以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)として、本発明に係る監視装置を含んで構成される監視システム1について、図面に基づいて説明する。
図1は実施形態に係る監視システム1の概略の構成を示す模式図である。監視システム1は監視装置2とセンタ装置3とを含んで構成される。監視装置2とセンタ装置3とは通信可能に接続される。
監視装置2は、監視対象である監視領域4が設定される場所、建物等に設置され、監視領域4に侵入した物体(人物、車両など)を追尾撮影する。監視装置2は物体検知部5、撮像部6及び制御部7を含んで構成され、これらのうち少なくとも物体検知部5及び撮像部6は監視領域4を臨む位置に設置される。例えば、監視領域4は屋外に設定され、物体検知部5及び撮像部6は建物の外壁面や、監視領域4に隣接して立設された支柱等に設置される。一方、制御部7は物体検知部5及び撮像部6に近接した場所に設置することもできるし、例えば、物体検知部5及び撮像部6は屋外に設置し、制御部7は屋内に設置するというように、物体検知部5及び撮像部6から分離した位置に置くこともできる。また、制御部7の各機能は、物体検知部5や撮像部6に備えるようにしてもよい。
図2は監視装置2の概略の動作を示すフロー図である。物体検知部5は、監視領域4内で発生した異常事象(例えば監視領域4への不審な人物や車両などの侵入)を検知すると(ステップS10)、制御部7に検知情報を送信する(ステップS11)。制御部7は当該物体の検知情報(例えば物体の位置、移動速度、移動方向)に基づき、撮像部6への制御指示としてカメラ制御コマンドを生成する(ステップS12)。撮像部6は、制御部7からのカメラ制御コマンドに従ってカメラ制御を行い、監視領域4に侵入した物体の動きを追いながら撮影する(ステップS13)。
監視領域4は、例えば監視装置2を中心とした半径数十メートル〔m〕(例えば20mなど)の半円状に設定される。なお、監視領域はこの例の限定されるものではなく警備のプランニングにより適宜定められる。
センタ装置3は警備会社などが運営する監視センタなどの施設に設置され、通常、1又は複数のコンピュータで構成されている。また、センタ装置3は、1又は複数の監視装置2とネットワークを介して接続される。監視センタでは、センタ装置3により例えば、各種機器を制御し、監視装置2から受信した異常信号を記録するとともに、異常の情報や撮像部6で撮像された撮影画像をディスプレイに表示し、監視員が監視領域を監視している。
図3は監視装置2の概略の構成を示すブロック図である。以下、図3に示す監視装置2の構成を説明する。
物体検知部5は例えば、ビーム状の探査信号を用い所定の周期で監視領域4に対する空間走査を行い、物体からの反射信号を受信することで、監視領域4内に存在する物体の位置を検出する。また、物体検知部5は複数時刻における位置の検知結果を用いて、物体の移動速度や移動方向を算出することができる。
物体検知部5は通信手段51、測距手段52、記憶手段53、監視制御手段54を備える。
通信手段51は制御部7と接続され、制御部7から出力される警備開始信号および警備解除信号を受信して監視制御手段54に当該信号を入力する。また、通信手段51は、監視制御手段54にて監視領域4における侵入物体の存在が判定されると、自己のアドレス情報を含む検出信号を制御部7に送信する。例えば、検出信号として、検知情報や追跡情報(トラッキングIDや新規物体か否かなど)が制御部7に送信される。
測距手段52は基本的に監視領域4を周期的に走査して、監視領域4に存在する物体までの距離を算出する手段である。本実施形態では測距手段52はレーザーセンサを用いて構成され、探査信号としてレーザー光を出射する。例えば、レーザーセンサはレーザー光の出射方向が水平または一定の俯角を有するように設置される。
具体的には測距手段52は、レーザーセンサを中心として監視領域4を臨む水平方向の角度範囲に対して所定周期(例えば60ミリ秒)で走査を繰り返す。測距手段52による測距は、走査角度範囲内にて所定の角度ステップ(例えば0.25゜)ごとに飛行時間法(TOF法:Time of Flight)を用いて行われる。すなわち、レーザーパルスの出射から受光までに要する時間を計測し、当該時間と光速度とからレーザーを反射した物体までの距離が算定される。
測距手段52により測定データとして得られる測距データは走査角(方位)と距離とで表され、レーザーセンサを視点とした物体上のレーザー光反射点の位置が当該測距データで与えられる。具体的には、測距データは、レーザー光の送受信の角度(方向)と反射点までの距離とを対応付けた複数の測定点データの集まりからなる情報である。なお、所定時間内に反射光が返って来ない場合には、レーザー光の照射可能な距離内に物体がないと考えることができ、測距手段52は距離として所定の擬似データ(例えば、監視領域4の外周までの距離値、レーザー光による有効測定距離以上の適当な値等)を設定する。測距手段52により得られた測距データは記憶手段53に記憶される。
なお、測距手段52はレーザーセンサに限定されず、超音波センサなど、物体の位置を検知可能な種々のセンサを用いて構成することができる。
記憶手段53はHDD(Hard Disk Drive)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などで構成される記憶装置であり、各種設定情報や、物体検知部5を動作させるためのプログラムなどを記憶する。例えば、記憶手段53には、物体検知部5自身を特定するためのアドレス情報が記憶される。また、記憶手段53には、物体検知部5にて監視すべき範囲として設定された監視領域4を示す監視領域情報と、監視制御手段54にて生成された基準データと、測距手段52にて取得された過去所定周期分の測距データ及び移動物体(侵入物体)のトラッキング情報とが記憶される。
ここで、基準データは、移動物体を追尾するトラッキング処理において、監視領域4に新規に出現した移動物体を抽出するために、現在の測距データと比較されるデータである。具体的には、基準データは、測距手段52による走査開始後から現在までの何れかの過去時点で取得された測距データから生成される。例えば、監視領域4に移動物体が存在しない状態における走査で取得された植栽や外壁などの既設物が基準データとして用いられる。基準データは例えば、角度(方向)に距離を対応付けたテーブルの形式で記憶することができる。
トラッキング情報は、監視領域4に新規に出現した移動物体を複数周期に渡り追跡するトラッキング処理に用いられる情報である。トラッキング情報には、移動物体ごとに各走査周期における位置及び大きさが対応付けられて記憶される。また、トラッキング情報には、当該物体の識別情報(車両、人物等)を記憶することができる。また、監視領域4には複数の移動物体が出現し得るため、物体同士を区別する識別子(物体ID)を付すことが行われる。この場合には、トラッキング情報には物体IDが対応付けられて記憶される。
監視制御手段54はCPU(Central Processing Unit)、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータ及びその周辺回路で構成され、マイクロコンピュータが記憶手段53からプログラムを読み出して実行することで監視領域4に現れた移動物体の位置やその移動速度を算出する。
監視制御手段54は、通信手段51を介して制御部7から警備開始信号が入力されると測距手段52に駆動信号を出力し、測距手段52の駆動を開始させる。これにより、測距手段52におけるレーザー光の出射や、レーザー光の走査角を変化させる走査鏡の駆動などが開始される。一方、駆動制御部は、制御部7から警備解除信号が入力されると測距手段52に駆動停止信号を出力し、その時点での走査が終了すると測距手段52の駆動を停止させる。これにより、レーザー光の出射や走査鏡の駆動などが停止される。
また、監視制御手段54は、現在の測距データと基準データとを比較して監視領域4に出現した移動物体を検出する。具体的には、現在の測距データから得られる走査角度ごとの距離値と基準データに記憶された角度ごとの距離値との差分を、対応する角度ごとに算出して、距離値が変化した角度における現在の測距データの測定点を検出点とする。そして、検出点群のうち、同一の被測定物により距離値が変化したと考えられる近接する検出点を物体候補としてグループ化する。
また、監視制御手段54は、前回周期と現周期とで検出された物体候補間の対応付けを、距離と大きさなどにより行う。すなわち、両周期で検出された物体間の距離が閾値以内で、かつ大きさの変動が閾値以内である場合に、物体候補の対応付けが行われる。また、当該対応付けによって生成されるトラッキング情報から移動速度や移動方向を算出する。
撮像部6は、移動物体を追尾撮影するために撮影方向を変更可能である。また撮像部6は、監視装置2から距離が遠い物体などについて十分な解像度の物体像を得るために、ズーム制御が可能である。つまり、本実施形態の撮像部6はパン、チルト及びズーム(PTZ)の制御が可能なカメラ(PTZカメラ)を用いて構成され、物体検知部5で検知した侵入物体の検知情報に基づく制御部7の指示により、侵入物体が画角内に収まるように、特に、画角中央にくるように、PTZ制御を行い侵入物体を撮像する。なお、撮像部6のカメラは、上述のように物体検知部5のレーザーセンサと共に監視領域4を臨む位置に設置される。ここで、撮像部6は物体検知部5と同じ位置に設置することもできるし、また、物体検知部5に対し上下方向にずれた位置や、その他、物体検知部5近傍の別の場所に設置されてもよい。
撮像部6はカメラ駆動手段61、撮像手段62、通信手段63、記憶手段64を備える。
カメラ駆動手段61は、カメラの撮影方向(パン、チルト)を変化させる駆動機構、及びカメラのズームレンズを駆動し画角を変化させる駆動機構を含み、制御部7からの制御指示に基づいてそれら駆動機構を動作させ、パン、チルトの制御やズーム制御を行う。
撮像手段62は例えば撮像素子を用いたカメラで構成され、監視領域や侵入物体を撮影する。
通信手段63は制御部7からのカメラ制御信号を受信する。また、通信手段63は撮像手段62による撮影画像を、制御部7を介してセンタ装置3に送信する。
記憶手段64はHDD、ROM、RAMなどで構成される記憶装置であり、撮影画像を記憶する。また、記憶手段64はカメラのホームポジション(侵入物体を検知していないときの画角)を記憶する。
制御部7は物体検知部5及び撮像部6と通信可能に接続され、それらに制御信号を出力し、またそれらから検知信号や撮影画像を入力される。また、制御部7は、遠隔のセンタ装置3と通信可能に接続され、センタ装置3から監視装置2に対する制御信号を受信して動作したり、監視領域4に関し検知された異常信号や撮影画像をセンタ装置3へ送信したりする。例えば、監視装置2に備えた操作部にて利用者が監視領域4の監視を開始又は解除するための操作を行ったり、センタ装置3から監視の開始又は解除の指示を受信したりすることにより、制御部7は監視領域4の監視状態を開始又は解除に設定し、警備開始信号又は警備解除信号を物体検知部5に送信する。
制御部7はモード切替手段71、位置予測手段72、カメラ制御手段73、通信手段74、記憶手段75及び判定手段76を含んで構成される。制御部7はCPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータ及びその周辺回路で構成され、マイクロコンピュータが記憶手段75からプログラムを読み出して実行することでモード切替手段71、位置予測手段72、カメラ制御手段73、判定手段76などとして機能する。
モード切替手段71は、カメラ制御手段73に設けられたカメラの制御モードを切り替える。位置予測手段72は、物体検知部5から受信した検知情報(物体の位置や移動速度など)から、予め定めた指定時間後における移動物体の予測位置を算出する。カメラ制御手段73は、モード切替手段71により設定された制御モードや、位置予測手段72により算出された予測位置に基づいて、撮像部6への制御指示を生成・出力する。これら手段71〜73についてはさらに後述する。
通信手段74は、監視装置2内における物体検知部5及び撮像部6と制御部7との間の通信、並びにセンタ装置3との通信を行う。例えば、通信手段74は、物体検知部5へ警備開始信号又は警備解除信号を送信する。また、センタ装置3に対しては、監視領域4に関し異常が検知された際に生成される異常信号や、撮影画像を送信する。
記憶手段75はHDD、ROM、RAMなどで構成される記憶装置であり、各種設定情報や、制御部7を動作させるためのプログラムなどを記憶する。例えば、記憶手段75は物体の検知情報を蓄積し、また移動物体の現在の制御モードを記憶する。また、記憶手段75は、各制御モードに対応して予め設定される指定時間やズーム条件などのパラメータを定義したテーブルを記憶する。また、物体検知部5と撮像部6との相対位置も記憶手段75に予め記憶される。
判定手段76は、監視状態が開始された状態において物体検知部5の検出信号などに基づき監視領域4の異常を判定する。
以下、モード切替手段71、位置予測手段72及びカメラ制御手段73について詳述する。
図4はモード切替手段71、位置予測手段72及びカメラ制御手段73による処理の概略のフロー図である。制御部7が物体検知部5から検知情報を取得すると処理が開始され(ステップS21)、モード切替手段71が検知情報に基づいて制御モードを判定する(ステップS22)。制御モードが決まると、位置予測手段72は当該制御モードに対応した指定時間を記憶手段75から読み出して設定し(ステップS23)、予測位置を算出する(ステップS24)。カメラ制御手段73は算出された予測位置や、制御モードに対応したズーム条件に基づいてカメラ制御コマンドを生成し、撮像部6へ送信する(ステップS25)。
カメラ制御手段73は、物体の移動速度に応じた制御モードを少なくとも2つ有し、いずれかの制御モードに基づいて撮像部6のカメラの撮影方向を制御し、モード切替手段71はカメラ制御手段73での当該制御モードを切り替える。例えば、2つの制御モードに対応する物体の移動速度の違いを相対的に、高速/低速と表現すると、モード切替手段71は、物体検知部5の検知結果から求められる物体の移動速度に応じて、低速側から高速側への制御モードの切り替えと、高速側から低速側への制御モードの切り替えとをそれぞれ所定の切り替え基準に基づいて行う。
ここで、低速側の制御モードから高速側の制御モードへ切り替え基準を第一基準とし、高速側の制御モードから低速側の制御モードへの切り替え基準を第二基準とすると、第一基準は第二基準よりも物体の移動速度の変化に対して制御モードの切り替えが生じやすい基準(緩い基準)に設定される。この制御モードの切り替えの特徴について具体的に説明する。
図5は本実施形態における制御モードに関する遷移図である。図5に示すように本実施形態のカメラ制御手段73は、制御モードとして高速移動モード、中速移動モード及び低速移動モードの3つを有する。具体的には、図5には、上から順に、高速移動モード、中速移動モード及び低速移動モードが配置され、或る制御モードから他の制御モードへの切り替えが矢印で表されている。例えば、高速移動モードから中速移動モードへ向かう矢印は、高速移動モードから中速移動モードへの切り替えを表している。
また、図6は各制御モードで行われる制御内容を表形式で表した図である。図6は上述した、各制御モードに対応して予め設定される指定時間やズーム条件などのパラメータを定義したテーブルに相当し、当該テーブルは上述したように制御部7の記憶手段75に記憶される。図6には、各制御モードについて指定時間とズーム条件と定義されている。ここでズーム条件に示す値は、高さ方向の画角に対する物体像の大きさの比の値(記号κで表す。)であり、撮影画像の高さ方向の範囲に対する物体像の大きさが当該比になるようにズーム制御が行われる。具体的には、図6に示す例では、低速移動モードではκ=1/3、中速移動モードではκ=1/4、高速移動モードではκ=1/5である。ここで、物体までの距離が同一という条件の下では、κが大きいほどズーム倍率が大きくなる。図6ではこのズーム倍率に関するモード間の相違を「望遠」、「広角」等の記載で象徴的に示している。
高速移動モードは、物体が高速で移動しているときに設定するモードであり、当該モードでは、カメラ制御手段73が他の2つの制御モードよりもズームアウトして撮影するようにカメラを制御すると共に、位置予測手段72が予測位置の算出において指定時間を他の2つの制御モードよりも長くする。
低速移動モードは、物体が低速で移動しているときに設定するモードであり、当該モードでは、カメラ制御手段73が他の2つの制御モードよりもズームインして撮影するようにカメラを制御すると共に、位置予測手段72が予測位置の算出において指定時間を他の2つの制御モードよりも短くする。
中速移動モードは、物体が中速で移動しているときに設定するモードであり、高速移動モードと低速移動モードの中間の制御を行う。
ここで、3つの制御モードのうち任意の2つからなる組み合わせそれぞれについて、それら2つの制御モードの対応速度の相対的な大小に応じて上述の第一基準、第二基準が設定される。つまり、図5に示す矢印のうち下から上へ向かうものに対応する切り替え基準がそれぞれ上述の第一基準に対応し、逆に上から下へ向かうものに対応する切り替え基準がそれぞれ上述の第二基準に対応する。
本実施形態では切り替え基準を、移動速度と、高速側又は低速側における移動速度の継続時間とに基づいて設定する。具体的には、第一基準は、物体の移動速度が所定の第一の基準速度以上である状態が第一の基準時間継続したこととし、第二基準は、物体の移動速度が所定の第二の基準速度以下である状態が第二の基準時間継続したこととし、第一の基準時間を第二の基準時間よりも短く設定することで、第一基準は第二基準よりも制御モードを切り替えやすく設定される。また、本実施形態では、第一の基準速度を第二の基準速度よりも大きな値に設定する。
例えば、低速移動モードと中速移動モードとの間の切り替え基準では、第一の基準時間及び基準速度をそれぞれ0.5秒〔s〕、1.0メートル/秒〔m/s〕とし、第二の基準時間及び基準速度をそれぞれ5.0秒、0.5m/sとすることができる。この場合、第一基準となる低速移動モードから中速移動モードへの切り替え基準は、1.0m/s以上の速度が0.5秒継続したことであり、第二基準となる中速移動モードから低速移動モードへの切り替え基準は、0.5m/s以下の速度が5.0秒継続したことである。
また、例えば、中速移動モードと高速移動モードとの間の切り替え基準では、第一の基準時間及び基準速度をそれぞれ0.5秒、4.0m/sとし、第二の基準時間及び基準速度をそれぞれ5.0秒、2.0m/sとすることができる。この場合、第一基準となる中速移動モードから高速移動モードへの切り替え基準は、4.0m/s以上の速度が0.5秒継続したことであり、第二基準となる高速移動モードから中速移動モードへの切り替え基準は、2.0m/s以下の速度が5.0秒継続したことである。
なお、低速移動モードと高速移動モードとの間の切り替え基準については、例えば、第一の基準時間及び基準速度をそれぞれ0.5秒、4.0m/sとし、第二の基準時間及び基準速度をそれぞれ5.0秒、0.5m/sとすることができる。
図7は図4の制御モード判定処理S22の概略のフロー図である。図7において、V1〜V4は基準速度であり、T1,T2は基準時間であり、図5の例では、V1=4.0m/s、V2=2.0m/s、V3=1.0m/s、V4=0.5m/s、T1=5秒、T2=0.5秒である。
モード切替手段71は記憶手段75に記憶される現在の制御モードを読み出し取得する(ステップS30)。現在の制御モードが高速移動モードである場合は、モード切替手段71は、移動速度が基準速度V4以下である状態が基準時間T1以上継続すると(ステップS31にて「Yes」の場合)、制御モードを低速移動モードに切り替え(ステップS39)、移動速度が基準速度V2以下である状態が基準時間T1以上継続すると(ステップS32にて「Yes」の場合)、制御モードを中速移動モードに切り替える(ステップS36)。一方、それらいずれでもない場合は(ステップS31,S32にて共に「No」の場合)、高速移動モードを維持する(ステップS33)。
また、現在の制御モードが中速移動モードである場合は、モード切替手段71は、V1以上の移動速度がT2以上継続すると(ステップS34にて「Yes」の場合)、高速移動モードに切り替え(ステップS33)、V4以下の移動速度がT1以上継続すると(ステップS32にて「Yes」の場合)、低速移動モードに切り替え(ステップS39)、それらいずれの場合でもない場合は(ステップS34,S35にて共に「No」の場合)、中速移動モードを維持する(ステップS36)。
また、現在の制御モードが低速移動モードである場合は、モード切替手段71は、V1以上の移動速度がT2以上継続すると(ステップS37にて「Yes」の場合)、高速移動モードに切り替え(ステップS33)、V3以上の移動速度がT2以上継続すると(ステップS38にて「Yes」の場合)、中速移動モードに切り替え(ステップS36)、それらいずれの場合でもない場合は(ステップS37,S38にて共に「No」の場合)、低速移動モードを維持する(ステップS39)。
切り替え基準は上述のように、低速側から高速側へのモード切り替えが逆向きのモード切り替えよりも生じやすくなるように設定される。例えば、移動速度の継続時間を短く設定した基準とする。これにより、移動速度が大きい物体に対して、撮影方向を変更するカメラ制御を速やかに開始できるので、大きな速度で移動する物体でも画角から外しにくくなる。一方、移動速度が小さい物体に対しては、速度の変動の影響が低減するまで待ってカメラ制御を行うので、画角から外しにくくなる。
また、切り替え基準は移動速度に関する基準を含んでおり、本実施形態では上述のように第一の基準速度を第二の基準速度よりも大きな値に設定する。つまり、低速側から高速側へのモード切り替えを行う移動速度の閾値を、高速側から低速側への切り替えにおける移動速度の閾値よりも大きく設定する。これにより、取得した速度情報にバラツキ・誤差が存在するとしても確実に高速側での移動状態とすることができる速度の場合にモード切り替えを行えるようになるので、不適切なモード切り替えを防止できる。
上述の構成では、第一基準は、物体の移動速度が所定の第一の基準速度以上である状態が第一の基準時間継続したこととしたが、これに限るものではない。例えば、物体の移動速度が所定の第三の基準速度以上である状態が第三の基準時間以上継続したことを切り替え基準として加え、いずれかの切り替え基準を満たした場合にモードを切り替えるようにしてもよい。このように、第一基準として複数の切り替え基準を設けて、いずれかの切り替え基準を満たした場合にモードを切り替えるようにしてもよい。なお、第三の基準速度は第一の基準速度よりも小さな値に設定され、第三の基準時間は第一の基準時間よりも長く設定される。例えば、低速移動モードと中速移動モードとの切り替え基準では、第三の基準時間及び基準速度をそれぞれ2.0秒、0.8m/sとし、中速移動モードと高速移動モードとの間の切り替え基準では、第三の基準時間及び基準速度をそれぞれ2.0秒、3.0m/sとすればよい。これによれば、移動速度が徐々に大きくなる物体や高速(中速)移動に相当する速度で比較的安定している移動物体に対しても、移動物体に適したモードに設定して、撮像部を制御することが可能になる。
また、第一基準の切り替え基準として用いる基準時間がいずれのモード切り替えにおいても同じである例を説明したがこれに限るものではない。例えば、低速移動モードから高速移動モードへの基準時間は0.4秒、中速移動モードから高速移動モードへの基準時間は0.5秒、低速移動モードから中速移動モードへの基準時間は0.6秒とするようにそれぞれで異ならせてもよい。これによれば、移動速度が大きい物体に対して、撮影方向を変更するカメラ制御をより速やかに開始できるので、大きな速度で移動する物体でも画角から外しにくくなる。
なお、低速側から高速側へと、高速側から低速側へとでモード切り替えの移動速度の閾値を同じとし、継続時間だけ相違させた切り替え基準としてもよい。例えば、図5に示す高速移動モードと中速移動モードとの間の切り替え基準では第一の基準速度を4.0m/s、第二の基準速度を2.0m/sとしているところ、これらを両方とも3.0m/sとすることができる。
また、速度モードは上記の3つに限定されるものではなく、中速移動モードを設けずに高速移動モードと低速移動モードの2つのモードにしてもよいし、静止モードや初期モードなど別のモードを設けて細分化してもよい。
物体検知直後は、正確な速度情報を取得できない場合があるため、算出した速度情報によらず初期モードに設定してもよい。なお、初期モードは、移動物体を画角内に収めることを優先して、高速移動モードと同等に、ズームアウトして撮影するようにカメラを制御するモードとすることが好ましい。そして、所定時間の経過や速度が安定したことをもって、図7のフロー図に従って、モードを切り替える。この際、現モードは高速移動モードとすればよい。
位置予測手段72は既に述べたように、物体検知部5からの検知情報に基づいて指定時間後における移動物体の予測位置を算出する。指定時間は予め物体の移動速度に応じて設定される。一例として本実施形態では図6に示したように、高速移動モードでは1.5秒、中速移動モードでは0.8秒、低速移動モードでは0.2秒とする。
物体検知部5により検知される物体の移動速度及び移動方向は、低速側では不安定となりやすく、逆に高速側では安定する傾向がある。また、レーザーセンサで取得する速度にはバラツキが生じやすく、実際の速度とは相違する場合もある。そのため、低速側の制御モードにて指定時間を長く設定すると、実際に移動した位置と予測位置とが乖離し、予測位置に基づくカメラ制御にて物体がカメラの画角から外れやすくなる。また、移動速度が小さい物体の場合、時間当たりの移動距離が小さく移動方向も変化しやすいため、画角内に収めるにあたってカメラの画角を大きく変更する必要性も高くない。
そこで、低速側の制御モードは高速側の制御モードよりも指定時間を短く設定し、当該指定時間を用いて予測位置を算出することで、移動物体をカメラの画角内に収めつつ、移動物体の動きが滑らかな画像を得ることができる。
一方、高速側の制御モードにて指定時間を短く設定すると、カメラ制御の指示から実行までの反応時間などの影響で、カメラ制御が間に合わずに移動物体がカメラの画角から外れてしまう虞がある。また、移動速度が大きい物体の場合は、移動方向や移動速度が安定しており、現在の検知位置から予測位置までの距離を大きく設定しても指定時間後の実際の位置と乖離しにくい。
そこで、高速側の制御モードは低速側の制御モードよりも指定時間を長く設定し、当該指定時間を用いて予測位置を算出することで、移動物体をカメラの画角内に収めることができる。
なお、指定時間の具体的な値は図6に示した例に限られず、実験等に応じて適宜設定することが好ましい。
位置予測手段72は、予め定めた指定時間に基づいて算出した予測位置が、撮像部6の撮影可能領域の外にある場合、予測位置を撮影可能領域内となるように修正する構成とすることもできる。つまり、予測位置を、撮影方向の変更などカメラ制御を行って撮影できる領域内に設定する。また、位置予測手段72は、予め定めた指定時間に基づいて算出した予測位置が、カメラの最大画角の外にある場合、予測位置を画角内となるように修正する構成とすることもできる。これらの構成では、例えば、指定時間を短縮して目的とする領域内に予測位置を変更することができる。指定時間は、記憶手段75に予め記憶された値に、1より小さい所定の倍率を乗じた値に短縮することができる。また、目的とする領域内に予測位置が収まるまで、当該倍率を順次小さくして多段階に指定時間を短縮してもよい。これによれば、カメラの最大画角まで移動物体を追尾撮影することが可能になる。
カメラ制御手段73は既に述べたように、制御モードや予測位置に応じて撮像部6へ制御指示を与える信号を生成する。具体的には、カメラ制御手段73は撮像部6のカメラ駆動手段61に与える制御信号により、カメラのパン、チルト、ズームの量やその速度を制御する。
ここで、撮影方向(パン、チルト)の制御では、移動物体が画角の中央に写るようにし、ズーム制御では所定の大きさで移動物体が写るようにすることが好ましい。なお、ズーム制御における当該所定の大きさは、制御モードごとに上述のズーム条件のκで定義される。
指定時間に基づく予測位置が撮像部6の撮影可能領域外やカメラの最大画角外にある場合、位置予測手段72が予測位置を修正する構成を上に述べた。一方、この場合に、予測位置の修正に代えて、カメラ制御手段73が撮影方向の制御をしない、つまりカメラを予測位置に向ける制御を行わないようにしてもよい。これによれば、カメラの最大画角外へと移動する物体を追尾しなくなるので、速やかに他の物体等の撮影に移ることができる。
また、カメラ制御手段73は、カメラに対する移動物体の現在位置と予測位置との向きの相違が所定の閾値角度未満である場合には相違が所定の閾値角度以上である場合と比較して、予測位置に撮影方向を向ける動作を緩やかに行ってもよい。現在位置と予測位置との向きの相違が所定の閾値角度未満(例えば15度未満)の場合に、通常と同じ動作速度で撮影方向を変化させると、物体の移動よりも早くカメラ制御が完了し、移動物体が画角の中央から外れやすくなり、また、物体の移動方向が変化すると画角から外してしまう場合もある。さらに、向きの相違が所定の閾値角度未満である場合には、撮影方向の制御を緩やかに行っても、移動物体は画角から外れにくい。したがって、予測位置に撮影方向を向ける動作を緩やかに行なうことが好適である。これによれば、なめらかな画像を得つつ、移動物体をより画角中央で捉え続けやすくなる。なお、予測位置に撮影方向を向ける動作を緩やかにすることは、例えば、撮影方向の制御の応答時定数を大きくし、撮影方向の制御動作の速度を低下させることで実現できる。
また、予測位置がカメラの最大画角内にあれば撮像部の撮影方向を予測位置に向けて制御する例を説明したが、これに限るものではない。例えば、予測位置が現在の画像の中央領域に位置する場合には、撮影方向の制御を行わないようにしてもよい。これによれば、移動物体が画像の中央付近で撮影されている場合には、不必要に撮影方向の制御が行われないので、監視員等にとって見やすい画像が得られる。
また、新規に移動物体を検知した直後は、当該物体の移動速度や移動方向の検知精度が低い場合があることに配慮して、検知直後の所定の初期期間が経過するまではズーム機能を制限したカメラ制御を行うようにしてもよい。この構成ではズーム機能の制限を、移動物体を安定して撮影(追尾)できるようになってから解除することで、移動物体を画角から外しにくくなる。
図8は図4のカメラ制御コマンドの生成・送信処理S25にてズーム機能の制限を行う場合の概略のフロー図である。カメラ制御手段73は、新規物体の検知情報を取得すると(ステップS41)、ズーム機能を制限する(ステップS42)。この状態でカメラ制御コマンドを生成し撮像部6へ送信する処理(ステップS43)を所定期間が経過するまで繰り返し(ステップS44にて「No」の場合)、所定期間が経過すると(ステップS44にて「Yes」の場合)、ズーム機能の制限を解除する(ステップS45)。
ズーム制御の制限の態様としては、ズーム制御全般を禁止するものの他、例えば、ズームアウト制御を許容しつつズームイン制御は禁止したり、所定倍率を超えるズームイン制御は禁止したりすることができる。また、上述したように、カメラ制御手段73は通常は、画像における移動物体の像の大きさをズーム条件のκに応じた基準サイズに保つところ、ズーム制御の制限として、ズーム倍率を基準サイズに対応する倍率よりも低下させる構成とすることもできる。
初期期間に関しては、例えば、物体検知からカメラ制御のサイクルを所定のサイクル数実施するまでの期間とすることができる。例えば、当該サイクルは0.6秒であり、これを2回、又は3回繰り返す期間にてズーム制御を制限する。
また、初期期間は、移動物体を安定して追尾できているか否かを判断する指標に基づいて定めてもよい。この場合、カメラ制御手段73は追尾が安定したことを当該指標が示すまでを初期期間としてズーム制御を制限する。例えば、カメラ制御手段73は、物体検知部5の検知結果から求められる物体の移動速度が安定するまでを初期期間とすることができる。移動速度が安定していることの判断は、例えば、物体の加速度が所定の閾値以下であることや、所定期間における速度変化率が所定の閾値以下であることから判断することができる。また、カメラ制御手段73は、撮像部6の撮影方向の制御によって移動物体が画像の中央領域に捕捉されるまでを初期期間とすることもできる。
また、初期期間は、上述のサイクル数で定めるような、物体検知からの予め定められた長さの期間と、移動物体を安定して追尾できているか否かを判断する指標に基づく上記期間とのいずれか短い方とすることもできる。例えば、カメラ制御手段73は、撮像部6の撮影方向の制御によって移動物体が画像の中央領域に捕捉されると、予め定められた長さの初期期間の経過前であってもズーム制御の制限を解除する。
以上説明したように監視装置2は、レーザーセンサなどを用いた物体検知部5で監視領域に侵入する人物や車両などの物体を検出し、検出位置に向けてPTZカメラを制御して侵入物体を撮影・追跡するものであり、侵入物体の移動速度等に応じたカメラ制御を行うことにより、侵入物体をカメラの画角内で継続して捉える。
特に、物体の移動速度に応じたカメラ制御を行うための複数の制御モードを設け、モード切り替えの基準をモード切り替えの方向に応じて異ならせることで、物体の状況に即したカメラ制御が可能になる。具体的には、高速側へのモード切り替えは低速側へのモード切り替えよりも切り替えやすい基準とする。これにより、物体の移動速度に応じた適切なカメラ制御が可能になる。