ところで、この種の免震支持装置では、鉛プラグを得るべく積層体の中空部に鉛が圧入、充填されるが、圧入、充填されて積層体の剛性層及び弾性層の内周面に取り囲まれた鉛プラグは、弾性層の弾性により部分的に押し戻されることになるが、この押し戻しにより鉛プラグには内圧が発生する。
この発生した鉛プラグの内圧が弾性層の剛性との関連で充分でないと、免震支持装置の免震動作において、鉛プラグの外周面と剛性層及び弾性層の内周面との間に隙間が生じて、鉛プラグで効果的に振動を減衰させることができなくなる虞が生じる。
加えて、この種の免震支持装置の鉛プラグは、その積層方向の一端部及び他端部の夫々で積層方向の一端及び他端の剛性層又は一端取付板及び他端取付板の内周面で規定された中空部に配されて、当該一端及び他端の剛性層又は一端取付板及び他端取付板に保持されているが、この保持された鉛プラグの積層方向の一端部及び他端部の夫々の積層方向における長さが当該一端部及び他端部での積層方向に直交する方向であって免震における中間部の剪断変形方向の径と比較して短い場合には、当該鉛プラグの積層方向の一端部及び他端部での保持性が低下して、一の地震に起因する積層体の積層方向の他端に対しての構造物の水平方向の振動での積層方向における当該一端部と他端部との間の鉛プラグの中間部での塑性変形(剪断変形)が不十分となり、地震エネルギ減衰能が低下する一方、当該長さが長い場合には、当該鉛プラグの積層方向の一端部及び他端部は、しっかりと保持されるが、当該一端部及び他端部での鉛の流動性が低減して当該一端部及び他端部と鉛プラグの中間部との境界領域に疲労が生じて、長さが短い場合と同様に、地震エネルギ減衰能が低下する虞が生じる。
斯かる問題は、鉛プラグにおいて顕著に生じるのであるが、鉛プラグに限らず、塑性変形で振動エネルギを吸収する鉛、錫又は非鉛系低融点合金等の減衰材料からなる振動減衰体でも生じ得る。
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであって、積層体の中空部に配された振動減衰体を所定に隙間なしに拘束し得る結果、安定な免震特性を得ることができ、加えて、積層方向における振動減衰体の一端部及び他端部に対する保持性を維持できる一方、積層方向における当該一端部及び他端部と積層方向における当該一端部及び他端部間の振動減衰体の中間部との境界領域で疲労を回避することができ、而して、地震エネルギ減衰能の低下を回避できる免震支持装置を提供することを目的とする。
本発明による免震支持装置は、交互に積層された複数の弾性層及び剛性層を有する積層体と、この積層体の積層方向の一端面及び他端面に取付けられた一端取付板及び他端取付板と、弾性層及び剛性層並びに一端取付板及び他端取付板で取り囲まれていると共に積層方向に伸びた中空部に配された振動減衰体とを具備しており、且つ、一端取付板に加わると共に他端取付板に向かう積層方向の荷重を積層体及び振動減衰体で支持するようになっており、支持する積層方向の荷重に基づく振動減衰体からの一端取付板への面圧Prと当該荷重に基づく積層体の荷重に対する受圧面での面圧P0との比Pr/P0が1.00以上(比Pr/P0≧1.00)となるように中空部に配された振動減衰体は、積層体の積層方向の一端の剛性層又は一端取付板の内周面で規定された中空部の積層方向の一端に配された一端部と、積層体の積層方向の他端の剛性層又は他端取付板の内周面で規定された中空部の積層方向の他端に配された他端部と、積層方向におけるこれら一端部及び他端部間の中空部に配された中間部とを具備しており、中間部の積層方向の一端からの振動減衰体の一端部の積層方向の長さh1及び中間部の積層方向の他端からの振動減衰体の他端部の積層方向の長さh2と積層方向に対して直交する方向であって免震における中間部の剪断変形方向の当該一端部及び他端部の径d1及びd2との比h1/d1及び比h2/d2の夫々は、0.05から0.7の範囲内である。
本発明による免震支持装置は、好ましくは、他端取付板に対しての一端取付板の積層方向に直交する方向の振動を積層体の剪断弾性変形を伴う振動減衰体の塑性変形で減衰させると共に他端取付板の積層方向に直交する方向の振動の一端取付板への伝達を振動減衰体の塑性変形を伴う積層体の剪断弾性変形で抑制するようになっており、また、本発明における振動減衰体は、好ましい例では、弾性層及び剛性層並びに一端取付板及び他端取付板に対して隙間なしに中空部に配されている。
本発明は、支持する構造物から一端取付板に加えられた荷重(鉛直荷重)Wで弾性層が積層方向(鉛直方向)において圧縮されて中空部の高さ(積層方向の長さ)が低くなると、振動減衰体が弾性層の内周面を押圧して部分的に弾性層に積層方向に直交する方向(水平方向、即ち、剪断方向)に張り出し、この張り出し、言い換えると、振動減衰体による弾性層の内周面への押圧に起因する弾性層の弾性反力に基づく振動減衰体に生じる内圧であって振動減衰体からの一端取付板への面圧Prと当該荷重に基づく積層体の荷重に対する受圧面での面圧P0との比Pr/P0が一定の関係となるように、振動減衰体が中空部に配されてなる免震支持装置では、中空部に配された振動減衰体を所定に隙間なしに拘束し得るという知見に基づいてなされたものである。
斯かる知見に基づく本発明の免震支持装置では、面圧Prと面圧P0との比Pr/P0が1.00以上(比Pr/P0≧1.00)、好ましくは、1.00を超える(比Pr/P0>1.00)ように、より好ましくは、1.09以上(比Pr/P0≧1.09)、更により好ましくは、2.02以上(比Pr/P0≧2.02)、最も好ましくは、2.50以上(比Pr/P0≧2.50)となるように、振動減衰体が中空部に好ましくは密に配されていると、積層方向に直交する方向の積層体の剪断弾性変形においても、中空部に配された振動減衰体を所定に隙間なしに弾性層及び剛性層並びに一端取付板及び他端取付板で拘束し得る結果、安定な免震特性を得ることができ、加えて弾性層及び振動減衰体の疲労を回避することができ、耐久性及び免震効果並びに製造性に特に優れた免震支持装置を提供することができる。
本発明において、振動減衰体からの一端取付板への面圧Prは、構造物からの荷重の大きさと中空部への振動減衰体の充填の程度と弾性層の弾性率又は剛性率の高低とによって増減し、比Pr/P0が1.00以上である免震支持装置では、中空部を規定する積層体の内周面は、振動減衰体が弾性層に適切に食い込んで、当該弾性層の位置では環状の凹面になり、剛性層の位置では環状の凸面になる。
ところで、比Pr/P0が1.00よりも小さい免震支持装置では、中空部を規定する弾性層及び剛性層並びに一端取付板及び他端取付板と、これらに接する振動減衰体の外周面との間に隙間が生じ易くなり、したがって免震支持装置の作動中に、容易に弾性層及び剛性層並びに一端取付板及び他端取付板と振動減衰体の外周面との間に隙間が生じ、不安定な免震特性を示すことになる。これは、振動減衰体が積層体に少なくとも剪断方向(水平方向)において隙間なく拘束されず、振動減衰体に剪断変形以外の変形を生じることによるものと推測される。
一方、比Pr/P0が一定以上大きい免震支持装置、具体的には、比Pr/P0が5.90よりも大きい免震支持装置では、振動減衰体が大きく弾性層に食い込んで、弾性層の内周面が過度に凹面になり、この部位の近傍での弾性層と剛性層との間の剪断応力が大きくなり過ぎ、弾性層の劣化を早め、弾性層の耐久性が劣ることになり、また、比Pr/P0が斯かる5.90よりも大きい免震支持装置を得るには、振動減衰体の中空部への圧入を極めて大きくしなければならず、免震支持装置の製造が困難であることも判った。
そして、中空部に配された振動減衰体を所定に隙間なしに弾性層及び剛性層並びに一端取付板及び他端取付板で拘束し得て、安定な免震特性を得ることができ、加えて弾性層及び振動減衰体の疲労を回避することができ、耐久性及び免震効果並びに製造性に特に優れた免震支持装置を得ることのできる比Pr/P0は、本発明の免震支持装置で免震支持する建築物及び橋梁での各荷重Wで好ましい範囲が存在するが、該各免震支持装置は、比Pr/P0≧1.00であって、比Pr/P0≦5.90であると、小さな振動入力では、高い剛性を示し、大きな振動入力では、低い剛性を示す機能、いわゆるトリガ機能を得ることができる上に、大振幅の地震動に特に好ましく対応し得、しかも、製造性に極めて優れる。
加えて、本発明では、振動減衰体の一端部の積層方向の長さh1及び振動減衰体の他端部の積層方向の長さh2と当該一端部及び他端部での積層方向に直交する方向であって免震における中間部の剪断変形方向の径d1及びd2との比h1/d1及び比h2/d2の夫々が、0.05以上であるため、積層方向における振動減衰体の一端部及び他端部に対する保持性を維持できる一方、当該比h1/d1及び比h2/d2の夫々が、0.7以下であるために、免震における中間部の剪断変形での中空部の一端及び他端から当該一端及び他端間の中空部への振動減衰体の流動性を確保できる結果、境界領域での振動減衰体の疲労を回避することができ、而して、地震エネルギ減衰能の低下を回避できる免震支持装置を提供することができる。
本発明において、境界領域での疲労による地震エネルギ減衰能の低下をより避けることができる好ましい例では、比h1/d1及び比h2/d2の夫々は、0.5以下である。
比h1/d1及び比h2/d2の夫々が小さすぎると、免震における中間部の剪断変形で、振動減衰体の積層方向の一端部及び他端部をしっかりと保持できなくなる虞が生じため、本発明では、0.05以上であるが、好ましい例では、比h1/d1及び比h2/d2の夫々は、0.25以上である。
本発明において、振動減衰体は、好ましい例では、塑性変形で振動エネルギを吸収する減衰材料からなり、斯かる減衰材料は、鉛、錫又は非鉛系低融点合金(例えば、錫−亜鉛系合金、錫−ビスマス系合金及び錫−インジウム系合金より選ばれる錫含有合金であって、具体的には、錫42〜43重量%及びビスマス57〜58重量%を含む錫−ビスマス合金等)からなっていてもよい。
本発明において、積層方向の一端の剛性層及び一端取付板に関して、好ましい例では、積層方向の一端の剛性層は、その内周面で規定されていると共に振動減衰体の一端部が配された貫通孔を具備しており、この貫通孔は、振動減衰体の一端部の積層方向の長さh1に等しい長さと、当該一端部での積層方向に直交する方向であって免震における中間部の剪断変形方向の径d1に等しい径とを有している。
本発明において、積層方向の他端の剛性層及び他端取付板に関して、好ましい例では、積層方向の他端の剛性層は、その内周面で規定されていると共に振動減衰体の他端部が配された貫通孔を具備しており、この貫通孔は、振動減衰体の他端部の積層方向の長さh2に等しい長さと、当該他端部での積層方向に直交する方向であって免震における中間部の剪断変形方向の径d2に等しい径とを有している。
本発明では、弾性層の素材としては、天然ゴム、シリコーンゴム、高減衰ゴム、ウレタンゴム又はクロロプレンゴム等を挙げることができるが、好ましくは天然ゴムであり、弾性層の各層は、好ましくは、無負荷状態(支持する積層方向の荷重が一端取付板に加えられていない状態)において1mm〜30mm程度の厚みを有しているが、これに限定されず、また、剛性層の素材としては、鋼板、炭素繊維、ガラス繊維若しくはアラミド繊維等の繊維補強合成樹脂板又は繊維補強硬質ゴム板等を挙げることができ、剛性層の各層は、1mm〜6mm程度の厚みを有していても、また、一端及び他端の剛性層は、積層方向において一端及び他端の剛性層間の剛性層の厚み、例えば1mm〜6mm程度の厚みよりも厚い、例えば10mm〜50mm程度の厚みを有していてもよいが、これらに限定されず、加えて、弾性層及び剛性層は、その枚数においても特に限定されず、支持する構造物の荷重、剪断変形量(水平方向歪量)、弾性層の弾性率、予測される構造物への振動加速度の大きさの観点から、安定な免震特性を得るべく、弾性層及び剛性層の枚数を決定すればよい。
また、本発明では、弾性体及び剛性層は、円環状体であって、振動減衰体は、円柱状体が好ましいが、他の形状のもの、例えば弾性体及び剛性層は、楕円環状体若しくは中空方形体であって、振動減衰体は、楕円柱若しくは方形体であってもよく、中空部は、一つでもよいが、これに代えて、複数の中空部を有していてもよく、この複数の中空部の夫々に振動減衰体を配して免震支持装置を構成してもよい。なお、一個の中空部に関して、比h1/d1及び比h2/d2が互いに同一である必要はなく、比h1/d1及び比h2/d2が互いに異なっていてもよく、また、複数の中空部の夫々に関して、比Pr/P0並びに比h1/d1及び比h2/d2が中空部の相互において同一である必要はなく、比Pr/P0並びに比h1/d1及び比h2/d2が中空部の相互においてそれぞれ異なっていてもよく、また、これら複数の中空部の夫々に関して比Pr/P0並びに比h1/d1及び比h2/d2が上記の通り、1.00以上及び0.05から0.7の範囲内であることが好ましいが、複数の中空部の一部に関してのみ比Pr/P0並びに比h1/d1及びh2/d2が1.00以上及び0.05から0.7の範囲内であってもよい。
本発明によれば、積層体の中空部に配された振動減衰体を所定に隙間なしに拘束し得る結果、安定な免震特性を得ることができ、加えて、積層方向における振動減衰体の一端部及び他端部に対する保持性を維持できる一方、積層方向における当該一端部及び他端部と積層方向における当該一端部及び他端部間の振動減衰体の中間部との境界領域で疲労を回避することができ、而して、地震エネルギ減衰能の低下を回避できる免震支持装置を提供することができる。
以下、本発明及びその実施の形態を、図に示す好ましい具体例に基づいて説明する。なお、本発明は本具体例に何等限定されないのである。
図1から図3に示す本例の免震支持装置1は、交互に積層された複数の円環状の弾性層2及び剛性層3に加えて、弾性層2及び剛性層3の円筒状の外周面4及び5を被覆した円筒状の被覆層6を有する円筒状の積層体7と、積層体7の積層方向(本例では、鉛直方向でもある)Vの一端面及び他端面である円環状の上端面8及び下端面9に取付けられた一端取付板及び他端取付板である円板状の上取付板10及び下取付板11と、弾性層2及び剛性層3並びに上取付板10及び下取付板11で取り囲まれていると共に上取付板10の積層方向Vの一方の面である円形の下面12から下取付板11の積層方向Vの一方の面である円板状の上面13まで積層方向Vに伸びた中空部14に、当該弾性層2の内周面15及び剛性層3の円筒状の内周面16並びに下面12及び上面13に対して隙間なしに配されていると共に積層方向Vに直交する方向、本例では、水平方向Hの塑性変形で振動エネルギを吸収する減衰材料からなる振動減衰体としての鉛プラグ17と、上取付板10を上端面8に、下取付板11を下端面9に夫々取付ける複数のボルト18及び19とを具備している。
厚さt1の天然ゴム製の円環状のゴム板からなる弾性層2の夫々は、積層方向Vのその一方の面及び他方の面である円環状の上面21及び下面22で、水平方向Hに平行なこれら平坦な上面21及び下面22に積層方向Vにおいて対面する剛性層3の積層方向Vの一方の面及び他方の面であって水平方向Hに平行な平坦な下面23及び上面24に夫々加硫接着されており、当該弾性層2の内周面15の夫々は、剛性層3間への鉛プラグ17の部分的な食い込みで凹面になっており、而して、各弾性層2の位置で鉛プラグ17の円筒状の外周面25は、凸面になっている。
弾性層2の夫々と同心に配された複数の剛性層3において、積層体7の積層方向Vの一端及び他端である最上端及び最下端の剛性層3の夫々は、積層方向Vの厚さt2の円環状の互いに同一の鋼板からなり、積層方向Vにおいて最上端の剛性層3と最下端の剛性層3との間に配された剛性層3の夫々は、弾性層2の厚さt1並びに最上端及び最下端の剛性層3の厚さt2よりも薄い積層方向Vの厚さt3(t3<t1且つt3<t2)の円環状の互いに同一の鋼板からなり、最上端の剛性層3は、その内周面16で規定されていると共に鉛プラグ17の積層方向Vの一方の端部である円柱状の上端部27が配された貫通孔28と、円環状の上面24で開口していると共に貫通孔28を中心として円周方向Rに等間隔に当該上面24に設けられた複数個の有底の螺子穴29とを具備しており、最下端の剛性層3は、その内周面16で規定されていると共に鉛プラグ17の積層方向Vの他方の端部である円柱状の下端部31が配された貫通孔32と、円環状の下面23で開口していると共に貫通孔32を中心として円周方向Rに等間隔に当該下面23に設けられた複数個の有底の螺子穴33とを具備している。
積層方向Vに直交する方向、本例では、水平方向Hにおいて厚さ5mm程度であって弾性層2と同一の天然ゴムからなると共に積層体7の外周面ともなる円筒状の外周面35並びに積層方向Vの一方及び他方の面としての円環状の上端面36及び下端面37を有した被覆層6は、その円筒状の内周面38で外周面4及び5に加硫接着されている。
而して、水平方向Hに平行な平坦な上端面8は、上面24と上端面36とを具備しており、同じく水平方向Hに平行な下端面9は、下面23と下端面37とを具備している。
上取付板10は、鉛プラグ17の上端部27の積層方向Vの一方の面としての円形であって水平方向Hに平行である平坦な上端面41並びに最上端の剛性層3の上面24及び被覆層6の上端面36からなる上端面8が接触すると共に水平方向Hに平行である平坦な下面12に加えて、積層方向Vの他方の面としての円形であって水平方向Hに平行である平坦な上面42と、上面42で開口していると共に貫通孔28を中心として円周方向Rに等間隔に当該上面42に設けられた複数個の凹所43と、凹所43に連通する一方、下面12で開口すると共に螺子穴29に対応して貫通孔28を中心として円周方向Rに等間隔に設けられた貫通孔44と、円筒状の側面45と、水平方向Hにおいて側面45の近傍に貫通孔28を中心として円周方向Rに等間隔に設けられた複数個の貫通孔46とを具備しており、斯かる上取付板10は、各凹所43及び各貫通孔44に挿通されて各螺子穴29に螺合される各ボルト18により最上端の剛性層3に固定されるようになっている。
下取付板11は、鉛プラグ17の下端部31の積層方向Vの一方の面としての円形であって水平方向Hに平行である平坦な下端面51並びに最下端の剛性層3の下面23及び被覆層6の下端面37からなる下端面9が接触すると共に水平方向Hに平行である平坦な上面13に加えて、積層方向Vの他方の面としての円形であって水平方向Hに平行である平坦な下面52と、下面52で開口していると共に貫通孔28を中心として円周方向Rに等間隔に当該下面52に設けられた複数個の凹所53と、凹所53に連通する一方、上面13で開口すると共に螺子穴33に対応して貫通孔28を中心として円周方向Rに等間隔に設けられた貫通孔54と、円筒状の側面55と、水平方向Hにおいて側面55の近傍に貫通孔28を中心として円周方向Rに等間隔に設けられた複数個の貫通孔56とを具備しており、斯かる下取付板11は、各凹所53及び各貫通孔54に挿通されて各螺子穴33に螺合される各ボルト19により最下端の剛性層3に固定されるようになっている。
各弾性層2の内周面15、各剛性層3の内周面16、下面12及び上面13で規定された中空部14に配された鉛プラグ17は、最上端の剛性層3の内周面16で規定された中空部14の積層方向Vの一端に配された上端部27と、最下端の剛性層3の内周面16で規定された中空部14の積層方向Vの他端に配された下端部31とに加えて、積層方向Vにおけるこれら上端部27及び下端部31間の中空部14に配された中間部61を具備しており、中間部61は、積層方向Vにおいて最上端及び最下端の剛性層3間の複数の弾性層2の内周面15及び複数の剛性層3の内周面16で規定されており、中間部61の積層方向Vの一端から上端面41までの鉛プラグ17の上端部27の積層方向Vの長さh1(最上端の剛性層3の積層方向Vの厚さt2に等しい)及び中間部61の積層方向Vの他端から下端面51までの鉛プラグ17の下端部31の積層方向Vの長さh2(最下端の剛性層3の積層方向Vの厚さt2に等しく、従って、本例では、h1=h2)と、積層方向Vに対して直交する方向であって図4に示す免震における中間部61の剪断変形方向、本例では水平方向Hの当該上端部27及び下端部31の径d1及びd2(本例では、上端面41及び下端面51の直径であって、しかも、d1=d2であり、加えて、内周面16の径d3と同一、即ち、d1=d2=d3である)との比h1/d1及び比h2/d2の夫々は、0.05から0.7の範囲内、本例では、0.5である。
塑性変形で振動エネルギを吸収する減衰材料である鉛の中空部14への圧入、充填により作成された鉛プラグ17は、支持する上部の構造物65(図4参照)からの積層方向Vの荷重、本例では、積層方向Vの下向きの力、即ち、鉛直荷重Wが上取付板10に加えられていない状態(無荷重下)でも、内周面15及び16並びに下面12及び上面13に対して隙間なしに配されていると共に弾性層2の弾性力に抗して弾性層2に向って水平方向(剪断方向)Hに張り出して弾性層2に部分的に若干食い込み、弾性層2の内周面15を凹面にする結果、内周面15及び16からなる積層体7の内周面66は、当該弾性層2の内周面15の位置で凹面になっている一方、最上端の剛性層3と最下端の剛性層3との間に配された剛性層3の内周面16の位置で凸面になっており、支持する上部の構造物65からの積層方向Vの鉛直荷重Wが上取付板10に加えられた状態(荷重下)では、弾性層2が積層方向Vにおいて圧縮されて弾性層2の厚みt1が無荷重下の厚みt1よりも小さくなって、積層体7の高さh、延いては、免震支持装置1の高さが低くなる結果、中空部14に圧入、充填された鉛プラグ17は、弾性層2の弾性力に抗して当該弾性層2の弾性変形により水平方向Hに張り出して弾性層2に食い込み、弾性層2の内周面15をより大きく水平方向Hに凹んだ凹面にする。
斯かる鉛プラグ17は、支持する上部の構造物65からの積層方向Vの鉛直荷重Wが上取付板10に加えられた状態での当該鉛直荷重Wに基づく当該鉛プラグ17からの上取付板10への反力(積層方向Vの上向きの力)Frによる面圧Pr(=Fr/(鉛プラグ17の一端面41の面積)N/m2、但しNはニュートン、以下、同じ)と当該鉛直荷重Wに基づく積層体7の当該鉛直荷重Wに対する受圧面での面圧P0(=W/(積層体7の鉛直荷重Wに対する受圧面積である上端面8の面積)N/m2)との比Pr/P0が1.00以上になるように、中空部14に密に配されている。
上取付板10に加わると共に下取付板11に向かう積層方向Vの鉛直荷重Wを積層体7及び鉛プラグ17で支持するようになっている以上の免震支持装置1は、図4に示すように、上取付板10が貫通孔46に挿入されたアンカーボルト71を介して構造物65に、下取付板11が貫通孔56に挿入されたアンカーボルト72を介して基礎等の下部の構造物73に夫々固定されて構造物65及び73間に配され、構造物65の鉛直荷重Wを受けて、上取付板10に加わる積層方向Vの鉛直荷重Wを積層体7及び鉛プラグ17で支持すると共に地震においては図4に示すように下取付板11の水平方向Hの振動の上取付板10への伝達を積層体7の水平方向Hの剪断弾性変形で抑制する一方、下取付板11に対しての上取付板10の水平方向Hの振動を鉛プラグ17の水平方向Hの塑性変形で減衰させるようになっている。
免震支持装置1を製造する場合には、まず、弾性層2となる円環状の厚さt1で且つ内周面16の径d3と同一の径を有した凹面に変形する前の内周面15をもった複数枚のゴム板と最上端及び最下端の剛性層3間の剛性層3となる円環状の厚さt3及び径d3の内周面16を有した複数枚の鋼板とを交互に積層して、その下面及び上面に最上端及び最下端の剛性層3となる円環状の厚さt2及び径d1=d2(=d3≧t2)の内周面16を有した鋼板を配置し、型内における加圧下での加硫接着等によりこれらを相互に固定してなる積層体7を形成し、その後、ボルト19を介して下取付板11を最下端の剛性層3に固定し、次に、鉛プラグ17を中空部14に形成すべく、中空部14に鉛を圧入する。鉛の圧入は、鉛プラグ17が積層体7により中空部14において隙間なしに拘束されるように、鉛を中空部14に油圧ラム等により押し込んで行い、鉛の圧入後、ボルト18を介して上取付板10を最上端の剛性層3に固定する。なお、型内における加圧下での加硫接着による積層体7の形成において、弾性層2及び剛性層3の外周面4及び5を覆って被覆層6となるゴムシートを外周面4及び5に捲き付け、該加硫接着と同時に、弾性層2及び剛性層3の外周面4及び5に加硫接着された被覆層6を形成してもよい。また斯かる形成において、弾性層2となるゴム板の内周側の一部が流動して、剛性層3の内周面16、好ましくは最上端及び最下端の剛性層3間の剛性層3の内周面16を覆って、被覆層6の厚さよりも充分に薄い被覆層が形成されてもよい。
製造された免震支持装置1が面圧Prと面圧P0との比Pr/P0が1.00以上であることを確認するために、言い換えると、面圧Prと面圧P0との比Pr/P0が1.00以上である免震支持装置1を製造するために、ロードセル(圧力センサ)からのリード線を導出し得る細孔が形成された仮の上取付板10を準備し、鉛の圧入後、ロードセルを仮の上取付板10の下面12と鉛プラグ17の上端面41との間にロードセルを介在させ、ロードセルからのリード線を仮の上取付板10に形成された細孔から導出して、ボルト18を介して仮の上取付板10を最上端の剛性層3に固定し、仮の上取付板10に本免震支持装置1で支持する予定の鉛直荷重Wを加えた状態でこの導出されたリード線の電気信号を測定して、この測定した電気信号から面圧Prを検出し、この検出した面圧Prと面圧P0とから比Pr/P0を求め、比Pr/P0が1.00以上である場合には、仮の上取付板10への鉛直荷重Wの負荷を解除して仮の上取付板10を取り外し、本来の上取付板10を一端の剛性層3にボルト19を介して固定し、比Pr/P0が1.00よりも小さい場合には、仮の上取付板10への本免震支持装置1で支持する予定の鉛直荷重Wの負荷を解除して仮の上取付板10を取り外し、中空部14に追加の鉛を圧入する。追加の鉛の中空部14への圧入は、追加の鉛を中空部14の上部に油圧ラム等により押し込んで行う。追加の鉛の中空部14への圧入後、上記と同様にして仮の上取付板10を最上端の剛性層3にボルト18を介して固定し、ロードセルからの電気信号に基づく面圧Prと面圧P0とから比Pr/P0を求め、比Pr/P0が1.00以上である場合には、上記と同様にして仮の上取付板10に代えて本来の上取付板10を最上端の剛性層3にボルト19を介して固定する一方、比Pr/P0が1.00よりも小さい場合には、比Pr/P0が1.00以上になるまで、以上の追加の鉛の中空部14への圧入を繰り返す。
なお、比Pr/P0が1.00以上になる場合には、無荷重(W=0)で弾性層2の内周面15が必ずしも凹面に変形しなくてもよい。
こうして製造された免震支持装置1では、面圧Prと面圧P0との比Pr/P0が1.00以上であるために、中空部14に配された鉛プラグ17を所定に隙間なしに弾性層2及び剛性層3並びに上取付板10及び下取付板11で拘束し得る結果、安定な免震特性を得ることができ、加えて、比h1(=t2)/d1及びh2(=t2)/d2の夫々が、0.05以上であるために、免震における中間部61の水平方向Hの剪断変形で、積層方向Vにおける鉛プラグ17の上端部27及び下端部31に対する保持性を維持できる一方、比h1(=t2)/d1及びh2(=t2)/d2の夫々が、0.7以下であるために、中空部14の積層方向Vの一端及び他端から当該一端及び他端間の中空部14への鉛プラグ17の流動、換言すれば、中間部61から上端部27及び下端部31への並びに上端部27及び下端部31から中間部61への流動を容易にさせ、鉛プラグ17の上端部27及び下端部31と鉛プラグ17の中間部61との境界領域での鉛プラグ17の流動を生じさせ、境界領域での鉛プラグ17の固定化を回避できて、境界領域での鉛プラグ17の疲労を低減でき、而して、地震エネルギ減衰能の低下を回避できる。
実施例1から3の免震支持装置1
弾性層2:厚さt1=2.5mm、外周面4の径(外径)=250mm、変形前の円筒状の内周面15の径(内径)=50mmであって、せん断弾性率=G4の天然ゴムからなる円環状のゴム板を20枚使用
最上端及び最下端の剛性層3:夫々厚さt2=20mm、外周面5の径(外径)=250mm、内周面16の径d1及びd2=50mmの鋼板を使用
最上端及び最下端の剛性層3間の剛性層3:厚さt3=1.6mm、外周面5の径(外径)=250mm、内周面16の径(内径)=50mmの鋼板を19枚使用
被覆層6の厚さ=5mm
比h1/d1=t2/d1=0.4
比h2/d2=t2/d2=0.4
免震支持装置1において、支持する鉛直荷重W=600kNに対して、実施例1では、比Pr/P0=1.09となるように、実施例2では、比Pr/P0=2.02となるように、そして、実施例3では、比Pr/P0=2.50となるように、中空部14に鉛を充填した。
比較例1の免震支持装置
支持する鉛直荷重W=600kNに対して、比Pr/P0=0.73となるように中空部14に鉛を充填した以外、実施例1から3と同様の免震支持装置を製造した。
実施例1から3の免震支持装置1と比較例1の免震支持装置との夫々の上取付板10に鉛直荷重W=600kNを加えた状態で、最大±5mmの水平変位をもって上取付板10に対して下取付板11に水平方向Hに振動を加えた場合の水平変位−水平力(水平応力)の履歴特性を測定した結果を図5から図8に示す。図5から図7に示す履歴特性から明らかであるように、実施例1から3の免震支持装置1では、安定な免震特性を得ることができ、トリガ機能を有し、大振幅の地震に対して好ましく対応し得、また、図8に示す履歴特性から明らかであるように、比較例1の免震支持装置では、矢印で示すように凹みが生じて不安定な免震特性となり、トリガ機能を好ましく得ることができないことが判る。なお、比Pr/P0が5.90以下であれば、製造において中空部14への鉛の圧入が容易であり、それほど困難を伴わないことが判明した。また、比Pr/P0が5.90を超えるように、中空部14へ鉛を圧入しようとしたが、弾性層2の内周面15の損壊なしに、これを行うことは困難であることも判明した。
比Pr/P0が1.00となるように、鉛プラグ17が中空部14に配されていると、図5に示す履歴特性と同等の履歴特性が得られることも確認した。
地震エネルギ減衰能の低下を回避できることを確認するために、免震支持装置1に相当する以下の3個の免震支持装置を製造した。
3個の免震支持装置に対しての共通事項
弾性層2:厚さt1=5mm、外周面4=120mm角、外周面35=130mm角、変形前の円筒状の内周面15の径(内径)=30mmφであって、剪断弾性率=1.0(N/mm2)の天然ゴムからなる環状のゴム板を5枚使用。
最上端及び最下端の剛性層3:夫々厚さt2=22mm、外周面5=120mm角、内周面16の径d1及びd2=30mmφの鋼板を使用。
最上端及び最下端の剛性層3間の剛性層3:厚さt3=3.2mm、外周面5=120mm角、内周面16の径(内径)=d1=d2=30mmφの鋼板を4枚使用。
被覆層6の厚さ=5mm
鉛プラグ17:鉛直荷重Wを積層体7に付加しない状態での中空部14の容積の1倍の鉛を中空部14に充填した。
以上を共通事項として、3個の免震支持装置において、
第一の免震支持装置では、
h1/d1=h2/d2=0.3
第二の免震支持装置では、
h1/d1=h2/d2=0.7
第三の免震支持装置では、
h1/d1=h2/d2=0.1
とした。なお、この場合、鉛直荷重W=82kNを積層体7に加えた状態では、比Pr/P0は、h1/d1=h2/d2=0.3の際には、1.36、h1/d1=h2/d2=0.7の際には、1.24、そして、h1/d1=h2/d2=0.1の際には、2.24であった。
なお、斯かる比h1/d1及び比h2/d2を免震支持装置で得るために、貫通孔28及び32において、上端面41と下面12との間及び下端面51と上面13との間の夫々に所定の厚みを有するスペーサを介在させて、h1及びh2を変化させた。
第一、第二及び第三の免震支持装置において、上取付板10に鉛直荷重W=82kNを加えた状態で、最大±25mmの水平変位をもって上取付板10に対して下取付板11に水平方向Hに周期90秒で最大速度1.7mm/sをもった正弦波の繰り返し振動を500回加えて、図9に示す水平変位と水平力との履歴曲線81での切片荷重Qdについて、3回目の繰り返し振動に際してのその値Qd3と450回目の繰り返し振動に際してのその値Qd450との比(切片荷重比)=Qd450/Qd3を求めた。図10から明らかなように、第一の免震支持装置では、Qd450/Qd3=0.78、第二の免震支持装置では、Qd450/Qd3=0.91、そして、第三の免震支持装置では、Qd450/Qd3=0.73であった。
図10に示す比h1/d1及び比h2/d2と、3回目の繰り返し振動に際しての切片荷重Qd3に対する450回目の繰り返し振動に際しての切片荷重値Qd450の比(切片荷重比)=Qd450/Qd3との関係の試験結果から、比h1/d1及び比h2/d2が0.4近傍で最大の比Qd450/Qd3=0.92となり、比h1/d1及び比h2/d2が0.05未満であるか又は0.7を超えると、比Qd450/Qd3が略0.70以下となり、従って、履歴曲線81で囲まれる面積で表される地震エネルギ減衰能の低下は、比h1/d1及び比h2/d2が0.05から0.7の範囲内であると、それ程生じないで、比h1/d1及び比h2/d2が0.05未満であるか又は0.7を超えると、著しくなり、而して、比h1/d1及び比h2/d2が0.05から0.7の範囲内であると、地震エネルギ減衰能の低下を好ましく回避できる。
上記の例の免震支持装置1では、長さh1及び長さh2と厚さt2とは、互いに等しいが、長さh1及び長さh2のうちの少なくとも一方は、厚さt2よりも小さく(短く)てもよく、この場合には、貫通孔28及び32のうちの厚さt2よりも小さくなる長さh1及び長さh2のうちの少なくとも一方に対応する貫通孔に蓋等のスペーサを嵌装して、厚さt2よりも小さい(短い)長さ(h1、h2)を得るようにするとよく、また、上記の例の免震支持装置1では、上端部27を最上端の剛性層3で、下端部31を最下端の剛性層3で夫々水平方向Hに保持したが、これに代えて、最上端の剛性層3及び最下端の剛性層3を省いて、上取付板10及び下取付板11の夫々に蓋等で閉鎖されていると共に水平方向Hにおいて径d1及びd2を、そして、積層方向Vにおいて長さh1及びh2をもった貫通孔を設け、当該貫通孔の夫々にも鉛を圧入、充填して当該貫通孔の夫々に上端部27及び下端部31の夫々を形成し、鉛プラグ17を、上取付板10の内周面で規定された中空部の積層方向Vの一端である径d1及び長さh1の当該貫通孔に配された上端部27と、下取付板11の内周面で規定された中空部の積層方向の他端である径d2及び長さh2の当該貫通孔に配された下端部31と、積層方向Vにおけるこれら上端部27及び下端部31間の中空部に配された中間部61とを具備して構成してもよく、この場合、積層方向Vにおいて最上端及び最下端に配された弾性層2の夫々を上取付板10及び下取付板11の夫々に加硫接着して当該上取付板10及び下取付板11の夫々に固定するとよく、斯かる免震支持装置1でも、比h1/d1及び比h2/d2の夫々が、0.05から0.7の範囲内であると、上記の例の免震支持装置1と同等の効果を生じ得る。