである時にはフレッケル偏析が発生しなかった。従って、溶解速度180kg/hr+ヘリウムガス冷却有りが最適溶解条件といえる。
式(1)より、試料No.9の臨界値α(予測値)は、4.11と求められる。一方、試験に用いたVAR装置の冷却指数βYをシミュレーションにより求めたところ、溶解速度180kg/hr+ヘリウムガス冷却有りの場合では、溶解速度条件の要素及び冷却条件の要素のバランスによりフレッケル偏析が発生しないと予測された。一方、溶解速度216kg/hr+ヘリウムガス冷却有りの場合では、溶解速度条件の要素及び冷却条件の要素とのバランスにて、フレッケル偏析が発生する領域に達しているため、偏析が発生することが予測された。以上の結果から、式(1)を用いて、フレッケル偏析の発生の有無を正確に予測できることがわかった。
図示はしないが、Δρ<0の場合においても式(2)を用いることにより、フレッケル偏析の発生の有無を正確に予測できることがわかった。
(実施例3)
[1. 試験方法]
表1に示す試料No.11の組成をベース組成とした。ベース組成に含まれる一部の元素の含有量を増減させた試料について、理論計算により液相密度差Δρを算出した。さらに、上述した式(1)及び式(2)を用いて、フレッケル偏析の臨界値α(予測値)を算出した。表3に、理論計算に用いた各試料の組成、液相密度差Δρ、及び臨界値α(予測値)を示す。
Figure 2020015049
[2. 結果]
元素(M)の含有量がベース組成からΔx(mass%)だけずれた時に、Δρがどのように変化するかを見積もった。図6(A)〜図6(F)に、それぞれ、液相密度差Δρに及ぼすC、Cr、Co、Fe、Mo、又はWの含有量の差Δxの影響を示す。図7(A)〜図7(D)に、それぞれ、液相密度差Δρに及ぼすNb、Ti、Zr、又はAlの含有量の差Δxの影響を示す。図6及び図7より、以下のことが分かる。
(1)元素(M)の種類によって、Δρに与えるΔxの影響が大きく異なった。元素(M)は、Δxの増加に伴って、Δρが増加するもの、Δρが減少するもの、及びΔρが増減しないものに大別される。
(2)元素(M)の中でも、Al及びMoは、僅かなΔxの変化によって、Δρが大きく変化することが分かった。
(3)元素(M)の中では、Mo、Nb、Tiは、Δxの増加に伴い、Δρは減少することが分かった。
(4)元素(M)の中では、Cr、Co、Fe、Wは、Δxがマイナスの値からゼロの値への変化に伴うΔρの変化量、及びΔxがゼロの値からプラスの値への変化に伴うΔρの変化量が2段階で異なる増減傾向を示すことが分かった。
(5)元素(M)の中では、Alは、Δxの増加に伴い、Δρが増加することが分かった。
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
本発明に係る合金の製造方法は、Ni基合金からなる各種部材(例えば、タービンの動翼や静翼、ターボチャージャーなど)、大型鋼塊品などの製造に用いることができる。

Claims (5)

  1. 合金の液相密度差Δρ(=ρ0−ρ0.35)と、フレッケル偏析生成の臨界値α(=V×R1.1)との関係を表す予測式を、Δρ≧0である場合(浮上型)とΔρ<0である場合(沈降型)に分けて、それぞれ、予め取得しておく予測式取得工程と、
    製造しようとする合金(X)の組成に基づいて、前記合金(X)の液相密度差ΔρXを算出するΔρ算出工程と、
    算出された前記ΔρXを前記予測式に代入し、前記合金(X)のフレッケル偏析生成の臨界値αXを算出する臨界値算出工程と、
    特定の溶解・鋳造装置を用いて、特定の溶解・鋳造条件(Y)下において前記合金(X)を製造したと仮定した時の冷却指数βY(=VY×RY 1.1)をシミュレーションにより算出し、βY≧αXとなる前記溶解・鋳造条件(Y)を見出す製造条件選定工程と、
    前記溶解・鋳造装置を用いて、βY≧αXとなる前記溶解・鋳造条件(Y)下で前記合金(X)を製造する溶解・鋳造工程と
    を備えた合金の製造方法。
    但し、
    ρ0は、前記合金の母液相(固相率:ゼロ)の密度(g/cm3)、
    ρ0.35は、前記合金の濃化液相(固相率:0.35)の密度(g/cm3)、
    Vは、前記合金が凝固する時の冷却速度(℃/nin)、
    Rは、前記合金が凝固する時の凝固速度(mm/min)、
    Yは、前記溶解・鋳造装置を用いて、前記溶解・鋳造条件(Y)下において前記合金(X)を製造した時の冷却速度(℃/min)、
    Yは、前記溶解・鋳造装置を用いて、前記溶解・鋳造条件(Y)下において前記合金(X)を製造した時の凝固速度(mm/min)。
  2. 前記合金は、Ni基合金である請求項1に記載の合金の製造方法。
  3. 前記Ni基合金は、
    0.001≦C≦0.1mass%、
    11.0≦Cr≦23.0mass%、
    0.5≦Co≦22.0mass%、
    0.5≦Fe≦37.0mass%、
    2.0≦Mo≦18.5mass%、
    0.3≦Nb≦5.5mass%、
    0.1≦Al≦6.5mass%、及び、
    0.2≦Ti≦3.7mass%
    を含み、残部がNi及び不可避的不純物からなる
    請求項2に記載の合金の製造方法。
  4. 前記Ni基合金は、
    1.0≦W≦5.0mass%
    をさらに含む請求項3に記載の合金の製造方法。
  5. 前記予測式として、
    Δρ≧0である時には次の式(1)を用い、
    Δρ<0である時には次の式(2)を用いる
    請求項2から4までのいずれか1項に記載の合金の製造方法。
    V×R1.1=353.42Δρ+4.11 ・・・(1)
    V×R1.1=167.64Δρ−0.29 ・・・(2)
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