以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る印刷装置10の一例を示す。図1(a)、(b)は、印刷装置10の要部の構成の一例を簡略化して示す上面図及び側断面図である。尚、以下において説明をする点を除き、印刷装置10は、公知の印刷装置と同一又は同様の特徴を有してよい。例えば、印刷装置10は、以下において説明をする構成に加え、公知の印刷装置と同一又は同様の様々な構成を更に備えてもよい。
本例において、印刷装置10は、インクジェット方式で印刷を行うインクジェットプリンタであり、ヘッド部12、媒体支持部14、ガイドレール16、走査駆動部18、プリントヒータ20、プレヒータ22、アフターヒータ24、及び制御部30を備える。また、印刷装置10は、ヘッド部12に主走査動作を行わせるシリアル型のインクジェットプリンタである。この場合、主走査動作とは、例えば、予め設定された主走査方向(図中のY方向、ヘッド走査方向)へ移動しつつインク(インク滴)を吐出する動作のことである。また、ヘッド部12に主走査動作を行わせるとは、ヘッド部12におけるインクジェットヘッドに主走査動作を行わせることである。また、本例において、印刷装置10は、例えば、印刷対象の媒体(メディア)50の各位置に対して複数回の主走査動作を行うマルチパス走査方式により、シリアル方式での印刷を実行する。
ヘッド部12は、媒体50に対してインクを吐出する部分であり、キャリッジ100、複数のインクジェットヘッド(プリントヘッド)及び紫外線照射部104を備える。キャリッジ100は、複数のインクジェットヘッド及び紫外線照射部104を保持する保持部材である。また、本例において、ヘッド部12は、複数のインクジェットヘッドとして、図中に示すように、インクジェットヘッド102c、インクジェットヘッド102m、インクジェットヘッド102y、及びインクジェットヘッド102k(以下、インクジェットヘッド102c〜kという)を有する。これらのインクジェットヘッドは、主走査方向と直交する副走査方向(図中のX方向)における位置を揃えて、主走査方向へ並べて配設されている。
また、インクジェットヘッド102c〜kは、互いに異なる色のインクを吐出するインクジェットヘッドであり、フルカラーの表現に用いる基本色であるプロセスカラーの各色のインクを吐出する。より具体的に、インクジェットヘッド102cは、シアン色(C色)のインクを吐出する。インクジェットヘッド102mは、マゼンタ色(M色)のインクを吐出する。インクジェットヘッド102yは、イエロー色(Y色)のインクを吐出する。インクジェットヘッド102kは、ブラック色(K色)のインクを吐出する。また、本例において、CMYKの各色のインクとしては、例えば、CMYKの各色の顔料を含むインクを用いる。この場合、顔料は、固体の色材の一例である。
また、本例において、インクジェットヘッド102c〜kから吐出するインク(カラーインク)としては、蒸発乾燥型のインクを用いる。この場合、蒸発乾燥型のインクとは、例えば、媒体50に定着させるために溶媒を蒸発させるインクのことである。溶媒とは、例えば、インク中の他の成分を溶解又は分散させる液体のことである。また、蒸発乾燥型のインクについては、例えば、溶媒を30重量%以上含むインク等と考えることもできる。蒸発乾燥型のインク中の溶媒の含有量は、70重量%以上であることがより好ましい。また、この場合、溶媒としては、インクの種類に応じた液体を用いる。例えば、水性のインクの場合、溶媒としては、水等の水性溶媒を用いる。また、ソルベントタイプのインクの場合、溶媒として、有機溶剤を用いる。また、溶媒については、特定の液体に限定されず、水、水と1種類以上の溶剤(有機溶剤)とを混合した液体、又は複数の溶剤を混合した液体等の、様々な液体を用いることが考えられる。
また、本例においてカラーインクとして用いる蒸発乾燥型のインクは、エネルギー線を照射することで発熱するインク(瞬間乾燥型のインク)である。エネルギー線を照射することでインクが発熱するとは、例えば、照射されたエネルギー線をインクが吸収することで、インク自体が発熱することである。また、この場合、本例において用いるカラーインクについては、例えば、溶媒を含み、かつ、エネルギー線に応じて発熱するインク等と考えることができる。
また、本例において、エネルギー線としては、紫外線(UV光)を用いる。この場合、カラーインクについて、例えば、紫外線の照射により瞬間的に乾燥するカラーインク(UV瞬間乾燥カラ―インク)等と考えることができる。また、この場合、カラーインクとしては、例えば、紫外線吸収剤(UV吸収剤)を含むインクを用いる。紫外線吸収剤は、エネルギー線を吸収して発熱するエネルギー線吸収剤の一例である。紫外線吸収剤については、例えば、紫外線の照射に応じて瞬間的にインク中の溶媒を加熱し、乾燥させるための物質等と考えることもできる。また、紫外線吸収剤としては、ヘッド部12における紫外線照射部104が発生する紫外線を適切に吸収する物質(紫外線照射部104の発光波長の紫外線を吸収する物質)を用いることが好ましい。このように構成すれば、例えば、紫外線の照射によりカラーインクを適切に発熱させ、瞬間乾燥型のインクとして機能させることができる。また、カラーインクの組成によっては、インクビヒクルのいずれかの成分(例えば色材、樹脂、溶媒等)として、紫外線吸収作用を有する成分を用いることも考えられる。この場合、インクを発熱させる用途の専用の紫外線吸収剤を添加するのではなく、インク中の他の成分(例えば色材、樹脂、溶媒等)に紫外線吸収剤の機能を兼用させてもよい。また、本例において用いる瞬間乾燥型のインクについては、例えば、照射される紫外線のエネルギー(UV光エネルギー)を熱エネルギーに変換することで発熱するインク等と考えることもできる。
また、本例において、カラーインクとしては、溶媒の蒸発に伴って粘度が急速に上昇するインク(急速高粘度化蒸発乾燥特性を持つインク)を用いる。より具体的に、例えば、インクジェットヘッド102c〜kのそれぞれからの吐出時にインクが含む溶媒の量を初期溶媒量と定義した場合、媒体50上のインクへの紫外線の照射により初期溶媒量から45体積%以上の溶媒が蒸発した時点で、インクの粘度は、50mPa・sec以上になる。このように構成すれば、例えば、紫外線の照射によりインクを乾燥させる場合において、インクの粘度を短時間で十分に高めることができる。本例において用いるインクについて、このような粘度の上昇に関する特徴については、後に更に詳しく説明をする。また、上記及び以下に説明をする点を除き、本例において用いるインクは、公知の蒸発乾燥型のインクと同一又は同様の特徴を有してよい。例えば、本例において用いるインクは、公知のインクと同一又は同様の成分(例えば、分散剤等)を更に含んでよい。
また、本例のヘッド部12において、紫外線照射部104は、エネルギー線照射部及びUV照射手段の一例であり、媒体50に付着したカラーインクへ紫外線を照射することにより、カラーインクを発熱させる。このように構成すれば、例えば、効率的かつ適切にカラーインクを加熱して、インク中の溶媒の少なくとも一部を蒸発させることができる。また、本例において、紫外線照射部104における紫外線光源としては、例えば、紫外線を発生するLEDであるUVLED(UV−LED照射手段)を用いる。この場合、紫外線照射部104について、例えば、UVLED照射器等と考えることができる。このように構成すれば、例えば、必要な波長範囲の紫外線を適切かつ効率的に照射することができる。UVLEDとしては、発光の中心波長が400nm以下のUVLEDを好適に用いることができる。また、より具体的に、この場合、UVLEDにより、例えば、360〜390nmに発光中心を持つ0.1〜5Joule/cm2程度の強さの紫外線を照射することが考えられる。また、UVLEDにより発生する紫外線の波長については、上記に限定されず、使用する瞬間乾燥型のインクを適切に加熱できる波長であればよい。
また、本例において、紫外線照射部104は、インクジェットヘッド102c〜kと副走査方向における位置を揃えて、主走査動作時にインクジェットヘッド102c〜kの後ろ側になる位置に配設される。また、この構成により、紫外線照射部104は、媒体50において印刷がされる各位置に対し、インクジェットヘッド102c〜kがカラーインクを吐出した後に、紫外線を照射する。また、これにより、紫外線照射部104は、カラーインクを発熱させて、カラーインクの溶媒の少なくとも一部を気化させ、蒸発させる。このように構成すれば、例えば、カラーインクについて、短時間で効率的に乾燥させることができる。
媒体支持部14は、媒体50を支持する台状部材(プラテン)であり、ヘッド部12と対向させて媒体50を支持する。また、本例において、媒体支持部14は、内部にプリントヒータ20、プレヒータ22、及びアフターヒータ24を収容する。ガイドレール16は、主走査動作時にヘッド部12の移動をガイドするレール部材である。
走査駆動部18は、媒体50に対して相対的に移動する走査動作をヘッド部12に行わせる駆動部である。この場合、ヘッド部12に走査動作を行わせるとは、例えば、ヘッド部12におけるインクジェットヘッド102c〜kに走査動作を行わせることである。また、本例において、走査駆動部18は、走査動作として、主走査動作及び副走査動作をヘッド部12に行わせる。この場合、走査駆動部18は、ヘッド部12に主走査動作を行わせることにより、媒体50の各位置に対し、インクジェットヘッド102c〜kにカラーインクを吐出させる。また、主走査動作時にインクジェットヘッド102c〜kと共に紫外線照射部104を移動させることにより、媒体50上のカラーインクへ紫外線を照射させる。また、本例において、印刷装置10は、図中にプリント時移動方向として矢印で示した一方の向き(片方向)での主走査動作のみを行う片方向プリンタである。また、走査駆動部18は、主走査動作の合間(パス走査毎)に副走査動作をヘッド部12に行わせることで、媒体50においてヘッド部12と対向する位置を順次変更する。この場合、副走査動作とは、例えば、主走査方向と直交する副走査方向へ媒体50に対して相対的に移動する動作のことである。また、より具体的に、本例において、走査駆動部18は、図中にX方向として示した方向と平行な搬送方向へ媒体50を搬送することにより、ヘッド部12に副走査動作を行わせる。この場合、例えば図示を省略したローラ等を用いて、図中に矢印で示す搬送方向(メディア搬送方向)へ媒体50を搬送する。
プリントヒータ20、プレヒータ22、及びアフターヒータ24は、媒体50を加熱する加熱手段である。また、これらのうち、プリントヒータ20は、ヘッド部12と対向する位置(ヘッド部12の下の位置)において媒体50を加熱するヒータである。プリントヒータ20を用いることにより、例えば、媒体50上のインクをより効率的に加熱することが可能になる。また、この場合、本例の印刷装置10の構成について、紫外線照射部104とプリントヒータ20とを併用してインクを乾燥させる構成と考えることもできる。
ここで、プリントヒータ20での加熱温度が高い場合、例えばヘッド部12におけるインクジェットヘッドが加熱されることで、ノズル詰まり等の問題が生じやすくなる。この場合、ノズル詰まりとは、例えば、インクジェットヘッドのノズルがインクの乾燥により詰まることである。そのため、プリントヒータ20による加熱温度については、70℃以下にすることが好ましい。また、本例においては、上記においても説明をしたように、紫外線照射部104を用いて、インクを効率的に加熱することが可能である。そのため、プリントヒータ20による加熱温度については、環境温度の影響を抑え、媒体50の温度を一定化すること等を目的に、十分に低い温度にすることがより好ましい。この場合も、プリントヒータ20を用いることにより、インク中の溶媒の蒸発条件を適切に一定化することができる。また、より具体的に、プリントヒータ20は、例えば、プリントヒータ20と対向する領域に対し、室温により近い温度(例えば、50℃以下程度、より具体的には、例えば、30〜50℃程度)での加熱を行う。また、プリントヒータ20による媒体50の加熱温度については、好ましくは40℃以下、更に好ましくは35℃以下である。このように構成すれば、例えば、ノズル詰まり等の問題を抑えつつ、環境温度の影響等を適切に抑えることができる。
また、プレヒータ22は、搬送方向においてヘッド部12よりも上流側で媒体50を加熱(予備加熱)するヒータである。プレヒータ22を用いることにより、例えば、ヘッド部12の位置へ到達する前に、媒体50の初期温度を適切に調整することができる。また、この場合、プレヒータ22による媒体50の加熱温度についても、例えば、環境温度の影響を抑えること等を目的に、十分に低い温度(例えば50℃以下、好ましくは40℃以下、更に好ましくは35℃以下)にすることが好ましい。アフターヒータ24は、搬送方向においてヘッド部12よりも下流側で媒体50を加熱するヒータである。アフターヒータ24を用いることにより、例えば、印刷を完了するまでの間に、インクをより確実に乾燥させ、溶媒の残留を防止することができる。また、アフターヒータ24を用いることで、例えば、媒体50へのインクの接着性を高めること等も可能になる。アフターヒータ24による媒体50の加熱温度については、例えば30〜50℃程度にすることが考えられる。また、アフターヒータ24については、例えば、プリントヒータ20での加熱を行った時点では残留している溶媒成分を完全に除去するための後加熱用のヒータ(後乾燥手段)等と考えることができる。また、アフターヒータ24の加熱温度については、使用する媒体50の耐熱温度以下の範囲で、ある程度の高い温度に設定してもよい。
また、上記においても説明をしたように、本例においては、紫外線照射部104を用いて、インク中の溶媒の少なくとも一部を蒸発させる。そして、この場合、インクの乾燥については、主に紫外線の照射により行うことができる。そのため、印刷装置10を使用する環境や求められる印刷の品質によっては、プリントヒータ20、プレヒータ22、アフターヒータ24のうちの一部又は全てを省略してもよい。また、プリントヒータ20、プレヒータ22、及びアフターヒータ24としては、公知の様々な加熱手段を用いることが考えられる。より具体的に、プリントヒータ20、プレヒータ22、及びアフターヒータ24としては、例えば、各種ヒータや温風機等(例えば、伝熱ヒータ、温風ヒータ、赤外線ヒータ等)を好適に用いることができる。また、アフターヒータ24として、例えば、紫外線光源(UV後照射手段)を用いること等も考えられる。
制御部30は、例えば印刷装置10のCPUであり、印刷装置10の各部の動作を制御する。制御部30は、例えば、各回の主走査動作時において、印刷すべき画像に応じて設定されるタイミングにインクジェットヘッド102c〜kにインクを吐出させる。本例によれば、例えば、瞬間乾燥型のインクを用いて、所望の画像を適切に印刷することができる。
続いて、本例において行う印刷の動作の特徴について、更に詳しく説明をする。図2は、媒体50にカラーインクが着弾した後に生じる現象について説明をする図である。図2(a)は、従来の構成の瞬間乾燥型インクを用いるにおけるインクの乾燥の仕方の例(従来の乾燥モデル)を示す図であり、カラーインクにより形成される一つのドットの状態の一例を示す。図2(b)は、本例の瞬間乾燥型インクを用いるにおけるインクの乾燥の仕方の例(本例の乾燥モデル)を示す図であり、カラーインクにより形成される一つのドットの状態の一例を示す。また、図示の便宜上、図2(a)、(b)においては、色の濃さの違いについて、網掛け模様により模式的に示している。図2(c)は、図2(a)、(b)に示した状態におけるインクの濃度分布(乾燥後の濃度分布)を比較するグラフである。
上記においても説明をしたように、本例においては、瞬間乾燥型のカラーインク等を用い、紫外線を照射することにより、インク乾燥させる。そして、この場合、例えばヒータ等で媒体を加熱することで間接的にインクを加熱する場合と異なり、紫外線の照射により直接的にインクを加熱することにより、例えば、周辺の構成や媒体50への影響を抑えつつ、インクを効率的かつ適切に加熱することもできる。また、これにより、例えば、ヒータのみを用いて加熱を行う場合と比べて、インクの温度をより高い温度にまで加熱することができる。
しかし、この場合、従来の構成の瞬間乾燥型のカラーインクを用いるのみであると、インクの高温化により一時的にインクが低粘度化して、インクの液滴が媒体に着弾することで形成されるインクのドット内において、例えば図2(a)の中に矢印で示すように、中心部から周縁部へ向かって、インクの成分の流れが生じることが考えられる。この場合、従来の構成の瞬間乾燥型のカラーインクを用いるとは、例えば、上記において説明をしたような溶媒の蒸発に伴って粘度が急速に上昇する特徴を有さない瞬間乾燥型のカラーインクを用いることである。また、このような現象については、例えば、インクを乾燥させる間に生じるインクの一時的な低粘度化により顔料等のインクの色材がドットの周縁部に移動しやすくなり、コーヒーステイン現象が発生しやすくなる現象等と考えることもできる。また、より具体的に、この場合、例えば図2(a)に示すように、インクのドット内での色の濃さの分布(乾燥後の濃度分布)は、中心付近で薄くなり、周辺部で濃くなるような分布になる。そして、この場合、印刷される画像において、色の薄い部分が生じることや、着色される色の平均濃度が減少すること等の影響で、画質の劣化が生じることが考えられる。また、この場合、インクのドット内での色の濃さの分布(ドット内の濃度分布)は、例えば図2(c)において符号Aを付して破線で示した曲線のようになる。この場合、インクのドットにおける周縁部のみが高濃度になり、ドットの中心部では、媒体50の地色に近い低濃度の状態になる。また、その結果、例えば、画像における着色面積率が下がり、画像が薄くなると考えられる。
これに対し、本例のように、溶媒の蒸発に伴って粘度が急速に上昇する特徴を有する瞬間乾燥型のインクを用いる場合、カラーインクの着弾の直後において、インクの粘度を適切かつ上昇させることができる。そして、この場合、紫外線の照射によりカラーインクの温度が高温になったとしても、昇温による溶媒の蒸発と共にインク中の色材の移動を妨げるように急速に高粘度化するため、色材がドットの周縁部へ移動する現象は生じにくくなる。より具体的に、この場合、カラーインクが短時間の間に高粘度化することで、紫外線の照射によりカラーインクを蒸発・乾燥させる過程(カラーインクの発熱時)において、低粘度化を生じにくくすることができる。また、これにより、例えば、インクの粘度が低い場合に生じるインク中の色材(顔料の粒子等)の移動(蒸発乾燥過程での移動)を生じにくくすることができる。そのため、本例によれば、例えば、蒸発しない成分(顔料等)がインクのドットの周縁部に集まることを適切に防ぐことができる。また、これにより、例えば、コーヒーステイン現象が生じることを適切に防いで、インクのドットについて、中心部まで適切に高濃度にすることができる。また、この場合、インクのドット内での色の濃さの分布は、例えば図2(c)において符号Bを付して実線で示した曲線のようになる。そして、この場合、符号Aを付した曲線との比較から明らかなように、インクのドットの内部まで均一な濃度分布を適切に実現できる。また、これにより、プリント物での平均濃度を適切に高め、高品質な印刷を行うことが可能になる。
続いて、本例において用いるインクに関し、溶媒の蒸発に伴って粘度が急速に上昇する特徴等について、更に詳しく説明をする。上記においても説明をしたように、本例において用いるインクの粘度は、紫外線の照射により初期溶媒量から45体積%以上の溶媒が蒸発した時点で、50mPa・sec以上になる。初期溶媒量から45体積%以上の溶媒が蒸発した時点でのインクの粘度は、好ましくは100mPa・sec以上、更に好ましくは500mPa・sec以上である。このような特徴を有するインクを用いることにより、上記においても説明をしたように、コーヒーステイン現象が生じることを適切に防ぐことができる。
また、より具体的に、本例において、インクとしては、上記のような特徴を有するラテックスインク(Latexインク)等を好適に用いることができる。この場合、ラテックスインクを用いるとは、紫外線の照射により発熱する性質のラテックスインク(瞬間乾燥型のラテックスインク)を用いることである。また、特に説明をする場合を除き、上記及び以下において説明する各種のインクとしても、紫外線の照射により発熱する性質のインク(瞬間乾燥型のインク)を用いる。また、ラテックスとは、例えば、水等の溶媒中に重合体の微粒子が安定した状態で分散している系のことである。ラテックスインクとは、このような系の状態で成分を含有するインクのことである。また、ラテックスインクについては、例えば、ラテックス樹脂粒子(Latex粒子)を含むインク等と考えることもできる。この場合、ラテックス樹脂粒子としては、例えば、粒径が30〜1200nmの状態で溶媒中に分散するラテックス樹脂の粒子(例えば、合成ラテックス樹脂の粒子)等を好適に用いることができる。この場合、ラテックス樹脂粒子の粒径とは、例えば、設計上の粒径(直径)である。また、ラテックス樹脂粒子について、粒径が30〜1200nmであるとは、例えば、インクに含まれるラテックス樹脂粒子のうち、重量比で70%(70重量%)以上の割合のラテックス樹脂粒子の粒径がこの範囲内にあることである。この割合については、好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上である。
また、この場合、インクの粘度は、初期溶媒量から45体積%以上の溶媒が蒸発した状態で、例えば、ラテックス樹脂粒子が互いに接近して、粒子間の距離が短くなること等により、急速に上昇する。これは、ラテックス樹脂粒子の粒子間の距離が短くなることで、例えば、粒子間に働く引力や摩擦力が増大するためであると考えられる。また、この場合、例えば、ラテックス樹脂粒子の間等においてラテックス樹脂粒子を囲むように存在している分散剤が互いに接近することでも、粒子間力の増大や摩擦の影響が大きくなり、インクの粘度が上昇すると考えられる。そのため、本例によれば、例えば、インクに紫外線を照射することで、インクの粘度を急速かつ適切に高めることができる。
また、ラテックスインクを用いる場合、上記のような粘度の急速な上昇は、溶媒中に分散していた成分が凝集することで生じていると考えることもできる。そのため、ラテックスインクを用いる場合、上記のようにして粘度が上昇する特徴については、例えば、初期溶媒量から45体積%以上の溶媒が蒸発した時点で溶媒中に分散していた成分が凝集する特徴等と考えることもできる。また、この場合、溶媒中に分散していた成分とは、例えば、溶媒の量が初期溶媒量の時点で溶媒中に分散していた成分(例えば、ラテックス樹脂粒子等)のことである。
また、ラテックスインクにおける粘度の上昇の仕方については、例えば図3を用いて以下において説明をするように、ソルベントインク等に比べて、溶媒の蒸発に対する増粘が早いと考えることができる。図3は、ラテックスインクにおける粘度の上昇の仕方について説明をする図である。図3(a)は、ラテックスインクが含むラテックス樹脂粒子(Latex粒子)を模式的に示す。図3(b)は、インクによる粘度変化の違いの例を示すグラフであり、ラテックスインク及びソルベントインクについて、蒸発による溶媒の減少に伴うインクの粘度の変化の例を示す。
ここで、図3(b)においては、図示の便宜上、インクの溶媒の減少量について、粘度とインク重量減少率の関係と図中に示すように、重量比での減少率(インク重量減少率)で図示をしている。しかし、この場合も、体積比に換算すれば、ラテックスインクの粘度について、初期溶媒量から45体積%以上の溶媒が蒸発した時点で50mPa・sec以上になっている。また、本例において、ラテックスインクには、例えば図3(a)に示すように、球状の樹脂の粒子が分散していると考えることができる。そして、この場合、溶媒の蒸発により溶媒の量が当初の40重量%(wt%)程度減少すると、ラテックスインクの粘度は、100mPa・sec程度以上(少なくとも、50mPa・sec以上)に上昇する。また、この場合、体積比で考えると、初期溶媒量から45体積%以上の溶媒が蒸発した時点で、インクの粘度が100mPa・sec程度以上(少なくとも、50mPa・sec以上)に上昇していると考えることができる。そして、この場合、ラテックスインクについて、例えば、急速高粘度化インクとしての条件を満足していると考えることができる。そのため、この場合、例えば、紫外線の照射によりインクを加熱することでインクの温度が高温になったとしても、インクの粘度が低くなり過ぎることを適切に防ぐことができる。また、これにより、例えば、インクを乾燥させる初期の段階において、インクの流動及び滲みを止めて、コーヒーステイン現象等を効果的に抑制することができる。
これに対し、図3(b)にラテックスインクの特性と対比して示すように、ソルベントインクを用いる場合、インクの溶媒が減少しても、インクの粘度は、ラテックスインクの場合と比べ、はるかにゆっくり上昇する。より具体的に、例えば、溶媒の蒸発により溶媒の量が当初の40重量%(wt%)程度減少した時点において、ソルベントインクの粘度は、依然、略10mPa・sec以下である。
ここで、上記においても説明をしたように、ラテックスインクにおいて、ラテックス樹脂粒子は、インクの溶媒中に、分散している。そして、この場合、溶媒の量が少なくなると、粒子間の距離が短くなることで、溶媒に分散していた成分が凝集して、インクの粘度が急速に上昇する。これに対し、ソルベントインクの場合、樹脂(バインダ樹脂)等の成分は、溶媒として用いる溶剤中に対し、分散ではなく、溶解している。そして、この場合、溶媒の量が減少したとしても、ラテックスインクの場合のような凝集等は生じない。また、その結果、ソルベントインクの場合の粘度の上昇に仕方は、ラテックスインクの場合と比べ、ゆっくりになっていると考えられる。また、図からわかるように、ソルベントインクの場合も、溶媒の量が当初の80重量%(wt%)程度減少した時点において、粘度が大きく上昇している。これは、例えば、溶媒の量が極めて少なくなることで、溶媒中に溶解していた成分(バインダ樹脂等)が溶けきらなくなった影響等と考えることができる。
また、上記においても説明をしたように、ラテックスインクを用いる場合、ラテックス樹脂粒子が溶媒中に分散しているために、上記のような粘度の急上昇が生じていると考えることができる。そして、この場合、ラテックス樹脂粒子について、例えば、増粘性物質の一例と考えることができる。増粘性物質とは、例えば、インク中の溶媒量が減少した場合にインクの粘度を上昇させる物質のことである。また、増粘性物質については、例えば、インクがその物質を含まない場合よりも急速にインクの粘度を上昇させる物質等と考えることもできる。また、本例において用いるインクの変形例においては、上記のように粘度が急速に上昇するインクとして、ラテックスインク以外のインクを用いることも考えられる。そして、この場合も、何らかの増粘性物質を含むインクを用いることが考えられる。
また、増粘性物質の性質によっては、必ずしも溶媒中に分散する物質ではなく、溶媒中に溶解する物質等を用いることも考えられる。例えば、分子量が十分に大きな物質を用いる場合、増粘性物質が溶媒に溶解していたとしても、溶媒の減少時にインクの粘度を急速に上昇させることが可能である。より具体的に、この場合、インクとして、例えば、溶媒中に溶解する高分子物質又はオリゴマを含むインク等を用いると等が考えられる。この場合、高分子物質又はオリゴマについて、増粘性物質の一例と考えることができる。また、この場合、例えば分子量が十分に大きな高分子物質又はオリゴマを用いることで、インクの溶媒の蒸発が進んだ時点(例えば、初期溶媒量から45体積%以上の溶媒が蒸発した時点)において、高分子物質又はオリゴマの分子間力(例えば、分子鎖間力)を適切に増大させることができる。また、この場合、分子間力の増大に加え、分子間に縺れ合い(例えば、分子鎖の縺れ合い)が生じること等も考えられる。そして、この場合、例えばインクがゲル状に変化して、粘度が急速に上昇することになる。そのため、このように構成した場合も、例えば、インクに紫外線を照射することで、インクの粘度を急速かつ適切に高めることができる。
また、上記のように粘度が急速に上昇するインク(急速高粘度化蒸発乾燥特性を持つインク)としては、上記以外にも、様々なインクを用いることが考えられる。図4は、急速高粘度化蒸発乾燥特性を持つインクの様々な変形例について説明をする図である。図4(a)、(b)、(c)は、急速高粘度化蒸発乾燥特性を持つインクの様々な変形例を示す。
先ず、図4(a)に示した変形例について、説明をする。本変形例において、インクとしては、色材を高分子樹脂等の樹脂で被覆した粒子である色材被覆樹脂粒子を含むコロイド状のインクを用いる。また、色材としては、例えば、顔料を用いることが考えられる。この場合、色材被覆樹脂粒子について、例えば、顔料間の静電反発を軽減するために個々の顔料の粒子又は複数の顔料の粒子を高分子樹脂で被覆したカプセル型の色材粒子等と考えることもできる。また、本変形例において、色材被覆樹脂粒子は、溶媒中に分散して存在する。そして、溶媒の蒸発により溶媒量が減少した場合には、色材被覆樹脂粒子の粒子間の距離が短くなること等により、上記において説明をしたラテックスインクの場合と同一又は同様にして、インクの粘度が急速に上昇する。そのため、本変形例においては、色材被覆樹脂粒子について、増粘性物質の一例と考えることができる。
ここで、本変形例のインクについては、例えば、日本国の特許公開公報である特開2013−241565号公報において本発明のインク等として説明をされているインク(以下、次世代インクという)に対し、例えば紫外線吸収剤を添加することで、瞬間乾燥型にしたインク(瞬間乾燥型の次世代インク)等と考えることができる。また、この場合、例えば色材被覆樹脂粒子や分散剤の添加量を調整することで、上記のように粘度が急上昇するインクを適切に実現することができる。また、上記以外の点に関し、本変形例のインクについては、特開2013−241565号公報に開示されている次世代インクと同一又は同様の特徴を有してよい。また、上記においては、説明の便宜上、本変形例のインクについて、ラテックスインクと区別して説明をしている。しかし、本変形例のインクについて、ラテックスインクの特徴を備えたインク(例えば、特殊なラテックスインク)等と考えることもできる。
続いて、図4(b)、(c)に示した変形例等について、説明をする。上記においては、インクの粘度を急上昇させるための増粘性物質に関し、主に、樹脂を用いる場合について、説明をした。しかし、増粘性物質としては、樹脂以外の物質を用いること等も考えられる。また、このような増粘性物質としては、例えば、セルロースの繊維であるセルロースファイバ等を用いることが考えられる。このようなインクについては、例えば、セルロースファイバを含む瞬間乾燥型のインク等と考えることができる。また、この場合、蒸発によりインク中の溶媒が減少すると、セルロースファイバ間の距離が短くなって分子間力が大きくなることや、縺れ合いが生じること等により、インクの粘度が急速に上昇することになる。
セルロースファイバとしては、例えば、平均繊維長が1μm以下のセルロースファイバであるセルロースナノファイバを用いることがより好ましい。また、セルロースファイバの平均繊維長は、700nm以下(例えば、50〜700nm程度)であることがより好ましい。このように構成すれば、例えば、インクに紫外線を照射することで、インクの粘度をより急速かつ適切に高めることができる。また、セルロースファイバとしては、無色で透明なものを好適に用いることができる。このように構成すれば、例えば、インクの色への影響を抑えつつ、セルロースファイバを適切にインクに添加できる。
また、セルロースファイバについては、例えば図4(b)に示すように、樹脂で被覆した状態でインクに添加することが考えられる。この場合、インクは、例えば、高分子樹脂等の樹脂でセルロースファイバを被覆した樹脂粒子を含むことになる。このように構成すれば、例えば、溶媒中でセルロースファイバの偏りが生じること等を適切に防ぐことができる。また、セルロースファイバを直接添加する場合と比べ、例えば、吐出動作への影響等を生じにくくすること等も可能になる。そのため、本変形例によれば、増粘性物質としてセルロースファイバを用いる場合において、セルロースファイバをより適切に添加することができる。また、求められるインクの特徴等によっては、セルロースファイバについて、インクに直接添加してもよい。この場合、セルロースファイバは、例えば溶媒中に直接分散した状態で、インクに含まれる。
また、インクの更なる変形例においては、セルロースファイバ以外の増粘性物質を含むインクに対し、更にセルロースファイバを添加してもよい。この場合、例えば瞬間乾燥型のラテックスインクに対し、セルロースファイバを添加してもよい。また、例えば、瞬間乾燥型の次世代インクに対し、セルロースファイバを添加してもよい。また、瞬間乾燥型の次世代インクにセルロースファイバを添加する場合、例えば図4(c)に示すように、色材を被覆する樹脂(色材被覆樹脂粒子)により、セルロースファイバを更に被覆してもよい。このように構成すれば、次世代インクの特徴を活かして、セルロースファイバを適切に添加することができる。
また、上記においては、インクの粘度を急速に上昇させる方法に関し、主に、増粘性物質として機能する物質に分子間力等の物理的な力が働くことで粘度を上昇させる方法(いわば、物理的な方法)について、説明をした。しかし、インクの更なる変形例においては、増粘性物質として機能する物質に化学反応をさせる化学的な方法でインクの粘度を上昇させること等も考えられる。また、より具体的に、この場合、例えば、紫外線等のエネルギー線の照射により重合する物質である重合性物質を含むインク等を用いることが考えられる。この場合、重合性物質としては、例えば紫外線の照射により硬化する樹脂(UV硬化樹脂)のモノマー又はオリゴマ等を用いることが考えられる。この場合、このような重合性物質について、増粘性物質と考えることができる。また、この場合、重合性物質は、例えば、インクの溶媒中に溶解しており、紫外線の照射に応じて重合反応を開始して、高分子化する。また、これにより、インクの粘度を急速に上昇させる。また、この場合も、インクとしては、瞬間乾燥型のインクを用いることが考えられる。そして、この場合、インクの粘度は、インクの溶媒の蒸発と同時に重合反応が生じることで、上昇する。このように構成した場合も、例えば、インクにエネルギー線を照射することで、インクの粘度を急速かつ適切に高めることができる。また、この場合、インクは、例えば、紫外線を吸収することで発熱する紫外線吸収剤として、重合の開始剤を兼ねた物質を含んでもよい。また、重合の開始剤として、インクを加熱するための紫外線吸収剤とは別の物質を添加してもよい。
上記のように、急速高粘度化蒸発乾燥特性を持つインクとしては、様々な構成のインクを用いることが考えられる。また、この場合、急速高粘度化蒸発乾燥特性を持つインクを用いる印刷装置10の具体的な構成等についても、上記において説明をした構成に限らず、様々な変更を行うことも可能である。図5は、印刷装置10の構成の変形例を示す上面図である。尚、以下に説明をする点を除き、図5において、図1と同じ符号を付した構成は、図1における構成と同一又は同様の特徴を有してよい。
本変形例において、印刷装置10は、白色のインクを更に用いて印刷を行う。この場合、白色のインクは、特色のインクの一例である。また、より具体的に、本変形例のヘッド部12は、プロセスカラー用のインクジェットヘッド102c〜kに加え、白色インク用のインクジェットヘッド102wを更に有する。また、インクジェットヘッド102wは、図中に示すように、インクジェットヘッド102c〜kと副走査方向における位置をずらして、別の列を構成するように配設されている。このように構成すれば、例えば、白色のインクを用いた下塗りや上塗り等を適切に行うことができる。また、このようなインクジェットヘッドの配置に合わせ、本変形例において、ヘッド部12は、複数の紫外線照射部104を有する。そして、これらのうち、一つの紫外線照射部104は、図1における紫外線照射部104と同一又は同様にして、主走査動作時におけるヘッド部12の移動方向においてインクジェットヘッド102c〜kの後方側になる位置において、インクジェットヘッド102c〜kと副走査方向の位置を揃えて配設される。また、他の一つの紫外線照射部104は、主走査動作時におけるヘッド部12の移動方向においてインクジェットヘッド102wの後方側になる位置において、インクジェットヘッド102wと副走査方向の位置を揃えて配設される。
また、本変形例においては、白色のインク、及びCMYKの各色のインクとして、急速高粘度化蒸発乾燥特性を持つインクを用いる。そのため、本変形例においても、図1〜4を用いて上記において説明をした場合と同様の効果を得ることができる。また、印刷装置10の構成の更なる変形例においては、例えば、プロセスカラー用のインクジェットヘッド102c〜kについても、色毎に副走査方向における位置をずらして、別の列に配設してもよい。また、上記においては、印刷装置10の構成について、主に、片方向への主走査動作(片方向プリント)を行う場合の構成の例を説明した。しかし、印刷装置10の構成の更なる変形例においては、印刷装置10の構成として、往復の主走査動作(両方向プリント)を行う構成を用いてもよい。この場合、紫外線照射部104について、対応するインクジェットヘッドに対し、主走査方向における片側のみではなく、両側に配設することが好ましい。また、印刷装置10の構成として、シリアル型の構成に限らず、ライン型の構成(ラインプリンタ)を用いること等も考えられる。この場合、ライン型の構成とは、例えば、インクジェットヘッドの位置を移動させずに、所定の方向へ媒体を搬送しつつインクジェットヘッドからインクを吐出する構成のことである。これらの場合も、急速高粘度化蒸発乾燥特性を持つインクを用いることにより、例えば、コーヒーステイン現象の発生等を防いで、高品質な印刷を適切に行うことができる。
続いて、上記において説明をした各構成に関する補足説明や、更なる変形例等について、説明をする。先ず、上記において説明をした各構成により得られる効果等について、改めて説明をする。また、説明の便宜上、以下においては、上記において説明をした各構成について、まとめて、本例という。
上記においても説明をしたように、本例においては、瞬間乾燥型のインクを用いて、紫外線の照射によりインクを瞬間的に乾燥させる方式(UV瞬間乾燥方式)での印刷を行う。そして、この場合、インクを瞬間的に媒体に定着させることにより、滲みの発生を抑えて、高速な印刷を行うことができる。また、一般的に、瞬間乾燥型のインクとしては、例えば、公知の様々な蒸発乾燥型のインクに紫外線吸収剤を添加したインク等を用いることができる。また、公知の蒸発乾燥型のインクとしては、例えば、公知のソルベントインク、水性インク、ラテックスインク、又はその他のエマルジョンタイプのインク等を用いることができる。また、この場合、瞬間乾燥型のインクを用いることで、例えば、通常の蒸発乾燥型のインクでは滲みの影響等で直接印刷を行うことが難しかった媒体を用いる場合にも、媒体への直接の印刷を適切に行うことが可能になる。例えば、瞬間乾燥型の水性インクを用いる場合、紙や布地等の吸収性の媒体や、各種プラスチックフィルム、金属、ガラス等の非吸収性の媒体に対し、適切に印刷を行うことが可能になる。また、この場合、滲みの発生を適切に抑えることで、例えば、高解像度かつ高画質な印刷を適切に行うことも可能になる。
また、より具体的に、瞬間乾燥型のインクを用いる場合、例えば印刷のパス数を少なくして高速に印刷を行う場合でも、滲みの発生を適切に防ぐことが可能になる。そのため、例えば、高速に印刷を行う高速プリンタ等を適切に実現することができる。また、印刷装置10として、1パスからマルチパス方式(マルチパスプリント)まで、様々な構成の印刷装置10を用いることができる。また、滲みの発生を適切に防ぐことにより、例えば、様々な媒体を用いるメディアフリーの構成を実現すること等も可能になる。また、これにより、上記のように、例えば従来の蒸発乾燥型のインクでは滲みの問題が大きくなって使用できなかった媒体等を用いる場合にも、直接インクを吐出して、高精細な印刷を行うことができる。また、この場合、媒体として、例えば、受容層が形成されていない媒体、吸収性(浸透性)の媒体、非吸収性(非浸透性)の媒体等の様々な媒体を幅広く用いることもできる。
また、瞬間乾燥型のインクを用いる場合、ヒータ等を用いて媒体を介して間接的にインクを加熱する構成と比べ、インクを直接かつ効率的に加熱することができる。また、上記において説明をした各構成のように、エネルギー線として紫外線を用いる場合、媒体に付着したインクに対し、例えば、インクの内部にまで浸透して、内部からインクを加熱すること等も可能になる。そのため、例えばインクの乾燥時にインクの表面に被膜が形成された場合等にも、被膜に囲まれた部分のインクをより適切に乾燥させることができる。また、瞬間乾燥型のインクを用いる場合、ヒータを用いる場合と比べ、例えば、装置の小型化及び低価格化や、省電力化を実現すること等も可能になる。より具体的に、瞬間乾燥型のインクを用いる場合、ヒータを用いる場合と比べ、例えば、放熱のための構成が簡単になること等により、装置の小型化や低価格化が可能となる。また、平均消費電力を数分の1以下程度とし、待機電力をゼロとするよう、省電力化を実現できる。
また、上記においても説明をしたように、本例においては、単なる瞬間乾燥型のインクではなく、溶媒の蒸発に伴って粘度が急速に上昇するような急速高粘度化蒸発乾燥特性を持つインクを用いる。そして、この場合、上記においても説明をしたように、コーヒーステイン現象の発生を適切に抑えて、高品質な印刷を適切に行うことができる。また、短時間でインクの粘度を高めて、コーヒーステイン現象の発生を適切に抑えることにより、例えば、高濃度で滲みのない印刷結果を適切に得ること等も可能になる。
ここで、インクの滲みを抑える方法としては、従来から、インクを凝集(又は凝結)させる凝集剤(又は凝結剤)等を予め媒体へ吐出しておき、その後にカラーインクでの印刷を行う方法等も知られている。また、この場合、インクを凝集(又は凝結)させることで、例えば色材として顔料等を含むインクを用いる場合にも、コーヒーステイン現象の防止が可能とも考えられる。しかし、このような方法で印刷を用いる場合において、例えば繊維等からなる吸収性の紙や布等を媒体として用いると、多くの液体を媒体が吸収することで、媒体のカールやコックリング等の問題が生じやすくなる。また、その結果、搬送される媒体の蛇行や、インクジェットヘッドと媒体との接触等が発生し、印刷される画像の品質低下(画質障害)の問題が起きる場合がある。また、カールやコックリング等は、媒体に対して両面印刷を行う場合等に、特に発生しやすくなる。これに対し、本例によれば、凝集剤等を用いることなく、インクの滲みやコーヒーステイン現象の発生を適切に防ぐことができる。また、これにより、例えば吸収性の媒体を用いる場合にも、カールやコックリング等を発生しにくくすることができる。
また、本例においては、インクの粘度を短時間で高めることが可能になるため、例えば、より穏やかな条件でインクに紫外線を照射する場合にも、滲みを適切に防ぐことができる。そして、この場合、穏やかな条件でインクに紫外線を照射することで、例えばインクの突沸等を防ぐことができる。また、これにより、例えば、インクの表面の粗面化等を適切に防ぐことができる。
また、この場合、例えば溶媒の沸点が低い場合等にも、インクの粘度を短時間で高めることにより、滲みの発生を適切に抑えることができる。また、これにより、インクの表面の粗面化等をより適切に防ぐことができる。より具体的に、紫外線の照射によりインクを乾燥させる場合において、インクの溶媒の沸点が低いと、例えば短時間の紫外線の照射を行うだけで紫外線の照射エネルギーが過剰になり、溶媒の突沸等が生じやすくなる。また、インクの乾燥時に溶媒が突沸した場合、インクの表面が多孔質被膜になることで、粗面化等の問題が生じやすくなる。また、その結果、光沢性の高い印刷を行うことが難しくなる。また、突沸現象にまで至らない場合でも、例えば溶媒の沸点が低いインクによりプラスチック等の非浸透性の媒体に対して印刷を行う場合において、着弾の直後に紫外線を照射すると、インクの表面が十分に平坦化する前にインクが乾燥することで、表面がマット状になりやすくなる。そのため、このような場合も、光沢性の高い印刷を行うことが難しくなる。
そのため、本例において、インクとしては、例えば、インクジェットヘッドからの吐出時にインクが含む溶媒において、沸点が100℃以上の液体が50重量%以上を占めるようなインクを用いることが好ましい。このように構成すれば、例えばインクの溶媒の突沸等を生じにくくすることができる。また、この場合、例えば、媒体上のインクが沸騰しない条件で紫外線を照射して、インクを乾燥させること等が考えられる。このように構成すれば、例えば、インクの表面の粗面化等を適切に防ぐことができる。また、例えばプラスチック等の非浸透性の媒体を用いる場合等にも、ある程度の時間をかけてインクを乾燥させることで、インクの表面を適切に平坦化することができる。
尚、インクの溶媒が沸騰しないように紫外線を照射する場合、インクの温度上昇が穏やかになることで、インクの滲みが発生しやすくなるようにも思われる。しかし、本例においては、上記のように、溶媒の蒸発に伴って粘度が急速に上昇するインクを用いる。そして、この場合、インクの温度上昇が穏やかにした場合であっても、滲みの発生を適切に抑えることができる。媒体上のインクへ照射する紫外線の最大供給エネルギーについては、上記以外の観点において、例えば、インク等に焦げが発生しない範囲内に設定すること考えられる。この場合、最大供給エネルギーとは、例えば、照射される紫外線のエネルギーの最大値のことである。また、この場合、照射される紫外線のエネルギー(積算光量に対応するエネルギー)は、紫外線照射部104(図1参照)の照射強度及び照射時間により決まる。また、照射時間については、例えば、印刷速度、印刷のパス数、プリントドット密度等の印刷の条件に応じて変化すると考えられる。そのため、最大供給エネルギーについては、これらの条件に応じて自動的又はユーザの手動により、インク等に焦げが発生しない範囲内に適宜調整を行うことが好ましい。
また、上記において説明をした様々な観点から考えた場合、急速高粘度化蒸発乾燥特性を持つインクとしては、以下の(i)〜(iV)の特徴を有するインクを用いることが好ましい。また、このような特徴を有するインクを用い、紫外線の照射によりインクを乾燥させることにより、例えば、コーヒーステイン現象の防止、インクの粗面化の防止、及び滲みの防止等について、適切に実現することができる。
(i)インク中の全溶媒の50重量%以上が、沸点が100℃以上の液体(例えば、水又は有機溶剤等)であること。
(ii)インク中に、300〜490nmの波長範囲内の紫外線を吸収する紫外線吸収剤が添加されていること。この場合、紫外線吸収剤は、紫外線を吸収することで、インク中の溶媒を昇温して、蒸発乾燥させる。また、紫外線吸収剤の添加量は、全溶媒の重量に対し、0.05重量%以上、20重量%以下にすることが好ましい。紫外線吸収剤は、有機物又は無機物のいずれであってもよい。
(iii)インクは、必要に応じて、無機又は有機の色材、分散剤、又は各種の増粘性物質等を含む。また、増粘性物質としては、各種バインダ樹脂、ロジン又はセルロース誘導体、アクリル酸誘導体、ポリビニールアルコール等の増粘剤等の、急速な増粘作用を発起する添加物を用いることが考えられる。また、増粘性物質として、例えば、紫外線硬化(UV硬化)により高分子化して粘度が上昇する樹脂(UV硬化樹脂)等を用いてもよい。
(iV)50mPa・sec以上への粘度への急速な増粘が、インク中の初期溶媒量の少なくとも45体積%以上の溶媒の蒸発に伴って生じること(急速高粘度化蒸発乾燥特性の発現)。この条件については、例えば、樹脂が溶媒中に溶解しているソルベントインク等と比べて溶媒の多い段階で急速に粘度上昇が発生する条件等と考えることもできる。
また、本例において印刷を行う場合の具体的な条件等については、上記において説明をした事項以外にも、様々な変更が可能である。例えば、本例において使用する媒体については、特に限定されない。また、印刷の速度や用途等についても、特に限定されない。より具体的に、本例のように、瞬間乾燥型のインクを用いる場合、例えば、紙、布、Tシャツ等の縫製品等の吸収性で滲みが発生しやすい媒体に対して高速に印刷を行う場合にも、印刷時(プリント時)の滲みの発生を適切に防ぐことができる。そのため、本例においては、これらの媒体を好適に用いることができる。また、このような吸収性の媒体を用いる場合に限らず、例えば塩化ビニルシートや各種のプラスチックフィルム等の非吸収性の媒体への印刷時に用いる場合にも、急速乾燥による滲み止めの効果等を適切に得ることができる。
また、印刷装置10の具体的な構成等についても、更に様々な変形をすることも可能である。例えば、紫外線照射部を配設する位置については、印刷装置10の構成等に応じて、様々に変更可能である。この場合、例えば、シリアル型又はライン型等の走査の方式に合わせた位置に紫外線照射部を設置することが考えられる。また、ライン型の構成の場合、例えばCMYKの各色用のインクジェットヘッドの下流側に個別に紫外線照射部を配設する構成や、CMYKの各色用の複数のインクジェットヘッドの下流側にインクジェットヘッドを配設して、CMYKの各色のインクへ一括して紫外線を照射する構成等を用いることができる。
また、使用するインクの色についても、上記において説明をした色に限らず、様々な色のインクを用いてもよい。例えば、カラーインクとして使用するインクについては、CMYK等のプロセスカラーのインクに限らず、印刷の目的等に応じて、R(レッド、)G(グリーン)、B(ブルー)の各色や、その他の特色のインクを用いることも考えられる。また、特色のインクとしては、白色のインク以外に、例えばメタリック色やパール色のインクを用いることが考えられる。また、特色のインクとして、例えば、クリア色のインクを用いること等も考えられる。また、RGBの各色のインクを用いる場合、CMYの各色を1次色と考え、RGBの各色を2次色と考えることができる。この場合、2次色とは、例えば、原理上、複数の1次色を混色させることで得られる色のことである。そして、この場合、2次色用のインクジェットヘッドについて、1次色用の複数のインクジェットヘッドと副走査方向の位置をずらして配設することが考えられる。このように構成すれば、例えば、各回の主走査動作において単位面積に対して吐出するインクの合計量を適切に低減することができる。また、これにより、例えば、滲みの発生をより適切に抑え、高精彩な印刷をより適切に行うことができる。また、この場合、例えば吸収性の媒体等を用いる場合にも、カールやコックリング等の発生をより確実に防ぐことができる。