JP2019211378A - バイオマスに含まれるセシウム化合物の不溶化方法、及びそのためのシステム - Google Patents

バイオマスに含まれるセシウム化合物の不溶化方法、及びそのためのシステム Download PDF

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正和 中西
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Abstract

【課題】放射性セシウムにより汚染されたバイオマス廃棄物を減容化するとともに、放射性セシウムが環境中に漏出しないように固定化する、新たな方法を提供すること。【解決手段】放射性セシウムに汚染されたバイオマスを、SiO2の存在下において、空気雰囲気中、酸素雰囲気中、水蒸気雰囲気中、または酸素+水蒸気雰囲気中で、10〜30℃/分の昇温速度で、Cs成分の揮発温度以下の温度から少なくとも700℃以上の温度まで加熱することにより、減容化しつつ、放射性セシウムを水に不溶なセシウムケイ酸塩として、固体残渣中に固定化する。また、バイオマスの加熱に用いる炉の内壁をSiO2で構成することにより、一部揮発したセシウムを当該内壁中に固定化する。【選択図】図3

Description

本発明は、放射性セシウムに汚染されたバイオマスを、燃焼工程またはガス化工程により、エネルギー利用または化学原料利用すると共に減容化し、同時に、放射性セシウムを水に不溶のセシウムケイ酸塩として安定貯蔵する方法と、そのためのシステムに関する。
東日本大震災の際の原子力発電所の事故により、放射性セシウムが大気中に飛散したことは記憶に新しい。大気中に飛散した放射性セシウムは、周囲の環境に拡散・沈降し、その一部は、このようにして汚染された土壌において生育する草木などのバイオマスに蓄積されることとなる。このようなバイオマスに由来する、放射性セシウムに汚染された草本系バイオマス廃棄物または木質系バイオマス廃棄物は、現状においては、圧密ペレット化または炭化されたのち保管され、または燃焼処理されている。
バイオマスをペレット化または炭化しても、体積は1/2から1/3程度にしかならないので、保管に広大なスペースを必要とする。
さらに、セシウムは反応しやすい金属なので、常温で酸化セシウムまたは水酸化セシウム、またはセシウム塩(塩化セシウム、炭酸セシウム等)の形態をとる。酸化セシウムも水酸化セシウムも、セシウム塩も水に溶けやすい。
このため、雨水等により、酸化セシウムまたは水酸化セシウム、またはセシウム塩が、ペレットまたは炭化物から溶け出す等の問題がある。
一方、バイオマスは、低温で燃焼するとダイオキシンが発生するため、850℃以上で燃焼するように法令で定められている。
セシウム揮発温度は671℃、酸化セシウム揮発温度は490℃、塩化セシウム揮発温度は645℃である。水酸化セシウム揮発温度は990℃であるが、空気中で加熱すると比較的低温で酸化セシウムに変化する。炭酸セシウムは610℃で酸化セシウムと二酸化炭素に分解する。
したがって、放射性セシウムに汚染されたバイオマスを850℃以上で燃焼すると、バイオマスを汚染した放射性の酸化セシウムまたは水酸化セシウム、またはセシウム塩が揮発することとなる。
バイオマスの燃焼によるセシウムの飛散を防ぐため、燃焼ガスを冷却してフィルタ等を通し、燃焼時に揮発した酸化セシウムまたはセシウム塩を、冷却して、フィルタ等で捕集することが、従来行われてきた。
この方法によれば、飛灰もフィルタ等で捕集される。したがって、飛灰からのセシウム塩分離や、分離したセシウム塩貯蔵等の課題がある。
また、この方法によれば、燃焼終了後、焼却炉内の主灰を回収する。この主灰からのセシウム塩分離や、分離したセシウム塩貯蔵等の課題がある。
渡邊優香、SaffarzadehAmirhomayoun、東條安匡、島岡隆行、「都市ごみ焼却残渣中セシウムの存在形態の同定」SPring-8/SACLA利用研究成果集、2(1)、89-93ページ、2014年 崔原栄、伊藤隆政、熊谷安造、須田俊之、野瀬裕之、「焼却過程における草本系廃棄物中のセシウムの挙動」IHI技報、53(1)巻、29-32ページ、2013年
本発明は、放射性セシウムにより汚染されたバイオマス廃棄物を減容化するとともに、放射性セシウムが環境中に漏出しないように固定化する、新たな方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、SiとKを多量に含むバイオマスをガス化すると、条件によって、水溶性で軟らかい粘着性固体残渣が副生する場合と、水に不溶で硬い固体残渣が副生する場合があること、そして、水に不溶で硬い固体残渣はSiとKとOからなるカリウムケイ酸塩を主成分とするものであることを見出した。
本発明者らは、これに基づき、Kと同じアルカリ金属であるセシウムについても、上記と同じ事象が起こることを期待して、セシウムを添加したバイオマスを各種雰囲気中で加熱処理することによって、セシウムを固体残渣中に固定化することを試み、その結果、以下の知見を得た。
(1)Siを多量に含むバイオマスにCsを添加し、これを、酸素雰囲気中、水蒸気雰囲気中、または酸素+水蒸気雰囲気中で、20℃/分程度の昇温速度で、バイオマスに含まれるCs成分の揮発温度以下の温度から加熱すると、水に不溶なセシウムケイ酸塩が生成され、加熱温度が900℃になっても、Cs成分は固体残渣中に固定化され、残存する。
上記昇温速度は、10〜30℃/分であればよく、また、昇温を開始する温度としては、酸化セシウムの揮発温度が490℃であることから、例えば常温〜400℃程度の温度が適当である。
(2)上記バイオマスに、Csとともに、さらにSiOを添加すると、水に不溶なセシウムケイ酸塩生成量が増加する。
(3)酸素雰囲気中で加熱した場合と比較し、酸素+水蒸気雰囲気中で加熱すると、水に不溶なセシウムケイ酸塩生成量が増加する。また、水蒸気雰囲気中で加熱した場合と比較し、酸素+水蒸気雰囲気中で加熱すると、水に不溶なセシウムケイ酸塩生成量が増加する。水に不溶なセシウムケイ酸塩生成量を増加させるためには、加熱時の雰囲気は、酸素+水蒸気雰囲気が望ましい。
これらの知見によれば、放射性セシウムに汚染されたバイオマスを、SiOの存在下、上記適切な雰囲気中で上記適切な加熱により燃焼処理またはガス化処理することで、バイオマスをエネルギー源としてまたは化学原料として利用すると共に減容化することができ、同時に、放射性セシウムを水に不溶な長期安定貯蔵に適したセシウムケイ酸塩として固定化することができ、これにより、従来のバイオマスの、ペレット化、炭化、または燃焼による処理に伴う課題を解決することができる。
本発明者らは、さらに、バイオマスの加熱処理に用いる炉の内壁をSiO(石英ガラス)で構成することにより、バイオマスから一部揮発したセシウム成分を当該内壁中にセシウムケイ酸塩として有効に固定化することができることを見出した。
これらの知見に基づき、本発明者らは、具体的な反応装置を用いて、放射性セシウムに汚染されたバイオマスを、上記適切な雰囲気中で上記適切な加熱により燃焼処理またはガス化処理するための具体的手法について、検討し、本発明を完成した。
本出願は、具体的には、以下の発明を提供する。
〈1〉放射性セシウムに汚染されたバイオマスを、空気雰囲気中、酸素雰囲気中、水蒸気雰囲気中、または酸素+水蒸気雰囲気中で、10〜30℃/分の昇温速度で、バイオマスに含まれるCs成分の揮発温度以下の温度から少なくとも700℃以上の温度まで加熱することにより、バイオマスを減容化しつつ、バイオマスに含まれる放射性セシウムを水に不溶なセシウムケイ酸塩として、固定化する方法。
〈2〉常温〜400℃の温度から加熱する、〈1〉に記載の方法。
〈3〉水蒸気、又は酸素+水蒸気雰囲気中で700〜900℃以上の温度まで加熱し、バイオマスをガス化することにより減容化する、〈1〉又は〈2〉に記載の方法。
〈4〉空気、又は酸素雰囲気中で700〜900℃以上の温度まで加熱し、バイオマスをガス化することにより減容化する、〈1〉又は〈2〉に記載の方法。
〈5〉空気、又は酸素雰囲気中で850〜900℃以上の温度まで加熱し、バイオマスを燃焼することにより減容化する、〈1〉又は〈2〉に記載の方法。
〈6〉放射性セシウムに汚染されたバイオマスに対しさらにSiOを添加する、〈1〉〜〈5〉に記載の方法。
〈7〉放射性セシウムに汚染されたバイオマスの加熱処理を内壁がSiO(石英ガラス)で構成された炉中で行う、〈1〉〜〈6〉に記載の方法。
〈8〉一方の端に原料供給口を有し、他方の端に固体残渣排出口を有し、長さ方向を軸として回転可能とした円筒型ガス化炉であって、内部にSiO(石英ガラス)管が同軸方向に着脱自在に内挿されているガス化炉を、原料供給口側から固体残渣排出口側に向けて下方に傾斜させてなる、ロータリーキルン型ガス化炉を用い、
前記原料供給口から、放射性セシウムに汚染されたバイオマスを連続的に供給し、一方、前記固体残渣排出口側から、酸素+水蒸気を連続的に供給することで、前記円筒型ガス炉内において、前記バイオマスと酸素+水蒸気を接触させて、バイオマスをガス化させ、生成ガスを前記原料供給口側から取り出すとともに、ガス化により副生する固体残渣を前記固体残渣排出口から取り出す、バイオマスのガス化方法において、
前記円筒型ガス化炉に供給する酸素+水蒸気における酸素量を調整することにより、前記固体残渣排出口付近の温度を700〜900℃以上の温度に制御するとともに、前記円筒型ガス化炉に供給する酸素+水蒸気における水蒸気量を調整すること、及び前記円筒型ガス化炉外部にスパイラル状に取り付けた熱回収用配管に流す空気量又はオイル量を調整することにより前記円筒型ガス化炉から回収する熱量を調整することにより、前記原料供給口付近の温度をバイオマスに含まれるCs成分の揮発温度以下の温度に制御し、さらに前記円筒型ガス炉の回転数を調整することにより、前記バイオマスの昇温速度を10〜30℃/分に制御することを特徴とし、
これにより前記放射性セシウムを前記固体残渣、及び前記SiO(石英ガラス)管の管壁中に固定化することを特徴とする、バイオマスのガス化方法。
〈9〉一方の端に原料供給口を有し、他方の端に固体残渣排出口を有し、長さ方向を軸として回転可能とした円筒型ガス化炉であって、内部にSiO(石英ガラス)管が同軸方向に着脱自在に内挿されているガス化炉を、原料供給口側から固体残渣排出口側に向けて下方に傾斜させてなる、ロータリーキルン型ガス化炉を用い、
前記原料供給口から、放射性セシウムに汚染されたバイオマスを連続的に供給し、一方、前記固体残渣排出口側から、空気又は酸素を連続的に供給することで、前記円筒型ガス炉内において、前記バイオマスと空気又は酸素を接触させて、バイオマスをガス化させ、生成ガスを前記原料供給口側から取り出すとともに、ガス化により副生する固体残渣を前記固体残渣排出口から取り出す、バイオマスのガス化方法において、
前記円筒型ガス化炉に供給する空気又は酸素量を調整することにより、前記固体残渣排出口付近の温度を700〜900℃以上の温度に制御するとともに、前記円筒型ガス化炉外部にスパイラル状に取り付けた熱回収用配管に流す空気量又はオイル量を調整することにより前記円筒型ガス化炉から回収する熱量を調整することにより、前記原料供給口付近の温度をバイオマスに含まれるCs成分の揮発温度以下の温度に制御し、さらに前記円筒型ガス炉の回転数を調整することにより、前記バイオマスの昇温速度を10〜30℃/分に制御することを特徴とし、
これにより前記放射性セシウムを前記固体残渣、及び前記SiO(石英ガラス)管の管壁中に固定化することを特徴とする、バイオマスのガス化方法。
〈10〉一方の端に原料供給口を有し、他方の端に固体残渣排出口を有し、長さ方向を軸として回転可能とした円筒型燃焼炉を、原料供給口側から固体残渣排出口側に向けて下方に傾斜させてなる、ロータリーキルン型燃焼炉であって、内部にSiO(石英ガラス)管が同軸方向に着脱自在に内挿されている燃焼炉を用い、
前記原料供給口から、放射性セシウムに汚染されたバイオマスを連続的に供給し、一方、前記固体残渣排出口側から、空気又は酸素を連続的に供給することで、前記円筒型燃焼炉内において、前記バイオマスと空気又は酸素を接触させて、バイオマスを燃焼させ、燃焼により生成する排ガスを前記原料供給口側から取り出すとともに、燃焼により副生する固体残渣を前記固体残渣排出口から取り出す、バイオマスの燃焼方法において、
前記円筒型燃焼炉に供給する空気又は酸素量を調整することにより、前記固体残渣排出口付近の温度を850〜900℃以上の温度に制御するとともに、前記円筒型燃焼炉外部にスパイラル状に取り付けた熱回収用配管に流す空気量又はオイル量を調整することにより前記円筒型燃焼炉から回収する熱量を調整することにより、前記原料供給口付近の温度をバイオマスに含まれるCs成分の揮発温度以下の温度に制御し、さらに前記円筒型燃焼炉の回転数を調整することにより、前記バイオマスの昇温速度を10〜30℃/分に制御することを特徴とし、
これにより前記放射性セシウムを前記固体残渣、及び前記SiO(石英ガラス)管の管壁中に固定化することを特徴とする、バイオマスの燃焼方法。
本発明によれば、放射性セシウム汚染バイオマス廃棄物を、10℃〜30℃/分、例えば20℃/分の昇温速度で、バイオマスに含まれるCs成分の揮発温度以下の温度、例えば常温〜400℃の温度から700℃以上の温度、例えば900℃に昇温してガス化処理または燃焼処理することで、バイオマス廃棄物をエネルギー利用または化学原料利用すると共に減容化することができ、同時に、その固体残渣中、若しくは、その固体残渣およびバイオマスのガス化又は燃焼に用いた炉中に配置したSiO(石英ガラス)管壁中に水に不溶のセシウムケイ酸塩を生成させて、放射性セシウムを安定に貯蔵することができる。
電気炉加熱式SiO(石英ガラス)管を用いて、CsClを含浸したイナワラを乗せた高純度アルミナボートをヘリウム+酸素+水蒸気雰囲気で高温熱処理し、固体残渣に残ったCs成分、SiOと反応したCs成分、アルミナボートと反応したCs成分、揮発したCs成分を測定するための実験装置。 電気炉加熱式SiO(石英ガラス)管を用いて、CsClを含浸したイナワラを乗せた高純度アルミナボードをヘリウム+酸素雰囲気で高温熱処理し、固体残渣に残ったCs成分、SiOと反応したCs成分、アルミナボートと反応したCs成分、揮発したCs成分を測定するための実験装置。 放射性セシウム汚染バイオマスから、水に不溶なセシウムケイ酸塩を生成して減容化し、生成ガスをエネルギーまたは化成品原料に利用するための、内部にSiO(石英ガラス)管を備えた円筒形ガス化炉を有するロータリーキルン型ガス化システム。 放射性セシウム汚染バイオマスから、水に不溶なセシウムケイ酸塩を生成して減容化し、燃焼熱を利用するための、内部にSiO(石英ガラス)管を備えた円筒形燃焼炉を有するロータリーキルン型燃焼システム。
バイオマスを、酸素雰囲気中、水蒸気雰囲気中、または酸素+水蒸気雰囲気中で、完全燃焼に必要な酸素量よりも少ない酸素量を供給する不完全燃焼状態で、700℃程度以上に加熱すると、バイオマス中のCHO成分と酸素と水蒸気からCO、CO、CH、Hを主成分とするガスが生成される。同時に、上記CHO成分から常温で液体の炭化水素(タール)と、バイオマス中の灰分(Si、K、Fe、Ca、Al、Mg等)から固体残渣が副生される。
この反応をガス化反応と呼ぶ。
バイオマスのガス化方式としては、固定床型ガス化、ロータリーキルン型ガス化、噴流床型ガス化、及び流動床型ガス化等の方式が知られている。
固定床型ガス化とロータリーキルン型ガス化では、通常、空気がガス化剤として用いられている。空気をガス化剤として用いた場合は、生成ガス組成制御が困難で、生成ガスは窒素を含む。この場合、生成ガスは主に発電用の燃料ガスとして利用される。
噴流床型ガス化または流動床型ガス化では、通常、酸素、水蒸気、または酸素+水蒸気がガス化剤として用いられている。これらをガス化剤として用いた場合は、生成ガス組成制御が容易で、生成ガスは窒素を含まない。生成ガスは発電用の燃料ガス以外に、触媒を用いた液体燃料合成等の原料ガスとしても利用される。
本発明者らは、長年にわたり噴流床型ガス化と、生成ガスのエネルギー利用、及び、触媒を用いた、生成ガスからの液体燃料合成等を研究してきた。
本発明者らは、その研究の過程で、例えば油ヤシなどのSiとKを多量に含むバイオマスをガス化すると、条件によって、水溶性で軟らかい粘着性固体残渣が副生する場合と、水に不溶で硬い固体残渣が副生する場合があることを見出した。
水に不溶で硬い固体残渣はSiとKとOを主成分とするカリウムケイ酸塩であった。
カリウムとセシウムは同じアルカリ金属なので、同様の性質を有する。
したがって、放射性セシウムに汚染されたバイオマスを適切な条件でガス化することにより、生成ガスをエネルギー源や化成品の原料として利用でき、同時に大幅に減容化できるとともに、SiとCsとOから、水に不溶なセシウムケイ酸塩を生成させることで、放射性セシウムの長期安定な貯蔵が可能となることが期待される。
このようにして形成されるセシウムケイ酸塩の分子式はCsO・nSiOで、ケイ酸塩の一部がセシウム酸化物で置き換えられた構造である。ここでnは任意の整数で、SiOがCsOより多いことを表す。
本発明者らは、以下の実施例により、このようなことが可能であること、そして、そのための適切な条件について検証した。
Siを多量に含むバイオマスにセシウムを添加し、ガス化条件で加熱処理または燃焼条件で加熱処理して、副生する固体残渣の性状を系統的に調べた。
熱天秤装置を用いた実験
実験は、特殊な熱天秤装置を用いて行った。この熱天秤装置を用いると、He雰囲気中、He+O雰囲気中、He+HO雰囲気中、またはHe+O+HO雰囲気中で、常温から1,300℃まで、専用アルミナ容器に充填した試料を加熱しながら、試料の重量変化を測定できる。
Si含有量が多いイナワラを原料バイオマスとして用いた。イナワラのCHO分析結果を表1に示し、また、イナワラの灰分分析結果を表2に示す。
Figure 2019211378
Figure 2019211378
実施例1.バイオマスのガス化における水不溶Cs化合物生成量に対するガス化処理温度の影響
放射能汚染地域で採取されたバイオマスに含まれる放射性セシウム濃度は数ppm程度と低く、分析が困難である。そのため、分析を容易にするために、イナワラに非放射性塩化セシウム(CsCl)を5%含浸した試料をセシウム汚染のモデル試料として用いた。このモデル試料中に含まれるSi含有率は、イナワラ95%にイナワラ中のSi含有率4.64%を乗じて得た4.4%である。
イナワラに非放射性CsClを5%含浸した試料を、He+O雰囲気中で、昇温速度20℃/分で、常温から始めて500℃、550℃、600℃、700℃、または900℃迄加熱した。副生した固体残渣を、常温まで冷却した後、24時間水に浸し、静置した。上澄液を捨てた後、更に純水で残渣を洗浄してから乾燥した。この処理により水溶性のセシウム化合物を溶出除去した。以後、この処理をCs溶出処理と記す。
これらの固体残渣を、固体残渣1、固体残渣2、固体残渣3、固体残渣4、固体残渣5と記す。
XPS(X線電子分光)を用いて、固体残渣1〜固体残渣5に含まれるCsから発生するX線ピークとSiとから発生するX線ピークを測定した。結果を表3に示す。
Figure 2019211378
表3に示すように、固体残渣1〜5全てが、水に不溶なCs化合物を含む。
また、バイオマスに含まれるSiは水に溶けず、上記加熱処理後、すべて固体残渣中に残存すると考えられることから、固体残渣に含まれるCsから発生するX線ピークとSiから発生するX線ピークの比(Cs/Si)は、固体残渣に含まれるCs量に比例することとなる。
このようにして求められる、水に不溶なCs化合物中のCs量は、600℃以下では温度にほとんど依存せず、ほぼ一定であるが、700℃以上で倍増し、900℃で最大となった。
実施例2.バイオマスのガス化における水不溶Cs化合物生成量に対するバイオマスへの各種灰分成分添加の影響
セシウムケイ酸塩はSiOとCsClから生成され、前記のようにケイ酸塩の一部がセシウム酸化物で置き換えられた構造である。そのため、バイオマスに含まれるSiO量が少ないと、Csの一部がCsClのまま残り、セシウムケイ酸塩にならない。
そのような場合、バイオマスに対しSiOを添加することは、セシウムケイ酸塩生成量増加に有効であると考えられる。これを検証するため、以下の実験を行った。
硅砂は安価で、SiOを多量に含むので、以下の実験では、硅砂を添加した。
硅砂の灰分分析結果を、表4に示す。
Figure 2019211378
イナワラに非放射性CsClを含浸し、硅砂を混合した。混合試料の混合比は、イナワラ:70%、CsCl:5%、硅砂:25%とした。この混合試料中に含まれるSi含有率は、イナワラ70%にイナワラ中のSi含有率4.64%を乗じて得た値と、硅砂25%に硅砂中のSi含有率41.0%を乗じて得た値を、足し合わせて得た13.5%である。
この混合試料を、He+O雰囲気中で、昇温速度20℃/分で、常温から始めて900℃迄加熱した。副生した固体残渣を、常温まで冷却した後、Cs溶出処理を行なった。この固体残渣を固体残渣6と記す。
また、イナワラと硅砂は、Si以外に、上述の表2及び4に示す、Fe、Al、Ca等の各種の灰分も含む。バイオマスのガス化による水不溶Cs化合物生成量に対し、これらの灰分が与える影響を調べるため、以下の実験も同時に行った。
イナワラに非放射性CsClを含浸し、硅砂とFeO(OH)を混合した。混合試料の混合比は、イナワラ:70%、CsCl:5%、硅砂:20%、FeO(OH):5%とした。この混合試料中に含まれるSi含有率は、イナワラ70%にイナワラ中のSi含有率4.64%を乗じて得た値と、硅砂20%に硅砂中のSi含有率41.0%を乗じて得た値を、足し合わせて得た11.7%である。
この混合試料を、He+O雰囲気中で、昇温速度20℃/分で、常温から始めて900℃迄加熱した。副生した固体残渣を、常温まで冷却した後、Cs溶出処理を行なった。この固体残渣を固体残渣7と記す。
イナワラに非放射性CsClを含浸し、硅砂とAl(OH)を混合した。混合試料の混合比は、イナワラ:70%、CsCl:5%、硅砂:20%、Al(OH):5%とした。この混合試料中に含まれるSi含有率は、イナワラ70%にイナワラ中のSi含有率4.64%を乗じて得た値と、硅砂20%に硅砂中のSi含有率41.0%を乗じて得た値を、足し合わせて得た11.7%である。
この混合試料を、He+O雰囲気中で、昇温速度20℃/分で、常温から始めて900℃迄加熱した。副生した固体残渣を、常温まで冷却した後、Cs溶出処理を行なった。この固体残渣を固体残渣8と記す。
イナワラに非放射性CsClを含浸し、硅砂とCaCOを混合した。混合試料の混合比は、イナワラ:70%、CsCl:5%、硅砂:20%、CaCO:5%とした。この混合試料中に含まれるSi含有率は、イナワラ70%にイナワラ中のSi含有率4.64%を乗じて得た値と、硅砂20%に硅砂中のSi含有率41.0%を乗じて得た値を、足し合わせて得た11.7%である。
この混合試料を、He+O雰囲気中で、昇温速度20℃/分で、常温から始めて900℃迄加熱した。副生した固体残渣を、常温まで冷却した後、Cs溶出処理を行なった。この固体残渣を固体残渣9と記す。
イナワラに非放射性CsClを含浸し、硅砂とMgCO(OH)を混合した。混合試料の混合比は、イナワラ:70%、CsCl:5%、硅砂:20%、MgCO(OH):5%とした。この混合試料中に含まれるSi含有率は、イナワラ70%にイナワラ中のSi含有率4.64%を乗じて得た値と、硅砂20%に硅砂中のSi含有率41.0%を乗じて得た値を、足し合わせて得た11.7%である。
この混合試料を、He+O雰囲気中で、昇温速度20℃/分で、常温から始めて900℃迄加熱した。副生した固体残渣を、常温まで冷却した後、Cs溶出処理を行なった。この固体残渣を固体残渣10と記す。
XPS(X線電子分光)を用いて、固体残渣6〜10に含まれるCsから発生するX線ピークとSiとから発生するX線ピークをそれぞれ測定した。結果を表5に示す。
Figure 2019211378
表5の最下行の「補正後」欄には、固体残渣6〜10についてそれぞれ得られたCsとSiのX線ピークの比Cs/Siに対し、表5における原料中のSiの含有率13.5%または11.7%を乗じて、表3における原料(イナワラ+CsCl)中のSiの含有率4.4%で割った値を表示している。これにより、表5の各試料において珪砂を添加したことによるSi含有量の増加に基づいて表3のSiの含有量4.4%におけるCs/Si値と比べて減少した表5におけるCs/Si値が補正されたことによって、表5の「補正後」欄の数値は、固体残渣中に含まれるCsの量を比較する数値として、表3におけるCs/Si値と直接対比可能なものとなる。
表5の固体残渣6の「補正後」の値は、表3の固体残渣5のCs/Si値と比べて2倍以上増大しており、このことから、イナワラにおいては、バイオマスが有するSi成分に加えて、さらにSi成分を添加することが、水に不溶なセシウムケイ酸塩生成量増加に有効であることが確認される。
このことは、イナワラ等の草本系バイオマスに比べSi含有率が低い木質系バイオマスにおいては、硅砂等によるSiO成分の添加がさらに有効であることを示している。
表5の固体残渣7の「補正後」の値は、固体残渣6の値をさらに上回り、表3の固体残渣5のCs/Si値の2.5倍に達しており、FeO(OH)の添加は、水に不溶なセシウムケイ酸塩生成量増加に有効であることを示している。
一方、表5のAl、Ca、またはMgを添加した際に得られた固体残渣8〜10の「補正後」の値は、固体残渣6の値を下回っており、特にMgを添加した場合は、固体残渣中にCsの存在を示すX線ピークは認められなかった。
これらのことは、Al、Ca、またはMgの添加は、水に不溶なセシウムケイ酸塩生成量増加に有効ではないことを示している。
非特許文献1によると、Al添加は、水に不溶なセシウムケイ酸塩生成量増加に有効であるとされているが、今回の実験では、このような効果は認められなかった。
実施例3.バイオマスのガス化における水不溶Cs化合物生成量に対するガス化雰囲気の影響
イナワラに非放射性CsClを含浸し、硅砂とFeO(OH)を混合した。混合試料の混合比は、イナワラ:70%、CsCl:5%、硅砂:20%、FeO(OH):5%とした。この混合試料を、He雰囲気中、He+HO雰囲気中、またはHe+O+HO雰囲気中で、昇温速度20℃/分で、常温から始めて900℃迄加熱した。副生した固体残渣を、常温まで冷却した後、Cs溶出処理を行なった。これらの固体残渣を固体残渣11、固体残渣12、固体残渣13と記す。
XPS(X線電子分光)を用いて、固体残渣11〜13に含まれるCsから発生するX線ピークとSiとから発生するX線ピークを測定した。結果を、表5における固体残渣7の結果と併せて表6に示す。
Figure 2019211378
表6の各固体残渣の「補正後」の値から、O雰囲気で、He雰囲気よりも、水に不溶なセシウムケイ酸塩生成量が増加し、HO雰囲気では、O雰囲気よりも増加し、HO+O雰囲気では、更に増加したことが見て取れる。
実施例4.バイオマスのガス化における水不溶Cs化合物生成量に対する昇温速度の影響
非特許文献2によれば、流動床に硅砂を使った流動床燃焼装置により、空気を流しながら塩化セシウム含有バイオマスを850℃で燃焼すると、排気ガスと一緒に排出される飛灰に付着したCs量は、流動層中に残る主灰に含まれるCs量の約10倍になった。
これは、流動床燃焼装置を用いてセシウム含有バイオマスを燃焼する場合、バイオマスは通常、燃焼温度850℃まで数秒程度の短時間で昇温されるため、バイオマスに含まれる、揮発温度が850℃より低い酸化セシウムやセシウム塩などのCs成分がそのままの形で揮発し、飛灰に付着して飛散することにより、主灰に残るCs量が少なくなったものと考えられる。
一方、固体残渣1〜13のXPS測定結果が示すように、20℃/分という遅い速度でセシウム含有バイオマスを常温から昇温すると、水に不溶なセシウムケイ酸塩が生成され、これにより、900℃程度に昇温されても、Csの揮発が抑制されるものと考えられる。
このことから、セシウム含有バイオマスを、バイオマスに含まれるセシウム化合物の揮発温度より低い温度、例えば、酸化セシウムの揮発温度490℃より低い温度、あるいはセシウムの揮発温度671℃より低い温度から、20℃/分程度の遅い速度で昇温することによって、バイオマスからCsが揮発することを抑制し、Csを水に不溶なセシウムケイ酸塩の形で固体残渣中に残存させることができると考えられる。
実施例5.電気炉加熱式SiO (石英ガラス)管を用いたイナワラ+CsCl高温熱処理と固体残渣、SiO (石英ガラス)管、アルミナボート、及び排出ガス中の各セシウム量測定
実験に用いた装置は以下の構造と性能を有する。ヘリウムガスと酸素ガスを混合し、SiO(石英ガラス)管へ直接供給し、または水をくぐらせて水蒸気を含ませた後SiO(石英ガラス)管へ供給する。SiO(石英ガラス)管を電気炉で加熱する。SiO(石英ガラス)管から排出されるガスに含まれる水溶性Cs化合物を回収するため水をくぐらせた後、ガスを回収する。この装置を電気炉加熱式SiO管と記す。
非放射性CsClを含浸したイナワラを高純度アルミナボートに入れ、高純度アルミナボートごと電気炉加熱式SiO管に挿入して、He+O+HOまたはHe+Oを流しながら、電気炉を用いて昇温速度20℃/分で900℃まで加熱し、その後常温まで冷却した。
加熱中にイナワラ中のSiOとCsClが反応してセシウムケイ酸塩が生成され、同時にイナワラ中の有機分は酸素+水蒸気または酸素と反応して固体残渣が残る。固体残渣中のセシウムケイ酸塩を分画Aと記す。電気炉加熱式SiO管が常温に冷却した後、分画Aを回収し、ICP(誘導結合プラズマ)分析により分画Aに含まれるCs量を測定した。
加熱中にイナワラからCsClの一部が揮発し、揮発したCsClの一部がSiO管のSiOと反応してセシウムケイ酸塩が生成される。このセシウムケイ酸塩を分画Bと記す。電気炉加熱式SiO管が常温に冷却した後、SiO管をフッ酸処理して分画Bを回収し、ICP分析により分画Bに含まれるCs量を測定した。
加熱中に高純度アルミナボートに含まれる微量のSiOとCsClが反応してセシウムケイ酸塩が生成される。このセシウムケイ酸塩を分画Cと記す。電気炉加熱式SiO管が常温に冷却した後、高純度アルミナボートをフッ酸処理して分画Cを回収し、ICP分析により分画Cに含まれるCs量を測定した。
加熱中にイナワラからCsClの一部が揮発し、ガスと一緒にSiO管から排出される。SiO管から排出されたガスを水中でバブリングして、CsClを回収した。このCsClを分画Dと記す。電気炉加熱式SiO管が常温に冷却した後、ICP分析により分画Dに含まれるCs量を測定した。
電気炉加熱式SiO管を用いて、He+O+HOまたはHe+Oを流しながら、非放射性Csを含浸したイナワラを加熱処理し、ICP分析により分画A〜Dに含まれるCs量を測定する実験を、電気炉加熱式SiO管を用いたCs回収実験と記す。
イナワラに非放射性CsClを5%含浸した試料2gを用いて、He+Oを流しながら電気炉加熱式SiO管を用いたCs回収実験を行った。この実験を条件1と記す。
前記試料を別途ICP分析して、前記試料2gに含まれるCs量を測定した。
前記試料2gに含まれるCsに対する分画A〜Dに含まれるCs重量率を、表7の条件1の欄に示す。合計が100%にならないのは測定誤差の影響である。
イナワラに非放射性CsClを1%含浸した試料2gを用いて、He+Oを流しながら電気炉加熱式SiO管を用いたCs回収実験を行った。この実験を条件2と記す。
前記試料を別途ICP分析して、前記試料2gに含まれるCs量を測定した。
前記試料2gに含まれるCsに対する分画A〜Dに含まれるCs重量率を、表7の条件2の欄に示す。合計が100%にならないのは測定誤差の影響である。
イナワラに非放射性CsClを1%含浸した試料2gを用いて、He+O+HOを流しながら電気炉加熱式SiO管を用いたCs回収実験を行った。この実験を条件3と記す。
前記試料を別途ICP分析して、前記試料2gに含まれるCs量を測定した。
前記試料2gに含まれるCsに対する分画A〜Dに含まれるCs重量率を、表7の条件3の欄に示す。合計が100%にならないのは測定誤差の影響である。
イナワラに非放射性CsClを含浸し、硅砂を混合した。混合試料の混合比は、イナワラ:94%、CsCl:1%、硅砂:5%とした。この混合試料2gを用いて、He+Oを流しながら電気炉加熱式SiO管を用いたCs回収実験を行った。この実験を条件4と記す。
前記混合試料を別途ICP分析して、前記混合試料2gに含まれるCs量を測定した。
前記混合試料2gに含まれるCsに対する分画A〜Dに含まれるCs重量率を、表7の条件4の欄に示す。合計が100%にならないのは測定誤差の影響である。
Figure 2019211378
条件1〜4全てで固体残渣が、水に不溶なセシウムケイ酸塩を含む。20℃/分という遅い速度でセシウム含有バイオマスを常温から昇温すると、水に不溶なセシウムケイ酸塩が生成される。これにより、900℃程度に昇温されても、Csの揮発が抑制される。
この結果は、熱天秤装置を用いた実験結果(表3、表5、表6)と一致した。
固体残渣に含まれるセシウムケイ酸塩量は条件3の場合に最も多く、He+O+HO雰囲気は、固体残渣中のセシウムケイ酸塩生成に有効である。
この結果は、熱天秤装置を用いた実験結果(表6)と一致した。
固体残渣に残らなかったCsClは揮発し、揮発したCsClの大部分がSiO管及び高純度アルミナボートに含まれるSiOと反応して、セシウムケイ酸塩が生成された。
揮発したCsClの一部はSiO管から外部に排出されたが、条件1〜4全ての場合でSiO管から外部へ排出されたCs重量率は1%程度であった。
SiOの追加は、水に不溶なセシウムケイ酸塩の生成と、外部へ排出されるCs量の抑制に効果的である。
条件2と条件4の比較から、固体残渣中のセシウムケイ酸塩生成量及びCs揮発量に対し、珪砂添加はほとんど効果がないことが判った。この結果は、熱天秤装置を用いた実験(表3、表5)と異なる。
熱天秤装置を用いた実験では、専用アルミナ容器一杯に試料を充填するので、揮発したCsClはアルミナ容器内に滞留して珪砂に含まれるSiOと反応して、水に不溶なセシウムケイ酸塩が生成されると考えられる。
電気炉加熱式SiO管を用いたCs回収実験では、試料を入れるアルミナボートは浅底のボート形状なので、揮発したCsClの大部分がアルミナボート内に滞留しないため、珪砂に含まれるSiOと反応するCsClは少ないと考えられる。
実施例6.水に不溶なセシウムケイ酸塩を生成するための、ガス化工程または燃焼工程の条件についての検討
以上の実験結果を踏まえて、放射性セシウムにより汚染されたバイオマスをガス化ないし燃焼することで有効利用しつつ減容化し、かつ、放射性セシウムを水に不溶なセシウムケイ酸塩の形で固定化するための、ガス化工程または燃焼工程の条件について検討する。
上述の実験により得られた知見をまとめると、以下のとおりである。
(1)Csを添加したバイオマスを、酸素+水蒸気雰囲気中、水蒸気雰囲気中、または酸素雰囲気中で、20℃/分程度の昇温速度で、バイオマスに含まれるCs成分の揮発温度より低い、例えば常温〜400℃程度の温度から加熱すると、水に不溶なセシウムケイ酸塩が生成され、900℃程度まで加熱しても固体残渣中に固定化され残存する。
(2)SiOを、Csを添加したバイオマスに添加すると、水に不溶なセシウムケイ酸塩生成量が増加する。半密閉容器の場合には、Csを添加したバイオマスにSiOを直接添加すると、固体残渣に含まれる、水に不溶なセシウムケイ酸塩生成量が増加する。ボート状等の開放容器の場合には、SiO管により開放容器を覆うと、揮発したCs成分がSiOと反応して、水に不溶なセシウムケイ酸塩が生成される。
(3)酸素雰囲気中で加熱した場合と比較し、酸素+水蒸気雰囲気中で加熱すると、固体残渣に含まれる、水に不溶なセシウムケイ酸塩生成量が増加する。水蒸気雰囲気中で加熱した場合と比較し、酸素+水蒸気雰囲気で加熱すると、水に不溶なセシウムケイ酸塩生成量が増加する。このことから、加熱時の雰囲気は、酸素+水蒸気雰囲気が望ましい。
なお、上述の実験では、SiOを添加するために、SiOを主成分とする硅砂または石英ガラスを用いたが、同じくSiOを主成分とするシリカゲルを、SiOの添加に用いても良い。
このようにして生成したセシウムケイ酸塩を含むバイオマスを、さらに従来知られているバイオマスのガス化ないし燃焼工程により処理することにより、以下のような結果が得られるものと考えられる。
上述のセシウムケイ酸塩の生成工程により得られたセシウムケイ酸塩を含むバイオマスを、引き続き酸素+水蒸気雰囲気中で、700〜900℃以上に保持すると、バイオマス中のCとHとOが、酸素と水蒸気と反応し、CO、CO、CH、Hを主成分とするガスが生成される(このガス生成工程をガス化工程と言う)。
この生成ガスは、さらに燃焼することによりエネルギー源として、また、触媒を用いた液体燃料合成における原料ガスとして利用できる。
上述のセシウムケイ酸塩の生成工程により得られたセシウムケイ酸塩を含むバイオマスを、引き続き酸素雰囲気中で、850〜900℃以上に保持すると、バイオマス中のCとHとOが、酸素と反応し、燃焼ガスと燃焼熱が生成される(この酸素との反応を燃焼工程と言う)。
燃焼熱を回収し、エネルギーとして利用できる。
実施例7.放射性Csに汚染されたバイオマスを連続的に処理して、水に不溶なセシウムケイ酸塩を連続的に生成する、ガス化システムまたは燃焼システム
以上の実験結果及び検討を踏まえて、放射性Csに汚染されたバイオマスを連続的に処理して、水に不溶なセシウムケイ酸塩を連続的に生成する、具体的ガス化システムまたは燃焼システムについて検討する。
(1)ロータリーキルン型システム
放射性Csに汚染されたバイオマスを、SiOの存在下、連続的に処理して、バイオマスをガス化ないし燃焼しつつ、水に不溶なセシウムケイ酸塩を連続的に生成するシステムとしては、例えば、ロータリーキルン型システムが挙げられる。
ロータリーキルン型システムは、横置きにした円筒形炉を有し、この円筒形炉を回転させる機構を有する。
炉は、原料供給口から固体残渣排出口へ向かって下向きに傾斜している。原料供給口から連続的に供給した原料は、円筒形炉の回転により、固体残渣排出口へ向かって徐々に移動する。
円筒形炉の回転速度調節により、移動速度と移動時間を制御できる。
ロータリーキルン型炉の場合、原料供給口から原料を供給し、固体残渣排出口から固体残渣を排出するまでの時間は、通常30分以上に設定できる。
放射性Csに汚染されたバイオマスを、円筒形炉に供給すると、円筒形炉の回転により、バイオマスは撹拌・混合される。
ロータリーキルン型炉内部にSiO(石英ガラス)管を設けることにより、バイオマス自体にSiOが十分に含まれておらず、セシウム化合物が揮発したとしても、揮発したセシウムとSiO(石英ガラス)が反応して、水に不溶なセシウムケイ酸塩が生成される。その結果、ロータリーキルン型炉から外へ排出されるセシウムを1%程度に減らすことができる。
ロータリーキルン型炉外部に熱回収配管をスパイラル状に取り付け、空気またはオイルを流すことにより、ロータリーキルン型炉から発生する熱を回収する。原料供給口側に空気またはオイル入口を設け、固体残渣排出口側に空気またはオイル出口を設け、空気またはオイル量を調整することにより、原料供給口付近の温度を400℃以下に制御することができる。
(2)酸素+水蒸気をガス化剤に用いるロータリーキルン型ガス化システム
上記ロータリーキルン型システムにおいて、処理ガスとして酸素+水蒸気を用いることにより、水に不溶なセシウムケイ酸塩を連続的に生成させつつ、バイオマスをガス化する。
水蒸気よりも酸素はバイオマスと良く反応する。
このため、酸素+水蒸気がバイオマスに接触すると、最初は主に酸素がバイオマスと反応し、反応熱とCOを主成分とするガスが生成される。
この反応により酸素が減少し、相対的に水蒸気濃度が高くなるので、水蒸気とバイオマスの反応が徐々に進み、COとCHとHを主成分とするガスが生成される。水蒸気とバイオマスの反応は吸熱反応である。
ロータリーキルン型ガス化炉の固体残渣排出口付近から酸素+水蒸気を供給し、原料供給口付近からCOとCOとCHとHを主成分とする生成ガスを取り出す。
これにより、固体残渣排出口付近は酸素とバイオマスの反応が主となる。酸素+水蒸気中の酸素供給量を調整して、反応熱量を変えることにより、固体残渣排出口付近温度を900℃以上に制御できる。
一方、原料供給口付近は水蒸気とバイオマスの反応が主となる。酸素+水蒸気中の水蒸気量を調整して、水蒸気との反応吸熱量を変えること、前記筒型ガス化炉外部にスパイラル状に取り付けた熱回収用配管に流す空気量またはオイル量を調整して、回収熱量を変えることにより、原料供給口付近温度を例えば400℃以下に制御できる。
水蒸気供給量の調整と熱回収用空気量またはオイル量の調整により原料供給口付近温度を400℃以下に制御し、酸素供給量の調整により固体残渣排出口付近温度を900℃以上に制御し、ガス化炉の回転速度調節によりバイオマスの昇温速度を20℃/分以下に制御することにより、ロータリーキルン型ガス化システムを用いて、放射性Csに汚染されたバイオマスを連続的に処理して、水に不溶なセシウムケイ酸塩を効率的に生成できる。
ロータリーキルン型ガス化炉内部にSiO(石英ガラス)管を設けることにより、バイオマス自体にSiOが十分に含まれておらず、セシウム化合物が揮発したとしても、揮発したセシウムとSiO(石英ガラス)が反応して水に不溶なセシウムケイ酸塩が生成される。その結果、ロータリーキルン型ガス化炉から外へ排出されるセシウムを1%程度に減らすことができる。
これにより、実施例6における条件3と同様の条件で、放射性Csに汚染されたバイオマスを連続的に処理して、水に不溶なセシウムケイ酸塩を生成でき、同時に生成ガスを燃焼によるエネルギー源として、または化成品の原料として利用できる。
(3)空気をガス化剤に用いるロータリーキルン型ガス化システム
上記ロータリーキルン型システムにおいて、処理ガスとして空気を用い、完全燃焼に必要な酸素量よりも少ない酸素量を供給する不完全燃焼状態で、水に不溶なセシウムケイ酸塩を連続的に生成させつつ、バイオマスをガス化する。
この場合、空気の供給量を調整することにより、固体残渣排出口付近温度を700℃程度とし、前記円筒型ガス化外部にスパイラル状に取り付けた熱回収用パイプに流す空気量またはオイル量を制御して、円筒型ガス化炉から回収する熱回収量を調整することにより、原料供給口付近の温度をバイオマスに含まれるCs成分の揮発温度以下の温度に制御し、さらに円筒型ガス化炉の回転数を調製することにより、前記バイオマスの昇温速度を10〜30℃/分に制御する。
ロータリーキルン型ガス化炉内部にSiO(石英ガラス)管を設けることにより、バイオマス自体にSiOが十分に含まれておらず、セシウム化合物が揮発したとしても、揮発したセシウムとSiO(石英ガラス)が反応して水に不溶なセシウムケイ酸塩が生成される。その結果、ロータリーキルン型ガス化炉から外へ排出されるセシウムを1%程度に減らすことができる。
これにより、実施例1における固体残渣4を得た処理条件または実施例6における条件1及び条件2と同様の条件で、放射性Csに汚染されたバイオマスを連続的に処理して、水に不溶なセシウムケイ酸塩を生成でき、同時に生成ガスを燃焼によるエネルギー源として、または化成品の原料として利用できる。
(4)空気を処理ガスに用いるロータリーキルン型燃焼システム
上記ロータリーキルン型システムにおいて、十分な量の空気を供給して、バイオマスを完全燃焼させる。燃焼温度は850℃以上として、ダイオキシン発生を防止する。
具体的には、空気の供給量を調整することにより、固体残渣排出口付近温度を850℃以上とし、円筒型燃焼炉外部にスパイラル状に取り付けた熱回収用パイプに流す空気量またはオイル量を制御して、円筒型燃焼炉から回収する熱回収量を調整することにより、原料供給口付近の温度をバイオマスに含まれるCs成分の揮発温度以下の温度に制御し、さらに円筒型ガス化炉の回転数を調製することにより、前記バイオマスの昇温速度を10〜30℃/分に制御する。
ロータリーキルン型燃焼炉内部にSiO(石英ガラス)管を設けることにより、バイオマス自体にSiOが十分に含まれておらず、セシウム化合物が揮発したとしても、揮発したセシウムとSiO(石英ガラス)が反応して水に不溶なセシウムケイ酸塩が生成される。その結果、ロータリーキルン型燃焼炉から外へ排出されるセシウムを1%程度に減らすことができる。
これにより、SiOの存在下、放射性Csに汚染されたバイオマスを連続的に処理して、水に不溶なセシウムケイ酸塩を生成でき、同時にバイオマスの燃焼熱をエネルギーとして利用できる。

Claims (10)

  1. 放射性セシウムに汚染されたバイオマスを、空気雰囲気中、酸素雰囲気中、水蒸気雰囲気中、または酸素+水蒸気雰囲気中で、10〜30℃/分の昇温速度で、バイオマスに含まれるCs成分の揮発温度以下の温度から少なくとも700℃以上の温度まで加熱することにより、バイオマスを減容化しつつ、バイオマスに含まれる放射性セシウムを水に不溶なセシウムケイ酸塩として、固定化する方法。
  2. 常温〜400℃の温度から加熱する、請求項1に記載の方法。
  3. 水蒸気、又は酸素+水蒸気雰囲気中で700〜900℃以上の温度まで加熱し、バイオマスをガス化することにより減容化する、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 空気、又は酸素雰囲気中で700〜900℃以上の温度まで加熱し、バイオマスをガス化することにより減容化する、請求項1又は2に記載の方法。
  5. 空気、又は酸素雰囲気中で850〜900℃以上の温度まで加熱し、バイオマスを燃焼することにより減容化する、請求項1又は2に記載の方法。
  6. 放射性セシウムに汚染されたバイオマスに対しさらにSiOを添加する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
  7. 放射性セシウムに汚染されたバイオマスの加熱処理を内壁がSiO(石英ガラス)で構成された炉中で行う、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
  8. 一方の端に原料供給口を有し、他方の端に固体残渣排出口を有し、長さ方向を軸として回転可能とした円筒型ガス化炉であって、内部にSiO(石英ガラス)管が同軸方向に着脱自在に内挿されているガス化炉を、原料供給口側から固体残渣排出口側に向けて下方に傾斜させてなる、ロータリーキルン型ガス化炉を用い、
    前記原料供給口から、放射性セシウムに汚染されたバイオマスを連続的に供給し、一方、前記固体残渣排出口側から、酸素+水蒸気を連続的に供給することで、前記円筒型ガス炉内において、前記バイオマスと酸素+水蒸気を接触させて、バイオマスをガス化させ、生成ガスを前記原料供給口側から取り出すとともに、ガス化により副生する固体残渣を前記固体残渣排出口から取り出す、バイオマスのガス化方法において、
    前記円筒型ガス化炉に供給する酸素+水蒸気における酸素量を調整することにより、前記固体残渣排出口付近の温度を700〜900℃以上の温度に制御するとともに、前記円筒型ガス化炉に供給する酸素+水蒸気における水蒸気量を調整すること、及び前記円筒型ガス化炉外部にスパイラル状に取り付けた熱回収用配管に流す空気量又はオイル量を調整することにより前記円筒型ガス化炉から回収する熱量を調整することにより、前記原料供給口付近の温度をバイオマスに含まれるCs成分の揮発温度以下の温度に制御し、さらに前記円筒型ガス炉の回転数を調整することにより、前記バイオマスの昇温速度を10〜30℃/分に制御することを特徴とし、
    これにより前記放射性セシウムを前記固体残渣、及び前記SiO(石英ガラス)管の管壁中に固定化することを特徴とする、バイオマスのガス化方法。
  9. 一方の端に原料供給口を有し、他方の端に固体残渣排出口を有し、長さ方向を軸として回転可能とした円筒型ガス化炉であって、内部にSiO(石英ガラス)管が同軸方向に着脱自在に内挿されているガス化炉を、原料供給口側から固体残渣排出口側に向けて下方に傾斜させてなる、ロータリーキルン型ガス化炉を用い、
    前記原料供給口から、放射性セシウムに汚染されたバイオマスを連続的に供給し、一方、前記固体残渣排出口側から、空気又は酸素を連続的に供給することで、前記円筒型ガス炉内において、前記バイオマスと空気又は酸素を接触させて、バイオマスをガス化させ、生成ガスを前記原料供給口側から取り出すとともに、ガス化により副生する固体残渣を前記固体残渣排出口から取り出す、バイオマスのガス化方法において、
    前記円筒型ガス化炉に供給する空気又は酸素量を調整することにより、前記固体残渣排出口付近の温度を700〜900℃以上の温度に制御するとともに、前記円筒型ガス化炉外部にスパイラル状に取り付けた熱回収用配管に流す空気量又はオイル量を調整することにより前記円筒型ガス化炉から回収する熱量を調整することにより、前記原料供給口付近の温度をバイオマスに含まれるCs成分の揮発温度以下の温度に制御し、さらに前記円筒型ガス炉の回転数を調整することにより、前記バイオマスの昇温速度を10〜30℃/分に制御することを特徴とし、
    これにより前記放射性セシウムを前記固体残渣、及び前記SiO(石英ガラス)管の管壁中に固定化することを特徴とする、バイオマスのガス化方法。
  10. 一方の端に原料供給口を有し、他方の端に固体残渣排出口を有し、長さ方向を軸として回転可能とした円筒型燃焼炉を、原料供給口側から固体残渣排出口側に向けて下方に傾斜させてなる、ロータリーキルン型燃焼炉であって、内部にSiO(石英ガラス)管が同軸方向に着脱自在に内挿されている燃焼炉を用い、
    前記原料供給口から、放射性セシウムに汚染されたバイオマスを連続的に供給し、一方、前記固体残渣排出口側から、空気又は酸素を連続的に供給することで、前記円筒型燃焼炉内において、前記バイオマスと空気又は酸素を接触させて、バイオマスを燃焼させ、燃焼により生成する排ガスを前記原料供給口側から取り出すとともに、燃焼により副生する固体残渣を前記固体残渣排出口から取り出す、バイオマスの燃焼方法において、
    前記円筒型燃焼炉に供給する空気又は酸素量を調整することにより、前記固体残渣排出口付近の温度を850〜900℃以上の温度に制御するとともに、前記円筒型燃焼炉外部にスパイラル状に取り付けた熱回収用配管に流す空気量又はオイル量を調整することにより前記円筒型燃焼炉から回収する熱量を調整することにより、前記原料供給口付近の温度をバイオマスに含まれるCs成分の揮発温度以下の温度に制御し、さらに前記円筒型燃焼炉の回転数を調整することにより、前記バイオマスの昇温速度を10〜30℃/分に制御することを特徴とし、
    これにより前記放射性セシウムを前記固体残渣、及び前記SiO(石英ガラス)管の管壁中に固定化することを特徴とする、バイオマスの燃焼方法。
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