JP2020010612A - 香味および保存安定性が向上した果実酒およびその製造方法 - Google Patents

香味および保存安定性が向上した果実酒およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】香味および保存安定性が向上した果実酒の提供。【解決手段】1〜100ppbのオークラクトンおよび0.01〜10ppmのエラグ酸を含んでなる、果実酒。【選択図】なし

Description

本発明は、香味および保存安定性が向上した果実酒およびその製造方法に関する。
消費者ニーズの多様化に伴い、これまで多種多様な飲料が開発され、市場に流通している。飲料の香味は、飲料の売れ行きに大きく影響する重要な特性の一つであるだけでなく、他の飲料と差別化し、独自性を出すための重要な特性でもあるため、飲料の開発において検討される事項である。特に、ワイン等の果実酒は、原料である果実に由来する香味を特徴とするものが多いが、製造過程で呈される果実由来の香味だけでは消費者のニーズを十分に満たさない場合や、流通過程での保存状態や保存期間によっては香味が劣化する場合もある。
一方で、飲料にフレーバーを付与するために様々な化合物を使用する技術が開示されている(特許文献1および2)。しかし、果実酒の香味および保存安定性を向上させるという効果に関しては十分なものとはいえず、未だ検討の余地がある。
特表2016−515812号公報 特表2017−528144号公報
本発明者らは、果実酒中のオークラクトンおよびエラグ酸の含有量を特定の数値範囲内に調整することにより、果実酒の香味を向上させるだけでなく、保存安定性をも向上させることを見出した。本発明は、このような知見に基づくものである。
従って、本発明は、香味および保存安定性が向上した果実酒とその製造方法とを提供することを目的とする。
本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)1〜100ppbのオークラクトンおよび0.01〜10ppmのエラグ酸を含んでなる、果実酒。
(2)ワインである、(1)に記載の果実酒。
(3)亜硫酸無添加ワインである、(1)または(2)に記載の果実酒。
(4)総亜硫酸の含有量が0〜350ppmである、(1)〜(3)のいずれかに記載の果実酒。
(5)総亜硫酸の含有量が0〜180ppmである、(1)〜(4)のいずれかに記載の果実酒。
(6)総亜硫酸の含有量が0〜30ppmである、(1)〜(5)のいずれかに記載の果実酒。
(7)果実酒を製造する方法であって、前記果実酒におけるオークラクトンの含有量を1〜100ppb、エラグ酸の含有量を0.01〜10ppmに調整する工程を含んでなる、方法。
(8)果実酒を製造する方法であって、果汁の発酵前、発酵中および発酵後からなる群から選択される少なくとも1つにおいて、前記果汁を含む果汁組成物と、前記果汁組成物に対して0.1g/L〜6g/Lのオークチップとを、−5〜30℃で4時間〜3週間接触させる工程を含んでなる、方法。
(9)前記果汁組成物とオークチップとを接触させる工程が、前記果汁に対して0.25g/L〜1g/Lのオークチップを、8〜20℃で24〜48時間接触させることにより行われる、(8)に記載の方法。
(10)前記果汁がブドウ果汁である、(8)または(9)に記載の方法。
(11)前記オークチップの明度が20〜70である、(8)〜(10)のいずれかに記載の方法。
(12)果実酒の香味を改善する方法であって、前記果実酒におけるオークラクトンの含有量を1〜100ppb、エラグ酸の含有量を0.01〜10ppmに調整する工程を含んでなる、方法。
(13)果実酒の香味の保存安定性を改善する方法であって、前記果実酒におけるオークラクトンの含有量を1〜100ppb、エラグ酸の含有量を0.01〜10ppmに調整する工程を含んでなる、方法。
本発明によれば、果実酒において香味を向上させることができ、また、香味の保存安定性を向上させることも可能となる。
図1−1は、赤ワイン(おいしい酸化防止剤無添加ワイン<厳選素材>赤)の保存安定性に関する香味評価(香り)の結果を示すグラフである。 図1−2−1は、赤ワイン(おいしい酸化防止剤無添加ワイン<厳選素材>赤)の保存安定性に関する香味評価(味)の結果を示すグラフである。 図1−2−2は、赤ワイン(おいしい酸化防止剤無添加ワイン<厳選素材>赤)の保存安定性に関する香味評価(味)の結果を示すグラフである。 図2は、赤ワイン(おいしい酸化防止剤無添加ワイン<厳選素材>赤)の香味評価(香り)の結果を示すグラフである。 図3は、赤ワイン(おいしい酸化防止剤無添加ワイン<厳選素材>赤)の香味評価(味)の結果を示すグラフである。 図4は、赤ワイン(おいしい酸化防止剤無添加ワイン<厳選素材>赤)の保存安定性に関する総合的な香味評価の結果を示すグラフである。 図5は、赤ワイン(おいしい酸化防止剤無添加ワイン<厳選素材>赤)の保存安定性に関する項目ごとの香味評価(香り)の結果を示すグラフである。 図6−1は、赤ワイン(おいしい酸化防止剤無添加ワイン<厳選素材>赤)の保存安定性に関する項目ごとの香味評価(味)の結果を示すグラフである。 図6−2は、赤ワイン(おいしい酸化防止剤無添加ワイン<厳選素材>赤)の保存安定性に関する項目ごとの香味評価(味)の結果を示すグラフである。 図7は、赤ワイン(ビストロ<濃い赤>)の香味評価(香り)の結果を示すグラフである。 図8は、赤ワイン(ビストロ<濃い赤>)の香味評価(味)の結果を示すグラフである。 図9は、赤ワイン(ビストロ<濃い赤>)の保存安定性に関する項目ごとの香味評価(香り)の結果を示すグラフである。 図10−1は、赤ワイン(ビストロ<濃い赤>)の保存安定性に関する項目ごとの香味評価(味)の結果を示すグラフである。 図10−2は、赤ワイン(ビストロ<濃い赤>)の保存安定性に関する項目ごとの香味評価(味)の結果を示すグラフである。 図11は、白ワイン(おいしい酸化防止剤無添加ワイン<厳選素材>白)香味評価(香り)の結果を示すグラフである。 図12は、白ワイン(おいしい酸化防止剤無添加ワイン<厳選素材>白)香味評価(味)の結果を示すグラフである。 図13は、白ワイン(おいしい酸化防止剤無添加ワイン<厳選素材>白)の保存安定性に関する総合的な香味評価の結果を示すグラフである。 図14は、白ワイン(おいしい酸化防止剤無添加ワイン<厳選素材>白)の保存安定性に関する項目ごとの香味評価(香り)の結果を示すグラフである。 図15−1は、白ワイン(おいしい酸化防止剤無添加ワイン<厳選素材>白)の保存安定性に関する項目ごとの香味評価(味)の結果を示すグラフである。 図15−2は、白ワイン(おいしい酸化防止剤無添加ワイン<厳選素材>白)の保存安定性に関する項目ごとの香味評価(味)の結果を示すグラフである。 図16は、白ワイン(ビストロ白)の香味評価(香り)の結果を示すグラフである。 図17は、白ワイン(ビストロ白)の香味評価(味)の結果を示すグラフである。 図18は、白ワイン(ビストロ白)の保存安定性に関する総合的な香味評価の結果を示すグラフである。 図19は、白ワイン(ビストロ白)の保存安定性に関する項目ごとの香味評価(香り)の結果を示すグラフである。 図20−1は、白ワイン(ビストロ白)の保存安定性に関する項目ごとの香味評価(味)の結果を示すグラフである。 図20−2は、白ワイン(ビストロ白)の保存安定性に関する項目ごとの香味評価(味)の結果を示すグラフである。
発明の具体的説明
本発明によれば、1〜100ppbのオークラクトンおよび0.01〜10ppmのエラグ酸を含んでなる果実酒(以下、「本発明の果実酒」ともいう)が提供される。以下、本発明の果実酒について説明する。
本発明において「果実酒」とは、原料となる果汁を酵母の作用によりアルコール発酵させて得られる発酵飲料であってもよく、そのような発酵飲料を主な原料として含む飲料であってもよい。また、発酵飲料を主な原料として含む飲料である場合、本発明の果実酒における発酵飲料の含有量は、本発明におけるオークラクトンおよびエラグ酸の含有量を満たす限り特に限定されず、本発明の果実酒に対して、下限値としては、例えば1v/v%以上、50v/v%以上または90v/v%以上であり、上限値については、例えば100v/v%未満、99.5v/v%以下、99.0v/v%以下または95.0v/v%以下である。
本発明において、果実酒の原料となる果汁の種類は特に限定されないが、例えば、ブドウ果汁、ブルーベリー果汁、ラズベリー果汁、レッドラズベリー果汁、柑橘類果汁(レモン果汁、グレープフルーツ果汁、オレンジ果汁、ライム果汁、ミカン果汁、ユズ果汁、カボス果汁、イヨカン果汁、カシス果汁等)、リンゴ果汁、モモ果汁、スイカ果汁、イチゴ果汁、メロン果汁、熱帯果実果汁(パイナップル果汁、グァバ果汁、バナナ果汁、マンゴー果汁、アセロラ果汁、パパイヤ果汁、パッションフルーツ果汁、ライチ果汁等)、およびその他の果汁(ウメ果汁、ナシ果汁、アンズ果汁、スモモ果汁、キウイフルーツ果汁、サクランボ果汁、クリ果汁等)等が挙げられる。本発明の果実酒の原料となる果汁としては、好ましくはブドウ果汁である。
本発明の果実酒は、上述した定義を満たす限り、酒税法等の法律に基づくカテゴリーに限定されず、例えば日本国の酒税法による果実酒、甘味果実酒、リキュール、その他の醸造酒等が含まれる。
本発明における好ましい果実酒の一つはワインである。本発明において「ワイン」とは、ブドウ果汁を主な原料として製造された発酵飲料であってもよく、前記発酵飲料を主な原料として含む飲料であってもよく、前記発酵飲料にさらに果汁を配合した飲料であってもよい。ワインとしては、特に制限されるものではないが、赤ワイン、白ワイン、ロゼワイン、スパークリングワイン等が挙げられる。本発明におけるワインは亜硫酸添加ワインであってもよく、亜硫酸無添加ワインであってもよいが、好ましくは亜硫酸無添加ワインである。
本発明の果実酒は、1〜100ppbのオークラクトンを含んでなる。本発明の果実酒におけるオークラクトンの含有量は、好ましくは1〜20ppbであり、より好ましくは1〜10ppbである。
「オークラクトン」は「ウィスキーラクトン」、「クエルクスラクトン」等とも呼ばれるγ−ラクトンの一種であり、β−メチル−γ−オクタラクトンまたは5−ブチルー4−メチルテトラヒドロフラン−2−オン−3−メチルオクタノ−4−ラクトン等とも呼ばれる。オークラクトンにはシス型とトランス型とが存在するが、本発明において「オークラクトン」とは、「シス−オークラクトン」および「トランス−オークラクトン」の両方を指す。従って、本発明において「オークラクトンの含有量」とは、「シス−オークラクトン」および「トランス−オークラクトン」の総量を意味する。また、本発明において、オークラクトンは原料に由来するものであってもよく、果実酒の製造過程において添加されるものであってもよい。
本発明において、果実酒中のオークラクトンの含有量は、後述するようなGC−MS/MSおよびCIS−TDUにより測定することができる。
本発明の果実酒は、0.01〜10ppmのエラグ酸を含んでなる。本発明の果実酒におけるエラグ酸の含有量は、好ましくは0.02〜10ppmであり、より好ましくは0.03〜10ppmである。本発明において、エラグ酸は原料に由来するものであってもよく、果実酒の製造過程において添加されるものであってもよい。
本発明において、果実酒中のエラグ酸の含有量は、後述するようなLC/MS/MSにより測定することができる。
本発明の果実酒は、亜硫酸を含有していてもよい。本発明の果実酒における総亜硫酸の含有量は、特に制限されるものではないが、好ましくは総亜硫酸の含有量として0〜350ppmであり、より好ましくは0〜180ppmであり、さらにより好ましくは0〜30ppmである。
本発明において「亜硫酸」とは、遊離型亜硫酸であってもよく、結合型亜硫酸であってもよい。従って、本発明において「総亜硫酸の含有量」とは、遊離型亜硫酸および結合型亜硫酸の総量を意味する。また、本発明において、亜硫酸は原料に由来するものであってもよく、発酵過程で酵母により生成されるものであってもよく、果実酒の製造過程において添加されるものであってもよい。
本発明において、果実酒中の総亜硫酸の含有量は、日本国の国税庁所定分析法(所定法)である通気蒸留・滴定法(いわゆる「ランキン法」)により測定することができる。
本発明の別の態様によれば、果実酒におけるオークラクトンの含有量を1〜100ppb、エラグ酸の含有量を0.01〜10ppmに調整する工程を含む果実酒の製造方法が提供される。
本発明において、オークラクトンおよびエラグ酸の含有量を所定の範囲内に調整するための方法は特に限定されないが、例えば、果実酒の製造過程のいずれかの時点において、オークラクトンおよび/またはエラグ酸を添加することにより調整することができる。この場合、オークラクトンおよび/またはエラグ酸を添加してもよく、オークラクトンおよび/またはエラグ酸を含有する原料を添加してもよい。また、オークラクトンおよび/またはエラグ酸の添加、オークラクトンおよび/またはエラグ酸を含有する原料の添加は単回で行われてもよく、複数回に分けて行われてもよい。
本発明の一つの実施態様によれば、オークラクトンおよびエラグ酸の含有量の調整は、果汁の発酵前、発酵中および発酵後からなる群から選択される少なくとも1つにおいて、前記果汁を含む果汁組成物と、前記果汁組成物に対して0.1g/L〜6g/Lのオークチップとを、−5〜30℃で4時間〜3週間接触させる工程によって行われる。また、このような工程を含む果実酒の製造方法はこれまでに知られておらず、よって、本発明の一つの態様となる。
本発明において「果汁」とは、上記で定義した通りであり、本発明の製造方法においては、好ましくはブドウ果汁である。
本発明において「果汁組成物」とは、果汁そのものであってもよく、果汁と果汁以外の成分との混合物であってもよい。果汁以外の成分としては、果実酒の製造に用いられる成分であれば特に限定されず、例えば果皮、梗、種子、糖類、亜硫酸等が挙げられる。また、本発明における果汁組成物は、果汁の発酵前、発酵中および発酵後のいずれのタイミングのものであってもよい。本発明における果汁組成物としては、好ましくは果汁を発酵させた後の果実酒であり、より好ましくはブドウ果汁を発酵させた後のワインである。
本発明において「オークチップ」は、本発明の効果を奏することができるものである限り、種類、産地、形状、大きさ、トースティング等は特に限定されず用いることができる。種類としては、特に限定されないが、フレンチオーク、アメリカンオーク、ロシアンオーク等が挙げられる。また、産地としては、特に限定されないが、フランス、アメリカ、ドイツ、ロシア、東欧諸国、北欧諸国等が挙げられる。また、形状としては、特に限定されないが、チップ状、キューブ状、ブロック状であってもよく、粉末状であってもよい。また、大きさとしては、特に限定されないが、好ましくは長さが3〜12mmであり、幅が1〜8mmであり、厚さが0.5〜5mmである。また、粉末状である場合には、好ましくは長さが3mm未満であり、幅が1mm未満であり、厚さが1mm未満である。また、トースティングとしては、特に限定されないが、いわゆるライトトースティング、ミディアムトースティング、ヘビートースティングのいずれであってもよく、トースティングなしでも良く、好ましくは明度(L*a*b*色空間におけるL*値。L*=0が黒、L*=100が白を表す。)が20〜70であり、より好ましくは30〜50であり、さらにより好ましくは40である。
本発明において、果汁組成物と接触させるオークチップの量は、0.1g/L〜6g/Lであり、接触条件は−5〜30℃で4時間〜3週間である。オークチップの接触条件は、オークチップの量、種類、形状、大きさ、トースト、産地等により上記の範囲内で適宜変更することができる。本発明において、果汁組成物と接触させるオークチップの量は、好ましくは0.25g/L〜3g/Lであり、より好ましくは0.25g/L〜1g/Lである。また、接触条件は、好ましくは5〜25℃で4〜72時間であり、より好ましくは8〜20℃で24〜48時間である。さらに、果汁組成物とオークチップの接触は、単回で行っても、複数回に分けて行ってもよく、複数回に分ける場合には、上述のオークチップの使用量と接触時間は全ての回の合計である。
本発明の他の態様によれば、果実酒の香味を改善する方法が提供され、該方法は、前記果実酒におけるオークラクトンの含有量およびエラグ酸の含有量を上述の濃度範囲に調整する工程を含む。
本発明の他の態様によれば、果実酒の香味の保存安定性を改善する方法が提供され、該方法は、前記果実酒におけるオークラクトンの含有量およびエラグ酸の含有量を上述の濃度範囲に調整する工程を含む。
以下の実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1:果実酒中のオークラクトンおよびエラグ酸含有量と香味および保存安定性評価
(1)サンプルの調製
「おいしい酸化防止剤無添加ワイン<厳選素材>赤」(メルシャン株式会社製)に、オークラクトンおよびエラグ酸の含有量がそれぞれ下記表1となるように、トランス−オークラクトンおよびエラグ酸を添加し、得られたサンプルをそれぞれ180mL容量のビンに詰め、55℃の恒温器内で6日間保存した(添加サンプル1〜6)。また、オークラクトンおよびエラグ酸のいずれも添加しないサンプルを180mL容量のビンに詰め、5℃または55℃の恒温器内でそれぞれ6日間保存した(非添加サンプル)。
(2)保存安定性評価
オークラクトンおよびエラグ酸の含有量を調整することによる保存安定性向上効果を確認するための評価項目として、香味に関する評価項目を設定した。具体的には、「香り」について「果実の香り」、「生臭い香り」および「金属ぽい香り」の3つの項目を、「味」について「果実の味わい」、「複雑な味わい」、「味の厚み」および「収斂味」の4つの項目を設定した。いずれの評価項目についても、オークラクトンおよびエラグ酸のいずれも添加しない5℃保管サンプル(対照)の評価点を3点とし、各サンプルを弱い(1点)から強い(5点)の間で評価した。
官能評価は、訓練された8名のパネルによって実施した。
(3)評価結果
保存安定性に関する香味評価の結果を、「香り」については図1−1に、「味」については図1−2−1および1−2−2に示す。なお、各評価項目について、同一の条件(55℃6日間)で保管した添加サンプルと非添加サンプルとの間でStudentのT検定を行った。各図中の「※」は、非添加サンプルに対して危険率5%で有意に差があることを意味する。
図1−1の結果から、「香り」については、添加サンプル1〜6では、高温(55℃)で6日間保管した場合に、5℃で6日間保管した対照と比較して「果実の香り」が若干低下しているものの、同一の保管条件で保管した非添加サンプルとの比較では、その低下が有意に抑制されていることが確認された。また、「生臭い香り」および「金属ぽい香り」については、添加サンプル1〜6では、対照と比較して若干増大しているものの、非添加サンプルとの比較では、その増大が大幅に抑制されており、ほとんどの添加サンプルで、その増大が有意に抑制されていることが確認された。また、図1−2−1および1−2−2の結果から、「味」については、添加サンプル1〜6では、対照と比較して「果実の味わい」が若干低下しているものの、非添加サンプルとの比較では、その低下が有意に抑制されていることが確認された。また、「複雑な味わい」および「味の厚み」については、添加サンプル1〜6では、対照と比較して同程度か若干増大しており、非添加サンプルとの比較では有意に増大していることが確認された。また、「収斂味」については、添加サンプル1〜6では、対照と比較して同程度か若干増加しており、非添加サンプルとの比較でも同程度であることが確認された。
図1−1および1−2の結果から、オークラクトンおよびエラグ酸の含有量を調整することにより、香味が有意に向上し、高温環境下で保管した場合でも香味の劣化が有意に抑制されることが確認された。
実施例2:果実酒へのオークチップ浸漬と香味および保存安定性評価1(赤ワイン)
(1)サンプルの調製
「おいしい酸化防止剤無添加ワイン<厳選素材>赤」(メルシャン株式会社製)に、オークチップ(Oak in Wine E-L40、DEMPTOS社製)を1g/Lとなるように添加し、8℃で48時間浸漬した。浸漬完了後、得られたオークチップ浸漬品を濾過し、濾液を180mL容量のビンに詰めた後、5℃で保管して浸漬サンプル(5℃保管)を得た。また、オークチップ浸漬を行わなかった以外は上記浸漬サンプル(5℃保管)と同様の方法により、非浸漬サンプル(5℃保管)を得た。さらに、上記オークチップ浸漬品、およびオークチップ浸漬を行わなかったオークチップ非浸漬品をそれぞれ濾過し、濾液を180mL容量のビンに詰めた後、それぞれ55℃の恒温器内で3日間または6日間保管して、浸漬サンプル(55℃3日保管または55℃6日保管)および非浸漬サンプル(55℃3日保管または55℃6日保管)を得た。
また、上記と同様の方法により得たオークチップ浸漬品および非浸漬品を濾過し、濾液を180mL容量のビンに詰めた後、それぞれ15℃の恒温器内で20000ルクスの光照射の下6日間保管して、光照射をした浸漬サンプル(光照射)および非浸漬サンプル(光照射)を得た。
得られた各サンプル中のオークラクトンおよびエラグ酸の含有量を、それぞれ後述する測定方法により測定した。保管前の浸漬サンプル中のオークラクトンの含有量は4.30ppbであり、エラグ酸の含有量は0.48ppmであった。また、ランキン法により測定した総亜硫酸の含有量は4.8ppmであった。
(2)オークラクトンの含有量の測定
各サンプル中のオークラクトンの含有量は、GC−MS/MSおよびCIS−TDUにより測定した。具体的には、5mlのサンプルをそれぞれ10mlのバイアルに入れ、内部標準として用いた4−ノナノールを添加した後、Twister(GERSTEL社製)を用いて1時間抽出して測定サンプルを得た。一方、エタノール12%、酒石酸3000mg/L、pH3.2となるように調整したモデルワイン5mlを10mlのバイアルに入れて、トランス−オークラクトン(トランス−クエルクスラクトン)(CAS No.39638−67−0、シグマ社製)をそれぞれ36.92ng/ml、92.3ng/ml、276.9ng/ml、830.7ng/mlおよび2492.1ng/mlの各濃度になるように添加した後、Twisterを用いて1時間抽出して検量線作成用サンプルを得た。得られた検量線作成用サンプルを用いて検量線を作成した。なお、トランス−オークラクトンの異性体であるシス−オークラクトン(シス−クエルクスラクトン)は、上記で得られたトランス−オークラクトンの検量線を用いて定量した。
各測定サンプルを、GC−MS/MSおよびCIS−TDUによる分析に供し、上記の通り作製した検量線に基づいて各測定サンプル中のオークラクトンの含有量を測定した。GC−MS/MSおよびCIS−TDUの分析機器および分析条件を、それぞれ表2および3に示す。
(3)エラグ酸の含有量の測定
各サンプル中のエラグ酸の含有量は、LC/MS/MSにより測定した。具体的には、0.1%のHCl−MeOHを用いて、サンプルを0.1ppm、0.5ppm、1ppmおよび2ppmのそれぞれの濃度になるようにサンプルを希釈して検量線作成用のサンプルを得た。得られた検量線作成用サンプルを用いて検量線を作成した。
各測定サンプルを、LC/MS/MSによる分析に供し、上記の通り作製した検量線に基づいて各測定サンプル中のエラグ酸の含有量を測定した。LC/MS/MSの分析機器および分析条件を表4に示す。
(4)官能評価
オークチップ浸漬による香味向上効果を確認するための官能評価を、浸漬サンプル(5℃保管)および非浸漬サンプル(5℃保管)を用いて行った。官能評価の評価項目として、「香り」については「果実の香り」、「生臭い香り」および「金属ぽい香り」の3つの項目を、「味」については「果実の味わい」、「複雑な味わい」、「味の厚み」および「収斂味」の4つの項目を設定した。いずれの評価項目についても、非浸漬サンプル(5℃保管)の評価点を3点(対照)とし、浸漬サンプル(5℃保管)を弱い(1点)から強い(5点)の間で評価した。
官能評価は、訓練された8名のパネルによって実施した。
(5)評価結果
官能評価の結果を、「香り」については図2に、「味」については図3に示す。なお、各評価項目について、対照の評価点3点に対してStudentのT検定を行った。図中の「※」は、対照に対して危険率5%で有意に差があることを意味する。
図2の結果から、「香り」については、浸漬サンプル(5℃保管)では、対照(非浸漬サンプル(5℃保管))と比較して「果実の香り」が有意に増大する一方で、「生臭い香り」および「金属ぽい香り」が有意に低減されることが確認された。また、図3の結果から、「味」については、浸漬サンプルでは、対照と比較して「果実の味わい」、「複雑な味わい」および「味の厚み」が有意に増大することが確認された。また、「収斂味」については、対照と比較してほとんど変化しないことが確認された。これらの結果から、オークラクトンの含有量が4.30ppbであり、エラグ酸の含有量が0.48ppmである浸漬サンプル(5℃保管)では、対照(非浸漬サンプル(5℃保管))と比較して香味が有意に向上することが確認された。
(6)保存安定性評価1(総合的な香味評価)
オークチップ浸漬による保存安定性向上効果を確認するために、総合的な香味の官能評価を、各保管条件で保管した非浸漬サンプルおよび浸漬サンプルを用いて行った。総合的な香味について、非浸漬サンプル(5℃保管)および浸漬サンプル(5℃保管)の評価点をそれぞれ5点(対照)とし、各保管条件で保管した非浸漬サンプルおよび浸漬サンプルを以下の評価基準により評価した。
5点:5℃で保管した対照と比較して香味の差を認めない
4点:5℃で保管した対照と比較して香味がやや劣る
3点:5℃で保管した対照と比較して香味が劣るが、品質としては許容範囲内である(品質限界)
2点:5℃で保管した対照と比較して香味が劣り、品質が保持されているとは言えない
1点:5℃で保管した対照と比較して香味が著しく劣る
官能評価は、訓練された8名のパネルによって実施した。
(7)評価結果
保存安定性に関する総合的な香味評価の結果を図4に示す。なお、総合的な香味評価について、温度および光照射の有無について同一の保管条件で保管した非浸漬サンプルと浸漬サンプルとの間でStudentのT検定を行った。図中の「※」は、浸漬サンプルにおいて、同一の保管条件で保管した非浸漬サンプルに対して危険率5%で有意に差があることを意味する。
図4の結果から、浸漬サンプルでは、高温(55℃)で保管した場合、および光照射をした場合のいずれにおいても、対照と比較して大幅な香味の劣化は認められず、同一の保管条件で保管した非浸漬サンプルとの比較では、その低下が有意に抑制され、品質限界(3点)を大幅に上回ることが確認された。
(8)保存安定性評価2(項目ごとの香味評価)
オークチップ浸漬による保存安定性向上効果を確認するための官能評価を、浸漬サンプル(5℃保管)および非浸漬サンプル(5℃保管)を用いて行った。官能評価の評価項目として、上記「(4)官能評価」と同様の「香り」および「味」の7つの項目を設定した。いずれの評価項目についても、非浸漬サンプル(5℃保管)および浸漬サンプル(5℃保管)の評価点を3点(対照)とし、各保管条件で保管した非浸漬サンプルおよび浸漬サンプルを弱い(1点)から強い(5点)の間で評価した。
官能評価は、訓練された8名のパネルによって実施した。
(9)評価結果
保存安定性に関する項目ごとの香味評価の結果を、「香り」については図5に、「味」については図6−1および6−2に示す。なお、各評価項目について、温度および光照射の有無について同一の保管条件で保管した非浸漬サンプルと浸漬サンプルとの間でStudentのT検定を行った。図中の「※」は、浸漬サンプルにおいて、同一の保管条件で保管した非浸漬サンプルに対して危険率5%で有意に差があることを意味する。
図5の結果から、「香り」については、浸漬サンプルでは、高温(55℃)で保管した場合、および光照射をした場合のいずれにおいても、対照と比較して「果実の香り」が若干低下しているものの、同一の保管条件で保管した非浸漬サンプルとの比較では、その低下が有意に抑制されていることが確認された。また、「生臭い香り」および「金属ぽい香り」については、浸漬サンプルでは、対照と比較してほとんど増大せず、非浸漬サンプルとの比較では、その増大が有意に抑制されていることが確認された。また、図6−1および6−2の結果から、「味」については、浸漬サンプルでは、対照と比較して「果実の味わい」が若干低下しているもの、非浸漬サンプルとの比較では、その低下が有意に抑制されていることが確認された。また、「複雑な味わい」については、浸漬サンプルでは、対照と比較して若干増大しており、非浸漬サンプルとの比較では、ほとんどの保管条件で有意に増大していることが確認された。また、「味の厚み」については、浸漬サンプルでは、対照と比較して若干増大しており、非浸漬サンプルとの比較では有意に増大していることが確認された。また、「収斂味」については、浸漬サンプルでは、対照と比較して同程度か若干増加しており、非浸漬サンプルとの比較では、ほとんどの保管条件で有意に低下していることが確認された。
図4〜6の結果から、オークラクトンの含有量が4.30ppbであり、エラグ酸の含有量が0.48ppmであるオークチップ浸漬サンプルでは、高温環境下および光照射環境下のいずれの環境で保管した場合でも、香味の劣化が有意に抑制されることが確認された。
実施例3:果実酒へのオークチップ浸漬と香味および保存安定性評価2(赤ワイン)
(1)サンプルの調製
「ビストロ<濃い赤>」(メルシャン株式会社製)に、オークチップ(Oak in Wine E-L40、DEMPTOS社製)を1g/Lとなるように添加し、15℃で36時間浸漬した。浸漬完了後、得られたオークチップ浸漬品を濾過し、濾液を180mL容量のビンに詰めた後、5℃で保管して浸漬サンプル(5℃保管)を得た。また、オークチップ浸漬を行わなかった以外は上記浸漬サンプル(5℃保管)と同様の方法により、非浸漬サンプル(5℃保管)を得た。さらに、上記オークチップ浸漬品、およびオークチップ浸漬を行わなかったオークチップ非浸漬品をそれぞれ濾過し、濾液を180mL容量のビンに詰めた後、それぞれ55℃の恒温器内で3日間または6日間保管して、浸漬サンプル(55℃3日保管または55℃6日保管)および非浸漬サンプル(55℃3日保管または55℃6日保管)を得た。
また、上記と同様の方法により得たオークチップ浸漬品および非浸漬品を濾過し、濾液を180mL容量のビンに詰めた後、それぞれ15℃の恒温器内で20000ルクスの光照射の下6日間保管して、光照射をした浸漬サンプル(光照射)および非浸漬サンプル(光照射)を得た。
得られた各サンプル中のオークラクトンおよびエラグ酸の含有量を、実施例2と同様の方法により測定した。保管前の浸漬サンプル中のオークラクトンの含有量は9.53ppbであり、エラグ酸の含有量は1.01ppmであった。また、ランキン法により測定した総亜硫酸の含有量は82.4ppmであった。
(2)官能評価
オークチップ浸漬による香味向上効果を確認するために、実施例2と同様に「香り」および「味」の7つの項目を設定し、実施例2と同様の方法により、香味に関する官能評価を行った。
(3)評価結果
官能評価の結果を、「香り」については図7に、「味」については図8に示す。なお、各評価項目について、対照の評価点3点に対してStudentのT検定を行った。図中の「※」は、対照に対して危険率5%で有意に差があることを意味する。
図7の結果から、「香り」については、浸漬サンプル(5℃保管)では、対照(非浸漬サンプル(5℃保管))と比較して「果実の香り」が有意に増大する一方で、「生臭い香り」および「金属ぽい香り」が有意に低減されることが確認された。また、図8の結果から、「味」については、浸漬サンプルでは、対照と比較して「果実の味わい」、「複雑な味わい」、「味の厚み」および「収斂味」がいずれも増大し、特に「複雑な味わい」、「味の厚み」および「収斂味」については有意に増大することが確認された。これらの結果から、オークラクトンの含有量が9.53ppbであり、エラグ酸の含有量が1.01ppmである浸漬サンプル(5℃保管)では、対照(非浸漬サンプル(5℃保管))と比較して香味が有意に向上することが確認された。
(4)保存安定性評価
オークチップ浸漬による保存安定性向上効果を確認するために、実施例2と同様に「香り」および「味」の7つの項目を設定し、実施例2と同様の方法により、保存安定性に関する項目ごとの香味評価を行った。
(5)評価結果
保存安定性に関する項目ごとの香味評価の結果を、「香り」については図9に、「味」については図10−1および10−2に示す。なお、各評価項目について、温度および光照射の有無について同一の保管条件で保管した非浸漬サンプルと浸漬サンプルとの間でStudentのT検定を行った。図中の「※」は、浸漬サンプルにおいて、同一の保管条件で保管した非浸漬サンプルに対して危険率5%で有意に差があることを意味する。
図9の結果から、「香り」については、浸漬サンプルでは、高温(55℃)で保管した場合、および光照射をした場合のいずれにおいても、対照と比較して「果実の香り」が若干低下しているものの、同一の保管条件で保管した非浸漬サンプルとの比較では、その低下が抑制されており、保管条件によっては有意に抑制されていることが確認された。また、「生臭い香り」および「金属ぽい香り」については、浸漬サンプルでは、対照と比較してほとんど増大せず、「生臭い香り」については保管条件によっては若干低下しており、同一の保管条件で保管した非浸漬サンプルとの比較では、保管条件によって有意に低下していることが確認された。また、図10−1および10−2の結果から、「味」については、浸漬サンプルでは、対照と比較して「果実の味わい」、「複雑な味わい」、「味の厚み」および「収斂味」のいずれもほとんど変化しないものの、同一の保管条件で保管した非浸漬サンプルとの比較では、保管条件によって有意に増大することが確認された。
図9および10の結果から、オークラクトンの含有量が9.53ppbであり、エラグ酸の含有量が1.01ppmである浸漬サンプルでは、高温環境下および光照射環境下のいずれの環境で保管した場合でも、香味の劣化が有意に抑制されることが確認された。
実施例4:果実酒へのオークチップ浸漬と香味および保存安定性評価3(白ワイン)
(1)サンプルの調製
「おいしい酸化防止剤無添加ワイン<厳選素材>白」(メルシャン株式会社製)に、オークチップ(Oak in Wine E-L40、DEMPTOS社製)を0.25g/Lとなるように添加し、20℃で24時間浸漬した。浸漬完了後、得られたオークチップ浸漬品を濾過した。得られた濾液を、溶存酸素が1ppm以下になるまで窒素パージし、180mL容量のビンに詰めた後、5℃で保管して浸漬サンプル(5℃保管)を得た。また、オークチップ浸漬を行わなかった以外は上記浸漬サンプル(5℃保管)と同様の方法により、非浸漬サンプル(5℃保管)を得た。さらに、上記オークチップ浸漬品、およびオークチップ浸漬を行わなかったオークチップ非浸漬品をそれぞれ濾過し、濾液を上記と同様の方法により窒素パージし、180mL容量のビンに詰めた後、それぞれ55℃の恒温器内で3日間または6日間保管して、浸漬サンプル(55℃3日保管または55℃6日保管)および非浸漬サンプル(55℃3日保管または55℃6日保管)を得た。
また、上記と同様の方法により得たオークチップ浸漬品および非浸漬品を、上記と同様の方法により窒素パージし、180mL容量のビンに詰めた後、それぞれ15℃の恒温器内で20000ルクスの光照射の下6日間保管して、光照射をした浸漬サンプル(光照射)および非浸漬サンプル(光照射)を得た。
得られた各サンプル中のオークラクトンおよびエラグ酸の含有量を、実施例2と同様の方法により測定した。保管前の浸漬サンプル中のオークラクトンの含有量は2.49ppbであり、エラグ酸の含有量は0.03ppmであった。また、ランキン法により測定した総亜硫酸の含有量は9.9ppmであった。
(2)官能評価
オークチップ浸漬による香味向上効果を確認するために、実施例2と同様に「香り」および「味」の7つの項目を設定し、パネルを9名としたこと以外は実施例2と同様の方法により、香味に関する官能評価を行った。
(3)評価結果
官能評価の結果を、「香り」については図11に、「味」については図12に示す。なお、各評価項目について、対照の評価点3点に対してStudentのT検定を行った。図中の「※」は、対照に対して危険率5%で有意に差があることを意味する。
図11の結果から、「香り」については、浸漬サンプル(5℃保管)では、対照(非浸漬サンプル(5℃保管))と比較して「果実の香り」が有意に増大する一方で、「生臭い香り」および「金属ぽい香り」が有意に低減されることが確認された。また、図12の結果から、「味」については、浸漬サンプルでは、対照と比較して「果実の味わい」、「複雑な味わい」、「味の厚み」および「収斂味」がいずれも増大し、特に「果実の味わい」、「複雑な味わい」および「味の厚み」については有意に増大することが確認された。これらの結果から、オークラクトンの含有量が2.49ppbであり、エラグ酸の含有量が0.03ppmである浸漬サンプル(5℃保管)では、対照(非浸漬サンプル(5℃保管))と比較して香味が有意に向上することが確認された。
(4)保存安定性評価1(総合的な香味評価)
オークチップ浸漬による保存安定性向上効果を確認するために、パネルを9名としたこと以外は実施例2と同様の方法により、保存安定性に関する総合的な香味評価を行った。
(5)評価結果
保存安定性に関する総合的な香味評価の結果を図13に示す。なお、総合的な香味評価について、温度および光照射の有無について同一の保管条件で保管した非浸漬サンプルと浸漬サンプルとの間でStudentのT検定を行った。図中の「※」は、浸漬サンプルにおいて、同一の保管条件で保管した非浸漬サンプルに対して危険率5%で有意に差があることを意味する。
図13の結果から、浸漬サンプルでは、高温(55℃)で保管した場合、および光照射をした場合のいずれにおいても、非浸漬サンプルと比較して有意な差は認められなかったものの、対照と比較して大幅な香味の大幅な低下は認められず、品質限界(3点)を大幅に上回ることが確認された。
(6)保存安定性評価2(項目ごとの香味評価)
オークチップ浸漬による保存安定性向上効果を確認するために、実施例2と同様に「香り」および「味」の7つの項目を設定し、パネルを9名としたこと以外は実施例2と同様の方法により、保存安定性に関する項目ごとの香味評価を行った。
(7)評価結果
保存安定性に関する項目ごとの香味評価の結果を、「香り」については図14に、「味」については図15−1および15−2に示す。なお、各評価項目について、温度および光照射の有無について同一の保管条件で保管した非浸漬サンプルと浸漬サンプルとの間でStudentのT検定を行った。図中の「※」は、浸漬サンプルにおいて、同一の保管条件で保管した非浸漬サンプルに対して危険率5%で有意に差があることを意味する。
図14の結果から、「香り」については、浸漬サンプルでは、高温(55℃)で保管した場合、および光照射をした場合のいずれにおいても、対照と比較して「果実の香り」が低下しているものの、同一の高温条件(55℃3日保管または55℃6日保管)で保管した非浸漬サンプルとの比較では、その低下が有意に抑制されていることが確認された。また、「生臭い香り」および「金属ぽい香り」については、浸漬サンプルでは、対照と比較してほとんどの保管条件で若干低下しており、同一の保管条件で保管した非浸漬サンプルとの比較では有意に低下していることが確認された。また、「味」については、浸漬サンプルでは、対照と比較して「果実の味わい」、「複雑な味わい」および「味の厚み」がほとんどの保管条件で若干増大しており、非浸漬サンプルとの比較では有意に増大していることが確認された。また、「収斂味」については、浸漬サンプルでは、いずれもの保管条件でも対照と比較して同程度か若干増加しており、同一の保管条件で保管した非浸漬サンプルとの比較では、ほとんど変化しないことが確認された。
図13〜15の結果から、オークラクトンの含有量が2.49ppbであり、エラグ酸の含有量が0.03ppmであるオークチップ浸漬サンプルでは、高温環境下および光照射環境下のいずれの環境で保管した場合でも、香味の劣化が有意に抑制されることが確認された。
実施例5:果実酒へのオークチップ浸漬と香味および保存安定性評価4(白ワイン)
(1)サンプルの調製
「ビストロ白」(メルシャン株式会社製)に、オークチップ(Oak in Wine E-L40、DEMPTOS社製)を0.25g/Lとなるように添加し、20℃で24時間浸漬した。浸漬完了後、得られたオークチップ浸漬品を濾過し、濾液を180mL容量のビンに詰めた後、5℃で保管して浸漬サンプル(5℃保管)を得た。また、オークチップ浸漬を行わなかった以外は上記浸漬サンプル(5℃保管)と同様の方法により、非浸漬サンプル(5℃保管)を得た。さらに、上記オークチップ浸漬品、およびオークチップ浸漬を行わなかったオークチップ非浸漬品をそれぞれ濾過し、濾液を180mL容量のビンに詰めた後、それぞれ55℃の恒温器内で3日間または6日間保管して、浸漬サンプル(55℃3日保管または55℃6日保管)および非浸漬サンプル(55℃3日保管または55℃6日保管)を得た。
また、上記と同様の方法により得たオークチップ浸漬品および非浸漬品を濾過し、濾液を180mL容量のビンに詰めた後、それぞれ15℃の恒温器内で20000ルクスの光照射の下6日間保管して、光照射をした浸漬サンプル(光照射)および非浸漬サンプル(光照射)を得た。
得られた各サンプル中のオークラクトンおよびエラグ酸の含有量を、実施例2と同様の方法により測定した。保管前の各浸漬サンプル中のオークラクトンの含有量は2.45ppbであり、エラグ酸の含有量は0.03ppmであった。また、ランキン法により測定した総亜硫酸の含有量は150.6ppmであった。
(2)官能評価
オークチップ浸漬による香味向上効果を確認するために、実施例2と同様に「香り」および「味」の7つの項目を設定し、実施例2と同様の方法により、香味に関する官能評価を行った。
(3)評価結果
官能評価の結果を、「香り」については図16に、「味」については図17に示す。なお、各評価項目について、対照の評価点3点に対してStudentのT検定を行った。図中の「※」は、対照に対して危険率5%で有意に差があることを意味する。
図16の結果から、「香り」については、浸漬サンプル(5℃保管)では、対照(非浸漬サンプル(5℃保管))と比較して「果実の香り」が有意に増大する一方で、「生臭い香り」および「金属ぽい香り」が有意に低減されることが確認された。また、図17の結果から、「味」については、浸漬サンプルでは、対照と比較して「果実の味わい」、「複雑な味わい」および「味の厚み」がいずれも有意に増大し、「収斂味」は変化しないことが確認された。これらの結果から、オークラクトンの含有量が2.45ppbであり、エラグ酸の含有量が0.03ppmである浸漬サンプル(5℃保管)では、対照(非浸漬サンプル(5℃保管))と比較して香味が有意に向上することが確認された。
(4)保存安定性評価1(総合的な香味評価)
オークチップ浸漬による保存安定性向上効果を確認するために、実施例2と同様の方法により、保存安定性に関する総合的な香味評価を行った。
(5)評価結果
保存安定性に関する総合的な香味評価の結果を図18に示す。なお、総合的な香味評価について、温度および光照射の有無について同一の保管条件で保管した非浸漬サンプルと浸漬サンプルとの間でStudentのT検定を行った。図中の「※」は、浸漬サンプルにおいて、同一の保管条件で保管した非浸漬サンプルに対して危険率5%で有意に差があることを意味する。
図18の結果から、浸漬サンプルでは、高温(55℃)で保管した場合、および光照射した場合のいずれにおいても、対照と比較して大幅な香味の低下は認められず、同一の保管条件で保管した非浸漬サンプルとの比較では、その低下が有意に抑制され、品質限界(3点)を大幅に上回ることが確認された。
(6)保存安定性評価2(項目ごとの香味評価)
オークチップ浸漬による保存安定性向上効果を確認するために、実施例2と同様に「香り」および「味」の7つの項目を設定し、実施例2と同様の方法により、保存安定性に関する項目ごとの香味評価を行った。
(7)評価結果
保存安定性に関する項目ごとの香味評価の結果を、「香り」については図19に、「味」については図20−1および20−2に示す。なお、各評価項目について、温度および光照射の有無について同一の保管条件で保管した非浸漬サンプルと浸漬サンプルとの間でStudentのT検定を行った。図中の「※」は、浸漬サンプルにおいて、同一の保管条件で保管した非浸漬サンプルに対して危険率5%で有意に差があることを意味する。
図19の結果から、「香り」については、浸漬サンプルでは、高温(55℃)で保管した場合、および光照射をした場合のいずれにおいても、対照と比較して「果実の香り」が低下しているものの、同一の保管条件で保管した非浸漬サンプルとの比較では、その低下が有意に抑制されていることが確認された。また、「生臭い香り」および「金属ぽい香り」については、浸漬サンプルでは、対照と比較してほとんど増大せず、同一の保管条件で保管した非浸漬サンプルとの比較では、その増大が抑制されており、保管条件によっては有意に抑制されていることが確認された。また、図20−1および20−2の結果から、「味」については、浸漬サンプルでは、対照と比較して「果実の味わい」、「複雑な味わい」、「味の厚み」および「収斂味」のいずれもほとんど変化しないものの、同一の保管条件で保管した非浸漬サンプルとの比較では、いずれの保管条件でも「果実の味わい」が有意に増大し、保管条件によっては「複雑な味わい」が有意に増大することが確認された。
図18〜20の結果から、オークラクトンの含有量が2.45ppbであり、エラグ酸の含有量が0.03ppmであるオークチップ浸漬サンプルでは、高温環境下および光照射環境下のいずれの環境で保管した場合でも、香味の劣化が有意に抑制されることが確認された。

Claims (13)

  1. 1〜100ppbのオークラクトンおよび0.01〜10ppmのエラグ酸を含んでなる、果実酒。
  2. ワインである、請求項1に記載の果実酒。
  3. 亜硫酸無添加ワインである、請求項1または2に記載の果実酒。
  4. 総亜硫酸の含有量が0〜350ppmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の果実酒。
  5. 総亜硫酸の含有量が0〜180ppmである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の果実酒。
  6. 総亜硫酸の含有量が0〜30ppmである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の果実酒。
  7. 果実酒を製造する方法であって、前記果実酒におけるオークラクトンの含有量を1〜100ppb、エラグ酸の含有量を0.01〜10ppmに調整する工程を含んでなる、方法。
  8. 果実酒を製造する方法であって、果汁の発酵前、発酵中および発酵後からなる群から選択される少なくとも1つにおいて、前記果汁を含む果汁組成物と、前記果汁組成物に対して0.1g/L〜6g/Lのオークチップとを、−5〜30℃で4時間〜3週間接触させる工程を含んでなる、方法。
  9. 前記果汁組成物とオークチップとを接触させる工程が、前記果汁に対して0.25g/L〜1g/Lのオークチップを、8〜20℃で24〜48時間接触させることにより行われる、請求項8に記載の方法。
  10. 前記果汁がブドウ果汁である、請求項8または9に記載の方法。
  11. 前記オークチップの明度が20〜70である、請求項8〜10のいずれか一項に記載の方法。
  12. 果実酒の香味を改善する方法であって、前記果実酒におけるオークラクトンの含有量を1〜100ppb、エラグ酸の含有量を0.01〜10ppmに調整する工程を含んでなる、方法。
  13. 果実酒の香味の保存安定性を改善する方法であって、前記果実酒におけるオークラクトンの含有量を1〜100ppb、エラグ酸の含有量を0.01〜10ppmに調整する工程を含んでなる、方法。
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