本発明の実施形態において、入力側のプーリである前記プライマリプーリと出力側のプーリである前記セカンダリプーリとは、各々、例えば固定シーブと可動シーブとそれらの固定シーブ及び可動シーブの間の溝幅を変更する為の推力を付与する油圧アクチュエータとを有する。前記プライマリプーリを作動させる第4油圧である前記プライマリプーリにおけるプーリ油圧は前記プライマリプーリの油圧アクチュエータに供給され、前記セカンダリプーリを作動させる第5油圧である前記セカンダリプーリにおけるプーリ油圧は前記セカンダリプーリの油圧アクチュエータに供給される。前記油圧制御回路は、例えば前記油圧アクチュエータの各々への作動油の流量を制御することにより結果的にプーリ油圧を生じるように構成されても良い。このような油圧制御回路により、前記プライマリプーリ及び前記セカンダリプーリにおける各推力(=プーリ油圧×受圧面積)が各々制御されることで、前記無段変速機構の前記伝達要素の滑りを防止しつつ目標の変速が実現されるように変速制御が実行される。前記プライマリプーリと前記セカンダリプーリとの間に巻き掛けられた前記伝達要素は、無端環状のフープと、そのフープに沿って厚さ方向に多数連ねられた厚肉板片状のブロックであるエレメントとを有する無端環状の圧縮式の伝動ベルト、又は、交互に重ねられたリンクプレートの端部が連結ピンによって相互に連結された無端環状のリンクチェーンを構成する引張式の伝動ベルトなどである。前記無段変速機構は、公知のベルト式の無段変速機である。広義には、このベルト式の無段変速機の概念にチェーン式の無段変速機を含む。
また、変速比は、「入力側の回転部材の回転速度/出力側の回転部材の回転速度」である。例えば、前記無段変速機構の変速比は、「プライマリプーリの回転速度/セカンダリプーリの回転速度」である。又、前記車両用動力伝達装置の変速比は、「入力回転部材の回転速度/出力回転部材の回転速度」である。変速比におけるハイ側は、変速比が小さくなる側である高車速側である。変速比におけるロー側は、変速比が大きくなる側である低車速側である。例えば、最ロー側変速比は、最も低車速側となる最低車速側の変速比であり、変速比が最も大きな値となる最大変速比である。
また、前記動力源は、例えば燃料の燃焼によって動力を発生するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等のエンジンである。又、前記車両は、前記動力源として、このエンジンに加えて、又は、このエンジンに替えて、電動機等を備えていても良い。
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、動力源として機能するエンジン12と、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた車両用動力伝達装置16とを備えている。以下、車両用動力伝達装置16を動力伝達装置16という。
動力伝達装置16は、非回転部材としてのケース18内において、エンジン12に連結された流体式伝動装置としての公知のトルクコンバータ20、トルクコンバータ20に連結された入力軸22、入力軸22に連結された無段変速機構24、同じく入力軸22に連結された前後進切替装置26、前後進切替装置26を介して入力軸22に連結されて無段変速機構24と並列に設けられたギヤ機構28、無段変速機構24及びギヤ機構28の共通の出力回転部材である出力軸30、カウンタ軸32、出力軸30及びカウンタ軸32に各々相対回転不能に設けられて噛み合う一対のギヤから成る減速歯車装置34、カウンタ軸32に相対回転不能に設けられたギヤ36、ギヤ36に連結されたデフギヤ38等を備えている。又、動力伝達装置16は、デフギヤ38に連結された左右の車軸40を備えている。入力軸22は、エンジン12の動力が伝達される入力回転部材である。出力軸30は、駆動輪14へエンジン12の動力を出力する出力回転部材である。前記動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。
このように構成された動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、トルクコンバータ20、前後進切替装置26、ギヤ機構28、減速歯車装置34、デフギヤ38、車軸40等を順次介して、左右の駆動輪14へ伝達される。又は、動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、トルクコンバータ20、無段変速機構24、減速歯車装置34、デフギヤ38、車軸40等を順次介して、左右の駆動輪14へ伝達される。
上述したように、動力伝達装置16は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路PTに並列に設けられた、ギヤ機構28及び無段変速機構24を備えている。具体的には、動力伝達装置16は、入力軸22と出力軸30との間の動力伝達経路PTに並列に設けられた、ギヤ機構28及び無段変速機構24を備えている。つまり、動力伝達装置16は、入力軸22と出力軸30との間に並列に設けられた、エンジン12の動力を入力軸22から出力軸30へ各々伝達することが可能な複数の動力伝達経路を備えている。複数の動力伝達経路は、ギヤ機構28を介した第1動力伝達経路PT1、及び無段変速機構24を介した第2動力伝達経路PT2である。すなわち、動力伝達装置16は、第1動力伝達経路PT1と第2動力伝達経路PT2との複数の動力伝達経路を、入力軸22と出力軸30との間に並列に備えている。第1動力伝達経路PT1は、エンジン12の動力を入力軸22からギヤ機構28を介して駆動輪14へ伝達する動力伝達経路である。第2動力伝達経路PT2は、エンジン12の動力を入力軸22から無段変速機構24を介して駆動輪14へ伝達する動力伝達経路である。
動力伝達装置16では、エンジン12の動力を駆動輪14へ伝達する動力伝達経路が、車両10の走行状態に応じて第1動力伝達経路PT1と第2動力伝達経路PT2とで切り替えられる。その為、動力伝達装置16は、第1動力伝達経路PT1と第2動力伝達経路PT2とを選択的に形成する複数の係合装置を備えている。複数の係合装置は、第1クラッチC1、第1ブレーキB1、及び第2クラッチC2を含んでいる。第1クラッチC1は、第1動力伝達経路PT1に設けられており、第1動力伝達経路PT1を選択的に接続したり、切断したりする係合装置であって、前進時に、係合されることで第1動力伝達経路PT1を形成する係合装置である。第1ブレーキB1は、第1動力伝達経路PT1に設けられており、第1動力伝達経路PT1を選択的に接続したり、切断したりする係合装置であって、後進時に、係合されることで第1動力伝達経路PT1を形成する係合装置である。第1動力伝達経路PT1は、第1クラッチC1又は第1ブレーキB1の係合によって形成される。第2クラッチC2は、第2動力伝達経路PT2に設けられており、第2動力伝達経路PT2を選択的に接続したり、切断したりする係合装置であって、係合されることで第2動力伝達経路PT2を形成する係合装置である。第2動力伝達経路PT2は、第2クラッチC2の係合によって形成される。第1クラッチC1、第1ブレーキB1、及び第2クラッチC2は何れも、各々の油圧アクチュエータC1a、B1a、C2aによって摩擦係合させられる公知の油圧式の湿式の摩擦係合装置である。第1クラッチC1は第1摩擦係合装置であり、第2クラッチC2は第2摩擦係合装置であり、第1ブレーキB1は第3摩擦係合装置である。第1クラッチC1及び第1ブレーキB1は、各々、後述するように、前後進切替装置26を構成する要素の1つである。
エンジン12は、電子スロットル装置や燃料噴射装置や点火装置などのエンジン12の出力制御に必要な種々の機器を有するエンジン制御装置42を備えている。エンジン12は、後述する電子制御装置100によって、運転者による車両10に対する駆動要求量に対応するアクセルペダルの操作量であるアクセル操作量θaccに応じてエンジン制御装置42が制御されることで、エンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
トルクコンバータ20は、エンジン12に連結されたポンプ翼車20p、及び入力軸22に連結されたタービン翼車20tを備えている。トルクコンバータ20は、エンジン12の動力を入力軸22へ伝達する流体式伝動装置である。動力伝達装置16は、ポンプ翼車20pに連結された機械式のオイルポンプ44を備えている。オイルポンプ44は、エンジン12により回転駆動されることにより、無段変速機構24を変速制御したり、無段変速機構24におけるベルト挟圧力を発生させたり、前記複数の係合装置の各々の係合や解放などの作動状態を切り替えたりする為の作動油圧の元圧を、車両10に備えられた油圧制御回路46へ供給する。すなわち、オイルポンプ44は、後述する複数のソレノイドバルブSLへ入力される元圧に調圧される作動油を油圧制御回路46へ供給する。
前後進切替装置26は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置26p、第1クラッチC1、及び第1ブレーキB1を備えている。遊星歯車装置26pは、入力要素としてのキャリア26cと、出力要素としてのサンギヤ26sと、反力要素としてのリングギヤ26rとの3つの回転要素を有する差動機構である。キャリア26cは、入力軸22に連結されている。リングギヤ26rは、第1ブレーキB1を介してケース18に選択的に連結される。サンギヤ26sは、入力軸22回りにその入力軸22に対して同軸心に相対回転可能に設けられた小径ギヤ48に連結されている。キャリア26cとサンギヤ26sとは、第1クラッチC1を介して選択的に連結される。
ギヤ機構28は、小径ギヤ48と、ギヤ機構カウンタ軸50と、ギヤ機構カウンタ軸50回りにそのギヤ機構カウンタ軸50に対して同軸心に相対回転不能に設けられて小径ギヤ48と噛み合う大径ギヤ52とを備えている。大径ギヤ52は、小径ギヤ48よりも大径である。又、ギヤ機構28は、ギヤ機構カウンタ軸50回りにそのギヤ機構カウンタ軸50に対して同軸心に相対回転可能に設けられたアイドラギヤ54と、出力軸30回りにその出力軸30に対して同軸心に相対回転不能に設けられてアイドラギヤ54と噛み合う出力ギヤ56とを備えている。出力ギヤ56は、アイドラギヤ54よりも大径である。従って、ギヤ機構28は、入力軸22と出力軸30との間の動力伝達経路PTにおいて、1つのギヤ段が形成される。ギヤ機構28は、ギヤ段を有するギヤ機構である。ギヤ機構28は、更に、ギヤ機構カウンタ軸50回りに、大径ギヤ52とアイドラギヤ54との間に設けられて、これらの間の動力伝達経路を選択的に接続したり、切断したりする噛合式クラッチD1を備えている。噛合式クラッチD1は、第1動力伝達経路PT1を選択的に接続したり、切断したりする係合装置であって、係合されることで第1動力伝達経路PT1を形成する係合装置である。噛合式クラッチD1は、第1クラッチC1又は第1ブレーキB1と共に係合されることで第1動力伝達経路PT1を形成する係合装置であり、前記複数の係合装置に含まれる。噛合式クラッチD1は、係合する際に回転を同期させる同期機構としての公知のシンクロメッシュ機構S1を備えている。噛合式クラッチD1は、動力伝達装置16に備えられた油圧アクチュエータ57の作動によって作動状態が切り替えられる。
第1動力伝達経路PT1は、噛合式クラッチD1と、噛合式クラッチD1よりも入力軸22側に設けられた第1クラッチC1とが共に係合されることで形成される。第1動力伝達経路PT1は、第1クラッチC1に替えて選択的に係合される、噛合式クラッチD1よりも入力軸22側に設けられた第1ブレーキB1、及び噛合式クラッチD1の係合によっても形成される。第1クラッチC1の係合により前進用の動力伝達経路が形成される一方で、第1ブレーキB1の係合により後進用の動力伝達経路が形成される。第1クラッチC1及び噛合式クラッチD1の係合によって形成される第1動力伝達経路PT1は、前進走行用第1動力伝達経路である。第1ブレーキB1及び噛合式クラッチD1の係合によって形成される第1動力伝達経路PT1は、後進走行用第1動力伝達経路である。動力伝達装置16では、第1動力伝達経路PT1が形成されると、エンジン12の動力を入力軸22からギヤ機構28を経由して出力軸30へ伝達することができる動力伝達可能状態とされる。一方で、第1動力伝達経路PT1は、第1クラッチC1及び第1ブレーキB1が共に解放されると、又は、噛合式クラッチD1が解放されると、動力伝達が不能なニュートラル状態とされる。
図2は、無段変速機構24の構成を説明する為の図である。図1、図2において、無段変速機構24は、入力軸22と同軸心に設けられて入力軸22と一体的に連結されたプライマリ軸58と、プライマリ軸58に連結された有効径が可変のプライマリプーリ60と、出力軸30と同軸心に設けられたセカンダリ軸62と、セカンダリ軸62に連結された有効径が可変のセカンダリプーリ64と、それら各プーリ60,64の間に巻き掛けられた伝達要素としての伝動ベルト66とを備えている。無段変速機構24は、各プーリ60,64と伝動ベルト66との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる公知のベルト式の無段変速機であり、エンジン12の動力を駆動輪14側へ伝達する。前記摩擦力は、挟圧力も同意であり、ベルト挟圧力ともいう。このベルト挟圧力は、無段変速機構24における伝動ベルト66のトルク容量であるベルトトルク容量Tcvtである。
プライマリプーリ60は、プライマリ軸58に連結された固定シーブ60aと、固定シーブ60aに対してプライマリ軸58の軸心回りの相対回転不能且つ軸心方向の移動可能に設けられた可動シーブ60bと、可動シーブ60bに対してプライマリ推力Wpriを付与する油圧アクチュエータ60cとを備えている。プライマリ推力Wpriは、固定シーブ60aと可動シーブ60bとの間のV溝幅を変更する為のプライマリプーリ60の推力(=プライマリ圧Ppri×受圧面積)である。つまり、プライマリ推力Wpriは、油圧アクチュエータ60cによって付与される伝動ベルト66を挟圧するプライマリプーリ60の推力である。プライマリ圧Ppriは、油圧制御回路46によって油圧アクチュエータ60cへ供給される油圧であり、プライマリ推力Wpriを生じさせるプーリ油圧である。又、セカンダリプーリ64は、セカンダリ軸62に連結された固定シーブ64aと、固定シーブ64aに対してセカンダリ軸62の軸心回りの相対回転不能且つ軸心方向の移動可能に設けられた可動シーブ64bと、可動シーブ64bに対してセカンダリ推力Wsecを付与する油圧アクチュエータ64cとを備えている。セカンダリ推力Wsecは、固定シーブ64aと可動シーブ64bとの間のV溝幅を変更する為のセカンダリプーリ64の推力(=セカンダリ圧Psec×受圧面積)である。つまり、セカンダリ推力Wsecは、油圧アクチュエータ64cによって付与される伝動ベルト66を挟圧するセカンダリプーリ64の推力である。セカンダリ圧Psecは、油圧制御回路46によって油圧アクチュエータ64cへ供給される油圧であり、セカンダリ推力Wsecを生じさせるプーリ油圧である。
無段変速機構24では、後述する電子制御装置100により駆動される油圧制御回路46によってプライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecが各々調圧制御されることにより、プライマリ推力Wpri及びセカンダリ推力Wsecが各々制御される。これにより、無段変速機構24では、各プーリ60,64のV溝幅が変化して伝動ベルト66の掛かり径(=有効径)が変更され、変速比γcvt(=プライマリ回転速度Npri/セカンダリ回転速度Nsec)が変化させられると共に、伝動ベルト66が滑りを生じないようにベルト挟圧力が制御される。つまり、プライマリ推力Wpri及びセカンダリ推力Wsecが各々制御されることで、伝動ベルト66の滑りであるベルト滑りが防止されつつ無段変速機構24の変速比γcvtが目標変速比γcvttgtとされる。尚、プライマリ回転速度Npriはプライマリ軸58の回転速度であり、セカンダリ回転速度Nsecはセカンダリ軸62の回転速度である。
無段変速機構24では、プライマリ圧Ppriが高められると、プライマリプーリ60のV溝幅が狭くされて変速比γcvtが小さくされる。変速比γcvtが小さくされることは、無段変速機構24がアップシフトされることである。無段変速機構24では、プライマリプーリ60のV溝幅が最小とされるところで、最ハイ側変速比γminが形成される。この最ハイ側変速比γminは、無段変速機構24により形成できる変速比γcvtの範囲のうちの最も高車速側となる最高車速側の変速比γcvtであり、変速比γcvtが最も小さな値となる最小変速比である。一方で、無段変速機構24では、プライマリ圧Ppriが低められると、プライマリプーリ60のV溝幅が広くされて変速比γcvtが大きくされる。変速比γcvtが大きくされることは、無段変速機構24がダウンシフトされることである。無段変速機構24では、プライマリプーリ60のV溝幅が最大とされるところで、最ロー側変速比γmaxが形成される。この最ロー側変速比γmaxは、無段変速機構24により形成できる変速比γcvtの範囲のうちの最も低車速側となる最低車速側の変速比γcvtであり、変速比γcvtが最も大きな値となる最大変速比である。尚、無段変速機構24では、プライマリ推力Wpriとセカンダリ推力Wsecとによりベルト滑りが防止されつつ、プライマリ推力Wpriとセカンダリ推力Wsecとの相互関係にて目標変速比γcvttgtが実現されるものであり、一方の推力のみで目標の変速が実現されるものではない。プライマリ圧Ppriとセカンダリ圧Psecとの相互関係で、プライマリ推力Wpriとセカンダリ推力Wsecとの比の値である推力比τ(=Wsec/Wpri)が変更されることにより無段変速機構24の変速比γcvtが変更される。推力比τは、セカンダリ推力Wsecのプライマリ推力Wpriに対する比の値である。例えば、推力比τが大きくされる程、変速比γcvtが大きくされる、すなわち無段変速機構24はダウンシフトされる。
出力軸30は、セカンダリ軸62に対して同軸心に相対回転可能に配置されている。第2クラッチC2は、セカンダリプーリ64と出力軸30との間の動力伝達経路に設けられている。第2動力伝達経路PT2は、第2クラッチC2が係合されることで形成される。動力伝達装置16では、第2動力伝達経路PT2が形成されると、エンジン12の動力を入力軸22から無段変速機構24を経由して出力軸30へ伝達することができる動力伝達可能状態とされる。一方で、第2動力伝達経路PT2は、第2クラッチC2が解放されると、ニュートラル状態とされる。無段変速機構24の変速比γcvtは、第2動力伝達経路PT2における変速比に相当する。
動力伝達装置16では、第1動力伝達経路PT1における変速比γgear(=入力軸回転速度Nin/出力軸回転速度Nout)であるギヤ機構28の変速比ELは、第2動力伝達経路PT2における最大変速比である無段変速機構24の最ロー側変速比γmaxよりも大きな値に設定されている。すなわち、変速比ELは、最ロー側変速比γmaxよりもロー側の変速比に設定されている。ギヤ機構28の変速比ELは、動力伝達装置16における第1速変速比γ1に相当し、無段変速機構24の最ロー側変速比γmaxは、動力伝達装置16における第2速変速比γ2に相当する。このように、第2動力伝達経路PT2は、第1動力伝達経路PT1よりもハイ側の変速比が形成される。尚、入力軸回転速度Ninは入力軸22の回転速度であり、出力軸回転速度Noutは出力軸30の回転速度である。
車両10では、第1走行モードとしてのギヤ走行モードでの走行と第2走行モードとしてのベルト走行モードでの走行とを選択的に行うことが可能である。ギヤ走行モードは、第1動力伝達経路PT1を用いて走行することが可能な走行モードであって、動力伝達装置16において第1動力伝達経路PT1が形成された状態とする走行モードである。ベルト走行モードは、第2動力伝達経路PT2を用いて走行することが可能な走行モードであって、動力伝達装置16において第2動力伝達経路PT2が形成された状態とする走行モードである。ギヤ走行モードでは、前進走行を可能とする場合、第1クラッチC1及び噛合式クラッチD1が係合され且つ第2クラッチC2及び第1ブレーキB1が解放される。ギヤ走行モードでは、後進走行を可能とする場合、第1ブレーキB1及び噛合式クラッチD1が係合され且つ第2クラッチC2及び第1クラッチC1が解放される。ベルト走行モードでは、第2クラッチC2が係合され且つ第1クラッチC1及び第1ブレーキB1が解放される。このベルト走行モードでは前進走行が可能となる。
ギヤ走行モードは、車両停止中を含む比較的低車速領域において選択される。ベルト走行モードは、中車速領域を含む比較的高車速領域において選択される。ベルト走行モードのうちの中車速領域でのベルト走行モードでは噛合式クラッチD1が係合される一方で、ベルト走行モードのうちの高車速領域でのベルト走行モードでは噛合式クラッチD1が解放される。高車速領域でのベルト走行モードにて噛合式クラッチD1が解放されるのは、例えばベルト走行モードでの走行中のギヤ機構28等の引き摺りをなくすと共に、高車速においてギヤ機構28や遊星歯車装置26pの構成部材である例えばピニオン等が高回転化するのを防止する為である。
車両10は、車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置100を備えている。電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置100は、エンジン12の出力制御、無段変速機構24の変速制御やベルト挟圧力制御、前記複数の係合装置(C1,B1,C2,D1)の各々の作動状態を切り替える油圧制御等を実行する。電子制御装置100は、必要に応じてエンジン制御用、油圧制御用等に分けて構成される。
電子制御装置100には、車両10に備えられた各種センサ等(例えば各種回転速度センサ70、72,74,76、アクセル操作量センサ78、スロットル開度センサ80、シフトポジションセンサ82、油温センサ84など)による各種検出信号等(例えばエンジン回転速度Ne、入力軸回転速度Ninと同値となるプライマリ回転速度Npri、セカンダリ回転速度Nsec、車速Vに対応する出力軸回転速度Nout、運転者の加速操作の大きさを表すアクセル操作量θacc、スロットル開度tap、車両10に備えられたシフト切替装置としてのシフトレバー85の操作ポジションPOSsh、油圧制御回路46内の作動油の温度である作動油温THoilなど)が、それぞれ供給される。又、電子制御装置100からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置42、油圧制御回路46など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、無段変速機構24の変速やベルト挟圧力等を制御する為の油圧制御指令信号Scvt、前記複数の係合装置の各々の作動状態を制御する為の油圧制御指令信号Scbdなど)が、それぞれ出力される。尚、入力軸回転速度Nin(=プライマリ回転速度Npri)はタービン回転速度でもあり、又、プライマリ回転速度Npriはプライマリプーリ60の回転速度でもあり、又、セカンダリ回転速度Nsecはセカンダリプーリ64の回転速度でもある。又、電子制御装置100は、プライマリ回転速度Npriとセカンダリ回転速度Nsecとに基づいて無段変速機構24の実際の変速比γcvtである実変速比γcvt(=Npri/Nsec)を算出する。
シフトレバー85の操作ポジションPOSshは、例えばP,R,N,D操作ポジションである。P操作ポジションは、動力伝達装置16がニュートラル状態とされ且つ出力軸30が回転不能に機械的に固定された動力伝達装置16のPポジションを選択するパーキング操作ポジションである。動力伝達装置16のニュートラル状態は、例えば第1クラッチC1、第1ブレーキB1、及び第2クラッチC2が共に解放されることで実現される。つまり、動力伝達装置16のニュートラル状態は、第1動力伝達経路PT1及び第2動力伝達経路PT2が何れも形成されていない状態である。R操作ポジションは、ギヤ走行モードにて後進走行を可能とする動力伝達装置16のRポジションを選択する後進走行操作ポジションである。N操作ポジションは、動力伝達装置16がニュートラル状態とされた動力伝達装置16のNポジションを選択するニュートラル操作ポジションである。D操作ポジションは、ギヤ走行モードにて前進走行を可能とするか、又は、ベルト走行モードにて無段変速機構24の自動変速制御を実行して前進走行を可能とする動力伝達装置16のDポジションを選択する前進走行操作ポジションである。
油圧制御回路46は、図2に示すように、複数のソレノイドバルブSL、マニュアルバルブ86、プライマリ圧コントロールバルブ88、セカンダリ圧コントロールバルブ90、シーケンスバルブ92、C1コントロールバルブ94、及びS1B1コントロールバルブ96などを備えている。
マニュアルバルブ86は、運転者によるシフトレバー85における切替操作に連動して機械的に油路が切り替えられる。マニュアルバルブ86は、シフトレバー85がD操作ポジションにあるときには、入力されたモジュレータ圧PMをドライブ圧PDとして出力し、シフトレバー85がR操作ポジションにあるときには、入力されたモジュレータ圧PMをリバース圧PRとして出力する。又、マニュアルバルブ86は、シフトレバー85がN操作ポジション或いはP操作ポジションにあるときには、油圧の出力を遮断し、ドライブ圧PD及びリバース圧PRを排出側へ導く。ドライブ圧PDは、Dレンジ圧又は前進油圧ともいう。リバース圧PRは、Rレンジ圧又は後進油圧ともいう。モジュレータ圧PMは、ライン圧PLを元圧として、不図示のモジュレータバルブにより一定値に調圧された油圧である。ライン圧PLは、オイルポンプ44が発生する油圧を元圧として、不図示のプライマリレギュレータバルブにより例えばスロットル開度tap等で表されるエンジン負荷に応じて調圧された油圧である。
複数のソレノイドバルブSLは、各々、電子制御装置100により電流制御が為されることで、オイルポンプ44により油圧制御回路46へ供給された作動油を用いて各々調圧した油圧を出力する。複数のソレノイドバルブSLは、第1ソレノイドバルブとしてのC1用ソレノイドバルブSL1、第2ソレノイドバルブとしてのC2用ソレノイドバルブSL2、第3ソレノイドバルブとしてのD1用ソレノイドバルブSLG、第4ソレノイドバルブとしてのプライマリ用ソレノイドバルブSLP、及び第5ソレノイドバルブとしてのセカンダリ用ソレノイドバルブSLSである。C1用ソレノイドバルブSL1、C2用ソレノイドバルブSL2、及びD1用ソレノイドバルブSLGは、ノーマリークローズ式の電磁弁である。プライマリ用ソレノイドバルブSLP及びセカンダリ用ソレノイドバルブSLSは、ノーマリーオープン式の電磁弁である。ノーマリークローズ式の電磁弁は、例えば電子制御装置100からの駆動電流が途絶える断線時には油圧を出力しないオフフェール状態とされる一方で、ノーマリーオープン式の電磁弁は、断線時には最大油圧を出力するオンフェール状態とされる。
C1用ソレノイドバルブSL1は、ドライブ圧PDを元圧として、第1クラッチC1の油圧アクチュエータC1aへ供給される油圧であるC1制御圧Pc1となり得るSL1圧Psl1を出力する。すなわち、C1用ソレノイドバルブSL1は、第1クラッチC1を作動させる第1油圧であるC1制御圧Pc1を調圧する。C2用ソレノイドバルブSL2は、ドライブ圧PDを元圧として、第2クラッチC2の油圧アクチュエータC2aへ供給される油圧であるC2制御圧Pc2となり得るSL2圧Psl2を出力する。すなわち、C2用ソレノイドバルブSL2は、第2クラッチC2を作動させる第2油圧であるC2制御圧Pc2を調圧する。
D1用ソレノイドバルブSLGは、モジュレータ圧PMを元圧として、噛合式クラッチD1の作動状態を切り替える為の油圧アクチュエータ57へ供給される油圧であるシンクロ制御圧Ps1となり得るSLG圧Pslgを出力する。すなわち、D1用ソレノイドバルブSLGは、噛合式クラッチD1を作動させる第3油圧であるシンクロ制御圧Ps1を調圧する。尚、このSLG圧Pslgは、シフトレバー85がR操作ポジションとされてマニュアルバルブ86からリバース圧PRが出力される後進走行時には、第1ブレーキB1の油圧アクチュエータB1aへ供給される油圧であるB1制御圧Pb1となり得る。すなわち、D1用ソレノイドバルブSLGは、後進走行時には、第1ブレーキB1を作動させるB1制御圧Pb1を調圧する。
プライマリ用ソレノイドバルブSLPは、モジュレータ圧PMを元圧として、プライマリプーリ60の油圧アクチュエータ60cへ供給される油圧であるプライマリ圧Ppriを制御する為のSLP圧Pslpを出力する。すなわち、プライマリ用ソレノイドバルブSLPは、プライマリプーリ60を作動させる第4油圧であるプライマリ圧Ppriを調圧する。セカンダリ用ソレノイドバルブSLSは、モジュレータ圧PMを元圧として、セカンダリプーリ64の油圧アクチュエータ64cへ供給される油圧であるセカンダリ圧Psecを制御する為のSLS圧Pslsを出力する。すなわち、セカンダリ用ソレノイドバルブSLSは、セカンダリプーリ64を作動させる第5油圧であるセカンダリ圧Psecを調圧する。
プライマリ圧コントロールバルブ88は、ライン圧PLを元圧として、SLP圧Pslpに基づいて作動させられることでプライマリ圧Ppriを調圧する。セカンダリ圧コントロールバルブ90は、ライン圧PLを元圧として、SLS圧Pslsに基づいて作動させられることでセカンダリ圧Psecを調圧する。
シーケンスバルブ92は、SLP圧Pslpに基づいて、SL2圧Psl2を第2クラッチC2へ供給する油路を形成する正常位置と、ドライブ圧PDを第2クラッチC2へ供給する油路を形成するフェール位置とに、弁位置が択一的に切り替えられる。シーケンスバルブ92は、モジュレータ圧PMや不図示のスプリングによる付勢力によって正常位置に保持される。シーケンスバルブ92は、SLP圧Pslpの作用によってフェール位置へ切り替えられる。例えば、シーケンスバルブ92は、断線等によってC2用ソレノイドバルブSL2がオフフェール状態となったときに所定圧以上のSLP圧Pslpが出力されると、フェール位置へ切り替えられる。この際、シフトレバー85がD操作ポジションにあるときには、第2クラッチC2へ強制的にドライブ圧PDが供給されてその第2クラッチC2が係合される。SL2圧Psl2やドライブ圧PDは、シーケンスバルブ92を介してC2制御圧Pc2として第2クラッチC2へ供給される。
C1コントロールバルブ94は、SL1圧Psl1及びC2制御圧Pc2に基づいて、SL1圧Psl1を第1クラッチC1へ供給する油路を形成する通常状態としての正常位置と、C1制御圧Pc1を排出する油路を形成するタイアップ防止状態としてのフェール位置とに、弁位置が択一的に切り替えられる。C1コントロールバルブ94は、SL1圧Psl1及びC2制御圧Pc2が共に付与されることでフェール位置に切り替えられる。SL1圧Psl1は、C1コントロールバルブ94を介してC1制御圧Pc1として第1クラッチC1へ供給される。C1コントロールバルブ94は、C1制御圧Pc1としてSL1圧Psl1を第1クラッチC1へ供給する油路を遮断することで第1クラッチC1と第2クラッチC2との同時係合によるタイアップを防止するフェールセーフバルブとして機能する。
S1B1コントロールバルブ96は、リバース圧PRに基づいて、SLG圧Pslgを油圧アクチュエータ57へ供給する油路を形成し、且つ、B1制御圧Pb1を排出する油路を形成する非R位置と、モジュレータ圧PMを油圧アクチュエータ57へ供給する油路を形成し、且つ、SLG圧Pslgを第1ブレーキB1へ供給する油路を形成するR位置とに、弁位置が択一的に切り替えられる。S1B1コントロールバルブ96は、リバース圧PRが付与されることでR位置に切り替えられる。SLG圧Pslgは、シフトレバー85がR操作ポジション以外にあるときには、S1B1コントロールバルブ96を介してシンクロ制御圧Ps1として油圧アクチュエータ57へ供給される。一方で、SLG圧Pslgは、シフトレバー85がR操作ポジションにあるときには、すなわち後進走行時には、S1B1コントロールバルブ96を介してB1制御圧Pb1として第1ブレーキB1へ供給される。モジュレータ圧PMは、シフトレバー85がR操作ポジションにあるときには、S1B1コントロールバルブ96を介してシンクロ制御圧Ps1として油圧アクチュエータ57へ供給される。噛合式クラッチD1は、後進走行時には、モジュレータ圧PMが供給されて係合させられる。
第1クラッチC1は、C1制御圧Pc1に応じてトルク容量が変化させられることで作動状態が切り替えられる。第2クラッチC2は、C2制御圧Pc2に応じてトルク容量が変化させられることで作動状態が切り替えられる。第1クラッチC1のトルク容量は、C1クラッチトルクTcltc1である。第2クラッチC2のトルク容量は、C2クラッチトルクTcltc2である。このように、油圧制御回路46は、電子制御装置100が出力する油圧制御指令信号Scbdである油圧指示値に基づいて各制御圧Pc1,Pc2を供給する。C1制御圧Pc1に対応する油圧指示値はC1指示圧であり、C2制御圧Pc2に対応する油圧指示値はC2指示圧である。
電子制御装置100は、車両10における各種制御を実現する為に、エンジン制御手段すなわちエンジン制御部102、及び変速制御手段すなわち変速制御部104を備えている。
エンジン制御部102は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である例えば駆動力マップにアクセル操作量θacc及び車速Vを適用することで要求駆動力Fdemを算出する。エンジン制御部102は、その要求駆動力Fdemが得られる目標エンジントルクTetを設定し、その目標エンジントルクTetが得られるようにエンジン12を制御するエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置42へ出力する。
変速制御部104は、車両停止中に、操作ポジションPOSshがP操作ポジション又はN操作ポジションである場合には、ギヤ走行モードへの移行に備えて、噛合式クラッチD1を係合する油圧制御指令信号Scbdを油圧制御回路46へ出力する。変速制御部104は、車両停止中に、操作ポジションPOSshがP操作ポジション又はN操作ポジションからD操作ポジションとされた場合、第1クラッチC1を係合する油圧制御指令信号Scbdを油圧制御回路46へ出力する。これにより、走行モードが前進走行を可能とするギヤ走行モードへ移行させられる。変速制御部104は、車両停止中に、操作ポジションPOSshがP操作ポジション又はN操作ポジションからR操作ポジションとされた場合、第1ブレーキB1を係合する油圧制御指令信号Scbdを油圧制御回路46へ出力する。これにより、走行モードが後進走行を可能とするギヤ走行モードへ移行させられる。
変速制御部104は、操作ポジションPOSshがD操作ポジションである場合、ギヤ走行モードとベルト走行モードとを切り替える切替制御を実行する。具体的には、変速制御部104は、ギヤ走行モードにおけるギヤ機構28の変速比ELに対応する第1速変速段と、ベルト走行モードにおける無段変速機構24の最ロー側変速比γmaxに対応する第2速変速段とを切り替える為の所定のヒステリシスを有した、予め定められた関係である有段変速マップとしてのアップシフト線及びダウンシフト線に、車速V及びアクセル操作量θaccを適用することで変速の要否を判断し、その判断結果に基づいて走行モードを切り替える。
変速制御部104は、ギヤ走行モードでの走行中にアップシフトを判断してベルト走行モードへ切り替える場合、第1クラッチC1を解放して第2クラッチC2を係合するようにクラッチを掴み替えるクラッチツゥクラッチ変速を行う油圧制御指令信号Scbdを油圧制御回路46へ出力する。これにより、動力伝達装置16における動力伝達経路PTは、第1動力伝達経路PT1から第2動力伝達経路PT2へ切り替えられる。このように、変速制御部104は、第1クラッチC1の解放と第2クラッチC2の係合とによる有段変速制御によって、第1動力伝達経路PT1が形成された状態であるギヤ走行モードから第2動力伝達経路PT2が形成された状態であるベルト走行モードへ切り替える動力伝達装置16のアップシフトを実行する。本実施例では、ギヤ走行モードからベルト走行モードへ切り替える動力伝達装置16のアップシフトを有段アップシフトと称する。
変速制御部104は、ベルト走行モードでの走行中にダウンシフトを判断してギヤ走行モードへ切り替える場合、第2クラッチC2を解放して第1クラッチC1を係合するようにクラッチを掴み替えるクラッチツゥクラッチ変速を行う油圧制御指令信号Scbdを油圧制御回路46へ出力する。これにより、動力伝達装置16における動力伝達経路PTは、第2動力伝達経路PT2から第1動力伝達経路PT1へ切り替えられる。このように、変速制御部104は、第2クラッチC2の解放と第1クラッチC1の係合とによる有段変速制御によって、第2動力伝達経路PT2が形成された状態であるベルト走行モードから第1動力伝達経路PT1が形成された状態であるギヤ走行モードへ切り替える動力伝達装置16のダウンシフトを実行する。本実施例では、ベルト走行モードからギヤ走行モードへ切り替える動力伝達装置16のダウンシフトを有段ダウンシフトと称する。
ギヤ走行モードとベルト走行モードとを切り替える切替制御では、噛合式クラッチD1が係合された中車速領域でのベルト走行モードの状態を経由することで、上記クラッチツゥクラッチ変速によるトルクの受け渡しを行うだけで第1動力伝達経路PT1と第2動力伝達経路PT2とが切り替えられるので、切替えショックが抑制される。
変速制御部104は、ベルト走行モードにおいては、無段変速機構24のベルト滑りが発生しないようにしつつ無段変速機構24の目標変速比γcvttgtを達成するように、プライマリ圧Ppriとセカンダリ圧Psecとを制御する油圧制御指令信号Scvtを油圧制御回路46へ出力して、無段変速機構24の変速を実行する。
具体的には、変速制御部104は、予め定められた関係である例えばCVT変速マップにアクセル操作量θacc及び車速Vを適用することで目標プライマリ回転速度Npritを算出する。変速制御部104は、目標プライマリ回転速度Npritに基づいて目標変速比γcvttgt(=Nprit/Nsec)を算出する。変速制御部104は、予め定められた関係である例えばエンジントルクマップにスロットル開度tap及びエンジン回転速度Neを適用することでエンジントルクTeの推定値を算出する。変速制御部104は、エンジントルクTeの推定値と予め定められた関係である例えばトルクコンバータ20の特性とに基づいてタービントルクTtを算出する。変速制御部104は、プライマリプーリ60に入力される入力トルクであるプライマリ入力トルクTpriとして、タービントルクTtを用いる。プライマリ入力トルクTpriは、プライマリ軸58におけるトルクである。変速制御部104は、予め定められた関係である推力比マップに目標変速比γcvttgt及びトルク比を適用することで、目標変速比γcvttgtを実現する為の推力比τを算出する。このトルク比は、上記算出されたプライマリ入力トルクTpriと、予め定められたプライマリプーリ60に入力可能な限界のトルクTprilimとの比(=Tpri/Tprilim)である。変速制御部104は、この推力比τを達成する為の目標プライマリ推力Wprit及び目標セカンダリ推力Wsectを算出する。一方の推力が決められれば、目標変速比γcvttgtを実現する為の推力比τに基づいて他方の推力も決められる。変速制御部104は、目標プライマリ推力Wprit及び目標セカンダリ推力Wsectを、目標プライマリ圧Pprit(=Wprit/受圧面積)及び目標セカンダリ圧Psect(=Wsect/受圧面積)に各々変換する。変速制御部104は、目標プライマリ圧Pprit及び目標セカンダリ圧Psectが得られるように、プライマリ圧Ppriとセカンダリ圧Psecとを制御する油圧制御指令信号Scvtを油圧制御回路46へ出力する。油圧制御回路46は、その油圧制御指令信号Scvtに従って、各ソレノイド弁を作動させてプライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecを調圧する。尚、上述した無段変速機構24の変速制御の説明では、便宜上、目標変速比γcvttgtを一定に維持する為の推力について述べた。無段変速機構24の変速過渡においては、目標のアップシフト或いは目標のダウンシフトを実現する為の推力がこの一定に維持する為の推力に加えられる。
目標プライマリ推力Wprit及び目標セカンダリ推力Wsectの算出では、必要最小限の推力で無段変速機構24のベルト滑りを防止する為に必要となる推力である必要推力が考慮される。この必要推力は、無段変速機構24のベルト滑りが発生する直前の推力である滑り限界推力である。
変速制御部104は、プライマリプーリ60の限界推力であるプライマリ限界推力Wprilimと、セカンダリプーリ64の限界推力であるセカンダリ限界推力Wseclimを設定する。変速制御部104は、次式(1)を用いてプライマリ限界推力Wprilimを設定する。変速制御部104は、次式(2)を用いてセカンダリ限界推力Wseclimを設定する。次式(1)及び次式(2)において、「α」は各プーリ60,64のシーブ角、「μ」はベルトエレメントとシーブとの間の摩擦係数、「Rpri」は無段変速機構24の変速比γcvtに基づいて算出されるプライマリプーリ60側のベルト掛かり径、「Rsec」は無段変速機構24の変速比γcvtに基づいて算出されるセカンダリプーリ64側のベルト掛かり径をそれぞれ示している(図2参照)。又、「γcvt×Tpri」はセカンダリプーリ64に入力されるトルクを示している。
Wprilim=(Tpri×cosα)/(2×μ×Rpri) …(1)
Wseclim=(γcvt×Tpri×cosα)/(2×μ×Rsec) …(2)
変速制御部104は、プライマリ限界推力Wprilim及び目標変速比γcvttgtを実現する為の推力比τに基づいて、変速制御の為に必要なセカンダリプーリ64の推力であるセカンダリ変速制御推力Wsecsh(=τ×Wprilim)を算出する。変速制御部104は、セカンダリ限界推力Wseclim及びセカンダリ変速制御推力Wsecshのうちの大きい方を、目標セカンダリ推力Wsectとして設定する。変速制御部104は、目標セカンダリ推力Wsect及び目標変速比γcvttgtを実現する為の推力比τに基づいて、目標プライマリ推力Wprit(=Wsect/τ)を算出する。
ところで、オイルポンプ44により油圧制御回路46へ供給される作動油の流量と、油圧制御回路46にて消費される作動油の流量とにおける流量収支の性能は、例えばエンジン回転速度Neや作動油温THoilによって制限を受ける。エンジン回転速度Neが低下してオイルポンプ44から供給される作動油の流量が低下したとき、又は、油圧制御回路46における作動油の漏れ量が増加するような作動油温THoilが高いときなどには、油圧制御回路46にて消費される作動油の流量に対して油圧制御回路46へ供給される作動油の流量が相対的に少なくされて、流量収支の性能が低下し易い。このような現象は、燃費向上の為にオイルポンプ44の小型化を図る程、顕著である。
油圧制御回路46における作動油の流量の消費は、例えば第1クラッチC1を解放状態から係合状態へ切り替える第1係合作動であるC1係合作動、第2クラッチC2を解放状態から係合状態へ切り替える第2係合作動であるC2係合作動、噛合式クラッチD1を解放状態から係合状態へ切り替える第3係合作動であるシンクロ係合作動、第1ブレーキB1を解放状態から係合状態へ切り替えるB1係合作動、及び無段変速機構24を変速する無段変速作動すなわちプライマリプーリ60及びセカンダリプーリ64を作動させる無段変速作動のうちの何れかの作動が実行されるときに発生させられる。一方で、油圧制御回路46における作動油の流量の消費は、例えば係合装置(C1,B1,C2,D1)の解放過渡時、完全係合時、完全解放時、又は、無段変速機構24の変速比γcvtをそのまま維持しているときには発生させられない。
流量収支の性能が低下しているときに、作動油の流量の消費が発生させられる作動のうちの少なくとも2つの作動が重ねて実行されると、油圧制御回路46にて消費される作動油の流量に対して油圧制御回路46へ供給される作動油の流量が不足する可能性がある。本実施例では、油圧制御回路46にて消費される作動油の流量に対して油圧制御回路46へ供給される作動油の流量が不足することを、単に「作動油の流量が不足する」と表すこともある。作動油の流量が不足すると例えばモジュレータ圧PMが低下して、ベルト滑り、係合状態にある噛合式クラッチD1が解放されてしまうシンクロ外れ等のハード的な不具合が発生する懸念がある。
以下に、作動油の流量が不足する領域において、2つ以上の作動が重ねて実行される場合に懸念される現象を例示する。以下に示す例示では、C1係合作動、C2係合作動、又はシンクロ係合作動と、無段変速作動とが重ねて実行される場合の現象を示す。
無段変速機構24の変速中に噛合式クラッチD1を係合状態へ切り替える場合には、すなわちシンクロ係合作動と無段変速作動とが重なる場合には、例えばベルトトルク容量Tcvtの不足によるベルト滑りが発生する懸念がある。ここでの無段変速機構24の変速は、例えば無段変速機構24の変速比γcvtが最ロー側変速比γmaxに戻っていないベルト未戻り時に無段変速機構24の変速比γcvtを最ロー側変速比γmaxとする、ベルト戻しの為のダウンシフトである。シンクロ係合作動は、例えばギヤ走行モードでの走行の為に必要な作動であり、又は、ベルト走行モードからギヤ走行モードへ切り替える有段ダウンシフトに備える為の事前操作である。ギヤ走行モードでの走行中や有段ダウンシフト中は、無段変速機構24の変速比γcvtが最ロー側変速比γmaxとされることが好ましい。シンクロ係合作動は、基本的には、変速制御部104により無段変速機構24の変速比γcvtが最ロー側変速比γmaxであるときに実行される。又は、シンクロ係合作動の実行時に無段変速機構24の変速比γcvtが最ロー側変速比γmaxでないときには、変速制御部104によりベルト戻しの為のダウンシフトがシンクロ係合作動と重ねて実行される。変速制御部104は、シンクロ係合作動の実行中における目標変速比γcvttgtを最ロー側変速比γmaxに設定する。
ギヤ走行モードが選択された走行中において、無段変速機構24の変速中に、シフトレバー85をN操作ポジションからD操作ポジションへ切り替える運転者によるシフト操作に伴って第1クラッチC1を係合状態へ切り替える場合には、すなわち無段変速作動とC1係合作動とが重なる場合には、例えばシンクロ制御圧Ps1の不足によるシンクロ外れ等のシンクロ係合不良が発生する懸念がある。ここでの無段変速機構24の変速は、例えばベルト戻しの為のダウンシフトである。本実施例では、シフトレバー85をD操作ポジションへ切り替える運転者によるシフト操作に伴うC1係合作動を、C1ガレージ係合作動と称する。C1ガレージ係合作動は、例えばギヤ走行モードでの走行の為に必要な作動である。ギヤ走行モードでの走行中は、無段変速機構24の変速比γcvtが最ロー側変速比γmaxとされることが好ましい。C1ガレージ係合作動は、基本的には、変速制御部104により無段変速機構24の変速比γcvtが最ロー側変速比γmaxであるときに実行される。又は、C1ガレージ係合作動の実行時に無段変速機構24の変速比γcvtが最ロー側変速比γmaxでないときには、変速制御部104によりベルト戻しの為のダウンシフトがC1ガレージ係合作動と重ねて実行される。変速制御部104は、C1ガレージ係合作動の実行中における目標変速比γcvttgtを最ロー側変速比γmaxに設定する。
ベルト走行モードが選択された走行中において、無段変速機構24の変速中に、シフトレバー85をN操作ポジションからD操作ポジションへ切り替える運転者によるシフト操作に伴って第2クラッチC2を係合状態へ切り替える場合には、すなわち無段変速作動とC2係合作動とが重なる場合には、例えばベルトトルク容量Tcvtの不足によるベルト滑りが発生する懸念がある。ここでの無段変速機構24の変速は、例えばCVT変速マップを用いて算出した目標変速比γcvttgtへの変速である。C2ガレージ係合作動の実行中における目標変速比γcvttgtが最ロー側変速比γmaxに設定されておれば、ここでの無段変速機構24の変速はベルト戻しの為のダウンシフトである。本実施例では、シフトレバー85をD操作ポジションへ切り替える運転者によるシフト操作に伴うC2係合作動を、C2ガレージ係合作動と称する。C2ガレージ係合作動の実行時に無段変速機構24の変速比γcvtが目標変速比γcvttgtでないときには、変速制御部104により目標変速比γcvttgtへの変速がC2ガレージ係合作動と重ねて実行される。
本実施例では、作動油の流量が不足する領域において油圧制御回路46にて作動油の流量の消費が発生させられる作動が各々優先度の順に実行されるように、走行モードに応じた所定の作動優先順位が設定されている。変速制御部104は、作動油の流量が不足する場合には、所定の作動優先順位に基づいて作動油の流量の消費が発生させられる作動を実行する。これにより、2つ以上の作動が重ねて実行される場合に懸念される現象が回避又は抑制される。
電子制御装置100は、予め定められた、走行モードに応じた所定の作動優先順位を記憶している。以下に、前記所定の作動優先順位にて設定されている作動優先順位について例示する。以下に示す例示では、C1係合作動、C2係合作動、又はシンクロ係合作動と、無段変速作動とにおける作動優先順位を示す。
作動油の流量が不足する領域において、C1係合作動中、C2係合作動中、又はシンクロ係合作動中に、無段変速作動を重ねて実行すると、モジュレータ圧PMの低下によりプライマリ入力トルクTpriに対して必要なベルトトルク容量Tcvtが不足してベルト滑りが発生する懸念がある。又は、作動油の流量が不足する領域において、C1係合作動中に、無段変速作動を重ねて実行すると、シンクロ外れ等のシンクロ係合不良が発生する懸念がある。動力伝達経路PTの形成による動力伝達を優先するという観点で、第1クラッチC1の係合、第2クラッチC2の係合、又は噛合式クラッチD1の係合を無段変速作動よりも優先する。その為、前記所定の作動優先順位は、C1係合作動を無段変速作動よりも優先して実行する作動優先順位が設定され、C2係合作動を無段変速作動よりも優先して実行する作動優先順位が設定され、シンクロ係合作動を無段変速作動よりも優先して実行する作動優先順位が設定されている。
変速制御部104は、C1ガレージ係合作動又はC2ガレージ係合作動又はシンクロ係合作動と、無段変速作動とが重ねて実行されると作動油の流量が不足する場合には、作動油の流量が不足しない場合と比べて、C1ガレージ係合作動の実行中又はC2ガレージ係合作動の実行中又はシンクロ係合作動の実行中に重ねて実行するときの無段変速作動における無段変速機構24の変速比γcvtの変化を抑制する。
つまり、前記所定の作動優先順位では、無段変速作動よりも各係合作動(C1ガレージ係合作動、C2ガレージ係合作動、シンクロ係合作動)の方が優先して実行されるように作動優先順位が設定されているので、各係合作動の実行中は無段変速作動の実行が制限される。特には、作動油の流量が不足する場合に作動油の流量が不足しない場合と比べて係合作動の実行中に重ねて実行するときの無段変速作動における無段変速機構24の変速比γcvtの変化を抑制することは、例えば無段変速機構24の変速比γcvtを係合作動の実行開始時点での実変速比γcvtにて固定するすなわち保持することである。すなわち、変速制御部104は、C1ガレージ係合作動又はC2ガレージ係合作動又はシンクロ係合作動と、無段変速作動とが重ねて実行されると作動油の流量が不足する場合には、C1ガレージ係合作動の実行中又はC2ガレージ係合作動の実行中又はシンクロ係合作動の実行中に重ねて実行するときの無段変速作動において、C1ガレージ係合作動の実行開始時点での実変速比γcvt又はC2ガレージ係合作動の実行開始時点での実変速比γcvt又はシンクロ係合作動の実行開始時点での実変速比γcvtにて無段変速機構24の変速比γcvtを保持する変速比固定制御を実行する。
具体的には、電子制御装置100は、上述したような各係合作動と無段変速作動とが重ねて実行される場合に懸念される現象を回避又は抑制するという機能を実現する為に、更に、状態判定手段すなわち状態判定部106を備えている。以下に、状態判定部106の機能や状態判定部106による判定結果に基づく変速制御部104の機能について、C1ガレージ係合作動、C2ガレージ係合作動、及びシンクロ係合作動の各係合作動の実行中における各々の目標変速比γcvttgtが最ロー側変速比γmaxに設定される場合を例示して説明する。
状態判定部106は、クラッチ制御状態すなわちC1/C2制御状態としての第1クラッチC1の制御状態及び第2クラッチC2の制御状態の各々に関する情報を取得する。すなわち、状態判定部106は、C1ガレージ係合作動の実行中であるか否かの情報を取得する。又、状態判定部106は、C2ガレージ係合作動の実行中であるか否かの情報を取得する。
状態判定部106は、シンクロ制御状態としての噛合式クラッチD1の制御状態に関する情報を取得する。すなわち、状態判定部106は、シンクロ係合作動の実行中であるか否かの情報を取得する。
状態判定部106は、無段変速制御状態としての無段変速機構24の制御状態に関する情報を取得する。すなわち、状態判定部106は、無段変速機構24の目標変速比γcvttgtとして最ロー側変速比γmaxが設定されているときに、実変速比γcvtが最ロー側変速比γmaxとなっているか否かの情報を取得する。この実変速比γcvtが最ロー側変速比γmaxとなっているか否かの情報は、例えばγmax判定のON/OFFの状態の情報である。このγmax判定は、実変速比γcvtが最ロー側変速比γmaxとなっていると「ON」とされている一方で、実変速比γcvtが最ロー側変速比γmaxとなっていないと「OFF」とされている。又、状態判定部106は、C1ガレージ係合作動の実行開始時点での実変速比γcvt又はC2ガレージ係合作動の実行開始時点での実変速比γcvt又はシンクロ係合作動の実行開始時点での実変速比γcvtの情報を取得する。
状態判定部106は、条件Aの[1]−[4]の各条件の何れもが成立したか否か、すなわち条件Aが成立したか否かを判定する。条件Aの[1]は、「C1ガレージ係合作動の実行中」という条件である。条件Aの[2]は、「エンジン回転速度Ne<map1(作動油温THoilによる引数)」という条件である。map1は、C1ガレージ係合作動の実行時における作動油温THoilに応じた所定回転速度Aを算出する為の予め定められたマップであり、C1ガレージ係合作動の実行時に消費される作動油の流量が多い程所定回転速度Aが高くされている。所定回転速度Aは、例えばC1ガレージ係合作動と無段変速作動とが重ねて実行されると作動油の流量が不足する可能性がある領域であることを判断する為の閾値であり、作動油温THoilが高い程高くされる。エンジン回転速度Neが所定回転速度Aよりも低いか否かを判定することは、C1ガレージ係合作動と無段変速作動とが重ねて実行されると作動油の流量が不足するか否かを判定することと同じである。条件Aの[3]は、「γmax判定=OFF」という条件である。γmax判定が「OFF」ということは、実変速比γcvtを目標変速比γcvttgtである最ロー側変速比γmaxとするベルト戻しの為の無段変速機構24のダウンシフトが要求されているということである。反対に、γmax判定が「ON」であれば、ベルト戻しの為のダウンシフトが実行されないということである。条件Aの[4]は、「C1ガレージ係合作動の実行開始時点での実変速比γcvt<所定変速比A」という条件である。この所定変速比Aは、例えばC1ガレージ係合作動と重ねて無段変速作動が実行されると無段変速作動にて消費される作動油の流量の多さが許容できない程に実変速比γcvtが最ロー側変速比γmaxに対してハイ側にあることを判断する為の予め定められた閾値である。γmax判定が「OFF」であっても実変速比γcvtが最ロー側変速比γmaxに近ければ無段変速作動の実行時に消費される作動油の流量が少ないので、ベルト戻しの為のダウンシフトを許可するという観点でこの条件Aの[4]が設けられている。
状態判定部106は、条件Bの[1]−[4]の各条件の何れもが成立したか否か、すなわち条件Bが成立したか否かを判定する。条件Bの[1]は、「C2ガレージ係合作動の実行中」という条件である。条件Bの[2]は、「エンジン回転速度Ne<map2(作動油温THoilによる引数)」という条件である。map2は、C2ガレージ係合作動の実行時における作動油温THoilに応じた所定回転速度Bを算出する為の予め定められたマップであり、C2ガレージ係合作動の実行時に消費される作動油の流量が多い程所定回転速度Bが高くされている。所定回転速度Bは、例えばC2ガレージ係合作動と無段変速作動とが重ねて実行されると作動油の流量が不足する可能性がある領域であることを判断する為の閾値であり、作動油温THoilが高い程高くされる。エンジン回転速度Neが所定回転速度Bよりも低いか否かを判定することは、C2ガレージ係合作動と無段変速作動とが重ねて実行されると作動油の流量が不足するか否かを判定することと同じである。条件Bの[3]は、「γmax判定=OFF」という条件である。条件Bの[4]は、「C2ガレージ係合作動の実行開始時点での実変速比γcvt<所定変速比B」という条件である。この所定変速比Bは、例えばC2ガレージ係合作動と重ねて無段変速作動が実行されると無段変速作動にて消費される作動油の流量の多さが許容できない程に実変速比γcvtが最ロー側変速比γmaxに対してハイ側にあることを判断する為の予め定められた閾値である。
状態判定部106は、条件Cの[1]−[4]の各条件の何れもが成立したか否か、すなわち条件Cが成立したか否かを判定する。条件Cの[1]は、「シンクロ係合作動の実行中」という条件である。条件Cの[2]は、「エンジン回転速度Ne<map3(作動油温THoilによる引数)」という条件である。map3は、シンクロ係合作動の実行時における作動油温THoilに応じた所定回転速度Cを算出する為の予め定められたマップであり、シンクロ係合作動の実行時に消費される作動油の流量が多い程所定回転速度Cが高くされている。所定回転速度Cは、例えばシンクロ係合作動と無段変速作動とが重ねて実行されると作動油の流量が不足する可能性がある領域であることを判断する為の閾値であり、作動油温THoilが高い程高くされる。エンジン回転速度Neが所定回転速度Cよりも低いか否かを判定することは、シンクロ係合作動と無段変速作動とが重ねて実行されると作動油の流量が不足するか否かを判定することと同じである。条件Cの[3]は、「γmax判定=OFF」という条件である。条件Cの[4]は、「シンクロ係合作動の実行開始時点での実変速比γcvt<所定変速比C」という条件である。この所定変速比Cは、例えばシンクロ係合作動と重ねて無段変速作動が実行されると無段変速作動にて消費される作動油の流量の多さが許容できない程に実変速比γcvtが最ロー側変速比γmaxに対してハイ側にあることを判断する為の予め定められた閾値である。
状態判定部106は、変速制御部104による変速比固定制御の実行中に、条件Dの[1]−[3]の各条件の何れもが成立したか否か、すなわち条件Dが成立したか否かを判定する。条件Dの[1]は、「C1ガレージ係合作動の実行中でない」という条件である。条件Dの[2]は、「C2ガレージ係合作動の実行中でない」という条件である。条件Dの[3]は、「シンクロ係合作動の実行中でない」という条件である。
変速制御部104は、状態判定部106により条件Aが成立したと判定されたか又は条件Bが成立したと判定されたか又は条件Cが成立したと判定された場合には、無段変速機構24の変速比γcvtを保持する変速比固定制御を開始する。変速制御部104は、変速比固定制御の実行中に、状態判定部106により条件Dが成立したと判定された場合には、変速比固定制御を終了する。ここでの変速比固定制御は、例えば目標変速比γcvttgtを、最ロー側変速比γmaxに替えて、状態判定部106による条件A成立時点又は条件B成立時点又は条件C成立時点の実変速比γcvtに設定し、その目標変速比γcvttgtにて無段変速機構24の変速比γcvtを保持する目標変速比固定制御である。
図3は、電子制御装置100の制御作動の要部すなわち作動油の流量が不足する場合に走行に影響を及ぼす不具合を低減する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば繰り返し実行される。
図3において、先ず、状態判定部106の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、C1/C2制御状態に関する情報としての、C1ガレージ係合作動の実行中であるか否かの情報及びC2ガレージ係合作動の実行中であるか否かの情報が取得される。次いで、状態判定部106の機能に対応するS20において、シンクロ制御状態に関する情報としての、シンクロ係合作動の実行中であるか否かの情報が取得される。次いで、状態判定部106の機能に対応するS30において、無段変速制御状態に関する情報としての、γmax判定のON/OFFの状態の情報、及び、C1ガレージ係合作動の実行開始時点での実変速比γcvt又はC2ガレージ係合作動の実行開始時点での実変速比γcvt又はシンクロ係合作動の実行開始時点での実変速比γcvtの情報が取得される。次いで、状態判定部106の機能に対応するS40において、条件Aの[1]−[4]の各条件の何れもが成立したか否かが判定される。このS40の判断が否定される場合は状態判定部106の機能に対応するS50において、条件Bの[1]−[4]の各条件の何れもが成立したか否かが判定される。このS50の判断が否定される場合は状態判定部106の機能に対応するS60において、条件Cの[1]−[4]の各条件の何れもが成立したか否かが判定される。このS60の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。上記S40の判断が肯定される場合は、又は、上記S50の判断が肯定される場合は、又は、上記S60の判断が肯定される場合は、変速制御部104の機能に対応するS70において、条件A成立時点又は条件B成立時点又は条件C成立時点の実変速比γcvtが目標変速比γcvttgtに設定され、その目標変速比γcvttgtにて無段変速機構24の変速比γcvtを保持する目標変速比固定制御が開始される。次いで、状態判定部106の機能に対応するS80において、条件Dの[1]−[3]の各条件の何れもが成立したか否かが判定される。このS80の判断が否定される場合は繰り返しこのS80が実行される。このS80の判断が肯定される場合は変速制御部104の機能に対応するS90において、目標変速比固定制御が終了させられる。
上述のように、本実施例によれば、C1ガレージ係合作動又はC2ガレージ係合作動又はシンクロ係合作動と、無段変速作動とが重ねて実行されると作動油の流量が不足する場合には、作動油の流量が不足しない場合と比べて、C1ガレージ係合作動の実行中又はC2ガレージ係合作動の実行中又はシンクロ係合作動の実行中に重ねて実行するときの無段変速作動における無段変速機構24の変速比γcvtの変化が抑制されるので、油圧制御回路46にて消費される作動油の流量が低減され、作動油の流量が不足することに伴う不具合の発生が抑制され得る。これにより、動力伝達経路PTが適切に形成されたり、ベルト滑りが防止され易くされる。よって、作動油の流量が不足する場合に、走行に影響を及ぼす不具合を低減することができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、作動油の流量が不足する場合に作動油の流量が不足しない場合と比べて係合作動の実行中に重ねて実行するときの無段変速作動における無段変速機構24の変速比γcvtの変化を抑制する制御として、変速比固定制御を例示したが、この態様に限らない。例えば、無段変速機構24の変速比γcvtの変化を抑制する制御は、無段変速機構24の変速比γcvtを変化させても無段変速作動にて消費される作動油の流量が許容できる程度に小さくされるような変速比γcvtの変化範囲内で変速比γcvtを変化させる無段変速作動であっても良い。
また、前述の実施例では、C1ガレージ係合作動又はC2ガレージ係合作動又はシンクロ係合作動と、無段変速作動とが重ねて実行される場合における無段変速作動として、目標変速比γcvttgtを最ロー側変速比γmaxに設定した、ベルト戻しの為のダウンシフトを例示したが、この態様に限らない。例えば、この場合における無段変速作動は、CVT変速マップ等を用いて算出した目標変速比γcvttgtへの変速であっても良い。このような無段変速作動であっても、本発明を適用することができる。
また、前述の実施例では、エンジン回転速度Neが作動油温THoilに応じた所定回転速度A,B,Cよりも低いか否かを判定することは、作動油の流量が不足するか否かを判定することと同じであるとしたが、この態様に限らない。例えば、エンジン回転速度Neが所定回転速度以下且つ作動油温THoilが所定油温以上であるか否かに基づいて作動油の流量が不足するか否かを判定しても良い。又は、単にエンジン回転速度Neが所定回転速度以下であるか否かに基づいて、又は、単に作動油温THoilが所定油温以上であるか否かに基づいて、作動油の流量が不足するか否かを判定しても良い。この所定回転速度及びこの所定油温は、各々、例えば2つ以上の作動が重ねて実行されると作動油の流量が不足する可能性がある領域であることを判断する為の予め定められた閾値である。
また、前述の実施例では、第2クラッチC2は、セカンダリプーリ64と出力軸30との間の動力伝達経路に設けられていたが、この態様に限らない。例えば、セカンダリ軸62が出力軸30と一体的に連結されると共に、プライマリ軸58は第2クラッチC2を介して入力軸22と連結されても良い。つまり、第2クラッチC2は、プライマリプーリ60と入力軸22との間の動力伝達経路に設けられていても良い。
また、前述の実施例では、ギヤ機構28は、無段変速機構24の最ロー側変速比γmaxよりもロー側の変速比となる1つのギヤ段が形成されるギヤ機構であったが、この態様に限らない。例えば、ギヤ機構28は、変速比が異なる複数のギヤ段が形成されるギヤ機構であっても良い。つまり、ギヤ機構28は2段以上に変速される有段変速機であっても良い。又は、ギヤ機構28は、無段変速機構24の最ハイ側変速比γminよりもハイ側の変速比、及び/又は、最ロー側変速比γmaxよりもロー側の変速比を形成するギヤ機構であっても良い。
また、前述の実施例では、動力伝達装置16の走行モードを、予め定められたアップシフト線及びダウンシフト線を用いて切り替えたが、この態様に限らない。例えば、車速V及びアクセル操作量θaccに基づいて要求駆動力Fdemを算出し、その要求駆動力Fdemを満たすことができる変速比を設定することで、動力伝達装置16の走行モードを切り替えても良い。
また、前述の実施例では、流体式伝動装置としてトルクコンバータ20が用いられたが、この態様に限らない。例えば、トルクコンバータ20に替えて、トルク増幅作用のないフルードカップリングなどの他の流体式伝動装置が用いられても良い。或いは、この流体式伝動装置は必ずしも設けられなくても良い。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。