以下に、添付図面を参照して、本発明に係る燃料噴射装置の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本実施形態により、本発明が限定されるものではない。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。また、各図面において、同一構成部分には同一符号が付されている。
(実施形態1)
まず、本発明の実施形態1に係る燃料噴射装置が適用された舶用ディーゼルエンジンの構成について説明する。図1は、本発明の実施形態1に係る燃料噴射装置が適用された舶用ディーゼルエンジンの一構成例を示す模式図である。この舶用ディーゼルエンジン10は、プロペラ軸を介して船舶の推進用プロペラ(いずれも図示せず)を回転運動させる推進用の機関(主機関)である。例えば、舶用ディーゼルエンジン10は、ユニフロー掃排気式のクロスヘッド式ディーゼルエンジン等の2ストロークディーゼルエンジンである。
図1に示すように、舶用ディーゼルエンジン10は、下方に位置する台板1と、台板1上に設けられる架構5と、架構5上に設けられるシリンダジャケット11とを備える。これらの台板1と架構5とシリンダジャケット11とは、上下方向に延在する複数のタイボルト(連結部材)21およびナット22により、一体に締結されて固定されている。また、舶用ディーゼルエンジン10は、シリンダジャケット11に設けられるシリンダ12と、シリンダ12内に設けられるピストン15と、ピストン15の往復運動に連動して回転する出力軸(例えばクランクシャフト2)とを備える。
台板1は、舶用ディーゼルエンジン10のクランクケースを構成するものである。図1に示すように、台板1内には、クランク4を有するクランクシャフト2と軸受3とが設けられる。クランクシャフト2は、船舶の推進力を出力する出力軸の一例であり、軸受3によって回転自在に支持されている。このクランクシャフト2には、クランク4を介して連接棒6の下端部が回動自在に連結されている。
架構5には、図1に示すように、連接棒6と、ガイド板7と、クロスヘッド8とが設けられる。架構5は、ピストン軸方向に沿って設けられるガイド板7が幅方向に間隔を空けて一対をなすように配置されている。連接棒6は、その下端部がクランクシャフト2に連接された態様で、一対のガイド板7の間に配置されている。クロスヘッド8には、ピストン棒16の下端部に接続されるクロスヘッドピン9と、連接棒6の上端部に接続されるクロスヘッド軸受(図示せず)とが、クロスヘッドピン9の下半部においてそれぞれ回動自在に連結される。このクロスヘッド8は、図1に示すように一対のガイド板7の間に配置され、この一対のガイド板7に沿って移動自在に支持されている。
シリンダジャケット11は、図1に示すように、架構5の上部に設けられ、シリンダ12を支持する。シリンダ12は、シリンダライナ13とシリンダカバー14とによって構成される筒状の構造体(気筒)であり、燃料を燃焼させるための燃焼室17を有する。シリンダライナ13は、例えば円筒形状の構造体であり、シリンダジャケット11内に配置される。シリンダライナ13の上部にはシリンダカバー14が固定され、これにより、シリンダライナ13内の空間部(燃焼室17等)が区画される。このシリンダライナ13の空間部内には、ピストン15がピストン軸方向(図1では上下方向)に往復運動自在に設けられる。このピストン15の下端部には、図1に示すように、ピストン棒16の上端部が連結されている。
また、シリンダカバー14には、図1に示すように、排気弁18と動弁装置19とが設けられている。排気弁18は、シリンダ12内の燃焼室17に通じる排気管20の排気口(排気ポート)を開閉可能に閉止する弁である。動弁装置19は、排気弁18を開閉駆動させる装置である。燃焼室17は、このような排気弁18と、上述したシリンダライナ13、シリンダカバー14およびピストン15とによって囲まれた空間である。
また、図1に示すように、舶用ディーゼルエンジン10は、燃料噴射弁30と、燃料噴射ポンプ41と、第1注水ポンプ51と、第2注水ポンプ61とを備える。燃料噴射弁30は、燃焼室17内に噴射口を向ける態様でシリンダ12(例えばシリンダカバー14)に設けられる。燃料噴射ポンプ41、第1注水ポンプ51および第2注水ポンプ61は、図1に示すように、シリンダ12の近傍に設けられる。図1には図示しないが、燃料噴射ポンプ41、第1注水ポンプ51および第2注水ポンプ61は、各々、配管等を介して燃料噴射弁30と連通可能に接続されている。燃料噴射ポンプ41は、配管等による流通経路を通じて燃料噴射弁30に燃料を適宜圧送する。第1注水ポンプ51および第2注水ポンプ61は、各々、燃料噴射ポンプ41によって圧送される燃料の流通経路内に蒸留水等の水を適宜注入する。例えば、第1注水ポンプ51による注水位置は、第2注水ポンプ61による注水位置よりも燃料の流通経路の下流側である。燃料噴射弁30は、燃料噴射ポンプ41によって圧送された燃料と、第1注水ポンプ51によって注入された水と、第2注水ポンプ61によって注入された水とを、燃料噴射ポンプ41の圧送作用により、燃焼室17へ交互に噴射(すなわち層状に噴射)する。
上述したような構成を有する舶用ディーゼルエンジン10において、シリンダ12内の燃焼室17には、燃料噴射弁30から燃料および水が供給され、且つ、圧縮空気等の燃焼用ガスが掃気ポート等(図示せず)を通じて供給される。燃焼室17内においては、供給された燃料が燃焼用ガスによって燃焼するとともに、供給された水によって燃料の燃焼温度が低下してNOxの排出量が低減される。そして、燃焼室17での燃料の燃焼によって発生したエネルギーにより、ピストン15は、シリンダ12内をピストン軸方向に往復運動する。このとき、動弁装置19によって排気弁18が作動してシリンダ12が開放されると、燃料の燃焼によって生じた排ガスが排気管20に押し出される。一方、シリンダ12には、掃気ポートから新たに燃焼用ガスが導入される。
また、ピストン15が上述したようにピストン軸方向に往復運動すると、ピストン15とともにピストン棒16がピストン軸方向に往復運動する。これに伴い、クロスヘッド8は、ガイド板7に沿ってピストン軸方向に往復運動する。これにより、クロスヘッド8のクロスヘッドピン9は、クロスヘッド軸受を介して連接棒6に回転駆動力を加える。この回転駆動力により、連接棒6の下端部に接続されるクランク4がクランク運動(回転運動)し、この結果、クランクシャフト2が回転する。クランクシャフト2は、このようにピストン15の往復運動を回転運動に変換してプロペラ軸とともに船舶の推進用プロペラを回転させ、これにより、船舶の推進力を出力する。
つぎに、本発明の実施形態1に係る燃料噴射装置の構成について説明する。図2は、本発明の実施形態1に係る燃料噴射装置の一構成例を示す模式図である。図2に示すように、この燃料噴射装置100は、複数(本実施形態1では3つ)の燃料噴射弁30と、燃料圧送系統40と、下流側注水系統50と、上流側注水系統60とを備える。また、燃料噴射装置100は、水供給ポンプ71と、給水管72と、逆止弁73a、73bと、蓄圧部81と、高圧ポンプ82と、検出部91と、制御部92とを備える。なお、図2において、実線矢印は燃料や水等の流体の流通を示し、破線矢印は電気信号線を示す。
複数の燃料噴射弁30は、舶用ディーゼルエンジン10のシリンダ12内の燃焼室17(図1参照)に燃料および水を層状に噴射するための噴射弁である。これら複数の燃料噴射弁30は、舶用ディーゼルエンジン10の複数(図1では1つのみ図示されている)のシリンダ12に各々設けられる。以下では、これら複数の燃料噴射弁30のうちの1つを例示して燃料噴射弁30の構成等を説明する。なお、これら複数の燃料噴射弁30は、各々同様に構成されている。
図2に示すように、燃料噴射弁30は、配管等を介して燃料圧送系統40の燃料噴射ポンプ41と連通可能に接続されている。燃料噴射弁30は、配管等を介して下流側注水系統50および上流側注水系統60と連通可能に接続されている。燃料噴射弁30は、燃料噴射ポンプ41によって圧送された燃料と、下流側注水系統50によって注入された水と、上流側注水系統60によって注入された水とを噴射口31からシリンダ12内の燃焼室17へ層状に噴射する。
詳細には、図2に示すように、燃料噴射弁30は、噴射口31と、この噴射口31に通じる内部流通経路32、33と、逆止弁34a、34bとを有する。一方の内部流通経路32は、噴射対象の燃料および水を流通させるための流通経路である。この内部流通経路32は、一端部が燃料噴射弁30の噴射口31に接続され且つ他端部が燃料噴射管42(例えばその分岐管42a)に接続されている。また、この内部流通経路32の上流側の位置(本実施形態1では第1注水位置P1よりも上流側の第2注水位置P2)には、逆止弁34aを介して上流側注水系統60の配管(例えば上流側注水管62の分岐管62a)が接続されている。他方の内部流通経路33は、上記内部流通経路32に注入される水を流通させるための流通経路である。この内部流通経路33は、一端部が上記内部流通経路32の噴射口31近傍の位置(本実施形態1では第1注水位置P1)に接続され且つ他端部が下流側注水系統50の配管(例えば下流側注水管52の分岐管52a)に接続されている。
逆止弁34aは、上流側注水系統60から燃料噴射弁30の内部流通経路32に向かう水の流通を可能とし、この逆流を防止する。逆止弁34bは、内部流通経路33の中途部に設けられる。逆止弁34bは、下流側注水系統50から燃料噴射弁30の内部流通経路33を通じて内部流通経路32に向かう水の流通を可能とし、この逆流を防止する。
燃料圧送系統40は、燃料噴射弁30に燃料を圧送するための設備である。図2に示すように、燃料圧送系統40は、燃料噴射ポンプ41と、燃料噴射管42と、制御弁45とを備える。
燃料噴射ポンプ41は、作動油の圧力を利用して燃料の圧送を行う油圧駆動式のポンプである。詳細には、燃料噴射ポンプ41は、配管等を通じて燃料タンク(図示せず)から燃料を受け入れる。燃料噴射ポンプ41は、この受け入れた燃料を、燃料噴射管42を通じて燃料噴射弁30に圧送する。また、燃料噴射ポンプ41の圧送作用は、噴射口31からシリンダ12内の燃焼室17に対する燃料および水の層状噴射を燃料噴射弁30に行わせる。
燃料噴射管42は、燃料噴射ポンプ41と燃料噴射弁30との間で燃料を流通させるための配管である。例えば、図2に示すように、燃料噴射管42の一端部は、燃料噴射ポンプ41の吐出口に接続されている。また、燃料噴射管42の中途部には、分岐部43が設けられている。燃料噴射管42は、この分岐部43から他端部に向かって複数の分岐管(本実施形態1では3つの分岐管42a、42b、42c)に分岐している。例えば、燃料噴射管42の分岐管42a、42b、42cのうち、分岐管42aは、図2に示すように1つの燃料噴射弁30の内部流通経路32に接続されている。燃料噴射管42は、分岐管42aを介して、この燃料噴射弁30と燃料噴射ポンプ41とを連通させる。これと同様に、残りの分岐管42b、42cは、他の各燃料噴射弁30に各々接続されている。
制御弁45は、蓄圧部81から燃料噴射ポンプ41への作動油の供給を制御するための弁である。具体的には、制御弁45は、電磁弁等の電動式の開閉弁によって構成され、図示しないが、制御弁45によって駆動されるロジック弁の開閉によって、図2に示すように、燃料噴射ポンプ41と蓄圧部81とを連通可能に設けられる。制御弁45は、燃料の噴射タイミングに開状態となって、蓄圧部81内の作動油を燃料噴射ポンプ41に供給する。燃料噴射ポンプ41は、この供給された作動油の圧力を利用して、燃料噴射弁30へ燃料を圧送する。一方、制御弁45は、燃料の噴射タイミング以外の期間、閉状態となって、蓄圧部81から燃料噴射ポンプ41への作動油の供給を停止する。このような制御弁45の開閉駆動のタイミングは、制御部92によって制御される。
下流側注水系統50は、本実施形態1における燃料流通経路の第1注水位置P1に水を注入する第1の注水系統の一例である。図2に示すように、下流側注水系統50は、第1注水ポンプ51と、下流側注水管52と、逆止弁54と、制御弁55とを備える。
第1注水ポンプ51は、作動油の圧力を利用して注水を行う油圧駆動式のポンプである。詳細には、第1注水ポンプ51は、給水管72等を通じて水供給ポンプ71から水を受け入れる。第1注水ポンプ51は、この受け入れた水を、下流側注水管52および燃料噴射弁30の内部流通経路33を通じて、燃料噴射弁30の内部流通経路32に圧送する。これにより、第1注水ポンプ51は、本実施形態1における燃料流通経路の第1注水位置P1に水を注入する。
下流側注水管52は、第1注水ポンプ51によって燃料流通経路の第1注水位置P1に注入される水を流通させるための配管である。例えば、図2に示すように、下流側注水管52の一端部は、第1注水ポンプ51の吐出口に接続されている。また、下流側注水管52の中途部には、分岐部53が設けられている。下流側注水管52は、この分岐部53から他端部に向かって複数の分岐管(本実施形態1では3つの分岐管52a、52b、52c)に分岐している。例えば、下流側注水管52の分岐管52a、52b、52cのうち、分岐管52aは、図2に示すように1つの燃料噴射弁30の内部流通経路33に接続されている。下流側注水管52は、分岐管52aを介して、この燃料噴射弁30の内部流通経路33と第1注水ポンプ51とを連通させる。これと同様に、残りの分岐管52b、52cは、他の各燃料噴射弁30に各々接続されている。
逆止弁54は、下流側注水管52内での水の流通方向を一方向に規制して水の逆流を防止するための弁である。図2に示すように、逆止弁54は、下流側注水管52の中途部(例えば第1注水ポンプ51と分岐部53との間の部位)に設けられる。逆止弁54は、第1注水ポンプ51側から燃料流通経路側(本実施形態1では燃料噴射弁30の内部流通経路32、33側)に向かう水の流通を可能とし、この逆流を防止する。
制御弁55は、蓄圧部81から第1注水ポンプ51への作動油の供給を制御するための弁である。具体的には、制御弁55は、電磁弁等の電動式の開閉弁によって構成され、図2に示すように、第1注水ポンプ51と蓄圧部81とを連通可能に設けられる。制御弁55は、第1注水ポンプ51からの水を燃料流通経路に注入する期間(以下、下流側注水系統50の注水期間と適宜いう)に開状態となって、蓄圧部81内の作動油を第1注水ポンプ51に供給する。第1注水ポンプ51は、この供給された作動油の圧力を利用して、燃料流通経路の第1注水位置P1に水を圧送して注入する。一方、制御弁55は、下流側注水系統50の注水期間以外の期間、閉状態となって、蓄圧部81から第1注水ポンプ51への作動油の供給を停止する。このような制御弁55の開閉駆動のタイミングは、制御部92によって制御される。
上流側注水系統60は、本実施形態1における燃料流通経路の第2注水位置P2に水を注入する第2の注水系統の一例である。図2に示すように、上流側注水系統60は、第2注水ポンプ61と、上流側注水管62と、逆止弁64と、制御弁65とを備える。
第2注水ポンプ61は、作動油の圧力を利用して注水を行う油圧駆動式のポンプである。詳細には、第2注水ポンプ61は、給水管72等を通じて水供給ポンプ71から水を受け入れる。第2注水ポンプ61は、この受け入れた水を、上流側注水管62を通じて燃料噴射弁30の内部流通経路32に圧送する。これにより、第2注水ポンプ61は、本実施形態1における燃料流通経路の第2注水位置P2に水を注入する。
上流側注水管62は、第2注水ポンプ61によって燃料流通経路の第2注水位置P2に注入される水を流通させるための配管である。例えば、図2に示すように、上流側注水管62の一端部は、第2注水ポンプ61の吐出口に接続されている。また、上流側注水管62の中途部には、分岐部63が設けられている。上流側注水管62は、この分岐部63から他端部に向かって複数の分岐管(本実施形態1では3つの分岐管62a、62b、62c)に分岐している。例えば、上流側注水管62の分岐管62a、62b、62cのうち、分岐管62aは、図2に示すように逆止弁34aを介して1つの燃料噴射弁30の内部流通経路32に接続されている。上流側注水管62は、分岐管62aを介して、この燃料噴射弁30の内部流通経路32と第2注水ポンプ61とを連通させる。これと同様に、残りの分岐管62b、62cは、他の各燃料噴射弁30に各々接続されている。
逆止弁64は、上流側注水管62内での水の流通方向を一方向に規制して水の逆流を防止するための弁である。図2に示すように、逆止弁64は、上流側注水管62の中途部(例えば第2注水ポンプ61と分岐部63との間の部位)に設けられる。逆止弁64は、第2注水ポンプ61側から燃料流通経路側(本実施形態1では燃料噴射弁30の内部流通経路32側)に向かう水の流通を可能とし、この逆流を防止する。
制御弁65は、蓄圧部81から第2注水ポンプ61への作動油の供給を制御するための弁である。具体的には、制御弁65は、電磁弁等の電動式の開閉弁によって構成され、図2に示すように、第2注水ポンプ61と蓄圧部81とを連通可能に設けられる。制御弁65は、第2注水ポンプ61からの水を燃料流通経路に注入する期間(以下、上流側注水系統60の注水期間と適宜いう)に開状態となって、蓄圧部81内の作動油を第2注水ポンプ61に供給する。第2注水ポンプ61は、この供給された作動油の圧力を利用して、燃料流通経路の第2注水位置P2に水を圧送して注入する。一方、制御弁65は、上流側注水系統60の注水期間以外の期間、閉状態となって、蓄圧部81から第2注水ポンプ61への作動油の供給を停止する。このような制御弁65の開閉駆動のタイミングは、制御部92によって制御される。
ここで、本実施形態1における燃料流通経路は、燃料噴射ポンプ41から燃料噴射弁30の噴射口31に至る燃料の流通経路である。例えば、この燃料流通経路は、分岐管42a〜42c等を含む燃料噴射管42と、燃料噴射弁30の内部流通経路32とによって形成される。第1注水位置P1は、この燃料流通経路における所定の位置である。本実施形態1において、第1注水位置P1は、例えば図2に示すように、燃料噴射弁30の内部流通経路32のうち噴射口31近傍の位置、すなわち、燃料流通経路における燃料の流通方向最下流に存在する所定量の燃料(後述の図3に示す第1燃料層F1の燃料)の直近上流の位置である。第2注水位置P2は、この燃料流通経路のうち、下流側注水系統50よりも燃料の流通方向上流側の位置である。本実施形態1において、第2注水位置P2は、例えば図2に示すように、燃料噴射弁30の内部流通経路32のうち燃料噴射ポンプ41側の位置、すなわち、第1注水位置P1よりも燃料の流通方向上流側の位置である。なお、本実施形態1において、燃料の流通方向は、燃料噴射ポンプ41から燃料噴射管42等を通じて燃料噴射弁30の噴射口31に向かう方向である。
水供給ポンプ71は、上述した燃料流通経路に注入される水を第1注水ポンプ51および第2注水ポンプ61に供給するためのポンプである。図2に示すように、水供給ポンプ71は、給水管72等を介して第1注水ポンプ51および第2注水ポンプ61と連通可能に接続される。給水管72の一端部は、水供給ポンプ71に接続されている。また、給水管72は、中途部で分岐管72a、72bに分岐している。給水管72の一方の分岐管72aは、逆止弁73aを介して第1注水ポンプ51に接続されている。給水管72の他方の分岐管72bは、逆止弁73bを介して第2注水ポンプ61に接続されている。水供給ポンプ71は、給水タンク(図示せず)に貯留されている水を、給水管72の分岐管72a等を通じて第1注水ポンプ51に供給するとともに、給水管72の分岐管72b等を通じて第2注水ポンプ61に供給する。逆止弁73aは、水供給ポンプ71側から第1注水ポンプ51側に向かう水の流通を可能とし、この逆流を防止する。逆止弁73bは、水供給ポンプ71側から第2注水ポンプ61側に向かう水の流通を可能とし、この逆流を防止する。
蓄圧部81は、燃料圧送系統40、下流側注水系統50および上流側注水系統60を各々作動させる作動油の圧力を蓄積するものである。蓄圧部81は、作動油を貯蔵可能な蓄圧室を内部に形成する中空の構造体であり、図2に示すように、配管等を介して高圧ポンプ82と連通可能に接続される。蓄圧部81は、高圧ポンプ82から吐出(圧送)された作動油を内部の蓄圧室に貯留し、これにより、作動油の圧力を蓄積する。このように蓄圧部81に蓄積される作動油の圧力は、高圧ポンプ82から蓄圧部81への作動油の吐出量によって調整される。蓄圧部81に蓄積された作動油の圧力は、燃料圧送系統40の燃料噴射ポンプ41の作動と、下流側注水系統50の第1注水ポンプ51の作動と、上流側注水系統60の第2注水ポンプ61の作動とに共用される。
検出部91は、舶用ディーゼルエンジン10(図1参照)のクランク角度を検出するものである。本実施形態1において、検出部91は、シリンダ12内でのピストン15の1サイクルの往復運動に伴って回転運動するクランク4の回転角度(すなわちクランク角度)を検出する。この際、検出部91は、クランク4の基準状態からの回転角度をクランク角度として検出する。なお、クランク4の基準状態としては、例えば、ピストン15が下死点または上死点に位置する際のクランク4の状態等が挙げられる。検出部91は、時間の経過に伴ってクランク角度を検出し、その都度、検出したクランク角度を示す電気信号を制御部92に送信する。
制御部92は、燃料および水の層状噴射タイミングと、下流側注水系統50の注水タイミングと、上流側注水系統60の注水タイミングとを制御する。本実施形態1において、燃料および水の層状噴射タイミングは、舶用ディーゼルエンジン10のシリンダ12内の燃焼室17(図1参照)へ燃料噴射弁30から燃料および水を層状に噴射するタイミングを意味する。下流側注水系統50の注水タイミングは、第1注水ポンプ51によって燃料流通経路の第1注水位置P1に注水を開始する注水開始タイミングと、この第1注水位置P1への注水を終了する注水終了タイミングとを意味する。上流側注水系統60の注水タイミングは、第2注水ポンプ61によって燃料流通経路の第2注水位置P2に注水を開始する注水開始タイミングと、この第2注水位置P2への注水を終了する注水終了タイミングとを意味する。
具体的には、制御部92は、各種プログラムを実行するためのCPU、メモリおよびシーケンサ等によって構成される。制御部92は、検出部91から電気信号を受信し、受信した電気信号に示されるクランク角度が所定の回転角度となるタイミングに開状態となるように、燃料圧送系統40の制御弁45の開閉駆動を制御する。制御部92は、この制御弁45の開閉駆動の制御を通して、燃料噴射ポンプ41の作動タイミングを制御する。これにより、制御部92は、燃料噴射弁30から燃焼室17への燃料および水の層状噴射タイミングを制御する。
この層状噴射タイミングでは、燃料噴射ポンプ41によって燃料流通経路に圧送された燃料のうちエンジン負荷に応じた必要量の燃料と、第1注水ポンプ51によって燃料流通経路の第1注水位置P1に注入された水と、第2注水ポンプ61によって燃料流通経路の第2注水位置P2に注入された水とが、燃料噴射ポンプ41の圧送作用によって燃料噴射弁30から燃焼室17へ層状に噴射される。その後、この燃料流通経路(本実施形態1では燃料噴射管42および燃料噴射弁30の内部流通経路32によって構成される燃料流通経路)は、噴射されずに残った燃料で満たされた状態となる。
また、制御部92は、上述した燃料および水の層状噴射タイミング以外の期間において、燃料で満たされた状態にある燃料流通経路の第1注水位置P1および第2注水位置P2に水を各々注入するように、下流側注水系統50の注水タイミングおよび上流側注水系統60の注水タイミングを制御する。この際、制御部92は、下流側注水系統50の注水期間と上流側注水系統60の注水期間との少なくとも一部が重なるように、舶用ディーゼルエンジン10のエンジン負荷に応じて、下流側注水系統50の第1注水ポンプ51による注水開始タイミングと上流側注水系統60の第2注水ポンプ61による注水開始タイミングと制御する。
本実施形態1では、燃料で満たされた状態にある燃料流通経路の第1注水位置P1および第2注水位置P2に水を各々注入することにより、これらの燃料および水の各層からなる層状液体が燃料流通経路内に形成される。図3は、本発明の実施形態1における燃料流通経路内の層状液体の一構成例を示す図である。図3において、噴射口側は、燃料噴射弁30の噴射口31側、すなわち、燃料流通経路における燃料の流通方向下流側である。燃料噴射ポンプ側は、燃料圧送系統40の燃料噴射ポンプ41側、すなわち、燃料流通経路における燃料の流通方向上流側である。図3に示すように、この層状液体200は、噴射口側から燃料噴射ポンプ側に向かって並ぶ複数の液体層、例えば、第1液体層L1、第2液体層L2、第3液体層L3、第4液体層L4および第5液体層L5によって構成される。
第1液体層L1は、層状液体200のうち最下流の液体層である。層状液体200は、この第1液体層L1として第1燃料層F1を含む。第1燃料層F1は、層状液体200に含まれる複数(図3では3つ)の燃料層のうち、噴射口側から数えて1層目の燃料層であり、燃料の流通方向最下流に存在する所定量の燃料からなる。
第2液体層L2は、層状液体200のうち第1液体層L1の直近上流の液体層である。層状液体200は、この第2液体層L2として第1注水層W1を含む。第1注水層W1は、層状液体200に含まれる複数(図3では2つ)の注水層のうち、噴射口側から数えて1層目の注水層である。この第1注水層W1は、第1注水ポンプ51によって燃料流通経路の第1注水位置P1に必要量の水が注入されることにより形成される。
第3液体層L3は、層状液体200のうち第2液体層L2の直近上流の液体層である。層状液体200は、この第3液体層L3として第2燃料層F2を含む。第2燃料層F2は、層状液体200に含まれる複数の燃料層のうち、噴射口側から数えて2層目の燃料層である。この第2燃料層F2は、燃料流通経路の第1注水位置P1に注入された水の層と第2注水位置P2に注入された水の層との間に挟まれた燃料からなる。
第4液体層L4は、層状液体200のうち第3液体層L3の直近上流の液体層である。層状液体200は、この第4液体層L4として第2注水層W2を含む。第2注水層W2は、層状液体200に含まれる複数の注水層のうち、噴射口側から数えて2層目の注水層である。この第2注水層W2は、第2注水ポンプ61によって燃料流通経路の第2注水位置P2に必要量の水が注入されることにより形成される。
第5液体層L5は、層状液体200のうち最上流の液体層である。層状液体200は、この第5液体層L5として第3燃料層F3を含む。第3燃料層F3は、層状液体200に含まれる複数の燃料層のうち、噴射口側から数えて3層目の燃料層である。この第3燃料層F3は、第2注水層W2の直近上流に存在する燃料からなる。
このような燃料および水の層状液体200は、ピストン15の1サイクルの往復運動毎に、燃料噴射弁30の噴射口31からシリンダ12内の燃焼室17へ噴射される。このとき、燃焼室17に対する燃料の1回当りの噴射量、すなわち、層状液体200の燃料噴射量Qfaは、第1燃料層F1の燃料量Qf1と第2燃料層F2の燃料量Qf2と第3燃料層F3の燃料量Qf3との和(=Qf1+Qf2+Qf3)によって表される。この層状液体200の燃料噴射量Qfaは、エンジン負荷の増加に伴って増加し、減少に伴って減少する。
また、層状液体200における注水層間の燃料量(本実施形態1では第1注水層W1と第2注水層W2との間に挟まれた第2燃料層F2の燃料量Qf2)は、下流側注水系統50および上流側注水系統60の各注水開始タイミングの制御によって調整される。この際、注水層間の燃料量(=Qf2)は、エンジン負荷に応じた燃料噴射量Qfaに対して一定の割合となるように調整されることが好ましい。
一方、燃焼室17に対する1回の燃料噴射における水噴射量、すなわち、層状液体200の水噴射量Qwaは、第1注水層W1の注水量Qw1と第2注水層W2の注水量Qw2との和(=Qw1+Qw2)によって表される。この層状液体200の水噴射量Qwaは、NOxの低減および燃費の向上を達成するように、エンジン負荷に応じて必要量に調整される。このとき、第1注水層W1の注水量Qw1と第2注水層W2の注水量Qw2との比、すなわち、下流側注水系統50による注水量と上流側注水系統60による注水量との比は、一定であることが好ましい。
つぎに、本発明の実施形態1における注水層間の燃料量を調整するための注水タイミングの制御について説明する。図4は、本発明の実施形態1における注水タイミングの制御を説明するための図である。図4において、弁制御信号S1は、燃料流通経路の第1注水位置P1(図2参照)に水を注入する第1注水ポンプ51の制御弁55に対して開閉駆動を指示するための制御信号である。弁制御信号S2は、燃料流通経路の第2注水位置P2(図2参照)に水を注入する第2注水ポンプ61の制御弁65に対して開閉駆動を指示するための制御信号である。図5は、本発明の実施形態1における注水層間の燃料量の調整を説明するための図である。図5において、燃料柱201は、本実施形態1における燃料流通経路内に残存する柱状の燃料である。
本実施形態1において、制御部92は、例えば図4に示す弁制御信号S1、S2を制御弁55、65に各々送信して、制御弁55、65の各開閉駆動のタイミングを制御する。これにより、制御部92は、下流側注水系統50の注水期間と上流側注水系統60の注水期間との少なくとも一部が重なるように、下流側注水系統50の注水タイミング(1層目注水タイミング)と上流側注水系統60の注水タイミング(2層目注水タイミング)とをエンジン負荷に応じて制御する。この際、制御部92は、好ましい例として、下流側注水系統50によって注入された水の層と上流側注水系統60によって注入された水の層との間の燃料量がエンジン負荷に応じた燃料噴射量Qfaに対して一定の割合となるように、下流側注水系統50および上流側注水系統60の各注水開始タイミングを制御する。
詳細には、制御部92は、エンジン負荷に応じて、注水の待機時間ΔTを算出する。待機時間ΔTは、下流側注水系統50および上流側注水系統60のうち、先に注水を開始した注水系統の注水ピストンの作動開始時からその後に注水を開始する注水系統の注水ピストンの作動開始時までの時間である。この待機時間ΔTは、例えば、船舶の航行状況に応じて舶用ディーゼルエンジン10に要求されるエンジン負荷時のエンジン回転数(単位時間当りのエンジン回転数)と燃料噴射量(燃料の1回当りの噴射量)と注水量(噴射1回分の燃料中に注入する水量)とを各々独立変数x、y、zとして含む関数f(x,y,z)によって次式(1)のように表される。例えば、制御部92は、エンジン負荷の増加に伴い待機時間ΔTが増加し、エンジン負荷の減少に伴い待機時間ΔTが減少するように、待機時間ΔTを算出する。
待機時間ΔT=f(x,y,z) ・・・(1)
なお、これらのエンジン回転数、燃料噴射量および注水量は、舶用ディーゼルエンジン10のシミュレーションや実験等の結果に基づいて導出することができる。制御部92には、この式(1)が予め設定されている。
制御部92は、上記の待機時間ΔTとして、例えば、下流側注水系統50の待機時間ΔT1を算出する。下流側注水系統50の待機時間ΔT1は、上流側注水系統60が注水を開始してから下流側注水系統50が注水を開始するまでの時間、すなわち、第2注水ポンプ61が作動を開始してから第1注水ポンプ51が作動を開始するまでの時間である。制御部92は、この算出した待機時間ΔT1分、下流側注水系統50の注水開始タイミングを上流側注水系統60の注水開始タイミングよりも遅らせる。
具体的には、制御部92は、検出部91から受信した電気信号に示されるクランク角度を、検出部91によって検出されたクランク角度(以下、クランク角度検出値と適宜いう)として取得する。制御部92は、図4に示すように、クランク角度検出値がクランク角度R1となったタイミングT1に上流側注水系統60の制御弁65に対して開駆動を指示する。これにより、制御部92は、上流側注水系統60の第2注水ポンプ61を作動開始させる。この制御に基づいて、第2注水ポンプ61は、燃料流通経路の第2注水位置P2への注水を開始する。すなわち、クランク角度R1のタイミングT1は、上流側注水系統60の注水開始タイミングである。このタイミングT1では、図5に示すように、燃料流通経路内の燃料柱201のうち第2注水位置P2への水202の注入が開始されている。
なお、前回の燃料噴射完了後から上記注水開始タイミング(タイミングT1)までの期間内のタイミングT0では、図5に示すように、燃料柱201に対する注水は開始されていない。このときの燃料柱201の燃料量は、上述した燃料噴射量Qfaに相当する。
ついで、制御部92は、上述したように算出した待機時間ΔT1分、上流側注水系統60の注水開始タイミングから遅らせたタイミングに、下流側注水系統50による注水を開始させる。具体的には、制御部92は、下流側注水系統50の待機時間ΔT1を、エンジン負荷に応じたエンジン回転数とエンジン回転の経過時間とをもとにクランク角度の変化量ΔRに変換する。制御部92は、得られたクランク角度の変化量ΔRと、上流側注水系統60の注水開始タイミング(タイミングT1)時のクランク角度R1とを加算して、クランク角度R2を算出する。制御部92は、図4に示すように、クランク角度検出値がクランク角度R2となったタイミングT2に下流側注水系統50の制御弁55に対して開駆動を指示する。これにより、制御部92は、上流側注水系統60の第2注水ポンプ61の作動を継続させながら、下流側注水系統50の第1注水ポンプ51を作動開始させる。この制御に基づいて、第1注水ポンプ51は、燃料流通経路の第1注水位置P1への注水を開始する。すなわち、クランク角度R2のタイミングT2は、下流側注水系統50の注水開始タイミングである。一方、第2注水ポンプ61は、燃料流通経路の第2注水位置P2への注水を継続して行っている。このタイミングT2では、図5に示すように、燃料流通経路内の燃料柱201のうち、第2注水位置P2への水202の注入が継続して行われながら、第1注水位置P1への水203の注入が開始されている。
その後、第2注水ポンプ61は、制御弁65が閉駆動するまでの期間、燃料流通経路の第2注水位置P2への注水を継続して行う。これに並行して、第1注水ポンプ51は、制御弁55が閉駆動するまでの期間、燃料流通経路の第1注水位置P1への注水を継続して行う。
例えば、図4、5に示すように、クランク角度R2からクランク角度R3(>R2)までの時間ΔT2の期間では、第2注水位置P2の水202の注入が進むとともに、第1注水位置P1の水203の注入が進む。この第1注水位置P1の水203の注入に伴い、第1注水位置P1と第2注水位置P2との間の燃料は、第2注水位置P2の水202を越えて流通方向上流側に押し戻される。これにより、第1注水位置P1と第2注水位置P2との間の燃料量は、減少するように調整される。
続いて、クランク角度R3のタイミングT3では、第2注水位置P2の水202が、燃料柱201の幅方向(燃料流通経路の幅方向)全域に広がるまで注入されている。この際、第2注水位置P2の水202は、図5に示すように、燃料柱201を、第2注水位置P2よりも下流側に位置する下流側燃料201aと、第2注水位置P2よりも上流側に位置する最上流燃料201bとに分ける。この段階において、第1注水位置P1と第2注水位置P2との間の燃料は、第1注水位置P1の水203の注入が進行しても、第2注水位置P2の水202を越えて流通方向上流側に押し戻されることが無くなる。これにより、第1注水位置P1と第2注水位置P2との間の燃料量の調整が終了し、下流側燃料201aの燃料量が決まる。
その後、制御部92は、図4に示すように、クランク角度検出値がクランク角度R4となったタイミングT4に上流側注水系統60の制御弁65に対して閉駆動を指示する。これにより、制御部92は、下流側注水系統50の第1注水ポンプ51の作動を継続させながら、上流側注水系統60の第2注水ポンプ61を作動停止させる。この制御に基づいて、第2注水ポンプ61は、燃料流通経路の第2注水位置P2への注水を終了する。すなわち、クランク角度R4のタイミングT4は、上流側注水系統60の注水終了タイミングである。一方、第1注水ポンプ51は、燃料流通経路の第1注水位置P1への注水を継続して行っている。
例えば、図4、5に示すように、クランク角度R3からクランク角度R4(>R3)までの時間ΔT3の期間では、第2注水位置P2の水202が燃料柱201の幅方向全域に広がった状態から更に注入されるとともに、第1注水位置P1の水203が継続して注入されている。この段階において、第1注水位置P1の水203の注入は、下流側燃料201aとともに第2注水位置P2の水202を流通方向上流側へ押しながら行われる。
また、図5に示すように、クランク角度R4のタイミングT4では、第2注水位置P2の水202が必要量注入された状態となっている。一方、第1注水位置P1の水203は、燃料柱201の幅方向全域に広がるまで注入された状態となっている。この状態の水203は、燃料柱201の下流側燃料201aを、第1注水位置P1よりも下流側に位置する最下流燃料201cと、第2注水位置P2の水202と第1注水位置P1の水203とに挟まれる注水層間燃料201dとに分ける。これにより、注水層間燃料201dの燃料量、すなわち注水層間の燃料量(=Qf2)と、最下流燃料201cの燃料量とが決まる。なお、第1注水位置P1の水203が燃料柱201の幅方向全域に広がるまで注入されるタイミングは、第2注水位置P2の水202が必要量注入されたタイミングT4と同じであってもよいし、前のタイミングであってもよいし、後のタイミングであってもよい。
その後、制御部92は、図4に示すように、クランク角度検出値がクランク角度R5となったタイミングT5に下流側注水系統50の制御弁55に対して閉駆動を指示する。これにより、制御部92は、下流側注水系統50の第1注水ポンプ51を作動停止させる。この制御に基づいて、第1注水ポンプ51は、燃料流通経路の第1注水位置P1への注水を終了する。すなわち、クランク角度R5のタイミングT5は、下流側注水系統50の注水終了タイミングである。
例えば、図5に示すように、クランク角度R4のタイミングT4からクランク角度R5(>R4)のタイミングT5までの期間では、第1注水位置P1の水203が、燃料柱201の幅方向全域に広がった状態から更に注入されている。一方、第2注水位置P2の水202の注入は、上述したタイミングT4で既に終了している。この段階において、第1注水位置P1の水203の注入は、上述したタイミングT3からタイミングT4までの期間と同様に行われ、水203の注入量が必要量になるまで継続される。そして、クランク角度R5のタイミングT5では、第1注水位置P1および第2注水位置P2の各注水が終了する。この結果、第1燃料層F1と第1注水層W1と第2燃料層F2と第2注水層W2と第3燃料層F3とからなる層状液体200が、燃料流通経路内に形成される。
ここで、本実施形態1において、上流側注水系統60の注水期間は、クランク角度R1のタイミングT1からクランク角度R4のタイミングT4までの期間である。すなわち、上流側注水系統60の注水期間は、図4に示す待機時間ΔT1と時間ΔT2と時間ΔT3とを加算した時間分の期間である。この注水期間は、図5に示す第2注水位置P2に必要量の水202を注入する際に掛かる時間によって決まる。すなわち、上流側注水系統60の注水終了タイミング(タイミングT4)に対応するクランク角度R4は、注水開始タイミングに対応するクランク角度R1と、上記必要量の水202の注入に要する時間とをもとに導出される。
また、下流側注水系統50の注水期間は、クランク角度R2のタイミングT2からクランク角度R5のタイミングT5までの期間である。この注水期間は、図5に示す第1注水位置P1に必要量の水203を注入する際に掛かる時間によって決まる。すなわち、下流側注水系統50の注水終了タイミング(タイミングT5)に対応するクランク角度R5は、注水開始タイミングに対応するクランク角度R2と、上記必要量の水203の注入に要する時間とをもとに導出される。
本実施形態1において、上流側注水系統60の注水期間と下流側注水系統50の注水期間との重なる期間は、図4に示すように、クランク角度R2からクランク角度R4までの時間ΔT4に相当する。この時間ΔT4は、下流側注水系統50の注水によって注水層間の燃料量が減少するよう調整(減量調整)される時間ΔT2と、注水層間の燃料量の調整が終了してから上流側注水系統60の注水が終了するまでの時間ΔT3とを加算した時間である。下流側注水系統50の注水開始タイミングは、エンジン負荷の増加に伴って時間ΔT2が減少し、エンジン負荷の減少に伴って時間ΔT2が増加するように、上流側注水系統60の注水開始タイミングから待機時間ΔT1だけ遅れるタイミングに制御される。すなわち、この待機時間ΔT1は、エンジン負荷の増加に伴って増加し、エンジン負荷の減少に伴って減少する。なお、この待機時間ΔT1が零値(ΔT1=0)である場合、下流側注水系統50の注水開始タイミングは、上流側注水系統60の注水開始タイミングと同時のタイミングに制御される。
図6は、本発明の実施形態1における層状液体のエンジン負荷に応じた噴射量の一例を示す図である。図6に示す噴射量は、1つの燃料噴射弁30からシリンダ12内の燃焼室17に噴射される層状液体200(図3参照)の1回当りの噴射量である。この層状液体200の噴射量は、エンジン負荷に応じた燃料噴射量Qfaと第1注水層W1および第2注水層W2の各注水量Qw1、Qw2との和(=Qfa+Qw1+Qw2)によって表される。
本実施形態1において、層状液体200の噴射量は、上述した下流側注水系統50および上流側注水系統60の各注水開始タイミングの制御によって設定される。例えば、図6に示すように、層状液体200の噴射量は、エンジン負荷の増加に伴って増加し、エンジン負荷の減少に伴って減少する。このような層状液体200のうち、第1注水層W1と第2注水層W2との間に挟まれた第2燃料層F2の燃料量(すなわち注水層間の燃料量)は、エンジン負荷に応じて適切な量に調整される。好ましくは、注水層間に燃料層を有する層状液体200が燃料流通経路内に形成されるエンジン負荷の範囲(図6では55%以上100%以下)において、この注水層間の燃料量は、エンジン負荷に応じて増減する燃料噴射量Qfaに対して一定の割合となるように調整(最適化)される。さらには、層状液体200において、第1注水層W1の注水量Qw1と第2注水層W2との注水量Qw2との比は一定である。
以上、説明したように、本発明の実施形態1に係る燃料噴射装置100では、舶用ディーゼルエンジン10のシリンダ12内の燃焼室17に燃料および水を層状に噴射する燃料噴射弁30と、配管を通じて燃料噴射弁30に燃料を圧送する燃料噴射ポンプ41と、燃料噴射ポンプ41から燃料噴射弁30の噴射口31に至る燃料流通経路の第1注水位置P1に水を注入する下流側注水系統50と、この燃料流通経路のうち下流側注水系統50よりも燃料の流通方向上流側の第2注水位置P2に水を注入する上流側注水系統60とを設け、下流側注水系統50の注水期間と上流側注水系統60の注水期間との少なくとも一部が重なるように、下流側注水系統50および上流側注水系統60の各注水開始タイミングをエンジン負荷に応じて制御している。この際、上流側注水系統60が注水を開始してから下流側注水系統50が注水を開始するまでの下流側注水系統50の待機時間ΔT1をエンジン負荷に応じて算出し、算出した待機時間ΔT1分、下流側注水系統50の注水開始タイミングを上流側注水系統60の注水開始タイミングよりも遅らせている。
上記の構成により、下流側注水系統50の注水期間と上流側注水系統60の注水期間との重なる期間内に、下流側注水系統50による注水層と上流側注水系統60による注水層との間の燃料量(注水層間の燃料量)を、エンジン負荷に応じた燃料噴射量Qfaに対する当該注水層間の燃料量の割合が過大または過小とならないように調整することができる。このため、燃料噴射弁30から燃料および水を層状に噴射する際、エンジン負荷に応じて注水層間の燃料量を適切に調整することができる。この結果、排ガス中のNOxを低減させるべく燃料および水を層状に噴射する際に起こり得る舶用ディーゼルエンジン10の燃焼不良等の望ましくない燃焼状態の発生を抑制することができる。
また、本発明の実施形態1に係る燃料噴射装置100では、上述した注水層間の燃料量がエンジン負荷に応じた燃料噴射量Qfaに対して一定の割合とすべく、下流側注水系統50および上流側注水系統60の各注水開始タイミングをエンジン負荷に応じて制御している。このため、燃料噴射弁30から燃料および水を層状に噴射する際、注水層間の燃料量をエンジン負荷毎の最適な燃料量に調整することができる。この結果、排ガス中のNOxを最も効果的に低減させることができる。
また、本発明の実施形態1に係る燃料噴射装置100では、下流側注水系統50による注水量Qw1と上流側注水系統60による注水量Qw2との比を一定にしている。このため、燃料噴射弁30から燃料および水を層状に噴射する際、燃料層に後続して噴射される注水層の水量をエンジン負荷毎に最適化することができる。この結果、燃料の燃焼後の水噴射による失火を防止して舶用ディーゼルエンジン10の安定した作動を確保するとともに、排ガス中のNOxを最も効果的に低減させることができる。
(実施形態2)
つぎに、本発明の実施形態2について説明する。上述した実施形態1では、エンジン負荷に応じて算出した待機時間分、下流側注水系統50の注水開始タイミングを上流側注水系統60の注水開始タイミングよりも遅らせるように、下流側注水系統50および上流側注水系統60の各注水開始タイミングを制御していたが、本実施形態2では、エンジン負荷に応じて算出した待機時間分、上流側注水系統60の注水開始タイミングを下流側注水系統50の注水開始タイミングよりも遅らせるように、下流側注水系統50および上流側注水系統60の各注水開始タイミングを制御している。
図7は、本発明の実施形態2に係る燃料噴射装置の一構成例を示す模式図である。図7に示すように、この燃料噴射装置110は、上述した実施形態1に係る燃料噴射装置100の制御部92に代えて制御部112を備える。その他の構成は実施形態1と同じであり、同一構成部分には同一符号を付している。また、特に図示しないが、本実施形態2に係る燃料噴射装置110が適用された舶用ディーゼルエンジンは、上記の制御部112を備える構成以外、上述した実施形態1における舶用ディーゼルエンジン10と同様に構成される。
制御部112は、各種プログラムを実行するためのCPU、メモリおよびシーケンサ等によって構成される。制御部112は、上述した燃料および水の層状噴射タイミング以外の期間において、燃料で満たされた状態にある燃料流通経路の第1注水位置P1および第2注水位置P2に水を各々注入するように、下流側注水系統50の注水タイミングおよび上流側注水系統60の注水タイミングをエンジン負荷に応じて制御する。この際、制御部112は、下流側注水系統50の注水期間と上流側注水系統60の注水期間との少なくとも一部が重なるようにすべく、エンジン負荷に応じて算出した待機時間分、上流側注水系統60の注水開始タイミングを下流側注水系統50の注水開始タイミングよりも遅らせるように、下流側注水系統50の第1注水ポンプ51による注水開始タイミングと上流側注水系統60の第2注水ポンプ61による注水開始タイミングと制御する。なお、制御部112は、上述した実施形態1における制御部92と同様に、燃料噴射弁30から燃焼室17への燃料および水の層状噴射タイミングを制御する。
つぎに、本発明の実施形態2における注水層間の燃料量を調整するための注水タイミングの制御について説明する。図8は、本発明の実施形態2における注水タイミングの制御を説明するための図である。図9は、本発明の実施形態2における注水層間の燃料量の調整を説明するための図である。
本実施形態2において、制御部112は、例えば図8に示す弁制御信号S1、S2を制御弁55、65に各々送信して、制御弁55、65の各開閉駆動のタイミングを制御する。これにより、制御部112は、下流側注水系統50の注水期間と上流側注水系統60の注水期間との少なくとも一部が重なるように、下流側注水系統50の注水タイミング(1層目注水タイミング)と上流側注水系統60の注水タイミング(2層目注水タイミング)とをエンジン負荷に応じて制御する。この際、制御部112は、好ましい例として、下流側注水系統50によって注入された水の層と上流側注水系統60によって注入された水の層との間の燃料量がエンジン負荷に応じた燃料噴射量Qfaに対して一定の割合となるように、下流側注水系統50および上流側注水系統60の各注水開始タイミングを制御する。
詳細には、制御部112は、上述した式(1)が予め設定され、式(1)に基づく待機時間ΔTとして、例えば、上流側注水系統60の待機時間ΔT11を算出する。上流側注水系統60の待機時間ΔT11は、下流側注水系統50が注水を開始してから上流側注水系統60が注水を開始するまでの時間、すなわち、第1注水ポンプ51が作動を開始してから第2注水ポンプ61が作動を開始するまでの時間である。制御部112は、この算出した待機時間ΔT11分、上流側注水系統60の注水開始タイミングを下流側注水系統50の注水開始タイミングよりも遅らせる。
具体的には、制御部112は、検出部91によるクランク角度検出値を取得し、図8に示すように、クランク角度検出値がクランク角度R11となったタイミングT11に下流側注水系統50の制御弁55に対して開駆動を指示する。これにより、制御部112は、下流側注水系統50の第1注水ポンプ51を作動開始させる。この制御に基づいて、第1注水ポンプ51は、燃料流通経路の第1注水位置P1への注水を開始する。すなわち、クランク角度R11のタイミングT11は、下流側注水系統50の注水開始タイミングである。このタイミングT11では、図9に示すように、燃料流通経路内の燃料柱201のうち第1注水位置P1への水203の注入が開始されている。この第1注水位置P1への水203の注入開始に伴い、第1注水位置P1と第2注水位置P2との間の燃料は、第2注水位置P2を越えて流通方向上流側に押し戻され始める。これにより、第1注水位置P1と第2注水位置P2との間の燃料量は、減少するように調整され始める。
なお、前回の燃料噴射完了後から上記注水開始タイミング(タイミングT11)までの期間内のタイミングT0では、図9に示すように、燃料柱201に対する注水は開始されていない。このときの燃料柱201の燃料量は、上述した燃料噴射量Qfaに相当する。
ついで、制御部112は、上述したように算出した待機時間ΔT11分、下流側注水系統50の注水開始タイミングから遅らせたタイミングに、上流側注水系統60による注水を開始させる。具体的には、制御部112は、上流側注水系統60の待機時間ΔT11を、エンジン負荷に応じたエンジン回転数とエンジン回転の経過時間とをもとにクランク角度の変化量ΔRに変換する。制御部112は、得られたクランク角度の変化量ΔRと、下流側注水系統50の注水開始タイミング(タイミングT11)時のクランク角度R11とを加算して、クランク角度R12を算出する。制御部112は、図8に示すように、クランク角度検出値がクランク角度R12となったタイミングT12に上流側注水系統60の制御弁65に対して開駆動を指示する。これにより、制御部112は、下流側注水系統50の第1注水ポンプ51の作動を継続させながら、上流側注水系統60の第2注水ポンプ61を作動開始させる。この制御に基づいて、第2注水ポンプ61は、燃料流通経路の第2注水位置P2への注水を開始する。すなわち、クランク角度R12のタイミングT12は、上流側注水系統60の注水開始タイミングである。一方、第1注水ポンプ51は、燃料流通経路の第1注水位置P1への注水を継続して行っている。このタイミングT12では、図9に示すように、燃料流通経路内の燃料柱201のうち、第1注水位置P1への水203の注入が継続して行われながら、第2注水位置P2への水202の注入が開始されている。
その後、第1注水ポンプ51は、制御弁55が閉駆動するまでの期間、燃料流通経路の第1注水位置P1への注水を継続して行う。これに並行して、第2注水ポンプ61は、制御弁65が閉駆動するまでの期間、燃料流通経路の第2注水位置P2への注水を継続して行う。
例えば、図8、9に示すように、クランク角度R11からクランク角度Raまでの時間ΔT13の期間では、第1注水位置P1の水203の注入が進む。また、この期間のうち、クランク角度R12からクランク角度Ra(>R12)までの時間ΔTaの期間では、第1注水位置P1の水203の注入が進むとともに、第2注水位置P2の水202の注入が進む。この第1注水位置P1の水203の注入に伴い、第1注水位置P1と第2注水位置P2との間の燃料は、第2注水位置P2または水202を越えて流通方向上流側に押し戻される。これにより、第1注水位置P1と第2注水位置P2との間の燃料量は、時間ΔT13の期間、減少するように調整される。
また、この時間ΔT13の期間のうち、クランク角度R13のタイミングT13では、第1注水位置P1の水203が、燃料柱201の幅方向全域に広がるまで注入されている。この際、第1注水位置P1の水203は、図9に示すように、燃料柱201を、第1注水位置P1よりも下流側に位置する最下流燃料201cと、第1注水位置P1よりも上流側に位置する上流側燃料201eとに分ける。この段階において、最下流燃料201cの燃料量が決まる。また、クランク角度R13からクランク角度R14(>R13)までの期間では、第1注水位置P1の水203が燃料柱201の幅方向全域に広がった状態から更に注入されるとともに、第2注水位置P2の水202が継続して注入されている。この段階において、第1注水位置P1の水203の注入は、第1注水位置P1と第2注水位置P2との間の燃料を第2注水位置P2よりも流通方向上流側へ押し戻しながら行われる。
一方、クランク角度Raのタイミングでは、第2注水位置P2の水202が、燃料柱201の幅方向全域に広がるまで注入されている。この際、第2注水位置P2の水202は、燃料柱201のうちの上流側燃料201eを、第2注水位置P2よりも上流側に位置する最上流燃料201bと、第2注水位置P2の水202と第1注水位置P1の水203とに挟まれる注水層間燃料201dとに分ける。この段階において、第1注水位置P1と第2注水位置P2との間の燃料は、第1注水位置P1の水203の注入が進行しても、第2注水位置P2の水202を越えて流通方向上流側に押し戻されることが無くなる。これにより、第1注水位置P1と第2注水位置P2との間の燃料量の調整が終了し、注水層間燃料201dの燃料量、すなわち注水層間の燃料量(=Qf2)が決まる。
なお、このクランク角度Raのタイミングは、第2注水位置P2の水202が必要量注入されるタイミングT14と同じであってもよいし、前のタイミングであってもよいし、後のタイミングであってもよい。これらのタイミングのうち何れのタイミングがクランク角度Raのタイミングになるかは、エンジン負荷に応じた待機時間ΔT11によって決まる。図9には、クランク角度Raのタイミングがクランク角度R14のタイミングT14と同じタイミングとなっている場合が図示されている。
また、制御部112は、図8に示すように、クランク角度検出値がクランク角度R14となったタイミングT14に下流側注水系統50の制御弁55に対して閉駆動を指示する。これにより、制御部112は、上流側注水系統60の第2注水ポンプ61の作動を継続させながら、下流側注水系統50の第1注水ポンプ51を作動停止させる。この制御に基づいて、第1注水ポンプ51は、燃料流通経路の第1注水位置P1への注水を終了する。すなわち、クランク角度R14のタイミングT14は、下流側注水系統50の注水終了タイミングである。一方、第2注水ポンプ61は、燃料流通経路の第2注水位置P2への注水を継続して行っている。図9に示すように、クランク角度R14のタイミングT14では、第1注水位置P1の水203が必要量注入された状態となっている。
その後、制御部112は、図8に示すように、クランク角度検出値がクランク角度R15となったタイミングT15に上流側注水系統60の制御弁65に対して閉駆動を指示する。これにより、制御部112は、上流側注水系統60の第2注水ポンプ61を作動停止させる。この制御に基づいて、第2注水ポンプ61は、燃料流通経路の第2注水位置P2への注水を終了する。すなわち、クランク角度R15のタイミングT15は、上流側注水系統60の注水終了タイミングである。
例えば、図9に示すように、クランク角度R14のタイミングT14からクランク角度R15(>R14)のタイミングT15までの期間では、第2注水位置P2の水202が、燃料柱201の幅方向全域に広がった状態から更に注入されている。一方、第1注水位置P1の水203の注入は、上述したタイミングT14で既に終了している。この段階において、第2注水位置P2の水202の注入は、上述したタイミングT13からタイミングT14までの期間と同様に行われ、水202の注入量が必要量になるまで継続される。そして、クランク角度R15のタイミングT15では、第2注水位置P2および第1注水位置P1の各注水が終了する。この結果、第1燃料層F1と第1注水層W1と第2燃料層F2と第2注水層W2と第3燃料層F3とからなる層状液体200が、燃料流通経路内に形成される。
ここで、本実施形態2において、下流側注水系統50の注水期間は、クランク角度R11のタイミングT11からクランク角度R14のタイミングT14までの期間である。すなわち、下流側注水系統50の注水期間は、図8に示す待機時間ΔT11と時間ΔT12とを加算した時間分の期間である。この注水期間は、図9に示す第1注水位置P1に必要量の水203を注入する際に掛かる時間によって決まる。すなわち、下流側注水系統50の注水終了タイミング(タイミングT14)に対応するクランク角度R14は、注水開始タイミングに対応するクランク角度R11と、上記必要量の水203の注入に要する時間とをもとに導出される。
また、上流側注水系統60の注水期間は、クランク角度R12のタイミングT12からクランク角度R15のタイミングT15までの期間である。この注水期間は、図9に示す第2注水位置P2に必要量の水202を注入する際に掛かる時間によって決まる。すなわち、上流側注水系統60の注水終了タイミング(タイミングT15)に対応するクランク角度R15は、注水開始タイミングに対応するクランク角度R12と、上記必要量の水202の注入に要する時間とをもとに導出される。
本実施形態2において、下流側注水系統50の注水期間と上流側注水系統60の注水期間との重なる期間は、図8に示すように、クランク角度R12からクランク角度R14までの時間ΔT12に相当する。この期間のうち、クランク角度R12からクランク角度Raまでの時間ΔTaの期間は、下流側注水系統50の注水によって注水層間の燃料量が減量調整される期間の一部である。また、クランク角度R11からクランク角度R12までの待機時間ΔT11の期間は、上記注水層間の燃料量が減量調整される期間の残部である。すなわち、これらの待機時間ΔT11と時間ΔTaとを加算した時間ΔT13の期間が、上記注水層間の燃料量が減量調整される全期間となる。上流側注水系統60の注水開始タイミングは、エンジン負荷の増加に伴って時間ΔT13が減少し、エンジン負荷の減少に伴って時間ΔT13が増加するように、下流側注水系統50の注水開始タイミングから待機時間ΔT11だけ遅れるタイミングに制御される。すなわち、この待機時間ΔT11は、エンジン負荷の増加に伴って減少し、エンジン負荷の減少に伴って増加する。なお、この待機時間ΔT11が零値(ΔT11=0)である場合、上流側注水系統60の注水開始タイミングは、下流側注水系統50の注水開始タイミングと同時のタイミングに制御される。
以上、説明したように、本発明の実施形態2に係る燃料噴射装置110では、下流側注水系統50の注水期間と上流側注水系統60の注水期間との少なくとも一部が重なるようにすべく、下流側注水系統50が注水を開始してから上流側注水系統60が注水を開始するまでの上流側注水系統60の待機時間ΔT11をエンジン負荷に応じて算出し、算出した待機時間ΔT11分、上流側注水系統60の注水開始タイミングを下流側注水系統50の注水開始タイミングよりも遅らせるように、下流側注水系統50および上流側注水系統60の各注水開始タイミングを制御するようにし、その他を実施形態1と同様にしている。このため、上述した実施形態1の場合と同様の作用効果を享受するとともに、下流側注水系統50の注水によって注水層間の燃料量を減量調整し得る時間を、上流側注水系統60を先に注水する場合に比べて広範囲に調整することができ、これにより、エンジン負荷に応じた燃料噴射量に対する注水層間の燃料量の割合を簡易に最適化できるようになる。
なお、上述した実施形態1、2では、下流側注水系統50および上流側注水系統60の各注水開始タイミングを制御する際、エンジン負荷に応じて算出した注水開始の待機時間(例えばΔT1またはΔT11)からクランク角度を算出し、得られたクランク角度と検出部91によるクランク角度検出値とが一致するタイミングを、先の注水開始タイミングに続く後の注水開始タイミングとしていたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、舶用ディーゼルエンジンのエンジン回転時の経過時間(すなわち時間軸)に沿って下流側注水系統50および上流側注水系統60の各注水開始タイミングを制御し、先の注水開始タイミングからの経過時間がエンジン負荷に応じた待機時間に達したタイミングを後の注水開始タイミングとしてもよい。
また、上述した実施形態1、2では、3つの燃料噴射弁30を備えた燃料噴射装置を例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、本発明において、燃料噴射弁30の配置数は、3つに限らず、1つでもよいし、複数(2つ以上)でもよい。
また、上述した実施形態1、2により本発明が限定されるものではなく、上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上述した実施形態1、2に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。