以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は好ましい例示であり、本発明はこの例示に限定されるものではない。
図1は、一実施形態における立体造形用データ生成プログラムにより生成された立体造形用データを用いて立体物を造形する立体造形装置40が動作する環境の構成図である。
立体造形装置40は、USBポートやパラレルポート等を介してプリンタサーバ30に接続されており、プリンタサーバ30との間でデータの送受信が可能である。プリンタサーバ30は、一般的なプリンタサーバと同様に、立体造形装置40に対するプリントジョブを管理/制御するコンピュータであり、ネットワーク20に接続されている。ネットワーク20は、有線又は無線の通信網である。端末10は、立体造形装置40を利用するコンピュータであり、立体造形用データ生成プログラムは端末10の内部に実装されている。端末10は、立体物の造形を行う際に、プリント要求(造形要求)とともに、この立体物を造形する上で用いられる立体造形用データをネットワーク20を介してプリンタサーバ30に送信する。
プリンタサーバ30は、端末10からのプリント要求を受信すると、これを1つのプリントジョブとしてキューに挿入するとともに、プリント要求に伴って送信された立体造形用データを受信する。立体造形装置40によりプリントジョブが開始されると、プリンタサーバ30は、立体造形用データを小出しにして立体造形装置40に送信する。このとき、立体造形装置40に送信されるデータ量は、プリンタサーバ30の内部に実装されている制御プログラムによって適量に調整される。1つのプリントジョブに対する立体造形用データが全て立体造形装置40に送り出され、立体造形装置40がこれらのデータによる動作を終えると、立体造形装置40はプリント(造形)を終了する。
なお、この図においては、端末10がプリンタサーバ30を介して立体造形装置40を利用する場合の構成を例に挙げて説明したが、端末10に立体造形装置40を直接接続してプリンタサーバ30を介さずに利用したり、或いは、立体造形用データが格納されたUSBメモリやSDカード等の記憶媒体をセットすることにより立体造形装置40を単独で(端末10から切断された状態で)利用することも可能である。
図2は、一実施形態における立体造形用データ生成プログラムが動作する環境の構成図である。立体造形用データ生成プログラムは、上述したように端末10の内部に実装されている。
端末10は、一般的なコンピュータの機能が搭載されたコンピュータであり、ハードウェアとしては、CPU11、RAM12、ネットワークインタフェース(I/F)13、HDD14の他、マウス、キーボード又はタッチパネル等の入力デバイス15や、液晶ディスプレイ等の表示デバイス16を備えている。また、ソフトウェアとしては、端末10には、立体形状を表すポリゴンの集合体からなるポリゴンデータ(例えば、STL形式のデータ)を出力する3Dモデリングソフト17、3Dモデリングソフト17から出力されたポリゴンデータに基づいて立体造形用データを生成する立体造形用データ生成ソフト100、端末10が立体造形装置40を利用する上で必要となるプリンタドライバ18等がインストールされている。ここで、立体造形用データ生成ソフト100は、いわゆる「スライサ」であり、一実施形態の立体造形用データ生成プログラムにより実装されている。
3Dモデリングソフト17により出力されたポリゴンデータが立体造形用データ生成ソフト100に入力されると、立体造形用データ生成ソフト100は、ポリゴンデータにより形作られる立体形状を平板状にスライス(水平に切断)する処理を積層方向(高さ方向)に繰り返し行い、これにより生じた各層を形成するためのパスを決定して、決定したパスに沿って材料を吐出させるための命令データを次々と生成していく。そして、立体形状を構成する全ての層を形成するための命令データが生成されると、立体造形用データ生成ソフト100は、これらの命令データの集合体を立体造形用データ(例えば、G−Code形式のデータ)として出力する。立体形状の造形を行う際には、端末10は、プリンタドライバ18を介しネットワークインタフェース13を通して、プリント要求及び立体造形用データをプリンタサーバ30に送信する。
なお、この図においては、立体造形装置40を利用する端末10に3Dモデリングソフト17がインストールされている場合の構成を例に挙げて説明したが、3Dモデリングソフト17は必ずしもインストールされている必要はなく、立体造形用データ生成ソフト100に対し、造形対象とする立体形状を形作るポリゴンデータが入力できればよい。また、端末10には、必要に応じてその他のソフトウェアや外部デバイス等が装備されていてもよい。
また、上述したように、立体造形用データ生成ソフト100の実体は一実施形態の立体造形用データ生成プログラムであるため、以下の説明においては、立体造形用データ生成ソフト100を立体造形用データ生成プログラム100として参照することとする。
図3は、立体造形装置40における位置の管理方法を示す概略図である。
立体造形装置40は、筐体41の内部空間に立体物を造形する上で必要となる構成を備えている。先ず、内部空間の最下部には平坦な造形台42が設けられている。造形台42に材料MOが吐出されて、立体物を構成する複数の層が下の方から順に形成され、下位の層に上位の層が次々と重ねて形成されていくことにより、立体物OBが造形される。
材料MOは、吐出ノズル44から下方へ吐出される。材料MOのフィラメントは、吐出ノズル44に供給される前の段階では固体の状態であるが、吐出ノズル44の内側に装備されているヒータによって吐出ノズル44から吐出される前に高温で温められ、溶融した(流動化した)状態で吐出される。吐出ノズル44は、支持アーム43により支持されており、支持アーム43が水平方向(図中のX,Y軸方向)及び高さ方向(図中のZ軸方向)に移動することにより、内部空間内を移動することが可能である。なお、支持アーム43を水平方向にのみ移動可能とし、造形台42が高さ方向に移動可能に構成されていてもよい。或いは、造形台42が水平方向にも移動可能であり、材料MOの吐出位置が造形台42又は支持アーム43を移動させることにより変更可能に構成されていてもよい。
内部空間内の位置は、3次元の座標で管理されている(図3に示された造形台42には、座標をイメージし易くするために格子状の線が付されているが、実際の造形台42にはこのような線は付されていない)。立体物を造形する際に用いられる立体造形用データは、材料MOを吐出して各層を形成する(塗り潰す)線を描画する上で必要となる命令(例えば移動位置や移動速度を指示する命令や、材料MOのフィラメントの吐出量、吐出圧や吐出温度を指示する命令等)が羅列された膨大なデータで構成されている。つまり、描画する線の形状(直線、曲線、円形等)についても、その形状に合わせて命令データを適切に生成することにより実現されている。なお、図3に示した座標の原点位置は一例であり、これに限定されない。また、立体造形装置40は、デルタ状に配置された2本で1ペアの軸3組の移動可能な部位に吐出ノズル44が支持されているタイプ(いわゆる「デルタ型3Dプリンタ」)であってもよい。
図4は、立体造形用データ生成プログラム100の機能ブロック図である。この図に示されるように、立体造形用データ生成プログラム100は、立体形状入力部110、各種設定部120、立体切断部130、断面形状分析部140、パス決定部160及び生成データ出力部170を有している。
立体形状入力部110は、立体形状を形作るポリゴンデータを入力する。より具体的には、立体形状入力部110は、3D−CAD等の3Dモデリングソフトにより出力されたポリゴンデータを読み込む。ポリゴンデータは、端末10からアクセス可能な記憶領域(例えば、HDD14や別途接続された外部記憶媒体等)に格納されている。
各種設定部120は、立体造形用データ生成プログラムが機能する上で必要となる各種の閾値やパラメータ値(例えば、吐出する材料の幅(太さ、吐出量)の範囲や材料を温めるヒータの温度等)、描く形状のパターン等を予め設定する。各種設定部120はまた、端末10(立体造形装置40)の利用者向けの設定画面を提供し、この設定画面を介して利用者によりなされた設定内容を、端末10の内部記憶領域(HDD14)に格納する。
立体切断部130は、立体形状部110に入力されたポリゴンデータにより形作られる立体形状を複数の平板形状に(高さの異なる複数の位置で水平に)切断し、積層方向(高さ方向)に積み重ねられた複数の層に分割する。
断面形状分析部140は、立体切断部130により切断された各断面の形状、言い換えると、分割された各層の形状を分析する。
パス決定部160は、断面形状分析部140により分析された結果等を踏まえて、各層を形成する(塗りつぶす)ための材料を吐出する経路や順序等(以下、「パス」と称する。)を決定し、このパスを示す命令データを生成する。
生成データ出力部170は、パス決定部160により生成された命令データの集合体、すなわち立体造形用データを出力する。
図5は、立体造形用データ生成処理の手順例を示すフローチャートである。立体造形用データ生成処理は、立体造形装置40を利用して立体物を造形する際に必要となる立体造形用データを生成するための処理である。
このフローチャートに示される各ステップを実行するのは立体造形用データ生成プログラム100であるが、立体造形用データ生成プログラム100を動作させる主体は端末10のCPU11であり、厳密にはCPU11が各ステップを立体造形用データ生成プログラム100が有する各機能部110〜170に実行させる。以下、手順例に沿って説明する。
ステップS200:CPU11は、立体形状入力部110に立体形状入力処理を実行させる。この処理では、立体形状入力部110は、造形対象とする立体物の形状を形作るポリゴンデータを読み込む。
ステップS210:CPU11は、立体切断部130に立体切断処理を実行させる。この処理では、立体切断部130は、前ステップS200で読み込まれたポリゴンデータにより形作られる立体形状を平板状(水平)に切断する処理を積層方向(高さ方向)に繰り返す。なお、吐出ノズルの向きを自在に変更可能な立体造形装置を用いて立体物を造形する場合には、切断する形状は平板状に限定されず、例えば湾曲した形状としてもよい。
ステップS220:CPU11は、断面形状分析部140に処理の対象とする層を更新させる。より具体的には、断面形状分析部140は、前ステップS210で立体形状が切断されたことにより生じた複数の層を下から順に1つずつ、後続する処理(ステップS230)の対象としてセットする。したがって、ステップS220が最初に実行される際には、最も下に位置する層が後続する処理の対象としてセットされる。
ステップS230:CPU11は、断面形状分析部140及びパス決定部160に層形成用データ生成処理を実行させる。この処理では、各機能部140〜160は、対象としてセットされた層(以下、「対象層」と称する。)に着目し、その形状を分析した上で対象層を形成するために最適化した命令データを生成する。なお、具体的な処理の内容については、別の図面を参照しながらさらに後述する。
ステップS240:CPU11は、断面形状分析部140に未処理の層、すなわち未だ層形成用データ生成処理の対象とされていない層が残っているか否かを確認させる。未処理の層が残っている場合(ステップS240:Yes)、CPU11はステップS220に戻り、以降のステップを繰り返し実行する。一方、未処理の層が残っていない場合(ステップS240:No)、CPU11はステップS250に進む。
ステップS250:CPU11は、生成データ出力部170に生成データ出力処理を実行させる。この処理では、生成データ出力部170は、立体形状を構成する全ての層を対象としてステップS230が実行されたことにより生成された命令データの集合体を、立体造形用データとして出力する。
以上の手順を終えると、CPU11は、1つの立体物に対する立体造形用データの生成を終了する。
図6は、層形成用データ生成処理の手順例を示すフローチャートである。層形成用データ生成処理は、立体造形装置40を利用して造形する立体物を構成する各層を形成(造形)する際に必要となる命令データを生成するための処理である。なお、各ステップの実行主体については、図5における場合と同様である。以下、手順例に沿って説明する。
ステップS300:CPU11は、断面形状分析部140に断面形状を分析させる。より具体的には、断面形状分析部140は、対象層の形状を分析する。
ステップS330:CPU11は、パス決定部160に線を描く経路を決定させる。より具体的には、パス決定部160は、前ステップS300で分析された対象層の形状等を踏まえて、対象層を形成するための経路(吐出ノズルの移動路)やその経路に対するフィラメントの吐出量(積層ピッチ)等を決定する。
ステップS340:CPU11は、パス決定部160に線を描く順序を決定させる。より具体的には、パス決定部160は、前ステップS330で決定された経路に沿って対象層を塗り潰す線を描く順序(吐出ノズルが各経路を移動する順序)を決定する。
ステップS350:CPU11は、パス決定部160に命令データを生成させる。より具体的には、パス決定部160は、ステップS330,S340により決定されたパスを示す命令データを生成する。
以上の手順を終えると、CPU11は、1つの層(対象層)に対する命令データの生成を終了する。
図7は、造形される立体物OBの形状を表す斜視図である。発明の理解を容易とするために、これ以降の図においては、立体物OBとして奥行方向に長い直方体(角柱が横に寝かされたのような形状の立体物)が造形される場合を例に挙げて説明する。
立体物OBを造形するに当たり、立体造形用データ生成プログラム100は先ず、立体物OBの形状を水平方向に次々と切断する。その結果、立体物OBは、高さ方向に積み重ねられたN枚の仮想上の層に分割される。立体造形用データ生成プログラム100は、これらの各層をどのように形成するか、すなわち、材料のフィラメントをどのように吐出して各層を塗り潰すかを決定する。
〔立体物を構成する各層の形成態様:第1実施形態〕
図8は、第1実施形態における立体物OBを構成する各層の形成態様を平面視により説明する図である。図8中(A)は、N枚の各層を下から順に数えて奇数番目に当たる層の形成態様を示しており図8(B)は、偶数番目に当たる層の形成態様を示している。これらの図に示されるように、奇数番目の層と偶数番目の層はいずれも同一の長方形をなしており、各層に対しては、短手方向を等間隔で分割して長手方向に延びる9本の経路が決定されている。
第1実施形態においては、奇数番目の層と偶数番目の層とを、それぞれ異なる形成態様により形成する。この形成態様は、造形された立体物が横方向からの外力に対して高い強度を発揮することが試行錯誤を重ねた末に確認されているものである。
図8中(A):奇数番目の層Soddの形成態様を示している。層Soddに対しては、9本の経路のうち、左から数えて偶数番目に当たる2番目の線L2、4番目の線L4、6番目の線L6、8番目の線L8が描かれる。よって、奇数番目の層Soddが形成された直後は、各線L2,L4,L6,L8の両側には隙間が空いている状態である。
図8中(B):偶数番目の層Sevenの形成態様を示している。層Sevenに対しては、9本の経路のうち、左から数えて奇数番目に当たる1番目の線L1、3番目の線L3、5番目の線L5、7番目の線L7、9番目の線L9が描かれる。つまり、偶数番目の層Sevenの形成する際には、奇数番目の層Soddの形成により空いた隙間を埋めるようにして線が描かれる。
図9は、第1実施形態における立体物OBを構成する各層の形成態様を正面視により説明する連続図である。この図においては、説明される手順によって塗り潰される領域を濃い灰色で示し、説明される手順よりも前に既に塗り潰された領域を薄い灰色で示すこととする。以下、時系列に説明する。
図9中(A):先ず、造形台42の所定の位置に最初の層S1が形成される。奇数番目の層である層S1に対しては、偶数番目の線L2,L4,L6,L8が描かれる。これらの線の高さHは、層の高さに一致している。層S1に対する線を描き終えた時点では、描かれた各線の両側に隙間が空いている。
図9中(B):次に、2番目の層S2が形成される。偶数番目の層である層S2に対しては、最初の層S1の形成により生じた隙間を埋めるようにして、奇数番目の線L1,L3,L5,L7,L9が描かれる。ここで、これらの線L1,L3,L5,L7,L9は、最初の層S1で描かれた各線の2倍の高さ2Hで描かれる。なお、描く線の高さは、積層ピッチの調整によりなされる。層S2に対する線を描き終えた時点では、描かれた線と線の間に隙間が空いている。
図9中(C):次に、3番目の層S3が形成される。奇数番目の層である層S3に対しては、2番目の層S2の形成により生じた隙間を埋めるようにして、偶数番目の線L2,L4,L6,L8が描かれる。これらの線についても、2番目の層S2における場合と同様に、最初の層S1で描かれた各線の2倍の高さ2Hで描かれる。層S3に対する線を描き終えた時点では、描かれた各線の両側に隙間が空いている。
図9中(D):次に、4番目の層S4が形成される。偶数番目の層である層S4に対しては、3番目の層S3の形成により生じた隙間を埋めるようにして、奇数番目の線L1,L3,L5,L7,L9が描かれる。これらの線についても、層S2,S3における場合と同様に、最初の層S1で描かれた各線の2倍の高さ2Hで描かれる。層S4に対する線を描き終えた時点では、描かれた線と線の間に隙間が空いている。
この後は、奇数番目の層に対しては図9中(C)の態様で線を描き、偶数番目の層に対しては図9中(D)の態様で線を描くという処理が交互に繰り返される。このようにして形成された層が高さ方向に次々と積み重ねられていき、最後に残された隙間が高さHの線で埋められることにより、立体物OBが造形される。
なお、ここでは立体物OBを構成する奇数番目の層に対して偶数番目の線を描く形成態様を適用し、偶数番目の層に対して奇数番目の線を描く形成態様を適用しているが、形成態様の適用をこれとは逆にして、奇数番目の層に対して奇数番目の線を描く形成態様を適用し、偶数番目の層に対して偶数番目の線を描く形成態様を適用してもよい。
〔立体物を構成する各層の形成態様:第2実施形態〕
図10は、第2実施形態における立体物OBを構成する各層の形成態様を正面視により説明する連続図である。
第2実施形態は、上述した第1実施形態において2番目の層以降で高さ2Hの線を1本の線で描いていた経路に対し、高さHの線を重ねて2本の線を連続的に描くことにより層を形成する態様である。この形成態様もまた、造形された立体物が横方向からの外力に対して高い強度を発揮することが試行錯誤の末に確認されているものである。
説明の理解を容易にするために、第2実施形態においても、第1実施形態における場合と同様に、各層に対して短手方向を等間隔で分割して長手方向に延びる9本の経路が決定されることとする。この図においては、説明される手順によって塗り潰される領域及び塗り潰されてから時間が殆ど経過していない領域を濃い灰色で示し、塗り潰されてから多少の時間が経過した領域を薄い灰色で示すこととする。以下、時系列に説明する。
図10中(A):先ず、造形台42の所定の位置に最初の層S1が形成される。層S1に対しては、偶数番目の線L2,L4,L6,L8が描かれる。層S1に対する線を描き終えた時点では、描かれた各線の両側に隙間が空いている。
図10中(B):次に、層S1の最も左側に線L1aが描かれる。線L1aを描く際には、吐出ノズル44は、例えば手前側から奥側に向かって移動させる。
図10中(C):続いて、直前に描かれた線L1aの上に重ねるようにして、層S2の最も左側の線L1bが描かれる。線L1bを描く際には、吐出ノズル44は、例えば奥側から手前側に向かって移動させる。つまり、2本の線L1a,L1bは、吐出ノズル44を手前側と奥側との間で往復移動させることにより連続して描かれる。
線L1bが重ねられる時点では、直前に描かれた線L1aはまだ殆ど固まっておらず表面に境界が形成されていない状態であるため、重ねて描かれた2本の線L1a,L1bは、固まると非常に強く密着する。このように、線L1aと線L1bとは、別の線として描かれてはいるものの、時間を空けずに連続して描かれることにより、高さ2Hで描かれた1本の線と同様の部位を形成することができる。
図10中(D):層S1に残されているその他の4つの隙間に対しても、線L1a,L1bの場合と同様にして下から順に2本の線が重ねて描かれる。例えば、この時点で最も左側の隙間(左から3番目の位置にある隙間)に対しては、先ずこの隙間を埋めるようにして層S1の線L3aが描かれ、その直後に線L3aの上に重ねるようにして層S2の線L3bが描かれる。また、これと同様にして、線L5aが描かれた直後に線L5bが描かれ、線L7aが描かれた直後に線L7bが描かれ、線L9aが描かれた直後に線L9bが描かれる。これらの線を描き終えた時点では、層S2の左から偶数番目の位置に隙間が空いている。
図10中(E):層S2に空いている隙間のうち、最も左側の隙間(左から2番目の位置にある隙間)を埋めるようにして先ず線L2aが描かれ、その直後に線L2aの上に重ねるようにして層S3の線L2bが描かれる。
図10中(F):層S2に残されているその他の隙間に対しても、線L2a,L2bの場合と同様にして下から順に2本の線が重ねて描かれる。例えば、この時点で最も左側の隙間(左から4番目の位置にある隙間)に対しては、先ずこの隙間を埋めるようにして層S2の線L4aが描かれ、その直後に線L4aの上に重ねるようにして層S3の線L4bが描かれる。また、これと同様にして、線L6aが描かれた直後に線L6bが描かれ、線L8aが描かれた直後に線L8bが描かれる。これらの線を描き終えた時点では、層S3の左から奇数番目の位置に隙間が空いている。
この後も、上位の層に対して図10中(B)〜(F)の態様で線を描く処理が繰り返されることにより、形成された層が高さ方向に次々と積み重ねられていく。最後に残された隙間が高さHの線で埋められることにより、立体物OBが造形される。
なお、ここでは2本の線を重ねて描く際に、最も左側に位置する隙間に対する線を最初に描く場合を例に挙げて説明している(図10中(B)での線L1aや、図10中(E)での線L2aがこれに該当する)が、隙間を埋める順番は適宜変更可能である。例えば、最も右側の隙間に対する線及びこの上に重ねる線を最初に描いてもよい。
また、ここでは重ねて描く2本の線を連続的に描いているが、下の線を描いてからその上に重ねる線を描くまでの時間が下の線の固化が進行しない程度の短時間である場合には、上下2本の線を連続的に描く必要はなく、例えば上の線を描く前に別の位置の線を描いてもよい。
ところで、下の線を描いてからその上に重ねる線を描くまでに短時間を超える時間が空くと、その間に下の線が固化が進んでしまう。上の線をこのようなタイミングで描く必要がある状況下では、上に重ねる線を描く際の吐出ノズル44の移動速度を通常よりも低速に設定し、吐出ノズル44をゆっくりと移動させながら材料MOを吐出させることにより対応が可能である。この場合、高温の吐出ノズル44の先端部が下の線に極めて近接した位置をゆっくりと移動することで、下の線が溶かされて固化していない状態に戻り、その上に線が重ねられるため、結果として高さ2Hで描かれた1本の線と同様の部位を形成することができる。
〔横方向からの外力に対する強度〕
図11は、上述した実施形態の立体造形用データ生成プログラム100により生成された立体造形用データを用いて造形され完成した立体物OBにおける横方向からの外力に対する強度を説明する図である。なお、積層された各層の形成態様を理解し易くするために、この図においては完成した立体物OBの造形時(立体物OB構成する各層の形成時)に描かれた各線の輪郭を実線で示しているが、実際には各線は相互に密着しているため、完成した立体物OBにはこのような線は当然ながら現れない。また、発明の理解を容易とするために、ここでは立体物を構成する全ての層の全ての領域が同じ形成態様で形成されている場合の例を示しているが、実際の造形時に全体が同じ形成態様で形成されることは稀である。実際の造形時には、例えば、各層における領域を外殻領域と内部充填領域に区分けし、各領域で異なる形成態様を適用したりする。
N枚の層に分割された立体物OBを造形するに当たり、第1実施形態においては、最初の層(最下層)では、線が所定の高さHで等間隔に描かれる一方、2番目以降の層では、直前の層で形成された隙間を埋めるようにして対象の層と直前の層との間で高さ方向に連続する高さ2Hの線が描かれる。また、第2実施形態においては、最初の層では、線が所定の高さHで等間隔に描かれる一方、2番目以降の層では、直前の層で形成された隙間を埋めるようにして高さHの線が描かれた直後に、その線の上に重ねて高さHの線がもう1本描かれる。
このように、第1実施形態においては高さ2Hに相当する体積が1本の線で埋められるのに対し、第2実施形態においては高さ2Hに相当する体積が連続して描かれる2本の線で埋められる。1本の線内における材料の密着度が高いことは説明するまでもないが、時間を空けずに連続的に描かれた2本の線内においても、殆ど固まっていない状態の1本目の線の上に2本目の線が描かれているため、1本の線内における場合に近い材料の密着度を実現することができる。
したがって、これらの実施形態により形成された各層が積層されることにより完成した立体物OBにおいては、図11中(A)に示されるように、描かれた高さ2Hの各線、或いは高さHの2本の線が密着してなる各部位(以下、これらを総括して「高さ2Hの部位」と称する。)が、互い違いに噛み合うようにして密着しており、積層面は段差を有した状態となる。したがって、図11中(B)に示されるように、横方向からの外力(例えば引張力)を受けたとしても、立体物OBの積層面は剥離しにくく、横方向からの外力に対し優れた強度を発揮することができる。
図12は、比較例としての立体物OB´における横方向からの外力に対する強度を説明する図である。なお、図中に実線で示された各線の輪郭については、図11における場合と同様である。
比較例の立体物OB´は、図12中(A)に示されるように、いずれの層においても各線が所定の高さHで描かれており、このように形成された一様な層が積層されて造形されているため、積層面は段差がなく平らな状態であり、層間強度が低い。そのため、図12中(B)に示されるように、立体物OB´が横方向からの外力(例えば引張力)を受けた場合、いずれかの積層面が剥離して、立体物OB´が剥離した積層面を境に分離し易い。このように、比較例の立体物OB´においては、横方向からの外力に対し強度を発揮することが困難である。
以上の比較により、上述したいずれかの実施形態により造形された立体物OBは、一様な層が積層されて造形された立体物OB´よりも、横方向からの外力に対する強度が高いことは明らかである。このように、上述した実施形態の立体造形用データ生成プログラム100によれば、立体物を構成する各層を互い違いに噛み合わせるようにして形成するパスを決定することができるため、横方向からの外力に対して高い強度を有した立体物を造形することが可能となる。
〔第1実施形態の変形例〕
図13は、第1実施形態における各層の形成態様の変形例を示す斜視図である。第1実施形態においては、各層に対して決定された経路において、隣接する経路には異なる態様で線が描かれている。例えば、図9に示した例では、短手方向を等間隔で分割して長手方向に延びる9本の経路において、奇数番目の経路と偶数番目の経路とでは、高さ2Hの部位(高さ2Hの線)が異なる段階で描かれている。これに対し、変形例は、高さ2Hの部位を幅方向に拡張するものである。
なお、図13及び図14中の各図において正面側の各位置に付した数字は、その位置の線が描かれる順序を示している。例えば、層S1の最も左側の位置に付された数字「2」は、その位置の線が2番目に描かれることを意味する。説明の便宜のため、以下の説明においては、数字「n」が付された位置の線を「Ln」と称することとする。
図13中(A):各層に対して2の倍数で等間隔に分割してなる相互に平行する経路を決定し、これらの経路を端から数えて2本単位で線を描く態様を異ならせる形成態様である。この例においては、各層を6等分して奥行方向に延びる6本の経路が決定されている。これらの経路に線を描く態様は端から2本毎に異なっており、幅方向でみて左・中・右の3つのブロックに分かれている。各ブロック内の左右2本の経路に線を描く際に(例えば、線L1,L2の2本の線を描く場合)、吐出ノズル44は、右側の線(例えば、線L1)を描く際には手前側から奥側に向かって移動させ、左側の線(例えば、線L2)を描く際には線幅分だけ左に移動させた後に奥側から手前側に向かって移動させる。このような手前側と奥側との間での往復移動により、吐出ノズル44を最短距離で効率よく移動させることができる。
この形成態様においては、以下のような手順で線が描かれる。
(1)左ブロックの高さHの線L1,L2が描かれる(1回の往復移動)。
(2)右ブロックの高さHの線L3,L4が描かれる(1回の往復移動)。
(3)中ブロックの高さ2Hの線L5,L6が描かれる(1回の往復移動)。
(4)左ブロックの高さ2Hの線L7,L8が描かれる(1回の往復移動)。
(5)右ブロックの高さ2Hの線L9,L10が描かれる(1回の往復移動)。
(6)中ブロックの高さ2Hの線L11,L12が描かれる(1回の往復移動)。
これ以降は、上記(4)〜(6)と同様の手順が繰り返される。
このように、この形成態様においては、吐出ノズル44に1回の往復移動をさせて各ブロック内の横2本×縦1本の各線を時間を空けずに描くことにより、これら2本の線を強く密着させることができる。つまり、この形成態様によれば、横2本×縦1本の計2本の線が密着してなる部位(図中に太線で示した部位)が高さ2Hの部位となり、完成した立体物において高さ2Hの部位が互い違いに噛み合うにようにして密着した状態とすることができる。したがって、この形成態様によっても、横方向からの外力に対し優れた強度を発揮することができる立体物を造形することができる。
図13中(B):各層に対して3の倍数で等間隔に分割してなる相互に平行する経路を決定し、これらの経路を端から数えて3本単位で線を描く態様を異ならせる形成態様である。この例においては、各層を9等分して奥行方向に延びる9本の経路が決定されている。これらの経路に線を描く態様は端から3本毎に異なっており、幅方向でみて左・中・右の3つのブロックに分かれている。各ブロック内の左・中・右の3本の経路に線を描く際に(例えば、線L1〜L3の3本の線を描く場合)、吐出ノズル44は、中央の線(例えば、線L1)を描く際には手前側から奥側に向かって移動させ、左側の線(例えば、線L2)を描く際には線幅分だけ左に移動させた後に奥側から手前側に向かって移動させ、右側の線(例えば、線L3)を描く際には線幅2本分だけ右に移動させた後に再度、手前側から奥側に向かって移動させる(以下、このようにしてなされる手前側と奥側との間での1回半の移動を「1単位」と称する)。
この形成態様においては、以下のような手順で線が描かれる。
(1)左ブロックの高さHの線L1〜L3が描かれる(1単位の往復移動)。
(2)右ブロックの高さHの線L4〜L6が描かれる(1単位の往復移動)。
(3)中ブロックの高さ2Hの線L7〜L9が描かれる(1単位の往復移動)。
(4)左ブロックの高さ2Hの線L10〜L12が描かれる(1単位の往復移動)。
(5)右ブロックの高さ2Hの線L13〜L15が描かれる(1単位の往復移動)。
(6)中ブロックの高さ2Hの線L16〜L18が描かれる(1単位の往復移動)。
これ以降は、上記(4)〜(6)と同様の手順が繰り返される。
このように、この形成態様においては、吐出ノズル44に1単位の往復移動をさせて各ブロック内の横3本×縦1本の各線を時間を空けずに描くことにより、これら3本の線を強く密着させることができる。つまり、この形成態様によれば、横3本×縦1本の計3本の線が密着してなる部位(図中に太線で示した部位)が高さ2Hの部位となり、完成した立体物において高さ2Hの部位が互い違いに噛み合うにようにして密着した状態とすることができる。したがって、この形成態様によっても、横方向からの外力に対し優れた強度を発揮することができる立体物を造形することができる。
〔第2実施形態の変形例〕
図14は、第2実施形態における各層の形成態様の変形例を示す斜視図である。第2実施形態においては、各層に対して決定された経路において、隣接する経路には異なる態様で線が描かれている。例えば、図10に示した例では、短手方向を等間隔で分割して長手方向に延びる9本の経路において、奇数番目の経路と偶数番目の経路とでは、高さ2Hの部位(高さHの2本の重なる線)が異なる段階で描かれている。これに対し、変形例は、高さ2Hの部位を幅方向に拡張するものである。この変形例において描かれる線は、いずれも高さがHである。
図14中(A):各層に対して2の倍数で等間隔に分割してなる相互に平行する経路を決定し、これらの経路を端から数えて2本単位で線を描く態様を異ならせる形成態様である。この例においては、各層を6等分して奥行方向に延びる6本の経路が決定されている。これらの経路に線を描く態様は端から2本毎に異なっており、幅方向でみて左・中・右の3つのブロックに分かれている。各ブロック内の左右2本の経路に線を描く際に(例えば、線L1,L2の2本の線を描く場合)、吐出ノズル44は、右側の線(例えば、線L1)を描く際には手前側から奥側に向かって移動させ、左側の線(例えば、線L2)を描く際には線幅分だけ左に移動させた後に奥側から手前側に向かって移動させる。このような手前側と奥側との間での往復移動により、吐出ノズル44を最短距離で効率よく移動させることができる。
この形成態様においては、以下のような手順で線が描かれる。
(1)左ブロックの線L1,L2が描かれる(1回の往復移動)。
(2)右ブロックの線L3,L4が描かれる(1回の往復移動)。
(3)中ブロックの線L5,L6が描かれた直後に、これらの上に重ねて線L7,L8が描かれる(連続的な2回の往復移動)。
(4)左ブロックの線L9,L10が描かれた直後に、これらの上に重ねて線L11,L12が描かれる(連続的な2回の往復移動)。
(5)右ブロックの線L13,L14が描かれた直後に、これらの上に重ねて線L15,L16が描かれる(連続的な2回の往復移動)。
(6)中ブロックの線L17,L18が描かれた直後に、これらの上に重ねて線L19,L20が描かれる(連続的な2回の往復移動)。
これ以降は、上記(4)〜(6)と同様の手順が繰り返される。
このように、この形成態様においては、各ブロック内の横2本×縦2本の各線を吐出ノズル44の連続的な2回の往復移動によって時間を空けずに描くことにより、これら4本の線を強く密着させることができる。つまり、この形成態様によれば、横2本×縦2本の計4本の線が密着してなる部位(図中に太線で示した部位)が高さ2Hの部位となり、完成した立体物において高さ2Hの部位が互い違いに噛み合うにようにして密着した状態とすることができる。したがって、この形成態様によっても、横方向からの外力に対し優れた強度を発揮することができる立体物を造形することができる。
図14中(B):各層に対して3の倍数で等間隔に分割してなる相互に平行する経路を決定し、これらの経路を端から数えて3本単位で線を描く態様を異ならせる形成態様である。この例においては、各層を9等分して奥行方向に延びる9本の経路が決定されている。これらの経路に線を描く態様は端から3本毎に異なっており、幅方向でみて左・中・右の3つのブロックに分かれている。各ブロック内の左・中・右の3本の経路に線を描く際に(例えば、線L1〜L3の3本の線を描く場合)、吐出ノズル44は、中央の線(例えば、線L1)を描く際には手前側から奥側に向かって移動させ、左側の線(例えば、線L2)を描く際には線幅分だけ左に移動させた後に奥側から手前側に向かって移動させ、右側の線(例えば、線L3)を描く際には線幅2本分だけ右に移動させた後に再度、手前側から奥側に向かって移動させる(以下、このようにしてなされる手前側と奥側との間での1回半の移動を「1単位」と称する)。
この形成態様においては、以下のような手順で線が描かれる。
(1)左ブロックの線L1〜L3が描かれる(1単位の往復移動)。
(2)右ブロックの線L4〜L6が描かれる(1単位の往復移動)。
(3)中ブロックの線L7〜L9が描かれた直後に、これらの上に重ねて線L10〜L12が描かれる(連続的な2単位の往復移動)。
(4)左ブロックの線L13〜L15が描かれた直後に、これらの上に重ねて線L16〜L18が描かれる(連続的な2単位の往復移動)。
(5)右ブロックの線L19〜L21が描かれた直後に、これらの上に重ねて線L22〜L24が描かれる(連続的な2単位の往復移動)。
(6)中ブロックの線L25〜L27が描かれた直後に、これらの上に重ねて線L28〜L30が描かれる(連続的な2単位の往復移動)。
これ以降は、上記(4)〜(6)と同様の手順が繰り返される。
このように、この形成態様においては、各ブロック内の横3本×縦2本の各線を、吐出ノズル44の連続的な2単位の往復移動によって時間を空けずに描くことにより、これら6本の線を強く密着させることができる。つまり、この形成態様によれば、横3本×縦2本の計6本の線が密着してなる部位(図中に太線で示した部位)が高さ2Hの部位となり、完成した立体物において高さ2Hの部位が互い違いに噛み合うにようにして密着した状態とすることができる。したがって、この形成態様によっても、横方向からの外力に対し優れた強度を発揮することができる立体物を造形することができる。
ところで、吐出ノズル44は、その先端部の外径が内径(吐出幅)の約3〜5倍程度の横幅を有していることが一般的である。そのため、既に描かれている線Aに近接し、かつその線Aよりやや低い位置(例えば、1層分の高さHだけ低い位置)に線Bを描こうとすると、吐出ノズル44の先端部が線Aに干渉する場合がありうる。例えば、図10中(D)の手順において、層S1の線L3aを描こうとすると、既に描かれている層S2の線L1bに干渉しやすい。
図14で示した2つの変形例における形成態様においては、高さ2Hの部位が幅方向に拡張されており、同じ層における(高さ方向において同じ位置にある)複数の線が連続して描かれるため、上記のような干渉の発生を回避することができる。したがって、これらの変形例によれば、立体物の強度に加えて立体物の造形精度をも向上させることが可能となる。
〔第1,第2実施形態のさらなる変形例〕
図15は、第1,第2実施形態のさらなる変形例を示す図である。図15に示された(A)〜(C)の3つの図は、いずれも形成された各層が積層された状態を正面視により説明している。
図15中(A):高さ2Hの部位が、立体物を構成する一部の層の一部の領域にのみ形成された例を示している。図示した例においては、太字で囲まれた範囲内、すなわち、高さ方向でみて中間部に位置する層のうち、外側の4本の線からなる領域(中間層の外殻領域)にのみ高さ2Hの部位が形成されている。このように、優れた強度が特に求められる部位のみに第1実施形態又は第2実施形態における形成態様を適用して高さ2Hの部位を形成し、その他の部位は異なる形成態様により形成することが可能である。
図15中(B):幅の異なる高さ2Hの部位が互い違いに噛み合うようにして各層が形成された例を示している。第1実施形態又は第2実施形態における形成態様を各層に適用する場合、高さ2Hの部位は必ずしも一定の幅で規則的に形成する必要はなく、図示した例のように状況に応じてその幅を適宜変更することが可能である。
図15中(C):幅も高さも異なる部位が部分的に噛み合うようにして各層が形成された例を示している。具体的には、図示された複数の層には、幅1〜3、高さ1〜4の範囲内で形成された様々な形状の部位が混在しているが、隣り合う部位は数か所を除いてみな互い違いに噛み合っている。
上記の第1実施形態、第2実施形態においては、説明の便宜のため、文字通り「高さ2H」の各線、或いは「高さHの2本」の線が密着してなる各部位を「高さ2H」の部位として説明してきた。この「高さ2H」の部位とは、吐出された材料の固化が進行する前にその部位をなす全ての線を描くことでそれらの線を強く密着させ、内部の密着度を高めた部位のことを指している。つまり、「高さ2H」の部位は、隣り合う部位が互い違いに噛み合う状態を形成することが可能であればよく、その部位の高さは「2H」に限定されない。材料の固化が進行する前に対象の部位をなす線を全て描くことができるのであれば、高さは「3H」でも「4H」でもよく、一定の高さとする必要はない。このようにして形成された部位を互い違いに噛み合わせるようにして各層を形成することにより、積層面に段差を持たせた状態とすることができ、結果として横方向からの外力に対し優れた強度を発揮することが可能となる。
〔立体物を構成する各層の形成態様:第3実施形態〕
図16は、第3実施形態における立体物OBを構成する各層の形成態様の概要を、比較例に照らして説明する図である。
造形される立体物の一部の部位(又は全体)の強度を高める方法として、対象の部位に対する材料の充填率を100%とすることが考えられる。その部位が材料で完全に充填されていれば(内部が材料で隙間なく埋め尽くされていれば)、その部位は優れた強度を発揮することが可能となる。しかしながら、立体造形装置40を用いて立体物OBを造形する場合、理論上(設定上)の充填率を100%にしたとしても、様々な要因により実際に造形される部位の内部充填率を100%とすることは非常に困難である。
以下、強度を持たせたい所定の部位を形成する例として、その部位の幅が3であり、幅1の線を3本描いて形成する場合を例に挙げて説明する。図16中(A)〜(C)はいずれも、3本の線が図面の前後方向(奥行方向)に描かれることにより形成された複数の層を正面視した状態を示している。なお、発明の理解を容易とするために、図中に示した各線の輪郭や隙間の大きさは実際よりも誇張して表現している。また、説明の便宜のため、対象の部位が造形台42の上に直接形成された様子を図示しているが、強度を持たせる部位は立体物のどの部位であってもよい(実際には、造形台42の上に直接形成される層は外殻領域として区分けされ、異なる形成態様が適用されることが多い)。
図16中(A):強度を持たせたい所定の部位においては、図示されているように描かれた各線L1v〜L6vは隙間なく密着した状態となることが理想的である。各線の輪郭(断面形状)がこのように直線的な形状である場合、対向し合う各線の間(例えば、線L1vと線L2vの間、線L2vと線L5vの間、線L5vと線L4vの間、線L4vと線L1vの間等)には隙間は生じない。
図16中(B):しかしながら、立体造形装置40を用いて立体物を造形する場合、材料MOは熱溶融した状態で吐出され、その上面は吐出ノズル44の先端部により均されて平坦になる一方、左右の側面は外へ出た材料MOが吐出ノズル44の先端部と着地先との間に挟まれて外側に張り出すことにより曲面状になる。したがって、材料MOで描かれた各線を正面視した場合の輪郭は、かまぼこの断面を逆さにしたような曲線形状となる。その結果、対向し合う各線の間(例えば、線L1´と線L2´の間、線L4´と線L5´の間、線L1´,L2´,L4´,L5´が対向し合う角の位置等)には隙間GPが生じてしまう。対象の部位の内部に生じた隙間GPは、視認できない程度の大きさであっても、その部位の強度を低下させる要因となり得る。また、隙間GPの存在以外にも、材料MOの吐出径の精度(設定値と実際に吐出される径との間に生じる誤差)や吐出ノズル44の構造、材料MOの材質等の様々な要因が、内部充填率100%の実現を困難なものとしている。
図16中(C):そこで、第3実施形態においては、このような状況下でも内部充填率を100%により近づけるために、材料MOの吐出位置をずらし、隣接する線を既に描かれた線の一部に敢えてオーバーラップさせて描く態様を採用している。図16中(C)は、既に描かれた線に隣接する線を描く際に、その線を描く材料MOの吐出位置を既に描かれた線の幅の一部(例えば20%〜50%)にオーバーラップする位置にずらした場合の例である。発明者による検証の結果、このような態様で線を描いて対象の部位を形成することにより、隙間GPの発生を抑制することができ、その部位の強度を高めることが可能であることが確認されている。なお、具体的な形成態様については、次の図面を参照しながら説明する。
図17は、第3実施形態における立体物OBを構成する各層の形成態様を正面視により説明する連続図である。第3実施形態においては、強度を持たせたい部位を形成するに当たり、数本の線からなる組を最小単位としてその部位を塗り潰す。また、各組を構成する線を描く際には、組内で既に描かれた線に隣接する線を、既に描かれた線の幅の一部にオーバーラップさせて描く(隣接する線を描く際の材料MOの吐出位置を、既に描かれた線の幅の一部にオーバーラップする位置にずらして材料MOを吐出させる)。
ここでは例として、最小単位とする組を3本の線で構成し、組内で既に描かれた線に隣接する線を描く際に、隣接する線を既に描かれた線の幅50%にオーバーラップさせて描く場合の最小単位の形成手順を説明する。この図においては、説明される手順によって描かれる線を濃い灰色で示し、説明される手順よりも前に描かれた線を薄い灰色で示すこととする。以下、時系列に説明する。
図17中(A):吐出ノズル44の吐出孔46から、先ず、材料MOが幅Wで吐出され、幅Wの線L2が描かれる。線L2は、図16中(B)における線L2´と同様に、その上面が吐出ノズル44の先端部に均されて平坦になる一方、正面視した場合の左右の側面は曲面状となる。なお、立体造形装置40に設けられた吐出ノズル44の先端部は、その外径が吐出孔46の径の約1.5〜3倍の大きさに形成されていることが一般的である。以下の説明においては、吐出ノズル44の外径が吐出孔46の径の2倍の大きさに形成されているものとする。この場合、内径Wの吐出孔46を外径2Wの吐出ノズル44が取り囲んでいるため、正面視すると吐出ノズル44の先端部は、吐出孔46の左端より0.5W左方の位置から吐出孔46の右端より0.5W右方の位置までを覆っている。
図17中(B):次に、線L2の幅の左半分(0.5W)にオーバーラップする位置に材料MOが幅Wで吐出されて、線L1が描かれる。このとき、線L2にオーバーラップする位置には材料MOが出ていける空間が残されていないため、吐出孔46から吐出される材料MOは、必然的に線L2にオーバーラップしていない左側(図中の黒矢印の方向)に流れ、この位置で吐出孔46から外へ出ていくこととなる。外へ出た材料MOは、吐出ノズル44の先端部と着地先(ここでは造形台42)との間に挟まれた空間で、線L2に隣接する右側の空間を埋めつつ、右側に入らなかった分は左側に流動していく。吐出孔46(吐出ノズル44)の径の中心から左に幅Wの位置は、吐出ノズル44の先端部に覆われているため、外に出た材料MOのうち、上部は吐出ノズル44の先端部に均されて平坦になるとともに、最も左側へ押し出されてなる左端部は曲面状になる。このようにして線L1が描かれ、その線幅は、概ねWとなる。
図17中(C):次に、線L2の幅の右半分(0.5W)にオーバーラップする位置に材料MOが幅Wで吐出されて、線L3が描かれる。このとき、線L2にオーバーラップする位置には材料MOが出ていける空間が残されていないため、吐出孔46から吐出される材料MOは、必然的に線L2にオーバーラップしていない右側(図中の黒矢印の方向)に流れ、この位置で吐出孔46から外へ出ていくこととなる。外へ出た材料MOは、吐出ノズル44の先端部と着地先(ここでは造形台42)との間に挟まれた空間で、線L2に隣接する左側の空間を埋めつつ、左側に入らなかった分は右側に流動していく。吐出孔46(吐出ノズル44)の径の中心から右に幅Wの位置は、吐出ノズル44の先端部に覆われているため、外に出た材料MOのうち、上部は吐出ノズル44の先端部に均されて平坦になるとともに、最も右側へ押し出されてなる右端部は曲面状になる。このようにして線L3が描かれ、その線幅は、概ねWとなる。
図17中(D):上記(A)〜(C)の手順を経て各線が線L2→線L1→線L3の順で描かれて最小単位の1層目が形成される。なお、手順(B),(C)の順番を逆にし、各線が線L2→線L3→線L1の順で描かれてもよい。
このようにして形成された最小単位の幅は、概ね3Wとなる。ここで「概ね」と表現しているのは、一般的な方法(例えば図16中(B)のような態様)で幅Wの線を3本描いて幅3Wの部位を形成する場合と比較すると、一般的な方法では発生していた隙間が良好に埋められることにより、隙間が埋められた体積分だけ部位全体の幅が幅3Wより僅かではあるものの小さくなるためである。そこで、最小単位の幅を「概ね3W」ではなく「3W」とする(幅が想定より小さくなるのを抑制する)ためには、各線を描く際に吐出する材料MOの吐出量を若干多くすればよい。このとき、吐出量を多くし過ぎると、材料MOが想定される領域より外側へはみ出したり、或いは材料MOが吐出ノズル44に逆流して詰まり易くなったりという、別の問題を引き起こす虞がある。そこで、事前に調整を行って適量を見極めておき、オーバーラップさせずに各線を描く場合よりも若干多めの吐出量で材料MOを吐出することにより、オーバーラップさせて描く最小単位の幅を想定通りの幅とすることが可能となる。
図17中(E):上記(A)〜(C)と同様の手順を繰り返し、先ず中央の線L5が描かれ、次に線L5の幅の左半分にオーバーラップする位置に材料MOが吐出されることにより線L4が描かれ、次に線L5の幅の右半分にオーバーラップする位置に材料MOが吐出されることにより線L6が描かれて、最小単位の2層目が形成される。その後も、強度を持たせたい部位の高さに応じて適宜同様の手順が繰り返される。
隣接する線をオーバーラップさせない場合、図16中(B)のように、描かれる各線の輪郭(断面形状)はかまぼこの断面のような曲線形状となるため、対向し合う各線の間に隙間が生じ易い。これに対し、上記の形成態様においては、中央の線L2(L5)の角を覆うようにして左右に隣接する各線L1,L3(L4,L6)が描かれるため、線L2の正面視した場合の左右の側面に材料MOを隅々まで行き渡らせることができる。したがって、上記の形成態様によれば、対向し合う各線の間に隙間を発生させ難くすることができ、形成された部位の強度を高めることが可能となる。
なお、上記の手順例では、3本の線を最小単位の1組として対象の部位を形成する場合の例を示しているが、1組をなす線の本数は、状況に応じて適宜変更可能である。隣接する線をオーバーラップさせて描く際に、オーバーラップさせる幅を線幅の50%とする場合には、少数(例えば2〜3本程度)の線を1組とすることにより、対象の部位を良好に形成することができる。また、オーバーラップさせる幅を狭め、例えば線幅の20%とする場合には、より多くの線(例えば7本程度まで)を1組としても、対象の部位を良好に形成することができる。
線幅の20%にオーバーラップさせて描く場合には、図17中(B)の手順で線L2の幅の左側20%(0.2W)にオーバーラップする位置に材料MOを幅Wで吐出して線L1を描くとともに、図17中(C)の手順でL2の幅の右側20%(0.2W)にオーバーラップする位置に材料MOを幅Wで吐出して線L3を描けばよい。
また、上記の手順例は最小単位の形成手順であり、強度を持たせたい部位を実際に形成する場合には、複数の組を隣接させて各層を形成することとなる。例えば、強度を持たせたい部位の幅が10Wである場合には、4本の線からなる組Aを中央部に描いてその両側に3本の線からなる組Bを描いたり、或いは、組Bを3組隣接させて幅9Wの領域(9本の線)を描いた上で残された幅Wの領域に1本の線を材料MOの吐出量を調整して描いたりすることにより、各層が形成される。本数の組み合わせ方は、状況に応じて適宜変更が可能である。
以上のようにして、第3実施形態の形成態様によれば、対向し合う各線の間に隙間を発生させ難くすることができ、強度を持たせたい部位における内部充填率を向上させる(100%により近づける)ことが可能となる。
ここで、各線を描く際の材料MOの吐出量によっては、各組の内部における隙間の発生は抑制できるものの、隣接し合う組と組との間に隙間が発生する可能性が考えられる。そのような隙間は、組と組とを隣接させる位置を詰めることにより発生を抑制することができる。例えば、組Cの左側に組Dを隣接させる場合には、組Cの左端部(組Cの左端に描かれる線の一部)と組Dの右端部(組Dの右端に描かれる線の一部)とが僅かに重なり合うパスを決定し、このパスに沿って材料MOを吐出させる。隣接し合う複数の組をこのように形成することにより、これらの間に生じ得る隙間を抑制することができる。なお、複数の組の隣接位置を詰めることにより、これらが連なって形成された領域の端部には、詰めた間隔を積み重ねた分の空間が発生し得る。その空間の幅に応じて、新たな線を追加したり、或いは形成された領域の端部に接する線に対する材料MOの吐出量を増やしたりすることにより、発生した空間を良好に埋めることが可能である。
なお、上記の手順例では、3本の線を1組として、先ず中央の線L2を描き、次にその左右に隣接する線L1,L3を線L2にオーバーラップさせて描く順序を説明しているが、より多くの線、例えば5本の線(例えば、左から順に線L1,L2,L3,L4,L5とする)を1組とする場合には、上記の順序に準じて、先ず中央の線L3を描き、次にその左右に隣接する線L2,L4を線L1にオーバーラップさせて描き、さらに最も外側の線L1,L5をそれぞれ線L2,L4にオーバーラップさせて描けばよい。或いは、これとは別の順序で、例えば、中央の線L3を描いた後に、一方向に向かって隣接する線を次々とオーバーラップさせて描き、その方向への線を描き終えたら、次に中央の線に反対側で隣接する線を反対方向に向かって次々とオーバーラップさせて描いてもよい。具体的には、5本の線を線L3→線L4→線L5→線L2→線L1(又は、線L3→線L2→線L1→線L4→線L5)の順序で描いてもよい。5本の線をいずれの順序で描いた場合にも、対象の部位を良好に形成し、形成された部位の強度を高めることが可能となる。最小単位の本数が異なる場合においても同様である。
本発明は、上述した実施形態に制約されることなく、種々に変更して実施することが可能である。また、実施形態で挙げた各種数値はあくまで例示であり、上述した内容に限定されるものではない。
上述した実施形態においては、説明の便宜のために、いずれも各層に対し短手方向を等間隔で分割して長手方向に延びる複数の経路に沿って各線が描かれているが、経路の取り方はこれに限定されない。例えば、これとは逆に、長手方向を等間隔で分割して短手方向に延びる複数の経路を決定してもよい。つまり、各層において所定の一方向に沿って平行した複数の経路を決定することができる。また、相互に隣接する複数の経路は、個々に途切れている必要はなく、各経路の端部で隣接する経路とつながっていてもよい。複数の経路がその端部でつながっている場合、これらの経路に沿って描かれる線は、端部で折り返して一筆書きされることとなる。さらには、複数の経路は直線には限定されず、或る1点を中心とした大きさの異なる同心円を描く複数の経路を決定することも可能である。
上述した第1、第2実施形態においては、各層を1〜3の倍数で等間隔に分割してなる相互に平行する経路を決定しているが、経路の幅は、全てを同一の幅とする必要はなく、状況に応じて適宜変更可能である。大きさの異なる同心円を描く複数の経路を決定する場合においても同様である。
上述した実施形態は、いずれも材料押出法により立体物を造形する場合の例を挙げて説明したが、これに限定されず、粉末床溶融結合法等の積層造形方式を用いて立体物を造形する場合にも適用可能であり、各層を同様の態様で形成することにより優れた強度を発揮する立体物を造形することができる。