以下に、図面を用いて柑橘類の栽培方法の一実施形態を説明する。ここでは、一例として、ウンシュウミカン(以下、単にミカン)を用いて柑橘類の栽培方法の一実施形態を説明する。
図20は、従来のミカンの木10の栽培の形態の一例を示す図である。従来は、例えば山の斜面に対し、切土又は盛土を行って平地101を作り、法面に石垣102又は防風垣を設けて、平地101にミカンの木10を定植していた。ミカンの木10は、地域、地形及び土壌の状態などによって栽培条件が異なってくるが、日本では、水はけがよく、土壌が肥えすぎず、西向きで日照時間が長く、風通しのよい海沿いの温暖な山の斜面に植栽されることが多い。
図1は、一実施形態にかかる柑橘類の栽培方法によるミカンの木20の栽培の形態の一例を示す図である。図1に示すように、一実施形態にかかる柑橘類の栽培方法では、ミカンの木20は、果樹園内に複数の列を形成するように栽植される。具体的には、ミカンの木20は、列間Aが約4m、樹間(木間)Bが約1mとなるように苗木の段階で定植され、例えば10a当たり約250本となるように密植栽培される。列間A、樹間Bは、間隔が10%程度ずれていてもよい。このように、列間Aが広いため、ミカンの木20には十分な日光が照射され、表土も乾燥しやすくなっている。
また、列間Aには、幅が約2mの作業道Cが形成されている。作業道Cは、ブルドーザやスピードスプレーヤ(SS)などの作業機械が通ることができるようにされている。列間Aが適度な間隔であるため、SSによる農薬や液肥の散布、及び収穫作業なども容易である。
このように、十分な日光を確保されつつ密植栽培されたミカンの木20は、後述する方法により生殖生長に傾く期間が長くされ、若木時から成木と同等の果実を実らせ、大木になることを抑制されて、糖度の高い良質な果実を連年結果させる。以下、ミカンの木20の栽培方法の実施例として、苗木、定植、及び栽培管理について順に説明する。
(苗木)
まず、ミカンの木20の苗木について説明する。作業者は、以下に示す方法によってミカンの木20の苗木21を生産する。
図2は、ミカンの苗木の実施例と比較例を示す図である。図2(a)は、実施例におけるミカンの木20の苗木21を示す。図2(b)は、比較例におけるミカンの木10の苗木11を示す。
図2(a)に示すように、実施例におけるミカンの木20の苗木21は、例えばカラタチの台木210に対し、結果数が相対的に多い他のミカンの木20から取得された穂木211を接ぎ木されることによって生産される(接ぎ木工程)。ここで、穂木211は、樹高が高くなく、結果数が相対的に多い木から優先させて取得されることにより、苗木21に果実の成りグセをもった生殖生長の特徴を引き継がせる。穂木211は、節間が短いほどよく、例えば節間が約2〜3cmのものが接ぎ木のために選択される。穂木211は、先端に近いほど葉が小さくなっているものが好ましい。また、苗木21に対しては、台木210の根の切り詰めをせず、接ぎ木した穂木211の芽かき及び主幹の切り戻しをすることなく、所定の高さを超えた場合に摘心する(摘心工程)。
苗木21は、根の切り詰めをされないことにより、太い主根が伸びて水分だけを吸収するいわゆるパイオニアルート12が形成されることが抑制されている。つまり、苗木21は、地中に深く向かって伸びる傾向のあるパイオニアルート12の形成が抑制されるので、横方向にも広がりやすい多くの細根22の形成が促される。ここで、細根22とは、養分を吸収する能力の高い側根及び根毛などを含み、例えば太さが2mm以下の根であるとする。特に、太さが1mm以下の側根及び根毛は、生理活性が高く、多くの養分を吸収する。
また、苗木21は、高さ方向の成長を促す主幹の切り戻しをされることなく、腋芽が取り除かれないことにより、養分が頂芽に集中することを防止され、高さ方向よりも横方向に広がる枝分かれ苗になる。苗木21が枝分かれ苗にされることは、太い主根の形成を抑えることと、細根22の数を増やすことに寄与している。また、苗木21の太い主根の形成が抑えられることと、細根22の数が増やされることは、苗木21が枝分かれ苗になることに寄与している。
このように、苗木21は、太い主根の形成が抑えられ、細根22の数が増やされて、枝分かれ苗にされることにより、高く大きな木に育っていく栄養生長(栄養成長)に強く傾くことなく、短期間で容易に強く生殖生長(生殖成長)に傾けることができるようにされている。
その後、枝分かれ苗にされた苗木21は、頂芽優勢となることを防止するために、例えば40cmの高さを超えた場合に摘心(摘芯、ピンチ)される。苗木21の高さが高くならず、十分に枝分かれしていれば、摘心は行われなくてもよい。このように、苗木21は、枝と根の両方が縦ではなく横に成長させられる樹形の基礎を形成されている。
一方、図2(b)に示すように、比較例におけるミカンの木10の苗木11は、例えばカラタチの台木110に対して穂木111が接ぎ木された立木仕立ての一本苗(棒苗)である。比較例の穂木111は、大きく育った他のミカンの木10から取得されている。つまり、穂木111は、大きく育つ栄養生長の特徴を苗木11に引き継がせる。そして、苗木11は、台木110の根が切り詰められ、接ぎ木した穂木111の腋芽が取り除かれて、主幹が切り戻しされている。つまり、苗木11は、地中に深く向かって伸びる傾向のあるパイオニアルート12の形成が促され、主幹が上方に伸びることが促されて、高く大きな木に育っていく栄養生長に強く傾けられている。
次に、実施例におけるミカンの木20の苗木21の生産方法について説明する。
図3は、実生の台木210を生産する手順を示す図である。図3(a)は、カラタチなどの台木210の種212を蒔いた状態の一例を模式的に示す図である。図3(b)は、実生の台木210の株213を二列植えした状態の一例を模式的に示す図である。
図3(a)に示すように、台木210の種212は、水田などに複数の種の列を作るように蒔かれ、発芽させられて、約1年間そのまま養生させられることにより、実生の台木210の株213となる。図3(b)に示すように、実生の台木210の株213は、2年目に二列植えを単位として、例えば10a当たり約15000本〜16000本が植えられる。
株213は、二列植えにおいて、株間Eが約12.5cmにされ、列間Fが約21cmにされている。また、二列植えと二列植えの間となる大間Gは、約60〜70cmにされている。よって、大間Gは、株213に対して施肥を行う機械が通ることも可能である。
その後、株213に対する施肥は、大間Gへの施肥のみによって行われる。つまり、株213に対する施肥は、株213の周りに行われるのではなく、当該株213から所定の方向に離れた所定位置の表層に行われる(株施肥工程)。このように、株213は、所定の方向に離れた所定位置の表層に施肥されることにより、根が地中に向かうのではなく肥料のある横方向に伸びることとなる。つまり、株213は、土地の表層に伸びる細根22(表層根)が多くなるように仕向けられている。
また、株213が表層から養分を吸収するので、施肥量に対する養分の吸収の効率がよくなり、施肥量を従来よりも減らすことができる。ここで、株213に対する年間の総施肥量(主に窒素)は従来よりも2〜3割程度少なくなるが、施肥回数は従来よりも多くされている。このように、少量の施肥を多くの回数に分けて行うことにより、1回に施肥される肥料の濃度を低くして、高濃度の肥料による細根22の発育不良が発生することを防止している。また、株213は、細根22が表層で横方向に伸びることにより、生殖生長の状態に傾けられて成長し、枝分かれもさらに促進される。
株213は、種212が蒔かれてから約2年経過後に、細根22が枯れないように植えられたままで地上約5cmの位置で切られて台木210にされ、穂木211が接ぎ木される。穂木211が接ぎ木された株213は、先端の春芽が摘まれる。そして、接ぎ木された株213は、例えば2年目と同様に施肥が行われて約1年成長させられ、生殖生長に傾いた3年生の苗木21となって定植に用いられる。なお、肥培管理は、株213の状態に応じて行われる。
図4は、実生の台木210を用いて苗木21を生産する場合の生産スケジュール例を示す図である。図4(a)は、苗木21の生産の1年目のスケジュール例を示す。図4(b)は、苗木21の生産の2年目のスケジュール例を示す。図4(c)は、苗木21の生産の3年目のスケジュール例を示す。また、図5は、苗木21を生産する場合の施肥設計を例示する図である。
図4(a)に示すように、苗木21を生産する1年目には、1月中下旬にカラタチの種212を水田に蒔く(図3(a)参照)。このとき、元肥は、従来よりも少なくして肥料濃度を抑えておき、根が出にくくなること及び台木210が最初から栄養生長に傾いてしまうことを防止する。特に、元肥は、窒素Nが多くなりすぎないように注意されている。
種212が発芽した後は、発根時期以外の期間に施肥を行って、実生のカラタチの株213(図3(b)参照)を成長させる。株213の発根時期は、例えば5月下旬から6月中旬頃、7月下旬から8月中旬頃、及び11月中旬頃の3回/年である。なお、発根時期は、常に施肥禁止とすることを基本としている。
そして、株213を水田で約1年間成長させる(台木210の実生)。また、苗木21を生産する1年目の10月頃には、株213の植替え先(図3(b)参照)に元肥を与える。植替え先に与える元肥は、株213の植替え時期の例えば約3か月前に行われる。株213の植替え先の土壌が例えばph4以上7未満(好ましくはph5〜6)の弱酸性でない場合には、土壌の酸性度をph4〜7(好ましくはph5〜6)の弱酸性に調整しておく(酸性度調整工程)。そして、作業者は、土壌に対して大豆及びトウモロコシを含む飼料を元肥として施肥する(元肥工程)。飼料の大豆には、タンパク質、サイトカイニン及びオーキシンが多く含まれている。また、飼料のトウモロコシには、タンパク質、サイトカイニン及びオーキシンが多く含まれている。この飼料の元肥により試験した結果によれば、株213は、細根22(図2参照)が多い生殖生長に傾けられる。この株213は、側芽の成長が促されて複芽が出たものと考えられる。
また、元肥には、図5にも示すように、例えば10a当たりに石灰窒素20kg、ケイ酸カルシウム100kg、木灰200kgなどが含まれる。また、元肥には、油粕、米ぬか、大豆粕、小麦粕などが含まれていてもよい。ただし、粕には窒素が含まれているので、元肥の窒素が多くなりすぎないようにする必要がある。また、元肥には、化学肥料は含まれないものとする。元肥において、窒素が過剰に含まれていたり、化学肥料が含まれていると、細根22が枯れやすくなってしまう。
図4(b)に示すように、苗木21を生産する2年目には、1月中下旬に株213を水田から植え替えて二列植えにする(図3(b)参照)。そして、二列植えした株213に対し、発根時期を避けて施肥を行う。
具体的には、図5にも示すように、苗木21を生産する2年目には、例えば2月下旬頃に10a当たり100kgの油粕(5−3−2)を二列植えした株213に与える。なお、5−3−2は、窒素Nが5%、リン酸Pが3%、カリウムKが2%含まれている配合を示している。続いて、10aの二列植えした株213に対して、4月中下旬には60kgの化学肥料(8−8−8)、7月中下旬には100kgの油粕(5−3−2)、9月上中旬には80kgの化学肥料(6−3−1)を与える。なお、各時期に与える肥料は、それぞれ複数回に分けて与えられることが好ましく、例えば施肥回数を年間7〜8回に分けて、1回当たりの施肥量を抑えて、肥料濃度が高くなることを防止されることが好ましい。また、年間の総施肥量は、年3回の発根及び発芽を促すことができる量に抑えられ、高濃度の施肥にならないようにされている。
表層に細根22を配置された苗木21は、乾燥しやすい表層で効率的に養分を吸収する。例えば、肥料として与えられた窒素Nは雨によって流れやすいが、苗木21は窒素Nを与えられただけ吸収する。窒素Nは、植物を大きく成長させるため、苗木21に与えられすぎると強く栄養生長を旺盛にしてしまうため、苗木21の生殖生長を旺盛にしておく期間には施肥量が少なくされる。
リン酸Pは雨では流れにくく、苗木21は必要以上のリン酸Pを吸収しない。リン酸Pは、主に生殖生長を促すが、施肥した場所に留まりやすく比較的吸収されにくいため、苗木21の表層の細根22によって吸収される。
カリウムKは雨によって多少は流れるが、苗木21はカリウムKを与えられただけ吸収する。カリウムKは、根の生長にも作用するため、リン酸Pと同様に、苗木21の表層の細根22によって吸収されることにより、生殖生長を促す。
苗木21を生産する3年目には、細根22が枯れないように株213が植えられたままで接ぎ木を行う。苗木21に対する施肥は、2年目と同様に、回数を年間7〜8回に分けて、1回当たりの施肥量を抑えて行われる。肥培管理は、苗木21の状態に応じて行われる。
また、接ぎ木された苗木21には、春芽が伸びる期間に、タケノコから抽出したタケノコエキスを液肥として散布する。タケノコエキスは、細かく刻んだタケノコを同量の黒砂糖に漬け込み、重石などで加重することによって一晩で抽出される液肥である。タケノコエキスは、約2000倍に薄められ、除草剤と混ぜられて葉面散布される。タケノコエキスは、春芽が伸びる期間にだけ用いられ、生殖生長を保ったままで枝を長く伸ばさせる作用があると思われる。タケノコエキスが散布された苗木21は、芽かきをされていなくても、春芽から伸びる夏秋芽が1〜2本に制限される。このように、タケノコエキスは、苗木21に対して芽かきや剪定を不要にする効果が確認されている。
また、苗木21は、生殖生長に傾いているために、接ぎ木後に着花する場合がある。接ぎ木後の苗木21の花は、略全て摘花する(摘花工程)。なお、苗木21は、着花するほど生殖生長に傾いているため、2年生で定植に用いられてもよい。
このように、図2〜図5に示す実施形態において、苗木21の生産方法は、結果数が相対的に多い木から優先させて取得した穂木211を台木210に接ぎ木する接ぎ木工程と、台木210の根の切り詰めをせず、接ぎ木した穂木211に対し、芽かき及び主幹の切り戻しをすることなく、所定の高さを超えた場合に摘心する摘心工程とを含むことを特徴とする。これにより、果実の成りグセを接ぎ木によって引き継がせつつ、結果母枝となる発育枝の数を増やして、枝と根の両方を縦ではなく横に成長させる樹形の基礎を形成させることができる。また、発育枝と根を減らさないことにより、枝と根の両方から生殖生長に傾けることができる。
また、台木210は、実生の株から所定の方向に離れた所定位置にのみ施肥する株施肥工程を含む方法で生産したものであることを特徴とする。これにより、根に濃度の高い肥料を与えることを防止することができるので、根の成長を促すことができる。また、根の伸びる方向も所定の方向に仕向けることができる。
また、株施肥工程は、年3回の発根及び発芽を促す総施肥量を年7回以上に分けて施肥する工程であることを特徴とする。これにより、根に濃度の高い肥料を与えることを防止することができるので、根の成長を促すことができる。また、施肥の回数を増やすことにより、総施肥量を低減することが可能となる。
また、株施肥工程は、発根時期以外の期間に施肥する工程であることを特徴とする。これにより、肥料による発根時期のずれを防止することができ、根の成長を促すことができる。
また、苗木21の生産方法は、略全ての花を摘む摘花工程をさらに含むことを特徴とする。これにより、苗木21を生殖生長に傾けつづけることを容易にすることができる。
また、苗木21の生産方法は、タケノコから抽出したタケノコエキスを穂木211に散布する工程をさらに含むことを特徴とする。例えば、タケノコの成長の速さを苗木21に与えることも可能と思われる。また、穂木211にタケノコエキスを散布すると、苗木21の芽数を減らすことができ、芽かきをすることなく、少ない数の芽を生殖生長させることが可能である。
また、苗木21が2年生であることを特徴とする。すなわち、生殖生長に傾いた苗木21は、2年生であっても定植して栽培することができ、最初の収穫までの期間を短くすることができる。
また、苗木21は柑橘類であることを特徴とする。これにより、柑橘類が生殖生長でありつづけるために、将来の木の高さが高くなりすぎることを予防することができ、収穫作業を容易にすることが可能になる。
また、細根22は、太さが2mm以下の根であることを特徴とする。特に、太さが2mm以下である細根22は、土からの養分を吸収する能力が高いとされている。
(定植)
次に、生殖生長に傾けられた苗木21を果樹園などに定植する方法について、図6〜図13を用いて説明する。作業者は、以下に示す方法によって苗木21を定植する。
図6は、苗木21を植える植え溝220を形成する様子の一例を模式的に示した図である。
作業者は、苗木21を定植するために、例えば山の斜面をならして形成した果樹園となる法面222に対し、ブルドーザを用いて複数の植え溝220を形成する。法面222は、例えば約10度の傾斜であるとするが、約10度よりも大きな傾斜であってもよいし、小さな傾斜であってもよい。また、法面222は、ここでは傾斜のない平地であってもよいものとする。
ブルドーザは、例えば左右に無限軌道(クローラ)30を備え、不整地であっても前後左右に移動することができるようにされている。また、ブルドーザは、例えばアングル角、チルト角及びピッチ角を調整することができる排土板31が前方に設けられており、土を押しながら右又は左に土を寄せることができるようにされている。アングル角は、排土板31及びブルドーザを上方から見た場合のブルドーザの進行方向に対する排土板31の角度である。また、チルト角は、排土板31を後方から見た場合の水平方向に対する排土板31の角度である。ピッチ角は、排土板31及びブルドーザを側方から見た場合の地面に対する排土板31の刃先の角度である。なお、図6においては、ブルドーザの無限軌道30の一方と、排土板31のみを正面から見た状態が模式的に示されている。
作業者は、法面222の等高線に対して少し傾いた方向へブルドーザを進めながら、排土板31によって表層の土を連続して削り取り、無限軌道30によって土を踏み固めながら、所定の方向に延びる植え溝220を形成する。つまり、植え溝220は、排土板31によって削り取られた後に無限軌道30によって踏み固められた下面224と、削り取られて切り立つ側面226を有する。
下面224は、無限軌道30による加圧によって固められることにより、苗木21の根が下面224に向かって伸びることを制限している。また、側面226は、削り取られた状態、又は排土板31による加圧などによって固められることにより、苗木21の根が側面226に向かって伸びることを制限している。下面224及び側面226は、防根シート又はコンクリートなどの根の伸びる方向を制限する防根部材によって形成されてもよい。
次に、作業者は、ブルドーザを法面222の下方に移動させ、形成した植え溝220に対して略平行に次の植え溝220を形成する。ここで、植え溝220と次の植え溝220との間隔は約4mとなるようにされている。そして、作業者は、さらにブルドーザを進め、果樹園全体に約4m間隔で略平行に複数の植え溝220を形成する。
図7は、ブルドーザにより複数の植え溝220を形成する過程の一例を模式的に示す図である。図7に示すように、作業者は、例えば山の傾斜に形成された果樹園221に対し、等高線に対して右又は左に少し傾くようにブルドーザを進めながら、複数の植え溝220を形成する(植え溝形成工程)。また、果樹園221の左右には、ブルドーザを斜面の上下方向に移動可能にさせる通路223が確保されており、ブルドーザが複数の植え溝220を一筆書きのように連続して形成できるようにされている。
次に、植え溝220それぞれに上述した苗木21を配列させて定植するために、複数の苗木21を植え溝220の近くに準備する。上述したように、苗木21は、生殖生長に傾けられて、太い主根の形成が抑えられており、細根22の数が増やされている。したがって、苗木21は、根に蓄えている水分が少なく乾燥しやすいため、定植の準備として例えば日なたに30分以上放置してしまうと、乾燥して細根22が枯れてしまうことになる。
そこで、苗木21の細根22を乾燥させることなく、苗木21を植え溝220に定植するために、植え溝220の近くで苗木21の細根22を水につけておく。又は、苗木21の細根22に対して水をかける、ビニールで細根22をつつむ、苗木21を日陰に置くなどして、特に細根22が乾燥することを抑制する。また、苗木21の細根22を乾燥させないために、植え終わるまでの時間を短くするように時間管理をしてもよい。
苗木21は、水分を多く含む根を持たず細根22が多くなるように生産されているため、従来の苗木に比べて、乾燥をさらに強く抑制する工程が重要である。特に、太さが1mm以下の細根22は、土から養分を吸収する生理活性が高いが、枯れ死もしやすい。このように、苗木21は、細根22が乾燥することを抑制する乾燥抑制工程によって、短期間で容易に強く生殖生長に傾けられる特徴を維持しつつ、枯れることなく定植される。
図8は、乾燥を抑制された苗木21を植え溝220に並べた状態の一例を示す図である。図8に示すように、植え溝220には、複数の苗木21の根がそれぞれ約1m間隔で並べられる。このとき、作業者は、苗木21の根を法面222の下方に向けて曲げて植え溝220に配置することにより、苗木21の根が地中に向けて伸びることを抑制しつつ、細根22を土地の表層のみに配置する定植工程を行う。
より具体的には、作業者は、例えば下面224に対して略直交し、側面226に対して逆方向となるように根を曲げて、苗木21を植え溝220に並べる。つまり、定植工程には、地中に向かう方向に対して交差する方向又は逆方向に向けて苗木21の根を曲げることにより、苗木21の根が地中に向けて伸びることを抑制する根曲げ工程を含む。また、定植工程は、加重又は加圧により土を固められた下面224及び側面226、又は防根部材により根の伸びる方向を制限することにより、苗木21の根が地中に向けて伸びることを抑制する方向制限工程も含んでいる。
ここで、苗木21を約1m間隔で並べるために、例えば1m毎に印をつけたヒモを植え溝220上に張り、印ごとに石灰をまいて、石灰の位置を苗木21の配置の目安としてもよい。
そして、植え溝220に並べられた複数の苗木21を複数の協力者によって立てて支えてもらった状態で、作業者は、植え溝220の上方の法面222の土をブルドーザの排土板31によって削りつつ、削った土を植え溝220へ寄せて、苗木21それぞれの根に土をかぶせる。苗木21は、それぞれ図示しない支柱に固定されて支えられてもよい。
図9は、削った土を植え溝220へ寄せて、苗木21それぞれの根に土をかぶせた状態の一例を模式的に示す図である。図9に示すように、作業者は、ブルドーザの排土板31によって苗木21と他の列の苗木21との間の法面222を削ることにより、作業道228を形成しつつ、土を側方に寄せて法面222の下方の苗木21にかぶせる(土寄せ工程)。なお、図9においては、ブルドーザは、正面から見た排土板31のみを示している。
このように、ブルドーザによって土を寄せて苗木21に土をかぶせるので、例えば30分で500本の苗木21を植えることも、1日で2.5haに3500本の苗木21を植えることも可能である。なお、苗木21が土によって深く埋まりすぎた場合には、苗を引き上げて接ぎ木部分を地上に出しておく。接ぎ木部分が地中にあると、接ぎ木部分から虫(カミキリムシなど)が侵入するなどの被害が生じるためである。
ここで、苗木21の列と、下方の苗木21の列との間隔(列間A:図1参照)は、約4mである。作業道228は、約4mの列間Aの略中央に幅が約2mとなるように形成される。作業道228は、法面222の上方の列間Aで形成された後、順に下方の列間Aで形成される。苗木21に対する土寄せと、作業道228の形成が終わった後には、列間Aをブルドーザによって整地しておく。
図10は、作業道228に水はけ溝230を形成する方法の一例を模式的に示す図である。作業者は、苗木21の定植が終わった後、水はけ溝230を形成するための削り板32をブルドーザの排土板31の下部に取り付ける。削り板32は、作業道228の中央に深さ約15cmの水はけ溝230を形成することができるように、例えば中央部分が下方に約15cm突出する逆二等辺三角形に形成された鉄の板状部材である。作業者は、削り板32が取り付けられた排土板31を作業道228上で進めることにより、作業道228の略中央に深さ約15cmの水はけ溝230を形成する(水はけ溝形成工程)。なお、図10においては、ブルドーザは、正面から見た排土板31及び削り板32のみを示している。
図11は、果樹園221における水はけ溝230の形成例の一例を模式的に示す図である。水はけ溝230は、苗木21の列間で左右の2方向に雨水が流れるように傾斜させられ、一方向に傾く長さDが例えば70〜80mにされている。雨水が一方向に流れる距離が長すぎると、水流が強くなりすぎて、土が流されてしまうからである。
図12は、果樹園221における水はけ溝230の形成の変形例の一例を模式的に示す図である。水はけ溝230は、苗木21の列間で左右のいずれかに雨水が流れるように傾斜させられ、一方向に傾く長さが例えば70〜80mにされている。また、果樹園221の横方向の長さが160mを超えて例えば約500mある場合には、70〜80m毎に縦水路232が設けられてもよい。
縦水路232は、水はけ溝230から流れてくる雨水などを山の斜面に沿って流す。縦水路232は、水はけ溝230よりも流れる水量が多くなるため、例えばコンクリートで固められた水路にされる。
このように、図6〜図12を用いて説明した方法により、図1に示した植栽が実現される。そして、作業者は、作業道228及びその周辺(列間A)に例えばイタリアンライグラスの種を蒔き、イタリアンライグラスの根が土を保持する力により、雨などによって土が流れることを防止し、実現した植栽の形態を維持する(種蒔き工程)。つまり、イタリアンライグラスは、果樹園221の形態がくずれることを防止する土留めとして機能する。イタリアンライグラスは、硫酸アンモニウム又は尿素が施用されることによって盛んに生育する。
図13は、定植された実施例の苗木21と、比較例の苗木11とを示す図である。図13(a)は、定植された実施例の苗木21を示す。図13(b)は、定植された比較例の苗木11を示す。
図13(a)に示すように、実施例の苗木21は、細根22が下面224及び側面226へ向かって伸びないように、法面222の下方に向けて広げず丸めて曲げられているので、表層へ向けて細根22が伸びやすくなっている。また、苗木21の細根22は、地表から10cm以下の場所にも多く伸び、地表へ出ることもある。苗木21は、傾斜がある場所に植えられているために水はけもよく、作業道228が形成された約4mの列間Aが設けられているために、日当たりも風通しもよい。つまり、苗木21は、乾燥しやすい土による乾燥ストレスを受けやすくされている。
苗木21に対して施肥を行う場所は、一定にされている。具体的には、施肥は、苗木21に対して法面222の上方に行われ、雨などで下方に流れた肥料を苗木21が表層の細根22で吸収する。特に、リン酸Pは、雨などでは流れにくく、地中に入り込まないため表層の細根22により吸収される。このように、苗木21に対しては、雨水の流れの上手となる離れた所定位置にのみ施肥する(施肥工程)。施肥は、苗木21それぞれの中間に行われてもよい。
細根22は、上述したように一般には太さが2mm以下の根であるとされている。特に太さが1mm以下の細根22は、土から養分を吸収する生理活性が高いが、枯れ死もしやすい。細根22は、土の中で乾燥などによって枯れ死すると土に対して養分を供給する。つまり、苗木21の細根22は、表層に配置されることにより、養分を吸収しやすい環境と、乾燥しやすい環境の中に置かれ、成長と枯れ死を繰り返しながらさらに表層に広く張り巡らされる。例えば、苗木21は、成長すると細根22が作業道228(図10参照)の中央辺りまで伸びる。
ただし、細根22は、肥料濃度が高い場合には発根しなくなるため、施肥量を少なめにされる。このように、苗木21は、水分が少ない乾燥ストレスや、肥料が少ない飢餓ストレスにより生殖生長に傾けられる期間が長くされ、大木になることが抑制される。苗木21は、定植直後や、定植後3年目以降の樹勢が弱くなりすぎた場合などには、施肥や液肥の葉面散布などによって樹勢を一時的に回復させられる。
図13(b)に示すように、比較例の苗木11は、できるだけ早く大きくさせることを目的として、根が深く太く伸びるように、深く大きな植穴103に植えられる。植穴103は、下層に堆肥が投入され、土で堆肥が覆われた状態が作られて、苗木11が1本ずつ植えられる。苗木11は、根が堆肥のある地中に向けて太く長く伸び、枝も大きく高く育つ栄養生長に強く傾く。このように、定植時に栄養生長に強く傾いた苗木11は、生殖生長に強く傾けることは容易にはできなくなってしまう。したがって、結果する時期が大木になってからになる傾向が強く、結果するまでの期間も長くなってしまう。
図14は、比較例の苗木11が定植された状態の一例を示す図である。図14に示すように、比較例の苗木11は、平らにされた土地に定植され、栄養生長に強く傾いてしまっている。また、苗木11は、10a当たりに33〜100本程度が植えられ、大木にされていた。また、苗木11は、マルチ栽培にされると、地温が60〜70度まで上昇してしまい、細根22が枯れてしまう。また、10a当たりで5tの収量を得ようとすると、1本当たりの収量を多くする必要があるため、苗木11は大木にされる必要があった。苗木11が大木になるためには、15年かかることもあった。しかし、隔年結果となり、果実の糖度を上げることも困難であった。
このように、図6〜図13に示す実施形態は、苗木21の細根22が乾燥することを抑制する乾燥抑制工程と、苗木21の根が地中に向けて伸びることを抑制しつつ、細根22を土地の表層のみに配置して、苗木21を定植する定植工程とを含むことを特徴とする。これにより、含有する水分量が少なく枯死しやすい細根22を土地の表層に張り巡らせることを促し、根が地中に向けて伸びて苗木21が強く栄養生長に傾くことを抑制することができる。すなわち、苗木21が表層から養分を吸収する活性の高い表層根を増やすことができ、定植が安定した後に、苗木21を短期間で容易に強く生殖生長に傾けることができる。
また、定植工程は、地中に向かう方向に対して交差する方向又は逆方向に向けて苗木21の根を曲げることにより、苗木21の根が地中に向けて伸びることを抑制する根曲げ工程を含むことを特徴とする。これにより、地中に向けて太く伸びて主に水分だけを吸収する根(パイオニアルート12:図2(b)参照)の発生を容易に抑えることができる。
また、定植工程は、加重若しくは加圧により土を固めること、又は防根部材により根の伸びる方向を制限することにより、苗木21の根が地中に向けて伸びることを抑制する方向制限工程を含むことを特徴とする。これにより、パイオニアルート12が地中に向かって伸びることを抑制できるので、表層根を増やすことができ、苗木21を容易に生殖生長に傾けることができる。
また、定植工程は、法面の表層で所定の方向に延びる植え溝220をブルドーザによって形成する植え溝形成工程と、植え溝220に細根22を配置して、ブルドーザにより土を寄せて苗木21の根に土をかぶせる土寄せ工程とを含むことを特徴とする。これにより、所定の方向に延びる植え溝220を容易に形成することができるので、苗木21を1本ずつ植え付けるための大きな植穴103(図13(b)参照)を掘る必要がない。さらに、苗木21の根に土をかぶせる作業も容易となり、容易に細根22を土地の表層のみに配置することができる。
また、植え溝形成工程は、略平行に並ぶ複数の植え溝220を形成する工程であり、土寄せ工程は、ブルドーザによって複数の植え溝220の間に作業道228を形成しつつ土を寄せて苗木21の根に土をかぶせる工程であることを特徴とする。これにより、苗木21の根に土をかぶせる土寄せと、作業道228の形成とを並行して行うことができ、作業の効率を向上させることができる。
また、植え溝220に対して略平行に水はけさせるように傾斜する水はけ溝230を作業道228に形成する水はけ溝形成工程をさらに含むことを特徴とする。これにより、定植を行った土地の形態が雨などによって崩されることを防止しつつ、苗木21に対する水はけのよい環境を容易に形成することができる。
また、土が流れないように根によって土を保持する他の植物の種を作業道228に蒔く種蒔き工程をさらに含むことを特徴とする。これにより、定植を行った土地の形態が雨などによって崩されることを容易に防止することができる。
また、複数の植え溝220は、それぞれ間隔が約4mであり、作業道228は、それぞれ幅が約2mであることを特徴とする。これにより、苗木21に対して十分な日光の照射と風通しを与え続けることができる。また、作業道228にさまざまな機械を通すことができ、機械を用いた葉面散布なども容易となる。
また、定植工程は、複数の植え溝220それぞれに複数の苗木21を約1m間隔で並べて定植する工程であることを特徴とする。これにより、定植工程を容易にし、単位面積当たりの収穫量を多くすることができる。また、苗木21に対して十分な日光の照射と風通しを与え続けつつ、苗木21が成長した後に密植となることにより、所定の方向でのみ重なる葉が互いに日光を遮る機会をつくることができ、苗木21が成長した後にも生殖生長に傾けつづけるストレスを部分的に与えることができる。また、ミカンの木20が密植となった場合でも、十分な日光の照射と風通しを与え続けつつ、生殖生長をつづけさせることができる。また、ミカンの木20が生殖生長でありつづけるために、木の高さが高くなりすぎることを防止することができ、収穫作業を容易にすることができる。
(栽培管理)
次に、定植された苗木21(ミカンの木20)の栽培管理について説明する。
図15は、定植1年目の栽培管理スケジュールの一例を示す図である。作業者は、苗木21(ミカンの木20)を定植する年には、以下の工程を行う。
まず、2月の上旬頃に苗木21を定植(S100)したときに、例えば1000倍に薄めた尿素を灌注し(S102)、活着をよくする。また、定植した苗木21を支柱などに結んで支えるようにする(S104)。そして、苗木21の列の周囲の土が雨などで流れることを防止するために、例えばイタリアンライグラスの種などを蒔いて施肥をする(S106)。
定植の1週間後から5月末頃の最初の発根時期までに、苗木21に対して施肥を行う(S108)。また、この時期に、ワカメから抽出したワカメエキスや、タケノコから抽出したタケノコエキスを葉面散布する(S110)。
ワカメエキスは、細かく刻んだワカメと、ワカメと同量の黒砂糖とをタンクの中に交互に投入し、ワカメを黒砂糖に3〜4ヶ月漬け込んでおくことによって抽出される海藻液肥である。海藻液肥は、植物の光合成を活性化させると言われている。
ワカメエキスは、約2000倍に薄められて葉面散布される。例えば、ワカメエキスは、除草剤に混ぜられ、約10日おきにSSによって散布される。ワカメエキスは、葉面散布によって樹勢を回復させる効果もあるが、花が満開の時期に散布されると、果実の生理落下を促してしまう。また、ワカメエキスは、8月中旬以降に散布されると、果皮をまだらにさせてしまうことがある。このため、ワカメエキスは、3〜5月に主に用いられる。なお、ワカメエキスは海藻エキスの一例であり、葉面散布に用いられる海藻液肥は、ワカメエキスに限定されず、他の海藻エキスであってもよい。
ここで、苗木21は、定植直後から最初の発根時期までの間には、一時的に栄養生長に傾けられる。しかし、苗木21は、容易に生殖生長に傾けられるように生産されているので、定植1年目の後半には短期間で生殖生長に切り替えられる。
苗木21は、生殖生長に傾けられて果実の成りグセがつくように生産されているので、定植直後の6月頃に着果するが、この時には略全摘果してさらに果実の成りグセをつけておく(S112:全摘果工程)。全摘果の時期が早すぎる場合、苗木21は、栄養生長に傾いてしまう。また、全摘果の時期が遅い場合、苗木21は、秋枝が伸びなくなってしまう。全摘果の時期は、果実が1〜1.5cmぐらいになったときが好ましい。このように、定植した年には全摘果して、結果母枝を出させる。なお、翌年以降は無摘果とする。
その後、苗木21に対して7月下旬頃からの2度目の発根時期までに施肥を行う(S114)。ここでの施肥には、大豆及びトウモロコシを含む飼料が用いられてもよい。定植の1週間後から7月下旬頃までの施肥の回数は、例えば4回ぐらいである。最初の1,2回の施肥量は、ミカンの木20に対して硫酸アンモニウムと尿素をそれぞれ1本当たりに一握り程度とする。3,4回目の施肥量は、ミカンの木20に対してボカシ肥(又は人糞、化学肥料)を1本当たり数kgとする。
上述したように、発根時期は、発根を促すために施肥禁止である。また、定植1年目において、7月下旬頃からの2度目の発根時期以降は、苗木21を生殖生長に傾けるために施肥を行わない。この期間に、苗木21は、乾燥ストレスと飢餓ストレスを受けることにより、恒常性を維持するように機能して、定植2年目の良質な多くの結果をするようになる。
図16は、定植後2年目の栽培管理スケジュールの一例を示す図である。作業者は、苗木21(ミカンの木20)の定植後2年目には、以下の工程を行う。
ミカンの木20の定植後2年目には、果樹園がやせ地である場合を除き、施肥を行わない。1月に春草を除草し(S116)、4月に春芽が出ていることを確認したら、5月頃に除草し(S118)、7月頃に夏草の除草を行う(S120)。2月以降の春草の除草は、不要である。定植後2年目以降は、花が満開のときに間引き剪定を行って花芽調整してもよい。6月の発根時期の頃は、除草も禁止とする。そして、11月〜12月頃に、高さが高くなることを抑制されたミカンの木20から良質な多くの果実を収穫する(S122)。このように、ミカンの木20の定植後2年目は、剪定や施肥が不要であるため、必要な作業が従来に比べて非常に少なくなっている。
また、ミカンの木20は、生殖生長であるために樹高が低いことに加えて、多くの果実が成って枝が垂れ下がっているため、収穫作業も容易である。収量は、例えば10a当たり5tである。このとき、10a当たり250本のミカンの木20が定植されていれば、1本当たり20kgの収量でもよいこととなる。また、ミカンの木20は、果梗枝が細く、群状結果となって、果実1つ当たりの葉の数は10枚以下である。また、ミカンの木20は、収穫期には花芽も形成しており、基部から結果母枝となる発育枝も出して、連年結果をさせていく。収穫後の果実がなくなったミカンの木20は、栄養生長に傾きやすくなっている。よって、収穫後は、ミカンの木20が萎えた状態であってもいわゆるお礼肥は禁止である。
図17は、定植後3年目〜15年目までの栽培管理スケジュールの一例を示す図である。作業者は、苗木21(ミカンの木20)の定植後3年目〜15年目までの期間には、以下の工程を行う。
ミカンの木20の定植後3年目〜15年目までは、確実に着花させるため、1月の花芽形成が終わったことを確認して、1月中旬頃から4月頃までの間に施肥を行う(S124)。ここでの施肥は、乾燥ストレスや飢餓ストレスを受けたミカンの木20の樹勢を多少戻す程度の施肥量とする。4月に春芽が出ていることを確認したら、5月頃に除草し(S126)、7月頃に夏草の除草を行う(S128)。6月の発根時期の頃は、除草も禁止とする。施肥は、樹勢しだいで行う。また、定植後3年目以降には、ミカンの木20が育ってきているので、ミカンの木20の下は木陰となるため、夏草の成長も少なくなり、除草作業も少なくなる。
そして、11月〜12月頃に、高さが高くなることを抑制されたミカンの木20から良質な多くの果実を収穫する(S130)。ミカンの木20は、定植後3年目以降も、例えば4,5年以上は剪定が不要であり、必要な作業が従来に比べて非常に少なくなっている。剪定を行ってしまうと、栄養生長に傾いてしまうためである。また、ミカンの木20は、生殖生長であるために樹高が低く、太く大きな枝もないため、多くの果実が群状結果となって枝が垂れ下がり、10年経過しても高さが2m程度である。例えば、ミカンの木20は、主幹から直接結果枝を出したりする。なお、収穫後の果実がなくなったミカンの木20に対しては、上述したようにお礼肥は禁止である。
図18は、定植後数年経過した実施例のミカンの木20の収穫時期の状態の一例を模式的に示す図である。図18(a)は、2つのミカンの木20の列と、作業道228との位置関係の一例を模式的に示している。図18(b)は、1列のミカンの木20の状態の一例を模式的に示している。
収穫時期のミカンの木20は、生殖生長を長い期間続けた細い枝に多くの果実をつけているため、果実の重みで大きく垂れ下がって地面に近づく枝もある。また、ミカンの木20は、多くの枝が垂れ下がっていることによって、果実の重みと結果ストレスなどがかかり、生殖生長に傾いて樹高が高くなりにくくされている。そのため、ミカンの木20は、樹高が1.3m〜2m程度のものが多く、作業者の目の高さで収穫が可能であるため、収穫作業も容易である。
また、図18(a)に示すように、ミカンの木20は、列間に作業道228が設けられているため、成長した後にも十分に日光を受けることができ、風通しもよく、土の乾燥も促されている。また、ミカンの木20は、果実の重みで多くの枝が垂れ下がっているために、全体的に上方からの日光を受けやすくなっている。ミカンの木20は、果実の重みで枝折れが生じても、反動による芽吹きなどはしない。
一般的に、ミカンは、日光が当たる外側から約1mの範囲に良質な果実が成る。外側から約1mの範囲よりも内側に成る果実は、糖度が上がらないなど、品質の低い果実となりやすい。実施例のミカンの木20は、日光が当たる外側から約1mの範囲だけに枝を垂らしながら果実を多くつけるため、全体に良質な果実となっている。ミカンの木20は、無摘果であるために個々の果実は摘果した場合よりも小さいが、皮やじょうのうが薄く糖度が高い。従来のように、大きな果実は糖度が上がらない。
また、図18(b)に示すように、ミカンの木20は、列内においては密植となっている。つまり、ミカンの木20の葉は、隣に植えられているミカンの木20の葉と接触し、ストレスを受ける。ミカンの木20の葉は、日光の中の赤色の光を多く吸収して、濃い緑の色になる。隣のミカンの木20の葉によって日光が遮られたミカンの木20の葉や芽は、十分に赤色の光を吸収することができず、日光が遮られたことを感知して、日光を受けることができる方向へ伸びていく。それでも十分に日光を受けられない場合には、ミカンの木20は、結果をさせる生殖生長に傾くと言われている。このように、ミカンの木20は、成長後も生殖生長に傾くように一部の葉がストレスを受けつつ、1列のミカンの木20が合わさって1つの樹のようになっている。よって、ミカンの木20は、成長して密植となっても間伐する必要がない。また、ミカンの木20は、剪定も4,5年以上必要ない。
なお、ミカンの木20は、定植後20年を経過しても高さが高くなりすぎていなければ収穫が容易であるために問題はない。ただし、ミカンの木20は、定植後15年を経過して、乾燥ストレスや飢餓ストレスを受けた後の回復が遅くなった場合、又は高さが高くなりすぎて収穫しにくくなった場合などには、更新(苗木21の植え直し)をされてもよい。
図19は、定植後数年経過した比較例のミカンの木10(図20参照)の収穫時期の状態の一例を模式的に示す図である。比較例のミカンの木10は、苗木及び定植後の期間に強く栄養生長に傾いた期間が長く、例えば樹高が4m以上にもなる。また、比較例のミカンの木10は、幅が3〜4mにもなる。
上述したように、ミカンは、日光が当たる外側から約1mの範囲よりも内側に成る果実は、糖度が上がらないなど、品質の低い果実となりやすい。そのため、ミカンの木10は、主枝、亜主枝、側枝、結果枝を伸ばし、内側に品質の低い果実を着けてしまう。また、ミカンの木10は、内側に日光を当てるために剪定されると、内側には良質の果実をつけるが、外側に果実をつけなくなってしまう。比較例のミカンの木10は、大きく育って収穫できるまでに時間がかかり、高い場所の収穫も行いにくく、内側に品質の低い果実をつくってしまう。
このように、図15〜図18に示す実施形態は、定植工程後の最初の果実を略全摘果する全摘果工程をさらに含むことを特徴とする。これにより、生殖生長に傾けつづけることを容易にすることができる。
また、全摘果工程後の果実は無摘果とすることを特徴とする。これにより、定植後の2年目以降の果実の収穫数を多くすることができる。
また、苗木21に対し、雨水の流れの上手となる離れた所定位置にのみ施肥する施肥工程をさらに含むことを特徴とする。これにより、細根22に濃度の高い肥料を与えることを防止することができるので、細根22の成長を促すことができる。また、細根22の伸びる方向も雨水の流れる方向に仕向けることができる。
また、施肥工程は、発根時期以外の期間に施肥する工程であることを特徴とする。これにより、肥料による発根時期のずれを防止することができ、細根22の成長を促すことができる。
また、施肥工程は、定植工程を行った年の2度目の発根時期から、少なくとも翌年の花芽形成が終わるまでの期間以外の期間に施肥する工程であることを特徴とする。これにより、定植工程を行った年の後半に苗木21が栄養生長に傾くことを防止することができ、実を毎年結ぶ連年結果の確実性を高めることができる。
また、施肥工程は、定植工程を行った年の翌年以外の期間に施肥する工程であることを特徴とする。これにより、苗木21が若い間に栄養生長に傾くことを防止することができ、連年結果の確実性を高めることができる。
また、施肥工程は、定植工程を行った年の翌年の収穫後から花芽形成が終わるまでの期間以外に施肥する工程であることを特徴とする。収穫期は、花芽形成期でもあり、連年結果のために生殖生長である必要がある。また、植物は、果実がなくなると、栄養生長に移行しやすくなる。これにより、収穫後に樹勢を回復させるために与える肥料であるいわゆるお礼肥などを行わないことにより、栄養生長に傾くことを防止することができ、連年結果の確実性を高めることができる。
また、定植工程を行った後、4年間は剪定しないことを特徴とする。これにより、作業量を低減させることができるとともに、後に実を結ぶ結果母枝となる発育枝の数を増やすことができる。
また、ミカンの木20の栽培方法には、定植工程により定植された苗木21にタケノコエキスを散布する工程をさらに含むことを特徴とする。これにより、例えば、タケノコの成長の速さを苗木21に与えることも可能と思われる。
また、ミカンの木20の栽培方法には、海藻から抽出した海藻エキスを苗木21に散布する工程をさらに含むことを特徴とする。例えば、苗木21から出た葉に対して海藻エキスを葉面散布した場合、葉による光合成を促進することができる。
以上のように、本発明によれば、植替え後の作業量を低減しつつ、品質の良い果実の収穫量を多くすることを可能にすることができる。
なお、上述した栽培方法で栽培する植物は、例えば、柑橘類に限らず、果実を実らせる植物全般を含むものとする。また、果実は、子房からなる真果、花托や果枝などを由来とする偽果も含むものとする。また、果実には、無核果である単為結果の果実、及び、果菜又は果物に分類されるものも含むものとする。具体的には、果実は、例えばいちご、きゅうり、なす、トマト、ピーマン、にがうり、すいか、豆、米などを含むものとする。