図1は、表面性状測定装置1の構成を例示した図である。表面性状測定装置1は、測定対象物Sについての測定データを取得する測定機10と、測定データを処理する情報処理装置40と、入力装置50と、表示装置60を備えている。
測定機10は、例えば、レーザ走査型の共焦点顕微鏡、低コヒーレンス干渉顕微鏡などの光学顕微鏡をベースとした光学式の測定機である。測定機10は、顕微鏡20と、顕微鏡20を制御する制御装置30とを備えていて、顕微鏡20と制御装置30は通信可能に接続されている。測定機10では、制御装置30の制御下で顕微鏡20が測定対象物Sの顕微鏡画像を取得し、制御装置30が顕微鏡画像データと画像取得時の顕微鏡20の高さ方向の座標情報とを測定データとして情報処理装置40へ出力する。なお、顕微鏡20の高さ方向の座標情報は、例えば、顕微鏡20が有するステージなどの焦準機構の座標情報である。
図1では、測定機10が光学式の測定機である場合を例示したが、測定機10は、光学式の測定機に限らない。測定機10は、例えば、原子間力顕微鏡、触針式表面粗さ測定機などであってもよい。
情報処理装置40は、例えば、標準的なコンピュータであり、プログラムされた処理を行う。情報処理装置40は、測定機10から取得した測定データに基づいて測定対象物Sの三次元形状データを生成する。具体的には、測定機10がレーザ走査型の共焦点顕微鏡を含む装置であれば、測定データからいわゆるI-Zカーブを生成し、I-Zカーブに基づいて測定対象物Sの三次元形状データを生成する。ただし、測定機10が三次元形状データを測定データとして情報処理装置40へ出力する場合には、情報処理装置40での三次元形状データを生成する処理は省略されてもよい。
さらに、情報処理装置40は、三次元形状データを解析して、解析結果を表示装置60に表示する。具体的には、表面性状パラメータの値を算出し、算出結果を表示装置60に表示する。表面性状パラメータの値に加えて、表面性状パラメータに関連する画像、又は、チャートなど表面性状パラメータの理解を支援する視覚的な情報を表示してもよい。
入力装置50は、表面性状測定装置1の利用者が直接操作する装置である。入力装置50は、例えば、キーボードであるが、マウス、ジョイスティック、タッチパネルなどであってもよい。表示装置60は、例えば、液晶ディスプレイであるが、有機EL(OLED)ディスプレイ、CRTディスプレイなどであってもよい。
図2は、情報処理装置40のハードウェア構成を例示したブロック図である。情報処理装置40は、図2に示すように、プロセッサ41、メモリ42、ストレージ43、インタフェース44、及び、可搬記憶媒体46が挿入される可搬記憶媒体駆動装置45を備え、これらがバス47によって相互に接続されている。
プロセッサ41は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)などであり、プログラムを実行してプログラムされた処理を行う電気回路である。メモリ42は、例えば、RAM(Random Access Memory)であり、プログラムの実行の際に、ストレージ43または可搬記憶媒体46に記憶されている基本プログラム、アプリケーションプログラム、及び、データを一時的に記憶する。また、メモリ42は、ネットワークを介して接続されたクラウドサーバなどのコンピュータに記憶されているデータを一時的に記憶しても良い。
ストレージ43は、例えば、ハードディスク、フラッシュメモリであり、主に各種データやプログラムの記憶に用いられる。インタフェース44は、情報処理装置40以外の装置(例えば、測定機10、入力装置50、表示装置60など)と信号をやり取りする回路であり、例えば、ネットワークカード(NIC)、USB(Universal Serial Bus)インタフェース、HDMI(High-Definition Multimedia Interface)、などである。
可搬記憶媒体駆動装置45は、光ディスクやコンパクトフラッシュ(登録商標)等の可搬記憶媒体46を収容するものである。可搬記憶媒体46は、ストレージ43を補助する役割を有する。ストレージ43及び可搬記憶媒体46は、それぞれプログラムを記憶した非一過性のコンピュータ読取可能記憶媒体の一例である。
図2に示す構成は、情報処理装置40のハードウェア構成の一例であり、情報処理装置40はこの構成に限定されるものではない。情報処理装置40は、汎用装置ではなく専用装置であってもよい。情報処理装置40は、プログラムを実行するプロセッサの代わりに又は加えて、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などの電気回路を備えてもよく、それらの電気回路により、後述する図6に示す情報処理の全部または一部が行われてもよい。
図3は、情報処理装置40の機能構成を例示したブロック図である。図4は、記憶部40Aに記憶されている分類情報の一例を示した図である。情報処理装置40は、図3に示すように、記憶部40Aと、取得部40Bと、処理部40Cと、を備えている。図3に示す機能構成の一部又は全部は、例えば、プロセッサ41がプログラムを実行することにより行われるソフトウェア処理によって実現される。ただし、ハードウェア処理により実現されてもよい。
記憶部40Aは、少なくとも、複数の表面性状パラメータを評価項目別に分類することにより作成された複数のパラメータセットについての情報である分類情報C1を記憶している。記憶部40Aは、例えば、図2に示すメモリ42、ストレージ43、可搬記憶媒体46に対応する。
複数の表面性状パラメータとは、JIS(日本工業規格)やISO(国際標準化機構)といった工業規格や国際標準等によって定義されたパラメータである。この例では、ISO25178-2:2012で定義された三次元表面性状パラメータのことである。また、パラメータセットとは、1つ以上の表面性状パラメータの集合のことをいう。なお、パラメータセットについては、複数のパラメータセットを分類したものという意味で区分とも記す。
記憶部40Aは、具体的には、例えば、図4に示すような分類情報(分類情報C1、分類情報C2)を記憶している。分類情報は、複数のパラメータセットの各々の名称と、複数のパラメータセットの各々に含まれる表面性状パラメータのリストと、を含んでいる。記憶部40Aは、分類情報C1の複数のパラメータセットの各々の名称として、そのパラメータセットが示す表面の形状的特徴の説明、又は、そのパラメータセットが示す表面の機能的特徴の説明を記憶していることが望ましい。
分類情報C1は、複数の表面性状パラメータを評価項目別に分類することにより作成された分類情報である。即ち、分類情報C1の複数のパラメータセットの各々に含まれる表面性状パラメータは、そのパラメータセットに対応する評価項目と相関のある表面性状パラメータである。以降では、分類情報C1に含まれるパラメータセットを評価項目別パラメータセットと総称する。
分類情報C2は、複数の表面性状パラメータをISO25178-2:2012で定義された分類方法に従って分類することにより作成された分類情報である。以降では、分類情報C2に含まれるパラメータセットを規格分類別パラメータセットと総称する。
図4に示すように、評価項目別パラメータセットへの分類は、規格分類別パラメータセットへの分類とは全く異なる。例えば、分類情報C1では、複数の異なるパラメータセットに同じ表面性状パラメータが含まれているのに対して、分類情報C2では、複数の異なるパラメータセットに同じ表面性状パラメータが含まれないという点において異なる。以降、評価項目別パラメータセットへの分類について詳細に説明する。
評価項目別パラメータセットのうちの“凹凸の大きさ”と呼ばれるパラメータセットには、表面性状パラメータSq、Sa、Sz、Sp、Svが含まれている。Sqは平均面からの高低差の二乗平均平方根値、Saは平均面からの高低差の加算平均値、Spは平均面からの最大高さ、Svは平均面からの最大深さ、SzはSpとSvの加算値である。これらは全て凹凸の大きさに関するパラメータセットである。このパラメータセットに含まれる表面性状パラメータが凹凸の大きさに関連するパラメータであることは、“凹凸の大きさ”という名称により推測可能となっている。
分類情報C1中の“高さの分布、ヒストグラム”と呼ばれるパラメータセットには、表面性状パラメータSq、Sa、Ssk、Skuが含まれている。Sqは高さの分布の標準偏差と同義である。Saは高さ分布が正規分布の時に標準偏差のおおよそ0.8倍になると言われている。標準偏差は分布度合いを評価する場合に最も利用される統計値である。Ssk、Skuはそれぞれ高さのヒストグラム(分布度数曲線)の偏り度合いと尖り度合いを表わすパラメータである。統計用語ではスキューネスとクルトシスと呼ばれる値である。いずれもヒストグラムの曲線形状を特徴付けるパラメータである。このパラメータセットに含まれる表面性状パラメータが高さの分布やヒストグラムに関連するパラメータであることは、“高さの分布、ヒストグラム”という名称により推測可能となっている。
分類情報C1中の“目の細かさ、表面積、光沢”と呼ばれるパラメータセットには、表面性状パラメータSq、Sa、Sal、Sdq、Sdrが含まれている。一般に、目の細かさは凹凸の大きさに比例する場合が多い。このため、このパラメータセットには、“凹凸の大きさ”と呼ばれるパラメータセットの代表的なパラメータであるSq、Saが含まれている。なお、Sp,Sv,Szなどのようなピーク値を利用するパラメータはゴミや異物の影響を受けやすく、目の細かさという機能を評価する上で誤った解釈を招く可能性があるので、このパラメータセットには含まれていない。Salは凹凸形状の繰返し間隔の大小を長さの単位で表したパラメータであり、これは目の細かさを直接評価するものである。Sdqは表面の勾配(凹凸の険しさ)の平均値を表わすものである。勾配は“表面積”におおよそ比例するため、勾配と表面積の関連性は強い。Sdrは表面積の増加率を表わすパラメータである。一般に目の細かさと表面積は比例の関係になる場合が多いため、“目の細かさ”と“表面積”に関連する表面性状パラメータをまとめて、同じパラメータセットに分類している。また、目の細かさと表面の凹凸の局所的な勾配は、光の散乱具合に影響を与え、結果的に “光沢”に関連する。このため、“目の細かさ”、“表面積”、“光沢”に関連する表面性状パラメータをまとめて、同じパラメータセットに分類している。
分類情報C1中の“方向性、等方性”と呼ばれるパラメータセットには、表面性状パラメータStd、Strが含まれている。Stdは切削加工面のような一定の方向の加工痕の向きを角度で表すパラメータであり、表面の凹凸の方向性を評価するものである。Strは表面の凹凸の方向性の有無を0から1の間の数値で表すパラメータである。Str<0.3の場合に強い方向性を有すると判断可能であり、Str>0.5の時に等方性を有すると判断可能である。一般に、旋削加工面や研削加工面は非常に強い方向性を示し、放電加工面は強い等方性を示すと言われている。ISO25178-2:2012で定義された分類方法では、Stdは“その他のパラメータ”、Strは“空間パラメータ”と呼ばれるパラメータセットに属するが、規格上は別の区分であっても共に“方向性、等方性”に関するパラメータである。なお、これら2つの表面性状パラメータは凹凸の大きさの影響を受けにくいという性質も共通している。
分類情報C1中の“突起の密度、曲率”と呼ばれるパラメータセットには、表面性状パラメータSpd、Spcが含まれている。一般に、異なる2つの物体が接触するとき、表面の突起部(山部)が最初に接触する。従って、物体間の接触に関する機能性(例えば滑り易さや肌触りなど)を評価したい場合、突起部に注目した解析を行うことが多い。Spdは単位面積当たりの突起部の数を表わすパラメータであり、Spcは突起部先端の曲率(突起の鋭さ)を表わすパラメータである。このパラメータセットの名称は、パラメータセットに含まれる表面性状パラメータの演算結果そのものを表している。
分類情報C1中の“摩耗による変化”と呼ばれるパラメータセットには、表面性状パラメータSk、Spk、Svk、Smr1、Smr2が含まれている。この5種類のパラメータはISO25178-2:2012で定義された“機能パラメータ”の一部である。規格上で定められたルールに従って、表面を突出山部、コア部、突出谷部の3つのゾーンに分けたときの、各ゾーンの高低差がそれぞれSpk、Sk、Svkとして定義されている。突出山部に相当する体積の割合がSmr1、突出谷部以外の部分に相当する体積の割合がSmr2と定義されている。一般に、摩耗が進行すると山部がすり減る。すり減る際に生じた摩耗粉が谷部に堆積する場合もある。従って山部や谷部の高低差や体積割合がどのように変化するかを解析することによって、摩耗の進行状態を判断できる。
分類情報C1中の“山、谷の体積”と呼ばれるパラメータセットには、表面性状パラメータVvv、Vvc、Vmp、Vmcが含まれている。この4種のパラメータは、前述した突出山部とコア部と突出谷部の3つのゾーンに分けた状態での、各ゾーンが作る実体(材料)部分の体積と、空間(空気)部分の体積を表わしている。Vmpは山部の体積であり、Vmcはコア部の体積である。共に実体部分の体積を示している。実体部分の体積を表すVmp、Vmcは耐摩耗性に関連すると考えられるパラメータである。Vvvは谷部が作る空間の体積であり、Vvcはコア部が作る空間の体積である。空間部分の体積を表すVvv、Vvcは潤滑油などの保持能力に関連するパラメータである。
取得部40Bは、記憶部40Aに記憶されている複数のパラメータセットのうちの少なくとも1つのパラメータセットを指定する入力を入力装置50から取得する。取得部40Bは、例えば、図2に示すインタフェース44に対応する。
処理部40Cは、取得部40Bが取得した入力に応じて表示装置60を制御する。処理部40Cは、例えば、図2に示すプロセッサ41に対応する。処理部40Cは、具体的には、入力で指定された少なくとも1つのパラメータセットに含まれる表面性状パラメータを、記憶部40Aに記憶されている分類情報に基づいて特定する。そして、処理部40Cは、特定した表面性状パラメータの値を測定対象物Sの表面の三次元形状データに基づいて算出する。さらに、特定した表面性状パラメータの値を表示装置60に表示する。なお、処理部40Cは、全ての表面性状パラメータの値を三次元形状データに基づいて算出し、表面性状パラメータの特定後に特定された表面性状パラメータの値のみを表示装置60に表示してもよい。
さらに、処理部40Cは、利用者が入力装置50を用いて複数のパラメータセットのうちの少なくとも1つのパラメータセットを指定するための選択肢として、記憶部40Aに記憶されている複数のパラメータセットの名称を、表示装置60に表示してもよい。特に、評価項目別パラメータセットの名称を表示することで、評価の目的に応じた適切なパラメータセットの選択を容易に行うことが可能となり、ひいては適切な表面性状パラメータの選択が可能となる。
以上のように、表面性状測定装置1では、複数の表面性状パラメータが評価項目別に複数のパラメータセットに分類されている。このため、表面性状測定装置1の利用者は、パラメータセットを選択するだけで、そのパラメータセットに対応した評価項目を評価するのに十分な表面性状パラメータの情報を得ることができる。従って、表面性状測定装置1によれば、表面性状パラメータのことを良く知らない利用者であっても、評価項目としての測定対象物表面の機能性を適切に評価することができる。
また、表面性状測定装置1では、パラメータセットを指定するための選択肢として、記憶部40Aに記憶されている複数のパラメータセットの名称が表示装置60に表示される。このため、表面性状測定装置1の利用者は、パラメータセットの名称からパラメータセットに対応する評価項目を推測することができる。特に、パラメータセットの名称に、そのパラメータセットが示す表面の形状的特徴の説明、又は、そのパラメータセットが示す表面の機能的特徴の説明が用いられている場合には、利用者は、パラメータセットの名称からパラメータセットに対応する評価項目をより容易に推測することができる。従って、表面性状測定装置1によれば、耐摩耗性の評価、放熱性の評価といった特定の機能性を評価する場合に、表面性状パラメータのことを良く知らない利用者であっても、評価項目に応じたパラメータセットを容易に選択することができる。
以下、表面性状測定装置1についてさらに詳細に説明する。
[参考例]
図5は、記憶部40Aに記憶されている分類情報の参考例を示した図である。図6は、表面性状測定装置1が行う処理の一例を示すフローチャートである。図7は、表示装置60に表示される画面の参考例を示した図である。図8は、リストボックス103を選択した様子を示した図である。
表面性状測定装置1が分類情報C1を有しているメリットについての理解を促進するために、参考例として、記憶部40Aが図5に示すように分類情報C1を有さず分類情報C2のみを有している場合に行われる処理について、図5から図8を参照しながら説明する。
図6に示す処理は、測定機10が測定対象物Sの測定データを取得した後に情報処理装置40で行われる処理である。この処理は、利用者が表面性状パラメータの値を参照して測定対象物Sの表面の機能性を評価するための表示方法の一例である。
図6に示す処理が開始されると、情報処理装置40は、まず、形状測定処理を行う(ステップS10)。ここでは、情報処理装置40は、測定データに基づいて三次元形状データを生成する。例えば、測定機10がレーザ走査型の共焦点顕微鏡装置であれば、測定データからいわゆるI-Zカーブを生成し、I-Zカーブに基づいて測定対象物Sの三次元形状データを生成する。
次に、情報処理装置40は、第1表示処理を行う(ステップS20)。ここでは、情報処理装置40は、後述するステップS30で算出対象とするパラメータセットの選択を支援するための情報を、表示装置60の画面61に表示する。情報処理装置40は、主に、第1表示領域61aと入力領域61bに対して描画処理を行う。利用者は、この画面61を見ながら、入力装置50を用いて設定や演算の実行指示を行う。
具体的には、情報処理装置40は、図7に示すように、三次元形状データに基づいて測定対象物Sの画像101を表示装置60の第1表示領域61aに表示する。画像101は、測定対象物Sの表面形状を描画した二次元画像であり、三次元形状データに含まれる高さデータに応じて画像101上の領域を色分けした画像または濃淡で表示した画像である。この画像は高さ画像と呼ばれる。また、情報処理装置40は、後述するステップS30で行う解析処理に必要なフィルタ処理の設定を表示装置60の編集可能な領域102に表示する。さらに、情報処理装置40は、後述するステップS30でその値を算出するパラメータセットを選択するためのリストボックス103に、図5に示す分類情報C2に含まれる規格分類別パラメータセットの名称を選択肢として表示する。
ステップS20では、図8に示すように、利用者が規格分類別パラメータセットから任意のパラメータセットを選択してリストボックス103の表示を変更するときに、情報処理装置40は、入力装置50から選択したパラメータセットを指定する入力を取得する。
その後、入力領域61bのボタン104が押下されると、情報処理装置40は、パラメータ値算出処理を行う(ステップS30)。ここでは、情報処理装置40は、リストボックス103により選択されたパラメータセットに含まれる表面性状パラメータを、分類情報C2に基づいて特定し、特定した表面性状パラメータの値をステップS10で生成した三次元形状データに基づいて算出する。
最後に、情報処理装置40は、第2表示処理を行う(ステップS40)。ここでは、情報処理装置40は、第2表示領域61cに対して描画処理を行う。具体的には、情報処理装置40は、ステップS30で特定した表面性状パラメータの名称と、ステップS30で算出した表面性状パラメータの値を、パラメータ演算結果105として画面61に表示する。なお、次元がある表面性状パラメータについては単位も合わせて表示する。
以上のように、記憶部40Aが分類情報C2のみを有している場合であっても、表面性状測定装置1では、ISO25178-2:2012で定義された規格分類別パラメータセットを選択することで、選択したパラメータセットに含まれる表面性状パラメータの値を得ることができる。
ところで、規格分類別パラメータセットは、パラメータの値を算出する演算方法毎に分類されている。具体的には、“高さパラメータ”と呼ばれるパラメータセットは、三次元表面性状データ(三次元形状データ)の高さの値に対して、平均化などの基礎的な統計演算を行うことにより算出される、あるいは極大値、極小値を使って算出される、7個の表面性状パラメータで構成される。“空間パラメータ”と呼ばれるパラメータセットは、高さデータの自己相関関数の演算結果を基に導かれる2個の表面性状パラメータで構成される。“複合パラメータ”と呼ばれるパラメータセットは、高さデータの微分値を基に導かれる2個の表面性状パラメータで構成される。“形体パラメータ”と呼ばれるパラメータセットは、同規格(ISO25178-2:2012)内で定められているセグメンテーション法という形状分類手法により導かれる5個の表面性状パラメータから構成される。“機能パラメータ”と呼ばれるパラメータセットは、同規格(ISO25178-2:2012)内で定められた負荷曲線という高さと材料の比率の曲線から導かれる13個の表面性状パラメータで構成される。“フラクタルパラメータ”と呼ばれるパラメータセットは、フラクタル解析手法と呼ばれる数学的な解析手法に基づいた4個の表面性状パラメータから構成される。“その他のパラメータ”は、フーリエ変換を基に導かれるパラメータであるが、1つのパラメータしか存在しないため、「その他」という名称で区分している。
ISO25178-2:2012での分類は、あくまでの表面性状パラメータの値を算出する途中の計算過程が類似しているパラメータをまとめたものに過ぎない。このため、表面の機能性を評価する目的に対応したものになっていない。従って、利用者は、耐摩耗性や放熱性といったような評価項目に応じて、その都度適切な表面性状パラメータやその表面性状パラメータがどのパラメータセットに属しているかを自ら調査して、パラメータセットを選択しなければならない。しかも、評価項目に対して適切と思われる表面性状パラメータは必ずしも規格分類別パラメータセットとは一致しないため、表面性状パラメータの適切な選択は非常に難しい。
さらに、規格分類別パラメータセットの名称は、パラメータセットに含まれる表面性状パラメータがどのような意味合いを持つパラメータであるかを推測するのに十分な情報を提供しない。例えば、“複合パラメータ”というパラメータセットに含まれるSdrという表面性状パラメータは表面積の増加率を表わすパラメータであるが、複合パラメータというパラメータセットの名称からは表面積を連想することはできない。このため、評価項目に応じた表面性状パラメータセットを選択する際にパラメータセットの名称は助けにならない。
以上のような理由から、ISO25178-2:2012での分類に基づく選択では、評価項目に応じた適切な表面性状パラメータを選択することは容易ではなく、表面性状パラメータのことを良く知らない利用者が、測定対象物表面の機能性を適切に評価することが困難である。
また、仮に適切な表面性状パラメータを選択できたとしても、算出された表面性状パラメータの値を表示しただけでは、表面の機能性を適切に評価することは困難かもしれない。これはパラメータの値は単なる数値でしかないからである。その表面性状パラメータの意味合いが分からない限り、パラメータの値そのものの正しい解釈は困難である。例えば、前述のSdrという表面性状パラメータの値が1.5%と算出された場合、このパラメータの値が表面積の増加率であることを知らなければ、1.5%の物理的な意味合いを正しく解釈することはできない。
さらに、仮に適切な表面性状パラメータを選択でき、且つ、その意味合いを把握できたとしても、算出された表面性状パラメータの値を表示しただけでは、表面の機能性を適切に評価することは困難かもしれない。表面性状パラメータの値が単純な数値データであることは、データを定量的かつ容易に処理可能であるというメリットがあるが、その一方で、単純な数値に置き換える演算処理の中で失われる情報も多い。例えば、表面の平均的な局所傾斜角を表わすSdqでは、平均的な傾斜角は把握できるが、その傾斜がどの程度分散しているか、どの位置で傾斜が大きいかといった情報は失われてしまう。
以下、表面性状測定装置1の実施形態について説明する。なお、以降の実施形態においても、表面性状測定装置1が図6の処理を行う場合を例に説明する。
[第1の実施形態]
図9は、表示装置60に表示される画面の一例を示した図である。図10は、リストボックス114を選択した様子を示した図である。図11は、パラメータ値算出処理の一例を示すフローチャートである。図12は、第2表示処理の一例を示すフローチャートである。図13は、表面性状パラメータStdの算出過程について説明するための図である。図14は、表面性状パラメータStrの算出過程について説明するための図である。図15は、スペクトルグラフの算出過程について説明するための図である。
図6に示す処理が開始されると、情報処理装置40は、まず、形状測定処理を行う(ステップS10)。ここでは、情報処理装置40は、測定データに基づいて三次元形状データを生成する。この処理は、参考例と同様である。
次に、情報処理装置40は、第1表示処理を行う(ステップS20)。ここでは、情報処理装置40は、パラメータセットの選択を支援するための情報を、表示装置60の画面62に表示する。情報処理装置40は、主に、第1表示領域62aと入力領域62bに対して描画処理を行う。利用者は、この画面62を見ながら、入力装置50を用いて設定や演算の実行指示を行う。
具体的には、情報処理装置40は、図9に示すように、三次元形状データに基づいて測定対象物Sの画像111と画像112を表示装置60の第1表示領域62aに表示する。画像111と画像112は、共に測定対象物Sの表面形状を描画した画像である。画像111は、三次元形状データに含まれる高さデータに応じて画像111上の領域を色分けした画像または濃淡で表示した画像である。この画像は高さ画像と呼ばれる。画像112は、三次元形状を立体的に描画した鳥瞰図である。
また、情報処理装置40は、解析処理に必要なフィルタ処理の設定を表示装置60の編集可能な領域113に表示する。さらに、情報処理装置40は、その値を算出するパラメータセットを選択するためのリストボックス114に、図4に示す分類情報C1に含まれる複数のパラメータセットの名称と分類情報C2に含まれる複数のパラメータセットの名称を、選択肢として表示する。
以降では、図10に示すように、利用者がリストボックス114により複数のパラメータセットから“方向性・等方性”のパラメータセットを選択し、情報処理装置40が入力装置50から選択したパラメータセットを指定する入力を取得した場合を例に説明する。
その後、入力領域62bのボタン115が押下されると、情報処理装置40は、図11に示すパラメータ値算出処理を行う(ステップS30)。ここでは、情報処理装置40は、まず、“方向性・等方性”のパラメータセットに含まれる表面性状パラメータを、記憶部40Aに記憶されている分類情報C1に基づいて特定する(ステップS31)。これにより、表面性状パラメータStd,Strが特定される。
次に、情報処理装置40は、ステップS31で特定された表面性状パラメータの値を三次元形状データに基づいて算出する(ステップS32)。ここでは、情報処理装置40は、後述するようにStd、Strの値を算出する。
Stdの値を算出する方法について、図13を参照しながら説明する。
まず、三次元形状データ(画像111)に対してX、Y軸座標系を設定し、座標(x,y)における高さをZ(x,y)と表わすことにする。なお、以下の説明では、三次元形状データのX,Y軸方向の実際の寸法は共にAであり、X,Y軸方向のピクセル数は共にM(Mは整数)である場合を例に説明する。
式(1)より三次元形状データに対し二次元フーリエ変換を行い、三次元形状データのフーリエ変換F(u,v)を求める。
フーリエ変換F(u,v)を二乗して得られる画像データが表す画像(以下、フーリエ強度画像121と呼ぶ)の中心を原点とするu軸、v軸座標系を考えるとき、ピクセル座標(i,j)における空間周波数成分(u,v)はu=i/A, v=j/Aである。また、図13中のθで表す角度は、三次元形状データの方向に対応する。つまり、フーリエ強度画像121には、方向と空間周波数に関する情報が含まれている。
フーリエ強度画像121の画像データは直接的に表面性状パラメータStdの値を示す情報ではないが、Stdを算出する過程で得られた情報(第1の情報)である。また、この情報に基づいて描画されるフーリエ強度画像121は、Stdに関連する画像(第1の画像)である。フーリエ強度画像121は、後述するステップS42で可視化情報の一つとして表示装置60に表示される。
最後に、ある角度θとθ+Δθとで囲まれる扇型の領域内(ハッチング部)のフーリエ強度を積算した値を求め、積算値が最も大きくなる時のθを表面性状パラメータStdの値として算出する。これは、表面性状パラメータStdは最も強い筋目方向を角度で表わすパラメータだからである。このとき、Δθになるべく小さな角度を用いることで周波数分解能は高くなる。この例では、Δθ=0.1°としたときに、積算値の最大値を与える方向、つまり、Stdが79°と算出されている。
角度θ毎のフーリエ強度を積算した値は直接的に表面性状パラメータStdの値を示す情報ではないが、Stdを算出する過程で得られた情報(第1の情報)である。また、この情報に基づいて描画される図13に示す方向プロット122は、Stdに関連するチャート(第1のチャート)である。方向プロット122は、後述するステップS42で可視化情報の一つとして表示装置60に表示される。
方向プロット122は、半円の周方向が角度θを表し、半径方向が最大値で正規化したフーリエ強度の積算値を表わしている。方向プロット122のθの値が0〜360度ではなく、その半分の0〜180度である理由は、フーリエ強度は必ず180度毎に対称な特性を持ち、0〜180度の特性と180〜360度の特性が等しいからである。
図13に示す方向プロット122では、θ=79°(=Std)のピーク以外にもθ=120°付近にも極大値の存在が確認できる。高さ画像である画像111においてもθ=120°と対応する方向にはθ=79°の次に強い筋目が確認できる。つまり、方向プロット122を表示して算出過程で得られた第1の情報を可視化することにより、パラメータStdの値だけでは失われてしまう2次極大値を読みとれるようになる。
Strの値を算出する方法について、図14を参照しながら説明する。
まず、式(2)より自己相関関数fACF(tx,ty)を求める。なお、三次元形状データのX,Y軸方向の実際の寸法は共にAとすると、自己相関関数fACF(tx,ty)は 1≧fACF(tx,ty)≧-1、A/2≧tx,ty≧-A/2となる。
自己相関関数は、三次元形状データを横(X,Y)方向に(tx、ty)ずらして自分自身(ずらす前のデータ)と重ねた時に、どれだけ形状が相似になるかを-1〜1の範囲の数値で表したものである。自己相関値が1に近いほど相似形状に近いことを示している。
自己相関関数は直接的に表面性状パラメータStrの値を示す情報ではないが、Strを算出する過程で得られた情報(第1の情報)である。また、この情報に基づいて描画される自己相関画像124は、Strに関連する画像(第1の画像)である。自己相関画像124は、後述するステップS42で可視化情報の一つとして表示装置60に表示される。
tx=ty=0のとき、つまり横方向にずらさないで自分自身を重ねた時には、完全な相似形状となり自己相関値は1となる。つまり自己相関画像124の原点では、自己相関値は1である。txやtyを大きくしていくと、自己相関値は1から次第に減少していく。自己相関値が最初に0.2まで低下する時の最も長い横方向の距離をrmax、最も短い横方向の距離をrminと定義すると、StrパラメータはStr=rmin/rmaxで定義される。
次に、自己相関関数のデータから、原点を含み自己相関値=0.2となる閉曲線を抽出する。ここで抽出される情報は、直接的に表面性状パラメータStrの値を示す情報ではないが、Strを算出する過程で得られた情報(第1の情報)である。また、この情報に基づいて描画される等高線プロット125は、Strに関連するチャート(第1のチャート)である。等高線プロット125は、後述するステップS42で可視化情報の一つとして表示装置60に表示される。
最後に、等高線プロット125に表れる等高線の原点から最も近い座標をrminとし、原点から最も等高線上の座標をrmaxとして、rmin/rmaxを計算してStrを算出する。この例では、Str=rmin/rmax=0.15と算出される。
なお、等高線プロット125を描画するときには、図14で示すようにrminとrmaxを与える位置に対して矢印等で印を付けることで、作業者にパラメータの意味合いや計算方法に関する情報を提供してもよい。
表面性状パラメータの値が算出されると、情報処理装置40は、ステップS32における算出過程で得られる第1の情報を加工して第2の情報を生成する(ステップS33)。ここでは、情報処理装置40は、例えば、Stdの算出過程で得られた図15に示すフーリエ強度画像121の画像データ(第1の情報)を基に、ある半径rとr+Δrとの2つの円に囲まれるリング状の領域 内のフーリエ強度の積算値を求めて、半径rと積算値の関係を得る。図15に示すスペクトルグラフ123は、半径rと積算値の関係に基づいて描画したチャートである。
なお、半径rの値は空間周波数を表し、積算値はそのスペクトルの強度を表している。rをピクセル換算距離(0≦r≦M/2)とすると、rの値に対応する空間周波数fはf=r/Aと表わされる。図15のスペクトルグラフ123に示したスペクトルの強度の値は、単位空間周波数あたりの強度を示すように正規化されている。
半径rと積算値の関係は直接的に表面性状パラメータStdの値を表わす情報でも、Stdを算出する過程で得られた情報(第1の情報)でもないが、第1の情報を加工することにより生成された情報(第2の情報)である。また、この情報に基づいて描画される図15に示すスペクトルグラフ123は、Strに関連するチャート(第2のチャート)である。スペクトルグラフ123は、後述するステップS43で可視化情報の一つとして表示装置60に表示される。
スペクトルグラフ123からは、パラメータStdの値からでは知ることのできなかった空間的な周波数、つまり形状の繰返し周期を読みとることが可能である。図15に示したスペクトルグラフ123においては矢印で示した空間周波数でピークが認められ、これが高さ画像である画像111にみられる筋目の周期性に対応している。
パラメータ値算出処理が終了すると、情報処理装置40は、図12に示す第2表示処理を行う(ステップS40)。ここでは、情報処理装置40は、第2表示領域62cに対して描画処理を行う。
具体的には、情報処理装置40は、まず、ステップS32で算出した表面性状パラメータの値を画面62に表示する(ステップS41)。より詳細には、例えば、図9に示すように、ステップS31で特定した表面性状パラメータの名称と、ステップS32で算出した表面性状パラメータの値を、パラメータ演算結果126として画面62に表示する。
次に、情報処理装置40は、ステップS32の表面性状パラメータの値を算出される過程で得られた第1の情報に基づいて描画される第1の画像等を画面62に表示する(ステップS42)。より詳細には、例えば、図9に示すように、第1の画像であるフーリエ強度画像121と、第1のチャートである方向プロット122、スペクトルグラフ124、及び等高線プロット125を、画面62に表示する。なお、ここでは、第1の画像又は第1のチャートの少なくとも1つが表示されてもよい。
最後に、情報処理装置40は、ステップS33で第1の情報を加工して得られた第2の情報に基づいて描画される第2の画像等を画面62に表示する(ステップS43)。より詳細には、例えば、図9に示すように、第2のチャートであるスペクトルグラフ123を、画面62に表示する。ここでは、第2の画像又は第2のチャートの少なくとも1つが表示されてもよい。なお、以降では、第1の画像等と第2の画像等を、可視化情報と総称する。
以上のように、記憶部40Aに分類情報C1を記憶している表面性状測定装置1によれば、規格分類別ではなく、又は、規格分類別に加えて、評価項目別にパラメータセットが予め準備されている。このため、利用者が表面性状パラメータに関する専門知識が有しない場合であっても、簡単に且つ適切なパラメータセットを選択して、表面の機能性を適切に評価することができる。これにより、表面の機能性について評価効率が向上する。また、この様な評価作業を繰り返すことによって従来は見過ごされていた表面の機能性とパラメータとの間の新たな関連性が見出される可能性がある。
また、表面性状測定装置1によれば、表面性状パラメータの値に加えて、表面性状パラメータの算出過程で得られた情報に基づいて画像又はチャートの少なくとも一方を表示することができる。例えば、パラメータStdの値だけでは、最も強い筋目方向しかわからないが、パラメータの値に加えて方向プロット122を表示することで、2番目に強い筋目の方向などその他の筋目の方向やそれらの筋目の強さも把握することが可能となる。このように、画像やチャートのような視覚的な情報を作業者に提供することで、利用者は、表面性状パラメータの値だけを表示した場合には失われてしまうような詳細な情報を把握できるようになる。
さらに、表面性状測定装置1によれば、表面性状パラメータの算出過程で得られた情報が画像やチャートなどで視覚化されるため、利用者が表面性状パラメータに関する専門知識が有しない場合であっても、表面性状パラメータの意味合いを理解することを支援することができる。例えば、方向プロット122や等高線プロット125が表示されるパラメータStd、Strの意味合いを推測することが可能となる。
さらに、表面性状測定装置1によれば、表面性状パラメータの算出過程で得られた情報をさらに加工して得られた情報に基づいて画像又はチャートの少なくとも一方を表示することができる。例えば、パラメータStdの算出過程で得られたフーリエ強度画像121の画像データを加工して、スペクトルグラフ123を表示することで、利用者に“方向性、等方性”に強く関連する情報を提供することができる。スペクトルグラフ123の例では、三次元形状データの繰返し周期(空間周波数)に関する解析も可能になる。このように、パラメータセットを選択することにより所望の評価項目が選択された時に、その評価項目に有用と思える情報が表面性状パラメータの値とともに視覚的に提供されるため、利用者は、表面性状パラメータの値だけを表示した場合には失われてしまうような詳細な情報を把握できるようになる。
以降では、“方向性・等方性”以外のパラメータセットが選択された場合について、いくつか例示する。
まず、図16及び図17を参照しながら、“凹凸の大きさ”のパラメータセットが選択された場合について例示する。なお、図16は、リストボックス114で“凹凸の大きさ”を選択したときに表示されるチャートの一例である。図17は、表面性状パラメータSqが等しい4つの三次元形状データから算出される4つの高さヒストグラムを例示した図である。
“凹凸の大きさ”のパラメータセットが選択された場合には、図12のステップS42において、縦軸に高さ、横軸に度数をとった図16に示すヒストグラム131を表示してもよい。ヒストグラム131のデータは、例えば、図11のステップS32で三次元形状データが示す高さ分布に基づいて作成される。
“凹凸の大きさ”のパラメータセットに含まれるパラメータSq、Sa、Sz、Sp、Svは、前述したように平均面からの高低差の平均値、最大値、最小値を基に算出するパラメータであるが、これらパラメータの値を、単に羅列した一覧表として使用者に提示するのではなく、図16に示すようにヒストグラム131上で寸法引き出し線等を用いて視覚的に表示する。これにより、“凹凸の大きさ”のパラメータセットに含まれるパラメータの意味合いがより明確に理解できるようになる。
さらに、ヒストグラム131を表示することで、表面性状パラメータの値だけでは見落としていたかもしれない表面の凹凸分布に関する特徴の情報を使用者に提供することが可能となる。例えば、図17に示すヒストグラム132、ヒストグラム133、ヒストグラム134、ヒストグラム135では、いずれも表面性状パラメータSqの値は1.0(つまり標準偏差が1.0)である。これらのヒストグラムはSqの値が等しいにも関わらず、ヒストグラムの形状は全く異なっている。このように、利用者は、パラメータの値だけでは得ることができない情報を視覚情報(ヒストグラム)によって得ることが可能となる。
次に、図18を参照しながら、Spk、Spd、Spc、Vmpなど表面を突出山部、コア部、突出谷部の3つのゾーンに分けることにより算出される表面性状パラメータを含むパラメータセットが選択された場合について例示する。なお、図18は、山谷分類画像の算出過程について説明するための図である。
上記のような表面性状パラメータが算出される場合には、図18に示すように、グレイスケールで表示した高さ画像141中の突出山部と突出谷部を、それぞれに割り当てられた色で塗りつぶした山谷分類画像142を図12のステップS42において表示してもよい。
山谷分類画像142で示されるように、突出山部と突出谷部を色分けすることで、山部と谷部の分布や個々の山部、谷部の形状といった情報を利用者に提供することができる。このような情報は、山部や谷部に関する解析を行いたい利用者にとっては有用な参考情報となり得る。
次に、図19を参照しながら、表面性状パラメータSdqを含むパラメータセット(つまり、“目の細かさ、表面積、光沢”)が選択された場合について例示する。なお、図19は、表面性状パラメータSdqの算出過程について説明するための図である。
Sdqは表面の局所的な傾斜角(勾配)の二乗平均平方根を表わすパラメータであり、式(3)で表される。
なお、Aは三次元形状データのX軸方向の長さ、Bは三次元形状データのY軸方向の長さ、Z(x,y)は三次元形状データの座標(x,y)における高さを表わす。式(3)の積分記号の内側は、Z(x,y)のX軸、Y軸方向の偏微分の二乗和を表わしている。
表面性状パラメータSdqが算出される場合には、算出過程で得られるX軸、Y軸方向の偏微分の二乗和のデータを鳥瞰図として描画して、図19に示すような微分画像152を表示してもよい。
微分画像152を表示することで、勾配が大きい場所がどの位置に集中しているかといったSdqパラメータの値では知ることのできない失われた情報を把握できるようになる。
[第2の実施形態]
図20は、表示装置60に表示される画面の別の例を示した図である。図21は、FFTタブを選択したときの表示例を示した図である。図22は、ACFタブを選択したときの表示例を示した図である。図23は、Peak Valletタブを選択したときの表示例を示した図である。図24は、Gradientタブを選択したときの表示例を示した図である。
本実施形態は、表示装置60に表示される画面の構成が異なる点を除き、第1の実施形態と同様である。そこで、以下では、本実施形態に係る表面性状測定装置1が表示装置60に表示する画面63について、図20から図24を参照しながら説明する。
本実施形態では、第2の表示処理において、図20に示すよう画面63が表示装置60に表示される。画面63は、第2表示領域63cにタブ表示形式で情報が表示される点が、図9に示す画面62とは異なっている。なお、画面63の第1表示領域63a及び入力領域63bは、画面62の第1表示領域62a及び入力領域62bと同様である。
より具体的には、本実施形態では、第1の実施形態において第2表示領域62cに一覧表示されていた情報を複数に分けて、それぞれ異なるタブに割り当てる。各タブには、表面性状パラメータとその表面性状パラメータに関連する可視化情報とが割り当てられる。同一の可視化情報に関連する複数の表面性状パラメータは、一つのタブにまとめて割り当てられてもよい。そして、情報処理装置40は、タブが切り替えられる度に、第2表示領域63cに表示する表面性状パラメータの値とその表面性状パラメータに関連する可視化情報とを変更する。
図20には、“Histgram”タブが選択されたときの様子が示されている。ヒストグラム131とそのヒストグラム131に関連する複数の表面性状パラメータのパラメータ演算結果136が第2表示領域63cに表示されている。
図21には、“FFT”タブが選択されたときの様子が示されている。フーリエ強度画像121、方向プロット122、スペクトルグラフ123、及び、これらの可視化情報に関連する表面性状パラメータのパラメータ演算結果127が第2表示領域63cに表示されている。
図22には、“ACF”タブが選択されたときの様子が示されている。自己相関画像124、等高線プロット125、及び、これらの可視化情報に関連する表面性状パラメータのパラメータ演算結果128が第2表示領域63cに表示されている。
図23には、“Peak Vallet”タブが選択されたときの様子が示されている。山谷分類画像142、及び、山谷分類画像142に関連する表面性状パラメータのパラメータ演算結果143が第2表示領域63cに表示されている。
図24には、“Gradient”タブが選択されたときの様子が示されている。微分画像152、及び、微分画像152に関連する表面性状パラメータのパラメータ演算結果153が第2表示領域63cに表示されている。
このように、複数のタブに分けて情報を表示することで、表面性状パラメータの値と可視化情報との関係がより明確となる。このため、表面性状パラメータの意味合いが推測しやすくなるといった効果も期待できる。
なお、表示する情報を切り替えるための手段である表示切替部は、タブに限られない。例えば、ラジオボタン、リストボックスなどの他のUIコントロールであってもよい。また、上述した択一選択式のUIコントロールの代わりにチェックボックスなどの複数選択に対応したUIコントロールが採用されても良い。
上述した実施形態は、発明の理解を容易にするための具体例を示したものであり、本発明の実施形態はこれらに限定されるものではない。表面性状測定装置、表示方法、及び、プログラムは、特許請求の範囲の記載を逸脱しない範囲において、さまざまな変形、変更が可能である。
上述した実施形態では、記憶部40Aに予め分類情報が記憶されている例を示したが、分類情報は、ネットワークを介して接続されたサーバ80から取得してもよい。この場合、情報処理装置70は、図3に示す機能構成の代わりに、図25に示す機能構成を有する点が、情報処理装置40とは異なる。
より詳細には、情報処理装置70は、サーバ80から複数の表面性状パラメータを評価項目別に分類することにより作成された複数のパラメータセットについての情報である分類情報を取得する第1取得部40Xを有している点が、情報処理装置40とは異なる。
第1取得部Xがサーバ80から取得した分類情報は、記憶部40Aに記憶される。以降の処理については、情報処理装置40と同様である。なお、第2取得部40Yは、情報処理装置40の取得部40Bに対応し、複数のパラメータセットのうちの少なくとも1つのパラメータセットを指定する入力を入力装置50から取得する。
情報処理装置70を含む表面性状測定装置1によっても、表面性状パラメータのことを良く知らない利用者は、測定対象物表面の機能性を適切に評価することができる。
また、上述した実施形態では、評価項目別パラメータセットとして予め与えられたパラメータセットが記憶部40Aに記憶されている例を示したが、評価項目別パラメータセットは任意に追加してもよい。例えば、表面性状測定装置1の利用者が表面性状パラメータの意味合いを考慮した上で特定の評価項目を評価するのに適した複数の表面性状パラメータを選択して、それらを新たなパラメータセットとして記憶部40Aに登録してもよい。その際、パラメータセットの名称を評価項目も合わせて登録することができる。