以下、本発明の放射線測定装置を適用した実施の形態について説明する。
<実施の形態>
図1は、放射線測定装置100を示す図である。放射線測定装置100は、高速波高弁別器(MCA: Multi Chanel Analyzer)である。
放射線測定装置100は、入力端子101、微分回路105、積分回路110、ピークホールド回路115A、加算器115B、DAC(Digital to Analog Converter)115C、ピーク検出回路115D、コンパレータ120、放電回路130、サンプル&ホールド回路140、A/D(Analog to Digital)コンバータ150、MCU(Micro Computer Unit)160、パルス発生器171A、DAC171B、パルス発生器172A、DAC172B、パルス発生器173A、DAC173B、DAC174、及びOR回路180を含む。
入力端子101は、一例として、光電子増倍管(PMT:photomultiplier tube)の出力端子に接続され、光電子増倍管で検出される放射線のエネルギを表す電流値が入力される。放射線測定装置100の内部では、入力端子101は、微分回路105の入力端子に接続される。
微分回路105は、入力端子101と積分回路110との間に設けられている。微分回路105は、入力端子101から入力される電流値を微分して電圧値に変換する。微分回路105が出力する電圧値は、光電子増倍管で検出される放射線のエネルギを表す電圧値である。なお、このような微分回路105は、例えば、オペアンプを用いた反転増幅回路で実現される。
積分回路110は、微分回路105とサンプル&ホールド回路140との間に設けられている。積分回路110は、電圧制御型の積分回路であり、微分回路105から入力される電圧値を積分し、接続線路111を介してサンプル&ホールド回路140に出力する。
積分回路110の出力は、光電子増倍管で検出される放射線のエネルギ(電圧値)の時間的変化を表し、電圧値がパルス状に変化する波形を有する。すなわち、積分回路110の出力は、放射線のエネルギ(電圧値)の時間的変化を表すパルス電圧である。
積分回路110の時定数は、DAC174によって設定されるため、時定数を調整することにより、積分回路110が出力するパルス電圧の時間軸方向の長さを調整することができる。以下では、積分回路110が出力するパルス電圧をパルス電圧Xと称す。
接続線路111は、積分回路110とサンプル&ホールド回路140との間を接続する線路であり、ピークホールド回路115A、加算器115B、DAC115C、ピーク検出回路115D、及び放電回路130が接続されている。
ピークホールド回路115Aは、積分回路110の出力端子と、コンパレータ120の非反転入力端子(+)との間に設けられている。ピークホールド回路115Aは、積分回路110から出力されるパルス電圧Xのピーク値を検出し、ホールドする回路である。
ピークホールド回路115Aがホールドしたピーク値aは、コンパレータ120の非反転入力端子に入力される。ピークホールド回路115Aは、ピーク値保持部の一例である。
加算器115Bは、積分回路110の出力端子と、DAC115Cの出力端子と、コンパレータ120の反転入力端子(−)との間に設けられている。加算器115Bは、積分回路110から出力されるパルス電圧Xと、DAC115Cから出力される電圧値V5とを加算した和bをコンパレータ120の反転入力端子に出力する。加算器115Bの出力は、電圧V5(固定値)だけ嵩上げされたパルス電圧になる。なお、電圧値V5は、所定値の一例である。また、加算器115Bの出力は、和の一例である。
DAC115Cは、加算器115BとMCU160との間に設けられており、MCU160から入力される設定値5をD/A変換して得る電圧V5を加算器115Bに出力する。
ピーク検出回路115Dは、積分回路110の出力端子と、パルス発生器171A、172A、173Aの入力端子との間に設けられている。ピーク検出回路115Dは、積分回路110から出力されるパルス電圧Xの微分勾配の極性が切り替わる点にピークがあるものとして検出し、所定幅のパルス信号pkを出力する。ピーク検出回路115Dは、ピーク検出部の一例である。
ピーク検出回路115Dが出力するパルス信号pkは、パルス発生器171A、172A、173Aに入力される。パルス信号pkの所定幅は、十分に短い期間であり、一例として50ns(ナノ秒)である。
コンパレータ120は、非反転入力端子がピークホールド回路115Aの出力端子に接続され、反転入力端子が加算器115Bの出力端子に接続され、出力端子が放電回路130としてのトランジスタのベースに接続されている。
コンパレータ120は、イネーブル端子付きであり、パルス発生器173Aの出力がイネーブル信号ENAとして入力される。コンパレータ120は、イネーブル端子にイネーブル信号ENAが入力され、かつ、非反転入力端子の入力値(ピーク値a)が反転入力端子の入力値(和b)より大きくなると(反転入力端子の入力値(和b)が非反転入力端子の入力値(ピーク値a)以下になると)、Hレベルの信号cを出力する。なお、コンパレータ120が出力する信号cのHレベルは、第1レベルの一例である。
放電回路130は、トランジスタによって実現され、ベースがコンパレータ120の出力端子に接続され、コレクタが接続線路111に接続され、エミッタが設置される。放電回路130としてのトランジスタのベースにベースがコンパレータ120からHレベルの信号が入力されると、トランジスタがオンになり、接続線路111の電位を接地電位(ゼロ電位)に引き落とす。放電回路130は、スイッチの一例である。
サンプル&ホールド回路140は、積分回路110とA/Dコンバータ150との間に設けられている。サンプル&ホールド回路140は、サンプルアンドホールド部の一例である。
サンプル&ホールド回路140は、バッファアンプ141、スイッチ142、コンデンサ143、及びバッファアンプ144を有する。バッファアンプ141、144は、オペアンプの出力端子を反転入力端子に接続したものである。
バッファアンプ141の非反転入力端子は、接続線路111に接続されており、出力端子は、反転入力端子とスイッチ142とに接続されている。
スイッチ142は、バッファアンプ141の出力端子と、バッファアンプ144の非反転入力端子との間に接続されている。スイッチ142は、パルス発生器171Aから出力されるパルス信号dによって駆動される負論理のトランジスタによって実現される。
より具体的には、スイッチ142は、パルス発生器171Aから出力されるパルス信号dのLレベルへの立ち下がりでオン(閉)になり、パルス信号dがHレベルに立ち上がるとオフ(開)になる。
コンデンサ143は、一方の端子(図1中の上側の電極)がスイッチ142とバッファアンプ144の非反転入力端子との間に接続され、他方の端子(図1中の下側の電極)が接地電位点に接続されている。
バッファアンプ144の非反転入力端子は、コンデンサ143の一方の端子と、スイッチ142とに接続されており、出力端子は、A/Dコンバータ150の入力端子に接続されている。
このようなサンプル&ホールド回路140は、パルス発生器171Aが発生するパルス信号dがLレベルに立ち下がってスイッチ142がオン(閉)になるとサンプリングを開始し、コンデンサ143に電荷を蓄える。また、パルス信号dがHレベルに立ち上がるとスイッチ142をオフ(開)にし、サンプリング値をホールドする。
A/Dコンバータ150は、サンプル&ホールド回路140の出力側に設けられており、サンプル&ホールド回路140がホールドした値(ホールド値)をアナログ値からデジタル値に変換(A/D変換)する。A/Dコンバータ150は、アナログデジタル変換部の一例である。
A/Dコンバータ150は、パルス発生器172Aから入力されるパルス信号eによってA/D変換を開始し、A/D変換が完了すると、MCU160に完了信号fを出力する。また、A/Dコンバータ150は、A/D変換したデータ(A/D変換データ)をMCU160に出力する。
MCU160は、主制御部161、測定処理部162、及びメモリ163を有する。MCU160は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、不揮発性メモリ、及び内部バス等を含むコンピュータによって実現される。
主制御部161と測定処理部162は、MCU160が実行するプログラムの機能(ファンクション)を機能ブロックとして示したものである。また、メモリ163は、MCU160のメモリを機能的に表したものである。
主制御部161は、測定処理部162が行う処理以外の処理を統括するメインの制御部である。
測定処理部162は、放射線を検出するための処理を行う。測定処理部162は、A/Dコンバータ150から入力されるA/D変換データに基づくフィードバック制御により、DAC171B、172B、173B、174、115Cに、それぞれ、設定値1、2、3、4、5を出力する。また、測定処理部162は、OR回路180にリセット信号R1を出力する。測定処理部162の処理の詳細については、図7を用いて後述する。
なお、リセット信号R1は、放射線測定装置100の電源投入時に出力され、ピークホールド回路115Aとパルス発生器173Aの出力をリセットするための信号である。
パルス発生器171Aは、ピーク検出回路115Dから入力されるパルス信号pkと、DAC171Bから入力される電圧V1とに基づき、サンプル&ホールド回路140のスイッチ142の開閉制御に用いられるパルス信号dを生成する。電圧V1は、パルス信号dの時間T1を設定する際に用いられる。パルス信号dの詳細については後述する。なお、時間T1は、第1時間の一例である。
DAC171Bは、MCU160から入力される設定値1をデジタル/アナログ(D/A)変換して得る電圧V1をパルス発生器171Aに出力する。
パルス発生器172Aは、ピーク検出回路115Dから入力されるパルス信号pkと、DAC172Bから入力される電圧V2とに基づき、A/Dコンバータ150がA/D変換を開始する際のトリガになるパルス信号eを生成する。電圧V2は、パルス信号eの時間T2を設定する際に用いられる。時間T2は、時間T1よりも長い。時間T2は、第2時間の一例である。パルス信号eの詳細については後述する。
DAC172Bは、MCU160から入力される設定値2をD/A変換して得る電圧V2をパルス発生器172Aに出力する。
パルス発生器173Aは、ピーク検出回路115Dから入力されるパルス信号pkと、DAC173Bから入力される電圧V3とに基づき、コンパレータ120に入力するイネーブル信号ENAを生成する。電圧V3は、イネーブル信号ENAの時間T3を設定する際に用いられる。時間T3は、時間T2よりも長い。時間T3は、第3時間の一例である。イネーブル信号ENAの詳細については後述する。
DAC173Bは、MCU160から入力される設定値3をD/A変換して得る電圧V3をパルス発生器173Aに出力する。
DAC174は、MCU160から入力される設定値4をD/A変換して得る電圧V4を積分回路110に出力する。電圧V4は、積分回路110の時定数を設定する電圧である。
OR回路180は、A/Dコンバータ150、MCU160、ピークホールド回路115A、パルス発生器173Aの間に設けられている。OR回路180は、A/Dコンバータ150から入力される完了信号fと、MCU160から入力されるリセット信号R1との論理和(OR)をリセット信号Rとしてピークホールド回路115A及びパルス発生器173Aに出力する。
なお、パルス発生器171A及びDAC171Bと、MCU160の測定処理部162のうちDAC171Bに出力する設定値1を調整する部分とは、第1制御部の一例である。また、パルス発生器172A及びDAC172Bと、MCU160の測定処理部162のうちDAC172Bに出力する設定値2を調整する部分とは、第2制御部の一例である。
また、MCU160の測定処理部162のうちDAC171Bに出力する設定値1を調整する部分は、第1時間設定部の一例であり、MCU160の測定処理部162のうちDAC172Bに出力する設定値2を調整する部分は、第2時間設定部の一例である。
図2は、光電子増倍管で検出される放射線のエネルギを表す電流値と、積分回路110が出力するパルス電圧Xとを示す図である。
図2(A)に示すように、放射線のエネルギを表す電流値の周波数が高い場合には、DAC174から積分回路110に入力される電圧V4を大きくすることによって積分回路110の積分の時定数を大きく設定すれば、パルス電圧Xは図2(B)に示すように、時間軸方向に縮められた電圧波形になる。
また、図2(C)に示すように、放射線のエネルギを表す電流値の周波数が低い場合には、DAC174から積分回路110に入力される電圧V4を小さくすることによって積分回路110の積分の時定数を小さく設定すれば、パルス電圧Xは図2(D)に示すように、時間軸方向に伸ばされた電圧波形になる。
このように、電圧V4を調整することにより、パルス電圧Xの出力波形の時間軸方向における長さを調整することができる。
また、放射線のエネルギを表す電流値の周波数がさらに高くなると、パルス電圧Xは、図2(E)に示すように、重なり合ってしまい、パイルアップされた状態になる。このような状態では、サンプル&ホールド回路140でパルス電圧Xのピーク値を正しくサンプリングできない。
そこで、放射線測定装置100は、図2(F)に示すように、パルス電圧Xのピークの後の部分の電圧レベルを強制的にゼロに落とすことにより、パイルアップの発生を抑制し、放射線の線量を検出する。
図3は、パルス発生器171A、172A、173Aの入力と出力との関係を示すタイミングチャートである。
図3(A)には、パルス発生器171Aに入力されるパルス信号pkと、パルス発生器171Aが出力するパルス信号dとを示す。上段には電圧V1が小さい場合のタイミングチャートを示し、下段には電圧V1が大きい場合のタイミングチャートを示す。
図3(A)の上段に示すように、パルス発生器171Aは、パルス信号pkがHレベルに立ち上がる前の状態ではHレベルのパルス信号dを出力しており、時刻t1でパルス信号pkがHレベルに立ち上がると、パルス信号dをLレベルに立ち下げる。パルス信号dがLレベルに立ち下がると、スイッチ142がオン(閉)になるため、時刻t1でサンプリングが開始される。
また、パルス発生器171Aは、パルス信号pkがHレベルに立ち上がってから時間T1が経過した時刻t2でパルス信号dをHレベルに立ち上げる。パルス信号dがHレベルに立ち上がると、スイッチ142がオフ(開)になるため、時刻t2でサンプリング値がホールドされる。
図3(A)の下段に示すように、電圧V1が大きい場合には、上段に比べて時間T1が長くなる。このように、電圧V1を調整することにより、サンプリング期間の長さを調整することができる。
図3(B)には、パルス発生器172Aに入力されるパルス信号pkと、パルス発生器172Aが出力するパルス信号eとを示す。上段には電圧V2が小さい場合のタイミングチャートを示し、下段には電圧V2が大きい場合のタイミングチャートを示す。
図3(B)の上段に示すように、パルス発生器172Aは、パルス信号pkがHレベルに立ち上がる前の状態ではHレベルのパルス信号eを出力しており、時刻T2でパルス信号pkがHレベルに立ち上がると、パルス信号eをLレベルに立ち下げる。なお、パルス信号eは、Hレベルへの立ち上がりがA/D変換を開始させる指令になる信号である。
また、パルス発生器172Aは、パルス信号pkがHレベルに立ち上がってから時間T2が経過した時刻t3でパルス信号eをHレベルに立ち上げる。パルス信号eがHレベルに立ち上がると、A/Dコンバータ150がA/D変換を開始する。なお、時間T2は、時間T1よりも長い。
図3(B)の下段に示すように、電圧V2が大きい場合には、上段に比べて時間T2が長くなる。このように、電圧V2を調整することにより、A/D変換が開始されるタイミングを調整することができる。
図3(C)には、パルス発生器173Aに入力されるパルス信号pkと、パルス発生器173Aが出力するイネーブル信号ENAとを示す。上段には電圧V3が小さい場合のタイミングチャートを示し、下段には電圧V3が大きい場合のタイミングチャートを示す。
図3(C)の上段に示すように、パルス発生器173Aは、パルス信号pkがHレベルに立ち上がる前の状態ではLレベルのイネーブル信号ENAを出力しており、時刻t1でパルス信号pkがHレベルに立ち上がると、Hレベルへの立ち上がりから時間T3が経過した時刻t4でイネーブル信号ENAをHレベルに立ち上げる。イネーブル信号ENAは、Hレベルへの立ち上がりがコンパレータ120に比較結果を出力可能な状態にさせる指令になる信号である。なお、時間T3は、時間T2よりも長い。
また、パルス発生器173Aは、時刻t5において、A/Dコンバータ150がA/D変換を完了したことを表すパルス信号fに基づくリセット信号RがHレベルに立ち上がると、イネーブル信号ENAをLレベルに立ち下げる。
また、図3(C)の下段に示すように、電圧V3が大きい場合には、上段に比べて時間T3が長くなる。このように、電圧V3を調整することにより、イネーブル信号ENAをHレベルに立ち上げるタイミングを調整することができる。
図4は、積分回路110が出力するパルス電圧Xの出力波形と、加算器115Bから出力される和bの電圧波形とを示す図である。図4には、コンパレータ120も示す。
ピークホールド回路115Aは、積分回路110が出力するパルス電圧のピークを表すピーク値aを検出する。加算器115Bから出力される和bは、パルス電圧Xと、DAC115Cから出力される電圧V5との和である。
コンパレータ120は、時刻tAにおいて、加算器115Bから出力される和bが、非反転入力端子に入力されるピーク値a以下になると、コンパレータ120の判定結果は、Hレベルを表す状態になる。コンパレータ120がHレベルの信号を出力するのは、判定結果がHレベルの状態になり、イネーブル信号ENAがHレベルになっているときである。
図5は、コンパレータ120の動作を説明するタイミングチャートである。図5には、積分回路110が出力するパルス電圧Xの波形、加算器115Bから出力される和bの電圧波形、ピーク値a、パルス信号pk、イネーブル信号ENA、及び、コンパレータ120が出力する信号cを示す。時刻t1、t4、t5は、図3と同一のものであり、時刻tAは、図4(B)と同一である。
時刻t1において、パルス信号pkがHレベルに立ち上がると、時刻tAにおいて判定結果がHレベルの状態になり、時刻tAよりも後の時刻t4においてイネーブル信号ENAがHレベルに立ち上がると、コンパレータ120が出力する信号cはHレベルになる。また、時刻t5でイネーブル信号ENAがLレベルにリセットされ、コンパレータ120が出力する信号cもLレベルになる。
このように、時間T3は、コンパレータ120の判定結果がHレベルになる時刻tAよりも、イネーブル信号ENAがHレベルに立ち上がる時刻t4の方が後になるように設定している。時間T3は、実験やシミュレーション等で適切な値に設定すればよい。
図6は、積分回路110が出力するパルス電圧Xを示す図である。DAC174から積分回路110に入力される電圧V4が大きく、積分回路110の積分の時定数が大きいときには、図6(A)に示すように、時間軸方向に伸びたパルス波形になる。また、DAC174から積分回路110に入力される電圧V4が小さく、積分回路110の積分の時定数が小さいときには、図6(B)に示すように、時間軸方向に縮められたパルス波形になる。
パルス電圧Xが図6(A)に示す波形になるように、電圧V4によって積分回路110の積分の時定数が設定されているときには、図6(C)に示すように、時刻t1においてパルス信号pkがHレベルに立ち上がると、パルス信号dがLレベルに立ち下げられるため、サンプル&ホールド回路140でサンプリングが開始される。
時刻t1から時間T1が経過した時刻t2においてパルス信号dがHレベルに立ち上がると、サンプリング値がホールドされる。
時刻t1から時間T2が経過した時刻t3においてパルス信号eをHレベルに立ち上げると、A/Dコンバータ150がA/D変換を開始する。
時刻t3よりも後の時刻tAにおいて、加算器115Bから出力される和bが、非反転入力端子に入力されるピーク値a以下になると、コンパレータ120の判定結果は、Hレベルを表す状態になる。
時刻tAよりも後の時刻t4において、イネーブル信号ENAがHレベルに立ち上がると、コンパレータ120が出力する信号cがHレベルになり、放電回路130がオンするため、積分回路110の出力端子は接地され、接続線路111の電圧レベルがゼロに引き落とされる。なお、時刻t4は、時刻t1から時間T3が経過した時刻である。
以上のように、積分回路110が出力するパルス電圧Xのピークを検出した後に、パルス電圧Xが低下する過程において、コンパレータ120の判定結果がHレベルを表す状態になってから、イネーブル信号ENAがHレベルに立ち上げてコンパレータ120の信号cをHレベルに切り替える。このように、コンパレータ120の判定結果がHレベルで安定した状態で、ノイズ等による不安定な影響がなく、電圧Xが低下する状態でイネーブル信号ENAがHレベルになることでコンパレータ120の信号cをHレベルに切り替えるので、安定的にコンパレータ120の信号cをHレベルに切り替えることができる。
なお、時刻tAは、サンプル&ホールド回路140がサンプリング値をホールドする時刻t2よりも後であればよい。この場合は、コンパレータ120にHレベルのイネーブル信号ENAが入力されて、コンパレータ120が信号cを出力可能な状態で待機し、コンパレータ120の判定結果がHレベルを表す状態になると、Hレベルの信号cが出力されることになる。
この場合に、時刻tAの方が、時刻t1から時間T3が経過する時刻t4よりも後になってよく、時刻t4でイネーブル信号ENAがHレベルに立ち上がった状態で、時刻tAで判定結果がHレベルになることによって、コンパレータ120の信号cがHレベルに切り替わることになってもよい。
また、図6(B)に示すように積分回路110の積分の時定数が小さい場合には、図6(C)に示す波形の代わりに図6(D)に示す波形が得られる。
図6(C)、(D)に示すようにコンパレータ120の信号cのHレベルへの立ち上がりのタイミングで放電回路130をオンして電圧レベルをゼロに引き落とすことにより、光電子増倍管で検出される放射線が時間軸方向に密な状態が生じても、放射線の波形同士が重なり合うパイルアップの発生を抑制することができ、サンプル&ホールド回路140でホールドされる個々の放射線のピーク値を確実にA/Dコンバータ150に入力することができる。
図7は、測定処理部162が実行する処理を示すフローチャートである。
測定処理部162は、放射線測定装置100の電源が投入されて処理がスタートすると、設定値1〜5を出力する(ステップS1)。設定値1〜5のうち、固定値である設定値5を除いた設定値1〜4は、光電子増倍管で検出可能な最も周波数の高い放射線が検出された場合でも、パイルアップを抑制し、図6(C)、(D)に示すような波形処理が可能な値(初期値)に設定されている。
ここでは、DAC171B、172B、173B、174が10ビットであって0Vから5Vの電圧を出力可能であり、かつ、光電子増倍管で検出可能な放射線の周波数の最高値が1MHzである場合における設定値1〜4の初期値について説明する。
設定値1は、時間T1を0.2μsに設定する電圧値V1であり、0.976Vである。設定値2は、時間T2を0.4μsに設定する電圧値V1であり、1.952Vである。設定値3は、時間T3を0.6μsに設定する電圧値V1であり、2.928Vである。設定値4は、積分回路110の積分の時定数τを0.1μsに設定する場合の電圧値V4として、0.488Vである。
また、DAC115Cに入力される設定値5は固定値であり、一例として、0.02Vである。加算器115Bからコンパレータ120に入力される和bが、和bのピークから0.02V低下したときに、放電回路130をオンして接続線路111の電圧レベルをゼロに引き落とす条件である。
測定処理部162は、A/Dコンバータ150から完了信号fを受信した時刻をtn1として、A/Dコンバータ150から入力されるA/D変換データをメモリ163に格納する(ステップS2)。
測定処理部162は、ステップS2の次に、A/Dコンバータ150から完了信号fを受信した時刻をtn2として、A/Dコンバータ150から入力されるA/D変換データをメモリ163に格納する(ステップS3)。
測定処理部162は、時刻tn2と時刻tn1との差(tn2−tn1)が1μs以上であるかどうかを判定する(ステップS4)。放射線の周波数が、光電子増倍管で検出可能な最高値である1MHz以上であるかどうかを判定するためである。
測定処理部162は、時刻tn2と時刻tn1との差が1μs以上ではない(S4:NO)と判定すると、光電子増倍管で検出可能な最高値である1MHz以上であると判定する(ステップS5)。測定処理部162は、ステップS5の処理を終えると、再度検出するためにフローをステップS2にリターンする。
測定処理部162は、時刻tn2と時刻tn1との差が1μs以上である(S4:YES)と判定すると、光電子増倍管で検出可能な最高値である1MHz以下であると判定する(ステップS6)。
測定処理部162は、A/Dコンバータ150から完了信号fを受信した時刻をt(M)として、A/Dコンバータ150から入力されるA/D変換データをメモリ163に格納する(ステップS7)。
測定処理部162は、ステップS7の次に、A/Dコンバータ150から完了信号fを受信した時刻をt(M+1)として、A/Dコンバータ150から入力されるA/D変換データをメモリ163に格納する(ステップS8)。
測定処理部162は、時刻t(M+1)と時刻t(M)との差(t(M+1)−t(M))が所定値α以上であるかどうかを判定する(ステップS9)。周波数の変化が一定の水準α以上であるかどうかを判定するためである。所定値αは、周波数が上昇しているか低下しているかを判定する判定基準になる値であり、実験やシミュレーション等で適切な値に設定すればよい。
時刻t(M+1)と時刻t(M)との差は、第1時間間隔の一例であり、所定値αは、第2時間間隔の一例である。
なお、所定値αの判定には一致確定処理を入れてもよい。一致確定処理とは例えば3回の判定処理を行い、連続して判定結果が一致した場合のみ判定を確定させるという処理である。これは入力信号の時間間隔が確実に低下方向、上昇方向にあるかを判定するフィルタの役割となる。具体的には入力信号の時間間隔の低下、上昇傾向に対する時定数となるために制御ループに安定性をもたらす効果が得られる。
測定処理部162は、時刻t(M+1)と時刻t(M)との差(t(M+1)−t(M))が所定値α以上である(S9:YES)と判定すると、放射線の周波数が低下する傾向にあると判定する(ステップS10)。
測定処理部162は、設定値1、2、4を再設定する(ステップS11)。放射線の周波数の低下に合わせて、時定数等を変更するためである。
具体的には、測定処理部162は、例えば、設定値1については、時間T1を0.01μs増やすために、電圧値V1を0.0488V増大する。設定値2については、時間T2を0.01μs増やすために、電圧値V1を0.0488V増大する。設定値4については、積分回路110の積分の時定数τを0.01μs増やすために、電圧値V4を0.0488V増大する。このように設定値1〜4を再設定する。なお、設定値3は、初期値に保持する。
測定処理部162は、ステップS11の処理を終えると、フローをステップS7にリターンする。再度検出し、繰り返し処理を行うためである。
また、測定処理部162は、ステップS9において、時刻t(M+1)と時刻t(M)との差が所定値α以上ではない(S9:NO)と判定すると、放射線量が増大する傾向(入力パルスの時間間隔が短くなること、入力パルス周波数の上昇に該当する)にあると判定する(ステップS12)。
測定処理部162は、設定値1、2、4を再設定する(ステップS13)。放射線量の低下(入力パルス周波数の低下に該当する)に合わせて、時定数等を変更するためである。
具体的には、測定処理部162は、例えば、設定値1については、時間T1を0.01μs減らすために、電圧値V1を0.0488V低下させる。設定値2については、時間T2を0.01μs減らすために、電圧値V1を0.0488V低下させる。設定値4については、積分回路110の積分の時定数τを0.01μs減らすために、電圧値V4を0.0488V低下させる。このように設定値1〜4を再設定する。なお、設定値3は、初期値に保持する。
測定処理部162は、ステップS13の処理を終えると、フローをステップS7にリターンする。再度検出し、繰り返し処理を行うためである。
測定処理部162は、以上のような処理を繰り返し実行する。
図8は、放射線測定装置100の検出結果の一例を示す図である。
MCAとしての放射線測定装置100が10ビットで1チャンネルから1024チャンネルまでの1024のチャンネルを有する場合に、測定処理部162は、例えば、図8(A)に示すような検出結果を得る。図8(A)では、横軸が時間軸であり、縦軸は測定処理部162がA/Dコンバータ150から入手視、メモリ163に格納するA/D変換データ(電圧値)を示す。
図8(A)に示す波形列から、時間軸方向において、様々な強度の放射線が検出されていることが分かる。図8(A)には、1.0V(205dec)、1.32V(270dec)、0.65V(133dec)、1.0V(205dec)、4.11V(842dec)、2.50V(512dec)、2.50V(512dec)、2.84V(581dec)の8個の波形列が0秒から60秒までの間に検出された場合の波形列を示す。
また、図8(A)に示すような放射線の検出を180秒間にわたって繰り返し行った場合には、一例として、図8(B)に示すようなエネルギスペクトルが得られる。
図8(B)では、横軸がチャンネル番号を示し、縦軸が放射線のカウント数を示す。カウント数は、光電子増倍管が放射線を検出した回数を表す。
図8(B)には、133チャンネルが3回、205チャンネルが6回、270チャンネルが3回、512チャンネルが6回、581チャンネルが3回、842チャンネルが3回の検出回数であった場合を示す。
放射線を検出した回数は、合計で24回であり、これは180秒間で得られた数値であるため、1分あたりのカウント数は、8cpm(count per minutes)となる。6個のカウント数にフィットする包絡線を求めると、エネルギスペクトルが得られる。
なお、セシウム137の持つエネルギは662keVなので、1024チャンネルが1MeVになるように調整すると、約660チャンネルあたりにカウント数が集まることになる。
以上、放射線測定装置100では、コンパレータ120の信号cのHレベルへの立ち上がりのタイミングで放電回路130をオンして接続線路111の電圧レベルをゼロに引き落とすことにより、光電子増倍管で検出される放射線が時間軸方向に密な状態が生じても、放射線の波形同士が重なり合うパイルアップの発生を抑制することができる。
この結果、サンプル&ホールド回路140でホールドされる個々の放射線のピーク値を確実にA/Dコンバータ150に入力することができる。
従って、パイルアップの発生を抑制するように放射線の電圧レベルを表す信号の波形を処理する放射線測定装置100を提供することができる。
また、放射線測定装置100は、高価なFPGA(Field-Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)を用いることなく、構成の簡易で安価なオペアンプやDAC等を使って実現できるので、放射線を正確に検出できるMCAとしての放射線測定装置100を簡易な構成で低コストで実現することができる。
以上、本発明の例示的な実施の形態の放射線測定装置について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。