以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1に、本発明の実施形態に係る流体動圧軸受装置1が組み込まれたファンモータの一構成例を概念的に示す。同図に示すファンモータは、流体動圧軸受装置1と、モータの静止側を構成するモータベース6と、モータベース6に取り付けられたステータコイル5と、羽根(図示省略)を有する回転部材としてのロータ3と、ロータ3に取り付けられ、ステータコイル5と半径方向のギャップを介して対向するロータマグネット4とを備える。流体動圧軸受装置1のハウジング7は、モータベース6の内周に固定され、ロータ3は、流体動圧軸受装置1の軸部材2の一端に固定されている。このように構成されたファンモータにおいて、ステータコイル5に通電すると、ステータコイル5とロータマグネット4との間の電磁力でロータマグネット4が回転し、これに伴って軸部材2、および軸部材2に固定されたロータ3が一体に回転する。
ロータ3が回転すると、ロータ3に設けられた羽根の形態に応じて図中上向き又は下向きに風が送られる。このため、ロータ3の回転中にはこの送風作用の反力として、流体動圧軸受装置1の軸部材2に図中下向き又は上向きの推力が作用する。ステータコイル5とロータマグネット4との間には、この推力を打ち消す方向の磁力(斥力)を作用させており、上記推力と磁力の大きさの差により生じたスラスト荷重が流体動圧軸受装置1のスラスト軸受部Tで支持される。上記推力を打ち消す方向の磁力は、例えば、ステータコイル5とロータマグネット4とを軸方向にずらして配置することにより発生させることができる(詳細な図示は省略)。また、ロータ3の回転時には、流体動圧軸受装置1の軸部材2にラジアル荷重が作用する。このラジアル荷重は、流体動圧軸受装置1のラジアル軸受部R1,R2で支持される。
図2に、本発明の一実施形態に係る流体動圧軸受装置1の縦断面図を示す。この流体動圧軸受装置1は、軸方向の一端が開口すると共に軸方向の他端が閉塞された有底筒状のハウジング7と、ハウジング7に収容された軸受部材8と、軸受部材8の内周に挿入された軸部材2と、ハウジング7の一端開口部をシールするシール部材9とを備える。以下、説明の便宜上、シール部材9が配置された側(ハウジング7の開口側)を上側とし、その軸方向反対側を下側とするが、流体動圧軸受装置1の運転時における姿勢を限定するわけではない。
ハウジング7は、円筒状の筒部71a、および筒部71aの上端部から径方向内側に張り出した環状部71bを一体に有する筒状部材71と、筒部71aの下端開口を閉塞する蓋部材72とを接着や圧入等の適宜の手段で結合一体化することで有底筒状に形成されている。蓋部材72は、短円筒部72a、および短円筒部72aの下端開口を閉塞する円板状の底部72bを一体に有する有底筒状をなす。本実施形態では、非多孔質の金属材料で形成された蓋部材72の底部72bの上側に樹脂材料で形成されたスラストプレート10を配置し、スラストプレート10の上端面10aでハウジング7の内底面を構成している。スラストプレート10は必ずしも設ける必要はなく、省略しても構わない。
ハウジング7の内部空間には潤滑油11(図2中、密な散点ハッチングで示す)が介在するが、その量は、流体動圧軸受装置1の運転中に、軸部材2をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部R1,R2が形成されるラジアル軸受隙間Gr(図5参照)と、軸部材2をスラスト一方向に支持するスラスト軸受部Tが形成される密閉空間12(軸部材2、軸受部材8およびハウジング7の底部で画成される空間)とを満たすことができる程度に調整される。すなわち、潤滑油11はハウジング7の内部空間全域を満たしておらず、例えば、後述する軸方向隙間22には、潤滑油11が介在する場合と介在しない場合とがある。
軸部材2は、ステンレス鋼等の高剛性の金属材料で形成され、その外周面2aは凹凸のない平滑な円筒面に、またその下端面2bは凸球面に形成されている。軸部材2の上端には、羽根を有するロータ3(図1参照)が固定される。
軸受部材8は、多孔質体、ここでは銅および鉄を主成分とする焼結金属の多孔質体で円筒状に形成され、その内部気孔には潤滑油11が含浸されている。軸受部材8は、焼結金属以外の多孔質体、例えば多孔質樹脂で形成することもできる。
軸受部材8の内周面8aには、対向する軸部材2の外周面2aとの間にラジアル軸受部R1,R2のラジアル軸受隙間Grを形成する円筒状のラジアル軸受面が軸方向の二箇所に離間して設けられる。図3に示すように、各ラジアル軸受面には、ラジアル軸受隙間Grに介在する潤滑油11に動圧作用を発生させるための動圧発生部(ラジアル動圧発生部)A1,A2がそれぞれ形成される。本実施形態のラジアル動圧発生部A1,A2は、それぞれ、互いに反対方向に傾斜し、かつ軸方向に離間して設けられた複数の上側動圧溝Aa1および下側動圧溝Aa2と、両動圧溝Aa1,Aa2を区画する凸状の丘部とを有し、丘部は全体としてヘリングボーン形状を呈する。すなわち、丘部は、周方向で隣り合う動圧溝間に設けられた傾斜丘部Abと、上下の動圧溝Aa1,Aa2間に設けられ、傾斜丘部Abと略同径の環状丘部Acとからなる。
上側のラジアル動圧発生部A1においては、上側動圧溝Aa1の軸方向寸法X1が下側動圧溝Aa2の軸方向寸法X2よりも大きく設定され(X1>X2)、下側のラジアル動圧発生部A2においては、上側動圧溝Aa1および下側動圧溝Aa2の軸方向寸法が、上側のラジアル動圧発生部A1の下側動圧溝Aa2の軸方向寸法X2と同一に設定されている。そのため、軸部材2の回転時、軸部材2の外周面2aと軸受部材8の内周面8aの間の半径方向隙間(ラジアル軸受隙間Gr)に介在する潤滑油11は下側(ハウジング7の底部72b側)に押し込まれる。
なお、ラジアル動圧発生部A1,A2の形態は上記のものに限定されない。例えば、ラジアル動圧発生部A1,A2の何れか一方又は双方は、スパイラル形状の動圧溝を円周方向に複数配列したものとしても良い。また、ラジアル動圧発生部A1,A2の何れか一方又は双方は、対向する軸部材2の外周面2aに形成しても良い。
図3および図4に示すように、軸受部材8の上端面8cの径方向中央部には断面V字状の環状溝8c1が設けられている。また、軸受部材8の上端面8cには、径方向内側の端部が環状溝8c1に開口すると共に、径方向外側の端部が軸受部材8の上端外周縁部に設けた面取り8eに開口した径方向溝8c2が周方向に離間した複数箇所(本実施形態では3箇所)に設けられている。さらに、軸受部材8の外周面8dには、上端部が上記面取り8eに開口すると共に、下端部が軸受部材8の下端外周縁部に設けた面取りに開口した軸方向溝8d1が周方向に離間した複数箇所(本実施形態では3箇所)に設けられている。本実施形態では、周方向で隣り合う2つの径方向溝8c2の間に軸方向溝8d1が配置されている。
以上の構成を有する軸受部材8は、その上端部をハウジング7の環状部71bに当接させた状態、すなわち上端面8cをハウジング7の環状部71bの下端面71b1に当接させた状態でハウジング7の内周に固定されている。
軸受部材8は、圧入、接着、圧入接着(圧入と接着の併用)等の適宜の手段でハウジング7に対して固定し得るが、本実施形態では、環状部71bと蓋部材72とで軸受部材8をその軸方向両側から挟持することにより、軸受部材8をハウジング7の内周に固定している。従って、軸受部材8の下端面8bは短円筒部72aの上端面72a1と当接し、軸受部材8の上端面8cは環状部71bの下端面71b1と当接している。このようにすれば、ハウジング7を形成(筒状部材71と蓋部材72とを固定)するのと同時に、軸受部材8をハウジング7に固定することができるので、部材同士の組み付けに要する手間を軽減することができる。また、例えば、軸受部材8をハウジング7の筒部71aの内周に大きな締め代をもって圧入すると、圧入に伴う軸受部材8の変形が軸受部材8の内周面8aに波及し、ラジアル軸受隙間の幅精度、ひいてはラジアル軸受部R1,R2の軸受性能に悪影響が及ぶ可能性がある。これに対し、上記の固定方法ではこのような弊害が可及的に防止される。
軸受部材8の上端外周部とハウジング7の筒部71aとの間には、流体動圧軸受装置1の運転時(軸部材2の回転時)に、潤滑油11の油面を保持可能な筒状の保油空間13が設けられている。保油空間13は、軸受部材8の上端外周部を肉取りすることにより、あるいはハウジング7の筒部71aの上端内周部を肉取りすることにより形成することができるが、軸受部材8の上端外周部を肉取りすると、軸受部材8の上端面8cとハウジング7の環状部71bとを適切に当接させることが難しくなる。そのため、ここでは、ハウジング7の筒部71aの上端内周部を肉取りすることによって保油空間13を形成している。
図2および図5に示すように、本実施形態の保油空間13は、下側から上側に向けて径方向寸法が徐々に拡大した拡径部13aと、拡径部13aの上側に隣接配置された径一定の円筒状部13bとを備えるが、拡径部13aのみで構成しても構わない。拡径部13aは、ハウジング7の筒部71aの内周面71a1に、下側から上側に向けて徐々に拡径した拡径面(テーパ面)71a2を設けることで形成され、円筒状部13bは、ハウジング7の筒部71aの内周面71a1に円筒状の大径内周面71a3を設けることで形成される。本実施形態では、流体動圧軸受装置1の運転時における潤滑油11の油面が拡径部13aの軸方向範囲内に位置するように保油空間13が形成される。
シール部材9は、金属材料又は樹脂材料で円環状に形成され、ハウジング7の環状部71bの内周に適宜の手段で固定される。図5を参照して説明すると、本実施形態の環状部71bは、小径内周面71b2、大径内周面71b3および両内周面71b2,71b3を接続する段差面71b4を有し、シール部材9はその上端面9cを段差面71b4に当接させた状態で大径内周面71b3に固定されている。シール部材9の下端面9bは、対向する軸受部材8の上端面8cとの間に軸方向隙間22を形成し、シール部材9の内周面9aは、対向する軸部材2の外周面2aとの間にシール隙間Sを形成している。本実施形態では、軸方向隙間22の隙間幅は、例えば8mm以下程度に、また、シール隙間Sの隙間幅(半径値)は、例えば0.3mm以下程度に設定される。
以上の構成を有する流体動圧軸受装置1において、軸部材2と軸受部材8が相対回転する(本実施形態では軸部材2が回転する)と、軸受部材8の内周面8aの上下2箇所に離間して設けられたラジアル軸受面と、これに対向する軸部材2の外周面2aとの間にラジアル軸受隙間Grがそれぞれ形成される。また、軸部材2が回転すると、軸部材2の回転に伴う圧力(負圧)の発生と昇温による潤滑油11の熱膨張により、軸受部材8の内部気孔に含浸させた潤滑油11が軸受部材8の表面開孔を介して軸受部材8の外部に次々と滲み出す。軸受部材8から滲み出た潤滑油11(の一部)は、ラジアル軸受隙間Gr内で油膜を形成し、この油膜の圧力がラジアル動圧発生部A1,A2の動圧作用によって高められる。これにより、軸部材2をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部R1,R2が軸方向の二箇所に離間して形成される。
また、これと同時に、ハウジング7の内底面(スラストプレート10の上端面10a)で軸部材2をスラスト一方向に接触支持するスラスト軸受部Tが形成される。なお、前述したとおり、軸部材2には、軸部材2を下方に押し付ける(軸部材2をスラスト他方向に支持する)ための磁力を作用させている。従って、軸部材2の回転に伴って、スラスト軸受部Tが形成される密閉空間12内の圧力が高まった場合でも、軸部材2が過浮上するのを可及的に防止することができる。但し、軸部材2を下方に押し付けるための外力としての磁力は必ずしも作用させる必要はなく、必要に応じて作用させれば良い。すなわち、送風作用の反力としての推力が十分に大きく、この推力のみで軸部材2を下方に押し付けることができるような場合には、上記磁力を軸部材2に作用させる必要はない。
以上で説明した流体動圧軸受装置1は、通常、ハウジング7、軸受部材8およびシール部材9を組み付けたアセンブリを作製した後、軸受部材8の内周に軸部材2を挿入する、といった手順を踏んで組み立てられる。軸部材2の挿入時には、軸部材2の挿入性向上や、スラスト軸受部Tが形成される密閉空間12に所定量の潤滑油11を介在させること等を目的として、軸受部材8の内周に所定量の潤滑油11が予め充填される。このとき、軸部材2の挿入に伴って、軸部材2の下端面2bと軸受部材8の内周に充填された潤滑油11との間に介在する空気が圧縮されるが、軸受部材8の内周面8aと軸部材2の外周面2aとの間の半径方向隙間(ラジアル軸受隙間Gr)の隙間幅は数μm程度の微小幅に設定されることから、上記の空気(圧縮空気)を軸部材2と軸受部材8の間の半径方向隙間やシール隙間Sを介して装置外部に排出するのは困難である。軸部材2の挿入に伴って圧縮空気を装置外部に排出できない場合、軸部材2を適切に挿入することが難しくなる。
本実施形態の流体動圧軸受装置1は、軸受部材8の外周面8d等で形成され、密閉空間12を外気に開放する(密閉空間12と軸受装置1の外部空間とを連通させる)通気路20を有する。通気路20は、ハウジング7と軸受部材8の間に形成される第1通路21、保油空間13および第2通路23と、軸受部材8とシール部材9の間に形成される軸方向隙間22と、シール隙間Sとで構成される。このような通気路20が設けられていることにより、軸部材2の挿入時には、上記の圧縮空気を装置外部に適切に排出することができる。
第1通路21は、密閉空間12および保油空間13に開口して両空間12,13を連通させる通路であり、本実施形態では、蓋部材72の短円筒部72aの上端面72a1に設けた径方向溝72a2で形成される径方向通路と、軸受部材8の下端外周縁部に設けた面取りで形成される環状通路と、軸受部材8の外周面8dに設けた軸方向溝8d1で形成される軸方向通路とで構成される。上記の径方向通路は、密閉空間12と上記の環状通路とを連通させ得るものであれば良く、例えば軸受部材8の下端面8bに径方向溝を設けることで形成することもできる。また、上記の軸方向通路は、ハウジング7の筒部71aの内周面71a1に軸方向溝を設けることで形成することもできる。
第2通路23は、保油空間13と軸方向隙間22に開口して保油空間13と軸方向隙間22とを周方向の一部領域で連通させる通路であり、本実施形態では、軸受部材8の上端面8cに上記の環状溝8c1および径方向溝8c2を設けることで形成される。従って、ここでは、環状溝8c1および径方向溝8c2が本発明でいう「溝部」を構成する。
前述したとおり、流体動圧軸受装置1の運転時には、軸受部材8の内部気孔に含浸させた潤滑油11が軸受部材8の外部に滲み出すため、軸受部材8の内周面8aで形成される径方向隙間(ラジアル軸受隙間Gr)や、軸受部材8の下端面8bで形成される密閉空間12等に介在する油量が増加する。そのため、流体動圧軸受装置1の運転時には、ハウジング7の内部空間に介在する潤滑油11(の一部)が、通気路20を流通してハウジング7の開口側に押し上げられ、保油空間13の軸方向範囲内に溜まる。このとき、従来構成の流体動圧軸受装置のように、軸受部材8の上端外周部で形成される保油空間13と、軸受部材8の上端面8cで形成される軸方向隙間22とが全周に亘って繋がった構成を採用すると、たとえ保油空間13や軸方向隙間22の容積が十分に確保されていたとしても、流体動圧軸受装置1が傾斜姿勢で使用される場合や、運転中の流体動圧軸受装置1に衝撃荷重が負荷された場合には、保油空間13に溜まった潤滑油が軸方向隙間22に流入し易く、従って、軸方向隙間22およびシール隙間Sを介しての油漏れの発生リスクが高いという問題がある。
これに対し、本発明に係る流体動圧軸受装置1では、軸受部材8の上端面8cと当接する環状部71bを設け、軸受部材8の上端面8cおよびこれに当接する環状部71bの下端面71b1の少なくとも一方に設けた溝部(本実施形態では上端面8cの環状溝8c1および径方向溝8c2)で形成される第2通路23を介して保油空間13と軸方向隙間22とを連通させている。このような構成によれば、保油空間13と軸方向隙間22とは、上記の第2通路23を介して周方向の一部領域で連通する。この場合、例えば、傾斜姿勢の流体動圧軸受装置1の運転中に軸受部材8から滲み出た潤滑油11が保油空間13に溜まった場合や、保油空間13に潤滑油11が溜まった状態で流体動圧軸受装置1に衝撃荷重が負荷された場合でも、保油空間13に溜まった潤滑油11の軸方向隙間22への流入量を従来構成に比べて大幅に減じることができる。そのため、シール隙間Sを介しての油漏れの発生リスクを効果的に低減することができる。
また、本実施形態では、流体動圧軸受装置1の運転時における潤滑油11の油面が、保油空間13のうち、拡径部13aの軸方向範囲内に位置するように保油空間13が形成される。この場合、保油空間13に介在する潤滑油11に毛細管力によるハウジング7底部側への引き込み力が作用するので、シール隙間Sを介しての油漏れの発生リスクを一層効果的に低減することができる。
なお、シール隙間Sを介しての油漏れ防止効果を高めるため、シール隙間Sを形成する対向二面(本実施形態ではシール部材9の内周面9aおよび軸部材2の外周面2a)の何れか一方又は双方には撥油膜を形成するのが好ましい。図6は、その一例を示しており、シール部材9の内周面9aおよび軸部材2の外周面2aの双方に撥油膜30を形成している。
以上により、本発明の一実施形態に係る流体動圧軸受装置1、より具体的には、ハウジング7の内部空間に潤滑油11が部分充填された(ハウジング7の内部空間に潤滑油11と空気が混在する)パーシャルフィルタイプの流体動圧軸受装置1は、油漏れの発生リスクが低く、所望の軸受性能を長期間に亘って安定的に発揮することができる、という特徴を有する。
以上、本発明の一実施形態に係る流体動圧軸受装置1について説明を行ったが、流体動圧軸受装置1には、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことができる。
例えば、軸部材2の下端を支持するスラスト軸受部Tは、いわゆる動圧軸受で構成することができる。詳細な図示は省略するが、この場合、軸部材2の下端面2bは、軸線と直交する方向の平坦面に形成される。このとき、軸部材2の下端面2bおよびこれに対向するハウジング7の内底面の何れか一方には、複数の動圧溝およびこれを区画する凸状の丘部からなる動圧発生部(スラスト動圧発生部)が形成される。
また、以上では、ハウジング7の環状部71bに固定したシール部材9の内周面9aと軸部材2の外周面2aとの間にシール隙間Sを形成したが、図7に示すように、シール部材9は省略しても構わない。この場合、環状部71bの内周面(小径内周面)71b2と軸部材2の外周面2aとの間にシール隙間Sを形成することができる。また、この場合、軸方向隙間22は、軸受部材8の上端面8cとこれに対向する環状部71bの下端面との間に形成される。図示は省略しているが、係る構成を採用する場合においても、シール隙間Sを形成する対向二面の少なくとも一方に撥油膜30(図6参照)を形成するのが好ましい。
また、以上では、保油空間13と軸方向隙間22とを連通させる第2通路23を、図3および図4に示すように、軸受部材8の上端面8cに環状溝8c1および径方向溝8c2を設けることで形成したが、第2通路23は、例えば、軸受部材8の上端面8cに径方向溝8c2のみを設けることで形成することも可能である。その一例が図8に示すものであり、同図に示す実施形態では、径方向外側の端部が軸受部材8の上端外周縁部に設けた面取り8eに開口すると共に、径方向内側の端部が軸受部材8の上端内周縁部に設けた面取り8fに開口するように径方向溝8c2を設けている。
また、第2通路23は、図9(a)(b)に示す態様で軸受部材8の上端面8cに環状溝8c1および径方向溝8c2を設けることで形成することもできる。すなわち、この実施形態では、環状溝8c1の径方向内側の端部を軸受部材8の上端内周縁部に設けた面取り8fに繋げている点(環状溝8c1の溝幅を拡大した点)において、図2〜図6に示す実施形態と構成を異にしている。
このような構成によれば、軸受部材8の上端面8cで形成される軸方向隙間22の隙間幅を図2等に示す実施形態に比べて拡大することができるので、軸方向隙間22における保油量を増加させることができる。そのため、軸方向隙間22内に潤滑油11が流入等した場合でも、シール隙間Sを介しての油漏れを防止する上で有利となる。また、環状溝8c1の径方向内側の端部が軸受部材8の上端内周縁部に設けた面取り8fに繋がっているので、環状溝8c1内に潤滑油11が介在する場合、この潤滑油11を軸受部材8の内周面8aと軸部材2の外周面2aとの間の径方向隙間(ラジアル軸受隙間Gr)に供給し易くなる。特に、図3に示すように、ラジアル軸受隙間Grに介在する潤滑油11をハウジング7の底部側に押し込む形状を有するラジアル動圧発生部A1を設けた場合には、ラジアル軸受部R1のラジアル軸受隙間Grの上側に介在する潤滑油11をラジアル軸受部R1のラジアル軸受隙間Grに引き込み易くなる。このため、シール隙間Sを介しての油漏れを防止する上で、また、ラジアル軸受隙間Grにおける油膜切れを防止する上で有利となる。
また、以上では特に言及していないが、焼結金属製の軸受部材8の上端面8cに設けた環状溝8c1および/または径方向溝8c2を形成する面(溝形成面)の表面開孔率は、軸受部材8の上端面8cのうち、上記溝形成面を除く領域の表面開孔率よりも大きくすることができる。このようにすれば、流体動圧軸受装置1の運転時等には、軸受部材8の内部気孔に含浸させた潤滑油11が環状溝8c1および/または径方向溝8c2内に滲み出し易くなる。そのため、図8に示す態様で径方向溝8c2を設けた場合や、図9(a)に示す態様で環状溝8c1および径方向溝8c2を設けた場合には、溝8c1,8c2に滲み出た潤滑油11をラジアル軸受部R1のラジアル軸受隙間Grに供給し易くなる。そのため、ラジアル軸受隙間Grの油膜切れに起因したラジアル軸受部R1,R2の軸受性能低下を防止する上で有利となる。
上記のように、溝形成面の表面開孔率と溝形成面を除く領域の表面開孔率とを異ならせるための手段としては、例えば以下のような手順で軸受部材8を製造することが考えられる。まず、金属粉末を主成分とする原料粉末の圧粉体を圧縮成形するのと同時に、圧粉体の一端面に溝8c1,8c2を型成形してから、この圧粉体を加熱・焼結して焼結体を得る。その後、焼結体をサイジング金型に投入して軸方向に圧縮することにより、焼結体を完成品形状に仕上げる(焼結体の内周面にラジアル動圧発生部A1,A2を型成形すると共に焼結体の寸法精度を矯正する)際、溝8c1,8c2が型成形された面を、平坦面に形成されたパンチの加圧面で加圧する。要するに、溝8c1,8c2の形成面は、サイジング金型によって成形しない非成形面とする一方で、溝形成面を除く領域は、サイジング金型による成形面とする。このようにすれば、ラジアル動圧発生部A1,A2を有する焼結金属製の軸受部材8を製造するのに必要最低限の工程を実施する間に、溝形成面の表面開孔率と、溝形成面を除く領域の表面開孔率との間に差を設けることができる。
なお、上記のようにして軸受部材8の上端面8c内で表面開孔率に差を設ける場合、溝8c1,8c2の溝深さが浅過ぎると、サイジング金型で焼結体を軸方向に圧縮するのに伴って溝8c1,8c2が消失等する可能性がある。そのため、圧粉体に型成形する溝8c1,8c2の溝深さは0.05mm以上とするのが好ましい。また、軸受部材8の上端面8cにおいて、溝8c1,8c2の占有面積が大き過ぎると、焼結体を軸方向に圧縮する際に、焼結体を適切に軸方向に圧縮することができず、ラジアル動圧発生部A1,A2の成形精度や、軸受部材8の形状精度に悪影響が及ぶ可能性がある。そのため、軸受部材8の上端面8cに占める溝8c1,8c2の面積比は50%以下とするのが好ましい。
溝形成面の表面開孔率と溝形成面を除く領域の表面開孔率に差をもたせるための技術手段は上記のものに限定されず、例えば、溝形成面を除く領域に封孔処理を施すことも考えられる。但し、この場合には、封孔処理を施すための別工程が必要となるので、軸受部材8の製造コストが増加する。そのため、上記のように、焼結金属製の軸受部材8を得る上で必要最低限の工程(圧縮成形工程、焼結工程およびサイジング工程)を実施する間に、軸受部材8の上端面8c内で表面開孔率に差を設けるのが好ましい。
また、以上では、第2通路23を、軸受部材8の上端面8cに径方向溝8c2や環状溝8c1を設けることで形成したが、第2通路23は、軸受部材8の上端面8cに設けた径方向溝8c2や環状溝8c1に替え、あるいはこれに加え、軸受部材8の上端面8cに当接するハウジング7の環状部71b1に径方向溝等を設けることで形成することもできる。
また、以上では、軸受部材8の上端面8cと当接する環状部71bが、ハウジング7の筒部71aと一体に設けられた流体動圧軸受装置1に本発明を適用した場合について説明したが、本発明は、上記環状部71bがハウジング7の筒部71aと別体に設けられる場合にも適用することができる。この場合、図示は省略するが、例えば、上記の筒部71aおよび蓋部材72に相当する部分を一体に有する有底筒状のハウジングの内周に軸受部材8を配置してから、このハウジングの上端部に、下端面の外径側領域が軸受部材8の上端面8cと当接して軸受部材8との間に第2通路23を形成すると共に、下端面の内径側領域が軸受部材8の上端面8cとの間に軸方向隙間22を形成するような環状部材(例えばシール部材9)を固定すれば、以上で説明した実施形態と同様の作用効果を奏し得る流体動圧軸受装置1が得られる。
また、ラジアル軸受部R1,R2の何れか一方又は双方は、いわゆる多円弧軸受、ステップ軸受、および波型軸受等、公知のその他の動圧軸受で構成することもできる他、動圧発生部を有さない、いわゆる真円軸受で構成することもできる。また、ラジアル軸受部は、以上で説明したように軸方向に離間した二箇所に設ける他、軸方向の一箇所、あるいは軸方向に相互に離間した三箇所以上に設けることもできる。
また、以上では、回転部材として、羽根を有するロータ3が軸部材2に固定される流体動圧軸受装置1に本発明を適用した場合について説明を行ったが、本発明は、回転部材として、ディスク搭載面を有するディスクハブ、あるいはポリゴンミラーが軸部材2に固定される流体動圧軸受装置1にも好ましく適用することができる。すなわち、本発明は、図1に示すようなファンモータのみならず、ディスク装置用のスピンドルモータや、レーザビームプリンタ(LBP)用のポリゴンスキャナモータ等、その他の電気機器用モータに組み込まれる流体動圧軸受装置1にも好ましく適用することができる。