JP2019090068A - 高圧水素用ニッケル鋼材 - Google Patents

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Abstract

【課題】50MPa以下の高圧水素環境において使用可能なニッケル鋼材の提供【解決手段】質量%で、Ni:9.0%以上14.0%未満、C:0.003〜0.080%、Si:0.03〜0.30%、Mn:0.10〜0.50%、Mo:0.10〜0.50%、Al:0.010〜0.060%、N:0.0015〜0.0050%、O:0.0030%以下、P:0.0070%以下、S:0.0040%以下、Cu:0〜0.50%、Cr:0〜0.50%、Nb:0〜0.020%、Ti:0〜0.020%、V:0〜0.50%、B:0〜0.0020%、Ca:0〜0.0040%、希土類元素:0〜0.0050% 、残部:Feおよび不純物であり、体心立方格子構造の組織 を主体とし、前記体心立方格子構造の組織中のNi固溶量が7.5%以上、旧オーステナイト粒径が12.0μm以下、引張強さが930MPa以下である、高圧水素用ニッケル鋼材。【選択図】 なし

Description

本発明は、高圧の水素を含む環境での使用に適した、ニッケルを含有する鋼材(以下、「Ni鋼材」ともいう。)に関する。
近年、クリーンエネルギーとしての水素の利用に対する期待が高まっている。水素を利用した燃料電池自動車の普及が見込まれ、それに伴い、燃料電池自動車に水素を供給する水素ステーションの建設が行われている。さらに、ステーションへの水素供給のため、大量の水素を貯蔵しておく施設や、水素を発電などに使うことも検討されている。通常、気体として存在する水素は、ガソリンなどの液体燃料に比べてエネルギー密度が低く、燃料電池自動車等では積載量を確保するために高圧に圧縮した水素が貯蔵される。このような高圧の水素は、種々の材料の特性を低下させることが知られている。この現象は一般に水素脆化と呼ばれている。このため、車載用または水素ステーション用の高圧水素タンク、配管等に用いる鋼材には水素脆化が起きにくい特別な材料を使うことが求められている。そこで、Ni鋼材が注目されている。
Ni鋼材としては、例えば、特許文献1に記載されるように、液化天然ガス(LNG)の貯蔵タンクなどの極低温環境での使用を目的とした開発が進んでいる。低温用Ni鋼材は、−162℃といった極低温での靭性を向上させるために、熱間圧延後の鋼材に特殊な熱処理(一般に「中間熱処理」と呼ばれる。)を行なって、積極的に残留オーステナイトの体積分率を高めている。
一方、車載用の高圧水素タンクについては、非特許文献1において、オーステナイト系ステンレス鋼SUS316およびSUS316Lのみが使用可能な鉄鋼材料として認定され、さらに使用温度によって下記(1)式のNi当量が制限されている。
Ni当量(%)=Ni+12.6C+1.05Mn+0.35Si+0.65Cr+0.98Mo・・・(1)
この例示基準に適合するSUS316は、十分な耐水素脆化特性を有するが、室温での降伏応力は300MPa程度(JIS規格:175MPa以上)と構造用の鉄鋼材料としては低い部類である。このように強度が比較的低いSUS316を高圧水素タンクに適用する場合、非常に大きな肉厚が必要となる。このため、軽量化が重要な燃料電池自動車では、この鋼材をバルブやボスなど一部の部品に採用した例はあるが、タンク本体に採用された例はない。また、配管においても非常に大きな肉厚が必要となって、鋼材使用量が増えるため、重量やコストが増大する。
例えば、特許文献2には、SUS316と同様に、耐水素脆化特性に優れ、かつ高強度のオーステナイト系ステンレス鋼が提案されている。
非特許文献2には、マルテンサイトやベイナイトなどの体心立方格子(以下、「bcc」ともいう。)の結晶構造(以下、「bcc構造」ともいう。)を主体とするCr−Mo系の低合金鋼(SCM435)を35MPaまでの水素ステーション用高圧水素タンクに使用できることが記載されている。
非特許文献3には、bcc組織主体のNi鋼である、Fe−9Ni−4Co鋼の高圧水素中での機械的特性を調査した結果が報告されており、この鋼が、著しい水素脆化により特性が低下し、水素の影響を強くうける材料に分類されている。
特開2014−125678号公報 国際公開第2012/132992号
高圧ガス保安協会基準「70MPa圧縮水素自動車燃料装置用容器の技術基準」KHK S0128 自動車研究所基準 「圧縮水素自動車燃料装置用容器の技術基準」JARI S001 W.T.Chandler and R. J. Walter, "Hydrogen embrittlement testing", ASTM STP543, ASTM, (1974), p.170.
特許文献1のような低温用Ni鋼材において、Niを多量に含有させるのは、LNG温度など極低温における破壊靭性の確保が目的である。この低温用Ni鋼材においては、金属組織中のオーステナイト相の割合を高めた上で、オーステナイト相中にNiを濃化させてオーステナイト相の安定化を図り、極低温におけるより高い破壊靭性を実現している。このような金属組織を実現するため、熱間圧延後に、焼入れし、さらに中間熱処理を行なったうえで焼戻しする複雑な熱処理を行っている。しかし、本発明者らの検討により、このような中間熱処理を含む熱処理行って得た鋼材は、耐水素脆化特性が劣化すること判明した。
特許文献2の鋼材は、非常に多くの合金元素を含有するため、コストが極めて高いという問題がある。
ここで、高圧水素を供給する水素ステーションにおいては、3分以内での充填を可能にする必要がある。短時間で気体である水素を充填すると、断熱圧縮により温度が上がり、タンクが高温になる現象が知られている。一方で、高圧機器で必要とされる安全弁の部品には使用上限温度が制限される素材が使用されているため、タンクの温度は充填時に85℃を超えないことが規定されている。そこで、水素ステーションではあらかじめ−50℃程度に冷やされた高圧水素を供給することで、短時間充填と温度上昇の問題を同時に解決している。したがって、燃料電池自動車に使用される高圧水素用の材料は−50℃〜85℃の間の温度変化を想定する必要がある。
オーステナイト系ステンレス鋼は面心立方格子(以下、「fcc」ともいう。)の結晶構造(以下、「fcc構造」ともいう。)を持つオーステナイト相(以下、「fcc組織」ともいう。)を主体とするが、一般にfcc構造の鉄鋼材料は、フェライト相などのbcc組織を主体とする鉄鋼材料に比べて、熱膨張率が大きい傾向が知られている。熱膨張率が大きいと温度変化によって大きな熱応力が発生する可能性があり、上記のように大きな温度変化が想定される場合、発生する熱応力が小さくなるbcc組織主体の鉄鋼材料がより望ましいといえる。
しかしながら、非特許文献3に記載されるように、マルテンサイト、ベイナイトおよびフェライトなどのbcc組織からなる鉄鋼材料は、fcc構造のオーステナイト系ステンレス鋼よりも水素脆化し易いという問題がある。
非特許文献2に記載されるSCM435は、高圧水素の影響により水素脆化を生ずる。特に、強度を高めるほど水素脆化が顕著になることから、高圧水素環境で使用する際には熱処理条件を変えて一般的に用いられるよりも強度を低下させて使用せざるを得ない。ただし、強度を低下させても水素脆化を回避することはできない。また、SCM435よりも焼き入れ性が高く、より高圧な部材で肉厚化しても強度を確保しやすいSNCM439なども検討されているが、水素の影響を受ける点ではSCM435と同様である。このような、水素の影響により材質が低下する、いわゆる水素脆化を生ずるbcc組織からなる鋼材を高圧水素機器に適用する際には、安全率を大きくとり、水素以外の高圧ガスに使用するよりも大きな板厚で設計するなど、配慮が必要である。
35MPa用の水素用機器のうち、車載用機器については、25%の圧力変動を考慮する必要があり、約44MPaの水素で脆化しないことが要求される。したがって、50MPa程度まで水素脆化しない高強度のbcc組織からなる鋼材を見出すことで、大気中の特性そのままで設計できる高強度鋼材が得られることになり、非常に大きなメリットとなる。
本発明は、上記のような実情に鑑み、耐水素脆化特性と強度、およびコストの問題を同時に解決する、20MPaを超え50MPa以下の高圧水素環境において使用可能なニッケル鋼材の提供を課題としてなされたものである。
高圧水素中で、bcc組織がfcc組織に比べて水素の影響を受けやすいという理由は、一般的にはfcc組織の水素固溶限界がbcc組織に比べて大きいこと、およびfcc組織中の水素の拡散速度がbcc組織に比べてきわめて遅いことなどが挙げられる。
前掲の非特許文献3の調査結果からすると、bcc組織を主体とする鋼材において、単にNi含有量を高めるだけでは耐水素脆化特性を向上させることはできない。
水素用機器を構成する構造用鋼材として使用するためには、水素脆化しないことが最も重要であるが、板材やパイプなどの提供される形態や最終的に使用される部材の種類に応じて要求される強度や靭性も重要な機械的特性である。
そこで、本発明者らは、bcc組織を主体とする鋼材を対象として、高圧水素環境中において水素脆化といわれる機械的特性の低下を抑制する手段について、数多くの検討を実施した。
まず、本発明者らは、耐水素脆化特性を高めるため、鋼材中のNiの挙動に着目して、検討を重ねた。Niはオーステナイト相を安定化する元素であり、3.5質量%以上のNiを含有する鋼材では、bcc組織の中にfcc構造のオーステナイト相が混在する場合、オーステナイト相側に濃化する傾向にある。しかしながら、本発明者らは、もともと水素の影響を受けにくいオーステナイト相中にNiが濃化しても鋼全体の耐水素脆化特性は向上せず、むしろ母相であるbcc組織中にNiを多く固溶させることでbcc組織の耐水素脆化特性が向上し、オーステナイト相を含めた鋼材全体の耐水素脆化特性を向上させることを見出した。
次に、本発明者らは、耐水素脆化特性を安定して得るため、金属組織に着目して、検討を重ねた。旧オーステナイト粒界は比較的水素が集積し易く、他の部位に比べて比較的水素脆化を起こし易い。このため、高圧水素中で鋼材に引張応力が作用すると、旧オーステナイト粒界に割れ状の破壊を生じやすい。本発明者らは、旧オーステナイト粒径を小さくすれば、割れの伝播が抑制される結果、鋼材の耐水素脆化特性を安定させることを見出した。
以上の検討結果から、具体的には次の2つの条件を同時に満足することで、50MPa以下の高圧水素環境下においても耐水素脆化特性に優れたbcc組織を主体とするNi鋼材が得られることを知見した。
(イ)鋼材のNi含有量を9.0質量%以上とした上で、母相となるマルテンサイトを主体とするbcc組織中のNi含有量を7.5質量%以上確保すること。
(ロ)鋼材の旧オーステナイト粒径を12.0μm以下とすること。
さらに、上記Ni鋼材において、高圧水素容器などの部材に適用した時を想定して、鋼材の機械的特性と耐水素脆化特性の関係について検討した結果、引張強さを930MPa以下とすることで、50MPa以下の高圧水素中での相対絞り値が0.80以上という優れた耐水素脆化特性を発現することを見出すに至った。
なお、上記の相対絞り値とは、鋼材の耐水素脆化特性の指標であり、高圧水素中での引張試験時の鋼材の絞り値をヘリウムなどの不活性ガス(もしくは大気)中での絞り値で除した値である。したがって、相対絞り値が1に近いほど耐水素脆化特性に優れることになる。実用的には、鋼材の相対絞り値が0.80以上であれば問題なく、高圧水素環境で使用できる。
本発明は、以上のような知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
(1) 化学組成が、質量%で、
Ni:9.0%以上14.0%未満、
C:0.003〜0.080%、
Si:0.03〜0.30%、
Mn:0.10〜0.50%、
Mo:0.10〜0.50%、
Al:0.010〜0.060%、
N:0.0015〜0.0050%、
O:0.0030%以下、
P:0.0070%以下、
S:0.0040%以下、
Cu:0〜0.50%、
Cr:0〜0.50%、
Nb:0〜0.020%、
Ti:0〜0.020%、
V:0〜0.50%、
B:0〜0.0020%、
Ca:0〜0.0040%、
希土類元素:0〜0.0050%、
残部:Feおよび不純物であり、
金属組織が、体心立方格子構造の組織を主体とし、
前記体心立方格子構造の組織中のNi固溶量が7.5%以上であり、
旧オーステナイト粒径が12.0μm以下であり、
引張強さが930MPa以下である、
高圧水素用ニッケル鋼材。
(2)前記化学組成が、質量%で、
V:0.10%以上を含有する、
上記(1)の高圧水素用ニッケル鋼材。
(3)前記引張強さが560MPa以上である、
上記(1)または(2)の高圧水素用Ni鋼材。
(4)前記引張強さが690MPa以上である、
上記(1)または(2)の高圧水素用Ni鋼材。
(5)前記金属組織において、オーステナイト相の体積分率が、5.0%以下である、
上記(1)〜(4)のいずれかの高圧水素用ニッケル鋼材。
本発明によれば、最大50MPaの高圧水素環境下においても十分な耐水素脆化特性を有し、かつ高い強度を有するNi鋼材を提供することができる。このNi鋼材は、高圧水素用途、例えば、高圧水素を貯蔵するタンク、配管、バルブなど、水素貯蔵施設、水素供給施設、燃料電池自動車、水素利用発電施設等において高圧水素環境下で使用するのに適している。したがって、このNi鋼材を高圧水素用機器に使用すれば、高Ni当量のSUS316系オーステナイト系ステンレス鋼に比べて、板厚を薄く、軽量化し、鋼材使用量を低減することが可能となる。また、高強度のオーステナイト系ステンレス鋼に比べコストを低減することが可能となる。このため、本発明により、高圧水素機器の軽量化やコストダウンを進め、また燃料電池自動車の燃費向上などが可能となる。このように、本発明は産業上の貢献が極めて顕著である。
以下、本実施形態に係る高圧水素用ニッケル鋼材について説明する。まず、高圧水素用ニッケル鋼材の化学組成について説明する。なお、含有量の「%」は、特に説明がない限り、「質量%」を意味する。
1.化学組成
Ni:9.0%以上14.0%未満
Niは、耐水素脆化特性を確保するために必須の元素である。Ni含有量が9.0%未満であると、最大50MPaの高圧水素環境での絞りが劣化し、相対絞り値が0.80未満まで低下する場合がある。特に、水素の圧力が上昇する、または、使用温度が低下すると、相対絞り値は低下する傾向にある。したがって、Ni含有量を9.0%以上とする。Ni含有量は、相対絞り値を確保する上で増加させるのが良いが、最大50MPaの高圧水素環境下での使用を想定すると、高価なNiを14.0%以上含有させることのメリットは小さい。したがって、Ni含有量を14.0%未満とする。 好ましい上限は13.0%であり、より好ましい上限は12.0%であり、さらに好ましい上限は、11.0%である。
C:0.003〜0.080%
Cは、室温での降伏応力を上昇させる元素であり、マルテンサイトやオーステナイトの生成にも寄与する。C含有量が0.003%未満では強度が確保できなくなる。したがって、C含有量を0.003%以上とする。一方、C含有量が0.080%を超えると、強度が高くなりすぎて相対絞り値が低下するため、その上限を0.080%とする。好ましいC含有量の上限は0.070%、より好ましくは0.060%であり、更に好ましいC含有量の上限は0.055%である。560MPa以上の引張強さを得るためには、C含有量の下限は0.005%とするのが好ましく、0.010%以上とするのがより好ましく、0.030%以上とするのがさらに好ましい。特に、690MPa以上の引張強さを得るためには、C含有量の下限は0.040%とするのが好ましい。
Si:0.03〜0.30%
Siは、降伏応力を上昇させる元素である。Si含有量が0.03%未満では室温での降伏応力の向上効果が小さい。したがって、Si含有量を0.03%以上とする。Si含有量の好ましい下限は0.04%であり、より好ましい下限は0.05%である。一方、Si含有量が0.30%を超えると、旧オーステナイト粒界のセメンタイトが粗大化しやすくなり、靭性が低下する。したがって、Si含有量を0.30%以下とする。好ましいSi含有量の上限は0.20%、より好ましくは0.15%であり、更に好ましいSi含有量の上限は0.10%である。
Mn:0.10〜0.50%
Mnは、室温での降伏応力を上昇させる元素である。Mn含有量が0.10%未満では強度を確保できず、また、粗大なベイナイトなどの生成によって構造材料として必要とされる靭性が低下することがある。したがって、Mn含有量を0.10%以上とする。Mn含有量の好ましい下限は0.20%である。一方、Mn含有量が0.50%を超えると、旧オーステナイト粒界に偏析したMnや粗大に析出するMnSにより粒界での破壊が起こり、靭性が低下する。また、Mnはオーステナイト安定化元素でもあるため、多量に含有させるとオーステナイト相が過剰に生成し、bcc組織中に十分な量のNiを固溶させることが困難になる。したがって、Mn含有量を0.50%以下とする。好ましいMn含有量の上限は0.40%である。
Mo:0.10〜0.50%
Moは、降伏応力を上昇させる元素であり、粒界脆化を抑制する効果も有する。したがって、Mo含有量を0.10%以上とする。Mo含有量の好ましい下限は0.15%であり、より好ましい下限は0.20%である。一方、Moは高価な元素であり、Mo含有量が0.50%を超えると経済性を損なう。また、Moはオーステナイト安定化元素でもあるため、多量に添加するとオーステナイト相が過剰に生成し、bcc組織中に十分な量のNiを固溶させることが困難になる。したがって、Mo含有量を0.50%以下とする。Mo含有量の好ましい上限は0.40%である。
Al:0.010〜0.060%
Alは、主に脱酸に使用される元素であり、また、AlNを形成し、金属組織の微細化や、靱性を低下させる固溶Nの低減にも寄与する。Al含有量が0.010%未満では脱酸の効果や金属組織の微細化効果及び固溶N低減効果が小さい。したがって、Al含有量を0.010%以上とする。Al含有量の下限は0.015%が好ましく、より好ましくは0.020%である。しかし、Al含有量が0.060%を超えると、靭性が低下する。したがって、Al含有量を0.060%以下とする。Al含有量の好ましい上限は0.050%であり、より好ましいのは0.040%である。
N:0.0015〜0.0050%
Nは、窒化物の形成に寄与する。N含有量を0.0015%未満へ低減すると、熱処理時にオーステナイト粒径の粗大化を抑制する微細なAlNが不足し、オーステナイト粒が粗大化して靭性が低下する場合がある。したがって、N含有量は、0.0015%以上とする。好ましくは0.0020%以上とする。一方、N含有量が0.0050%を超えると固溶Nが増加したり、AlNが粗大化するため靭性が低下する。したがって、N含有量を0.0050%以下とする。N含有量の好ましい上限は0.0045%であり、より好ましいのは0.0040%である。
O:0.0030%以下
Oは、不純物である。O含有量が0.0030%を超えるとAlのクラスターが増加し、靭性が低下する場合がある。したがって、O含有量の上限を0.0030%以下とする。好ましいO含有量の上限は0.0025%であり、より好ましくは0.0020%、更に好ましくは0.0015%とする。O含有量は少ないほうが望ましいが、0.0007%未満へのO含有量の低減はコスト上昇を伴う場合がある。したがって、好ましくはO含有量を0.0007%以上とする。
P:0.0070%以下
Pは、旧オーステナイト粒界での粒界脆化をもたらし、靭性に有害な元素である。そのため、P含有量は少ないほうが望ましい。P含有量が0.0070%を超えると靭性が低下する場合がある。したがって、P含有量を0.0070%以下とする。P含有量の上限は、好ましくは0.0050%、より好ましくは0.0040%、更に好ましくは0.0030%である。Pは溶鋼製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
S:0.0040%以下
Sは、MnSとして脆性破壊の発生起点となる場合があり、靭性に有害な元素である。S含有量が0.0040%を超えると靭性が低下する場合がある。したがって、S含有量を0.0040%以下とする。S含有量の上限は、好ましくは0.0030%、より好ましくは0.0020%、更に好ましくは0.0010%である。Sは溶鋼製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
Cu:0〜0.50%
Cuは、室温での降伏応力を上昇させる元素であり、Cuを含有させてもよい。ただし、Cu含有量が0.50%を超えると靭性が低下するため、上限を0.50%以下とする。Cu含有量の上限は、好ましくは0.40%以下、より好ましくは0.30%以下、更に好ましくは0.20%以下である。Cuは、溶鋼の製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。上記の効果を得るためには、Cuの下限は、0.01%とするのが好ましく、0.03%とするのがより好ましく、0.04%とするのがさらに好ましい。
Cr:0〜0.50%
Crは、室温での降伏応力を上昇させる元素であり、Crを含有させてもよい。ただし、Cr含有量が0.50%を超えると靭性が低下する。したがって、Cr含有量を0.50%以下とする。Cr含有量の上限は、好ましくは0.30%、より好ましくは0.20%、更に好ましくは0.10%である。Crは、溶鋼の製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。上記の効果を得るためには、Crの下限は、0.01%とするのが好ましい。
Nb:0〜0.020%
Nbは、室温での降伏応力を上昇させる元素であり、金属組織の微細化による靭性の向上効果も有するので、Nbを含有させてもよい。ただし、Nb含有量が0.020%を超えると、靭性が低下する。したがって、Nb含有量を0.020%以下とする。Nb含有量の上限は、好ましくは0.015%、より好ましくは0.010%である。Nbは溶鋼の製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。上記の効果を得るためには、Nbの下限は、(0.005)%とするのが好ましい。
Ti:0〜0.020%
Tiは、TiNを形成し、金属組織の微細化や、靱性を低下させる固溶Nの低減にも寄与するので、Tiを含有させてもよい。しかし、Ti含有量が0.020%を超えると、靭性が低下する。したがって、Ti含有量を0.020%以下とする。好ましいTi含有量の上限は0.015%であり、より好ましい上限は0.010%である。Tiは、溶鋼の製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。上記の効果を得るためには、Tiの下限は、(0.008)%とするのが好ましい。
V:0〜0.50%
Vは、室温での降伏応力を上昇させる元素であり、また炭化物(VC)を生成して、環境中から侵入した水素をトラップして無害化する効果があるので、Vを含有させてもよい。しかしながら、0.50%を超えて含有させると靭性が低下する。したがって、V含有量を0.50%以下とする。V含有量の上限は、好ましくは0.40%である。Vは溶鋼の製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。前述の水素トラップ効果を得るためには、Vの下限は、0.001%とするのが好ましく、0.005%とするのがより好ましく、0.010%とするのがより好ましく、0.10%とするのがさらに好ましい。
B:0〜0.0020%
Bは、室温での降伏応力を上昇させる元素であり、また、BNを形成し、靱性を低下させる固溶Nの低減にも寄与するので、Bを含有させてもよい。しかし、Bを0.0020%超含有すると靭性が低下する。したがって、B含有量を0.0020%以下とする。B含有量の上限は、好ましくは0.0015%であり、より好ましくは0.0012%、更に好ましくは0.0010%である。Bは溶鋼の製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。 Bの効果を得るためには、その下限は、0.0001%とするのが好ましく、0.0003%とするのがより好ましく、0.0005%とするのがさらに好ましい。
Ca:0〜0.0040%
Caは、熱間圧延により延伸して靭性への有害性が高まりやすいMnSをCaSとして球状化し、靭性を向上させるのに有効であるため、Caを含有してもよい。しかし、Ca含有量が0.0040%を超えると、Caを含有する酸硫化物が粗大化して、靭性が低下する。したがって、Ca含有量を0.0040%以下とする。好ましいCa含有量の上限は0.0030%である。Caは、溶鋼製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。 Caの効果を得るためには、その下限は、0.0001%とするのが好ましく、0.0005%とするのがより好ましく、0.0010%とするのがさらに好ましい。
希土類元素:0〜0.0050%
希土類元素(REM)は、Caと同様に、熱間圧延によって延伸して靭性への有害性が高まりやすいMnSをREMの酸硫化物として球状化し、靭性を向上させるのに有効であるため、REMを含有してもよい。しかし、REM含有量が0.0050%を超えるとREMを含有する酸硫化物が粗大化して、靭性が低下する。したがって、REM含有量を0.0050%以下とする。好ましいREM含有量の上限は0.0047%である。REMは、溶鋼の製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。REMの効果を得るためには、その下限は、0.0001%とするのが好ましく、0.0005%とするのがより好ましく、0.0010%とするのがさらに好ましい。
なお、本明細書におけるREMは、Sc、Y、及びランタノイド(原子番号57番のLa〜同71番のLu)の17元素のうちの少なくとも1種以上を含有し、REM含有量はこれら元素の合計含有量である。
本実施形態に係る高圧水素用ニッケル鋼材は、上記各元素を含有し、残部は、鉄および不純物である。ここで、不純物とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石やスクラップ等のような原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。ただし、本発明においては、不純物のうち、O、P及びSについては、上述のように、上限を規定する必要がある。また、本実施形態に係る高圧水素用鋼には、上記成分の他に、スクラップ等の副原料からの不純物として、以下の合金元素を含有してもよい。
Sbは、靭性を損なうため、Sb含有量は、0.005%以下であることが好ましく、0.003%以下であることがより好ましく、0.001%以下であることが最も好ましい。
Snは、靭性を損なうため、Sn含有量は、0.005%以下であることが好ましく、0.003%以下であることがより好ましく、0.001%以下であることが最も好ましい。
Asは、靭性を損なうため、As含有量は、0.005%以下であることが好ましく、0.003%以下であることがより好ましく、0.001%以下であることが最も好ましい。
また、Co、Zn及びWは、それぞれ0.010%以下であることが好ましく、0.005%以下であることがより好ましい。
Sb、Sn、As、Co、Zn及びWの下限を制限する必要はなく、各元素の下限は0%である。また、不純物元素(例えば、P、S)が意図的に添加されたとしても、任意添加元素(Cu、Cr、Mo、Nb、V、Ti、B、Ca、及びREM)が不純物として混入していても、その含有量が請求項で規定される範囲内にあれば、その高圧水素用Ni鋼材は本発明の範囲内と解釈する。
2.金属組織
本実施形態に係る高圧水素用ニッケル鋼材は、体心立方格子構造の組織、すなわちbcc組織を主体とする。主体とするとは、金属組織中の大部分がbcc組織であることを意味し、具体的には、体積分率で90.0%以上であることが好ましい。より好ましい体積分率は95.0%である。本実施形態に係るbcc組織は、主としてマルテンサイトで構成されているが、一部にベイナイトが含まれていてもよい。bcc組織中のマルテンサイトの割合は、体積分率で50.0%以上であればよい。
後述するように、bcc組織中のNi固溶量を増やすためには、Niが濃化し易いオーステナイト相を極力減らすことが望ましい。このため、オーステナイト相は、体積分率で5.0%以下とするのが好ましく、3.0%以下とすることがより好ましい。さらに好ましくは、オーステナイト相の体積分率を0%として、bcc組織単相とする。ただし、bcc組織中のNi固溶量を十分に確保できるのであれば、オーステナイト相の体積分率は5.0%を超えていてもよい。なお、ここでいうオーステナイト相は、旧オーステナイトとは異なり、熱処理後のNi鋼材中に存在するオーステナイト相である。オーステナイト相の体積分率は、X線回折法で測定する。
bcc組織中のNi固溶量:7.5%質量以上
オーステナイト相は、元来、水素の影響を受けにくいため、オーステナイト相中にNiが濃化してもニッケル鋼材全体の耐水素脆化特性は向上しないが、母相であるbcc組織中にNiを多く固溶させると、bcc組織の耐水素脆化特性が向上し、ニッケル鋼材全体の耐水素脆化特性も向上する。特に、50MPa以下の高圧水素環境下における優れた耐水素脆化特性を得るためには、bcc組織中のNi固溶量は、7.5%質量以上とする必要がある。好ましい下限は、8.0質量%であり、より好ましいのは8.5質量%である。Ni固溶量は、多いほど耐水素脆化特性を向上させるので特に定めなくても良い。実質的には、添加するNi量の上限に依存し、14.0%未満である。
旧オーステナイト粒径:12.0μm以下
旧オーステナイト粒径が12.0μmを超えると、旧オーステナイト粒界や旧オーステナイト粒から変態したマルテンサイトのパケット境界に発生した割れ状の破壊が鋼材全体の破壊を引起こす程度に大きくなり、起点となって鋼材全体の破壊を早め、水素中での水素脆化指標である相対絞り値を低下させる場合がある。したがって、旧オーステナイト粒径は12.0μm以下とする。好ましい上限は10.0μmである。旧オーステナイト粒径は小さいほど好ましいが、細粒化するには熱処理の回数を増加させるなど、製造コストの上昇を伴う。工業的な製造工程を考慮した場合、旧オーステナイト粒径の下限は3.0μmとするのが好ましい。なお、旧オーステナイト粒径は、鋼材から採取した試料を樹脂に埋めて断面を鏡面研磨した後、例えば、界面活性剤を添加したピクリン酸飽和水溶液によってエッチングし、光学顕微鏡等で拡大観察することにより測定することができる。
3.物性
引張強さ:930MPa以下
一般に、鋼材の水素脆化は、鋼材の強度が高まるにつれ起こり易くなることが知られており、本実施形態に係る高圧水素用ニッケル鋼材においても例外ではない。bcc組織中のNi固溶量を高めた場合においても、その引張強さが930MPaを超えると、水素脆化現象起きやすくなり、高圧水素中での特性が劣化する。したがって、鋼材の引張強さは930MPa以下とする。一方、鋼材の強度が低いほど水素脆化は起きにくいが、鋼材の強度が低いと構造物や設備等の設計において必要な板厚が増えるため構造物の重量が増してしまうなど好ましくない。そこで、鋼材の引張強さは560MPa以上が望ましく、より望ましくは690MPa以上である。
4.製造方法
次に、本実施形態に係る高圧水素用Ni鋼材の製造方法の一例として、鋼板の製造方法について説明する。
鋼材の溶製方法は、例えば溶鋼温度を1650℃以下として、溶鋼O濃度を0.01%以下、溶鋼S濃度を0.02%以下とした状態で、元素の含有量の調整を行った後、連続鋳造により鋼片を製造する。得られた鋼片を加熱し、熱間圧延を施し、水冷等の強制冷却により焼入れした後、焼戻しを、順次、施す熱処理を行う。以下、各工程における好ましい製造条件について説明する。
熱間圧延を施す鋼片の加熱温度は、950℃以上、1100℃以下とすることが好ましい。加熱温度が950℃を下回るとAlNが粗大化し、靭性が低下することがある。加熱温度が1100℃を上回ると加熱時にオーステナイト粒径が粗大となり、耐水素脆化特性や靭性が低下することがある。より好ましい加熱温度の上限は1050℃である。加熱の保持時間は30分〜180分が望ましい。
熱間圧延では、950℃以下での圧下率が85%を下回ると、圧延中のオーステナイトの再結晶によるオーステナイト粒の細粒化が不十分となり、圧延後のオーステナイト粒の一部が粗大になる。その結果、耐水素脆化特性や靭性が低下する場合がある。したがって、950℃以下での圧下率は85%以上が好ましい。より好ましい圧下率は90%以上である。圧延の再結晶による旧オーステナイト粒の均質な細粒化は耐水素脆化特性と靭性を確保する上で重要であり、圧延温度と圧下率の厳格な規制が好ましい。950℃以下での圧下率が95%を上回ると、圧延時間が長時間となり、生産性に課題が生じる場合があるので、950℃以下での圧下率は95%以下が好ましい。
熱間圧延の終了温度は、580℃を下回ると水冷開始温度が低下して、後述する好ましい水冷開始温度を満たせなくなる可能性がある。したがって、終了温度を580℃以上とすることが好ましい。より好ましい熱間圧延の終了温度は600℃以上である。一方、熱間圧延の終了温度が770℃を上回ると、圧延により導入された転位が回復により減少し、旧オーステナイト粒径が12.0μmを超えて大きくなる。その結果、耐水素脆化特性が低下するとともに、靭性が低下したり、室温の降伏応力が不足する場合がある。したがって終了温度は770℃以下とすることが好ましい。より好ましい熱間圧延の終了温度は750℃以下である。
熱間圧延後は、室温付近まで水冷することが好ましい。水冷開始温度は、580℃以上、770℃以下が好ましい。水冷開始温度が580℃を下回ると、粗大なベイナイトが一部に生成する場合がある。この粗大なベイナイトはその後に熱処理を行っても比較的粗大なベイナイトとして残存しやすいため、旧オーステナイト粒径12.0μm以下に制御することが困難となり、耐水素脆化特性や靭性が低下する場合がある。また、高温で変態したベイナイトを含有するため、室温での降伏応力が低下しやすい。したがって、水冷開始温度を580℃以上とすることが好ましく、より好ましい水冷開始温度は600℃以上である。水冷開始温度の上限は特に規制する必要はなく、熱間圧延の終了後、直ちに水冷を開始してもよい。圧延終了温度の好ましい上限である770℃が水冷開始温度の好ましい上限となる。
焼戻しは、強度を調節する目的で実施される。加熱温度は490℃以上、590℃以下が好ましい。焼戻しの加熱温度(焼戻し温度)が490℃を下回ると、鋼材の引張強さが高くなりすぎ、また靭性が低下する場合がある。より好ましい焼戻し温度は510℃以上である。一方、焼戻し温度が590℃を上回ると、室温でのオーステナイト相が増え、その結果bcc組織中のNi固溶量が低下し、耐水素脆化特性が低下する場合がある。したがって、好ましい焼戻し温度は590℃以下であり、より好ましくは570℃以下、さらに好ましくは560℃以下である。焼戻しの保持時間は20分〜180分が望ましい。焼戻し時の冷却方法は、焼戻し脆化を避けるために水冷を行うことが望ましい。
なお、前述のように、低温用Ni鋼材の場合、通常、熱間圧延後の水冷(すなわち焼入れ)と焼戻しの間に中間熱処理が実施される。この中間熱処理は、焼き入れ組織の一部をオーステナイトに逆変態させるとともに、Niを濃化させて安定化し、最終の熱処理後の鋼材に安定的な残留オーステナイトを増加させる。この安定な残留オーステナイト相が極低温での破壊靱性を向上させる役割をになう。しかし、オーステナイト相を増やし、かつ、Niを濃化させる結果、耐水素脆化特性にとって重要な母相のbcc組織中のNi固溶量は低下する。したがって、本実施形態に係る高圧水素用Ni鋼材においては中間熱処理を実施するのは好ましくない。
上述の製造方法では、一例として厚鋼板の製造方法を説明した。しかしながら、本発明の鋼材は、鋼管や他の形状であって同様である。すなわち、鋼片を製造して、加熱された鋼片に熱間加工を施し、焼入れ及び焼戻しを順次施す熱処理を行う。
以下、本発明の一例として実施例を示すが、本発明は、以下に説明する実施例に制限されるものではない。
転炉により鋼を溶製し、連続鋳造により厚さが100mm〜240mmのスラブを製造した。表1および表2に鋼種A1〜A21の化学成分を示す。これらのスラブを加熱して、熱間で圧延を行い、そのまま水冷により焼入れ、さらに焼戻しの熱処理を施して鋼板を製造した。比較例として、一部の鋼種に対しては中間熱処理を施した。熱間圧延の加熱の保持時間は30〜120分、中間熱処理および焼戻しの熱処理の保持時間は20〜60分とした。鋼板から試料を採取し、金属組織、機械的特性(引張強さ)、相対絞り値を評価した。
Figure 2019090068
Figure 2019090068
旧オーステナイトの粒径は、板厚中心部の圧延方向に平行な面(L面)を観察面として測定した。旧オーステナイトの粒径は、JIS G 0551に準拠して行った。まず、試料の観察面をピクリン酸飽和水溶液で腐食し、旧オーステナイト粒界を現出させた後、走査電子顕微鏡(以下、「SEM」ともいう。)で1000倍あるいは2000倍で5視野以上の写真を撮影した。組織写真を用いて、旧オーステナイト粒界を同定した後に、少なくとも20個の旧オーステナイト粒につき円相当粒径(直径)を切断法により求め、これらの平均値を旧オーステナイトの粒径とした。
なお、本発明鋼では、旧オ−ステナイトの粒界の破壊を抑制するために、旧オーステナイト粒径の細粒化やP含有量の抑制などを実施している。このため、旧オーステナイト粒界を腐食により同定しにくいことがある。このような場合、450〜490℃に加熱後、1時間以上保持する熱処理を施した後、上述の方法で旧オーステナイト粒径を測定した。450〜490℃での熱処理を行っても旧オーステナイト粒界の同定が難しい場合は、熱処理後のサンプルからシャルピー試験片を採取し、−196℃で衝撃試験を行い、旧オーステナイト粒界で破壊させたサンプルを使用した。この場合は、圧延方向に平行な面(L面)で破面の断面を作製し、腐食後、SEMで板厚中心部の破面断面の旧オーステナイト粒界を同定し、旧オーステナイト粒径を測定した。熱処理によって旧オーステナイト粒界を脆化させると、シャルピー試験時の衝撃荷重で旧オーステナイト粒界に微小なクラックが生じるため、旧オーステナイト粒界が同定しやすくなる。
オーステナイト相の体積分率は、板厚中心部につき板面に平行なサンプルを採取してX線回折法で測定した。CrKα線を使用し、オーステナイト(fcc構造(111))と焼戻しマルテンサイト(bcc構造(110))との回折ピークの積分強度の比から各相の体積分率を同定した。
bcc組織中のNi固溶量については、まず、オーステナイト相中のNi量を測定し、オーステナイト相の体積分率との関係を用いて、bcc組織中のNi固溶量を計算により求めた。オーステナイト相中のNi量の測定は、0.1μm厚の薄膜試料を鋼材から採取し、透過電子顕微鏡(以下、「TEM」ともいう。)を用いて、薄膜内のオーステナイト相と思われる部分を暗視野像により観察し、回折パターンによりオーステナイト相であることを確認した上で、当該部分におけるNi含有量をTEMに付属したエネルギー分散型X線分析装置(以下、「EDS」ともいう。)を用いて測定した。これを薄膜内の5か所で実施し、その平均値から求めた。
機械的特性として、引張強さを評価した。圧延方向に平行な方向(L方向)を長手方向とするJIS Z 2241に規定の1A号全厚引張試験片を各鋼材から採取し、JIS Z 2241に規定の方法で室温にて評価した。引張強さの目標値は930MPa以下である。
さらに、相対絞り値を評価した。まず、大気中室温における絞り値を、圧延方向に平行な方向(L方向)を長手方向とするJIS Z 2241に規定の平行部径6mmの4A号丸棒引張試験片を各鋼材から採取し、JIS Z 2241に規定の方法で評価した。次に、水素中室温の絞り値を、50MPaの高圧水素中で、大気中と同じ方法で採取した試験片を各鋼材から採取し、引張試験を行い評価した。このとき、水素の影響を十分に評価可能とするため、JIS Z 2241の規定より遅い歪速度8×10−5(1/s)で行った。そして、水素中で得られた絞り値を大気中で得られた絞り値で除し、相対絞り値を得た。相対絞り値の目標値は0.80以上、好ましくは0.90以上である。相対絞り値が0.80以上であった場合に耐水素脆化特性に優れると判定した。
表3および表4に鋼種A1〜A21の化学成分を有するスラブを用いて製造した鋼材(製造条件No.1〜32)の板厚、製造方法、機械的特性(引張強さ)、金属組織を示す。
Figure 2019090068
Figure 2019090068
表3に示すように、製造条件No.1〜18は,室温での強度、及び、相対絞り値が、目標値を満足している。ただし、鋼材のNi含有量が低めでbcc組織中のNi固溶量が低い製造条件No.2〜6のうち、No.2、3及び5は、相対絞り値が目標値内ではあるがやや低下している。一方、鋼材のNi含有量が低めであっても、Vを0.10%以上含有させた製造条件No.4、6については、高い相対絞り値を示した。また、製造条件No.9は、水冷開始温度が低めで旧オーステナイト粒径が好ましい範囲内ではあるが若干大きくなり、相対絞り値が目標値内ではあるがやや低下している。また、No.10は、焼戻し温度が高く、No.17は、C含有量が少ないため、いずれも引張強さが他の本発明例に比べて低下している。No.18は、オーステナイト相の体積分率が5.1%と高いが、bcc組織中のNi固溶量が10.8%と高いため、相対絞り値が高かった。
これに対して、表4に示すように、製造条件No.19は、C含有量が高いため、強度が高く相対絞り値が低下している。製造条件No.20、21は、Ni含有量が少ないため、bcc組織中のNi含有量が不足し、相対絞り値が低下している。製造条件No.22、23は、それぞれ、Mn含有量、Mo含有量が高く、オーステナイト相の体積分率が高いためにbcc組織中のNi固溶量が不足し、相対絞り値が低下している。製造条件No.24は、N含有量が高いため、強度が高く、オーステナイト相の体積分率が高くなりbcc組織中のNi固溶量も低下しているため、相対絞りが低下している。
製造条件No.25〜32は、好ましい範囲から逸脱する製造条件を採用した例である。製造条件No.25は、焼戻し温度が低く、強度が高いため、相対絞り値が低下している。製造条件No.26〜28は、中間熱処理を実施したため、オーステナイト相中に固溶するNiが増加し、その結果、bcc組織中のNi固溶量が低下したため、相対絞り値が低下している。製造条件No.29は圧延時の加熱温度が高く、旧オーステナイト粒の粒径が大きくなり、相対絞り値が低下している。製造条件No.30は、950℃以下での圧下率が低く、旧オーステナイト粒径が大きくなり、相対絞り値が低下している。製造条件No.31は、圧延終了温度が高く、旧オーステナイト粒径が大きくなり、相対絞り値が低下している。製造条件No.32は、熱間圧延の加熱温度と圧延終了温度が低く、旧オーステナイト粒径が大きくなり、相対絞り値が低下している。

Claims (5)

  1. 化学組成が、質量%で、
    Ni:9.0%以上14.0%未満、
    C:0.003〜0.080%、
    Si:0.03〜0.30%、
    Mn:0.10〜0.50%、
    Mo:0.10〜0.50%、
    Al:0.010〜0.060%、
    N:0.0015〜0.0050%、
    O:0.0030%以下、
    P:0.0070%以下、
    S:0.0040%以下、
    Cu:0〜0.50%、
    Cr:0〜0.50%、
    Nb:0〜0.020%、
    Ti:0〜0.020%、
    V:0〜0.50%、
    B:0〜0.0020%、
    Ca:0〜0.0040%、
    希土類元素:0〜0.0050%、
    残部:Feおよび不純物であり、
    金属組織が、体心立方格子構造の組織を主体とし、
    前記体心立方格子構造の組織中のNi固溶量が7.5%以上であり、
    旧オーステナイト粒径が12.0μm以下であり、
    引張強さが930MPa以下である、
    高圧水素用ニッケル鋼材。
  2. 前記化学組成が、質量%で、
    V:0.10%以上を含有する、
    請求項1に記載の高圧水素用ニッケル鋼材。
  3. 前記引張強さが560MPa以上である、
    請求項1または2に記載の高圧水素用ニッケル鋼材。
  4. 前記引張強さが690MPa以上である、
    請求項1または2に記載の高圧水素用ニッケル鋼材。
  5. 前記金属組織において、オーステナイト相の体積分率が、5.0%以下である、
    請求項1から4までのずれかに記載の高圧水素用ニッケル鋼材。
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