次に、発明の実施形態について説明する。本実施の形態の装置は、第1ユニットとしての屋内装置(IDU)100と、アンテナ400を有する第2ユニットとしての屋外装置(ODU)200とに分離され、互いを同軸ケーブル300を介して接続する、分離型構成をとる。
図1は、この発明に係わる無線通信装置の構成の一例を示すブロック図である。図1において、無線通信装置は、主にディジタル変調信号を生成する、第1ユニットとしてのIDU100と、ディジタル変調信号を無線帯域化して送受信する第2ユニットとしてのODU200とを備える。IDU100は、ユーザ端末500からの通信信号の変復調処理を行うアナログ・デジタル回路などを備える。ODU2は、アンテナ400を介して無線信号を送受信する。ODU200とIDU100は同軸ケーブル300で接続される。
IDU100は、インタフェース部11、分離多重部12、1系信号処理部13、2系信号処理部14、およびプロセッサ15を備える。また、ODU200は、1系送受信部21、2系送受信部22、および合成分配器23を備える。
ここで、IDU100のプロセッサ15は、例えばCPU(Central Processing Unit)を主体とし、メモリに記憶されたプログラムに従って演算処理を実行するハードウェアである。プロセッサ15およびメモリを主体とするハードウェアと、プログラムとしてのソフトウェアとが協調的に動作することで、実施形態に係わる機能が実現される。すなわちIDU100は、ソフトウェアおよびハードウェアとの協調的な動作により機能を実現するコンピュータである。従って、ODU200を含む無線通信装置も、コンピュータである。
図1において、ユーザ端末500から出力されたユーザ信号は、例えば10Base−T、100Base−TなどのLAN(Local Area Network)インタフェースを持つインタフェース部11からIDU100に導入される。導入されたユーザ信号は分離多重部12で1系統に多重され、1系信号処理部13と2系信号処理部14とに分配される。
1系信号処理部13は、変調部30を有する。変調部30は、分配されたユーザ信号をディジタル変調して、ODU200の1系送受信部21へのディジタル変調信号を生成する。同様に、2系信号処理部14は変調部40を有し、この変調部40は、ユーザ信号をディジタル変調して、ODU200の2系送受信部22へのディジタル変調信号を生成する。変調方式としては例えばQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)方式、16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)方式、あるいは64QAM方式等がある。
変調部30および変調部40は、一方がオンのときは他方がオフとなるように、プロセッサ15の制御により互いに排他的に動作する。オフの変調部からの信号はODU200に出力されず、オンの変調部からのディジタル変調信号がODU200に届く。つまり、1系信号処理部13、または2系信号処理部14のいずれかからのディジタル変調信号が、同軸ケーブル300経由でODU200に届くこととなる。
ODU200の1系送受信部21は、増幅器10を備える。増幅器10は自動出力レベル制御機能(Automatic Level Control:ALC)を有し、1系信号処理部13からのディジタル変調信号を一定の送信レベルにまで増幅する。増幅されたディジタル変調信号は、合成分配器23を介してアンテナ400から放射される。
同様に、2系送受信部22は、増幅器20を備える。増幅器20はALC機能を有し、2系信号処理部14からのディジタル変調信号を一定の送信レベルにまで増幅する。増幅されたディジタル変調信号は、合成分配器23を介してアンテナ400から放射される。
ここで、1系信号処理部13からのディジタル変調信号と2系信号処理部14からのディジタル変調信号とが同時に入力されることは無いので、1系送受信部21からの送信信号、または2系送受信部22からの送信信号のいずれかが、アンテナ400から放射されることになる。
また、増幅器10のALC、および増幅器20のALCは、IDU100のプロセッサ15からの制御信号によりオン/オフ(有効/無効)切り替えされる。ALCをオフされた増幅器の増幅利得は、通常、最低値にまで抑えられる。
ODU200の1系送受信部21、および2系送受信部22は、互いに冗長系をなす。通常は、例えば1系送受信部21を用いて無線通信の運用がなされる。メンテナンスなどのため運用切替の必要が生じると、IDU100のプロセッサ15の制御のもとで1系送受信部21から2系送受信部22への運用切替が実行される。非常時の冗長切替においても、主にプロセッサ15による制御が実行される。以下では、1系送受信部21と2系送受信部22との間の運用切替について説明する。
ところで、プロセッサ15は、例えば組み込みソフトウェアによる制御機能として、切替制御部15aを備える。切替制御部15aは、運用切替に伴って切替先の送受信部(1系送受信部21または2系送受信部22)の増幅器(増幅器10または増幅器20)の利得を既定値に設定する。さらに、第1変調部としての変調部30と、第2変調部としての変調部40とを、ディジタル変調信号のプリアンブル信号の期間内でオン/オフ切替する。
ここで、増幅器の利得の既定値は予めデフォルトで設定された値でもよい。あるいは、運用開始に先立つトレーニング期間で設定された値を上記既定値としても良い。また、切替制御部15aは、変調部30、40のオン/オフ切替の後に、切替先の送受信部の増幅器のALCを有効にする。
図2は、ディジタル変調信号の信号フォーマットの一例を示す図である。実施形態において、ディジタル変調信号は、フレーム同期信号、ユーザ情報を載せるためのペイロード、誤り訂正符号(CRC)をそれぞれ含む各フィールドに加えて、プリアンブル信号を伝送するためのフィールドを含む。
プリアンブル信号とは、例えば、フレーム同期を確立させるために設けられ、ユーザ信号に直接関係するデータは含まない信号である。例えば、255シンボルのBPSK信号を利用することができる。この場合、プリアンブル信号の期間は255シンボル期間となる。
図3は、上記構成における無線通信装置の処理手順の一例を示すフローチャートである以下の手順においては、1系送受信部21から2系送受信部22への冗長切替(運用切替)について説明する。2系送受信部22から1系送受信部21への切替(切戻し)も、逆の手順を踏むことで同様に可能である。
図3において、無線通信装置の据え付けが完了すると、対向する通信装置(例えば通信衛星等)との間での通信環境を最適にするためのトレーニング処理が開始される(ステップS1)。トレーニング処理により、1系送受信部21の増幅器10の送信利得が最適化される。
トレーニングが開始されて通信状態が安定すると(ステップS2でYes)、増幅器10の利得の最適値が例えばIDU100のメモリ(図示せず)に記憶され、増幅器10の利得もその値に設定される(ステップS4)。この時の利得の最適値を、利得Aとする。また、増幅器10のALCがオンされる。これにより、IDU100からのディジタル変調信号が届くと、1系送受信部21により増幅されてアンテナ400から放射される状態になる。
このとき、2系送受信部22側の増幅器20のALCはオフされる(ステップS5)また、IDU100においては、1系信号処理部13の変調部30がオンされ、2系信号処理部14の変調部40がオフされる(ステップS6)。
この状態から、無線通信装置は冗長切替の開始を待ち受ける(ステップS7)。切替が開始されると(ステップS7でYes)、切替制御部15aは、ODU200の2系送受信部22の増幅器20の利得を利得Aにセットしたのち(ステップS8)、IDU100の1系信号処理部13の変調部30がオフされ、2系信号処理部14の変調部40がオンされる(ステップS9)。これにより、IDU100からのディジタル変調信号が2系送受信部22に届いた状態となる。最後に、2系送受信部22の増幅器20のALCがオンされ(ステップS10)、ディジタル変調信号は、2系送受信部22により増幅されてアンテナ400から放射される。以上の手順で、1系送受信部21から2系送受信部22への切替が完了する。
図4は、比較のため既存の一体型の無線通信装置の一例を示す図である。一体型装置において、現用系送信機800および予備系送信機900は、ともに規定出力レベルの無線周波数信号を常時出力し、いずれかの送信機の出力をPINダイオード700で選択的に切り替え、アンテナ400に導くようになっている。PINダイオード700の切替時間が非常に高速である(μsオーダ)ので、伝送信号の欠損(データ誤り)は無視できるといえる。
しかしながら分離型装置では、ODU200の構成に制約があるので、PINダイオード等の高速の素子を使うことが難しい。実施形態ではその代替として、図1に示されるように、合成分配器23を用いている。そして、IDU100の1系信号処理部13および2系信号処理部14の一方からのみ、規定レベルのディジタル変調信号を出力することで、ODU200側では、1系送受信部21、または2系送受信部22の一方だけを動作させ、他方を亭波させるようにしていた。
しかしながら亭波中の系を運用系に切り替えるとき、増幅器のALCの時定数が大きく、送信レベルが規定レベルで安定するまでにほぼ1秒程度かかる。よって切替前後のレベル差が大きくなり(例えば15dB程度)、64QAM等の直交振幅変調方式においては、符号誤り、さらに同期外れが発生し、切替時の信号断時間が長くなってしまっていた。
そこで、この実施形態では、運用切替に際して待機側の増幅器の初期利得値を、予めトレーニングしておいた、定常運用時における利得値Aに固定し、その後、送信波を変調部から送出するようにした。このようにすることで、送信切替前後の送信出力レベルを同一にすることが可能となり、符号誤りを抑圧することができる。
さらに、IDU100の変調部30、40のオン/オフを、プリアンブル信号の期間(例えば先頭タイミング)で切り替えるようにした。すなわち、IDU100から送出されるディジタル変調信号の切替のタイミングを、伝送クロックの位相単位で合わせるようにした。これは、例えば、プロセッサ15からのオン/オフ切替信号を、プリアンブル信号に同期するフレームパルスでサンプリングすることで実現できる。
このようにすることで、切替えた際に符号誤りが発生した場合でも主信号への影響は無く、またプリアンブル期間をBPSK信号とすることで、切替時のレベル差、位相差に対する受信機の追従を早くすることができ、プリアンブル期間内に同期を確立することが可能となる。従って、送信信号の無瞬断切替が可能となる。さらに、通信回線の使用状況によらずに運用切替を実施することができ、保守点検が実施しやすくなる。
これらのことから、実施形態によれば、信号切替に伴う信号断を防止し得る無線通信装置および運用切替方法を提供することが可能となる。
なお、この発明は上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、運用切替に際して、切替先の送受信部の増幅器の利得を、トレーニングで得られた最適値(利得A)にセットするようにした。これに代えて、切替先の送受信部の増幅器の利得を、切替元の送受信部の増幅器の利得の現在値に設定してもよい。
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示するものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。