JP2019194258A - 内臓脂肪細胞分解剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、褐色脂肪細胞における脂肪燃焼に依拠したこれまでの作用機序とは異なる、新たな作用機序で内臓脂肪を低減できる剤を提供することを目的とする。【解決手段】防風通聖散エキスを含有する内臓脂肪細胞分解剤は、内臓脂肪細胞自体を死滅させてその数を減少させるという新たな作用機序によって脂肪低減効果を得ることができるため、褐色脂肪組織を有しない対象に対しても、優れた脂肪低減効果を得ることができる。【選択図】なし

Description

本発明は、内臓脂肪自体を死滅により分解することで脂肪を低減できる、内臓脂肪細胞分解剤に関する。
近年、食文化の欧米化に伴い、日本人の脂質摂取量は増加しており、過剰に摂取された脂質は脂肪の形で体内に蓄積され、肥満等の原因となっている。肥満は脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態であり、様々な健康障害を合併することが知られている。特に、内臓脂肪の蓄積は、メタボリックシンドロームを経て、糖尿病、脂質異常症、高血圧等の生活習慣病を引き起こし、さらに動脈硬化を進展させることで、心筋梗塞、脳卒中等の重篤疾患をも発症し得る。このため、近年において、体内に蓄積した脂肪を低減させることは重要課題として認識されている。
脂肪組織には、細胞内に栄養を脂肪として貯蓄する白色脂肪組織と、脂肪を代謝(燃焼)してエネルギーを産生する褐色脂肪組織とがある。このうち、白色脂肪組織が内臓脂肪を構成する。脂肪低減の作用機序においては、白色脂肪細胞に蓄積された脂肪が遊離脂肪酸に分解され、当該遊離脂肪酸が、血流により褐色脂肪細胞に到達し代謝(燃焼)される。遊離脂肪酸が褐色脂肪細胞に到達しなければ、血流により白色細胞に戻され、再び脂肪として蓄積される。すなわち、脂肪の低減とは白色脂肪細胞に蓄積された脂肪が分解され最終的に褐色脂肪細胞で代謝されて消失することをいう。そして、脂肪の低減とは、物質としての脂肪が減少する現象であり、脂肪細胞自体の数は減少しない、というのが技術常識である。このため、脂肪を低減させるためには、褐色脂肪細胞における脂肪代謝を促進させることが重要であると考えられている。
また、非特許文献1に、マウスにβ3アドレナリン受容体作動薬を投与することで褐色脂肪細胞の数を増やすと基礎代謝量が増加することが明らかになっているとおり、褐色脂肪組織におけるエネルギー代謝(燃焼)が基礎代謝に密接に関わっていることも知られている。このため、褐色脂肪細胞を活性化しエネルギー代謝能を高めることが、基礎代謝の向上、ひいては体内に蓄積した脂肪の低減に必要であると認識されている。
これまで、褐色脂肪組織を活性化する作用を有する様々な成分が脂肪低減剤の有効成分として報告されている。例えば、特許文献1には、有効成分としてのバターオイルが褐色脂肪細胞を活性化することで脂肪蓄積抑制効果を示すことが記載されている。特許文献2には、ホップ、トレハロース、アスパルテーム、大麦、セラミド、プラセンタ、アラニン及びミントからなる群から選ばれる少なくとも1種類の成分を含有する褐色脂肪細胞活性化用組成物が、抗肥満用組成物又は体脂肪減少用組成物として有用であることが記載されている。特許文献3には、ローズヒップ(Rosa canina L.)抽出物を有効成分として含有する褐色脂肪細胞活性化剤が、全身のエネルギー消費を上昇させ肥満を予防又は抑制することができることが記載されている。特許文献4には、コハク酸、グルコン酸、2−ケト−D−グルコン酸及び/またはPTHrPを有効成分とする肥満抑制剤が褐色脂肪組織を活性化することが記載されている。
しかしながら、これらの脂肪低減剤は、有効成分の褐色脂肪細胞を活性化するメカニズムにより脂肪低減効果を発現するものであることから、褐色脂肪細胞をほとんど有しない人に対しては、基礎代謝が有効に向上しないため脂肪低減効果を期待できない。
生体のエネルギー消費能力を増大させる褐色脂肪由来アディポカインの同定、岡松優子、課題番号26860684、科学研究費助成事業研究成果報告書
特開2015−117207号公報 特開2016−188180号公報 特開2017−088589号公報 特開2017−193508号公報
本発明者らは、これまでの脂肪低減剤では脂肪低減効果が見込めなかった、褐色脂肪細胞をほとんど有しない人に対しても脂肪低減を図るためには、白色脂肪細胞に蓄積された脂肪が分解され褐色脂肪細胞で代謝されるという褐色脂肪細胞の働きに依拠したメカニズムとは異なる、新たなメカニズムで内臓脂肪を低減させることが有効であると考えた。しかしながら、そのような新たなメカニズムで内臓脂肪を低減できる剤は知られていない。
本発明の目的は、褐色脂肪細胞における脂肪燃焼に依拠したこれまでのメカニズムとは異なる、新たなメカニズムで内臓脂肪を低減できる剤を提供することである。
本発明者らが鋭意検討を行ったところ、予想外にも、防風通聖散自体に、白色脂肪細胞を死滅させてその数を減少させる白色脂肪細胞分解作用があり、これによって内臓脂肪を低減できることを新たに発見した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 防風通聖散エキスを含有する、内臓脂肪細胞分解剤。
項2. 褐色脂肪組織の非検出者に対して適用される、項1に記載の内臓脂肪細胞分解剤。
項3. 前記防風通聖散エキスの製造に供される生薬調合物の全量100重量部当たり、ショウキョウが1〜5重量部である、項1又は2に記載の内臓脂肪細胞分解剤。
項4. 前記防風通聖散エキスの製造に用いられる抽出溶媒が水である、項1〜3のいずれかに記載の脂肪燃焼促進剤。
本発明の内臓脂肪細胞分解剤によれば、白色脂肪細胞を死滅させてその数を減少させるという新たな脂肪低減メカニズムによって、優れた内臓脂肪低減効果を得ることができる。従って、これまでの脂肪低減剤では効果が期待できなかった、褐色脂肪組織を有しない対象に対しても、優れた内臓脂肪低減効果を得ることができる。
防風通聖散エキスの服用前及び12週間服用後におけるヒトの腹部のCT画像及び腹部脂肪面積等の測定結果を示す。
本発明の内臓脂肪細胞分解剤は、防風通聖散エキスを含有することを特徴とする。以下、本発明の内臓脂肪細胞分解剤について詳述する。
防風通聖散エキス
本発明の内臓脂肪細胞分解剤において、防風通聖散エキスは、内臓脂肪組織における白色脂肪細胞自体を死滅させてその数を減少させること(以下において、「内臓脂肪細胞分解」とも記載する。)によって、内臓脂肪を低減する。
防風通聖散を構成する生薬は、「一般用漢方処方の手引き」(厚生省薬務局監修、日薬連漢方専門委員会編集、薬業時報社発行)によれば、トウキ、シャクヤク、センキュウ、サンシシ、レンギョウ、ハッカ、ショウキョウ、ケイガイ、ボウフウ、マオウ、ダイオウ、ボウショウ、ビャクジュツ、キキョウ、オウゴン、カンゾウ、セッコウ、及びカッセキである。書簡によっては、前記生薬の内、ビャクジュツを含まないもの(例えば「経験漢方処方分量集」、大塚敬節・矢数道明監集、医道の日本社発行)や、オウゴンを含まないもの(例えば「続漢方あれこれ」大阪読売新聞社編、浪速社発行)がある。本発明で使用される防風通聖散エキスは、これらのいずれの防風通聖散から得られるものであってもよい。
また、防風通聖散を構成する各生薬の分量は、「一般用漢方処方の手引き」(厚生省薬務局監修、日薬連漢方専門委員会編集、薬業時報社発行)、「第十七改正日本薬局方」等によれば、トウキ1.2重量部、シャクヤク1.2重量部、センキュウ1.2重量部、サンシシ1.2重量部、レンギョウ1.2重量部、ハッカ1.2重量部、ショウキョウ0.3〜1.2重量部、ケイガイ1.2重量部、ボウフウ1.2重量部またはハマボウフウ1.2重量部、マオウ1.2重量部、ダイオウ1.5重量部、ボウショウ(硫酸ナトリウム無水物換算量)0.6〜1.5重量部、ビャクジュツ2重量部、キキョウ2重量部、オウゴン2重量部、カンゾウ2重量部、セッコウ2〜3重量部、及びカッセキ3〜5重量部である。また、書簡によっては、前記分量中、1.2重量部を全て1.5重量部としているものもある(例えば「明解漢方処方」、西岡一夫、高橋真太郎共著、浪速社発行)。
防風通聖散エキスの製造に供される生薬調合物における各生薬の分量については、特に制限されず、前記で例示した書簡に示されている各生薬の分量で使用してもよいが、好適な例として、トウキ1.2重量部、シャクヤク1.2重量部、センキュウ1.2重量部、サンシシ1.2重量部、レンギョウ1.2重量部、ハッカ1.2重量部、ケイガイ1.2重量部、ボウフウ1.2重量部、マオウ1.2重量部、ダイオウ1.5重量部、ボウショウ(硫酸ナトリウム無水物換算量)0.6〜1.5重量部、ビャクジュツ2重量部、キキョウ2重量部、オウゴン2重量部、カンゾウ2重量部、セッコウ2〜3重量部(好ましくは2重量部)、及びカッセキ3〜5重量部(好ましくは3重量部)であり、且つショウキョウが0.3〜1.5重量部、好ましくは0.3〜1.2重量部、更に好ましくは0.3〜0.4重量部、特に好ましくは0.3重量部であるものが挙げられる。防風通聖散エキスの製造に供される生薬調合物におけるショウキョウの分量を上記の範囲に調節することによって、内臓脂肪細胞分解効果をより好ましく向上させることができる。
また、ボウショウの分量は、硫酸ナトリウム無水物換算で、好ましくは0.6〜1重量部、更に好ましくは0.6〜0.75重量部、特に好ましくは0.7重量部を充足することによって、錠剤として成形された場合に、錠剤の硬度及び崩壊性を向上させることができる。
なお、本発明において、「防風通聖散エキスの製造に供される生薬調合物」とは、防風通聖散エキスの製造において、抽出に供される原料調合物、即ち、防風通聖散を構成する所定量の生薬を含む調合物である。また、ボウショウの硫酸ナトリウム無水物換算とは、ボウショウとして硫酸ナトリウムの水和物を使用する場合には、当該水和物を無水物重量に換算することを指す。なお、ボウショウとしては、硫酸ナトリウムの水和物(例えば、10水和物)及び/又は硫酸ナトリウム無水物が使用され、錠剤として成形された場合において錠剤の硬度及び崩壊性を向上させる観点からは、硫酸ナトリウム無水物が好ましく使用される。
本発明で使用される防風通聖散エキスの製造に供される生薬調合物の好適な例として、当該生薬調合物の全量100重量部当たり、ショウキョウが1〜5重量部、より好ましくは1〜4重量部、更に好ましくは1〜3重量部、特に好ましくは1〜2重量部含まれているものが挙げられる。このようにショウキョウの比率が低い生薬調合物から防風通聖散エキスを得ることによって、内臓脂肪細胞分解効果をより好ましく向上させることが可能になる。
また、本発明で使用される防風通聖散エキスの製造に供される生薬調合物の好適な例として、当該生薬調合物の全量100重量部当たり、ボウショウが硫酸ナトリウム無水物換算で2〜6重量部、好ましくは2〜4重量部、更に好ましくは2〜3重量部、特に好ましくは2〜2.5重量部含まれているものが挙げられる。用量及び製剤形態等にもよるが、このような比率で生薬調合物中にボウショウが含まれることによって、錠剤として成形された場合において、錠剤の硬度及び崩壊性を向上させることが可能になる。
また、本発明で使用される防風通聖散エキスの好適な例として、生薬由来成分の総量100重量部当たり、6−ギンゲロールが0.005〜0.055重量部含まれているものが挙げられる。6−ギンゲロールは、ショウキョウに含まれている成分であり、従来の防風通聖散エキスでは、通常、生薬由来成分の総量100重量部当たり6−ギンゲロールが0.05重量部以上含まれている。本発明では、6−ギンゲロールの含有量が低減された防風通聖散エキスを使用することによって、内臓脂肪細胞分解効果をより好ましく向上させることが可能になる。臓脂肪細胞分解効果をより好ましく向上させる観点、又は錠剤として成形された場合において錠剤の硬度及び崩壊性を向上させる観点から、生薬由来成分の総量100重量部当たり、6−ギンゲロールが0.007〜0.03重量部、より好ましくは0.007〜0.025重量部、更に好ましくは0.007〜0.015重量部含まれているものが挙げられる。ここで、生薬由来成分とは、防風通聖散を構成する生薬から抽出された成分である。即ち、賦形剤等の添加剤が配合されていない防風通聖散エキス末の場合であれば、当該エキス末の重量が生薬由来成分の総量になり、賦形剤等の添加剤が配合されている防風通聖散エキス末の場合であれば、当該エキス末の重量から含有する添加剤の重量を差し引いた重量が生薬由来成分の総量になる。
ショウキョウに含まれる6−ギンゲロール含量は、ショウキョウの産地や生育年数等に応じて異なり、またショウキョウからの6−ギンゲロールの抽出効率も抽出条件等によって変動する。そのため、6−ギンゲロールを前記比率で含む防風通聖散エキスを得るには、ショウキョウに含まれる6−ギンゲロール含量に応じて、生薬調合物におけるショウキョウの比率や、抽出に供されるショウキョウ(即ち、生薬調合物に使用されるショウキョウ)の形状等を適宜設定すればよい。例えば、生薬調合物の全量100重量部当たりのショウキョウの比率を前述する範囲に設定したうえで、ショウキョウを例えば1〜8mm程度角となるように細切物したものを抽出に供することにより、6−ギンゲロールを前記含有量の範囲内で含む防風通聖散エキスを好適に得ることができる。
本発明で使用される防風通聖散エキスは、前記生薬調合物を公知の手法で抽出することによって得ることができる。前記生薬調合物を抽出する方法については、従来の防風通聖散エキスの抽出法と同様の方法で行えばよく、例えば、前記生薬調合物に対して、約10〜20倍量の水を加え、80〜100℃程度で1〜3時間程度撹拌して抽出する方法が挙げられる。抽出後に、遠心分離、濾過等の固液分離に供して固形分を除去し、必要に応じて、濃縮処理や乾燥処理に供することによって防風通聖散エキスが得られる。
防風通聖散エキスをエキス末として得るには、固形分を除去した抽出液を、必要に応じて濃縮した後に、スプレードライ、減圧濃縮乾燥、凍結乾燥等の乾燥処理に供すればよい。また、乾燥処理(特に、スプレードライによる乾燥処理)に供する際に、必要に応じて抽出液に、デキストリン等の賦形剤を添加してもよい。このように賦形剤を添加することにより、乾燥時間を短縮することが可能になる。添加される賦形剤の種類や添加量については、一般的な漢方エキス末を製造する場合と同様である。
また、防風通聖散エキスを軟エキスとして得るには、形分を除去した抽出液を、減圧濃縮等によって濃縮すればよい。また、軟エキスに、適当な吸着剤(例えば無水ケイ酸、デンプン等)を加えて吸着末としてもよい。
本発明で使用される防風通聖散エキスは、エキス末又は軟エキスのいずれであってもよく、本発明の内臓脂肪細胞分解剤の形態に応じて、エキス末又は軟エキスを適宜選択すればよい。また、錠剤として成形される場合においては、硬度及び崩壊性に優れた錠剤を得る観点から、エキス末であることが好ましい。
その他の成分
本発明の内臓脂肪細胞分解剤は、防風通聖散エキス単独からなるものであってもよく、製剤形態に応じた添加剤や基剤を含んでいてもよい。このような添加剤及び基剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、等張化剤、可塑剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、湿潤化剤、安定化剤、懸濁化剤、粘着剤、コーティング剤、光沢化剤、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、低級アルコール類、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤、矯味剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加剤及び基剤の含有量については、使用する添加剤及び基剤の種類、内臓脂肪細胞分解剤の製剤形態等に応じて適宜設定される。
添加剤及び基剤としては、デンプン、カルメロースカルシウム、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、合成ハイドロタルサイト、無水リン酸水素カルシウム、カルメロース、クロスカルメロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスポピドンが挙げられ、好ましくは、カルメロースカルシウム、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、及び合成ケイ酸アルミニウムが挙げられる。これらの添加剤及び基剤の含有量は、使用する添加剤及び基剤の種類に応じて適宜設定される。
また、本発明の内臓脂肪細胞分解剤は、防風通聖散エキスの他に、必要に応じて、他の栄養成分や薬理成分を含有していてもよい。このような栄養成分や薬理成分としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、制酸剤、健胃剤、消化剤、整腸剤、鎮痙剤、粘膜修復剤、抗炎症剤、収れん剤、鎮吐剤、鎮咳剤、去痰剤、消炎酵素剤、鎮静催眠剤、抗ヒスタミン剤、カフェイン類、強心利尿剤、抗菌剤、血管収縮剤、血管拡張剤、局所麻酔剤、生薬エキス、ビタミン類、メントール類等が挙げられる。これらの栄養成分や薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの成分の含有量については、使用する成分の種類、内臓脂肪細胞分解剤の製剤形態等に応じて適宜設定される。
製剤形態
本発明の内臓脂肪細胞分解剤の製剤形態については、経口投与が可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤(ドライシロップを含む)、錠剤、丸剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)等の固形状製剤;ゼリー剤等の半固形状製剤;液剤、懸濁剤、シロップ剤等の液状製剤が挙げられる。これらの製剤形態の中でも、含有成分の安定性や携帯性等の観点から、好ましくは固形状製剤が挙げられる。
製造方法
本発明の内臓脂肪細胞分解剤を前記製剤形態に調製するには、防風通聖散エキス、及び必要に応じて添加される添加剤、基剤、及び薬理成分を用いて、医薬分野で採用されている通常の製剤化手法に従って製剤化すればよい。錠剤として製剤する場合においては、好ましくは、本発明の内臓脂肪細胞分解剤の製造方法は、防風通聖散エキス、又は必要に応じ添加剤、基材、他の栄養成分、及び/又は他の薬理成分と混合した防風通聖散エキス混合物を造粒する造粒工程、及び造粒物を打錠する打錠工程を含む。
用途
本発明の内臓脂肪細胞分解剤は、内臓脂肪を低減する目的で使用される。具体的には、本発明の内臓脂肪細胞分解剤は、内臓脂肪組織における白色脂肪細胞自体を死滅させその数を減少させることによって、内臓脂肪を低減する目的で使用される。本発明の内臓脂肪細胞分解剤による内臓脂肪低減効果は、その作用機序から、褐色脂肪細胞が存在しなくても得られる。このため、本発明の内臓脂肪細胞分解剤は、これまでの褐色脂肪細胞を活性化するメカニズムによる脂肪低減剤で効果が期待できなかった、褐色脂肪組織をほとんど有しない人に対しても適用することができる。
褐色脂肪組織をほとんど有しない人とは、フッ素18標識フルオロデオキシグルコース(FDG)を用いたPET/CT検査による褐色脂肪組織の非検出者をいう。褐色脂肪は乳児期に特に多いが、ある程度の褐色脂肪は成人しても存在していると考えられている。一方で、成人の少なくとも約半数は褐色脂肪組織を持たない。褐色脂肪組織を持たない対象の特徴としては、防風通聖散を服用しても基礎代謝が上がらず、本質的に脂肪低減が不良であり、例えば運動しても脂肪が落ちにくく、太りやすいこと、エネルギー産生により体温調節を行う褐色脂肪細胞の機能が無いため冷え性になりやすいこと、筋肉量が少ないこと等が挙げられる。
また、基礎代謝が上がらないとは、実施例に記載の用量で防風通聖散を4週間服用した場合に、服用前と対比した服用後の安静時エネルギー燃焼量(resting energy expenditure;REE(kcal/日))の上昇割合が5%未満であることをいい、基礎代謝とは褐色脂肪細胞での代謝に基づく代謝をいう。安静時エネルギー燃焼量を測定する方法としては、実施例に示す呼気代謝測定法、高気密チャンバー室を利用した間接熱量測定法等が挙げられる。なお、基礎代謝を推定する方法として生体電気インピーダンス法を利用した体組成計を用いて基礎代謝量を推定することが知られている。しかしながら、生体電気インピーダンス法は、電気を通す性質を有する筋肉などの体組成に基づく基礎代謝量の推定手段であるため、電気をほとんど通さない褐色脂肪組織に基づく代謝はそもそも検出することができない。このため、生体電気インピーダンス法は、上褐色脂肪細胞での代謝に基づく代謝としての基礎代謝の判定には適さない。
また、本発明の内臓脂肪細胞分解剤は、特に、腸間膜脂肪を効率的に低減することができる。従って、上述の適用対象者の中でも、内臓脂肪による腹部肥満の対象に対して好ましく適用される。
用量・用法
本発明の内臓脂肪細胞分解剤は経口投与によって使用される。本発明の内臓脂肪細胞分解剤の用量については、投与対象者の年齢、性別、体質等に応じて適宜設定されるが、例えば、ヒト1人に対して1日当たり、防風通聖散エキスの生薬由来成分の総量が1〜10g程度、好ましくは1.5〜8g程度、より好ましくは1.5〜6g程度となる量で、1日1〜3回、好ましくは2又は3回の頻度で服用すればよい。服用タイミングについては、特に制限されず、食前、食後、又は食間のいずれであってもよいが、食前(食事の30分前)又は食間(食後2時間後)が好ましい。
また、本発明の内臓脂肪細胞分解剤による白色脂肪細胞分解効果は、継続的な服用によって奏されるので、本発明の内臓脂肪細胞分解剤は、継続的な服用(具体的には4週間以上の継続的な服用、好ましくは12週間以上の継続的な服用)を行うことが好ましい。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
防風通聖散エキスの製造及び分析
1.防風通聖散エキス末の製造
表1に示す各生薬を細切して、所定の分量を混合し、細切して生薬調合物を得た。生薬調合物に、重量比で20倍量の水を加えて、約100℃で1時間撹拌しながら抽出を行った。その後、遠心分離にて抽出液を回収し、減圧濃縮した後に、スプレードライヤーを用いて乾燥させ、防風通聖散エキス末を得た。
なお、ショウキョウは1〜8mm角に細切したものを使用した。また、スプレードライヤーによる乾燥は、抽出液を回転数10000rpmのアトマイザーに落下させ、150℃の熱風を供給することにより行った。
2.防風通聖散エキス末中の6−ギンゲロール含量の測定
防風通聖散のエキス末約1gを精密に量り、共栓遠心沈殿管に入れ、メタノール/水混液(メタノール:水の容量比3:1)30mLを加え、20分間振り混ぜた後、遠心分離し、抽出液を分取した。残留物にメタノール/水混液(メタノール:水の容量比3:1)30mLを加えて、更にこの操作を2回繰り返した。全抽出液を合わせ、メタノール/水混液(メタノール:水の容量比3:1)を加えて正確に100mLとし、試料溶液とした。別に定量用6−ギンゲロール約5mgを精密に量り、メタノール/水混液(メタノール:水の容量比3:1)に溶かし、正確に100mLとし、標準溶液とした。試料溶液及び標準溶液10μLずつを正確にとり、次の試験条件で液体クロマトグラフィーによる測定を行った。
(試験条件)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:205nm)
カラム:内径4.6mm、長さ15cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填したもの(COSMOSIL 5C18 MS-II(5μm,4.6×150mm)(ナカライテスク株式会社))。
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:水/アセトニトリル/リン酸混液(水:アセトニトリル:リン酸の容量比3800:2200:1)
流速:6−ギンゲロールの保持時間が約19分になるように調整した。
下記式に従って、試料溶液中の6−ギンゲロール量を算出し、各防風通聖散のエキス末中の6−ギンゲロール含量を求めた。
結果を表2に示す。生薬調合物100重量部に対するショウキョウの比率が1.11重量部と低い生薬調合物から得られた防風通聖散エキスでは、生薬調合物100重量部に対するショウキョウの比率が4.29重量部と高い生薬調合物から得られた防風通聖散エキス(製造例2)よりも6−ギンゲロールの含有量が0.010%と低くなっていた(製造例1)。
試験例1:白色脂肪細胞分解効果の評価
ラットの腸間膜脂肪組織から採取した白色脂肪細胞(内臓脂肪細胞H-1、コスモバイオ株式会社)に専用培地(内臓脂肪細胞分化メディウムVer.1、コスモバイオ株式会社)を加え、2.0×104/wellとなるように96ウェルプレートの各ウェルに0.1mLずつ細胞を播種し、5%CO2存在下、37℃でインキュベートした。翌日、各ウェルに37℃に加温した専用培地0.1mLを静かに添加した。さらに播種後2日目、37℃に加温した専用培地を用いて培地交換した。播種後4日目に、製造例1及び2の防風通聖散エキスを終濃度0(無添加)、100、300、1000μg/mLとなるように専用培地で調製した試験培地に交換し(各n=3)、翌日まで培養した。培養後、37℃に加温した専用培地0.1mLに交換し、セルカウンティングキット−8(株式会社同仁化学研究所)を10μL加えた。5%CO2存在下、37℃で2時間インキュベートし、マイクロプレートリーダーで450nmの吸光度を測定した。防風通聖散エキス無添加(0μg/mL)の時の吸光度を100%として、各ウェルの相対吸光度を算出し、これを生細胞数として得た。得られた結果を下記表に示す。
表3から明らかなとおり、防風通聖散エキスの添加により白色脂肪細胞である内臓脂肪細胞数が濃度依存的に減少した。また、防風通聖散エキスを終濃度300μg/mLとなるように添加したウェル内の細胞を顕微鏡観察した結果、一部の内臓脂肪細胞の細胞膜が破壊し、細胞形状の崩壊した様子が観察された。このことから、防風通聖散エキスには白色脂肪細胞を死滅させてその数を減少させる、白色脂肪細胞分解作用があることが判明した。
さらに、ショウキョウの比率が高い生薬調合物から得られた製造例2の防風通聖散エキスによる場合、防風通聖散エキス無添加の場合の生細胞数が100.0±8.2%であったことに対し、防風通聖散エキスを1000μg/mLで加えた場合の生細胞数が82.5±6.7%であった。つまり、製造例2の防風通聖散エキスによっても、製造例1の防風通聖散エキスと同様に、白色脂肪細胞分解作用により内臓脂肪細胞数が減少した。
さらに、防風通聖散エキスを1000μg/mLで加えた場合の生細胞数を比較すると、ショウキョウの比率が低い生薬調合物から得られた製造例1の防風通聖散エキスによる場合の方が、ショウキョウの比率が高い生薬調合物から得られた製造例2の防風通聖散エキスによる場合に比べて一層好ましい白色脂肪細胞分解作用があることが判明した。
参考試験例1:ヒトにおける内臓脂肪低減
防風通聖散の服用によって、褐色脂肪組織を有さないと想定される人に対する、防風通聖散による内臓脂肪低減効果について評価した。服用開始前においてBMIが25以上、又はウエスト周囲径が男性85cm以上・女性90cm以上の、30歳第代〜40歳代(男性14名、女性9名)を対象とし、上記製造例1の組成を有する防風通聖散エキス錠を、1日当たり、防風通聖散エキスの生薬由来成分の総量が2.5gとなるよう、1日3回食前または食間に1回4錠を服用させた。なお、試験期間中において、特別な運動負荷は実施せず、食事制限も行わなかった。
服用前及び服用後において、呼吸代謝測定(服用前、並びに、服用4週及び12週後)、身体計測、並びに、腹部脂肪面積測定(服用前、並びに、服用4週及び12週後)を行った。
(呼吸代謝測定)
呼吸代謝測定装置Vmax29s(センサーメディックス株式会社)を用い、仰臥位で30分間安静の後、そのままの姿勢で15分間、安静時エネルギー消費量(REE;kcal/day)の測定を行った。データは、測定5分後から10分後までのものを採用した。
(身体計測)
体組成分析装置InBody3.2(株式会社バイオスペース)を用い、体重、BMI、体脂肪量、体脂肪率、筋肉量、筋肉率を記録した。
(腹部脂肪面積等測定)
CTスキャン日立EXA.CT Scanner System(株式会社日立メディコ)を用い、被験者の臍位置の腹部断面を撮影した。得られた画像データを脂肪計測ソフトFat Scanにて解析し、内臓脂肪面積及び皮下脂肪面積、並びに、各筋肉面積を得た。
被験者のうち15人が、4週間服用前後における安静時基礎代謝の上昇割合が5%未満で基礎代謝が上がらない体質であったため、褐色脂肪組織をほとんど有さないと推定される。これらの対象は、運動しても脂肪が落ちにくく太りやすいこと、冷え性、及び筋肉量の不足を自覚していた。これらの基礎代謝が上がらない体質の対象における、呼吸代謝測定結果、並びに、身体計測結果、腹部脂肪面積測定結果、及び身体各部サイズ測定結果を下記表及び図1に示す。下記表における測定結果は、すべて平均値±標準偏差で示した。
表4に示すように、防風通聖散エキス錠を服用しても基礎代謝が上がらない、つまり褐色脂肪組織をほとんど有さないと推定される適用対象であっても、表5に示すとおり、体重、BMI、体脂肪量、及び体脂肪率のいずれについても有意な減少が認められた。また、表5に示すとおり、体脂肪量及び体脂肪率が減少する一方で筋肉量が減少していないため、筋肉率の向上が認められ、表6に示すとおり、内臓脂肪の有意な減少が認められた。さらに、図1に示すとおり、防風通聖散エキスの服用前後における腹部周囲の脂肪面積及び筋肉面積の解析の結果、筋肉面積はほとんど減少していない一方で脂肪面積は顕著に低減しており、中でも、内臓脂肪面積の低減率が一層顕著であることが分かった。
参考試験例2:褐色脂肪非検出モデルマウスにおける体重増加抑制効果(1)
マウス(C57BL/6Jマウス、5週齢、雄)に対して、麻酔下で背部を切開し、肩甲骨間に存在する褐色脂肪組織を切除する処置を行うことで、褐色脂肪組織非検出モデルマウスを作製した。手術後1週間の回復期間を設けた後、この褐色脂肪組織非検出モデルマウスの体重を測定し、各群の平均体重が約20gとなるように、コントロール群および試験群の2つの群に分けた。各群は5匹で構成した。試験群に対しては、褐色脂肪組織非検出モデルマウスに、前記高脂肪食に製造例2の防風通聖散エキスを2重量%となるように配合した飼料を給餌した。コントロール群では、褐色脂肪組織非検出モデルマウスに、防風通聖散エキスを配合していない高脂肪食を給餌した。一方で、麻酔下で背部を切開し、褐色脂肪組織を摘出しない偽手術処置を行うことで、褐色脂肪組織検出モデルマウスを作製し、褐色脂肪組織非検出モデルマウスと同様にコントロール群および試験群に群分けし、試験を実施した。なお、群間で摂餌量に差はなかった。
褐色脂肪組織非検出モデルマウス及び褐色脂肪組織検出モデルマウスそれぞれのコントロール群及び試験群についての給餌1週間後の体重変化を表7に示す。
表7から明らかなとおり、褐色脂肪組織検出モデルマウスだけでなく、褐色脂肪組織非検出モデルマウスにおいても、防風通聖散エキスの有意な体重増加抑制効果が認められた。つまり、血色脂肪組織非検出モデルマウスにおける体重減少は、参考試験例1の結果から防風通聖散が筋肉量を減少させないことに鑑みると、白色脂肪細胞が分解したことによる効果であると認められる。
参考試験例3:褐色脂肪非検出モデルマウスにおける体重増加抑制効果(2)
1.カンゾウエキス及びショキョウエキスの調製
甘草及び生姜を細切し、それぞれ、重量比で20倍量の水を加えて約100℃で1時間撹拌することで抽出を行った。抽出液を、100メッシュろ過にて回収し、減圧濃縮した後に凍結乾燥させた。これによって、カンゾウエキス末及びショウキョウエキス末を得た。
2.動物試験
マウス(C57BL/6Jマウス、5週齢、雄)に対して、麻酔下で背部を切開し、肩甲骨間に存在する褐色脂肪組織を切除する処置を行うことで、褐色脂肪組織非検出モデルマウスを作製した。手術後1週間の回復期間を設けた後、この褐色脂肪組織非検出モデルマウスの体重を測定し、各群の平均体重が約20gとなるように、コントロール群、試験群1、試験群2、及び試験群3の合計4つの群に分けた。各群は5匹で構成した。試験群1に対しては、前記高脂肪食に製造例2の防風通聖散エキスを2重量%となるように配合した飼料を給餌し、試験群2に対しては前記高脂肪食にカンゾウエキスを2重量%となるように配合した飼料を給餌し、試験群3に対しては前記高脂肪食にショウキョウエキスを2重量%となるように配合した飼料を給餌した。コントロール群では防風通聖散エキスを配合していない高脂肪食を給餌した。なお、群間で摂餌量に差はなかった。給餌2週間後の体重変化を表8に示す。
表8から明らかなとおり、防風通聖散エキスを投与した場合には、参考試験例2と同様、褐色脂肪組織非検出モデルに対する体重減少効果が得られた。一方で、防風通聖散エキスの構成生薬であるカンゾウ及びショウキョウのエキスをそれぞれ単独で投与した場合には、防風通聖散エキスを投与する場合に比べて大幅に投与量を多くしたとしても、褐色脂肪組織非検出モデルに対する体重減少効果は得られないことが分かった。
以上の結果から、参考試験例2で得られた褐色脂肪組織非検出モデルに対する体重減少効果は、防風通聖散エキスに特有の効果であることが分かった。更に、試験例1で得られた、ショウキョウの比率が高い防風通聖散のほうがより一層白色脂肪細胞を分解する効果は、ショウキョウが防風通聖散の構成生薬である場合に特有の効果であることが分かった。

Claims (4)

  1. 防風通聖散エキスを含有する、内臓脂肪細胞分解剤。
  2. 褐色脂肪組織の非検出者に対して適用される、請求項1に記載の内臓脂肪細胞分解剤。
  3. 前記防風通聖散エキスの製造に供される生薬調合物の全量100重量部当たり、ショウキョウが1〜5重量部である、請求項1又は2に記載の内臓脂肪細胞分解剤。
  4. 前記防風通聖散エキスの製造に用いられる抽出溶媒が水である、請求項1〜3のいずれかに記載の脂肪燃焼促進剤。
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