間接活線工法においては、高圧電線に対する作業者の直接的な感電を防止するため、作業者が乗り込む高所作業車のバケットは、ここから作業者が手を伸ばしても高圧電線に直接届かないような位置に保持される。このため、作業者は必然的に長尺の操作器具を常時上向きで操作しなければならず、操作器具の重量が10キログラム程度のものになると、これを支えながらの活線作業となるため、作業者の疲労度が大きく、さらなる改善が求められている。
このような要求に対処し得る技術として、例えば特許文献1や特許文献2に開示された荷重キャンセル装置が知られているけれども、これらは高所作業者のバケットに乗り込んだ作業者が操作しやすいものとは言えなかった。
本発明の目的は、操作器具の重量をキャンセルした状態にて操作器具を容易に操作することができる多関節アーム装置を提供することにある。
本発明による多関節アーム装置は、ベースと、このベースに第1の支軸を介して基端部が回動可能に連結された第1のアームと、前記第1の支軸と平行な第2の支軸を介して前記第1のアームの先端部に回動可能に連結された第2のアームと、前記第1の支軸と平行な第3の支軸を介して前記第2のアームの先端部に回動可能に連結され、かつ操作器具が取り付けられるブラケットと、このブラケットを前記第2のアームに対して前記第3の支軸の軸線回りに回動させない限り、前記第1の支軸を中心とする前記第1のアームの回動および前記第2の支軸を中心とする前記第2のアームの回動の如何に拘らず、前記ベースに対して前記ブラケットの姿勢を維持する姿勢維持手段とを具え、前記第1の支軸が前記ベースに回転自在に支持されると共にこの第1の支軸に前記第1のアームの基端部が一体的に結合された多関節アーム装置であって、前記第1のアームおよび前記第2の支軸および前記第2のアームおよび前記第3の支軸および前記ブラケットおよびこのブラケットに取り付けられる操作器具の自重によって前記第1の支軸回りに生ずる前記第1のアームの回転モーメントを相殺する回転トルクを前記第1のアームに付与する第1のトルク付与手段と、前記第2のアームおよび前記第3の支軸および前記ブラケットおよびこのブラケットに取り付けられる操作器具の自重によって前記第2の支軸回りに生ずる前記第2のアームの回転モーメントを相殺する回転トルクを前記第2のアームに付与する第2のトルク付与手段とをさらに具えたことを特徴とするものである。
本発明においては、第1のトルク付与手段が第1の支軸回りに生ずる第1のアームの回転モーメントを相殺する回転トルクを第1のアームに付与する。また、第2のトルク付与手段が第2の支軸回りに生ずる第2のアームの回転モーメントを相殺する回転トルクを第2のアームに付与する。この結果、作業者が第1および第2のアームの回動操作や、ブラケットに取り付けられた操作器具を操作する際に、これらの自重による負荷が作業者に全く掛からない。
本発明による多関節アーム装置において、前記第1のトルク付与手段は、基端部が前記第1の支軸に固定された第1のレバーと、一端部が前記ベースに取り付けられ、前記自重によって前記第1の支軸回りに生ずる前記第1のアームの回転モーメントを相殺する回転トルクを前記第1の支軸に付与するためのばね力を有する第1のばねと、一端がこの第1のばねの他端に連結されると共に他端が前記第1のレバーの先端部に連結され、当該第1のばねのばね力を前記第1のレバーに伝達する第1のばね力伝達手段と、この第1のばね力伝達手段に組みこまれ、前記第1のばねの伸縮に拘らず、そのばね力を一定に維持するための手段とを具えることができる。
この場合、前記第1のばね力伝達手段および前記第1のばねのばね力を一定に維持するための手段は、前記ベースに回転自在に取り付けられたプーリーと、このプーリーと同軸一体であって、当該プーリーの回転軸線からの距離が前記第1のばねの伸縮に応じて連続的に変化するカム面を有する回転カムと、一端が前記第1のばねの他端に連結されると共に他端側が前記回転カムのカム面に巻き付けられて前記回転カムに固定される第1の索条と、一端が前記第1のレバーの先端部に連結されると共に他端側が前記プーリーに巻き付けられて前記プーリーに固定される第2の索条とを具えることができる。
また、前記第1のトルク付与手段は、一端部が前記ベースに取り付けられ、前記自重によって前記第1の支軸回りに生ずる前記第1のアームの回転モーメントを相殺する回転トルクを前記第1のばねと共に前記第1の支軸に付与するためのばね力を有する第1の補助ばねと、前記プーリーの回転軸線と同軸状をなし、かつ前記プーリーの回転軸線からの距離が前記補助ばねの伸縮に応じて連続的に変化するカム面を有する第1の補助回転カムと、一端が前記第1の補助ばねの他端に連結されると共に他端側が前記第1の補助回転カムのカム面に巻き付けられて前記第1の補助回転カムに固定される第1の補助索条と、前記回転カムと前記第1の補助回転カムとの間に組み込まれ、操作機器の重量に応じて前記第1の補助回転カムを前記回転カムと同位相にて接続または切り離す第1のクラッチ機構とをさらに具えることができる。
前記第2の支軸が前記第1のアームの先端部に一体的に結合され、前記第2のトルク付与手段は、前記第1の支軸と同軸に前記ベースおよび前記第1のアームの基端部に対して回転自在に設けられた中空軸と、前記第2の支軸回りの前記第2のアームの回動動作に対して前記中空軸を同期回転させる第1の連動手段と、基端部が前記中空軸に固定された第2のレバーと、一端部が前記ベースに取り付けられ、前記自重によって前記第2の支軸回りに生ずる前記第2のアームの回転モーメントを相殺する回転トルクを前記中空軸に付与するためのばね力を有する第2のばねと、一端がこの第2のばねの他端に連結されると共に他端が前記第2のレバーの先端部に連結され、当該第2のばねのばね力を前記第2のレバーに伝達する第2のばね力伝達手段と、この第2のばね力伝達手段に組みこまれ、前記第2のばねの伸縮に拘らず、そのばね力を一定に維持するための手段とを具えることができる。
この場合、前記第2のばね力伝達手段および前記第2のばねのばね力を一定に維持するための手段は、前記ベースに回転自在に取り付けられたプーリーと、このプーリーと同軸一体であって、当該プーリーの回転軸線からの距離が前記第2のばねの伸縮に応じて連続的に変化するカム面を有する回転カムと、一端が前記第2のばねの他端に連結されると共に他端側が前記回転カムのカム面に巻き付けられて前記回転カムに固定される第1の索条と、一端が前記第2のレバーの先端部に連結されると共に他端側が前記プーリーに巻き付けられて前記プーリーに固定される第2の索条とを具えることができる。
また、前記第2のトルク付与手段は、一端部が前記ベースに取り付けられ、前記自重によって前記第2の支軸回りに生ずる前記第2のアームの回転モーメントを相殺する回転トルクを前記第2のばねと共に前記中空軸に付与するためのばね力を有する第2の補助ばねと、前記プーリーの回転軸線と同軸状をなし、かつ前記プーリーの回転軸線からの距離が前記第2の補助ばねの伸縮に応じて連続的に変化するカム面を有する第2の補助回転カムと、一端が前記第2の補助ばねの他端に連結されると共に他端側が前記第2の補助回転カムのカム面に巻き付けられて前記第2の補助回転カムに固定される第2の補助索条と、前記回転カムと前記第2の補助回転カムとの間に組み込まれ、操作機器の重量に応じて前記第2の補助回転カムを前記回転カムと同位相にて接続または切り離す第2のクラッチ機構とをさらに具えることができる。
同様に、前記ベースに対して前記第1の支軸の相対回転を阻止することにより、前記ベースに対する前記第1のアームの旋回姿勢を固定する第1のロック機構と、前記ベースに対して前記中空軸の相対回転を阻止することにより、前記第1のアームに対する前記第2のアームの旋回姿勢を固定する第2のロック機構とをさらに具えることができる。
前記第3の支軸が前記第2のアームの先端部に回転自在に支持されると共に前記ブラケットが前記第3の支軸に一体的に結合され、前記姿勢維持手段は、前記第1の支軸と平行に前記ベースに固定された固定軸と、前記中空軸にこれと同軸に回転自在に取り付けられた第1回転体と、前記第2の支軸にこれと同軸に回転自在に取り付けられた第2回転体と、前記固定軸に対する前記第3の支軸の回転位相が常に一定となるように、前記固定軸に対して前記第1回転体および前記第2回転体および前記第3の支軸を同期回転させる第2の連動手段とを有することができる。
前記ベースは、固定対象物に取り外し可能に固定される固定部と、前記第1の支軸と直交する旋回軸を介して前記固定部に旋回可能に支持される旋回部とを有し、前記第1のアームの第1の支軸がこの旋回部に回転自在に支持されているものであってよい。
この場合、前記ベースの固定部は、これを固定対象物に対して取り外し可能に固定するための固定手段を有することができる。
前記操作器具は、作業者によって操作される各種の器具や工具などであってよい。
本発明の多関節アーム装置によると、自重によって生ずる第1および第2のアームの回転モーメントを相殺する回転トルクをそれぞれ付与する第1および第2のトルク付与手段を具えているので、作業者は操作器具に対する操作力だけで作業を行うことができる。この結果、重量のある操作器具であっても作業者の肉体的負担を大幅に軽減させることが可能である。
第1のトルク付与手段が、第1のレバーと、第1のばねと、第1のばね力伝達手段と、第1のばねの伸縮に拘らず、そのばね力を一定に維持するための手段とを具えている場合、電力などを必要とせず、いつでもどこででも作業を行うことができる。
第1のばね力伝達手段および第1のばねのばね力を一定に維持するための手段が、プーリーと、回転カムと、第1の索条と、第2の索条とを具えている場合、常に第1および第2のアームや操作器具の重量をキャンセルした状態で作業を行うことができる。
第1のトルク付与手段が、第1の補助ばねと、第1の補助回転カムと、第1の補助索条と、第1のクラッチ機構とを具えている場合、重量の異なる2種類の操作器具に応じてばね力の切り替えを行うことができる。
第2のトルク付与手段が、中空軸と、第1の連動手段と、第2のレバーと、第2の機械的力発生手段とを具えている場合、第2のトルク付与手段を第1のレバーではなく、ベースに組み込んで第1のレバーを軽量化させることができる。
第2のばね力伝達手段および第2のばねのばね力を一定に維持するための手段が、プーリーと、回転カムと、第1の索条と、第2の索条とを具えている場合、常に第2のアームや操作器具の重量をキャンセルした状態で作業を行うことができる。
第2のトルク付与手段が、第2の補助ばねと、第2の補助回転カムと、第2の補助索条と、第2のクラッチ機構とを具えている場合、重量の異なる2種類の操作器具に応じてばね力の切り替えを行うことができる。
ベースに対する第1のアームの旋回姿勢を固定する第1のロック機構と、第1のアームに対する第2のアームの旋回姿勢を固定する第2のロック機構とを具えている場合、第1アームや第2アームの旋回姿勢を固定しておくことができる。
姿勢維持手段が、固定軸と、第1回転体と、第2回転体と、第2の連動手段とを有する場合、第1および第2のアームの旋回位置の変化に拘らず、ベースに対して操作器具の姿勢を常に維持することができる。
ベースが固定部と旋回部とを有し、第1のアームの第1の支軸が旋回部に対して回動可能に連結されている場合、ブラケットに取り付けられた操作器具を三次元空間の任意の位置に指向させることができる。
ベースの固定部がこれを固定対象物に対して取り外し可能に固定するための固定手段を有する場合、固定対象物に対する多関節アーム装置の着脱を容易かつ迅速に行うことができる。
本発明による多関節アーム装置を高圧電線の間接活線作業に適用した一実施形態について、図1〜図19を参照しながら詳細に説明する。しかしながら、本発明はこのような実施形態に限らず、作業者が各種操作器具を操作する際に、この操作器具の重量をキャンセルすることが望まれるあらゆる作業に対して適用させることが可能である。
本実施形態による多関節アーム装置を用いた間接活線作業の一例を模式的に図1に示し、この多関節アーム装置の外観を図2に示し、その主要部の内部構造を図3に示す。この多関節アーム装置10は、例えばトラック式高所作業車のブームAの先端部に装着されたバケットBに作業者が乗り込んで高圧電線Cの間接活線作業などを行う際に用いられる。より具体的には、この多関節アーム装置10が本発明における固定対象物としてのバケットBの囲いに対して取り外し可能に固定される。そして、多関節アーム装置10に装着された本発明の操作器具としての間接活線工具Dの自重を意識せずに、この間接活線工具Dを作業者が操作できるようになっている。
本実施形態による多関節アーム装置10は、ベース11と、第1アーム12と、第2アーム13と、本発明における操作器具としての間接活線工具Dが取り付けられるブラケット14とで主要部が構成される。ベース11は、固定部15と、旋回部18とを有する。固定部15は、本発明における固定対象物としてのバケットBの囲いの上端縁を跨いで取り外し可能に固定される。旋回部18は、本発明の第1の支軸としての後述する中空第1支軸16と直交する本発明における旋回軸としての旋回筒17を介して固定部15に旋回可能に支持される。ベース11の旋回部18は、フォーク部19と本体部20とを有し、この本体部20に対して第1アーム12の中空第1支軸16が回動可能に連結されると共にこの中空第1支軸16に第1アーム12の基端部が一体的に結合されている。第1アーム12は、空間を隔てて対向する左右の第1アームプレート12L,12Rと、姿勢維持手段の一部およびトルク伝達手段の一部をそれぞれ構成する後述の歯付きプーリーおよび歯付きベルトなどで主要部が構成される。これら歯付きプーリーおよび歯付きベルトなどは、後述するように、左右の第1アームプレート12L,12Rの間に配される。第2アーム13は、空間を隔てて対向する左右の第2アームプレート13L,13Rと、これら左右の第2アームプレート13L,13Rの間に配されて姿勢維持手段の一部を構成する後述の歯付きプーリーおよび歯付きベルトなどで主要部が構成される。この第2アーム13の基端部が中空第1支軸16と平行な第2の支軸21を介して第1アーム12の先端部に回動可能に連結されている。ブラケット14は、中空第1支軸16と平行な第3の支軸22を介して第2アーム13の先端部に回動可能に連結されている。
なお、中空第1支軸16から第2の支軸21までの第1アーム12の長さL1と、第2の支軸21から第3の支軸22までの第2アーム13の長さL2は、作業者の上膊(上腕)および下膊(前腕)の長さにほぼ対応した寸法であることが、作業者による間接活線工具Dの操作性を損なわない点で好ましいと言えるが、これに限定されない。
ベース11の固定部15の外観を図4および図5に示し、その天板部分の裏面形状を図6に示す。ベース11の固定部15は、これをバケットBの囲いに対して取り外し可能に固定するための固定手段を有し、本実施形態においてはトグルクランプ装置23を用いているが、これに限定されない。作業床の形状や構造などに応じてその固定手段の構成を適宜変更することが可能である。固定部15は、バケットBの囲いの上端部に跨がる鞍形をなし、トグルクランプ装置23に連結されたクランプパッド24と、このクランプパッド24と対向する受けパッド25とを有する。クランプパッド24は、トグルクランプ装置23のクランプレバー26を操作することにより、受けパッド25との対向方向のクランプ位置とアンクランプ位置とに切り換えることができる。クランプパッド24をクランプ位置に切り換えて受けパッド25とでバケットBの囲いを挾持することにより、多関節アーム装置10の固定部15をバケットBの囲いの上端部に固定することができる。この場合、旋回筒17の軸線が鉛直方向となるように、 バケットBの囲いに対してベース11を固定することが好ましい。
ベース11の旋回部18におけるベース11のフォーク部19の断面構造を図7に示す。フォーク部19の底板27から下方に突出する旋回筒17は、固定部15の天板28を貫通し、この天板28と旋回筒17との間に配された軸受29を介してベース11の固定部15に対し旋回可能に支持されている。固定部15の天板28の裏面側には、旋回筒17の下端部を取り囲む一対のそれぞれ半円弧状をなすクランプアーム30a,30bの一端部が天板28に取り付けられるボルト31を介して旋回筒17に対し開閉自在に取り付けられている。クランプつまみ32は、一方のクランプアーム30aの他端部に形成された段付き孔30cを介して他方のクランプアーム30bの他端部にねじ込まれている。このクランプつまみを32操作し、一対のクランプアーム30a,30bの他端部が相互に近付くようにクランプつまみ32をねじ込むことにより、固定部15に対してフォーク部19を任意の旋回位置に固定することができる。
ベース11の本体部20は、左右の本体外プレート20OL,20ORと、左右の本体内プレート20IL,20IRと、後述する第1および第2のトルク付与手段と、第1および第2のロック機構とで主要部が構成されている。本体外プレート20OL,20ORは、本体内プレート20IL,20IRとの間に空間を隔ててほぼ平行に配される。また、第1および第2のトルク付与手段および第1および第2のロック機構は、これら本体外プレート20OL,20ORと本体内プレート20IL,20IRとの間にそれぞれ配される。フォーク部19の上端部を中空第1支軸16と平行に貫通する連結軸33の両端部には、左右の本体内プレート20IL,20IRの内側面と対向するフランジ部33L,33Rが設けられている。これらフランジ部33L,33Rには、連結軸33を中心とする円弧状の長孔33aが所定間隔で複数形成されている。連結軸33の両端部はフランジ部33L,33Rの長孔33aを介して左右の本体内プレート20IL,20IRにそれぞれ固定されるが、連結軸33に対する左右の本体内プレート20IL,20IRの傾きは、長孔33aにより約15度の範囲で調整できるようになっている。
左右の本体内プレート20IL,20IRの中央部には、本発明の固定軸としての固定プーリー軸34が左右の本体内プレート20IL,20IRを貫通状態で中空第1支軸16と平行に配されている。姿勢維持手段の一部を構成する固定プーリー軸34の両端部には、固定プーリー軸34を中心とする円弧状の長孔34aを形成した扇状の位置決め板34L,34Rが設けられている。位置決め板34L,34Rは、これら長孔34aを介して左右の本体内プレート20IL,20IRに固定されている。本実施形態では、約25度の範囲で左右の本体内プレート20IL,20IRに対して固定プーリー軸34の回動位置を変更することができるようになっている。固定プーリー軸34の中央部には、ベース歯付きプーリー35が固定されている。
中空第1支軸16の軸線に沿った断面構造を図8に示す。先の固定プーリー軸34と平行なセンターシャフト36は、ベース11の旋回部18の旋回軸線に対して直交し、旋回軸線を鉛直方向に設定した場合、センターシャフト36は水平に配されることとなる。本実施形態におけるセンターシャフト36は、左本体外プレート20OLおよび左本体内プレート20ILの上端部と、左右の第1アームプレート12L,12Rの下端部と、左本体内プレート20ILおよび左本体外プレート20OLの上端部とを貫通している。このセンターシャフト36が挿通され、かつセンターシャフト36と同軸の中空軸37は、左本体外プレート20OL,左本体内プレート20IL,左第1アームプレート12Lを貫通し、右第1アームプレート12Rまで延在している。この中空軸37と、左本体外プレート20OL,左本体内プレート20ILおよび左右の第1アームプレート12L,12Rとの間には、それぞれ軸受38が組みこまれている。これにより、左本体内プレート20IL,左本体外プレート20OLおよび左右の第1アームプレート12L,12Rに対し、中空軸37が相対回転可能となっている。左本体内プレート20ILと左本体外プレート20OLとの間には、中空軸37と一体的に連結され、第2のトルク付与手段の一部を構成する第2アーム用キャンセルレバー39sが配されている。さらに、左第1アームプレート12Lと右第1アームプレート12Rとの間には、中空軸37と一体的に連結されたトルク伝達用第1歯付きプーリー40と、第1中央歯付きプーリー42aおよび連結用第1歯付きプーリー42bとが配されている。本発明における姿勢維持手段の一部を構成する第1中央歯付きプーリー42aおよび連結用第1歯付きプーリー42bは、それぞれ軸受41を介して中空軸37に対し回転自在に取り付けられている。これら2つの歯付きプーリー42a,42bは、固定プーリー軸34と一体のベース歯付きプーリー35と同じピッチ円径を有し、相互に一体的に連結されている。
第1中央歯付きプーリー42aと先のベース歯付きプーリー35との間には、本発明における姿勢維持手段の一部を構成する無端のベース歯付きベルト43が巻き掛けられている。この場合、ベース歯付きプーリー35は固定状態となっているので、第1および第2アーム12,13の旋回動作に伴って、ベース歯付きプーリー35に対するベース歯付きベルト43の噛み合い位置が変化するだけである。
先の中空軸37と共にセンターシャフト36が挿通され、かつセンターシャフト36と同軸の中空第1支軸16は、右本体内プレート20IRおよび右本体外プレート20ORを貫通し、これらに対してそれぞれ軸受44を介して相対回転可能となっている。中空第1支軸16の内側端にはフランジ部16aが形成され、このフランジ部16aが右第1アームプレート12Rに一体的に固定されている。従って、第1アーム12はベース11の本体部20に対し中空第1支軸16を中心として回動可能となっている。右本体内プレート20IRと右本体外プレート20ORとの間には、中空第1支軸16と一体的に連結され、後述する第1のトルク付与手段の一部を構成する第1アーム用キャンセルレバー39fが配されている。
第2の支軸21の軸線に沿った断面構造を図9に示す。センターシャフト36と平行な第2の支軸21は、左右の第2アームプレート13L,13Rの基端部を貫通し、その両端部が左右の第1アームプレート12L,12Rの先端部に固定されている。第2の支軸21と左右の第2アームプレート13L,13Rの基端部との間には、軸受46がそれぞれ組みこまれ、第2の支軸21に対して左右の第2アームプレート13L,13Rが回動可能に連結されている。左右の第2アームプレート13L,13Rの基端部の間には、トルク伝達用第2歯付きプーリー47と、本発明における姿勢維持手段の一部を構成する第2中央歯付きプーリー48aと、連結用第2歯付きプーリー48bとが配されている。
トルク伝達用第1歯付きプーリー40と同じピッチ円径を持つトルク伝達用第2歯付きプーリー47は、第2の支軸21と同軸をなすように、環状の連結板49を介して左第2アームプレート13Lの基端部に固定されている。つまり、トルク伝達用第2歯付きプーリー47は左第2アームプレート13Lと一体であり、このトルク伝達用第2歯付きプーリー47とトルク伝達用第1歯付きプーリー40との間には、無端のトルク伝達用第1歯付きベルト50が巻き掛けられている。このため、第2アーム13が第1アーム12に対して第2の支軸21を中心として回動すると、中空軸37が同じ角度だけ同期回動し、第2の支軸21回りに生ずる第2アーム13の回転モーメントが中空軸37に伝達されるようになっている。
第2中央歯付きプーリー48aおよび連結用第2歯付きプーリー48bは、それぞれ軸受51を介して第2の支軸21に対して回転自在に支持され、これら2つの歯付きプーリー48a,48bは、相互に一体的に連結されている。連結用第2歯付きプーリー48bと先の連結用第1歯付きプーリー42bとの間には、無端の姿勢維持用第1歯付きベルト52が巻き掛けられている。
センターシャフト36と第2の支軸21との間には、アイドルプーリー53と、一対の張力調整用第1歯付きプーリー54とが左右の第1アームプレート12L,12Rに対して回転自在に取り付けられている。アイドルプーリー53は、トルク伝達用第1歯付きベルト50および姿勢維持用第1歯付きベルト52に押し当たり、一対の張力調整用第1歯付きプーリー54は、これら歯付きベルト50,52に対してそれぞれ噛み合っている。
第3の支軸22の軸線に沿った断面構造を模式的に図10に示す。センターシャフト36と平行な第3の支軸22は、左右の第2アームプレート13L,13Rの先端部を貫通し、その両端部が枠状をなすブラケット14の左右の側板14aに固定されている。第3の支軸22と左右の第2アームプレート13L,13Rとの間には、それぞれ軸受55が組みこまれ、第2アーム13に対してブラケット14が第3の支軸22を介して回動可能に連結された状態となっている。左右の第2アームプレート13L,13Rの先端部の間には、第2中央歯付きプーリー48aと同じピッチ円径を持つ第3歯付きプーリー56が第3の支軸22に一体的に取り付けられている。第3歯付きプーリー56と先の第2中央歯付きプーリー48aとの間には、無端の姿勢維持用第2歯付きベルト57が巻き掛けられている。また、第2の支軸21と第3の支軸22との間には、姿勢維持用第2歯付きベルト57と噛み合う張力調整用第2歯付きプーリー58が左右の第2アームプレート13L,13Rに対して回転自在に取り付けられている。
このように、ベース歯付きプーリー35と、第3歯付きプーリー56とがベース歯付きベルト43,姿勢維持用第1歯付きベルト52,姿勢維持用第2歯付きベルト57を介して連結されており、これらの回転位相が常に同じ状態に保たれる。つまり、中空第1支軸16を中心とする第1アーム12の回動および第2の支軸21を中心とする第2アーム13の回動の如何に拘らず、ベース11に対してブラケット14の姿勢を一定に維持することができる。
本実施形態における姿勢維持手段は、上述した固定プーリー軸34と一体のベース歯付きプーリー35,第1中央歯付きプーリー42a,連結用第1歯付きプーリー42b,ベース歯付きベルト43,第2中央歯付きプーリー48a,連結用第2歯付きプーリー48b,姿勢維持用第1歯付きベルト52,ブラケット14が取り付けられる第3の支軸22と一体の第3歯付きプーリー56,姿勢維持用第1歯付きベルト52などで構成されているが、これに限定されない。周知の平行リンク機構や歯車機構などを用いて姿勢維持手段を構成したり、これらの機構を先のトルク伝達用第1および第2歯付きプーリー40,47やトルク伝達用第1歯付きベルト50に代えて本発明のトルク伝達手段として適用させることも可能である。
第1中央歯付きプーリー42aおよび連結用第1歯付きプーリー42bは、中空軸37にこれと同軸に回転自在に取り付けられた本発明における第1回転体として機能する。また、第2中央歯付きプーリー48aおよび連結用第2歯付きプーリー48bは、第2の支軸21にこれと同軸に回転自在に取り付けられた本発明における第2回転体として機能する。さらに、ベース歯付きベルト43,姿勢維持用第1歯付きベルト52,姿勢維持用第2歯付きベルト57は、固定プーリー軸34に対して第3の支軸22の回転位相を常に一定にさせるための本発明の第2の連動手段として機能する。つまり、これらは、ベース歯付きプーリー35に対し、第1中央歯付きプーリー42a,連結用第1歯付きプーリー42bおよび第2中央歯付きプーリー48a,連結用第2歯付きプーリー48bを介して第3歯付きプーリー56を同期回転させる。
なお、前述したように左右の本体内プレート20IL,20IRに対する固定プーリー軸34と一体の位置決め板34L,34Rの取り付け位置を固定プーリー軸34の軸線回りに約25度の範囲で変更することが可能である。これにより、ベース11に対してブラケット14の姿勢を変更することができ、これは必要に応じて作業者によって行われる。
本実施形態における多関節アーム装置10は、ベース11の本体部20に対する第1アーム12の旋回姿勢を固定する第1のロック機構と、第1アーム12に対する第2アーム13の旋回姿勢を固定する第2のロック機構とをさらに具えている。これら第1および第2のロック機構は、作業中に多関節アーム装置10の第1および第2アーム12,13の姿勢が変化しないように維持しておくためのものである。
本実施形態における第1のロック機構の構造を表す図8中の矢視XI部を抽出拡大して図11に示す。すなわち、中空第1支軸16の外側端には、第1アーム固定用ディスク59fが一体的に連結されている。この第1アーム固定用ディスク59fと対向する第1アーム用可動ディスク60fには、センターシャフト36の右端部にねじ込まれる第1アーム固定用レバー61fと一体のレバー軸62fが挿通されている。そして、このレバー軸62fの大径部62aと中空第1支軸16の右端面との間に第1アーム用可動ディスク60fが保持されている。第1アーム固定用ディスク59fおよび第1アーム用可動ディスク60fの相互に対向する端面には相補的な放射状の凹凸部59a,60aが形成され、いわゆるハースカップリングと同様な機能を持たせている。第1アーム用可動ディスク60fには、複数本の案内ロッド63が第1アーム固定用ディスク59fを囲むように中空第1支軸16の軸線と平行に植設されている。右本体外プレート20ORを貫通する案内ロッド63の先端には、右本体外プレート20ORから案内ロッド63が抜け外れるのを防止するための頭部63aがそれぞれ形成されている。案内ロッド63には、第1アーム用可動ディスク60fを第1アーム固定用ディスク59fから引き離すように付勢する(図11中、右方向)圧縮ばね64fがそれぞれ組み付けられている。これらの圧縮ばね64fは、第1アーム用可動ディスク60fと右本体外プレート20ORとの間に配されている。
従って、第1アーム固定用レバー61fを操作して中空第1支軸16に対してレバー軸62fを緩めると、圧縮ばね64fのばね力によって第1アーム用可動ディスク60fが第1アーム固定用ディスク59fから引き離される。この結果、ベース11の本体部20に対する中空第1支軸16および第1アーム12の相対回転が可能になる。逆に、圧縮ばね64fのばね力に抗して第1アーム固定用レバー61fを操作してレバー軸62fを中空第1支軸16へとねじ込むと、第1アーム固定用ディスク59fと第1アーム用可動ディスク60fとを噛み合わせることができる。これにより、ベース11の本体部20に対する中空第1支軸16および第1アーム12の相対回転が阻止され、ベース11に対して第1アーム12を任意の旋回姿勢にて固定することができる。
第2のロック機構は、基本的な構成が上述した第1のロック機構と同じである。すなわち、第2アーム固定用レバー61sを操作して中空軸37に対してレバー軸62sを緩めると、圧縮ばね64sのばね力によって第2アーム用可動ディスク60sが第2アーム固定用ディスク59sから引き離される。これにより、べース11の本体部20に対する中空軸37およびこれと一体のトルク伝達用第1歯付きプーリー40の相対回転が可能となり、第1アーム12に対し第2の支軸21を中心として第2アーム13を旋回させることが可能となる。逆に、圧縮ばね64sのばね力に抗して第2アーム固定用レバー61sを操作してレバー軸62sを中空軸37へとねじ込み、第2アーム固定用ディスク59sと第2アーム用可動ディスク60sとを噛み合わせることができる。これにより、左本体内プレート20ILおよび左本体外プレート20OLに対する中空軸37およびこれと一体のトルク伝達用第1歯付きプーリー40の相対回転が阻止される。トルク伝達用第1歯付きプーリー40は、トルク伝達用第1歯付きベルト50を介して第2アーム13と一体のトルク伝達用第2歯付きプーリー47に連結されている。このため、ベース11に対して第2アーム13を任意の旋回姿勢にて固定することができる。
このように、必要に応じて第1および第2のロック機構を操作することにより、作業中に多関節アーム装置10の姿勢が変化しないように維持しておくことが可能である。
第3の支軸22に一体的に結合されたブラケット14には、工具ホルダー65の取り付けアーム65aを取り外し可能に固定するためのクランプレバー66を有する周知のクランプ装置67が取り付けられている。工具ホルダー65を抽出拡大してその外観を図12に示し、その逆方向から見た外観を図13に示すが、工具ホルダー65に関しては、作業者が必要な作業を円滑に行うことができるものでありさえすれば、どのような構成のものでもかまわない。本実施形態における工具ホルダー65は、丸棒状をなす間接活線工具Dの把持部Dgを取り囲み、これが滑り落ちないような圧力で挾持する四列の相互に平行なローラー群65bを有する。これらローラー群65bにて間接活線工具Dの把持部Dgを把持しているため、この工具ホルダー65に対し間接活線工具Dの把持部Dgを中心として、間接活線工具Dを旋回させることができるようになっている。
従って、第3の支軸22にはブラケット14,工具ホルダー65,間接活線工具Dの重量によって第3の支軸22回りに回転モーメントが発生するけれども、これは姿勢維持手段の固定プーリー軸34にて受けることができる。しかしながら、この回転モーメントを相殺する回転トルクをブラケット14に付与するためのトルク付与手段を例えば左右の本体内プレート20IL,20IRの間に組み込むことも可能である。
本実施形態における多関節アーム装置10は、第1のトルク付与手段と、第2のトルク付与手段とをさらに具えている。第1のトルク付与手段は、中空第1支軸16回りに生ずる第1アーム12の回転モーメントを相殺する回転トルクを第1アーム12に付与する。また、第2のトルク付与手段は、第2の支軸21回りに生ずる第2アーム13の回転モーメントを相殺する回転トルクを第2アーム13に付与する。これによって、第1および第2アーム12,13は、間接活線工具Dが装着された状態であっても任意の回動位置にてその姿勢を維持することができるようになっている。
中空第1支軸16回りに生ずる第1アーム12の回転モーメントは、第1アーム12およびこの第1アーム12に支持されるすべての部材の自重によって生ずる。本実施形態において、第1アーム12に支持される主要な部材として、トルク伝達用第1歯付きベルト50,姿勢維持用第1歯付きベルト52,アイドルプーリー53,一対の張力調整用第1歯付きプーリー54,第2の支軸21,トルク伝達用第2歯付きプーリー47,第2中央歯付きプーリー48a,連結用第2歯付きプーリー48b,第2アーム13,姿勢維持用第2歯付きベルト57,張力調整用第2歯付きプーリー58,第3の支軸22,第3歯付きプーリー56,ブラケット14,工具ホルダー65,間接活線工具Dなどを含む。また、第2の支軸21回りに生ずる第2アーム13の回転モーメントは、第2アーム13と、この第2アーム13に支持されるすべての部材の自重によって生ずる。第2アーム13に支持される主要な部材として、姿勢維持用第2歯付きベルト57,張力調整用第2歯付きプーリー58,第3の支軸22,第3歯付きプーリー56,ブラケット14,工具ホルダー65,間接活線工具Dなどを含む。
第1アーム12が一方の回動端(以下、これを第1の回動端と便宜的に記述する)にある状態での第1のトルク付与手段の構造を図14に示し、その正面形状を図15に示す。また、第1アーム12が他方の回動端(以下、これを第2の回動端と便宜的に記述する)にある状態での第1のトルク付与手段の構造を図16に示し、そのXVII−XVII矢視に沿った断面構造を図17に示す。本実施例における第1のトルク付与手段は、右本体外プレート20ORと右本体内プレート20IRとの間に収容されている。この第1のトルク付与手段は、本発明における第1のレバーとしての第1アーム用キャンセルレバー39fと、第1のばね68mと、第1のばね力伝達手段と、第1のばね68mの伸縮に拘らず、第1のばね68mのばね力を一定に維持するための手段とを具えている。第1のばね68mは、下端部が右本体内プレート20IRに取り付けられたばね受け69に載置され、自重によって中空第1支軸16回りに生ずる第1アーム12の回転モーメントを相殺する回転トルクを中空第1支軸16に付与するためのばね力F1を有する。本実施形態における第1のばね68mは、内側ばね68aとこの内側ばね68aを囲む外側ばね68bとの二重構造を有し、これを2つ具えている。第1のばね力伝達手段は、一端がこの第1のばね68mの他端に連結されると共に他端が第1アーム用キャンセルレバー39fの先端部に連結され、当該第1のばね68mのばね力F1を第1アーム用キャンセルレバー39fに伝達する機能を有する。第1のばね68mの伸縮に拘らず、そのばね力F1を一定に維持するための手段は、この第1のばね力伝達手段に組みこまれている。
第1のばね力伝達手段および第1のばね68mのばね力を一定に維持するための手段は、方向転換プーリー70およびこの方向転換プーリー70と一体の回転カム71mと、カムワイヤー72mと、プーリーワイヤー73とを具えている。方向転換プーリー70および回転カム71mは、中空第1支軸16と平行に両端がベース11の右本体内プレート20IRおよび右本体外プレート20ORの下端部に固定されたカムプーリー軸74に回転自在に取り付けられている。方向転換プーリー70には、右本体内プレート20IRに植設されたストッパーピン75に対し、第1アーム12の第1および第2の回動端にてそれぞれ係止し得る半円弧状のフランジ部70aが形成されている。
このカムプーリー軸74に沿った断面構造を図18,図19に示す。回転カム71mは、カムプーリー軸74の軸線からの距離が第1のばね68mの伸縮に応じて連続的に変化するカム面71aを有する。本発明における第1の索条としてのカムワイヤー72mは、その上端が第1のばね68mの上端側に連結されると共に下端側がばね受け69を貫通して回転カム71mのカム面71aに巻き付けられた状態で回転カム71mに固定されている。ばね受け69と回転カム71mとの間には、一対の第1案内プーリー76mとその下方に位置する第2案内プーリー77mとが配されている。一対の第1案内プーリー76mは、ばね受け69と一体の端板69aに固定された一対の第1プーリー軸78にそれぞれ回転自在に取り付けられてカムワイヤー72mを挾持する。また、第2案内プーリー77mは、第1プーリー軸78と平行に端板69aに固定された第2プーリー軸79に回転自在に取り付けられ、カムワイヤー72mを回転カム71mに導いている。本発明における第2の索条としてのプーリーワイヤー73は、上端が第1アーム用キャンセルレバー39fの先端部に連結されると共に他端側が方向転換プーリー70に巻き付けられた状態でこの方向転換プーリー70に固定されている。
この場合、後述するように、方向転換プーリー70から引き出されたプーリーワイヤー73の方向が可能な限り鉛直となるように、第1アーム用キャンセルレバー39fに対する方向転換プーリー70の位置を設定することが望ましい。このため、構造が複雑になるけれども、第1アーム12の回動に伴ってカムプーリー軸74などを水平に平行移動させる機構を組み込むことも有効である。
先のばね受け69には、第1のばね68mをそれぞれ貫通する一対の案内棒80が植設され、この一対の案内棒80が貫通するばね押さえ板68cが第1のばね68mの上端面に押し当てられている。ばね押さえ板68cの中央には、カムワイヤー72mの上端部が貫通状態で固定されるボルト81がねじ込まれている。
ここで、本発明の原理を模式的に表す図20に示す。第1アーム12の長さ、すなわち中空第1支軸16の中心から第2の支軸21の中心までの距離をL1,第2アーム13の長さ、すなわち第2の支軸21の中心から第3の支軸22の中心までの距離をL2,第1アーム12およびこの第1アーム12に支持される部材の重心点G1における総重量をM1,間接活線工具Dを除き、第2アーム13およびこの第2アーム13に支持される部材の重心点G2における総重量をM2,中空第1支軸16の中心から重心G1までの距離をl1,第2の支軸21の中心から重心G2までの距離をl2,間接活線工具Dの重量をm,中空第1支軸16の中心と重心G1とを通り、第1アーム用キャンセルレバー39fの長さ、すなわち中空第1支軸16の中心から第1アーム用キャンセルレバー39fの先端部のワイヤー取り付け点までの距離をr1,第2アーム用キャンセルレバー39sの長さ、すなわち中空第1支軸16の中心から第2アーム用キャンセルレバー39sの先端部のワイヤー取り付け点までの距離をr2,中空第1支軸16の中心を含む水平面Hに対して中空第1支軸16の中心および重心G1を通る線分のなす角をθ1,中空第1支軸16の中心を含む水平面Hに対して第2の支軸21の中心および第3の支軸22の中心を通る線分のなす角をθ2とする。また、中空第1支軸16の中心から第1アーム用キャンセルレバー39fの先端部のワイヤー取り付け点までの線分と、中空第1支軸16の中心から重心G1までの線分とは一直線状をなす。また、中空第1支軸16の中心から第2アーム用キャンセルレバー39sの先端部のワイヤー取り付け点までの線分と、第2の支軸21の中心から重心G2までの線分とは平行である。この場合、自重によって中空第1支軸16回りに生ずる第1アーム12の回転モーメントを相殺する回転トルクを中空第1支軸16に付与するための力をF1,自重によって第2の支軸21回りに生ずる第2アーム13の回転モーメントを相殺する回転トルクを第2の支軸21を介して中空軸37に付与するための力をF2,重力加速度をgとすると、
F1r1cosθ1=M1gl1cosθ1+(M2+m)gL1cosθ1
F2r2cosθ2=mgL2cosθ2+M2gl2cosθ2
という関係が成り立つので、第1アーム用キャンセルレバー39fの先端部のワイヤー取り付け点に作用する鉛直下向きの力F1は、
F1={M1gl1+(M2+m)gL1}/r1
となり、第2アーム用キャンセルレバー39sの先端部のワイヤー取り付け点に作用する鉛直下向きの力F2は、
F2=(mgL2+M2gl2)/r2
となる。
従って、第1アーム用キャンセルレバー39fの先端部のワイヤー取り付け点および第2アーム用キャンセルレバー39sの先端部のワイヤー取り付け点には、F1,F2に対応したばね力をそれぞれ与えればよいことがわかる。本実施形態の場合、第1アーム用キャンセルレバー39fと方向転換プーリー70との間に配されるプーリーワイヤー73が可能な限り鉛直方向に沿うように、多関節アーム装置10をバケットBに固定することが望まれる。これによって、間接活線工具Dの自重を全く意識せずに、間接活線工具Dを作業者が操作可能である。しかしながら、プーリーワイヤー73が鉛直方向から多少ずれていても、間接活線工具Dの自重をそれほど意識せずに、間接活線工具Dを操作できることも理解されたい。
本実施形態においては、第1のばね68mの伸縮に伴ってばね力が変化するため、第1のばね68mの伸縮に拘らず、これを常に一定にする必要がある。本実施形態では、カムプーリー軸74の中心から方向転換プーリー70に巻き掛けられるプーリーワイヤー73までの距離に対し、カムプーリー軸74の中心から第2案内プーリー77mから引き出されたカムワイヤー72mが接するカム面71aまでの距離が第1のばね68mの圧縮に応じて連続的に小さくなるように、カム面71aを適切に形成している。これにより、第1のばね68mの伸縮に拘らず、常に一定のばね力F1,F2を第1アーム用キャンセルレバー39fの先端部のワイヤー取り付け点および第2アーム用キャンセルレバー39s先端部のワイヤー取り付け点に与えることかできる。
このような構成にすることにより、図15に示す第1アーム12の第1の旋回端から第1アーム12を図16に示す第2の旋回端へと回動させると、プーリーワイヤー73が上方に引っ張られると同時にカムワイヤー72mが下方に引っ張られる。これにより、第1のばね68mが圧縮されて行くが、この時、カムプーリー軸74の軸線からカムワイヤー72mが接するカム面71aまでの距離が漸次小さくなり、プーリーワイヤー73に作用する張力、すなわちF1が増大することなく、一定に保たれる。
なお、第1および第2アーム用キャンセルレバー39f,39sの重心点が中空第1支軸16の中心から大きく外れている場合には、これを考慮して上述したばね力F1,F2を補正する必要がある。しかしながら、中空第1支軸16の中心から第1および第2アーム用キャンセルレバー39f,39sの先端部のワイヤー取り付け点までの距離が短い場合、上述した式で算出されるばね力F1,F2をそのまま用いることが可能である。
また、本実施形態のように、ばね力F1,F2を鉛直下向きではなく、中空第1支軸16および中空軸37に対する第1および第2アーム用キャンセルレバー39f,39sの回転位相を変えることによって、任意の方向に変更することが可能である。例えば、第1および第2アーム用キャンセルレバー39f,39sの位相を図20に示す状態から中空第1支軸16回りにそれぞれ90度右回転させて中空第1支軸16および中空軸37に固定した場合、カムワイヤー72mを水平方向に引っ張ってばね力F1,F2を加えることができる。
さらに、方向転換プーリー70および回転カム71mに対し、第1の索条、すなわちカムワイヤー72mと、第2の索条、すなわちプーリーワイヤー73とを上述した実施形態と逆に組み付けることも可能である。すなわち、一端側が回転カム71mに固定されるカムワイヤー72mの他端を第1アーム用キャンセルレバー39fに連結すると共に一端側が方向転換プーリー70に固定されるプーリーワイヤー73の他端を第1のばね68mの他端に連結するようにしてもよい。この場合、第1のばね68mの伸縮に拘らず、そのばね力が一定に維持されるように、方向転換プーリー70や回転カム71mのカム面71aなどの寸法形状を適切に設定する必要があることは言うまでもない。
本実施形態では、重さが大きく異なる(例えば約2キログラムと約10キログラムの)二種類の間接活線工具Dに対応することができるように、トルク付与手段によって与えられる力F1,F2を簡単に切り換えることができるようになっている。
より具体的には、第1のトルク付与手段は、補助ばね68sと、補助回転カム71sと、補助カムワイヤー72sと、第1のクラッチ機構とをさらに具えている。
補助ばね68sは、第1のばね68mと平行にその下端がばね受け69に載置されている。そして、自重によって中空第1支軸16回りに生ずる第1アーム12の回転モーメントを相殺する回転トルクを第1のばね68mと共に中空第1支軸16に付与するためのばね力F1を有する。より具体的には、二種類の間接活線工具Dの重量差に対応したばね力を補助ばね68sが有している。補助回転カム71sは、方向転換プーリー70と同軸状をなし、かつ方向転換プーリー70の回転軸線からの距離が補助ばね68sの伸縮に応じて連続的に変化するカム面71bを有する。本発明における第1の補助索条としての補助カムワイヤー72sは、上端が補助ばね68sの上端に載置されるばね押さえ82にねじ込まれたボルト83に連結されている。ばね押さえ82は、筒状をなし、その内部を補助カムワイヤー72sが貫通している。補助ばね68sの座屈を防止するため、複数本(図示例では4本)のばね保持ピン84が補助ばね68sを取り囲むように相互に平行にばね受け69に植設されている。この補助カムワイヤー72sの下端側は、ばね受け69を貫通して補助回転カム71sのカム面71bに巻き付けられた状態で補助回転カム71sに固定されている。先の一対の第1プーリー軸78には、補助カムワイヤー72sを挾持する一対の第1補助案内プーリー76sが回転自在に取り付けられている。同様に、第2プーリー軸79には、補助カムワイヤー72sを補助回転カム71sへと導く第2補助案内プーリー77sが回転自在に取り付けられている。第1のクラッチ機構は、回転カム71mと補助回転カム71sとの間に組み込まれ、間接活線工具Dの重量に応じて補助回転カム71sを方向転換プーリー70と一体の回転カム71mと同位相にて接続または切り離す機能を有する。
本実施形態における第1のクラッチ機構は、方向転換プーリー70の端面に形成された嵌合孔70bに挿入可能なピン85aが突設されたクラッチ板85を方向転換プーリー70と補助回転カム71sとの間に有する。このクラッチ板85は、補助回転カム71sと一体的に連結されている。作業者によって操作される切り替えつまみ86aが固定された切り替え板86は、右本体外プレート20ORの外側に配されている。この切り替え板86は、接続位置と切り離し位置との間をカムプーリー軸74に対して同心状に旋回可能となっており、右本体外プレート20OR側に突出する突起部86bを有する。切り替え板86と対向する右本体外プレート20ORの表面には、切り替え板86の接続位置においてのみ、その突起部86bを収容可能な凹部20aが形成されている。この切り替え板86を取り囲む保持リング87は、この切り替え板86を回転自在に支持する。カムプーリー軸74と平行に右本体外プレート20ORをそれぞれ摺動自在に貫通する複数本の連結棒88は、これらの一端が保持リング87に連結されている。連結棒88の他端は、右本体外プレート20ORを挟んで保持リング87と対向するように補助回転カム71sに結合された伝達板89に連結されている。伝達板89を補助回転カム71sおよびクラッチ板85と共に方向転換プーリー70側に付勢する圧縮ばね90が伝達板89と右本体外プレート20ORとの間に配されている。
第1アーム12が第1の旋回端にある場合、クラッチ板85のピン85aが方向転換プーリー70の嵌合孔70bと正対する位置となるように、関連する部材の位置関係が設定されている。従って、クラッチ板85のピン85aを方向転換プーリー70の嵌合孔70bに嵌合させる場合、第1アーム12を第1の旋回端に回動させておく必要がある。この状態において、切り替えつまみ86aをひねり、切り替え板86の突起部86bを右本体外プレート20ORに形成された凹部20aに導く。しかる後、切り替えつまみ86aから手を離すと、圧縮ばね90のばね力によってクラッチ板85が補助回転カム71sおよび伝達板89や切り替え板86と共にカムプーリー軸74に沿って方向転換プーリー70側に摺動する。そして、図19に示すようにクラッチ板85のピン85aが方向転換プーリー70の嵌合孔70bに入り込み、方向転換プーリー70と補助回転カム71sとが一体化される。これにより、第1のばね68mと補助ばね68sとを組み合わせたばね力が第1アーム用キャンセルレバー39fに伝達される。
第2のトルク付与手段も上述した第1のトルク付与手段とほぼ同じ構成を有するだけであり、第1のトルク付与手段に対応した部材に対して同様な符号を図中に記すに留め、重複する説明を省略する。本実施形態における第2のトルク付与手段は、左本体外プレート20OLと左本体内プレート20ILとの間に収容され、中空軸37と一体の第2アーム用キャンセルレバー39sに方法転換プーリーから引き出されたプーリーワイヤーが連結されている。この第2のトルク付与手段においては、第2の支軸21回りの第2アーム13の回転トルクに影響を与えない部材の重量を考慮する必要がなく、第1のばねのばね力を第1のトルク付与手段の第1のばね68mのばね力よりも弱いものにすることができる。第2の支軸21回りの第2アーム13の回転トルクに影響を与えない部材としては、第1アーム12およびこれに取り付けられたトルク伝達用第1歯付きベルト50,姿勢維持用第1歯付きベルト52,アイドルプーリー53,一対の張力調整用第1歯付きプーリー54,第2の支軸21,トルク伝達用第2歯付きプーリー47,第2中央歯付きプーリー48a,連結用第2歯付きプーリー48bなどを挙げることができる。
本実施形態では、第2の支軸21を第1アーム12の先端部に固定すると共に第2アーム13に対して回転自在とし、第2アーム13およびこれよりも先端側に配された各種構成部品の自重によって生ずる回転モーメントを中空軸37で受けるようにしている。このため、第2のトルク付与手段を第1アーム12ではなく、左本体外プレート20OLと左本体内プレート20ILとの間に組みこむことができる。結果として、第1アーム12の重量増大を抑制して中空第1支軸16回りに発生する回転モーメントを小さくすることができ、第1のトルク付与手段にて用いられる第1のばね68mのばね力をより小さなものにすることが可能である。
このように、本発明はその特許請求の範囲に記載された事項のみから解釈されるべきものであり、上述した実施形態においても、本発明の概念に包含されるあらゆる変更や修正が記載した事項以外に可能である。つまり、上述した実施形態におけるすべての事項は、本発明を限定するためのものではなく、本発明とは直接的に関係のない構成を含め、その用途や目的などに応じて任意に変更し得るものである。