<抗菌性歯科用接着性組成物>
本発明の抗菌性歯科用接着性組成物は、(A)重合性単量体と、(B)ポリ(メタ)アクリレートと、(C)抗菌剤含有層状ケイ酸塩と、(D)ホウ素系重合開始剤とを、必須成分として含有する。
(A)重合性単量体
重合性単量体は、例えば、エチレン性不飽和二重結合を有する重合可能なモノマーであって、具体的には、ビニル基にカルボキシル基が直接結合するα、β−不飽和カルボン酸(例えば、フマル酸、マレイン酸など)、芳香族環にビニル基が結合する芳香族ビニル化合物(例えば、p−ビニル安息香酸など)、(メタ)アクリルアミド化合物(例えば、1,1−ジメチル−2−スルホエチル(メタ)アクリルアミドなど)、(メタ)アクリレート化合物などが挙げられる。このような重合性単量体は、単独使用または2種以上併用することができる。
このような重合性単量体のなかでは、好ましくは、(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。つまり、重合性単量体は、好ましくは、(メタ)アクリレート化合物を含み、さらに好ましくは、(メタ)アクリレート化合物からなる。なお、(メタ)アクリレート化合物とは、メタクリレート化合物および/またはアククリレート化合物を含む。
(メタ)アクリレート化合物は、分子内に少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有する。(メタ)アクリレート化合物として、例えば、(A1)酸性基含有(メタ)アクリレート化合物、(A2)酸性基不含有(メタ)アクリレート化合物(酸性基含有(メタ)アクリレート化合物以外の(メタ)アクリレート化合物)が挙げられる。
(A1)酸性基含有(メタ)アクリレート化合物
酸性基含有(メタ)アクリレート化合物は、分子内に、少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基と、少なくとも1つの酸性基とを有する。
酸性基含有(メタ)アクリレート化合物として、例えば、カルボキシル基およびそれに相当する官能基(例えば、カルボン酸無水物基など)を有するカルボン酸系(メタ)アクリレート化合物、リン酸基(一リン酸基)を有するリン酸系(メタ)アクリレート化合物、チオリン酸基を有するチオリン酸系(メタ)アクリレート化合物、ピロ燐酸基(二リン酸基)を有するピロ燐酸系(メタ)アクリレート化合物、スルホン酸基を有するスルホン酸系(メタ)アクリレート化合物、ホスホン酸基を有するホスホン酸系(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。
カルボン酸系(メタ)アクリレート化合物として、例えば、モノカルボン酸(メタ)アクリレート化合物、ポリカルボン酸(メタ)アクリレート化合物(例えば、ジカルボン酸(メタ)アクリレート化合物、トリカルボン酸(メタ)アクリレート化合物、テトラカルボン酸(メタ)アクリレート化合物など)、および、これらの酸無水物(メタ)アクリレート化合物などが挙げられる。つまり、酸性基には、遊離のカルボキシ基と、2つ以上のカルボキシ基が酸無水物基を形成したカルボン酸無水物基とが含まれる。
カルボン酸系(メタ)アクリレート化合物として、例えば、脂肪族カルボン酸系(メタ)アクリレート化合物、単環芳香族カルボン酸系(メタ)アクリレート化合物、多環芳香族カルボン酸系(メタ)アクリレート化合物などが挙げられる。
脂肪族カルボン酸系(メタ)アクリレート化合物は、例えば、1つ以上のカルボキシル基(またはカルボン酸無水物基)と1つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基とが脂肪族炭化水素基に結合する。
脂肪族カルボン酸系(メタ)アクリレート化合物として、例えば、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸(メタクリレートの場合、MAC−10)などが挙げられる。
単環芳香族カルボン酸系(メタ)アクリレート化合物は、単環型芳香族環と、1つ以上のカルボキシル基(またはカルボン酸無水物基)と、1つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基とを有する。
単環芳香族カルボン酸系(メタ)アクリレート化合物として、例えば、1つ以上のカルボキシル基(またはカルボン酸無水物基)が結合する単環型芳香族環と、1つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基が結合する脂肪族炭化水素基とを有し、水酸基などの親水性官能基を有しない(メタ)アクリレート化合物(例えば、4−(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸(メタクリレートの場合:4−MET、無水物のメタクリレートの場合:4−META)、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリット酸、1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルピロメリット酸、4−[2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシ]ブチルトリメリット酸、2,3−ビス(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピル(メタ)アクリレートなど)、例えば、1つ以上のカルボキシル基(またはカルボン酸無水物基)が結合する単環型芳香族環と、1つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基と1つ以上の水酸基などの親水性官能基とが結合する脂肪族炭化水素基とを有する(メタ)アクリレート化合物(例えば、4−[2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシ]ブチルトリメリット酸、4−[(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸、3または4−[N−メチル−N−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸など)、例えば、1つ以上のカルボキシル基(またはカルボン酸無水物基)と1つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基とが結合する単環型芳香族環を有する(メタ)アクリレート化合物(例えば、2,3または4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸など)、例えば、単環型芳香族環と、1つ以上のカルボキシル基(またはカルボン酸無水物基)が結合する脂肪族炭化水素基と、脂肪族炭化水素基におけるカルボキシル基のα炭素に結合するアミノ基と、アミノ基に結合する(メタ)アクリロイル基とを有する(メタ)アクリレート化合物(例えば、O−(メタ)アクリロイルオキシ−N−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルオキシフェニルアラニンなど)、例えば、1つ以上の(メタ)アクリロイル基が結合する単環型芳香族環と、1つ以上のカルボキシル基(またはカルボン酸無水物基)が結合する脂肪族炭化水素基とを有する(メタ)アクリレート化合物(例えば、O−(メタ)アクリロイルオキシチロシンなど)、例えば、アミノ基が結合する単環型芳香族環と、アミノ基と1つ以上のカルボキシル基(またはカルボン酸無水物基)とを連結する脂肪族炭化水素基と、1つ以上の(メタ)アクリロイル基を有し、アミノ基に結合する原子団とを有する(メタ)アクリレート化合物(例えば、N−フェニルグリシンまたはN−トリルグリシンとグリシジル(メタ)アクリレートとの付加物など)、例えば、1つ以上のカルボキシル基(またはカルボン酸無水物基)が結合する単環型芳香族環と、単環型芳香族環に結合するアミノ基と、アミノ基に結合する(メタ)アクリロイル基とを有する(メタ)アクリレート化合物およびその酸無水物(例えば、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−O−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸(メタクリレートの場合:5−MASA)、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノサリチル酸など)などが挙げられる。
多環芳香族カルボン酸系(メタ)アクリレート化合物は、多環型芳香族環(縮合環)と、1つ以上のカルボキシル基(またはカルボン酸無水物基)と、1つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基とを有する。
多環芳香族カルボン酸系(メタ)アクリレート化合物として、例えば、1つ以上のカルボキシル基(またはカルボン酸無水物基)が結合する多環型芳香族環(縮合環)と、1つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基が結合する脂肪族炭化水素基とを有する(メタ)アクリレート化合物(例えば、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸など)などが挙げられる。
リン酸系(メタ)アクリレート化合物として、例えば、脂肪族リン酸系(メタ)アクリレート化合物、芳香族リン酸系(メタ)アクリレート化合物などが挙げられる。
脂肪族リン酸系(メタ)アクリレート化合物では、1つ以上のリン酸基(一リン酸基)と1つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基とが脂肪族炭化水素基に結合する。
脂肪族リン酸系(メタ)アクリレート化合物として、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシドホスフェート、2および/または3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシドホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルアシドホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルアシドホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルアシドホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルアシドホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルアシドホスフェートなどのアルキルアシドホスフェートなどが挙げられる。
芳香族リン酸系(メタ)アクリレート化合物は、例えば、1つ以上のリン酸基(一リン酸基)が結合する芳香族環と、1つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基が結合する脂肪族炭化水素基とを有する。
芳香族リン酸系(メタ)アクリレート化合物として、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−p−メトキシフェニルアシドホスフェートなどが挙げられる。
チオリン酸基を有するチオリン酸系(メタ)アクリレート化合物として、例えば、上記したリン酸系(メタ)アクリレート化合物のリン酸基をチオリン酸基に置き換えた(メタ)アクリレート化合物などが挙げられる。
ピロ燐酸系(メタ)アクリレート化合物として、例えば、ピロ燐酸ジ{2−(メタ)アクリロイルオキシエチル}、ピロ燐酸ジ{4−(メタ)アクリロイルオキシブチル}、ピロ燐酸ジ{6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル}、ピロ燐酸ジ{8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル}、ピロ燐酸ジ{10−(メタ)アクリロイルオキシデシル}などのピロ燐酸ジ{(メタ)アクリロイルオキシアルキル}化合物などが挙げられる。
スルホン酸系(メタ)アクリレート化合物として、例えば、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、2または1−スルホ−1または2−プロピル(メタ)アクリレート、1または3−スルホ−2−ブチル(メタ)アクリレート、3−ブロモ−2−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート、3−メトキシ−1−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレートなどの1つ以上のスルホン酸基を有するアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
ホスホン酸系(メタ)アクリレート化合物として、例えば、3−(メタ)アクリロキシプロピル−3−ホスホノプロピオネート、3−(メタ)アクリロキシプロピルホスホノアセテート、4−(メタ)アクリロキシブチル−3−ホスホノプロピオネート、4−(メタ)アクリロキシブチルホスホノアセテート、5−(メタ)アクリロキシペンチル−3−ホスホノプロピオネート、5−(メタ)アクリロキシペンチルホスホノアセテート、6−(メタ)アクリロキシヘキシル−3−ホスホノプロピオネート、6−(メタ)アクリロキシヘキシルホスホノアセテート、10−(メタ)アクリロキシデシル−3−ホスホノプロピオネート、10−(メタ)アクリロキシデシルホスホノアセテート、2−(メタ)アクリロキシエチル−フェニルホスホネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルホスホン酸、N−(メタ)アクリロイル−ω−アミノプロピルホスホン酸などが挙げられる。
このような酸性基含有(メタ)アクリレート化合物は、単独使用または2種以上併用することができる。
また、酸性基含有(メタ)アクリレート化合物のなかでは、好ましくは、カルボン酸系(メタ)アクリレート化合物およびリン酸系(メタ)アクリレート化合物が挙げられ、さらに好ましくは、カルボン酸系(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。
カルボン酸系(メタ)アクリレート化合物のなかでは、好ましくは、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメリット酸およびその酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸およびその酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリット酸およびその酸無水物、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸が挙げられ、さらに好ましくは、11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸(MAC−10)、4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸(4−MET)、4−METの酸無水物(4−META)、N−メタクリロイル−5−アミノサリチル酸(5−MASA)が挙げられる。
リン酸系(メタ)アクリレート化合物のなかでは、好ましくは、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルアシドホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルアシドホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルアシドホスフェートが挙げられ、さらに好ましくは、2−メタクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート(Phenyl P)および10−メタクリロイルオキシデシルアシドホスフェート(MDP)が挙げられる。
(A2)酸性基不含有(メタ)アクリレート化合物
酸性基不含有(メタ)アクリレート化合物は、上記した酸性基含有(メタ)アクリレート化合物以外の(メタ)アクリレート化合物であって、(メタ)アクリロイル基を有する一方、酸性基を有しない。
酸性基不含有(メタ)アクリレート化合物として、例えば、酸性基不含有モノ(メタ)アクリレート化合物、酸性基不含有ポリ(メタ)アクリレート化合物などが挙げられる。
酸性基不含有モノ(メタ)アクリレート化合物として、例えば、(メタ)アクリル酸、例えば、直鎖状または分枝状アルキルモノ(メタ)アクリレート(例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレートなど)、例えば、水酸基末端アルキルモノ(メタ)アクリレート(例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなど)、例えば、水酸基末端オキシアルキレンモノ(メタ)アクリレート(例えば、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなど)、例えば、アルコキシ基末端オキシアルキレンモノ(メタ)アクリレート(例えば、メトキシジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなど)、例えば、複素環含有モノ(メタ)アクリレート(例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラフルフリル(メタ)アクリレートなど)などが挙げられる。
酸性基不含有ポリ(メタ)アクリレート化合物として、例えば、モノオキシアルキレンポリ(メタ)アクリレート(例えば、メチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどのモノオキシアルキレンジ(メタ)アクリレートなど)、例えば、ポリオキシアルキレンポリ(メタ)アクリレート(例えば、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリオキシアルキレンジ(メタ)アクリレートなど)、例えば、ポリメチロールアルカン骨格含有ポリ(メタ)アクリレート(例えば、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどのトリメチロールアルカントリ(メタ)アクリレート、例えば、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどのテトラメチロールアルカンテトラ(メタ)アクリレート、例えば、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートなどのポリメチロールアルカン骨格がエーテル結合により連結されるエーテル化合物など)などが挙げられる。
このような酸性基不含有(メタ)アクリレート化合物は、単独使用または2種以上併用することができる。
また、酸性基不含有(メタ)アクリレート化合物のなかでは、好ましくは、アルキルモノ(メタ)アクリレートおよびポリオキシアルキレンポリ(メタ)アクリレートが挙げられ、さらに好ましくは、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
このような酸性基含有(メタ)アクリレート化合物および酸性基不含有(メタ)アクリレート化合物は、いずれか一方のみが単独使用されてもよく併用されてもよいが、好ましくは、好ましくは併用される。つまり、重合性単量体は、好ましくは、酸性基含有(メタ)アクリレート化合物および酸性基不含有(メタ)アクリレート化合物を含み、さらに好ましくは、酸性基含有(メタ)アクリレート化合物および酸性基不含有(メタ)アクリレート化合物からなる。
酸性基含有(メタ)アクリレート化合物と酸性基不含有(メタ)アクリレート化合物との組み合わせとして、好ましくは、カルボン酸系(メタ)アクリレート化合物およびアルキルモノ(メタ)アクリレートが挙げられ、さらに好ましくは、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸の無水物およびメチル(メタ)アクリレートが挙げられ、とりわけ好ましくは、4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸の無水物(4−META)およびがメチルメタクリレート挙げられる。
このような重合性単量体の含有割合は、重合性単量体と、ポリ(メタ)アクリレートと、抗菌剤含有層状ケイ酸塩と、ホウ素系重合開始剤との総和100質量部(以下、必須成分の総和100質量部とする。)に対して、例えば、20質量部以上、好ましくは、29質量部以上、例えば、80質量部以下、好ましくは、70質量部以下である。
また、重合性単量体として、酸性基含有(メタ)アクリレート化合物および酸性基不含有(メタ)アクリレート化合物が併用される場合、酸性基含有(メタ)アクリレート化合物の含有割合は、必須成分の総和100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上、好ましくは、0.1質量部以上、例えば、10重量部以下、好ましくは、8重量部以下であり、酸性基不含有(メタ)アクリレート化合物の含有割合は、必須成分の総和100質量部に対して、例えば、19質量部以上、好ましくは、28質量部以上、例えば、69質量部以下、好ましくは、60質量部以下である。
酸性基含有(メタ)アクリレート化合物の含有割合が上記下限以上であれば、抗菌性歯科用接着性組成物の歯質接着性の向上を図ることができ、酸性基含有(メタ)アクリレート化合物の含有割合が上記上限以下であれば、抗菌性歯科用接着性組成物の重合性の向上を図ることができる。
また、酸性基不含有(メタ)アクリレート化合物の含有割合が上記下限以上であれば、抗菌性歯科用接着性組成物においてポリ(メタ)アクリレートを十分に溶解でき、抗菌性歯科用接着性組成物の硬化物の物性の向上を図ることができ、酸性基不含有(メタ)アクリレート化合物の含有割合が上記上限以下であれば、抗菌性歯科用接着性組成物の重合性の向上を確実に図ることができる。
(B)ポリ(メタ)アクリレート
ポリ(メタ)アクリレートは、例えば、上記した重合性単量体の重合体であって、好ましくは、上記した酸性基不含有(メタ)アクリレート化合物の重合体である。
ポリ(メタ)アクリレートとして、具体的には、上記した酸性基不含有(メタ)アクリレート化合物のホモポリマー、上記した酸性基不含有(メタ)アクリレート化合物のコポリマーなどが挙げられる。
酸性基不含有(メタ)アクリレート化合物のホモポリマーとして、例えば、(メタ)アクリル酸のホモポリマー(例えば、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸など)、アルキルモノ(メタ)アクリレートのホモポリマー(例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレートなど)などが挙げられる。
酸性基不含有(メタ)アクリレート化合物のコポリマーとして、例えば、アルキルモノ(メタ)アクリレートのコポリマー(例えば、メチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体、メチルメタクリレート−ブチルメタクリレート共重合体など)、アルキルモノ(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸とのコポリマー(例えば、ポリメチルメタクリレート−アクリル酸共重合体、ポリエチルメタクリレート−アクリル酸共重合体など)などが挙げられる。
このようなポリ(メタ)アクリレートは、単独使用または2種以上併用することができる。
ポリ(メタ)アクリレートのなかでは、好ましくは、アルキルモノ(メタ)アクリレートのホモポリマーが挙げられ、さらに好ましくは、ポリメチルメタクリレートが挙げられる。つまり、ポリ(メタ)アクリレートは、好ましくは、アルキルモノ(メタ)アクリレートのホモポリマー(ポリメチルメタクリレート)を含み、さらに好ましくは、アルキルモノ(メタ)アクリレートのホモポリマー(ポリメチルメタクリレート)からなる。
ポリ(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、例えば、1000以上、好ましくは、1万以上、さらに好ましくは、5万以上、例えば、100万以下、好ましくは、70万以下、さらに好ましくは、50万以下である。なお、重量平均分子量は、GPC(Gel Permeation Chromatography、ゲル浸透クロマトグラフィー)などにより測定できる。
ポリ(メタ)アクリレートの重量平均分子量が上記下限以上であれば、抗菌性歯科用接着性組成物の重合性の向上をより確実に図ることができ、ポリ(メタ)アクリレートの重量平均分子量が上記上限以下であれば、抗菌性歯科用接着性組成物におけるポリ(メタ)アクリレートの溶解性を確保でき、抗菌性歯科用接着性組成物の硬化物の物性の向上を確実に図ることができる。
また、ポリ(メタ)アクリレートは、例えば、ポリマー粒子である。
ポリ(メタ)アクリレートの平均一次粒子径は、例えば、0.1μm以上、好ましくは、1μm以上、さらに好ましくは、5μm以上、とりわけ好ましくは、10μm以上、例えば、300μm以下、好ましくは、200μm以下、さらに好ましくは、100μm以下である。なお、平均一次粒子径は、レーザ回析式粒度分布測定によって測定できる。
ポリ(メタ)アクリレートの平均一次粒子径が上記下限以上であれば、抗菌性歯科用接着性組成物におけるポリ(メタ)アクリレートの溶解性が過度に上昇して、糸引きなどの取扱不良(操作不良)が生じることを抑制でき、ポリ(メタ)アクリレートの平均一次粒子径が上記上限以下であれば、抗菌性歯科用接着性組成物におけるポリ(メタ)アクリレートの溶解性を確実に確保でき、抗菌性歯科用接着性組成物の硬化物の物性の向上をより確実に図ることができる。
このようなポリ(メタ)アクリレートの含有割合は、必須成分の総和100質量部に対して、例えば、10質量部以上、好ましくは、20質量部以上、例えば、70質量部以下、好ましくは、50質量部以下である。
ポリ(メタ)アクリレートの含有割合が上記下限以上であれば、抗菌性歯科用接着性組成物の重合性の向上をより一層確実に図ることができ、ポリ(メタ)アクリレートの含有割合が上記上限以下であれば、抗菌性歯科用接着性組成物におけるポリ(メタ)アクリレートの溶解性をより確実に確保でき、抗菌性歯科用接着性組成物の硬化物の物性の向上をより一層確実に図ることができる。
(C)抗菌剤含有層状ケイ酸塩
抗菌剤含有層状ケイ酸塩は、層状ケイ酸塩に抗菌剤を予め担持させたフィラーとして使用され、層状ケイ酸塩と、層状ケイ酸塩に担持される抗菌剤とを有する。
層状ケイ酸塩は、層状構造を有するケイ酸塩であって、層電荷を持つため層間に、例えば、Na+、Mg2+、Ca2+などの陽イオンを水和した状態で取り込んでおり、概して親水性を有するケイ酸塩である。
層状ケイ酸塩は、特に制限されないが、例えば、層電荷が0.2以上0.6以下のスメクタイト族、層電荷が0.6以上1.0以下のバーミキュライト族、雲母(マイカ)、Al・Mg不含有ケイ酸塩などの粘土鉱物が挙げられる。なお、層電荷は、赤外線分光法、固体核磁気共鳴法、電子スピン共鳴法、X線回析などの化学分析から計算された構造式によって求められる。
層電荷が0.2以上0.6以下のスメクタイト族として、例えば、2八面体型スメクタイト族(例えば、モンモリロナイト、バイデライトなど)、3八面体型スメクタイト族(例えば、サポナイト、ヘクトライトなど)などが挙げられる。
層電荷が0.6以上1.0以下のバーミキュライト族として、例えば、2八面体型バーミキュライト、3八面体型バーミキュライトなどが挙げられる。
雲母(マイカ)として、例えば、金雲母、白雲母、フッ素金雲母、フッ素四ケイ素雲母、ナトリウム四ケイ素雲母、Na型テニオライト、Li型テニオライトなどが挙げられる。
Al・Mg不含有ケイ酸塩は、アルミニウムおよび/またはマグネシウムを含まない層状ケイ酸塩であって、例えば、カネマイト、マカタイト、マガディアイト、ケニアイトなどが挙げられる。
このような層状ケイ酸塩は、単独使用または2種以上併用することができる。
層状ケイ酸塩のなかでは、好ましくは、層電荷が0.2以上0.6以下のスメクタイト族、および、雲母(マイカ)が挙げられ、さらに好ましくは、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライトおよび雲母(マイカ)が挙げられ、とりわけ好ましくは、モンモリロナイトが挙げられる。
つまり、抗菌剤含有層状ケイ酸塩は、好ましくは、層電荷が0.2以上0.6以下のスメクタイト族、および/または、雲母(マイカ)を含み、さらに好ましくは、モンモリロナイト、ヘクトライト、バイデライト、サポナイトおよびマイカからなる群から選ばれる少なくとも1種の層状ケイ酸塩を含み、とりわけ好ましくは、モンモリロナイトを含む。
抗菌剤含有層状ケイ酸塩が上記のスメクタイト族(モンモリロナイト、ヘクトライト、バイデライト、サポナイト)および/または、雲母(マイカ)を含むと、抗菌性歯科用接着性組成物の硬化物の徐放性を確実に確保することができる。
また、層状ケイ酸塩は、好ましくは、層電荷が0.2以上0.6以下のスメクタイト族(モンモリロナイト、ヘクトライト、バイデライト、サポナイト)および/または、雲母(マイカ)からなる。
このような層状ケイ酸塩は、通常、白色、薄茶色、薄灰色などの粉末状を有し、好ましくは、白色の粉末状を有する。
層状ケイ酸塩の平均粒子径は、特に制限されないが、例えば、0.1μm以上、好ましくは、0.5μm以上、さらに好ましくは1μm以上、例えば、500μm以下、好ましくは、100μm以下、さらに好ましくは、50μm以下である。なお、層状ケイ酸塩の平均粒子径は、レーザ回析式粒度分布測定によって測定できる。
層状ケイ酸塩の平均粒子径が上記範囲内であれば、抗菌性歯科用接着性組成物の取扱性(操作性)の向上を図ることができる。
このような層状ケイ酸塩は、天然に存在する鉱物を精製して調製してもよく、水熱法などの公知の方法により合成してもよい。
抗菌剤は、物理吸着および/または化学吸着により、層状ケイ酸塩に担持される。抗菌剤は、口腔内に適用可能であれば特に制限されないが、例えば、アニオン性抗菌剤、非イオン性抗菌剤、カチオン性抗菌剤、両イオン性抗菌剤などが挙げられる。
つまり、抗菌剤は、例えば、アニオン性抗菌剤、非イオン性抗菌剤、カチオン性抗菌剤および両イオン性抗菌剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の抗菌剤を含む。
抗菌剤が上記特定の抗菌剤を含むと、抗菌性歯科用接着性組成物に確実に抗菌性を付与することができる。
このような抗菌剤のなかでは、層状ケイ酸塩に対する担持性の観点から好ましくは、カチオン性抗菌剤が挙げられる。つまり、抗菌剤は、好ましくは、カチオン性抗菌剤を含み、さらに好ましくは、カチオン性抗菌剤からなる。
カチオン性抗菌剤として、例えば、第四級アンモニウム塩化合物などが挙げられる。
第四級アンモニウム塩化合物として、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウムなどが挙げられ、好ましくは、塩化セチルピリジニウムが挙げられる。
このような抗菌剤は、単独使用または2種以上併用することができる。
このような抗菌剤含有層状ケイ酸塩は、公知の方法に従って調製できる。
例えば、上記の抗菌剤と上記の層状ケイ酸塩とを、水などの溶媒中において接触させる。具体的には、層状ケイ酸塩をイオン交換水に添加して調製した懸濁液に、抗菌剤をイオン交換水に溶解した抗菌剤溶液を徐々に滴下して撹拌する。これによって、抗菌剤の一部は、イオン化されて層状ケイ酸塩に化学吸着するとともに、抗菌剤の残部は、イオン化されることなく層状ケイ酸塩に物理吸着する。
そして、それらの混合液から固形成分をろ過により採取し、必要に応じて洗浄および乾燥し、その後、必要に応じて粉砕あるいは凍結粉砕して、抗菌剤含有層状ケイ酸塩を調製する。
なお、用いる溶媒の種類およびその量、撹拌時の温度および時間、ならびにその他の条件は公知技術に従って適宜調整することができる。
このような抗菌剤含有層状ケイ酸塩における抗菌剤の層状ケイ酸塩に対する担持割合(担持比)は、層状ケイ酸塩100質量部に対して、例えば、10質量部以上、好ましくは、20質量部以上、例えば、200質量部以下、好ましくは、150質量部以下である。なお、抗菌剤の層状ケイ酸塩に対する担持割合(担持比)は、公知の熱分析計により測定できる。
このような抗菌剤含有層状ケイ酸塩の含有割合は、必須成分の総和100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上、好ましくは、1質量部以上、例えば、15質量部以下、好ましくは、12質量部以下、さらに好ましくは、5質量部以下、とりわけ好ましくは、3質量部以下である。
また、抗菌剤含有層状ケイ酸塩の含有割合は、ポリ(メタ)アクリレート100質量部に対して、例えば、1質量部以上、好ましくは、2質量部以上、さらに好ましくは、3質量部以上、とりわけ好ましくは、3.5質量部以上、15質量部未満、好ましくは、12質量部以下、さらに好ましくは、10質量部以下、とりわけ好ましくは、8質量部以下である。
抗菌剤含有層状ケイ酸塩の含有割合が上記下限以上であれば、抗菌性歯科用接着性組成物に抗菌性を確実に付与することができ、抗菌剤含有層状ケイ酸塩の含有割合が上記上限以下であれば、抗菌性歯科用接着性組成物の重合性が低下することを抑制できる。
とりわけ、ポリ(メタ)アクリレート100質量部に対する抗菌剤含有層状ケイ酸塩の含有割合が上記範囲であれば、抗菌性歯科用接着性組成物に抗菌性を確実に付与することができながら、抗菌性歯科用接着性組成物の歯質接着性を顕著に向上させることができる。
特に、ポリ(メタ)アクリレート100質量部に対する抗菌剤含有層状ケイ酸塩の含有割合が1質量部以上12質量部以下であれば、抗菌剤含有層状ケイ酸塩を含有しない歯科用接着性組成物よりも優れた歯質接着性を確保することができる。
(D)ホウ素系重合開始剤
ホウ素系重合開始剤は、ホウ素を含有する化合物であって、重合性単量体の重合を開始させる。
ホウ素系重合開始剤として、例えば、一般式BR3で示されるホウ素化合物、および、その部分酸化物が挙げられる。つまり、ホウ素系重合開始剤は、例えば、一般式BR3で示されるホウ素化合物および/またはその部分酸化物を含む。
ホウ素系重合開始剤が一般式BR3で示されるホウ素化合物および/またはその部分酸化物を含むと、抗菌性歯科用接着性組成物に抗菌性をより確実に付与できながら、抗菌性歯科用接着性組成物の歯質接着性の向上を確実に図ることができる。
一般式BR3においてBは、ホウ素原子を示す。
一般式BR3においてR3は、3つのRを示し、Rは、例えば、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルケニル基、炭素数1〜20のアルコキシ基などを示す。また、一般式BR3において2つ以上のRは、相互に結合して脂肪族環などの環構造を形成していてもよいが、活性の観点から好ましくは、環構造を形成しない。
つまり、一般式BR3においてRは、好ましくは、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルケニル基および炭素数1〜20のアルコキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基である。
一般式BR3においてRが上記した特定の置換基であれば、抗菌性歯科用接着性組成物の歯質接着性の向上をより確実に図ることができる。
また、一般式BR3においてRとして示される置換基のなかでは、好ましくは、アリール基以外の官能基(アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基およびアルコキシ基)が挙げられ、さらに好ましくは、炭素数1〜20のアルキル基が挙げられ、とりわけ好ましくは、炭素数1〜10のアルキル基が挙げられ、特に好ましくは、炭素数1〜5のアルキル基が挙げられる。
このようなRは、一般式BR3において、互いに同一または互いに異なっていてもよい。
一般式BR3で示されるホウ素化合物として、例えば、トリメチルボラン、トリエチルボラン、トリプロピルボラン(例えば、トリ−n−プロピルボラン、トリイソプロピルボランなど)、トリブチルボラン(例えば、トリ−n−ブチルボラン、トリイソブチルボラン、トリ−sec−ブチルボランなど)などのトリアルキルボラン、例えば、(1,3−シクロペンタジエニル)ジメチルボランなどのジアルキルシクロアルケニルボラン、例えば、フェニルジエチルボランなどのアリールジアルキルボランなどが挙げられる。
なお、このようなホウ素化合物において、ホウ素原子に結合する置換基(R)のうち少なくとも1つが、アルコキシ基に置換されていてもよい。
上記した一般式BR3で示されるホウ素化合物(以下、BR3とする。)の部分酸化物は、例えば、上記したBR31molに対して、1mol未満の酸素を付加させた化合物である。
BR3の部分酸化物における酸素の付加割合は、BR31molに対して、例えば、0.3mol以上、好ましくは、0.4mol以上、例えば、0.9mol以下、好ましくは、0.6mol以下である。
このようなホウ素系重合開始剤は、単独使用または2種以上併用することができる。
また、ホウ素系重合開始剤のなかでは、好ましくは、トリアルキルボランおよびトリアルキルボランの部分酸化物が挙げられ、さらに好ましくは、トリアルキルボランの部分酸化物が挙げられ、とりわけ好ましくは、トリブチルボランの部分酸化物が挙げられる。
つまり、ホウ素系重合開始剤は、トリアルキルボランおよび/またはトリアルキルボランの部分酸化物(トリブチルボランの部分酸化物)を含み、さらに好ましくは、トリアルキルボランの部分酸化物(トリブチルボランの部分酸化物)からなる。
このようなホウ素系重合開始剤の含有割合は、必須成分の総和100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上、好ましくは、1質量部以上、例えば、7質量部以下、好ましくは、5質量部以下である。
ホウ素系重合開始剤の含有割合が上記下限以上であれば、抗菌性歯科用接着性組成物の重合性を確実に確保でき、抗菌性歯科用接着性組成物の歯質接着性の向上をより確実に図ることができ、ホウ素系重合開始剤の含有割合が上記上限以下であれば、抗菌性歯科用接着性組成物の硬化時間の低減を図ることができ、抗菌性歯科用接着性組成物の取扱性(操作性)の向上を図ることができる。
<抗菌性歯科用接着性組成物の使用方法>
このような抗菌性歯科用接着性組成物は、例えば、上記した重合性単量体を含むモノマー成分と、上記したポリ(メタ)アクリレートおよび上記した抗菌剤含有層状ケイ酸塩を含むポリマー成分と、上記したホウ素系重合開始剤を含む触媒成分とを、別々に備える3成分型接着剤組成物(接着剤キット)として調製される。
なお、ポリマー成分は、上記したポリ(メタ)アクリレートおよび上記した抗菌剤含有層状ケイ酸塩を上記した割合で混合した後、必要に応じて、それらの混合物を篩過し、粗大粒子を除去して調製される。
そして、モノマー成分、ポリマー成分および触媒成分は、使用直前において混合される。
このように混合された各成分(抗菌性歯科用接着性組成物)は、例えば、歯質および/または修復材料(例えば、クラウン、インレー、コンポジットレジンなど)に塗布される。
次いで、修復材料を歯質に取り付けた後、抗菌性歯科用接着性組成物を硬化させる。以上によって、修復材料が、抗菌性歯科用接着性組成物の硬化物によって歯質に接着される。
このような抗菌性歯科用接着性組成物(抗菌性歯科用接着性組成物の硬化物)は、抗菌剤含有層状ケイ酸塩を含有しているので、層状ケイ酸塩から抗菌剤を徐放できる。
また、一旦、抗菌性歯科用接着性組成物(抗菌性歯科用接着性組成物の硬化物)からの抗菌剤の徐放が完了しても、上記した抗菌剤を含有する抗菌剤含有組成物(例えば、洗口剤、ジェル状組成物など)を、徐放後の抗菌性歯科用接着性組成物(抗菌性歯科用接着性組成物の硬化物)の界面に、所定時間(好ましくは、10分間以上、さらに好ましくは、60分間以上)、接触保持することにより、層状ケイ酸塩に抗菌剤を再担持させることができる。
抗菌剤含有組成物における抗菌剤濃度(質量/体積:w/v)は、例えば、0.0001/v%以上、好ましくは、0.001w/v%以上、さらに好ましくは、0.01w/v%以上、例えば、20w/v%以下、好ましくは、10w/v%以下、さらに好ましくは、2w/v%以下である。
これによって、抗菌性歯科用接着性組成物(抗菌性歯科用接着性組成物の硬化物)の徐放性を回復することができ、抗菌性の維持期間の向上を図ることができる。
<作用効果>
上記した抗菌性歯科用接着性組成物は、重合性単量体と、ポリ(メタ)アクリレートと、抗菌剤含有層状ケイ酸塩と、ホウ素系重合開始剤とを含有する。
しかるに、上記した抗菌剤が、層状ケイ酸塩に担持されることなく、抗菌性歯科用接着性組成物に含有される場合、抗菌性歯科用接着性組成物の重合が阻害される場合や、他の成分(例えば、重合性単量体、ポリ(メタ)アクリレート、ホウ素系重合開始剤)との混合において分散性を十分に確保できず、不均一化してしまうおそれがある。
そのため、歯科用接着性組成物の歯質接着性を十分に確保できず、歯科用接着性組成物の硬化物において抗菌性を十分に確保できない場合がある。
一方、上記した抗菌性歯科用接着性組成物は、層状ケイ酸塩に抗菌剤が予め担持される抗菌剤含有層状ケイ酸塩を含有するので、抗菌性歯科用接着性組成物の重合性を十分に確保できるとともに、抗菌剤含有層状ケイ酸塩を均一となるように分散させることができる。
そのため、抗菌性歯科用接着性組成物を修復材料の歯質に対する接着に用いたときに、抗菌性歯科用接着性組成物の硬化物から抗菌剤を十分に徐放させることができる。
その結果、ポリ(メタ)アクリレート100質量部に対する抗菌剤含有層状ケイ酸塩の含有割合が上記上限未満であっても、バイオフィルムの生成および付着を抑制可能な抗菌性を確保することができる。
また、抗菌剤含有層状ケイ酸塩およびホウ素系重合開始剤が併用され、かつ、抗菌剤含有層状ケイ酸塩の含有割合が上記上限未満であるので、上記のように抗菌性を確保できながら、抗菌性歯科用接着性組成物の歯質接着性の向上を図ることができる。
その結果、抗菌性歯科用接着性組成物の硬化物において抗菌剤の除放性を確保することができながら、抗菌性歯科用接着性組成物の歯質接着性の向上を図ることができる。
また、抗菌性歯科用接着性組成物の硬化物の劣化により、抗菌性歯科用接着性組成物の硬化物にクラックなどが生じても、クラックから新たに露出した抗菌剤含有層状ケイ酸塩から抗菌剤を除放できるので、長期間にわたって、抗菌性を持続可能であり、バイオフィルム付着抑制能の向上を図ることができる。
また、抗菌性歯科用接着性組成物の硬化物からの抗菌剤の徐放が完了した後、抗菌性歯科用接着性組成物の硬化物に上記した抗菌剤を含有する抗菌剤含有組成物を接触させることにより、層状ケイ酸塩に抗菌剤を再担持させることができる。そのため、簡易な方法でありながら、抗菌性歯科用接着性組成物の硬化物の除放性を回復することができる。
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、それらに限定されない。以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
<比較例1>
市販の歯科用接着性組成物としてスーパーボンド(商品名、サンメディカル社製、Lot.60901)を準備した。スーパーボンドは、モノマー成分と、ポリマー成分と、触媒成分とを、別々に備える3成分型接着剤組成物である。
モノマー成分は、重合性単量体として、メチルメタクリレートおよび4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸の無水物を含有する。
ポリマー成分は、ポリ(メタ)アクリレートとして、ポリメチルメタクリレートを含有する一方、抗菌剤含有層状ケイ酸塩を含有しない。ポリメチルメタクリレートの重量平均分子量は、40万であり、ポリメチルメタクリレートの平均一次粒子径は、25μmである。
触媒成分は、ホウ素系重合開始剤として、トリブチルボランの部分酸化物を含有する。
そして、各成分の含有割合を表1に示す。
<実施例1〜3および比較例2、3>
特開2016−160192公報の実施例に記載の〔CPC−モンモリロナイト(初期サンプル)の調製〕の手順に基づき、塩化セチルピリジニウム担持モンモリロナイト(以下、CPC−Montとする。)を調製した。
CPC−Montにおいて、セチルピリジニウムイオンの含有割合は、モンモリロナイト100質量部に対して、35質量部であり、塩化セチルピリジニウムの含有割合は、モンモリロナイト100質量部に対して、97質量部であった。
次いで、CPC−Montを、280メッシュ(目開き53μm)の篩にかけて、CPC−Montのうち、平均粒子径が53μmを超過する粒子を除去した。
また、上記したスーパーボンド(商品名、サンメディカル社製)を別途準備した。
そして、篩過後のCPC−Montを、スーパーボンドのポリマー成分に、ポリメチルメタクリレート100質量部に対するCPC−Montの含有割合が表1に示す値となるように添加して、ロッキングミキサー(Glen Mills社製、商品名:TURBULA SHAKER MIXER T2F)により、60分間混合した。
その後、CPC−Montおよびポリメチルメタクリレートを含有する混合物を、再度、280メッシュ(目開き53μm)の篩にかけて、混合物のうち、平均粒子径が53μmを超過する粒子を除去した。これによって、CPC−Montおよびポリメチルメタクリレートを含有するポリマー成分を準備した。
以上によって、CPC−Montおよびポリメチルメタクリレートを含有するポリマー成分と、メチルメタクリレートおよび4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸の無水物を含有するモノマー成分と、トリブチルボランの部分酸化物を含有する触媒成分とを備える抗菌性歯科用接着性組成物を準備した。
<<評価>>
<歯質接着性>
抜去後に歯髄を除去して冷凍保存した牛歯を、試験実施直前に解凍し、#180のエメリーペーパーを用いて象牙質を露出した。その象牙質表面に、直径4.8mmの穴を有する両面テープを貼り付けて接着面積を規定した。
また、各実施例の抗菌性歯科用接着性組成物および比較例の歯科用接着性組成物のそれぞれが備えるポリマー成分、モノマー成分および触媒成分を混合して、接着性ペースト(歯科用接着性組成物)を調製した。
そして、両面テープの穴から露出する象牙質面に、各接着性ペーストを塗布した後、アクリルロッドを植立した。その後、アクリルロッドが植立された牛歯を、30分間室温(25℃)において放置して、各接着性ペーストを硬化させて、アクリルロッドを象牙質面に接着した。
その後、アクリルロッドが接着された牛歯(以下、接着試験サンプルとする。)を、37℃の水中に12時間浸漬した。
水中浸漬完了後に、室温(25℃)において、試験サンプルに対してオートグラフ(島津製作所社製、クロスヘッドスピード(C.H.S)=2mm/min)により引張試験を実施し、接着強さを測定した。
そして、上記と同様の引張試験を5回実施して、試験サンプルの平均接着強さおよび標準偏差を算出した。その結果を表1および図1に示す。
<抗菌性(バイオフィルム形成試験)>
・実施例1〜3および比較例2、3における抗菌試験サンプルの調製
各実施例および各比較例の抗菌性歯科用接着性組成物が備えるポリマー成分、モノマー成分および触媒成分を混合して、接着性ペースト(歯科用接着性組成物)を調製した。
次いで、接着性ペーストを、内径10mm×長さ2mmの内寸を有するモールドに填入して、室温(25℃)において8時間放置して硬化させた。そして、接着性ペーストの硬化物であるレジンプレートを、モールドから取り出した。
次いで、レジンプレートの全体を、市販の歯科充填用コンポジットレジン(商品名:クリアフィル マジェスティ ES−2、シェードA2、Lot.4H0074)により均一に覆い、歯科充填用コンポジットレジンに所定時間可視光を照射して硬化させた。
これによって、直径12mm×長さ4mmの円柱形状を有するコンポジットレジン被覆材を得た。
次いで、コンポジットレジン被覆材から、直径10mm×長さ2mmの円柱形状を有するサンプル(以下、抗菌試験サンプルとする。)を切り出した。
・比較例1における抗菌試験サンプルの調製
各実施例の抗菌性歯科用接着性組成物を比較例1の歯科用接着性組成物(商品名:スーパーボンド)に変更した以外は、上記した抗菌試験サンプルの調製と同様にして、抗菌試験サンプルを調製した。この比較例の抗菌試験サンプルを、表1において、比較例1−1とする。
また、レジンプレートの全体を、上記した歯科充填用コンポジットレジンに代えて、市販材料(商品名:クリアフィル メガボンド FA プライマー、クラレノリタケデンタル社製、Lot.390056)により均一に覆い、20秒間放置後、エアー乾燥させた以外は、上記の比較例1−1と同様にして、抗菌試験サンプルを調製した。この比較例の抗菌試験サンプルを、表1において、比較例1−2とする。
また、レジンプレートの全体を、上記した歯科充填用コンポジットレジンに代えて、市販材料(商品名:サホライド液歯科用 38%、ビーブランド・メディコ−デンタル社製、Lot.696RA)により均一に覆い、20秒間放置後、エアー乾燥させたこと以外は、上記の比較例1−1と同様にして、抗菌試験サンプルを調製した。この比較例の抗菌試験サンプルを、表1において、比較例1−3とする。
・菌液の調製
蒸留水(和光純薬社製)500mlに、BHI(商品名:パールコア ブレインハートインヒュジョン ブイヨン培地 Lot49001、栄研化学社製)18.5gを溶解し、オートクレーブ(商品名:LSX−300、TOMY社製)を用いて、121℃において20分間滅菌して、液体培地を得た。
液体培地400mlに、スクロース(ナカライタスク社製、Lot.M3G0428)8gを溶解し、S.mutans菌(ATCC25175)を含むBHIを添加した。
これにより、2質量%スクロース添加S.mutans菌液を調製した。
・バイオフィルム形成状態の観察
スクロース添加S.mutans菌液1mlに各抗菌試験サンプルを入れて、37℃の恒温槽内に保管した。そして、24時間ごとにスクロース添加S.mutans菌液を取り換えることを繰り返して、1週間後、2週間後および2か月後のそれぞれにおける各抗菌試験サンプル表面に形成されるバイオフィルムの状態を、SEM(商品名:JSM−6701F、JEOL社製、)にて観察した。なお、比較例1−1〜1−3の抗菌試験サンプルでは、1週間後におけるバイオフィルムの状態のみを観察した。
そして、各抗菌試験サンプル表面のバイオフィルム形成状態を、以下の基準により評価した。その結果を表1に示す。
抗菌試験サンプル表面にバイオフィルムが形成されていない。:0
抗菌試験サンプル表面において、0面積%を超過し50面積%以下の範囲にバイオフィルムが形成されている。:1
抗菌試験サンプル表面において、50面積%を超過し100面積%未満の範囲にバイオフィルムが形成されている。:2
抗菌試験サンプル表面の全体(100面積%)にバイオフィルムが形成されている。:3
表1中の略号の詳細を下記する。
MMA:メタクリル酸メチル、
4−META:4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸の無水物、
PMMA:ポリメチルメタクリレート、
CPC−Mont:塩化セチルピリジニウム担持モンモリロナイト、
TBB:トリブチルボランの部分酸化物。
<除放性>
実施例3の抗菌性歯科用接着性組成物が備えるポリマー成分、モノマー成分および触媒成分を混合して、接着性ペースト(歯科用接着性組成物)を調製した。
次いで、接着性ペーストを、内径10mm×長さ2mmの内寸を有するモールドに填入して、室温(25℃)において8時間放置して硬化させた。そして、接着性ペーストの硬化物であるレジンプレートを、モールドから取り出した。
次いで、レジンプレートを、37℃に設定した恒温振とう培養機において5mLの蒸留水に浸漬して、1日ごとに蒸留水を取り換えて、蒸留水に溶出する塩化セチルピリジニウム量(CPC溶出量)を測定した。
なお、剥離部位からのCPC溶出挙動を検討するため、2日目のCPC溶出量測定後と、12日目のCPC溶出量測定後とに、レジンプレートの表面を#1000の耐水研磨紙を用いて磨き、再度、蒸留水に浸漬し、CPC溶出量を調べた。その結果を図2に示す。
<考察>
図1および表1に示されるように、抗菌性歯科用接着性組成物が、抗菌剤含有層状ケイ酸塩およびホウ素系重合開始剤を併有し、かつ、ポリ(メタ)アクリレート100質量部に対する抗菌剤含有層状ケイ酸塩の含有割合が、15質量部未満であると、抗菌性を付与できながら、歯質接着性が向上することが確認された。
とりわけ、ポリ(メタ)アクリレート100質量部に対する抗菌剤含有層状ケイ酸塩の含有割合が、2質量部以上10質量部以下であると、抗菌性歯科用接着性組成物の歯質接着性が向上することが確認された。この点、実施例1〜実施例3と、比較例1〜3との比較からも明らかである。
ポリ(メタ)アクリレート100質量部に対する抗菌剤含有層状ケイ酸塩の含有割合が2質量部以上10質量部以下である実施例1〜実施例3は、抗菌剤含有層状ケイ酸塩を含有しない比較例1よりも接着性に優れており、かつ、ポリ(メタ)アクリレート100質量部に対する抗菌剤含有層状ケイ酸塩の含有割合が15質量部以上である比較例2および比較例3と比較して、顕著に接着性が向上されている。
また、図2に示されるように、抗菌性歯科用接着性組成物の硬化物は、抗菌剤の除放性を有することが確認された。より詳しくは、CPC溶出量は、経過日数の増加に伴って減少するが、レジンプレートの研磨後において、CPC溶出量が、研磨前に比べて増加した。
これは、研磨によりCPC−Montが、レジンプレートの表面から露出したためであると考えられる。この結果より、抗菌性歯科用接着性組成物の硬化物の劣化に伴って、その一部が剥離した場合(クラックが生じた場合)において、抗菌剤(CPC)が良好に徐放され、清浄な状態を保持できることを示唆している。