JP2019183301A - 人造フィブロイン繊維の防縮方法、人造フィブロイン繊維及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明は、高い収縮率を有する高収縮人造フィブロイン繊維の収縮率を抑制するための防縮方法を提供すること、さらに、防縮加工が施された人造フィブロイン繊維及びその製造方法を提供することを目的とする。【解決手段】改変クモ糸フィブロイン及びカイコシルクタンパク質を含む、収縮された人造フィブロイン繊維であって、人造フィブロイン繊維100重量%に対して、前記改変クモ糸フィブロインの含有量が50%超であり、前記カイコシルクタンパク質の含有量が50重量%未満であり、かつ、下記式で定義される収縮率が、改変クモ糸フィブロインのみを含む、収縮された人造フィブロイン繊維と比較して少なくとも3%抑制された、人造フィブロイン繊維。収縮率={1−(水と接触させることによる収縮後の人造フィブロイン繊維の長さ/収縮前の人造フィブロイン繊維の長さ)}×100(%)【選択図】なし
Description
本発明は、人造フィブロイン繊維の防縮方法、人造フィブロイン繊維及びその製造方法に関する。
一般に、衣料や寝具等に使用される繊維には、高い肌触り性が求められ、それを十分に満足し且つ高級感のある繊維として、天然のフィブロイン繊維の1種たるシルク等が知られている。
また、衣料や寝具等に使用される繊維には、柔らかさや保温性等も同時に求められる。そのため、衣料や寝具等に用いられるシルクにおいては、例えば、収縮加工が施されて嵩高性が高められ、それによって柔軟性や保温性が付与される場合がある。シルクの収縮方法としては、例えば、硝酸カルシウムや塩化カルシウム等の無機塩を高濃度に溶解させた水溶液(塩縮溶液)にシルクを浸漬して収縮させる、いわゆる塩縮加工が知られている(特許文献1)。
一方、高収縮性のタンパク質繊維は水と接触すると、寸法が変化する。例えば、衣料や寝具等は、使用後に洗濯を行い、繰り返し使用をする必要があり、水と接触し、その後乾燥させた場合の寸法変化率を抑制する必要がある。
本発明は、高い収縮率を有する高収縮人造フィブロイン繊維の収縮率を抑制するための防縮方法を提供すること、さらに、防縮加工が施された人造フィブロイン繊維及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、例えば、以下の各発明に関する。
[1]
改変クモ糸フィブロイン及びカイコシルクタンパク質を含む、収縮された人造フィブロイン繊維であって、
人造フィブロイン繊維100重量%に対して、前記改変クモ糸フィブロインの含有量が50%超であり、前記カイコシルクタンパク質の含有量が50重量%未満であり、かつ、
下記式で定義される収縮率が、改変クモ糸フィブロインのみを含む、収縮された人造フィブロイン繊維と比較して少なくとも3%抑制された、人造フィブロイン繊維。
収縮率={1−(水と接触させることによる収縮後の人造フィブロイン繊維の長さ/収縮前の人造フィブロイン繊維の長さ)}×100(%)
[2]
前記収縮率が二次収縮の収縮率である、[1]の人造フィブロイン繊維。
[3]
前記収縮率が一次収縮の収縮率及び二次収縮の収縮率であり、一次収縮の収縮率が抑制され、二次収縮の収縮率が少なくとも3%抑制される、[1]の人造フィブロイン繊維。
[4]
前記カイコシルクタンパク質が、再生カイコシルクタンパク質である、[1]〜[3]のいずれかの人造フィブロイン繊維。
[5]
改変フィブロイン及びカイコシルクタンパク質を含む人造フィブロイン繊維であって、人造フィブロイン繊維100重量%に対して、前記改変クモ糸フィブロインの含有量が50%超であり、前記カイコシルクタンパク質の含有量が50重量%未満である人造フィブロイン繊維を、沸点未満の水と接触させて、収縮させる工程を備え、
下記式で定義される収縮率が、改変クモ糸フィブロインのみを含む、収縮された人造フィブロイン繊維と比較して少なくとも3%抑制される、人造フィブロイン繊維の製造方法。
収縮率={1−(水と接触させることによる収縮後の人造フィブロイン繊維の長さ/収縮前の人造フィブロイン繊維の長さ)}×100(%)
[6]
前記収縮率が二次収縮の収縮率である、[5]の人造フィブロイン繊維の製造方法。
[7]
前記収縮率が一次収縮の収縮率及び二次収縮の収縮率であり、一次収縮の収縮率が抑制され、二次収縮の収縮率が少なくとも3%抑制される、[5]の人造フィブロイン繊維の製造方法。
[8]
前記カイコシルクタンパク質が、再生カイコシルクタンパク質である、[5]〜[7]のいずれかの人造フィブロイン繊維の製造方法。
[9]
改変フィブロイン及びカイコシルクタンパク質を含む、人造フィブロイン繊維であって、人造フィブロイン繊維100重量%に対して、前記改変クモ糸フィブロインの含有量が50%超であり、前記カイコシルクタンパク質の含有量が50重量%未満である人造フィブロイン繊維を、沸点未満の水と接触させて、収縮させる工程を備え、
下記式で定義される収縮率が、改変クモ糸フィブロインのみを含む、収縮された人造フィブロイン繊維と比較して少なくとも3%抑制される、人造フィブロイン繊維の防縮方法。
収縮率={1−(水と接触させることによる収縮後の人造フィブロイン繊維の長さ/収縮前の人造フィブロイン繊維の長さ)}×100(%)
[10]
前記収縮率が二次収縮の収縮率である、[9]の人造フィブロイン繊維の防縮方法。
[11]
前記収縮率が一次収縮の収縮率及び二次収縮の収縮率であり、一次収縮の収縮率が抑制され、二次収縮の収縮率が少なくとも3%抑制される、[9]の人造フィブロイン繊維の防縮方法。
[12]
前記カイコシルクタンパク質が、再生カイコシルクタンパク質である、[9]〜[11]のいずれかの人造フィブロイン繊維の防縮方法。
[13]
改変クモ糸タンパク質及びカイコシルクタンパク質を含む人造フィブロイン繊維であって、
人造フィブロイン繊維100重量%に対して、前記改変クモ糸フィブロインの含有量が50%超であり、前記カイコシルクタンパク質の含有量が50重量%未満であり、かつ
下記式で定義される収縮率が、改変クモ糸フィブロインのみを含む、収縮された人造フィブロイン繊維と比較して少なくとも3%低い、人造フィブロイン繊維。
収縮率={1−(水と接触させることによる収縮後の人造フィブロイン繊維の長さ/収縮前の人造フィブロイン繊維の長さ)}×100(%)
[14]
前記収縮率が二次収縮の収縮率である、[13]の人造フィブロイン繊維。
[15]
前記収縮率が一次収縮の収縮率及び二次収縮の収縮率であり、一次収縮の収縮率が抑制され、二次収縮の収縮率が少なくとも3%抑制される、[13]の人造フィブロイン繊維。
[16]
前記カイコシルクタンパク質が、再生カイコシルクタンパク質である、[13]〜[15]のいずれかの人造フィブロイン繊維。
[1]
改変クモ糸フィブロイン及びカイコシルクタンパク質を含む、収縮された人造フィブロイン繊維であって、
人造フィブロイン繊維100重量%に対して、前記改変クモ糸フィブロインの含有量が50%超であり、前記カイコシルクタンパク質の含有量が50重量%未満であり、かつ、
下記式で定義される収縮率が、改変クモ糸フィブロインのみを含む、収縮された人造フィブロイン繊維と比較して少なくとも3%抑制された、人造フィブロイン繊維。
収縮率={1−(水と接触させることによる収縮後の人造フィブロイン繊維の長さ/収縮前の人造フィブロイン繊維の長さ)}×100(%)
[2]
前記収縮率が二次収縮の収縮率である、[1]の人造フィブロイン繊維。
[3]
前記収縮率が一次収縮の収縮率及び二次収縮の収縮率であり、一次収縮の収縮率が抑制され、二次収縮の収縮率が少なくとも3%抑制される、[1]の人造フィブロイン繊維。
[4]
前記カイコシルクタンパク質が、再生カイコシルクタンパク質である、[1]〜[3]のいずれかの人造フィブロイン繊維。
[5]
改変フィブロイン及びカイコシルクタンパク質を含む人造フィブロイン繊維であって、人造フィブロイン繊維100重量%に対して、前記改変クモ糸フィブロインの含有量が50%超であり、前記カイコシルクタンパク質の含有量が50重量%未満である人造フィブロイン繊維を、沸点未満の水と接触させて、収縮させる工程を備え、
下記式で定義される収縮率が、改変クモ糸フィブロインのみを含む、収縮された人造フィブロイン繊維と比較して少なくとも3%抑制される、人造フィブロイン繊維の製造方法。
収縮率={1−(水と接触させることによる収縮後の人造フィブロイン繊維の長さ/収縮前の人造フィブロイン繊維の長さ)}×100(%)
[6]
前記収縮率が二次収縮の収縮率である、[5]の人造フィブロイン繊維の製造方法。
[7]
前記収縮率が一次収縮の収縮率及び二次収縮の収縮率であり、一次収縮の収縮率が抑制され、二次収縮の収縮率が少なくとも3%抑制される、[5]の人造フィブロイン繊維の製造方法。
[8]
前記カイコシルクタンパク質が、再生カイコシルクタンパク質である、[5]〜[7]のいずれかの人造フィブロイン繊維の製造方法。
[9]
改変フィブロイン及びカイコシルクタンパク質を含む、人造フィブロイン繊維であって、人造フィブロイン繊維100重量%に対して、前記改変クモ糸フィブロインの含有量が50%超であり、前記カイコシルクタンパク質の含有量が50重量%未満である人造フィブロイン繊維を、沸点未満の水と接触させて、収縮させる工程を備え、
下記式で定義される収縮率が、改変クモ糸フィブロインのみを含む、収縮された人造フィブロイン繊維と比較して少なくとも3%抑制される、人造フィブロイン繊維の防縮方法。
収縮率={1−(水と接触させることによる収縮後の人造フィブロイン繊維の長さ/収縮前の人造フィブロイン繊維の長さ)}×100(%)
[10]
前記収縮率が二次収縮の収縮率である、[9]の人造フィブロイン繊維の防縮方法。
[11]
前記収縮率が一次収縮の収縮率及び二次収縮の収縮率であり、一次収縮の収縮率が抑制され、二次収縮の収縮率が少なくとも3%抑制される、[9]の人造フィブロイン繊維の防縮方法。
[12]
前記カイコシルクタンパク質が、再生カイコシルクタンパク質である、[9]〜[11]のいずれかの人造フィブロイン繊維の防縮方法。
[13]
改変クモ糸タンパク質及びカイコシルクタンパク質を含む人造フィブロイン繊維であって、
人造フィブロイン繊維100重量%に対して、前記改変クモ糸フィブロインの含有量が50%超であり、前記カイコシルクタンパク質の含有量が50重量%未満であり、かつ
下記式で定義される収縮率が、改変クモ糸フィブロインのみを含む、収縮された人造フィブロイン繊維と比較して少なくとも3%低い、人造フィブロイン繊維。
収縮率={1−(水と接触させることによる収縮後の人造フィブロイン繊維の長さ/収縮前の人造フィブロイン繊維の長さ)}×100(%)
[14]
前記収縮率が二次収縮の収縮率である、[13]の人造フィブロイン繊維。
[15]
前記収縮率が一次収縮の収縮率及び二次収縮の収縮率であり、一次収縮の収縮率が抑制され、二次収縮の収縮率が少なくとも3%抑制される、[13]の人造フィブロイン繊維。
[16]
前記カイコシルクタンパク質が、再生カイコシルクタンパク質である、[13]〜[15]のいずれかの人造フィブロイン繊維。
本発明によれば、高い収縮率を有する高収縮人造フィブロイン繊維の収縮率を抑制するための防縮方法を提供でき、さらに、防縮加工が施された人造フィブロイン繊維及びその製造方法を提供できる。
〔人造フィブロイン繊維〕
本発明の人造フィブロイン繊維は、改変クモ糸フィブロイン及びカイコシルクタンパク質を含み、人造フィブロイン繊維100重量%に対して、改変クモ糸フィブロインの含有量が50%超であり、カイコシルクタンパク質の含有量が50重量%未満である。好ましくは、人造フィブロイン繊維100重量%に対して、改変クモ糸フィブロインの含有量が70%超、80%超、90%超、92%超又は95%超であり、カイコシルクタンパク質の含有量が30重量%未満、20%未満、10%未満、8%未満又は5%未満である。人造フィブロイン繊維は、改変クモ糸フィブロイン及びカイコシルクタンパク質のほかに、夾雑物を含んでいてもよい。
本発明の人造フィブロイン繊維は、改変クモ糸フィブロイン及びカイコシルクタンパク質を含み、人造フィブロイン繊維100重量%に対して、改変クモ糸フィブロインの含有量が50%超であり、カイコシルクタンパク質の含有量が50重量%未満である。好ましくは、人造フィブロイン繊維100重量%に対して、改変クモ糸フィブロインの含有量が70%超、80%超、90%超、92%超又は95%超であり、カイコシルクタンパク質の含有量が30重量%未満、20%未満、10%未満、8%未満又は5%未満である。人造フィブロイン繊維は、改変クモ糸フィブロイン及びカイコシルクタンパク質のほかに、夾雑物を含んでいてもよい。
「改変クモ糸フィブロインのみを含む人造フィブロイン繊維」とは、タンパク質として、改変クモ糸フィブロインのみを含む人造フィブロイン繊維であり、カイコシルクタンパク質をふくまないが、夾雑物を含んでいてもよい。
<改変クモ糸フィブロイン>
本実施形態に係る改変クモ糸フィブロイン(以下、単に「改変フィブロイン」という場合がある)は、式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。改変クモ糸フィブロインは、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
本実施形態に係る改変クモ糸フィブロイン(以下、単に「改変フィブロイン」という場合がある)は、式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。改変クモ糸フィブロインは、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
本明細書において「改変クモ糸フィブロイン」とは、人為的に製造されたフィブロイン(人造フィブロイン)を意味する。改変クモ糸フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列とは異なるフィブロインであってもよく、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列と同一であるフィブロインであってもよい。本明細書でいう「天然由来のフィブロイン」もまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。
「改変クモ糸フィブロイン」は、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列をそのまま利用したものであってもよく、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列に依拠してそのアミノ酸配列を改変したもの(例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列を改変することによりアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、また天然由来のフィブロインに依らず人工的に設計及び合成したもの(例えば、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより所望のアミノ酸配列を有するもの)であってもよい。
本明細書において「ドメイン配列」とは、フィブロイン特有の結晶領域(典型的には、アミノ酸配列の(A)nモチーフに相当する。)と非晶領域(典型的には、アミノ酸配列のREPに相当する。)を生じるアミノ酸配列であり、式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるアミノ酸配列を意味する。ここで、(A)nモチーフは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を示し、アミノ酸残基数は2〜27である。(A)nモチーフのアミノ酸残基数は、2〜20、4〜27、4〜20、8〜20、10〜20、4〜16、8〜16、又は10〜16の整数であってよい。また、(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上、70%以上、80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、90%以上、95%以上、又は100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。ドメイン配列中に複数存在する(A)nモチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されてもよい。REPは2〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。REPは、10〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列であってもよい。mは2〜300の整数を示し、10〜300の整数であってもよい。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。
本実施形態に係る改変クモ糸フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列に対し、例えば、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行うことで得ることができる。アミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、部分特異的突然変異誘発法等の当業者に周知の方法により行うことができる。具体的には、Nucleic Acid Res.10,6487(1982)、Methods in Enzymology,100,448(1983)等の文献に記載されている方法に準じて行うことができる。
天然由来のフィブロインは、式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質であり、具体的には、クモ類が産生するフィブロインが挙げられる。
クモ類が産生するフィブロインとしては、例えば、オニグモ、ニワオニグモ、アカオニグモ、アオオニグモ及びマメオニグモ等のオニグモ属(Araneus属)に属するクモ、ヤマシロオニグモ、イエオニグモ、ドヨウオニグモ及びサツマノミダマシ等のヒメオニグモ属(Neoscona属)に属するクモ、コオニグモモドキ等のコオニグモモドキ属(Pronus属)に属するクモ、トリノフンダマシ及びオオトリノフンダマシ等のトリノフンダマシ属(Cyrtarachne属)に属するクモ、トゲグモ及びチブサトゲグモ等のトゲグモ属(Gasteracantha属)に属するクモ、マメイタイセキグモ及びムツトゲイセキグモ等のイセキグモ属(Ordgarius属)に属するクモ、コガネグモ、コガタコガネグモ及びナガコガネグモ等のコガネグモ属(Argiope属)に属するクモ、キジロオヒキグモ等のオヒキグモ属(Arachnura属)に属するクモ、ハツリグモ等のハツリグモ属(Acusilas属)に属するクモ、スズミグモ、キヌアミグモ及びハラビロスズミグモ等のスズミグモ属(Cytophora属)に属するクモ、ゲホウグモ等のゲホウグモ属(Poltys属)に属するクモ、ゴミグモ、ヨツデゴミグモ、マルゴミグモ及びカラスゴミグモ等のゴミグモ属(Cyclosa属)に属するクモ、及びヤマトカナエグモ等のカナエグモ属(Chorizopes属)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質、並びにアシナガグモ、ヤサガタアシナガグモ、ハラビロアシダカグモ及びウロコアシナガグモ等のアシナガグモ属(Tetragnatha属)に属するクモ、オオシロカネグモ、チュウガタシロカネグモ及びコシロカネグモ等のシロカネグモ属(Leucauge属)に属するクモ、ジョロウグモ及びオオジョロウグモ等のジョロウグモ属(Nephila属)に属するクモ、キンヨウグモ等のアズミグモ属(Menosira属)に属するクモ、ヒメアシナガグモ等のヒメアシナガグモ属(Dyschiriognatha属)に属するクモ、クロゴケグモ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ及びジュウサンボシゴケグモ等のゴケグモ属(Latrodectus属)に属するクモ、及びユープロステノプス属(Euprosthenops属)に属するクモ等のアシナガグモ科(Tetragnathidae科)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。スパイダーシルクタンパク質としては、例えば、MaSp(MaSp1及びMaSp2)、ADF(ADF3及びADF4)等の牽引糸タンパク質、MiSp(MiSp1及びMiSp2)等が挙げられる。
クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のより具体的な例としては、例えば、fibroin−3(adf−3)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47010(アミノ酸配列)、U47855(塩基配列))、fibroin−4(adf−4)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47011(アミノ酸配列)、U47856(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 1[Nephila clavipes由来](GenBankアクセッション番号AAC04504(アミノ酸配列)、U37520(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Latrodectus hesperus由来](GenBankアクセッション番号ABR68856(アミノ酸配列)、EF595246(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 2[Nephila clavata由来](GenBankアクセッション番号AAL32472(アミノ酸配列)、AF441245(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Euprosthenops australis由来](GenBankアクセッション番号CAJ00428(アミノ酸配列)、AJ973155(塩基配列))、及びmajor ampullate spidroin 2[Euprosthenops australis](GenBankアクセッション番号CAM32249.1(アミノ酸配列)、AM490169(塩基配列))、minor ampullate silk protein 1[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14589.1(アミノ酸配列))、minor ampullate silk protein 2[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14591.1(アミノ酸配列))、minor ampullate spidroin−like protein[Nephilengys cruentata](GenBankアクセッション番号ABR37278.1(アミノ酸配列)等が挙げられる。
天然由来のフィブロインのより具体的な例としては、更に、NCBI GenBankに配列情報が登録されているフィブロインを挙げることができる。例えば、NCBI GenBankに登録されている配列情報のうちDIVISIONとしてINVを含む配列の中から、DEFINITIONにspidroin、ampullate、fibroinがキーワードとして記載されている配列、CDSから特定のproductの文字列、SOURCEからTISSUE TYPEに特定の文字列の記載された配列を抽出することにより確認することができる。
本実施形態に係る改変クモ糸フィブロインは、改変クモ糸フィブロイン(クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のアミノ酸配列を改変したもの)であってもよい。
改変クモ糸フィブロインの具体的な例として、クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロイン(第1の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量が低減された改変フィブロイン(第2の改変フィブロイン)、(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第3の改フィブロイン)、グリシン残基の含有量、及び(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第4の改変フィブロイン)、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むドメイン配列を有する改変フィブロイン(第5の改変フィブロイン)、並びにグルタミン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第6の改変フィブロイン)が挙げられる。
第1の改変フィブロインとしては、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質が挙げられる。第1の改変フィブロインにおいて、(A)nモチーフのアミノ酸残基数は、3〜20の整数が好ましく、4〜20の整数がより好ましく、8〜20の整数が更に好ましく、10〜20の整数が更により好ましく、4〜16の整数が更によりまた好ましく、8〜16の整数が特に好ましく、10〜16の整数が最も好ましい。第1の改変フィブロインは、式1中、REPを構成するアミノ酸残基の数は、10〜200残基であることが好ましく、10〜150残基であることがより好ましく、20〜100残基であることが更に好ましく、20〜75残基であることが更により好ましい。第1の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるアミノ酸配列中に含まれるグリシン残基、セリン残基及びアラニン残基の合計残基数がアミノ酸残基数全体に対して、40%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましい。
第1の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるアミノ酸配列の単位を含み、かつC末端配列が配列番号1〜3のいずれかに示されるアミノ酸配列又は配列番号1〜3のいずれかに示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列であるポリペプチドであってもよい。
配列番号1に示されるアミノ酸配列は、ADF3(GI:1263287、NCBI)のアミノ酸配列のC末端の50残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列と同一であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から20残基取り除いたアミノ酸配列と同一であり、配列番号3に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から29残基取り除いたアミノ酸配列と同一である。
第1の改変フィブロインのより具体的な例として、(1−i)配列番号4(recombinant spider silk protein ADF3KaiLargeNRSH1)で示されるアミノ酸配列、又は(1−ii)配列番号4で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
配列番号4で示されるアミノ酸配列は、N末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Human rhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号5)を付加したADF3のアミノ酸配列において、第1〜13番目の反復領域をおよそ2倍になるように増やすとともに、翻訳が第1154番目アミノ酸残基で終止するように変異させたものである。配列番号4で示されるアミノ酸配列のC末端のアミノ酸配列は、配列番号3で示されるアミノ酸配列と同一である。
(1−i)の改変フィブロインは、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
第2の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第2の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
第2の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中のGGX及びGPGXX(但し、Gはグリシン残基、Pはプロリン残基、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)から選ばれる少なくとも一つのモチーフ配列において、少なくとも1又は複数の当該モチーフ配列中の1つのグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
第2の改変フィブロインは、上述のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたモチーフ配列の割合が、全モチーフ配列に対して、10%以上であってもよい。
第2の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含み、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の全REPに含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが30%以上、40%以上、50%以上又は50.9%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
第2の改変フィブロインは、GGXモチーフの1つのグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換することにより、XGXからなるアミノ酸配列の含有割合を高めたものであることが好ましい。第2の改変フィブロインは、ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、6%以下であることが更により好ましく、4%以下であることが更によりまた好ましく、2%以下であることが特に好ましい。ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合は、下記XGXからなるアミノ酸配列の含有割合(z/w)の算出方法と同様の方法で算出することができる。
z/wの算出方法を更に詳細に説明する。まず、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる全てのREPから、XGXからなるアミノ酸配列を抽出する。XGXを構成するアミノ酸残基の総数がzである。例えば、XGXからなるアミノ酸配列が50個抽出された場合(重複はなし)、zは50×3=150である。また、例えば、XGXGXからなるアミノ酸配列の場合のように2つのXGXに含まれるX(中央のX)が存在する場合は、重複分を控除して計算する(XGXGXの場合は5アミノ酸残基である)。wは、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる総アミノ酸残基数である。例えば、図1に示したドメイン配列の場合、wは4+50+4+100+4+10+4+20+4+30=230である(最もC末端側に位置する(A)nモチーフは除いている。)。次に、zをwで除すことによって、z/w(%)を算出することができる。
ここで、天然由来のフィブロインにおけるz/wについて説明する。まず、上述のように、NCBI GenBankにアミノ酸配列情報が登録されているフィブロインを例示した方法により確認したところ、663種類のフィブロイン(このうち、クモ類由来のフィブロインは415種類)が抽出された。抽出された全てのフィブロインのうち、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含み、フィブロイン中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が6%以下である天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、上述の算出方法により、z/wを算出した。その結果を図2に示す。図2の横軸はz/w(%)を示し、縦軸は頻度を示す。図2から明らかなとおり、天然由来のフィブロインにおけるz/wは、いずれも50.9%未満である(最も高いもので、50.86%)。
第2の改変フィブロインにおいて、z/wは、50.9%以上であることが好ましく、56.1%以上であることがより好ましく、58.7%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、80%以上であることが更によりまた好ましい。z/wの上限に特に制限はないが、例えば、95%以下であってもよい。
第2の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、グリシン残基をコードする塩基配列の少なくとも一部を置換して別のアミノ酸残基をコードするように改変することにより得ることができる。このとき、改変するグリシン残基として、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフにおける1つのグリシン残基を選択してもよいし、またz/wが50.9%以上になるように置換してもよい。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記態様を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中のグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
上記の別のアミノ酸残基としては、グリシン残基以外のアミノ酸残基であれば特に制限はないが、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、メチオニン(M)残基、プロリン(P)残基、フェニルアラニン(F)残基及びトリプトファン(W)残基等の疎水性アミノ酸残基、グルタミン(Q)残基、アスパラギン(N)残基、セリン(S)残基、リシン(K)残基及びグルタミン酸(E)残基等の親水性アミノ酸残基が好ましく、バリン(V)残基、フェニルアラニン(F)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基及びグルタミン(Q)残基がより好ましく、グルタミン(Q)残基が更に好ましい。
第2の改変フィブロインのより具体的な例として、(2−i)配列番号6(Met−PRT380)、配列番号7(Met−PRT410)、配列番号8(Met−PRT525)若しくは配列番号9(Met−PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(2−ii)配列番号6、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
(2−i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号6で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号10(Met−PRT313)で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号7で示されるアミノ酸配列は、配列番号6で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)nモチーフ−REP]を1つ挿入したものである。配列番号8で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列の各(A)nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、C末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号9で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端にヒンジ配列及びHisタグ配列が付加されたものである。
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)におけるz/wの値は、46.8%である。配列番号6で示されるアミノ酸配列、配列番号7で示されるアミノ酸配列、配列番号8で示されるアミノ酸配列、及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ58.7%、70.1%、66.1%及び70.0%である。また、配列番号10、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のギザ比率(後述する)1:1.8〜11.3におけるx/yの値は、それぞれ15.0%、15.0%、93.4%、92.7%及び89.8%である。
(2−i)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(2−ii)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2−ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(2−ii)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
第2の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
タグ配列として、例えば、他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用したアフィニティタグを挙げることができる。アフィニティタグの具体例として、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を挙げることができる。Hisタグは、ヒスチジン残基が4から10個程度並んだ短いペプチドで、ニッケル等の金属イオンと特異的に結合する性質があるため、金属キレートクロマトグラフィー(chelating metal chromatography)による改変フィブロインの単離に利用することができる。タグ配列の具体例として、例えば、配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含むアミノ酸配列)が挙げられる。
また、グルタチオンに特異的に結合するグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、マルトースに特異的に結合するマルトース結合タンパク質(MBP)等のタグ配列を利用することもできる。
さらに、抗原抗体反応を利用した「エピトープタグ」を利用することもできる。抗原性を示すペプチド(エピトープ)をタグ配列として付加することにより、当該エピトープに対する抗体を結合させることができる。エピトープタグとして、HA(インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのペプチド配列)タグ、mycタグ、FLAGタグ等を挙げることができる。エピトープタグを利用することにより、高い特異性で容易に改変フィブロインを精製することができる。
さらにタグ配列を特定のプロテアーゼで切り離せるようにしたものも使用することができる。当該タグ配列を介して吸着したタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、タグ配列を切り離した改変フィブロインを回収することもできる。
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(2−iii)配列番号12(PRT380)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(2−iv)配列番号12、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
配列番号16(PRT313)、配列番号12、配列番号13、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号10、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
(2−iii)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(2−iv)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2−iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(2−iv)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
第2の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)nモチーフの含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第3の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
第3の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインから(A)nモチーフを10〜40%欠失させたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって1〜3つの(A)nモチーフ毎に1つの(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つ連続した(A)nモチーフの欠失、及び1つの(A)nモチーフの欠失がこの順に繰り返されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
第3の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含み、N末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが20%以上、30%以上、40%以上又は50%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
x/yの算出方法を図1を参照しながら更に詳細に説明する。図1には、改変フィブロインからN末端配列及びC末端配列を除いたドメイン配列を示す。当該ドメイン配列は、N末端側(左側)から(A)nモチーフ−第1のREP(50アミノ酸残基)−(A)nモチーフ−第2のREP(100アミノ酸残基)−(A)nモチーフ−第3のREP(10アミノ酸残基)−(A)nモチーフ−第4のREP(20アミノ酸残基)−(A)nモチーフ−第5のREP(30アミノ酸残基)−(A)nモチーフという配列を有する。
隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットは、重複がないように、N末端側からC末端側に向かって、順次選択する。このとき、選択されない[(A)nモチーフ−REP]ユニットが存在してもよい。図1には、パターン1(第1のREPと第2のREPの比較、及び第3のREPと第4のREPの比較)、パターン2(第1のREPと第2のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン3(第2のREPと第3のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン4(第1のREPと第2のREPの比較)を示した。なお、これ以外にも選択方法は存在する。
次に各パターンについて、選択した隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニット中の各REPのアミノ酸残基数を比較する。比較は、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときの、他方のアミノ酸残基数の比を求めることによって行う。例えば、第1のREP(50アミノ酸残基)と第2のREP(100アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第1のREPを1としたとき、第2のREPのアミノ酸残基数の比は、100/50=2である。同様に、第4のREP(20アミノ酸残基)と第5のREP(30アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第4のREPを1としたとき、第5のREPのアミノ酸残基数の比は、30/20=1.5である。
図1中、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる[(A)nモチーフ−REP]ユニットの組を実線で示した。本明細書中、この比をギザ比率と呼ぶ。よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8未満又は11.3超となる[(A)nモチーフ−REP]ユニットの組は破線で示した。
各パターンにおいて、実線で示した隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットの全てのアミノ酸残基数を足し合わせる(REPのみではなく、(A)nモチーフのアミノ酸残基数もである。)。そして、足し合わせた合計値を比較して、当該合計値が最大となるパターンの合計値(合計値の最大値)をxとする。図1に示した例では、パターン1の合計値が最大である。
次に、xをドメイン配列の総アミノ酸残基数yで除すことによって、x/y(%)を算出することができる。
第3の改変フィブロインにおいて、x/yは、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、75%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、例えば、100%以下であってよい。ギザ比率が1:1.9〜11.3の場合には、x/yは89.6%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.8〜3.4の場合には、x/yは77.1%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9〜8.4の場合には、x/yは75.9%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9〜4.1の場合には、x/yは64.2%以上であることが好ましい。
第3の改変フィブロインが、ドメイン配列中に複数存在する(A)nモチーフの少なくとも7つがアラニン残基のみで構成される改変フィブロインである場合、x/yは、46.4%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、55%以上であることが更に好ましく、60%以上であることが更により好ましく、70%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、100%以下であればよい。
ここで、天然由来のフィブロインにおけるx/yについて説明する。まず、上述のように、NCBI GenBankにアミノ酸配列情報が登録されているフィブロインを例示した方法により確認したところ、663種類のフィブロイン(このうち、クモ類由来のフィブロインは415種類)が抽出された。抽出された全てのフィブロインのうち、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列で構成される天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、上述の算出方法により、x/yを算出した。ギザ比率が1:1.9〜4.1の場合の結果を図3に示す。
図3の横軸はx/y(%)を示し、縦軸は頻度を示す。図3から明らかなとおり、天然由来のフィブロインにおけるx/yは、いずれも64.2%未満である(最も高いもので、64.14%)。
第3の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、x/yが64.2%以上になるように(A)nモチーフをコードする配列の1又は複数を欠失させることにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、x/yが64.2%以上になるように1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から(A)nモチーフが欠失したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
第3の改変フィブロインのより具体的な例として、(3−i)配列番号17(Met−PRT399)、配列番号7(Met−PRT410)、配列番号8(Met−PRT525)若しくは配列番号9(Met−PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(3−ii)配列番号17、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
(3−i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号17で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号10(Met−PRT313)で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)nモチーフ−REP]を1つ挿入したものである。配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列は、第2の改変フィブロインで説明したとおりである。
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)のギザ比率1:1.8〜11.3におけるx/yの値は15.0%である。配列番号17で示されるアミノ酸配列、及び配列番号7で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、いずれも93.4%である。配列番号8で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、92.7%である。配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、89.8%である。配列番号10、配列番号17、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ46.8%、56.2%、70.1%、66.1%及び70.0%である。
(3−i)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(3−ii)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3−ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(3−ii)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3(ギザ比率が1:1.8〜11.3)となる隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
第3の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方に上述したタグ配列を含んでいてもよい。
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(3−iii)配列番号18(PRT399)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(3−iv)配列番号18、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
配列番号18、配列番号13、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号17、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
(3−iii)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(3−iv)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3−iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(3−iv)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
第3の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
第4の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)nモチーフの含有量が低減されたことに加え、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有するものである。第4の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに加え、更に少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。すなわち、上述した第2の改変フィブロインと、第3の改変フィブロインの特徴を併せ持つ改変フィブロインである。具体的な態様等は、第2の改変フィブロイン、及び第3の改変フィブロインで説明したとおりである。
第4の改変フィブロインのより具体的な例として、(4−i)配列番号7(Met−PRT410)、配列番号8(Met−PRT525)、配列番号9(Met−PRT799)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(4−ii)配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインの具体的な態様は上述のとおりである。
第5の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列を有するものであってよい。
局所的に疎水性指標の大きい領域は、連続する2〜4アミノ酸残基で構成されていることが好ましい。
上述の疎水性指標の大きいアミノ酸残基は、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましい。
第5の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に、天然由来のフィブロインと比較して、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
第5の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含み、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であるアミノ酸配列を有してもよい。
アミノ酸残基の疎水性指標については、公知の指標(Hydropathy index:Kyte J,&Doolittle R(1982)“A simple method for displaying the hydropathic character of a protein”,J.Mol.Biol.,157,pp.105−132)を使用する。具体的には、各アミノ酸の疎水性指標(ハイドロパシー・インデックス、以下「HI」とも記す。)は、下記表1に示すとおりである。
p/qの算出方法を更に詳細に説明する。算出には、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列(以下、「配列A」とする)を用いる。まず、配列Aに含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値を算出する。疎水性指標の平均値は、連続する4アミノ酸残基に含まれる各アミノ酸残基のHIの総和を4(アミノ酸残基数)で除して求める。疎水性指標の平均値は、全ての連続する4アミノ酸残基について求める(各アミノ酸残基は、1〜4回平均値の算出に用いられる。)。次いで、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域を特定する。あるアミノ酸残基が、複数の「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」に該当する場合であっても、領域中には1アミノ酸残基として含まれることになる。そして、当該領域に含まれるアミノ酸残基の総数がpである。また、配列Aに含まれるアミノ酸残基の総数がqである。
例えば、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が20カ所抽出された場合(重複はなし)、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、連続する4アミノ酸残基(重複はなし)が20含まれることになり、pは20×4=80である。また、例えば、2つの「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が1アミノ酸残基だけ重複して存在する場合、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、7アミノ酸残基含まれることになる(p=2×4−1=7。「−1」は重複分の控除である。)。例えば、図4に示したドメイン配列の場合、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が重複せずに7つ存在するため、pは7×4=28となる。また、例えば、図4に示したドメイン配列の場合、qは4+50+4+40+4+10+4+20+4+30=170である(C末端側の最後に存在する(A)nモチーフは含めない)。次に、pをqで除すことによって、p/q(%)を算出することができる。図4の場合28/170=16.47%となる。
第5の改変フィブロインにおいて、p/qは、6.2%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましく、20%以上であることが更により好ましく、30%以上であることが更によりまた好ましい。p/qの上限は、特に制限されないが、例えば、45%以下であってもよい。
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインのアミノ酸配列を、上記のp/qの条件を満たすように、REP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列に改変することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記のp/qの条件を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当する改変を行ってもよい。
疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、特に制限はないが、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)が好ましく、バリン(V)、ロイシン(L)及びイソロイシン(I)がより好ましい。
第5の改変フィブロインのより具体的な例として、(5−i)配列番号19(Met−PRT720)、配列番号20(Met−PRT665)若しくは配列番号21(Met−PRT666)で示されるアミノ酸配列、又は(5−ii)配列番号19、配列番号20若しくは配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
(5−i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号19で示されるアミノ酸配列は、配列番号7(Met−PRT410)で示されるアミノ酸配列に対し、C末端側の端末を除いて、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、かつC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号20で示されるアミノ酸配列は、配列番号8(Met−PRT525)で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を1カ所挿入したものである。配列番号21で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入したものである。
(5−i)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(5−ii)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5−ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(5−ii)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
第5の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(5−iii)配列番号22(PRT720)、配列番号23(PRT665)若しくは配列番号24(PRT666)で示されるアミノ酸配列、又は(5−iv)配列番号22、配列番号23若しくは配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
配列番号22、配列番号23及び配列番号24で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号19、配列番号20及び配列番号21で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
(5−iii)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(5−iv)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5−iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(5−iv)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
第5の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
第6の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、グルタミン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。
第6の改変フィブロインは、REPのアミノ酸配列中に、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフから選ばれる少なくとも一つのモチーフが含まれていることが好ましい。
第6の改変フィブロインが、REP中にGPGXXモチーフを含む場合、GPGXXモチーフ含有率は、通常1%以上であり、5%以上であってもよく、10%以上であるのが好ましい。GPGXXモチーフ含有率の上限に特に制限はなく、50%以下であってよく、30%以下であってもよい。
本明細書において、「GPGXXモチーフ含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるGPGXXモチーフの個数の総数を3倍した数(即ち、GPGXXモチーフ中のG及びPの総数に相当)をsとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、GPGXXモチーフ含有率はs/tとして算出される。
式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるGPGXXモチーフの個数の総数を3倍した数(即ち、GPGXXモチーフ中のG及びPの総数に相当)をsとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、GPGXXモチーフ含有率はs/tとして算出される。
GPGXXモチーフ含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としているのは、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列」(REPに相当する配列)には、フィブロインに特徴的な配列と相関性の低い配列が含まれることがあり、mが小さい場合(つまり、ドメイン配列が短い場合)、GPGXXモチーフ含有率の算出結果に影響するので、この影響を排除するためである。なお、REPのC末端に「GPGXXモチーフ」が位置する場合、「XX」が例えば「AA」の場合であっても、「GPGXXモチーフ」として扱う。
図5は、改変フィブロインのドメイン配列を示す模式図である。図5を参照しながらGPGXXモチーフ含有率の算出方法を具体的に説明する。まず、図5に示した改変フィブロインのドメイン配列(「[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフ」タイプである。)では、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(図5中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、sを算出するためのGPGXXモチーフの個数は7であり、sは7×3=21となる。同様に、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(図5中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、当該配列から更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数tは50+40+10+20+30=150である。次に、sをtで除すことによって、s/t(%)を算出することができ、図5の改変フィブロインの場合21/150=14.0%となる。
第6の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、4%以下であることが更に好ましく、0%であることが特に好ましい。
本明細書において、「グルタミン残基含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図5の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるグルタミン残基の総数をuとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、グルタミン残基含有率はu/tとして算出される。グルタミン残基含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図5の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるグルタミン残基の総数をuとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、グルタミン残基含有率はu/tとして算出される。グルタミン残基含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
第6の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、又は他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってよい。
「他のアミノ酸残基」は、グルタミン残基以外のアミノ酸残基であればよいが、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基であることが好ましい。アミノ酸残基の疎水性指標は表1に示すとおりである。
表1に示すとおり、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)アラニン(A)、グリシン(G)、スレオニン(T)、セリン(S)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、プロリン(P)及びヒスチジン(H)から選ばれるアミノ酸残基を挙げることができる。これらの中でも、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましく、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)及びフェニルアラニン(F)から選ばれるアミノ酸残基であることが更に好ましい。
第6の改変フィブロインは、REPの疎水性度が、−0.8以上であることが好ましく、−0.7以上であることがより好ましく、0以上であることが更に好ましく、0.3以上であることが更により好ましく、0.4以上であることが特に好ましい。REPの疎水性度の上限に特に制限はなく、1.0以下であってよく、0.7以下であってもよい。
本明細書において、「REPの疎水性度」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図5の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域の各アミノ酸残基の疎水性指標の総和をvとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、REPの疎水性度はv/tとして算出される。REPの疎水性度の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図5の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域の各アミノ酸残基の疎水性指標の総和をvとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、REPの疎水性度はv/tとして算出される。REPの疎水性度の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
第6の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
第6の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失させること、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。
第6の改変フィブロインのより具体的な例として、(6−i)配列番号25(Met−PRT888)、配列番号26(Met−PRT965)、配列番号27(Met−PRT889)、配列番号28(Met−PRT916)、配列番号29(Met−PRT918)、配列番号30(Met−PRT699)、配列番号31(Met−PRT698)若しくは配列番号32(Met−PRT966)で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロイン、又は(6−ii)配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31若しくは配列番号32で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む改変フィブロインを挙げることができる。
(6−i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号25で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列(Met−PRT410)中のQQを全てVLに置換したものである。配列番号26で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てTSに置換し、かつ残りのQをAに置換したものである。配列番号27で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。配列番号28で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVIに置換し、かつ残りのQをLに置換したものである。配列番号29で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
配列番号30で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列(Met−PRT525)中のQQを全てVLに置換したものである。配列番号31で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
配列番号32で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列(Met−PRT410)中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を2回繰り返した配列中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
(6−i)の改変フィブロインは、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31又は配列番号32で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(6−ii)の改変フィブロインは、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31又は配列番号32で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6−ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(6−ii)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6−ii)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
第6の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(6−iii)配列番号33(PRT888)、配列番号34(PRT965)、配列番号35(PRT889)、配列番号36(PRT916)、配列番号37(PRT918)、配列番号38(PRT699)、配列番号39(PRT698)若しくは配列番号40(PRT966)で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロイン、又は(6−iv)配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39若しくは配列番号40で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む改変フィブロインを挙げることができる。
配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39及び配列番号40で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31及び配列番号32で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。N末端にタグ配列を付加しただけであるため、グルタミン残基含有率に変化はなく、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39及び配列番号40で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率が9%以下である(表3)。
(6−iii)の改変フィブロインは、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39又は配列番号40で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(6−iv)の改変フィブロインは、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39又は配列番号40で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6−iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(6−iv)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6−iv)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
第6の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
改変フィブロインは、第1の改変フィブロイン、第2の改変フィブロイン、第3の改変フィブロイン、第4の改変フィブロイン、第5の改変フィブロイン、及び第6の改変フィブロインが有する特徴のうち、少なくとも2つ以上の特徴を併せ持つ改変フィブロインであってもよい。
<改変クモ糸フィブロインの製造方法>
本実施形態に係る改変クモ糸フィブロインは、例えば、当該改変クモ糸フィブロインをコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主により、当該核酸を発現させることにより生産することができる。
本実施形態に係る改変クモ糸フィブロインは、例えば、当該改変クモ糸フィブロインをコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主により、当該核酸を発現させることにより生産することができる。
改変クモ糸フィブロインをコードする核酸の製造方法は、特に制限されない。例えば、天然のフィブロインをコードする遺伝子を利用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などで増幅しクローニングし、遺伝子工学的手法により改変する方法、又は化学的に合成する方法によって、当該核酸を製造することができる。核酸の化学的な合成方法も特に制限されず、例えば、NCBIのウェブデータベースなどより入手したフィブロインのアミノ酸配列情報をもとに、AKTA oligopilot plus 10/100(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)などで自動合成したオリゴヌクレオチドをPCRなどで連結する方法によって遺伝子を化学的に合成することができる。この際に、改変クモ糸フィブロインの精製及び/又は確認を容易にするため、上記のアミノ酸配列のN末端に開始コドン及びHis10タグからなるアミノ酸配列を付加したアミノ酸配列からなる改変クモ糸フィブロインをコードする核酸を合成してもよい。
調節配列は、宿主における改変クモ糸フィブロインの発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。プロモーターとして、宿主細胞中で機能し、改変クモ糸フィブロインを発現誘導可能な誘導性プロモーターを用いてもよい。誘導性プロモーターは、誘導物質(発現誘導剤)の存在、リプレッサー分子の非存在、又は温度、浸透圧若しくはpH値の上昇若しくは低下等の物理的要因により、転写を制御できるプロモーターである。
発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、改変クモ糸フィブロインをコードする核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
原核生物の宿主の好ましい例として、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する細菌を挙げることができる。エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ等を挙げることができる。ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ等を挙げることができる。セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス等を挙げることができる。バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス等を挙げることができる。ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム等を挙げることができる。ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム等を挙げることができる。コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス等を挙げることができる。シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ等を挙げることができる。
原核生物を宿主とする場合、改変クモ糸フィブロインをコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、pBTrp2(ベーリンガーマンハイム社製)、pGEX(Pharmacia社製)、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold、pUB110、pNCO2(特開2002−238569号公報)等を挙げることができる。
真核生物の宿主としては、例えば、酵母及び糸状真菌(カビ等)を挙げることができる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス属、ピキア属、シゾサッカロマイセス属等に属する酵母を挙げることができる。糸状真菌としては、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ(Trichoderma)属等に属する糸状真菌を挙げることができる。
真核生物を宿主とする場合、改変クモ糸フィブロインをコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、YEP13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)等を挙げることができる。上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110(1972)〕、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、コンピテント法等を挙げることができる。
発現ベクターで形質転換された宿主による核酸の発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。
改変クモ糸フィブロインは、例えば、発現ベクターで形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に当該改変クモ糸フィブロインを生成蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、培養培地として、宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
炭素源としては、上記形質転換微生物が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。無機塩類としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15〜40℃である。培養時間は、通常16時間〜7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0〜9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
また、培養中、必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
発現させた改変クモ糸フィブロインの単離、精製は通常用いられている方法で行うことができる。例えば、当該改変クモ糸フィブロインが、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液に懸濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、改変クモ糸フィブロインの単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−セファロース、DIAION HPA−75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
また、改変クモ糸フィブロインが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として改変クモ糸フィブロインの不溶体を回収する。回収した改変クモ糸フィブロインの不溶体はタンパク質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法により改変クモ糸フィブロインの精製標品を得ることができる。当該改変クモ糸フィブロインが細胞外に分泌された場合には、培養上清から当該改変クモ糸フィブロインを回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、その培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
<カイコシルクタンパク質>
本実施形態に係るカイコシルクタンパク質は、蚕(カイコ)類が産生する絹(シルク)フィブロインである。具体的には例えば、天蚕(Antheraea yamamai)、柞蚕(Anteraea pernyi)、楓蚕(Eriogyna pyretorum)、蓖蚕(Pilosamia Cynthia ricini)、樗蚕(Samia cynthia)、栗虫(Caligura japonica)、チュッサー蚕(Antheraea mylitta)、ムガ蚕(Antheraea assama)等のカイコが産生する絹タンパク質が挙げられる。
本実施形態に係るカイコシルクタンパク質は、蚕(カイコ)類が産生する絹(シルク)フィブロインである。具体的には例えば、天蚕(Antheraea yamamai)、柞蚕(Anteraea pernyi)、楓蚕(Eriogyna pyretorum)、蓖蚕(Pilosamia Cynthia ricini)、樗蚕(Samia cynthia)、栗虫(Caligura japonica)、チュッサー蚕(Antheraea mylitta)、ムガ蚕(Antheraea assama)等のカイコが産生する絹タンパク質が挙げられる。
カイコシルクタンパク質のより具体的な例としては、例えば、カイコ・フィブロインL鎖(GenBankアクセッション番号M76430(塩基配列)、及びAAA27840.1(アミノ酸配列))が挙げられる。
カイコシルクタンパク質としては、天然のカイコシルクタンパク質であってもよく、再生カイコシルクタンパク質又は改変絹(シルク)フィブロイン(カイコが産生する絹タンパク質のアミノ酸配列を改変したもの)であってもよい。再生カイコシルクタンパク質であることが好ましい。
再生カイコシルクタンパク質は、通常の再生方法によって再生されたカイコシルクタンパク質であれば特に限定されない。再生方法としては、公知の方法であってよく、例えば特公昭57−11577号公報に記載の方法、特開平9−309816号公報に記載の方法などが挙げられる。
<人造フィブロイン繊維(フィラメント)の製造方法>
本実施形態に係る人造フィブロイン繊維(フィラメント)は、上述した改変クモ糸フィブロイン及びカイコシルクタンパク質を紡糸したものであり、改変クモ糸フィブロイン及びカイコシルクタンパク質を主成分とする。人造フィブロイン繊維は、公知の紡糸方法によって製造することができる。すなわち、例えば、改変クモ糸フィブロイン及びカイコシルクタンパク質を主成分として含む人造フィブロイン繊維を製造する際には、まず、上述した方法に準じて製造した改変フィブロインカイコシルクタンパク質をジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ギ酸、又はヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)等の溶媒に、必要に応じて、溶解促進剤としての無機塩と共に添加し、溶解してドープ液を作製する。次いで、このドープ液を用いて、湿式紡糸、乾式紡糸、乾湿式紡糸又は溶融紡糸等の公知の紡糸方法により紡糸して、人造フィブロイン繊維を得ることができる。好ましい紡糸方法としては、湿式紡糸又は乾湿式紡糸を挙げることができる。
本実施形態に係る人造フィブロイン繊維(フィラメント)は、上述した改変クモ糸フィブロイン及びカイコシルクタンパク質を紡糸したものであり、改変クモ糸フィブロイン及びカイコシルクタンパク質を主成分とする。人造フィブロイン繊維は、公知の紡糸方法によって製造することができる。すなわち、例えば、改変クモ糸フィブロイン及びカイコシルクタンパク質を主成分として含む人造フィブロイン繊維を製造する際には、まず、上述した方法に準じて製造した改変フィブロインカイコシルクタンパク質をジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ギ酸、又はヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)等の溶媒に、必要に応じて、溶解促進剤としての無機塩と共に添加し、溶解してドープ液を作製する。次いで、このドープ液を用いて、湿式紡糸、乾式紡糸、乾湿式紡糸又は溶融紡糸等の公知の紡糸方法により紡糸して、人造フィブロイン繊維を得ることができる。好ましい紡糸方法としては、湿式紡糸又は乾湿式紡糸を挙げることができる。
図6は、人造フィブロイン繊維を製造するための紡糸装置の一例を概略的に示す説明図である。図6に示す紡糸装置10は、乾湿式紡糸用の紡糸装置の一例であり、押出し装置1と、未延伸糸製造装置2と、湿熱延伸装置3と、乾燥装置4とを有している。
紡糸装置10を使用した紡糸方法を説明する。まず、貯槽7に貯蔵されたドープ液6が、ギアポンプ8により口金9から押し出される。ラボスケールにおいては、ドープ液をシリンダーに充填し、シリンジポンプを用いてノズルから押し出してもよい。次いで、押し出されたドープ液6は、エアギャップ19を経て、凝固液槽20の凝固液11内に供給され、溶媒が除去されて、改変フィブロインが凝固し、繊維状凝固体が形成される。次いで、繊維状凝固体が、延伸浴槽21内の温水12中に供給されて、延伸される。延伸倍率は供給ニップローラ13と引き取りニップローラ14との速度比によって決まる。その後、延伸された繊維状凝固体が、乾燥装置4に供給され、糸道22内で乾燥されて、人造フィブロイン繊維36が、巻糸体5として得られる。18a〜18gは糸ガイドである。
凝固液11としては、脱溶媒できる溶液であればよく、例えば、メタノール、エタノール及び2−プロパノール等の炭素数1〜5の低級アルコール、並びにアセトン等を挙げることができる。凝固液11は、適宜水を含んでいてもよい。凝固液11の温度は、0〜30℃であることが好ましい。口金9として、直径0.1〜0.6mmのノズルを有するシリンジポンプを使用する場合、押出し速度は1ホール当たり、0.2〜6.0ml/時間が好ましく、1.4〜4.0ml/時間であることがより好ましい。凝固した改変フィブロインが凝固液11中を通過する距離(実質的には、糸ガイド18aから糸ガイド18bまでの距離)は、脱溶媒が効率的に行える長さがあればよく、例えば、200〜500mmである。未延伸糸の引き取り速度は、例えば、1〜20m/分であってよく、1〜3m/分であることが好ましい。凝固液11中での滞留時間は、例えば、0.01〜3分であってよく、0.05〜0.15分であることが好ましい。また、凝固液11中で延伸(前延伸)をしてもよい。凝固液槽20は多段設けてもよく、また延伸は必要に応じて、各段、又は特定の段で行ってもよい。
なお、人造フィブロイン繊維を得る際に実施される延伸は、例えば、上記した凝固液槽20内で行う前延伸、及び延伸浴槽21内で行う湿熱延伸の他、乾熱延伸も採用される。
湿熱延伸は、温水中、温水に有機溶剤等を加えた溶液中、スチーム加熱中で行うことができる。温度としては、例えば、50〜90℃であってよく、75〜85℃が好ましい。湿熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、1〜10倍延伸することができ、2〜8倍延伸することが好ましい。
乾熱延伸は、電気管状炉、乾熱板等を使用して行うことができる。温度としては、例えば、140℃〜270℃であってよく、160℃〜230℃が好ましい。乾熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、0.5〜8倍延伸することができ、1〜4倍延伸することが好ましい。
湿熱延伸及び乾熱延伸はそれぞれ単独で行ってもよく、またこれらを多段で、又は組み合わせて行ってもよい。すなわち、一段目延伸を湿熱延伸で行い、二段目延伸を乾熱延伸で行う、又は一段目延伸を湿熱延伸行い、二段目延伸を湿熱延伸行い、更に三段目延伸を乾熱延伸で行う等、湿熱延伸及び乾熱延伸を適宜組み合わせて行うことができる。
最終的な延伸倍率は、その下限値が、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、好ましくは、1倍超、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上のうちのいずれかであり、上限値が、好ましくは40倍以下、30倍以下、20倍以下、15倍以下、14倍以下、13倍以下、12倍以下、11倍以下、10倍以下である。
<水収縮>
本実施形態に係る人造フィブロイン繊維は、水と接触させる(収縮工程)ことによって収縮(水収縮)されたものであってもよい。収縮された人造フィブロイン繊維は、下記式で定義される収縮率が、改変クモ糸フィブロインのみを含む、収縮された人造フィブロイン繊維と比較して少なくとも3%抑制された、人造フィブロイン繊維である。好ましくは、少なくとも15%、20%、又は25%抑制された、人造フィブロイン繊維である。
収縮率={1−(水と接触させることによる収縮後の人造フィブロイン繊維の長さ/収縮前の人造フィブロイン繊維の長さ)}×100(%)
本実施形態に係る人造フィブロイン繊維は、水と接触させる(収縮工程)ことによって収縮(水収縮)されたものであってもよい。収縮された人造フィブロイン繊維は、下記式で定義される収縮率が、改変クモ糸フィブロインのみを含む、収縮された人造フィブロイン繊維と比較して少なくとも3%抑制された、人造フィブロイン繊維である。好ましくは、少なくとも15%、20%、又は25%抑制された、人造フィブロイン繊維である。
収縮率={1−(水と接触させることによる収縮後の人造フィブロイン繊維の長さ/収縮前の人造フィブロイン繊維の長さ)}×100(%)
収縮工程において、水と接触させた後に、乾燥させてもよい。この場合、人造フィブロイン繊維の収縮は、一次収縮と二次収縮を含む。水に接触させる接触ステップによる収縮は「一次収縮」といい、当該接触ステップを施した後、乾燥させる乾燥ステップによる収取は「二次収縮」という。
一次収縮の収縮率は、下記式Iに従って算出できる。式I中、L0は水と接触する前の人造フィブロイン繊維の長さを示し、Lwは一次収縮を経た人造フィブロイン繊維の長さを示す。二次収縮率は、下記式IIIに従って算出できる。式III中、Lwは一次収縮を経た人造フィブロイン繊維の長さを示し、Lwdは二次収縮を経た人造フィブロイン繊維の長さを示す。
式I:一次収縮の収縮率={1−(Lw/L0)}×100(%)
式III:二次収縮の収縮率={1−(Lwd/Lw)}×100(%)
式I:一次収縮の収縮率={1−(Lw/L0)}×100(%)
式III:二次収縮の収縮率={1−(Lwd/Lw)}×100(%)
上記収縮率が好ましくは二次収縮の収縮率である。上記収縮率また好ましくは、一次収縮の収縮率及び二次収縮の収縮率であり、一次収縮の収縮率が抑制され、二次収縮の収縮率が少なくとも3%抑制され、好ましくは一次収縮の収縮率が少なくとも3%抑制され、二次収縮の収縮率が少なくとも15%抑制される。
水と接触させることによる収縮は、沸点未満(たとえば100℃未満)の水との接触、好ましくは20〜90℃、さらに好ましくは30〜70℃の水との接触による収縮である。取扱い性及び作業性等が向上する観点、また収縮時間を短縮する観点からは、水の温度の下限値が、10℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることがさらに好ましい。水の温度の上限値は90℃以下であることが好ましい。
人造フィブロイン繊維に水を接触させる方法は、特に限定されない。当該方法として、例えば、人造フィブロイン繊維を水中に浸漬する方法、人造フィブロイン繊維に対して水を常温で又は加温したスチーム等の状態で噴霧する方法、及び原料繊維を水分蒸気が充満した高湿度環境下に暴露する方法等が挙げられる。これらの方法の中でも、接触ステップにおいては、時間の短縮化が効果的に図れると共に、加工設備の簡素化等が実現できることから、人造フィブロイン繊維を水中に浸漬する方法が好ましい。
乾燥ステップの乾燥方法は、特に限定されず、乾燥は、自然乾燥でもよく、熱風やホットローラーで乾燥してもよい。乾燥温度としては、特に限定されず、例えば、20〜150℃であってよく、40〜120℃であることが好ましく、60〜100℃であることがより好ましい。
人造フィブロイン繊維は、水収縮されていなくてもよい。水収縮されていない人造フィブロイン繊維は、その下記式で定義される収縮率が、改変クモ糸フィブロインのみを含む、収縮された人造フィブロイン繊維と比較して少なくとも3%低い、人造フィブロイン繊維。好ましくは、少なくとも15%、20%又は25%低い、人造フィブロイン繊維である。
収縮率={1−(水と接触させることによる収縮後の人造フィブロイン繊維の長さ/収縮前の人造フィブロイン繊維の長さ)}×100(%)
収縮率={1−(水と接触させることによる収縮後の人造フィブロイン繊維の長さ/収縮前の人造フィブロイン繊維の長さ)}×100(%)
<人造フィブロイン繊維の製造方法>
本実施形態に係る人造フィブロイン繊維の製造方法は、人造フィブロイン繊維を沸点未満の水と接触させて、収縮させる工程(収縮工程)を備える。その際、人造フィブロイン繊維の下記式で定義される収縮率が、改変クモ糸フィブロインのみを含む、収縮された人造フィブロイン繊維と比較して少なくとも3%抑制される。好ましくは、少なくとも15%、20%又は25%抑制される。なお、収縮工程は、上述した水収縮と同様に行える。
収縮率={1−(水と接触させることによる収縮後の人造フィブロイン繊維の長さ/収縮前の人造フィブロイン繊維の長さ)}×100(%)
本実施形態に係る人造フィブロイン繊維の製造方法は、人造フィブロイン繊維を沸点未満の水と接触させて、収縮させる工程(収縮工程)を備える。その際、人造フィブロイン繊維の下記式で定義される収縮率が、改変クモ糸フィブロインのみを含む、収縮された人造フィブロイン繊維と比較して少なくとも3%抑制される。好ましくは、少なくとも15%、20%又は25%抑制される。なお、収縮工程は、上述した水収縮と同様に行える。
収縮率={1−(水と接触させることによる収縮後の人造フィブロイン繊維の長さ/収縮前の人造フィブロイン繊維の長さ)}×100(%)
<人造フィブロイン繊維の防縮方法>
本実施形態に係る人造フィブロイン繊維の防縮方法は、人造フィブロイン繊維を沸点未満の水と接触させて、収縮させる工程(収縮工程)を備える。その際、人造フィブロイン繊維の下記式で定義される収縮率が、改変クモ糸フィブロインのみを含む、収縮された人造フィブロイン繊維と比較して少なくとも3%抑制される。好ましくは、少なくとも15%、20%又は25%抑制される。なお、収縮工程は、上述した水収縮と同様に行える。
収縮率={1−(水と接触させることによる収縮後の人造フィブロイン繊維の長さ/収縮前の人造フィブロイン繊維の長さ)}×100(%)
本実施形態に係る人造フィブロイン繊維の防縮方法は、人造フィブロイン繊維を沸点未満の水と接触させて、収縮させる工程(収縮工程)を備える。その際、人造フィブロイン繊維の下記式で定義される収縮率が、改変クモ糸フィブロインのみを含む、収縮された人造フィブロイン繊維と比較して少なくとも3%抑制される。好ましくは、少なくとも15%、20%又は25%抑制される。なお、収縮工程は、上述した水収縮と同様に行える。
収縮率={1−(水と接触させることによる収縮後の人造フィブロイン繊維の長さ/収縮前の人造フィブロイン繊維の長さ)}×100(%)
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
〔(1)目的とするタンパク質発現株(組換え細胞)の作製〕
配列番号〇〇で示されるアミノ酸配列を有するクモ糸フィブロイン(PRT799)をコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト及び終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。PRT799のハイドロパシーインデックスは−0.80であり、分子量は211.4kDaである。
配列番号〇〇で示されるアミノ酸配列を有するクモ糸フィブロイン(PRT799)をコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト及び終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。PRT799のハイドロパシーインデックスは−0.80であり、分子量は211.4kDaである。
上記核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET−22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。当該核酸を組換えたpET−22b(+)発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換して、目的とするタンパク質を発現する形質転換大腸菌(組換え細胞)を得た。
〔(2)目的とするタンパク質の発現〕
上記形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表4)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
上記形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表4)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
500mLの生産培地(表5)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように当該シード培養液を添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、酵母エキス 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持し、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、目的のタンパク質を発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS−PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とするタンパク質サイズのバンドの出現により、目的とするタンパク質が不溶体として発現されていることを確認した。
〔(3)タンパク質の精製〕
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris−HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mMTris−HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mMTris−HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8Mグアニジン塩酸塩、10mMリン酸二水素ナトリウム、20mMNaCl、1mMTris−HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥した粉末状のタンパク質(PRT799)を回収した。
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris−HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mMTris−HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mMTris−HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8Mグアニジン塩酸塩、10mMリン酸二水素ナトリウム、20mMNaCl、1mMTris−HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥した粉末状のタンパク質(PRT799)を回収した。
〔(4)再生シルクの調製〕
再生シルクフィブロインは公知の方法(特開平09−309816号公報、段落0189、0190を参照)によって調整した。具体的には、まゆを温水中でセリシンを除去し、乾燥したもの銅−エチレンジアミン水溶液に溶解し、シルクフィブロイン溶解液とし、さらにシルクフィブロイン溶解液を乾燥することで再生シルクを得た。
再生シルクフィブロインは公知の方法(特開平09−309816号公報、段落0189、0190を参照)によって調整した。具体的には、まゆを温水中でセリシンを除去し、乾燥したもの銅−エチレンジアミン水溶液に溶解し、シルクフィブロイン溶解液とし、さらにシルクフィブロイン溶解液を乾燥することで再生シルクを得た。
〔(5)ドープ液の調製〕
表6に示すタンパク質を含む各サンプルのドープ液、すなわち、精製された目的タンパク質(PRT799)のみ(比較例1)、再生シルクと目的タンパク質との所定量の混合物(実施例1〜5)を調製した。パイレックス(登録商標)ガラス製のスクリュー管瓶に所定量のギ酸を秤量し、ドープ液中の全タンパク質含有量が溶解時に20質量%となるように秤量し、スクリュー管瓶に入れた。各サンプルを所定の温度25℃で、スターラーを用いて3時間以上撹拌した。さらに、あわとり練太郎(ARE−500)で30分以上脱泡し、ドープ液を得た。得られた各サンプルのドープ液を粘度測定用の試験管に分取し、粘度の測定を実施した(データは示さず)。再生シルクの含有量の増加につれ、粘度が上昇することが分かった。
表6に示すタンパク質を含む各サンプルのドープ液、すなわち、精製された目的タンパク質(PRT799)のみ(比較例1)、再生シルクと目的タンパク質との所定量の混合物(実施例1〜5)を調製した。パイレックス(登録商標)ガラス製のスクリュー管瓶に所定量のギ酸を秤量し、ドープ液中の全タンパク質含有量が溶解時に20質量%となるように秤量し、スクリュー管瓶に入れた。各サンプルを所定の温度25℃で、スターラーを用いて3時間以上撹拌した。さらに、あわとり練太郎(ARE−500)で30分以上脱泡し、ドープ液を得た。得られた各サンプルのドープ液を粘度測定用の試験管に分取し、粘度の測定を実施した(データは示さず)。再生シルクの含有量の増加につれ、粘度が上昇することが分かった。
〔(6)タンパク質繊維の成形〕
公知の図6に示す紡糸装置を使用し、ギアポンプで各ドープ液(ドープ液中のタンパク質濃度:20質量%)を、凝固液(メタノール)へ吐出させた。紡糸条件は下記に示すとおりとした。これにより、タンパク質成形体として、タンパク質繊維(フィブロイン繊維)を得た。
(紡糸条件)
ドープ液温度:25℃
ホットローラー(HR)温度:60℃
総延伸倍率:3.5倍
公知の図6に示す紡糸装置を使用し、ギアポンプで各ドープ液(ドープ液中のタンパク質濃度:20質量%)を、凝固液(メタノール)へ吐出させた。紡糸条件は下記に示すとおりとした。これにより、タンパク質成形体として、タンパク質繊維(フィブロイン繊維)を得た。
(紡糸条件)
ドープ液温度:25℃
ホットローラー(HR)温度:60℃
総延伸倍率:3.5倍
〔(7)タンパク質繊維の引張試験〕
タンパク質繊維をつかみ治具間距離20mmの試験紙片に接着剤で固定し、温度20℃、相対湿度65%の条件で、インストロン社製引張試験機3342を用いて引張速度10cm/分で応力(強度)及び伸度測定を行った。ロードセル容量10N、つかみ冶具はクリップ式とした。
タンパク質繊維をつかみ治具間距離20mmの試験紙片に接着剤で固定し、温度20℃、相対湿度65%の条件で、インストロン社製引張試験機3342を用いて引張速度10cm/分で応力(強度)及び伸度測定を行った。ロードセル容量10N、つかみ冶具はクリップ式とした。
結果を表6に示す。表6は、比較例1と比較した相対強度及び相対伸度の値を示す(サンプル数n=10の平均値)。比較例1のタンパク質繊維に比べて、10%の再生シルクを含むタンパク質繊維のほうがより強度が高く、また伸度も高かった。実施例2〜5も比較例1に対して強度及び伸度共に高かった。
〔(8)収縮抑制の評価〕
(収縮工程)
比較例1、実施例1〜5で得た各タンパク質繊維に対して、沸点未満の水(40℃)に接触させる接触ステップを施すこと(以下、「一次収縮」ということがある。)、又は当該接触ステップを施した後、室温で乾燥させる乾燥ステップを施すこと(以下、「二次収縮」ということがある。)により、各タンパク質繊維を製造した。
(収縮工程)
比較例1、実施例1〜5で得た各タンパク質繊維に対して、沸点未満の水(40℃)に接触させる接触ステップを施すこと(以下、「一次収縮」ということがある。)、又は当該接触ステップを施した後、室温で乾燥させる乾燥ステップを施すこと(以下、「二次収縮」ということがある。)により、各タンパク質繊維を製造した。
<一次収縮>
比較例1、実施例1〜5で得たタンパク質繊維の巻回物から、それぞれ、長さ30cmの複数本のタンパク質繊維を切り出した。それら複数本のタンパク質繊維を束ねて、繊度150デニールのタンパク質繊維束(人造フィブロイン繊維束)を得た。各タンパク質繊維束に0.8gの鉛錘を取り付け、その状態で各タンパク質繊維束を40℃の水に10分間浸漬した(接触ステップ)。その後、水中で各タンパク質繊維束の長さを測定した。水中でのタンパク質繊維束の長さ測定は、タンパク質繊維束の縮れを無くすために、タンパク質繊維束に0.8gの鉛錘を取り付けたまま実施した。次いで、各タンパク質繊維の収縮率(%)を、下記式Iに従って算出した。式I中、L0は紡糸後、水と接触する前のタンパク質繊維束の長さ(ここでは30cm)を示し、Lwは一次収縮を経たタンパク質繊維束の長さを示す。また、式Iで得られた実施例1〜5の一次収縮率を比較例1の一次収縮率で除して収縮抑制率(式II)を算出した。
式I:一次収縮の収縮率={1−(Lw/L0)}×100(%)
式II:一次収縮の収縮抑制率=実施例1〜5の一次収縮率/比較例の一次収縮率×100(%)
比較例1、実施例1〜5で得たタンパク質繊維の巻回物から、それぞれ、長さ30cmの複数本のタンパク質繊維を切り出した。それら複数本のタンパク質繊維を束ねて、繊度150デニールのタンパク質繊維束(人造フィブロイン繊維束)を得た。各タンパク質繊維束に0.8gの鉛錘を取り付け、その状態で各タンパク質繊維束を40℃の水に10分間浸漬した(接触ステップ)。その後、水中で各タンパク質繊維束の長さを測定した。水中でのタンパク質繊維束の長さ測定は、タンパク質繊維束の縮れを無くすために、タンパク質繊維束に0.8gの鉛錘を取り付けたまま実施した。次いで、各タンパク質繊維の収縮率(%)を、下記式Iに従って算出した。式I中、L0は紡糸後、水と接触する前のタンパク質繊維束の長さ(ここでは30cm)を示し、Lwは一次収縮を経たタンパク質繊維束の長さを示す。また、式Iで得られた実施例1〜5の一次収縮率を比較例1の一次収縮率で除して収縮抑制率(式II)を算出した。
式I:一次収縮の収縮率={1−(Lw/L0)}×100(%)
式II:一次収縮の収縮抑制率=実施例1〜5の一次収縮率/比較例の一次収縮率×100(%)
<二次収縮>
一次収縮での水への浸漬(接触ステップ)の後、各タンパク質繊維束を水中から取り出した。取り出した各タンパク質繊維束を、0.8gの鉛錘を取り付けたまま、室温で12時間以上乾燥させた(乾燥ステップ)。乾燥後、各タンパク質繊維束の長さを測定した。次いで、各タンパク質繊維の二次収縮率(%)を、下記式IIIに従って算出した。式III中、Lwは一次収縮を経た各タンパク質繊維束の長さを示し、Lwdは二次収縮を経た各タンパク質繊維束の長さを示す。また、式IIIで得られた各実施例の数値を比較例1の収縮率で除して収縮抑制率(式IV)を算出した。その結果を表6に示す。
式III:二次収縮の収縮率={1−(Lwd/Lw)}×100(%)
式IV:二次収縮の収縮抑制率=実施例1〜5の二次収縮率/比較例1の二次収縮率×100(%)
一次収縮での水への浸漬(接触ステップ)の後、各タンパク質繊維束を水中から取り出した。取り出した各タンパク質繊維束を、0.8gの鉛錘を取り付けたまま、室温で12時間以上乾燥させた(乾燥ステップ)。乾燥後、各タンパク質繊維束の長さを測定した。次いで、各タンパク質繊維の二次収縮率(%)を、下記式IIIに従って算出した。式III中、Lwは一次収縮を経た各タンパク質繊維束の長さを示し、Lwdは二次収縮を経た各タンパク質繊維束の長さを示す。また、式IIIで得られた各実施例の数値を比較例1の収縮率で除して収縮抑制率(式IV)を算出した。その結果を表6に示す。
式III:二次収縮の収縮率={1−(Lwd/Lw)}×100(%)
式IV:二次収縮の収縮抑制率=実施例1〜5の二次収縮率/比較例1の二次収縮率×100(%)
本発明の人造フィブロイン繊維束は、一次収縮率も二次収縮率も抑制し、寸法変化率が低く抑えられた優れたものであった。
1…押出し装置、2…未延伸糸製造装置、3…湿熱延伸装置、4…乾燥装置、6…ドープ液、10…紡糸装置、20…凝固液槽、21…延伸浴槽、36…人造フィブロインフィラメント。
Claims (16)
- 改変クモ糸フィブロイン及びカイコシルクタンパク質を含む、収縮された人造フィブロイン繊維であって、
人造フィブロイン繊維100重量%に対して、前記改変クモ糸フィブロインの含有量が50%超であり、前記カイコシルクタンパク質の含有量が50重量%未満であり、かつ、
下記式で定義される収縮率が、改変クモ糸フィブロインのみを含む、収縮された人造フィブロイン繊維と比較して少なくとも3%抑制された、人造フィブロイン繊維。
収縮率={1−(水と接触させることによる収縮後の人造フィブロイン繊維の長さ/収縮前の人造フィブロイン繊維の長さ)}×100(%) - 前記収縮率が二次収縮の収縮率である、請求項1に記載の人造フィブロイン繊維。
- 前記収縮率が一次収縮の収縮率及び二次収縮の収縮率であり、一次収縮の収縮率が抑制され、二次収縮の収縮率が少なくとも3%抑制される、請求項1に記載の人造フィブロイン繊維。
- 前記カイコシルクタンパク質が、再生カイコシルクタンパク質である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の人造フィブロイン繊維。
- 改変クモ糸フィブロイン及びカイコシルクタンパク質を含む人造フィブロイン繊維であって、人造フィブロイン繊維100重量%に対して、前記改変クモ糸フィブロインの含有量が50%超であり、前記カイコシルクタンパク質の含有量が50重量%未満である人造フィブロイン繊維を、沸点未満の水と接触させて、収縮させる工程を備え、
下記式で定義される収縮率が、改変クモ糸フィブロインのみを含む、収縮された人造フィブロイン繊維と比較して少なくとも3%抑制される、人造フィブロイン繊維の製造方法。
収縮率={1−(水と接触させることによる収縮後の人造フィブロイン繊維の長さ/収縮前の人造フィブロイン繊維の長さ)}×100(%) - 前記収縮率が二次収縮の収縮率である、請求項5に記載の人造フィブロイン繊維の製造方法。
- 前記収縮率が一次収縮の収縮率及び二次収縮の収縮率であり、一次収縮の収縮率が抑制され、二次収縮の収縮率が少なくとも3%抑制される、請求項5に記載の人造フィブロイン繊維の製造方法。
- 前記カイコシルクタンパク質が、再生カイコシルクタンパク質である、請求項5〜7のいずれか一項に記載の人造フィブロイン繊維の製造方法。
- 改変クモ糸フィブロイン及びカイコシルクタンパク質を含む、人造フィブロイン繊維であって、人造フィブロイン繊維100重量%に対して、前記改変クモ糸フィブロインの含有量が50%超であり、前記カイコシルクタンパク質の含有量が50重量%未満である人造フィブロイン繊維を、沸点未満の水と接触させて、収縮させる工程を備え、
下記式で定義される収縮率が、改変クモ糸フィブロインのみを含む、収縮された人造フィブロイン繊維と比較して少なくとも3%抑制される、人造フィブロイン繊維の防縮方法。
収縮率={1−(水と接触させることによる収縮後の人造フィブロイン繊維の長さ/収縮前の人造フィブロイン繊維の長さ)}×100(%) - 前記収縮率が二次収縮の収縮率である、請求項9に記載の人造フィブロイン繊維の防縮方法。
- 前記収縮率が一次収縮の収縮率及び二次収縮の収縮率であり、一次収縮の収縮率が抑制され、二次収縮の収縮率が少なくとも3%抑制される、請求項9に記載の人造フィブロイン繊維の防縮方法。
- 前記カイコシルクタンパク質が、再生カイコシルクタンパク質である、請求項9〜11のいずれか一項に記載の人造フィブロイン繊維の防縮方法。
- 改変クモ糸フィブロイン及びカイコシルクタンパク質を含む人造フィブロイン繊維であって、
人造フィブロイン繊維100重量%に対して、前記改変クモ糸フィブロインの含有量が50%超であり、前記カイコシルクタンパク質の含有量が50重量%未満であり、かつ
下記式で定義される収縮率が、改変クモ糸フィブロインのみを含む、収縮された人造フィブロイン繊維と比較して少なくとも3%低い、人造フィブロイン繊維。
収縮率={1−(水と接触させることによる収縮後の人造フィブロイン繊維の長さ/収縮前の人造フィブロイン繊維の長さ)}×100(%) - 前記収縮率が二次収縮の収縮率である、請求項13に記載の人造フィブロイン繊維。
- 前記収縮率が一次収縮の収縮率及び二次収縮の収縮率であり、一次収縮の収縮率が抑制され、二次収縮の収縮率が少なくとも3%抑制される、請求項13に記載の人造フィブロイン繊維。
- 前記カイコシルクタンパク質が、再生カイコシルクタンパク質である、請求項13〜15のいずれか一項に記載の人造フィブロイン繊維。
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