JP2019052059A - 複合焼結体、砥粒、砥石、複合焼結体の製造方法 - Google Patents

複合焼結体、砥粒、砥石、複合焼結体の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】高硬度を有し、かつ耐摩耗性に優れた複合焼結体、砥粒、砥石、及び複合焼結体の製造方法を提供する。【解決手段】本発明の複合焼結体は表面に凹部が存在するアルミナ焼結体と、その凹部に存在するイットリウム化合物とを含む。本発明の砥粒は本発明の複合焼結体を含む。本発明の砥石は本発明の砥粒の層を作用面に有する。本発明の複合焼結体の製造方法は、アルミナ原料またはアルミナ焼結体の表面にイットリウム化合物前駆体を付着させる付着工程と、イットリウム化合物前駆体が付着したアルミナ原料またはアルミナ焼結体を熱処理する熱処理工程とを含む。【選択図】図5

Description

本発明は、複合焼結体、その複合焼結体を含む砥粒、その砥粒の層を作用面に有する砥石及び複合焼結体の製造方法に関し、特に、イットリウム化合物及びアルミナを含む複合焼結体、その複合焼結体を含む砥粒、その砥粒の層を作用面に有する砥石及びイットリウム化合物及びアルミナを含む複合焼結体の製造方法に関する。
アルミナ焼結体は、高硬度、高強度、高耐熱性、高耐摩耗性及び高耐薬品性等に優れるという特徴を生かして様々な産業分野で使用されている。特に、鉄鋼産業における重研削砥石の原料である砥粒として使用されている。
また、自動車を中心とする輸送用機器あるいは産業用機械を構成する部品の材料として、特殊合金が多用されつつある。これらの特殊合金はSUS304等に比べて硬いため、従来にはなかった「研削比」の大きい重研削砥石が市場で求められている。ここで、「研削比」とは砥石の性能を示す指標で以下の式によって示される。研削比が大きいほど、砥石の性能は高い。
研削比=被削材が削られた量(研削量)/砥石の摩耗量 (A)
一般的に、少ない砥石で多くの被削材を削ることができれば性能が良いと判断されるが、砥石の研削比はその砥石に使用される砥粒の「硬度」と「強度または靱性」に影響される。「研削比」と「硬度」、及び「研削比」と「強度または靱性」の間には、次のような関係があると考えられている。
(1)砥粒の硬度が高くなると研削量が増えるため研削比は高くなる。
(2)砥粒の強度または靱性が高くなると砥粒が破断する量が少なくなり、砥粒の摩耗量が減少するため研削比は高くなる。
すなわち、研削比の式における分子部分は砥粒の硬度に影響され、分母部分は砥粒の強度または靱性に影響される。大きい研削比の砥石を得るためには硬度、強度及び靱性がいずれも高くすることが理想的である。
ここで、従来の重研削砥石用の砥粒としては、アルミナ原料を焼結させた砥粒(特許文献1〜5及び非特許文献1,2参照)等が知られている。特許文献1にはアルミナ微粉末に、粘土を添加混合し、砥粒中に二酸化ケイ素として、0.05〜3.0wt%含有させることが記載されている。
特許文献2にはアルミナ質焼結砥粒に対し、Cr、Ti、Fe、V、Mg、Ga及びRhの酸化物等の微粉末を塗すか又はこれらの塩等の溶液を含浸させることにより、アルミナ結晶にこれらの元素を固溶させ、靱性を向上させる製造方法が記載されている。
特許文献3には、アルミナを主成分とする焼結体の表面から少なくとも0.05mm内部までの表面調質層に3a、4a、5a、6a族元素、Fe、Ni、Co、Siの中の少なくとも1種を含む化合物を形成し、この化合物を形成する元素を表面から内部に向って漸次減少させた工具アルミナ焼結体及びその製造方法が記載されている。
特許文献4では、アルミナ結晶の結晶粒界相にイットリウム成分を含むアルミナ質焼結体において、結晶粒界相がYSiとSiOとで構成される高融点相を有することが記載されている。
特許文献5では、アルミナの粉末中に水素化イットリウムを混合してなるセラミック焼結原料を焼結することにより得られるセラミック焼結体について記載されている。
非特許文献1にはマグネシアとスピネルの多相セラミックスをケイ酸ソーダ液に浸漬することで、亀裂が補修され、弾性率が増大することが記載されている。
非特許文献2にはMgO焼結体の表面を研磨し、MgO焼結体の表面に存在する亀裂を低減させることで強度が向上することが記載されている。
特開平4−20586号公報 特開平2−097457号公報 特開平6−16468号公報 特開2010−208901号公報 特開2013−144622号公報
J.Am.Chem.Soc.1953,36,p199−203 守吉祐介,笹本忠,植松敬三,伊熊泰郎,門間英毅,池上隆康,丸山俊夫,「セラミックスの焼結」,(株)内田老鶴圃,p219〜226(1995年12月15日発行)
特許文献1に記載の製造方法で作製されたアルミナ焼結砥粒は、粘土の添加によってクラック粒含有率を低減させることが可能ではあるが、粘土の添加量を増やしてもそのクラック粒含有率は15%以下にはならないため効果は不十分である。また、粘土に由来するケイ素が多くなるほど、アルミナ焼結体の硬度が低下するため好ましくない。
特許文献2に記載の製造方法で作製された研磨材砥粒はアルミナ結晶への固溶によって靱性の向上を目指しているが、高荷重がかかる重研削砥粒として用いるには靱性が不十分である。
特許文献3のアルミナ焼結体では、表面調質層が厚く形成されることによってアルミナ焼結体が有する高硬度の特性が失われることが考えられる。アルミナを主成分とする焼結体の表面調質層に含まれる元素が表面から内部に向って漸次減少させる構成を制御することは極めて難しい。
特許文献4では、アルミナ焼結体の結晶粒界に少なくともYSiとSiOとで構成する高融点相を存在させる必要があるため、アルミナ粉末中に平均粒子径が小さいシリカ粉末、イットリア粉末を均一に分散させなければならなく、原料コスト、製造コストが高くなる。またアルミナ焼結体の結晶粒界に少なくともYSiとSiOとで構成する高融点相を存在させたとしても、アルミナ焼結体の表面に亀裂が存在した場合、機械的特性は表面の亀裂の深さやその数に依存すると考えられる。
特許文献5では、イットリウムが金属イットリウムの形態でアルミナ焼結体中に存在するため、アルミナ焼結体の強度が却って低くなる場合がある。
非特許文献1に記載のケイ酸ソーダによる亀裂補修の効果は高荷重がかかる重研削砥粒としては不十分である。また表面にケイ酸ソーダのような軟質層が存在すると被削材の研削速度が低下することが予想され、好ましくない。
非特許文献2では焼結体の表面に存在する亀裂を低減させることで強度が向上することが記載されているが、円柱形や不定形の焼結体の表面に存在する亀裂を研磨によって低減させることは困難であり、またもともと亀裂が存在しない焼結体を作製することはさらに困難である。
そこで、本発明は、高硬度を有し、かつ耐摩耗性に優れた複合焼結体、砥粒、砥石、及び複合焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明は[1]〜[11]のいずれかの構成を有する。
[1]表面に凹部が存在するアルミナ焼結体と、前記凹部に存在するイットリウム化合物とを含み、Y換算したイットリウムの含有量が0.005〜3.0質量%である複合焼結体。
[2]前記アルミナ焼結体の表面の凹部が形成されていない部分の少なくとも一部においてアルミナ焼結体が露出している[1]に記載の複合焼結体。
[3]Y換算したイットリウムの含有量が0.01〜2.5質量%である上記[1]または[2]に記載の複合焼結体。
[4]前記イットリウム化合物が、複合焼結体の表面から深さ0.05mm未満の領域のみに存在する、上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の複合焼結体。
[5]前記イットリウム化合物がYAl12、YAl及びYAlOからなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の複合焼結体。
[6]上記[1]〜[5]のいずれか1つに記載の複合焼結体を含む砥粒。
[7]円柱形状を有する上記[7]に記載の砥粒。
[8]上記[6]または[7]に記載の砥粒の層を作用面に有する砥石。
[9]アルミナ原料またはアルミナ焼結体の表面にイットリウム化合物前駆体を付着させる付着工程と、イットリウム化合物前駆体が付着したアルミナ原料またはアルミナ焼結体を熱処理する熱処理工程と、を含み、
前記付着工程において、前記付着させる前記イットリウム化合物前駆体の量をY換算したイットリウムの量と、前記イットリウム化合物前駆体を付着させる前の前記アルミナ原料または前記アルミナ焼結体の量との合計に対する、前記換算した前記イットリウムの量の割合が、0.005〜3.5質量%である複合焼結体の製造方法。
[10]前記付着工程において、前記アルミナ原料または前記アルミナ焼結体の表面に前記イットリウム化合物前駆体を分散液または溶液として付着させる上記[9]に記載の複合焼結体の製造方法。
[11]前記付着工程において、前記アルミナ原料または前記アルミナ焼結体の表面に前記イットリウム化合物前駆体を溶液として付着させる上記[10]に記載の複合焼結体の製造方法。
[12]付着工程において、アルミナ焼結体の表面にイットリウム化合物前駆体を付着させ、熱処理工程において、熱処理の温度が500℃以上である、上記[9]〜[11]のいずれか1つに記載の複合焼結体の製造方法。
[13]付着工程において、アルミナ原料の表面にイットリウム化合物前駆体を付着させ、熱処理工程において、熱処理の温度が1200℃以上である、上記[9]〜[11]のいずれか1つに記載の複合焼結体の製造方法。
本発明によれば、高硬度を有し、かつ耐摩耗性に優れた複合焼結体、砥粒、砥石、及び複合焼結体の製造方法を提供することができる。
本発明の一実施形態にかかる複合焼結体の製造方法の一例を示したフロー図である。 本発明の一実施形態にかかる複合焼結体の製造方法の第1変形例を示したフロー図である。 本発明の一実施形態にかかる複合焼結体の製造方法の第2変形例を示したフロー図である。 本発明の実施例4にかかる複合焼結体の表面を100倍で観察した反射電子像写真である。 本発明の実施例4にかかる複合焼結体の表面を1000倍で観察した反射電子像写真である。 本発明の実施例4にかかる複合焼結体の表面を含む断面を1000倍で観察した反射電子像写真である。 本発明の実施例4にかかる複合焼結体の表面を含む断面を10000倍で観察した反射電子像写真である。 比較例2にかかる複合焼結体の表面を1000倍で観察した反射電子像写真である。 比較例2にかかる複合焼結体の表面を含む断面を1000倍で観察した反射電子像写真である。 比較例2にかかる複合焼結体の表面を含む断面を10000倍で観察した反射電子像写真である。 本発明の実施例4にかかる複合焼結体の表面を含む断面におけるエネルギー分散型X線分光分析の測定点を示した反射電子像写真(5000倍)である。 本発明の実施例4にかかる複合焼結体の表面を含む断面におけるエネルギー分散型X線分光分析の図11とは別の箇所の測定点を示した反射電子像写真(1000倍)である。
以下、本発明の一実施形態を詳細に説明するが、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
<1.複合焼結体>
本実施形態の複合焼結体は、表面に凹部が存在するアルミナ焼結体と、その凹部に存在するイットリウム化合物とを含む。ここで、アルミナ焼結体表面における凹部としては、アルミナ焼結体の製造工程、または複合焼結体の製造工程において粒子と装置あるいは粒子同士の衝突等により生じたアルミナ焼結体表面の傷、及び高温での熱処理による変形で生じるアルミナ焼結体表面の陥没部分等が挙げられるが、これに限られない。以下、本実施形態の複合焼結体の具体的な構成について説明する。
<1−1.複合焼結体の化学成分>
本実施形態の複合焼結体はアルミナを好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上含む。本実施形態の複合焼結体におけるアルミナは、コランダム結晶の構造を有していることが好ましい。本実施形態の複合焼結体からイットリウム化合物を除いた化学成分は、例えば、アルミナが99.1質量部、シリカが0.2質量部、マグネシアが0.1質量部、酸化鉄が0.2質量部、酸化ナトリウムが0.2質量部、残部が微量成分といったものがあるが、これに限られない。
<1−2.イットリウム化合物の存在領域>
本実施形態の複合焼結体中のイットリウム化合物は、アルミナ焼結体の表面の少なくとも一部の凹部に存在していればよく、全ての凹部に存在していてもよい。また、本実施形態の複合焼結体中のイットリウム化合物は、複合焼結体の表面から深さ0.05mm未満の領域のみに存在することが好ましい。すなわち、イットリウム化合物の層の深さが0.05mm未満であることが好ましい。これにより、本実施形態の複合焼結体を製造するときに用いるイットリウム化合物の量が過剰とならず、複合焼結体の製造コストを低減することができる。本実施形態の複合焼結体中のイットリウム化合物は、表面から深さ0.03mm未満の領域のみに存在することがより好ましく、深さ0.02mm未満の領域のみに存在することがさらに好ましい。
特に、本実施形態の複合焼結体は、アルミナ焼結体の表面の凹部が形成されていない部分の少なくとも一部においては、イットリウム化合物は形成されずにアルミナ焼結体が露出していることが好ましい。アルミナ焼結体は硬度が高く、砥粒として用いた場合、アルミナ焼結体と被削物とが直接当たることにより、効率よく被削物を研削することができることが期待できるためである。そのため、凹部が形成されていない部分の全てにおいてアルミナ焼結体が露出している、すなわち、イットリウム化合物はアルミナ焼結体の表面の凹部にのみ存在することが最も好ましい。しかし、複合焼結体として十分な硬度が得られる範囲で、凹部が形成されていない部分にもイットリウム化合物が存在していてもよい。
<1−3.イットリウム化合物の種類>
本実施形態の複合焼結体に含まれるイットリウム化合物は、特に限定されないが、例えば、YAl12、YAl及びYAlOからなる群から選択される少なくとも1種である。これにより、アルミナ焼結体とイットリウム化合物との間の接合力を強くすることができる。
<1−4.イットリウム化合物の含有量>
本実施形態の複合焼結体中のY換算したイットリウム化合物の含有量は、0.005〜3.0質量%であり、好ましくは0.01〜2.5質量%であり、より好ましくは0.02〜1.0質量%であり、さらに好ましくは0.03〜0.5質量%である。本実施形態の構成において、複合焼結体中のY換算したイットリウム化合物の含有量が0.005質量%以上であると、アルミナ焼結体の表面の凹部に十分な量のイットリウム化合物を存在させることができる。これにより、アルミナ焼結体の表面の凹部における複合焼結体の強度が高くなり、アルミナ焼結体の表面の凹部が疲労亀裂の起点となることを抑制することができる。また、本発明の複合焼結体中のY換算したイットリウム化合物の含有量が3.0質量%以下であると、イットリウム化合物の使用量が過剰とならず、イットリウム化合物の層が厚くなることによる硬度の低下を抑制することができる。さらに、イットリウム化合物の使用量を必要量に抑えることで複合焼結体の製造コストを低減することができる。
<1−5.アルミナ、イットリウム化合物以外の化合物>
本実施形態の複合焼結体は、上記の効果を阻害しない範囲で、アルミナ及びイットリウム化合物以外の化合物を含んでもよい。本実施形態の複合焼結体におけるアルミナ及びイットリウム化合物以外の化合物は、酸化物換算で10質量%以下であることが好ましい。アルミナ及びイットリウム化合物以外の化合物は、酸化物換算でより好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以下である。アルミナ及びイットリウム化合物以外の化合物の元素には、例えば、マグネシウム、チタン、カルシウム、ナトリウム、ケイ素、鉄などが挙げられる。
<1−6.本実施形態の効果>
本実施形態の複合焼結体におけるイットリウム化合物がアルミナ焼結体の表面の凹部に存在することにより、アルミナ焼結体の凹部が補強され、複合焼結体の強度が向上すると考えられる。また、驚くべきことに複合焼結体の強度はイットリウム化合物により特異的に向上する。さらに、本実施形態の複合焼結体におけるイットリウム化合物は、アルミナ焼結体の硬度を低下させずに、アルミナ焼結体の強度を向上させる。したがって、本実施形態によれば、高硬度を有し、かつ耐摩耗性に優れた複合焼結体を提供することができる。
<2.砥粒>
本実施形態にかかる複合焼結体を含む砥粒を用いることによって、高硬度を有し、かつ耐摩耗性に優れた、すなわち、研削比の高い砥石を得ることができる。砥粒は本実施形態の複合焼結体を70質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましく、95%質量%以上含むことがさらに好ましく、98質量%以上含むことがさらに好ましい。
本実施形態の砥粒の形状は、その砥粒を用いた砥石に研削性能を付与できれば特に限定されない。しかし、優れた研削性能を砥石に付与できるという観点及び成形のしやすさの観点から、砥粒の好ましい形状は円柱形状である。
<3.砥石>
本実施形態の砥粒の層を作用面に有することにより、研削比が高い砥石を得ることができる。砥石への砥粒の固定方法としては、レジンボンド、ビトリファイドボンド、メタルボンド、電着等が挙げられる。また、台金の材質としては、スチール、ステンレス合金、アルミニウム合金等が挙げられ、その用途に応じて砥粒の固定方法が選択される。
本実施形態の砥粒は、研削比が高く、重研削砥石に適している。なお、重研削とは、鋼片(スラブ、ブルーム、ビレット等)の表面欠陥を取り除く研削方式であり、研削荷重及び研削速度が極めて高い特徴を持つ。砥石にかかる荷重は0.98kN以上であり、場合によっては9.8kNを超えることもある。このような高荷重下で使用される砥石を重研削砥石と呼ぶ。本実施形態の砥石を重研削に用いる場合、砥石の作用面に砥粒を固定する方法として、フェノール樹脂を主成分としたレジンボンドを用いた方法が挙げられるが、これに限られない。
<4.複合焼結体の製造方法>
本実施形態の複合焼結体の製造方法は、アルミナ原料(以下、ここでは、焼結されていないアルミナを意味する)またはアルミナ焼結体の表面にイットリウム化合物前駆体を付着させる付着工程と、イットリウム化合物前駆体が付着したアルミナ原料またはアルミナ焼結体を熱処理する熱処理工程とを含む。ここで、イットリウム化合物前駆体とは、焼結、熱分解、アルミナとの反応等を経て、イットリウム化合物となる物質である。以下、本実施形態の複合焼結体の製造方法の例を述べるが、本実施形態にかかる複合焼結体の製造方法はこれらの例に限られない。また、以下の説明において、アルミナ焼結体またはアルミナペレットの製造工程について言及しているが、予めアルミナ焼結体またはアルミナペレットを入手し、準備しておくことでこれらの製造工程を省略することができる。
図1は、本実施形態の複合焼結体の製造方法の一例を示したフロー図である。この製造方法では、アルミナ原料粉末を成形してアルミナ成形体を得る成形工程A1、アルミナ成形体を焼成してアルミナ焼結体を得る焼成工程A2、アルミナ焼結体の表面にイットリウム化合物前駆体を付着させる付着工程A3、及びイットリウム化合物前駆体が付着したアルミナ焼結体を熱処理する熱処理工程A4を含む。
<4−1.成形工程A1>
成形工程A1では、アルミナ原料粉末を成形してアルミナ成形体を得る。アルミナ原料粉末を成形する成形方法としては、例えば、金型プレス、冷間静水圧プレス、鋳込成形、射出成形、押出し成形、シート成形等が挙げられる。
アルミナ原料粉末は、高純度のものが好ましく、例えばバイヤー法で精製したアルミナを用いることができる。アルミナ原料粉末は、アルミナを好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上含む。
<4−2.焼成工程A2>
焼成工程A2では、アルミナ成形体を焼成してアルミナ焼結体を得る。アルミナ成形体を焼成する方法としては、例えば、アルミナ成形体を匣鉢等の容器に入れマッフル炉等の電気炉またはトンネル式連続焼成炉で加熱処理する方法、前駆体をロータリーキルン等の焼成装置で直接加熱処理する方法などが挙げられる。
焼成温度は、1200℃以上であり、好ましくは1200〜1800℃であり、より好ましくは1300〜1750℃であり、さらに好ましくは1400〜1700℃である。焼成温度が1200℃以上であると、アルミナ成形体の焼結が進行し緻密なアルミナ焼結体が得られる。焼成温度が1800℃以下であるとアルミナ成形体同士のネッキングを抑制でき、所望の形状のアルミナ焼結体を得ることが容易になる。なお、所望とされるアルミナ焼結体の形状は特に限定されない。
また、焼成雰囲気は大気中、不活性雰囲気又は真空のいずれでもよいが、設備コストの観点から大気中であることが好ましい。
<4−3.付着工程A3>
付着工程A3では、アルミナ焼結体の表面にイットリウム化合物前駆体を付着させる。アルミナ焼結体の表面にイットリウム化合物前駆体を付着させる方法としては、例えば、イットリウム化合物前駆体の分散液または溶液をアルミナ焼結体に噴霧する方法がある。また、別の例としては、イットリウム化合物前駆体の分散液または溶液にアルミナ焼結体を浸漬させ、ろ過及び乾燥する方法がある。さらに別の例としては、イットリウム化合物前駆体の分散液または溶液にアルミナ焼結体を浸漬させ、溶媒を蒸発させ、アルミナ焼結体の表面のイットリウム化合物前駆体を乾固させる方法がある。
本実施形態のように、イットリウム化合物前駆体を含む液体としてアルミナ焼結体に付着させることで、アルミナ焼結体の表面の凹部により確実にイットリウム化合物前駆体が入り込むことができる。また、イットリウム化合物前駆体の溶液を用いることにより、アルミナ焼結体の表面の凹部にイットリウム化合物前駆体がより緻密に充填され、複合焼結体として、アルミナ焼結体の表面の凹部に緻密なイットリウム化合物の層が形成される。
イットリウム化合物前駆体は、例えば、酸化イットリウム、塩化イットリウム、フッ化イットリウム、炭酸イットリウム、酢酸イットリウム、硝酸イットリウム、臭化イットリウム、硫化イットリウム、シュウ酸イットリウム、リン酸イットリウム、過塩素酸イットリウム、ホウ化イットリウム、ヨウ化イットリウム、硫酸イットリウム、ステアリン酸イットリウム、イットリウムイソプロポキシド、ネオデカン酸イットリウム、ナフテン酸イットリウム、アセチルアセトン酸イットリウム、トリス(シクロペンタジエニル)イットリウム、2−エチルヘキサン酸イットリウム、トリス(ブチルシクロペンタジエニル)イットリウム、トリス(n−プロピルシクロペンタジエニル)イットリウム、トリデカキス(イソプロパノラト)(オキソ)ペンタイットリウム、トリス(アセチルアセトナト)イットリウム、2−エチルヘキサン酸イットリウム、トリフルオロメタンスルホン酸イットリウム、トリス(2,2,6,6−テトラメチルー3,5−へプタンジオナト)イットリウム、イットリウムヘキサフルオロアセチルアセトナート、及びイットリウム・アルミニウム・ガーネットからなる群から選択される少なくとも1種である。これらのイットリウム化合物前駆体のうち、好ましいイットリウム化合物前駆体は、酸化イットリウム、塩化イットリウム、炭酸イットリウム、酢酸イットリウム、硝酸イットリウム、シュウ酸イットリウム及び硫酸イットリウムからなる群から選択される少なくとも1種であり、より好ましいイットリウム化合物前駆体は、酸化イットリウム、塩化イットリウム、酢酸イットリウム、硝酸イットリウム及び硫酸イットリウムからなる群から選択される少なくとも1種であり、さらに好ましいイットリウム化合物前駆体は、酸化イットリウム、酢酸イットリウム及び硝酸イットリウムからなる群から選択される少なくとも1種である。これらのイットリウム化合物は無水物であっても水和物であってもよい。
アルミナ焼結体に付着させるイットリウム化合物前駆体の量をY換算したイットリウムの量と、イットリウム化合物前駆体を付着させる前のアルミナ焼結体の量との合計に対する、上記換算したイットリウムの量の割合は、0.005〜3.5質量%であり、好ましくは0.01〜3.0質量%であり、より好ましくは0.02〜1.3質量%であり、さらに好ましくは0.03〜0.8質量%である。イットリウム化合物前駆体の付着量が0.005質量%以上であると、アルミナ焼結体の表面の凹部に十分な量のイットリウム化合物を存在させることができる。また、イットリウム化合物前駆体の付着量が3.5質量%以下であると、イットリウム化合物前駆体の付着量が過剰になることを抑制でき、アルミナ質焼結体の製造コストを低減することができる。
イットリウム化合物前駆体を分散または溶解させる溶媒は、例えば、水、ギ酸、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、酢酸、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、酢酸エチル、クロロホルム、ジエチルエーテル、トルエン、ベンゼン及びヘキサンからなる群から選択される少なくとも1種であり、好ましい溶媒は水である。
<4−4.熱処理工程A4>
熱処理工程A4では、イットリウム化合物前駆体を塗布したアルミナ質焼結体を500℃以上の熱処理温度で熱処理する。熱処理の方法には、例えば、イットリウム化合物前駆体が付着したアルミナ焼結体を匣鉢等の容器に入れマッフル炉等の電気炉またはトンネル式連続焼成炉で加熱処理する方法、イットリウム化合物前駆体が付着したアルミナ焼結体をロータリーキルン等の焼成装置で直接加熱処理する方法などが挙げられる。
熱処理温度は、好ましくは500℃以上であり、より好ましくは500〜1800℃であり、さらに好ましくは1000〜1750℃であり、さらに好ましくは1500〜1700℃である。熱処理温度が500℃以上であると、イットリウム化合物前駆体から生成したイットリウム化合物をアルミナ焼結体の表面の凹部に十分に存在させることができる。熱処理温度が1800℃以下であるとアルミナ焼結体同士のネッキングを抑制でき、所望の形状のアルミナ焼結体を得ることができる。
また、熱処理の雰囲気は、大気中、不活性雰囲気又は真空のいずれでもよいが、設備コストの観点から大気中であることが好ましい。
<5.複合焼結体の製造方法の第1変形例>
図2は、本実施形態の複合焼結体の製造方法の第1変形例を示したフロー図である。この製造方法では、アルミナ原料粉末を造粒してアルミナペレットを得る造粒工程B1、アルミナペレットの表面にイットリウム化合物前駆体を付着させる付着工程B2、及びイットリウム化合物前駆体が付着したアルミナペレットを焼成(熱処理)する焼成(熱処理)工程B3を含む。
<5−1.造粒工程B1>
造粒工程B1では、アルミナ原料粉末を造粒してアルミナペレットを得る。アルミナ原料粉末は、上記成形工程(A1)に記載されたものと同様である。アルミナ原料粉末を造粒する方法は、所望の形状のアルミナペレットを得られれば特に限定されないが、押し出し式造粒法が好ましい。押し出し式造粒法とは、原料粉末に加液し混練して原料粉末のケーキを作製し、原料粉末のケーキを多数の孔の開いたダイスから押し出すことによってアルミナペレットを得る造粒方法である。押し出し式造粒法では、例えば、スクリュー押し出し式造粒機が使用される。
この造粒法では円柱形状のアルミナペレットを得ることができる。なお、解砕整粒機を用いてアルミナペレットの長さをそろえてもよいし、長さをそろえたアルミナペレットを、球形整粒機を用いて球形にしてもよい。押し出し式造粒法により製造されたアルミナペレットは内部の空隙が小さくなり、アルミナペレットに付着させるイットリウム化合物前駆体がアルミナペレットの表面から内部へ深く浸透することを抑制できる。
アルミナペレットの大きさは、目標とする砥粒の粒度に基づいて適宜選択される。砥粒の粒度としては、例えば、JIS R 6111(人造研削材)に規定されているものがある。
<5−2.付着工程B2>
付着工程B2では、アルミナペレットの表面にイットリウム化合物前駆体を付着させる。なお、イットリウム化合物前駆体は、上記付着工程A3で記載したものと同様である。アルミナペレットの表面にイットリウム化合物前駆体を付着させる方法としては、例えばイットリウム化合物前駆体の分散液または溶液をアルミナペレットに噴霧する方法が挙げられる。この方法によれば、イットリウム化合物前駆体がアルミナペレットの表面から内部へ深く浸透することを抑制できる。
アルミナペレットに付着させるイットリウム化合物前駆体の量をY換算したイットリウムの量と、イットリウム化合物前駆体を付着させる前のアルミナペレットの量との合計に対する、上記換算したイットリウムの量の割合は、0.005〜3.5質量%であり、好ましくは0.01〜3.0質量%であり、より好ましくは0.02〜1.3質量%であり、さらに好ましくは0.03〜0.8質量%である。イットリウム化合物前駆体の付着量が0.005質量%以上であると、後述するアルミナ焼結体の表面の凹部に十分な量のイットリウム化合物を存在させることができる。また、イットリウム化合物前駆体の付着量が3.0質量%以下であると、イットリウム化合物前駆体の付着量が、過剰とならず、アルミナ焼結体の製造コストを低減することができる。
イットリウム化合物前駆体を分散または溶解させる溶媒は、上記付着工程A3で記載したものと同様である。
<5−3.焼成(熱処理)工程B3>
焼成(熱処理)工程B3では、イットリウム化合物前駆体が付着したアルミナペレットを焼成(熱処理)する。アルミナペレットを焼成する方法としては、例えば、アルミナペレットを匣鉢等の容器に入れマッフル炉等の電気炉またはトンネル式連続焼成炉で加熱処理する方法、前駆体をロータリーキルン等の焼成装置で直接加熱処理する方法などが挙げられる。
焼成(熱処理)温度は、1200℃以上であり、好ましくは1200〜1800℃であり、より好ましくは1300〜1750℃であり、さらに好ましくは1400〜1700℃である。焼成温度が1200℃以上であると、アルミナペレットの焼結が進行し緻密なアルミナ焼結体が得られる。また、生成したイットリウム化合物をアルミナ焼結体の表面の凹部に十分に存在させることができる。加熱温度が1800℃以下であるとアルミナペレット同士のネッキングを抑制でき、所望の形状の複合焼結体を得ることができる。
また、焼成(熱処理)雰囲気は、大気中、不活性雰囲気又は真空のいずれでもよいが、設備コストの観点から大気中であることが好ましい。
複合焼結体は強度及び靱性が高く、砥粒の形状に成形する、あるいはその形状を制御することは難しいため、第1変形例のようにイットリウムを含まないアルミナの段階でペレットとすることで、効率よく所望の形状の砥粒を得ることができる。
<6.複合焼結体の製造方法の第2変形例>
図3は、本実施形態の複合焼結体の製造方法の第2変形例を示したフロー図である。この製造方法では、アルミナ原料粉末を造粒してアルミナペレットを得る造粒工程C1、アルミナペレットを焼成してアルミナ焼結体を得る焼成工程C2、アルミナ焼結体の表面にイットリウム化合物前駆体を付着させる付着工程C3、及びイットリウム化合物前駆体が付着したアルミナ焼結体を熱処理する熱処理工程C4を含む。造粒工程C1は、第1変形例における造粒工程B1と同様であり、付着工程C3は上記実施形態の付着工程A3と同様であり、熱処理工程C4は上記実施形態における熱処理工程A4と同様であるため、以下においては、焼成工程C2について説明する。
<6−1.焼成工程C2>
焼成工程C2では、アルミナペレットを焼成してアルミナ焼結体を得る。アルミナペレットを焼成する方法としては、例えば、アルミナ成形体を匣鉢等の容器に入れマッフル炉等の電気炉またはトンネル式連続焼成炉で加熱処理する方法、前駆体をロータリーキルン等の焼成装置で直接加熱処理する方法などが挙げられる。
焼成温度は、1200℃以上であり、好ましくは1200〜1800℃であり、より好ましくは1300〜1750℃であり、さらに好ましくは1400〜1700℃である。焼成温度が1200℃以上であると、アルミナペレットの焼結が進行し緻密なアルミナ焼結体が得られる。加熱温度が1800℃以下であるとアルミナペレット同士のネッキングを抑制でき、所望の形状のアルミナ焼結体砥粒を得ることができる。
また、焼成雰囲気は、大気中、不活性雰囲気又は真空のいずれでもよいが、設備コストの観点から大気中であることが好ましい。
本変形例も第1変形例と同様に効率よく所望の形状の砥粒を得ることができる。また、本変形例では、イットリウム化合物がアルミナ焼結体の表面の凹部に、より確実に存在する。
<7.本発明の複合焼結体の製造方法について>
以上、本発明の実施形態にかかる複合焼結体の製造方法及びその変形例を説明したが、本発明の複合焼結体の製造方法は、これらに限定されない。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
<8.アルミナ焼結体の作製>
実施例1〜実施例8及び比較例2〜比較例7の複合焼結体、及び比較例1のアルミナ焼結体を以下のようにして作製した。また、これらの複合焼結体及びアルミナ焼結体の作製に用いたアルミナ、化合物前駆体の種類及びその添加量(酸化物換算)について表1に示す。
<実施例1>
蒸留水10.0mLに0.050gの酢酸イットリウム(III)四水和物(関東化学(株)製)を溶かしてイットリウム化合物前駆体溶解液を作製した。次にJIS6001−1における粒度F12の円柱形状の砥粒状のアルミナ焼結体(昭和電工(株)製、品番SR−1)を100.0g、蒸発皿に量りとった。なお、このアルミナ焼結体は、アルミナ原料粉末を造粒してアルミナペレット作製し、アルミナペレットを1200℃以上の温度で焼成することによって得られたものである。このアルミナ焼結体にイットリウム化合物前駆体溶解液を全て滴下し、アルミナ焼結体の表面にイットリウム化合物前駆体を付着させた。イットリウム化合物前駆体が付着したアルミナ焼結体を載せた蒸発皿を80℃に加熱したホットプレートに載せ、アルミナ焼結体の表面に付着したイットリウム化合物前駆体を乾固させた。このアルミナ焼結体を電気炉に入れ、200分かけて室温から1700℃まで昇温した。そして、この砥粒を1700℃の熱処理温度で1時間保持した後、自然冷却して、実施例1の複合焼結体を作製した。
なお、酢酸イットリウム(III)四水和物をY換算した量と、イットリウム化合物前駆体を付着させる前のアルミナ焼結体の量との合計に対する、酢酸イットリウム(III)四水和物をY換算した量の割合は0.017質量%である。
<実施例2>
蒸留水10.0mLに0.100gの酢酸イットリウム(III)四水和物(関東化学(株)製)を溶かしてイットリウム化合物前駆体溶解液を作製した。それ以外は、実施例1の複合焼結体と同様の方法で、実施例2の複合焼結体を作製した。
なお、酢酸イットリウム(III)四水和物をY換算した量と、イットリウム化合物前駆体を付着させる前のアルミナ焼結体の量との合計に対する、酢酸イットリウム(III)四水和物をY換算した量の割合は0.033質量%である。
<実施例3>
蒸留水10.0mLに0.500gの酢酸イットリウム(III)四水和物(関東化学(株)製)を溶かしてイットリウム化合物前駆体溶解液を作製した。それ以外は、実施例1の複合焼結体と同様の方法で、実施例3の複合焼結体を作製した。
なお、酢酸イットリウム(III)四水和物をY換算した量と、イットリウム化合物前駆体を付着させる前のアルミナ焼結体の量との合計に対する、酢酸イットリウム(III)四水和物をY換算した量の割合は0.17質量%である。
<実施例4>
蒸留水10.0mLに1.000gの酢酸イットリウム(III)四水和物(関東化学(株)製)を溶かしてイットリウム化合物前駆体溶解液を作製した。それ以外は、実施例1の複合焼結体と同様の方法で、実施例4の複合焼結体を作製した。
なお、酢酸イットリウム(III)四水和物をY換算した量と、イットリウム化合物前駆体を付着させる前のアルミナ焼結体の量との合計に対する、酢酸イットリウム(III)四水和物をY換算した量の割合は0.33質量%である。
<実施例5>
蒸留水10.0mLに、酢酸イットリウム(III)四水和物に代えて、1.133gの硝酸イットリウム(III)六水和物(関東化学(株)製)を溶かしてイットリウム化合物前駆体溶解液を作製した。それ以外は、実施例1の複合焼結体と同様の方法で、実施例5の複合焼結体を作製した。
なお、硝酸イットリウム(III)六水和物をY換算した量と、イットリウム化合物前駆体を付着させる前のアルミナ焼結体の量との合計に対する、硝酸イットリウム(III)六水和物をY換算した量の割合は0.33質量%である。
<実施例6>
蒸留水10.0mLに、酢酸イットリウム(III)四水和物に代えて、0.897gの塩化イットリウム(III)六水和物(関東化学(株)製)を溶かしてイットリウム化合物前駆体溶解液を作製した。それ以外は、実施例1の複合焼結体と同様の方法で、実施例6の複合焼結体を作製した。
なお、塩化イットリウム(III)六水和物をY換算した量と、イットリウム化合物前駆体を付着させる前のアルミナ焼結体の量との合計に対する、塩化イットリウム(III)六水和物をY換算した量の割合は0.33質量%である。
<実施例7>
蒸留水10.0mLに0.334gの酸化イットリウム(III)(関東化学(株)製、品名:NanoTek(登録商標))を分散させ、懸濁液を作製した。次に実施例1で用いたものと同じアルミナ焼結体(昭和電工(株)製、品番SR−1)を100.0g、蒸発皿に量りとった。このアルミナ焼結体に酸化イットリウムの懸濁液を滴下し、アルミナ焼結体の表面にイットリウム化合物前駆体を付着させた。イットリウム化合物前駆体が付着したアルミナ焼結体を載せた蒸発皿を80℃に加熱したホットプレート上に載せ、アルミナ焼結体の表面に付着したイットリウム化合物前駆体を乾固させた。この前駆体を電気炉に入れ、200分かけ1700℃まで昇温し、1700℃で1時間保持後、自然冷却させ、複合焼結体を作製した。
なお、酸化イットリウム(III)の量と、イットリウム化合物前駆体を付着させる前のアルミナ焼結体の量との合計に対する、酸化イットリウム(III)の量の割合は0.33質量%である。
<実施例8>
蒸留水10.0mLに0.500gの酢酸イットリウム(III)四水和物(関東化学(株)製)を溶かしてイットリウム化合物前駆体溶解液を作製した。次に、実施例1で用いたアルミナ焼結体(昭和電工(株)製、品番SR−1)の焼成前のアルミナペレットを100.0g、蒸発皿に量りとった。イットリウム化合物前駆体溶解液の全てを、このアルミナペレットの表面に均一に噴霧した。イットリウム化合物前駆体が付着したアルミナペレットを電気炉に入れ、200分かけて室温から1700℃まで昇温した。そして、このアルミナペレットを1700℃の温度で1時間、焼成して、実施例8の複合焼結体を作製した。
なお、酢酸イットリウム(III)四水和物をY換算した量と、イットリウム化合物前駆体を付着させる前のアルミナペレットの量との合計に対する、酢酸イットリウム(III)四水和物をY換算した量の割合は0.17質量%である。
<比較例1>
イットリウム化合物を塗布しなかったこと以外は、実施例1の複合焼結体と同様の方法で、比較例1のアルミナ焼結体を作製した。
<比較例2>
蒸留水10.0mLに0.010gの酢酸イットリウム(III)四水和物を溶かしてイットリウム化合物前駆体溶解液を作製した。それ以外は、実施例1の複合焼結体と同様の方法で、比較例2の複合焼結体を作製した。
なお、酢酸イットリウム(III)四水和物をY換算した量と、イットリウム化合物前駆体を付着させる前のアルミナ焼結体の量との合計に対する、酢酸イットリウム(III)四水和物をY換算した量の割合は0.003質量%である。
<比較例3>
イットリウム化合物前駆体溶解液の代わりに、蒸留水10.0mLに0.037gの酢酸ガドリニウム(III)四水和物(和光純薬工業(株)製)を溶かして作製したガドリニウム化合物前駆体溶解液を使用した。それ以外は、実施例1の複合焼結体と同様の方法で、比較例3の複合焼結体を作製した。
なお、酢酸ガドリニウム(III)四水和物をGd換算した量と、ガドリニウム化合物前駆体を付着させる前のアルミナ焼結体の量との合計に対する、酢酸ガドリニウム(III)四水和物をGd換算した量の割合は0.017質量%である。
<比較例4>
イットリウム化合物前駆体溶解液の代わりに、蒸留水10.0mLに0.034gの塩化鉄(III)(関東化学(株)製)を溶かして作製した鉄化合物前駆体溶解液を使用した。それ以外は、実施例1の複合焼結体と同様の方法で、比較例4の複合焼結体を作製した。
なお、塩化鉄(III)をFe換算した量と、鉄化合物前駆体を付着させる前のアルミナ焼結体の量との合計に対する、塩化鉄(III)をFe換算した量の割合は0.017質量%である。
<比較例5>
イットリウム化合物前駆体溶解液の代わりに、蒸留水10.0mLに0.031gの酢酸酸化ジルコニウム(IV)(キシダ化学(株)製)を溶かして作製したジルコニウム化合物前駆体溶解液を使用した。それ以外は、実施例1の複合焼結体と同様の方法で、比較例5の複合焼結体を作製した。
なお、酢酸酸化ジルコニウム(IV)をZrO換算した量と、ジルコニウム化合物前駆体を付着させる前のアルミナ焼結体の量との合計に対する、酢酸酸化ジルコニウム(IV)をZrO換算した量の割合は0.017質量%である。
<比較例6>
イットリウム化合物前駆体溶解液の代わりに、蒸留水10.0mLに0.089gの酢酸マグネシウム(II)四水和物(関東化学(株)製)を溶かして作製したマグネシウム化合物前駆体溶解液を使用した。それ以外は、実施例1の複合焼結体と同様の方法で、比較例6のマグネシウム含有アルミナ焼結体を作製した。
なお、酢酸マグネシウム(II)四水和物をMgO換算した量と、マグネシウム化合物前駆体を付着させる前のアルミナ焼結体の量との合計に対する、酢酸マグネシウム(II)四水和物をMgO換算した量の割合は0.017質量%である。
<比較例7>
イットリウム化合物前駆体溶解液の代わりに、蒸留水10.0mLに0.017gの酸化クロム(III)を分散させて作製したクロム化合物前駆体分散液を使用した。それ以外は、実施例7の複合焼結体と同様の方法で、比較例7のクロム含有アルミナ焼結体を作製した。
なお、酸化クロム(III)の量と、クロム化合物前駆体を付着させる前のアルミナ焼結体の量との合計に対する酸化クロム(III)の量の割合は0.017質量%である。

<9.実施例及び比較例で作製された試料の評価方法>
実施例1〜8及び比較例2〜7で作製された複合焼結体、及び比較例1で作製されたアルミナ焼結体について、以下の方法で評価した。
<9−1.蛍光X線元素分析>
実施例及び比較例で作製された複合焼結体及びアルミナ焼結体のアルミナの含有量、Y換算のイットリウム化合物の含有量、及びその他の成分の酸化物換算の含有量を、蛍光X線元素分析法によって測定した。蛍光X線元素分析の測定機器としては、(株)リガク製「ZSX Primus」を用いた。
複合焼結体及びアルミナ焼結体を粉砕機で粉砕し、プレス成形したペレットを用いる粉末プレス法で測定試料を調製し、ファンダメンタルパラメータ法(FP法)により測定試料を測定した。なお、各成分の酸化物換算の含有量を求める際の分母となる全体量は、各実施例及び比較例の最終生成物としての複合焼結体またはアルミナ焼結体の質量とした。結果を表2に示す。
<9−2.反射電子像の観察>
実施例4で作製した複合焼結体の表面におけるイットリウム元素の存在状態を、走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製、機種名「JSM−6510V」、以下同じ)を用いて反射電子像写真の観察を行った。
図4は、本発明の実施例4にかかる複合焼結体の表面を100倍で観察した反射電子像写真である。また、図5は、本発明の実施例4にかかる複合焼結体の表面を1000倍で観察した反射電子像写真である。画面中、色の濃い部分はアルミナ焼結体の領域であり、白い部分はイットリウム化合物の領域である。この観察結果から、実施例4にかかる複合焼結体においては、イットリウム化合物がアルミナ焼結体の表面の一部に存在していることが分かる。また、イットリウム化合物が形成されずにアルミナ焼結体が露出している部分も見られる。
また、実施例4で作製した複合焼結体を透明樹脂粉末(リファインテック株式会社製、アクリル樹脂95〜100%、メタクリル酸メチル0〜5%、ジベンゾイルペルオキシド 0〜1%)中に含ませ、この樹脂を成形後に切断し、切断面を鏡面研磨処理し、白金蒸着処理を行い、試料表面を含む断面について、走査型電子顕微鏡による反射電子像写真の観察を行った。
図6は、本発明の実施例4にかかる複合焼結体の表面を含む断面を1000倍で観察した反射電子像写真である。また、図7は、本発明の実施例4にかかる複合焼結体の表面を含む断面を10000倍で観察した反射電子像写真である。図6及び図7の画面中、色の濃い部分はアルミナ焼結体の領域であり、白い部分はイットリウム化合物の領域である。この観察結果から、実施例4にかかる複合焼結体において、イットリウム化合物がアルミナ焼結体の表面の凹部に存在していることが分かる。また、図6から、凹部以外の部分においてはアルミナ焼結体が露出している部分があることが分かる。
以上の観察結果から、実施例4にかかる複合焼結体において、イットリウム化合物はアルミナ焼結体の表面近傍にのみ存在しており、アルミナ焼結体の内部には存在していないことが分かった。また、イットリウム化合物はアルミナ焼結体の表面の凹部に存在しており、すなわち、イットリウム化合物は凹部に充填されていることが分かった。
図8は、比較例2にかかる複合焼結体の表面を1000倍で観察した反射電子像写真である。図8の見方は、図4及び図5と同様である。図8からはアルミナ表面上にイットリウム化合物の領域が形成されていることは確認できない。
図9は、比較例2にかかる複合焼結体の表面を含む断面を1000倍で観察した反射電子像写真である。また、図10は、比較例2にかかる複合焼結体の表面を含む断面を10000倍で観察した反射電子像写真である。図9及び図10の見方は、図6及び図7と同様である。なお、比較例2の断面を観察するための試料の作製方法は、実施例4における試料の作製方法と同様である。図9及び図10から、比較例2における複合焼結体は、アルミナ焼結体表面上の凹部にイットリウム化合物は充填されていないことが分かる。
以上の観察結果から、比較例2におけるイットリウム化合物の含有量、すなわち複合焼結体中のY換算したイットリウムの含有量(表2)では、アルミナ焼結体表面の凹部にイットリウム化合物が充填されていないことが分かった。
<9−3.エネルギー分散型X線分光分析>
実施例4の複合焼結体の表面近傍におけるイットリウム元素の分布状態を、エネルギー分散型X線分光器(日本電子(株)社製、機種名JED−2300)を用いて連続点分析により測定した。
図11は、本発明の実施例4にかかる複合焼結体の表面を含む断面におけるエネルギー分散型X線分光分析の測定点を示した反射電子像写真(5000倍)である。なお、図11及び後述する図12の画像は図6及び図7と同様の方法にて得られたものである。図11において、測定点aは表面から深さ0.017mm、測定点bは表面から深さ0.012mm、測定点cは表面から深さ0.007mm、測定点dは表面から深さ0.002mmにある。
図12は、本発明の実施例4にかかる複合焼結体の表面を含む断面におけるエネルギー分散型X線分光分析の図11とは別の箇所の測定点を示した反射電子像写真(1000倍)である。図12において、測定点eは表面から深さ0.056mm、測定点fは表面から深さ0.039mm、測定点gは表面から深さ0.023mm、測定点hは表面から深さ0.008mmにある。
この測定により、実施例4の方法によって製造された複合焼結体において、アルミナ焼結体表面に付着したイットリウム化合物はアルミナ焼結体内部に拡散せずに、その表面に残っていることが分かった。また、Y元素が検出される点まで、同時にAl元素及びO元素も検出されるため、Y−Al−O化合物の状態で、Y元素が存在すると考えられる。
<9−4.耐摩耗性の評価>
実施例1〜8及び比較例2〜7で作製された複合焼結体、及び比較例1で作製されたアルミナ焼結体の耐摩耗性は、JIS R6001−1に規定される粒度F12の円柱形状として評価された。
まず、焼結体100gをJIS R6001−1に規定されるF12の試験用ふるい(ここでは、以下、「F12ふるい」とする)を用いてロータップ試験機によって10分間篩い分け、3段目の篩に留まった焼結体10.5gを測定試料とした。
この測定試料10.5gを、Φ20mmのクロム鋼球が1500g入った、内法Φ115×110mmの鋼のボールミル容器(リフター3本付)に入れた。このボールミルを回転数95回/分で5分間一軸回転させ、粉砕試料を得た。
F12ふるいを用いて粉砕試料を5分間篩い分け、1〜4段目の篩に留まった粉砕試料の質量(ふるい上質量)をx(g)とした。この評価において、ふるい上質量の値が大きいほど、試料の耐摩耗性が高いと言える。この評価結果を表4に示す。
実施例1〜8の試料は、比較例1〜7の試料に比べてふるい上質量の値が大きく、耐摩耗性に優れていることが分かった。また、実施例1〜8より、Y換算のイットリウム化合物の含有量(表2)が0.02%以上であればふるい上質量がほぼ一定であることが分かった。これは、アルミナ焼結体表面の凹部のイットリウム化合物の充填量が十分であれば、それ以上の量のイットリウム化合物を用いても、充填するための凹部はアルミナ焼結体表面にはないからであると考えられる。
また、比較例3〜7より、イットリウム化合物以外の化合物(表2)が添加されていても耐摩耗性はほとんど向上しないことが分かった。イットリウム化合物がアルミナ焼結体の表面の凹部に充填されることで、特異的に耐摩耗性が向上していることが明らかになった。なお、上述したように、耐摩耗性が高いと、研削比も高くなる。
<9−5.マイクロビッカース硬度>
装置として(株)アカシ製、機種名「MVK−VL、Hardness Tester」を用い、測定は、荷重0.98N、圧子の打ち込み時間10秒の条件とし、15点の測定値の平均値をマイクロビッカース硬度とした。表4の結果から、イットリウム化合物が添加された実施例1〜8にかかる複合焼結体は、イットリウム化合物が添加されていない比較例1にかかるアルミナ焼結体に対して硬度を維持できていることが分かった。
<10.実施例の効果>
以上の結果から、図5に示されるようなアルミナ焼結体の表面の凹部にイットリウム化合物が存在する複合焼結体は、従来のアルミナ焼結体に対して硬度を維持しつつ、耐摩耗性が向上していることが分かった。すなわち、表面に凹部が存在するアルミナ焼結体と、凹部に存在するイットリウム化合物とを含む複合焼結体は、高硬度を有し、かつ耐摩耗性に優れていることが分かった。

Claims (13)

  1. 表面に凹部が存在するアルミナ焼結体と、前記凹部に存在するイットリウム化合物とを含み、Y換算したイットリウムの含有量が0.005〜3.0質量%である複合焼結体。
  2. 前記アルミナ焼結体の表面の凹部が形成されていない部分の少なくとも一部においてアルミナ焼結体が露出している請求項1に記載の複合焼結体。
  3. 換算したイットリウムの含有量が0.01〜2.5質量%である請求項1または2に記載の複合焼結体。
  4. 前記イットリウム化合物が、前記複合焼結体の表面から深さ0.05mm未満の領域のみに存在する請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合焼結体。
  5. 前記イットリウム化合物がYAl12、YAl及びYAlOからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合焼結体。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合焼結体を含む砥粒。
  7. 円柱形状を有する請求項6に記載の砥粒。
  8. 請求項6または7に記載の砥粒の層を作用面に有する砥石。
  9. アルミナ原料またはアルミナ焼結体の表面にイットリウム化合物前駆体を付着させる付着工程と、
    前記イットリウム化合物前駆体が付着したアルミナ原料またはアルミナ焼結体を熱処理する熱処理工程と、を含み、
    前記付着工程において、前記付着させる前記イットリウム化合物前駆体の量をY換算したイットリウムの量と、前記イットリウム化合物前駆体を付着させる前の前記アルミナ原料または前記アルミナ焼結体の量との合計に対する、前記換算した前記イットリウムの量の割合が、0.005〜3.5質量%である複合焼結体の製造方法。
  10. 前記付着工程において、前記アルミナ原料または前記アルミナ焼結体の表面に前記イットリウム化合物前駆体を分散液または溶液として付着させる請求項9に記載の複合焼結体の製造方法。
  11. 前記付着工程において、前記アルミナ原料または前記アルミナ焼結体の表面に前記イットリウム化合物前駆体を溶液として付着させる請求項10に記載の複合焼結体の製造方法。
  12. 前記付着工程において、前記アルミナ焼結体の表面に前記イットリウム化合物前駆体を付着させ、
    前記熱処理工程において、前記熱処理の温度が500℃以上である、請求項9〜11のいずれか1項に記載の複合焼結体の製造方法。
  13. 前記付着工程において、前記アルミナ原料の表面に前記イットリウム化合物前駆体を付着させ、
    前記熱処理工程において、前記熱処理の温度が1200℃以上である、請求項9〜11のいずれか1項に記載の複合焼結体の製造方法。
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