JP2019084759A - 成型金型 - Google Patents

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Abstract

【課題】原料のゴムや樹脂を注入され加熱処理される成型金型において、ブロックよりも熱膨張係数が小さく高強度の締結部材で固定する場合に締結部の劣化を抑制する構造を有した成型金型を提供する。【解決手段】成型金型1は、ブロック11,12を並べて構成され、隣り合うブロック11,12どうしをボルト13で連結している。ボルト13は、ブロック11,12よりも熱膨張係数が小さく、ボルト孔121の縁とボルト13の頭部133の間に弾性部材14を装着した状態で、所定の締付荷重が掛けられている。弾性部材14は、ブロック11,12が加熱処理された場合に、ボルト13に作用する荷重が締付荷重以上、かつ、雌ネジ部112が破壊される剪断荷重以下に維持されるように縮む。【選択図】 図2

Description

本発明は、複数の金型ブロックを締結部材で型締めした状態で成型品の加熱処理が行なわれる成型金型に関する。
ゴムや合成樹脂を成型する金型として、金型に原料のゴムや樹脂を注入したのち、金型ごと90〜180℃に加熱し、注入した原料を加硫又は加熱硬化させて成型する金型がある。特許文献1に記載された連続加硫成形用ゴム成形金型装置に使用される金型は、複数に分割されており、最も外側に配置される金型の一方にもしくはその外側に位置して金型を挟持する部材に形成される雌ねじ穴にねじブッシュ(公知な商品名:ヘリサート等)を装着し、ボルトで締結している。この金型は、射出ステーションにおいてゴム材料を注入され、その後加熱加硫処理されることで、ゴム成型品を成型する。
実開平5−41733号公報
ところで、加硫処理や加熱硬化処理等における加熱処理が行われる成型金型は、熱伝導性に優れた材料で造られる。ゴムや合成樹脂の成型金型において、小型かつ軽量で耐久性に優れた成型金型が求められており、金型ブロックに軽合金、例えばアルミニウム合金が使用されることがある。一般的な射出成型金型の場合、熱可塑性樹脂等の原材料を射出する際に金型ブロックが開かないように油圧プレス機などによって型締めした状態で射出・冷却して成型加工されることが多い。
しかし、長時間の加硫が必要なゴム材料や熱硬化性樹脂材料等を使用する場合には、ボルト等の締結部材で型締めした状態で原材料を注入して加熱処理されることが多い。このとき、成型金型ごと注入した原材料を加熱処理すると、ゴム材料や熱硬化性樹脂等が熱で膨張するだけでなく、金型自身も熱で膨張するため、成型金型の締結部に十分な強度が要求される。成型品の構造が複雑になると、複数の金型ブロックを締結部材やキー等を使用して組み合わせて成型金型を保持することが必要になってくる。締結部材やキーには、金型ブロックとは異なる材質、とりわけ高強度材、例えばクロムモリブデン鋼等を使用することが一般的である。その結果、複数の異材を組み合わせて一つの成型金型を構成することになる。例えば、熱伝導性に優れて軽量なアルミニウム合金等で造られた金型ブロックは、高い引張強度を有した締結部材に比べて熱膨張率が大きい。つまり、複数の材料を組み合わせて成型金型を構成すると材料ごとに熱膨張率が異なるため、金型ブロックの熱膨張率の方が大きい場合、加熱処理の際に締結部に強い軸荷重が発生して歪が生じる。
特に、アルミニウム合金などで造られた金型ブロックに形成された雌ネジに対して、高張力鋼等の高強度材のボルトの雄ネジを螺合させる締結部構造を有している場合、加熱処理における熱膨張差が原因で、金型ブロックの雌ネジの奥側、すなわちボルトの雄ネジ先端1山目の先端部に螺合している金型ブロックの雌ネジ部からに局部的に塑性変形が生じ、損傷に至る。
繰り返し使用される金型は、金型を分解して成型品を取り出した後、再度組立てて規定のトルクで締結部材を毎回締め付けるため、加熱処理の時に雌ネジ部に塑性変形が生じていると、次の型締めの際にその分だけ増し締めされることになり、やがて、ボルトの雄ネジの1山目、1.5山目、2山目に螺合する雌ネジ部分へと塑性変形と損傷部分が進行する。その結果、この様な加熱処理が行われない金型ブロックの耐久回数よりも少ない使用回数で金型ブロックの雌ネジ部が破損してしまう。
ネジ部の破損を防止する場合、ねじ込み深さ(螺合長さ)を大きくすることで、それぞれのネジ山の一つにかかる荷重を軽減することが検討される。しかしながら、上述のようにネジ部の破損が熱膨張差に起因している場合、螺合長さを大きくすればするほど、加熱処理で昇温されたときに、締結部材の雄ネジ部と金型ブロックの雌ネジ部との螺合部分の熱膨張差の絶対値がより大きくなる。
雌ネジ穴が形成される金型ブロックの熱膨張率がボルトの熱膨張率よりも大きい場合、金型ブロックの雌ネジ部の熱膨張によってボルトの雄ネジ部の先端側程ボルトを軸方向に引き伸ばす方向の変位が大きくなる。すなわち、ボルトの雄ネジ先端側1山目の先端部が螺合する金型ブロックの雌ネジ部に最大荷重が作用することになる。金型ブロックの材料強度がボルトの材料強度よりも低い場合、ボルトの軸方向に作用する荷重は、雌ネジ部のネジ山に剪断荷重となって作用し、その剪断荷重が金型ブロックの降伏応力を超えると、雌ネジのネジ山が破損してしまう。
つまり、金型ブロックの熱膨張率がボルトの熱膨張率よりも大きい場合、ボルトの雄ネジ部の先端の1山目が螺合する金型ブロックの雌ネジ部が破損する事象は、螺合長さを大きくしても解消されない。
そこで、本発明は、原材料を注入され加熱処理される成型金型において、金型ブロックよりも熱膨張係数が小さく引張強度の高い締結部材で固定する場合でも締結部の劣化を抑制する構造を有した成型金型を提供する。
本発明に係る一実施形態の成型金型は、少なくとも2つのブロックで構成され、隣合うブロックどうしがボルトで連結されている。隣合う一方のブロックは、雌ネジ部が形成された雌ネジ穴を有している。雌ネジ穴は、他方のブロック側へ開口している。隣合う他方のブロックは、一方のブロック側へ開通したボルト孔を有している。ボルトは、ブロックよりも熱膨張係数が小さく、ボルト孔に通された状態で、先端に設けられた雄ネジ部が一方のブロックの雌ネジ部に螺合され、他方のブロックのボルト孔の縁と頭部との間に弾性部材を装着した状態で、雄ネジ部が作用する雌ネジ部と頭部が作用する弾性部材装着部との間に所定の締付荷重が掛けられている。弾性部材は、ブロックが加熱処理によって膨張した場合、ボルトに作用する荷重が締付荷重以上、かつ、ボルトの締付方向に作用する剪断応力によって雌ネジ部が破壊される引張荷重以下に維持されるように縮む。なお、着目した2つのブロック(前述の一方及び他方のブロック)に加えて、第3、第4のブロックをさらに含んでいてもよい。一方及び他方のブロックに対する第3、第4のブロックの並びは、第1の方向(例えば上下方向)に限定されず、第2の方向(例えば左右方向)、第3の方向(例えば右上左下45度方向)等々の複数の方向であってもよい。
このとき、前述の成型金型において、他方のブロックは、一方のブロックに対して反対側のボルト孔の縁に弾性部材を収納する座刳り部を有している。そして座刳り部の内周面に嵌合されて弾性部材を座刳り部内に保持する止め輪をさらに備える。また、座刳り部は、弾性部材とボルトの頭部とを収納する大きさを有していることが好ましい。
さらに、前述の成型金型において、ブロックが3つ以上である場合、中間に配置されるブロックにはボルト孔と雌ネジ穴の両方が設けられる。そしてボルト孔と雌ネジ穴は、ボルトの締付方向に互いに重ならない位置に配置される。
また、前述の成型金型において、雄ネジ部と雌ネジ部が螺合する長さは、雌ネジ部の呼び径をDとする場合に0.8D以上で1.6D以下であることが好ましい。または、前述の成型金型において、弾性部材は、複数の皿バネを含み、雌ネジ部の呼び径をDとする場合、ボルトの締付方向に0.5D以下の寸法で、0.005D以上の縮み代を有していることも好ましい。弾性部材は、複数の皿バネで構成されるか、または、捲回コイル部の断面形状が四角い角ばねで構成される。
本発明に係る一実施形態の成型金型によれば、一方のブロックに形成された雌ネジ穴の雌ネジ部に雄ネジ部を螺合させたボルトの頭部と、他方のブロックのボルト孔の縁との間に弾性部材が装着されており、ブロックが加熱処理によって膨張しても、締付荷重以上かつボルトの締付方向に作用する引張荷重によって雌ネジ部のネジ山が破壊される引張荷重以下に維持されるように縮むので、雌ネジ部に過剰な応力が加わることを防止できる。その結果、成型金型を繰り返し使用する際に雌ネジ部のネジ山が変形することを防止でき、成型金型の耐用年数が延びる。
また、他方のブロックが一方のブロックに対して反対側のボルト孔の縁に弾性部材を収納する座刳り部を有し、この座刳り部の内周面に嵌合されて弾性部材を座刳り部内に保持する止め輪をさらに備えることとした発明の成型金型によれば、成型金型を組立及び分解することを繰り返す場合に、弾性部材を装着し忘れたり装着する向きを間違えたりするなどのミスを防止できるとともに、作業性も向上する。
また、座刳り部が弾性部材とボルトの頭部とを収納する大きさを有したこととした発明の成型金型によれば、ボルトの締付方向に対して3つ以上のブロックが重なって成型金型が構成されている場合、中間のブロックに設けられたボルト孔を通して隣り合う一方のブロックの雌ネジ穴の雌ネジ部に雄ネジが螺合されるボルトの頭部は、中間のブロックに埋没するので、ボルトの頭部が次に取り付けるブロックの邪魔にならず、成型金型の組立作業を円滑に行える。
また、ボルトの締付方向に対して3つ以上のブロックで成型金型が構成される場合に中間に配置されるブロックにボルト孔と雌ネジ穴の両方が設けられ、ボルト孔と雌ネジ穴がに互いに重ならない位置に配置されることとした発明の成型金型によれば、各ブロックを順番に組み立てる際に先に組み合わせたブロックどうしを連結するボルトが次に組み合わせるブロックを連結するボルトに干渉しない。
また、雌ネジ部の呼び径をDとする場合、ボルトの雄ネジ部と雌ネジ穴の雌ネジ部が螺合する長さを0.8D以上で1.6D以下とした発明の成型金型によれば、雄ネジ部と雌ネジ部が同材質の場合でも最低限必要な螺合長さを確保した上で、その2倍までの螺合長さに収まる様に弾性部材の軸力やストロークを設定することにより、軽量でコンパクトな金型を提供するために金型ブロックの材料に軽合金を選択した目的を達成することができる。なお、雄ネジ部と雌ネジ部が同材質の場合の螺合長さはJIS B 1181「六角ナット」のスタイル1並目ねじのM20を参考にすると呼び径20でナット長さが16.9〜18.9となっており、これは0.845D〜0.945Dを意味している。
または、雌ネジ部の呼び径をDとする場合、弾性部材が複数の皿バネを使用する場合を含みボルトの締付方向に0.5D以下の寸法で0.005D以上の縮み代を有していることとした発明の成型金型によれば、弾性部材としての容積が小さく座刳り部内にも容易に収納可能で軽量でコンパクトな金型を提供できるとともに、加工精度等を考慮した場合での必要最低限の縮み代を確保することで雌ネジ山の塑性変形や損傷への悪影響を排除できる。
弾性部材を複数の皿バネで構成することとした発明の成型金型によれば、弾性部材の軸力やストロークを設定しやすくコンパクトに納まる。
本発明の第1の実施形態の成型金型の分解斜視図。 図1の成型金型を組み立て締結部材の中心軸に沿って切った断面図。 図2中のF3部を拡大した締結部材の周辺の断面図。 図3の雄ネジ部と雌ネジ部が螺合しているネジ山を拡大した断面図。 図3の状態から他方のブロックと弾性部材を取り除いて、ボルトの雄ネジ部を一方のブロックの雌ネジ部に常温で螺合した状態を模式的に示す断面図。 図5の状態で雄ネジ部と雌ネジ部を昇温した状態を模式的に示す断面図。 図5よりも長い雄ネジ部と雌ネジ部を常温で螺合した状態を模式的に示す断面図。ボルト13’の呼び長さは図5のボルト13と同一長さ。 図7の状態で雄ネジ部と雌ネジ部を昇温した状態を模式的に示す断面図。 図7よりもネジ山が少ない雌ネジ部に雄ネジ部を常温で螺合した状態を模式的に示す断面図。削除した雌ネジ山f0〜f−9の長さは図5のLと同一長さ。 図9の状態で雄ネジ部と雌ネジ部を昇温した状態を模式的に示す断面図。 図3の状態から弾性部材を取り除いて、雄ネジ部と雌ネジ部を常温で隙間なく螺合した状態を模式的に示す断面図。 図11の状態から昇温した状態を模式的に示す断面図。 本発明の第2の実施形態の成型金型の平面図。 図13中のF14−F14線に沿う成型金型の断面図。 図13中のF15−F15線に沿う成型金型の断面図。 本発明の第3の実施形態の成型金型の断面図。 本発明の第4の実施形態の成型金型の断面図。 本発明の第5の実施形態の成型金型の断面図。
<第1の実施形態>
本発明に係る第1の実施形態の成型金型1について、図1から図12を参照して説明する。成型金型1は、成型品の原料がキャビティ2内に注入されたのち加熱処理が施される金型であって、少なくとも2つのブロック(本実施形態では、第1のブロック11及び第2のブロック12)を第1の方向に並べて構成され、隣り合うブロックどうしをボルト13で連結した成型金型である。対象となる成型品によってキャビティ2の形状は様々であるので、本実施形態では、図1に示す本発明に係る成型金型1の典型的な一例を用いて説明する。
図1は、成型金型1の分解斜視図であって、成型金型1を第1の方向に二分割に開いた状態を示す。図示した例では、第1の方向が上下方向に一致している。なお、第1の方向は、左右方向であってもよいし、その他の方向であってもよい。成型金型1は、第1のブロック11と第2のブロック12とボルト13と弾性部材14とを備える。本実施形態の場合、隣り合う一方のブロックが下金型となる第1のブロック11であり、隣り合う他方のブロックが上金型となる第2のブロック12である。
図2は、第1のブロック11と第2のブロック12を組み合わせてボルト13で固定した組立状態を示す。第1のブロック11及び第2のブロック12は、それぞれキャビティ2を構成する凹部21,22を有しており、このキャビティ2に成型品の原料を注入する入口ノズル31と内部のガスを排出する出口ノズル32がそれぞれに装着される。入口ノズル31と出口ノズル32の大きさや場所は図2の例に限定されない。
一般的には図1に示すように入口ノズル31を下部に、出口ノズル32を上部に配置することが多い。なお、入口ノズル31及び出口ノズル32は、雌ネジ穴111及びボルト孔121と干渉しない第1のブロック11または第2のブロック12の側壁に設けられていてもよい。
第1のブロック11は、図1に示すように、キャビティ2の凹部21の周囲に配置された雌ネジ穴111を有している。雌ネジ穴111は、他方のブロックとなる第2のブロック12側へ開口している。雌ネジ穴111は、ネジの呼び径Dに対して1.0〜2.0Dの長さの雌ネジ部112が設けられていることが多い。
第2のブロック12は、図2に示すように第1のブロック11と組み合わされてキャビティ2を形成する。第2のブロック12は、キャビティ2の凹部22の周囲に配置されたボルト孔121を有している。ボルト孔121は、雌ネジ穴111に連通するように第1のブロック11側へ開通している。
本実施形態において、第1のブロック11及び第2のブロック12は、加熱処理されることを考慮して軽量かつ熱伝導性に優れた同じ材料で形成されており、例えば、高力アルミニウム合金である7000系のAl−Zn−Mg系合金、具体的には日本工業規格「JIS H 4000:2014 アルミニウム及びアルミニウム合金の板及び条」のA7075P−T6材、いわゆる「超超ジュラルミン」製であることが好ましい。
ボルト13は、図1に示すようにいわゆる「六角穴付きボルト」であって、図3に示すようにボルト孔121に通された状態で、先端に設けられた雄ネジ部131が雌ネジ穴111の雌ネジ部112に螺合されている。また、ボルト孔121の縁とボルト13の頭部133との間に弾性部材14を装着した状態で、雄ネジ部131が作用する雌ネジ部112と頭部133が作用する弾性部材装着部との間に所定の締付荷重が掛けられている。つまり、ボルト13は、第1のブロック11と第2のブロック12とを所定の締付荷重で締付固定する。ボルト13は、第1のブロック11及び第2のブロック12よりも熱膨張係数が小さく、高強度の材料、例えば一般的なボルトに使用されるクロムモリブデン鋼、具体的には、日本工業規格「JIS G 4105 クロムモリブデン鋼鋼材」のSCM435を本実施形態では採用している。この他の材料として、例えば一般的な機械構造用炭素鋼鋼材(JIS G 4051:2009)のS45Cなどから製作してもよい。いずれも日本工業規格「JIS B 1051:2000 炭素鋼及び合金構成締結用部品の機械的性質−第1部:ボルト、ねじ及び植込みボルト」に準拠して造られることが望ましい。
このように、本実施形態の成型金型1は、成型品のキャビティ2を形成する第1のブロック11及び第2のブロック12の材料と、これらを組み合わせて互いに連結するボルト13の材料とが、互いに異なる異種金属で構成されている。
このボルト13の先端に設けられた雄ネジ部131は、図3に示すように第1のブロック11及び第2のブロック12を組み合わされた状態で、第2のブロック12のボルト孔121に通された状態で第1のブロック11の雌ネジ穴111の雌ネジ部112に対して螺合される。雌ネジ部112の呼び径をDとする場合、雄ネジ部131は締付方向に雌ネジ部112に対して0.8D以上で1.6D以下の長さ螺合されることが望ましい。図示した例では、ボルト13の締付方向は第1の方向に一致している。
また、ボルト13は、図2及び図3に示すようにボルト13の頭部133とボルト孔121の縁との間に弾性部材14を装着した状態で、雄ネジ部131と頭部133との間で所定の締付荷重を受けている。
成型金型1は、図2のように第1のブロック11と第2のブロック12とをボルト13で締付固定している状態で加熱処理される。このとき第1のブロック11及び第2のブロック12よりもボルト13の方が熱膨張係数が小さいので、熱膨張に伴う物理的な変位による引張荷重がボルト13に加わる。弾性部材14は、この変位に伴う引張荷重がボルト13に加わることを回避し、雌ネジ部112を破壊する剪断荷重が雌ネジ部112に加わることを防止する。つまり、弾性部材14は、第1のブロック11及び第2のブロック12が加熱処理によって膨張した場合、ボルト13に作用する荷重が、第1のブロック11と第2のブロック12とを型締めするための締付荷重以上、かつ、締付方向に作用するネジ山への剪断応力によって雌ネジ部112が破壊される剪断荷重以下の適正な荷重に維持される様に縮む。
本実施形態では、図3に示すように弾性部材14として、皿バネを採用している。皿バネを採用することで、ボルト13による締付荷重は、ボルト13の軸を中心とする周方向に均一に掛る。また、弾性部材14として皿バネを複数採用することで、締付荷重と破断強度との間の適正な荷重に維持させる為に、皿バネを同じ向きに挿入する並列配置にすることでバネ定数を設定しやすいとともに、皿バネを内周どうし及び外周どうしが交互に接するように挿入する直列配置にすることで縮み代(ストローク)も設定しやすい。本実施形態では、図2及び図3に示すように、弾性部材14として2つの皿バネを並列配置で装着しており、雌ネジ部112の呼び径をDとする場合、締付方向に、0.5D以下の寸法で0.005D以上の縮み代を有するように構成することが望ましい。
また、弾性部材14を位置決めしやすいように、第2のブロック12は、第1のブロック11に対して反対側のボルト孔121の縁に、弾性部材14の外形よりも大きい座刳り部122が設けられている。座刳り部122は、弾性部材14が完全に埋没する深さを有しており、弾性部材14を装着した後、成型金型1を組立や分解する際に弾性部材14が脱落しないように止め輪15が装着される。止め輪15は、座刳り部122の内周面に刻まれた溝に嵌合される。
以上のように構成された成型金型1は、加硫ゴムや熱硬化性合成樹脂のように加熱処理が必要な成型品を得るために利用される。まず、第1のブロック11と第2のブロック12をボルト13で型締めされた状態でキャビティ2に原料が注入されたのち、入口ノズル31と出口ノズル32が封止される。次に、成型金型1は、キャビティ2に注入された原料に適した温度及び時間で加熱処理されることで、成型品を得る。
本発明の成型金型1において、軸方向に螺合するボルト13の雄ネジ部131と雌ネジ穴111の雌ネジ部112の長さについて検討したことをさらに詳述する。説明上、分かりやすくするために、第1のブロック11及び第2のブロック12の材料を超超ジュラルミン(A7075)とし、ボルト13の材料を六角穴付きボルトに一般的に使用されるクロムモリブデン鋼(SCM435)とした一例を示す。
まず、弾性部材14が装着されていない場合について説明する。雌ネジ部112に雄ネジ部131が螺合された状態でボルト13が軸方向に引張荷重を受けると、締結部分が破壊される事象において、2つの破壊モードが想定される。1つは、ボルト13の雄ネジ部131の谷径部の引張強度[N]の方が雄ネジ部131の外径部に位置する雌ネジ部112のネジ山の軸方向に沿う剪断強度[N]よりも高い場合には、雌ネジ山の剪断破壊が生じる破壊モードであり、もう1つは、ボルト13の雄ネジ部131の谷径部の引張強度[N]の方が雄ネジ部131の外径部に位置する雌ネジ部112のネジ山の軸方向に沿う剪断強度[N]よりも低い場合には、雄ネジの谷部でボルト13が破断する破壊モードである。本実施形態の場合、それぞれの材料の組み合わせは上述のとおりであり、雌ネジ部112のネジ山の軸方向に沿う剪断強度[N]の方が大幅に小さいので、破壊モードは、前者の「雌ネジ山の剪断破壊」に相当する。
第1のブロック11及び第2のブロック12の材料となるA7075の引張強さはJIS H 4000「A7075P−T6」の厚板100mmを使用するとき540[N/mm]以上で剪断強さはこの約60%の324[N/mm]以上であり、ボルト13は材料SCM435のJIS B 1051「強度区分12.9」ボルトを使用するとき引張強さ1220[N/mm]以上である。つまり、雌ネジ部112の剪断強さ324[N/mm]は雄ネジ部131の谷径部の引張強さ1220[N/mm]に比べて1/3以下である。
成型金型1を使用した加熱処理における温度領域は、120〜180[℃]であり、この温度領域においてSCM435の引張強さはほぼ変わらないのに対し、A7075は約130℃に加熱されると引張強さや剪断強さが約60%に低下することが知られている。また、A7075の熱膨張係数は23.6×10−6/℃であり、SCM435の熱膨張係数は11.2×10−6/℃である。
成型金型1を組み立てるときの温度(常温)を20℃とし、成型金型1で成型される加硫ゴムを加熱処理するときの温度を130℃とする。さらに、六角穴付きボルトであるボルト13の全長からボルト頭部133の長さを引いてボルトの呼び長さを求め、それから、雄ネジ部131のボルト先端のネジ山1つの長さ(1ピッチの長さ)を引いた寸法をボルト13の自由長Lとすると、ボルト13の自由長Lは、加熱処理温度の時の熱膨張差によってボルト13よりも膨張した第1のブロック11の雌ネジ部112のネジ山が雄ネジ部131のボルト先端のネジ山に当接して拘束される部分から、加熱処理温度の時の熱膨張差によってボルト13よりも膨張した第2のブロック12がボルト13の頭部133に当接して拘束される部分までの拘束されていない長さと同じである。
以上の条件を基に、加熱処理中のそれぞれの温度変化110℃による熱伸び量を計算すると、第2のブロック12の熱伸び量は、2.596L×10−3mmであり、ボルト13の熱伸び量は、1.232L×10−3mmである。したがって、自由長L=100mmである場合の各熱伸び量は0.2596mmと0.1232mmで、熱膨張差は0.1364mm生じることとなる。
このとき、自由長Lは、ボルト13の雄ネジ部131からボルト先端のネジ山を除く部分及びボルト13の雄ネジ未加工部分である胴部132となる。したがって、引張荷重に対する自由長Lの部分の変位量(歪み)δは、先端1山を除く雄ネジ部131の変位量δと胴部132の変位量δである。
ボルト13がメートル並目ネジのボルトである場合、雄ネジ部131の有効径をd、胴部132の外径(=ボルトの雄ネジ部の呼び径)をdとすると、ボルト13の軸方向に掛る引張荷重に対する雄ネジ部131の有効径断面積Aはπ(d/2)[mm]で代表され、胴部132の断面積Aはπ(d/2)[mm]で表わされる。雄ネジ部131の呼び径がd=12である場合、雄ネジ部131の有効径d=10.863mm、胴部132の外径寸法(=雄ネジ外径(=呼び径))=12.00mmであるので、雄ネジ部131の有効径断面積A=92.68mm、胴部132の断面積A=113.1mmである。なお、雄ネジ部131の有効径断面積Aは、断面積が最大であるネジ山部のネジ外径断面積と最小であるネジ谷部の谷径断面積のほぼ平均なので、雄ネジ部131の平均断面積と考える。
ここで、加熱処理中の温度変化によって生じる第1のブロック11及び第2のブロック12とボルト13の熱膨張差(熱伸び量の差)は、加熱処理中にボルト13が第1のブロック11及び第2のブロック12によって伸ばされる変位量δとみなすことができる。この変位量δによってボルト13に作用する軸力Fは、ヤング率E、有効断面積A、軸力が掛る部分の長さ(自由長L)及び変位量δによって次式で計算される。
F=(E・(A/L))・δ [N]
このとき、ボルト13の自由長Lの部分である雄ネジ部131と胴部132とのそれぞれに掛る軸力Fは同じである。そこで、ボルト13がSCM435であるときのヤング率E=2.1×10、雌ネジ部112のネジ山に当接して拘束されていない雄ネジ部131の長さL=10.00mm、胴部132の長さL2=90.00mmとすると、上記した軸力Fを求める式を基に、雄ネジ部131に掛る軸力は、F=(2.1×10×92.68/10.00)×δ[N]=(1.9463×10)δ[N]、胴部132に掛る軸力は、F=(2.1×10×113.1/90.00)×δ[N]=(0.2639×10)δ2[N]としてそれぞれ計算できる。 F=Fなので変位量δは、(1.9463×10)δ=(0.2639×10)δ2より、δ=0.13559δ2となる。
ボルト13の自由長Lの部分の全体の長さはL+L=100mmなので変位量δは、これに対応する第1のブロック11と第2のブロック12との熱膨張差であり、前に述べた通り0.1364mmである。よって、δ=δ+δ=0.1364mmとすることで、δ+δ=0.13559δ2+δ=1.13559δ2=0.1364mmより雄ネジ部131の変位量δ=0.01629mm、胴部132の変位量δ=0.12011mmであることが分かる。また、これらから求められる軸力は、F=31,705[N]、F=31,697[N]となるが、本来、これらは等しいので、以下の説明ではF=31.70[kN]に近似する。
なお、ボルト13の破断強度は、雄ネジ部131の谷径d=10.106mmで計算する。ボルト13の材料であるSCM435の引張強さは1,220[N/mm]以上なので、呼び径がM12のボルト13は、最大軸力Fmax=97.86[kN]に耐える強度を有している。したがって、熱膨張に伴う変位量δによって生じる軸力F(=31.70[kN])に対するボルト13の安全率は3.1倍となるが、加熱処理の度に繰り返しこの軸力Fが加わると耐久性に影響する。
本実施形態では、ボルト13の頭部133と第2のブロック12のボルト孔121の縁との間に弾性部材14が装着されているので、熱膨張差は、弾性部材14が変形することによって吸収され、ボルト13の自由長Lの部分に掛る軸力Fは、十分に低い値に抑えられる。
次に、第1のブロック11の雌ネジ穴111に螺合されている雄ネジ部131に対して加熱処理中に加わる軸力Fsについて考察する。第2のブロック12が熱膨張することによって、ボルト13に掛る軸力Fは上述のとおりである。このときボルト13の雄ネジ部131は、第1のブロック11の雌ネジ穴111の雌ネジ部112に螺合されている。成型金型1を組み立てた室温(常温)において、雄ネジ部131のピッチは雌ネジ部112のピッチと同じであり、互いに螺合している範囲に係る軸力Fsは雄ネジ部131のネジ山の一つ一つに均等に分配されると仮定した場合について説明する。
加熱処理中にボルト13の雄ネジ部131の全体に掛る軸力Fsは、第1のブロック11と第2のブロック12を型締めするための締付荷重の他に、第2のブロック12とボルト13の自由長Lの部分との熱膨張差によって生じる軸力Fも加わり、雄ネジ部131のネジ山と雌ネジ穴111の雌ネジ部112のネジ山との間に軸方向(第1の方向)の剪断荷重として作用する。そして、ネジ部(雄ネジ部131、雌ネジ部112)の破壊を評価する場合、雄ネジ部131のネジ山に係る剪断荷重と雌ネジ部112のネジ山に係る剪断荷重がそれぞれの材料の剪断強度を超えるか否かで判断される。
ボルト13の雄ネジ部131のネジ山が受ける軸方向の剪断荷重に対する有効断面積Aは、雄ネジ部131のネジ山に対して雌ネジ部112のネジ山の先端が掛る位置(すなわち雌ネジ部112の内径D)における円筒面で切り取られる面積として計算される。また、雌ネジ部112のネジ山が受ける軸方向の剪断荷重に対する有効断面積Aは、雌ネジ部112のネジ山に対して雄ネジ部131のネジ山の先端が掛る位置(すなわち雄ネジ部131の外径d)における円筒面で切り取られる面積として計算される。
図4は、雄ネジ部131と雌ネジ部112が螺合している部分を拡大して模式的に示す断面図である。図4に示す雄ネジ部131及び雌ネジ部112は、「JIS B 0205:2001 一般用メートルねじ第4部:基準寸法」の呼び径が12でピッチ1.75の場合を例に示す。ネジのピッチP=1.75mm、雌ネジ部112の内径D=10.106mm、雄ネジ部131の外径d=12.00mm、雌ネジ有効径D及び雄ネジ有効径d=10.863mmである。
図4において、雌ネジ部112の内径の位置で雄ネジ部131ネジ山を軸方向に横切る線分tuとすると、ネジ山の角度αは、60度なので、呼び径がM12である場合、線分tu=(P/2)+((d−D)/tanα)=1.312mmとなる。このとき、雄ネジ部131における1ピッチのネジ山の軸方向の剪断荷重に対する有効断面積Aは、A=線分tu×D×π=41.66mmである。また、雄ネジ部131の外径dの位置で雌ネジ部112のネジ山を軸方向に横切る線分vwとすると、線分vw=(P/2)+((d−D)/tanα)=1.531mmとなる。このとき雌ネジ部112における1ピッチのネジ山の軸方向の剪断荷重に対する有効断面積Aは、A=線分vw×d×π=57.73mmである。
上述のように軸方向の剪断荷重に対する有効断面積を比較すると、雄ネジ部131のネジ山の有効断面積Aよりも雌ネジ部112のネジ山の有効断面積Aの方が約40%大きい。したがって、一般的なケースである雄ネジ部131と雌ネジ部112が同一材質(共材)の場合には、雄ネジ部131の方が先に剪断破壊される。雄ネジ部131と雌ネジ部112は、1ピッチのみではなく複数ピッチを螺合させて締結される。したがって、雄ネジ部131のネジ山が破壊されないように「雄ネジ部131の谷径における引張強度=[断面積A]×[引張強さ]」よりも剪断強度=「雄ネジ部131のネジ山の剪断荷重に対する[有効断面積A]×[剪断強さ]」の方が大きくなるように捩じ込みピッチ数(捩じ込み長さ=螺合長さ)が設定される。
本実施形態の場合は、ボルト13の材質はSCM435であり、第1のブロック11及び第2のブロック12の材質はA7075である。前記の通り、SCM435の引張強さは1,220[N/mm]以上で剪断強さはこの約60%の732[N/mm]以上であり、A7075の剪断強さは常温(20℃)で324[N/mm]以上である。
成型金型1は、加熱処理の際に120〜180℃の温度に加熱される。SCM435の引張強さはこの温度の加熱処理によってほぼ変わらないのに対し、A7075の引張強さは130℃に温度が上がると常温の時の約60%に低下するので、剪断強さも同様に考えると194[N/mm]以上となる。その結果、成型金型1を加熱処理する際に、雄ネジ部131の1ピッチのネジ山で保持できる軸力FMPは、30.50[kN]であるのに対し、雌ネジ部112の1ピッチのネジ山で保持できる軸力FFPは、11.20[kN]となる。
そこで、成型金型1において、第1のブロック11に設けられた雌ネジ穴111の雌ネジ部112が破壊されないように、雄ネジ部131に螺合している雌ネジ部112のネジ山で保持できる軸力Fがボルト13の破断強度(97.86[kN])よりも大きくなるように、雄ネジ部131と雌ネジ部112とが螺合されるネジ山のピッチ数を検討する。
成型金型1は、成型品を製造する度に、組立、加熱処理及び分解を繰り返される。ボルト13は、この製造工程を繰り返すことで、いわゆる片振りの繰返し荷重を受けるのと同じことを繰り返すことになる。
一般に、鋼材の片振りの繰返し荷重による疲労破壊において、繰返しのサイクルが短い場合の安全率は「5倍」に設定され、繰返しのサイクルが長く静的荷重に近い場合の安全率は「3倍」に設定される。本実施形態の成型金型1の場合、組立と加熱と分解を繰り返すものではあるが、その繰り返しによって雄ネジ部131及び雌ネジ部112に荷重が加わるサイクルは長く、静的荷重に近いものであるので、雌ネジ部112の安全率を3倍に設定し、加熱処理の熱膨張でボルト13に発生する軸力F(31.70[kN])を雌ネジ穴111で保持するためにボルト13の雄ネジ部131と螺合する雌ネジ部112として必要なピッチ数を計算すると、8.49ピッチとなる。安全率が3倍以上となるように必要なピッチ数を9ピッチとすると、呼び径がM12であるボルト13の1ピッチは1.75mmなので、雄ネジ部131と雌ネジ部112の螺合する長さは15.75mm(約1.3D)が必要となる。なお、熱膨張でボルト13に発生する軸力F(31.70[kN])の安全率3倍(95.1kN)は、ボルト13の破断強度(97.86[kN])とほぼ同じになった。
つまり、螺合している範囲に係る軸力Fsが雄ネジ部131と雌ネジ部112のネジ山の一つ一つに均等に分配されると仮定した場合、雌ネジ部112の呼び径Dに対して軸方向に約1.3Dの長さの雌ネジ部112が有効なネジ部としてボルト13の雄ネジ部131に螺合していれば、加熱処理における熱膨張差によって軸力Fが発生しても、ボルト13と第1のブロック11の雌ネジ部112の螺合部が破壊されることなく、保持される。
ところで、雌ネジ部112が形成される第1のブロック11やボルト13の雄ネジ部131も熱膨張するし、ボルト13の雄ネジ部131もネジ山の1ピッチごとに軸力Fの引張荷重を受けて変位する。つまり、雌ネジ部112に螺合している雄ネジ部131のネジ山がボルト13の頭部133側から何番目のネジ山であるかによって、各ネジ山が負担する荷重とそれによる変位量が異なり、その結果、各ネジ山に作用する剪断荷重も異なる。
そこで、図5と図6、図7と図8、図9と図10、図11と図12を参照して、雄ネジ部131と雌ネジ部112の個々のネジ山の間に作用する荷重について考察する。なお、図5〜図12は本願のメカニズムを分り易くするために、本実施形態の図1〜図3のボルト13の胴部132の長さを短くするなどの簡素化を行っている。
図5と図6、図11と図12において、ボルト13の雄ネジ部131は、先端から9山分が雌ネジ部112に螺合している状態である。そこで、雌ネジ部112に掛っているボルト13の雄ネジ部131の頭部133側の最初のネジ山を第1山m1とし、先端に向かって、第2山m2、第3山m3、…、第9山m9とする。また、雌ネジ部112のネジ山についても同様に、第2のブロック12側に面した雌ネジ穴111の一番外側(孔口側)から順に、ボルト13を頭部133側へ引き抜くときに雄ネジ部131の第1山m1に螺合するものを第1山f1、続いて雄ネジ部131の第2山m2に螺合するものを第2山f2、以降、第3山f3、…、第9山f9とする。さらに、雄ネジ部131の第1山m1よりも一つ頭部133側のネジ山を第ゼロ山m0とする。
同様に図7と図8は第1のブロック11が大きくて雌ネジ部112が長く、ボルト13には胴部132が無くて全てが雄ネジ部131であるものを使用して、先端から19山分全てが雌ネジ部112に螺合している状態の図である。そこで、雌ネジ部112に掛っているボルト13の雄ネジ部131の頭部133側の最初のネジ山を第−9山m−9とし、先端に向かって、第−8山m−8、第−7山m−7、…、第ゼロ山m0、…、第9山m9とする。また、雌ネジ部112のネジ山についても同様に、ボルト頭部133側に面した雌ネジ穴111の一番外側(孔口側)から順に、ボルト13を頭部133側へ引き抜く時に雄ネジ部131の第−9山m−9に当接するものを第−9山f−9、続いて雄ネジ部131の第−8山m−8に当接するものを第−8山f−8、以降、第−7山f−7、…、第ゼロ山f0、…第9山f9とする。
次の図9と図10の図は、図7と図8の第1のブロック11の雌ネジ部112のネジ山が第−9山m−9〜第ゼロ山m0までの10山が無いものと、図7と図8と同一のボルト13を使用して、最大限まで雌ネジ部112に螺合している状態の図である。そこで図5と図6と同様に、雌ネジ部112に螺合しているボルト13の雄ネジ部131の頭部133側の最初のネジ山を第1山m1、先端に向かって最後のネジ山を第9山m9とする。また、雌ネジ部112のネジ山についても同様に、ボルト頭部133側に面した雌ネジ穴111の一番外側(孔口側)から順に、ボルト13を頭部133側へ引き抜く時に雄ネジ部131の第1山m1に当接するものを第1山f1、最後の雄ネジ部131の第9山m9に当接するものを第9山f9とする。さらに、雄ネジ部131の第1山m1よりも一つ頭部133側のネジ山を第ゼロ山m0とする。
なお、図5、図7、図9、図11の模式的な断面図において、雄ネジ部131と雌ネジ部112の間、及び、第1のブロック11と第2のブロック12の間、第1のブロック11又は第2のブロック12とボルト13の雄ネジ部131の頭部133との間に隙間を有しているが、説明上、荷重が作用して押し合っている(当接している)ネジ山がどこであるか、及び、荷重が作用して押し合っている面がどこであるか感覚的に分かりやすいように大きな隙間で模式的に表記しているのであって、実際にはバックラッシュの隙間しかなく雌ネジ部112に対して雄ネジ部131が略隙間なく螺合されているものであり、ブロック11の面とブロック12の面などの面間の隙間もバックラッシュの隙間と同程度であるとする。また、これらネジ山間の僅かな隙間も面間の僅かな隙間も、全ての隙間が同程度である。また、図6、図8、図10、図12も同様の模式的な断面図である。
図5と図6は、第2のブロック12を組まずに第1のブロック11にボルト13を螺合させた状態であり、図5は常温の状態、図6は加熱処理と同じ温度に加熱した状態をそれぞれ模式的に断面図にして示す。また、図7と図8は、第1のブロック11の雌ネジ部112が「第2のブロック12組み込み相当分だけ」長いブロック11’に、ボルト13の「胴部132まで全てを雄ネジ部131とした」ボルト13’を略隙間なく組み合わせた状態であり、図7は常温の状態、図8は加熱処理と同じ温度に加熱した状態をそれぞれ模式的に断面図にして示す。図9と図10の図は、ブロック11’の「雌ネジ部112のネジ山が一部無い(第2のブロック12組み込み相当分の長さだけ無い)」ブロック11”に、前記のボルト13’を略隙間なく組み合わせた状態であり、図9は常温の状態、図10は加熱処理と同じ温度に加熱した状態をそれぞれ模式的に断面図にして示す。また、図11と図12は、第1のブロック11と第2のブロック12にボルト13を略隙間なく組み合わせた状態であり、図11は常温の状態、図12は加熱処理の温度に加熱された状態をそれぞれ模式的に断面図にして示す。なお、図11と図12の第1のブロック11と第2のブロック12の組合せ状態は、図9と図10の第1のブロック11”を雄ネジ部131のネジ山の第ゼロ山m0の頂点位置で2つに切断分離した状態と実質的に同一である。
図7、図9、図11は金型組立て時にボルト13が引き伸ばされるような締付荷重を加えていない場合の図であり、説明上分かりやすいように大きな隙間を記載しているが、図5と同様にネジ螺合部のバックラッシュと同等の僅かな隙間である。
まず最初に、図5と図6を用いて、加熱処理に伴う温度差によって雄ネジ部131と雌ネジ部112の間に生じる軸力について説明する。加熱処理によって成型金型1の温度が上がり始める時は、ボルト13の頭部133は第2ブロック12に係合しておらず、雄ネジ部131と雌ネジ部112を互いに拘束するものが無いので、図6に示すように、雄ネジ部131と雌ネジ部112とが螺合する範囲の中心を中立点X1として考察することができる。なお、厳密には図6に示す加熱処理温度の時に熱膨張差による荷重を受けてネジ山同士が当接して拘束されるところの、雌ネジ部112の第1山f1と雄ネジ部131の第ゼロ山m0の当接部の中心から、雌ネジ部112の第9山f9と雄ネジ部131の第9山m9の当接部の中心までの範囲である、ネジ山数で8.5山の中心が中立点X1となる。
図5に示す常温の状態から図6に示す加熱温度に昇温開始すると、第1のブロック11及びボルト13は互いに拘束するものが無いので、各々の熱膨張係数にしたがって均等に膨張する。ボルト13の熱膨張係数よりも第1のブロック11の熱膨張係数の方が大きいので、雄ネジ部131よりも雌ネジ部112の方が軸方向へ大きく伸びる。その結果、熱膨張係数の差に起因して、雌ネジ部112の第1山f1が雄ネジ部131の第ゼロ山m0と軸方向に押し合い、雌ネジ部112の第9山f9が雄ネジ部131の第9山m9と軸方向に押し合う。この時、ボルト13とブロック11の軸方向の断面積を比較するとボルト13の断面積が圧倒的に小さいので、雄ネジ部131は軸方向に引き伸ばされる軸力F1を受けることとなる。
次に、図7と図8を用いて、加熱処理に伴う温度差によって雄ネジ部131と雌ネジ部112の間などに生じる軸力について説明する。なお、図5、図6との違いは、第1のブロック11の雌ネジ部112が長く、長い胴部なしのボルト13’を略隙間なく組み合わせている点だけであり、他は全て同じである。加熱処理によって成型金型1の温度が上がり始める時は、ボルト13’の頭部133と第1のブロック11’との面間と雄ネジ部131と雌ネジ部112のネジ山間にバックラッシュと同程度の隙間があり、ボルト13’と第1のブロック11’を互いに拘束するものが無いので、図8に示すように、雄ネジ部131と雌ネジ部112とが螺合する範囲の中心を中立点X2として考察することができる。なお、厳密には図8に示す加熱処理温度の時に熱膨張差による荷重を受けて面同士が当接して拘束されるボルト13の頭部133と第1ブロック11との当接部から、同様に熱膨張差による荷重を受けてネジ山同士が当接して拘束される雌ネジ部112の第9山f9と雄ネジ部131の第9山m9の当接部の中心までの範囲である、ネジ山数で18.75山の中心が中立点X2となる。この様に図5と図6の場合に8.5山だった範囲が、18.75山の範囲に広がったので本中立点をX2と呼ぶ。
図7に示す常温の状態から図8に示す加熱温度に昇温開始すると、第1のブロック11’及びボルト13’は互いに拘束するものが無いので、各々の熱膨張係数にしたがって均等に膨張する。ボルト13’の熱膨張係数よりも第1のブロック11’の熱膨張係数の方が大きいので、雄ネジ部131よりも雌ネジ部112の方が軸方向へ大きく伸びる。その結果、熱膨張係数の差に起因して、ボルト13’の頭部133と第1ブロック11’との当接部が軸方向に押し合い、雌ネジ部112の第9山f9が雄ネジ部131の第9山m9と軸方向に押し合う。この時、ボルト13’とブロック11’の軸方向の断面積を比較するとボルト13’の断面積が圧倒的に小さいので、雄ネジ部131は軸方向に引き伸ばされる軸力F1を受けることとなる。なお、ボルト13’と第1のブロック11’の熱膨張係数の差をαとしたときの伸びは図5と図6の場合がα×8.5山で、図7と図8の場合がα×18.75山と後者の伸び量が大きいが、伸び率(歪)としては同じαである。よって、両者ともボルト13の断面積と縦弾性係数E(ヤング率)が同じであり、伸び率(歪)も同じなのでボルト13を軸方向に引き伸ばされる軸力は前者と同じ軸力F1を受けることとなる。
更に、図9と図10を用いて、加熱処理に伴う温度差によって雄ネジ部131と雌ネジ部112の間などに生じる軸力について説明する。なお、図7、図8との違いは、第1のブロック11’の雌ネジ部112をボルト13の頭部133側に面した雌ネジ穴111の一番外側(孔口側)から10山無くしただけであり、他は全て同じである。なお、この10山の長さは、第2のブロック12の長さに相当する。加熱処理によって成型金型1の温度が上がり始める時は、図7、図8と同様にボルト13’と第1のブロック11”を互いに拘束するものが無い。よって、図10に示すようにボルト13’の頭部133と第1ブロック11”との当接部から、雌ネジ部112の第9山f9と雄ネジ部131の第9山m9の当接部の中心までの範囲である、ネジ山数で18.75山の中心が中立点X2となる。
図9に示す常温の状態から図10に示す加熱温度に昇温開始すると、図8と同様に第1のブロック11”とボルト13’を互いに拘束するものが無いので、各々の熱膨張係数にしたがって均等に膨張し、雄ネジ部131よりも雌ネジ部112の方が軸方向へ大きく伸びる。その結果、熱膨張係数の差に起因して、図8と同様に雄ネジ部131は軸方向に引き伸ばされる軸力として、図6、図8と同じ軸力F1を受けることとなる。
最後に説明する図11と図12は第1の実施形態と同様の組合せであり、この場合に加熱処理に伴う温度差によって雄ネジ部131と雌ネジ部112の間などに生じる軸力について説明する。なお、図9、図10との違いは、第1のブロック11’が雄ネジ部131の第ゼロ山m0の頂点の位置で2分割されており、雌ネジ山112が有る方を第1のブロック11と呼び、無い方を第2のブロック12と呼ぶが、その他は基本的に同じである。(第1のブロック11’の分割位置は、図7の第1のブロック11’の雌ネジ部112の第1山f1と第ゼロ山f0の間と同じ位置である。)
加熱処理によって成型金型1の温度が上がり始める時は、図9、図10と同様に第1のブロック11と第2のブロック12(元のブロック11’を分割したもの)及びボルト13を互いに拘束するものが無い。よって、図12に示すようにボルト13の頭部133と第2ブロック12との当接部から、雌ネジ部112の第9山f9と雄ネジ部131の第9山m9の当接部の中心までの範囲である、ネジ山数で18.75山の中心が中立点X2となる。
図11に示す常温の状態から図12に示す加熱温度に昇温開始すると、図10と同様に第1のブロック11と第2のブロック12(元のブロック11’を分割したもの)及びボルト13を互いに拘束するものが無いので、各々の熱膨張係数にしたがって均等に膨張し、ボルト13(雄ネジ部131)よりも第1のブロック11(雌ネジ部112)と第2のブロック12の方が軸方向へ大きく伸びる。その結果、熱膨張係数の差に起因して、図10と同様に雄ネジ部131は軸方向に引き伸ばされる軸力として、図6及び図8、図10と同じ軸力F1を受けることとなる。
なお、実際の実施形態では、図11の金型組立て時に「注入する原料のゴムや樹脂の漏れ出し防止」での締付荷重を加えている。常温の状態では、雄ネジ部131と雌ネジ部112の螺合範囲は、各ネジ山(雄ネジ部131のネジ山の第1山m1から第9山m9までと雌ネジ部112のネジ山の第1山f1から第9山f9まで)が均等に螺合している状態である。つまり、常温の状態でボルト13を設定されたトルクで締め付けることによって生じる軸力Fは、雄ネジ部131のネジ山の第1山m1から第9山m9までのそれぞれに対して均等に作用し、個々のネジ山に対する軸力は、軸力Fの1/9の軸力が作用する。しかし、この常温での組立て時に加える締付荷重による軸力Fは、加熱温度に昇温された状態での熱膨張係数の差に起因する軸力F1に比べると非常に小さい。
また、ボルト13は原料のゴムや樹脂の熱膨張による圧力上昇での軸力F2も受けるが、このF2は締付トルクによるFよりも小さい。
この結果、図12に示すように雄ネジ部131と雌ネジ部112の螺合部分においてネジ山どうしが当接しているのは雌ネジ部112のネジ山の第9山f9と雄ネジ部131のネジ山の第9山m9だけなので、第1のブロック11及び第2のブロック12の熱伸び量の和である軸力F1と圧力上昇での軸力F2と締付荷重による軸力Fの全て(F1+F2+F)が略この1山に剪断荷重を発生させる軸力になる。
本実施形態の場合、図12の状態に加えて、ボルト13の頭部133と第2ブロック12のボルト孔121の縁との間に弾性部材14として複数の皿バネ(本実施形態では2枚)が装着されている。この弾性部材14は、加熱処理によって第1のブロック11及び第2のブロック12が膨張した場合、ボルト13に作用する荷重が締付荷重以上かつ締付方向に作用する引張荷重によって雌ネジ部112が破壊される剪断荷重以下に維持されるように縮む。すなわち、弾性部材14が縮むことによって、雄ネジ部131のネジ山の第9山m9と係合している雌ネジ部112のネジ山の第9山f9が剪断応力で破壊されることを免れる。
以下に、第2から第5の実施形態の成型金型1についてそれぞれ図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、第1の実施形態の成型金型1の構成と同じ機能を有する構成は、同じ符号を付し、その詳細な説明は、第1の実施形態中の対応する記載を参酌することとする。
要約すれば、熱膨張率の小さいボルト13の頭部133のブロック12との当接部と雄ネジ部131の第9山m9の第9山f9の当接部が、第2のブロック12の当接部と雌ネジ部112の第9山f9の当接部をF1+F2+Fの軸力で締め付ける状態になり、一番弱い雌ネジ部112の第9山f9から塑性変形、破壊が始まる。
<第2の実施形態>
本発明に係る第2の実施形態の成型金型1について、図13から図15を参照して説明する。図13は、成型金型1を上から見た平面図であり、図14は、図13中のF14−F14線に沿う成型金型1の断面図であって、第1のブロック11と第3のブロック16を連結するボルト、第2のブロック12と第3のブロック16を連結するボルト、及びキャビティ2に原料を注入する入口ノズル31と出口ノズル32を通る面で切った断面図である。また、図15は、図13中のF15−F15線に沿う成型金型1の断面図であって、キャビティ2の周囲の一辺に配置されるボルト13を通る面で切った断面図である。
第2の実施形態の成型金型1は、図14及び図15に示すように3つのブロック(第1のブロックで11、第2のブロック12、第3のブロック16)を第1の方向に重ね合せて構成されている。第1のブロック11と第2のブロック12と第3のブロック16は、図14に示すように一続きのキャビティ2を構成する凹部21,22,23を内部に有している。図13に示すようにキャビティ2の周囲には、隣り合うブロックどうしを連結するボルト13が配置されている。
本実施形態の場合、図14及び図15に示すように、第1のブロック11は、下部に配置され、第2のブロック12は、上部に配置される。第3のブロック16は、第1のブロック11と第2のブロック12の間に配置されるブロックであり、ボルト孔121と雌ネジ穴111の両方が設けられている。ボルト13は、隣り合うブロックどうしとなる第1のブロック11と第3のブロック16、第2のブロック12と第3のブロック16をそれぞれ個別に連結するように配置される。
また、隣り合うブロックどうしにおいて一方のブロックのボルト孔121と他方のブロックの雌ネジ穴111、本実施形態では第1のブロック11の雌ネジ穴111と第3のブロック16のボルト孔121、及び、第3のブロック16の雌ネジ穴111と第2のブロック12のボルト孔121は、第1の方向に互いに重なる位置に配置されている。また、中間に配置された第3のブロック16に設けられた雌ネジ穴111とボルト孔121は、第1の方向に重ならない位置に配置されている。
本実施形態では、図13及び図15に示すように、第1のブロック11と第3のブロック16を連結するボルト13と、第2のブロック12と第3のブロック16を連結するボルト13とが、交互に並ぶように配置されている。したがって、第1のブロック11と第3のブロック16を連結するボルト13は、第2のブロック12を第3のブロック16に重ね合せる前に装着され、予め決められた締付トルクでブロックどうしを連結する。
また、図14及び図15に示すように、中間に配置される第3のブロック16に設けられたボルト孔121の第2のブロック12側に面した縁には、少なくとも弾性部材14の皿バネとボルト13の頭部133を収納する大きさの座刳り部122が設けられている。第2の実施形態においては、第3のブロック16のボルト孔121だけでなく第2のブロック12のボルト孔121にも、第3のブロック16の座刳り部122と同じ大きさの座刳り部122が設けられている。
以上のように構成された成型金型1において、各ブロック(第1のブロック11、第2のブロック12、第3のブロック16)の材料は、熱伝導性に優れかつ軽量であるアルミニウム合金、特に日本工業規格における高力アルミニウム合金である7000系のAl−Zn−Mg系合金、具体的には日本工業規格「JIS H 4000:2014 アルミニウム及びアルミニウム合金の板及び条」のA7075−T6材、いわゆる「超超ジュラルミン」製である。また、ボルト13の材料は、各ブロック(11,12,13)よりも熱膨張係数が小さく、高強度の材料、例えば一般的なボルトに使用されるクロムモリブデン鋼、具体的には、日本工業規格「JIS G 4105 クロムモリブデン鋼鋼材」のSCM435を本実施形態では採用している。この他の材料として、例えば一般的な機械構造用炭素鋼鋼材(JIS G 4051)のS45Cなどから製作してもよい。いずれも日本工業規格「JIS B 1051:2000 炭素鋼及び合金構成締結用部品の機械的性質−第1部:ボルト、ねじ及び植込みボルト」に準拠して造られる。
ブロック(11,12,13)の熱膨張係数が締結部材のボルト13の材料の熱膨張係数よりも大きくても、弾性部材14をボルト13の頭部133とボルト孔121の間に有しているので、第1の実施形態と同様に、成型金型1を加熱処理する際の熱膨張差によってボルト13の雄ネジ部131と雌ネジ穴111の雌ネジ部112の螺合部における雌ネジ穴111の奥側(ボルト13の先端側)のネジ山に過大な剪断応力がかかることを軽減することができる。その結果、組立、加熱処理及び分解を繰り返す成型金型1の耐用年数を延ばすことができる。
<第3の実施形態>
本発明に係る第3の実施形態の成型金型1について、図16を参照して説明する。図16は、第2の実施形態の図15に相当する図であり、キャビティ2の周囲の一辺に沿って配置されたボルト13の中心を通る面で切った断面図である。
第3の実施形態の成型金型1は、複数のブロックとして4つのブロック(第1のブロック11を1つ、第2のブロック12を1つ、第3のブロック16を2つ)を第1の方向に重ね合せて構成され、隣り合うブロックどうしをボルト13でそれぞれ連結している。本実施形態では、下から順に、第1のブロック11と第3のブロック16、第3のブロック16どうし、第3のブロックと第2のブロックをそれぞれボルトで連結している。いずれの連結部においても、隣り合うブロック通しに置ける一方のブロックの雌ネジ穴111と他方のブロックのボルト孔121とは、第1の方向に重なる位置に配置され、中間に配置された第3のブロック16に設けられた雌ネジ穴111とボルト孔121は、第1の方向に互いに重ならない位置に配置されている。
第3の実施形態の成型金型1は、第2の実施形態の第3のブロック16を複数有した状態であり、それぞれボルト13及び弾性部材14によって連結されていることによって、加熱処理で熱膨張差が生じても、螺合部に過大な剪断応力がかかることを軽減できる。したがって、他の実施形態と同様に、組立、加熱処理及び分解を繰り返す成型金型1の耐用年数を延ばすことができる。また、第3の実施形態の成型金型1は、第3のブロック16をさらに加えることで、キャビティ2を第1の方向へ拡張することもできる。
<第4の実施形態>
本発明に係る第4の実施形態の成型金型1について、図17を参照して説明する。図17は、第2の実施形態の図15、第3の実施形態の図16に相当する図であり、キャビティ2の周囲の一辺に沿って配置されたボルト13の中心を通る面で切った断面図である。
第4の実施形態の成型金型1は、複数のブロックとして3つのブロック(第1のブロック11を1つ、第2のブロック12を2つ)を第1の方向に重ね合せて構成され、隣り合うブロックどうしをボルト13でそれぞれ連結している。本実施形態では、隣り合うブロックどうしの一方のブロックとして第1のブロック11を第1の方向に中央に挟み、その両側に他方のブロックとして第2のブロック12を配置している。したがって、第1のブロック11は、第2のブロック12側へ開口し雌ネジ部112が形成された雌ネジ穴111を両面に有している。この第1のブロック11の雌ネジ穴111は、第1の方向に互いに重ならない位置に配置されている。
第4の実施形態の成型金型1は、第1のブロック11が中央に配置されるので、第1の方向に第1のブロック11を大きくしたい場合に適している。なお、第1のブロック11の雌ネジ穴111は、両側から装着されるボルト13の雄ネジ部131に対する十分な螺合長さを雌ネジ部112に確保することができる場合、第1の方向に重なる位置に配置されていてもよく、互いに連通していてもよい。
<第5の実施形態>
本発明に係る第5の実施形態の成型金型1について、図18を参照して説明する。図18は、第2の実施形態の図15、第3の実施形態の図16及び第4の実施形態の図17に相当する図であり、キャビティ2の周囲の一辺に沿って配置されたボルト13の中心を通る面で切った断面図である。
第5の実施形態の成型金型1は、複数のブロックとして4つのブロック(第1のブロック11を1つ、第2のブロック12を2つ、第3のブロック16を1つ)を第1の方向に重ね合せて構成され、隣り合うブロックどうしをボルト13でそれぞれ連結している。第1のブロック11は、第4の実施形態の場合と同様に、隣り合うブロックに面した両側に雌ネジ穴111を有している。そして図18において第1のブロック11の下部には第2のブロック12が接合され、上部には第3のブロック16が接合される。そして、第3のブロック16の上部には、第2のブロック12が接合されている。
以上のように構成された第5の実施形態の成型金型1は、第1の実施形態の成型金型1の機能及び効果に加えて、第3の実施形態の成型金型1及び第4の実施形態の成型金型1の両方の機能及び効果を備える。
以上、本発明に係る成型金型1について第1から第5の実施形態を用いて説明した。これらの実施形態によれば、加熱処理を施す金型として熱伝導性に優れた材料をブロックの材料に使用するとともに、一般に使用される高強度材料のボルトを型締めするボルトとして使用することができる。
第2のブロック12とボルト13の間に弾性部材14を備えていることで、キャビティ2内へ材料を注入する際の型締めに必要な締付力を維持しつつ、加熱処理における熱膨張差に伴う過剰な負荷を吸収することができる。特に、弾性部材14として皿バネを採用することで、弾性部材14を収納するために必要なスペースが小さくなり、成型金型1の外形も小さくすることができる。さらに、弾性部材14として皿バネを複数使用することで、バネ荷重や有効高さの変更も容易に行える。また、ボルト13の軸線に対して周方向に均等に荷重を加えることができる。
上述の第1から第5の実施形態は、本発明を実施するにあたって理解しやすくするための一例に過ぎない。したがって、本発明を実施するにあたってその趣旨を逸脱しない範囲で、各構成を同等の機能を有するものに置き換えて実施することも可能であり、それらもまた本発明に含まれる。また、各実施形態で説明した構成のいくつかを互いに組み合わせて、あるいは置き換えて実施されることも本発明に含まれる。
1…成型金型、2…キャビティ、11…第1のブロック、12…第2のブロック、13…ボルト、14…弾性部材、15…止め輪、111…雌ネジ穴、112…雌ネジ部、121…ボルト孔、122…座刳り部、131…雄ネジ部、132…胴部、133…頭部、16…第3のブロック、F…軸力。
本発明に係る一実施形態の成型金型は、少なくとも2つのブロックで構成され、隣合うブロックどうしがボルトで連結されている。隣合う一方のブロックは、雌ネジ部が形成された雌ネジ穴を有している。雌ネジ穴は、他方のブロック側へ開口している。隣合う他方のブロックは、一方のブロック側へ開通したボルト孔を有している。ボルトは、ブロックよりも熱膨張係数が小さく、ボルト孔に通された状態で、先端に設けられた雄ネジ部が一方のブロックの雌ネジ部に螺合され、他方のブロックのボルト孔の縁と頭部との間に弾性部材を装着した状態で、雄ネジ部が作用する雌ネジ部と頭部が作用する弾性部材装着部との間に所定の締付荷重が掛けられている。弾性部材は、ブロックが加熱処理によって膨張した場合、ボルトに作用する荷重が締付荷重以上、かつ、ボルトの締付方向に作用する引張荷重によって雌ネジ部が破壊される剪断荷重以下に維持されるように縮む。なお、着目した2つのブロック(前述の一方及び他方のブロック)に加えて、第3、第4のブロックをさらに含んでいてもよい。一方及び他方のブロックに対する第3、第4のブロックの並びは、第1の方向(例えば上下方向)に限定されず、第2の方向(例えば左右方向)、第3の方向(例えば右上左下45度方向)等々の複数の方向であってもよい。
本発明に係る一実施形態の成型金型によれば、一方のブロックに形成された雌ネジ穴の雌ネジ部に雄ネジ部を螺合させたボルトの頭部と、他方のブロックのボルト孔の縁との間に弾性部材が装着されており、ブロックが加熱処理によって膨張しても、締付荷重以上かつボルトの締付方向に作用する引張荷重によって雌ネジ部のネジ山が破壊される剪断荷重以下に維持されるように縮むので、雌ネジ部に過剰な応力が加わることを防止できる。その結果、成型金型を繰り返し使用する際に雌ネジ部のネジ山が変形することを防止でき、成型金型の耐用年数が延びる。

Claims (7)

  1. 少なくとも2つのブロックで構成され、隣合う前記ブロックどうしをボルトで連結した成型金型であって、
    隣合う一方の前記ブロックは、他方の前記ブロック側へ開口し雌ネジ部が形成された雌ネジ穴を有し、
    隣合う他方の前記ブロックは、一方の前記ブロック側へ開通したボルト孔を有し、
    前記ボルトは、前記ブロックよりも熱膨張係数が小さく、前記ボルト孔に通された状態で、先端に設けられた雄ネジ部が前記雌ネジ部に螺合され、前記ボルト孔の縁と頭部との間に弾性部材を装着した状態で前記雄ネジ部と前記頭部との間に所定の締付荷重が掛けられており、
    前記弾性部材は、前記ブロックが加熱処理によって膨張した場合、前記ボルトに作用する荷重が前記締付荷重以上かつ前記ボルトの締付方向に作用する引張荷重によって前記雌ネジ部が破壊される剪断荷重以下に維持されるように縮む
    ことを特徴とする成型金型。
  2. 他方の前記ブロックは、一方の前記ブロックに対して反対側の前記ボルト孔の縁に前記弾性部材を収納する座刳り部を有し、
    前記座刳り部の内周面に嵌合されて前記弾性部材を前記座刳り部内に保持する止め輪をさらに備える
    ことを特徴とする請求項1に記載された成型金型。
  3. 前記座刳り部は、前記弾性部材と前記頭部とを収納する大きさを有する
    ことを特徴とする請求項2に記載された成型金型。
  4. 前記雄ネジ部と前記雌ネジ部が螺合する長さは、前記雌ネジ部の呼び径をDとする場合、0.8D以上で1.6D以下である
    ことを特徴とする請求項1に記載された成型金型。
  5. 前記弾性部材は、複数の皿バネを含み、前記雌ネジ部の呼び径をDとする場合、前記ボルトの締付方向に、0.5D以下の寸法で、0.005D以上の縮み代を有している
    ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された成型金型。
  6. 前記弾性部材は、少なくとも1つの皿バネで構成される
    ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載された成型金型。
  7. 前記弾性部材は、複数の皿バネで構成される
    ことを特徴とする請求項6に記載された成型金型。
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