JP2019199646A5 - - Google Patents
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Description
本発明は、単層又は多層薄膜を熱的・物理的損傷に弱いフィルム基板上にスパッタ法によって堆積する上で、フィルム基板自身及びその上の堆積する薄膜自体が損傷なく作製できるスパッタ装置用カソードに関する。
薄膜単層及び多層構造からなる電子材料とその応用である電子デバイス作製において、真空状態下での薄膜作製装置は重要である。薄膜作製方法は大別して、蒸着、スパッタ、化学気相成長がある。なかでもスパッタは、基板材料の種類を問わずどんな材質の膜でも有毒なガスを使用しないで安全に比較的簡単な装置で薄膜を堆積できることから、各方面において広く使用されている。
スパッタの原理は、真空装置内でプラズマを発生させ、そのプラズマ中のイオンをターゲットに衝突させてターゲット表面の構成原子・分子をはじき飛ばして、基板上に堆積させて薄膜を作製する。
最も広く使われているのが、図1に示すマグネトロンスパッタである。印加電源の違いによりDCスパッタ、RFスパッタ、パルススパッタがある。マグネトロンスパッタでは、ターゲットをイオンガスが衝撃するときに生成される高エネルギーの二次電子が、ターゲット表面に平行な磁界でターゲット表面近くに閉じこめられて雰囲気ガスとの衝突回数の増加を図っている。これによって、1)雰囲気ガスのイオン化を促進してプラズマ効率を高めること(高速スパッタ)、2)高エネルギーの二次電子の基板衝撃を減らすことで、二次電子の基板衝撃で起きる基板温度上昇を僅かながらも抑制できること(低温スパッタ)、を特徴とする。しかしながら、基板とターゲットが正対しているために、a)二次電子及び反跳イオンの基板への入射を完全には抑制できない、b)強磁性体をターゲットにした場合、マグネトロンの磁力線が強磁性体内部を通り、二次電子を閉じこめるのに十分な大きさの磁界がターゲット表面に印加できないため、マグネトロンスパッタの特徴を生かした強磁性体の高速スパッタが困難、であることが欠点である。しかしながら、構造が比較的簡単で高堆積速度で薄膜形成可能なために、マグネトロンスパッタは広く使用されている。
図2に示す従来型対向ターゲット式スパッタは、2つのターゲットが対向する位置にあり、それぞれのターゲット裏面には互いに反対磁極をもつように永久磁石が配置され、ターゲット表面から放出された二次電子は、対向するターゲット間に閉じこめられ高密度プラズマを発生する。基板は対向するターゲットの横のプラズマ外に置かれているために、二次電子及び反跳イオンの基板への入射を、マグネトロンスパッタの場合より更に抑制することができ、マグネトロンスパッタより低温スパッタが可能となる。二次電子を閉じこめることによる高密度プラズマにより、雰囲気ガス圧力を低くしても放電が可能で(0.1 Pa台)、薄膜への雰囲気ガス混入も小さく、強磁性体の低温・高速スパッタも可能であるという特徴を持つ。印加電源としてDC電源、RF電源、パルス電源の使用が可能である。しかしながら、基板とターゲットの位置関係から、マグネトロンスパッタほどの堆積速度をあげることは難しい。堆積速度を上げるためにカソードに印加する電力をあげようとすると、対向ターゲット間中心のプラズマ集中による異常放電で、スパッタ放電維持ができなくなる。
従来型対向ターゲット式スパッタの低温スパッタという特徴をもちながら、堆積速度の向上、ターゲット材料に最も適したスパッタが可能になる方法として、磁場分布制御手段を有する特許文献1があげられる。この方法では、対向するターゲット間で、対向モード磁場分布とマグネトロンモード磁場分布の組み合わせからなる複合対向モード磁場分布を形成し、かつ磁場分布を変化させて対向モード磁場分布とマグネトロンモード磁場分布の強弱を制御でき、対向ターゲット間のプラズマ密度制御は可能となり、各々の材料に効果的なスパッタ方式を提供できるカソード構造である。磁場分布制御手段として、可動棒磁石を用いるカソード(図3、4参照)、可動ヨークを用いるカソード(図5、6参照)、電磁石を用いるカソード(図7、8、9参照)がある。
T. Ohmi, T. Ichikawa, T. Shibata, K. Matsudo, H. Iwabuchi, Appl. Phys. Lett. 53 (1988) 45.
図3、4、図5、6及び、図7、8、9を用いて、特許第5555848号記載のそれぞれのカソードの特徴を説明する。表1に特許第5555848号記載のそれぞれのカソードの利点と欠点を纏める。
対向するターゲット間の磁場分布制御手段として可動棒磁石を用いる特許第5555848号に記載のカソードでは、それぞれのターゲット直下の外側円筒形状固定永久棒磁石と可動棒磁石間は、可動棒磁石の位置で平衡マグネトロン磁石配置の磁場分布から非平衡マグネトロン磁石配置の磁場分布を変えることが出来る。図3では、ターゲット直下でバッキングプレートに接地している外側円筒形状固定永久棒磁石と可動棒磁石の間は平衡マグネトロン磁石配置の磁場分布をしており、かつ対向ターゲット間の外側円筒形状固定永久棒磁石磁極と可動棒磁石はそれぞれ逆向き極性なので、対向ターゲット間は対向モード磁場分布+逆向き対向モード磁場分布+平衡マグネトロンモード磁場分布からなる、複合対向モード磁場分布を形成している。
図4では、ターゲット直下でバッキングプレートに接地している外側円筒形状固定永久棒磁石と、ターゲット直下でバッキングプレートに接地していない可動棒磁石の間は非平衡マグネトロン磁石配置の磁場分布をしており、かつ対向ターゲット間の外側円筒形状固定永久棒磁石磁極と可動棒磁石はそれぞれ逆向き極性なので、対向ターゲット間は対向モード磁場分布+逆向き対向モード磁場分布+非平衡マグネトロンモード磁場分布からなる、複合対向モード磁場分布を形成している。可動棒磁石の移動距離によって、対向モード磁場分布、逆向き対向モード磁場分布、及び非平衡マグネトロンモード磁場分布のそれぞれの強弱度合いの異なる複合対向モード磁場分布をとることができる。
図3及び図4に示した特許第5555848号に記載のカソードを使用したときの、可動棒磁石の移動距離(L)を変化させたときのターゲット表面の中心磁場の強さ(H)とスパッタ電圧(Vdc)の変化を図10に示す。N磁極からS磁極に磁力線が流れ込む左側のターゲット表面中心の磁場の強さを測定した。直径90 mmのターゲットはITO(In2O3:SnO2= 90:10 wt.%、 純度3N)を用い、DCスパッタでスパッタ圧力0.6Pa、DCスパッタ電流 ( Idc)を1.9 A 、ターゲット-基板間距離10 cm、 Ar流量29.9 sccm、O2流量 0.1 sccm、のそれぞれ一定の条件の下にスパッタしたときの結果である。横軸は可動棒磁石の移動距離Lを表し、L=0 mmでは可動棒磁石がバッキングプレートに接地した状態を示している。Lが大きくなるとともに可動棒磁石はバッキングプレートから離れていく状態を示す。Lが大きくなるとともにターゲット表面中心の磁場は負の値から急激に減少し、L=24 mm付近でターゲット表面中心の磁場がゼロとなり、それ以降は正の値になり一定の正の値に近づく。スパッタ電圧はL=0 mmの時に最も小さなVdc=270 Vを示し、ターゲット表面中心の磁場がゼロとなるL=24 mm付近で最も大きなVdc=410 Vを示した。それ以上のLではほぼ一定値Vdc=380 Vを示した。これらの振る舞いは可動棒磁石の移動によって、対向ターゲット間の磁場分布が変化し、それによってプラズマ密度が変化したためにスパッタ電圧が変化、即ち、可動棒磁石移動で対向ターゲット間の磁場、スパッタ電圧を制御可能であることを示している。L=0 mmの時に対向ターゲット間で最もプラズマ密度が大きく、それによって最も小さなVdc=270 Vを示すと考えられる。逆にL=24 mm付近で、対向ターゲット間で最もプラズマ密度が小さく、そのために最も大きなVdc=410 Vを示すと考えられる。可動棒磁石の位置を変えることで、スパッタ電圧が低い、即ち低ダメージスパッタを選択したり、スパッタ電圧の高い、即ち高堆積速度スパッタを選択したり、各々の材料に効果的なスパッタ方式を提供できるカソード構造である。
しかしながら、可動棒磁石の移動機構のために、個々のターゲット直下の移動機構を含めた磁石群の形状が大きくなり、コンパクト性という点で問題となる。具体的な数値としては、外側円筒形状の固定永久磁石が円筒の直径90ミリ、筒の長さ90ミリで配置されて、中央に位置する可動棒磁石も長さ90ミリで配置された時、可動棒磁石のターゲット面に垂直方向の直線運動の可動距離を45ミリとした場合、可動棒磁石移動機構を設置することが必要である。ボールねじ機構やスライダ・クランク機構によって回転運動を可動棒磁石のターゲット面に垂直方向の直線運動に変える工夫が必要である。回転運動には電動モーターによる回転、或いは手動による回転が考えられるが、どちらにしても回転運動から直進運動への変換装置が必要なために、それも含めて考えると、移動機構を含めて長さは最低でも片側で200ミリを必要とし、カソード全体が大きくなり、カソードのコンパクト性の観点及びカソード機構の複雑さの観点から不利となる。
特許第5555848号に記載の可動ヨーク方式のカソードでは、対向するターゲット間の磁場分布制御手段として、ターゲット面に垂直方向に直線運動する可動ヨークを用いている。図5では、固体丸棒付可動円板ヨークが外側円筒形状固定永久棒磁石に短絡した状態のために、外側円筒形状固定永久棒磁石と固体丸棒の間は平衡マグネトロン磁石配置の磁場分布をしており、かつ対向ターゲット間の外側円筒形状固定永久棒磁石磁極と磁化している固体丸棒はそれぞれ逆向き極性なので、対向ターゲット間は対向モード磁場分布+逆向き対向モード磁場分布+平衡マグネトロンモード磁場分布からなる、複合対向モード磁場分布を形成している。図6では、固体丸棒付可動円板ヨークが外側円筒形状固定永久棒磁石から離れた状態であるためにヨークは磁化しておらず、かつ対向ターゲット間の磁石磁極は逆向き極性であるために、対向ターゲット間の磁場分布は従来型対向モード磁場分布を形成している。
この場合は、1)可動棒磁石の場合と同じく、ターゲット面に垂直方向に直線運動する長いストロークによるカソード全体の長大化、2)固体丸棒付可動円板ヨークと外側円筒形状固定永久棒磁石が接触している時、その接触面で大きな力が働き、引き離し時に大きな力を必要、という2つの問題が生じる。
図7は特許第5555848号記載の電磁石配置のカソード断面で、丸棒ヨークにコイルが巻かれて電磁石を形成し、そのコイルに図中に示した向きに電流を流して、バッキングプレート直下の外側円筒形状固定永久棒磁石と電磁石の間で平衡マグネトロン磁石配置の磁場分布を形成している。対向ターゲット間の外側円筒形状固定永久棒磁石磁極と電磁石はそれぞれ逆向き極性なので、対向ターゲット間は対向モード磁場分布+逆向き対向モード磁場分布+平衡マグネトロンモード磁場分布からなる、複合対向モード磁場分布を形成している。図8は特許第5555848号記載の電磁石配置のカソード断面で、電磁石のコイルに図7で示した状態よりは小さな電流を図中に示した向きに流して、バッキングプレート直下の外側円筒形状固定永久棒磁石と電磁石の間で非平衡マグネトロン磁石配置の磁場分布を形成している。対向ターゲット間の外側円筒形状固定永久棒磁石磁極と電磁石はそれぞれ逆向き極性なので、対向ターゲット間は対向モード磁場分布+逆向き対向モード磁場分布+非平衡マグネトロンモード磁場分布からなる、複合対向モード磁場分布を形成している。図9は特許第5555848号記載の電磁石配置のカソード断面で、電磁石のコイル電流ゼロで対向ターゲット間の磁場分布が従来型対向スパッタの磁石配置の対向モード磁場分布を示している。
この特許第5555848号記載の電磁石方式では可動部分がないために、図3、図4に示した可動棒磁石方式や、図5、図6に示した可動ヨーク方式で大きな問題となったカソード全体の長大化の問題は避けられる。しかしながら、電磁石は常にコイルに電流を流さなければ、対向するターゲット間では図2で示した従来型対向スパッタと同じ磁場分布となる。対向するターゲット間で複合対向モード磁場分布を形成するためには、電磁石のコイルに常に電流を流し続けることが必要である。しかもマグネトロン磁場分布において、平衡マグネトロン磁場分布を形成するためには、非平衡マグネトロン磁場分布を形成する以上に、電磁石で強力な磁場を形成即ち、コイルにより大電流を流し続ける必要で、スパッタ中の消費電力の点から問題となる。
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、対向ターゲット間の磁場分布及びスパッタ電圧をスパッタ中においても制御でき、薄膜材料及び基板材料に与えるダメージを抑制でき、スパッタ装置をコンパクトかつ低消費電力にすることができるスパッタ装置用カソードを提供することである。
本発明は、ターゲットが設置されたバッキングプレートと、前記バッキングプレートの直下に設置された外側円筒形状固定永久棒磁石と、前記外側円筒形状固定永久棒磁石の円筒形状中心部分に置かれた、固定丸棒ヨーク又は外側円筒形状固定永久棒磁石に対して反対の磁極の固定丸棒永久磁石と、前記固定丸棒ヨーク又は前記固定丸棒永久磁石の周りに巻かれたコイルと、前記外側円筒形状固定永久棒磁石と、前記固定丸棒ヨーク又は前記固定丸棒永久磁石とに、前記バッキングプレートと反対側で短絡した円板ヨークと、を備え、前記外側円筒形状固定永久棒磁石と、前記固定丸棒ヨーク又は前記固定丸棒永久磁石と、前記バッキングプレートとが共に接地したカソードにおいて、当該カソードが一対で対向し、対向するカソード間で反対磁極を形成し、対向するターゲット間の磁場分布及びスパッタ電圧を制御することにより上記課題を解決する。
本発明によれば、対向ターゲット間の磁場分布及びスパッタ電圧をスパッタ中においても制御でき、薄膜材料及び基板材料に与えるダメージを抑制でき、スパッタ装置をコンパクトかつ低消費電力にすることができる。
<<実施形態1>>
図11から16および及び図17から図19を用いながら、本発明の実施形態の一例である、実施形態1について説明する。図11(a)は外側円筒形状固定永久棒磁石と固定丸棒付固定円板ヨーク及び、固定丸棒ヨークに巻かれたコイルから構成される本発明のカソード構造を真横から見た図を示し、図11(b)は同カソード構造の斜め下からの俯瞰図を示している。ここで、図11(b)では固定丸棒付固定円板ヨークの固定丸棒ヨークに巻かれたコイルは省略して示してある。
図11から16および及び図17から図19を用いながら、本発明の実施形態の一例である、実施形態1について説明する。図11(a)は外側円筒形状固定永久棒磁石と固定丸棒付固定円板ヨーク及び、固定丸棒ヨークに巻かれたコイルから構成される本発明のカソード構造を真横から見た図を示し、図11(b)は同カソード構造の斜め下からの俯瞰図を示している。ここで、図11(b)では固定丸棒付固定円板ヨークの固定丸棒ヨークに巻かれたコイルは省略して示してある。
図12は、図11(a)、(b)に示したカソード構造が1対で対向しカソードを形成している本発明のカソード断面図を示してある。図11(a)、(b)で省略してあった固定丸棒ヨークに巻かれたコイルも記述してある。この図12では、固定丸棒ヨークに巻かれたコイルの電流はゼロであるために左右のバッキングプレート直下それぞれにおいて外側円筒形状固定永久棒磁石と固定丸棒ヨーク間が平衡マグネトロン磁石配置の磁場分布を形成し、対向ターゲット間の外側円筒形状固定永久棒磁石磁極と固定丸棒ヨークはそれぞれ逆向き極性なので、対向ターゲット間は対向モード磁場分布+逆向き対向モード磁場分布+平衡マグネトロンモード磁場分布からなる複合対向モード磁場分布を形成している状態を示してある。
図13は、図12と同じ形状であるが、左右のバッキングプレート直下それぞれにおいて外側円筒形状固定永久棒磁石と固定丸棒ヨーク間が非平衡マグネトロン磁石配置の磁場分布になる向きにコイルの電流を流した状態を示し、対向ターゲット間の外側円筒形状固定永久棒磁石磁極と固定丸棒ヨークはそれぞれ逆向き極性なので、対向ターゲット間は対向モード磁場分布+逆向き対向モード磁場分布+非平衡マグネトロンモード磁場分布からなる複合対向モード磁場分布を形成している状態を示している。
図11、12、13に示した本発明のカソードを用いて、スパッタ電圧のコイル電流依存性を調べた。本発明の効果を明らかにするために、図7、8、9で示した特許第5555848号記載の電磁石を用いたカソードを用いたときの、スパッタ電圧のコイル電流依存性も調べた。実験に用いたバッキングプレート直上に設置したターゲットは、丸形(直径90 mm、厚さ5 mm)のITO(In2O3:SnO2=90:10 wt.%、純度3N)ターゲットである。スパッタ圧力0.6 Pa、 DCスパッタ電流 ( Idc)を0.7 A、ターゲットと基板間の距離10 cm、 Ar流量29.9 sccm、O2流量 0.1 sccm、のスパッタ条件を一定にしてDCスパッタで、電磁石の丸棒ヨークに巻かれているコイルに流す電流を変化させてITO薄膜を成膜した。
図14は、横軸に左側ターゲット表面中心の磁場を、縦軸にその時のスパッタ電圧値に、これら2つの構造のカソードにおいてコイルに電流を流したときのスパッタ電圧のコイル電流依存性のカソード構造の違いを示している。
図11、12、13で示した本発明のカソードでは、固定丸棒ヨークに巻かれたコイルに流れる電流ゼロの時に、最もスパッタ電圧値が小さく、コイル電流が増加するにつれてスパッタ電圧値は増加している。図11、12、13で示した本発明のカソードは、固定丸棒付円板ヨークが外側円筒形状固定永久棒磁石と、その円板ヨークを介して短絡し且つ、固定丸棒ヨークと外側円筒形状固定永久棒磁石がバッキングプレートに接地している形状で、固定丸棒ヨークにコイルが巻かれて電磁石を形成している構造のカソードである。コイル電流がゼロの時、左右のバッキングプレート直下それぞれにおいて外側円筒形状固定永久棒磁石と固定丸棒ヨーク間が平衡マグネトロン磁石配置の磁場分布を形成している。コイルの電流は左右のバッキングプレート直下それぞれにおいて外側円筒形状固定永久棒磁石と固定丸棒ヨーク間が平衡マグネトロン磁石配置の磁場分布から非平衡マグネトロン磁石配置の磁場分布に変化させる向きに流した。
図7、8、9で示した特許第5555848号記載のカソードでは、固定丸棒ヨークに巻かれたコイルに流れる電流ゼロの時に、最もスパッタ電圧値が大きく、コイル電流が増加するにつれてスパッタ電圧値は減少している。図7、8、9で示した特許第5555848号記載のカソードは、固定丸棒ヨークと外側円筒形状固定永久棒磁石がバッキングプレートに接地し、その反対側のコイルが巻かれている固定丸棒ヨークと外側円筒形状固定永久棒磁石は短絡しておらず、コイルが巻かれている固定丸棒ヨーク単体で電磁石を形成している構造のカソードである。コイル電流がゼロの時、左右のバッキングプレート直下それぞれにおいて外側円筒形状固定永久棒磁石と固定丸棒ヨーク間が非平衡マグネトロン磁石配置の磁場分布を形成している。コイル電流は左右のバッキングプレート直下それぞれにおいて外側円筒形状固定永久棒磁石と固定丸棒ヨーク間の磁場分布を非平衡マグネトロン磁石配置の磁場分布から平衡マグネトロン磁石配置の磁場分布に変化させる向きに流した。
図14の結果は、電磁石の構造の違いにもかかわらず、1)バッキングプレート直下それぞれにおいて外側円筒形状固定永久棒磁石と固定丸棒ヨーク間が平衡マグネトロン磁石配置の磁場分布で且つ、対向ターゲット間は対向モード磁場分布+逆向き対向モード磁場分布+平衡マグネトロンモード磁場分布からなる複合対向モード磁場分布の時にスパッタ電圧が最小値を示し、2)バッキングプレート直下それぞれにおいて非平衡マグネトロン磁石配置の磁場分布の度合いが強くなり、対向ターゲット間は対向モード磁場分布+逆向き対向モード磁場分布+非平衡マグネトロンモード磁場分布からなる複合対向モード磁場分布で、その非平衡マグネトロンモード磁場分布の度合いが強くなるにつれてスパッタ電圧値が高い状態を保ったまま一定値になる、ことを示している。
図7、8、9で示した特許第5555848号記載のカソードでは、図11、12、13で示した本発明のカソードと同じく、ターゲット面に鉛直な方向への電磁石のそれ自体の移動がなく可動部分がないが、スパッタ電圧値を小さくするためには、固定丸棒ヨークに巻かれたコイルに、常に大電流を流し続けることが必要で、スパッタ中の消費電力の点から非常に不利となる。しかしながら、本発明のカソードでは、最も小さなスパッタ電圧値は固定丸棒ヨークに巻かれたコイルに流れる電流ゼロの時に達成でき、それ以上のスパッタ電圧を得るためにはコイルには、必要なときだけ小さな電流を流せばよく、消費電力という観点及び、大電流を電磁石に流すことによる発熱の問題を避けることができるという観点からも比較にならない利点となる。
本発明のカソードは、ターゲットが設置されているバッキングプレート直下に設置された外側円筒形状固定永久棒磁石とその円筒形状中心部分に置かれた固定丸棒ヨークで構成されるカソード構造において、外側円筒形状固定永久棒磁石と固定丸棒ヨークは、バッキングプレートに共に接地し且つ、バッキングプレートと反対側で、これらの外側円筒形状固定永久棒磁石と固定丸棒ヨークは円板ヨークを介して短絡しかつ、固定丸棒ヨークはその周りをコイルが巻かれた構造で構成されるカソード構造を持ち、このカソード構造が1対で対向しカソード構造間で反対磁極を形成することで、ターゲット面に鉛直な方向及び水平な方向への回転も含めたカソードの移動がない状態でかつ、コイル電流ゼロの状態及び微少電流を流した状態のコイル電流による低消費電力性を保持して、対向ターゲット間の磁場分布及びスパッタ電圧の制御即ち、対向ターゲット間でのプラズマ電位制御技術が可能であり、低いスパッタ電圧での低ダメージ薄膜作製が可能ことを示している。
図11、12、13で示した本発明のカソードにおいて、コイルが巻かれたコイル丸棒ヨーク(コイル付固定丸棒ヨーク)を外側円筒形状固定永久棒磁石と反対磁極をもつ固定丸棒磁石にコイルをつけたもの(コイル付固定丸棒磁石)で置き換えても、同じ効果を達成できる。この場合でも、バッキングプレートと反対側の外側円筒形状固定永久棒磁石とコイル付固定丸棒磁石は固定円板ヨークで短絡してある。コイル付固定丸棒磁石のコイルに流す電流により、このコイル付丸棒磁石の強弱を制御して、同じくバッキングプレート側で、外側円筒形状固定永久棒磁石とコイル付固定丸棒磁石の間で平衡マグネトロン磁石の磁場分布から非平衡マグネトロン磁石配置の磁場分布の制御ができる。
本実施形態1では、ターゲット形状は丸形で説明しているが、任意のターゲット形状の場合、例えば矩形ターゲットにもこの方法は適用できる。矩形ターゲットの場合は、矩形ターゲット形状にあわせて矩形形状のヨークを採用すればよい。
図15は図12で示した本発明のカソードで、堆積速度高めるためにカソード構造をそれぞれ15度以内の角度で垂直方向から傾けたカソード断面を示し、薄膜作製の用途に応じてこの構造にしてもよい。図16は図13で示した本発明のカソードで、堆積速度高めるためにカソード構造をそれぞれ15度以内の角度で垂直方向から傾けたカソード断面を示し、薄膜作製の用途に応じてこの構造にしてもよい。
本発明の実施形態の一例である実施形態1で得られた図14の実験結果から、固定丸棒ヨークに巻かれたコイルに流す電流ゼロの状態でも、ヨーク形状によってスパッタ電圧が異なることが明らかとなった。この実験結果に基づき、図17、18、19を用いながら、本発明の実施形態の一例である、コイルが巻かれていない固定丸棒ヨークを用いた場合について説明する。
図17(a)は外側円筒形状固定永久棒磁石と固定円板ヨークから構成される本発明のカソード構造を真横から見た図を示している。円板ヨークは外側円筒形状固定永久棒磁石と短絡してある。図17(b)は図17(a)の斜め下からの俯瞰図で、外側円筒形状固定永久棒磁石と固定丸棒が円板中心から突き出た形状の固定丸棒付固定円板ヨークから構成される本発明のカソード構造の斜め下からの俯瞰図を示している。コイルが巻かれていない場合を図示した図11(b)と同一構造である。図17(c)は図17(a)の斜め下からの俯瞰図で、外側円筒形状固定永久棒磁石と円板中心から突き出た形状の固定丸棒が無い固定丸棒無固定円板ヨークから構成される本発明のカソード構造の斜め下からの俯瞰図を示している。
図18は、図17(a)、(b)に示したカソード構成部分を用いた本発明のカソード断面図を示してある。この図18では、左右のバッキングプレート直下それぞれにおいて外側円筒形状固定永久棒磁石と固定丸棒ヨークはバッキングプレートに接地し、反対側の外側円筒形状固定永久棒磁石は固定丸棒付固定円板ヨークと短絡している。そのために、コイルに流す電流ゼロの場合を示した図12の磁場分布と同じく、左右のバッキングプレート直下それぞれにおいて、外側円筒形状固定永久棒磁石と固定丸棒ヨーク間が平衡マグネトロン磁石配置の磁場分布を形成し、対向ターゲット間の外側円筒形状固定永久棒磁石磁極と固定丸棒ヨークはそれぞれ逆向き極性なので、対向ターゲット間は対向モード磁場分布+逆向き対向モード磁場分布+平衡マグネトロンモードの磁場分布の複合対向モード磁場分布を形成している状態を示してある。
図19は、図17(a)、(c)に示したカソード構成部分を用いた本発明のカソード断面図を示してある。左右のバッキングプレート直下それぞれにおいて外側円筒形状固定永久棒磁石はバッキングプレートに接地し、反対側の外側円筒形状固定永久棒磁石は固定丸棒無固定円板ヨークと短絡している。固定丸棒ヨークが無いために、図9で示した特許第5555848号記載のカソードのコイルに電流を流していない状態の磁場分布と同じく、対向ターゲット間の外側円筒形状固定永久棒磁石磁極はそれぞれ逆向き極性なので、対向ターゲット間は対向モード磁場分布の磁場分布を形成している状態を示してある。
図18で示した、本発明の外側円筒形状固定永久棒磁石と固定丸棒付固定円板ヨークから構成される本発明のカソードで実験を行った。バッキングプレート直上に設置したターゲットは、丸形(直径90 mm、厚さ5 mm)のITO(In2O3:SnO2=90:10 wt.%、純度3N)ターゲットを用い、DCスパッタでスパッタ圧力0.6 Pa、 DCスパッタ電流 ( Idc)を1.9 A、ターゲットと基板間の距離10 cm、 Ar流量29.9 sccm、O2流量 0.1 sccm、のスパッタ条件を一定にして、ITO薄膜を成膜した。スパッタ圧力0.6 Pa、Idc=1.9 Aの時、スパッタ電圧(Vdc)=296 V、堆積速度=86nm/minが得られた。この堆積速度で膜厚200 nmのITO薄膜を作製して、電気抵抗率(Ω・cm)6.0×10-4Ω・cmが得られた。電気抵抗率を測定した同じITO薄膜で可視光(波長380 nmから750 nm)領域の平均可視光透過率(%)は87 %、ホール効果測定によりキャリア密度は2.3×1020 cm-3 、キャリア移動度は44 cm2/(V・s)が得られた。
このスパッタ終了後に真空装置を大気に戻して、図18に示した外側円筒形状固定永久棒磁石と固定丸棒付固定円板ヨークから構成される本発明のカソードを取り外して、図19に示した外側円筒形状固定永久棒磁石と固定丸棒無固定円板ヨークから構成される本発明のカソードを設置して、再度真空装置を真空状態にして同じ条件でスパッタを行った。
同じスパッタ圧力0.6 Pa、スパッタ電流Idc=1.9 Aにも係わらず、スパッタ電圧(Vdc)=360 V、堆積速度=96nm/minが得られた。この堆積速度で膜厚200 nmのITO薄膜を作製して、電気抵抗率(Ω・cm)7.5×10-4Ω・cmが得られた。電気抵抗率を測定した同じITO薄膜で可視光(波長380 nmから750 nm)領域の平均可視光透過率(%)は87 %、ホール効果測定によりキャリア密度は2.3×1020 cm-3 、キャリア移動度は44 cm2/(V・s)が得られた。
この実験結果から、左右のバッキングプレート直下それぞれのカソード構造で、外側円筒形状固定永久棒磁石と固定丸棒ヨーク間が平衡マグネトロン磁石配置の磁場分布を形成し、対向ターゲット間のカソード構造間では外側円筒形状固定永久棒磁石磁極と丸棒ヨークはそれぞれ逆向き極性なので、対向ターゲット間は対向モード磁場分布+逆向き対向モード磁場分布+平衡マグネトロンモード磁場分布の複合対向モード磁場分布を形成している状態で、スパッタ電圧が低くなることが明らかとなった。ターゲット面に鉛直な方向及び水平な方向への回転も含めたカソードの移動がなくかつ、固定ヨークの形状の違いによってのみ、対向ターゲット間の磁場分布及びスパッタ電圧の制御即ち、対向ターゲット間でのプラズマ電位制御技術が可能であり、低いスパッタ電圧での低ダメージ薄膜作製が可能ことを示している。
このカソードの場合も、図15、図16と同じく、薄膜作製の用途に応じて、堆積速度高めるためにカソードをそれぞれ15度以内の角度で垂直方向から傾けた状態で成膜してもよい。
ターゲット形状は丸形で説明しているが、任意のターゲット形状の場合、例えば矩形ターゲットにも、この方法は適用できる。矩形ターゲットの場合は矩形ターゲット形状にあわせて矩形形状の突き出た固定矩形形状ヨークを採用すればよい。薄膜作製の用途に応じて高いスパッタ電圧での成膜を行う場合は、スパッタ前にカソード交換を行えばよいが、スパッタ成膜中のカソード交換は出来ない。図12と図18で示したカソード構造の違いは、固定丸棒コイルに巻かれたコイルの有無のみであり、基本的には、図12で示したカソード構造で、コイルに流す電流ゼロを含めて微少なコイル電流によって、真空を破らないでスパッタにおいても対向ターゲット間の磁場分布及びスパッタ電圧の制御即ち、対向ターゲット間でのプラズマ電位制御に対応できる。
<<実施形態2>>
次に、図20、21、22及び、図25〜30を用いながら、本発明の実施形態の一例である、ステッピングモーターに連結している回転ヨークと円板状固定永久磁石、非磁性体及び、外側円筒形状固定永久棒磁石から構成される本発明のカソードを用いた実施形態2について説明する。
次に、図20、21、22及び、図25〜30を用いながら、本発明の実施形態の一例である、ステッピングモーターに連結している回転ヨークと円板状固定永久磁石、非磁性体及び、外側円筒形状固定永久棒磁石から構成される本発明のカソードを用いた実施形態2について説明する。
図20で、(a)はステッピングモーターに連結している回転ヨークが円板状固定永久磁石と短絡している状態の本発明のカソード構造を真上から見た図を示し、(b)は回転ヨークが円板状固定永久磁石と短絡しておらず非磁性体に接地している状態の本発明のカソード構造を真上から見た図を示している。但し、図20(a)、(b)ともに、図中では回転ヨーク上に設置してあるヨーク回転を行うステッピングモーターは省略して示してある。
図21は図20(a)に示したカソード構造が1対で対向しカソードを形成している本発明のカソード断面図で、回転ヨークの先端と外側円筒形状固定永久棒磁石の先端はバッキングプレートと接地し、回転ヨークが円板状固定永久磁石と短絡して、それぞれのバッキングプレート直下の外側円筒形状固定永久棒磁石と回転ヨーク間は平衡マグネトロン磁石配置の磁場分布を形成し、対向ターゲット間の外側円筒形状固定磁石磁極と回転ヨークは逆向き極性なので、ターゲット間は対向モード磁場分布+逆向き対向モード磁場分布+平衡マグネトロンモード磁場分布からなる複合対向モード磁場分布を形成している。回転ヨークの回転はステッピングモーター(図中省略)で行う。
図22は図20(b)に示したカソード構造が1対で対向しカソードを形成している本発明のカソード断面図で、回転ヨークの先端と外側円筒形状固定永久棒磁石の先端はバッキングプレートと接地し、円板状固定永久磁石面上に埋め込まれている非磁性体上に回転ヨークがあるために、回転ヨークと円板状固定永久磁石は短絡しておらず回転ヨークは磁化せず、対向ターゲット間の外側円筒形状固定永久棒磁石磁極は逆向き極性なので、対向ターゲット間は対向モードの磁場分布を形成している。回転ヨークの回転はステッピングモーター(図中省略)で行う。
実験に用いたターゲットは丸形(直径90 mm、厚さ5 mm)のITO (重量比In2O3:SnO2=90:10 wt.%、純度3N)で、これを図21及び図22に示すように、バッキングプレートに貼り付けてある。スパッタ圧力0.6 Pa、DCスパッタ電流 ( Idc)を0.7 A、ターゲットと基板間距離10 cm一定にして実験を行った。
対向ターゲット間は対向モード磁場分布+逆向き対向モード磁場分布+平衡マグネトロンモード磁場分布からなる複合対向モード磁場分布を形成している図21に示すカソードを用いて、スパッタに用いるArとO2ガスの混合ガス総量は30.0 sccm一定にして、O2流量 を0.1 刻みで0.0、0.1、0.2、0.3 sccmと変化させたときのDC電源のみのDCスパッタでのスパッタ電圧Vdc(V)の変化と、更に同一条件でDC電圧にRF電力を100 W重畳してスパッタするRF−DC結合電源を用いたスパッタでのスパッタ電圧Vdc(V)の変化を調べた。Vdc(V)のO2流量及びRF入力電力依存性を図23に示す。RF入力電力ゼロのDCスパッタ電流 ( Idc)0.7 Aだけの場合、O2流量0.0 sccmでのVdc=260 Vから、O2流量0.1 sccm以上ではほぼ一定のVdc=280 V程度に僅かに増加している。O2流量0.0 sccmの場合で比較すると、RF入力電力ゼロのVdc=260 V(この時、堆積速度は31nm/min)から、RF入力電力100 Wを印加するとVdc=110 V(この時、堆積速度は27 nm/min)とスパッタ電圧が半分以下に減少した。スパッタ電圧の減少はO2流量0.1 sccm以上でもみられた。
次に、真空を破らずにステッピングモーターで回転ヨークの回転をおこない、対向ターゲット間は図21に示す対向モード磁場分布+逆向き対向モード磁場分布+平衡マグネトロンモード磁場分布からなる複合対向モード磁場分布を形成するカソードの配置から、対向ターゲット間は図22で示す対向モード磁場分布を形成するカソードの配置に変化させる。スパッタに用いるArとO2ガスの混合ガス総量は30.0 sccm一定にして、O2流量 を0.1 刻みで0.0、0.1、0.2、0.3 sccmと変化させたときのDC電源のみのDCスパッタでのスパッタ電圧Vdc(V)の変化と、更に同一条件でのDC電圧にRF電力を100 W重畳してスパッタするRF−DC結合電源を用いたスパッタでのスパッタ電圧Vdc(V)の変化を調べた。Vdc(V)のO2流量及びRF入力電力依存性を図24に示す。RF入力電力ゼロのDCスパッタ電流( Idc)0.7 Aだけの場合、図22で示した対向ターゲット間は対向モード磁場分布を形成するカソード配置では、図21に示した対向ターゲット間が複合対向モード磁場分布の場合に得られたVdc値よりも100 V程度大きなVdc=350 V(この時、堆積速度は39 nm/min)を示した。O2流量 を0.1 刻みの0.1、0.2、0.3 sccmと変化させた場合も、同じく図21に示したカソード配置で得られたVdc値よりも100 V程度大きなVdc=360 Vを示した。RF入力電力100 Wを印加すると、O2流量 を0.1 刻みで0.0、0.1、0.2、0.3 sccmと変化させた全ての場合で、図21に示したカソードの配置で観測されたVdc値の大幅な低下は観測されず、O2流量 0.0 sccmで350 Vから480 V(この時、堆積速度は48 nm/min)という、逆のVdc値の大幅な増加が観測された。O2流量 を0.1 刻みの0.1、0.2、0.3 sccmと変化させた場合も、同じように大きなVdc=480 Vを示した。
本発明のカソードでは、特許第5555848号に記載の可動ヨーク方式のカソードで問題となった、ターゲット面に鉛直な方向へのカソード移動によるカソード長大化及び、可動ヨークと外側円筒形状固定永久棒磁石を空間的に分離する時の大きな力を必要、という2つの問題が避けることができる。回転ヨークと非磁性体が埋め込まれている円板状固定永久磁石が接触を保持した状態で円板状固定永久磁石面上を回転させるには、大きな力を必要としない。
本発明のカソードが、ターゲット面に鉛直な方向へのカソードの移動がない状態で且つ、ターゲット面に水平な方向へのヨーク回転のみで、(a) 対向ターゲット間の磁場分布が、複合対向モード磁場分布から対向モード磁場分布への切替或は、その逆向きの切替が、真空を破らずにスパッタ中においても容易に出来る、(b)対向ターゲット間の磁場分布切替によるスパッタ電圧の制御即ち、対向ターゲット間でのプラズマ電位制御技術が真空を破らずにスパッタ中においても容易に出来る、(c) RF−DC結合電源との組み合わせで更なる低ダメージスパッタとして非常に有効である、(d)薄膜作製の用途に応じて、初期成長層には堆積速同じ度が遅くとも低ダメージスパッタが出来る対向ターゲット間の磁場分布が対向モード磁場分布+逆向き対向モード磁場分布+平衡マグネトロンモード磁場分布からなる複合対向モード磁場分布とRF−DC結合電源の組み合わせで堆積し、残りの成長層には堆積速度が速い対向ターゲット間の磁場分布が対向モード磁場分布とRF−DC結合電源の組み合わせで堆積する薄膜作製方法が実現できることを示している。
本実施形態2だけでなく、実施形態1においても、1)対向ターゲット間の磁場分布が対向モード磁場分布+逆向き対向モード磁場分布+平衡マグネトロンモード磁場分布からなる複合対向モード磁場分布の状態において、RF−DC結合電源との組み合わせの方法を採用することで、更なる低ダメージスパッタとして同じ効果、2)対向ターゲット間の磁場分布が対向モード磁場分布+逆向き対向モード磁場分布+非平衡マグネトロンモード磁場分布からなる複合対向モード磁場分布の状態においては、RF−DC結合電源との組み合わせの方法を採用することで、実施形態1の対向ターゲット間の磁場分布が対向モード磁場分布の場合と同じ効果、3)実施形態2で示した同じ薄膜作製方法、が実現できる。
本実施形態2では、ターゲット形状は丸形で説明しているが、任意のターゲット形状の場合、例えば矩形ターゲットにも、この方法は適用できる。矩形ターゲットの場合は、丸棒が円板中心から突き出た形状のヨークを採用するときは、矩形ターゲット形状にあわせて矩形形状の突き出たヨークを採用すればよい。また、薄膜作製の用途に応じて、図21及び22で示した本発明のカソードで、堆積速度高めるためにカソードをそれぞれ15度以内の角度で垂直方向からチルトした状態で用いてもよい。
図25は、図21で示した本発明のカソードを、ターゲット利用効率向上のために採用されている円筒形回転ターゲットへ適用した例を示す。円筒形回転ターゲット材料は1種類である。図26は、図22で示した本発明のカソードを、円筒形回転ターゲットへ適用した例を示す。円筒形回転ターゲット材料は1種類である。図27は、図21で示した本発明のカソードを、円筒形回転ターゲットへ適用した例を示す。円筒形回転ターゲット材料は異なった4種類の材料で構成され、真空を破らずに円筒形回転ターゲットを回転させることで、4層の積層薄膜を作成できる。図28は、図22で示した本発明のカソードを、円筒形回転ターゲットへ適用した例を示す。円筒形回転ターゲット材料は異なった4種類の材料で構成され、真空を破らずに円筒形回転ターゲットを回転させることで、4層の積層薄膜を作成できる。図29は、図21で示した本発明のカソードを、円柱形回転ターゲットへ本発明を適用した例を示す。円柱形回転ターゲット材料は異なった4種類の材料で構成され、真空を破らずに円柱形回転ターゲットを回転させることで、4層の積層薄膜を作成できる。図30は、図22で示した本発明のカソードを、円柱形回転ターゲットへ本発明を適用した例を示す。円柱形回転ターゲット材料は異なった4種類の材料で構成され、真空を破らずに円柱形回転ターゲットを回転させることで、4層の積層薄膜を作成できる。尚、何れも薄膜作製の用途に応じて、図21及び22で示した本発明のカソードで、堆積速度高めるためにカソードをそれぞれ15度以内の角度で垂直方向から傾けた状態で用いてもよい。
図25から図30は、実施形態2で示した本発明のカソードを用いた適用例を示したが、実施形態1に示した本発明のカソードを用いて適用してもよい。また、ターゲット形状は丸形で説明しているが、任意のターゲット形状の場合、例えば矩形ターゲットにも、この方法を適用してもよい。矩形ターゲットの場合は、丸棒が円板中心から突き出た形状のヨークを採用するときは、矩形ターゲット形状にあわせて矩形形状の突き出たヨークを採用すればよい。スパッタに用いるその電源は、パルス電源だけでなくDC電源やRF電源単独、パルススパッタ電源、或いはRF−DC結合電源と組み合わせる方法を用途に応じて使用してもよい。
以上、本発明の実施形態の一例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇において各種の変更が可能であることは言うまでもない。
本発明のスパッタ装置用カソードは、熱的・物理的損傷に弱いフィルム基板上にダメージ無く薄膜単層及び多層構造を堆積して作るエレクトロニクス部品を提供でき、電子工業、時計工業、機械工業、光学工業において、欠くことのできない重要なものである。
1:二次電子
2:磁力線
3:ターゲット
4:バッキングプレート
5:外側円筒形状固定永久棒磁石S極
6:外側円筒形状固定永久棒磁石N極
7:固定棒磁石S極
8:固定棒磁石N極
9:可動棒磁石S極
10:可動棒磁石N極
11:可動棒磁石のターゲット面垂直方向移動
12:固定丸棒付可動円板ヨーク
13:固定丸棒付可動円板ヨークのターゲット面垂直方向移動
14:固定丸棒ヨークにコイルが設置された電磁石
15:電磁石のコイルに流す電流の向き
16:固定丸棒付固定円板ヨークで固定丸棒にコイルが設置された電磁石
17:固定丸棒付固定円板ヨーク
18:固定丸棒無固定円板ヨーク
19:回転ヨーク
20:回転ヨークの回転方向
21:非磁性体
22:円板形状固定永久磁石S極
23:円板形状固定永久磁石N極
24:フィルム或いは基板
25:フィルム或いは基板の移動
26:図21或は図22で示した本発明カソード
27:1種類のターゲット材料で構成される円筒形回転ターゲット
28:円筒形回転ターゲット又は四角柱回転ターゲットの回転軸
29:円筒形回転ターゲット又は四角柱回転ターゲットの回転方向
30:4種類のターゲット材料で構成される円筒形回転ターゲット
31:4種類のターゲット材料で構成される四角柱回転ターゲット
2:磁力線
3:ターゲット
4:バッキングプレート
5:外側円筒形状固定永久棒磁石S極
6:外側円筒形状固定永久棒磁石N極
7:固定棒磁石S極
8:固定棒磁石N極
9:可動棒磁石S極
10:可動棒磁石N極
11:可動棒磁石のターゲット面垂直方向移動
12:固定丸棒付可動円板ヨーク
13:固定丸棒付可動円板ヨークのターゲット面垂直方向移動
14:固定丸棒ヨークにコイルが設置された電磁石
15:電磁石のコイルに流す電流の向き
16:固定丸棒付固定円板ヨークで固定丸棒にコイルが設置された電磁石
17:固定丸棒付固定円板ヨーク
18:固定丸棒無固定円板ヨーク
19:回転ヨーク
20:回転ヨークの回転方向
21:非磁性体
22:円板形状固定永久磁石S極
23:円板形状固定永久磁石N極
24:フィルム或いは基板
25:フィルム或いは基板の移動
26:図21或は図22で示した本発明カソード
27:1種類のターゲット材料で構成される円筒形回転ターゲット
28:円筒形回転ターゲット又は四角柱回転ターゲットの回転軸
29:円筒形回転ターゲット又は四角柱回転ターゲットの回転方向
30:4種類のターゲット材料で構成される円筒形回転ターゲット
31:4種類のターゲット材料で構成される四角柱回転ターゲット
Claims (5)
- ターゲットが設置されたバッキングプレートと、
前記バッキングプレートの直下に設置された外側円筒形状固定永久棒磁石と、
前記外側円筒形状固定永久棒磁石の円筒形状中心部分に置かれた、固定丸棒ヨーク又は外側円筒形状固定永久棒磁石に対して反対の磁極の固定丸棒永久磁石と、
前記固定丸棒ヨーク又は前記固定丸棒永久磁石の周りに巻かれたコイルと、
前記外側円筒形状固定永久棒磁石と、前記固定丸棒ヨーク又は前記固定丸棒永久磁石とに、前記バッキングプレートと反対側で短絡した円板ヨークと、を備え、
前記外側円筒形状固定永久棒磁石と、前記固定丸棒ヨーク又は前記固定丸棒永久磁石と、前記バッキングプレートとが共に接地したカソードにおいて、
当該カソードが一対で対向し、対向するカソード間で反対磁極を形成し、対向するターゲット間の磁場分布及びスパッタ電圧を制御する、スパッタ装置用カソード。 - 外側に配置された任意形状の外側固定永久棒磁石と、
前記外側固定永久棒磁石の中心に置かれ、コイルが付帯した、任意形状の固定ヨーク、又は前記外側固定永久棒磁石の中心に置かれ、前記外側固定永久棒磁石に対して反対の磁極を有し、コイルが付帯した、任意形状の内側固定永久磁石と、
前記外側固定永久棒磁石と、前記固定ヨーク又は前記内側固定永久磁石のそれぞれの一端が短絡した平板ヨークと、を備え、
前記外側固定永久棒磁石と、前記固定ヨーク又は前記内側固定永久磁石のそれぞれの他端が前記バッキングプレートに接地している、請求項1に記載のカソード。 - ターゲットが設置されたバッキングプレートと、
前記バッキングプレートの直下に設置され、前記バッキングプレートに接地した外側円筒形状固定永久棒磁石と、
前記外側円筒形状固定永久棒磁石に接地された永久磁石面と、非磁性体面とが区分けされた円板の面板において、前記非磁性体面に開けられた面板の穴を貫通し、前記バッキングプレートに接地した回転ヨークと、を備え、
前記回転ヨークは、前記ターゲットに対して垂直な回転軸での回転により、前記円板の面板の前記永久磁石面に短絡するか、又は前記円板の面板の前記非磁性体面に接地するかを制御し、
当該カソードが一対で対向し、対向するカソード間で反対磁極を形成し、対向するターゲット間の磁場分布及びスパッタ電圧を制御する、スパッタ装置用カソード。 - 外側に配置され、前記バッキングプレートに設置した、任意形状の外側固定永久棒磁石と、
前記外側固定永久棒磁石に接地した前記永久磁石面と、前記非磁性体面とが区分けされた任意形状の固定ヨーク板と、
前記非磁性体面に開けられた面板の穴を貫通し、前記バッキングプレートに接地した前記回転ヨークと、を備え、
対向する一対のカソードに設置された、前記外側固定永久棒磁石、前記永久磁石面、及び前記固定ヨーク板が、対向するカソード間で反対磁極を形成する、請求項3に記載のカソード。 - 対向するカソード間の磁場分布を、複合対向モード磁場分布の状態又は対向モード磁場分布の状態に設定し、
RF−DC結合電源をスパッタ電源に用いることで、成膜中のスパッタ電圧を可変に制御する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のカソード。
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