JP2019064483A - 操舵制御装置 - Google Patents

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勲 並河
隆志 小寺
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Abstract

【課題】良好な操舵フィーリングを実現できる操舵制御装置を提供する。【解決手段】操舵装置2は、運転者により操舵される操舵部3と、運転者による操舵部3の操舵に応じて転舵輪4を転舵させる転舵部5と、操舵部3と転舵部5とを機械的に断接可能なクラッチ6とを備える。操舵部3は、ステアリングシャフト12における操舵側モータ17のトルク伝達部位よりもステアリングホイール11側に設けられ、操舵トルクThを検出するトルクセンサ42とを備える。操舵制御装置1は、クラッチ6が接続された状態では、位相遅れ補償後の操舵トルクに基づいて操舵側モータ17で発生すべき目標アシスト力を演算し、位相遅れ補償及び位相進み遅れ補償後の操舵トルクに基づいて転舵側モータ33で発生すべき目標アシスト力を演算する。【選択図】図1

Description

本発明は、操舵制御装置に関する。
従来、操舵装置の一種として、運転者により操舵される操舵部と運転者の操舵に応じて転舵輪を転舵させる転舵部とが、クラッチにより機械的に断接可能なステアバイワイヤ式のものがある。
例えば特許文献1の操舵制御装置では、通常は、クラッチにより操舵部と転舵部とを遮断したステアバイワイヤモード(SBWモード)とし、操舵側モータを有する操舵側アクチュエータにより操舵部に運転者の操舵に抗する操舵反力を付与するとともに、転舵側モータを有する転舵側アクチュエータにより転舵部に転舵輪を転舵させる転舵力を付与する。一方、同操舵制御装置では、操舵側アクチュエータの故障時は、クラッチにより操舵部と転舵部とを締結した電動パワーステアリングモード(EPSモード)とし、操舵側アクチュエータを停止させるとともに、転舵側アクチュエータにより運転者による操舵を補助するアシスト力を付与する。また、転舵側アクチュエータの故障時は、同じくEPSモードとし、転舵側アクチュエータを停止させるとともに、操舵側アクチュエータにより運転者による操舵を補助するアシスト力を付与する。
特開2016−132264号公報
ところで、上記従来の構成では、トルクセンサがステアリングシャフトにおける操舵側モータのトルク伝達部位よりもステアリングホイール側に設けられている。ここで、操舵トルクは、操舵装置を構成する各種部材の慣性や粘性等の影響により、ステアリングホイールから離れるほど時間的に遅れて伝達される。そのため、EPSモードにおいて、トルクセンサで検出される操舵トルクの値をそのまま用いて、該トルクセンサから離れた位置に設けられる操舵側モータ及び転舵側モータで発生すべき目標アシスト力を演算すると、遅れて伝達される操舵トルクの影響により振動等が発生するおそれがあり、操舵フィーリングの低下を招いてしまう。
本発明の目的は、良好な操舵フィーリングを実現できる操舵制御装置を提供することにある。
上記課題を解決する操舵制御装置は、運転者により操舵される操舵部と、転舵輪を転舵させる転舵部と、前記操舵部と前記転舵部とを機械的に断接可能なクラッチと、前記操舵部に運転者の操舵に抗する操舵反力を付与可能な操舵側モータを有する操舵側アクチュエータと、前記転舵部に前記転舵輪を転舵させる転舵力を付与可能な転舵側モータを有する転舵側アクチュエータとを備えた操舵装置を制御対象とし、前記操舵部は、ステアリングホイールが連結されるステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトにおける前記操舵側モータのトルク伝達部位よりも前記ステアリングホイール側に設けられたトルクセンサとを備えるものであって、前記トルクセンサにより検出される操舵トルクに対して位相遅れ補償を行う第1位相補償制御部と、前記操舵トルクに対して前記第1位相補償制御部よりも位相を遅らせるように位相遅れ補償を行う第2位相補償制御部と、前記クラッチが接続された状態で、前記第1位相補償制御部による位相遅れ補償後の前記操舵トルクに基づいて前記操舵側モータで発生すべき目標アシスト力を演算し、前記第2位相補償制御部による位相遅れ補償後の前記操舵トルクに基づいて前記転舵側モータで発生すべき目標アシスト力を演算する制御部とを備えた。
上記構成によれば、操舵側モータに対し、第1位相補償制御部による位相遅れ補償後の操舵トルクに基づいて目標アシスト力を演算するため、操舵側モータで発生するトルクによって振動が発生することを抑制できる。また、操舵側モータよりもトルクセンサから離れて設けられる転舵側モータに対しては、第2位相補償制御部により第1位相補償制御部よりも位相が遅れるように位相遅れ補償を行った操舵トルクに基づいて目標アシスト力を演算するため、転舵側モータで発生するトルクによって振動が発生することを抑制できる。このようにトルクセンサに対する相対位置に応じて検出される操舵トルクに位相補償を行うことで、振動の発生を抑制し、良好な操舵フィーリングを実現できる。
上記操舵制御装置において、前記第2位相補償制御部は、前記操舵トルクに対し、前記位相遅れ補償に加えて位相進み補償を行うことが好ましい。
上記構成によれば、特に操舵トルクの高周波成分の位相が進められることで、転舵側モータの応答性を向上させて、良好な操舵フィーリングを実現できる。
上記操舵制御装置において、前記第2位相補償制御部は、前記操舵トルクに対して位相遅れ補償を行う位相遅れ補償制御部と、位相進み遅れ補償を行う位相進み遅れ補償制御部とを含むことが好ましい。
上記構成によれば、第2位相補償制御部は、位相遅れ補償と位相進み遅れ補償との二段階の位相補償を行うことにより、容易に第1位相補償制御部よりも位相が遅れるように操舵トルクの位相補償を行うことができる。
上記操舵制御装置において、前記制御部は、前記操舵トルクに基づいて前記操舵側モータ及び前記転舵側モータで発生すべき前記目標アシスト力の基礎成分をそれぞれ演算するとともに、車速が小さくなるほど前記操舵トルクに対する前記各基礎成分の変化の割合であるアシスト勾配が大きくなるように該各基礎成分を演算し、前記第1位相補償制御部は、前記アシスト勾配が大きくなるほど、前記位相遅れ補償について、ゲインを低減させて位相遅れ量が大きくなるように該位相遅れ補償の特性を変更し、前記第2位相補償制御部は、前記アシスト勾配が大きくなるほど、前記位相遅れ補償について、ゲインを低減させて位相遅れ量が大きくなるように該位相遅れ補償の特性を変更するとともに、車速が小さくなるほど、前記位相進み遅れ補償のうちの位相遅れ補償について、ゲインを低減させて位相遅れ量が大きくなるように該位相進み遅れ補償の特性を変更することが好ましい。
上記構成によれば、車速が小さくなるほど、アシスト勾配が大きくなるため、演算される目標アシスト力が大きくなる。これにより、大きなアシスト力の必要な低速時に目標アシスト力が大きく演算されるため、良好な操舵フィーリングを実現できる。一方で、操舵トルクが遅れて伝達されることに起因して、目標アシスト力が大きくなる車速が遅い状態で振動が発生しやすくなる。この点上記構成では、第1及び第2位相補償制御部は、アシスト勾配が大きくなるほど、ゲインを低減させて位相遅れ量が大きくなるように位相遅れ補償の特性をそれぞれ変更し、さらに第2位相補償制御部は、車速が小さくなるほど、ゲインを低減させて位相遅れ量が大きくなるように位相進み遅れ補償の特性を変更する。そのため、振動等が発生することを好適に抑制し、良好な操舵フィーリングを実現できる。
上記操舵制御装置において、前記制御部は、前記操舵側モータ及び前記転舵側モータのいずれか一方のモータの方が、他方のモータよりも前記操舵トルクに基づく前記目標アシスト力が小さくなるように演算することが好ましい。
上記構成によれば、操舵側モータ及び転舵側モータから操舵装置に付与されるアシスト力が過大となって操舵フィーリングが低下することを抑制できる。
本発明によれば、良好な操舵フィーリングを実現できる。
ステアバイワイヤ式の操舵装置の概略構成図。 操舵制御装置のブロック図。 モータ推定温度演算部のブロック図。 操舵側モータ制御部のブロック図。 操舵トルクと基本アシスト成分、及びアシスト勾配を示すグラフ。 (a)は位相遅れ補償制御部のゲイン線図、(b)は位相遅れ補償制御部の位相線図。 転舵側モータ制御部のブロック図。 (a)は位相進み遅れ補償制御部のゲイン線図、(b)は位相進み遅れ補償制御部の位相線図。 (a)は補正前後のq軸電流指令値の変化を示すグラフ、(b)はモータ推定温度の変化を示すグラフ。
以下、操舵制御装置の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、操舵制御装置1の制御対象となるステアバイワイヤ式の操舵装置2は、運転者により操舵される操舵部3と、運転者による操舵部3の操舵に応じて転舵輪4を転舵させる転舵部5と、操舵部3と転舵部5とを機械的に断接可能なクラッチ6とを備えている。
操舵部3は、ステアリングホイール11が固定されるステアリングシャフト12を備えている。ステアリングシャフト12は、ステアリングホイール11側から順にコラム軸13と入力中間軸14とを連結することにより構成されている。入力中間軸14は、クラッチ6の入力側部材に接続されている。
操舵部3には、ステアリングシャフト12に操舵力を付与可能な操舵側アクチュエータ16が設けられている。操舵側アクチュエータ16は、駆動源となる操舵側モータ17と、操舵側モータ17の回転を減速してコラム軸13に伝達する操舵側減速機18とを備えている。なお、本実施形態の操舵側モータ17には、三相のブラシレスモータが採用されている。
転舵部5は、第1ピニオン軸21と、第1ピニオン軸21に連結されたラック軸22とを備えている。第1ピニオン軸21の上端には出力中間軸24が連結されており、出力中間軸24はクラッチ6の出力側部材に接続されている。第1ピニオン軸21とラック軸22とは、所定の交差角をもって配置されており、第1ピニオン軸21に形成された第1ピニオン歯21aとラック軸22に形成された第1ラック歯22aとを噛合することによって第1ラックアンドピニオン機構25が構成されている。ラック軸22の両端には、タイロッド26が連結されており、タイロッド26の先端は、転舵輪4が組み付けられた図示しないナックルに連結されている。
転舵部5には、ラック軸22に転舵輪4を転舵させる転舵力を付与する転舵側アクチュエータ31が第2ピニオン軸32を介して設けられている。転舵側アクチュエータ31は、駆動源となる転舵側モータ33と、転舵側モータ33の回転を減速して第2ピニオン軸32に伝達する転舵側減速機34とを備えている。なお、本実施形態の転舵側モータ33には、三相のブラシレスモータが採用されている。第2ピニオン軸32とラック軸22とは、所定の交差角をもって配置されており、第2ピニオン軸32に形成された第2ピニオン歯32aとラック軸22に形成された第2ラック歯22bとを噛合することによって第2ラックアンドピニオン機構35が構成されている。
このように構成された操舵装置2では、クラッチ6が開放された状態(ステアバイワイヤ(SBW)モード)において、運転者の操舵に応じて転舵側アクチュエータ31により第2ピニオン軸32が回転駆動され、この回転が第2ラックアンドピニオン機構35によりラック軸22の軸方向移動に変換されることで、転舵輪4の転舵角が変更される。このとき、操舵側アクチュエータ16からは、運転者の操舵に抗する操舵反力がステアリングホイール11に付与される。
また、クラッチ6が締結された状態(電動パワーステアリング(EPS)モード)において、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト12の回転が第1ラックアンドピニオン機構25によりラック軸22の軸方向移動に変換され、この軸方向移動がタイロッド26を介してナックルに伝達されることで、転舵輪4の転舵角が変更される。このとき、操舵側アクチュエータ16及び転舵側アクチュエータ31の少なくとも一方から運転者による操舵を補助するためのアシスト力が付与される。
次に、本実施形態の電気的構成について説明する。
操舵制御装置1は、クラッチ6、操舵側アクチュエータ16及び転舵側アクチュエータ31に接続されており、これらの作動を制御する。なお、操舵制御装置1は、図示しない中央処理装置(CPU)やメモリを備えており、所定の演算周期ごとにメモリに記憶されたプログラムをCPUが実行することによって、各種制御が実行される。
操舵制御装置1には、車両の車速Vを検出する車速センサ41、及びステアリングシャフト12に付与された操舵トルクThを検出するトルクセンサ42が接続されている。なお、トルクセンサ42は、コラム軸13における操舵側アクチュエータ16(操舵側減速機18)との連結部分よりもステアリングホイール11側に設けられており、トルクセンサ42は、トーションバー43の捩れに基づいて操舵トルクThを検出する。また、操舵制御装置1には、操舵部3の操舵量を示す検出値として操舵側モータ17の回転角θ_sを検出する操舵側回転センサ44、及び転舵部5の転舵量を示す検出値として転舵側モータ33の回転角θ_tを検出する転舵側回転センサ45が接続されている。さらに、操舵制御装置1には、操舵側モータ17近傍の周辺温度Odを検出する温度センサ46が接続されている。そして、操舵制御装置1は、これら各センサにより検出される各種状態量に基づいて、操舵側モータ17(操舵側アクチュエータ16)、転舵側モータ33(転舵側アクチュエータ31)及びクラッチ6の作動を制御する。
図2に示すように、操舵制御装置1は、モータ制御信号Sm_s,Sm_t及びクラッチ制御信号Sclを出力する制御部としてのマイコン51と、操舵側モータ17に駆動電力を供給するモータ駆動回路52と、転舵側モータ33に駆動電力を供給するモータ駆動回路53と、クラッチ6に駆動電力を供給するクラッチ駆動回路54とを備えている。そして、モータ制御信号Sm_s,Sm_tがモータ駆動回路52,53に出力されることにより、操舵側モータ17及び転舵側モータ33にモータ制御信号Sm_s,Sm_tに応じた駆動電力がそれぞれ供給され、操舵側アクチュエータ16及び転舵側アクチュエータ31の作動が制御される。また、クラッチ制御信号Sclがクラッチ駆動回路54に出力されることにより、クラッチ6の作動が制御される。
詳しくは、マイコン51には、上記車速V、操舵トルクTh、回転角θ_s,θ_t及び周辺温度Odが入力される。また、マイコン51には、モータ駆動回路52,53と各相のモータコイルとの間の接続線55,56に設けられた電流センサ57,58により検出される操舵側モータ17及び転舵側モータ33の各電流値I_s,I_tが入力される。なお、図2では、説明の便宜上、各相の接続線55,56及び各相の電流センサ57,58をそれぞれ1つにまとめて図示している。そして、マイコン51は、これら各状態量に基づいてモータ制御信号Sm_s,Sm_t及びクラッチ制御信号Sclを出力する。
マイコン51は、モータ制御信号Sm_sを出力する操舵側モータ制御部61と、モータ制御信号Sm_tを出力する転舵側モータ制御部62と、クラッチ制御信号Sclを出力するクラッチ制御部63と、モータ推定温度Omを演算するモータ推定温度演算部64とを備えている。モータ推定温度演算部64には、温度センサ46により検出される周辺温度Od及び電流センサ57により検出される操舵側モータ17の電流値I_sが入力される。そして、モータ推定温度演算部64は、周辺温度Od及び電流値I_sに基づいて、操舵側モータ17のモータ推定温度Omを演算する。
具体的には、図3に示すように、モータ推定温度演算部64は、電流値I_sに基づいてモータ推定温度Omの温度増減値δOを演算する温度増減値演算部71を備えている。温度増減値演算部71は、電流値I_sの二乗と温度増減値δOとの関係を示すマップを備えている。このマップは、温度増減値δOが電流値I_sの二乗に比例して大きくなる傾向を有し、電流値I_sの二乗が非温度上昇電流値I0の二乗よりも小さな範囲で温度増減値δOが負の値となり、非温度上昇電流値I0の二乗よりも大きな範囲で温度増減値δOが正の値となるように設定されている。なお、非温度上昇電流値I0は、通電に伴う発熱量が操舵側モータ17の最低放熱量と略等しくなる値であり、操舵側モータ17の最低放熱量は、操舵側モータ17の使用が想定される条件の中の最も放熱し難い最悪条件下において操舵側モータ17が放熱する量である。非温度上昇電流値I0及び最低放熱量は、それぞれ操舵側モータ17の放熱特性を考慮して予め設定されている。そして、温度増減値演算部71は、入力された電流値I_sを二乗し、マップを参照することにより該二乗した電流値I_sに応じた温度増減値δOを演算する。このように演算された温度増減値δOは、第1加算器72に出力される。
第1加算器72には、温度増減値δOに加え、直前の演算周期で該第1加算器72が出力した温度増減合計値ΔOの前回値が遅延処理部73から入力される。第1加算器72は、温度増減値δOと温度増減合計値ΔOの前回値とを足し合わせた温度増減合計値ΔOの今回値を遅延処理部73及び第2加算器74に出力する。
第2加算器74には、温度増減合計値ΔOの今回値に加え、周辺温度Odが入力される。そして、モータ推定温度演算部64は、温度増減合計値ΔOの今回値に周辺温度Odを足し合わせてモータ推定温度Omを演算し、上記操舵側モータ制御部61及びクラッチ制御部63に出力する。
図2に示すように、クラッチ制御部63は、入力されるモータ推定温度Omが操舵側モータ17を停止させることの必要な限界温度Olimよりも低い過熱保護開始温度Ost以上であるか否かを判定する。そして、クラッチ制御部63は、モータ推定温度Omが過熱保護開始温度Ost未満である場合には、クラッチ6を開放状態とするクラッチ制御信号Sclをクラッチ駆動回路54に出力する。これにより、クラッチ6が開放状態となり、SBWモードとなる。一方、モータ推定温度Omが過熱保護開始温度Ost以上である場合には、クラッチ6を接続状態とするクラッチ制御信号Sclをクラッチ駆動回路54に出力する。これにより、クラッチ6が接続状態となり、EPSモードとなる。
SBWモードでは、操舵側モータ制御部61は、操舵トルクThに基づき、モデル式(理想モデル)を利用して目標操舵角を演算する。なお、モデル式として、例えばステアリングホイール11と転舵輪4とが機械的に連結されたものにおいて、転舵輪4の転舵角に換算可能な回転軸に作用するトルクと回転角との関係を定めて表したものを用いることができる。また、操舵側モータ制御部61は、操舵側モータ17の回転角θ_sを、例えばステアリング中立位置からの回転数をカウントすることにより、360°を超える範囲の絶対角に換算し、操舵側減速機18の減速比を考慮してステアリングホイール11の回転角である上側操舵角θhを演算する。そして、操舵制御装置1は、上側操舵角θhが目標操舵角に追従するようにフィードバック制御を実行することにより、操舵側モータ17に駆動電力を供給し、操舵部3(ステアリングホイール11)に操舵反力を付与する。
また、SBWモードでは、転舵側モータ制御部62は、転舵側モータ33の回転角θ_tを絶対角に換算し、転舵側減速機34の減速比、第1及び第2ラックアンドピニオン機構25,35の減速比を考慮して下側操舵角θpを演算する。なお、下側操舵角θpは、クラッチ6が締結状態である場合におけるステアリングホイール11の回転角度に相当する。転舵側モータ制御部62は、操舵側モータ制御部61から目標操舵角を取得し、下側操舵角θpが目標操舵角に追従するようにフィードバック制御を実行することにより、転舵側モータ33に駆動電力を供給し、転舵部5(第2ピニオン軸32)に転舵力を付与する。なお、下側操舵角θpが追従すべき目標操舵角として、上側操舵角θhが追従すべき目標操舵角に対して車速Vに応じて変化する伝達比を乗じたものとしてもよい。
EPSモードでは、操舵側アクチュエータ16及び転舵側アクチュエータ31のいずれか一方を停止させた場合には、操舵トルクThに基づいて他方の目標アシスト力を演算し、該目標アシスト力が操舵装置2に付与されるように、該他方のモータの作動を制御する。また、上記のように操舵側モータ17のモータ推定温度Omが過熱保護開始温度Ost以上となることでEPSモードに切り替わった場合には、操舵トルクThに基づいて操舵側モータ17の目標アシスト力を演算し、モータ推定温度Omが限界温度Olimを超えない範囲の電力供給に基づいて該目標アシスト力が操舵装置2に付与されるように、操舵側モータ17の作動を制御する。このとき、転舵側アクチュエータ31については、操舵トルクThに基づいて転舵側モータ33の目標アシスト力を演算し、該目標アシスト力が操舵装置2に付与されるように、転舵側モータ33の作動を制御する。
先ず、モータ推定温度Omが過熱保護開始温度Ost以上となることでEPSモードに切り替わった場合の操舵側モータ制御部61の制御態様について説明する。
図4に示すように、操舵側モータ制御部61は、操舵側モータ17の目標アシスト力となるアシスト指令値Ta_s*を演算するアシスト指令値演算部81と、アシスト指令値Ta_s*に対応した電流指令値Id_s*,Iq_s*を演算する電流指令値演算部82とを備えている。また、操舵側モータ制御部61は、電流指令値Id_s*,Iq_s*を制限するガード処理部83と、ガード処理部83により補正された電流指令値Id_s**,Iq_s**に基づいてモータ制御信号Sm_sを生成するモータ制御信号生成部84とを備えている。
アシスト指令値演算部81は、アシスト指令値Ta_s*の基礎成分である基本アシスト成分Tab_s*を演算する基本アシスト成分演算部85と、操舵トルクThの位相補償を行う第1位相補償制御部としての位相遅れ補償制御部86を備えている。基本アシスト成分演算部85は、位相遅れ補償制御部86による位相補償後の操舵トルクTh'及び車速Vに基づいて、基本アシスト成分Tab_s*を演算する。
図5に示すように、基本アシスト成分演算部85は、操舵トルクTh'の絶対値が大きいほど、また車速Vが小さいほど、より大きな絶対値となる基本アシスト成分Tab_s*を演算する。特に、操舵トルクTh'と基本アシスト成分Tab_s*との関係では、操舵トルクTh´が大きいほど、操舵トルクTh'の変化に対する基本アシスト成分Tab_s*の変化の割合が大きくなるように設定されている。すなわち、基本アシスト成分演算部85は、操舵トルクTh'が大きいほど、接線L1,L2の傾きで表されるアシスト勾配Ragが大きくなるように基本アシスト成分Tab_s*を演算する。
図4に示すように、基本アシスト成分演算部85は、操舵トルクTh'及び車速Vに応じたアシスト勾配Ragを位相遅れ補償制御部86に出力する。位相遅れ補償制御部86は、アシスト勾配Ragに基づいて、位相補償の特性(フィルタ係数)を変更する。
具体的には、位相遅れ補償制御部86は、下記(1)式の伝達関数Gc1(s)で表される位相遅れ補償(ローパスフィルタ)を行う。
なお、(1)式において「T1」は時定数、「s」はラプラス演算子、「a」は「1」よりも小さな係数を示す。係数aは、上流側の操舵システムを示す伝達関数Gsu(s)に伝達関数Gc1(s)を直列補償要素として加えた開ループ伝達関数(=Gsu(s)×Gc1(s))が、例えばナイキスト線図を用いた安定判別により安定となるように設定される。なお、伝達関数Gsu(s)は、マイコン51に入力される操舵トルクThに対し、該操舵トルクThに基づいて操舵側モータ17で発生したトルクが操舵側減速機18、及びステアリングシャフト12を介してトルクセンサ42に伝達されるまでのシステムを数式化した伝達関数である。そして、図6(a)及び図6(b)に示すように、アシスト勾配Ragの上昇に応じて、ゲインを低減させるとともに位相の遅れ量が大きくなるように、係数aの値を小さくすることで、位相遅れ補償の特性を変更する。このように位相遅れ補償の特性を変更することで、上記モータ制御信号生成部84による電流フィードバック制御の実行により振動の発生を抑制し、良好な操舵フィーリングを実現している。
図4に示すように、アシスト指令値演算部81は、操舵トルクThを微分したトルク微分値dThに基づいてトルク微分補償成分Tti_s*を演算するトルク微分補償成分演算部87を備えている。トルク微分補償成分演算部87は、入力されるトルク微分値dTh(の絶対値)が大きいほど、基本アシスト成分Tab_s*(の絶対値)をより増加させるような値を有するトルク微分補償成分Tti_s*を演算する。なお、トルク微分補償成分Tti_s*を基本アシスト成分Tab_s*に重畳することにより、例えばブレーキ操作に伴って生じるブレーキ振動等の外乱を抑制する効果がある。
このように演算された基本アシスト成分Tab_s*とトルク微分補償成分Tti_s*とは、加算器88に入力される。そして、アシスト指令値演算部81は、これら基本アシスト成分Tab_s*及びトルク微分補償成分Tti_s*の加算値を、アシスト指令値Ta_s*として電流指令値演算部82に出力する。
電流指令値演算部82は、アシスト指令値Ta_s*に基づいて、操舵側モータ17の駆動電流の目標値である電流指令値Id_s*,Iq_s*を演算する。本実施形態では、電流指令値演算部82は、アシスト指令値Ta_s*に基づいてd/q座標系におけるq軸上のq軸電流指令値Iq_s*を演算し、q軸電流指令値Iq_s*をガード処理部83に出力する。なお、d軸上のd軸電流指令値Id_s*はゼロに設定されており、電流指令値演算部82は、d軸電流指令値Id_s*もガード処理部83に出力する。
ガード処理部83には、電流指令値Id_s*,Iq_s*に加えて、モータ推定温度Omが入力される。ガード処理部83は、モータ推定温度Omに応じて電流指令値Id_s*,Iq_s*の絶対値を制限した電流指令値Id_s**,Iq_s**をモータ制御信号生成部84に出力する。具体的には、ガード処理部83は、モータ推定温度Omが過熱保護開始温度Ostよりも大きく、かつ限界温度Olimよりも小さい過熱予備温度Opr以上であるか否かを判定する。そして、モータ推定温度Omが過熱予備温度Opr以上であり、q軸電流指令値Iq_s*の絶対値が非温度上昇電流値I0の絶対値よりも大きい場合には、このq軸電流指令値Iq_s*の絶対値を非温度上昇電流値I0に制限する。一方、モータ推定温度Omが過熱予備温度Opr未満の場合、又はq軸電流指令値Iq_s*の絶対値が非温度上昇電流値I0の絶対値以下の場合には、入力されたq軸電流指令値Iq_s*の値を制限しない。なお、d軸上のd軸電流指令値Id_s*はゼロに設定されているため、ガード処理部83は、モータ推定温度Omにかかわらず、d軸電流指令値Id_s*を制限しない。
モータ制御信号生成部84は、補正後の電流指令値Id_s**,Iq_s**に操舵側モータ17の電流値I_sを追従させる電流フィードバック制御を実行することにより、モータ制御信号Sm_sを生成し、モータ駆動回路52に出力する。具体的には、モータ制御信号生成部84には、補正後のd軸電流指令値Id_s**及びq軸電流指令値Iq_s**に加え、各電流値I_s及び回転角θ_sが入力される。モータ制御信号生成部84は、回転角θ_sに基づいて各電流値I_sをd/q座標上に写像することにより、d/q座標系における操舵側モータ17の実際の電流値であるd軸電流値及びq軸電流値を演算する。そして、モータ制御信号生成部84は、d軸電流値をd軸電流指令値Id_s**に追従させるべく、またq軸電流値をq軸電流指令値Iq_s**に追従させるべく、それぞれの偏差に基づく電流フィードバック制御を行うことによりモータ制御信号Sm_sを生成する。このモータ制御信号Sm_sがモータ駆動回路52に出力されることにより操舵側モータ17にモータ制御信号Sm_sに応じた駆動電力が供給され、操舵側モータ17(操舵側アクチュエータ31)からアシスト指令値Ta_s*に応じたモータトルクがアシスト力としてステアリングシャフト12に付与される。
次に、モータ推定温度Omが過熱保護開始温度Ost以上となることでEPSモードに切り替わった場合の転舵側モータ制御部62の制御態様について説明する。
図7に示すように、転舵側モータ制御部62は、転舵側モータ33の目標アシスト力となるアシスト指令値Ta_t*を演算するアシスト指令値演算部91を備えている。また、転舵側モータ制御部62は、アシスト指令値Ta_t*に対応した電流指令値Id_t*,Iq_t*を演算する電流指令値演算部92と、電流指令値Id_t*,Iq_t*に基づいてモータ制御信号Sm_tを生成するモータ制御信号生成部93とを備えている。
アシスト指令値演算部91は、基本アシスト成分Tab_t*を演算する基本アシスト成分演算部94と、操舵トルクThの位相を遅らせる位相遅れ補償制御部95と、操舵トルクTの位相を遅らせるとともに進ませる位相進み遅れ補償制御部96とを備えている。なお、本実施形態では、位相遅れ補償制御部95及び位相進み遅れ補償制御部96により、第2位相補償制御部が構成されている。基本アシスト成分演算部85は、位相遅れ補償制御部95及び位相進み遅れ補償制御部96による位相補償後の操舵トルクTh''及び車速Vに基づいて、基本アシスト成分Tab_t*を演算する。なお、基本アシスト成分演算部94は、操舵側モータ制御部61の基本アシスト成分演算部85と同様に、操舵トルクTh''の絶対値が大きいほど、また車速Vが小さいほど、より大きな絶対値となる基本アシスト成分Tab_s*を演算する。本実施形態では、基本アシスト成分演算部94が演算する操舵トルクTh''及び車速Vに対する基本アシスト成分Tab_t*の絶対値は、基本アシスト成分演算部85が演算する操舵トルクTh'及び車速Vに対する基本アシスト成分Tab_s*よりも大きくなるように設定されている。
位相遅れ補償制御部95は、下記(2)式の伝達関数Gc2(s)で表される位相遅れ補償を行う。
なお、(2)式において「T2」は時定数、「s」はラプラス演算子、「b」は「1」よりも小さな係数を示す。そして、位相遅れ補償制御部95は、位相遅れ補償制御部86と同様に、アシスト勾配Ragの上昇に応じて、ゲインを低減させるとともに位相の遅れ量が大きくなるように、係数bの値を小さくすることで、位相遅れ補償の特性を変更する(図6(a),(b)参照)。
また、位相進み遅れ補償制御部96は、下記(3)式の伝達関数Gc3(s)で表される位相進み遅れ補償(バンドパスフィルタ)を行う。
なお、(3)式において「T3」及び「T4」は時定数、「s」はラプラス演算子、「c」は「1」よりも小さな係数、「d」は「1」よりも大きな係数を示す。そして、位相進み遅れ補償制御部96は、図8(a)及び図8(b)に示すように、車速Vの減少に応じて、ゲインを低減させるとともに位相の遅れ量が大きくなるように、係数cの値を小さくすることで、位相進み遅れ補償の特性を変更する。
係数b,c,dは、下流側の操舵システムを示す伝達関数Gsl(s)に伝達関数Gc2(s)及び伝達関数Gc3(s)を直列補償要素として加えた開ループ伝達関数(=Gsl(s)×Gc2(s)×Gc3(s))が、例えばナイキスト線図を用いた安定判別により安定となるように設定される。なお、伝達関数Gsl(s)は、マイコン51に入力される操舵トルクThに対し、該操舵トルクThに基づいて転舵側モータ33で発生したトルクが転舵側減速機34、第2ピニオン軸32、ラック軸22、第1ピニオン軸21、出力中間軸24、クラッチ6、入力中間軸14、及びコラム軸13を介してトルクセンサ42に伝達されるシステムを数式化した伝達関数である。このように位相遅れ補償及び位相進み遅れ補償の特性を変更することで、上記モータ制御信号生成部93による電流フィードバック制御の実行により振動の発生を抑制し、良好な操舵フィーリングを実現している。
図7に示すように、アシスト指令値演算部91は、上記トルク微分補償成分演算部87と同様に、操舵トルクThを微分したトルク微分値dThに基づいてトルク微分補償成分Tti_t*を演算するトルク微分補償成分演算部97を備えている。基本アシスト成分Tab_t*とトルク微分補償成分Tti_t*とは、加算器98に入力される。そして、アシスト指令値演算部91は、これら基本アシスト成分Tab_t*及びトルク微分補償成分Tti_t*の加算値を、アシスト指令値Ta_t*として電流指令値演算部92に出力する。また、電流指令値演算部92は、上記電流指令値演算部82と同様に、アシスト指令値Ta_t*に基づいて、転舵側モータ33の駆動電流の目標値である電流指令値Id_t*,Iq_t*を演算する。そして、モータ制御信号生成部93は、上記モータ制御信号生成部84と同様に、電流指令値Id_t*,Iq_t*に転舵側モータ33の各電流値I_tを追従させる電流フィードバック制御を実行することにより、モータ制御信号Sm_tを生成し、モータ駆動回路53に出力する。
次に、モータ推定温度Omが過熱保護開始温度Ost以上になることでEPSモードに切り替わった場合における操舵側モータ17の制御態様について、一例を説明する。
例えば図9(a)に示すように、時刻t0から時刻t1の間は、q軸電流指令値Iq_s*が非温度上昇電流値I0以下であるため、通電による発熱量よりも放熱量が大きくなり、図9(b)に示すように、モータ推定温度Omは徐々に低下する。また、時刻t1以降、q軸電流指令値Iq_s*が非温度上昇電流値I0よりも大きくなると、モータ推定温度Omが徐々に上昇する。そして、モータ推定温度Omが過熱予備温度Opr未満である時刻t2までは、操舵側モータ17に供給する電流が制限されず、補正後のq軸電流指令値Iq_s**は、アシスト指令値Ta_s*に基づいた補正前のq軸電流指令値Iq_s*と同一になる。このように操舵側モータ17の過熱保護を実行している間でも、運転者の操舵に応じて大きなアシスト力が付与される。
その後、モータ推定温度Omの上昇が続き、時刻t2において、モータ推定温度Omが過熱予備温度Oprに達すると、操舵側モータ17に供給する電流が制限され、補正後のq軸電流指令値Iq_s**が非温度上昇電流値I0となる。これにより、モータ推定温度Omの上昇が抑制され、操舵側モータ17の過熱が防止される。続いて、時刻t3において、q軸電流指令値Iq_s*が非温度上昇電流値I0以下になると、モータ推定温度Omは徐々に低下する。そして、時刻t4において、q軸電流指令値Iq_s*が非温度上昇電流値I0より大きくなっても、モータ推定温度Omが過熱予備温度Opr未満である間は、操舵側モータ17に供給する電流が制限されず、補正後のq軸電流指令値Iq_s**は、アシスト指令値Ta_s*に基づいた補正前のq軸電流指令値Iq_s*と同一になる。
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)操舵側モータ制御部61は、位相遅れ補償制御部86による位相遅れ補償後の操舵トルクTh'に基づいてアシスト指令値Ta_s*を演算し、操舵側モータ17の作動を制御する。そのため、操舵側モータ17で発生するトルクによって振動が発生することを抑制できる。転舵側モータ制御部62は、操舵側モータ17よりもトルクセンサ42から大きく離れて設けられる転舵側モータ33に対して、位相遅れ補償制御部95による位相遅れ補償に加え、位相進み遅れ補償制御部96による位相進み遅れ補償を行った操舵トルクTh''に基づいてアシスト指令値Ta_t*を演算し、転舵側モータ33の作動を制御する。そのため、転舵側モータ33で発生するトルクによって振動が発生することを抑制できる。このようにトルクセンサ42に対する相対位置に応じて検出される操舵トルクThに位相補償を行うことで、振動の発生を抑制し、良好な操舵フィーリングを実現できる。
(2)位相進み遅れ補償制御部96は、操舵トルクThに対し、位相遅れ補償に加えて位相進み補償を行うため、特に操舵トルクThの高周波成分の位相が進められることで、転舵側モータ33の応答性を向上させて、良好な操舵フィーリングを実現できる。
(3)操舵トルクThに対して、位相遅れ補償制御部95による位相遅れ補償及び位相進み遅れ補償制御部96による位相進み遅れ補償の二段階の位相遅れ補償を行うことにより、容易に操舵トルクTh''の位相が位相遅れ補償制御部86による位相遅れ補償後の操舵トルクTh'よりも大きく遅れるように位相補償を行うことができる。
(4)操舵側モータ制御部61及び転舵側モータ制御部62は、それぞれ操舵トルクThに基づいて発生すべき基本アシスト成分Tab_s*,Tab_t*を演算するとともに、車速Vが小さくなるほどアシスト勾配Ragが大きくなるように基本アシスト成分Tab_s*,Tab_t*を演算する。したがって、車速Vが小さくなるほど、アシスト勾配Ragが大きくなるため、アシスト指令値Ta_s*,Ta_t*が大きくなる。これにより、大きなアシスト力の必要な低速時に目標アシスト力が大きく演算されるため、良好な操舵フィーリングを実現できる。一方、操舵トルクThが遅れて伝達されることに起因して、基本アシスト成分Tab_s*,Tab_t*が大きくなる車速Vが遅い状態で振動が発生しやすくなる。この点、位相遅れ補償制御部86,95は、アシスト勾配Ragが大きくなるほど、ゲインを低減させて位相遅れ量が大きくなるように位相遅れ補償の特性を変更する。また、位相進み遅れ補償制御部96は、車速Vが小さくなるほど、位相進み遅れ補償のうちの位相遅れ補償について、ゲインを低減させて位相遅れ量が大きくなるように該位相進み遅れ補償の特性を変更する。これにより、振動等が発生することを好適に抑制し、良好な操舵フィーリングを実現できる。
(5)マイコン51は、転舵側モータ33よりも操舵側モータ17の方が操舵トルクThに対するアシスト指令値Ta_s*,Ta_t*が小さくなるように、これらアシスト指令値Ta_s*,Ta_t*を演算する。そのため、操舵側モータ17及び転舵側モータ33から操舵装置2に付与されるアシスト力が過大となって操舵フィーリングが低下することを抑制できる。
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記実施形態では、転舵側モータ33よりも操舵側モータ17の方が操舵トルクThに対するアシスト指令値Ta_s*,Ta_t*が小さくなるように演算したが、これに限らず、例えば操舵側モータ17よりも転舵側モータ33の方が操舵トルクThに対するアシスト指令値Ta_s*,Ta_t*が大きくなるように演算してもよい。
・上記実施形態では、位相遅れ補償制御部86,95は、アシスト勾配Ragが大きくなるほど、ゲインを低減させて位相遅れ量が大きくなるように位相遅れ補償の特性を変更したが、これに限らず、アシスト勾配Ragの大きさに関わらず、位相遅れ補償の特性を変更しなくてもよい。同様に、位相進み遅れ補償制御部96は、車速Vの大きさに関わらず、位相進み遅れ補償のうちの位相遅れ補償について、その特性を変更しなくてもよい。
・上記実施形態では、転舵側モータ制御部62は位相遅れ補償制御部95による位相遅れ補償及び位相進み遅れ補償制御部96による位相進み遅れ補償を行うことで、補償後の操舵トルクTh''の位相が位相遅れ補償制御部86による位相遅れ補償後の操舵トルクTh'よりも大きく遅れるようにした。しかし、これに限らず、例えば位相進み遅れ補償に代えて位相遅れ補償と位相進み補償とをそれぞれ行う位相補償制御部を設けてもよい。また、例えば位相進み遅れ補償制御部96による位相進み遅れ補償のみで、補償後の操舵トルクTh''の位相が位相遅れ補償制御部86による位相遅れ補償後の操舵トルクTh'よりも大きく遅れるようにしてもよい。要は、基本アシスト成分Tab_t*を演算する際に用いる操舵トルクTh''が、基本アシスト成分Tab_s*を演算する際に用いる操舵トルクTh'の位相よりも大きく遅れるように位相補償が行われれば、その態様は適宜変更可能である。
・上記実施形態では、温度センサ46により検出される操舵側モータ17近傍の周辺温度Odに、通電による温度増減値δOを足し合わせることによりモータ推定温度Omを演算したが、これに限らず、例えば温度センサにより操舵側モータ17の温度を直接測定し、この測定結果をモータ推定温度Omとしてもよい。
・上記実施形態では、操舵側モータ17のモータ推定温度Omを演算し、モータ推定温度Omが過熱保護開始温度Ost以上となった場合にクラッチ6を接続してEPSモードとした。しかし、これに限らず、例えば転舵側モータ33のモータ推定温度を演算し、該モータ推定温度が過熱保護開始温度Ost以上となった場合にEPSモードとし、転舵側モータ33によりモータ推定温度Omが限界温度Olimを超えない範囲の電力供給を行うことでアシスト力を発生させるようにしてもよい。また、例えば電源電圧の低下を検出した場合等にクラッチ6を接続してEPSモードとしてもよく、クラッチ6を接続する条件は適宜変更可能である。
・上記実施形態では、クラッチ6を接続した状態で、操舵側モータ17及び転舵側モータ33の双方からアシスト力を付与したが、これに限らず、操舵側モータ17及び転舵側モータ33のいずれか一方のみからアシスト力を付与してもよい。なお、この場合においても、アシスト指令値Ta_t*を演算する際に用いる操舵トルクTh''の位相遅れ量が、アシスト指令値Ta_s*を演算する際に用いる操舵トルクTh'の位相遅れ量よりも大きくなることは言うまでもない。
1…操舵制御装置、2…操舵装置、3…操舵部、4…転舵輪、5…転舵部、6…クラッチ、11…ステアリングホイール、12…ステアリングシャフト、16…操舵側アクチュエータ、17…操舵側モータ、22…ラック軸、31…転舵側アクチュエータ、33…転舵側モータ、42…トルクセンサ、51…マイコン(制御部)、52,53…モータ駆動回路、54…クラッチ駆動回路、61…操舵側モータ制御部、62…転舵側モータ制御部、63…クラッチ制御部、64…モータ推定温度演算部、86,95…位相遅れ補償制御部(第1位相補償制御部、第2位相補償制御部)、96…位相進み遅れ補償制御部(第2位相補償制御部)、I_s,I_t…電流値、Id_s*,Id_t*…d軸電流指令値、Iq_s*,Iq_t*…q軸電流指令値、Rag…アシスト勾配、Scl…クラッチ制御信号、Sm_s,Sm_t…モータ制御信号、Th…操舵トルク、Ta_s*,Ta_t*…アシスト指令値(目標アシスト力)、Tab_s*,Tab_t*…基本アシスト成分(基礎成分)、θ_s,θ_t…回転角。

Claims (5)

  1. 運転者により操舵される操舵部と、転舵輪を転舵させる転舵部と、前記操舵部と前記転舵部とを機械的に断接可能なクラッチと、前記操舵部に運転者の操舵に抗する操舵反力を付与可能な操舵側モータを有する操舵側アクチュエータと、前記転舵部に前記転舵輪を転舵させる転舵力を付与可能な転舵側モータを有する転舵側アクチュエータとを備えた操舵装置を制御対象とし、
    前記操舵部は、ステアリングホイールが連結されるステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトにおける前記操舵側モータのトルク伝達部位よりも前記ステアリングホイール側に設けられたトルクセンサとを備えるものであって、
    前記トルクセンサにより検出される操舵トルクに対して位相遅れ補償を行う第1位相補償制御部と、
    前記操舵トルクに対して前記第1位相補償制御部よりも位相を遅らせるように位相遅れ補償を行う第2位相補償制御部と、
    前記クラッチが接続された状態で、前記第1位相補償制御部による位相遅れ補償後の前記操舵トルクに基づいて前記操舵側モータで発生すべき目標アシスト力を演算し、前記第2位相補償制御部による位相遅れ補償後の前記操舵トルクに基づいて前記転舵側モータで発生すべき目標アシスト力を演算する制御部とを備えた操舵制御装置。
  2. 請求項1に記載の操舵制御装置において、
    前記第2位相補償制御部は、前記操舵トルクに対し、前記位相遅れ補償に加えて位相進み補償を行う操舵制御装置。
  3. 請求項1又は2に記載の操舵制御装置において、
    前記第2位相補償制御部は、前記操舵トルクに対して位相遅れ補償を行う位相遅れ補償制御部と、位相進み遅れ補償を行う位相進み遅れ補償制御部とを含む操舵制御装置。
  4. 請求項3に記載の操舵制御装置において、
    前記制御部は、前記操舵トルクに基づいて前記操舵側モータ及び前記転舵側モータで発生すべき前記目標アシスト力の基礎成分をそれぞれ演算するとともに、車速が小さくなるほど前記操舵トルクに対する前記各基礎成分の変化の割合であるアシスト勾配が大きくなるように該各基礎成分を演算し、
    前記第1位相補償制御部は、前記アシスト勾配が大きくなるほど、前記位相遅れ補償について、ゲインを低減させて位相遅れ量が大きくなるように該位相遅れ補償の特性を変更し、
    前記第2位相補償制御部は、前記アシスト勾配が大きくなるほど、前記位相遅れ補償について、ゲインを低減させて位相遅れ量が大きくなるように該位相遅れ補償の特性を変更するとともに、車速が小さくなるほど、前記位相進み遅れ補償のうちの位相遅れ補償について、ゲインを低減させて位相遅れ量が大きくなるように該位相進み遅れ補償の特性を変更する操舵制御装置。
  5. 請求項1〜4のいずれか一項に記載の操舵制御装置において、
    前記制御部は、前記操舵側モータ及び前記転舵側モータのいずれか一方のモータの方が、他方のモータよりも前記操舵トルクに基づく前記目標アシスト力が小さくなるように演算する操舵制御装置。
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