以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るエンジンの排気浄化制御装置について説明する。
(1)全体構成
図1は、本実施形態のエンジンの排気浄化制御装置が適用されたエンジンシステム100の概略構成図である。
エンジンシステム100は、4ストロークのエンジン本体1と、エンジン本体1に空気(吸気)を導入するための吸気通路20と、エンジン本体1から外部に排気ガスを排出するための排気通路40と、第1ターボ過給機51と、第2ターボ過給機52とを備えている。このエンジンシステム100は、車両に設けられて、エンジン本体1は車両の駆動源として用いられる。エンジン本体1は、例えば、ディーゼルエンジンであり、図1の紙面に直交する方向に並ぶ4つの気筒2を有する。
エンジン本体1は、気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面に設けられたシリンダヘッド4と、気筒2に往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。ピストン5の上方には燃焼室6が形成されている。
ピストン5はクランク軸7と連結されており、ピストン5の往復運動に応じてクランク軸7はその中心軸回りに回転する。
シリンダヘッド4には、燃焼室6内(気筒2内)に燃料を噴射するインジェクタ(空気過剰率変更手段)10と、燃焼室6内の燃料と空気の混合気を昇温するためのグロープラグ11とが、各気筒2につきそれぞれ1組ずつ設けられている。図1に示した例では、インジェクタ10は、燃焼室6の天井面の中央に、燃焼室6を上方から臨むように設けられている。また、グロープラグ11は、通電されることで発熱する発熱部を先端に有しており、この発熱部が、インジェクタ10の先端部分の近傍に位置するように燃焼室6の天井面に取り付けられている。例えば、インジェクタ10は、その先端に複数の噴口を備え、グロープラグ11は、その発熱部がインジェクタ10の複数の噴口からの複数の噴霧の間に位置して燃料の噴霧と直接接触しないように、配置されている。
インジェクタ10は、エンジントルクを得るために実施される噴射であって圧縮上死点付近で燃焼する燃料を燃焼室6内に噴射するメイン噴射と、メイン噴射よりも遅角側であって燃焼してもその燃焼エネルギーがエンジントルクにほとんど寄与しない時期に燃焼室6内に燃料を噴射するポスト噴射とを実施できるようになっている。
シリンダヘッド4には、吸気通路20から供給される空気を各気筒2の燃焼室6に導入するための吸気ポートと、吸気ポートを開閉する吸気弁12と、各気筒2の燃焼室6で生成された排気ガスを排気通路40に導出するための排気ポートと、排気ポートを開閉する排気弁13とが設けられている。
吸気通路20には、上流側から順に、エアクリーナ21、第1ターボ過給機51のコンプレッサ51a、第2ターボ過給機52のコンプレッサ52a、インタークーラ22、スロットルバルブ23、サージタンク24が設けられている。また、吸気通路20には、第2コンプレッサ52aをバイパスする吸気側バイパス通路25と、これを開閉する吸気側バイパスバルブ26とが設けられている。吸気側バイパスバルブ26は、駆動装置(不図示)によって全閉の状態と全開の状態とに切り替えられる。
排気通路40には、上流側から順に、第2ターボ過給機52のタービン52b、第1ターボ過給機51のタービン51b、第1触媒43、排気ガス中の粒子状物質(PM:Particulate Matter)を捕集するDPF(Diesel particulate filter)44、尿素インジェクタ(SCR用還元剤供給手段)45、SCR(Selective Catalytic Reduction)触媒46、スリップ触媒47、が設けられている。
第1触媒43は、NOxを浄化するNOx触媒41と、排気ガス中の酸素を用いて炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)などを酸化して水と二酸化炭素に変化させるDOC(ディーゼル酸化触媒、Diesel Oxidation Catalyst)42とを含む。
NOx触媒41は、NOx触媒41は、NOx吸蔵還元型触媒(NSC:NOx Storage Catalyst)である。つまり、NOx触媒41は、排気ガスの空気過剰率λが1よりも大きいリーンな状態(排気ガス空燃比が理論空燃比よりも大きい状態)において排気ガス中のNOxを吸蔵する。そして、NOx触媒41は、この吸蔵したNOxを、排気ガスの空気過剰率λが1近傍あるいは1より小さいリッチな状態(排気ガスの空燃比が理論空燃比近傍である状態あるいは理論空燃比よりも小さい状態)、つまり、NOx触媒41を通過する排気が未燃のHCを多量に含む還元雰囲気下において還元する。
詳細には、NOx触媒41は、排気ガスの空気過剰率λが1よりも大きいリーンな状態で、排気ガスに含まれる酸素を吸蔵できるように構成されている。例えば、NOx触媒41は、酸素吸蔵能を有するセリア等を含む。そして、NOx触媒41は、排気ガス中のNOを、排気ガスに含まれる酸素および吸蔵している酸素を用いて酸化し(NO2とし)、これを吸蔵する。
また、NOx触媒41は、吸蔵していたNOxを還元する際に、NH3(アンモニア)を発生して放出するようになっている。具体的には、NOx還元時に、NOx触媒41が吸蔵していたNOx中の「N」およびNOx触媒41を通過するNOxと、NOx触媒41に導入された還元剤であるH等が結合することで、NH3が生成される。
第1触媒43は、例えば、DOCの触媒材層の表面に、NSCの触媒材がコーティングされることで形成されている。
なお、本実施形態では、排気通路に別途空気や燃料を供給する装置が設けられておらず、排気ガスの空気過剰率λと燃焼室6内の混合気の空気過剰率λとは対応する。つまり、燃焼室6内の混合気の空気過剰率λが1よりも大きいときに排気の空気過剰率λも1より大きくなり、燃焼室6内の混合気の空気過剰率λが1以下のときに排気ガスの空気過剰率λも1以下になる。
尿素インジェクタ45は、DPF44の下流側の排気通路40中に尿素を噴射する。尿素インジェクタ45は、尿素供給経路45aおよび尿素送出ポンプ45bを介して尿素タンク45cに接続されており、尿素送出ポンプ45bにより尿素タンク45cから圧送された尿素を排気通路40内に噴射する。本実施形態では、尿素の凍結を防止するためのヒーター45dが設けられている。尿素インジェクタ45から噴射された尿素はSCR触媒46に導入される。
SCR触媒46は、NH3(アンモニア)を排気ガス中のNOxと反応(還元)させて浄化する。SCR触媒46は、尿素インジェクタ45から噴射された尿素を加水分解してNH3を生成し(CO(NH2)2+H2O→CO2+2NH3)、生成されたNH3を排気ガス中のNOxと反応(還元)させてNOxを浄化する。
このように、本実施形態では、尿素インジェクタ45により排気通路40に噴射(供給)される尿素が、請求項におけるNH3原料およびSCR用還元剤として機能する。
詳細には、SCR触媒46では、導入されたNH3が吸着され、この吸着されたNH3とNOxとが反応することでNOxが還元される。また、前記のように、NOx触媒41におけるNOxの還元時には、このNOx触媒41からもNH3が放出されるようになっており、SCR触媒46は、NOx触媒41から放出されたNH3を排気中のNOxと反応(還元)させることによってもNOxを浄化する。
例えば、SCR触媒46は、NH3によってNOxを還元する機能を有する触媒金属(Fe、Ti、Ce、W等)を、NH3をトラップする機能を有するゼオライトに担持させて触媒成分とし、この触媒成分をハニカム担体のセル壁に担持させることで作られる。
SCR触媒46とNOx触媒41とは、いずれもNOxを浄化可能であるが、これらは浄化率が高くなる温度が互いに異なっており、SCR触媒46のNOx浄化率は排気の温度が比較的高温のときに高くなり、NOx触媒41のNOx浄化率は排気の温度が比較的低温のときに高くなる。
つまり、本実施形態では、NOx触媒41とSCR触媒46との両方を用いてNOxの浄化を行う。具体的には、SCR触媒46の温度が第1温度未満であり、SCR触媒46によるNOx浄化率が低いときには、NOx触媒41のみによってNOx浄化が行われ、SCR触媒46の温度が第2温度以上(第2温度は第1温度よりも高い)であってSCR触媒46によるNOx浄化率が高いときにはSCR触媒46のみによってNOx浄化を行う。そして、SCR触媒46の温度が第1温度と第2温度との間であるときには、NOx触媒41とSCR触媒46との両方によってNOx浄化を行う。また、排気ガス流量が大きく、SCR触媒46によるNOx浄化率が低くなるときにも、NOx触媒41とSCR触媒46との両方によってNOx浄化を行う。
スリップ触媒47は、SCR触媒46から排出された未反応のNH3を酸化させて浄化する。
排気通路40には、第2タービン52bをバイパスする排気側バイパス通路48と、これを開閉する排気側バイパスバルブ49と、第1タービン51bをバイパスするウエストゲート通路53と、これを開閉するウエストゲートバルブ54とが設けられている。これら排気側バイパスバルブ49とウエストゲートバルブ54とは、それぞれ、駆動装置(不図示)によって全閉と全開の状態に切り替えられるとともに、これらの間の任意の開度に変更される。排気側バイパスバルブ49、ウエストゲートバルブ54、および吸気側バイパスバルブ25の開度は、エンジン回転数及びエンジン負荷に基づいて変更される。
エンジンシステム100は、さらに、排気の一部を吸気に還流させるEGR装置55を有する。EGR装置55は、排気通路40のうち排気側バイパス通路49の上流端よりも上流側の部分と、吸気通路20のうちスロットルバルブ23とサージタンク24との間の部分とを接続するEGR通路56と、これを開閉する第1EGRバルブ57と、EGR通路56を通過する排気を冷却するEGRクーラ58とを有する。また、EGR装置55は、EGRクーラ58をバイパスするEGRクーラバイパス通路59と、これを開閉する第2EGRバルブ60とを有する。
(2)制御系
図2を用いて、エンジンシステムの制御系について説明する。車両には、主として尿素インジェクタ45を制御するためのDCU(Dosing Control Unit)300と、その他の各部を制御するためのPCM(Power−train Control Module)200と、が設けられている。PCM200およびDCU300は、それぞれ、CPU、ROM、RAM、I/F等から構成されるマイクロプロセッサである。本実施形態では、これらPCM200とDCU300とが、請求項における制御手段を構成する。
PCM200には、各種センサからの情報が入力される。例えば、PCM200は、クランク軸7の回転数つまりエンジン回転数を検出する回転数センサSN1、エアクリーナ21付近に設けられて吸気通路20を流通する新気(空気)の量である吸入空気量を検出するエアフローセンサSN2、サージタンク24に設けられてターボ過給機51、52によって過給された後のサージタンク24内の吸気の圧力つまり過給圧を検出する吸気圧センサSN3、排気通路40のうち第1ターボ過給機51と第1触媒43との間の部分の酸素濃度を検出する排気O2センサSN4等と電気的に接続されており、これらのセンサSN1〜SN4からの入力信号を受け付ける。また、車両には、運転者により操作されるアクセルペダル(不図示)の開度であるアクセル開度を検出するアクセル開度センサSN5や、車速を検出する車速センサSN6等が設けられており、これらのセンサSN5、SN6による検出信号もPCM200に入力される。PCM200は、各センサ(SN1〜SN6等)からの入力信号に基づいて種々の演算等を実行して、インジェクタ10等を制御する。
DCU70とPCM60とは双方向に通信可能に接続されている。DCU70は、PCM200での演算結果等を用いて尿素インジェクタ45によって排気通路40に噴射させる尿素の量を算出し、尿素インジェクタ45を制御する。また、DCU70は、尿素送出ポンプ45bやヒーター45dの制御も行う。
(2−1)DeNOx制御
NOx触媒41に吸蔵されたNOx(以下、適宜、吸蔵NOxという)を還元してNOx触媒41から放出(離脱)させてNOx触媒41を再生するための制御であるDeNOx制御(再生制御)について説明する。
本実施形態では、DeNOx制御や、NOx触媒41に吸蔵されたSOxを還元するための制御(いわゆるDeSOx制御)や、DPF44を再生するための制御(DPF44から微粒子状物質を燃焼除去するための制御)を実施しない通常運転時は、燃費性能を高めるべく、燃焼室6内の混合気の空気過剰率λひいては排気ガスの空気過剰率λがλ>1(例えばλ=1.7程度)にされる。以下、適宜、燃焼室6内の混合気の空気過剰率λを、単に、混合気の空気過剰率λという。
一方、前記のように、NOx触媒41では、排気ガスの空気過剰率λが1近傍あるいは1よりも小さいリッチな状態において、吸蔵NOxが還元されてNOx触媒41からNOxが放出されるようになっている。そのため、吸蔵NOxを還元するためには、排気ガスの空気過剰率λおよび混合気の空気過剰率λを通常運転時よりも低減させる必要がある。
混合気の空気過剰率λ(排気ガスの空気過剰率λ)を低減する一つの方法として、燃焼室6に導入される新気(空気)の量を少なくすることが考えられる。しかし、新気の量を単純に少なくするとエンジントルクを適切に得ることができないおそれがある。特に、加速時に新気の量が低減されると加速性が悪化するおそれがある。また、新気の量を調整する場合では、混合気の空気過剰率λを精度よく制御することが比較的困難である。
そこで、本実施形態では、DeNOx制御として、ポスト噴射を実施し、これにより新気の量の低減量を少なく抑えつつ混合気の空気過剰率を低減させる。つまり、PCM200は、DeNOx制御として、インジェクタ10にメイン噴射に加えてポスト噴射を行わせる制御を実施する。なお、通常運転時は、ポスト噴射は停止される。
本実施形態では、このように吸蔵NOxを還元するためにポスト噴射を実施するDeNOx制御を、図3に示す第1領域R1と第2領域R2とでのみ実施する。第1領域R1は、エンジン回転数が予め設定された第1基準回転数N1以上且つ予め設定された第2基準回転数N2以下で、エンジン負荷が予め設定された第1基準負荷Tq1以上且つ予め設定された第2基準負荷Tq2以下の領域である。第2領域R2は、第1領域R1よりもエンジン負荷が高い領域であって、エンジン負荷が予め設定された第3基準負荷Tq3以上となる領域である。
PCM200は、第1領域R1では、ポスト噴射された燃料が燃焼室6内で燃焼するタイミング(膨張行程の前半、詳細には、圧縮上死点から圧縮上死点後90°CAまでの間、例えば、圧縮上死点後30〜70°CA)でポスト噴射を行うアクティブDeNOx制御を実施する。なお、アクティブDeNOx制御の実施時には、ポスト噴射された燃料の燃焼を促進するためにグロープラグ11を通電して混合気を加熱する。
一方、PCM200は、第2領域R2では、ポスト噴射された燃料が燃焼室6内で燃焼しないタイミング(膨張行程の後半、例えば、圧縮上死点後110°CA)でポスト噴射を行うパッシブDeNOx制御を実施する。
これは、次の理由による。
エンジン負荷が低い、あるいは、エンジン回転数が低い領域では、排気ガスの温度が低いことに伴ってNOx触媒41の温度が吸蔵NOxを還元できる温度よりも低くなりやすい。そこで、本実施形態では、この領域ではDeNOx制御を停止する。
また、前記のようにDeNOx制御ではポスト噴射を実施するが、ポスト噴射された燃料が燃焼せずにそのまま排気通路40に排出されると、この未燃燃料に起因するデポジットによってEGRクーラー58等が閉塞するおそれがある。そのため、ポスト噴射された燃料は燃焼室6内で燃焼させるのが好ましい。しかしながら、エンジン負荷が高い、あるいは、エンジン回転数が高い領域では、燃焼室6内の温度が高いこと、あるいは、1クランク角度あたりの時間が短いことに伴って、燃焼室6内のガスが排気されるまでの間にポスト噴射された燃料と空気とを十分に混合させることが難しく、ポスト噴射された燃料を燃焼室6内で十分に燃焼させることができないおそれがある。また、前記混合が不十分であることによって煤が増大するおそれがある。従って、このような領域では基本的にDeNOx制御を停止する。
ただし、エンジン負荷が非常に高い第2領域R2では、メイン噴射の噴射量(以下、適宜、メイン噴射量という)が多いことに伴って通常運転時であっても混合気の空気過剰率が小さく抑えられる。そのため、第2領域R2では、吸蔵NOxを還元するために必要なポスト噴射の噴射量(以下、適宜、ポスト噴射量という)を小さくして、未燃燃料が排気通路40に排出されることによる前記影響を小さく抑えることができる。
そこで、本実施形態では、エンジン負荷およびエンジン回転数のいずれもが低すぎず且つ高すぎない第1領域R1では、ポスト噴射された燃料が燃焼室6内で燃焼するアクティブDeNOx制御を実施し、第2領域R2では、ポスト噴射された燃料を燃焼室6内で燃焼させないパッシブDeNOx制御を実施する。なお、第2領域R2は、排気の温度が十分に高くDOC触媒42が十分に活性化する領域である。そのため、排気通路40に排出された未燃燃料はこのDOC触媒42によって浄化される。
(2−2)燃料噴射制御
図4のフローチャートを用いて、燃料噴射の制御手順について説明する。
まず、ステップS1で、PCM200は、アクセル開度、エンジン回転数、アクティブDeNOx制御実行フラグの値、パッシブDeNOx制御実行フラグを含む車両の各種情報を取得する。
アクティブDeNOx制御実行フラグは、アクティブDeNOx制御を実施する基本的な条件が成立したときに「1」となり、その他のときに「0」となるフラグである。本実施形態では、NOx触媒41に吸蔵されているNOxの量であるNOx吸蔵量が予め設定された第1基準量以上であり、SCR触媒46の温度が前記第2温度付近に設定されたSCR判定温度未満であり、且つ、NOx触媒41の温度が予め設定されたNOx還元可能温度以上である場合に、アクティブDeNOx制御実行フラグが「1」とされる。第1基準量は、エンジン始動後にはじめてアクティブDeNOx制御が実施される場合は、NOx触媒41が吸蔵可能なNOx量の最大量付近とされ、その他の場合は、この最大量よりもある程度低い値とされる。NOx還元可能温度は、NOx触媒41がNOxを還元可能な温度の最小値であり、予め設定されている。
パッシブDeNOx制御実行フラグは、パッシブDeNOx制御を実施する基本的な条件が成立したときに「1」となり、その他のときに「0」となるフラグである。本実施形態では、NOx吸蔵量が予め設定された第3基準量以上であり、SCR触媒46の温度がSCR判定温度未満であり、且つ、NOx触媒41の温度がNOx還元可能温度以上である場合に、パッシブDeNOx制御実行フラグが1とされる。第3基準量は、第1吸蔵量判定値よりも小さな値に設定されている。例えば、第3吸蔵量判定値は、NOx触媒41が吸蔵できるNOxの量の最大値の半分程度の値に設定されている。
このように、SCR触媒46によるNOxの浄化率が比較的低く、NOx触媒41によってNOxを浄化する必要があるにも関わらず、NOx触媒41に吸蔵されているNOxの量が多い場合であって、NOx触媒41がNOxを還元可能であるときに、アクティブDeNOx制御実行フラグおよびパッシブDeNOx制御実行フラグが1となる。
なお、NOx触媒41の温度は、例えば、NOx触媒41の直上流側に設けられた温度センサによって検出された温度に基づいて推定される。SCR触媒46の温度は、例えば、SCR触媒46の直上流側に設けられた温度センサによって検出された温度に基づいて推定される。NOx吸蔵量は、例えば、エンジン本体1の運転状態や排気の流量および温度等に基づいて推定された排気中のNOx量を積算していくことで推定される。
ステップS1の後はステップS2に進む。ステップS2では、PCM200は、アクティブDeNOx制御実行フラグが「1」であるか否かを判定する。ステップS2の判定がNOの場合は、ステップS10に進む。一方、ステップS2の判定がYESの場合は、ステップS3に進む。
ステップS3では、PCM200は、エンジンが第1領域R1で運転されているか否かを判定する。ステップS3の判定がNOの場合は、ステップS10に進む。
一方、ステップS3の判定がYESの場合は、ステップS4に進む。ステップS4では、PCM200は、アクティブDeNOx制御におけるポスト噴射の噴射量と噴射タイミングとを決定する。
具体的には、PCM200は、アクセル開度等から算出される要求トルクに対応する燃料噴射量をメイン噴射量として算出する。次に、算出したメイン噴射量とポスト噴射量とを合わせたトータル噴射量と、気筒2に導入される空気量とによって、混合気および排気ガスの空気過剰率λが、アクティブDeNOx制御用の気過剰率λの目標値となるように、前記メイン噴射と空気量とに基づいてポスト噴射量を決定する。なお、気筒2に導入される空気量は、エアフローセンサSN2で検出された値等を用いて推定される。このように、本実施形態では、ポスト噴射の噴射量を変更することで排気ガスの空気過剰率λを変更する。
また、PCM200は、アクティブDeNOx制御用のポスト噴射の噴射タイミングを、前記のように、膨張行程の前半のタイミングに設定する。ここで、ポスト噴射タイミングを進角させ過ぎると、空気と燃料が十分に混合されていない状態でこの混合気が燃焼を開始する結果スモークの発生量が増大する。そこで、本実施形態では、気筒2に導入される空気量等に基づいて、スモークの発生量が所定量を超えないようにポスト噴射タイミングを膨張行程前半の範囲内で調整する。なお、本実施形態では、アクティブDeNOx制御時には、気筒2内に適量のEGRガスを導入し、これによってもポスト噴射された燃料の着火を遅延させてスモークの発生を抑制している。
ステップS4の後は、ステップS5に進む。ステップS5では、PCM200は、インジェクタ10に、前記のメイン噴射量の燃料をメイン噴射させるとともに、ステップS4で決定したアクティブDeNOx制御用のポスト噴射量の燃料をステップS4で決定したタイミングでポスト噴射させる。ステップS5の後は処理を終了する(ステップS1に戻る)。なお、ポスト噴射量が小さいときは、スロットルバルブ23を閉じ側に制御する等により気筒2に導入される空気量を低減させてもよい。
一方、ステップS2の判定がNOまたはステップS3の判定がNOの場合に進むステップS10では、PCM200は、パッシブDeNOx制御実行フラグが「1」であるか否かを判定する。ステップS10の判定がNOの場合は、ステップS11に進む。
ステップS11では、PCM200は、アクティブDeNOx制御およびパッシブDeNOx制御を実行せずに通常の制御を実施する。つまり、PCM200は、ポスト噴射を停止し、アクセル開度等から算出される要求トルクに対応する燃料噴射量をメイン噴射させる。ステップS11の後は処理を終了する(ステップS1に戻る)。一方、ステップS10の判定がYESの場合は、ステップS12に進む。
ステップS12では、PCM200は、エンジンが第2領域R21で運転されているか否かを判定する。ステップS12の判定がNOの場合は、ステップS11に進む。
一方、ステップS12の判定がYESの場合は、ステップS13に進む。ステップS13では、PCM200は、パッシブDeNOx制御におけるポスト噴射の噴射量と噴射タイミングとを決定する。
具体的には、PCM200は、アクセル開度等から算出される要求トルクに対応する燃料噴射量をメイン噴射量として算出する。次に、算出したメイン噴射量とポスト噴射量とを合わせたトータル噴射量と、気筒2に導入される空気量とによって、混合気および排気ガスの空気過剰率λが、パッシブDeNOx制御用の空気過剰率λの目標値となるように、前記メイン噴射と空気量とに基づいてポスト噴射量を決定する。本実施形態では、PCM200は、パッシブDeNOx制御用のポスト噴射の噴射タイミングを、前記のように、膨張行程前半のタイミングに設定する。
ステップS13の後はステップS14に進む。ステップS14では、PCM200は、インジェクタ10に、前記のメイン噴射量の燃料をメイン噴射させるとともに、ステップS13で決定したパッシブDeNOx制御用のポスト噴射量の燃料をステップS12で決定したタイミングでポスト噴射させる。ステップS14の後は処理を終了する(ステップS1に戻る)。
(3)尿素水の噴射制御
次に、尿素インジェクタ45の噴射制御について説明する。以下では、適宜、尿素インジェクタ45から噴射される尿素の量を、尿素噴射量という。前記のように、尿素インジェクタ45の噴射制御は、PCM200からの情報を得ながらDCU300が実施する。
(3−1)DeNOx制御時の尿素噴射制御の概要
前記のように、NOx還元時つまりDeNOx制御の実施時には、NOx触媒41からNH3が放出されてSCR触媒46に導入される。そのため、DeNOx制御の実施時の尿素噴射量を、DeNOx制御の非実施時(DeNOx制御を実施していない時)の尿素噴射量と同じ量にすると、SCR触媒46に供給されるNH3の量が過大となり、SCR触媒46よりも下流側にNH3がすり抜けるおそれがある。そこで、DeNOx制御時はDeNOx制御の非実施時よりも尿素噴射量を少なくする。
しかしながら、DeNOx制御時の尿素噴射量を、運転条件によらず単純に非DeNOx制御時よりも少ない所定の量に制御しただけでは、SCR触媒46に供給されるNH3の量が、過大になるあるいは不足して、SCR触媒46よりも下流側に多くのNH3がすり抜けたり、SCR触媒46において適切にNOxが浄化されないおそれがあることが分かった。
本願発明者らはこれについて鋭意研究した結果、NOx触媒41からのNH3の放出は、DeNOx制御を開始してから所定の期間が経過した後にはじめて生じること、そして、この所定の期間が運転条件によって異なるために、前記問題が生じることを突き止めた。以下、DeNOx制御を開始してからNOx触媒41からのNH3の放出が開始するまでの期間を、適宜、遅れ期間という。
つまり、DeNOx制御の実施期間が同じであっても、遅れ期間が短い方が、より長期にわたってNOx触媒41からSCR触媒46にNH3が供給される。そのため、遅れ期間によらずにDeNOx制御の実施期間中に排気通路40に噴射する尿素の総量を一定量とすると、SCR触媒46に供給されるNH3の量が過大となり多くのNH3がSCR触媒46の下流側にすり抜けるあるいは、SCR触媒46に供給されるNH3の量が不足してSCR触媒46でのNOxの浄化率が悪化するおそれがある。
また、本願発明者らは、遅れ期間と、NOx触媒41に吸蔵されている酸素の単位時間あたりの減少量(以下、吸蔵酸素減少速度という)とには相関があること、詳細には、吸蔵酸素減少速度が大きい方が遅れ期間が短くなることを突き止めた。
吸蔵酸素減少速度が大きい方が遅れ期間が短くなるのは次の理由によると考えられる。
前記のように、NOx触媒41でNH3が生成されるのは、DeNOx制御に伴ってNOx触媒41に還元剤が供給されることで、NOx触媒41に吸蔵されていたNOx中の「N」およびNOx触媒41を通過するNOxと、NOx触媒41に導入された還元剤であるH等が結合するためである。しかしながら、前記のように、NOx触媒41は、酸素吸蔵能を有している。そして、NOx触媒41には、通常運転時等において排気ガスの空気過剰率λが1よりも大きくされることに伴って多量の酸素が吸蔵されている。そのため、DeNOx制御が開始されてNOx触媒41への還元剤の導入が開始された直後は、供給された還元剤が、「N」ではなくNOx触媒41に吸蔵されている酸素と反応してしまい、NH3の生成反応が抑制される。これより、NOx触媒41に吸蔵されていた酸素がなくなったときにはじめてNH3の放出が開始されると考えられる。ここで、DeNOx制御を開始してからNOx触媒41に吸蔵されていた酸素がなくなるまでの期間は、吸蔵酸素減少速度が大きい方が大きい。従って、吸蔵酸素減少速度が大きい方が、NH3の放出が開始するタイミングが早くなり、遅れ期間が短くなると考えられる。
そこで、本実施形態では、吸蔵酸素減少速度を推定し、これに基づいて、遅れ期間を推定する。
具体的には、吸蔵酸素減少速度であってNOx触媒41に吸蔵されている酸素の単位時間あたりの減少量を積算していき、この積算値が、吸蔵酸素最大量であってNOx触媒41が吸蔵可能な酸素の最大量以上になった時期を、NOx触媒41からNH3の放出が開始された時期(以下、NH3放出開始時期という)して推定する。そして、DeNOx制御の開始時期からこのNH3放出開始時期までの期間を、遅れ期間として推定する。吸蔵酸素減少速度の推定手順については後述する。
そして、DeNOx制御が開始してからこの遅れ期間が経過するまでは、尿素噴射量をDeNOx制御の実施前つまりDeNOx制御の非実施時と同じ量に維持し、遅れ期間が経過した後にはじめて(NH3放出開始時期になるとはじめて)尿素噴射量をDeNOx制御の非実施時よりも少なくする。
従って、本実施形態では、DeNOx制御の実施期間が同じであっても、遅れ期間が短い方が、尿素噴射量がDeNOx制御の非実施時よりも少なくされる期間が長くなり、DeNOx制御の実施期間中における尿素噴射量の総量、つまり、DeNOx制御の実施期間に排気通路40に供給されたトータルの尿素の量は、少なくなる。
ここで、吸蔵酸素減少速度が大きい方が、遅れ期間は短い。従って、本実施形態では、吸蔵酸素減少速度が大きい方が、DeNOx制御の実施期間中における尿素噴射量の総量が小さくされることになる。
より詳細には、本実施形態では、DeNOx制御の実施中において、遅れ期間が経過すると(NH3放出開始時期になると)、各時刻において、NOx触媒41から放出されるNH3の量(以下、適宜、NH3放出量という)を推定する。また、この推定したNH3放出量を尿素換算する(NH3放出量のNH3を生成するために必要な尿素の量の最小値を算出する)。そして、DeNOx制御の非実施時の尿素噴射量から、NH3放出量の尿素換算値を減算し、求められた値を、尿素噴射量として算出する。
ここで、この尿素噴射量の算出手順では、NH3放出量によっても尿素噴射量の量は変化する。しかしながら、DeNOx制御の実施期間中にNOx触媒41から放出されるNH3のトータルの量に与える影響は、酸素減少速度の方が、NH3放出量よりも大きく、前記のように、本実施形態では、吸蔵酸素減少速度が大きい方が、DeNOx制御の実施期間中における尿素噴射量の総量が小さくされる。
なお、後述するように、排気ガスがリッチである方がNH3放出量は大きい値に算出され、排気ガスの空気過剰率λが小さい方がつまり排気ガスがリッチである方が吸蔵酸素減少速度は大きい値に算出される。従って、排気ガスの空気過剰率λの変化に対して、NH3放出量が尿素噴射量の総量に与える影響と吸蔵酸素減少速度が尿素噴射量の総量に与える影響とは、ともに、同じ側(総量が増える側または減る側)である。つまり、排気ガスの空気過剰率λが小さいときは、尿素噴射量の総量は、吸蔵酸素減少速度が大きくなることによって小さくなるとともに、NH3放出量が大きくなることによっても小さくなる。
また、同様に、排気ガスの流量(以下、適宜、排気流量という)が大きい方がNH3放出量は大きい値に算出され、排気流量が大きい方が吸蔵酸素減少速度は大きい値に算出されるようになっており、排気流量の変化に対しても、NH3放出量が尿素噴射量の総量に与える影響と吸蔵酸素減少速度が尿素噴射量の総量に与える影響とは、ともに、同じ側(総量が増える側または減る側)となっている。
(3−2)DeNOx制御終了後の尿素噴射制御の概要
前記のように、DeNOx制御時にはNOx触媒41からSCR触媒46にNH3が導入される。そのため、DeNOx制御が終了した直後はSCR触媒46に多量のNH3が吸着されていることになる。従って、仮に、DeNOx制御の終了直後に即座に尿素噴射量を大幅に増大させてしまうと、SCR触媒46に供給されるNH3が過大になってNH3がSCR触媒46の下流側にすり抜けるおそれがある。
そこで、本実施形態では、DeNOx制御が終了してから所定の期間(以下、適宜、切り替え期間という)は、DeNOx制御の非実施時であっても、その他の期間よりも尿素噴射量を少なくする。ただし、前記のように、切り替え期間であっても、DeNOx制御が終了した後はNOx触媒41からのNH3の放出量であるNH3放出量はほぼ0となるため、切り替え期間時においても、尿素噴射量は、DeNOx制御時よりも多くする。なお、前記の切り替え期間は、予め設定されている。
また、本実施形態では、DeNOx制御の実施に伴ってNOx触媒41から排出されたNH3の総量を推定し、切り替え期間中は、この総量が多い方が尿素噴射量が少なくなるようにこれを決定する。
具体的には、前記のように、DeNOx制御の実施中且つ遅れ期間経過後の各時刻のNH3放出量を推定し、この放出Nh3量をDeNOx制御が終了するまで積算していき、この積算値を、前記総量(DeNOx制御の実施に伴ってNOx触媒41から排出されたNH3の総量)として算出する。
(3−3)吸蔵酸素減少速度の算出手順
次に、吸蔵酸素減少速度の算出手順について説明する。
本願発明者らは、吸蔵酸素減少速度を、これをMreO2として次の式(2)により算出すれば精度よくこれを推定できることを突き止めた。そこで、本実施形態では、この式(2)を用いて吸蔵酸素減少速度を算出する。
MreO2=(1−λ)×K×Mex・・・(2)
式(2)において、λは、排気ガスの空気過剰率である。本実施形態では、前記のように、DeNOx制御時の排気ガスの空気過剰率λの目標値が予め設定されているとともに、これが実現されるようにポスト噴射が実施されている。従って、式(2)における空気過剰率λはほぼこの目標値となるが、本実施形態では、燃料噴射量や気筒2に導入される空気量等から現在の排気ガスの空気過剰率λを算出して、この算出値を式(2)に用いる。
また、式(2)において、Mexは排気ガスの流量である。本実施形態では、エアフローメータで検出された値等を用いて排気流量Mexを算出する。
また、式(2)において、Kは補正係数である。この補正係数Kは、第1補正係数をα1、第2補正係数をα2、第3補正係数をα3として、K=α1×α2×α3により算出される。
前記式(2)に含まれる(1−λ)×Mexの項で算出される値は、NOx触媒41に流入する未燃燃料ひいては還元剤、の全てを酸化させようとしたときに、排気ガスに不足している酸素量である。従って、下記の式(3)によって得られるX1は、吸蔵酸素減少速度に近い値になると考えられる。つまり、DeNOx制御の開始時において、NOx触媒41では、この(1−λ)×Mexの項で算出される量の吸蔵酸素が消費されると考えられる。
X1=(1−λ)×Mex・・・(3)
しかしながら、式(3)で得られる値X1と実際の吸蔵酸素減少速度とにはずれがあり、各補正係数α1、α2、α3は、このずれを補正するための係数である。以下では、「1−λ」で表されるパラメータを、空気不足幅と称して説明する。
(第1補正係数)
前記ずれをより小さくするべく鋭意研究を行った結果、排気ガスの空気過剰率λを1以下にしたときにエンジン本体1から排出される還元剤であるCO,H2,THCの濃度は、図5に示すようになることが分かった。また、図5に示すように、排気ガスの空気過剰率λが1以下であっても、エンジン本体1から排出される排気ガスに酸素(O2)が含まれることが分かった。
具体的には、図5は、横軸を排気ガスの空気過剰率λとし、縦軸を排気ガス中の各物質の濃度としたものである。図5に示されるように、排気ガスの空気過剰率λが小さくなるほど排気ガスに含まれるCO、H2、THCの濃度はそれぞれ大きくなり、排気ガスの空気過剰率λが大きくなるほど排気ガスに含まれるO2の濃度は小さくなる。
また、本願発明者らは、排気ガスに主として含まれるCOに加えてH2の量が吸蔵酸素減少速度に影響を及ぼすことを突き止めた。これは、H2は還元能力が高く、NOx触媒41に吸蔵されている酸素(以下、適宜、吸蔵酸素という)と反応しやすいためと考えられる。また、排気ガスに含まれるO2によって吸蔵酸素の減少が抑制されており、排気ガスに含まれるO2の量が吸蔵酸素減少速度に影響を及ぼすことも突き止めた。
そして、これらの知見より、NOx触媒41で実際に吸蔵酸素と反応する還元剤の量は、排気ガスに含まれるCOとH2の合計量から、これらと反応するO2の量であって排気ガスに含まれるO2の量の半分の量を引いた値に近似することが分かった。
ここで、図6は、排気ガスに含まれるCOとH2の濃度の合計値から、排気ガスに含まれるO2の濃度の半分の値、を差し引いた値であって、前記のように、NOx触媒41において吸蔵酸素と反応すると考えられる還元剤の濃度(以下、正味の還元剤の濃度という)を、排気ガスの空気不足幅(「1―λ」)毎にプロットしたグラフである。図6において、実線で示したラインL1は、これらプロット点の代表的な点を結んだラインである。
図6に示されるように、排気ガスの空気過剰率λが小さくなるほど(リッチになるほど)、正味の還元剤の濃度は大きくなる。
しかしながら、排気ガスの空気不足幅が大きくなるほど(排気ガスの空気過剰率λが小さくなるほど)、排気ガスの空気不足幅および排気ガスの空気過剰率λに対する正味の還元剤の濃度の変化率は大きくなっており、正味の還元剤の濃度と空気不足幅とは比例していない。すなわち、各空気不足幅について式(3)で算出される点を結んだラインであるラインL2と、空気不足幅に比例する点を結んだラインL1とにはずれがあり、このラインL1とラインL2とのずれが、式(3)によって得られるX1の値と実際の吸蔵酸素減少速度とのずれの少なくとも一部を構成していると考えられる。
第1補正係数α1は、このずれを補正するための係数、つまり、ラインL1上の点をラインL2上の点に補正するための係数であり、図7のように設定されている。具体的には、第1補正係数α1は、排気ガスの空気過剰率λが小さくなるほどその値が大きくなるように設定されている。また、第1補正係数α1は、排気ガスの空気過剰率λが大きくなるほど排気ガスの空気過剰率λに対する第1補正係数α1の変化率が大きくなるように設定されている。
(第2補正係数および第3補正係数)
また、本願発明者らは、NOx触媒41の温度および排気流量によっては、DeNOx制御時であっても、NOx触媒41に導入された全ての還元剤が酸化されないこと、また、NOx触媒41の温度および排気流量によって、DeNOx制御時においてNOx触媒41にて吸蔵酸素によって酸化される還元剤の割合が異なることを突き止めた。
図8は、横軸をNOx触媒41の温度とし、縦軸を、DeNOx制御時においてNOx触媒41に導入された還元剤が酸化される割合としたグラフである。図8のグラフにおける3つのラインL11、L12、L13は排気流量が互いに異なるときのラインである。ラインL11、L12、L13の順で排気流量は大きくなっている。
図8に示されるように、NOx触媒41の温度が低い方が前記割合は小さくなる。より詳細には、NOx触媒41の温度が所定の温度(例えば、350℃程度)以上では前記割合は100%となりNOx触媒41に導入された還元剤はほぼ全て酸化される。一方、NOx触媒41の温度が所定の温度未満ではNOx触媒41の温度が低くなるほど前記割合は小さくなる。また、排気流量が多い方が前記割合は小さくなる。
従って、NOx触媒41にて実際に吸蔵酸素によって酸化される還元剤の量ひいてはこの酸化に利用される吸蔵酸素の量は、(1−λ)×Mex×α1で得られる値(NOx触媒41に導入される還元剤の全量およびこの全量に対応する吸蔵酸素の量と推定される値)に前記割合をかけた値になるとなる。
そこで、本実施形態では、NOx触媒41の温度に応じて変化する前記割合を第2補正係数α2として設定するとともに、排気流量に応じて変化する前記割合を第3補正係数α3として設定して、これらα2、α3を(1−λ)×Mex×α1に掛けて、NOx触媒41にて吸蔵酸素によって酸化される還元剤の量ひいてはこの酸化に利用される吸蔵酸素の量をより精度よく推定する。
第2補正係数α2つまりNOx触媒41の温度に応じて変化する前記割合は、前記のように、NOx触媒41の温度が低い方が小さい値とされる。
第3補正係数α3つまり排気流量に応じて変化する前記割合は、前記のように、排気流量が多い方が小さい値とされる。
また、第2補正係数α2および第3補正係数α3は、NOx触媒41の温度が所定の温度以上では、NOx触媒41の温度および排気流量の値によらず一定値(例えば、1.0)とされる。
なお、NOx触媒41の温度が高い方が前記割合が高くなるのは、温度が高い方がNOx触媒41がより活性状態にあり還元剤の酸化反応が促進されるためと考えられる。また、排気流量が多い方が前記割合が小さくなるのは、排気流量が多い方が還元剤以外の物質の量も多くなりNOx触媒41と還元剤との接触機会が小さくなるためと考えられる。
このように、本実施形態では、式(2)によって吸蔵酸素減少速度が精度よく推定される。
また、本実施形態では、このようにして推定した吸蔵酸素減少速度を用いてNH3放出開始時期を推定する。具体的には、前記のように、推定した吸蔵酸素減少速度の積算値が吸蔵酸素最大量以上になった時期を、NH3放出開始時期として推定する。
(3−4)DeNOx制御時の空気過剰率の目標値
前記のように、NOx触媒41では、導入される排気ガスの空気過剰率λが1近傍あるいは1より小さいリッチな状態にされることで、NOxが還元される。そのため、NOx触媒41内でNOxを還元するだけであれば、排気ガスの空気過剰率λは1近傍であってもよい。
しかしながら、前記のように、NOx触媒41は、酸素吸蔵能を有しており、排気ガスの空気過剰率λが1以上になると酸素を吸蔵する。そして、NOx触媒41に酸素が吸蔵されると、この吸蔵された酸素がなくなるまでNOx触媒41からのNH3の放出が停止される。
そこで、本実施形態では、SCR触媒46に効率よくNH3を供給するために、排気ガスの空気過剰率λを1未満にする。すなわち、NOx触媒41からNH3を放出させて、尿素インジェクタ45から噴射される尿素の量を少なく抑えて尿素タンク45c内の尿素の減少を抑制するべく、排気ガスの空気過剰率λを1未満にする。特に、排気ガスの空気過剰率λが1以上になると、短時間でNOx触媒41に多量の酸素が吸蔵されて比較的長い時間にわたってNH3の放出が中断されることが分かっており、一定時間内でNOx触媒41から多量のNH3を放出させるためには、排気ガスの空気過剰率λを1未満にする必要がある。
ただし、排気ガスの空気過剰率λは、気筒2に導入される空気の量と燃料の量とにより変化する。そのため、排気ガスの空気過剰率λの目標値を1に極めて近い値に設定した場合には、前記の空気量や燃料量の変動に伴って実際の排気ガスの空気過剰率λが1以上になる機会が多くなる。また、前記のように、排気ガスの空気過剰率λが1以上になるとNH3の放出が停止されるため、排気ガスの空気過剰率λが1を跨ぐように変動すると、SCR触媒46に供給されるNH3の変動が大きくなる。このことから、SCR触媒46に効率よく且つ安定してNH3を供給するために、本実施形態では、排気ガスの空気過剰率λの目標値を0.98未満にする。
一方、図5の矢印に示すように、排気ガスの空気過剰率λが小さくなると、排気ガス中の還元剤の量が多くなるのに伴って排気ガス中の還元剤の量のばらつき幅が大きくなる。従って、排気ガスの空気過剰率λを小さくしすぎても、NOx触媒41から放出されるNH3のひいてはSCR触媒46内のNH3が不安定になる。特に、排気ガスの空気過剰率λが0.9以上になると、排気ガス中の還元剤の量のばらつき幅が所定値以上になる。そこで、本実施形態では、排気ガスの空気過剰率λの目標値を0.9よりも大きくする。つまり、本実施形態では、DeNOx制御時の排気ガスの空気過剰率λの目標値を、0.9よりも大きく且つ0.98未満となる値に設定する。
例えば、第1領域R1のうちエンジン負荷が低い低負荷側第1領域R1_Lでは、混合気ひいては排気ガスの空気過剰率λの目標値は0.98に設定される。また、第1領域R1のうち低負荷側第1領域R1_L以外の領域および第2領域R2では、混合気ひいては排気の空気過剰率λの目標値は0.96に設定される。
(3−5)NOx触媒から放出されるNH3量の推定手順
次に、DeNOx制御時に、NOx触媒41から放出されるNH3量の推定手順について説明する。図9は、この手順を説明するための図である。
本実施形態では、DCU300に、機能的に、第1推定部301と、第2推定部302とが設けられている。
第1推定部301は、DeNOx制御時において、NOx触媒41に吸蔵されていたNOxと、還元剤であるH等が結合することで生成されたNH3(以下、適宜、第1NH3という)の量を推定する。
第2推定部302は、DeNOx制御時に、エンジン本体1で生成されてNOx触媒41に流入したNOx(以下、適宜、RawNOx)と還元剤であるH等がNOx触媒41にて結合することで生成されたNH3(以下、適宜、第2NH3という)の量を推定する。
第1推定部301は、まず、NOx触媒41の現在のNOx吸蔵量を推定する。次に、第1推定部301は、このNOx吸蔵量の推定値に、第1温度係数β1、第1流量係数β2、第1A/F係数β3、および、第1熱劣化係数β4をそれぞれ掛けることで、第1NH3の量を算出する。
第1温度係数β1は、図10に示すマップに基づいて設定される係数であり、NOx触媒41の温度に応じて設定される。具体的には、温度係数β1は、NOx触媒41の温度が高いほど小さい値とされる。つまり、NOx触媒41の温度が高い方がNOx触媒41に吸蔵されているNOxがHN3に変換される反応が促進されることがわかっており、NOx触媒41の温度が高い方が第1NH3量が大きく算出されるように、第1温度係数β1が設定されている。
第1流量係数β2は、図11に示すマップに基づいて設定される係数であり、排気流量に応じて設定される。具体的には、第1流量係数β2は、排気流量が多いほど大きい値とされる。つまり、排気流量が多いほどNOx触媒41に流入する還元材の量が多くなりNOx触媒41から放出されるHN3量は増大するので、これに対応して、排気流量が多い方が第1NH3量が大きく算出されるように第1流量係数β2が設定されている。
第1A/F係数β3は、図12に示すマップに基づいて設定される係数であり、排気ガスの空燃比(A/F)に応じて設定される。具体的には、A/F係数β3は、排気ガスの空燃比が小さい(リッチ)ほど大きい値とされる。つまり、排気ガスの空燃比がリッチであるほどNOx触媒41に流入する還元材の量が多くなりNOx触媒41から放出されるNH3量は増大するので、これに対応して、排気流量が多い方が第1NH3量が大きく算出されるように第1A/F係数β3が設定されている。
第1熱劣化係数β4は、NOx触媒41の劣化度合いに応じて設定される係数である。PCM200は、車両の走行時間やDeNOx制御の実施回数等に基づいてNOx触媒41の劣化度合いを推定しており、熱劣化係数β4は、この推定された劣化度合いが高いほど(劣化が進んでいるほど)、大きい値とされる。つまり、NOx触媒41の劣化度合いが高い方がNOx触媒41に吸蔵されているNOxがNH3に変換される反応が促進されることがわかっており、これに対応して劣化度合いが高い方が第1NH3量が大きく算出されるように、熱劣化係数β4が設定されている。
第2推定部302は、まず、エンジン本体1から排出されるRawNOxの量(流量)を推定する。本実施形態では、RawNOxの流量は、排気流量と混合気の空気過剰率λ等から推定される。次に、第2推定部302は、この吸蔵NOx量の推定値に、第2流量係数β22および第2A/F係数β23をそれぞれ掛けることで、第2NH3の量を算出する。
第2流量係数β22は、図13に示すマップに基づいて設定される係数であり、排気流量に応じて設定される。具体的には、第2流量係数β22は、第1流量係数β2と同様に、排気流量が多いほど大きい値とされる。ただし、NOx触媒41に吸蔵されていたNOxと異なり、RawNOxに対してNOx触媒41の温度が与える影響はNOx触媒41の温度が所定温度以上になると同等となり、第2流量係数β22はNOx触媒41の温度が所定温度以上では一定値とされる。
第2A/F係数β23は、図14に示すマップに基づいて設定される係数であり、排気ガスの空燃比(A/F)に応じて設定される。具体的には、第2A/F係数β23は、第2A/F係数β3と同様に、排気ガスの空燃比が小さい(リッチ)ほど大きい値とされる。ただし、NOx触媒41に吸蔵されていたNOxと異なり、RawNOxに対して排気ガスの空燃比が与える影響は排気の空燃比が所定値以下になると同等となり、第2A/F係数β23は排気ガスの空燃比が所定値以上では一定値とされる。
このようにして、本実施形態では、第1NH3の量と第2NH3の量とが推定される。そして、DCU300は、これら第1NH3の量と第2NH3の量とを合わせた量を、DeNOx制御時(詳細には、NH3放出開始時期からDeNOx制御の終了時までの間)に、NOx触媒41から放出されるNH3として算出する。
(3−6)尿素噴射量の制御フロー
図15は、尿素噴射量の制御手順をまとめたフローチャートである。このフローチャートを用いて、尿素噴射量の制御の全体の流れを説明する。なお、図15は、SCR触媒46とNOx触媒41の両方でNOx浄化が行われているときの制御フローである。
まず、ステップS21にて、DCU300は、エンジン回転数、エンジン負荷、混合気および排気ガスの空気過剰率λ、NOx触媒41の温度、排気流量を含む各種車両の各種情報を取得する。
次に、ステップS22にて、DCU300は、後述するように、DeNOx制御の非実施時および切替期間を除く通常の運転時における尿素噴射量の値である基本尿素噴射量を算出する。本実施形態では、SCR触媒46に吸着されているNH3の量が所定量に維持されるように、エンジンの運転条件等に基づいて基本尿素噴射量が決定される。
次に、ステップS23にて、DCU300は、DeNOx制御中であるか否かを判定する。本実施形態では、アクティブDeNOx制御またはパッシブDeNOx制御の実施中は「1」となり、その他の場合には「0」となるフラグが設定されており、ステップS23では、このフラグが1であるか否かを判定する。
ステップS23の判定がYESの場合は、ステップS24に進む。ステップS24では、補正係数Kの値を決定する。具体的には、K=α1×α2×α3により、補正係数Kの値を算出する。
ここで、第1補正係数α1は、排気ガスの空気過剰率λに応じて図7に示したマップから求められる。具体的には、DCU300には図7に示すマップが記憶されており、DCU300は、現在の排気ガスの空気過剰率λに対応する値をこのマップから抽出する。
また、DCU300には、図8に対応するマップが記憶されており、DCU300は、現在の排気流量とNOx触媒41の温度とに対応する値をこのマップから抽出して、α2×α3の値とする。
ステップS24の後はステップS25に進む。ステップS25では、DCU300は、吸蔵酸素減少速度MreO2を算出する。具体的には、DCU300は、ステップS24で決定した補正係数K、ステップS21で読み込んだ、排気流量、排気ガスの空気過剰率λを用いて、式(2)により吸蔵酸素減少速度MreO2を算出する。
ステップS25の後はステップS26に進む。ステップS26では、ステップS25で算出した吸蔵酸素減少速度MreO2を積算する。つまり、ΣMreO2を算出して、DeNOx制御の開始に伴って現在までに減少したNOx触媒41の吸蔵酸素量を算出する。
ステップS26の後はステップS27に進む。ステップS27では、ステップS26で算出したΣMreO2が吸蔵酸素最大量以上であるか、つまり、NH3放出開始時期に到達したか否かを判定する。なお、前記のように、吸蔵酸素最大量は予め設定されてDCU300に記憶されている。
ステップS27の判定がNOの場合、つまり、ΣMreO2が吸蔵酸素最大量未満であり、まだ、NH3放出開始時期に到達していないと推定される場合は、ステップS28に進み、NH3放出量つまりNOx触媒41からのNH3の放出量を0にする。また、ステップS28の後はステップS29に進み、最終的な(実際に噴射される)尿素噴射量を、ステップS22で算出した尿素噴射量の基本値に設定する。ステップS29の後は処理を終了する(ステップS21に戻る)。
一方、ステップS27の判定がYESであって、ΣMreO2が吸蔵酸素最大量以上であり、NH3放出開始時期に到達したあるいはこれを超えたと推定される場合は、ステップS30に進む。ステップS30では、NH3放出量つまりNOx触媒41からのNH3の放出量を前記(3−5)で説明した手順で算出する。
ステップS30の後はステップS31に進む。ステップS31では、DCU300は、ステップS30で算出したNH3放出量を尿素換算した値を削減量として算出する。
ステップS31の後はステップS32に進む。ステップS32では、DCU300は、ステップS31で求めた尿素換算値を、ステップS22で求めた基本尿素噴射量から減算し、その値を最終的な尿素噴射量とする。
ステップS32の後はステップS33に進む。ステップS33では、DCU300は、ステップS301で算出したNH3の放出量を積算して、NH3放出開始時期以後にDeNOx触媒41から放出されたNH3の総量を算出する。ステップS32の後は処理を終了する(ステップS21に戻る)。
このように、本実施形態では、DeNOx制御の実施中であっても、ステップS27の判定がYESとなってNH3放出開始時期に到達した後にのみ、尿素噴射量の基本尿素噴射量からの減量が行われる。従って、吸蔵酸素減少速度が大きく、DeNOx制御が開始されてからNH3放出開始時期に到達するまでの時間が短いほど、減量がなされる時間は長くなり、DeNOx制御の実施中に排気通路40に供給されるトータルの尿素噴射量は少なくなる。
なお、前記のように、基本尿素噴射量は、SCR触媒46に吸着されているNH3の量が所定量に維持されるように適宜調整されるが、基本尿素噴射量を上回る削減量が必要になった場合には、DeNOx制御終了後の基本尿素噴射量に対して、その上回った分の削減量を差し引けば良い。
一方、ステップS23の判定がNOの場合は、ステップS40に進む。
ステップS40では、DCU300は、吸蔵酸素減少速度の積算値(ΣMreO2)を0にリセットするとともに、NOx触媒41からのNH3放出量を0にリセットする。なお、NH3放出量の総量は記憶しておく。
ステップS40の後はステップS41に進む。ステップS41では、DCU300は、DeNOx制御が終了してから切り替え期間(前記のように、予め設定されている)が未経過か否かを判定する。
ステップS41の判定がYESの場合はステップS42に進む。ステップS42では、直前のDeNOx制御の実施時においてステップS32で算出された値であって、DeNOx制御の実施に伴ってNOx触媒41から放出されたNH3の総量に基づいて、尿素噴射量の削減量を決定する。前記のように、本実施形態では、NH3の総量が大きい方が削減量が大きくなるようにこれが決定される。また、前記のように、このステップS42において算出される削減量(切り替え期間中の削減量)は、ステップS26において算出される削減量(DeNOx制御中の削減量)よりも小さい値に設定される。
ステップS42の後はステップS43に進む。ステップS43では、DCU300は、ステップS22で算出した基本尿素噴射量からステップS42で算出した削減量を引いた値を、最終的な尿素噴射量として決定する。ステップS42の後は処理を終了する(ステップS21に戻る)。
一方、ステップS41の判定がNOの場合、すなわちDeNOx制御で発生したNH3放出量の総量に相当する量の尿素噴射量の削減が終了した場合にはステップS51に進む。ステップS51では、最終的な尿素噴射量をステップS22で算出した尿素噴射量の基本値に設定する。ステップS51の後は処理を終了する(ステップS21に戻る)。
(4)作用等
以上のように、本実施形態では、DeNOx制御時は、尿素噴射量がDeNOx制御の非実施時よりも低減される。従って、DeNOx制御時において、SCR触媒46に供給されるNH3が過大になりこれがSCR触媒46の下流側にすり抜けるのを抑制できる。
しかも、本実施形態では、DeNOx制御時に、排気ガスの空気過剰率λを1よりも十分に小さい0.98未満になるように制御している。そのため、気筒2および排気通路40を流通する空気の量や燃料量の変動に伴って、実際の排気ガスの空気過剰率λが1以上になるのをより確実に回避することができる。そして、これにより、DeNOx制御の途中で、NOx触媒41からのNH3の放出が予期せず停止されるのを防止でき、DeNOx制御中、NOx触媒41からSCR触媒46に安定してNH3を供給することができる。そして、このように、NOx触媒41からSCR触媒46に安定してNH3が供給されることで、前記のように、DeNOx制御実施時の尿素噴射量をDeNOx制御の非実施時の尿素噴射量よりも少なくしても、SCR触媒46内のNH3の量を適切な量に維持することができる。従って、NH3がSCR触媒46の下流側にすり抜けるのを抑制できるとともにSCR触媒46にて適切にNOxを浄化させることができる。
特に、本実施形態では、DeNOx制御時の尿素噴射量が吸蔵酸素減少速度に応じて変更される。具体的には、吸蔵酸素減少速度が大きくDeNOx制御を開始してからNOx触媒41からのNH3の放出が開始されるまでの間の時間(遅れ時間)が短いほど、尿素噴射量が小さくされる。
従って、SCR触媒46に供給されるNH3の量を確実に適切な量にして、NH3がSCR触媒46の下流側にすり抜けるのをより確実に抑制できるとともにSCR触媒46にてより適切にNOxを浄化させることができる。
詳細には、前記遅れ時間が短いことに伴ってNOx触媒41から多くのNH3が放出されてSCR触媒46に多くのNH3が蓄積(吸着)されている状態で、尿素インジェクタ45からSCR触媒46に多量のNH3が供給されるのを防止することができ、NH3がSCR触媒46で吸着されずにSCR触媒46の下流側にすり抜けるのを抑制できる。また、前記遅れ時間が長いことに伴ってNOx触媒41からSCR触媒46に導入されるNH3が少なく、SCR触媒46内のNH3が少なくなる状態で、尿素インジェクタ45からSCR触媒46に少量のNH3しか供給されなくなるのを防止することができ、SCR触媒46内のNH3量を確保して適切にNOxを浄化させることができる。
また、本実施形態では、DeNOx制御が終了した後、切り替え期間が経過するまでは、最終的な(実際に噴射される)尿素噴射量が基本尿素噴射量よりも小さくなるように構成されて、DeNOx制御の非実施時の他の期間よりも尿素噴射量が小さくなるように構成されている。
従って、DeNOx制御の実施に伴ってSCR触媒46に多量のNH3が吸着されている状態で、尿素インジェクタ45から過剰な量のNH3が供給されるのを防止でき、NH3のSCR触媒46の下流側へのすり抜けを防止しつつ、効率よくNOxを浄化することができる。
また、本実施形態では、吸蔵酸素減少速度を、これと相関の高い排気ガスの空気過剰率λに基づいて算出しており、吸蔵酸素減少速度をより精度よく算出することができる。詳細には、本実施形態では、吸蔵酸素減少速度は式(2)によって空気不足幅(「1−λ」)に比例するように算出される。また、式(2)における補正係数Kを構成する第1補正係数α1は、排気ガスの空気過剰率λが小さい方が大きくなるように設定されている。従って、排気ガスの空気過剰率λが小さい方が吸蔵酸素減少速度は小さい値に算出され、DeNOx制御時において、排気ガスの空気過剰率λが大きい方が尿素噴射量は小さくされる。
そして、吸蔵酸素減少速度が精度よく算出されることで、NH3放出開始時期およびDeNOx制御時にNOx触媒41から放出されるNH3の量を精度よく推定することができる。従って、この推定量に基づいて、DeNOx制御時およびDeNOx制御後の尿素噴射量を、より適切な量、つまり、SCR触媒46でNOxを適切に浄化しつつNH3のSCR触媒46の下流側へのすり抜けを抑制できる量、に制御することができる。
さらに、本実施形態では、吸蔵酸素減少速度を、排気流量、および、第1補正係数α1、第2補正係数α2、第3補正係数α3を用いて算出していることで、吸蔵酸素減少速度の算出精度を高めることができ、より一層、尿素噴射量を適切に制御することができる。
また、本実施形態では、アクティブDeNOx制御時において、ポスト噴射を膨張行程の前半に実施し、ポスト噴射された燃料を燃焼室6内で燃焼させている。そのため、アクティブDeNOx制御時において、NOx触媒41に流入する排気ガスに含まれるH2の量すなわち還元剤の量をより多くすることができ、吸蔵酸素減少速度を高めてNH3放出開始時期をより早くすることができる。従って、SCR触媒46に供給されるNH3の量を確保しつつ、尿素噴射量を少なく抑えることができる。つまり、SCR触媒46に効率よくNH3を供給することができる。
(5)変形例
前記実施形態では、DeNOx制御時に排気ガスの空気過剰率λを0.96あるいは0.98に制御する場合について説明したが、DeNOx制御時の排気ガスの空気過剰率λは、0.98未満になるように制御されればよく、前記とは異なる値であってもよい。
ただし、前記のように、DeNOx制御時に排気ガスの空気過剰率λを0.9よりも大きくなるように制御すれば、安定してSCR触媒46にNH3を供給することができる。
また、前記実施形態では、DeNOx制御時において、ポスト噴射を実施することで排気ガスの空気過剰率λを調整する場合について説明したが、気筒2に導入される空気量を変更することで、排気ガスの空気過剰率λを調整するようにしてもよい。ただし、前記のように、空気量を低減すると加速性が悪化するとともに、空気過剰率λの制御精度が悪化するおそれがある。従って、前記のように、DeNOx制御時には、ポスト噴射の噴射量を変更することで排気ガスの空気過剰率λを目標の値に制御するのが好ましい。
また、図15では、SCR触媒41とNOx触媒46との両方でNOxの浄化が行われている状態で尿素噴射量を減量する場合について説明したが、NOx触媒41のみでNOxが浄化されており且つDeNOx制御が実施された後にSCR触媒41でのNOxの浄化が開始された場合は、SCR触媒41でのNOx浄化開始後の尿素噴射量を、基本尿素噴射量から、ステップS33で算出したNH3放出量の総量分を減量すればよい。