1.第1の実施形態
本実施形態は、塗装金属素形材に熱可塑性樹脂組成物の成形体(以下、単に「成形体」ともいう。)を接合させて、これらが接合した複合体を製造するための装置、および当該装置を用いた複合体の製造方法に関する。
1−1.塗装金属素形材
塗装金属素形材は、金属素形材と、金属素形材の表面に予め形成された有機樹脂層と、を有する複合材である。
(金属素形材)
金属素形材は、金属に熱および力などが加えられ、形を与えられたものである。金属素形材の例には、金属板およびそのプレス成形品、ならびに、鋳造、鍛造、切削および粉末冶金などの方法で成形された金属製の部材が含まれる。
金属素形材を構成する金属の種類は、磁界を付与されたときに電磁誘導により発熱可能な金属であれば、特に限定されない。たとえば、上記金属の種類は、鉄であってもよいし、鉄以外の金属であってもよいし、合金であってもよい。金属素形材の例には、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板、Zn−Al合金めっき鋼板、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、ステンレス鋼板(オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、フェライト・マルテンサイト二相系を含む)、アルミニウム板、アルミニウム合金板、銅板などの金属板や、そのプレス加工品、あるいは、アルミダイカスト、亜鉛ダイカストなどの鋳造・鍛造物や、切削加工、粉末冶金などにより成形された各種金属部材などが含まれる。金属素形材は、必要に応じて、脱脂、酸洗などの公知の塗装前処理が施されていてもよい。
金属素形材の形状は、後述する成形体が接合する形状であれば、特に限定されない。走行路の走行および加圧ロールによる接合を容易にする観点からは、金属素形材は、板状、シート状またはフィルム状であることが好ましく、厚みが0.01mm以上6mm以下であることが好ましい。金属素形材の厚みが0.01mm以上であると、引張り張力などにより金属素形材が切断されにくい。一方、金属素形材の厚みが6mm以下であると、金属素形材をコイル状に巻取りやすい。
金属素形材の表面には、金属素形材と有機樹脂層の間の密着性および塗装金属素形材の耐食性を向上させるための表面処理皮膜が形成されてもよい。表面処理皮膜を形成する表面処理の種類は、特に限定されない。表面処理の例には、クロメート処理、クロムフリー処理、リン酸塩処理などが含まれる。
(有機樹脂層)
有機樹脂層は、有機樹脂を含有する層であり、成形体に対する塗装金属素形材の接合力を高めるための接着層である。有機樹脂層は、金属素形材の表面に接して形成されてもよいし、金属素形材の表面に形成された表面処理皮膜の表面に接して形成されてもよい。本実施形態では、有機樹脂層は、板状の金属素形材の両面に形成されている。
上記有機樹脂は、金属素形材と水素結合する官能基(水素結合性官能基)を有し、上記成形体を構成する熱可塑性樹脂組成物に対する溶着性を有する樹脂であればよい。なお、上記水素結合性官能基の例には、カルボキシル基およびアミノ基が含まれる。たとえば、上記熱可塑性樹脂組成物がポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂組成物、ポリアミド(PA)系樹脂組成物、またはアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)系樹脂組成物であれば、上記有機樹脂は、ポリウレタン系樹脂を含むことが好ましい。また、上記熱可塑性樹脂組成物がポリプロピレン(PP)系樹脂組成物であれば、上記有機樹脂は、ポリプロピレン系樹脂を含むことが好ましい。有機樹脂は、一種でもそれ以上でもよい。
上記ポリプロピレン系樹脂は、ポリプロピレン骨格と、上記水素結合性官能基とを含む高分子化合物である。上記ポリプロピレン系樹脂の例には、酸変性ポリプロピレンが含まれる。上記酸変性ポリプロピレンの酸価は、1mgKOH/g以下以上500mgKOH/g以下であることが好ましい。
上記ポリウレタン系樹脂は、ポリウレタン骨格と、上記水素結合性官能基とを含む高分子化合物である。上記ポリウレタン系樹脂の例には、ポリカーボネート含有ポリウレタン(以下、「PC含有ポリウレタン」とも言う。)が含まれる。PC含有ポリウレタンは、金属素形材に対する接着性と熱可塑性樹脂組成物に対する溶着性との両方を高める観点から、有機樹脂層におけるポリカーボネートユニットの含有量が、有機樹脂層中の全樹脂の質量に対して15質量%以上80質量%以下となる量のポリカーボネートユニットを有することが好ましい。
有機樹脂層は、金属素形材への接着強度および成形体への溶着強度を顕著に損ねない範囲において、添加剤をさらに含有していてもよい。当該添加剤の例には、防錆剤、リン化合物、潤滑剤、消泡剤、エッチング剤、無機化合物、および色材などが含まれる。
有機樹脂層の厚さは、0.2μm以上であることが好ましい。有機樹脂層の厚さが0.2μm以上であると、上記成形体に対する塗装金属素形材の接合力をより高めることができ、また、有機樹脂層中に任意に含まれる添加物の機能(例えば、防錆剤の防錆作用)を十分に発現させることができる。有機樹脂層の厚さの上限値は、特に限定されないが、上記の効果が頭打ちになる観点や、生産性の観点、コストの観点などから決めることができる。たとえば、有機樹脂層の厚さは、10μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましい。
上記形成される有機樹脂層を構成する組成物の融点は、上記成形体と同等以下が好ましく、例えば60℃以上160℃以下であることが好ましい。上記組成物の融点が60℃以上であると、比較的低温で有機樹脂層が軟化してしまうことによる、塗装金属素形材の耐ブロッキング性の低下を抑制することができる。上記組成物の融点が160℃以下であると、上記成形体に対する塗装金属素形材の接合性をより高めることができる。上記樹脂組成物の融点は、有機樹脂の種類および添加剤の使用などによって調整することが可能である。
上記有機樹脂層は、金属素形材の表面のうち密着部(溶着部)が形成される領域を均一に被覆してもよいし、上記領域に分散されて金属素形材の表面を被覆してもよい。
1−2.成形体
成形体は、熱可塑性樹脂組成物に熱および力などが加えられ、形を与えられたものである。成形体は、特に限定されないものの、熱可塑性樹脂組成物の射出成形品、インサート成形品、ブロー成形品、押出成形品、インフレーション成形品および積層成形品など、ならびにこれらの二次加工品とすることができる。
熱可塑性樹脂組成物は、加熱および加圧により上記有機樹脂層を構成する有機樹脂と溶着する組成物であればよく、たとえば、ポリプロピレン(PP)系樹脂組成物、ポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂組成物、ポリアミド(PA)系樹脂組成物、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)系樹脂組成物、ポリ塩化ビニル(PVC)系樹脂組成物、ポリウレタン(PU)系樹脂組成物、メタクリル酸(PMMA)系樹脂組成物、ポリエチレン(PE)系樹脂組成物、ポリアセタール(POM)系樹脂組成物、および、これらの組み合わせなどとすることができる。
成形体の形状は特に限定されず、密着部(溶着部)において十分な広さで上記有機樹脂層と接することができればよい。加圧ロールによる接合を容易にする観点からは、成形体は、布状、織物状、繊維状、板状、シート状およびフィルム状などの、厚みが小さい平面形状であることが好ましく、厚みが0.01mm以上50mm以下であることが好ましい。また、成形体は、繊維強化プラスチック類(FRTPおよびCFRTPなど)であってもよい。成形体の上記有機樹脂層と接する面は、上記有機樹脂層を構成する組成物と同じ種類の樹脂組成物により被覆されてもよい。金属素形材の厚みが0.01mm以上であると、引張張力による切断が生じにくい。金属素形材の厚みが6mm以下であると、コイル状に巻き取ることができる。
1−3.複合体の製造装置
(装置の構成)
図1は、本発明の第1の実施形態に関する、複合体を製造する装置100の概略を示す模式的な構成図である。装置100は、塗装金属素形材MCが走行する走行路110、ならびに、走行路110に沿って上流側から下流側に向けてこの順で配置された、成形体配置部130、加熱部140、加圧ロール150、および成形体冷却部160を有する。図2は、図1に点線で示した領域の拡大図であり、装置100が有する加熱部140、加圧ロール150、および成形体冷却部160の概略を示す模式的な構成図である。
走行路110は、塗装金属素形材MCを走行させて、後述の各構成部に順に供給できるものであればよい。走行路110には、走行する塗装金属素形材MCを支持するための支持ローラー172および174が適宜配置されてもよい。走行路110の最上流側には、コイル状に巻かれた塗装金属素形材MCを繰り出して走行路110に供給する繰出部182が設けられてもよいし、走行路110の最下流側には、塗装金属素形材MCに熱可塑性樹脂組成物の成形体Aが接合した複合体をコイル状に巻き取る巻取部184が設けられてもよい。走行路110の距離および塗装金属素形材MCを走行させる速度は、特に限定されず、後述する各構成部による処理に応じて適宜設定され得る。あるいは、走行路110の最下流側には、塗装金属素形材MCに熱可塑性樹脂組成物の成形体Aが接合した複合体を収納のために切断する切断部(不図示)が設けられてもよい。
走行路110は、切れ目なく供給された塗装金属素形材MCを連続して走行させてもよいし、予め走行方向に切断された1枚または複数枚の塗装金属素形材MCを断続的に走行させてもよい。
走行路110は、塗装金属素形材MCを、少なくとも成形体配置部130および加圧ロール150と塗装金属素形材MCとが接する領域において、有機樹脂層が外側(成形体配置部130および加圧ロール150に面する側)となるように走行させる。
成形体配置部130は、上記走行する塗装金属素形材MCの表面に、成形体Aを配置する。成形体配置部130は、たとえば、コイル状に巻かれた成形体Aを繰り出す成形体繰出部132と、繰り出された成形体Aを塗装金属素形材MCの表面に導く成形体供給路134と、を有する構成とすることができる。
成形体配置部130は、成形体Aを、塗装金属素形材MCの表面のうち、少なくとも密着部(溶着部)において上記有機樹脂層と接するように、配置する。
本実施形態では、成形体配置部130は、成形体Aを、板状の金属素形材の両面に配置する。
成形体Aは、切れ目なく連続的に供給されて配置されてもよいし、断続的に供給されて配置されてもよい。たとえば、成形体Aは、切れ目なく供給された塗装金属素形材MCが連続して走行路110を走行するときは、切れ目なく連続的に供給されて塗装金属素形材MCの表面に配置されることができる。
加熱部140は、上記走行する塗装金属素形材MCを、上記有機樹脂層と成形体Aとが溶着可能となる温度に加熱する。加熱部140は、塗装金属素形材MCを、その表面が上記溶着可能となる温度になるように加熱すればよい。加熱部140は、本実施形態では加圧ロール150の内部に配置された複数の誘導加熱コイル142である。
加圧ロール150は、走行路110を挟んで配置された一対の加圧ロールであり、塗装金属素形材MCの表面に配置された成形体Aを圧下する。これにより、塗装金属素形材MCが有する有機樹脂層と成形体Aとが溶着する。なお、本明細書において、「圧下」とは、塗装金属素形材MCの表面に配置された成形体Aに加圧して、成形体Aを塗装金属素形材MCの方向に押し付けることを意味する。
成形体冷却部160は、加圧ロール150によって圧下された成形体Aを冷却する。成形体冷却部160は、ロールの回転方向に沿ってロールの内部に配置された複数の水冷管162を有する水冷ロールであり、水冷管162によって冷却された表面が成形体Aの表面と接することによって成形体Aを冷却する、ローラー冷却方式の冷却部である。これにより、成形体冷却部160は、塗装金属素形材MCが有する有機樹脂層と成形体Aとが密着部において融着した融着部位を冷却により収縮させて、塗装金属素形材MCと成形体Aとの接合を強固にすることができる。また、成形体冷却部160は、成形体Aとの摩擦などにより加圧ロール150の内部に蓄積して、圧下時の加圧ロール150と成形体Aとの接触により加圧ロール150の表面154から成形体Aに移動した熱、および加熱された塗装金属素形材MCから圧下後の成形体Aに移動した熱などによる、成形体Aの熱による変形を抑制することもできる。また、成形体冷却部160は、塗装金属素形材MCが有する金属素形材を冷却して、より下流側で塗装金属素形材MCから成形体Aに移動した熱などによる、成形体Aの熱による変形を抑制することもできる。
成形体冷却部160の成形体Aと接触する表面の温度は、冷却によって成形体Aが不要に収縮することによる成形体Aの顕著な変形が生じず、かつ、熱による成形体Aの変形が抑制される程度に冷却できる温度であればよい。
(加圧ロールの構成)
一対の加圧ロール150は、いずれも、回転本体部152と、いずれも回転本体部152の内部に配置された、加熱部140である複数の誘導加熱コイル142および表面冷却部である複数の水冷管156と、を有する。
回転本体部152は、上記走行する塗装金属素形材MCの表面に配置された成形体Aと接触する表面154を有する。回転本体部152は、表面154で成形体Aと接触して成形体Aを圧下する。これにより、塗装金属素形材MCが有する加熱された有機樹脂層と成形体Aとが溶着する。
回転本体部152は、加圧ロール150の表面154から成形体Aへの熱が移動することによる、成形体Aの熱による変形を抑制する観点から、誘導発熱しないか、または誘導発熱による発熱量が金属素形材を構成する金属よりも顕著に小さい材料(以下、単に「低誘導発熱材料」ともいう。)から構成されることが好ましい。たとえば、回転本体部152の材料は、金属以外であればよく、各種セラミックスおよびシリコンナイトライド(Si3N4)などとすることができる。ただし、表面154がゴムなどの熱伝導率が低い材料で被覆されるときは、回転本体部152は、金属などの誘導発熱する材料で構成されてもよい。
成形体Aと接触する表面154は、加圧ロール150の回転軸方向に一定の径を有する、断面形状が略円形に加工された表面である。表面154は、表面154の汚れおよび疵つきなどを抑制して、複合体への汚れの付着および融着不足などを抑制する観点から、ゴムなどの弾性材料で被覆されていてもよい。
成形体Aと接触する表面154は、回転本体部152の全体が上記低誘導発熱材料で構成されたり、または上記ゴムなどの熱伝導率が低い材料で被覆されたりすることで、回転本体部152から成形体Aへの熱移動が制限されている。言い換えると、成形体Aと接触する表面154は、表面154を通じての熱移動による成形体Aと塗装金属素形材MCとの熱圧着を目的とする構成ではない。
成形体Aと接触する表面154は、成形体Aの熱による変形を抑制する観点から、成形体Aと接触するときの温度が、成形体Aの軟化点よりも低いことが好ましく、60℃以下であることが好ましい。上記軟化点は、たとえば、JIS K 7206(2013年)に準じて測定されるビカット軟化温度とすることができる。
加熱部140は、上記走行する塗装金属素形材MCを、上記有機樹脂層と成形体Aとが溶着可能となる温度に加熱する。加熱部140は、金属素形材を誘導加熱して、その表面に配置された有機樹脂層が成形体Aと溶着可能となる温度に金属素形材の表面を昇温させる。加熱部140は、本実施形態では加圧ロール150の内部に配置された複数の誘導加熱コイル142である。
上記複数の誘導加熱コイル142は、図2に示されるように、加圧ロール150の内部に、加圧ロール150の周方向に沿って配列される。また、上記複数の誘導加熱コイル142のそれぞれは、加圧ロール150の回転に付随して回転可能に配置される。
上記複数の誘導加熱コイル142のそれぞれは、高周波電流の供給およびその供給の停止を制御されることで、磁界の形成および磁界の形成の停止を制御可能に、不図示の電源に接続される。たとえば、上記複数の誘導加熱コイル142のそれぞれは、独立して高周波電流の供給およびその供給の停止を制御可能な異なる電源装置に接続されてもよいし、高周波電流の供給およびその供給の停止を制御する異なる駆動回路により共通する電源装置に接続されてもよい。なお、後述するように、本実施形態における高周波電流の供給およびその供給の停止は、回転軌道上の位置という比較的簡易な条件で制御され得る。そのため、上記複数の誘導加熱コイル142のそれぞれは、加圧ロール150の回転に伴う回転時に、回転軌道上のある位置を通過するときは高周波電流を供給し、別の位置を通過するときは高周波電流の供給を停止するスイッチにより、共通する電源装置に接続されてもよい。
加圧ロール150の内部に配置された上記複数の誘導加熱コイル142のそれぞれは、高周波電流の供給により加圧ロール150の内部から走行路110に磁界を発生して、走行路110を走行する塗装金属素形材MCを誘導加熱する。このとき、上記複数の誘導加熱コイル142のそれぞれは、加圧ロール150の内部から磁界を発生するため、その表面に成形体Aが配置されて走行する塗装金属素形材MCを、加圧ロール150に圧下される直前に誘導加熱できる。
具体的には、図2に示す16個の誘導加熱コイル142のうち、走行路110の上流側かつ走行路110側の方向に向いた5つの誘導加熱コイル142aには高周波電流を供給し、これらの誘導加熱コイル142aには磁界を発生させる。これにより、走行路110の加圧ロール150より上流側においては、走行する塗装金属素形材MCが有する金属素形材が渦電流により発熱する。このとき、誘導加熱コイル142aへ供給する電力の大きさを調整することで、塗装金属素形材MCと成形体Aとの上記密着部における界面近傍を、加圧ロール150の圧下によって接合できる程度に十分に加熱し、かつ、成形体Aの内部を必要以上に加熱しないように、金属素形材からの発熱量を調整することができる。
上記高周波電流を供給された誘導加熱コイル142は、磁界の形成により上記金属素形材を発熱させる。そのため、上記高周波電流を供給された誘導加熱コイル142は、塗装金属素形材MCおよび成形体Aを、金属素形材から加熱して、有機樹脂層、有機樹脂層と成形体Aとの界面、および成形体Aの内部、の順に昇温させる。このようにして、上記高周波電流を供給された誘導加熱コイル142は、有機樹脂層、および、成形体Aの内部のうち塗装金属素形材MC(有機樹脂層)との界面の近傍(図2に網掛で示した昇温部AHを参照)、を加熱して、上記界面を接合面とする塗装金属素形材MCとの接合(加熱された有機樹脂層との融着)を可能とする。一方で、誘導加熱コイル142は、金属素形材からの発熱量を調整するように高周波電流を供給されるため、成形体Aの内部のうち、塗装金属素形材MCとは反対側の表面の近傍はさほど昇温させない。
なお、加熱された加圧ロールにより成形体Aおよび塗装金属素形材MCを加熱してこれらを溶着(接合)させようとすると、成形体Aの内部での熱損失(熱吸収)を考慮して、溶着に必要な量よりも多い熱量を上記反対側の表面から成形体Aに付与する必要がある。この熱は、成形体Aの変形の原因となり得る。これに対し、上記高周波電流を供給された誘導加熱コイル142により、金属素形材を加熱することで、塗装金属素形材MCが有する有機樹脂層との溶着に寄与しない成形体Aの上記反対側の表面側が不要に加熱されることによる、成形体Aの熱による変形を抑制することができる。
ここで、図2に示す16個の誘導加熱コイル142のうち、走行路110の下流側または走行路とは反対方向に向いた11個の誘導加熱コイル142bには、高周波電流の供給を停止し、これらの誘導加熱コイル142bからの磁界の発生を停止させる。これにより、走行路110の加圧ロール150より下流側においては、塗装金属素形材MCが有する金属素形材の誘導加熱が抑制され、塗装金属素形材MCから加圧後の成形体Aへの不要な加熱を抑制して、圧下された後の成形体Aの熱による変形を抑制することができる。
上記高周波電流は、交流電流でもよいし、断続的な直流電流でもよい。
誘導加熱コイル142へ供給する電力の大きさは、上記金属素形材の種類、高周波電流を供給された誘導加熱コイル142と金属素形材との間の距離、および加圧による上記密着部の目標温度により調整すればよい。たとえば、金属素形材が普通鋼およびフェライト系のステンレス鋼板などであるときは、比較的小さい電力、たとえば0.5kW以上で金属素形材を誘導発熱可能であり、金属素形材がアルミ合金、オーステナイト系のステンレス鋼板および銅板などを含むときは、より電力を大きな、たとえば3kW以上で金属素形材を誘導発熱させればよい。
加熱による上記密着部の目標温度は、上記有機樹脂層を構成する有機樹脂が溶解する温度(以下、単に「溶解温度」とする。)より高ければよい。一方で、成形体Aの内部が不要に加熱されることによる成形体Aの熱による変形を抑制する観点からは、溶解温度より必要以上に高くしないことが好ましい。上記観点から、上記密着部の目標温度は、溶解温度より高く、かつ、溶解温度との差が20℃以内とすることが好ましく、溶解温度より高く、かつ、溶解温度との差が10℃以内とすることがより好ましい。
交流電流の周波数は、特に限定させず、例えば100Hz程度の低い周波数から、1MHzの高い周波数まで使用できる。交流電流の周波数は、金属素形材の表層付近を加熱できれる大きさであればよく、塗装金属素形材MCの厚みなどに応じて渦電流が発生する深さを制御する観点などから選択すればよい。交流電流の周波数は、10kHz以上100kHz以下であることが好ましい。
誘導加熱コイル142の形状は、成形体Aが接合される領域における上記金属素形材の一部または全面が発熱できるものであればよい。複数の誘導加熱コイル142は、隣接する誘導加熱コイル142の向きが反対方向になるように、配列される。
表面冷却部である複数の水冷管156は、成形体Aと接触する表面154を冷却して、成形体Aとの摩擦などにより表面154に蓄積した熱が成形体Aに移動することによる、成形体Aの熱による変形を抑制する。
上記複数の水冷管156は、図2に示されるように、加圧ロール150の内部かつ複数の誘導加熱コイル142よりも表面154側に、加圧ロール150の周方向に沿って配列される。それぞれの水冷管156は、加圧ロールの外部から供給された冷水が管の内部に導入されて、加圧ロール150の表面154を冷却する。
1−4.複合体の製造方法
図3は、装置100を用いた複合体の製造方法を示すフローチャートである。本実施形態に関する方法は、塗装金属素形材MCを走行させる工程(工程S110)、塗装金属素形材MCの表面に熱可塑性樹脂組成物の成形体Aを配置する工程(工程S120)、塗装金属素形材MCを加熱する工程(工程S130)、成形体Aを圧下する工程(工程S140)、および圧下された成形体を冷却する工程(工程S150)を含む。
(塗装金属素形材MCを走行させる工程(工程S110))
本工程では、塗装金属素形材MCに、走行路110を走行させる。
たとえば、コイル状に巻かれた塗装金属素形材MCを、繰出部182が繰り出して走行路110に供給し、走行路を走行させる。塗装金属素形材MCは、切れ目なく供給されて連続して走行してもよいし、予め走行方向に切断されて1枚または複数枚ずつ断続的に走行してもよい。走行の速度は特に限定されず、後述する各処理に応じて適宜設定され得る。
塗装金属素形材MCは、少なくとも後述する成形体Aを配置する工程(工程S120)および成形体Aを圧下する工程(工程S140)において、有機樹脂層が外側(成形体Aが配置され、加圧ロールにより加圧される側)となるように、走行される。
(成形体Aを配置する工程(工程S120))
本工程では、走行路を走行する塗装金属素形材MCの表面に、上記有機樹脂層に接して、熱可塑性樹脂組成物の成形体Aを配置する。
たとえば、コイル状に巻かれた成形体Aを、成形体繰出部132が繰り出して成形体供給路134に供給し、成形体供給路134を通して塗装金属素形材MCの表面に導き、配置する。
成形体Aは、塗装金属素形材MCの表面の全面に配置されてもよいし、塗装金属素形材MCの表面の一部にのみ配置されてもよい。成形体Aは、少なくとも、成形体Aの接合されるべき部分と、塗装金属素形材MCの接合されるべき部分とが密着するように、塗装金属素形材MCの表面に有機樹脂層と接して配置される。なお、成形体Aの接合されるべき部分は、塗装金属素形材MCの接合されるべき部分に、少なくとも金属素形材を電磁誘導により発熱させる時に接触していればよい。
(塗装金属素形材MCを加熱する工程(工程S130))
本工程では、走行路を走行する塗装金属素形材MCを、加圧ロール150の内部に配置された誘導加熱コイル142により誘電加熱する。
具体的には、周方向に配列された複数の誘導加熱コイル142を内部に有する加圧ロール150を回転させつつ、上記複数の誘導加熱コイル142のうち、走行路110の上流側かつ走行路110側の方向に向いた誘導加熱コイル142に高周波電流を供給する。上記高周波電流を供給された誘導加熱コイル142は、磁界を形成して、走行する塗装金属素形材MCが有する金属素形材を渦電流により発熱させる。このとき、誘導加熱コイル142へ供給する電力の大きさを調整することで、塗装金属素形材MCと成形体Aとの上記密着部における界面近傍を、加圧ロール150の圧下によって接合できる程度に十分に加熱し、かつ、成形体Aの内部を必要以上に加熱しないように、金属素形材からの発熱量を調整することができる。
また、上記高周波電流を供給された誘導加熱コイル142は、塗装金属素形材MCおよび成形体Aを、金属素形材から加熱して、有機樹脂層、有機樹脂層と成形体Aとの界面、および成形体Aの内部、の順に昇温させる。このようにして、上記高周波電流を供給された誘導加熱コイル142は、有機樹脂層、および、成形体Aの内部のうち塗装金属素形材MC(有機樹脂層)との界面の近傍(図2に網掛で示した昇温部AHを参照)、を加熱して、上記界面を接合面とする塗装金属素形材MCとの接合(加熱された有機樹脂層との融着)を可能とする。一方で、上記高周波電流を供給された誘導加熱コイル142は、成形体Aの内部のうち、塗装金属素形材MCとは反対側の表面の近傍はさほど昇温させない。上記高周波電流を供給された誘導加熱コイル142により、金属素形材を加熱することで、塗装金属素形材MCとの接合に寄与しない成形体Aの上記反対側の表面側が不要に加熱されることによる、成形体Aの熱による変形を抑制することができる。
なお、加圧ロール150の内部に配列された複数の誘導加熱コイル142のうち、走行路110の下流側または走行路とは反対方向に向いた誘導加熱コイル142には、高周波電流の供給を停止し、これらの誘導加熱コイル142からの磁界の発生を停止させる。これにより、走行路110の加圧ロール150より下流側においては、塗装金属素形材MCが有する金属素形材の誘導加熱が抑制され、塗装金属素形材MCから加圧後の成形体Aへの不要な加熱を抑制することができる。
(成形体Aを圧下する工程(工程S140))
本工程では、加圧ロール150により塗装金属素形材MCの表面に配置された成形体Aを圧下する。これにより、加熱された塗装金属素形材MCの有機樹脂層と成形体Aとが融着する。
圧下時の圧力は、塗装金属素形材MCの有機樹脂層と成形体Aとが十分に融着でき、かつ、圧下による成形体Aの変形が抑制される大きさであればよい。
加圧ロール150は、回転本体部152から成形体Aへの熱移動が制限された表面154を有する。そのため、本工程での加圧ロール150から成形体Aへの熱の移動は少なく、塗装金属素形材MCとの接合に寄与しない成形体Aの上記反対側の表面側が不要に加熱されることによる、成形体Aの熱による変形が抑制される。
このとき、加圧ロール150が有する水冷管156に冷水を導入して加圧ロール150の表面154を冷却し、成形体Aとの摩擦などにより表面154に蓄積した熱が成形体Aに移動することによる、成形体Aの熱による変形を抑制してもよい。
(圧下された成形体を冷却する工程(工程S150))
本工程では、加圧ロール150によって圧下された成形体Aを冷却する。これにより、塗装金属素形材MCが有する有機樹脂層と成形体Aとの融着部位を冷却により収縮させて、塗装金属素形材MCと成形体Aとの接合を強固にすることができる。また、これにより、成形体Aとの摩擦などにより加圧ロール150の内部に蓄積して、圧下時の加圧ロール150と成形体Aとの接触により加圧ロール150の表面154から成形体Aに移動した熱、および加熱された塗装金属素形材MCから圧下後の成形体Aに移動した熱などによる、成形体Aの熱による変形を抑制することもできる。また、これにより、塗装金属素形材MCが有する金属素形材を冷却して、より下流側で塗装金属素形材MCから成形体Aに移動した熱などによる、成形体Aの熱による変形を抑制することもできる。
成形体Aの冷却温度は、冷却によって成形体Aが不要に収縮することによる成形体Aの顕著な変形が生じず、かつ、成形体Aを熱による変形が抑制される程度に冷却できる温度であればよい。
このようにして製造された、成形体Aが塗装金属素形材MCに接合した複合体は、走行路110をさらに走行して、巻取部184によって巻き取られてもよい。
1−5.効果
本実施形態によれば、加圧ロールに圧下される直前に塗装金属素形材を誘導加熱できるため、塗装金属素形材の温度が高まっている時間を短くして、走行する塗装金属素形材から成形体への熱移動を抑制して、成形体の熱による変形を抑制することができる。
また、本実施形態によれば、加圧ロールから成形体への熱の移動を制限しつつ塗装金属素形材を加熱して、塗装金属素形材と成形体とを接合させることができるため、加圧ロールから移動した熱による成形体の変形を抑制することができる。
また、本実施形態によれば、金属素形材の表面に有機樹脂層を予め形成した塗装金属素形材と成形体とを接合させることができるため、金属素形材と成形体との接合をより強固にすることができる。
2.第2の実施形態
本実施形態は、金属素形材と熱可塑性樹脂組成物の成形体とをホットメルト接着剤により接合させて、これらが接合した複合体を製造するための装置、および当該装置を用いた複合体の製造方法に関する。
なお、第1の実施形態と共通する内容は説明を省略する。
2−1.金属素形材
金属素形材は、第1の実施形態における、有機樹脂層を有さない金属素形材と同一としうる。
2−2.ホットメルト接着剤
ホットメルト接着剤は、金属素形材に対する接着性を有し、かつ、熱可塑性樹脂組成物の成形体に対する溶着性を有する組成物であり、金属素形材の表面に付与されて、成形体に対する金属素形材の接合力を高めるための接着層を構成する組成物である。ホットメルト接着剤は、金属素形材の表面に接して形成されてもよいし、金属素形材の表面に形成された表面処理皮膜の表面に接して形成されてもよい。
ホットメルト接着剤は、JIS K 0064に準じて測定される融点が50℃以上200℃以下であることが好ましい。ホットメルト接着剤の融点が50℃以上だと、保管時などにホットメルト接着剤同士が貼りつきにくいため保存性が良好であり、また、接合後にホットメルト接着剤が軟化しにくいため接合された複合体からの成形体の脱落が生じにくい。融点が200℃以下であると、加熱時にホットメルト接着剤が軟化しやすく、複合体の製造が容易である。
ホットメルト接着剤は、公知の、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリオレフィン系、ポリアミド系およびエチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)系のホットメルト接着剤などとし得る。
2−3.成形体
熱可塑性樹脂組成物は、加熱および加圧により上記ホットメルト接着剤と溶着する組成物であればよく、たとえば、ポリプロピレン(PP)系樹脂組成物、ポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂組成物、ポリアミド(PA)系樹脂組成物、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)系樹脂組成物、ポリ塩化ビニル(PVC)系樹脂組成物、ポリウレタン(PU)系樹脂組成物、メタクリル酸(PMMA)系樹脂組成物、ポリエチレン(PE)系樹脂組成物、ポリアセタール(POM)系樹脂組成物、および、これらの組み合わせなどとすることができる。
成形体の形状は特に限定されず、密着部(溶着部)において十分な広さで上記有機樹脂層と接することができればよい。加圧ロールによる接合を容易にする観点からは、成形体は、布状、織物状、繊維状、板状、シート状およびフィルム状などの、厚みが小さい平面形状であることが好ましく、厚みが0.01mm以上50mm以下であることが好ましい。また、成形体は、繊維強化プラスチック類(FRTPおよびCFRTPなど)であってもよい。成形体の上記有機樹脂層と接する面は、上記有機樹脂層を構成する組成物と同じ種類の樹脂組成物により被覆されてもよい。
2−4.複合体の製造装置
(装置の構成)
図4は、本発明の第2の実施形態に関する、複合体を製造する装置200の概略を示す模式的な構成図である。装置200は、金属素形材MSが走行する走行路210、ならびに、走行路210に沿って上流側から下流側に向けてこの順で配置された、ホットメルト接着剤配置部220、成形体配置部230、加熱部240、加圧ロール250、および成形体冷却部260を有する。図5は、装置200が有する加熱部240、加圧ロール250、および成形体冷却部260の概略を示す模式的な構成図であり、図4に点線で示した領域の拡大図である。なお、装置200は、ホットメルト接着剤配置部220を有する点、および成形体配置部230が金属素形材MSの表面のうち、少なくとも密着部(溶着部は第1の実施形態における装置100と同様の構成とし得るため、ホットメルト接着剤配置部220以外については、詳しい説明を省略する。
走行路210は、金属素形材MSを走行させて、後述の各構成部に順に供給できるものであればよい。走行路210には、走行する金属素形材MSを支持するための支持ローラー272および274が適宜配置されてもよい。走行路210の最上流側には、コイル状に巻かれた金属素形材MSを繰り出して走行路210に供給する繰出部282が設けられてもよいし、走行路210の最下流側には、金属素形材MSに熱可塑性樹脂組成物の成形体Aが接合した複合体をコイル状に巻き取る巻取部284が設けられてもよい。走行路210の距離および金属素形材MSを走行させる速度は、特に限定されず、後述する各構成部による処理に応じて適宜設定され得る。
ホットメルト接着剤配置部220は、上記走行する金属素形材MSの表面に、フィルム状のホットメルト接着剤HMを配置する。ホットメルト接着剤配置部220は、たとえば、コイル状に巻かれたホットメルト接着剤HMを繰り出すホットメルト接着剤繰出部222と、繰り出されたホットメルト接着剤HMを金属素形材MSの表面に導くホットメルト接着剤供給路224と、を有する構成とすることができる。
本実施形態では、ホットメルト接着剤配置部220は、ホットメルト接着剤HMを、板状の金属素形材の両面に配置する。
成形体冷却部260は、加圧ロール250によって圧下された成形体Aを冷却する。成形体冷却部260は、ロールの回転方向に沿ってロールの内部に配置された複数の水冷管262を有する水冷ロールであり、水冷管262によって冷却された表面が成形体Aの表面と接することによって成形体Aを冷却する。これにより、成形体冷却部260は、ホットメルト接着剤HMを硬化させて、硬化したホットメルト接着剤HMCによる金属素形材MSと成形体Aとの接合を強固にすることができる。また、成形体冷却部260は、成形体Aとの摩擦などにより加圧ロール250の内部に蓄積して、圧下時の加圧ロール250と成形体Aとの接触により加圧ロール250の表面254から成形体Aに移動した熱、および加熱された金属素形材MSから圧下後の成形体Aに移動した熱などによる、成形体Aの熱による変形を抑制することもできる。また、成形体冷却部260は、金属素形材MSが有する金属素形材を冷却して、より下流側で金属素形材MSから成形体Aに移動した熱などによる、成形体Aの熱による変形を抑制することもできる。
成形体冷却部260の成形体Aと接触する表面の温度は、冷却によって成形体Aが不要に収縮することによる成形体Aの顕著な変形が生じず、かつ、ホットメルト接着剤HMを十分に硬化させる温度であればよい。
(加圧ロールの構成)
加圧ロール250は、回転本体部252と、いずれも回転本体部252の内部に配置された、加熱部240である複数の誘導加熱コイル242および表面冷却部である複数の水冷管256と、を有する。加圧ロール250に関しても、第1の実施形態における加圧ロール250と同様の構成については第1の実施形態と同一の符号を付して、詳しい説明を省略する。
加熱部240は、上記走行する金属素形材MSを、ホットメルト接着剤HMと成形体Aとが溶着可能となる温度に加熱する。加熱部240は、金属素形材MSを誘導加熱して、その表面に配置されたホットメルト接着剤HMが金属素形材MSに接着可能かつ成形体Aに溶着可能となる温度に金属素形材MSの表面を昇温させる。加熱部240は、本実施形態でも加圧ロール250の内部に配置された複数の誘導加熱コイル242である。
上記複数の誘導加熱コイル242は、図5に示されるように、加圧ロール250の内部に、加圧ロール250の周方向に沿って配列される。また、上記複数の誘導加熱コイル242のそれぞれは、加圧ロール250の回転に付随して回転可能に配置される。
上記複数の誘導加熱コイル242のそれぞれは、高周波電流の供給およびその供給の停止を制御されることで、磁界の形成および磁界の形成の停止を制御可能に、不図示の電源に接続される。加圧ロール250の内部に配置された上記複数の誘導加熱コイル242のそれぞれは、高周波電流の供給により加圧ロール250の内部から走行路210に磁界を発生して、走行路210を走行する金属素形材MSを誘導加熱する。このとき、上記複数の誘導加熱コイル242のそれぞれは、加圧ロール250の内部から磁界を発生するため、その表面にホットメルト接着剤HMおよび成形体Aが配置されて走行する金属素形材MSを、加圧ロール250に圧下される直前に誘導加熱できる。
具体的には、図5に示す16個の誘導加熱コイル242のうち、走行路210の上流側かつ走行路210側の方向に向いた5つの誘導加熱コイル242aには高周波電流を供給し、これらの誘導加熱コイル242aには磁界を発生させる。これにより、走行路210の加圧ロール250より上流側においては、走行する金属素形材MSが渦電流により発熱する。このとき、誘導加熱コイル242aへ供給する電力の大きさを調整することで、金属素形材MSの表面に配置されたホットメルト接着剤HMを、加圧ロール250の圧下によって溶着できる程度に加熱し、かつ、成形体Aの内部を必要以上に加熱しないように、金属素形材MSからの発熱量を調整することができる。
上記高周波電流を供給された誘導加熱コイル242は、磁界の形成により金属素形材MSを発熱させる。そのため、上記高周波電流を供給された誘導加熱コイル242は、金属素形材MS、ホットメルト接着剤HMおよび成形体Aを、金属素形材MSから加熱して、ホットメルト接着剤HM、ホットメルト接着剤HMと成形体Aとの界面、および成形体Aの内部、の順に昇温させる。このようにして、上記高周波電流を供給された誘導加熱コイル242は、ホットメルト接着剤HMを加熱して、金属素形材MSとホットメルト接着剤HMとの接着を可能とする。また、上記高周波電流を供給された誘導加熱コイル242は、ホットメルト接着剤HM、および、成形体Aの内部のうちホットメルト接着剤HMとの界面の近傍(図5に網掛で示した昇温部AHを参照)を加熱して、上記界面を接合面とするホットメルト接着剤HMと成形体Aとの融着を可能とする。一方で、誘導加熱コイル242は、金属素形材からの発熱量を調整するように高周波電流を供給されるため、成形体Aの内部のうち、金属素形材MSとは反対側の表面の近傍はさほど昇温させない。
なお、加熱された加圧ロールによりホットメルト接着剤HMを加熱してホットメルト接着剤HMにより成形体Aと金属素形材MSとを溶着(接合)させようとすると、成形体Aの内部での熱損失(熱吸収)を考慮して、溶着に必要な量よりも多い熱量を上記反対側の表面から成形体Aに付与する必要がある。この熱は、成形体Aの変形の原因となり得る。これに対し、上記高周波電流を供給された誘導加熱コイル242により、金属素形材MSを加熱することで、ホットメルト接着剤HMによる金属素形材MSとの接合に寄与しない成形体Aの上記反対側の表面側が不要に加熱されることによる、成形体Aの熱による変形を抑制することができる。
ここで、図5に示す16個の誘導加熱コイル242のうち、走行路210の下流側または走行路とは反対方向に向いた11個の誘導加熱コイル242bには、高周波電流の供給を停止し、これらの誘導加熱コイル242bからの磁界の発生を停止させる。これにより、走行路210の加圧ロール250より下流側においては、金属素形材MSの誘導加熱が抑制され、金属素形材MSから加圧後の成形体Aへの不要な加熱を抑制して、圧下された後の成形体Aの熱による変形を抑制することができる。
誘導加熱コイル242へ供給する電力の大きさは、上記金属素形材の種類、ホットメルト接着剤HMの融点、高周波電流を供給された誘導加熱コイル242と金属素形材との間の距離、および加圧による上記密着部の目標温度により調整すればよい。たとえば、金属素形材が普通鋼およびフェライト系のステンレス鋼板などであるときは、比較的小さい電力、たとえば0.5kW以上で金属素形材を誘導発熱可能であり、金属素形材がアルミ合金、オーステナイト系のステンレス鋼板および銅板などを含むときは、より電力を大きな、たとえば3kW以上で金属素形材を誘導発熱させればよい。
加熱による上記密着部の目標温度は、ホットメルト接着剤HMの融点より高ければよい。一方で、成形体Aの内部が不要に加熱されることによる成形体Aの熱による変形を抑制する観点からは、溶解温度より必要以上に高くしないことが好ましい。上記観点から、上記密着部の目標温度は、ホットメルト接着剤HMの融点より高く、かつ、ホットメルト接着剤HMの融点との差が20℃以内とすることが好ましく、ホットメルト接着剤HMの融点より高く、かつ、ホットメルト接着剤HMの融点との差が10℃以内とすることがより好ましい。
交流電流の周波数は、特に限定させず、例えば100Hz程度の低い周波数から、1MHzの高い周波数まで使用できる。交流電流の周波数は、金属素形材の表層付近を加熱できれる大きさであればよく、金属素形材MSの厚みなどに応じて渦電流が発生する深さを制御する観点などから選択すればよい。交流電流の周波数は、10kHz以上100kHz以下であることが好ましい。
誘導加熱コイル242の形状は、成形体Aが圧下される領域における金属素形材MSの一部または全面が発熱できるものであればよい。複数の誘導加熱コイル242は、隣接する誘導加熱コイル142の向きが反対方向になるように、配列される。
2−5.複合体の製造方法
図6は、装置200を用いた複合体の製造方法を示すフローチャートである。本実施形態に関する方法は、塗装金属素形材MCの代わりに金属素形材MSを用いる点、および熱可塑性樹脂組成物の成形体Aを配置する工程(工程S120a)の前に、金属素形材MSの表面にホットメルト接着剤HMを配置する工程(工程S220)を有する点、において第1の実施形態における複合体の製造方法と異なる。
(金属素形材MSを走行させる工程(工程S110a))
本工程では、金属素形材MSに、走行路210を走行させる。
たとえば、コイル状に巻かれた金属素形材MSを、繰出部282が繰り出して走行路210に供給し、走行路を走行させる。金属素形材MSは、切れ目なく供給されて連続して走行してもよいし、予め走行方向に切断されて1枚または複数枚ずつ断続的に走行してもよい。走行の速度は特に限定されず、後述する各処理に応じて適宜設定され得る。
(成形体Aを配置する工程(工程S120a))
本工程では、走行路を走行する金属素形材MSの表面に、上記配置されたホットメルト接着剤HMに接して、熱可塑性樹脂組成物の成形体Aを配置する。
たとえば、コイル状に巻かれた成形体Aを、成形体繰出部232が繰り出して成形体供給路234に供給し、成形体供給路234を通して金属素形材MSの表面に導き、ホットメルト接着剤HMに接して配置する。
成形体Aは、金属素形材MSの表面の全面に配置されてもよいし、金属素形材MSの表面の一部にのみ配置されてもよい。成形体Aは、少なくとも、成形体Aの接合されるべき部分と、金属素形材MSの接合されるべき部分とがホットメルト接着剤HMを介して密着するように、金属素形材MSの表面にホットメルト接着剤HMと接して配置される。なお、成形体Aの接合されるべき部分は、金属素形材MSの接合されるべき部分に、少なくとも金属素形材MSを電磁誘導により発熱させる時に接触していればよい。
(金属素形材MSを加熱する工程(工程S130a))
本工程では、走行路を走行する金属素形材MSを、加圧ロール250の内部に配置された誘導加熱コイル242により誘電加熱する。
具体的には、周方向に配列された複数の誘導加熱コイル242を内部に有する加圧ロール250を回転させつつ、上記複数の誘導加熱コイル242のうち、走行路210の上流側かつ走行路210側の方向に向いた誘導加熱コイル242に高周波電流を供給する。上記高周波電流を供給された誘導加熱コイル242は、磁界を形成して、走行する金属素形材MSを渦電流により発熱させる。このとき、誘導加熱コイル242へ供給する電力の大きさを調整することで、金属素形材MSと成形体Aとの上記密着部に存在するホットメルト接着剤HMを十分に加熱し、かつ、成形体Aの内部を必要以上に加熱しないように、金属素形材からの発熱量を調整することができる。
また、上記高周波電流を供給された誘導加熱コイル242は、金属素形材MS、ホットメルト接着剤HMおよび成形体Aを、金属素形材から加熱して、ホットメルト接着剤HM、ホットメルト接着剤HMと成形体Aとの界面、および成形体Aの内部、の順に昇温させる。このようにして、上記高周波電流を供給された誘導加熱コイル242は、ホットメルト接着剤HMを加熱して、金属素形材MSとホットメルト接着剤HMとの接着を可能とする。また、上記高周波電流を供給された誘導加熱コイル242は、ホットメルト接着剤HM、および、成形体Aの内部のうちホットメルト接着剤HMとの界面の近傍(図5に網掛で示した昇温部AHを参照)を加熱して、上記界面を接合面とするホットメルト接着剤HMと成形体Aとの融着を可能とする。一方で、上記高周波電流を供給された誘導加熱コイル242は、成形体Aの内部のうち、金属素形材MSとは反対側の表面の近傍はさほど昇温させない。
なお、加圧ロール250の内部に配列された複数の誘導加熱コイル242のうち、走行路210の下流側または走行路とは反対方向に向いた誘導加熱コイル242には、高周波電流の供給を停止し、これらの誘導加熱コイル242からの磁界の発生を停止させる。これにより、走行路210の加圧ロール250より下流側においては、金属素形材MSの誘導加熱が抑制され、金属素形材MSから加圧後の成形体Aへの不要な加熱を抑制して、圧下された後の成形体Aの熱による変形を抑制することができる。
(成形体Aを圧下する工程(工程S140a))
本工程では、加圧ロール250によりホットメルト接着剤HMの表面に配置された成形体Aを圧下する。これにより、加熱された金属素形材MSとホットメルト接着剤HMとが接着し、ホットメルト接着剤HMと成形体Aとが融着する。
圧下時の圧力は、金属素形材MSとホットメルト接着剤HMとが接着でき、ホットメルト接着剤HMと成形体Aとが融着でき、かつ、圧下による成形体Aの変形が抑制される大きさであればよい。
加圧ロール250は、回転本体部252から成形体Aへの熱移動が制限された表面254を有する。そのため、本工程での加圧ロール250から成形体Aへの熱の移動は少なく、ホットメルト接着剤HMとの溶着による金属素形材MSとの接合に寄与しない成形体Aの上記反対側の表面側が不要に加熱されることによる、成形体Aの熱による変形が抑制される。
このとき、加圧ロール250が有する水冷管256に冷水を導入して加圧ロール250の表面254を冷却し、成形体Aとの摩擦などにより表面254に蓄積した熱が成形体Aに移動することによる、成形体Aの熱による変形を抑制してもよい。
(圧下された成形体を冷却する工程(工程S150a))
本工程では、加圧ロール250によって圧下された成形体Aを冷却する。これにより、ホットメルト接着剤HMを冷却により収縮させて、ホットメルト接着剤HMを介した金属素形材MSと成形体Aとの接合を強固にすることができる。また、これにより、成形体Aとの摩擦などにより加圧ロール250の内部に蓄積して、圧下時の加圧ロール250と成形体Aとの接触により加圧ロール250の表面254から成形体Aに移動した熱、および加熱された金属素形材MSから圧下後の成形体Aに移動した熱などによる、ホットメルト接着剤HMの硬化不足による成形体Aの位置ずれ、および成形体Aの熱による変形などを抑制することもできる。また、これにより、金属素形材MSが有する金属素形材を冷却して、より下流側で金属素形材MSから成形体Aに移動した熱などによる、硬化したホットメルト接着剤HMCが再溶融することによる成形体Aの位置ずれ、および成形体Aの熱による変形などを抑制することもできる。
成形体Aの冷却温度は、冷却によって成形体Aが不要に収縮することによる成形体Aの顕著な変形が生じず、かつ、ホットメルト接着剤HMが十分に硬化できる温度であればよい。
このようにして製造された、ホットメルト接着剤HMによって成形体Aが金属素形材MSに接合した複合体は、走行路210をさらに走行して、巻取部284によって巻き取られてもよい。
2−6.効果
本実施形態によれば、加圧ロールに圧下される直前に金属素形材を誘導加熱できるため、金属素形材の温度が高まっている時間を短くして、走行する金属素形材から成形体への熱移動を抑制して、成形体の熱による変形を抑制することができる。
また、本実施形態によれば、加圧ロールから成形体への熱の移動を制限しつつ金属素形材を加熱して、金属素形材と成形体とをホットメルト接着剤により接合させることができるため、加圧ロールから移動した熱による成形体の変形を抑制することができる。
また、本実施形態によれば、ホットメルト接着剤により金属素形材と成形体とを接合させることができるため、より多種多様な熱可塑性樹脂組成物の成形体を金属素形材に接合させることができる。
3.その他の実施形態
上述した第1の実施形態および第2の実施形態は、発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならない。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
たとえば、加圧ロールよりも上流側の走行路に磁界を形成し、かつ、加圧ロールよりも下流側の走行路への磁界の形成を抑制するための加熱部の構成は、上記複数の誘導加熱コイルが配列された構成ではなくてもよく、たとえば加圧ロールの内部の、上流側かつ走行路側に片寄った位置に誘導加熱コイルを固定配置してもよい。
図7は、誘導加熱コイルが固定配置された、複合体を製造する装置300の概略を示す模式的な構成図である。なお、図7は、図1と同様、塗装金属素形材の表面に配置された成形体を圧下してこれらを接合するための装置であるが、図4と同様の、金属素形材MSの表面にホットメルト接着剤HMと接して配置された成形体Aを圧下してこれらを接合するための装置においても、同様の加圧ロールを用いることができる。
加圧ロール350は、走行路310とは反対側に配置した駆動ロール358により支持および駆動されて回転し、走行路310を走行する塗装金属素形材MCの表面に配置された成形体Aまたは金属素形材MSの表面にホットメルト接着剤HMと接して配置された成形体Aを圧下する。加圧ロール350は、回転可能に配置された中空の円筒状のロールであり、内部には加熱部340となる誘導加熱コイル342が固定配置されている。また、加圧ロール350の周囲には、複数の水冷管362が配置され、これらの水冷管362は、加圧ロール350を支持しつつ、加圧ロール350の表面および加圧ロール350によって圧下された成形体Aを冷却する。なお、その他の構成は第1の実施形態に関する装置100と同様としうるため、同一の機能部には同一の符号を付して、詳しい説明は省略する。これにより、金属素形材と熱可塑性樹脂組成物の成形体とが、上記金属素形材と上記成形体との間に配置された接着層により接合された複合体を製造することができる。なお、図7では省略するが、装置300は、成形体冷却部をさらに有してもよい。
第1の実施形態において、塗装金属素形材が有する有機樹脂層は、金属素形材の片面のみに形成されていてもよい。このとき、成形体は、塗装金属素形材の有機樹脂層が形成された表面にのみ配置される。
また、第2の実施形態において、ホットメルト接着剤は、金属素形材の片面のみに付与されていてもよい。このとき、成形体は、塗装金属素形材のホットメルト接着剤が付与された表面にのみ配置される。
第1の実施形態および第2の実施形態において、成形体が金属素形材の両面に配置されるか片面にのみ配置されるかにかかわらず、金属素形材を十分に誘導加熱して金属素形材と成形体とを接合させることが可能である限りにおいて、一対の加圧ロールのうちいずれかの内部にのみ誘導加熱コイルが配置されてもよい。ただし、一対の加圧ロールのそれぞれの内部に誘導加熱コイルを配置すると、磁束が金属素形材を貫通するトランスバース方式を形成しやすく、金属素形材を誘導加熱しやすい。
第1の実施形態および第2の実施形態において、加圧ロールの表面冷却部は、加圧ロールの表面に冷気を吹き付ける風冷方式、および加圧ロールの表面を冷却ロールと接触させるローラー冷却方式などで加圧ロールの表面を冷却してもよい。なお、加圧ロールの表面から成形体への熱の移動が成形体の変形を顕著に生じさせない程度であれば、加圧ロールの表面を冷却しなくてもよい。
第1の実施形態および第2の実施形態において、成形体冷却部は、成形体に冷気を吹き付ける風冷方式などで成形体を冷却してもよい。また、成形体冷却部は、金属素形材を同時に冷却することを妨げない。
第2の実施形態において、ホットメルト接着剤は、液体状のものをスプレー塗布およびローラー塗布などしてもよいし、液体状のホットメルト接着剤の中に金属素形材を通過させて塗布してもよい。
なお、第1の実施形態においても、塗装金属素形材の表面にホットメルト接着剤を付与して、塗装金属素形材の有機樹脂層およびホットメルト接着剤をいずれも接着層として機能させてもよい。
第1の実施形態および第2の実施形態において、成形体は、誘導加熱されている金属素形材の表面に配置されてもよい。たとえば、成形体は、加圧ローラが圧下するニップ部に供給されてもよい。これにより、金属素形材の表面に配置されて走行する間の成形体の位置ずれを抑制することができる。このとき、第2の実施形態において、ホットメルト接着剤および成形体の双方を誘導加熱されている金属素形材の表面、たとえば加圧ローラが圧下するニップ部、に供給してもよい。
第1の実施形態において、金属素形材を走行させ、走行する金属素形材の表面に上記有機樹脂層の材料を含む塗料を付与し乾燥させて有機樹脂層を形成し、塗装金属素形材とする工程を、成形体を配置する工程の前に有してもよい。
以下、本発明について、金属素形材として金属板を用いた場合の実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されない。
[実施例1]
1.塗装金属素形材の製造
1−1.金属素形材の準備
金属素形材として、厚み0.8mm、No.4仕上げのSUS430からなるステンレス鋼帯の金属帯を準備した。
1−2.塗料の調製
(塗料A)
ポリカーボネートユニット含有樹脂、ポリカーボネートユニット非含有樹脂および各種添加剤を水に添加して、不揮発成分が20%の塗料Aを調製した。塗料Aには、エッチング剤として0.5質量%のフッ化アンモニウム(森田化学工業株式会社)と、無機化合物として2質量%のコロダイルシリカ(日産化学工業株式会社)および0.5質量%のリン酸(キシダ化学株式会社)とをそれぞれ配合した。
ポリカーボネートユニット含有樹脂としては、樹脂メーカーが試験品として調製した、ポリカーボネートユニットを90質量%含有するポリウレタン樹脂(乾燥固形分30質量%)を使用した。ポリカーボネートユニット非含有樹脂としては、ポリカーボネートユニット非含有ポリウレタン系樹脂(株式会社ADEKA製、HUX−232、乾燥固形分30質量%)を使用した。
塗料A中の樹脂合計質量に対する、ポリカーボネートユニット含有樹脂の割合は17質量%であり、ポリカーボネートユニット非含有樹脂の割合は83質量%であった。塗料A中の樹脂合計質量に対する、ポリカーボネート(PC)ユニットの割合は、15質量%だった。
(塗料B)
酸変性ポリプロピレン(PP)、酸変性ポリプロピレン以外の樹脂および各種添加剤を水に添加して、不揮発成分が20質量%の塗料Bを調製した。塗料Bには、エッチング剤として0.5質量%のフッ化アンモニウム(森田化学工業株式会社)と、無機化合物として2質量%のコロダイルシリカ(日産化学工業株式会社)および0.5質量%のリン酸(キシダ化学株式会社)とをそれぞれ配合した。
酸変性ポリプロピレンとしては、酸価が2.0mg・KOH/gである酸変性ポリプロピレン(東洋紡株式会社製、ハードレンEW−5303)を使用した。
酸変性ポリプロピレン以外の樹脂としては、ポリウレタン系樹脂(株式会社ADEKA製、HUX−232、乾燥固形分30質量%)、エポキシ系樹脂(株式会社ADEKA製、アデカレジンEM−0434AN、乾燥固形分30質量%)、およびフェノール系樹脂(荒川化学工業株式会社製、タマノルE−100、乾燥固形分52質量%)を使用した。
塗料B中の樹脂合計質量に対する、酸変性ポリプロピレンの割合は60質量%であり、ポリウレタン系樹脂の割合は10質量%であり、エポキシ系樹脂の割合は10質量%であり、フェノール系樹脂の割合は10質量%であった。
1−3.有機樹脂層の形成および塗装金属素形材の巻き取り
以後の各工程は、連続式塗装設備により金属帯である金属素形材を走行させた状態で行った。各金属帯を液温60℃、pH12のアルカリ脱脂水溶液(日本ペイント株式会社製、SD−270)に30秒間浸漬して脱脂した。次いで、脱脂された金属帯をスプレー水洗帯に通して、金属帯の表面のアルカリ成分を除去した。次いで、洗浄された金属帯を熱風ドライヤ帯に通して、金属帯を乾燥させた後、必要に応じて放冷し、金属帯の表面温度を60℃(塗料A)または40℃(塗料B)とした。
表面温度を調整された金属帯の両方の面に塗料Aまたは塗料Bをロールコーターで塗布した。次いで、塗料を塗布された金属帯をそのまま水洗せずに熱風ドライヤ帯に通すことで、金属帯の表面温度(焼き付け温度)が180℃(塗料A)または80℃(塗料B)となるように塗料を焼き付けた。
表面温度が50℃(塗料A)または60℃(塗料B)となるように塗装金属帯をブロワーで冷却した後、コイル巻き取り装置で塗装金属帯をコイル状に巻き取った。
なお、塗料Aを焼き付けて形成した有機樹脂層の膜厚は2.3μmであり、塗料Bを焼き付けて形成した有機樹脂層の膜厚は3.3μmであった。
2.複合体の製造
(試験1、試験2)
図1に構成を示す装置の走行路に上記塗装金属素形材を通板速度4.0m/minで走行させ、熱可塑性樹脂組成物のフィルム状の成形体を塗装金属素形材の表面に有機樹脂層と接して配置させた。
加圧ロールは、アルミ合金(材質)で構成された回転本体部を有する直径20cmのロールであり、内部に32個の高周波誘導による誘導加熱コイルと、誘導加熱コイルと回転本体部の間に配置された24個の水冷管を有していた。
成形体冷却部は、アルミ合金(材質)で構成された直径20cmのロールであり、内部に24個の水冷管を有していた。
加圧ロールおよび成形体冷却部が有する水冷管には、24℃の水を連続して流通させて、加圧ロールおよび成形体冷却部の表面を冷却した。
加圧ロールの内部に配置された誘導加熱コイルによる磁界の形成および磁界の形成の停止を制御して、誘導加熱コイルが走行路の上流側かつ走行路側の方向に向いたときにのみ磁界を形成させ、誘導加熱コイルが走行路の下流側を向いた瞬間に磁界の形成を停止させた。誘導加熱コイルへの交流電流の周波数は、80kHzとした。
試験1では、塗料Aを焼き付けて有機樹脂層を形成した塗装金属素形材に、ポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂組成物(三菱エンジニアプラスチックス株式会社製、ノバデュラン5710F40、融点230℃)の厚さ4mmのシート状の成形体を接合させた。なお、この熱可塑性樹脂組成物は、フィラーとしてガラス繊維を40質量%含有していた。
試験2では、塗料Bを焼き付けて有機樹脂層を形成した塗装金属素形材に、ポリプロピレン(PP)系樹脂組成物(株式会社プライムポリマー製、プライムポリプロR−350G、融点150℃)の厚さ4mmのシート状の成形体を接合させた。なお、この熱可塑性樹脂組成物は、フィラーとしてガラス繊維を30質量%含有していた。
(試験3、試験4)
試験3では、塗料Aを焼き付けて有機樹脂層を形成した塗装金属素形材に、試験1と同じPBT系樹脂組成物の厚さ4mmのシート状の成形体を配置して、雰囲気オーブンで加熱しながら加圧板で成形体を圧下して塗装金属素形材と成形体とを接合させた。
試験4では、塗料Bを焼き付けて有機樹脂層を形成した塗装金属素形材に、試験2と同じPP系樹脂組成物の厚さ4mmのシート状の成形体を配置して、雰囲気オーブンで加熱しながら加圧板で成形体を圧下して塗装金属素形材と成形体とを接合させた。
(試験5、試験6)
試験5は、高周波誘導により加圧ロールが加熱される加熱加圧ロールを用いて成形体を加熱しながら加圧し、かつ、金属素形材の誘導加熱による影響を排除するため通板速度を4.3m/minとしたほかは試験1と同様に行った。加圧後の成形体は、試験1と同様の成形体冷却部により冷却した。なお、誘導加熱コイルへの交流電流の周波数は、80kHzとした。
試験6は、試験5と同じ加熱加圧ロールを用いて成形体を加熱しながら加圧したほかは試験2と同様に行った。
表1に、試験1〜試験6における、塗装金属素形材が有する有機樹脂層の形成に用いた塗料の種類、成形体の種類、塗装金属素形材と成形体との接合方法、誘導加熱コイルへの出力(電力量)、塗装金属素形材の通板速度、加圧ロールまたは加圧板による加圧力、および誘導加熱により加熱された塗装金属素形材の到達温度を示す。
3.評価
3−1.塗装金属素形材と成形体との接合
試験1〜試験6を行ったあと、成形体を指でつまんで塗装金属素形材から離れる方向に引張った。成形体が塗装金属素形材から離れなかったとき、成形体が塗装金属素形材に接合したと評価(○)し、成形体が塗装金属素形材から離れたとき、成形体が塗装金属素形材に接合しなかった(×)と評価した。
3−2.成形体の変形
試験1〜試験6を行ったあとの成形体を目視で観察し、シートの変形がない(○)、シートが潰れて厚みが薄くなっている(△)、およびシートが潰れ、かつ、中心方向への収縮がみられる(×)の三段階で評価した。
試験1〜試験6の評価を表2に示す。
表2に示されるように、成形体への熱移動が制限された表面を有する加圧ロールの内部に配置された誘導加熱コイルによって走行する塗装金属素形材を加熱し、上記加圧ロールにより成形体を圧下した試験1および試験2では、塗装金属素形材と成形体とが十分に接合しており、かつ、接合後の成形体の変形もみられなかった。
一方で、圧下を行わずに雰囲気オーブンで加熱したのみである試験3および試験4では、塗装金属素形材と成形体とが十分には接合せず、かつ、接合後の成形体への変形もみられた。
また、加熱された表面を有する加熱加圧ロールで成形体を圧下した試験5および試験6では、塗装金属素形材と成形体とは十分には接合したものの、接合後の成形体への変形がみられた。
[実施例2]
1.金属素形材およびホットメルトフィルム
金属素形材として、厚み0.8mm、No.4仕上げのSUS430からなるステンレス鋼帯の金属帯を準備した。
ホットメルトフィルムとして、ポリアミド(以下、「PA」とも記す)系ホットメルトフィルム、およびポリプロピレン(以下、「PP」とも記す)系ホットメルトフィルムを準備した。PA系ホットメルトフィルムには、厚さ100μmのエルファンNT120(日本マタイ株式会社)を用いた。PA系ホットメルトフィルムの融点は、120℃だった。PP系ホットメルトフィルムには、厚さ40μmのアドマーQE060(三井化学東セロ株式会社)を用いた。PP系ホットメルトフィルムの融点は、139℃だった。
2.複合体の製造
(試験7、試験8)
図4に構成を示す装置の走行路に上記金属素形材を通板速度4.0m/minで走行させ、ホットメルトフィルムおよび熱可塑性樹脂組成物のフィルム状の成形体を金属素形材の表面にこの順に配置させた。
加圧ロールは、アルミ合金(材質)で構成された回転本体部を有する直径20cmのロールであり、内部に32個の高周波誘導による誘導加熱コイルと、誘導加熱コイルと回転本体部の間に配置された24個の水冷管を有していた。
成形体冷却部は、アルミ合金(材質)で構成された直径20cmのロールであり、内部に24個の水冷管を有していた。
加圧ロールおよび成形体冷却部が有する水冷管には、24℃の水を連続して流通させて、加圧ロールおよび成形体冷却部の表面を冷却した。
加圧ロールの内部に配置された誘導加熱コイルによる磁界の形成および磁界の形成の停止を制御して、誘導加熱コイルが走行路の上流側かつ走行路側の方向に向いたときにのみ磁界を形成させ、誘導加熱コイルが走行路の下流側を向いた瞬間に磁界の形成を停止させた。誘導加熱コイルへの交流電流の周波数は、80kHzとした。
試験7では、上記金属素形材に、PA系ホットメルトフィルムを介して、ポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂組成物(三菱エンジニアプラスチックス株式会社製、ノバデュラン5710F40、融点230℃)の厚さ4mmのシート状の成形体を接合させた。なお、この熱可塑性樹脂組成物は、フィラーとしてガラス繊維を40質量%含有していた。
試験8では、上記金属素形材に、PP系ホットメルトフィルムを介して、ポリプロピレン(PP)系樹脂組成物(株式会社プライムポリマー製、プライムポリプロR−350G、融点150℃)の厚さ4mmのシート状の成形体を接合させた。なお、この熱可塑性樹脂組成物は、フィラーとしてガラス繊維を30質量%含有していた。
(試験9、試験10)
試験9では、上記金属素形材に、試験7と同じPA系ホットメルトフィルムおよびPBT系樹脂組成物の厚さ4mmのシート状の成形体を配置して、雰囲気オーブンで加熱しながら加圧板で成形体を圧下して塗装金属素形材と成形体とを接合させた。
試験10では、上記金属素形材に、試験8と同じPP系ホットメルトフィルムおよびPP系樹脂組成物の厚さ4mmのシート状の成形体を配置して、雰囲気オーブンで加熱しながら加圧板で成形体を圧下して塗装金属素形材と成形体とを接合させた。
(試験11、試験12)
試験11は、高周波誘導により加圧ロールが加熱される加熱加圧ロールを用いて成形体を加熱しながら加圧したほかは試験1と同様に行った。加圧後の成形体は、試験1と同様の成形体冷却部により冷却した。なお、誘導加熱コイルへの交流電流の周波数は、80kHzとした。
試験12は、試験11と同じ加熱加圧ロールを用いて成形体を加熱しながら加圧したほかは試験8と同様に行った。
表3に、試験7〜試験12における、ホットメルトフィルムの種類、成形体の種類、塗装金属素形材と成形体との接合方法、誘導加熱コイルへの出力(電力量)、塗装金属素形材の通板速度、加圧ロールまたは加圧板による加圧力、および誘導加熱により加熱された塗装金属素形材の到達温度を示す。
3.評価
実施例1と同様に、試験7〜試験12を評価した。試験7〜試験12の評価を表4に示す。
表4に示されるように、成形体への熱移動が制限された表面を有する加圧ロールの内部に配置された誘導加熱コイルによって走行する金属素形材を加熱し、上記加圧ロールによりホットメルトフィルムを介して成形体を圧下した試験7および試験8では、塗装金属素形材と成形体とが十分に接合しており、かつ、接合後の成形体の変形もみられなかった。
一方で、圧下を行わずに雰囲気オーブンで加熱したのみである試験9および試験10では、塗装金属素形材と成形体とが十分には接合せず、かつ、接合後の成形体への変形もみられた。
また、加熱された表面を有する加熱加圧ロールで成形体を圧下した試験11および試験12では、塗装金属素形材と成形体とは十分には接合したものの、接合後の成形体への変形がみられた。