以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸エステル」とは、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又はそれに対応するメタクリレートを意味する。また本明細書中、「常温」とは23℃を意味する。
<積層体>
図1は、一実施形態の積層体を示す模式断面図である。積層体1は、A層(図1中のA)、B層(図1中のB)、C層(図1中のC)及びD層(図1中のD)がこの順に積層された積層体(A層/B層/C層/D層積層体)である。A層は、少なくともポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む樹脂成分Aを含有する樹脂組成物(樹脂組成物A)からなり、B層は、少なくともポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を含む樹脂成分Bを含有する樹脂組成物(樹脂組成物B)からなり、C層は、アクリル系粘着剤組成物(以下、単に「粘着剤組成物」ともいう。)からなり、D層は繊維シートからなる。積層体1は、例えば、シート状であり、例えば、鉄道、道路等の橋梁、高架道路、トンネル、電柱、建築物等のコンクリート構造物からのコンクリート片のはく落を防止するために用いることができる。以下では、まず、A層、B層、C層及びD層の詳細について説明する。
(A層)
A層は積層体1の最表面層を構成する。A層に含まれるポリフッ化ビニリデン(PVDF)系樹脂としては、フッ化ビニリデンのホモポリマー、フッ化ビニリデンと、フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体との共重合体及びこれらの混合物等が挙げられる。ポリフッ化ビニリデン系樹脂におけるフッ化ビニリデン由来の構造単位の含有割合は、例えば、60モル%以上であり、好ましくは75モル%以上であり、更に好ましくは85モル%以上である。ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらのなかでも、耐久性の点からフッ化ビニリデンのホモポリマーが好ましい。
フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体としては、ビニル基を含み、このビニル基に直接結合した少なくとも一種のフッ素原子、フルオロアルキル基又はフルオロアルコキシ基を有する化合物が好ましく用いられる。例えば、フッ化ビニル、三フッ化エチレン、クロロトリフルオロエチレン、1,2−ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキル・ビニル)エーテル(例えばパーフルオロ(メチルビニル)エーテル、パーフルオロ(エチルビニル)エーテル及びパーフルオロ(プロピルビニル)エーテル)、パーフルオロ(1,3−ジオキソール)、パーフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)、式;CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2Xの化合物(ここで、XはSO2F、CO2H、CH2OH、CH2OCN又はCH2OPO3Hである。)、式;CF2=CFOCF2CF2SO2Fの化合物、式;F(CF2)nCH2OCF=CF2の化合物(ここで、nは1〜5の整数である。)、式;R1CH2OCF=CF2の化合物(ここで、R1は水素原子又はF(CF2)zであり、zは1〜4の整数である。)、式;R3OCF=CH2の化合物(ここで、R3はF(CF2)zであり、zは1〜4の整数である。)、パーフルオロブチルエチレン、3,3,3−トリフルオロプロペン、並びに2−トリフルオロメチル−3,3,3−トリフルオロ−1−プロピレンが挙げられる。フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらのなかでも、フッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン及びクロロトリフルオロエチレンからなる群より選択される少なくとも一種が好ましく、ヘキサフルオロプロピレンがより好ましい。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂を得るための重合反応としては、ラジカル重合、アニオン重合等の公知の重合反応が挙げられる。また、重合方法としては、懸濁重合、乳化重合等の公知の重合方法が挙げられる。重合反応及び重合方法により、得られる樹脂の結晶化度、力学的性質等が変化する。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点は、150℃以上が好ましく、160℃以上がより好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点の上限は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)の融点に等しい170℃が好ましい。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点は、熱流束示差走査熱量測定(熱流束DSC)にて測定することができる。例えば、ブルカー・エイエックスエス社製、示差走査熱量測定装置DSC3100SAを用い、サンプル質量1.5mg、昇温速度10℃/分で室温から200℃まで加熱したときに得られるDSC曲線(first run)から求めることができる。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂のMFRは、ISO1133に準拠し、230℃、3.8kg荷重での測定条件にて、5〜50g/10分が好ましい。MFRが高いほど溶融押出時の流動性が向上するため、成形加工性が向上する傾向があり、MFRが低いほど、積層体の衝撃強度が向上する傾向がある。強度と成形加工性を両立する観点から、MFRは5〜30g/10分がより好ましく、10〜30g/10分が更に好ましく、15〜26g/10分が特に好ましい。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、40,000以上、50,000以上又は60,000以上が好ましく、1,000,000以下、500,000以下又は350,000以下が好ましい。重量平均分子量(Mw)が高いほど積層シートの衝撃強度が向上する傾向があり、重量平均分子量(Mw)が低いほど溶融押出時の流動性が向上するため、成形加工性が向上する傾向がある。強度と成形加工性とを両立する観点から、重量平均分子量(Mw)は、40,000〜1,000,000が好ましく、50,000〜500,000がより好ましく、60,000〜350,000が更に好ましい。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の分散度(Mw/Mn、ここでMnは数平均分子量である。)は、1.0以上、1.5以上又は2.0以上が好ましく、4.0以下、3.5以下又は3.0以下が好ましい。分散度(Mw/Mn)が大きいほど、積層体の厚み精度が向上する傾向があり、分散度(Mw/Mn)が小さいほど、溶融押出時の流動性が向上するため、成形加工性が向上する傾向がある。厚み精度と成形加工性とを両立する観点から、分散度(Mw/Mn)は、1.0〜4.0が好ましく、1.5〜3.5がより好ましく、2.0〜3.0が更に好ましい。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分散度(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。例えば、10mmol/Lの臭化リチウム入りのN,N’−ジメチルホルムアミドを溶離液とし、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール及びテトラエチレングリコールを標準物質として求めることができる。
A層におけるポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有量は、樹脂成分Aの全質量を基準として、50質量%以上である。そのため、本実施形態の積層体によれば、施工体表面(A層表面)の耐候性及び防汚性に優れる。また、従来の積層体では、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有量が50質量%以上であると、積層体の重ね貼りを行った際に、コンクリート構造物に対する付着性が低下する傾向があるのに対し、本実施形態の積層体によれば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有量が50質量%以上であってもコンクリート構造物に対する充分な付着性を有する。耐候性及び防汚性がより向上する観点から、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有量は、樹脂成分Aの全質量を基準として、50質量%超、60質量%以上、75質量%以上、80質量%以上又は90質量%以上であってよく、100質量%であってもよい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有量は、積層体を重ね貼りした際のコンクリート構造物に対する付着性により優れる観点から、樹脂成分Aの全質量を基準として、90質量%以下、80質量%以下、75質量%以下、又は60質量%以下であってもよい。
樹脂成分Aは、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の他に、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を更に含んでいてよい。すなわち、樹脂層Aは、樹脂成分Aとして、ポリフッ化ビニリデン系樹脂のみを含んでいてよく、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を含んでいてもよい。ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂としては、後述するB層に含まれるポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂と同様の樹脂を用いることができる。
樹脂成分Aにおけるポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の含有量は、耐候性及び防汚性に優れる観点から、樹脂成分Aの全質量を基準として、50質量%以下、50質量%未満、40質量%以下、20質量%以下又は10質量%以下であってよく、0質量%であってもよい。ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の含有量は、隣接する層(例えばB層)に対する接着性に優れる観点から、樹脂成分Aの全質量を基準として、10質量%以上、20質量%以上又は40質量%以上であってもよい。ただし、樹脂成分Aにおけるポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の含有量は、樹脂層Bに含まれる樹脂成分Bにおけるポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の含有量よりも少ない。
樹脂成分Aにおけるポリフッ化ビニリデン系樹脂とポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の混合割合は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂とポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の合計を100質量%とした場合、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有量が50〜100質量%であり、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の含有量が0〜50質量%であることが好ましく、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有量が60〜90質量%であり、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の含有量が10〜40質量%であることがより好ましく、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有量が60〜80質量%であり、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の含有量が20〜40質量%であることが更に好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂が50質量%以上であれば、耐候性、耐汚染性(防汚性)等、ポリフッ化ビニリデン系樹脂由来の特性が充分となり得る。
樹脂層Aは、樹脂成分A以外の他の成分を含んでいてよい。他の成分としては、例えば安定剤、紫外線吸収剤、顔料等が挙げられる。
安定剤は、A層を構成する樹脂組成物Aに含まれる成分(例えば樹脂成分A)との相溶性、押出温度、拡散速度、反応速度、ラジカル捕捉数等を考慮して選択される。樹脂層Aが安定剤を含むことにより、押出時の劣化による物性低下や樹脂組成物の劣化由来の異物の発生を抑制することができる。揮散を防ぐためには、高分子量の安定剤が好ましく用いられる。
安定剤としては、例えば2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニルアクリレート、2−tert−ブチル−6−(3−tert−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレートや、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール等のフェノール系酸化防止剤、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルフォスファイト、トリスノニルフェニルフォスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−フォスファイト等のリン系酸化防止剤などが挙げられる。
A層における安定剤の含有量は、樹脂成分Aの100質量部に対して、5質量部以下が好ましく、0〜3質量部がより好ましい。安定剤の含有量が5質量部以下であると、積層体の異物発生頻度が低下し、異物の抑制により優れる。
紫外線吸収剤は、紫外線吸収剤の紫外可視吸収スペクトル、A層を構成する樹脂組成物Aに含まれる成分(例えば樹脂成分A)との相溶性、押出温度等を考慮して選択される。樹脂層Aが紫外線吸収剤を含むことにより、経時による黄変の発生を抑制することができる。揮散を防ぐためには、高分子量の紫外線吸収剤が好ましく用いられる。
紫外線吸収剤としては、例えば、ハイドロキノン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系、シアノアクリレート系、オキザリックアシッド系、ヒンダードアミン系等、公知の化合物を使用できる。具体的には、2−(3,5−ジ−アルファ−ジメチルベンジル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−エトキシ−2′−エチルオキザックアシッドビスアニリド、2−エトキシ−5−t−ブチル−2′−エチルオキザックアシッドビスアニリド、2−ヒドロキシ−4−n−オクトオキシベンゾフェノン、ビス(1,2,2,6,6−ペンチメチル−4−ピペルジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペルジル)セバケート、ジメチル−2−(4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジル)エタノール、1−[2−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−2,2,6,6−t−テトラメチルピペリジン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
A層における紫外線吸収剤の含有量は、充分な紫外線吸収量が得られ、充分な紫外線保護性能を発揮し得る観点から、樹脂成分Aの100質量部に対して、0.05質量部以上、0.1質量部以上又は1質量部以上であってよい。A層における紫外線吸収剤の含有量は、A層表面からの紫外線吸収剤のブリードアウトを防止する観点から、樹脂成分Aの100質量部に対して、15質量部以下、10質量部以下又は5質量部以下であってよい。これらの観点から、紫外線吸収剤の含有量は、樹脂成分Aの100質量部に対して、0.05〜15質量部が好ましく、0.1〜10質量部がより好ましく、1〜5質量部が更に好ましい。
顔料は、A層の着色を目的として使用される。顔料は、無機系顔料及び有機系顔料のいずれであってもよい。
無機系顔料としては、例えば二種以上の金属酸化物が焼成により新しい結晶構造を形成し、結晶場分裂により発色するといわれる、複合酸化物系無機顔料を主な有色顔料として使用できる。主な複合酸化物系無機顔料には、TiO2・Sb2O3・BaO・NiO・Cr2O3を主成分とするルチル型結晶又はブリデライト型結晶のチタンイエロー系、ZnO・Fe2O3・Cr2O3を主成分とするスピネル型結晶の亜鉛−鉄系ブラウン、CoO・Al2O3・Cr2O3を主成分とするスピネル型結晶のコバルトブルー系、TiO2・CoO・NiO・ZnOを主成分とするグリーン系、CuO・Cr2O3、CuO・Fe2O3・Mn2O3等を主成分とするスピネル型のブラック系、CoO、Mn2O3等からなるバイオレット系などがある。これらの有色顔料とともにルチル型酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、その他の無機系顔料を使用してよい。
有機系顔料としては、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、縮合アゾ顔料、多環系顔料等が挙げられる。モノアゾ顔料としては、アゾレーキ系(レーキレッドC、ウオッチャンレッド、プリリアントカーミン6B等)、ベンズイミダゾロン系(PVオレンジHL等)などが挙げられる。ジスアゾ顔料としては、ジアリライドイエロー系(パーマネントイエローHR等)、ピラゾロン系(ベンジジンレッド等)などが挙げられる。縮合アゾ顔料としては、縮合アゾ系(縮合アゾイエロー、縮合アゾレッド等)などが挙げられる。多環系顔料としては、キナクリドンレッドジオキサジン系(ジオキサジンバイオレット等)などのキナクリドン系、イソインドリノン系(イエロー3RLT等)、バット系(ペリレンレッド、ペリノンオレンジ、インダンスロンブルー等)、フタロシアニン系(フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等)などが挙げられる。
A層における顔料の含有量は、樹脂成分Aの100質量部に対して、0〜100質量部が好ましく、1〜50質量部がより好ましい。顔料の含有量が100質量部以下であると、積層体の引張強度により優れる。なお、顔料のブリードアウトによる色移り防止の観点では、A層が顔料を含まないことが好ましい。
A層の厚さは、例えば、5μm以上又は10μm以上である。A層の厚さが5μm以上であると、充分な耐候性や防汚性が得られやすい。A層の厚さは、例えば、100μm以下又は60μm以下である。A層の厚さが100μmを超える場合、A層に起因する各種性能が頭打ちとなる傾向がある。これらの観点から、A層の厚さは、5〜100μmが好ましく、10〜60μmがより好ましい。
(B層)
B層はA層の一方面側に設けられている。B層に含まれるポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル由来の構造単位を少なくとも含む樹脂(ポリマー)である。ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステルのホモポリマー、(メタ)アクリル酸エステルと、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な単量体との共重合体及びこれらの混合物等が挙げられる。ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂における(メタ)アクリル酸エステル由来の構造単位の含有割合は、例えば、50質量%以上であり、好ましくは75質量%以上であり、更に好ましくは85質量%以上である。ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。なお、後述する「アクリル系粘着剤及び/又はその架橋体」に該当する樹脂は、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂には含まれないものとする。
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂は、好ましくは、メチル(メタ)アクリレート由来の構造単位を含むポリメチル(メタ)アクリレート系樹脂(PMMA系樹脂又はPMA系樹脂)である。すなわち、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂としては、メチル(メタ)アクリレートのホモポリマー(ポリ(メタ)アクリル酸メチル)、メチル(メタ)アクリレートと、メチル(メタ)アクリレートと共重合可能な単量体との共重合体及びこれらの混合物が好ましく用いられる。ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂(ポリメチル(メタ)アクリレート系樹脂)におけるメチル(メタ)アクリレート由来の構造単位の含有割合は、例えば、50質量%以上であり、好ましくは75質量%以上であり、更に好ましくは85質量%以上である。これらのなかでも、積層体の強度及びD層(繊維シートからなる層)との接着性の観点からメチル(メタ)アクリレートのホモポリマー、又は、n−ブチル(メタ)アクリレートを主体としたアクリル系ゴムへメチル(メタ)アクリレートを主体としたモノマーを共重合させたアクリル系ゴム変性アクリル系共重合体が好ましい。
メチル(メタ)アクリレートと共重合可能な単量体としては、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート(ただし、メチル(メタ)アクリレートは除く。);ベンジル(メタ)アクリレート;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、トリスチレン等の芳香族ビニル単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基含有単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル系単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体;1,3−ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;マレイン酸、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸系単量体;ビニルメチルケトン等のエノン系単量体などが挙げられる。メチル(メタ)アクリレートと共重合可能な単量体は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらのなかでも、積層体の強度及びD層(繊維シートからなる層)との接着性の観点から、アルキル(メタ)アクリレート、スチレン、ジビニルベンゼン、酢酸ビニル、1,3−ブタジエン、イソプレン及びビニルメチルケトンからなる群より選択される少なくとも一種が好ましく、アルキル(メタ)アクリレートがより好ましい。
共重合体としては、ランダム共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体(例えばジブロックコポリマー、トリブロックコポリマー、グラジエントコポリマー等のリニアタイプ、アームファースト法又はコアファースト法で重合した星型共重合体など)、重合可能な官能基を持つ高分子化合物であるマクロモノマーを用いた重合により得られる共重合体(マクロモノマー共重合体)、及びこれらの混合物などが挙げられる。なかでも、樹脂の生産性の観点から、グラフト共重合体及びブロック共重合体が好ましい。
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を得るための重合反応としては、ラジカル重合、リビングラジカル重合、リビングアニオン重合、リビングカチオン重合等の公知の重合反応が挙げられる。また、重合方法としては、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の公知の重合方法が挙げられる。重合反応及び重合方法により、得られる樹脂の力学的性質が変化する。
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂のMFRは、ISO1133に準拠し、230℃、10kg荷重での測定条件にて、2〜30g/10分が好ましい。MFRが高いほど溶融押出時の流動性が向上するため、成形加工性が向上する傾向があり、MFRが低いほど、積層シートの衝撃強度が向上する傾向がある。強度と成形加工性を両立する観点から、MFRは3〜20g/10分がより好ましく、4〜15g/10分が更に好ましく、5〜10g/10分が特に好ましい。
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、50,000以上、70,000以上又は100,000以上が好ましく、1,000,000以下、750,000以下、又は500,000以下が好ましい。積層体の衝撃強度を保つには重量平均分子量(Mw)が高いほど好ましく、重量平均分子量(Mw)が低いほど溶融押出時の流動性が向上するため、成形加工性が向上する傾向がある。強度と成形加工性を両立する観点から、重量平均分子量(Mw)は、50,000〜1,000,000が好ましく、70,000〜750,000がより好ましく、100,000〜500,000が更に好ましい。
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の分散度(Mw/Mn、ここでMnは数平均分子量である。)は、1.0以上、1.5以上又は2.0以上が好ましく、4.0以下、3.5以下又は3.0以下が好ましい。分散度(Mw/Mn)が大きいほど、積層体の厚み精度が向上する傾向があり、分散度(Mw/Mn)が小さいほど、溶融押出時の流動性が向上するため、成形加工性が向上する傾向がある。厚み精度と成形加工性を両立する観点から、分散度(Mw/Mn)は、1.0〜4.0が好ましく、1.5〜3.5がより好ましく、2.0〜3.0が更に好ましい。
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分散度(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。例えば、テトラヒドロフランを溶離液とし、ポリスチレンを標準物質として求めることができる。
アクリル系ゴム変性アクリル系共重合体において、分散相を形成するゴム状分散粒子の体積中位粒子径は5.0μm以下が好ましい。体積中位粒子径が大きいほど積層体の衝撃強度が優位となり、小さいほど透明性が優位となる。強度と透明性を両立する観点から、体積中位粒子径は0.05〜3.0μmが好ましく、0.1〜2.0μmがより好ましく、0.5〜1.5μmが特に好ましい。
ゴム状分散粒子の体積中位粒子径を調整する方法としては、重合工程においてゴム粒子の相転域での攪拌速度を調整する方法、原料液中の連鎖移動剤の量を調整する方法等が挙げられる。
ゴム状分散粒子の体積中位粒子径は、例えば、アクリル系ゴム変性アクリル系共重合体を電解液(3%テトラ−n−ブチルアンモニウム/97%ジメチルホルムアミド溶液)に溶解させ、コールターマルチサイザー法(コールター社製マルチサイザーII;アパチャーチューブのオリフィス径30μm)により測定して求めた体積基準の粒径分布曲線の50体積%粒子径を用いることができる。
B層におけるポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の含有量は、樹脂成分Bの全質量を基準として、50質量%以上である。後述するように、本実施形態では、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の含有量が上記範囲であることを一因として、積層体を重ね貼りした際にコンクリート構造物に対する優れた付着性が得られる。コンクリート構造物に対する付着性がより向上する観点から、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の含有量は、樹脂成分Bの全質量を基準として、50質量%超、60質量%以上、75質量%以上、80質量%以上又は90質量%以上であってよく、100質量%であってもよい。ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の含有量は、耐候性に優れる観点から、樹脂成分Bの全質量を基準として、90質量%以下、80質量%以下、75質量%以下又は60質量%以下であってもよい。
樹脂成分Bは、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の他に、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を更に含んでいてよい。すなわち、樹脂層Bは、樹脂成分Bとして、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂のみを含んでいてよく、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂及びポリフッ化ビニリデン系樹脂を含んでいてもよい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、上述したA層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂と同様の樹脂を用いることができる。
樹脂成分Bにおけるポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有量は、積層体を重ね貼りした際のコンクリート構造物に対する付着性により優れる観点から、樹脂成分Bの全質量を基準として、50質量%以下、50質量%未満、40質量%以下、20質量%以下又は10質量%以下であってよく、0質量%であってもよい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有量は、耐候性に優れる観点から、樹脂成分Bの全質量を基準として、10質量%以上、20質量%以上又は40質量%以上であってもよい。ただし、樹脂成分Bにおけるポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有量は、樹脂層Aに含まれる樹脂成分Aにおけるポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有量よりも少ない。
樹脂成分Bにおけるポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂とポリフッ化ビニリデン系樹脂の混合割合は、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂とポリフッ化ビニリデン系樹脂の合計を100質量%とした場合、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の含有量が50〜100質量%であり、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有量が0〜50質量%であることが好ましく、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の含有量が60〜90質量%であり、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有量が10〜40質量%であることがより好ましく、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の含有量が60〜80質量%であり、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有量が20〜40質量%であることが更に好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂が50質量%以下であれば、積層体を重ね貼りした際のコンクリート構造物に対する付着性により優れる傾向がある。
樹脂層Bは、樹脂成分B以外の他の成分を含んでいてよい。他の成分としては、例えば、安定剤、紫外線吸収剤、顔料等が挙げられる。樹脂層Bが安定剤を含むことにより、押出時の劣化による物性低下や樹脂組成物の劣化由来の異物の発生を抑制することができる。紫外線吸収剤は、紫外線吸収剤の紫外可視吸収スペクトル、B層を構成する樹脂組成物Bに含まれる成分(例えば樹脂成分B)との相溶性、押出温度等を考慮して選択される。樹脂層Bが紫外線吸収剤を含むことにより、経時による黄変の発生を抑制することができる。揮散を防ぐためには、高分子量の紫外線吸収剤が好ましく用いられる。安定剤、紫外線吸収剤、及び顔料としては、樹脂層Aに含まれ得る他の成分として説明した紫外線吸収剤及び顔料と同じものを用いることができる。
本実施形態では、A層とB層の少なくとも一方が紫外線吸収剤を含むことが好ましく、積層体表面からの紫外線吸収剤のブリードアウトを防止する観点では、B層が紫外線吸収剤を含むことが好ましい。一方、積層体を重ね貼りした際のコンクリート構造物に対する付着性の低下は、B層が紫外線吸収剤を含む場合に特に起こりやすいため、B層が紫外線吸収剤を含む場合、本発明の効果が顕著となる。
また、本実施形態では、A層及びB層の少なくとも一方が顔料を含むことが好ましく、顔料のブリードアウトによる色移り防止の観点では、B層が顔料を含むことが好ましい。
B層における紫外線吸収剤の含有量は、充分な紫外線吸収量が得られ、充分な紫外線保護性能を発揮し得る観点から、樹脂成分Bの100質量部に対して、0.05質量部以上、0.1質量部以上又は1質量部以上であってよい。B層における紫外線吸収剤の含有量は、紫外線吸収剤がB層におけるC層側の表面にブリードアウトし難くなり、積層体を重ね貼りした際のコンクリート構造物に対する付着性により優れる観点から、樹脂成分Bの100質量部に対して、15質量部以下、10質量部以下又は5質量部以下であってよい。これらの観点から、紫外線吸収剤の含有量は、樹脂成分Bの100質量部に対して、0.05〜15質量部が好ましく、0.1〜10質量部がより好ましく、1〜5質量部が更に好ましい。
A層及びB層における紫外線吸収剤の含有量の合計は、樹脂成分A及び樹脂成分Bの合計100質量部に対して、0.05質量部以上、0.1質量部以上又は1質量部以上であってよく、15質量部以下、10質量部以下又は5質量部以下であってよい。
B層における顔料の含有量は、樹脂成分Bの100質量部に対して、0〜100質量部が好ましく、1〜50質量部がより好ましい。顔料の含有量が100質量部以下であると、積層体の引張強度により優れる。
B層の厚さは、例えば、5μm以上又は10μm以上である。B層の厚さが5μm以上であると、コンクリート構造物に対する付着性が得られやすい。B層の厚さは、例えば、100μm以下又は60μm以下である。B層の厚さが100μmを超える場合、B層に起因する各種性能が頭打ちとなる傾向がある。これらの観点から、B層の厚さは、5〜100μmが好ましく、10〜60μmがより好ましい。
(C層)
C層は、B層及びD層の間において、B層及びD層と隣接するように設けられており、D層をB層上に固定している。
C層を構成する粘着剤組成物の、温度25℃、周波数1.0Hzの条件における粘弾性測定で得られる貯蔵弾性率(G’)は、5.0×103〜1.0×106Paであり、温度100℃、周波数1.0Hzの条件における粘弾性測定で得られる損失正接(tanδ)は0.8以下である。貯蔵弾性率が5.0×103Pa未満であると、粘着剤組成物の凝集力が低下し、D層がA層/B層積層体からずれたり、剥がれたりする箇所が生じる場合があり、また、積層体をコンクリート構造物に貼り付けたときにD層との密着性が低下し、押し抜き抵抗性が低下する場合があるため、好ましくない。貯蔵弾性率が1.0×106Paを超えると粘着剤組成物が硬すぎ、被着体であるD層の凹凸に追従できず、C層が割れてしまう等の理由から、押し抜き抵抗性及びコンクリート構造物への付着性が低下する場合があり、好ましくない。損失正接(tanδ)が0.8を超えると、押し抜き抵抗性が低下することの他、耐熱性が低下し、積層シートを被着体であるコンクリート構造物に貼り付けた後、太陽光等の熱によって積層シートがコンクリート構造物からずれたり、剥がれたりする場合があり、好ましくない。
粘着剤組成物の上記貯蔵弾性率(G’)は、1.0×104Pa以上が好ましい。また、粘着剤組成物の上記損失正接(tanδ)は、0.6以下が好ましい。すなわち、粘着剤組成物の上記貯蔵弾性率(G’)が1.0×104〜1.0×106Paであり、且つ、粘着剤組成物の上記損失正接(tanδ)が0.6以下であることが好ましい。貯蔵弾性率(G’)及び損失正接(tanδ)は、後述するアクリル系粘着剤の種類(例えば、アクリル系粘着剤を構成するモノマーの種類、共重合比率等)及び量、架橋剤の種類及び量などにより調整することができる。
貯蔵弾性率(G’)及び損失正接(tanδ)は、例えば、Rheometric Scientific社製の粘弾性測定装置等を用いて測定することができる。本実施形態の貯蔵弾性率(G’)は、せん断モード、周波数1.0Hzにおいて、25℃の貯蔵弾性率(G’)である。また、本実施形態の損失正接(tanδ)は、せん断モード、周波数1.0Hzにおいて、100℃の貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G’’)の比(G’’/G’)から求めた値とした。
上記粘着剤組成物は、アクリル系粘着剤及び/又はその架橋体を含む。アクリル系粘着剤としては、例えば、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−ペンチルアクリレート、2−メチルブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、n−ノニルアクリレート、イソノニルアクリレート等のアクリル酸のC(炭素数)2からC12アルキルエステルの少なくとも一種(モノマーA)と、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の官能基含有アクリル系モノマーの少なくとも一種(モノマーB)との共重合体(以下、「アクリル系共重合体」ともいう。)を使用することができる。これらのアクリル系粘着剤によれば、上述した範囲の貯蔵弾性率(G’)及び損失正接(tanδ)を有する粘着剤組成物が得られやすい。
上記モノマーAとモノマーBの共重合比は、質量比で99.99/0.01〜70/30が好ましく、99.90/0.10〜75/25がより好ましい。特に好適なアクリル系共重合体としては、ブチルアクリレート(BA)とアクリル酸(AA)との共重合体が挙げられる。このアクリル系共重合体において、ブチルアクリレート(BA)とアクリル酸(AA)の共重合比は、質量比で99.9/0.1〜70/30が好ましく、99.5/0.5〜80/20がより好ましい。アクリル酸(AA)が0.1質量%以上であれば、C層の形成時に架橋剤を使用して架橋体とする場合に、粘着物性コントロールが容易となり得る。アクリル酸(AA)が30質量%以下であると、ガラス転移温度(Tg)の上昇が抑えられ、低温での被着体(B層及びD層)への貼り付き性が向上し、施工性が向上する傾向がある。なお、上記モノマーA(例えばブチルアクリレート(BA))の上記モノマーB(例えばアクリル酸(AA))に対する比率が高くなるほど、貯蔵弾性率(G’)及び損失正接(tanδ)が向上する傾向がある。
上記アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、例えば200,000以上又は400,000以上であり、1,000,000以下又は800,000以下である。重量平均分子量(Mw)は、重合開始剤の量、連鎖移動剤の添加等で調整することができる。重量平均分子量(Mw)が200,000以上であると、アクリル系共重合体の凝集力が向上し、セパレーターへの糊残り及びD層の剥がれが発生しにくい傾向がある。重量平均分子量(Mw)が1,000,000以下であると、アクリル系共重合体が硬くなりすぎず、被着体(D層)の凹凸に追従しやすくなる傾向がある。これらの観点から、上記アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは200,000〜1,000,000であり、より好ましくは400,000〜800,000である。なお、アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)が高くなるほど貯蔵弾性率(G’)が向上する傾向があり、損失正接(tanδ)が低下する傾向がある。
アクリル系粘着剤の架橋体は、上記アクリル系粘着剤を、架橋剤を用いて架橋させることにより得られる。架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アミン系架橋剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。これらの架橋剤によれば、上述した範囲の貯蔵弾性率(G’)及び損失正接(tanδ)を有する粘着剤組成物が得られやすい。特に好適な架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤が挙げられる。
イソシアネート系架橋剤としては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、3−メチルジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−2,4’−ジイソシアネート、リジンイソシアネート等の多価イソシアネート化合物、及びこれらの誘導体(アダクト体、ビュレット体、イソシアヌレート体)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
架橋剤の使用量は、アクリル系粘着剤100質量部に対して、固形分換算で、0.3〜4質量部が好ましく、0.5〜3質量部がより好ましい。架橋剤が0.3質量部以上であると、アクリル系粘着剤組成物の凝集力が低くなりすぎず、セパレーターからC層を剥がす際、被着体への糊残りが発生し難い。架橋剤(例えばイソシアネート系架橋剤)が4質量部以下であると、アクリル系粘着剤が硬くなりすぎず、被着体表面の凹凸に追従しやすいため、例えばC層を形成する際に、気泡を巻き込みにくくなる傾向がある。なお、架橋剤の使用量が多いほど、貯蔵弾性率(G’)が向上する傾向があり、損失正接(tanδ)が低下する傾向がある。
粘着剤組成物がアクリル系粘着剤の架橋体を含む場合、C層の架橋度(ゲル分率)は、特に制限されないが、例えば10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上が更に好ましく、25質量%以上が特に好ましい。C層の架橋度(ゲル分率)は、80質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下が更に好ましく、60質量%以下が特に好ましい。すなわち、C層の架橋度(ゲル分率)は、例えば、10〜80質量%が好ましく、15〜75質量%がより好ましく、20〜70質量%が更に好ましく、25〜60質量%が特に好ましい。架橋度(ゲル分率)は、例えば、アクリル系粘着剤組成物のベースポリマー(粘着剤)の組成、分子量、架橋剤の使用の有無及びその種類並びに使用量の選択等により調節することができる。なお、架橋度の上限は、原理上、100質量%である。
上記アクリル系粘着剤組成物は、必要に応じて、粘着付与剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加剤を更に含んでいてよい。
粘着付与剤としては、軟化点、各成分との相溶性等を考慮して選択することができる。粘着付与剤としては、例えば、テルペン樹脂、ロジン樹脂、水添ロジン樹脂、クマロン・インデン樹脂、スチレン系樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、テルペン−フェノール樹脂、キシレン系樹脂、その他脂肪族炭化水素樹脂又は芳香族炭化水素樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
紫外線吸収剤としては、上述の樹脂組成物A及び樹脂組成物Bに添加される紫外線吸収剤と同様のものを適切に選定し、使用することができる。
光安定剤としては、使用するアクリル系粘着剤との相溶性、厚み等を考慮して選択することができる。光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、ベンゾエート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
図2は、図1に示す積層体1中のB層及びC層を示す模式平面図である。図2に示すように、C層は、平面視において、B層の全面にわたってストライプ状に形成されている。このように、本実施形態では、B層におけるA層とは反対側の面の一部にC層が形成されており、該C層が形成されている面に、C層が設けられることなく露出している部分が存在する。そのため、上記積層体では、積層体とコンクリート構造物、及び、積層体同士を接合するために設けられる接着剤組成物が、D層における隙間を通り、B層の上記露出部分と接することとなる。その結果、本実施形態の積層体によれば、重ね貼りした場合であっても、コンクリート構造物に対する優れた付着強度が得られる。また、本実施形態では、B層におけるポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の含有量が50質量%以上であるところ、典型的には、積層体とコンクリート構造物、及び、積層体同士を接合するために設けられる接着剤組成物として、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂に対する親和性が高いアクリル系接着剤組成物が用いられる。そのため、接着剤組成物はB層に強固に接着される。
本実施形態においてB層に対するC層の被覆面積率は、10〜90%である。ここで、被覆面積率とは、B層におけるC層側の主面の全面積に対する、C層におけるB層側の主面の全面積の割合を意味する。被覆面積率が10%未満であると、C層とD層とが接する面が少なくなり過ぎる結果、C層とD層との間の接着強度が弱く、両層の界面で剥離が生じるため好ましくない。一方、被覆面積率が90%を超えると、積層体を重ね貼りした際のコンクリート構造物に対する付着性が不足するため、好ましくない。上記被覆面積率は、C層とD層との間の接着強度により優れる点で、20%以上が好ましく、積層体を重ね貼りした際のコンクリート構造物に対する付着性により優れる点で、80%以下が好ましく、67%以下がより好ましい。これらの観点から、被覆面積率は、10〜80%が好ましく、10〜67%がより好ましく、20〜67%が更に好ましい。
上述のとおり、本実施形態では、C層はストライプ状に形成されているが、被覆面積率が上記範囲である限りにおいて、C層の形状は特に限定されない。C層は、連続した形状であっても、不連続な形状であってもよい。また、C層は規則的な形状であっても不規則な形状であってもよい。C層は、例えば、図3に示すように、平面視において、格子状に形成されていてもよい。なお、本実施形態では、C層が不連続なストライプ状であることに伴い、B層上に、粘着剤組成物からなる領域が複数存在するが、これらの複数の領域がC層を構成する。
C層とD層との間の接着強度がより充分に得られる観点から、C層は、B層の全面にわたって形成されていることが好ましい。「全面にわたって」とは、B層のA層とは反対側の面上の任意の5箇所の300mm四方の範囲においてC層の被覆面積率を測定した場合に、全ての測定箇所においてC層の被覆面積率が0%超であることを意味する。本実施形態では、B層のA層とは反対側の面上の任意の5箇所の300mm四方の範囲においてC層の被覆面積率を測定した場合に、全ての測定箇所において、C層の被覆面積率が10〜90%以上であることが好ましい。
C層の厚さには特に制限はない。一般的に粘着剤組成物からなる層の厚さが小さくなると被着体に対する密着性は低下しやすくなる傾向にあることから、例えば、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、15μm以上が更に好ましく、20μm以上が特に好ましい。C層の厚さは、150μmを超える場合、C層に起因する各種性能が頭打ちとなる傾向があるため、150μm以下が好ましく、110μm以下がより好ましく、100μm以下が更に好ましく、75μm以下が特に好ましい。これらの観点から、C層の厚さは、5〜150μmが好ましく、10〜110μmがより好ましく、15〜100μmが更に好ましく、20〜75μmが特に好ましい。なお、上記厚さはC層の乾燥後の厚さ(μm/Dry)を意味する。
(D層)
D層は、C層上に設けられており、積層体1の最表面層を構成している。D層には、C層を構成する粘着剤組成物の一部が含浸していてもよいが、粘着剤組成物が含浸していないことが好ましい。すなわち、D層は、粘着剤組成物を含まないことが好ましい。
D層を構成する繊維シートは、例えば、メッシュ、ネット、不織布、織布及び焼結多孔質体からなる群より選ばれる少なくとも1つの部材で形成される。これらの中でも、メッシュ及び織布が好ましく用いられる。部材の材料としては、例えば、ガラス繊維、ビニロン繊維、ポリオレフィン繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等)、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、炭素繊維、バサルト繊維等が挙げられる。コストと接着性能の観点から、ガラス繊維、ビニロン繊維、ポリオレフィン繊維及びナイロン繊維からなる群より選択される少なくとも一種の繊維が好ましく用いられる。繊維シートを構成する部材及び該部材を構成する材料は、一種でもよく、二種以上を組合せて用いてもよい。また、繊維シートは二種以上を積層して用いてもよい。
ネットを用いる場合、その目間隔は特に限定されないが、100mm以下であることが好ましい。目間隔が100mm以下であれば、製造及び作業時の取り扱いが容易となり得る。ネットの織り方については、組布、絡み織り等、如何なる方法であってもよい。
繊維シートの単位面積当たりの質量(目付)は、優れた押し抜き抵抗性が得られやすい観点から、50g/m2以上が好ましく、100g/m2以上がより好ましい。繊維シートの単位面積当たりの質量(目付)は、シート重量の増大を防止し、施工性、施工後のシートの定着性を向上させる観点から、1000g/m2未満が好ましく、500g/m2未満がより好ましい。これらの観点から、繊維シートの単位面積当たりの質量(目付)は50g/m2以上1000g/m2未満が好ましく、100g/m2以上500g/m2未満がより好ましい。
D層の厚さは、押し抜き抵抗性を満たせば特に限定されないが、例えば、10μm以上又は100μm以上である。D層の厚さが10μm以上であると、優れた押し抜き抵抗性が得られやすい。D層の厚さは、例えば、2,000μm以下又は1,000μm以下である。D層の厚さが2,000μm以下であると、コンクリートへ積層シートを貼り付ける際の施工性が良好となりやすい。
以上説明した積層体1の総厚は、例えば、25μm以上又は130μm以上であり、2,350μm以下又は1,230μm以下である。積層体1におけるA層の厚さ及びB層の厚さの組み合わせは、A層の厚さが5〜100μmであり、B層の厚さが5〜100μmであることが好ましく、A層の厚さが10〜60μmであり、B層の厚さが10〜60μmであることがより好ましい。
積層体1は、上述したA層、B層、C層及びD層をこの順に備えるため、押し抜き抵抗性が良好であるだけでなく、繊維シートの密着性に優れると共に、重ね貼りされた場合にも、コンクリート構造物に対する充分な付着性を有する。このような積層体1によれば、作業工程の簡略化が可能となる。また、積層体1は優れた耐候性を有する。
積層体1は、少なくともA層、B層、C層及びD層を備えているが、これに限定されず、A層、B層、C層及びD層以外の他の層を更に備えていてもよく、例えば、A層とB層の間に他の層が存在していてもよく、A層上(A層におけるB層とは反対側の面上)に他の層が存在していてもよい。
(積層体の製造方法)
図4は、積層体1の製造方法を示す模式断面図である。積層体1の製造方法は、特に制限されないが、例えば、図4に示すように、A層とB層とが積層された積層体(A層/B層積層体)2を準備する工程(図4中の(a))と、積層体2の、B層におけるA層とは反対側にC層を形成する工程(図4中の(b))と、C層におけるB層とは反対側に繊維シートを接着し、D層を形成する工程(図4中の(c))を備える。この方法によれば、簡便に積層体1を製造することができる。
A層/B層積層体2を準備する工程は、A層/B層積層体2を製造する工程であってよい。A層/B層積層体2の製造方法に制限はなく、例えば、溶融押出成形にて製造することができる。溶融押出成形には、一般的に使用されている単軸押出機の他、二軸押出機を使用できる。複数の層を一体に結合させることができる点で、共押出成形法を使用することが好ましい。
共押出成形法では、例えば、複数の押出成形機を用いて樹脂組成物を溶融状態で接着させて複層とし、先端にTダイを設置して、シート状、フィルム状等に成形する。Tダイを用いた共押出成形法としては、各樹脂組成物層をシ−ト状、フィルム状等に成形した後、Tダイ内部の先端で各層を接触させて接着するマルチマニホールド法、合流装置(フィードブロック)を用いて各樹脂組成物層を合流接着した後、シ−ト状、フィルム状等に成形するフィードブロック法、各樹脂組成物層をシ−ト状、フィルム状等に成形した後、Tダイ外部の先端で各層を接触させて接着するデュアルスロット法などが挙げられる。丸型ダイを使用するインフレーション法で積層体を成形してもよい。本実施形態の製造方法においては、いずれの方法を用いてもよい。
A層/B層積層体2のA層及びB層に、安定剤、顔料、紫外線吸収剤等の添加剤を混入する方法としては、特に制限はないが、例えば、添加剤と樹脂組成物に含有される他の成分(樹脂成分A、樹脂成分B等)とをあらかじめ混合しておき、一般に使用される押出機を使用して溶融混練する方法が好ましい。
A層/B層積層体2の赤外分光法にて測定した赤外吸収スペクトルによる吸光度から算出したα型結晶とβ型結晶の割合が、α型結晶とβ型結晶の割合の合計を100%としたとき、α型結晶の割合が30〜100%であることが好ましい。α型結晶の割合が高いほど、A層/B層積層体2の変色が抑制される傾向があり、α型結晶の割合が低いほど、A層/B層積層体2の引張強度が良好となる傾向がある。変色と引張強度を両立する観点から、A層/B層積層体2のα型結晶の割合は30〜90%がより好ましく、40〜80%が更に好ましく、60〜80%が特に好ましい。
A層/B層積層体2の赤外分光法にて測定した赤外吸収スペクトルによる吸光度から算出したα型結晶とβ型結晶の割合は、花田らの方法(花田朋美、安藤穣、「ポリフッ化ビニリデンとポリ酢酸ビニル及びポリメチルメタアクリレートブレンド系におけるポリフッ化ビニリデンの結晶化」、東京家政学院大学紀要、1992年07月、No.32、5−12項)に記載された方法にて算出される。
すなわち、赤外吸収スペクトルにおけるポリフッ化ビニリデン樹脂のβ型結晶(I型結晶)の吸収特性は波数840cm−1に存在し、α型結晶(II型結晶)の吸収特性は波数765cm−1に存在することから、α型結晶の成分比率(%)は、((765cm−1での吸収強度)/(765cm−1での吸収強度+840cm−1での吸収強度))×100(%)で算出される。なお、本実施形態における樹脂成分と花田らの方法における樹脂成分は同一ではないが、赤外吸収スペクトルにおける結晶の吸収特性に変わりはないので、本実施形態における組成系においても上記関係式がそのまま利用できる。また、γ型結晶(III型結晶)については、通常、常温、大気圧付近での雰囲気下では存在しないことから、定量については省略した。
A層/B層積層体2の表面に、必要に応じて表面処理を実施してもよい。すなわち、A層におけるB層とは反対側の表面及び/又はB層におけるA層とは反対側の表面が表面処理されていてよい。表面処理は片側のみでも両面共に実施してもよい。表面処理を実施することにより、B層へのC層の密着性、大面積への積層シート施工時に発生する積層シート同士の重ね貼りを想定した付着性が良好となる傾向がある。
表面処理の方法としては、各種の方法、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理(大気圧、及び真空)、高周波スパッタエッチング処理、フレーム処理、イトロ処理、エキシマUV処理等が用いられる。またサンドペーパーやケレン、ブラスト処理等で物理的に表面を削るような目粗し処理を行ってもよい。
C層を形成する工程では、従来公知の方法によってA層/B層積層体2におけるB層側にC層を形成してよい。例えば、A層/B層積層体のB層表面にアクリル系粘着剤組成物を直接塗工して乾燥させることにより、C層を形成する方法(直接法)であってよく、剥離性を有する表面(剥離面)を有したセパレーター(離形フィルム、離形紙)等にアクリル系粘着剤組成物を塗工して乾燥させることにより該表面上にアクリル系粘着剤組成物からなるC層を形成した後に、A層/B層積層体のB層表面へC層を貼り付け、セパレーターを剥離することでC層をB層へ転写する方法(転写法)であってよい。架橋体を含む粘着剤組成物(未架橋の粘着剤組成物)を用いてC層を形成する場合、例えば、アクリル系粘着剤と架橋剤とを少なくとも含む未架橋の粘着剤組成物をA層/B層積層体のB層表面又はセパレーター等の表面に直接塗工して乾燥させることにより、架橋を進行させ、C層を形成してよい。転写法では、転写前に未架橋の粘着剤組成物を架橋させてよく、転写後に未架橋の粘着剤組成物を架橋させてもよい。
上述のセパレーターは公知の一般的なセパレーターを使用することができる。例えば、PETフィルム表面にシリコーン系剥離剤が塗工されているもの、紙とポリエチレンのラミネートフィルムのポリエチレン側にシリコーン系剥離剤が塗工されたもの等が挙げられる。
上記方法では、C層のB層に対する被覆面積率が規定の範囲内となるように、アクリル系粘着剤組成物を部分塗工(パート塗工)することでC層を形成する。部分塗工の方法は、C層のB層に対する被覆面積率を規定の範囲内とすることができれば、従来公知の方法であってよい。例えば、間欠塗工、連続ストライプ塗工、間欠ストライプ(筋塗り)塗工、ドット(点状)塗工、ビート塗工、ロッド塗工、及び文字、デザインのような形状のパターン塗工等が挙げられる。部分塗工は規則的あるいはランダムなパターンで形成されてもよい。
アクリル系粘着剤組成物の塗工は、例えば、グラビアロールコーター、ダイコーター、バーコーター、ドクターブレード、コンマコーター、リバースコーター等、従来公知の塗工装置を用いて行うことができる。また、含浸、カーテンコート法等によりアクリル系粘着剤組成物を塗工してもよい。必要に応じて冷却、加熱、又は電子線照射を行いながらアクリル系粘着剤組成物を塗工してもよい。
アクリル系粘着剤組成物を塗工した後の乾燥は、架橋反応の促進、製造効率向上等の観点から、加熱下で行うことが好ましい。乾燥温度は、例えば40℃以上(通常は60℃以上)であり、150℃以下(通常は130℃以下)程度とすることが好ましい。
C層を形成する工程では、アクリル系粘着剤組成物を塗工し、乾燥させた後、さらに、C層内における成分移行の調整、架橋反応の進行、並びに、基材(例えば、A層/B層積層体、セパレーター等)及びC層内に存在し得る歪の緩和などを目的としてエージングを行ってもよい。
D層を形成する工程では、繊維シートをC層上に積層する。積層方法は特に限定するものではなく、一般的な方法が用いられる。例えば、上述の直接法又は転写法で作製したA層/B層/C層積層体3のC層表面へ繊維シートを接着させる方法が挙げられる。
本実施形態の製造方法は、積層体1を得た後、積層体1のD層表面にセパレーターを貼り付ける工程を更に備えていてもよい。セパレーターとしては、上述の転写法で用いるセパレーターと同様のものを適切に選定し、使用することができる。ただし、後述する積層体1のコンクリート表面への施工時にはセパレーターを剥離させて使用する。
<積層体の施工方法>
図5及び図6は、本実施形態の積層体1の施工方法を説明するための模式断面図である。図5に示すように、積層体1の施工方法は、例えば、コンクリート4の表面(コンクリート構造物を構成するコンクリートの表面)の少なくとも一部分にコンクリート用接着剤組成物を塗工して第一層(第一の接着剤層)5を形成する第一工程(図5中の(a))と、積層体1(第一の積層体1A)を、D層側から第一層上に貼り付け、第二層6を形成する第二工程(図5中の(b))と、を備える。また、図6に示すように、積層体1の施工方法は、コンクリート4の表面の他の部分及び第二層6の表面にコンクリート用接着剤組成物を塗工して第三層(第二の接着剤層)7を形成する第三工程(図6中の(a))と、第二層6と重なるように、積層体1(第二の積層体1B)を、D層側から第三層7上に貼り付け、第四層8を形成する第四工程(図6中の(b))と、を更に備えてよい。
上記施工方法では、本実施形態の積層体1を用いるため、第三工程及び第四工程のような積層体の重ね貼りを行った場合にも、積層体がコンクリート構造物に対する充分な付着性を有しており、強固な施工構造体が得られる。特に、積層体1のB層に対する前記C層の被覆面積率が10〜90%であることにより、第一層5及び第三層7の接着剤組成物がD層の隙間を通ってB層表面まで到達するため、第一の積層体1AにおけるB層と第一層、及び、第二の積層体1BにおけるB層と第三層がそれぞれ接合され、強固な施工構造体が得られる。そのため、上記施工方法は、コンクリート片のはく落防止工法において好適に用いられる。以下、各工程の詳細を説明する。
第一工程では、コンクリート構造物におけるコンクリート4の表面にコンクリート用接着剤組成物を塗工し第一層5を形成する。コンクリート用接着剤組成物としては市販されているものが使用できる。例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂及びポリマーセメント系材料からなる群より選択される少なくとも一種の材料を含む接着剤組成物を用いることができる。コンクリート用接着剤組成物には、性能に影響がでない範囲で、揺変剤、顔料、消泡剤、希釈剤、硬化速度調整剤等を加えることもできる。これらの中では、施工性、積層体1との接着強度等の物性を考慮すると、アクリル系接着剤組成物が好ましく、常温硬化型のアクリル系接着剤組成物(常温硬化型アクリル系樹脂組成物)が特に好ましい。
常温硬化型アクリル系樹脂組成物としては、(メタ)アクリレート、重合開始剤及び分解促進剤を含有する樹脂組成物が好ましい。例えば、特開平9−302053号公報に開示された1分子中にエチレン性不飽和二重結合を有する(メタ)アクリレート、熱ラジカル重合開始剤、及び、熱ラジカル重合開始剤の分解を促進する分解促進剤を含有するコンクリート用接着剤組成物が使用できる。このようなコンクリート用接着剤組成物として市販されているものとしては、デンカ社製、常温硬化型アクリル系樹脂組成物「デンカDK550−04R」等を挙げることができる。コンクリート用接着剤組成物の好ましい塗工量の範囲は0.2〜1.5kg/m2が好ましく、0.4〜1.0kg/m2がより好ましい。コンクリート用接着剤組成物の塗工方法は特に限定されるものではないが、例えば、ローラー、刷毛、コテ、ヘラ等を用いることができる。
第二工程では、第一層5の上に、第二層6となる第一の積層体1AをD層側から貼り付ける。第一の積層体1Aを貼り付ける際は、ローラー、コテ、ヘラ等を用いて、第一の積層体1A表面にしわ等が発生しないように、且つ、均一にコンクリート用接着剤組成物が接着面に行き渡るように注意して貼り付ける。その後、接着剤組成物を硬化させることで、コンクリート構造物上に第一の積層体1Aが固定される。
第三工程では、第一工程と同様にして、コンクリート4の表面及び第二層6の表面にコンクリート用接着剤組成物を塗工して第三層7を形成する。コンクリート用接着剤組成物としては、第一工程で用いたコンクリート用接着剤組成物と同じものを用いることができる。好ましいコンクリート用接着剤組成物の例も第一工程と同じである。第三工程は、第二工程後、接着剤組成物を硬化させた後に実施してよく、接着剤組成物を硬化させる前に実施してもよい。
第四工程では、第二工程と同様にして、第二層6と重なるように、第二の積層体1Bを、D層側から第三層7上に貼り付ける。これにより第四層8を形成する。その後、接着剤組成物を硬化させることで、コンクリート構造物上に第二の積層体1Bが固定される。第四層8と第二層6とは少なくとも一部分において重なり部分を有していればよく、例えば、第二層6に対する第四層8の被覆面積率は、0.1%以上であってよく、100%以下であってよい。
上記施工方法では、コンクリートのはく落時の更なる安全性を考慮して、コンクリート構造物に接着した積層体を、通常市販されているアンカーピンで固定してもよい。本工程は、例えば、第二工程後又は第四工程後に行ってよい。
上記施工方法では、コンクリート用接着剤組成物の塗工前(例えば第一工程前)に、亀裂、段差を塞ぐために、断面修復材を用いて断面修復を行い、施工面を平滑にすることが好ましい。また、必要であればコンクリート表面の洗浄、目粗しの対処等を行っておくことが好ましい。上記断面修復材としてはコンクリート構造物の表面(コンクリート表面)及びシートとの付着性に優れたものを挙げることができ、具体的には、ポリマーセメントモルタル類;セメント、骨材及び樹脂等を含んだ樹脂モルタルなどを挙げることができる。
上記施工方法では、コンクリート構造物の表面(コンクリート表面)又は断面修復を行った表面に下塗り材が塗工されていてもよい。すなわち、コンクリート構造物の表面(コンクリート表面)には下塗り層が設けられていてよい。下塗り材を塗工することによって、上記構造物表面と上記コンクリート用接着剤組成物との付着性を向上することができる。上記下塗り材としては市販されているものが使用できる。例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂及びポリマーセメント系材料からなる群より選択される少なくとも一種の材料を含む下塗り材を用いることができる。
下塗り材には、性能に影響がでない範囲で、揺変剤、顔料、消泡剤、希釈剤、硬化速度調整剤等を加えることもできる。下塗り材としては、施工性、繊維シート積層体との接着強度等の物性を考慮すると、アクリル系接着剤組成物が好ましい。このような下塗り材として市販されているものとしては、デンカ社製、常温硬化型アクリル系樹脂組成物(プライマー)「デンカDK550−003R」等を挙げることができる。下塗り材の塗工量の範囲は0.1〜0.5kg/m2が好ましく、0.15〜0.25kg/m2がより好ましい。下塗りのコンクリート用接着剤組成物の塗工方法は特に限定されるものではないが、例えば、ローラー、刷毛等を用いることができる。
また、上記施工方法では、上記下塗り層の表面に不陸調整材が塗工されていてもよい。不陸調整材はコンクリート表面に塗工されてもよい。不陸調整材を塗工することによって、施工面の凹凸を調整して、本実施形態の積層体の接着性、仕上り時の平滑性等を更に向上させることができる。また、コンクリート表面に対して不陸調整材を塗工することにより、ピーリング強度を向上させることができる。
上記不陸調整材としては、下塗り材及びコンクリート用接着剤組成物に対する付着性に優れたものを用いることが好ましく、具体的には、セメント、骨材及び樹脂等を含んだ樹脂モルタル:高粘度樹脂などを挙げることができる。このような不陸調整材として市販されているものとしては、デンカ社製アクリル系樹脂モルタル「デンカダイナライト不陸調整」等を挙げることができる。不陸調整材の塗工量の範囲は、表面の平滑性が確保できれば特に限定されるものではないが、施工性を考慮し1.5kg/m2未満とすることが好ましい。不陸調整材の塗工方法は特に限定されるものではないが、例えば、コテ、ヘラ等を用いることができる。
以下実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
<樹脂組成物A及び樹脂組成物(B)の製造>
φ30mm異方向回転二軸押出機(神戸製鋼所社製、KTX−30)を用い、押出温度240℃、スクリュー回転数200rpmで、表1に示す各成分を表1に示す配合量で溶融混練し、ストランド状に押し出した。ストランド状の混練物を冷却した後、ペレタイザーにてペレット化した。これにより、表1に示す樹脂組成物A(A層を形成するための樹脂組成物)、及び、樹脂組成物B(B層を形成するための樹脂組成物)を得た。
<A層/B層積層体の製造>(成形例1〜21)
樹脂組成物A及び樹脂組成物Bのペレットを用い、フィードブロック法のTダイ式多層押出機にて、A層とB層を二種二層で積層させ、成形例1〜18のA層/B層積層体を作製した。A層/B層積層体の層比は50/50とし、厚さは100μmとした。A層及びB層の押出は、共に、φ40mm単軸押出機を用いて、押出温度240℃、Tダイ温度240℃の条件にて実施した。以下では、A層及びB層の押出方向(流れ方向)を積層体のMD(Machine Direction)といい、MDに垂直な方向をTD(Transverse Direction)という。各層の構成(樹脂組成物の組み合わせ)を表1に示す。
表1中、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)系樹脂及びポリメチルメタクリレート(PMMA)系樹脂の配合量(質量%)は、樹脂成分の全質量を基準とした配合量であり、紫外線吸収剤の配合量(質量部)は、樹脂成分100質量部に対する配合量である。表1中の各成分の詳細は以下のとおりである。
・ポリフッ化ビニリデン(PVDF)系樹脂:アルケマ社製、Kynar720(フッ化ビニリデンのホモポリマー、MFR(ISO1133準拠、230℃、3.8kg荷重):18〜26g/10分)
・ポリメチルメタクリレート(PMMA)系樹脂:三菱ケミカル社製、ハイペットHBS000(メチルメタクリレート−ブチルアクリレート共重合体、MFR(ISO1133準拠、230℃,10kg加重):5〜9g/10分)
・紫外線吸収剤:BASF社製、TINUVIN234(ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤)
<A層/B層/C層積層体の製造>
粘着剤を、場合により架橋剤と混合して未架橋のアクリル系粘着剤組成物を調製した後、シリコーン系剥離剤が塗工されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(ニッパ社製、PET JOL、厚さ:38μm)の片面に、上記粘着剤組成物を所定の塗工形状となるように、A層/B層積層体のMDと平行に、ストライプ状に部分塗工(パート塗工)した。これを130℃で乾燥させ、PETフィルム上に、厚さ50μm(dry)のC層を形成した。このC層をA層/B層積層体のB層側の表面に貼り付け、A層/B層/C層積層体を作製した。C層の形成に用いたアクリル系粘着剤組成物の組成を表2に、C層の塗工形状及びB層に対するC層の被覆面積率を表3に示す。
粘着剤は、以下の粘着剤を使用した。
・粘着剤1:ブチルアクリレート(BA)とアクリル酸(AA)の共重合体(BA/AA=90/10(質量比)、溶媒:酢酸エチルとトルエンの混合物、固形分:35質量%)
・粘着剤2:ブチルアクリレート(BA)とアクリル酸(AA)の共重合体(BA/AA=99.95/0.05(質量比)、溶媒:酢酸エチルとトルエンの混合物、固形分:35質量%)
架橋剤は、以下の架橋剤を使用した。
・架橋剤1:トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体である三官能イソシアネート(日本ポリウレタン工業社製、コロネートL−45E、溶媒:酢酸エチル、固形分:45質量%)
<A層/B層/C層/D層積層体の製造>
A層/B層/C層積層体のC層側に配置されたPETフィルムを剥離させた後、露出したC層に繊維シートを接着させ、A層/B層/C層/D層積層体を作製した。使用した繊維シートを表4に示す。なお、表4に示す「ガラス繊維シート/不織布」(繊維シート5)とは、ガラス繊維シートと不織布との積層体である。繊維シート5は、ガラス繊維シートとC層とが対向するようにC層に接着させた。
以上の操作により、実施例1〜32及び比較例1〜8のA層/B層/C層/D層積層体及び比較例9のA層/B層/C層積層体を得た。これらの積層体の各層の構成を表5〜7に示す。
<積層シートの施工>
NEXCO試験方法「第4編 構造関係試験方法」の試験法424−2011に従って作製したコンクリート供試体に、コンクリート用接着剤組成物をローラーで0.2kg/m2となるように塗工し、A層/B層/C層/D層積層体のD層側をコンクリート供試体に接着し、コンクリート片のはく落防止工法用の積層体とした。
コンクリート用接着剤組成物は、デンカ社製、常温硬化型アクリル系樹脂組成物「デンカDK550−003R」を使用した。
<評価>
[180°剥離試験:C層/D層間の接着強度の測定]
東洋精機製作所製、引張試験機、ストログラフ VE1Dを用い、JIS Z0237記載の引きはがし粘着力の測定、方法1;試験板に対する180°引きはがし粘着力の測定方法に準じ、C層/D層間の接着強度を測定した。
具体的には、まず、A層/B層/C層/D層積層体のC層/D層間を、TDに25mm剥離させ、A層/B層/C層/D層積層体をMD25mm幅にカットして、25mm幅の測定用サンプルを作製した。次いで、測定用サンプルをステンレス板に固定し、引きはがし速度300mm/分で180°剥離力を測定し、25〜75mm間の平均剥離力をC層/D層間の接着強度(N/25mm)とした。この際、C層を構成するアクリル系粘着剤組成物の塗工部、未塗工部の接着強度は区別せず、25〜75mm間の平均剥離力を算出した。C層/D層間の接着強度は、1.0N/25mm以上を好適とした。1.0N/25mm未満であると、A層/B層/C層/D層積層体取り扱い時の剥離不良等が懸念される。C層/D層間の接着強度は、より好ましくは1.5N/25mmであり、更に好ましくは2.0N/15mmである。測定結果を表5〜7に示す。
[耐候試験:黄変指数(Δb)の測定]
黄変指数の測定は、A層/B層積層体に対して行った。具体的には、東洋精機製作所製、キセノンウェザーメーター、ATLAS Ci4000を用い、JIS A1415記載のキセノンアークランプによる暴露試験方法の試験条件;WX−A法、サイクルNo.1に準拠し、A層/B層積層体のA層側から光源を照射し、A層/B層積層体の促進耐候性試験を3,000時間実施した。
日本電色工業社製、カラーメーターZE6000を用い、JIS K7103に準拠し、試験前後の黄色度測定を実施し、下記式に基づき、黄変指数(Δb)を算出した。黄変指数は、5.0以下を好適とした。黄変指数が5.0を超えると、目視でも明確に黄変していると判断できる。黄変指数は、より好ましくは3.0以下であり、更に好ましくは2.5以下であり、特に好ましくは2.2以下である。測定結果を表5〜7に示す。
式:黄変指数(Δb)=(促進耐候性試験後の黄色度)−(初期黄色度)
<防汚性評価:|ΔL*|の測定>
一般財団法人土木研究センター 防汚材料評価促進試験 防汚材料評価促進試験方法IIIに準拠し、A層/B層/C層/D層積層体の明度差(ΔL*)を測定し、明度差(ΔL*)の絶対値(|ΔL*|)を防汚性の指標とした。A層/B層/C層/D層積層体の明度はA層側から測定した。懸濁液は、指定の材料及び方法で調製したものを用い、試験片の前処理は、指定の方法で行った。明度差(ΔL*)は日本電色工業社製、カラーメーターZE6000を用い、下記式に基づき算出した。得られた明度差(ΔL*)の絶対値(|ΔL*|)を指標として防汚性を評価した。防汚性が良好であると判断される絶対値(|ΔL*|)は、防汚材料評価促進試験方法IIIの基準では3.2以下であるが、本実施例での評価時には、2.0以上の場合でも、目視で明確に汚染されていると判断できたことから、より厳しい基準として2.0未満を好適とした。絶対値(|ΔL*|)は、より好ましくは1.5以下であり、更に好ましくは1.3以下であり、特に好ましくは1.2以下である。測定結果を表5〜7に示す。
明度差(ΔL*)=(試験後の平均明度L1 *)−(試験前の平均明度L0 *)
<押し抜き抵抗性>
NEXCO試験方法「第4編 構造関係試験方法」の試験法424−2011に準拠し、A層/B層/C層/D層積層体のD層側をコンクリート供試体に接着したコンクリート片のはく落防止工法用の積層体を用い、押し抜き抵抗性を測定した。測定は変位制御できるオートグラフを用いて荷重と変位の関係を記録し、最大荷重とそのときの変位を求めることにより行った。NEXCO基準では、変位が10mm以上で最大荷重が1.5kN以上を示せば、はく落防止性能があることの指標としているため、変位10mm以上、最大荷重1.5kN以上を好適とした。より好ましくは変位15mm以上、最大荷重1.9kN以上であり、更に好ましくは変位20mm以上、最大荷重2.0kN以上であり、特に好ましくは変位25mm以上、最大荷重2.4kN以上である。測定結果を表5〜7に示す。
<付着(引張接着)性>
23℃下でJIS A5371に規定するコンクリート普通平板300×300×60mmの表面に、A1層/B1層/C1層/D1層積層体(第一の積層体)のD1層側を接着し、更に、第一の積層体上に、A2層/B2層/C2層/D2層積層体(第二の積層体)のD2層側を接着し、付着試験用試験体を作製した。付着試験用試験体を用いて、付着(引張接着)性を測定した。コンクリート普通平板と第一の積層体、及び、第一の積層体と第二の積層体の接着には、接着剤組成物(デンカ社製、デンカワンステップガードグレー)を用いた。積層体接着後、23℃、RH50%条件下にて、7日間養生し、積層体表面に40×40mmの鋼製冶具をアクリル樹脂モルタル接着剤で貼り付けて、該冶具に沿ってモルタル板まで達するまで切込を入れた。その後、該冶具を、建研式引張接着試験器を用いて貼り付け面に対して垂直に引張り、付着強度(N/mm2)を測定した。試験値は阪神高速道路株式会社補修要領表面保護工(中防食C種)の評価基準2.0N/mm2以上を好適とした。測定結果を表5〜7に示す。
実施例1〜32(特に実施例1〜6)に示すように、(A)層のポリフッ化ビニリデン系樹脂が50質量%以上である場合に、黄変指数及び防汚性が良好であることを確認した。
実施例5、実施例7〜11、比較例1より、B層のポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂が50質量%未満の場合、大面積への積層シート施工時に発生する積層シート同士の重ね貼りを想定した付着(引張接着)性が低下することを確認した。
実施例5、実施例18〜20、比較例2より、C層を構成するアクリル系粘着剤の25℃、周波数1.0Hzの条件における粘弾性測定で得られる貯蔵弾性率(G’)が5.0×103Pa未満の場合、黄変指数、押し抜き抵抗性、付着(引張接着)性が低下することを確認した。
実施例5、実施例18〜20、比較例3より、C層を構成するアクリル系粘着剤の100℃、周波数1.0Hzの条件における粘弾性測定で得られる損失正接(tanδ)が0.8を越える場合、押し抜き抵抗性及び付着(引張接着)性が低下することを確認した。
実施例5、実施例21〜28、比較例4〜8より、B層に対するC層の被覆面積率が10%未満の場合、C層/D層間の接着強度が低下し、90%を超える場合、付着(引張接着)性が低下することを確認した。また、各物性の目標値を満足するためにはC層の塗工幅、塗工間隔に関係なく、被覆面積率を10〜90%としなければならないことが確認された。
実施例5、実施例29〜32、比較例9より、D層を積層しなかった場合、押し抜き強度が低下することを確認した。またD層は一般的に入手できる繊維シートを用いることで各物性の目標値を満足した。