JP2019527732A - 慢性腎疾患を治療するための生物活性腎細胞 - Google Patents

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Abstract

本発明は、慢性腎疾患を治療するために、生物活性腎細胞集団を使用して、自然腎に対して再生効果を提供する方法に関する。【選択図】なし

Description

本発明は、生物活性腎細胞集団を使用して慢性腎疾患を有する対象を治療する方法、及び選択された腎細胞集団を使用して自然腎に対して再生効果を提供する方法に関する。
慢性腎疾患(CKD)は、治療介入しなければ悪化し、最終的に患者は末期腎疾患(ESRD)に至るおそれのある進行性の腎障害により特徴づけられる。米国から欧州より得られた有病率のデータは、一般母集団の約10%がステージ1−3CKDを有することを示している(ERA, 2009; USRDS, 2011; Jha等、Chronic kidney disease: global dimension and perspectives. Lancet. 2013; 382:260-72)。世界的には、CKD及びESRDの罹病率及び有病率は増加している一方、治療転帰は不良のままである(Shaw等、Global estimates of the prevalence of diabetes for 2010及び2030. Diabetes Res Clin Pract. 2010; 87:4-14)。ESRDの最大の原因は糖尿病であり(Postma及びde Zeeuw、2009)、また2型糖尿病の罹病率の増加に主に起因してCKDの罹病率は増加の一途をたどる(Postma及びde Zeeuw、2009)。CKDは、高血圧症及び腎血管疾患を含む潜在的な併存症及び/又はリスク因子によって、多くの場合有害な転帰を伴う(Khan等、2002; Stenvinkel P. Chronic kidney disease - a public health priority and harbinger of premature cardiovascular disease J Intern med. 2010; 268:456-67)。重篤な併存症に起因して、CKDを有する患者は、ESRDに進行して生存する場合よりも早期死亡を経験する場合の方が5−11倍高い可能性がある(Collins等、2003; Smith 等、2004)。生存するために、ESRD患者は、腎置換療法(透析又は移植)を必要とする。疾患の初期に介入することによりCKDの有害な転帰を予防する、又は遅延させることが、CKD管理における主要な戦略である。残念ながら、疾患進行を阻止するための初期の治療アプローチは奏功していない。
CKDは、腎細胞増殖の低下及び再生プロセスの喪失により特徴づけられるように(Messier及びLeblond. Cell proliferation and migration as revealed by radiography after injection of thymidine-H3 into male rats and mice. Am J Anat. 1960; 106:247-85)、非適応性の応答及び線維症がCKDの進行を引き起こす。一方、介護療法の標準法、例えば厳格な血糖管理、及びレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の遮断等は、糖尿病性腎障害の進行を遅らせるが、そのような障害を停止又は逆転させることはない。いくつかの新規治療戦略、例えば抗タンパク尿治療、ナトリウム・グルコース共輸送体2の阻害剤、抗線維化剤、エンドセリン受容体拮抗薬、又は転写因子等は、糖尿病性腎疾患の進行を遅延又は停止させ得る(Quiroga等、Present and future in the treatment of diabetic kidney disease. J Diabetes Res. 2015; 2015:801348)。更に、組織及び臓器の再生は、今や現代医療技術の手の届く範囲にあるので、腎細胞に基づく療法は近年関心の的となっている(Ludlow等、The Future of Regenerative Medicine: Urinary System. Tissue Engineering. 2012; 18:218-24)。
腎機能の実質的且つ恒久的増強、疾患の進行遅延を実現し、そしてこのような患者集団の生活の質を改善するティッシュエンジニアリングや細胞に基づくアプリケーションを含む新しい治療規範について記載されてきた。このような次世代再生医療技術は、慢性腎疾患(CKD)のための治療オプションとして単離された腎細胞を提供する。Presnell等の国際公開第/2010/056328号、及びIlagan等のPCT/US第2011/036347号は、単離された生物活性腎細胞、及びそれを単離、培養する方法、並びに該細胞集団を用いた治療方法について記載する。このような生物活性腎細胞をレシピエントの腎臓に注入すると、非臨床試験において、例えば尿濃度及び濾過機能により証明されるように、動物の生存率及び腎機能に有意な改善をもたらした。
本発明は、腎機能の安定化及び/又は改善及び/又は再生を実現する、バイオマテリアル内で製剤化された生物活性腎細胞から構成される治療組成物を用いてCKD患者を治療する方法と一般的に関係する。
1つの態様では、本発明は、CKDを治療する方法であって、慢性腎疾患を有する患者の少なくとも一の腎臓の腎皮質内に、生物活性腎細胞集団(BRC)を含む治療有効量の組成物を経皮的に注入することを含む方法と関係する。1つの実施態様では、注入は、腹腔鏡下での手順を使用して実施される。別の実施態様では、経皮的に挿入されたガイドカニューラが、組成物を患者の腎臓内に注入する前に腎被膜を穿刺するのに使用される。
組成物は、単回注入又は所定の期間にわたり複数回注入として投与され得る。1つの実施態様では、組成物は、2回注入として投与される。第1の注入及び第2の注入は、少なくとも3カ月置いて、少なくとも6カ月置いて、又は少なくとも12カ月置いて投与され得る。1つの実施態様では、組成物は、患者の一方の腎臓内に注入される。別の実施態様では、組成物は、患者の両方の腎臓内に注入される。なおも別の実施態様では、少なくとも2つのエントリーポイントが、組成物を患者の腎臓内に注入するのに使用され得る。注入は、腎臓の凸面の長軸に沿って実施され得る。1つの実施態様では、患者は、SRC3.0×10個/gKWestの用量を投与される。
いくつかの実施態様では、CKDを有する患者は、2型糖尿病を有すると更に診断されている。CKDの根本原因は、このような患者の糖尿病性腎障害であり得る。1つの実施態様では、患者のCKDは、15−60mL/分の範囲の推定糸球体濾過率(eGFR)により定義される。別の実施態様では、CKDを有する患者は、尿中アルブミン−クレアチニン比(UACR)≧30mg/g、又は24時間採尿において尿中アルブミン排泄量≧30mg/日として定義されるミクロアルブミン尿症を示す。
すべての実施態様において、患者の腎機能は、治療の結果として改善する。1つの実施態様では、腎機能の改善は、推定糸球体濾過率(eGFR)の低下速度の低下により実証される。別の実施態様では、腎機能の改善は、血清クレアチン(sCr)の増加速度の低下により実証される。1つのその他の実施態様では、腎機能の改善は、腎皮質の厚さの改善により実証される。いくつかの追加の実施態様では、腎機能の改善は、表8内の因子のうちの一又は複数の改善により実証される。なおも別の実施態様では、腎機能の改善は、腎臓の画像化により判定される。腎臓の画像化方法は、超音波、MRI、及び腎シンチグラフィーを含む技術から選択され得る。
1つの態様では、生物活性腎細胞集団は、腎組織に由来する腎細胞を単離し、そして腎臓再生能力を有する細胞を富化させる培養条件の下で増殖させることから得られる。1つの実施態様では、生物活性腎細胞集団は、低酸素培養条件への曝露後に得られる。別の実施態様では、生物活性腎細胞集団は、増殖させた腎細胞の密度勾配分離後に得られる選択された腎細胞(SRC)集団である。特別な実施態様では、SRCは、約1.0419g/mLを上回る浮遊密度を示す。1つの実施態様では、BRC又はSRCは、開始腎細胞集団と比較して、それよりも大きな割合(%)の一又は複数の細胞集団を含有し、及び一又は複数のその他の細胞集団を欠く又は欠乏している。一又は複数の追加の実施態様では、BRC又はSRCの細胞形態は、培養観察をImage Library内の画像と比較することにより、細胞増殖期間中にモニタリングされ得る、或いはBRC又はSRCの細胞増殖動力学は、各細胞継代においてモニタリングされ得る。例えば、BRC又はSRCの数及び生存率は、Trypan Blue色素排除法、及びPrestoBlueの代謝によりモニタリングされ得る。その他の実施態様では、BRC又はSRCは、特異的な生存率及び機能性マーカー、例えばCK18及びGGT1の表現型発現により特徴づけられ得る。別の実施態様では、VEGF及びKIM−1の生成は、生存性及び機能性のBRC又はSRCの存在に関するマーカーとして使用され得る。なおも別の実施態様では、生存性及び機能性は、遺伝子発現プロファイリング又は酵素活性測定により立証され得る。1つの特定の実施態様では、BRC又はSRCは、LAP及び/又はGGTについて酵素活性を測定することにより特徴づけられる。
1つの実施態様では、BRC又はSRCは、天然の自己又は同種異系の腎臓サンプルに由来する。別の実施態様では、BRC又はSRCは、非自己の腎臓サンプルに由来する。このような実施態様のうちの一又は複数では、サンプルは、腎生検により取得され得る。
本発明の別の態様では、BRC又はSRCは、バイオマテリアル内で製剤化される。1つの実施態様では、バイオマテリアルは、ゼラチンに基づくヒドロゲルを含む。ゼラチンは、約0.5%−約1%(w/v)で製剤中に存在し得る。特別な実施態様では、ゼラチンは、約0.8%−約0.9%(w/v)で製剤製剤中に存在し得る。別の実施態様では、バイオマテリアルは、温度感受性細胞安定化バイオマテリアルである。1つの実施態様では、温度感受性細胞安定化バイオマテリアルは、約8℃以下において実質的に固体状態、及び約周囲温度以上において実質的に液体状態を維持する。1つのその他の実施態様では、バイオマテリアルは、約8℃から約周囲温度以上の間で固体〜液体遷移状態を含む。実質的に固体状態とは、ゲル状態であり得る。すべての実施態様では、BRC又はSRCは、細胞安定化バイオマテリアルの容積全体にわたり実質的に均一に分散されている。
第I相試験で使用される臨床プロトコールの単純化されたフロースケジュールを示す図である。 全コホートのNKA注入前後における推定糸球体濾過率を示す図である。 推定糸球体濾過率の個々の変化を示す図である。 推定糸球体濾過率の個々の変化を示す図である。 患者#2のNKA注入前後における推定糸球体濾過率を示す図である。 透析において帰属性の遅延が認められた、NKA注入前後における腎機能の低下速度を示す図である。 全コホートのNKA注入前後における血清クレアチニンを示す図である。 NKA注入前後における血清クレアチニンの個々の変化を示す図である。 NKA注入前後における血清クレアチニンの個々の変化を示す図である。 第II相、非盲検安全性及び有効性試験の治験デザインを示す図である。 深い位置及び軸に起因して縦方向のアクセスアプローチが困難であったエコー誘発性の小さい腎臓を示す縦方向腎臓超音波の図である。 外部18gaトロカール針(厚い)、及び内部25ga注入針(薄い)の軌跡を示す縦方向の腎臓超音波の図である。円はNKA注入を表す。 トロカール及び内部注入針の横方向の腎臓超音波、並びにおよその軌跡を示す図である。円はNKA注入を表す。
ここで、本発明の特定の実施態様について詳細に参照する。本発明は、列挙された実施態様と関連して記載されているが、そうだからといって本発明がそれらの実施態様に限定されるようには意図されないものと理解される。逆に、本発明は、特許請求の範囲により定義されるような、本発明の範囲内に含まれ得るすべての代替形態、修正形態、及び同等形態をカバーするように意図されている。当業者は、本発明の実践で使用され得る、本明細書に記載するものに類似した又は同等の多くの方法及び物質について認識する。本発明は、記載されている方法及び物質に決して限定されるものではない。
本開示全体を通じて引用されたすべての参考資料は、本明細書において出典明示によりそのまま援用される。定義された用語、用語の利用、記載されている技術等を含む、但しこれらに限定されない援用文献、特許、及び類似した物質のうちの一又は複数が、本出願と異なる又は矛盾する場合には、本出願が優先される。
定義
別途規定しない限り、本明細書で使用される技術的及び科学的用語は、本発明が属する当業者により一般的に理解される意味と同一の意味を有する。Principles of Tissue Engineering、第3版(R Lanza、R Langer、及びJ Vacanti編)、2007年は、本出願で使用される多くの用語に対する一般的ガイドを当業者に提供する。当業者は、本発明の実践で使用され得る、本明細書に記載するものと類似する又は同等の多くの方法及び物質を認識する。実際、本発明は記載されている方法及び物質に決して限定されない。
単語「含む(comprise)」、「含むこと(comprising)」、「含む(include)」、「含むこと(including)」、及び「含む(includes)」は、本明細書及び特許請求の範囲で使用されるとき、記載された特性、整数、コンポーネント、又はステップの存在を特定するように意図されるが、一又は複数のその他の特性、整数、コンポーネント、ステップ、又はその群の存在又は追加を排除しない。
用語「細胞集団」とは、本明細書で使用する場合、通常哺乳動物由来の適する組織供給源から直接単離することにより取得されたいくつかの細胞を意味する。例えば、細胞集団は、腎細胞の集団及びその混合物を含み得る。単離された細胞集団は、その後in vitroで培養され得る。当業者は、本発明と共に使用される細胞集団を単離及び培養するための様々な方法、並びに本発明で使用するのに適する細胞集団中の様々な数の細胞について認識する。細胞集団は、臓器又は組織、例えば、腎臓に由来する未分画の不均質な細胞集団、又は濃縮された均質な細胞集団であり得る。例えば、不均質な細胞集団は、組織生検又は全臓器組織から単離され得る。或いは、不均質な細胞集団は、組織生検又は全臓器組織から確立された哺乳動物細胞のin vitroでの培養物に由来し得る。未分画の不均質な細胞集団は、非濃縮細胞集団と呼ばれる場合もある。1つの実施態様では、細胞集団は、生物活性細胞を含む。均質な細胞集団は、未分画の不均質な細胞集団と比較して、細胞型が同一であるより多くの割合の細胞を含み、共通の表現型を共有する又は類似した物理特性を有する。例えば、均質な細胞集団は、不均質な腎細胞集団から単離、抽出、又は濃縮され得る。1つの実施態様では、均質な細胞集団は、不均質な細胞懸濁物の密度勾配分離を使用して細胞分画として得られる。
本明細書で使用する場合、用語「生物活性」とは、「生物学的活性を有すること」、例えば、薬理学的又は治療的活性等を有することを意味する。1つの実施態様では、生物活性は、腎機能の強化及び/又は腎ホメオスタシスに対する効果である。特定の実施態様では、生物学的活性として、非限定的に、鎮痛性;抗ウイルス性;抗炎症性;抗新生物性;免疫刺激性;免疫調節性;細胞生存性強化、抗酸化性、酸素担体、細胞動員、細胞付着、免疫抑制性、血管形成、創傷治癒活性、又は任意のこれらの組合せが挙げられる。
用語「生物活性腎細胞」又は「BRC」とは、本明細書で使用する場合、下記の特性:腎機能を強化する能力、腎ホメオスタシスに影響を及ぼす(それを改善する)能力、並びに腎臓組織又は腎臓の治癒、修復、及び/又は再生を促進する能力のうちの一又は複数を有する腎細胞を意味する。このような細胞として、機能的尿細管細胞(クレアチニン排泄、及びタンパク質保持の改善に基づく)、糸球体細胞(タンパク質保持の改善に基づく)、血管細胞、及び皮髄境界部の酸素応答性エリスロポエチン産生細胞を挙げることができる。生物活性腎細胞(BRC)は、生物活性細胞を選択する方法を使用して、腎組織由来の腎細胞の単離及び増殖から得られる。1つの実施態様では、生物活性腎細胞は、腎臓に対して再生効果を有する。
用語「選択された腎細胞」又は「SRC」とは、本明細書で使用する場合、適する腎組織供給源に由来する生物活性腎細胞(本明細書でこれまでに定義した通り)の単離及び増殖から得られる細胞を意味し、SRCは、開始腎細胞集団と比較して、より多くの割合(%)の一又は複数の細胞集団を含有し、また一又は複数のその他の細胞集団を欠く又は欠乏している。SRCは、単離された腎細胞集団又はその混合物であり、腎疾患の治療で使用する、すなわち、腎機能の安定化及び/又は改善及び/又は再生を実現するために、特定の生物活性コンポーネント若しくは細胞型について濃縮されており、及び/又は特定の不活性な若しくは望ましくないコンポーネント若しくは細胞型について枯渇している。SRCは、開始集団と比較してそれよりも優れた治療転帰及び再生転帰をもたらす。1つの実施態様では、SRCは、腎生検により患者の腎皮質組織から得られ、そして増殖させた腎細胞の密度勾配分離により選択される。SRCは、腎尿細管細胞から主に構成される。その他の実質細胞(血管)及び間質細胞(集合管)は、単離された調製物中にまばらに存在し得る。1つの実施態様では、選択された腎細胞(SRC)は、腎臓に対して再生効果を有する。
用語「自然臓器」とは、生きている対象の臓器を意味するものとする。対象は、健康であっても、また不健康であってもよい。不健康な対象は、特定の臓器と関連した疾患を有し得る。
用語「自然腎」とは、生きている対象の腎臓を意味するものとする。対象は、健康であっても、また不健康であってもよい。不健康な対象は腎疾患と関連した疾患を有し得る。
用語「再生効果」とは、自然臓器、例えば腎臓等に利益をもたらす効果を意味するものとする。該効果として、非限定的に、自然臓器に対する損傷度の低下、又は自然臓器の機能若しくは構造の改善、修復、若しくは安定化を挙げることができる。腎損傷は、線維症、炎症、糸球体肥大、萎縮等の形態であり得、また対象内の自然臓器と関連した疾患と関係し得る。
用語「混合物」とは、細胞集団の文脈において本明細書で使用する場合、未分画の不均質な細胞集団に由来する2つ又はそれ超の単離、濃縮された細胞集団の表現型の組合せを意味する。特定の実施態様によれば、本発明の細胞集団は腎細胞集団である。
「濃縮された」細胞集団又は調製物とは、特定の細胞型について、開始集団内の細胞型の割合(%)よりも多くの割合(%)を含有する開始臓器細胞集団(例えば、未分画の不均質な細胞集団)に由来する細胞集団を意味する。例えば、開始腎細胞集団は、第1、第2、第3、第4、第5番目等の目的細胞集団について濃縮され得る。本明細書で使用する場合、用語「細胞集団」、「細胞調製物」、及び「細胞表現型」は交換可能に使用される。
用語「低酸素」培養条件とは、本明細書で使用する場合、細胞が大気中の酸素レベル(約21%)で培養される標準的な培養条件と比較して、培養系内で細胞が利用できる酸素レベルが低下している培養条件を意味する。非低酸素条件とは、本明細書では、通常又は正常酸素圧の培養条件を意味する。
用語「酸素調整可能」とは、本明細書で使用する場合、細胞にとって利用可能な酸素の量に基づき、遺伝子発現を調節する(上方又は下方)細胞の能力を意味する。「低酸素誘導可能」とは、酸素分圧の低下に応答して遺伝子発現の上方制御を意味する(誘発前後又は開始酸素分圧を問わない)。
用語「バイオマテリアル」とは、本明細書で使用する場合、生存状態の選択された生物活性細胞を支持する、生体組織中に導入するのに適する天然又は合成の生体適合性物質を意味する。天然のバイオマテリアルは、生物系からなる又はそれに由来する物質である。合成バイオマテリアルは、生物系によらない、又はそれに由来しない物質である。本明細書に開示するバイオマテリアルは、天然及び合成の生体適合物質の組合せであってもよい。本明細書で使用する場合、バイオマテリアルには、例えばポリマーマトリックス及びスキャフォールドが含まれる。当業者は、バイオマテリアル(複数可)は、様々な形態で、例えば多孔性のフォーム、ゲル、液体、ビーズ、固体として構成され得るが、また一若しくは複数の天然又は合成の生体適合物質を含み得ることを認識する。1つの実施態様では、バイオマテリアルは、ヒドロゲルとなる能力を有する液状の溶液形態である。
用語「腎疾患」とは、本明細書で使用する場合、血液濾過の機能、並びに過剰の体液、電解質、及び老廃物の血液外除去を実施する腎臓の能力の喪失を引き起こす、ステージ又は程度を問わない急性又は慢性の腎不全と関連した障害を意味する。腎疾患には、内分泌機能障害、例えば貧血(エリスロポエチン欠乏症)、及びミネラルアンバランス(ビタミンD欠乏症)等も含まれる。腎疾患は、腎臓に由来し得る、又は心不全、高血圧症、糖尿病、自己免疫疾患、若しくは肝疾患を含む(但し、これらに限定されない)様々な状態に後続し得る。腎疾患は、腎臓の急性損傷後に発症する慢性腎不全の状態であり得る。例えば、虚血及び/又は毒物への曝露による腎臓の損傷は、急性腎不全の原因となり得る;急性腎損傷後の不完全な回復は、慢性腎不全の発症を引き起こすおそれがある。
用語「治療」とは、腎疾患、貧血、尿細管輸送障害、又は糸球体濾過障害に対する治療処置及び予防又は防止措置の両方を意味し、その目的は、標的とする障害の逆転、防止、又は減速(遅延)である。治療を必要とする者には、腎疾患、貧血、尿細管輸送障害、若しくは糸球体濾過障害をすでに有する者、並びに腎疾患、貧血、尿細管輸送障害、若しくは糸球体濾過障害を有しやすい者、又は腎疾患、貧血、尿細管輸送障害、若しくは糸球体濾過障害を予防すべき者が含まれる。用語「治療」には、本明細書で使用する場合、腎機能の安定化及び/又は改善が含まれる。
用語「in vivoで接触すること」とは、本明細書で使用する場合、濃縮された細胞集団により分泌された生成物と自然臓器の間のin vivoでの直接的な接触を意味する。例えば、濃縮された腎細胞の集団(又は腎細胞/腎細胞分画を含有する混合物又はコンストラクト)により分泌された生成物は、自然腎とin vivoで接触し得る。In vivoでの直接接触は、本質的に傍分泌、内分泌、又は接触分泌であり得る。分泌された生成物は、本明細書に記載する異なる生成物の不均質な集団であり得る。
用語「コンストラクト」又は「製剤製剤」とは、一若しくは複数の合成又は天然の生体適合物質からなるスキャフォールド又はマトリックスの表面上若しくはその内部に配置された一又は複数の細胞集団を指す。一又は複数の細胞集団は、一若しくは複数の合成又は天然の生体適合バイオマテリアル、ポリマー、タンパク質、又はペプチドからなるバイオマテリアルでコーティングされ、その上に配置され、その中に包埋され、それに連結し、その中に播種若しくは捕捉され得る。一又は複数の細胞集団は、バイオマテリアル又はスキャフォールド又はマトリックスとin vitro又はin vivoで組合せ可能である。コンストラクト又は製剤製剤を生成するのに使用される一又は複数のバイオマテリアルは、コンストラクトの細胞コンポーネントが内因性宿主組織と共に分散及び/又は組み込まれるのを誘導、促進、又は可能にする、或いはコンストラクト又は製剤製剤の細胞コンポーネントの生存、移植、忍容、又は機能的性能を誘導、促進、又は可能にするように選択され得る。
用語「ネオ腎臓増強剤(Neo−Kidney Augment)(NKA)」とは、ゼラチンに基づくヒドロゲルを含むバイオマテリアル内で製剤化された自系、同系の選択された腎細胞(SRC)から構成される注入可能な製品である生物活性細胞製剤製剤を意味する。
用語「対象」とは、腎疾患の一若しくは複数の兆候、症状、又はその他のインジケーターを経験している、又は経験したことのある、治療に適格性を有する患者を含む、任意の単一のヒト対象を意味するものとする。そのような対象には、新規に診断され、又はこれまでに診断された、そして再燃若しくは再発を現在経験している、又は腎疾患のリスクに晒されている対象が非限定的に含まれ、その原因を問わない。対象は、腎疾患についてこれまでに治療されている場合もあれば、治療されていない場合もある。
用語「患者」とは、治療が望まれる任意の単一の動物、より好ましくは哺乳動物(ヒト以外の動物、例えば、イヌ、ネコ、ウマ、ウサギ、動物園の動物、ウシ、ブタ、ヒツジ、及びヒト以外の霊長類を含む)を意味する。最も好ましくは、本明細書の患者はヒトである。
用語「サンプル」又は「患者サンプル」又は「生体サンプル」は、対象若しくは患者、体液、身体組織、細胞系、組織培養物、又はその他の供給源から得られる任意の生体サンプルを一般的に意味するものとする。該用語には、組織生検、例えば腎生検等が含まれる。該用語には、培養された細胞、例えば、培養された哺乳動物の腎細胞等が含まれる。哺乳動物から組織生検及び培養細胞を取得する方法は、当技術分野において周知されている。用語「サンプル」が単独使用される場合には、「サンプル」は、「生体サンプル」又は「患者サンプル」であることをなおも意味するものとし、すなわち、該用語は交換可能に使用される。
用語「試験サンプル」とは、本発明の方法により治療されている対象に由来するサンプルを意味する。試験サンプルは、血液、精液、血清、尿、骨髄、粘膜、組織等を非限定的に含む、哺乳動物の対象の様々な起源に由来し得る。
用語「コントロール」又は「コントロールサンプル」とは、陰性又は陽性結果が試験サンプルの結果との関連付けに役立つものと期待される陰性又は陽性コントロールを意味する。本発明に適するコントロールとして、正常な腎機能に特徴的な指標を示すことが既知のサンプル、腎疾患を有さないことが既知の対象から得られたサンプル、及び腎疾患を有することが既知の対象から得られたサンプルが非限定的に挙げられる。更に、コントロールは、本発明の方法により治療される前に対象から得られたサンプルであり得る。追加の適するコントロールは、何らかのタイプ又はステージの腎疾患を有することが既知の対象から得られた試験サンプル、及び何らかのタイプ又はステージの腎疾患を有さないことが既知の対象に由来するサンプルであり得る。コントロールは、正常で健康な対応するコントロールであり得る。当業者は、その他のコントロールも本発明での利用に適するものと理解する。
「再生の予後」、「再生上の予後」、又は「再生に関する予後」とは、本明細書に記載する細胞集団、混合物、又はコンストラクトを投与又は移植したときに、その辿り得る再生の経過又は転帰の予想又は予測を一般的に意味する。再生の予後では、予想又は予測は、下記事項:移植又は投与後の機能的臓器(例えば、腎臓)の改善、移植又は投与後の機能的腎臓の発達、移植又は投与後の改善した腎機能又は能力の発達、及び移植又は投与後の自然腎による特定マーカーの発現のうちの一又は複数により情報提供され得る。
「再生した臓器」とは、本明細書に記載する細胞集団、混合物、又はコンストラクトを移植又は投与した後の自然臓器を意味する。再生した臓器は、自然臓器における機能又は能力の発達、自然臓器における機能又は能力の改善、及び自然臓器における特定マーカーの発現を非限定的に含む、様々な指標により特徴づけられる。当業者は、その他の指標も、再生した臓器を特徴づけるのに適し得ることを認識する。
「再生した腎臓」とは、本明細書に記載する細胞集団、混合物、又はコンストラクトを移植又は投与した後の自然腎を意味する。再生した腎臓は、自然腎における機能又は能力の発達、自然腎における機能又は能力の改善、及び自然腎における特定マーカーの発現を非限定的に含む、様々な指標により特徴づけられる。当業者は、その他の指標も再生した腎臓を特徴づけるのに適し得ることを認識する。
用語「ヒドロゲル」は、本明細書では、有機ポリマー(天然又は合成の)が、共有結合、イオン結合、又は水素結合により架橋されたときに形成される物質であって、水分子を補足してゲルを形成する三次元オープンラティス構造を形成する物質を指すのに使用される。ヒドロゲルを形成するのに利用可能である物質の例として、多糖類、例えばトニックに架橋されるアルギネート、ポリフォスファジン、及びポリアクリレート等、又はブロックコポリマー、例えば温度又はpHによりそれぞれ架橋されるPluronics(商標)又はTetronics(商標)、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレングリコールブロックコポリマー等が挙げられる。本明細書で使用されるヒドロゲルは、生分解性のゼラチンに基づくヒドロゲルであるのが好ましい。
「有害事象」は、その帰属を問わず、治験(医薬)製品の使用又はその他のプロトコールが課した介入と一時的に関連したあらゆる好ましくない、そして意図しない兆候、症状、又は疾患であり、AE報告期間前には存在しなかった慢性腎疾患と関連した兆候又は症状を含む、プロトコールに規定するAE報告期間中に現れた患者においてこれまでに認められていないAE;プロトコールが命じる介入(例えば、生検等の侵襲的手順)の結果として生ずる合併症;或いは重症度若しくは頻度において悪化させた、又はプロトコールに規定するAE報告期間中に特徴の変化をもたらしたと治験責任医師により判断された既存の医学的状態(試験される状態以外)が含まれる。
有害事象は、下記の基準を満たす場合には「重篤な有害事象」(SAE)として分類される:死を引き起こす(すなわち、AEが実際に死亡の原因となる又は死亡を引き起こす);生命を脅かす(すなわち、治験責任医師の視点から、AEは患者を差し迫った死亡のリスクに晒すものの、より重度の形態で生じたとすれば死を引き起こしたかもしれないAEは含まれない);患者の入院を必要とする又は長引かせる;永続的又は重大な障害・機能不全を引き起こす(すなわち、AEは、通常の生活機能を遂行する患者の能力について相当な破壊を引き起こす);母親が治験薬に曝露されたとき、乳幼児出生時に先天異常を引き起こす;或いは医学的判断に基づき治験責任医師により重大な医学的事象とみなされる(例えば、患者を危うくする可能性がある、又は上記転帰のうちの1つを防止するために内科的/外科的介入を必要とし得る)。重篤に関する基準の何れかを満たさないAEは、すべて非重篤AEとみなされる。用語「重度の」及び「重篤な」は同義ではない。重症度(又は強度)とは特定のAEのグレードを意味し、例えば、軽度(グレード1)、中等度(グレード2)、又は重度(グレード3)の心筋梗塞。「重篤」は、規制上の定義(これまでの定義を参照)であり、そして患者若しくは事象の転帰、又は患者の生命若しくは機能に対する脅威を惹起する事象と通常関連した行動基準に基づく。重篤度(重症度ではない)は、治験依頼者から該当する規制当局への規制報告義務を定義するためのガイドとして機能する。eCRFにAE及びSAEを記録する際には、重症度及び重篤度を独立に評価すべきである。
細胞集団
上記のように、BRCは、腎臓の修復及び再生に自然的に関与する再生腎細胞の単離された集団である。1つの実施態様では、BRCは、酵素消化により腎組織から単離された腎細胞から得られ、また標準的な細胞培養技術を使用して増殖させる。1つの実施態様では、細胞培養培地は、再生能力を備えた生物活性腎細胞を増殖させるように設計される。1つのその他の実施態様では、細胞培養培地は、何らかの分化因子を含まない。別の実施態様では、増殖させた腎細胞の不均質な混合物は、再生能力を備えた細胞の組成物を更に富化するために低酸素条件で培養される。理論に束縛されるものではないが、これは下記の現象のうちの一又は複数に起因し得る:1)低酸素培養期間において特定の細胞コンポーネントが選択的に生存、死滅、又は増殖する;2)低酸素培養に応答して細胞の粒状度及び/又はサイズが変化し、これにより浮遊密度の変化、及びそれに後続する密度勾配分離期間中の局在化をもたらす;並びに3)低酸素培養期間に応答して細胞遺伝子/タンパク質の発現が変化し、これにより単離及び増殖した集団内の細胞について相違した特徴を引き起こす。
増殖した生物活性腎細胞に、密度勾配分離法を更に実施してSRCを取得することができる。特に、密度勾配遠心分離法が、採取した腎細胞集団を細胞の浮遊密度に基づき分離するのに使用される。1つの実施態様では、SRCは、水に60%の非イオン性ヨウ素化化合物イオジキサノールを含むOPTIPREP(Axis−Shield社)密度勾配培地を一部使用することにより、生成される。但し、当業者は、任意の密度勾配法又はその他の手段、例えば、本発明の細胞集団を単離するための必要な特性を含む当技術分野において公知の細胞表面マーカーを使用する免疫学的分離法も、本発明に基づき利用され得ることを認識する。1つの実施態様では、約1.0419g/mLを上回る浮遊密度を示す細胞分画が、遠心分離後に個別のペレットとして収集される。別の実施態様では、1.0419g/mL未満の浮遊密度を維持する細胞は除外及び廃棄される。
本発明の治療組成物及びその製剤製剤は、特定の生物活性コンポーネント又は細胞型について濃縮され、及び/又は特定の不活性なコンポーネント若しくは望ましくないコンポーネント若しくは細胞型が枯渇した、腎疾患の治療で使用される、すなわち、腎臓の機能及び/又は構造の安定化及び/又は改善及び/又は再生を実現する腎細胞の単離された不均質な集団及びその混合物を含むことができ、これまでにPresnell等の米国特許第2011−0117162号、及びIlagan等のPCT/US第2011/036347号に記載されており、その全内容を出典明示により本明細書で援用する。組成物は、健常者と比較して細胞コンポーネントを欠くが治療特性をなおも保持する単離された腎細胞分画を含み得る、すなわち、腎機能の安定化及び/又は改善及び/又は再生を実現し得る。本明細書に記載する細胞の細胞集団、細胞分画、及び/又は混合物は、健常者、腎疾患を有する個人、又は本明細書に記載するような対象に由来し得る。
本発明は、必要としている対象内の標的臓器又は組織に投与される、選択された腎細胞集団からなる治療組成物について検討する。生物活性を有する選択された腎細胞集団とは、対象に投与した際に、治療特性を潜在的に有する細胞集団を一般的に意味する。例えば、必要としている対象に投与した際に、生物活性腎細胞集団は、対象内の腎機能の安定化及び/又は改善及び/又は修復及び/又は再生を実現し得る。治療特性は再生効果を含み得る。
1つの実施態様では、細胞の供給源は、意図した標的臓器又は組織と同一である。例えば、BRC及び/又はSRCは、腎臓に投与される製剤製剤内で使用されるように、腎臓から調達され得る。1つの実施態様では、細胞集団は腎生検に由来する。別の実施態様では、細胞集団は、全腎組織に由来する。1つのその他の実施態様では、細胞集団は、腎生検又は全腎組織から確立された、哺乳動物腎細胞のin vitro培養物に由来する。特定の実施態様では、BRC及び/又はSRCは、生物活性腎細胞の不均質な混合物又は分画を含む。BRC及び/又はSRCは、健常者から得られた腎細胞分画に由来し得る、又はそのものである。更に、本発明は、健常者の対応する腎細胞分画と比較した時、特定の細胞コンポーネントを欠いている可能性があるが、治療特性をなおも保持する不健康な個人から得られる腎細胞分画を提供する。本発明は、健常者と比較して細胞コンポーネントを欠いている治療上活性な細胞集団も提供し、同細胞集団は、1つの実施態様では、様々な疾患状態にある自系供給源から単離及び増殖され得る。
1つの実施態様では、SRCは、腎生検により患者の腎皮質組織から得られた腎細胞の単離及び増殖から得られる。腎細胞は、酵素消化により腎組織から単離され、標準的な細胞培養技術を使用して増殖させ、そして増殖させた腎細胞から密度勾配遠心分離により選択される。本実施態様では、SRCは、その再生能力について公知である腎上皮細胞から主に構成される。その他の実質細胞(血管)及び間質細胞は、自系のSRC集団中にまばらに存在し得る。
本明細書に記載するように、本発明は、生物活性コンポーネントについて濃縮しており、そして不活性なコンポーネント又は望ましくないコンポーネントが枯渇している腎細胞の不均質な集団の特定のサブ分画が、開始集団よりも優れた治療転帰及び再生転帰をもたらすという驚くべき発見に一部基づく。
腎細胞の単離及び増殖は、腎上皮細胞及び間質細胞を含む腎細胞型の混合物を提供する。上記のように、SRCは、増殖させた腎細胞の密度勾配分離により取得される。密度勾配法で分離したSRC集団内の初代細胞型は、上皮表現型の細胞型である。増殖させた腎細胞から得られたSRCの特徴は、多岐にわたるアプローチを使用して評価される。細胞形態、増殖動力学、そして細胞生存率が腎細胞増殖プロセス期間中にモニタリングされる。SRC浮遊密度及び生存率は、密度勾配法及びTrypan Blue排除法により特徴づけられる。SRCの表現型はフローサイトメトリーにより特徴づけられ、並びにSRCの機能はVEGF及びKIM−1の発現により実証される。
SRC表現型
1つの実施態様では、細胞表現型は、フローサイトメトリーを使用して腎細胞マーカーの発現分析によりモニタリングされる。細胞の表現型分析は、分析される細胞型に対して特異的な抗原性マーカーの使用に基づく。フローサイトメトリー分析は、分析対象となる抗原性マーカーを発現するサンプル集団内の細胞について定量的な指標を提供する。
腎細胞の表現型の特徴づけに有用な様々なマーカーが文献で報告されている:(i)サイトケラチン;(ii)輸送膜タンパク質(アクアポリン及びキュビリン);(iii)細胞結合分子(アドヘリン(adherin)及び分化抗原群及びレクチン);並びに(iv)代謝酵素(グルタチオン及びγ−グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT))(表1)。全腎消化物に由来する培養物に見出される大部分の細胞は、上皮細胞及び内皮細胞であるので、検査対象となるマーカーは、これら2つの群に対して特異的なタンパク質の発現に重点が置かれる。
表2は、選択されたマーカー、SRC集団内の表現型の範囲及び平均割合(%)、並びにその選択根拠を提示する。
細胞の機能
SRCは、馴化培地の分析を通じて検出可能であるタンパク質を活発に分泌する。細胞の機能は、PrestoBlueを代謝し、並びにVEGF(血管内皮増殖因子)及びKIM−1(腎臓傷害分子−1)を分泌する細胞の能力により評価される。
表3は、腎細胞に由来する馴化培地、及びSRC培養物中に存在するVEGF及びKIM−1の量を示す。腎細胞をほぼコンフルエンスに達するまで培養した。腎細胞培養物に終夜曝露した馴化培地を、VEGF及びKIM−1について試験した。
SRC酵素活性
SRCの細胞機能も、製剤化前に、腎臓近位尿細管に見出される2つの特異的酵素;GGT(γ−グルタミルトランスペプチダーゼ)及びLAP(ロイシンアミノペプチダーゼ)の活性を測定することにより、やはり評価可能である。
選択された腎細胞組成物が本明細書に記載されているが、本発明はその他の様々な活性な薬剤を含有する組成物についても検討する。その他の適する活性な薬剤として、非限定的に、細胞凝集物、無細胞バイオマテリアル、生物活性細胞由来の分泌生成物、大型及び小型の分子治療薬、並びにその組合せが挙げられる。例えば、ある種の生物活性細胞は、治療用分子を含む/含まないバイオマテリアルに基づくマイクロキャリアと共に組合せ可能であり、又は別の種類の生物活性細胞である非付着性の細胞が無細胞粒子と組合せ可能である。
バイオマテリアル
本発明の治療用製剤製剤を提供するために、様々なバイオマテリアルが活性な薬剤と併用可能である。バイオマテリアルは、任意の適する形状(例えば、ビーズ)又は形態(例えば、液体、ゲル等)であり得る。ポリマーマトリックスの形態の適するバイオマテリアルは、Bertram等の米国特許公開出願第20070276507号(出典明示により本明細書においてそのまま援用されている)に記載されている。1つの実施態様では、ポリマーマトリックスは、オープンセルポリ乳酸(OPLA(登録商標))、セルロースエーテル、セルロース、セルロースエステル、フッ素化ポリエチレン、フェノーリック、ポリ−4−メチルペンテン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリレート、ポリベンゾオキサゾール、ポリカーボネート、ポリシアノアリルエーテル、ポリエステル、ポリエステルカーボネート、ポリエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリフルオロオレフィン、ポリイミド、ポリオレフィン、ポリオキサジアゾール、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルフィド、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリスルフィド、ポリスルホン、ポリ四フッ化エチレン、ポリチオエーテル、ポリトリアゾール、ポリウレタン、ポリビニル、ポリフッ化ビニリデン、再生セルロース、シリコーン、尿素−ホルムアルデヒド、コラーゲン、ゼラチン、アルギネート、ラミニン、フィブロネクチン、絹、エラスチン、アルギネート、ヒアルロン酸、アガロース、又はそのコポリマー若しくは物理的混合物を含む、但しこれらに限定されない様々な合成又は天然の物質から形成された生体適合物質であり得る。好ましい実施態様では、バイオマテリアルはヒドロゲルである。
ヒドロゲルは、様々なポリマー材料から形成され得るが、また様々な生物医学用途において有用である。ヒドロゲルは親水性ポリマーの三次元ネットワークとして物理的に記載され得る。ヒドロゲルは、その種類に応じて異なる割合(%)の水を含むが、水に全体的に溶解しない。高い水分含有量にもかかわらず、ヒドロゲルは、親水性残基の存在に起因して大容積の液体と更に結合する能力を有する。ヒドロゲルは、そのゼラチン状の構造を変化させることなく大規模に膨潤する。ヒドロゲルの基本的物理特性は、使用されるポリマーの特性及び製品の追加の特別な装備に基づき特別に改変され得る。
ヒドロゲル材料は炎症応答を誘発しないのが好ましい。ヒドロゲルを形成するのに利用可能であるその他の材料の例として、(a)改変されたアルギネート、(b)一価のカチオンに曝露するとゲル化する多糖類(例えば、ゲランガム及びカラゲナン)、(c)非常に粘稠性の液体であり、又はチキソトロピックであり、そして構造がゆっくりと進化することにより、経時的にゲルを形成する多糖類(例えば、ヒアルロン酸)、(d)ゼラチン又はコラーゲン、並びに(e)ポリマー性のヒドロゲル前駆体(例えば、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレングリコールブロックコポリマー、及びタンパク質)が挙げられる。米国特許第6224893B1号は、本発明に基づきヒドロゲルを作製するのに適する様々なポリマー及びそのようなポリマーの化学的特性について詳細な説明を提供する。
特別な実施態様では、本発明のバイオマテリアルを製剤化するのに使用されるヒドロゲルは、ゼラチンベースである。ゼラチンは、間葉組織の細胞外マトリックス(ECM)の主要コンポーネントであるコラーゲンに由来する無毒性、生分解性、及び水溶性のタンパク質である。ゼラチンは、細胞の接着、増殖、及び幹細胞分化を促進するアルギニン−グリシン−アスパラギン酸(RGD)配列を含む情報シグナルを保持する。ゼラチンの特有の特性として、上部臨界溶解温度挙動(UCST)を示すことが挙げられる。特異的温度閾値40℃を超えると、ゼラチンは、可撓性のランダムなシングルコイルの形成により水に溶解し得る。冷却すると、水素結合及びファンデルワールス相互作用が生じ、三重らせんの形成を引き起こす。このようなコラーゲン様の三重らせんは接合ゾーンとして作用し、したがってゾル−ゲル転移を引き起こす契機となる。ゼラチンは医薬品及び医学用途において幅広く使用されている。
1つの実施態様では、本明細書の注入可能な細胞組成物は、ブタ皮膚から調達され得るブタゼラチンに基づき、また例えば、Nitta Gelatin NA Inc社(NC、米国)又はGelita USA Inc.社(IA、米国)から市販されている。ゼラチンは、例えば、異なる温度においてゲル化及び液化し得る熱応答性ヒドロゲルを形成するために、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)中に溶解することができる。特別な実施態様では、本発明のゼラチンに基づくヒドロゲルは、室温(22−28℃)以上で液体であり、また冷蔵温度(2−8℃)まで冷却されるとゲル化する。
当業者は、当技術分野において公知のその他の種類の合成又は天然の材料が、本明細書に記載するようなスキャフォールドを形成するのに利用され得ることを認識する。
温度感受性バイオマテリアル
本明細書に記載するバイオマテリアルもまた、特定の外部条件、例えば、in vitro又はin vivoに応答するように設計又は構成され得る。1つの実施態様では、バイオマテリアルは、温度感受性である(例えば、in vitro又はin vivoにおいて)。別の実施態様では、バイオマテリアルは、酵素分解への曝露に応答するように構成される(例えば、in vitro又はin vivoにおいて)。外部条件に対するバイオマテリアルの応答は、本明細書に記載するように微調整可能である。記載される製剤製剤の温度感受性は、製剤製剤中のバイオマテリアルの割合(%)を調整することにより変化し得る。例えば、溶液中のゼラチンの割合(%)を調整して、最終製剤製剤(例えば、液体、ゲル、ビーズ等)内のゼラチンの温度感受性を調節することができる。1つの実施態様では、ゼラチン溶液は、PBS、DMEM、又は別の適する溶媒中に提供され得る。或いは、バイオマテリアルは、酵素分解に対してより高い抵抗性を備えるように化学的に架橋され得る。例えば、カルボジイミド架橋剤は、ゼラチンビーズを化学的に架橋し、これにより内因性の酵素に対する感受性を低下させるのに利用され得る。
1つの態様では、本明細書に記載する製剤製剤には、対象に投与される活性な薬剤、例えば生物活性腎細胞等にとって好ましい環境を生み出す特性を有するバイオマテリアルが組み込まれる。1つの実施態様では、製剤製剤は、活性な薬剤がバイオマテリアルと共に製剤化されたときから対象に投与される時点まで好ましい環境を提供する第1のバイオマテリアルを含有する。1つのその他の実施態様では、好ましい環境は、対象に投与する前において、実質的に固体状態で懸濁された生物活性細胞を有するという、液体中の細胞(本明細書に記載するような)に対する長所に関係する。別の実施態様では、第1のバイオマテリアルは、温度感受性バイオマテリアルである。温度感受性バイオマテリアルは、(i)約8℃以下で実質的に固体状態、及び(ii)周囲温度以上で実質的に液体状態であり得る。1つの実施態様では、周囲温度は約室温である。
1つの実施態様では、バイオマテリアルは、温度に応じて少なくとも2つの異なる相又は状態を維持することができる温度感受性バイオマテリアルである。バイオマテリアルは、第1の温度において第1の状態、第2の温度において第2の状態、及び/又は第3の温度において第3の状態を維持する能力を有する。第1、第2、又は第3の状態は、実質的に固体、実質的に液体、又は実質的に半固体若しくは半液体の状態であり得る。1つの実施態様では、バイオマテリアルは、第1の温度において第1の状態、及び第2の温度において第2の状態を有し、第1の温度は、第2の温度よりも低い。
温度感受性バイオマテリアルは、溶液の形態、ビーズの形態、又は本明細書に記載する及び/若しくは当業者にとって公知のその他の適する形態で提供され得る。本明細書に記載する細胞集団及び調製物は、温度感受性バイオマテリアル上にコーティング、配置され、その中に包埋され、それと連結し、その中に播種、懸濁され、又は捕捉され得る。或いは、温度感受性バイオマテリアルは、細胞を一切含まずに、例えば、スペーサービーズの形態等で提供され得る。
別の態様では、製剤製剤は、生物活性細胞を第2のバイオマテリアルと組み合わせて含有し、第2のバイオマテリアルは、製剤化のときから対象への投与後の時点まで、組み合わされた細胞にとって好ましい環境を提供する。1つの実施態様では、第2のバイオマテリアルにより提供される好ましい環境は、対象への投与の時点まで、及び投与後のある期間、構造的完全性を保持するバイオマテリアル中にある細胞の投与という長所と関係する。1つの実施態様では、移植後の第2のバイオマテリアルの構造的完全性は、分、時、日、又は週の期間である。1つの実施態様では、構造的完全性は、1カ月未満、1週間未満、1日未満、又は1時間未満である。比較的短期間の構造的完全性は、制御されたハンドリング、配置、又は分散によって活性な薬剤及びバイオマテリアルを組織又は臓器内の目標の場所に送達することができる製剤製剤をもたらすが、組み込まれた要素は、それが配置された組織又は臓器と相互作用する障害又はバリアとならない。
別の実施態様では、第2のバイオマテリアルは、第1のバイオマテリアルとは異なる感受性を有する温度感受性バイオマテリアルである。第2のバイオマテリアルは、(i)約周囲温度以下において実質的に固体状態、及び(ii)約37℃以上で実質的に液体状態であり得る。1つの実施態様では、周囲温度は約室温である。
1つの実施態様では、第2のバイオマテリアルは架橋されたビーズである。架橋されたビーズは、本明細書に記載するように、架橋度に応じて微調節可能なin vivoでの滞留時間を有し得る。別の実施態様では、架橋されたビーズは生物活性細胞を含み、そして本明細書に記載するように酵素分解に対して抵抗性である。本発明の製剤製剤は、活性な薬剤、例えば、生物活性細胞と組み合わせた第2のバイオマテリアルを含む/含まない、活性な薬剤、例えば、生物活性細胞と組み合わせた第1のバイオマテリアルを含み得る。製剤製剤が第2のバイオマテリアルを含む場合、製剤製剤は温度感受性ビーズ及び/又は架橋されたビーズであり得る。
別の態様では、本発明は、分、時、又は日の期間にわたり分解するバイオマテリアルを含む製剤製剤を提供する。これは、固体材料の移植に重点が置かれた、日、週、又は月の期間にわたりゆっくりと分解する大型の本体又は作用とは対照的である。1つの実施態様では、バイオマテリアルは、下記の特徴:生体適合性、生分解性/生体吸収性、対象内に移植される前及び期間中において実質的に固体状態、移植後の構造的完全性(実質的に固体状態)の喪失、そして細胞の生存を支援する細胞適合環境のうちの一又は複数を有する。移植期間中に間隔を置いて埋め込まれた粒子を保持するバイオマテリアルの能力は、自然組織の内殖を強化する。バイオマテリアルは、固体製剤製剤の移植も容易にする。固体ユニットを挿入すれば、送達された材料が移植期間中に組織内に分散するのを阻止するのに役立つので、バイオマテリアルは本明細書に記載する製剤の局在化を実現する。細胞ベースの製剤の場合、固体バイオマテリアルは、液体に懸濁した細胞と比較して接着依存性細胞の安定性及び生存率も改善する。但し、構造的完全性が短期間であるということは、移植後速やかに、バイオマテリアルは、組織の内殖、又は宿主組織による送達された細胞/材料の取り込みに対して十分なバリアを提供しなくなることを意味する。
1つの態様では、本発明は、実質的に固体状態で埋め込まれ、次に体内に移植された後、液化/溶融する、さもなければ構造的完全性を失うバイオマテリアルを含む製剤を提供する。これは、液体として注入することができ、次に体内で固体化する材料の使用に重点が置かれた重要な作用の本質とは対照的である。
生物活性細胞製剤
本明細書に記載する生物活性細胞製剤は埋込可能なコンストラクトを含み、同コンストラクトは、必要としている対象の腎疾患治療を目的として、本明細書に記載する生物活性腎細胞を有する上記引用のバイオマテリアルからなる。1つの実施態様では、コンストラクトは、生体適合物質又はバイオマテリアル、一又は複数の合成又は天然の生体適合物質から構成されるスキャフォールド又はマトリックスからなり、並びに本明細書に記載する一又は複数の細胞集団又は細胞の混合物が、連結及び/若しくはエントラップメントによりスキャフォールドの表面上に配置され、又はその中に包埋される。特定の実施態様では、コンストラクトはバイオマテリアルからなり、及び本明細書に記載する一又は複数の細胞集団又は細胞の混合物が、バイオマテリアルコンポーネント(複数可)でコーティングされ、その上に配置され、その中に配置され、それに連結し、その中に捕捉、包埋、播種され、又はそれと組み合わされる。濃縮された細胞集団又はその混合物を含む、本明細書に記載する細胞集団のいずれも、マトリックスと併用してコンストラクトを形成することができる。1つの実施態様では、生物活性細胞製剤は、本明細書に記載する生体適合物質又はバイオマテリアル、及びSRC集団からなる。
ネオ腎臓増強剤の説明及び組成
1つの実施態様では、生物活性細胞製剤は、バイオマテリアル(ゼラチンに基づくヒドロゲル)内で製剤化された自系、同系の選択された腎細胞(SRC)から構成される注入可能な製品であるネオ腎臓増強剤(NKA)である。1つの態様では、自系、同系のSRCは、腎生検により患者腎皮質組織から得られた腎細胞の単離及び増殖、並びに増殖させた腎細胞からの密度勾配遠心分離法による選択から得られる。SRCは、その再生能力について周知されている腎上皮細胞から主に構成される(Humphreys等(2008) Intrinsic epithelial cells repair the kidney after injury. cells Stem Cell. 2(3):284-91)。その他の実質細胞(血管)及び間質細胞(集合管)は、自系のSRC集団中にまばらに存在し得る。非臨床試験において、レシピエントの腎臓内にSRCを注入すると、動物の生存率、尿濃度、及び濾過機能の有意な改善を引き起こした。但し、SRCの寿命及び安定性は限定的である。ゼラチンに基づくヒドロゲルバイオマテリアル中のSRCの製剤は、細胞の安定性強化、したがって製品寿命の延長、臨床的有用性を得るためにNKAを腎皮質中に輸送及び送達する期間中のNKAの安定性改善を実現する。
別の態様では、NKAは、臨床的介護標準(standard-of-clinical-care)腎生検手順を使用してドナー/レシピエントから腎皮質組織を最初に取得することにより製造される。腎細胞は、腎組織から酵素消化により単離され、そして標準的な細胞培養技術を使用して増殖させる。細胞培養培地は、初代腎細胞を増殖させるが、分化因子を一切含まないように設計される。採取された腎細胞に密度勾配分離を実施してSRCを取得する。
温度感受性製剤
本発明の1つの態様は、本明細書に記載するように、外部条件に応答するように設計又は構成されたバイオマテリアルからなる製剤を更に提供する。その結果、生物活性細胞集団がコンストラクト中のバイオマテリアルと会合する性質が、外部条件に依存して変化する。例えば、細胞集団と温度感受性バイオマテリアルとの会合は温度と共に変化する。1つの実施態様では、コンストラクトは、生物活性腎細胞集団、並びに約8℃以下で実質的に固体状態、及び約周囲温度以上で実質的に液体状態を有するバイオマテリアルを含有し、該細胞集団は、約8℃以下においてバイオマテリアル内で懸濁した状態にある。
しかし、細胞集団は、約周囲温度以上において、バイオマテリアルの容積全体を実質的に自由に移動する。より低い温度において実質的に固相の中に細胞集団を懸濁させると、液体中の細胞と比較して、接着依存性細胞等の細胞に安定上の長所をもたらす。更に、細胞を実質的に固体状態に懸濁させると、i)細胞が沈殿するのを防止する、ii)細胞が懸濁した状態でバイオマテリアルに係留された状態に保つのを可能にする;iii)細胞がバイオマテリアルの容積全体にわたりより均一に分散されたまま保たれるのを可能にする;iv)細胞凝集物の形成を防止する;並びにv)製剤の保管及び輸送期間中において細胞により良好な保護を提供する、といった利益のうちの一又は複数をもたらす。対象への投与に至るまでそのような特性を保持することができる製剤は、少なくとも製剤中の細胞の全体的な健康がより良好となり、またより均一で一定した細胞用量が投与されることとなるので好都合である。
好ましい実施態様では、SRCをNKA中に製剤化するのに使用されるゼラチンに基づくヒドロゲルバイオマテリアルは、熱応答性ヒドロゲルを形成するためにバッファーに溶解したブタゼラチンである。このヒドロゲルは室温で液体であるが、冷蔵温度(2−8℃)まで冷却されるとゲル化する。SRCは、NKAを得るためにヒドロゲルを用いて製剤化される。NKAは冷却によりゲル化し、そして冷蔵温度(2−8℃)下でクリニックに出荷される。NKAは3日間の有効期間を有する。臨床施設では、製品は患者の腎臓に注入する前に室温まで加温される。NKAは、経皮的手順又は腹腔鏡下での手順によりNKAを送達するのに適する針及びシリンジを使用して、腎皮質中に移植される。
製造方法
特定の実施態様では、生物活性細胞製剤の製造方法は、インプラントを製造するために患者から生検採取したときから約4週間以内に製品が送達されるように設計される。患者間で組織に固有のばらつきが認められるので、固定されたインプラントスケジュールに則り製品を送達するには課題が提起される。この患者依存性の細胞増殖変動に対処するために、増殖させた腎細胞は細胞増殖期間中にルーチン的に凍結保存される。凍結保存された腎細胞は、別の治療が必要とされる場合(例えば、患者の病気、予想されないプロセスイベントに起因する遅延等)、及び必要に応じて再移植用として複数の用量を製造するために細胞の継続的供給源を提供する。
生物活性細胞製剤が、バイオマテリアル(ゼラチンに基づくヒドロゲル)内で製剤化された自系、同系の細胞から構成される実施態様では、最終組成物は、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)を用いたゼラチン溶液中、細胞約20×10個/mLから細胞約200×10個/mLであり得る。いくつかの実施態様では、製品1mL当たりの細胞の数は、1mL当たり細胞約20×10個、1mL当たり細胞約40×10個、1mL当たり細胞約60×10個、1mL当たり細胞約100×10個、1mL当たり細胞約120×10個、1mL当たり細胞約140×10個、1mL当たり細胞約160×10個、1mL当たり細胞約180×10個、又は1mL当たり細胞約200×10個である。いくつかの実施態様では、ゼラチンは、溶液中に約0.5%、約0.55%、約0.6%、約0.65%、約0.7%、約0.75%、約0.8%、約0.85%、約0.9%、約0.95%、又は約1%、(w/v)で存在する。1つの例では、バイオマテリアルは、DPBS中の0.88%(w/v)ゼラチン溶液である。
好ましい実施態様では、NKAは無菌の単回使用10mLシリンジ中に存在する。最終容積は、NKA1mL当たりSRC100×10個の濃度、及び腎重量1g(MRIによる見積り)当たりSRC3.0×10個の目標用量から計算される。用量は、患者の腎臓重量に基づき、注入時に外科医が決定することもできる。
NKAを開発するこのアプローチは、活性な生体成分であるSRCの広範囲にわたる科学的評価に準拠した(Bruce等、(2011) Exposure of Cultured Human Renal Cells Induces Mediators of cell migration and attachment and facilitates the repair of tubular cell monolayers in vitro. Experimental Biology, Washington, DC; Ilagan等、(2010a) Exosomes derived from primary renal cells contain microRNAs that can potentially drive therapeutically-relevant outcomes in models of chronic kidney disease. TERMIS Conference, Orlando, FL; Ilagan等、(2010b) Secreted Factors from Bioactive Kidney Cells Attenuate NF-kappa-B. TERMIS Conference, Orlando, FL; Ilagan等、(2009) Characterization of primary adult canine renal cells (CRC) in a three-dimensional (3D) culture system permissive for ex vivo nephrogenesis. KIDSTEM Conference, Liverpool, England, UK; Kelley等、(2012) A Population of Selected Renal Cells Augments Renal Function and Extends Survival in the ZSF1 model of Progressive Diabetic Nephropathy. Cell Transplant 22(6), 1023-1039; Kelley等、(2011) Intra-renal Transplantation of Bioactive Renal Cells Preserves Renal Functions and Extends Survival in the ZSF1 model of Progressive Diabetic Nephropathy. ADA Conference, San Diego, CA; Kelley等、(2010a) A tubular cell-enriched subpopulation of primary renal cells improves survival and augments kidney function in a rodent model of chronic kidney disease. Am J Physiol Renal Physiol. 299(5), F1026-1039; Kelley等、(2010b) Bioactive Renal Cells Augment Kidney Function In a Rodent Model Of Chronic Kidney Disease. ISCT Conference, Philadelphia, PA; Kelley等、(2008) Enhanced renal cell function in dynamic 3D culture system. KIDSTEM Conference, Liverpool, England, UK; Kelley等、(2010c) Bioactive Renal Cells Augment Renal Function in the ZSF1 model of Diabetic Nephropathy. TERMIS Conference, Orlando, FL; Presnell等、(2010) Isolation, Characterization, and Expansion (ICE) methods for Defined Primary Renal Cell Populations from Rodent, Canine, and Human Normal and Diseased Kidneys. Tissue Engineering Part C Methods. 17(3):261-273; Presnell等、(2009) Isolation and characterization of bioresponsive renal cells from human and large mammal with chronic renal failure. Experimental Biology, New Orleans, LA; Wallace等、(2010) Quantitative Ex Vivo Characterization of Human Renal Cell Population Dynamics via High-Content Image-Based Analysis (HCA). ISCT Conference, Philadelphia, PA; Yamaleyeva等、(2010) Primary Human Kidney Cell Cultures Containing Erythropoietin-Producing Cells Improve Renal Injury. TERMIS Conference, Orlando, FL.)。SRCは、腎臓の修復及び再生に本来関係している自系、同系の細胞集団である。薬理学、生理学、及び機構的生物学の一連の非臨床試験において、SRCの特徴が定義され、腎臓の構造及び機能を増強することにより、CKDの進行を遅延させる能力が実証された(Presnell等、国際公開第2010/056328号、及びIlagan等、PCT/US第2011/036347号)。
細胞の合計数は製剤に応じて選択され得るが、また製剤の容積は適切な用量に到達するように調整され得る。いくつかの実施態様では、製剤は対象に投与される細胞用量を含み得るが、その用量は単一用量又は単一用量+追加用量である。その他の実施態様では、用量は、本明細書に記載するようなコンストラクトにより提供され得る。本明細書に記載する生物活性腎細胞集団又は腎細胞集団の混合物の治療有効量は、対象が安全に投与される最大細胞数から、腎疾患治療、例えば、安定化、低下速度の低下、又は一若しくは複数の腎機能の改善に必要な最小細胞数の範囲であり得る。
本明細書に記載する生物活性腎細胞集団又はその混合物の治療有効量も薬学的に許容される担体又は賦形剤に懸濁可能である。そのような担体として、基底培養培地+1%血清アルブミン、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、水、コラーゲン、アルギネート、ヒアルロン酸、フィブリン糊、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、及びその組合せが挙げられるが、但しこれらに限定されない。製剤は投与様式に適合すべきである。
生物活性腎細胞製剤(複数可)若しくはその混合物、又は組成物は、ヒトへの投与用として考案された薬学的組成物として、ルーチン手順に基づき製剤化される。一般的に、静脈内投与、動脈内投与、又は腎被膜内投与用の組成物は、例えば、無菌等張水性バッファー中の溶液である。必要な場合には、組成物は、注入部位におけるあらゆる疼痛を和らげるために、局所麻酔薬も含み得る。一般的に、各配合物は、個別に、又は単位投与剤形中に共に混合された状態で、例えば、活性な薬剤の量を表示するアンプル等の密封された容器中の凍結保存された濃縮物として供給される。組成物が輸液により投与される場合、無菌医薬品グレードの水又は生理食塩水を含有する輸液ボトルを用いて分注され得る。組成物が注入により投与される場合、投与前に各配合物が混合可能なように、無菌の注入用水又は生理食塩水のアンプルが提供可能である。
薬学的に許容される担体は、投与される特定の組成物により、並びに組成物を投与するのに使用される特定の方法により一部決定される。したがって、薬学的組成物の多種多様な適する製剤が存在する(例えば、出典明示により本明細書にそのまま組み込まれている、Alfonso R Gennaro(編)の、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, formerly Remington's Pharmaceutical Sciences第20版、Lippincott, Williams & Wilkins, 2003を参照)。薬学的組成物は、無菌で実質的に等張であり、並びに米国食品医薬品局の医薬品製造管理及び品質管理基準(GMP)規制のすべてに完全に適合するように一般的に製剤化される。
細胞生存剤
1つの態様では、生物活性細胞製剤は、細胞生存剤も含む。1つの実施態様では、細胞生存剤は、酸化防止剤、酸素担体、免疫調節因子、細胞動員因子、細胞接着因子、抗炎症剤、血管新生因子、創傷治癒因子、及び生物活性細胞から分泌された生成物からなる群から選択される。
酸化防止剤は他の分子の酸化を阻害する能力により特徴づけられる。酸化防止剤として、非限定的に、6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸(Trolox(登録商標))、カロテノイド、フラボノイド、イソフラボン、ユビキノン、グルタチオン、リポ酸、スーパーオキシドジスムターゼ、アスコルビン酸、ビタミンE、ビタミンA、混合されたカロテノイド(例えば、βカロテン、αカロテン、γカロテン、ルテイン、リコピン、フィトペン(phytopene)、フィトフルエン、及びアスタキサンチン)、セレニウム、コエンザイムQ10、インドール−3−カルビノール、プロアントシアニジン、レスベラトロール、ケルセチン、カテキン、サリチル酸、クルクミン、ビリルビン、シュウ酸、フィチン酸、リポ酸、バニリン酸、ポリフェノール、フェルラ酸、テアフラビン、及びその誘導体のうちの一又は複数が挙げられる。当業者は、本発明で使用されるその他の適する酸化防止剤についても理解するであろう。
酸素担体は、酸素を担持及び放出する能力により特徴づけられる薬剤である。これには、パーフルオロカーボン及びパーフルオロカーボンを含有する医薬品が非限定的に含まれる。適するパーフルオロカーボンベースの酸素担体として、非限定的に、パーフルオロオクチルブロミド(C8F17Br);パーフルオロジクロロタン(perfluorodichorotane)(C8F16C12);パーフルオロデシルブロミド;パーフルオブロン(perfluobron);パーフルオロデカリン;パーフルオロトリポピラミン(perfluorotripopylamine);パーフルオロメチルシクロピペリジン(perfluoromethylcyclopiperidine);Fluosol(登録商標)(パーフルオロデカリン及びパーフルオロトリポピラミン);Perftoran(登録商標)(パーフルオロデカリン及びパーフルオロメチルシクロピペリジン);Oxygent(登録商標)(パーフルオロデシルブロミド及びパーフルオブロン);Ocycyte(商標)(パーフルオロ(tert−ブチルシクロヘキサン))が挙げられる。当業者は、本発明で使用されるその他の適するパーフルオロカーボンベースの酸素担体についても理解するであろう。
免疫調節因子として、非限定的に、オステオポンチン、FASリガンド因子、インターロイキン、形質転換増殖因子β、血小板由来増殖因子、クラスタリン、トランスフェリン、作用時調節正常T細胞発現分泌タンパク質(RANTES)、プラスミノーゲンアクチベーター阻害剤1(Pai−1)、腫瘍壊死因子α(TNF−α)、インターロイキン6(IL−6)、α−1 ミクログロブリン、及びβ−2−ミクログロブリンが挙げられる。当業者は、本発明で使用されるその他の適する免疫調節因子についても理解するであろう。
抗炎症剤又は免疫抑制剤(以下に記載する)もまた製剤の一部となり得る。当業者は、本発明で使用されるその他の適する酸化防止剤についても理解するであろう。
細胞動員因子として、非限定的に、単球走化性タンパク質1(MCP−1)、及びCXCL−1が挙げられる。当業者は、本発明で使用されるその他の適する細胞動員因子についても理解するであろう。
細胞接着因子として、非限定的に、フィブロネクチン、プロコラーゲン、コラーゲン、ICAM−1、結合組織増殖因子、ラミニン、プロテオグリカン、特異的細胞接着ペプチド、例えばRGDやYSIGR等が挙げられる。当業者は、本発明で使用されるその他の適する細胞接着因子についても理解するであろう。
血管新生因子として、非限定的に、マトリックスメタロプロテアーゼ1(MMP1)、マトリックスメタロプロテアーゼ2(MMP2)、血管内皮増殖因子F(VEGF)、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP−9)、組織阻害剤、又はメタロプロテアーゼ−1(TIMP−1)血管内皮増殖因子F(VEGF)、アンジオポエチン−2(ANG−2)が挙げられる。当業者は、本発明で使用されるその他の適する血管新生因子についても理解するであろう。
創傷治癒因子として、非限定的に、ケラチノサイト増殖因子1(KGF−1)、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)、カルビンジン、クラスタリン、シスタチンC、トレフォイル因子3が挙げられる。当業者は、本発明で使用されるその他の適する創傷治癒因子についても理解するであろう。本明細書に記載する生物活性細胞からの分泌された生成物も、細胞生存剤として生物活性細胞製剤に添加され得る。
当業者は、細胞集団を配置し、さもなければバイオマテリアルと組み合わせてコンストラクトを形成するいくつかの適する方法が存在することを理解するであろう。
使用方法
1つの態様では、本発明のコンストラクト及び製剤は、本明細書に記載する使用方法で用いるのに適する。1つの実施態様では、本発明の製剤は疾患を治療するために投与され得る。例えば、生物活性細胞は、本明細書に記載する製剤の一部として自然臓器に投与され得る。1つの実施態様では、生物活性細胞は、投与の対象である自然臓器から又は標的自然臓器ではない供給源から調達され得る。
1つの実施態様では、本発明は、本明細書に記載するような生物活性腎細胞集団を含有する製剤を用いて必要としている対象の腎疾患を治療する方法を提供する。別の実施態様では、治療用製剤は、選択された腎細胞集団又はその混合物を含有する。すべての実施態様では、製剤は腎機能の改善を必要としている対象に投与するのに適する。
別の態様では、本発明の方法による対象の腎疾患の治療が有効であることは、腎機能の様々な指標を通じて観察可能である。1つの実施態様では、腎機能の指標として、非限定的に、血清アルブミン、グロブリンに対するアルブミンの比(A/G比)、血清亜リン酸、血清ナトリウム、腎臓サイズ(超音波により測定可能)、血清カルシウム、亜リン酸:カルシウム比、血清カリウム、タンパク尿、尿中クレアチニン、血清クレアチニン、血中窒素尿素(BUN)、コレステロールレベル、トリグリセリドレベル、及び糸球体濾過率(GFR)が挙げられる。更に、全体的な健康及び健全性のいくつかの指標として、非限定的に、体重増加又は減少、生存率、血圧(平均体血圧、拡張期血圧、又は収縮期血圧)、及び身体的持久運動能力が挙げられる。
別の態様では、生物活性腎細胞製剤による治療が有効なことは、腎機能の一又は複数の指標の安定化により証明される。腎機能の安定化は、本発明の方法により治療された対象の指標の変化を、本発明の方法により治療されなかった対象の同一指標と比較して観察することにより実証される。或いは、腎機能の安定化は、本発明の方法により治療された対象の指標の変化を、治療前の同一対象の同一指標と比較して観察することにより実証され得る。第1の指標の変化は、数値の増加又は減少であり得る。1つの実施態様では、本発明により提供される治療には、対象の血中尿素窒素(BUN)レベルの安定化が含まれ得るが、その場合、該対象に認められるBUNレベルは、本発明の方法により治療されなかった類似した疾患状態を有する対象と比較してそれよりも低い。1つのその他の実施態様では、治療は対象の血清クレアチニンレベルの安定化を含み得るが、その場合、該対象に認められる血清クレアチニンレベルは、本発明の方法により治療されなかった類似した疾患状態を有する対象と比較してそれよりも低い。1つの実施態様では、腎機能に関する上記指標のうちの一又は複数の安定化は、選択された腎細胞製剤による治療の結果である。
当業者は、本明細書に記載する又は当技術分野において公知の一又は複数の追加の指標は、対象の腎疾患治療が有効であることを判断するために測定され得ることを認識する。
別の態様では、生物活性腎細胞製剤による治療が有効であることは、一又は複数の腎機能の指標の改善により証明される。1つの実施態様では、生物活性腎細胞集団は、血清血中尿素窒素(BUN)レベルの改善を実現する。別の実施態様では、生物活性腎細胞集団は、血清中のタンパク質保持の改善を実現する。別の実施態様では、生物活性腎細胞集団は、血清コレステロール及び/又はトリグリセリドレベルの改善を実現する。別の実施態様では、生物活性腎細胞集団は、ビタミンDレベルの改善を提供する。1つの実施態様では、生物活性腎細胞集団は、非濃縮細胞集団と比較してリン:カルシウム比の改善を実現する。別の実施態様では、生物活性腎細胞集団は、非濃縮細胞集団と比較して、ヘモグロビンレベルの改善を実現する。更なる実施態様では、生物活性腎細胞集団は、非濃縮細胞集団と比較して、血清クレアチニンレベルの改善を実現する。1つの実施態様では、腎機能に関する上記指標のうちの一又は複数の改善は、選択された腎細胞製剤による治療の結果である。
別の態様では、本発明は、それを必要としている対象内の自然腎を再生する方法で使用される製剤を提供する。1つの実施態様では、方法は、本明細書に記載する生物活性細胞集団、混合物、又はコンストラクトを対象に投与又は移植する工程を含む。再生した自然腎は、非限定的に、自然腎の機能又は能力の発達、自然腎の機能又は能力の改善、及び自然腎における特定マーカーの発現を含むいくつかの指標により特徴づけられ得る。1つの実施態様では、機能又は能力の発達又は改善は、上記した腎機能の様々な指標に基づき観察され得る。別の実施態様では、再生した腎臓は、一又は複数の幹細胞マーカーの差次的発現により特徴づけられる。幹細胞マーカーは、SRY(性決定領域Y)−ボックス2(Sox2);未分化胚性細胞転写因子(UTF1);マウス由来のノーダルホモログ(Nodal Homolog)(NODAL);プロミニン(Prominin)1(PROM1)、又はCD133(CD133);CD24;及び任意のこれらの組合せ(出典明示により本明細書にそのまま援用するIlagan等のPCT/US第2011/036347号を参照)のうちの一又は複数であり得る。別の実施態様では、幹細胞マーカー(複数可)の発現は、コントロールと比較して上方制御である。
分泌された生成物
別の実施態様では、効果は、細胞それ自体により、及び/又は細胞から分泌された生成物により提供され得る。再生効果は、上皮間葉転換の低下(TGF−βシグナリングの減弱によると考えられる);腎線維症の低下;腎臓の炎症低下;自然腎内の幹細胞マーカーの差次的発現;移植された細胞及び/又は自然細胞の腎臓損傷部位、例えば尿細管損傷部位への移動、移植された細胞の腎臓損傷部位、例えば尿細管損傷部位への生着;腎機能の一又は複数の指標の安定化(本明細書に記載するような);赤血球ホメオスタシスの修復(本明細書に記載するような);及び任意のこれらの組合せのうちの一又は複数により特徴づけられ得る。
組織生検に代わるものとして、治療を受けた対象における再生転帰が、体液、例えば尿の検査から評価可能である。対象由来の尿供給源から得られた微小胞は、特定のコンポーネントを含むことが発見されたが、そのようなコンポーネントとして、非限定的に、本発明の細胞集団を用いた治療により影響を受けた腎細胞集団に最終的に由来する特異的タンパク質及びmiRNAが挙げられる。このようなコンポーネントは、幹細胞の複製及び分化、アポトーシス、炎症、並びに免疫調節に関与する因子を含み得る。微小胞関連のmiRNA/タンパク質の発現パターンを時間分析すれば、本発明の細胞集団、混合物、又はコンストラクトの投与を受けた対象の腎臓における再生転帰について連続的なモニタリングが可能になる。
別の実施態様では、本発明は、腎疾患(KD)患者が治療用製剤を用いた治療に応答するか評価する方法を提供する。方法は、治療薬で治療されたKD患者から得られた試験サンプル中の小胞の量又はその管腔内容量を、コントロールサンプル中の小胞の量と比較して又はそれに対して決定又は検出する工程を含み得るが、その場合、コントロールサンプル内の小胞の量又はその管腔内容量と比較して、試験サンプル内の小胞の量又はその管腔内容量がそれより高い又は低ければ、治療された患者が治療薬による治療に対して応答性であることを示唆する。
このような腎臓由来の小胞及び/又は腎臓由来の小胞の管腔内容量は、対象の尿中にも流出すると考えられ、再生転帰又は治療有効性を示唆するバイオマーカーについて分析され得る。非侵襲的予後診断方法は、本明細書に記載する細胞集団、混合物、又はコンストラクトの投与又は移植前及び/又は後に、対象に由来する尿サンプルを取得する工程を含み得る。小胞及びその他の分泌された生成物は、非限定的に、望ましくないデブリを取り除く遠心分離法を含む標準技術を使用して尿サンプルから単離され得る(それぞれ出典明記により本明細書にそのまま援用するZhou等、2008. Kidney Int. 74(5):613-621; Skog等、米国公開特許出願第20110053157号)。
方法及び投与経路
本発明の生物活性細胞製剤は、単独で、又はその他の生物活性コンポーネントと組み合わせて投与可能である。製剤は、組織を再生するために、組み込まれたティッシュエンジニアリング要素を実質臓器の内部に注入又は移植するのに適する。更に、製剤は、組織を再生するために、ティッシュエンジニアリング要素を中空臓器の壁に注入又は移植するのに使用される。
1つの態様では、本発明は、本明細書に記載する生物活性細胞製剤を、必要としている対象に提供する方法を提供する。1つの実施態様では、生物活性細胞の供給源は、自系又は同種異系、同一遺伝子(オートジェニック(autogeneic)又はアイソジェニック(isogeneic))、及び任意のこれらの組合せであり得る。供給源が自系ではない場合には、方法は免疫抑制剤の投与を含み得る(例えば、米国特許第7563822号を参照)。
主題発明の治療方法は、本明細書に記載する生物活性細胞製剤の送達と関係する。1つの実施態様では、細胞を意図した利益が得られる部位に直接投与するのが好ましい。必要としている対象は、自然腎を、一又は複数の濃縮された腎細胞集団、及び/又は該腎細胞集団を含有する混合物若しくはコンストラクトから分泌された生成物と共に、本明細書に記載する生物活性細胞製剤とin vivoで接触させることによっても治療され得る。In vivoで接触させる工程は、自然腎に対して再生効果をもたらす。
選択された腎細胞の組成物を対象に投与するための様々な手段は、本明細書を踏まえれば、当業者にとって明白であろう。そのような方法には、対象の標的部位内への細胞の注入が含まれる。
送達媒体
細胞及び/又は分泌された生成物は、対象内への注入又は移植による導入を促進する送達デバイス又は媒体中に挿入可能である。特定の実施態様では、送達媒体は天然物質を含み得る。特定のその他の実施態様では、送達媒体は合成物質を含み得る。1つの実施態様では、送達媒体は、臓器の構造を模倣する、又はそれに適切に適合する構造を提供する。その他の実施態様では、送達媒体は本質的に液状である。そのような送達デバイスは、細胞及び液体をレシピエント対象の身体内に注入するためのチューブ、例えば、カテーテルを含み得る。好ましい実施態様では、チューブは、針、例えば、シリンジを更に有し、それを通じて本発明の細胞が対象内の所望の場所に導入され得る。いくつかの実施態様では、哺乳動物の腎臓に由来する細胞集団が、カテーテルを介して血管内に投与されるように製剤化される(用語「カテーテル」が、血管への物質の送達用として任意の様々なチューブ様の系を含むように意図されている場合)。或いは、細胞は、テキスタイル、例えば織物、ニット、編物、メッシュ及び不織布等、穴のあいたフィルム、スポンジ及びフォーム、並びにビーズ、例えば固体若しくは多孔性のビーズ等、微粒子、ナノ粒子等(例えば、Cultispher−Sゼラチンビーズ−Sigma社)を含む、但しこれらに限定されないバイオマテリアル又はスキャフォールドの内部若しくはその上部に挿入され得る。細胞は送達用として異なる多様な形態で調製され得る。例えば、細胞は溶液又はゲルに懸濁可能である。細胞は、本発明の細胞がその中で生存し続ける薬学的に許容される担体又は希釈剤と混合可能である。薬学的に許容される担体及び希釈剤として、生理食塩水、水性バッファー溶液、溶媒、及び/又は分散媒が挙げられる。そのような担体及び希釈剤の使用は当技術分野において周知されている。溶液は、好ましくは無菌の液体であり、また多くの場合等張である。好ましくは、溶液は、製造及び保管条件下で安定であり、そして例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等の使用を通じて、細菌及び菌類等の微生物の汚染作用に抗するように保存される。当業者は、本発明の細胞集団及びその混合物の送達で使用される送達媒体は、上記特徴の組合せを含み得ることを認識するであろう。
投与様式
製剤の投与様式として、全身、腎臓内(例えば、実質内)、静脈内又は動脈内への注入、及び意図した活性部位の組織内への直接注入が挙げられるが、但しこれらに限定されない。本発明に基づき使用される追加の投与様式には、直接開腹術による、直接腹腔鏡による、経腹腔的又は経皮的な単回注入又は複数回注入が含まれる。本発明に基づき使用されるなおも追加の投与様式には、例えば、逆行性及び腎盂尿管輸液が含まれる。外科的投与手段として、腎部分切除術とコンストラクト移植、腎部分切除術、腎盂部分切除術、網±腹膜を用いた血管新生、多焦点生検針痕、円錐又はピラミッド状〜円柱状、及び腎極様置換等の、但しこれらに限定されない1ステップ手順、並びに例えば、再移植のためのオルガノイド内部バイオリアクターを含む2ステップ手順が挙げられる。1つの実施態様では、細胞の混合物を含有する製剤は、同一経路を経由して同時に送達される。別の実施態様では、管理された混合物を含む細胞組成物のそれぞれは、本明細書に記載する方法のうちの一若しくは複数により、特定の場所に個別に、又は特別な方法を経由して同時に、若しくは時間制御された方式で送達される。1つの実施態様では、選択された腎細胞は腎臓の腎皮質内に経皮的に注入される。別の実施態様では、ガイドカニューラが経皮的に挿入され、そして組成物を腎臓に注入する前に腎被膜を穿刺するのに使用される。
腹腔鏡技術又は経皮的技術は、腎臓にアクセスして製剤化されたBRC又はSRC集団を注入するために利用され得る。腹腔鏡下での外科技法を使用すれば、腎臓の直接的な可視化が可能となり、あらゆる出血又はその他の有害事象を注入期間中に見極めることができ、速やかに対処することができる。腎臓に対する経皮的アプローチの使用が、10年間にわたり、主に腎内腫瘤を切除するために用いられてきた。これらの手順は、腎臓内の定義された腫瘤中に電極又は極低温針を挿入し、そして病変が切除される間、(一般的に)10−20分間接触した状態に保つ。治療用製剤の注入では、経皮的装置は、それほど大きくもなく複雑でもないが、またこのアプローチは手術を伴わない安全上の長所を提供し(腹部の穿刺創傷及び気体による膨張を回避する)、そして拘束時間も最低限に抑えられる。更に、アクセストラックには、顕著な出血のあらゆる可能性を更に低下させるために止血性の生分解性物質が留置可能である。
注入による送達の1つの実施態様によれば、治療用の生物活性細胞製剤は、腎皮質内に注入される。治療用製剤を腎皮質内にできる限り広く分布させることが重要であり、それは、例えば、腎皮質内への治療用製剤の配置を可能にする角度で腎皮質に進入し、できる限り広く分布させすることにより実現可能である。これは、個々の患者特性に応じて、超音波ガイダンスを使用する縦方向若しくは横方向のアプローチで、又はアキシャルコンピュータ断層映像(CT)画像化法により、腎臓を画像化する必要がある。理想的には、注入は、注入針/カニューラが徐々に撤去される際に、複数回配置することと関係する。治療用製剤の全容積は、一又は複数のエントリーポイントに配置され得る。1つの実施態様では、最大2つのエントリーポイントが、治療用製剤の全容積を腎臓中に配置するのに利用され得る。1つの実施態様では、注入は、一又は複数のエントリーポイント、例えば、1つ又は2つのエントリーポイントを使用して一方の腎臓に投与され得る。別の実施態様では、注入は、両方の腎臓に実施され、各腎臓には一又は複数のエントリーポイント、例えば、1つ又は2つのエントリーポイントが使用される。
治療計画
用量の選択
ヒトにおける適切な細胞移植用量は、細胞の活性に関係する既存の情報から、又は前臨床試験で実施された投与試験から推定可能である。複数の動物試験が、広範囲の用量(注入した腎組織の1グラム当たり細胞3−15百万個)を使用して、治療後の長期間(最長1年)にわたり実施され、腎不全及び腎疾患の異なるモデルにおいて腎臓の転帰に良い影響を及ぼすNKAの能力が実証された。In vitro培養及びin vivo動物実験から、細胞の量が定量可能、及び移植物質の適切な投与量を計算する際に使用可能である。更に、患者は、追加の移植が実施可能であるか、又はそれに応じて移植物質の低減が可能であるか判断するためにモニタリングされ得る。
1つの実施態様では、NKAは、無菌、単回使用の10mLシリンジ内に提供される。最終容積は、SRC100×10個/mLのNKA濃度、及び腎臓重量1g(MRIによる見積り)当たりSRC3.0×10個/gの目標用量から計算される。文献に記載されているように、異なる方法により得られた腎臓の容積測定値(mL)は、周辺脂肪を除去して単離された臓器を測定することにより得られた乾燥重量測定値(グラム)の約92−97%である。したがって、保守的な見積りとして、NKAの用量は、1gを1mLとする換算を使用して計算される。この比を使用すれば、患者には動物試験における対応する用量よりも高い用量が投与されないことが保証されるので、最も安全なアプローチに該当する。用量は、患者の腎臓重量に基づき注入時に外科医により決定される。あらゆる患者の最大容積は8.0mLである;すなわち、対象の左腎臓の計算重量が259g以上である場合、8mLのNKAが対象に投与される。
治療の回数
増殖させた腎細胞は、細胞増殖における患者依存性の変動に対処するために、細胞増殖期間中に凍結保存可能である。凍結保存された腎細胞は、再移植用として、及び別の治療が必要とされる場合(例えば、患者の病気、予想されないプロセスイベント等に起因する遅延)、生物活性細胞製剤の複数の用量を製造するための継続的な細胞供給源を提供する。
1つの実施態様では、BRC又はSRCは一方の腎臓への単回治療として投与される。別の実施態様では、BRC又はSRCは両方の腎臓への注入による単回治療として投与される。別の実施態様では、BRC又はSRCは一方又は両方の腎臓への反復注入又は複数回注入として投与される。なおも別の実施態様では、第1及び第2の注入は、少なくとも3カ月置いて、少なくとも6カ月置いて、又は少なくとも1年置いて投与される。依然なおも別の実施態様では、BRC又はSRCは、2回を超える注入で投与される。
下記の実施例は、説明目的に限定して提供され、また本発明の範囲を制限するようにはいかなる場合においても意図されない。
実施例1− 慢性腎疾患を有する患者を対象とした自系ネオ腎臓増強剤(NKA)の第I相、非盲検、安全性及び送達最適化試験(TNG−CL010)
ヒト初回(FIH)臨床トライアルは、スウェーデン、ストックホルム、Huddingeのカロリンスカ大学病院及びノースカロライナ大学で開始された。トライアルは、CKDを有する患者に注入されるNKAの第I相、非盲検、安全性及び注入最適化試験であった。NKAは、患者の生検から得たSRCから製造され、ゼラチンバイオマテリアルを用いて製剤化され、そして患者の左腎臓内に再注入された。本試験の第1の目的は、レシピエント腎臓内の1つの部位に注入したNKAの安全性及び最適な注入を、手順及び/又は製品関連の有害事象(AE)により測定して評価することであった。本試験の第2の目的は、注入後の12カ月間にわたり腎機能の変化を、検査室評価により測定して評価することであった。注入後の疾患進行速度について、その有害な変化をモニタリングするためのコントロールとして、各患者のベースライン疾患進行速度を使用した。
材料及び方法、治療プロトコール
患者
スウェーデン、ストックホルム、カロリンスカ大学病院、腎臓病部門(n=6)、及び米国、チャペルヒル、ノースカロライナ大学の腎臓病部門(n=1)の2型糖尿病を有するCKDステージ3−4の成人患者7例を本試験のために募集した。本試験はストックホルム、及びチャペルヒルの地域倫理委員会より承認を受け、そしてヘルシンキ宣言の法令に従った。すべての患者は参加への同意書を提出した。
要するに、15−50ml/分のGFR及び糖尿病性腎障害に一致する臨床経過を有し、ACEi/ARB治療が継続中であり、そして腎臓サイズ>10cm(皮質厚>5mm)の成人(年齢53−70歳)2型糖尿病患者が、組み入れについて適格性を有した。適格性基準を満たし、そしてインフォームドコンセントに署名した患者が、総合的な身体検査、心電図、及び検査室評価(血液学、血清化学、及び尿分析)を含むスクリーニング相を開始した。更に、MRIを実施して腎臓容積及び皮質厚を評価した。腎シンチグラフィーを実施してスプリット腎機能を評価した。適格性を有する患者は、移植用の細胞を取得するために、標準臨床手順(2コア)に基づく腎生検を受けた。試験プロトコールを図1に示す。
ネオ腎臓増強剤(NKA)の調製
要するに、生検試料を、4.0単位/mLのディスパーゼ(Stem Cell Technologies,Inc.社、Vancouver、BC、カナダ)、及び300単位/mLのコラゲナーゼIV(Worthington Biochemical社、Lakewood、NJ、米国)を含有するバッファー中で酵素的に解離させた。15%イオジキサノール(Optiprep(登録商標)、Axis Shield社、Norton、MA、米国)を通じた遠心分離により赤血球及びデブリを除去した。一次腎細胞を組織培養処理したポリスチレンプレート(NUNC社、Rochester、NY、米国)上に播種し、そして高グルコースダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)と、5%ウシ胎仔血清(FBS)、1×ITS(インスリン/トランスフェリン/亜セレン酸ナトリウム培地サプリメント)、及び抗生物質/抗真菌薬(すべてInvitrogen社から入手、Carlsbad、CA、米国)を含有するケラチノサイト無血清培地(KSFM)との1:1混合物である50:50培地中で培養した。培養細胞分離の前後で、一次腎細胞培養物を、大気酸素条件(21%)から、より生理学的に意味のある低酸素(2%)環境に24時間移して、細胞分離効率を改良した。未補充のKSFM(uKSFM)2mL中で細胞75×10個として調製した一次腎細胞培養物の分離を、15mLのコニカルポリプロピレンチューブ中、齧歯類(16%、13%、11%、及び7%)について特別に積層した4ステップのイオジキサノール(OptiPrep;uKSFM中60%w/v)密度勾配法を通じた遠心分離により実施し、そして800g、室温で20分間遠心分離した。遠心分離後、使用する前に、すべてのバンドを無菌のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄した。
密度勾配遠心分離工程から約1.0419g/mLを上回る浮遊密度を示す生物活性腎細胞を統合して、治療的に生物活性なSRCを製造した。患者生検から得た選択された腎細胞の調製物は、例えば、Kelley等(Am J Physiol Renal Physiol 2010; 299: F1026-39)、Kelley等(Cell Transplant 2013; 22:1023-39)、Bruce等(Methods Mol Biol. 2013; 1001:53-64)、及びBasu等(Cell Transplant. 2011; 20:1171-90l)にも記載されている。細胞懸濁物(100μL)は、NKA製品を製剤化するために、ゼラチンに基づくヒドロゲルバイオマテリアルと混合して10ccシリンジ中に充填した。
細胞生存率は、各継代培養時及びNKAの製剤化(Trypan Blue色素排除法)期間中に測定する。細胞の表現型及び能力のアッセイを最終的なNKA製品において、これまでの記載に従い実施する(Basu and Ludlow. Regen Med 2014; 9:497-512)。すべての手順を、FDA及びMPA QPのガイダンスの下、最新版医薬品製造管理及び品質管理基準(cGMP)を順守して実施する。
移植手順
スウェーデン人の症例(患者#1−6)では、ファンネンスティール切開を行い、そして用手補助デバイスを創傷内に配置した(Gelport(C)、Applied Medical Resources Corporation社)。ブラントなマニュアル解離により腹膜を内側的に移動して、後腹膜スペースを確保した(Wadstrom J.、implantation. 2005; 80:1060-8)。左腎臓のゲロタ筋膜の中央前部を開いて、全症例において多量に存在した腎臓周囲の脂肪組織を露出させた。脂肪組織を除去して腎被膜を、実質的にすべての中央及び水平方向の側面、並びに腎臓の凸面部分/水平部分のほぼ全体について露出させた。広範な解離により、注入針の位置に合わせて腎臓を配置すること、及び注入した物質の浸透又は漏損が認められた場合には、そのいずれについても視覚化することが可能であった。左側腸骨窩から、ガイドカニューラを経皮的に挿入して腎被膜を下極において穿刺した。その後ガイドカニューラを通じて、18G針を腎臓の凸面の長軸に沿って腎皮質中に挿入した。2mLのNKAを、被膜の穿刺部から4、3、2、及び1cmのところに10−15分かけて配置した(合計8mL)。止血を促進するために針を5分間その場に留めた。手術前後の出血はなく、またいずれの手順においても最小量のNKA(<1mL)のみが穿刺孔から逆流するのが認められた。創傷にドレーンは設けず、そして腹壁を連続縫合で閉鎖した。米国の患者(#7)はロボット補助による左腎皮質内腹腔鏡下腎細胞移植を受けた。NKAの投与量は、推定腎臓重量より決定した(いずれの患者についても最大容積は8mLであり、それをすべての対象に投与した)。
MR画像化
MRIを、1.5−T MRユニット(Siemens Magnetom Aera、Siemens AEG社、Erlangen、ドイツ)を使用して、移植前(<30日)並びに3及び6カ月後に実施した。皮質厚を、4mm厚のアキシャルT2Haste画像を使用して、腎臓上極の背部において測定した。腎臓容積を、脂肪抑制を行わずに取得したブレスホールドによる厚さ2.5mmのVIBE画像のデータセットを使用してマニュアルセグメンテーションにより定量化した。
腎シンチグラフィー
50MBq99mTc−DMSA(CIS bio international社、Gif sur Yvette Cedex、フランス)の静脈内注入から3時間後に、腎機能を背臥位で評価した。低エネルギー高分解能コリメーター、256×256マトリックスを備えた二重ヘッドガンマカメラ(Symbia T16 SPECT/CT、Siemens社、Erlangen、ドイツ)を使用して、事前設定時間20分にて前方及び後方での取得を行った。腎機能の相違を、腎臓全体を含む対象領域描画法を使用して、両投影画像から計算した幾何平均を用いて評価した。
生化学分析及びその他の分析
高感度C反応性タンパク質(hsCRP)、クレアチニン、シスタチンC、イオヘキソールクリアランス、ヘモグロビン、アルブミン、Ca、PO、及びアルブミン−クレアチニン比(ACR)の分析を、スウェーデン、ストックホルムのカロリンスカ大学病院、及び米国、ノースカロライナ、チャペルヒルの認可された臨床検査室において、妥当性確認されたルーチン方法を用いて実施した。
統計解析
データを平均±SEMとして表す。統計的有意性を、p<0.05のレベルに設定した。
結果
推定糸球体濾過率(eGFR)
NKAが注入された患者コホートは、その腎疾患の進行について注入前評価を受け、Hemmelgarn中間群のeGFRの低下、5−10ml/分/1.73mと一致した(例えば、地域社会に暮らす高齢患者を、平均eGFRの変化率に基づき5群に分割することを示すHemmelgarn等、Kid Intern; 2006を参照)。
この患者コホートから得られた注入前の情報より、eGFRにおけるその平均低下は6.1ml/分/年であることが示唆された(図2)。NKA投与後、患者7例からなる統合された群(スウェーデン試験から患者6例、及び米国試験から患者1例)におけるeGFRの低下は、−3.1ml/分/年であった(図2)。該コホートにおけるeGFRの平均注入後低下速度を緑色の線で示し、また影付きの青色エリアは、中等度のCKD3b/4を有し、年間低下速度が5−10ml/分/年の地域社会に暮らす高齢患者からなるHemmelgarn群に関するeGFRの範囲を表す(図2の影付きのエリア)。
患者それぞれの注入前の低下と共に、NKA注入後の患者それぞれに関するeGFR変化は、患者7例中6例において、患者が試験に参加していた期間にわたりeGFRの低下速度が減少したことを実証した(図3)。患者毎の注入前後における年間eGFR低下速度を表4に示す。
まとめとして、患者7例中6例で、NKA注入後にeGFR低下速度(スロープ)が減少した。NKAコホートにおける注入前のeGFR低下速度は、6.1ml/分/年であり、地域社会に暮らす高齢患者のHemmelgarn試験と整合した。
患者#2では、注入前の期間中に認められた低下速度とほぼ同一の低下速度が継続した。この患者にNKAを注入する前の短期間のeGFRサンプリングにおいて、その患者のeGFR測定値は±3ml/分/1.73m3の範囲で変動した。この患者のeGFRを、患者7例からなる全体コホートと比較したとき、この患者のeGFRの変化は、注入後のパターンについて、試験コホート内のその他の患者のパターンと類似した(図4)。更に、この患者の血清クレアチニンの増加が減弱し、CKDの進行が安定化した可能性を示唆する(下記のsCrのセクションを参照)。
治療量を超えないと考えられたNKAの用量を使用して、NKAによる第I相臨床トライアルを実施して、CKDが3b/4である透析前の糖尿病高齢患者からなる小さなコホートを対象に、一方の腎臓内に注入したときのNKAの効果を評価した。侵攻性慢性腎疾患の糖尿病動物モデルにおいて、動物を両方の腎臓について治療したとき、末期腎疾患から死亡までを遅延させるという最適な転帰が得られた。安全の観点から、NKAの最初の臨床試験では、一方の腎臓に限りNKAを注入し、したがって治療シグナルは必ずしも期待されなかった。しかし、この患者コホートにおけるCKDの進行を〜1年間モニタリングした後、このコホートについて予測された腎機能の低下は、一方の腎臓(左側)へのNKAの単回注入により改善した。注入前後の腎機能の低下速度を比較すると、NKAを注入された患者では、1.5年にわたり透析が補完的に遅延した(図5)。
血清クレアチニン(sCr)
注入前患者コホートの血清クレアチニンレベルは、中等度CKDを有する糖尿病患者に予想される増加と一致する一般的増加を示した(赤色の線)。該患者コホートの注入前の全体的なsCrの増加は、>100μmole/L/年であった。注入後、該患者コホートは、<50μmole/L/年の増加を示した(緑色の線)。注入前後のSCrにおける全体的な傾向を図6に示す。個々の患者の血清クレアチニン変化を、患者の個々の注入前における低下と共にNKAの注入後(緑色)について図7に示す。NKA注入前後の血清クレアチニンの年間増加速度を、患者毎に表5に示す。
まとめとして、NKA注入後、すべての患者において、注入前の期間に認められたsCrの増加速度と比較してsCrの個々の増加速度は低下した。この変化は、それぞれの患者において一貫しており、NKA注入後の期間においてeGFRについて認められた効果を裏付ける。
実施例2− 2型糖尿病及び慢性腎疾患を有する患者を対象とした自系ネオ腎臓増強剤(NKA)の第II相、非盲検、安全性及び有効性試験(RMCL−001)
治療用製品:
NKAは、実施例1に記載するように、患者の腎生検から得られる自系の選択された腎細胞集団(SRC)を増殖させてそれから作製する。NKAを製造するために、参加した各患者から得られた腎生検組織を、Twin City Bio,LLC社、Winston Salem、ノースカロライナに送付し、そこで腎細胞を増殖させ、そしてSRCを選択する。SRCを、ゼラチンに基づくヒドロゲル中、細胞100×10個/mLの濃度で製剤化し、10mLシリンジ中に包装し、そして使用する臨床施設に出荷する(実施例1を参照)。
治験の目的:
第1の目的:本試験の第1の目的は、一方のレシピエント腎臓に注入したNKAの安全性及び有効性を評価し、そしてNKAを2回注入したら腎機能の安定化を実現するか判定することである。
・一次安全性転帰指標:初回NKA注入後12カ月間における手順及び/又は製品関連の有害事象(AE)。
・一次有効性転帰指標:血清クレアチニンの連続測定、及び第2回細胞注入後の6カ月間におけるGFRの見積り。
第2の目的:本試験の第2の目的は、患者への初回NKA注入後の12カ月間にわたり腎臓固有の有害事象を評価することにより、NKA投与の安全性及び忍容性を評価することである。
・二次安全性及び忍容性転帰指標:第1回目又は2回目を問わず、本プロトコールに基づき最終NKA注入を実施した後の12カ月間における腎臓固有の検査室評価。
探索的目的:本試験の探索的目的は、初回NKA注入後12カ月間にわたりNKAが腎機能に与える影響を評価するように設計される。
・探索的転帰指標:腎疾患の進行速度変化を評価するための腎臓の構造及び機能に関する臨床診断評価及び検査室評価(eGFR、血清クレアチニン、及びタンパク尿を含む);及び注入方法がこれらのパラメーターに与える効果。
・生活の質に関する探索的転帰指標は、ベースライン時、並びに患者への初回NKA注入後の1、3、6、7、9、12、15、18、30、及び42カ月において取得される腎疾患の生活の質調査結果である。
治験デザイン:
多施設共同、前方視的、非盲検、単群試験。すべての登録対象は、少なくとも6カ月を置いて、最多2回のNKA注入で治療される。
ランダム化:
非盲検、非ランダム化。
コントロール群:
各対象が自身のコントロールとなる;患者の既往歴には最低6カ月間の腎機能観察が含まれなければならず、その既往歴が腎不全の進行速度に関するコンパレーターとしての役目を果たす。
標本サイズ:
対象最多30例がNKA注入を受ける。この試験は第II相安全性及び有効性試験であるので、綿密な統計分析は実施されない。したがって、この試験のために提案された標本サイズは、第II相試験の実薬投与群に典型的なサイズであり、限定された集団における安全性転帰及び初期の有効性の識別を可能にする。
治験集団:
2型糖尿病及びGFRが20−50mL/分/1.73mの間のCKDを有する30−70歳の男性又は女性患者。登録患者は、患者それぞれのCKD疾患進行速度を判定するために十分な病歴臨床データを有するべきである。
組み入れ基準:別途明記しない限り、組み入れ基準は、スクリーニング時及び注入前に満たしていなければならない。
1.インフォームドコンセントの当日において年齢30−70歳の男性及び女性の対象。
2.2型糖尿病の患者(T2DM)。
3.腎疾患の根本原因として、糖尿病性腎障害の十分に立証された診断を有する患者。
4.スクリーニング時に、これまでにNKA注入を受けたことがなく、GFRが20−50mL/分/1.73mとして定義されるCKDを有する患者が組み込まれる。これまでに1回のNKA注入で治療され、eGFRが15−60mL/分である患者も、この臨床トライアルに登録することができる。
5.代替診断により説明できないミクロアルブミン尿症。ミクロアルブミン尿症とは、尿中のアルブミン−クレアチニン比(UACR)≧30mg/g、又は24時間採尿における尿アルブミン排泄量≧30mg/日として定義される。
6.生検前、105−140mmHgの間の収縮期血圧(上下限値を含む)、及び拡張期血圧≦90mmHg。
7.登録の少なくとも8週間前に開始されたACEI又はARBによる治療が継続し及び安定している。治療は、注入直前の6週間安定でなければならない。安定な治療とは、注入直前の6週間にわたり投与量の調整が、現行用量の1/2を下回らず、且つ現行用量の2×を上回らないこととして定義される;医学的必要性に起因する最長7日間の投与中断は許容される。ACEI又はARBに対して不耐性の患者は、許容限界以内の安定したBPを有する限り組み入れ可能である。
8.CKDの進行速度を定義するために、eGFR又はsCrの最低2回の測定が、少なくとも3カ月の間隔を置いて(スクリーニング前に)先行する12カ月以内に実施される。患者は、医療モニターとの協議に基づく決定に従いCKDの進行速度の合理的な推定値を提供するのに十分な病歴データを有するべきである(十分なデータが入手可能であることを保証する)。更に、CKDの進行速度は、経時的に一定していなければならない。組み入れについて資格認定するのに必要とされる定義された進行速度は存在しない。
9.手順前後(すなわち、生検及び注入の両方についてその前後)におけるNSAID(アスピリンを含む)、及びクロピドグレル、プラスグレル、又はその他の血小板阻害剤の使用を差し控える意図及び能力を有すること。各手順前後の休薬期間は7日間とすべきである。各手順の前後7日間、魚油及びジピリダモールの使用を差し控える意図及び能力を有すること。
10.試験の全側面について協力する意図及び能力を有すること。
11.署名されたインフォームドコンセントを提出する意図及び能力を有すること。
除外基準:以下に列挙する除外基準の何れかに該当する場合には、患者を登録してはならない。別途記載しない限り、スクリーニング時及び注入前において基準を評価すべきである。
1.1型糖尿病(DM)。
2.腎臓移植の病歴。
3.スクリーニング時にHbA1c>10%。スクリーニング時にHbA1c>8%の患者には、糖尿病教育を行い、そして更なる糖尿病管理について主治医と協議するように助言を与えるべきである。
4.注入前のヘモグロビンレベル<9g/dL。ヘモグロビンレベルは、手順実施前48時間以内に、又は施設の標準実践法に従って測定されるべきである。
5.カナマイシン又は構造的に類似したアミノグリコシド抗生物質に対するアレルギーが既知(カナマイシンは、NKA製造期間中に使用されるので)。
6.スクリーニング時のAPTT、INR、及び/又は血小板数による測定に基づき異常な凝固状態。
7.病的に肥満している、腎臓の周囲に過剰の脂肪を有する、BMI>45を有する、又はさもなければ重大な合併症に対して過剰のリスクに晒されている患者を含む、注入手順に不向きな候補者(注入を実施する外科医の評価に基づく)。
8.注入から6週間以内の非経口抗生物質を必要とする臨床的に有意な感染症。
9.スクリーニング時にMRI若しくは腎臓USにより、又は過去に実施された場合にはスクリーニングから1年以内に、腎臓が小さい(平均サイズ<9cm)又は腎臓が1つしかないと評価された患者。
10.注入前の最近3カ月間において腎機能が急速に低下している患者又は急性腎傷害の患者。
11.注入前に下記の状態の何れかを有する患者:腎腫瘍、多発性嚢胞腎疾患、腎嚢胞又は注入手順を妨害するその他の解剖学的異常(例えば、注入経路内の嚢胞)、水腎症、注入部位候補における皮膚感染症、又は尿路感染症のエビデンス。
12.妊娠、授乳(lactating)(授乳(breast feeding))中、若しくは試験コース期間中に妊娠を計画している、又は妊娠の可能性があるがきわめて有効な妊娠調節方法(禁欲を含む)を使用しない女性対象。きわめて有効な妊娠調節方法とは、例えばインプラント、注入剤、混合経口避妊薬、いくつかの子宮内避妊具(IUD)、禁欲、又は精管切除したパートナー等を確実且つ正しく使用したときに失敗率が低い(すなわち、1年間で1パーセント未満の)方法として定義される。対象は、試験コース全体を通じて出生抑制方法を継続する意思を有さなければならない。
13.過去3年以内の癌の病歴(非メラノーマ皮膚癌、及び子宮頸部におけるin situの癌腫を除く)。
14.2年未満の平均余命。
15.動物(ウシ、ブタ)起源のヒト血液製剤若しくは物質又は麻酔剤に対して、何らかの禁忌を有する、又はアナフィラキシー反応若しくは重度全身性反応が既知。
16.スクリーニング来院時に評価されるヒト免疫不全ウイルス(HIV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、又はC型肝炎ウイルス(HCV)が陽性。
17.過去3年間において治療を必要とした活動性結核(TB)を有する対象。
18.注入から3カ月以内に、免疫抑制剤の投与を受けた免疫不全状態の対象又は患者(慢性糸球体腎炎について治療を受けている患者を含む)。[注記:間欠性の症状(例えば、喘息)に対する短期的なパルス式のコルチコステロイドのように、吸入式コルチコステロイド、及び慢性的な低用量コルチコステロイド[1日当たり≦7.5mg]は許容される。]
19.糖尿病が制御されていない(PIにより代謝的に不安定として定義される)、又は無能力性の心臓及び/又は肺の障害を有する対象。
20.治験責任医師の評価によれば、プロトコールを順守する対象の能力を損なうおそれのある活発なアルコール及び/又は薬物乱用の履歴。
21.スクリーニング時に臨床的に有意な肝臓の疾患(ALT又はAST>3.0×ULN)を有する患者。
22.治験責任医師の意見によれば、試験手順の実施を阻害するおそれのある出血障害を有する患者;クマリン(例えば、ワルファリン)又はその他の抗凝固剤(例えば、エノキサパリン又は直接トロンビン阻害剤)を服用している患者。
23.治験責任医師により、試験への参加が対象の最良の利益にならないとみなされるあらゆる状況。
24.医療モニターの事前の文書による同意を得ない、注入から3カ月以内の何らかの治験薬の使用。
施設の数:
最多10箇所の臨床センターが本試験に含まれる。
試験期間:
18カ月のNKA注入フォローアップと、後続する24カ月長期フォローアップの合計42カ月の試験期間。
試験登録:
NKA注入を受ける最多30例の対象が本試験に登録される。以前のリサーチプロトコールに基づきNKAの単回注入を受けたことのある患者は、この臨床トライアルに登録して追加の単回注入を受けることができる。NKA注入を受けたことのない患者は、少なくとも6カ月の時間間隔を置いて最多合計2回のNKA注入までこの臨床トライアルに登録することができる。すべての生検は一方の腎臓から採取されるものとし、そしてすべてのNKA注入は生検採取された腎臓中に実施される。スクリーニング手順を完了し、すべてのI/E基準を満たす患者が、注入直前に試験登録される。注入前にすべての基準を満たさない患者は、スクリーニングの不具合とみなされる。患者が注入されたら、該患者は治療を完了したこととなり、患者がすべてのフォローアップ来院を完了するよう保証するためにあらゆる努力を払うべきである。2回目のNKA注入を受ける最初の患者3例の注入日は、DSMBによる急性の有害事象及びその他の安全パラメーターの評価を可能にするために、少なくとも3週間ずらされる。後続する2回目の注入は、3週間以上の間隔が置かれるようにずらして継続するが、個別のDMSBレビューは不要である。フォローアップ来院完了時に、患者は、長期フォローアップ試験を継続する。1回目の注入又は2回目の注入によらず、患者はこのプロトコールに基づき最終NKA注入以降、合計36カ月フォローされる。
治験の計画:
スクリーニング:適格性基準を満たす対象が試験に参加することができる。対象は腎機能に関する十分な病歴データを有し、注入前の腎疾患についてその進行速度の判定が可能でなければならない(組み入れ基準8)。スクリーニング手順には、総合的な身体検査、心電図、及び検査室評価(血液学、血清化学、そして尿分析)が含まれる。更に、施設標準実践法を使用しながら、MRIを実施して腎臓容積を評価する。
生検:第I相トライアルにこれまで登録しなかった患者は、注入用の細胞を取得するために腎生検を必要とする。第I相トライアルにこれまでに登録した患者から得られ、凍結状態で維持された生検試料は、解凍後に十分な細胞が利用可能である場合、このプロトコールに基づき注入される第2分量のNKAを作製するのに使用される。凍結生検試料の解凍後に取得される細胞数が不十分である場合には、患者はこの試験のために追加の生検手順を完了する必要があり得る。
注入:スケジュール化された注入日の前の10−14日において、最終適格性基準の検証結果について対象はクリニックに報告する。更に、スプリット腎機能のベースライン評価を得るために、腎シンチグラフィー試験を実施する。該当するI/E基準を満たす対象は、スケジュール化された注入当日(0日目)の早朝に、病院/臨床研究ユニットに入院する。NKAを利用可能な2つのオプション:(1)腹腔鏡下でのアプローチ;又は(2)経皮的アプローチのうちの1つを使用して生検採取した腎臓中に注入する。腹腔鏡下での方法は、腹腔鏡下ビューイングを用いて注入を実施している間、腎臓を安定化するのにロボット援助を利用することができる;一方、経皮的な方法では、高周波方法又は極低温方法による腎臓腫瘤のアブレーションで利用されるような標準化された技術が採用される。対象は、腹腔鏡下での注入の後、最短で2晩、最長で4晩(又は手順若しくは製品関連のあらゆるAEが消散若しくは安定化するまで)継続入院する。患者は、合併症がなければ、経皮的注入の後、同日退院することができる。両方のアプローチについて無症状の副作用を認めないことを検証するために、超音波試験を1日目に実施する。
用量探索を可能にし、そして効果の持続時間を理解するために、このプロトコールに基づき2回の注入をすべての患者が受けるように計画されることを前提とする。特定の状況下では、患者又は治験責任医師は、2回目の投与を延期又は保留する決定を下すことができる。一般的に、何らかの好ましくない安全上のリスクが存在すると思われる場合、腎機能の急速な劣化、制御されない糖尿病の発症、若しくは制御されない高血圧症の発症を含む状況では、又は悪性腫瘍の併発が認められる場合には、患者は2回目の投与を受けてはならない。
このプロトコールに基づく2回目注入は、異なる患者に単回注入を行う際に、3週間以上の間隔が置かれるようにずらす。DSMBは、このプロトコールに基づき、最初から3件の2回目注入のそれぞれについて臨床的データをレビューし、そして2、3、及び4件目の2回目注入が実施される前に治験依頼者と協議する。後続する2回目注入は、3週間以上の間隔が置かれるようにずらしてなおも継続するが、個別のDMSBレビューは不要である。
このプロトコールに基づき、初回NKA注入について時間をずらすことは不要である。
注入後フォローアップ:対象は、注入後7、14、及び28日目、並びに注入から2、3、及び6カ月後にフォローアップ安全性評価のためにクリニックに戻る。注入後6カ月において、治療後のMRI及び腎シンチグラフィー試験を実施する。患者が6カ月有効性来院を終えた後、2回目のNKA注入について検討される。2回目の投与を受ける患者は、最初の注入後に行われたフォローアップ来院と同じフォローアップ来院に従う。最初の注入来院後6カ月が経過した患者は、2回目の注入来院前14−10日の患者とみなされる。患者は、2回目注入のために戻り、並びに注入後7、14、及び28日目、並びに注入後2、3、及び6カ月においてフォローアップ安全性評価を行うためにクリニックに戻る。患者は、初回NKA注入後6カ月及び2回目NKA注入後の12カ月を含む、フォローアップ相後18カ月間フォローアップされる。フォローアップ後の追加の時点については14頁の時間及びイベントスケジュールを参照。
長期フォローアップ:患者は、18カ月の初期フォローアップ期間後の24カ月間、安全性及び有効性についてフォローされる。最後のNKA注入から24及び36カ月後に電話連絡を実施し、そして最後のNKA注入から30及び42カ月後に来院を実施する。
NKA用量:
スクリーニング期間中に取得されたMRIの結果から、標的/レシピエントの腎臓の腎臓重量を見積もる。ガイドラインとして前臨床試験を使用したとき、この試験のNKAの用量は、細胞3×10個/推定腎臓重量1g(gKWest)である。NKA、1mL当たりのSRCの濃度は、細胞100×10個/mLであるので、投与容積は、腎臓100g毎に3mL又は200g毎に6mLとなる。この投与方式に基づき、下記のNKAの用量が投与される(表6):
安全性のモニタリング:
予想されない副作用が生ずる可能性もあるが、本試験に登録した対象に対して広く認められる最大のリスクは、注入手順後の出血である。したがって、過剰の出血リスクを最低限に抑えるために注意が払われた。出血リスクの増加が予測されるような検査室異常値を有する患者は、本試験に適格性を有さない。ヘモグロビン/ヘマトクリットを各手順のa)前、b)4時間後、及びc)1日後にモニタリングする。
注入:
注入手順期間中に、ヘモグロビンを定期的にモニタリングし、また血圧を標準的な施設実践法を使用して連続的にモニタリングする。腹腔鏡下での注入直後に、対象を仰向けの状態で8時間保ち、血圧/脈拍及びヘモグロビンについて定期的にモニタリングする。対象は、腹腔鏡下での注入後、有害事象について観察するために2−4晩病院内に留まる。注入後の1日目に、超音波試験を実施して無症状の副作用を認めないことを検証する。臨床的に妥当な場合には、有害事象が継続していないことを保証するために、クリニックから退院する前においても超音波検査を実施することができる。経皮的経路による注入後、そのような注入が類似した手順(すなわち、経皮的アブレーション)後における施設の通常の実践法である場合には、2時間以上観察及びモニタリングした後、患者は同日退院することができる。製品又は手順関連のAEが手術後に生じた場合には、AEが消散、安定化し、又はベースラインに戻るまで患者を病院から退院させるべきでない。腹腔鏡下での注入の後、患者は、AEを評価するために2−4晩病院内で観察を受けるべきである。退院後、対象は、腎不全の進行速度を含む腎機能の変化について、各来院時にモニタリングされる。腎機能を予測する検査室の数値は綿密にモニタリングされる。腎機能の有害な変化に応じて、必要であれば追加の画像試験を実施することができる。
データ安全性モニタリング委員会:
特に、患者の安全は何らかの予期せぬ製品関連の事象と関係するので、データ安全性モニタリング委員会(DSMB)には、患者の安全を監督する権限が与えられる。委員会には、プロトコール活動と直接関連する専門知識を有する3名のメンバーが含まれる。DSMBのメンバーは、RegenMed(Cayman)Ltd.社又は試験センターのいずれともその他の関係を有さず、またDSMBは独立して機能する。一般的に、DSMBは、臨床トライアルに研究対象として登録した患者の安全に関する側面について、RegenMed(Cayman)Ltd.社に助言する。DSMBの特別な活動及び責任は、DSMBチャーターに詳記される。DSMBの勧告は、試験センター、必要な場合IRB/EC、及び規制当局に伝達される。
分析方法:
最多30例の対象がNKAの注入を受ける。これは第II相、安全性及び初期の有効性試験であるので、正式な症例数の算出は実施しなかった。計画された症例数は、慢性腎疾患の患者を対象として、安全性プロファイル及びNKA投与量の潜在的有効性の両方について、その予備的な特徴づけを可能にする。部分集団の分析では、単回注入された患者を2回注入された患者と比較し、また腹腔鏡下で注入された患者を経皮的に注入された患者と比較する。安全性プロファイルは、特に興味深い事象を含む有害事象、腎機能の評価を含む検査室パラメーター、画像結果、及びバイタルサインの評価から主に構成される。試験フローの概要を図8に示す。
検査室評価
検査室評価について下記の表7に掲載する。検査室結果は、NCI CTCAE評価尺度を使用して等級化される。
eGFR:試験全体にわたりすべての対象を比較する場合、GFRをCKD−EPI式を使用して見積もる。クレアチニンを測定するための特異的アッセイ法は、RegenMed(Cayman)Ltd.社により定義され、またサンプルは中央検査室により分析される。各対象の数値履歴と比較する場合、履歴データを生成するのに使用された施設の検査室で2回目の分析を実施する必要があり得る。
ウイルス学:患者から収集した生検サンプルがSRCの選択及びNKAの製造に使用される。したがって、患者は、HIV、HBV、及びHCVを含むウイルス性血液媒介病原菌について試験される。
尿化学:試験コース全般において、2つの異なる期間において尿が収集される;24時間採尿及びスポット尿。スポット尿収集は尿ディップスティック(試験スティック)評価で使用される。各種類のサンプル収集時間を、時間及びイベントスケジュール:検査室評価に示す。タンパク質及びアルブミンの排泄について全体像を把握するために、適宜、その種のサンプルについて、全サンプルを対象として総タンパク質及びアルブミンの両方を評価すべきである。
リサーチ(リザーブ)アナライト:追加の尿及び血清/血漿サンプルが収集され、一定量分取され、そして将来のある時点において腎臓に特異的なアナライト及び/又は腎疾患のバイオマーカーを分析するために保管される。潜在的なアナライトとして、線維芽細胞増殖因子23(FGF23)、及びペンタキシン(pentaxin)3(PTX3)が挙げられる。この分析から得られた結果は利用不能であり、また本試験の総括報告書(CSR)に含まれない。
妊娠:尿妊娠試験は、試験ストリップを使用して施設において実施する。試験結果が陽性である場合には、次に臨床検査室において確認試験を実施する。施設の実践法が試験ストリップの結果を認めない場合には、尿サンプルを分析用として中央検査室に送付すべきである。
腎臓の画像化
超音波法
超音波法が標準的な施設手順に基づき実施され、そして注入期間中、注入前後において安全性を評価するのに使用される。手順期間中に、安全性評価において又は機器のガイダンスで必要とされる場合には、超音波法をその他の回数実施することができる。超音波法から得られた所見(例えば、血管抵抗指数、長さ等)は症例記録に記録される。
磁気共鳴画像化法
MR画像化法を施設の標準実践法に基づき実施する。施設開設時の来院期間中に、MRIプロセスを、使用されるMRI機器に応じて施設毎に定義する。一般的に、1.5−Tユニットを使用すべきである。画像は、腎臓容積(投与量計算のため)を決定するのに使用され、また腎皮質厚を測定するのに利用され得る。造影剤の注入を行わずに標準シーケンスを使用してMRIを実施する。容積測定は、例えば、捕捉時間を22秒及び空間分解能を2×1.4×1.2mmに設定した高速3Dグラジエントエコーシーケンス、VIBEを使用して計算され得る。イメージングパラメーターが患者間で調整され得る;但し、任意の一人の患者について、同一のパラメーターが画像化前後において使用されなければならない。使用される固有パラメーターを原資料に記録し、そして症例記録内の該当する欄に記入する。
腎シンチグラフィー
腎シンチグラフィーは、相対的腎機能を測定するために長年使用されてきた。歴史的には、該方法は、異なる放射性医薬品、例えばテクニチウム−99mでラベリングされたジメルカプトコハク酸(99mTc−DMSA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(99mTc−DTPA)、メルカプトアセチルトリグリシン(99mTc−MAG3)、エチレンジシステイン(99mTc−EC)、及び131−J(131J−OIH)でラベリングされたオルトヨード馬尿酸等を用いて実施された。このなかでも、静的腎臓作用薬である99mTc−DMSAが、相対的腎機能を測定するための最も信頼性のある方法と考えられ、そしてこの試験にとっても好ましい薬剤である。
99mTc−DMSAを使用する腎シンチグラフィーは、いくつかの種類の腎疾患後の腎機能を評価するための好ましい方法として提唱されている。その取り込み量は、有効な腎血漿流量、糸球体濾過率、及びクレアチニンクリアランスと相関関係を有する。その定量測定は、したがって相対的腎機能に関する優良なインデックスである。過去の試験より、99mTc−DMSAの取り込み量は罹患腎と正常腎とで異なることが判明した。施設が異なる薬剤をルーチン的に使用する場合には、該方法は、施設開設時の来院においてレビューされるべきである。
施設は、標準的な施設手順を使用すべきである。事例的な手順の概要は下記の通りである:
・患者に、50MBqの99mTc−DMSAの静脈内注入を行い、注入から3時間後に画像化法を実施すべきである。
・患者を背臥位で配置し、そして時間を15分、マトリックスを256×256に事前設定した後面像の取得を、超高分解能コリメーターを用いて実施する。
・腎機能の相違を、対象領域描画法を使用して計算する。
注記:施設の標準実践法が99mTc−DMSA以外の標識化剤を使用する場合には、施設は、施設開設前にRegenMed(Cayman)Ltd.社のスタッフと手順について協議しなければならない。手順がプロトコールに記載されている手順と十分同等と考えられる場合には、施設はその標準手順を使用することが許される。この場合、該手順にはRegenMed(Cayman)Ltd.社のプロジェクトリーダーによる署名がなされ、そしてコピーが施設の規制関連バインダー内で保管される。
外科手技
生検
生検は、施設の標準実践法により規定される超音波法又はCT誘導式の方法を使用して、無菌条件下で左側/右側腎臓から収集すべきである。標準手順からの唯一の相違は、2つの組織コアの収集と16ゲージ針の使用であり得る。2つの生検腎組織コアは、十分な皮質組織がSRCの選択及びNKAの製造のために収集されることを保証するのに必要とされる。同様に、16ゲージ生検針は、十分な皮質材料がNKAの製造用として収集されることを保証するのに使用すべきである。施設の標準実践法が15ゲージ生検針の使用を規定する場合には、医学モニターと協議した後に15ゲージ針を使用してもよい。いかなる場合においても、できる限り多くの皮質組織が収集されることが必須である。施設で利用可能な場合には、十分な皮質材料が得られることを保証するために、生検コアのベッドサイド検査を実施することができる。
生検組織は注入用製品であるNKAを製造するのに使用されることに留意することが重要である。したがって、細胞増殖及び選択期間中の汚染リスクが最低限に抑えられるように、組織コアは無菌条件を使用して採取されなければならないことを生検収集担当者が自覚することを、施設は保証すべきである。収集期間中に組織コアが汚染すれば、その患者のためにNKA製品を製造するRegenMed(Cayman)Ltd.社の能力を著しく損なうおそれがあるので、微生物バイオバーデンを含む製品は注入用としてリリースし得ない。
注入手順後の創傷ケア及び疼痛管理に関するガイダンスを、試験参照マニュアルに提示する。生検後の患者に実施される疼痛薬物療法は慎重に選択すべきであり、腎毒性の可能性を有する薬物治療をできる限り回避することが重要である。注入前後における特別な患者介護では、出血イベントの可能性を最低限に抑えることに重点が置かれる。対象は、ヘモグロビン、血圧、肉眼的血尿、腹部/側腹部痛、及び側腹部出血斑についてモニタリングしながら4時間仰向けの状態に留まる。更に、患者は、施設の標準実践法に基づき生検当日に退院することができる。PIの考えとして、生検後の重大な副作用のリスクが高まり、対象がそのリスクに晒されるような重大な有害事象を、対象が生検後に経験する場合には、同対象にはNKAを注入せず、但し該事象(複数可)が消散するまで該対象をフォローし、そして試験を中止する。
注入
無菌シリンジに入ったNKAが、RegenMed(Cayman)Ltd.社から施設に送付される。施設に納入されたら、NKAは、外科病棟に搬送されるまで輸送コンテナー内で保管すべきである。NKAは、患者への注入直前に、最低30分間、但し120分を超えないで26.5±1.5℃に平衡化しなければならない。平衡化の指示書は、RegenMed(Cayman)Ltd.社より試験参照マニュアル内に提示される。
患者には、(1)最低限度で侵襲的な画像誘導式の経皮的な直接針アプローチ、又は(2)イヌの試験においてNKAを送達するのに使用され、且つヒトを対象としたスウェーデン試験において6回又はそれ超の回数すでに利用されている技術と類似した腹腔鏡技術を使用してNKAを注入する。いずれの場合も、その目的は、腎皮質内へのNKAの配置を可能にする角度でアプローチし、可能な限り幅広く分布させることである。これは、個々の患者特性に応じて、縦方向のアプローチ又は横方向のアプローチでの腎臓の画像化を必要とする。理想的には、注入は、注射針/カニューラが徐々に抜去される際に複数回配置することと関係する。注入される容積は、MRIから見積もられた腎臓の重量により決定され、最大8mLである。8mLの注入の場合、1−2mLずつ、それぞれ8−4回漸増させながら配置することを前提とする。最多2箇所のエントリーポイントが、NKAの全容積を腎臓内に配置するのに利用され得る(1つの腎臓当たり2箇所のエントリーポイントが、すべての動物試験でルーチン的に使用された)。NKAは、2mL/分よりも速くなくNKAの生存を確実にする速度でゆっくりと投与されなければならない。可能な場合、注入手順は治験依頼者により点検され、また腎臓への実際の注入は、教育/訓練ツール用としてビデオに記録される。手術前に、施設は、腎臓へのアクセスに使用される特別な手順アプローチについて文書化しなければならない。
経皮的手順:
手順の前に、下記事項:
a.手順一般のフィージビリティーを判断するための身体的評価;
b.凝固パネル、INR、血小板、ヘモグロビン、ヘマトクリット、及び示すようなその他の関連する検査室試験を含む出血パラメーターの評価;
c.アクセス経路、腎臓の深さ、及び腎皮質と腎髄質の接合部の外観を判定するための超音波、MRI、及び/又はCTを含む、利用可能な画像試験のレビュー。NKA細胞を配置する候補部位のマッピングを実施する。
d.気道評価、既往歴、アレルギー、及び薬物治療からのASAクラスの決定。
e.手順、そのリスクと考え得る合併症、鎮静について協議し、質問に回答し、及び文書化されたインフォームドコンセントを取得するための患者及び家族/支援者とのインタビュー
を含め、手術担当医師は患者を評価する。
手順上の技術:特に、コアキシャル技術が利用される(下記に詳記する)。
画像誘導:オペレーターは、どの腎臓が生検採取されたか判定し、そして縦方向、横方向、又は両方の基準面において当該腎臓にアプローチする計画を立案する。手順期間中の画像化のオプションには、超音波単独又は補足的にCTを併用する超音波が含まれる;オペレーターは、カラードップラー、測定能力、プローブ周波数、及び全体的なデザインを含む、ふさわしい機能の利用可能性について検証及び文書化する。
手順前に、異常な凝固数値を矯正する。施設における通常の実践法に基づき、予防的な抗生物質を静脈内に投与する。必要な場合には、隣接する内臓、腎臓の場所、腎嚢胞の存在を評価するために、及び腎皮質と腎髄質の接合部を判定するために、初回CTスキャンは超音波と組み合わせて行うように指示される場合がある。手順期間中に、中程度の意識下鎮静法が採用され、そして患者のモニタリングは連続的である。
NKAには、細胞に適合する針(カニューラ)を介して腎皮質内に注入される狙いがある。その意図は、腎被膜を貫通することによりNKAを導入し、そして腎皮質の複数の部位内に配置することにある。最初に、腎皮質内に約1cm挿入された(但し、それ以上は腎臓内に進行させない)15−20ゲージのアクセストロカール/カニューラを使用して腎被膜に穴を開ける。NKAは、鈍端化した内針又は可撓性のカニューラ(アクセスカニューラに適する18−26ゲージ)に連結されたシリンジ内に収納されている。第I相臨床試験では、NKAを18G針により送達した。第II相試験案では、NKA注入用として18ゲージ又はより小型の針(18−26ゲージ)を利用する。針をアクセスカニューラの内側に通し、そして腎臓内に進行させ、そこからNKAを投与する。NKAの注入は、1−2ml/分の速度である。それぞれ1−2分間の注入を行った後、皮質内のニードルコースに沿って第2の注入部位まで内針を後退させる;針先がアクセスカニューラの末端部に至るまで、又は全細胞容積が注入されるまで以下同様。本手順書は、NKAの腹腔鏡下での注入(第I相試験でこれまでに使用された)及び経皮的注入の両方で利用可能である。NKAの経皮的注入の場合、アクセスカニューラ/トロカール及び針の配置は、リアルタイム画像誘導法を使用して直接実施される。NKAの注入は、細胞配置のマイクロバブルフットプリントを視覚化するために、超音波画像誘導法を用いてモニタリングされる。
中心又は末梢の腎血管内、腎臓の髄質部分内、又は腎皮質を通じて後腹膜軟部組織内への細胞滲出の画像エビデンス、又は活動性出血のエビデンスが認められる場合には、NKA注入を中止する。この時点で針は抜去される。注入するべきNKAが残っている場合には、同一の針跡に沿って、又は腎臓内の異なる場所の新しい部位において追加の腎臓注入部位が選択され得る。
NKA注入終了後、内針を抜去し、そして外部カニューラは塞ぐための通り道としてそのまま留置する。外部カニューラ(トロカール)の除去期間中、腎皮質穿刺部位及び後腹膜腔を貫通する針跡は、吸収可能なゼラチン粒子/綿撒糸(例えば、Gelfoam[Pfizer社])、又はフィブリンシーラント(例えば、Tisseel[Baxter社])、又は腎臓の出血を防止するその他の適する薬剤により塞がれる。
手順終了時に、非造影式のCTスキャン又はカラードップラー評価を伴う超音波法を実施して、穿刺部位細胞注入、及びあらゆる血腫又は出血を評価する。手順後2−3時間、回復室内環境において看護アセスメント及びバイタルサインモニタリングを含む観察を設ける。すべてのインデックスが正常であれば、患者はその後退院することができる。フォローアップ電話連絡を退院から24時間後に実施し、そしてプロトコールに従ってクリニックでのフォローアップを継続する。
最低限度で侵襲的な腹腔鏡下での手順:
第2の方法を使用して、患者を全身麻酔した状態で、ロボット又はハンド支援式腹腔鏡下アプローチを使用して腎臓にアクセスする(施設は、Wadstrom等が2011a及び2011bに記載するHARS、そうでなければロボット支援式の標準方法を使用することを選択することができる)。ロボット又はハンド支援式アプローチを使用すれば、外科医は注入するのに最適な位置に腎臓を配置できるようになる。このアプローチは、出血が生じたならば、外科医がそれを視覚化及び停止させることも可能にする。手術期間中、標準的な施設外科実践法を使用して血圧を連続的にモニタリングする。
腎臓にアクセスしたら、NKAの腎皮質内配置を可能にする角度でNKAを注入する。カニューラは、カニューラが腎臓から後退する際に、NKAを複数回配置できる深さまで挿入すべきである。エントリーポイントは、腎臓の正中線を外し、そしてNKAの腎皮質内配置を最大化する角度に設定すべきである。
注入直後において、患者を監視下に置きながら術後の外科回復ユニット内で回復させる。患者は、すべてのバイタルサインが安定するまで患者病室に戻さない。全体として、血圧及び脈拍をモニタリングしながら、患者は少なくとも8時間ベッドで休む。患者は、術後の問題を取り扱うのに使用される熟練したチームの介護職員により24時間入念にモニタリングすべきである。疼痛、発熱、血圧/ヘモグロビンの劇的な減少、又は任意のその他の臨床徴候/症状が、有害反応/事象の可能性を示唆する場合には、次に更なる身体検査(おそらくはX線又は超音波による調査を含む)を診断目的で十分且つ迅速に実施しなければならない。
標準的な安全性指標に付加して、ヘモグロビンを、注入前、4時間後、次に注入後の入院中は毎日モニタリングする。患者は、手術後の2−4晩病院内に留まる。手順及び/又は製品関連のAEが消散、安定化し、又はベースラインに戻るまでは、患者を病院から退院させない。
注入の手順後評価:
何れかの手順を用いた際に、NKAが配置中に腎臓から漏出した場合には、次に漏出量を見積もり、そして症例記録に記録すべきである。更なる漏損を防止するために、注入速度を低速化してもよい。このプロトコールの一環として、注入速度及び注入角度を含む(但しこれらに限定されない)注入パラメーターが、最適化するために調整され得る。
実施例3− 介入的放射線医学のためのNKA注入プロトコール
クリニック評価:
手順前の臨床評価では、適切な腎臓の可視化、すなわち腎臓の軸、及び腎臓サイズ、腎臓の腫瘤/嚢胞/傍腎盂嚢胞の存在、腎皮質厚及び皮膚表面からの腎臓の深さについて、その可視化を保証することが推奨される。
NKA送達
細胞懸濁物:容積は、手順前のMRI3D容積評価により決定される。
針のサイズと配置:穿刺棘を備えた18ゲージ(ga)×15cm(長さ)ダイヤモンドチップ針(Cook社、Bloomington、IN)を、超音波(US)/コンピュータ断層撮影法(CT)スキャンガイダンスを用いて挿入し、そして針先端を被膜の下5−10mmの腎実質内に進行させる。25ga×21cm(長さ)の内針(IMD社、Huntsville、UT)は、外針を通じて被膜下腎実質内、トロカール針の先端より遠位側約4−5cmに、又は先端が遠方の腎臓皮質下組織のより遠位部分に到達するまで進行させる。皮質下皮膜にできる限り近づけて、但し皮膜穿孔を回避しながら針を進行させる。
針を配置する際に水平/中間の皮質外縁部に遭遇する場合があり、そして皮質/被膜下の位置において細胞送達深さが短縮したり又は伸長したりする可能性がある。横断面による理想的な送達部位は、中極〜下極の位置内である。針の進行は、適切な配置を保証するためにUSガイダンスを用いて実施し、また必要な場合には、アキシャルCT画像化法を用いて確認する。
最初及び最後の針の配置は、US/CT画像法を用いて確認し、そして記録する。下極から針進入部位までの距離を測定及び記録する(図9−11を参照)。
NKA細胞注入:細胞溶液は治験コーディネーターにより、調製リサーチ薬局と連携して、事前に決定された容積(最低8.5ml)を10mlシリンジに入れて送達される。無菌の場合、シリンジは、IRオペレーターに手渡すことができる。非無菌の場合、NKAを調製シリンジから無菌シリンジに移す。注入のフレキシビリティーを確保するために、シリンジと25ga針ハブの間にコネクターチューブを挿入する。
25ga針をオリジナルの先端位置から1cm引き抜き、そして幹細胞注入を開始し、1分間当たり細胞スラリー1−2mlの速度で最大2mlの細胞溶液を、スラリーが腎皮質組織内にエコー誘発的に分散するのを観察するUSガイダンス下で注入する。注入速度をモニタリングするために、タイマーの使用を推奨する。注入を中止し、そして針を別途1cm引き抜き、その後に細胞溶液、最大2mlの第2回注入が続く。これを、最多合計4回注入、細胞溶液最大8mlまで繰り返す。腎実質が、4cmの注入長さに満たない場合には、その長さ、及び腎臓サイズが許容する対応する容積において注入を中止する。針穿刺1箇所当たり8mlを超えて注入してはならない。針注入を終了するに当たり、針抜去前に小さい(2−4mm(直径)×10mm(長さ))Gelfoam(ゼラチンスポンジ、Pfizer社)を配置して18−19ga針内を塞ぐ。
皮質内への針の貫通、閉塞、又は注入される細胞溶液の総容積が腎臓サイズに基づく必要注入容積に満たないようなその他の制約に起因して注入容積が制限される場合には、2回目の腎臓穿刺がNKA送達を継続又は終了するために必要とされる。針の抜去を慎重に観察し、そしてトロカール針を安定的に配置するには、US画像化を管理し、またトロカール針を安定化するための補助を必要とし得る。最初に針を配置したときに送達が不完全であった場合には、第2又は第3の注入部位を選択する。
US/CTガイダンスの下、2回目の穿刺が、18ゲージのトロカール針を用いて、第1の送達部位から上側又は下側少なくとも2cmの第2の場所に実施される。注入部位は、同一の腎臓周辺部又は反対側の側面に沿った部位であり得る。針の配置、US/CTによる針先端確認、及び注入方法を、同様に繰り返す。
より小型の腎臓に対する代替方法:腎臓のサイズ及び深さが15cm未満である場合には、より短い18gaトロカール針及び25ga内部注入針を利用することができる。18ga×10cmの針が可能な腎臓の深さの場合、より短いがより大ゲージの内針の組合せが許容される。例えば、22−25gaの針サイズが細胞注入にふさわしい。針の先端は、その最も遠位側に配置され、次に近位側に1cm引き抜かれ、そして細胞注入を開始する。
腫瘤:腎嚢胞を避ける。別のアクセス部位が利用できない場合、必要であれば、嚢胞内に細胞が注入され、集まるのを避けるために腎嚢胞(複数可)を吸引する。固形腫瘤を避け、そして固形腎腫瘤の精密検査を、MRI又はCT画像、及び考え得る生検を含め開始する。NKAの調製と注入の間で遅延が生じず、そして新しい腫瘤が現れない限り、固形腫瘤は注入前に排除すべきである。
注入の微分時間:US観察下、1分間当たり細胞溶液1−2ミリメーター。造影剤を用いないCTスキャン:厚さ5mmのアキシャルスライス、及び注入される腎臓上に配置されたローカライゼーショングリッドを用いた肝臓下部から腎臓に至る診断品質mAによるCTスキャン。中極〜下極領域内のその他の構造を避けながら、後方又は後方側方アプローチを選択する。患者は、必要な場合にはうつぶせ又は臥位で配置される。
鎮静:中程度の意識下鎮静法。特定の状況においては全身麻酔を行って、ASA4,5、挿管困難、患者の希望、配置不能、心臓/肺/肝臓併存症、又はその他の麻酔リスクが高まった状況も含める。
CT又はUSガイダンス:アプローチ角度に対応可能な場合、縦方向からのCT又はUSガイダンスにより、後方又は側方から最長横軸に沿って針を配置する。細胞の送達は、針を抜去する際にマイクロバブルトラクトを識別するために、USにより観察される。長さ及び腎臓内への送達速度は、注入される細胞スラリーの量を決定する。
抜去後に最終的なCT及びUSを実施して、出血、腎臓及び隣接した臓器における注入部位の合併症を評価する。

Claims (45)

  1. 慢性腎疾患を治療する方法であって、前記慢性腎疾患を有する患者の少なくとも一の腎臓の腎皮質内に、生物活性腎細胞集団(BRC)を含む治療有効量の組成物を経皮的に注入することを含む方法。
  2. 前記注入が、腹腔鏡下での手順を使用して実施される、請求項1に記載の方法。
  3. 経皮的に挿入されたガイドカニューラが、前記組成物を前記患者の腎臓内に注入する前に腎被膜を穿刺するのに使用される、請求項1に記載の方法。
  4. 前記組成物が、単回注入として投与される、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
  5. 前記組成物が、2回の注入として投与される、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
  6. 第1の注入と第2の注入が、少なくとも6カ月置いて投与される、請求項5に記載の方法。
  7. 前記組成物が、前記患者の一の腎臓内に注入される、請求項1から6の何れか一項に記載の方法。
  8. 前記組成物が、前記患者の両方の腎臓内に注入される、請求項1から6の何れか一項に記載の方法。
  9. 少なくとも2つのエントリーポイントが、前記組成物を前記患者の腎臓内に注入するのに使用される、請求項1から8の何れか一項に記載の方法。
  10. 前記注入が、腎臓の凸面の長軸に沿った注入である、請求項1から9の何れか一項に記載の方法。
  11. 前記患者が、SRC3.0×10個/gKWestの用量を受ける、請求項1から10の何れか一項に記載の方法。
  12. 前記患者が、2型糖尿病を有すると更に診断されている、請求項1に記載の方法。
  13. 前記慢性腎疾患の根本原因が、糖尿病性腎障害である、請求項1に記載の方法。
  14. 前記患者の慢性腎疾患が、15−60mL/分の範囲の推定糸球体濾過率(eGFR)により定義される、請求項1に記載の方法。
  15. 前記慢性腎疾患を有する前記患者が、尿中アルブミン−クレアチニン比(UACR)≧30mg/g、又は24時間採尿において尿中アルブミン排泄量≧30mg/日として定義されるミクロアルブミン尿症を示す、請求項1に記載の方法。
  16. 前記患者の腎機能が、治療の結果として改善する、請求項1及び12から15の何れか一項に記載の方法。
  17. 腎機能の改善が、推定糸球体濾過率(eGFR)の低下速度の低下により実証される、請求項16に記載の方法。
  18. 腎機能の改善が、血清クレアチン(sCr)の増加速度の低下により実証される、請求項16に記載の方法。
  19. 腎機能の改善が、腎皮質の厚さの改善により実証される、請求項16に記載の方法。
  20. 腎機能の改善が、表8内の因子のうちの一又は複数の改善により実証される、請求項16に記載の方法。
  21. 腎機能の改善が、腎臓の画像化により判定される、請求項16に記載の方法。
  22. 腎臓の画像化方法が、超音波、MRI、及び腎シンチグラフィーから選択される、請求項21に記載の方法。
  23. 前記生物活性腎細胞集団が、低酸素培養条件への曝露後に得られる、請求項1に記載の方法。
  24. 前記生物活性腎細胞集団が、増殖させた腎細胞の密度勾配分離後に得られる選択された腎細胞(SRC)集団である、請求項1に記載の方法。
  25. SRCが、約1.0419g/mLを上回る浮遊密度を示す、請求項24に記載の方法。
  26. BRC又はSRCが、開始腎細胞集団と比較して、それよりも大きな割合(%)の一又は複数の細胞集団を含有し、一又は複数のその他の細胞集団を欠く又は欠乏している、請求項1又は24に記載の方法。
  27. 細胞形態が、培養観察をImage Library内の画像と比較することにより、細胞増殖期間中にモニタリングされる、請求項26に記載の方法。
  28. 細胞増殖動力学が、各細胞継代においてモニタリングされる、請求項26に記載の方法。
  29. 細胞数及び生存率が、Trypan Blue色素排除法、及びPrestoBlueの代謝によりモニタリングされる、請求項26に記載の方法。
  30. BRC又はSRCが、CK18及びGGT1の表現型発現により特徴づけられる、請求項26に記載の方法。
  31. PrestoBlueの代謝、並びにVEGF及びKIM−1の生成が、生存性及び機能性のBRC又はSRCの存在に関するマーカーとして使用される、請求項26に記載の方法。
  32. BRC又はSRCの機能性が、遺伝子発現プロファイリング又は酵素活性測定により更に立証される、請求項26に記載の方法。
  33. 測定される酵素活性が、LAP及び/又はGGTに関する、請求項32に記載の方法。
  34. BRC又はSRCが、天然の自己又は同種異系の腎臓サンプルに由来する、請求項1又は24に記載の方法。
  35. BRC又はSRCが、非自己の腎臓サンプルに由来する、請求項1又は24に記載の方法。
  36. サンプルが、腎生検により得られる、請求項34又は35に記載の方法。
  37. BRC又はSRCが、バイオマテリアル内で製剤化される、請求項1又は24に記載の方法。
  38. 前記バイオマテリアルが、ゼラチンに基づくヒドロゲルを含む、請求項37に記載の方法。
  39. 前記ゼラチンが、約0.5%−約1%(w/v)で製剤中に存在する、請求項38に記載の方法。
  40. 前記ゼラチンが、約0.8%−約0.9%(w/v)で製剤中に存在する、請求項38に記載の方法。
  41. 前記バイオマテリアルが、温度感受性細胞安定化バイオマテリアルである、請求項37に記載の方法。
  42. 前記温度感受性細胞安定化バイオマテリアルが、
    (i)約8℃以下において実質的に固体状態、及び
    (ii)約周囲温度以上において実質的に液体状態
    を維持する、請求項41に記載の方法。
  43. 前記バイオマテリアルが、約8℃から約周囲温度以上の間で固体〜液体遷移状態を含む、請求項42に記載の方法。
  44. 前記実質的に固体状態とは、ゲル状態である、請求項42に記載の方法。
  45. 生物活性細胞が、細胞安定化バイオマテリアルの容積全体にわたり実質的に均一に分散されている、請求項37に記載の方法。
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