本発明の実施形態において、前記無段変速機構は、プライマリプーリとセカンダリプーリとの間に伝達要素が巻き掛けられたベルト式の無段変速機である。入力側のプーリである前記プライマリプーリと出力側のプーリである前記セカンダリプーリとは、各々、例えば固定シーブと可動シーブとそれらの固定シーブ及び可動シーブの間の溝幅を変更する為の推力を付与する油圧アクチュエータとを有する。前記車両用動力伝達装置を備える車両は、前記油圧アクチュエータに供給される作動油圧としてのプーリ油圧をそれぞれ独立に制御する油圧制御回路を備える。この油圧制御回路は、例えば前記油圧アクチュエータへの作動油の流量を制御することにより結果的にプーリ油圧を生じるように構成されても良い。このような油圧制御回路により、前記プライマリプーリ及び前記セカンダリプーリにおける各推力(=プーリ油圧×受圧面積)が各々制御されることで、前記無段変速機構の前記伝達要素の滑りを防止しつつ目標の変速が実現されるように変速制御が実行される。前記プライマリプーリと前記セカンダリプーリとの間に巻き掛けられた前記伝達要素は、無端環状のフープと、そのフープに沿って厚さ方向に多数連ねられた厚肉板片状のブロックであるエレメントとを有する無端環状の圧縮式の伝動ベルト、又は、交互に重ねられたリンクプレートの端部が連結ピンによって相互に連結された無端環状のリンクチェーンを構成する引張式の伝動ベルトなどである。前記無段変速機構は、公知のベルト式の無段変速機である。広義には、このベルト式の無段変速機の概念にチェーン式の無段変速機を含む。
また、前記動力源は、例えば燃料の燃焼によって動力を発生するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等のエンジンである。又、前記車両は、前記動力源として、このエンジンに加えて、又は、このエンジンに替えて、電動機等を備えていても良い。
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、動力源として機能するエンジン12と、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた車両用動力伝達装置16とを備えている。以下、車両用動力伝達装置16を動力伝達装置16という。
動力伝達装置16は、非回転部材としてのケース18内において、エンジン12に連結された流体式伝動装置としての公知のトルクコンバータ20、トルクコンバータ20に連結された入力軸22、入力軸22に連結された無段変速機構24、同じく入力軸22に連結された前後進切替装置26、前後進切替装置26を介して入力軸22に連結されて無段変速機構24と並列に設けられたギヤ機構28、無段変速機構24及びギヤ機構28の共通の出力回転部材である出力軸30、カウンタ軸32、出力軸30及びカウンタ軸32に各々相対回転不能に設けられて噛み合う一対のギヤから成る減速歯車装置34、カウンタ軸32に相対回転不能に設けられたギヤ36、ギヤ36に連結されたデフギヤ38等を備えている。又、動力伝達装置16は、デフギヤ38に連結された左右の車軸40を備えている。入力軸22は、エンジン12の動力が伝達される入力回転部材である。出力軸30は、駆動輪14へエンジン12の動力を出力する出力回転部材である。前記動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。
このように構成された動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、トルクコンバータ20、前後進切替装置26、ギヤ機構28、減速歯車装置34、デフギヤ38、車軸40等を順次介して、左右の駆動輪14へ伝達される。又は、動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、トルクコンバータ20、無段変速機構24、減速歯車装置34、デフギヤ38、車軸40等を順次介して、左右の駆動輪14へ伝達される。
上述したように、動力伝達装置16は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路PTに並列に設けられた、ギヤ機構28及び無段変速機構24を備えている。具体的には、動力伝達装置16は、入力軸22と出力軸30との間の動力伝達経路PTに並列に設けられた、ギヤ機構28及び無段変速機構24を備えている。つまり、動力伝達装置16は、入力軸22と出力軸30との間に並列に設けられた、エンジン12の動力を入力軸22から出力軸30へ各々伝達することが可能な複数の動力伝達経路を備えている。複数の動力伝達経路は、ギヤ機構28を介した第1動力伝達経路PT1と、無段変速機構24を介した第2動力伝達経路PT2とを有している。すなわち、動力伝達装置16は、第1動力伝達経路PT1と第2動力伝達経路PT2との複数の動力伝達経路を、入力軸22と出力軸30との間に並列に備えている。第1動力伝達経路PT1は、エンジン12の動力を入力軸22からギヤ機構28を介して駆動輪14へ伝達する動力伝達経路である。第2動力伝達経路PT2は、エンジン12の動力を入力軸22から無段変速機構24を介して駆動輪14へ伝達する動力伝達経路である。
動力伝達装置16では、エンジン12の動力を駆動輪14へ伝達する動力伝達経路が、車両10の走行状態に応じて第1動力伝達経路PT1と第2動力伝達経路PT2とで切り替えられる。その為、動力伝達装置16は、第1動力伝達経路PT1と第2動力伝達経路PT2とを選択的に形成する複数の係合装置を備えている。複数の係合装置は、第1クラッチC1、第1ブレーキB1、及び第2クラッチC2を含んでいる。第1クラッチC1は、第1動力伝達経路PT1に設けられており、第1動力伝達経路PT1を選択的に接続したり、切断したりする係合装置であって、前進時に、係合されることで第1動力伝達経路PT1を形成する第1係合装置である。第1ブレーキB1は、第1動力伝達経路PT1に設けられており、第1動力伝達経路PT1を選択的に接続したり、切断したりする係合装置であって、後進時に、係合されることで第1動力伝達経路PT1を形成する係合装置である。第1動力伝達経路PT1は、第1クラッチC1又は第1ブレーキB1の係合によって形成される。第2クラッチC2は、第2動力伝達経路PT2に設けられており、第2動力伝達経路PT2を選択的に接続したり、切断したりする係合装置であって、係合されることで第2動力伝達経路PT2を形成する第2係合装置である。第2動力伝達経路PT2は、第2クラッチC2の係合によって形成される。第1クラッチC1、第1ブレーキB1、及び第2クラッチC2は、何れも油圧アクチュエータによって摩擦係合させられる公知の油圧式の湿式の摩擦係合装置である。第1クラッチC1及び第1ブレーキB1は、各々、後述するように、前後進切替装置26を構成する要素の1つである。
エンジン12は、電子スロットル装置や燃料噴射装置や点火装置などのエンジン12の出力制御に必要な種々の機器を有するエンジン制御装置42を備えている。エンジン12は、後述する電子制御装置90によって、運転者による車両10に対する駆動要求量に対応するアクセルペダルの操作量であるアクセル操作量θaccに応じてエンジン制御装置42が制御されることで、エンジントルクTeが制御される。
トルクコンバータ20は、エンジン12に連結されたポンプ翼車20p、及び入力軸22に連結されたタービン翼車20tを備えている。動力伝達装置16は、ポンプ翼車20pに連結された機械式のオイルポンプ44を備えている。オイルポンプ44は、エンジン12により回転駆動されることにより、無段変速機構24を変速制御したり、無段変速機構24におけるベルト挟圧力を発生させたり、前記複数の係合装置の各々の係合や解放などの作動状態を切り替えたりする為の作動油圧の元圧を、車両10に備えられた油圧制御回路46へ供給する。
前後進切替装置26は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置26p、第1クラッチC1、及び第1ブレーキB1を備えている。遊星歯車装置26pは、入力要素としてのキャリア26cと、出力要素としてのサンギヤ26sと、反力要素としてのリングギヤ26rとの3つの回転要素を有する差動機構である。キャリア26cは、入力軸22に連結されている。リングギヤ26rは、第1ブレーキB1を介してケース18に選択的に連結される。サンギヤ26sは、入力軸22回りにその入力軸22に対して同軸心に相対回転可能に設けられた小径ギヤ48に連結されている。キャリア26cとサンギヤ26sとは、第1クラッチC1を介して選択的に連結される。
ギヤ機構28は、小径ギヤ48と、ギヤ機構カウンタ軸50と、ギヤ機構カウンタ軸50回りにそのギヤ機構カウンタ軸50に対して同軸心に相対回転不能に設けられて小径ギヤ48と噛み合う大径ギヤ52とを備えている。大径ギヤ52は、小径ギヤ48よりも大径である。又、ギヤ機構28は、ギヤ機構カウンタ軸50回りにそのギヤ機構カウンタ軸50に対して同軸心に相対回転可能に設けられたアイドラギヤ54と、出力軸30回りにその出力軸30に対して同軸心に相対回転不能に設けられてアイドラギヤ54と噛み合う出力ギヤ56とを備えている。出力ギヤ56は、アイドラギヤ54よりも大径である。従って、ギヤ機構28は、入力軸22と出力軸30との間の動力伝達経路PTにおいて、1つのギヤ段が形成される。ギヤ機構28は、ギヤ段を有するギヤ機構である。ギヤ機構28は、更に、ギヤ機構カウンタ軸50回りに、大径ギヤ52とアイドラギヤ54との間に設けられて、これらの間の動力伝達経路を選択的に接続したり、切断したりする噛合式クラッチD1を備えている。噛合式クラッチD1は、第1動力伝達経路PT1を選択的に接続したり、切断したりする係合装置であって、係合されることで第1動力伝達経路PT1を形成する係合装置である。噛合式クラッチD1は、第1クラッチC1又は第1ブレーキB1と共に係合されることで第1動力伝達経路PT1を形成する係合装置であり、前記複数の係合装置に含まれる。噛合式クラッチD1は、動力伝達装置16に備えられた不図示の油圧アクチュエータの作動によって作動状態が切り替えられる。
第1動力伝達経路PT1は、噛合式クラッチD1と、噛合式クラッチD1よりも入力軸22側に設けられた、第1クラッチC1又は第1ブレーキB1とが共に係合されることで形成される。第1クラッチC1の係合により前進用の動力伝達経路が形成される一方で、第1ブレーキB1の係合により後進用の動力伝達経路が形成される。動力伝達装置16では、第1動力伝達経路PT1が形成されると、エンジン12の動力を入力軸22からギヤ機構28を経由して出力軸30へ伝達することができる動力伝達可能状態とされる。一方で、第1動力伝達経路PT1は、第1クラッチC1及び第1ブレーキB1が共に解放されると、又は、噛合式クラッチD1が解放されると、動力伝達が不能なニュートラル状態とされる。
無段変速機構24は、入力軸22と同軸心に設けられて入力軸22と一体的に連結されたプライマリ軸58と、プライマリ軸58に連結された有効径が可変のプライマリプーリ60と、出力軸30と同軸心に設けられたセカンダリ軸62と、セカンダリ軸62に連結された有効径が可変のセカンダリプーリ64と、それら各プーリ60,64の間に巻き掛けられた伝達要素としての伝動ベルト66とを備えている。無段変速機構24は、各プーリ60,64と伝動ベルト66との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる公知のベルト式の無段変速機であり、エンジン12の動力を駆動輪14側へ伝達する。前記摩擦力は、挟圧力も同意であり、ベルト挟圧力ともいう。このベルト挟圧力は、無段変速機構24における伝動ベルト66のトルク容量であるベルトトルク容量Tcvtである。
プライマリプーリ60は、プライマリ軸58に連結された固定シーブ60aと、固定シーブ60aに対してプライマリ軸58の軸心回りの相対回転不能且つ軸心方向の移動可能に設けられた可動シーブ60bと、可動シーブ60bに対してプライマリ推力Wpriを付与する油圧アクチュエータ60cとを備えている。プライマリ推力Wpriは、固定シーブ60aと可動シーブ60bとの間のV溝幅を変更する為のプライマリプーリ60の推力(=プライマリ圧Ppri×受圧面積)である。つまり、プライマリ推力Wpriは、油圧アクチュエータ60cによって付与される伝動ベルト66を挟圧するプライマリプーリ60の推力である。プライマリ圧Ppriは、油圧制御回路46によって油圧アクチュエータ60cへ供給される油圧であり、プライマリ推力Wpriを生じさせるプーリ油圧である。又、セカンダリプーリ64は、セカンダリ軸62に連結された固定シーブ64aと、固定シーブ64aに対してセカンダリ軸62の軸心回りの相対回転不能且つ軸心方向の移動可能に設けられた可動シーブ64bと、可動シーブ64bに対してセカンダリ推力Wsecを付与する油圧アクチュエータ64cとを備えている。セカンダリ推力Wsecは、固定シーブ64aと可動シーブ64bとの間のV溝幅を変更する為のセカンダリプーリ64の推力(=セカンダリ圧Psec×受圧面積)である。つまり、セカンダリ推力Wsecは、油圧アクチュエータ64cによって付与される伝動ベルト66を挟圧するセカンダリプーリ64の推力である。セカンダリ圧Psecは、油圧制御回路46によって油圧アクチュエータ64cへ供給される油圧であり、セカンダリ推力Wsecを生じさせるプーリ油圧である。
無段変速機構24では、後述する電子制御装置90により駆動される油圧制御回路46によってプライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecが各々調圧制御されることにより、プライマリ推力Wpri及びセカンダリ推力Wsecが各々制御される。これにより、無段変速機構24では、各プーリ60,64のV溝幅が変化して伝動ベルト66の掛かり径(=有効径)が変更され、変速比γcvt(=プライマリ回転速度Npri/セカンダリ回転速度Nsec)が変化させられると共に、伝動ベルト66が滑りを生じないようにベルト挟圧力が制御される。つまり、プライマリ推力Wpri及びセカンダリ推力Wsecが各々制御されることで、伝動ベルト66の滑りであるベルト滑りが防止されつつ無段変速機構24の変速比γcvtが目標変速比γcvttとされる。尚、プライマリ回転速度Npriはプライマリ軸58の回転速度であり、セカンダリ回転速度Nsecはセカンダリ軸62の回転速度である。
無段変速機構24では、プライマリ圧Ppriが高められると、プライマリプーリ60のV溝幅が狭くされて変速比γcvtが小さくされる。変速比γcvtが小さくされることは、無段変速機構24がアップシフトされることである。無段変速機構24では、プライマリプーリ60のV溝幅が最小とされるところで、最ハイ側変速比γminが形成される。この最ハイ側変速比γminは、無段変速機構24により形成できる変速比γcvtの範囲のうちの最も高車速側となる最高車速側の変速比γcvtであり、変速比γcvtが最も小さな値となる最小変速比である。一方で、無段変速機構24では、プライマリ圧Ppriが低められると、プライマリプーリ60のV溝幅が広くされて変速比γcvtが大きくされる。変速比γcvtが大きくされることは、無段変速機構24がダウンシフトされることである。無段変速機構24では、プライマリプーリ60のV溝幅が最大とされるところで、最ロー側変速比γmaxが形成される。この最ロー側変速比γmaxは、無段変速機構24により形成できる変速比γcvtの範囲のうちの最も低車速側となる最低車速側の変速比γcvtであり、変速比γcvtが最も大きな値となる最大変速比である。尚、無段変速機構24では、プライマリ推力Wpriとセカンダリ推力Wsecとによりベルト滑りが防止されつつ、プライマリ推力Wpriとセカンダリ推力Wsecとの相互関係にて目標変速比γcvttが実現されるものであり、一方の推力のみで目標の変速が実現されるものではない。プライマリ圧Ppriとセカンダリ圧Psecとの相互関係で、プライマリ推力Wpriとセカンダリ推力Wsecとの比である推力比τ(=Wsec/Wpri)が変更されることにより無段変速機構24の変速比γcvtが変更される。推力比τは、セカンダリ推力Wsecのプライマリ推力Wpriに対する比の値である。例えば、推力比τが大きくされる程、変速比γcvtが大きくされる、すなわち無段変速機構24はダウンシフトされる。
出力軸30は、セカンダリ軸62に対して同軸心に相対回転可能に配置されている。第2クラッチC2は、セカンダリプーリ64と出力軸30との間の動力伝達経路に設けられている。すなわち、第2クラッチC2は、第2動力伝達経路PT2において無段変速機構24よりも駆動輪14側に設けられている。第2動力伝達経路PT2は、第2クラッチC2が係合されることで形成される。動力伝達装置16では、第2動力伝達経路PT2が形成されると、エンジン12の動力を入力軸22から無段変速機構24を経由して出力軸30へ伝達することができる動力伝達可能状態とされる。一方で、第2動力伝達経路PT2は、第2クラッチC2が解放されると、ニュートラル状態とされる。無段変速機構24の変速比γcvtは、第2動力伝達経路PT2における変速比に相当する。
動力伝達装置16では、第1動力伝達経路PT1における変速比γgear(=入力軸回転速度Nin/出力軸回転速度Nout)であるギヤ機構28の変速比ELは、第2動力伝達経路PT2における最大変速比である無段変速機構24の最ロー側変速比γmaxよりも大きな値に設定されている。すなわち、変速比ELは、最ロー側変速比γmaxよりもロー側の変速比に設定されている。ギヤ機構28の変速比ELは、動力伝達装置16における第1速変速比γ1に相当し、無段変速機構24の最ロー側変速比γmaxは、動力伝達装置16における第2速変速比γ2に相当する。このように、第2動力伝達経路PT2は、第1動力伝達経路PT1よりもハイ側の変速比が形成される。尚、入力軸回転速度Ninは入力軸22の回転速度であり、出力軸回転速度Noutは出力軸30の回転速度である。
車両10では、ギヤ走行モードでの走行とベルト走行モードでの走行とを選択的に行うことが可能である。ギヤ走行モードは、第1動力伝達経路PT1を用いて走行する走行モードであって、動力伝達装置16において第1動力伝達経路PT1が形成された状態とする走行モードである。ベルト走行モードは、第2動力伝達経路PT2を用いて走行する走行モードであって、動力伝達装置16において第2動力伝達経路PT2が形成された状態とする走行モードである。ギヤ走行モードでは、前進走行を可能とする場合、第1クラッチC1及び噛合式クラッチD1が係合され且つ第2クラッチC2及び第1ブレーキB1が解放される。ギヤ走行モードでは、後進走行を可能とする場合、第1ブレーキB1及び噛合式クラッチD1が係合され且つ第2クラッチC2及び第1クラッチC1が解放される。ベルト走行モードでは、第2クラッチC2が係合され且つ第1クラッチC1及び第1ブレーキB1が解放される。このベルト走行モードでは前進走行が可能となる。
ギヤ走行モードは、車両停止中を含む比較的低車速領域において選択される。ベルト走行モードは、中車速領域を含む比較的高車速領域において選択される。ベルト走行モードのうちの中車速領域でのベルト走行モードでは噛合式クラッチD1が係合される一方で、ベルト走行モードのうちの高車速領域でのベルト走行モードでは噛合式クラッチD1が解放される。高車速領域でのベルト走行モードにて噛合式クラッチD1が解放されるのは、例えばベルト走行モードでの走行中のギヤ機構28等の引き摺りをなくすと共に、高車速においてギヤ機構28や遊星歯車装置26pの構成部材である例えばピニオン等が高回転化するのを防止する為である。
車両10は、動力伝達装置16の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置90を備えている。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置90は、エンジン12の出力制御、無段変速機構24の変速制御やベルト挟圧力制御、前記複数の係合装置(C1,B1,C2,D1)の各々の作動状態を切り替える油圧制御等を実行する。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用、油圧制御用等に分けて構成される。
電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサ等(例えば各種回転速度センサ70、72,74,76、アクセル操作量センサ78、スロットル開度センサ80、シフトポジションセンサ82など)による各種検出信号等(例えばエンジン回転速度Ne、入力軸回転速度Ninと同値となるプライマリ回転速度Npri、セカンダリ回転速度Nsec、車速Vに対応する出力軸回転速度Nout、運転者の加速操作の大きさを表すアクセル操作量θacc、スロットル開度tap、車両10に備えられたシフトレバー84の操作ポジションPOSshなど)が、それぞれ供給される。又、電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置42、油圧制御回路46など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、無段変速機構24の変速やベルト挟圧力等を制御する為の油圧制御指令信号Scvt、前記複数の係合装置の各々の作動状態を制御する為の油圧制御指令信号Scbdなど)が、それぞれ出力される。尚、入力軸回転速度Nin(=プライマリ回転速度Npri)はタービン回転速度でもあり、又、プライマリ回転速度Npriはプライマリプーリ60の回転速度でもあり、又、セカンダリ回転速度Nsecはセカンダリプーリ64の回転速度でもある。又、電子制御装置90は、プライマリ回転速度Npriとセカンダリ回転速度Nsecとに基づいて無段変速機構24の実際の変速比γcvtである実変速比γcvt(=Npri/Nsec)を算出する。又、油圧制御指令信号Scbdは、例えば第1クラッチC1、第2クラッチC2などの各係合装置の係合圧である、各々の油圧アクチュエータへ供給される各係合油圧を調圧する各ソレノイドバルブ等を駆動する為の指令信号である。電子制御装置90は、各係合装置の狙いのトルク容量を得る為の各係合油圧の値に対応する油圧指示値を設定し、その油圧指示値に応じた駆動電流又は駆動電圧を油圧制御回路46へ出力する。
シフトレバー84の操作ポジションPOSshは、例えばP,R,N,D操作ポジションである。P操作ポジションは、動力伝達装置16がニュートラル状態とされ且つ出力軸30が回転不能に機械的に固定された動力伝達装置16のPポジションを選択するパーキング操作ポジションである。動力伝達装置16のニュートラル状態は、例えば第1クラッチC1、第1ブレーキB1、及び第2クラッチC2が共に解放されることで実現される。つまり、動力伝達装置16のニュートラル状態は、第1動力伝達経路PT1及び第2動力伝達経路PT2が何れも形成されていない状態である。R操作ポジションは、ギヤ走行モードにて後進走行を可能とする動力伝達装置16のRポジションを選択する後進走行操作ポジションである。N操作ポジションは、動力伝達装置16がニュートラル状態とされた動力伝達装置16のNポジションを選択するニュートラル操作ポジションである。D操作ポジションは、ギヤ走行モードにて前進走行を可能とするか、又は、ベルト走行モードにて無段変速機構24の自動変速制御を実行して前進走行を可能とする動力伝達装置16のDポジションを選択する前進走行操作ポジションである。
電子制御装置90は、車両10における各種制御を実現する為に、エンジン制御手段すなわちエンジン制御部92、変速制御手段すなわち変速制御部94、及び状態判定手段すなわち状態判定部96を備えている。
エンジン制御部92は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である例えば駆動力マップにアクセル操作量θacc及び車速Vを適用することで要求駆動力Fdemを算出する。エンジン制御部92は、その要求駆動力Fdemが得られる目標エンジントルクTetを設定し、その目標エンジントルクTetが得られるようにエンジン12を制御するエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置42へ出力する。
変速制御部94は、車両停止中に、操作ポジションPOSshがP操作ポジション又はN操作ポジションである場合には、ギヤ走行モードへの移行に備えて、噛合式クラッチD1を係合する油圧制御指令信号Scbdを油圧制御回路46へ出力する。変速制御部94は、車両停止中に、操作ポジションPOSshがP操作ポジション又はN操作ポジションからD操作ポジションとされた場合、第1クラッチC1を係合する油圧制御指令信号Scbdを油圧制御回路46へ出力する。これにより、走行モードが前進走行を可能とするギヤ走行モードへ移行させられる。変速制御部94は、車両停止中に、操作ポジションPOSshがP操作ポジション又はN操作ポジションからR操作ポジションとされた場合、第1ブレーキB1を係合する油圧制御指令信号Scbdを油圧制御回路46へ出力する。これにより、走行モードが後進走行を可能とするギヤ走行モードへ移行させられる。
変速制御部94は、操作ポジションPOSshがD操作ポジションである場合、ギヤ走行モードとベルト走行モードとを切り替える切替制御を実行する。具体的には、変速制御部94は、ギヤ走行モードにおけるギヤ機構28の変速比ELに対応する第1速変速段と、ベルト走行モードにおける無段変速機構24の最ロー側変速比γmaxに対応する第2速変速段とを切り替える為の所定のヒステリシスを有した、予め定められた関係である有段変速マップとしてのアップシフト線及びダウンシフト線に、車速V及びアクセル操作量θaccを適用することで変速の要否を判断し、その判断結果に基づいて走行モードを切り替える。
変速制御部94は、ギヤ走行モードでの走行中にアップシフトを判断してベルト走行モードへ切り替える場合、第1クラッチC1を解放して第2クラッチC2を係合するようにクラッチを掴み替えるクラッチツゥクラッチ変速を行う油圧制御指令信号Scbdを油圧制御回路46へ出力する。これにより、動力伝達装置16における動力伝達経路PTは、第1動力伝達経路PT1から第2動力伝達経路PT2へ切り替えられる。このように、変速制御部94は、第1クラッチC1の解放と第2クラッチC2の係合とによる有段変速制御によって、第1動力伝達経路PT1が形成された状態であるギヤ走行モードから第2動力伝達経路PT2が形成された状態であるベルト走行モードへ切り替える動力伝達装置16のアップシフトを実行する。本実施例では、ギヤ走行モードからベルト走行モードへ切り替える動力伝達装置16のアップシフトを有段アップシフトと称する。
変速制御部94は、ベルト走行モードでの走行中にダウンシフトを判断してギヤ走行モードへ切り替える場合、第2クラッチC2を解放して第1クラッチC1を係合するようにクラッチを掴み替えるクラッチツゥクラッチ変速を行う油圧制御指令信号Scbdを油圧制御回路46へ出力する。これにより、動力伝達装置16における動力伝達経路PTは、第2動力伝達経路PT2から第1動力伝達経路PT1へ切り替えられる。このように、変速制御部94は、第2クラッチC2の解放と第1クラッチC1の係合とによる有段変速制御によって、第2動力伝達経路PT2が形成された状態であるベルト走行モードから第1動力伝達経路PT1が形成された状態であるギヤ走行モードへ切り替える動力伝達装置16のダウンシフトを実行する。本実施例では、ベルト走行モードからギヤ走行モードへ切り替える動力伝達装置16のダウンシフトを有段ダウンシフトと称する。
ギヤ走行モードとベルト走行モードとを切り替える切替制御では、噛合式クラッチD1が係合された中車速領域でのベルト走行モードの状態を経由することで、上記クラッチツゥクラッチ変速によるトルクの受け渡しを行うだけで第1動力伝達経路PT1と第2動力伝達経路PT2とが切り替えられるので、切替えショックが抑制される。このように、ギヤ走行モードとベルト走行モードとを切り替える切替制御は、第1クラッチC1の作動状態の切替えと第2クラッチC2の作動状態の切替えとによる有段変速制御である。
変速制御部94は、ベルト走行モードにおいては、無段変速機構24のベルト滑りが発生しないようにしつつ無段変速機構24の目標変速比γcvttを達成するように、プライマリ圧Ppriとセカンダリ圧Psecとを制御する油圧制御指令信号Scvtを油圧制御回路46へ出力して、無段変速機構24の変速を実行する。
具体的には、変速制御部94は、予め定められた関係である例えばCVT変速マップにアクセル操作量θacc及び車速Vを適用することで目標プライマリ回転速度Npritを算出する。変速制御部94は、目標プライマリ回転速度Npritに基づいて目標変速比γcvtt(=Nprit/Nsec)を算出する。変速制御部94は、予め定められた関係である例えばエンジントルクマップにスロットル開度tap及びエンジン回転速度Neを適用することでエンジントルクTeの推定値を算出する。変速制御部94は、エンジントルクTeの推定値と予め定められた関係である例えばトルクコンバータ20の特性とに基づいてタービントルクTtを算出する。変速制御部94は、プライマリプーリ60に入力される入力トルクであるプライマリ入力トルクTpriとして、タービントルクTtを用いる。プライマリ入力トルクTpriは、プライマリ軸58におけるトルクである。変速制御部94は、予め定められた関係である推力比マップに目標変速比γcvtt及びトルク比を適用することで、目標変速比γcvttを実現する為の推力比τを算出する。このトルク比は、上記算出されたプライマリ入力トルクTpriと、予め定められたプライマリプーリ60に入力可能な限界のトルクTprilimとの比(=Tpri/Tprilim)である。変速制御部94は、この推力比τを達成する為の目標プライマリ推力Wprit及び目標セカンダリ推力Wsectを算出する。一方の推力が決められれば、目標変速比γcvttを実現する為の推力比τに基づいて他方の推力も決められる。変速制御部94は、目標プライマリ推力Wprit及び目標セカンダリ推力Wsectを、目標プライマリ圧Pprit(=Wprit/受圧面積)及び目標セカンダリ圧Psect(=Wsect/受圧面積)に各々変換する。変速制御部94は、目標プライマリ圧Pprit及び目標セカンダリ圧Psectが得られるように、プライマリ圧Ppriとセカンダリ圧Psecとを制御する油圧制御指令信号Scvtを油圧制御回路46へ出力する。油圧制御回路46は、その油圧制御指令信号Scvtに従って、各ソレノイド弁を作動させてプライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecを調圧する。尚、上述した無段変速機構24の変速制御の説明では、便宜上、目標変速比γcvttを一定に維持する為の推力について述べた。無段変速機構24の変速過渡においては、目標のアップシフト或いは目標のダウンシフトを実現する為の推力がこの一定に維持する為の推力に加えられる。
目標プライマリ推力Wprit及び目標セカンダリ推力Wsectの算出では、必要最小限の推力で無段変速機構24のベルト滑りを防止する為に必要となる推力である必要推力が考慮される。この必要推力は、無段変速機構24のベルト滑りが発生する直前の推力である滑り限界推力である。
変速制御部94は、プライマリプーリ60の限界推力であるプライマリ限界推力Wprilimと、セカンダリプーリ64の限界推力であるセカンダリ限界推力Wseclimを設定する。変速制御部94は、次式(1)を用いてプライマリ限界推力Wprilimを設定する。変速制御部94は、次式(2)を用いてセカンダリ限界推力Wseclimを設定する。次式(1)及び次式(2)において、「α」は各プーリ60,64のシーブ角、「μ」はベルトエレメントとシーブとの間の摩擦係数、「Rpri」は無段変速機構24の変速比γcvtに基づいて算出されるプライマリプーリ60側のベルト掛かり径、「γcvt×Tpri」はセカンダリプーリ64に入力されるトルク、「Rsec」は無段変速機構24の変速比γcvtに基づいて算出されるセカンダリプーリ64側のベルト掛かり径をそれぞれ示している。
Wprilim=(Tpri×cosα)/(2×μ×Rpri) …(1)
Wseclim=(γcvt×Tpri×cosα)/(2×μ×Rsec) …(2)
変速制御部94は、プライマリ限界推力Wprilim及び目標変速比γcvttを実現する為の推力比τに基づいて、変速制御の為に必要なセカンダリプーリ64の推力であるセカンダリ変速制御推力Wsecsh(=τ×Wprilim)を算出する。変速制御部94は、セカンダリ限界推力Wseclim及びセカンダリ変速制御推力Wsecshのうちの大きい方を、目標セカンダリ推力Wsectとして設定する。変速制御部94は、目標セカンダリ推力Wsect及び目標変速比γcvttを実現する為の推力比τに基づいて、目標プライマリ推力Wprit(=Wsect/τ)を算出する。
ここで、動力伝達装置16の有段変速制御である有段アップシフトや有段ダウンシフトは、制御性を考慮すると、公知の有段変速機のように各々変速比が固定された2つのギヤ段間での有段変速制御と同様に、ギヤ機構28の変速比ELと予め定められた無段変速機構24の変速比γcvtとの間で変速を行うことが望ましい。本実施例では、動力伝達装置16の有段変速制御時のプライマリ回転速度Npriの変化量の抑制、又は、駆動力の連続性などを考慮して、上記予め定められた無段変速機構24の変速比γcvtを、ギヤ機構28の変速比ELに最も近い変速比γcvtとなる最ロー側変速比γmaxとする。プライマリ回転速度Npriの変化量の抑制は、例えば第2クラッチC2の係合時の発熱量を抑制することにつながる。
動力伝達装置16の有段ダウンシフトが駆動要求量例えばアクセル操作量θaccの増加に伴って判断されたパワーオンダウンシフトである場合には、ショックの抑制よりも加速応答性を優先する方が望ましい。その為、変速制御部94は、動力伝達装置16の有段ダウンシフトがパワーオンダウンシフトである場合には、無段変速機構24の変速比γcvtが最ロー側変速比γmaxとなっていない状態でも有段ダウンシフトを実行する。この際、変速制御部94は、動力伝達装置16の有段ダウンシフトと併せて、無段変速機構24の変速比γcvtを最ロー側変速比γmaxとするように制御する。つまり、変速制御部94は、動力伝達装置16の有段ダウンシフトを駆動要求量の増加に伴って実行するパワーオンダウンシフト時に、無段変速機構24の変速比γcvtが最ロー側変速比γmaxでない場合は、変速比γcvtを最ロー側変速比γmaxとする無段変速機構24のダウンシフトを重ねて行うラップダウン制御を実行する。このように、変速制御部94は、動力伝達装置16の有段ダウンシフトと、無段変速機構24の変速比γcvtを最ロー側変速比γmaxとする無段変速機構24のダウンシフトとを重ねて行うラップダウン制御を実行する。
動力伝達装置16の有段ダウンシフトがパワーオンダウンシフトである場合、仮に変速中に解放側係合装置及び係合側係合装置の何れにもトルク容量を発生させない状態とすると、入力軸回転速度Ninは成り行きでパワーオンダウンシフトの終了後の同期回転速度に向かって上昇させられる。従って、パワーオンダウンシフトでは、解放側係合装置の係合圧を低下させることを主体として変速を進行させる。解放側係合装置は、変速時に解放される側の係合装置であり、動力伝達装置16の有段ダウンシフトにおいては第2クラッチC2が相当する。係合側係合装置は、変速時に係合される側の係合装置であり、動力伝達装置16の有段ダウンシフトにおいては第1クラッチC1が相当する。パワーオンダウンシフトの終了後の同期回転速度は、ギヤ走行モードでの同期回転速度(=γ1×Nout)であり、パワーオンダウンシフトの開始前の同期回転速度は、ベルト走行モードでの同期回転速度(=γcvt×Nout)である。
ところで、ラップダウン制御を実行する場合の動力伝達装置16のパワーオンダウンシフト時は、無段変速機構24を介して第2クラッチC2へ入力されるトルク(=γcvt×Tpri)は最ロー側変速比γmaxのときとは異なる値とされる。
そこで、変速制御部94は、ラップダウン制御時には、動力伝達装置16のパワーオンダウンシフトを適切に進行させる為に、パワーオンダウンシフトの変速出力時における無段変速機構24の実変速比γcvtに基づいて、第2クラッチC2の係合圧を補正する。この第2クラッチC2の係合圧の補正は、主に、パワーオンダウンシフトの開始から、入力軸回転速度Ninがベルト走行モードでの同期回転速度を離れてギヤ走行モードでの同期回転速度へ向かって上昇開始するところまで行われる。つまり、パワーオンダウンシフトの前半における第2クラッチC2の係合圧を補正することで、狙いの時間以内に確実に第2クラッチC2が滑り出すようにする。
ラップダウン制御時のパワーオンダウンシフトの進行には、無段変速機構24の実変速比γcvtが変化する影響がある為、第2クラッチC2の係合圧でパワーオンダウンシフトの進行を制御することは好ましくない。第2クラッチC2の係合圧でパワーオンダウンシフトの進行を制御することに替えて、入力軸回転速度Ninがギヤ走行モードでの同期回転速度に近づいたところで、入力軸回転速度Ninの傾きに基づいて、パワーオンダウンシフトの後半における第2クラッチC2の係合圧を補正する。
具体的には、状態判定部96は、変速制御部94により動力伝達装置16のパワーオンダウンシフトが判断又は開始された場合には、無段変速機構24の変速比γcvtが所定変速比γcvtfよりもハイ側の変速比であるか否かを判定する。つまり、状態判定部96は、無段変速機構24の変速比γcvtが所定変速比γcvtf未満の値であるか否かを判定する。所定変速比γcvtfは、無段変速機構24の変速比γcvtが最ロー側変速比γmaxとなっていないことを判断する為の予め定められた閾値である。つまり、所定変速比γcvtfは、最ロー側変速比γmax相当の値である。
変速制御部94は、動力伝達装置16のパワーオンダウンシフトに際して、状態判定部96により無段変速機構24の変速比γcvtが所定変速比γcvtf以上の値であると判定された場合には、無段変速機構24の変速比γcvtを最ロー側変速比γmaxに維持しつつ、通常のパワーオンダウンシフト制御を実行する。通常のパワーオンダウンシフト制御は、例えば最ロー側変速比γmax時のパワーオンダウンシフト制御であって、プライマリ入力トルクTpriに応じた、予め定められた最ロー側変速比γmax時における第2クラッチC2の基本係合圧でパワーオンダウンシフトが進行させられる制御である。
変速制御部94は、動力伝達装置16のパワーオンダウンシフトに際して、状態判定部96により無段変速機構24の変速比γcvtが所定変速比γcvtf未満の値であると判定された場合には、無段変速機構24の変速比γcvtを最ロー側変速比γmaxとするダウンシフトを実行しつつ、ラップダウン用のパワーオンダウンシフト制御を実行する。ラップダウン用のパワーオンダウンシフト制御は、例えばパワーオンダウンシフトの開始時における無段変速機構24の実変速比γcvtに基づいて、最ロー側変速比γmax時における第2クラッチC2の基本係合圧に対して補正された第2クラッチC2の係合圧でパワーオンダウンシフトが実行させられる制御である。つまり、変速制御部94は、ラップダウン制御を実行する場合のパワーオンダウンシフト時には、パワーオンダウンシフトの開始時における無段変速機構24の実変速比γcvtに基づいて、パワーオンダウンシフトを進行させるように低下させられる第2クラッチC2の係合圧を、ラップダウン制御を実行しない場合での第2クラッチC2の基本係合圧に対して補正する。例えば、変速制御部94は、漸減開始前及び漸減時の第2クラッチC2の係合圧を、パワーオンダウンシフトの開始時における無段変速機構24の変速比γcvtがハイ側の変速比である程、第2クラッチC2の基本係合圧に対して小さくするように補正する。
加えて、ラップダウン用のパワーオンダウンシフト制御は、例えば入力軸回転速度Ninがギヤ走行モードでの同期回転速度に近づくときに、入力軸回転速度Ninの傾きに応じて補正された第2クラッチC2の係合圧でパワーオンダウンシフトが実行させられる制御である。入力軸回転速度Ninの傾きは、入力軸回転速度Ninの変化速度であり、所定時間で繰り返し実行される制御における入力軸回転速度Ninの変化量である。入力軸回転速度Ninの傾きに応じた補正は、例えばギヤ走行モードでの同期回転速度付近で、入力軸回転速度Ninの変化を引き留めるように作用させる為に、第2クラッチC2の係合圧を上乗せする補正すなわち増大させる補正である。入力軸回転速度Ninの変化を引き留めることは、入力軸回転速度Ninの傾きを小さくすることである。ギヤ走行モードでの同期回転速度付近での入力軸回転速度Ninの傾きが比較的大きいときは、第2クラッチC2の係合圧の上乗せ量が大きくされることで、入力軸回転速度Ninの変化を引き留めるように作用させられる。一方で、ギヤ走行モードでの同期回転速度付近での入力軸回転速度Ninの傾きが比較的小さいときは、第2クラッチC2の係合圧の上乗せ量が小さくされることで、入力軸回転速度Ninの変化を引き留める作用が小さくされる。以上により、適切な第1クラッチC1の係合制御が行え得る。つまり、変速制御部94は、ラップダウン制御を実行する場合のパワーオンダウンシフト時には、入力軸回転速度Ninがギヤ走行モードでの同期回転速度に近づくときに入力軸回転速度Ninの傾きが大きい場合は、その傾きが小さい場合よりも第2クラッチC2の係合圧を高くする。
図2は、電子制御装置90の制御作動の要部すなわちラップダウン制御を実行する場合のパワーオンダウンシフトを適切に進行させる為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えばパワーオンダウンシフトの開始時に実行される。図3は、図2のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
図2において、先ず、状態判定部96の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、無段変速機構24の変速比γcvtが所定変速比γcvtf未満の値であるか否かが判定される。このS10の判断が肯定される場合は変速制御部94の機能に対応するS20において、無段変速機構24の変速比γcvtを最ロー側変速比γmaxとするダウンシフトが実行されつつ、ラップダウン用のパワーオンダウンシフト制御が実行される。上記S10の判断が否定される場合は変速制御部94の機能に対応するS30において、無段変速機構24の変速比γcvtが最ロー側変速比γmaxに維持されつつ、通常のパワーオンダウンシフト制御である最ロー側変速比γmax時のパワーオンダウンシフト制御が実行される。
図3は、ラップダウン制御を伴う動力伝達装置16のパワーオンダウンシフトが実行される場合の実施態様の一例を示している。図3において、実線はラップダウン時のパワーオンダウンシフト制御を示している。参考として、通常のパワーオンダウンシフト制御における解放側係合装置の油圧指示値を破線で示した。パワーオンダウンシフトは動力伝達装置16の有段ダウンシフトであるので、解放側係合装置は第2クラッチC2であり、係合側係合装置は第1クラッチC1である。t1時点は、パワーオンダウンシフトが開始された時点を示している。ラップダウン制御によりベルト走行モードでの同期回転速度は最ロー側変速比γmax時の同期回転速度に向かって変化させられる(t1時点−t4時点参照)。入力軸回転速度Ninは、無段変速機構24のパワーオンダウンシフトにより、ベルト走行モードでの同期回転速度からギヤ走行モードでの同期回転速度に向かって上昇開始させられる(t1時点−t2時点参照)。このときのパワーオンダウンシフトの油圧制御では、漸減開始前すなわちスイープダウン開始前の第2クラッチC2の油圧指示値として、第2クラッチC2のベース圧である最ロー側変速比γmax時の基本係合圧におけるスイープダウン開始前の油圧指示値に変速比補正項が掛けられた値が用いられる。又、漸減時すなわちスイープダウン時の第2クラッチC2の油圧指示値として、スイープダウン時のスイープ勾配が第2クラッチC2のベース圧における漸減時のスイープ勾配に変速比補正項が掛けられた値とされた油圧指示値が用いられる。この変速比補正項は、例えば最ロー側変速比γmaxのときを「1」とした場合に、変速比γcvtがハイ側とされる程小さくなる値とされている。続くパワーオンダウンシフトの油圧制御では、上記のスイープダウンよりもスイープ勾配が緩やかなスイープダウンとなる第2クラッチC2の油圧指示値が出力され、入力軸回転速度Ninはギヤ走行モードでの同期回転速度に向かって上昇させられる(t2時点−t3時点参照)。入力軸回転速度Ninがギヤ走行モードでの同期回転速度に近づくと、第2クラッチC2の油圧指示値が入力軸回転速度Ninの変化量に応じた分だけ増大させられる(t3時点参照)。入力軸回転速度Ninの変化量が大きい程、第2クラッチC2の油圧指示値の上乗せ分が大きくされる。この第2クラッチC2の油圧指示値が所定時間保持された後、その油圧指示値がゼロに向かってスイープダウンさせられる(t3時点−t4時点参照)。これに併せて、第1クラッチC1の油圧指示値は、スイープアップさせられ、その後、第1クラッチC1を完全係合の状態に維持する為の最大値とされる。t4時点は、パワーオンダウンシフトが終了した時点を示している。
上述のように、本実施例によれば、ラップダウン制御を実行する場合のパワーオンダウンシフト時には、パワーオンダウンシフトの開始時における無段変速機構24の変速比γcvtに基づいて、第2クラッチC2の係合圧がラップダウン制御を実行しない場合での第2クラッチC2の基本係合圧に対して補正されるので、無段変速機構24を介して第2クラッチC2へ入力されるトルクが最ロー側変速比γmaxのときと異なっても、狙いのタイミングで第2クラッチC2の滑り出しが行われ得る。加えて、入力軸回転速度Ninがパワーオンダウンシフトの終了後の同期回転速度に近づくときに入力軸回転速度Ninの傾きが大きい場合は、その傾きが小さい場合よりも第2クラッチC2の係合圧が高くされるので、パワーオンダウンシフトの進行に無段変速機構24のダウンシフトの影響があったとしても、入力軸回転速度Ninの変化を安定させられる、すなわち安定したパワーオンダウンシフトを行うことができる。よって、ラップダウン制御を実行する場合のパワーオンダウンシフトを適切に進行させることができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、ラップダウン用のパワーオンダウンシフト制御において、ギヤ走行モードでの同期回転速度に近づくときの入力軸回転速度Ninの傾きに応じた、第2クラッチC2の係合圧の補正は、第2クラッチC2の係合圧を増大させる補正であったがこの態様に限らない。例えば、入力軸回転速度Ninの傾きに応じた、第2クラッチC2の係合圧の補正は、第2クラッチC2の係合圧を減少させる補正であっても良い。この場合には、ギヤ走行モードでの同期回転速度付近での入力軸回転速度Ninの傾きが大きい程、第2クラッチC2の係合圧の低下量が小さくされる。このようにしても、ギヤ走行モードでの同期回転速度付近における入力軸回転速度Ninの変化を引き留める作用を入力軸回転速度Ninの傾きに応じて変化させることができる。上述した第2クラッチC2の係合圧を減少させる補正であっても、入力軸回転速度Ninがパワーオンダウンシフトの終了後の同期回転速度に近づくときに入力軸回転速度Ninの傾きが大きい場合は、その傾きが小さい場合よりも第2クラッチC2の係合圧が高くされる。或いは、入力軸回転速度Ninの傾きに応じた、第2クラッチC2の係合圧の補正は、第2クラッチC2の係合圧を増大させる補正と第2クラッチC2の係合圧を減少させる補正とを組み合わせた補正であっても良い。
また、前述の実施例では、無段変速機構24は、ベルト式の無段変速機であったが、この態様に限らない。例えば、第2動力伝達経路PT2に設けられる無段変速機構は、公知のトロイダル式の無段変速機であっても良い。
また、前述の実施例では、ギヤ機構28は、無段変速機構24の最ロー側変速比γmaxよりもロー側の変速比となる1つのギヤ段が形成されるギヤ機構であったが、この態様に限らない。例えば、ギヤ機構28は、変速比が異なる複数のギヤ段が形成されるギヤ機構であっても良い。つまり、ギヤ機構28は2段以上に変速される有段変速機であっても良い。又は、ギヤ機構28は、無段変速機構24の最ハイ側変速比γminよりもハイ側の変速比、及び最ロー側変速比γmaxよりもロー側の変速比を形成するギヤ機構であっても良い。
また、前述の実施例では、動力伝達装置16の走行モードを、予め定められたアップシフト線及びダウンシフト線を用いて切り替えたが、この態様に限らない。例えば、車速V及びアクセル操作量θaccに基づいて要求駆動力Fdemを算出し、その要求駆動力Fdemを満たすことができる変速比を設定することで、動力伝達装置16の走行モードを切り替えても良い。
また、前述の実施例では、流体式伝動装置としてトルクコンバータ20が用いられたが、この態様に限らない。例えば、トルクコンバータ20に替えて、トルク増幅作用のないフルードカップリングなどの他の流体式伝動装置が用いられても良い。或いは、この流体式伝動装置は必ずしも設けられなくても良い。又、ギヤ機構28を介した第1動力伝達経路PT1には、噛合式クラッチD1が設けられていたが、この噛合式クラッチD1は本発明を実施する上では、必ずしも設けられなくても良い。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。