JP2019212928A - CdTe系化合物半導体及びそれを用いた放射線検出素子 - Google Patents
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Abstract
【課題】組成が同じCdTe系化合物半導体の正孔のμτ(h)値をできる限り高い値とし、あわせてそのばらつきを抑えられたCdTe系化合物半導体を提供し、さらに、そのようなCdTe系化合物半導体を用いた放射線検出素子を提供する。【解決手段】CdTe系化合物半導体であって、CdTe系化合物半導体に含まれるボロン(B)濃度が20atom ppb以下であり、CdTe系化合物半導体に含まれる窒素(N)濃度が15atom ppb以下であり、正孔の移動度μと該正孔の寿命τの積であるμτ積(h)が5.0×10-5cm2/V以上であるCdTe系化合物半導体基板。【選択図】図2
Description
本発明は、CdTe系化合物半導体及びそれを用いた放射線検出素子に関する。
従来より、放射線検出素子用途で高効率、高分解能、小型化に優れた直接変換型化合物半導体の開発が進められている。その中でII−VI族化合物半導体であるテルル化カドミウム(CdTe)、セレンテルル化カドミウム(CdSeTe)、テルル化亜鉛カドミウム(CdZnTe)、セレンテルル化亜鉛カドミウム(CdZnSeTe)などのCdTe系化合物半導体は、近年、放射線検出素子用途の有力な材料として注目されている。これらは他の半導体に比べ、原子番号が比較的大きいことから放射線の吸収率が高く検出効率が高い、バンドギャップエネルギーが大きいので熱による漏れ電流の影響が少なく冷却装置が不要(室温で動作可能)という利点がある。
こうした放射線検出用直接変換型半導体において、放射線検出特性の良し悪しを決める半導体の重要なパラメータにキャリアの移動度μとキャリア寿命τの積μτが挙げられる。直接変換型半導体を用いた放射線検出器は、半導体の対向する2面に電極を形成し、電極を介して電場が印加された状態の半導体内に放射線が入射することで発生するキャリア(電子・正孔)を電極を介して電気信号の形で取り出すことによって放射線が入ったことを感知する。すなわち、電場が印加された状態の半導体内では、放射線を吸収して発生したキャリア(電子・正孔)が、印加された電場に沿ってそれぞれ相反する電位の方向に進み、最終的に電極まで到達する。電極に到達したキャリア(電子または正孔)が電気信号の形で取り出されるため、放射線が入ったことを電気信号の形で感知できるというのが、直接変換型半導体を用いた放射線検出素子の原理である。
この際、半導体のキャリア移動度μが大きい程、半導体内をキャリアは早く移動し、電極まで到達し易い。また、キャリア寿命τが大きい程、キャリアは再結合で失われず長寿命
なため電極まで到達し易くなる。従って、この二つの積μτは放射線入射で発生したキャリアが途中で失われずに電極まで届く尺度を表し、この値が大きい程、放射線検出特性に優れている。また、キャリアの種類(電子・正孔)によって、異なるμτ値を有している。正孔の移動度μは、電子の移動度μに比べて小さく、正孔における積μτ(h)(正孔のμτ(h))は電子における積μτ(e)(電子のμτ(e))より1〜2桁低い値になることが多く、放射線検出特性を下げる原因となっている。そこで、正孔のμτ(h)を高めることが放射線検出特性の向上に繋がる。
なため電極まで到達し易くなる。従って、この二つの積μτは放射線入射で発生したキャリアが途中で失われずに電極まで届く尺度を表し、この値が大きい程、放射線検出特性に優れている。また、キャリアの種類(電子・正孔)によって、異なるμτ値を有している。正孔の移動度μは、電子の移動度μに比べて小さく、正孔における積μτ(h)(正孔のμτ(h))は電子における積μτ(e)(電子のμτ(e))より1〜2桁低い値になることが多く、放射線検出特性を下げる原因となっている。そこで、正孔のμτ(h)を高めることが放射線検出特性の向上に繋がる。
また、例えば、組成が同じCdTe化合物半導体を用いて放射線検出器を作製した際、同じ条件で作製した電極を用いても放射線の検出特性にばらつきが生じていた。実際に正孔のμτ(h)値を測定すると、組成が同じCdTe系化合物半導体であっても、製造の度毎に、10-5〜10-6cm2/V台まで大きくばらついていた。したがって、正孔のμτ(h)値をできる限り高い値とし、そのばらつきを抑えることで、再現性よく高いμτ(h)を有するCdTe系化合物半導体基板を得る技術が求められてきた。
非特許文献1には、正孔の移動度μは電子の移動度μに比べて小さく、正孔のμτ(h)は電子のμτ(e)に比べて値が小さく、放射線検出器の出力が放射線の入射方向によって変化する問題点を指摘している。この問題を解決するために、電極に用いる金属の組成を調整してキャリアの収集効率を改善することが記載されている。
しかしながら、正孔を電極から取り出す効率を高め、放射線検出素子としての機能向上を図ることができるとしても、正孔のμτ(h)値自体の改善には繋がっていない。また、組成が同じCdTe化合物半導体に同じ条件で作製した電極を用いても放射線の検出特性にばらつきが生じていたという問題、すなわち、組成が同じCdTe系化合物半導体であっても個体によって正孔のμτ(h)値が、製造の度毎に、10-5〜10-6cm2/V台まで大きくばらつく問題を解決するものでもない。
放射線Vol.30、No.1(2004)、23頁−32頁
日本物理学会誌Vol.59、No.1(2004)、23頁−32頁
本発明の課題は、組成が同じCdTe系化合物半導体の正孔のμτ(h)値をできる限り高い値とし、あわせてそのばらつきが抑えられたCdTe系化合物半導体を提供することである。さらに、そのようなCdTe系化合物半導体を用いた放射線検出素子を提供することである。
我々はこうした問題点の解決のため、鋭意研究開発を進めたところ、正孔のμτ(h)値(移動度−寿命積μτ(h))がCdTe系半導体に含まれる不純物のうちボロン(B)、炭素(C)、窒素(N)、及び酸素(O)の濃度に強く依存していることを見出した。傾向として、ボロン(B)、炭素(C)、窒素(N)、及び酸素(O)の濃度が少ない程、正孔のμτ(h)値が高いことがわかった。特に、ボロン(B)が低い場合に、正孔のμτ(h)が高くなりやすく、さらに、正孔のμτ(h)値はボロン(B)及び窒素(N)の合計の濃度に強く依存していることが分かった。より具体的には、(1)ボロン(B)濃度が高い場合には、窒素(N)濃度が極めて低い場合でも、正孔のμτ(h)が小さくなる(比較例2)。(2)ボロン(B)の濃度及び窒素(N)濃度のいずれも低い場合には安定して正孔のμτ(h)が大きな値を得る(実施例1、2)ことができ、(3)炉
材の熱処理時間を長くすることによって、該炉材を使用して育成したCdTe系結晶中の酸素(O)濃度が減少する傾向を見出し、本発明に至った。これらの不純物濃度を抑えることで正孔のμτ(h)値を高めるとともに、組成が同じCdTe系化合物半導体における個体間の正孔のμτ(h)値のばらつきを改善させることに成功した。
材の熱処理時間を長くすることによって、該炉材を使用して育成したCdTe系結晶中の酸素(O)濃度が減少する傾向を見出し、本発明に至った。これらの不純物濃度を抑えることで正孔のμτ(h)値を高めるとともに、組成が同じCdTe系化合物半導体における個体間の正孔のμτ(h)値のばらつきを改善させることに成功した。
CdTe系結晶(結晶には、単結晶及び多結晶を含む。)の育成工程において、混入している酸素(O)はそれ自体、CdTe系半導体内でμτ低下に関与する等電位トラップ準位を形成する。さらに、炉材に付着した水分の酸素(O)成分は炉材に使われる窒化ほう素材(BNやpBN)から、窒素(N)、ボロン(B)をNOx、BOxの形で炉材から解離させ、結晶内に取り込ませてしまう性質があると考えられる。加えて、同じく炉材に使われる石英は炭素酸化物(COx)を取り込む性質があり、これも汚染源となる。そのため、まずはCdTe系半導体の結晶製造装置内に含まれる酸素(O)濃度及び炭素酸化物(COx)濃度を下げることで、CdTe系半導体結晶中の不純物濃度を下げることが可能となるかを試みた。
より具体的には、CdTe系化合物半導体の結晶成長は、その原料を坩堝に充填して所定時間加熱した後、冷却することにより実施され、その結果、CdTe系化合物半導体のインゴットが生成される。そこで、O、COxの混入源として最も大きいと思われる坩堝や坩堝を保持するサセプター、石英製アンプルなどの炉材(窒化ホウ素、炭素、炉材に含有する水分など)を不活性雰囲気中で加熱することにより、残留水分量を減らして、残留水分に起因する酸素(O)を減らすことで炉材中の酸素(O)濃度を下げ、加えて不活性雰囲気中で加熱することで炭素酸化物(COx)濃度も下がるので、ひいてはCdTe系化合物半導体の中の不純物濃度を減らすことを試みた。
また、坩堝などの炉材の加熱処理時間とCdTe系化合物半導体不純物濃度の関係を調べるため、坩堝等の炉材の加熱は、加熱温度を同一とし、加熱時間を1か月、2週間、1週間、1日、及び12時間と変えて、不活性雰囲気下で行ない、加熱時間の異なる坩堝等の炉材を用意した。加熱処理された種々の炉材を用いて、CdTe系化合物半導体のインゴットを育成し、さらに育成された各インゴットから基板表面の結晶方位が(111)面となるように円盤状の基板を切り出した。各CdTe系化合物半導体基板中の不純物元素の濃度は、グロー放電質量分析装置(GDMS:Glow Discharge Mass Spectrometry)を用いて評価した。また、正孔のμτ(h)値は、該円盤状の基板をダイシングにより矩形に加工し、基板の表裏面を鏡面研磨処理を施した後、当該基板の一方の主面にPtオーミック電極、もう一方の主(裏)面にInショットキー電極を形成して素子基板を作製し、所定値の電圧を印加しながら、標準放射線源より放射線を素子基板に照射し、生成された正孔キャリアを電気信号として取り出し、多チャンネル波高分析装置(MCA)を介して測定した。このようにして、測定された不純物の濃度と正孔のμτ(h)値との相関を調べた。
不純物濃度と正孔のμτ(h)値との相関によれば、酸素(O)のみならず、ボロン(B)、炭素(C)、及び窒素(N)もトラップ準位を形成し、正孔のμτ(h)の低下に寄与すると考えられる。特に、ボロン(B)及び窒素(N)は、他の不純物に比べて、正孔のμτ(h)値を低下させる効果が大きいことが分かった。
そこで、本発明によれば、正孔のμτ(h)値を下げる主たる原因となるボロン(B)の濃度が20atom ppb以下であることを特徴としたCdTe系化合物半導体基板(1)であり、さらに、ボロン(B)の濃度が20atom ppb以下であり、且つ、窒素(N)の濃度が15atom ppb以下であることを特徴としたCdTe系化合物半導体基板(2)が提供される。
本発明によれば、ボロン(B)濃度と窒素(N)濃度との和が30atom ppb以下である、上記(1)及び(2)に記載のCdTe系化合物半導体基板(3)が提供される。
本発明によれば、正孔の移動度μと該正孔の寿命τの積であるμτ積(h)が5.0×10-5cm2/V以上であることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のCdTe系化合物半導体基板(4)が提供される。
本発明によれば、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のCdTe系化合物半導体基板を用いて作製されたことを特徴とするCdTe系半導体直接検出型放射線検出素子が提供される。
本発明によれば、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のCdTe系化合物半導体基板を用いて作製されたことを特徴とするCdTe系半導体直接検出型放射線検出素子が提供される。
本発明によれば、前記CdTe系化合物半導体の対向する面には、InまたはPtからなる電極が設けられていることを特徴とする、上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の半導体直接検出型放射線検出素子が提供される。
本発明にかかる半導体直接検出型放射線検出素子は、ショットキー素子であり、正孔が移動する側の電極がインジウム(In)であり、電子が移動する側の電極がプラチナ(Pt)であることが望ましいが、本発明の本質はCdTe系半導体材料を対象とし、素子の種類、電極金属の種類によらず適用できるものである。
本発明によれば、CdTe系半導体に含まれる不純物のうちボロン(B)、炭素(C)、窒素(N)、及び酸素(O)の濃度を所定濃度以下に抑えることが可能となった。さらに、ボロン(B)、炭素(C)、窒素(N)、及び酸素(O)の濃度を所定濃度以下とすることにより、正孔のμτ(h)値を高めるのみならず、正孔のμτ(h)値が大きくばらつくことを抑制でき、再現性よく、高いμτ(h)値を有するCdTe系化合物半導体基板を作製することが可能となった。特に、ボロン(B)濃度を所定の濃度以下に抑えることによって、さらには、ボロン(B)濃度と窒素(N)濃度を各々所定の濃度以下に抑えることによって、組成が同じCdTe系化合物半導体であっても制御しきれなかった正孔のμτ(h)値のばらつきを再現性よく抑えることが可能となった。
以下、図面を参照して本発明に係るCdTe系半導体及びその製造方法について説明する。但し、本発明に係るCdTe系半導体及びその製造方法は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本実施の形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
図1は、CdTe系半導体を、垂直温度勾配凝固法(VGF法)により成長させるための結晶成長装置の概略構成図である。坩堝内で融解した原料融液の一端から徐々に固化を行い、結晶(単結晶及び多結晶を含む。)を育成する方法である。この成長方法は、結晶成長方向の温度勾配が小さいため低転位密度の結晶が容易に得られるという長所を有する。
図1中、符号200は常圧容器を示し、この常圧容器200の中心にはCdを充填するリザーバ部201aを有する石英アンプル201が配置されている。また、石英アンプル201内にはpBN(pyrolytic Boron Nitride)製坩堝203が配置され、石英アンプル201を包囲するようにヒータ202が設けられている。ヒータ202は、図1に示すように坩堝203に対応する部分とリザーバ部201aに対応する部分とを別々の温度に加熱でき、かつ常圧容器200内の温度分布を細かく制御できる3段の多段型構造を有する。
まず、結晶成長装置内のリザーバ部201aを有する石英アンプル201及び坩堝203の炉材を、王水を用いて洗浄した後、さらに超純水で洗浄した。次に、窒素ガス雰囲気下で、ヒータ202を用いて150℃にて加熱する。加熱時間は、1か月、2週間、1週間、1日、及び12時間と変えて、加熱温度は同じであるが、加熱時間の異なる坩堝等の炉材を用意した。なお、本実施例では、不活性ガスとして窒素ガスを用いたが、あくまで一例であって、例えばアルゴンガスでも構わない。
加熱時間が各々異なる炉材を用いて、垂直温度勾配凝固法(VGF)によりCd0.9Zn0.1Te結晶を育成した。具体的には、まず、石英アンプル201のリザーバ部201aに易揮発性元素であるCd単体204を入れるとともに、pBN製坩堝203にCdZnTeの結晶原料205を入れて石英アンプル201内に配置した後、石英アンプル201を真空封止した。
次に、ヒータ202で加熱昇温して坩堝203内のCdTe原料205を融解した後、ヒータ202でリザーバ部201aを780℃に加熱して、Cd蒸気圧を0.116MPaに制御を行うとともに、坩堝203を1100℃に加熱した。さらに、常圧容器200内に所望の温度分布が生じるように各ヒータへの供給電力量を制御装置(図示しない)で制御しながら加熱炉内の温度を0.1℃/hrの降温速度で徐々に下げて、約200時間かけて原料融液の表面から下方に向かってCdZnTe結晶を成長させた。
各々異なる時間で加熱処理された炉材を用いて育成されたCdZnTe結晶中の不純物濃度はグロー放電質量分析装置(GDMS)を用いて評価された。また、各々異なる時間で加熱処理された炉材を用いて育成されたCdTe結晶の正孔のμτ(h)値の測定は、以下の方法で実施した。すなわち、育成されたCdTe結晶のインゴットから基板表面の結晶方位が(111)面となるように円盤状に基板を切り出し、さらに円盤状の基板を矩形に加工して、基板サイズが4×4×1.4mm3であるCdZnTe基板を作製した。次に、基板の表裏面を鏡面研磨した後、メタノール、アセトン等の有機溶剤に浸漬し、室温で超音波洗浄することで、基板に付着した異物を除去し、さらに、臭化水素、臭素及び水を混合したエッチング液に基板を浸漬して、室温で基板の研磨面の加工変質層を除去した。このようにして、洗浄処理されたCdZnTe基板の(111)面の一方の面には無電解めっきにてPt膜を50nm堆積し、(−1−1−1)面の他方の面には真空蒸着にて
In膜を300nm堆積してショットキー素子を作製した(図2)。
In膜を300nm堆積してショットキー素子を作製した(図2)。
これに、アメリシウム−241(Am241)を核種とした標準放射線源((社)日本アイソトープ協会)を10mmの間隔を置いてIn膜側に配置し、Am241から出る放射線をショットキー素子が検出できるようにした。この状態でショットキー素子に250、500、700、900Vの電圧を印加すると、ショットキー素子内に入射したAm241からの放射線により素子内部で電子、正孔のキャリアが生成される。生成されたキャリアは印加されている電場に沿って、互いに相反する電位の方向に進むが、Am241線源の位置がIn電極側に近いことから素子から取り出されるキャリアは正孔のみで、電子はPt側に移動中に再結合で消失する。
In電極を介して取り出された電気信号は多チャンネル波高分析装置(MCA)により信号処理される。ピーク位置はμτ(h)×(結晶内電場)に単調増加で依存するため、電圧を変えて結晶内電場の値を変化させた上でピーク位置の変化を調べることでμτ(h)の値を知ることができる。
各々異なる時間で育成前に加熱処理された炉材を用いて育成させたCd0.9Zn0.1Te単結晶について、GDMSによる不純物濃度の評価結果、及び作製したショットキー素子から評価した正孔のμτ(h)値を表1に示す。
表1によれば、結晶育成前の炉材の加熱時間が長い程、酸素(O)濃度が低くなっていく傾向がわかる。他の不純物(B、C、N)については、ばらつきが見られるが、特に、加熱時間が1か月になると、どの不純物についても低くなっている。したがって、育成前に炉材を加熱することによって、結晶成長装置内の残留水分量を減らし、ひいてはCdTe系半導体内の酸素(O)濃度を減らすことが可能となることが分かる。また、比較例2のデータに着目すると、窒素(N)濃度が2.0atom ppb程度と極めて低くなっているが、そのような場合でも正孔のμτ(h)値は2.3×10-5cm2/Vと低い値となっていた。したがって、単純に、1つの不純物濃度を低減するだけでは、正孔のμτ(h)が増大化する傾向を得ることができないと言える。
特に、比較例2では、上述のように、窒素(N)濃度が2.0atom ppbと極めて低い濃度であるが、ボロン(B)濃度が120atom ppbと高いことから、正孔のμτ(h)値は2.3×10-5cm2/Vと低い値になっていると考えられる。
以上のように、ボロン(B)濃度が正孔のμτ(h)に大きく影響を与えていることが分かる。
さらに正孔のμτ(h)の各不純物の濃度への依存性を見るために、各々異なる時間で育成前に加熱処理された炉材を用いて育成させたCd0.9Zn0.1Te結晶に含まれる各不純物の濃度とμτ(h)との依存性をプロットしたグラフを作成した(図3ないし図8)。これらのグラフによって、不純物濃度と正孔のμτ(h)との間には以下の傾向があることが分かった。
ボロン(B)の濃度と正孔のμτ(h)との依存性をプロットしたグラフ(図3)によれば、ボロン(B)濃度は、正孔のμτ(h)とかなり強い相関があることが分かる。ボロン(B)濃度が高ければ高いほど正孔のμτ(h)は低くなり、ボロン(B)濃度が低ければ低いほど正孔のμτ(h)は高くなる傾向があるということができる。特にボロン(B)の場合、その濃度を20atom ppb以下に抑えると正孔のμτ(h)は急激に高くなる傾向がある。
また、CdTe系半導体に含まれるボロン(B)濃度及び窒素(N)の濃度の和と正孔のμτ(h)値との関係をプロットした図7によれば、ボロン(B)濃度と窒素(N)濃度の合計値は、正孔のμτ(h)値との間に、より明確な強い相関が見られた(図7)。図7は、ボロン(B)濃度と窒素(N)濃度の合計値が低くなれば正孔のμτ(h)値が高くなり、ボロン(B)濃度と窒素(N)濃度の合計値が高くなれば正孔のμτ(h)値が低くなる傾向を示している。一方で、ボロン(B)濃度、炭素(C)濃度、窒素(N)濃度、酸素(O)濃度の合計値と正孔のμτ(h)との関係は、図8からも明らかなとおり、ボロン(B)濃度、炭素(C)濃度、窒素(N)濃度、酸素(O)濃度の合計値が小さい場合には、ある程度の相関(不純物濃度の合計値が小さければ、正孔のμτ(h)は高くなる)はあるが、不純物濃度の合計値が大きくなると、単純なμτ(h)の減少傾向が見られず、ばらついている。
さらに、比較例1及び7に着目すると、以下の傾向が見える。すなわち、比較例1では、ボロン(B)濃度35atom ppb、窒素(N)濃度10atom ppbであり、一方、比較例7のボロン(B)濃度は25atom ppb、窒素(N)濃度45atom ppbとなっており、ボロン(B)濃度については比較例1の方が高く、窒素(N)濃度については比較例7の方が高い濃度となっている。正孔のμτ(h)値は、比較例7の方が高いことから、ボロン濃度の低減がμτ(h)を大きくするのに効果があると言える。
以上の考察及び表1より、正孔のμτ(h)は、ボロン(B)濃度に大きく依存し、窒素(N)濃度についてはボロン(B)濃度ほどではないが、正孔のμτ(h)値に影響を及ぼしていることが分かった。具体的には、ボロン(B)濃度が18.5atom ppbより低く、尚且つ窒素(N)濃度も3.5atom ppb以下に抑えられている場合は、安定的にかなり高い正孔のμτ(h)値となるCdTe系半導体になるということができる。
また、図7に基づけば、ボロン(B)濃度と窒素(N)濃度との和が30atom ppb以下とすると、正孔のμτ(h)値を高くすることができるといえる。
以上のとおり、CdTe系半導体の育成時において、ボロン(B)及び窒素(N)等の、不純物の混入量を極力減らすことによって、CdTe系化合物半導体の正孔のμτ(h)値を高めるとともに、同じ組成のCdTe系化合物半導体において、製造の度毎に、正孔のμτ(h)値がばらつく問題点を再現性よく抑えることが可能となる。
なお、今回の一連の実験によって、CdTe系半導体の育成時に、単にCdTe系半導体内に混入してくるだけでなく、他の不純物であるボロン(B)、窒素(N)及び炭素(C)を炉材から引き抜き、結晶内に取り込む原因となる酸素(O)をCdTe系半導体の結晶製造装置内から除く方法として、坩堝などの炉材を加熱して残留水分量を減らすことは、有効な手段の1つであることが分かった。坩堝などの炉材の加熱時間に応じて、CdTe系半導体内に取り込まれる不純物の量が減少傾向にあるためである。
本発明の実施例においては、CdTe半導体の例を用いて説明したが、II−VI族化合物半導体である、セレンテルル化カドミウム(CdSeTe)、テルル化亜鉛カドミウム(CdZnTe)、セレンテルル化亜鉛カドミウム(CdZnSeTe)についても不純物であるボロン(B)、窒素(N)、炭素(C)及び酸素(O)の存在が大きく正孔のμτ(h)値に影響を与えている。したがって、ボロン(B)及び窒素(N)の各不純物が入り込む量を極力減らすことによって、正孔のμτ(h)値を高めるとともに、正孔のμτ(h)値のばらつきを抑えることが可能である。
上記の実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
200 炉心管
201 石英アンプルの結晶育成部
201a 石英アンプルのCd蒸気圧印加用リザーバ部
202 ヒーター
203 坩堝
204 Cd
205 CdTe、又は、CdZnTe原料
201 石英アンプルの結晶育成部
201a 石英アンプルのCd蒸気圧印加用リザーバ部
202 ヒーター
203 坩堝
204 Cd
205 CdTe、又は、CdZnTe原料
Claims (4)
- CdTe系化合物半導体であって、前記CdTe系化合物半導体に含まれるボロン(B)濃度が20atom ppb以下であり、
前記CdTe系化合物半導体に含まれる窒素(N)濃度が15atom ppb以下であり、
正孔の移動度μと該正孔の寿命τの積であるμτ積(h)が5.0×10-5cm2/V以上であることを特徴とするCdTe系化合物半導体基板。 - 前記CdTe系化合物半導体に含まれるボロン(B)濃度及び窒素(N)濃度の和が30atom ppb以下であることを特徴とする請求項1に記載のCdTe系化合物半導体基板。
- 請求項1または2に記載のCdTe系化合物半導体基板を用いて作製されたことを特徴とするCdTe系半導体直接検出型放射線検出素子。
- 前記CdTe系化合物半導体の対向する面には、InまたはPtからなる電極が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の半導体直接検出型放射線検出素子。
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JP2019163357A Withdrawn JP2019212928A (ja) | 2019-09-06 | 2019-09-06 | CdTe系化合物半導体及びそれを用いた放射線検出素子 |
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JP (1) | JP2019212928A (ja) |
-
2019
- 2019-09-06 JP JP2019163357A patent/JP2019212928A/ja not_active Withdrawn
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Legal Events
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A131 | Notification of reasons for refusal |
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