JP2019085373A - 高配向コラーゲン線維束及びその製造方法 - Google Patents

高配向コラーゲン線維束及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】一定以上のファイバー長を有する高配向のコラーゲン線維束の提供。【解決手段】本発明は、長軸方向の長さが1m以上の高配向コラーゲン線維束に関する。【選択図】なし

Description

本発明は、広く高配向コラーゲン線維束又はそれを含むコラーゲンゲル、及びそれらの製造方法に関する。
組織工学分野においては、コラーゲンなどの細胞足場分子を配向させて生体構造を模倣した医療用足場材料の開発が盛んに行われている。
従来、以下の条件を満たすコラーゲン線維ゲル成型体は存在していなかったため、人工腱の開発、強度強化されたコラーゲン膜やスポンジ成型体など被覆材の開発、および織物化による関節外科用材料の開発に有用なコラーゲンファイバーを製造することができないという問題があった。
1)コラーゲン線維が高い配向性を有し、かつ太いコラーゲン線維ゲル成型体もしくは厚みの大きい帯状コラーゲン線維ゲル成型体。
2)1)の条件を満たす、コラーゲンが架橋されたゲル成型体。
3)紐状のゲル成型体1)又は2)から得られる、太いコラーゲンファイバー。
4)帯状のゲル成型体1)又は2)から得られる、厚みの大きいコラーゲンシート。
さらに、上記のようなコラーゲン線維ゲル成型体を工業化するためには以下の条件を全て満たす成型技術が必要になるが、いまだ開発されていない。
イ)医療用コラーゲンの連続紡糸ができる。
ロ)コラーゲン線維が一軸配向している。
ハ)紐状コラーゲンゲルの直径を1mm〜10mmの範囲で制御できる。
二)金型を変えることで多彩な形状の連続ゲル成型ができる。
コラーゲンの配向化技術としては、せん断応力、磁場、電場等を利用する方法が存在しているが(非特許文献1−4及び特許文献1−3)、中でもせん断応力による分子配向技術が量産性の観点から医療機器の製造方法として最も実用化に近いと考えられる。
特開2016-77411号公報 国際公開第2010/101639号 特開2006-280222号公報
Saeidi et al. Acta Biomater 7, 2437-47 (2011) Lanfer et al. Biomaterials 29, 3888-95 (2008) Pin et al. Biophysical Journal 73, 2164 (1997) Cheng et al. Biomaterials 29, 3278 (2008) Younesi et al. Advanced Functional Materials 24, 5762 (2014)
しかしながら、せん断応力を用いてコラーゲン線維を配向しようとすると、所定の長さを超える高配向コラーゲン線維を調製することができないという問題があった。例えば、非特許文献1にはスピンコーターを用いて、せん断速度180〜2500(s-1)に相当するせん断力を受けた状態でコラーゲンを線維化させる技術が開示されている。ところが、スピンコーターとは円盤を高速回転させる装置であり、この技術に用いられた装置の最大径の円盤(φ30cm)を用いて外縁部からファイバーを回収できたとしてもコラーゲン線維の全長は94cm程度にしかならない。
非特許文献2には、幅1mm×深さ74μmのマイクロ流路に希薄なコラーゲン溶液を流し、線維化を促して基板にコラーゲン線維を付着させる技術が開示されているが、流路の長さはわずか8mmに過ぎない。マイクロ流路を長くしてコラーゲン線維成型体の延長を試みた場合、均一な層流が形成されるのは導入口からせいぜい数cmが限界であり、それ以上の長さのコラーゲン成型体を線維配向させて作製することは困難である。
ここで、特許文献1には、高配向のコラーゲンゲルを製造する方法が記載されている。しかしながら、特許文献1に記載のコラーゲンゲルはバッチ式の成型技術により製造されるものであり、連続紡糸によるものではない。また、特許文献1にはペルチェコントローラを装備した温度制御型のレオメーターを用いてコラーゲン水溶液にせん断を付与する方法が開示されている。ところが、レオメーターのセンサー最大径は60mmであり、得られた円盤状ゲルの外縁部を切り取ってファイバーを作製したとしても、得られたコラーゲン線維の長さは19cm程度にしかならない。
剪断配向法以外の従来の配向技術のうち、例えばコラーゲン水溶液を所定の内径を有するノズルから溶媒中に吐出してコラーゲンを凝固させる湿式紡糸法は、リザーバーのコラーゲン溶液が枯渇するまで紡糸を持続できる連続成型技術である。しかしながら、ノズルから凝固液へと吐出されたコラーゲンは、たとえノズル内で分子配向したとしても、コラーゲン溶液の溶媒と凝固液が徐々に置換する間に緩和が生じるため、ほぼランダム化したコラーゲン分子が線維化に移行し、コラーゲン線維がほとんど配向しないという問題がある。事実、非特許文献3には、湿式紡糸で作製したファイバー内のコラーゲン線維が配向しないことから、ファイバーを引っ張りながら乾燥することで線維配向を生じさせる技術が開示されている。
更に、湿式紡糸法は、線状のコラーゲン溶液の外側から徐々に凝固する紡糸機序のため、ノズル径が大きくなるほど凝固が進みにくくなるという問題や、太さの制御と同様の理由で、糸状以外の形状の連続成型に応用できないという問題もある。例えば、コラーゲン溶液が中空状で吐出された場合、凝固液は中空内へと浸透しにくく、均一な成型が困難となる。スリットから帯状にコラーゲン溶液を吐出しても、凝固が遅いために帯状の形状を維持できず、均一な成型が困難となる。すなわち、湿式紡糸法はファイバー径の制御範囲が狭く、形状制御性を有しない。
その他の既存の高配向なコラーゲンファイバーを作製する技術によっても、一定の長さ以上のコラーゲン線維を製造することは不可能であった。せん断応力のほかには、電気化学的方法によりコラーゲンファイバーを作製する技術が開示されている(非特許文献4)。これは、平行電極間に生じるpH勾配を利用して、電極中央部に電極と平行なコラーゲンファイバーを形成させる技術である。ところが、電極間のコラーゲン析出まで1時間を要するため、連続成型を行うには時間がかかりすぎ、事実上、非特許文献4に記載の方法はバッチ式成型法であると言える。この技術によるファイバー形成は電極の全長に制約され、かつバッチ式であったが、最近になり連続紡糸へと発展したことが開示された(非特許文献5)。しかし、電気化学的方法の本質的課題として、明確な線維配向が生じないという課題、およびコラーゲンファイバー径がほぼ100〜150μmに収束し、サイズや形状を制御できないという課題があった。
堆積法はノズルと基板を逆方向に移動させる方式であるため(特許文献2参照)、連続紡糸ができない。更に、磁場配向法として、特許文献3には超電導磁石を用いずともコラーゲン線維を配向させる技術が開示されている。しかしながら、直径20mmのシャーレ内のコラーゲンを配向させるまで2時間を要するバッチ式作製技術であり、連続紡糸技術への応用は困難である。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、従来技術で製造が困難であった、一定以上のファイバー長を有する高配向のコラーゲン線維束を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、所定の条件下で1m以上の高配向コラーゲン線維束の製造が可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]長軸方向の全長が1m以上である、一軸配向したコラーゲン線維束。
[2]始端から終端まで高度に配向している、[1]に記載のコラーゲン線維束。
[3][1]又は[2]に記載のコラーゲン線維束を含むコラーゲンゲル。
[4]紐状又は帯状に成型されている、[3]に記載のコラーゲンゲル。
[5]形態が紐状であり、その直径が0.2mm以上である、[4]に記載のコラーゲンゲル。
[6]断面積が3×10-2mm2〜700mm2の範囲にある、[3]〜[5]のいずれかに記載のコラーゲンゲル。
[7]コラーゲンゲルの製造時に複屈折測定で計測される屈折率差Δnが3×10-4以上である、[3]〜[6]のいずれかに記載のコラーゲンゲル。
[8][3]〜[7]のいずれかに記載のコラーゲンゲルの乾燥体。
[9]コラーゲンゾルを、当該ゾルがゲル化する温度に保温された流路に連続的に導入することにより、コラーゲン線維を配向させる工程を含む、[3]〜[7]のいずれかに記載のコラーゲンゲルを製造する方法。
[10]所定の濃度のコラーゲンを含むコラーゲンゾルに対し、前記コラーゲン線維が配向するようなせん断速度及びせん断時間でせん断を付与する工程を含む、[9]に記載の方法。

[11]前記温度が30℃〜50℃の範囲内である、[10]に記載の方法。
[12]前記せん断を付与する工程が、前記コラーゲン線維の形成によって前記せん断応力が1秒あたり2%〜40%の速度で増加している2秒〜120秒の工程を含む、[10]又は[11]に記載の方法。
[13]前記コラーゲンゾルのコラーゲン濃度が1.0質量%〜10質量%である、[10]〜[12]のいずれかに記載の方法。
[14]前記流路は、その断面が円若しくは楕円の筒型流路であり、前記断面の直径若しくは短軸径R(mm)に対する、前記コラーゲンゲルの流速の線速度L(mm・s-1)の比L/Rが0.2〜2(s-1)の範囲である、[10]〜[13]のいずれかに記載の方法。
[15]前記流路は、その断面が矩形の筒型流路であり、前記断面の短辺X(mm)に対する、前記コラーゲンゲルの流速の線速度L(mm・s-1)の比L/Xが0.2〜2(s-1)の範囲である、[10]〜[13]のいずれかに記載の方法。
[16]前記流路が、その断面が円若しくは楕円の筒型流路である場合、前記断面の直径若しくは短軸径をR(mm)とし、前記流路が、その断面が矩形の筒型流路である場合、前記断面の短辺をX(mm)とし、
センサーギャップをR/2(mm)若しくはX/2(mm)に設定し、センサー温度を上記流路の保温温度に設定したパラレルプレート型レオメーターを用いて、前記コラーゲンゾルに対して回転式せん断応力測定を実施して得られるせん断応力の極大値又はプラトー値に到達する時間をTau−max(s)とした場合、前記流路が前記コラーゲンゾルの線速度L(mm・s-1)とTau−maxとの積で計算される長さの20%〜400%の流路長を有する、[12]〜[15]のいずれかに記載の方法。
本発明によれば、一定以上のファイバー長を有する高配向のコラーゲン線維束、延いてはそれらを含むコラーゲンゲル又はその成型体の製造が可能になる。
パラレルプレート型レオメーターを用いてコラーゲンゾルのせん断応力変化を測定し、せん断応力増加率とTau−maxを導出する方法を表した模式図(A)、種々の形状の型内における簡易的せん断速度の計算法(B)、およびコラーゲンゾルの流路通過時間がTau−maxと等しくなる流路長を100%となるように定義した流路長比の計算方法(C)を示す図である。 実施例1の紡糸の様子(A)、実施例1から得られた紐状コラーゲンゲルの外観(B)、および実施例2から得られた紐状コラーゲンゲルから作製したドライファイバーの外観(C)を示す図である。 実施例1の紐状コラーゲンゲルの2次元複屈折像(A)および線分析データ(B)を示す図である。紐の軸方向と直行する任意の5点で線分析を行った。レターデーションは中央部50%の領域の平均値を利用した。 内径の異なるステンレス管を用いて作製した紐状コラーゲンゲルの外観(A)およびゲルの断面積と得られるドライファイバーの断面積の関係(B)を示す図である。 ステンレス管内のコラーゲンゾルのせん断速度と得られるコラーゲンゲルの屈折率差Δnの関係を示す図である。 理想条件に対するステンレス管の流路長比と得られるコラーゲンゲルの屈折率差Δnの関係を示す図である。 紐状コラーゲンゲル内部の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。 紐状コラーゲンゲルを乾燥して得られたコラーゲンファイバー(ドライファイバー)のヤング率(A)、破断応力(B)、および破断歪(C)、ドライファイバーをリン酸緩衝液に浸漬した湿潤状態のコラーゲンファイバー(ウェットファイバー)のヤング率(D)、破断応力(E)、および破断歪(F)を示す図である。データは平均値±標準偏差(n=5)で示してある。チューキー法により各データ群の差を検定し、p<0.05(図中の*)を有意差とした。**はp<0.01を示す。 ステンレス管の内径を変えて作製した紐状コラーゲンゾル内部のSEM像を示す。 実施例7で用いたTダイ金型の分解した状態(A)及び組み立て後の外観(B)、帯状コラーゲンの連続成型の様子(C)、および帯状コラーゲンゲルの2次元複屈折像(D)を示す図である。図10Cおよび10Dの白矢印は帯状コラーゲンゲルの成型方向を表し、図10Dの小さな黒矢印は主軸方位(配向方向)を表す。 実施例1と比較例1の紐状コラーゲンゲルの外観を示す図である。 比較例2の紡糸の外観を示す図である。 せん断速度増加率と屈折率差Δnの関係を示す図である。 湿式紡糸(比較例7)の様子(A)、湿式紡糸で得られた紐状コラーゲンゲルを乾燥したファイバーの外観(B)、および湿式紡糸の原理を用いてTダイ金型による帯状コラーゲンゲルを作製する過程を示す(比較例8)(C)。
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
本実施形態の高配向コラーゲン線維束は、長軸方向の全長が1m以上、好ましくは2m以上、より好ましくは10m以上である。本発明は、本発明者らが過去に見出した回転型レオメーターによるバッチ式のコラーゲン線維配向化法(特許文献1)を、金型内で連続的に生じさせるように改変・発展させたものである。特許文献1の線維配向化法は、特定の濃度のコラーゲン溶液に急速な線維化を生じさせ、その過程で公知のせん断配向化法よりも著しく低いせん断速度を、対になっている金属板の“ずり”変形により付与することを要件としている。本発明では、コラーゲン溶液を導入した流路内で特許文献1と類似の線維配向現象を生じるように改変した方法であり、流路を介しての連続成型が実現し、これにより初めて1m以上のコラーゲンゲルを成型可能になった。理論に拘束されることを意図するものではないが、コラーゲン線維を連続紡糸することにより1m以上もの長さの線維束を形成することが可能になる。原理的には製造可能な線維束の全長に限界はなく、原料のコラーゲンゾルが存在する限り、所望の長さの線維束を製造することができる。ここで、本明細書で使用する場合、「コラーゲン線維束」とは、一般的なコラーゲンナノ線維の束を意味し、束を構成する線維が、それぞれ一本ずつ一続きで1m以上の長さを構成することを意味するものではない。また、「高配向」とはコラーゲン線維が線維軸方向に高度に配向した状態を意味する。例えば、高配向とは複屈折測定でコラーゲンゲルの製造時、好ましくは製造直後に計測される屈折率差Δnが3x10-4を超える線維配向性や、光路長1mmあたりかつコラーゲン濃度1質量%あたりの複屈折位相差が30°〜90°の線維配向性に相当する。本発明のコラーゲンゲルの屈折率差の最大値は約5×10−4であり、コラーゲン濃度が10%である場合、屈折率差は2×10−3程度となる。ただし、これらの値はあくまでも例示であり、測定方法や測定値が限定されることを意図するものではなく、線維の配向を直接電子顕微鏡で観察してもよい。なお、コラーゲンの線維配向性は当業者に公知のその他の手法により測定可能であるが、本発明で達成される「高配向」は、小角X線散乱や複屈折写真を用いて測定される、従来の電気化学的方法により製造されたコラーゲン線維の配向度よりも遥かに高いものである。また、高配向の範囲についても、線維束の始端から終端まで、かつゲルの表面から内部まで高度に配向している状態が好ましい。
線維束は、コラーゲンゲルを製造するために、あるいは最終製品の目的に応じて、コラーゲン以外の成分を含んでいてもよく、例えば、コラーゲンゲルの強度を高める観点で架橋剤を含んでもよい。また、人工骨を製造するために、コラーゲン線維は水酸アパタイトと複合体を形成していてもよい(特開2007−98117号公報を参照)。
本実施形態のコラーゲンゲルは、上記高配向コラーゲン線維を含む。このようなコラーゲンゲルは、下記の実施形態のコラーゲンゲルを製造する方法により作製されるものである。上記の屈折率差や複屈折位相差を示すコラーゲンゲルは、コラーゲン線維が十分に配向したものといえ、例えばmm〜cmスケールの線維束として配向したものと認められる。完全に一軸配向したコラーゲン線維の製造時の屈折率差は10-2を超えず、その上限値は好ましくは5×10-3以下である。
せん断応力を用いて高配向コラーゲン線維を含むコラーゲンゲルを作製する方法がすでに開示されている。その方法は、コラーゲンゾルを、当該ゾルがゲル化する温度に保温された流路に連続的に導入することにより、コラーゲン線維を配向させる工程を含む。せん断応力を用いてコラーゲン線維を配向させる方法は当業者に公知であり、例えば、特許文献1には、コラーゲンを0.50質量%〜3.0質量%の濃度で含むコラーゲン水溶液に対しせん断速度0.20s-1〜30s-1の範囲のせん断を付与することによってコラーゲン線維を配向させる工程を有するコラーゲンゲルの作製方法であって、その工程が、コラーゲン線維の形成によってせん断応力が1秒あたり1%〜30%の速度で増加している2秒間〜120秒間の工程を含むことにより前記コラーゲン線維を配向させる。
本実施形態においては、1)ゲル化を行う際の加温による線維化の速度、2)コラーゲン線維にせん断を付与する際のせん断速度及び3)せん断付与時間を特定の範囲に制御しつつ、コラーゲンゾルを流路に連続的に導入する。例えば、ゲル化は30℃〜50℃、好ましくは35℃〜45℃の範囲内で実施され得る。コラーゲンゾルを流路に連続的に導入する前に、コラーゲンゾルの線維化速度が事前に回転型レオメーターを用いて事前に計測される。その際のせん断速度は、コラーゲン線維配向化を平板間で促進させる条件で行うという観点から、2〜20s-1の範囲が好ましく、例えば、5s-1であってもよい。
高配向コラーゲン線維を得るためのせん断条件を例示すると、せん断付与工程は、コラーゲン線維の形成によってせん断応力が1秒あたり2%〜40%の速度で増加している2s〜120sの工程を含む。せん断応力が1秒あたり4%〜30%の速度で増加している3s〜60sの工程を含むことがより好ましく、更に好ましい範囲はそれぞれ5%〜25%および4s〜20sである。これにより、コラーゲン線維の配向とゲル化が同時に進行するため、コラーゲン線維配向性が高く均質なゲル成型体が得られる。一方、上記の工程により急速な線維化を生じさせず、緩やかにコラーゲン線維化を進行させる場合、ゲル化が不十分な状態でせん断応力を長時間受けることになり、線維配向が乱され、表面の荒れた成型体となり得る。また、コラーゲン線維化が急速すぎても、配向化が十分に進行する前に線維ネットワークが完成してしまい、線維配向性の高いゲル成型体が得られ難くなる。
ゲル化にかけられるコラーゲンとしては、コラーゲン濃度が0.5質量%〜10質量%のコラーゲンゾルが使用され得る。例えば、コラーゲンは通常0.1〜1%程度の濃度の酸性水溶液として市販されているが、このような水溶液を濃縮し、中性の緩衝液と混合して不安定な状態(線維化が生じ易い状態)としたものを本明細書ではコラーゲンゾルと称する。本実施形態のコラーゲンゲルの作製方法は、そのようなコラーゲンゾルを準備する工程を有していてもよい。例えば、コラーゲンゾルは、酸性コラーゲン水溶液と中性の緩衝液を混合する、あるいは中性の緩衝液に対して透析することで調製される。
コラーゲンゾルは、コラーゲンを0.5質量%〜10質量%の濃度で含む中性溶液である。コラーゲンは水溶性であるが、室温付近での線維化が進み難いテロペプチド除去型コラーゲンを含むことが好ましく、実質的にテロペプチド除去型コラーゲンからなることがより好ましい。テロペプチド除去型コラーゲンは、コラーゲン分子が両末端に有するテロペプチドを、タンパク質分解酵素により酵素的に分解除去したものであり、例えば、コラーゲン分子が両末端に有するテロペプチドをペプシン消化により分解除去されたものである。また、テロペプチド除去型コラーゲンの中でも、医療機器の原料として承認されている哺乳類由来のテロペプチド除去型コラーゲンが好ましく、既に臨床応用され、熱安定性に優れるブタ皮由来のテロペプチド除去型コラーゲンがより好ましく用いられる。
コラーゲンは、線維形成能を有するコラーゲン(線維形成コラーゲン)であれば特に限定されない。線維形成コラーゲンの中でも、骨、皮膚、腱、および靭帯を構成するコラーゲンであるタイプI、軟骨を構成するコラーゲンであるタイプII、タイプIコラーゲンで構成される生体組織に含まれるタイプIIIなどが、入手のしやすさ、研究実績の豊富さ、あるいは製造したゲルを適用する生体組織との類似性の観点から好ましく用いられる。コラーゲンは常法により生体組織から抽出・精製して得てもよく、市販品を入手してもよい。コラーゲンは各タイプが精製されたものでも、複数のタイプの混合物でもよい。
コラーゲンの変性温度は、32℃以上であると好ましく、35℃以上であるとより好ましく、37℃以上であると更に好ましい。変性温度が32℃以上であることにより、コラーゲン水溶液の室温での流動性をより長く維持することが可能になると共に、生体内でのコラーゲンの変性が起こりにくくなる。コラーゲンの変性温度の上限は特に限定されないが、50℃以下であると好ましく、45℃以下であるとより好ましく、41℃であると更に好ましい。変性温度が50℃以下であることにより、温度上昇によるコラーゲンの線維化が速くなり、せん断によるコラーゲン線維の配向がより生じやすくなると共に、コラーゲンの生体吸収性が一層良好に保持される。コラーゲンの変性温度は、常法、すなわちコラーゲン水溶液の温度上昇に伴う円二色性、旋光度、又は粘度の変化によって測定される。コラーゲンの変性温度は、上記数値範囲内の変性温度を有するコラーゲンを選択することにより調整してもよい。
本実施形態のコラーゲンゾルにおいて、コラーゲンの濃度は、コラーゲンゾルの全量を基準として0.5質量%〜10.0質量%であり、好ましくは1.0質量%〜5.0質量%、より好ましくは2.0質量%〜3.0質量%である。コラーゲンの濃度が0.50質量%以上であることにより、コラーゲンゲルの作製工程においてゲルの破壊が抑制され、また、得られるゲルの機械強度を更に高めることができると共に、コラーゲン線維の配向度も高めることができる。一方、コラーゲンの濃度が10質量%以下であることにより、コラーゲンゾルの室温での流動性をより良好にすることができ、せん断の付与がより容易になる。
本実施形態のコラーゲンゾルは、後述の好適な範囲のイオン強度及びpHを得る観点から、無機塩を含むと好ましい。無機塩としては特に限定されず、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム(リン酸二水素ナトリウム及びリン酸水素ニナトリウムの総称)、及び、リン酸水素カリウム(リン酸二水素カリウム及びリン酸水素二カリウムの総称)が挙げられる。無機塩は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの無機塩のうち、コラーゲンゾルのpHを後述の好適な範囲に容易に調整でき、かつ、生体に無害である観点から、コラーゲンゾルがリン酸水素ナトリウム及び塩化ナトリウム(食塩)を含むことが好ましい。
また、コラーゲンゾルは、その溶媒として、細胞や生体組織への障害を最小化する、及びコラーゲンの線維化を生じさせるという2つの効果を発揮するため、中性の等張液を含んでもよい。中性の等張液としては、細胞の洗浄操作に用いられ、コラーゲンを活発に線維化させることができるリン酸緩衝生理食塩水(PBS)であってもよい。
コラーゲンゾルに含まれる無機塩のイオン強度は、0.40〜1.0であると好ましく、0.60〜0.80であるとより好ましい。なお、本実施形態における無機塩のイオン強度は、コラーゲンゾルが複数の無機塩を含む場合、それら複数の無機塩全体でのイオン強度を指す。コラーゲンの線維化の温度に対する応答性は、イオン強度が高くなると増大するが、無機塩のイオン強度が0.40以上であることにより、その応答性が更に向上する。また、無機塩のイオン強度が1.0以下であることにより、低温での線維化が抑制され、また、室温でのコラーゲンゾルの安定性が高くなる(すなわち、線維化せずに溶液の状態をより長時間保持することができる。)。なお、本明細書において、無機塩のイオン強度は、コラーゲンゾルに含まれる全ての無機塩由来のイオン種について、それぞれのイオンのモル濃度と電荷の二乗との積を加算し、さらにそれに1/2を乗じて算出されるものである。
本実施形態のコラーゲンゾルのpH(23℃におけるpH。本明細書において同様。)は、6.0〜9.0であると好ましく、6.5〜8.0であるとより好ましい。コラーゲンの線維化は中性付近で活発に生じることが知られている。pHが6.0以上であることにより、コラーゲンの線維化をより促進することができる。また、pHが9.0以下であることにより、コラーゲンの線維化をより促進することができる。pHの調整は、常法により可能であり、例えば、コラーゲンゾルに含まれる無機塩の濃度、好ましくは塩化ナトリウム及びリン酸水素ナトリウムの濃度を制御したり、塩酸や水酸化ナトリウムなどの強酸、及び/又は強アルカリを添加したりして、pHを調整することが可能である。なお、本明細書において、pHはpHメータ(例えば、HORIBA社製、商品名「NAVIh F−71」)により測定される。
コラーゲンゾルが塩化ナトリウム(食塩)を含む場合のその塩化ナトリウムの濃度は、コラーゲンゾルのpH及びイオン強度が所望の範囲になる濃度であれば特に限定されない。例えば、塩化ナトリウムの濃度が、コラーゲンゾルの全量に対して、200mM〜400mMであると好ましく、250mM〜350mMであるとより好ましい。塩化ナトリウムの濃度をこのような範囲にすることにより、コラーゲンゾルのpHを6.0〜9.0の範囲内にしつつ、無機塩のイオン強度を0.40〜1.0の範囲内にすることがより容易となる。
また、コラーゲンゾルがリン酸水素ナトリウムを含む場合のそのリン酸水素ナトリウムの濃度も、コラーゲンゾルのpH及びイオン強度が所望の範囲になる濃度であれば特に限定されない。例えば、リン酸水素ナトリウムの濃度が、コラーゲンゾルの全量に対して、10mM〜180mMであると好ましく、20mM〜140mMであるとより好ましい。リン酸水素ナトリウムの濃度をこのような範囲にすることにより、コラーゲンゾルのpHを6.0〜9.0の範囲内にしつつ、無機塩のイオン強度を0.40〜1.0の範囲内にすることがより容易となる。
コラーゲンゾルから形成されたコラーゲン線維のゲルは、コラーゲン濃度のよっては強度が低い場合があり、巻取りなどの取り扱い時に破損する恐れがある。そこで、コラーゲンゲルの強度を早期に高め、破損することなくコラーゲンゲルを回収する観点から、コラーゲンゾルが架橋剤を含むと好ましい。架橋の程度をコラーゲン中のアミノ基の消費率で表した場合、5%〜80%の範囲内であることが好ましい。架橋剤は特に限定されず、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることもできるが、架橋剤そのものの細胞毒性が低いとされている植物由来のゲニピン、あるいは架橋剤がコラーゲン分子間に挿入されないため水洗で除去される1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド(以下、「EDC」と表記する。)とその架橋助剤であるN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)などが好ましく用いられる。ゲニピンはゲニポシドのアグリコンであり、例えば、ゲニポシドの酸化、還元及び加水分解により得られ、あるいは、ゲニポシドの酵素加水分解によって得られる。ゲニポシドは、アカネ科のクチナシに含まれるイリドイド配糖体であり、クチナシから抽出して得られる。ゲニピンは、C11145の分子式で表され、常法により合成してもよく、市販品を入手してもよい。また、ゲニピンは、本発明による目的達成を阻害しない程度に、その架橋効果を確保する範囲で、誘導体化されていてもよい。EDCは水溶性カルボジイミドの一種であり、水溶性カルボジイミドであればその種類を問わず架橋剤として用いることができるが、その中でも、安価かつ安全性が高いEDCが特に好ましく用いられる。水溶性カルボジイミドは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、EDCは単独で用いてもよいし、NHSと混合して用いてもよい。EDCの架橋活性はNHSの混合によって向上することが知られている。
本実施形態のコラーゲンゾルが架橋剤を含み、その架橋剤がゲニピンである場合、ゲニピンの濃度は、コラーゲンゾルの全量を基準として、0.5mM〜5.0mMであると好ましく、1.0mM〜4.0mMであるとより好ましく、2.0mM〜3.0mMであると更に好ましい。ゲニピンの濃度が0.5mM以上であることにより、コラーゲンゲルの強度をより早期に高めることができ、コラーゲンゲルを回収する際の破壊が生じにくくなり歩留まりが向上する。一方、ゲニピンの濃度が5.0mM以下であることにより、コラーゲンゾルの室温での流動性をより良好に維持することが可能になると共に、ゲニピンによる細胞毒性の影響をより抑制することができる。
本実施形態のコラーゲンゾルが架橋剤を含み、その架橋剤がEDCである場合、EDCの濃度は、コラーゲンゾルの全量を基準として、1.0mM〜20mMであると好ましく、2.0mM〜10mMであるとより好ましく、3.0mM〜8.0mMであると更に好ましい。EDCの濃度が1.0mM〜20mMの範囲にあることによる効果は、ゲニピンと同様である。EDCにNHSを混合すると、架橋活性が高くなるので好ましい。EDCに対するNHSのモル比(EDC:NHS)は、10:1〜1:1の範囲が好ましい。この範囲にあることにより、EDCの架橋活性が高まるとともに、NHSの残存による細胞毒性の影響をより抑制することができる。
また、本実施形態のコラーゲンゾルには、従来のコラーゲンゾルに用いられる各種の溶媒及び添加剤が更に含まれてもよい。そのような溶媒及び添加剤としては、希塩酸、クエン酸、酢酸などの酸、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N′−2−エタンスルホン酸(HEPES)やトリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)などの緩衝剤が挙げられる。
上記添加剤及び溶媒は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、コラーゲンゾルにおける上記添加剤及び溶媒の含有割合は、本発明の目的達成を阻害しない範囲であれば特に限定されない。
本実施形態のコラーゲンゲルの作製方法は、コラーゲンゾルにせん断を与えた際に発生するせん断応力を、コラーゲン線維の形成によって増加させる工程(以下、「線維形成工程」ともいう。)を有する。流路内のせん断応力を直接計測できないので、流路の断面計上が円形および楕円形の場合は、その直径および短軸径R(mm)の半値(R/2)を、流路の断面形状が矩形の場合は、その矩形断面の短辺X(mm)の半値(X/2)をセンサーギャップとして、特許文献1に記載したレオメーターによる回転測定により「せん断応力増加率」を概算することができる。回転測定のせん断速度は実際の流路内のせん断速度と同じであることが望ましいが、1桁以内の違いは許容される。レオメーターの設定温度は、コラーゲンゲルの作製温度と同一に設定する。この線維形成工程の少なくとも一部において、コラーゲンゾルに対して、特定の範囲のせん断速度(範囲については後述)を与える。そして、そのようなせん断速度のせん断を与える間、コラーゲンゾルのせん断応力を増加させる速度(割合)が1秒あたり2%〜40%の範囲となる工程を、2秒〜120秒間有する。ここで、1秒あたりのせん断応力の増加割合(以下、「せん断応力増加率」という。)は、下記式(1)によって算出される。
せん断応力増加率(%)=(Tau1−Tau0)/Tau0/T×100 (1)
式(1)中、Tau0は、せん断応力増加率を算出する期間の始点でのせん断応力を示し、Tau1は、せん断応力増加率を算出する期間の終点でのせん断応力を示し、「T」はせん断応力増加率を算出する期間の長さ(単位:秒)を示し、5.0≦T≦120の任意の範囲で算出される。せん断応力の増加は、ある時期のみ瞬間的に高くなってもコラーゲンの配向化に十分でないので、5.0秒以上の期間でせん断応力増加率を算出する。一方、せん断は120秒以下の期間で付与されるため、せん断応力増加率を算出する期間も同じく120秒以下である。このように見積もられたせん断応力増加率は、流路内で生じるせん断応力の増加の概算であるとともに、線維化速度の指標でもある。せん断応力増加率が高いほど線維化が速いことを意味する。
本実施形態に係る線維形成工程において、コラーゲン線維の形成は、例えば、コラーゲンゾルの加温によって行われる。無機塩を含有したコラーゲンゾルのpHが6.0〜9.0で、イオン強度が0.40〜1.0である場合、コラーゲン分子は加温によって疎水的かつ静電的相互作用により自己組織化し、線維を形成する。コラーゲンゾルを加温する場合、そのゾルを25℃以下の温度から30〜50℃へ加温することによって、コラーゲン線維を形成することが好ましい。コラーゲンゾルを25℃以下の温度から加温することによって、加温を開始する前にコラーゲン線維が形成することを一層抑制することができる。一方、コラーゲンゾルを30℃以上の温度まで加温することによって、コラーゲン線維の形成速度をより高めることができ、50℃以下の温度まで加温することによって、コラーゲンの熱変性を更に有効かつ確実に防止することができる。なお、加温によってコラーゲン線維を形成させる場合、せん断応力の増加は温度の上昇よりも遅れて始まってもよく、加温の目的温度(例えば30〜50℃)に達した後、その温度に維持している間にせん断応力が増加してもよい。
本実施形態のコラーゲンゲルの作製方法は、流路内のコラーゲンゾルのせん断応力増加率が2%以上40%以下の範囲になるような条件(コラーゲンゾルの濃度および組成、流速、流路形状、および流路温度)を設定し、コラーゲン線維を配向させる。せん断応力増加率が2%以上の期間を流路内で生じさせることで、コラーゲン線維の一軸方向への配列とコラーゲンゲルの成型を連続的に生じさせることができ、コラーゲン線維の配向性をより高めたゲルの連続成型が可能となる。一方、せん断応力増加率が40%以下の期間でせん断を付与することにより、コラーゲン線維の一軸方向への配列が十分に生じる前にコラーゲンゲルが固定化されてしまうことを防ぐことができる。例えば、加温された流路にコラーゲンゾルを導入することでそのせん断応力を増加させる場合であっても、せん断応力増加率が40%以下である期間で流路内を通過させることにより、流路の外側と内側で線維化の程度に差異が生じ難くなる。
コラーゲンゾルを流す流路は、その断面が円又は楕円の筒型流路であってもよく、断面が矩形であってもよく、断面が円又は楕円の筒型流路の中央部に円柱もしくは楕円柱が位置した輪状断面であってもよい。流路を構成する材料の材質は特に限定されないが、例を挙げると、熱伝導性が高い材料、例えばステンレス、銅、アルミニウムなどの金属が好ましい。表面の摩擦抵抗や腐食性を低下させる目的で、金属表面にポリテトラフルオロエチレン等のポリマーを被覆してもよい。熱伝導性の低いポリマー材料でも、厚みを小さくして熱伝導を促進する等の手段により使用することができる。
上記の流路にコラーゲンゾルを導入すると、コラーゲンゾルに特定のせん断速度が付与される。本発明における流路内のせん断速度の算出方法と適切なせん断速度を以下に記述する:
(1)流路断面が円または楕円
断面の直径もしくは短軸径をR(mm)とした場合、線速度L(mm・s-1)で表されるコラーゲンゲルの流速とRの比L/Rをせん断速度とし、0.2〜2(s-1)の範囲になるように調節される。線速度Lは、流路に導入するコラーゲンゾルの流速(mm3・s-1)を流路の断面積で除して算出される。これによりコラーゲン線維配向性が高く均質なゲル成型体が連続成型されることになる。L/Rが0.2(s-1)未満の場合、流路内のせん断速度が低すぎてコラーゲン線維の配向性を十分に高められ難くなる。一方、L/Rが2(s-1)を超える場合、コラーゲン線維の配向性は高くなるが、摩擦力が高くなりすぎて表面の荒れた成型体もしくは内部構造が不均一な成型体となりやすくなる。
(2)流路断面が矩形
矩形断面の短辺をX(mm)とした場合、線速度L(mm・s-1)で表されるコラーゲンゲルの流速とXの比L/Xをせん断速度とし、0.2〜2(s-1)の範囲になるように調節される。線速度の算出方法およびせん断速度の範囲を外れた場合の影響は上記(1)と同様である。
(3)流路の断面が輪状
輪の断面をXとして上記(2)と同様に算出でき、L/Xをせん断速度とし、0.2〜2(s-1)の範囲になるように調節される。線速度の算出方法およびせん断速度の範囲を外れた場合の影響は上記(1)と同様である。
流路の長さは適切な範囲に調節される。せん断応力増加率を算出するためのレオメーターを用いた回転測定により、得られるせん断応力の極大値またはプラトー値に到達する時間をTau−max(s)とした場合、流路がコラーゲンゾルの線速度L(mm・s-1)とTau−maxとの積で計算される長さの20%〜400%の流路長を有するよう、流路長が調節される。これにより急速な線維化が生じ、延いてはコラーゲン線維配向性が高く均質なゲル成型体が得られることになる。一方、流路長が20%未満の場合、線維配向が十分に進行する前にせん断応力から解放されるため、成型体中の線維配向性が低くなる傾向にある。また、流路長が400%を超える場合、線維配向とゲル化が完了した後も摩擦とせん断を受け続けるため、表面の荒れた成型体もしくは内部構造が不均一な成型体になる傾向にある。
流路にコラーゲンゾルを導入するための装置としては、流速を一定に調節できれば特に限定されないが、送りねじをモーターで回転させて駆動する方式のポンプ(一般名称: シリンジポンプ)が高トルクおよび正確性の点で好ましく用いられる。
流路を加温する方法としては、流路を構成する型を所望の温度の水浴に浸漬する方法、保温器に設置する方法、型の周囲に所望の温度の液を循環させる方法、あるいは型をヒーターで被覆する方法を用いることができる。これらの方法の中で、温度制御性および簡便性の点で水浴に浸漬する方法および型をヒーターで被覆する方法が好ましく用いられる。
本実施形態のコラーゲンゲルは、高配向のコラーゲン線維束を含む。コラーゲンゲルの形状は特に限定されず、目的に応じて所望の形状に成型可能であるが、紐状又は帯状に成型されていることが好ましい。コラーゲンゲルの形状やサイズは、流路又はその出口に接続される型の形状又はサイズに応じて適宜変更可能である。形態が紐状の場合、紐状コラーゲンゲルの直径は0.2mm以上であってもよい。また、断面積が3×10-2mm2〜700mm2の範囲にあってもよい。医療用コラーゲンの場合、例えばコラーゲンゲルはその直径が1〜10mmの範囲内で調節されることが意図される。更に、複数の流路を流れ方向と垂直方向に連結することにより複数のコラーゲンゲルを同時に製造してもよく、流路を動かすことでコラーゲンゲルに所望の波形を付与してもよい。
本実施形態のコラーゲンゲルは高配向であり、その屈折率差Δnは3×10-4以上であり得る。屈折率差は公知の2次元複屈折測定装置で計測されるレターデーション(nm)を検体の厚み、すなわち光が通過した距離で除して算出される。この場合のレターデーション(nm)には、特に配向性の高い局部の値が採用されないよう、線分析(n=5)の平均値を用いる。本発明で用いる屈折率差Δnを算出するための複屈折測定では、コラーゲンゲルは作製直後の含水状態を保って測定される。ゲルの厚みは2枚のスライドガラス間に厚み既知のスペーサーを挿入して調節・決定することができる。
また、得られたコラーゲンゲルを目的に応じて適宜乾燥し、乾燥体としてのコラーゲン線維束を提供することもできる。コラーゲンゲルの乾燥方法は凍結乾燥等の当業者に公知の方法で行うことができる。
本実施形態のコラーゲン線維束又はそれを含むゲルの用途は特に限定されないが、生体用のインプラント、特に、mm〜cmスケールの線維束として配向したコラーゲン線維を得ることができるので、そのサイズから、人工腱として有用となることが期待される。また、本実施形態によると、そのような配向したコラーゲン線維を非破壊的かつ効率的(例えば20分以内)に形成することができる点でも有用である。なお、本実施形態のコラーゲンゲルを人工腱などの生体用のインプラントとして用いる場合、複数の作製方法で得られた複数のコラーゲンゲルを必要に応じて積層・複合化してもよい。また、複数のコラーゲンゲルを縒り合わせて複合化してもよい。
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
・塩化ナトリウム含有中性リン酸緩衝液
塩化ナトリウムを140mM含有した50mMのリン酸水素二ナトリウム水溶液と、塩化ナトリウムを同濃度含有した50mMのリン酸二水素ナトリウム水溶液とを混合し、pH7の緩衝液(1×NPB)を調製した。同様の工程でn×NPB(n:は整数)を調製した。
・コラーゲンゾル
濃度1.0%の酸性コラーゲン水溶液(ブタ皮膚由来;日本ハム株式会社製)を29℃のロータリーエバポレーターで濃縮し、濃度3.0%のコラーゲン水溶液を調製した。容量50mLの遠沈管に入れた濃度3.0%のコラーゲン水溶液25gに、12×NPBを5mL加え、攪拌子を収容して振り混ぜ、2×NPBを溶媒とした濃度2.5%のコラーゲンゾルAを調製した。コラーゲンゾルに含まれる気泡は遠心分離機(10℃、10,000×g、40分)を用いて除去した。パラレルプレート型レオメーター(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製HAAKE MarsIII)を用いて得られたコラーゲンゾルAのせん断応力を以下の表1に示す。Tau増加率の計算は、特許文献1に記載の方法(図1)をそのまま用い、また、Tau−maxの計算は上述のとおり行った。
1.5×NPBおよび1×NPBを溶媒とした点を除きコラーゲンゾルAと同様の方法で濃度2.5%のコラーゲンゾルBおよびCをそれぞれ調製し、得られたせん断応力を以下の表1に示す。
・紡糸
コラーゲンゾルを容量30mLのテルモ社製シリンジに収容し、長さ25cmのシリコーンゴムチューブを介してステンレス管(内径2.00mm×26.3mm)に接続した。水浴により37.5℃〜38.1℃の範囲に加温された、1Lのビーカー内の2×NPB中にステンレス管部のみ浸漬し、シリンジポンプにより一定速度(14.1mL・h-1)でコラーゲンゾルをシリンジからステンレス管に送液した。コラーゲンの流速L(mm・s-1)と流路断面の直径R(m)の比率L/Rで表される簡易的せん断速度および用いたコラーゲンゾルのTau−maxとの関係から導かれる流路長比など、図1Bと1Cに示した算出方法に基づいて設計された製造条件の詳細を以下の表2に示す。クラッシュアイスを収容したポリエチレン袋をシリンジに載せ、コラーゲンゾルの加温を抑制した。ステンレス管の先端からは白濁した紐状のコラーゲンゲルがシリンジ内のコラーゲンゾルが無くなるまで連続的に吐出され、ゲルファイバーがビーカー底部に沈降した(図2A)。
紡糸終了後、過剰量の2×NPBを除去し、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)粉末およびN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)をそれぞれ濃度が50mMおよび10mMになるようにコラーゲンゲルに添加し、37℃インキュベータ内に12時間静置してコラーゲンに架橋を導入した。その後、2×NPBを廃棄し、脱イオン水にて繰り返し洗浄し、20%エタノール中で保存した(図2B)。
・2次元複屈折測定装置によるコラーゲン線維配向性の評価
得られた紐状コラーゲンゲルを脱イオン水に戻した後、厚さ1mmのシリコーンゴムをスペーサーとして2枚のスライドガラスで挟んだ。2次元複屈折測定装置により2次元複屈折像を得た(図3A)。この像に対して5点の線分析を行い、図3Bに示したように検体幅の中央部50%の平均値を求め、コラーゲンファイバーのレターデーション(nm)を得た。レターデーションを厚さ1mmで除し、Δnを算出した。
・走査型電子顕微鏡(SEM)によるコラーゲン線維配向性の評価
紐状コラーゲンゲルをグルタルアルデヒドで固定した後、常法に従いt−ブタノール凍結乾燥を行い、乾燥試料を得た。紐状の軸方向に引き裂き、露出した断面に金コーティングを施し、JSM‐6490LA(日本電子株式会社製)を用いてSEM観察を行った。
評価
得られたコラーゲンゲルは流路内径とほぼ同じ直径(図4A)および2.78±0.06mm2の断面積を有しつつ(図4B)、屈折率差は4.25×10-4に達し、高いコラーゲン線維の配向性を示した(図5および図6)。コラーゲン線維の配向性はSEM観察からも確認された(図7)。このような太い紐状コラーゲンゲルからは、断面積が6.21×10-2±0.40×10-2mm2に達する太い乾燥コラーゲンファイバーが得られた(図4B)。乾燥コラーゲンファイバーの全長は9mであり、ゲルファイバーの全長は9mと概算された。
〔実施例2〕
製造条件を表2のように変更した以外、実施例1と同様に紐状コラーゲン線維ゲルを製造し、評価した。更に、実施例2では、紐状コラーゲン線維ゲルから下記サンプルを調製し、引っ張り試験を実施した。
・乾燥コラーゲンファイバーの作製
20%エタノール中で保存されたEDC/NHS架橋コラーゲンゲルファイバーを、50%エタノールおよび90%エタノールへと段階的に移し、発泡ポリエチレン棒(直径42mm)に巻き取り室温で風燥した。乾燥前後でのコラーゲンファイバーの軸方向への収縮は見かけ上生じていなかったため、全長を測定してゲルファイバー長を概算した。得られたコラーゲンファイバーを130℃、12時間真空乾燥し、脱水熱架橋を導入した(ドライファイバーと呼称する)。かみそり刃でドライファイバーを切断し、卓上型SEM(Miniscope TM3000、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて断面像を取得し、画像解析ソフトImageJを用いて断面積(平均値、n=5)を計測した。
・湿潤コラーゲンファイバーの作製
上記ドライファイバーの一部を室温のPBSに6時間浸漬し、吸水させ、湿潤コラーゲンファイバーを得た(ウェットファイバーと呼称する)。かみそり刃でウェットファイバーを切断し、正立顕微鏡(BX53,オリンパス株式会社製)を用いて断面像を取得し、画像解析ソフトImageJを用いて断面積(平均値、n=5)を計測した。
テクスチャアナライザーTA.XT.plus(StableMicrosystems社製)を用いて、ドライファイバーおよびウェットファイバーの引っ張り試験を実施した。ファイバーを約25cmごとに切断し、引っ張り治具A/SPR(並列した一対の円柱から構成される)に巻きつけ、速度2mm/秒で並列円柱間の距離を遠ざける引っ張り試験を破断するまで実施した。ファイバー断面積と初期ファイバー長を用いて、得られた荷重‐変位曲線を応力‐歪曲線に換算し、初期の直線領域からヤング率を、破断点から破断応力と破断歪を求めた。
評価
急速に線維化するコラーゲンゾルAを、表2に記載されているような所定のせん断速度で所定の長さの流路へと供給すると、実施例1と同様に流路出口で既にゲル化を終え、ステンレス管と同サイズの太い紐状のコラーゲンゲルが吐出された。得られたコラーゲンゲルの屈折率差は4.25×10-4に達し、高いコラーゲン線維の配向性を示した(図5)。内部のコラーゲン線維の配向性が高いため、同じ内径のステンレス管を用いて配向度が低くなるような条件で作製された比較例2よりも、乾燥状態および実使用環境を模倣した湿潤状態のいずれにおいてもファイバー軸方向に有意に高いヤング率および破断応力を示した(図8A、8B、8D、および8E)。破断歪は比較例2よりも乾燥状態で有意に大きく(図8C)、湿潤状態でも統計的な有意差は確認されなかったが大きい傾向を示した(図8F)。乾燥コラーゲンファイバーの全長は9mであり、ゲルファイバーの全長は9mと概算された。
〔実施例3〕
製造条件を表2のように変更した以外、実施例1と同様に紐状コラーゲン線維ゲルを製造し、評価した。
評価
急速に線維化するコラーゲンゾルAを、表2に記載されているような所定のせん断速度で所定の長さの流路へと供給すると、実施例1と同様に流路出口で既にゲル化を終え、ステンレス管と同サイズの太い紐状のコラーゲンゲルが吐出された。得られたコラーゲンゲルの屈折率差は3.83×10-4に達し、高いコラーゲン線維の配向性を示した(図6)。乾燥コラーゲンファイバーの全長は9mであり、ゲルファイバーの全長は9mと概算された。
〔実施例4〕
製造条件を表2のように変更した以外、実施例1と同様に紐状コラーゲン線維ゲルを製造し、評価した。
評価
急速に線維化するコラーゲンゾルAを、表2に記載されているような所定のせん断速度で所定の長さの流路へと供給すると、実施例1と同様に流路出口で既にゲル化を終え、ステンレス管と同サイズの太い紐状のコラーゲンゲルが吐出された。得られたコラーゲンゲルの屈折率差は3.82×10-4に達し、高いコラーゲン線維の配向性を示した(図6)。乾燥コラーゲンファイバーの全長は9mであり、ゲルファイバーの全長は9mと概算された。
〔実施例5〕
製造条件を表2のように変更した以外、実施例1と同様に紐状コラーゲン線維ゲルを製造し、評価した。実施例2と同様にドライファイバーとウェットファイバーを作製し、引張試験を実施した。
評価
急速に線維化するコラーゲンゾルAを、表2に記載されているような所定のせん断速度で所定の長さの流路へと供給すると、ステンレス管の内径を2mmから2.84mmに拡大した相似形のステンレス管を用いているため、実施例2と同様の配向化機序が働き、高いコラーゲン線維配向性が得られた(図9)。ステンレス管の内径を拡大することで、紐状コラーゲンゲルおよびそれから得られる乾燥コラーゲンファイバーの断面積が増加することが示された(図4)。内部のコラーゲン線維の配向性が高いため、配向度が低くなるような条件で作製された比較例2よりも湿潤状態のヤング率は有意に高く(図8D)、乾燥状態のヤング率および乾燥状態・湿潤状態の破断応力は高い傾向を示した(図8B、8D、および8E)。実施例5のファイバーは配向しているが、破断歪は乾燥状態・湿潤状態のいずれにおいても比較例2と同等であった(図8Cおよび8F)。乾燥コラーゲンファイバーの全長は4.2mであり、ゲルファイバーの全長は4.2mと概算された。
〔実施例6〕
製造条件を表2のように変更した以外、実施例1と同様に紐状コラーゲン線維ゲルを製造し、評価した。実施例2と同様にドライファイバーを作製し、引張試験を実施した。ファイバー径が小さく、ウェットファイバーをPBSから取り出して試験機に取り付ける間に乾燥が始まってしまうため、ウェットファイバーの引張試験は実施しなかった。
評価
急速に線維化するコラーゲンゾルAを、表2に記載されているような所定のせん断速度で所定の長さの流路へと供給すると、ステンレス管の内径を2mmから0.9mmに縮小した相似形のステンレス管を用いているため、実施例2と同様の配向化機序が働き、高いコラーゲン線維配向性が得られた(図9)。ステンレス管の内径を縮小することで、紐状コラーゲンゲルおよびそれから得られる乾燥コラーゲンファイバーの断面積が減少することが示された(図4)。内部のコラーゲン線維の配向性が高いため、配向度が低くなるような条件で作製された比較例2よりも、乾燥状態のヤング率および破断応力は有意に高かった(図8Aおよび8B)。一方、乾燥時の破断歪は比較例2と同等であった(図8C)。
〔実施例7〕
ステンレス管からTダイ金型(図10Aおよび10B)に型を変更し、製造条件を表2のように変更した以外、実施例1と同様にコラーゲン線維ゲルを製造した。
評価
Tダイ金型のスリットからシート状コラーゲンゲルが連続紡糸された(図10C)。複屈折を測定したが、まだ解析していない。得られた帯状コラーゲンゲルの2次元複屈折像(図10D)には、成型方向への配向性が観察された。
〔比較例1〕
製造条件を表2のように変更した以外、実施例1と同様に紐状コラーゲン線維ゲルを製造し、評価した。
評価
急速に線維化するコラーゲンゾルAを、表2に記載されているような所定の長さの流路へと供給した場合であっても、せん断速度が2s-1を超えると、配向度は高いが(図5)ステンレス管内部で強い摩擦力を受けるため、表面の荒れた紐状のコラーゲンゲルが得られた(図11)。
〔比較例2〕
製造条件を表2のように変更した以外、実施例1と同様に紐状コラーゲン線維ゲルを製造し、評価した。
評価
急速に線維化するコラーゲンゾルAを表2に記載されているような所定のせん断速度で流路へと供給した場合であっても、流路長比が20%未満になるとコラーゲンゾルが吐出されるまで十分にコラーゲンの線維化と配向化が進まないため(図12)、コラーゲン線維の配向性の低い紐状のコラーゲンゲルが得られた(図6)。
〔比較例3〕
製造条件を表2のように変更した以外、実施例1と同様に紐状コラーゲン線維ゲルを製造し、評価した。
評価
急速に線維化するコラーゲンゾルAを、表2に記載されているような所定の長さの流路へと供給した場合であっても、せん断速度が0.2s-1未満では、コラーゲン線維を十分に配向させられないため、配向性の低い紐状コラーゲンゲルが得られた(図5および7)。
〔比較例4〕
コラーゲンゾルAを内径2mm、外径4mm、長さ1mのシリコーンゴムチューブに充填し、チューブ両端をクリップで止め、38.0℃の水浴に1時間浸漬してコラーゲンゾルを線維化させた。2×NPBを充填したシリンジをチューブ片端に接続し、ゲル化したコラーゲンを押し出した。その後は実施例1と同様にコラーゲンを架橋し、評価した。
評価
急速に線維化するコラーゲンゾルA2を用いても、流路の中でせん断を与えていないため、コラーゲン線維は全く配向しなかった(図5および7)。
〔比較例5〕
コラーゲンゾルをAからBに変更したこと(表1)以外は、実施例1と同じ内径のステンレス管を用い、同じせん断速度と流路長比になるように紐状コラーゲン線維ゲルを製造し、評価した。
評価
コラーゲンゾルBのせん断応力増加率は2%未満であり、コラーゲンゾルAよりも線維化が遅い。このようなコラーゲンゾルを用いた場合、適切なせん断速度で適切な長さの流路へと供給しても、線維化と配向化の同時進行が適切に進行しないため、屈折率差が1.17±0.10まで低下した紐状コラーゲンゲルが得られた(図13)。
〔比較例6〕
コラーゲンゾルをAからCに変更したこと(表1)以外は、実施例1と同じ内径のステンレス管とせん断速度を用いて紐状コラーゲン線維ゲルを製造し、評価した。
評価
コラーゲンゾルCのせん断応力増加率は2%未満であり、コラーゲンゾルAよりも線維化が遅い。このようなコラーゲンゾルを用いた場合、適切なせん断速度で適切な長さの流路へ供給しても、線維化と配向化の同時進行が適切に進行しないため、屈折率差が0.59± 0.06まで低下した紐状コラーゲンゲルが得られた(図13)。SEM観察により観察された線維形態は、せん断を与えずに作製した比較例4と同様に、ほぼ無秩序であった(図7)。内部のコラーゲン線維がほとんど配向していないため、実施例2で詳細を記述した通り、配向度が高くなるような条件で作製された実施例2よりも乾燥状態・湿潤状態のいずれにおいても引張物性が低かった(図8)。
〔比較例7〕
湿式紡糸を行った。濃度2.5%の酸性コラーゲン水溶液を容量30mLのテルモシリンジに収容し、25cmのシリコーンゴムチューブを介してステンレス管(φ2.00mm×26.3mm)に接続した。水浴により37.5℃〜37.9℃の範囲に加温された、ステンレス容器に収容された1×NPB(20%のPEG−8000含有)にステンレス管部のみ浸漬し、シリンジポンプにより一定速度(14.1・h-1)でコラーゲンゾルを送液した。吐出されたコラーゲン水溶液は非常に固まりにくくお互いに一体化してしまうため、流れ方向を竹串で整えながら紡糸を継続した。その後は実施例1と同様にコラーゲンを架橋し、評価した。
評価
従来の湿式紡糸を用いて内径2mmのステンレス管から医療用コラーゲンの水溶液を吐出すると、線維化が遅いため凝固に時間を要し、ところどころで切断され、縮れた紐状コラーゲンゲルが得られ(図14A)、乾燥しても長く均一なコラーゲンファイバーが得られなかった(図14B)。紐状コラーゲンゲルの全長は長くても0.7mであった。
〔比較例8〕
ステンレス管からTダイ金型(図10)に型を変更した以外、比較例7と同様に金型からコラーゲン水溶液を吐出したが、金型出口で水溶液が玉状になり、均一な成型ができなかった(図14C)。
本発明によれば、医療用コラーゲンゲルに使用可能な高度に一軸方向したコラーゲン繊維束及び、それを含む、目的に応じてき所望の形状を有するコラーゲンゲルの提供が可能になる。そのため、本発明のコラーゲン繊維束及びそれを含むコラーゲンゲルは、種々の生体材料への応用が期待される。

Claims (16)

  1. 長軸方向の全長が1m以上である、一軸配向したコラーゲン線維束。
  2. 始端から終端まで高度に配向している、請求項1に記載のコラーゲン線維束。
  3. 請求項1又は2に記載のコラーゲン線維束を含むコラーゲンゲル。
  4. 紐状又は帯状に成型されている、請求項3に記載のコラーゲンゲル。
  5. 形態が紐状であり、その直径が0.2mm以上である、請求項4に記載のコラーゲンゲル。
  6. 断面積が3×10-2mm2〜700mm2の範囲にある、請求項3〜5のいずれか1項に記載のコラーゲンゲル。
  7. コラーゲンゲルの製造時に複屈折測定で計測される屈折率差Δnが3×10-4以上である、請求項3〜6のいずれか1項に記載のコラーゲンゲル。
  8. 請求項3〜7のいずれか1項に記載のコラーゲンゲルの乾燥体。
  9. コラーゲンゾルを、当該ゾルがゲル化する温度に保温された流路に連続的に導入することにより、コラーゲン線維を配向させる工程を含む、請求項3〜7のいずれか1項に記載のコラーゲンゲルを製造する方法。
  10. 所定の濃度のコラーゲンを含むコラーゲンゾルに対し、前記コラーゲン線維が配向するようなせん断速度及びせん断時間でせん断を付与する工程を含む、請求項9に記載の方法。
  11. 前記温度が30℃〜50℃の範囲内である、請求項10に記載の方法。
  12. 前記せん断を付与する工程が、前記コラーゲン線維の形成によって前記せん断応力が1秒あたり2%〜40%の速度で増加している2秒〜120秒の工程を含む、請求項10又は11に記載の方法。
  13. 前記コラーゲンゾルのコラーゲン濃度が1.0質量%〜10質量%である、請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法。
  14. 前記流路は、その断面が円若しくは楕円の筒型流路であり、前記断面の直径若しくは短軸径R(mm)に対する、前記コラーゲンゲルの流速の線速度L(mm・s-1)の比L/Rが0.2〜2(s-1)の範囲である、請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法。
  15. 前記流路は、その断面が矩形の筒型流路であり、前記断面の短辺X(mm)に対する、前記コラーゲンゲルの流速の線速度L(mm・s-1)の比L/Xが0.2〜2(s-1)の範囲である、請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法。
  16. 前記流路が、その断面が円若しくは楕円の筒型流路である場合、前記断面の直径若しくは短軸径をR(mm)とし、前記流路が、その断面が矩形の筒型流路である場合、前記断面の短辺をX(mm)とし、
    センサーギャップをR/2(mm)若しくはX/2(mm)に設定し、センサー温度を上記流路の保温温度に設定したパラレルプレート型レオメーターを用いて、前記コラーゲンゾルに対して回転式せん断応力測定を実施して得られるせん断応力の極大値又はプラトー値に到達する時間をTau−max(s)とした場合、前記流路が前記コラーゲンゾルの線速度L(mm・s-1)とTau−maxとの積で計算される長さの20%〜400%の流路長を有する、請求項12〜15のいずれかに記載の方法。
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