JP2019082574A - 多層吸音パネル - Google Patents

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Abstract

【課題】吸音パネルにおいて吸音層の厚さを大きくすれば吸音率の増大に効果があることが判っているが、ハニカム材のセル空間に吸音層であるフォーム材を充填する構造においては、吸音層の厚さを大きくすることは困難であった。厚い吸音層を実現する構造と製法が課題である。【解決手段】ハニカム材にフォーム材を充填して吸音パネルとし、複数の吸音パネルの間に接続材として穴あき材を配置して吸音パネルを接続した複合構造とし、その片面に通気性材、反対側の面に非通気性材を配置して、全体を接着剤で接着して固定し、多層吸音パネルとした。【選択図】図5

Description

本発明は、産業用機械・住宅・生活機器・移動発生源等の騒音源に対する防音対策に用いる吸音パネルに関する。
多様な騒音に対応できる吸音パネルは、吸音材、遮音材およびその他の最適な層の組合せにより防音性能が評価される。特に騒音源が存在する側の吸音材及び吸音層が重要な位置付けになる。従来技術によれば、吸音パネルはグラスウール等の繊維系材、ウレタン等のスポンジ系材料による単材構成、或いは単材と空気層を合わせた複合構造による吸音層で構成されている。
図1は、非特許文献1に記載の図―2.3.1を転載したもので、周波数−残響室法吸音率のグラフを示す。このグラフでは、グラスウール吸音ボードの厚さが15mm、25mm、50mmの場合の比較を示している。この図1から、吸音材の厚さが増せば吸音率が増加するという知見が得られる。
然し乍ら、従来吸音層として使われている吸音材は、柔らかく剛性がない(自立性がない)ので、使用に際して十分に強度のある支持材やコンクリートなどの剛壁に密着して使用しなければならない。つまり、支持材や剛壁に密着して使用することになるから、軽量でプレハブ化した吸音および/または遮音を一体化した構造体が出来ないという課題がある。
防音壁は、吸音層に加え、剛壁の反射層(遮音)が配設されて完成される。例えば、100Hz帯部分の吸音率を0.5以上が求められる場合は、非特許文献1に記載の図―2.3.2によれば、吸音層の厚さは300mm以上となる。さらに、剛壁は、反射層として500mm以上のコンクリート壁あるいは厚く重い金属板が必要である。従って、吸音層と反射層の合計厚さは1000mm程度にもなり、プレハブ化など簡易な構造では実現ができない。
別の従来技術として、吸音層部分として、ハニカム材のセル部分にフォーム材を充填した軽量な構造体が提案されている(特許文献1)。
図2に、この構造においても厚さを増やせば吸音率が向上する例を示す。厚さが29mmと2倍の58mmの吸音層(フォーム厚さ)を比較すると、厚さを増すと500Hz以下の周波数で吸音率が向上することが示された。
しかしながら本発明の出願者によれば、後に述べるように、ハニカム材のセルにフォーム材を充填する場合、充填できる厚さに限界があることが確認されている。この課題を解消しなければ、低周波域を含めた広域周波数帯では高い吸音率が得られない。
また、別の文献に、ハニカム材のセルにフォーム材を充填する場合、充填を容易にさせるためには、ハニカム材の独立空間に空気の逃げ場を設ける必要があるとの記述がある(特許文献2)。ここで、充填多孔性材は連通気泡性の多孔性材である。空気抜きは、充填に際して用いる押え板に多数の空気孔を設ける、あるいはハニカム材に微小孔を設ける等の手段が述べられている。しかし、この文献では、厚さを増やした場合の課題については触れておらず、またハニカム材に微小孔を設ける等の手段は現実的でない。
特許3806744号公報 特開昭63−256433号公報
実務的騒音対策指針(第二版)P.139 日本建築学会 編
本発明は、従来の技術では実現できないコンパクトで吸音率の大きい吸音パネルを提供することを目的とする。吸音パネルの吸音率は主に吸音層の厚さによって決まるが、目的の吸音率を持つ吸音層の厚さを自由に変更できる吸音パネルを容易に、低コストで実現する事が課題である。
すでに述べたように、吸音材が厚ければ吸音率は向上するので、ハニカム材に吸音材として厚いフォームを充填して、所望の吸音率を持つ吸音パネルを作れば良いのであるが、実際にはやわらかい吸音材に自立性を持たせるためにハニカム材を使用し、そのセルにフォームを充填する方法では充填できる厚さに限界がある。そこで、比較的厚さの小さな、吸音層を充填したハニカムを複数枚重ねた多層構造とする方法を採用する。すなわち、ハニカムを複数枚重ねた構造である多層吸音パネルの構造を実現することが課題となる。
請求項1に示したのは、
吸音層であるフォーム材をハニカム材のセル空間に充填して吸音パネルとし、
n個(nは、2以上の正整数)の該吸音パネルを、総計n−1個の穴あき材をそれぞれの該吸音パネルの間に一つずつ挟んで、該吸音パネルと該穴あき材の間を接着した構造とし、
その構造体の片面に、通気性材を、他の面に非通気性材をそれぞれ配置して、該構造体との間をそれぞれ接着して固定した複合構造であることを特徴とする多層吸音パネルである。
請求項2に示したのは、
二つの該吸音パネルで該穴あき材を挟んだ構造において、
該穴あき材の穴の部分であって、2つの該吸音パネルの表面に取り囲まれた空間には、
いずれの材料も存在していないことを特徴とする請求項1に記載の多層吸音パネル。
請求項3に示したのは、
二つの該吸音パネルで穴あき材を挟んで固定する接着剤が、
該穴あき材の穴の部分を避けたパターンをなしていることを特徴とする請求項1に記載の多層吸音パネルである。
請求項4に示したのは、
該穴あき材に接着剤を転着するための転着型(てんちゃくかた)であって、
該転着型の凸部が全体として、複数の空隙を有するパターンを構成することを特徴とする転着型である。
請求項5に示したのは、
請求項1に記載の吸音パネルであって、
個々の吸音パネルを構成するフォーム材が連通気泡硬質フォーム材であることを特徴とする多層吸音パネルである。
請求項6に示したのは、
該フォーム材および該ハニカム材は吸水性であり、
それらと該通気性材、該穴あき材および非通気性材の接着に使用する接着剤はエマルジョン系接着剤であることを特徴とする請求項1に記載の多層吸音パネルである。
請求項7に示したのは、
該穴あき材の穴寸法は、上記のハニカム材の穴寸法より小さいことを特徴とする請求項1に記載の多層吸音パネルである。
請求項8に示したのは、
該ハニカム材に充填する該フォ―ム材は、吸水性で連通気泡を有する硬質フェノールフォーム材であることを特徴とする請求項1に記載の多層吸音パネルならびにその製造方法である。
ハニカム材のセル空間に吸音材を充填したものを吸音パネルと呼ぶものとする。すなわち、吸音パネルを穴あき材を挟んでn個(nは、2以上の正整数)重ねて接着剤で固定した構造とし、その前後に通気性材、非通気性材を配置して、その全体を接着によって固定した複合構造である多層吸音パネルとするものである。
ハニカム材のセル空間に吸水性の連通気泡硬質フォーム材を充填して吸音パネルを作製するが、そのとき、障害となる抵抗がある。具体的には、ハニカム材のセル空間内に存在する空気を押し出すときの空気抵抗と、フォーム材とハニカム壁の間の摩擦抵抗である。これらの抵抗があるためフォーム材の充填厚さには限界がある。したがって、厚さの大きな吸音材をハニカム材に充填した構造を作製することは困難である。
本願発明者による充填厚さを増加してゆく実験によれば、プレスの上側加圧面に接したフォーム材の気泡が潰れた状態、あるいはプレス圧による加圧時の軋み音から充填厚さの限界が分かった。それは具体的には70mm前後である。これでは厚い吸音層を持った吸音パネルは作製できない。
この課題を解決するため、充填厚さの限界内である吸音材の厚さの小さい吸音パネルを作製し、それを複数枚積み重ねる、すなわち70mm以下のフォーム材を充填したハニカム材を重ねて接続する技術により多層化することで、吸音材の合計の厚さが大きい多層吸音パネルを実現したことが本発明の要点である。
比較的に厚さの小さい吸音材であっても、吸音パネルを構成するハニカム材に吸音材を充填することが容易にできなくてはならない。
それにはハニカム材空間の空気が抜け易い材料でパネル構造体を構成する必要がある。この課題の解決手段の第一として、表面材になる吸音面材料は、空気の通りやすい高い多孔率であること、第二に吸音層を吸水性硬質フォーム材で構成し、かつ当該のフォーム材は連通気泡性(気泡が連通する率が高い)とするものである。
また、充填するときハニカム材空間の空気を抜きながら空気抵抗を下げる必要があるため、ハニカム材へフォーム材を充填する際のプレスの下降速度も重要になる。よって、プレスは、加圧速度が速い油圧式ではなく、時間をかけて下降する回転スクリュー式を選択する。
吸音パネルを複数枚積み重ねて接着する場合、吸音パネル間を接続する接続材を使う。接続材として穴あき材を使う。穴あき材の片面もしくは両面に接着剤を転着することで吸音パネルと接着する。転着とは転着型に塗布した接着剤を、転着型を他の物に押し付けることによって、他の物の表面に転写して付着させることである。
接続材を用いず、ハニカム材同士を接着する方法も考えられるが、2つのハニカム材の六角形状断面を構成するセル壁の位置を相互にピッタリ合せて、強い強度で接着させることが難しいため、作業を容易にし、また接着の強度を確保するために接続材を使用する。
またハニカム材に充填されたフォーム材は、密度が低く、セル壁で切断できる脆い材料であることが条件となるため、強度を補う接着面となる材料として機能しない。従って接続材が必要となる。多層化するためには、接続材とハニカム材の間の接着強度が十分であることにより構造が成立する。
接着のために、ここでは、凸版印刷に似た手法を取り、ハニカム材のセル壁の六角形状断面を転着型として、ハニカム材の端部、すなわちセル壁の先端の凸部に接着剤を塗布して、それを穴あき材に押し付けることによって、穴あき材の表面にハニカム材の六角形状断面と同じ複数の六角形状の空隙を有する線状パターンで接着剤を転写する方法を採用した。
吸音パネルと吸音パネルの間の接続材として接着剤を転着した穴あき材を用いれば、吸音パネルを重ねた構造とすることができて、1枚の吸音パネルでは比較的薄い吸音層であっても実効的な厚さを増やすことができて吸音率が高い多層吸音パネルが実現できる。
穴あき材を吸音パネル間の接着の接続材として、穴あき材の穴の部分であって、2つの該吸音パネルの表面に取り囲まれた空間には、いずれの材料も存在していないようにすることにより、この空間において音の反射・屈折・回析現象を生みだすと共に、振動特性が異なる複合構成で、図8に示す如く低周波領域(100Hz)で、厚さ118.8mm、重量12kg/mの多層吸音パネルで、吸音率が向上することが確認できた。
さらに、穴あき材を接続材として使用し、穴径を適正に選択することにより、吸音パネルの接着時のプレスの圧力の分散ができる。接続材に当接するハニカム材のセル壁の先端の座屈が防げるので、平らで正常な面が得られる。
穴あき材の接着面となるハニカム材及びフォーム材の表面を、接着前に清浄化する事により、ハニカム材の接着面を清浄に整え、また吸水性の連通気泡硬質フォーム材の表面の気泡形状が整えられ、吸音率の低下が防げる。
接着剤にエマルジョン系接着剤を使用し、その水分を吸水性のフォーム材およびハニカム材に吸収させることで硬化の促進が認められ、硬化時間が短縮される。
接着剤を角形、丸形、ハニカム形等の輪郭形状のパターンをもつ転着型を使って穴あき材に転着させることにより、穴あき材の穴を塞がない接着が可能になる。
吸音パネルを3層まで多層化し、全体厚さが178mm(吸音層部分176.8mm)とした場合であっても重量が17kg/mと軽く、プレハブ化に適している事が確認できた。
吸音パネルの表面全体に接着剤を塗布してしまうと穴あき材の目(開口部)を接着剤で塗りつぶして塞いでしまうが、この方法であれば穴あき材の目をつぶすことがない。
吸音パネルと吸音パネルの間に穴あき材が存在するので、媒質差(材質・密度)による反射や屈折、穴あき構造による空間が回折作用を発生し、振動特性が変化する。
本発明の吸音パネルの吸音性能を測定したところ、図8に示すように、幅広い周波数帯で高い吸音性能を確認できた。
吸音ボードの吸音率のグラフ(日本建築学会による実務的騒音対策指針から転載) 厚さと吸音率の関係を示すグラフ セル中の空気を抜きながらハニカム材にフォーム材を充填する状態を説明する断面図 多層吸音パネル作製の基本的な手順を説明する断面図 多層吸音パネルの断面図 3層の多層吸音パネルの作製手順を説明する断面図その2 構造と吸音層の厚さを比較して示す図 構造と吸音層の厚さを比較する吸音率グラフ 転着型を使って接着剤を転着する状況を説明する図 ハニカム材の見取り図 エキスパンドメタルの見取り図 転着型の概念説明図
以下に図に沿って、多層吸音パネルの構成と作用を説明する。全ての図において、部材の相対的な大きさは実際通りでは無い。とくに、通気性材1、穴あき材4、非通気性材5の厚さは見やすさのために誇張してある。
図3はセル中の空気を抜きながらハニカム材に吸水性の連通気泡硬質フォーム材を充填させる方法についての説明図である。図3で示したプレス上段盤11、プレス下段盤12の表面には必要に応じて接着剤が付着しないように離型紙を配置してあるが図示を省略してある。(以下同じ)図3で示してある下向きの矢印はプレス上段盤11の動きを示す。プレス下段盤12は基礎に固定されている。
図10(a)にハニカム材2の見取り図を示してある。図10(b)にハニカム材2を図10(a)に示す切断面Aで切断したときの断面図を示してある。ハニカム材2のセル壁2wの断面が横方向に連なる列として見えていることが判る。セル壁2wに挟まれた空間がセルである。断面図では切断面の位置によって、セル壁2wの並び方向での位置が異なって見える。
図3(a)には、通気性材1をプレス下段盤12の上に置き、その上にセル壁2wの下端部に接着剤21を塗布したハニカム材2を置き、さらにその上からフォーム材3をハニカム材2に当接して、プレス上段盤11を矢印で示すように下降させて圧力をかけ、ハニカム材のセル壁2wによりフォーム材3に切り込みつつ、ゆっくり挿入しつつある状態を示してある。
通気性材1はアルミニウム繊維を図11に示すアルミニウム製エキスパンドメタルで挟んだものである。図3(a)では、セル壁2wや接着剤21のように同じものを示す複数の図形には、煩雑を避けるために1つしか符号をつけていない。以下も全て同じである。
ハニカム材2のセル中の空気は、フォーム材3がプレス上段盤11におされてゆっくり下降するのにしたがって圧縮され、図中の矢印Qで示すように通気性材1の間隙を通して、または矢印Pで示すようにフォーム材3の連通気泡を通して徐々に外部に出てゆく。このようにして、ハニカム材2へのフォーム材3の挿入が行われる。
ここで、ハニカム材2にフォーム材3を充填するとき、充填厚さに限界があることについて図3(b)により説明する。図3(b)に示したように、ハニカム材2とフォーム材3の厚さが大きい場合は、セル壁2wで構成されるハニカム材2のセル空間に、ある深さまで充填が進んだ段階で充填に対する抵抗が大きくなる。この抵抗の増大は2つの要因からなる。
1つは、抵抗が大きくなるにしたがって、フォーム材3の上部の気泡がつぶれる(密度が増大。図でフォーム材の上部が濃くなっている。)ことで、図中の矢印Pで示すように連通気泡を通ってセル内部に閉じ込められた空気が排出されにくくなり、同時に通気性材1にハニカム材2のセル壁2wが強く押し付けられて、かつ接着剤21が通気性材1の下部まで浸透することで、矢印Qで示すように、通気性材1のアルミ繊維材の水平方向の通気性が無くなることでセル内部に閉じ込められた空気が排出されなくなることである。
2つめは、フォーム材3とハニカム材2のセル壁2wが接する面積が増加するのでその間の、図で両方向の矢印で示す摩擦抵抗Rが増加することである。これらの要因から充填の厚さの限界に至る。限界に達しているかどうかは、プレスによる軋み音、フォーム材の気泡の潰れなどで判断できる。限界厚さは、ハニカム材質、セルサイズ・厚さ、およびフォーム材の材質・脆さ(切断の容易さ)、質量などの選択によるが、適正に条件を組合せた本実施例では70mm前後に限界が認められた。
以下では、上に述べたフォーム材の充填限界厚さ以下の寸法を前提として説明するものである。続けて、多層吸音パネルの作製について詳しく説明する。図4ならびに図5に多層吸音パネル作製の基本的な手順を説明する断面図を示す。図4(a)は、図3に述べた、通気性材1の上に置いて接着した、セル壁2wで構成されるハニカム材2にフォーム材3の充填が完了した構造体を示す。
パネルの寸法が1m×2m×58mm(吸音層厚さ)の仕様で、図4(a)に示すB体を作製する手順は、まずプレス下段盤12に厚さ1.6mm×1m×2mのアルミ繊維材をサンドイッチした通気性材1を置く。次に厚さ58mm、セルサイズ20mmのセラミック系のハニカム材2の先端にエマルジョン系の接着剤21を付着させ、通気性材1の面に接着剤21が付着した面を合わせて置く。
その次に、厚さ58mm、密度19kg/mのフォーム材3をセル壁2wで構成されるハニカム材2の面に合せて置き、プレス上段盤11を下降させ、プレス圧5トン/mでハニカム材のセル空間に押し込み、フォーム材3の下面を通気性材1の上面まで到達させる。セル空間の空気は、通気性材1の一部である厚さ1.6mmのアルミニウム繊維の隙間(開口率40%)ならびにフォーム材3の連接気泡(開口率98%)から抜け、フォーム材3が充填される。
ハニカム材2の厚さがフォーム材3の厚さと同じである場合を説明したが、ハニカム材2の厚さがフォーム材3の厚さより大きくても良い。
充填後、フォーム材3の上面がプレス上段盤11の面と接触したときに生じた樹脂粉・切断屑を除き、かつプレスの圧力で潰れた表面の気泡の連通状態を整え、穴あき材を接着する面を得る。これで、通気性材、ハニカム材ならびにフォーム材の3つからなる構造体が完成する。これをB体とよぶものとする。
通気性材1を含まず、ハニカム材2にフォーム材3を挿入しただけの構造をA体とよぶものとする。したがって、B体はA体+通気性材であるということもできる。A体は基本的な吸音パネルである。これは、図示していないが、プレス下段盤12の上にハニカム材2を置き、その上からフォーム材3を充填することで作製する。
次に、図4(b)は、穴あき材4の下側の面に、後に説明する方法で接着剤22を転着した状況を示す。これをB体の上に置いて接着すると、図4(c)に示すような構造が得られる。次に、図5(a)に示すように、さらに上に向かって順に、接着剤23をセル壁の下端部に付着させたセル壁2wで構成されるハニカム材2を置いて穴あき材4に接着し、次いでそのハニカム材2にフォーム材3を充填する。
図5(b)に示すように、次いで接着剤24をセル壁2wで構成されるハニカム材2のセル壁の上端部とフォーム材3の全体に付着させ、その上に非通気性材5を重ねて、接着して固定すると、2層の吸音材を重ねた多層吸音パネルが完成する。ここで、フォーム材3を充填していないハニカム材2を接着して、その後にフォーム材3を充填する手順を説明したが、あらかじめフォーム材3を充填したハニカム材2、すなわちA体を穴あき材4の上に接着してもよい。穴あき材の穴の部分であって、2つの該吸音パネルによって取り囲まれたエリアは空間となっており、回折作用を発生し、振動特性が変化する。
ここで、フォーム材3は吸水性連通気泡硬質フェノールフォーム材であって連通気泡率98%以上、密度19kg/m3であり、通気性材6は図11に示したエキスパンドメタルでサンドイッチされた開口率40%のアルミ繊維材を選択した。ただし、連通気泡硬質フェノールフォームは、吸水性を有しないものであってもよい。エキスパンドメタルおよびアルミ繊維材には通気性がある。また、接着剤はエマルジョン系接着剤(コニシ、CX50)である。
次に、穴あき材4の面に、接着剤22を転着する方法について説明する。穴あき材4の面に接着剤を塗布する場合、通常はヘラ・ローラーで塗布する方法、吹付けによる方法が考えられるが、接着剤の粘度が高いので、これらの方法であると穴あき材4の穴を接着剤で完全に塞いでしまい、吸音性能に影響するという問題が有る。また接着剤の無駄が多いという問題等もある。
転着によれば、接着剤を全面に付着させるのではなく、筋状、格子状、網状又はハニカムの断面状の転着型を用い、接着剤同士の間に隙間があるパターンで付着させることができ、これらの問題を避けることができる。
転着とは凸版印刷の版のような転着型の凸の部分に接着剤を塗布し、その転着型を他の物に押し付けることによって、他の物の表面に転写して付着させることである。転着に用いる転着型は、全面に三角、四角、丸、六角形等の輪郭の集合からなり、転着型の凸の部分が全体として、筋状、格子状、網状又はハニカム状等の複数の空隙を有するパターンを構成する。
図12に転着型の概念説明図を示す。図12(a)は空隙の有る転着型の断面図である。転着型7は下向きに転着するとき水平方向(紙面に垂直方向)に接着剤22を塗布する凸の部分によってパターンを形成している。凸の部分の形状が転着型7の厚み方向の上端まで伸びていて、凸の部分でない部分が空隙Sを形成しているので、空隙が有る転着型と呼んでいる。
図12(b)は凹部の有る転着型の断面図である。凸の部分の形状が転着型7の厚み方向に進むにつれて太くなって行き、上端まで達する以前に凸の部分でない部分が閉じてしまう。転着型7の厚み方向に穴が貫通しておらず、凹な形状になっているので、凹部Tの有る転着型と呼んでいる。図12(a)または図12(b)に示した転着型の転着型凸部71を対象に押し付けると、付着している接着剤22が転着される。
図12(c)に、図12(a)でA−A’もしくは図12(b)でB−B’で示す位置の転着型7の水平断面図を示している。この例ではハニカム状のパターンを形成している。この例に示した転着型7を使って穴あき材に転着を行うと、図9(c)に太い実線で示したようなハニカム状のパターンで接着剤が転着される。
図9に転着型を使って穴あき材4に接着剤22を転着する状況を説明する図を示した。図9(a)に示したのは、穴あき材4の穴の大きさより若干大きい丸形状の空隙の集合パターンを持つ転着型を使って、黒く見える接着剤22を転着した状態である。図の右側1/3ほどは判りやすさのために転着していない状態を示している。この例の場合は、穴あき材4の穴を避けたパターンで転着ができる。
図9(b)に示したのは、穴あき材4の穴の大きさより若干大きい円周形状のパターンを持つ転着型を使って、円周形状の接着剤22を転着した状態である。太い実線が転着された接着剤を示している。全体として同一の円周形の形状が分布しており、円周形の形状の内側ならびにそれぞれの円周形の形状の間に間隙が有るパターンである。図の右側1/3ほどは判りやすさのために転着していない状態を示している。
この例の場合は、穴あき4の穴を避けたパターンで転着ができ、また穴の位置と多少のずれが有っても、接着剤22を穴の位置と重ならないように穴あき材に転着できる。しかし、図9(a)、図9(b)のような転着型を穴あき材に合わせて専用に製作しなくてはならないという手間とコストがかかるという問題が有る。
図9(c)に示したのは、ハニカム状のパターンの転着型を使って、穴あき材4の面に接着剤23を転着した状態である。穴あき材4の穴の部分と重なっており、図の左上の六角形にだけ例示したように、穴あき材4の穴の部分にも接着剤22が転着されそうになるが、接着剤の量を加減すれば、表面張力の働きで転着型より離れて、穴内に垂れ込むことはほとんど無く、まして穴を完全に塞ぐことはなく吸音率には大きな影響を与えない。
この場合は、転着型として既存のハニカム材を使用するので、容易に入手できてコストが低いという利点がある。本実施例では、図9(c)に示した、転着型が準備しやすい六角形、すなわちハニカムの断面形状を選択した。
この転着方法では接着剤の粘度選択が重要である。適切な接着剤粘度により、転着型の輪郭部で転着できる十分な量を付着させ、穴あき材面に転着させる。転着量が十分でない場合は、転着位置を僅かにズラシながら、再度接着剤を転着すれば良い。
転着型の輪郭部に接着剤を付着させる方法は、平らなベース盤に接着剤を2〜3mmの厚さで均一にならし、そこに転着型の輪郭部を浸漬し、輪郭部の壁に接着剤を付着させ、穴あき材の面に押し付けて転着する。ここでは、転着に用いるハニカム材のセルサイズは、20mmを用いたが、より小さいセルサイズを選択すれば、接着剤の付着量を多くできる。ただし、転着型に用いるハニカム材のセルサイズは穴あき材の穴径以上である必要がある。
転着を使うことの別の利点は、片面ずつ接着剤を転着させた場合、穴あき材が薄板であっても穴の裏側に接着剤が回らないことである。なぜなら、吸水性のハニカム材・フォーム材を使っているので、接着剤が裏側に回る前に接着剤の水分を吸収し硬化させて流れを止め、穴の裏側に接着剤が回ってしまうことが無いからである。
穴あき材の接着に使う接着剤は、価格及び作業性面からエマルジョン系が良い。エマルジョン系接着剤の水分は吸水性のフォーム及びハニカム材が吸収するので、接着剤の硬化を促進できる。エマルジョン系接着剤を含んだ水分はフォーム材及びハニカム材に浸透するので、穴あき材とフォーム材ならびにハニカム材を強固に接着する。
ここでは、穴あき材に接着剤を付着するにあたって、転着による方法を説明したが、それ以外の、穴を大きく塞がず、作業性が良く、接着剤を無駄にしない方法であれば良く、例えばシルクスクリーン印刷法などでも良い。
図6は3層の多層吸音パネルの作製手順を説明する断面図である。図6(a)は、B体上に穴あき材4を挟んでA体を重ね、次にA体のハニカム材2及びフォーム材3の面に穴あき材4を接着した状態である。実際の作製上では、この説明のように、B体上に穴あき材4を重ねて接着し、その上に予め作製しておいたA体を重ねる方法、または実施例1で示したように、B体上に穴あき材4を重ねて接着した後に、ハニカム材2だけを、その下端部に接着剤を塗布して、穴あき材4の上に重ねて接着し、その後にフォーム材3を充填する方法のどちらを採用しても良い。
図6(b)は、穴あき材4を挟んで、3層目となるA体をさらに重ねたものである。図6(c)は、その3層目のA体のハニカム材2及びフォーム材3の上側全面に接着剤24を塗布して、非通気性材5を接着して作製した3層の多層吸音パネルを示したものである。
図6(c)に示した3層の多層吸音パネルについて説明する。3層の吸音パネルによって吸音層の厚さは3×58mm=174mmとなり、吸遮音層を含めた全体厚さは178mmとなった。この積層方法によれば、A体と呼んでいる基本の吸音パネルを重ねることにより、吸音層を増やして吸音率を向上させることが可能になる。尚、A体の厚さは58mmに限定されるのではなく、所望の吸音率を得られるように、70mm以下の適切な厚さを選択できる。
次に、図7は構造と吸音層の厚さを比較して示す図である。多層吸音パネルにおける穴あき材の有無、多層吸音パネルの吸音層の厚さと単層吸音パネルの3つを比較した図である。図7(a)は、厚さが58mmの2層の吸音層を持ち、その中間に接続材として厚さが0.6mmの穴あき材を挟んでいる。図7(b)は厚さが58mmの2層の吸音層を持ち、穴あき材が無い構造である。図7(c)は、吸音層の厚さが58mmの単層構造である。
図7、図8によって接続材の効果を説明する。図8に、垂直入射法によって測定した吸音率を比較して示してある。穴あき材4は、吸音層を積層する場合の接続材としてだけでなく、媒質差(材質・密度)による反射・屈折、および穴あき構造による回析作用によって振動特性が異なる複合構成から吸音率の向上という効果を生み出した。なお、穴あき材の穴の形状として図9では丸形について示しているが、三角形、四角形など任意の穴形状でもよい。
図8に構造と吸音層の厚さを比較する吸音率グラフを示してある。ここで、実線のグラフは2層の吸音層を持ち、その中間に穴あき材を挟んでいる図7(a)に示した構造について測定した結果である。破線のグラフは、2層の吸音層を持ち、その中間に穴あき材を挟んでいない図7(b)に示した構造について測定した結果である。一点鎖線のグラフは、1層の吸音層を持ち図7(c)に示した構造について測定した結果である。
ここで、ハニカム材ならびにフォーム材の厚さは58mmで、中間に配設する接続材となる穴あき材の厚さは0.6mm、穴サイズは5mm、開口率は50%である。
この結果、実線で示した、図7(a)の2層の吸音層と中間に穴あき材を挟んでいる構造が100〜600Hzの範囲で高い吸音特性を示していることが判る。破線で示した、図7(b)の2層の吸音層だけで中間に穴あき材を挟んでいない構造では、100〜600Hzの範囲で吸音特性が劣る。このことから穴あき材が高い音響効果を持っていることが判る。
一点鎖線図で示した、図7(c)は図7(a)に対して全体に半分程度の吸音効果しかないことが明らかになった。
なお、図2に示した吸音層の厚さ58mmの場合の吸音率と、図8の吸音層の厚さ58mmの場合で吸音率に差があるが、これは測定方法の違いによるものである。
更に、穴あき材は接続材としてだけでなく製造工程においても、有用な役目をはたす。図5または図6に示すB体のハニカム材の端面をベースとして、または、穴あき材4をベースとして、ハニカム材2にフォーム材3を充填する工程で、フォーム材を充填するために5トン/mの圧力を掛けたとき、B体のハニカム材の端面に掛かる圧力を分散し、ハニカム材のセル壁の座屈を防ぐ効果がある。
穴あき材の板幅、開口径、開口率の条件を適切に選択すると、上記のように荷重の分散ができ、座屈対策となる。更に、ハニカム材の材質、強度も重要である。本実施例では、タイガレックス(株)製のタイガレックスセラミックハニカム(HR20)、セルサイズ20mm、厚さ30mm、密度30kg/m、圧縮強さ2.7kgf/mを使用した。本発明では、穴サイズ5mm、開口率50%を選択したところ、座屈が発生しなかった。
1 通気性材
2 ハニカム材
2w (ハニカム材の)セル壁
3 フォーム材
4 穴あき材
5 非通気性材
6 通気性材
7 転着型
71 転着型凸部
11 プレス上段盤
12 プレス下段盤
21 接着剤
22 接着剤
23 接着剤
24 接着剤
A体 ハニカム材+フォーム材
B体 通気材+ハニカム材+フォーム材
C体 ハニカム材+フォーム材+非通気性材
P 空気通路
Q 空気通路
R (ハニカム材のセル壁とフォーム材の間の)摩擦抵抗
S 空隙
T 凹部

Claims (8)

  1. 吸音性を有するフォーム材をハニカム材のセル空間に充填して吸音パネルとし、
    n個(nは、2以上の正整数)の該吸音パネルを、総計n−1個の穴あき材をそれぞれのパネル間に一つずつ挟んで、該吸音パネルと該穴あき材の間を接着剤で固定した構造とし、その構造体の片面に、通気性材を、他の片面に非通気性材をそれぞれ配置して、該構造体との間をそれぞれ接着して固定した複合構造体であることを特徴とする多層吸音パネル。
  2. 二つの該吸音パネルで該穴あき材を挟んだ構造において、
    該穴あき材の穴の部分であって、2つの該吸音パネルによって取り囲まれたエリアが空間となっていることを特徴とする請求項1に記載の多層吸音パネル。
  3. 二つの吸音パネルに挟まれた該穴あき材を固定する接着剤が、
    該穴あき材の穴の部分を避けたパターンをなしていることを特徴とする請求項1に記載の多層吸音パネル。
  4. 接着剤を穴あき材に転着するための転着型であって、
    該転着型の凸部が全体として、複数の空隙を有する線状パターンを構成することを特徴とする転着型。
  5. 請求項1に記載の吸音パネルであって、
    個々の吸音パネルを構成するフォーム材が連通気泡硬質フォーム材であることを特徴とする多層吸音パネル。
  6. 該フォーム材および該ハニカム材は吸水性であり、
    それらと該通気性材、該穴あき材および非通気性材の接着に使用する接着剤はエマルジョン系接着剤であることを特徴とする請求項1に記載の多層吸音パネル。
  7. 該穴あき材の穴寸法は、上記のハニカム材の穴寸法より小さいことを特徴とする請求項1に記載の多層吸音パネル。
  8. 該ハニカム材に充填した該フォ―ム材は、吸水性で連通気泡を有する硬質フェノールフォーム材であることを特徴とする請求項1に記載の多層吸音パネル。
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