JP2019151880A - 拡散接合性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼材 - Google Patents
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Abstract
【課題】直接拡散接合性に優れるオーステナイト系ステンレス鋼材の提供。【解決手段】重量比でSi0.001〜1.00%、Ni3.00〜45.0%、Cr5.00〜40.0%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなるオーステナイト単相の鋼材で、表面に高さ0.2μm以上の凸部が1mm2の面積当り4個以上存在し、凸部の高さ方向への傾斜勾配が0.5%以上である直接拡散接合性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼材。【選択図】なし
Description
本発明は、インサート材なしで金属素材との直接拡散接合、特にオーステナイト系ステンレス鋼材同士を直接拡散接合するためのオーステナイト系ステンレス鋼材に関するものである。
拡散接合する手法は、フィルター部品、装飾品構成部材、建材の用途で利用されている。特に高温用途に用いるフィルター部品は、高温強度と耐食性の観点からオーステナイト系ステンレス鋼材を素材としており、複数の穴を有する加工品を重ね合せて拡散接合する方法がとられている。拡散接合にはインサート材挿入法と直接法がある。インサート材挿入法は、接合するステンレス鋼材と馴染みがよい異別の金属材料からなるインサート材を接合界面に挿入し、固相拡散または液相拡散により双方のステンレス鋼材を接合する手法である。直接法は、インサート材を用いずに双方のステンレス鋼材の表面同士と直接接触させ、固相拡散により接合する手法である。
インサート材挿入法としては、例えば2相ステンレス鋼をインサート材に使用する方法(特許文献1)、NiとAuをめっきしたステンレス鋼箔をインサート材に用いて液相拡散により接合する方法(特許文献2)、Siを多量に含むオーステナイト系ステンレス鋼をインサート材に使用する方法(特許文献3)をはじめ、種々の手法が知られている。また、ニッケル系や銅系のろう材をインサート材に用いる「ろう付け」も液相拡散による拡散接合の一種と見ることができる。これらの技術は比較的簡便に、しかも確実に拡散接合を行うことができる点で優位性がある。しかし、インサート材を用いることによるコスト増や、接合箇所に異種金属が存在することによる耐食性の低下が問題となりやすい。
インサート材を用いない直接法としては、例えば鋼中のS量を0.01%以下としたステンレス鋼を非酸化雰囲気中の特定温度域に加熱することで変形を回避する方法(特許文献4)、酸洗処理により表面に凹凸を付与したステンレス鋼箔を拡散接合して自動車排ガス浄化装置用触媒担体を得る方法(特許文献5)、拡散接合の阻害要因となるアルミナ皮膜の生成を抑えるためにAl含有量を不純物レベル〜0.8%に抑えたステンレス鋼を用いて触媒用ハニカムを得る方法(特許文献6)、冷間加工によるひずみを付与したステンレス鋼を用いて拡散接合性を向上させる方法(特許文献7)、クロム炭窒化物の形成を軽減するためにTiやNbを所定量添加したフェライト系ステンレス鋼箔を重ねて巻回して触媒用メタル担体を得る方法(特許文献8)、特定の組成を有する直接拡散接合用のフェライト系ステンレス鋼を用いる方法(特許文献9)などが知られている。
ステンレス鋼材の直接法による拡散接合については上述のように種々の技術が提案されている。しかし工業的には、直接法はステンレス鋼材の拡散接合方法の主流として定着するには至っていない。その主たる理由は、接合性(接合強度や密封性に対する信頼性)の確保と、製造負荷抑制の両立が難しいことにある。従来の知見によると、直接法により接合性を確保するためには接合温度を1100℃を超える高温としたり、ホットプレスやHIP等により高い面圧を付与したりする負荷の大きい工程を採用する必要があり、それによるコスト増大が避けられない。一方、ステンレス鋼材の直接法による拡散接合を通常のインサート材挿入法と同等の作業負荷にて実施すると、接合性を十分に確保することは難しい。
また、ステンレス鋼の拡散接合製品においては、材料特性等の観点からオーステナイト単相鋼を適用したい場合もある。しかし、発明者らの検討によれば、このような鋼種については直接法により接合性に優れた健全な拡散接合部を得ることは一層難しい。
本発明は、従来のインサート材挿入法と同等の作業負荷による「直接法」によって拡散接合部の接合性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼材を提供しようというものである。ここで、鋼材とは、平板形状の鋼板や加工形状の加工品を含んでいる。
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼材は、何れも質量%で、Si:0.001〜1.00%、Ni:3.00〜45.0%、Cr:5.00〜40.0%の成分を含み、オーステナイト単相組織であり、鋼材表面に高さ0.2μm以上の凸部が1mm2の面積当り4個以上存在し、前記凸部の高さ方向への傾斜勾配が0.5%以上であることを特徴としている。
成分組成範囲を例示すると、何れも質量%で、C:0.10%以下、Mn:0.05〜3.00%、P:0.10%以下、S:0.03%以下、Si:0.001〜1.00%、Ni:3.00〜45.0%、Cr:5.00〜40.0%、残部Feおよび不可避的不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼材である。
さらに、何れも質量%で、N:0.50%以下、B:0.06%以下、Sn:0.05%以下、Ti:1.00%以下、Pb:0.01%以下、Co:0.50%以下、0:0.01%以下、V:0.15%以下、Nb:1.00%以下、W:4.00%以下、Mo:4.00%以下、Cu:4.00%以下のいずれか一種以上を含んでいることも特徴としている。
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼材を用いることにより、優れた接合性(接合強度や密封性に対する信頼性)を有する直接拡散接合製品を得ることができる。その拡散接合製品はインサート材を使用していないので、適用するステンレス鋼種本来の特性(耐食性等)を活かすことができる。
オーステナイト系ステンレス鋼材同士の直接法による拡散接合(これを本明細書では「直接拡散接合」と呼んでいる)は、従来の手法に従えば、(i)接合面が密着して接合した箇所の接合面積が増大する過程、(ii)密着した箇所で接合前鋼材の表面酸化物皮膜が消失する過程、(iii)ボイド内の残留ガスが母材と反応する過程、が並行して進行することにより完了すると考えられる。しかし、このような従来のメカニズムで拡散接合させる場合、特に(ii)の反応を完全に終了させるために高温、高面圧、長時間を要し、これが直接拡散接合を工業的に生産性良く実施するためのネックとなっていることがわかった。
発明者らは、直接拡散接合でオーステナイト系ステンレス鋼材同士を接合する際に、特に上記(ii)の過程がネックとなる生産性の低下を回避すべく、種々研究を重ねてきた。その結果、接合前鋼材の表面酸化物皮膜を破壊するために、前記の表面酸化物皮膜へ局所的に接合時の押し込み力を作用させて単位面積当りの加圧力を上げることが効果的であることを見出した。接合時の押し込み力を局所的に作用させる方法として、接合前のオーステナイト系ステンレス鋼材の表面に凸部が形成させ、この凸部が接合面で接触することにより実現することができる。そして、凸部が接合面で接触して局所的に作用する加圧力を生み出し、これによって表面酸化物皮膜を破壊しやすくなるのである。
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼材に関する具体的な内容は、以下の通りである。
〔成分組成〕 Crは、耐食性を確保する上で重要なステンレス鋼の主要成分である。また、酸化皮膜中のCr酸化物の割合を増大させることは、還元されにくいSi酸化物や、Ti酸化物、Al酸化物の存在割合を減少させるためにも有効である。これらの作用を十分に発揮させるためにはCr含有量を5.00質量%以上とする必要がある。17.0質量%以上とすることがより効果的である。ただし、Cr含有量が過剰となると耐食性向上効果や酸化皮膜への還元性付与効果は飽和する一方、加工性や製造性を損なう要因となるので、Cr含有量は40.0質量%以下の範囲とする。
Niは、オーステナイト単相組織を得るために有効な元素であり、3.00質量%以上の含有量を確保する必要がある。ただし過剰なNi含有はコスト増となるので、Ni含有量は45.0質量%以下とする。30.0質量%以下、あるいはさらに25.0質量%以下の範囲に管理してもよい。
Siは、脱酸剤やその他の目的でオーステナイト系ステンレス鋼にしばしば添加される。しかし、鋼中のSi含有量が増大すると、それに伴って酸化皮膜中のSi酸化物の存在割合が増大する。Siは易酸化性元素であるため、酸化皮膜中に含まれるSi酸化物は上述のように真空拡散接合の熱処理において還元されにくい。発明者らの研究によれば、オーステナイト系ステンレス鋼においては特にSi酸化物の存在が拡散接合時における上記(ii)の過程の進行の妨げとなりやすいことがわかった。そのため、本発明では鋼中のSi含有量を厳しく制限する。検討の結果、鋼中のSi含有量は1.00質量%以下とすることが極めて有効である。ただし、Siは脱酸剤として有効であり、またスクラップ等の原料からも混入しやすいので、通常、0.001質量%以上の含有量となる。
Cr、Ni、Si以外の成分元素については、拡散接合性の観点からは特にこだわる必要はなく、用途に応じて種々の成分組成を採用することができる。
〔表面凸部〕 オーステナイト系ステンレス鋼材同士を直接拡散接合するために、接合前のオーステナイト系ステンレス鋼材の表面酸化物皮膜を破壊することが必要であるが、前記の表面酸化物皮膜を破壊しやすくするために、前記鋼材の表面に凸部が形成させて接合面での局所的な高い加圧力を実現させる。前記凸部の個数や形状としては、種々検討した結果、高さ0.2μm以上で、前記鋼材表面の1mm2当り4個以上存在し、高さ方向への傾斜勾配が0.5%以上とすることが有効であることが分かった。これにより、接合時のオーステナイト系ステンレス鋼材の押し込み力を比較的低く設定しても優れた拡散接合状態を実現することができる。
〔表面凸部の形成方法〕 表面凸部の形成方法は、凸部の高さ、存在個数、傾斜勾配が規定値を満足すれば限定するものではない。研磨紙や研磨砥石などの研磨工具を用いた機械研磨方法でも良いし、薬品でエッチングする方法、鋼材の結晶粒を粗大化して表面凸部を形成するなどを用いることができる。
〔拡散接合製品の製造方法〕 上述の本発明の規定に従うオーステナイト系ステンレス鋼材同士を直接法による真空拡散接合に供することにより、接合性の良好な拡散接合製品を得ることができる。具体的には、例えば接触面圧0.1〜8.0MPaで直接接触させた状態とし、圧力10-2Pa以下、露点−40℃以下の炉内で950〜1150℃に加熱保持することにより拡散接合を進行させる。保持時間は0.5〜3hの範囲で調整すればよい。
供試材としては、板厚1mm、幅50mm、長さ50mmとし、表1に示す化学成分と表面凸部仕様のオーステナイト系ステンレス鋼材を用い、同じ化学成分と表面凸部仕様の鋼材どうしを拡散接合した。ここで、表面凸部仕様は、高さ(表1内では高さと表記)、高さ方向への傾斜勾配(表1内では勾配と表記)、1mm2面積当りの個数(表1内では個数で表記)である。表面凸部は、鋼材を圧力10-2Pa以下の真空中で3h加熱後に20℃まで真空炉内で放冷して形成した。表面凸部の仕様変更は、加熱時の温度を500〜1100℃で変化させて実現した。表面凸部の形状は、表面粗さ測定装置(東京精密社製;SURFCOM2900DX)により幅方向と長手方向について測定した。拡散接合は、重石によって接触面圧8.0MPaを与えた状態のままで供試材を真空炉に装入して10-2Pa以下の圧力となるまで真空引きした後、さらに真空引きを継続しながら1080℃の拡散接合温度まで昇温してその温度に3h保持し、その後、炉中で放冷する手法で実施した。保持温度における到達真空度は10-3Paである。
〔拡散接合性の評価〕 得られた拡散接合製品の板厚方向に垂直な断面について、接合界面上を合計長さL0=0.3mmにわたって顕微鏡で観察して、その観察部分に存在する未接合部(点在するボイド存在箇所を含む)の合計長さL1(mm)を測定し、下記(1)式により定まる接合率A(%)を求めた。 A=(L0−L1)/L0×100 …[1] この接合率Aが50%以上であれば拡散接合製品として種々の用途で実用的な接合強度を有すると判断し、以下の基準で拡散接合性を評価した。 ○:接合率Aが50%以上(接合性;良好) ×:接合率Aが50%未満(接合性;不良) 表2に各供試材での拡散接合性評価結果を示す。本発明のオーステナイト系ステンレス鋼材である供試材は、何れも○評価で優れた接合性が認められた。
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼材は、優れた拡散接合性を有していることから、特に高温用途のフィルター部品用途に好適である。
Claims (3)
- Si含有量が0.001〜1.00質量%、Ni含有量が3.00〜45.0質量%、Cr含有量が5.00〜40.0質量%の成分を含み、オーステナイト単相組織であり、鋼材表面に高さ0.2μm以上の凸部が1mm2の面積当り4個以上存在し、前記凸部の高さ方向への傾斜勾配が0.5%以上であることを特徴とする直接拡散接合性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼材。
- 何れも質量%で、C:0.10%以下、Mn:0.05〜3.00%、P:0.10%以下、S:0.03%以下、Si:0.001〜1.00%、Ni:3.00〜45.0%、Cr:5.00〜40.0%、残部Feおよび不可避的不純物からなる請求項1に記載の直接拡散接合性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼材。
- 何れも質量%で、N:0.50%以下、B:0.06%以下、Sn:0.05%以下、Ti:1.00%以下、Pb:0.01%以下、Co:0.50%以下、O:0.01%以下、V:0.15%以下、Nb:1.00%以下、W:4.00%以下、Mo:4.00%以下、Cu:4.00%以下のいずれか一種以上を含んでいる請求項1または2に記載の直接拡散接合性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼材。
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