本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
[A.測定原理]
まず、本願の実施の形態に係る測定原理について説明する。
本願発明者らは、対象物を表面改質処理する場合に、その改質の程度(ぬれ性の度合い)との間に高い相関をもって、蛍光発生物質が生じることを発見した。すなわち、本願発明者らは、対象物に対して表面改質処理を行うことで、その表面改質の度合いに応じた強度をもつ蛍光が発生し得ることを見出した。本発明の実施の形態に係る測定方法は、このような新規に見出された物理/化学現象を利用したものである。
図1は、本発明の実施の形態に係る測定原理を説明するための模式図である。図1を参照して、本願の実施の形態に係る測定方法についてより詳細に説明する。
図1には、対象物OBJに対して、表面改質処理を行う場合を例示している。このような表面改質処理としては、典型的には、プラズマ処理やコロナ処理が知られており、図1には、プラズマを照射する場合を例示する。また、対象物OBJとしては、典型的には、樹脂基板やフィルムなどが想定される。図1には、一例として、ポリイミドを主原料とする対象物OBJを示す。
このようなフィルムには、C(炭素)原子やH(水素)原子を含んでおり、表面改質処理が行われることで、雰囲気中のO(酸素)とこれらの原子とが結合することで、主として、カルボキシル基(−COOH)、カルボニル基(>C=O)、ヒドロキシ基といった官能基が生じる。この他にも、パーオキサイドやエポキシ基なども生じ得る。このような官能基がより多く存在することで、対象物OBJのぬれ性が向上する。すなわち、表面改質処理は、カルボキシル基およびカルボニル基の少なくとも一方を生じる処理を含む。
本願発明者らは、このような極性を有する官能基が増加することで、励起用の紫外線を照射することで対象物OBJから蛍光が発生すると考えた。
たとえば、カルボニル基が増加することで、HOMO(Highest Occupied Molecular Orbital:最高被占軌道)−LUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital:最低空軌
道)間ギャップが小さくなり、その結果、新たな低エネルギー遷移が生じる。
また、p軌道電子を有するのはC(炭素)原子だけではなく、O(酸素)原子およびN(窒素)原子などもp軌道電子を有し得る。そのため、これらのP軌道原子の間でπ結合を生じ得る。中でも、C=O二重結合は、原子間分極が比較的大きいため、主として、LUMOを大きく低下させる。その結果、炭化水素(CH)のみで構成される物質に比較して、より長波長の光を吸収しやすくなる。すなわち、紫外線照射に対する蛍光の発生量が増加する。
したがって、測定装置100を用いて、対象物OBJに対して励起用の紫外線を照射(
UV照射)するとともに、その紫外線を受けて対象物OBJで生じる蛍光を検出することで、当該対象物OBJにおける表面改質処理後の状態(ぬれ性)を評価することができる。
[B.実験例]
以下、本願発明者らが、プラズマ処理およびコロナ処理を用いてそれぞれ表面改質処理した場合に測定された蛍光量の変化について示す。
(1.プラズマ処理)
以下には、対象物OBJとしてPETフィルム(膜厚:25μm)に対して、プラズマ処理を用いた表面改質処理を適用した場合の測定例を示す。
図2は、プラズマ処理に用いられる装置の模式図である。図2を参照して、プラズマ処理装置200は、所定の間隔をもって対向配置された平面電極204および208を含む。平面電極204は、交流電圧源202と電気的に接続される。一方、平面電極208は、グランド212と電気的に接続される。したがって、平面電極204と平面電極208との間の空間214には、所定の交流電界が生じる。この交流電界が空間214における絶縁耐力より大きくなることで、プラズマが発生する。なお、交流電圧源202が発生する電圧値は、所定範囲で任意に変更可能とすることが好ましい。
この空間214に対象物OBJが配置され、その表面にプラズマが照射される。なお、平面電極204および208の表面には、それぞれ誘電体206および210が配置される。
また、空間214を密閉して実質的に真空状態(低圧状態)としたものを「真空プラズマ処理」とも称し、空間214を所定のガス雰囲気で満した状態としたものを「大気圧プラズマ処理」とも称する。
今回の実験例においては、株式会社魁半導体製の真空プラズマ処理装置(形式:YHS−360)を用いるとともに、対象物OBJから発生する蛍光量の測定には、株式会社センテック製の蛍光センサー(型式:OL221)を用いた。
なお、表面改質処理および蛍光量測定は、バッチ処理試験とした。
以下の表には、真空プラズマ処理の処理時間と各処理後の対象物OBJから測定された蛍光量の値とを対応付けて示す。なお、測定対象の蛍光波長は、280nmとした。また、同じ対象物を従来の液滴式の測定装置を用いて接触角を測定した結果を合わせて示す。
図3は、プラズマ処理についての実験結果をプロットしたグラフを示す図である。図3に示すように、プラズマ処理時間の長さ(表面改質の度合い)と測定された蛍光強度との間には、強い相関関係があることがわかる。なお、プラズマ処理時間と接触角との関係から、処理時間が長いほど、対象物OBJの表面改質が進行していることがわかる。
ここで、図4を参照して接触角について説明する。
図4(a)に示すように、何らかの物体(固体)上に滴下された液体を考えると、その液体においては、分子間力により分子同士が引き合って凝縮する方向に力が発生する。その結果、当該液体においては、表面積が最も小さい球状になろうとする力(表面張力)が生じる。液体と固体との間の界面においては、固体の表面張力γS、液体の表面張力γL、および、固体と液体の界面張力γSLとの間に、以下のような関係式が成立する。
γS=γL・cosθ+γSL・・・(1)
(1)式において、θが接触角であり、γSおよびγLが不変であるとすると、固体と液体の界面張力γSLが小さければ(すなわち、ぬれ性の度合いが高ければ)、図4(b)に示すように、接触角θは小さく(すなわち、cosθの値が大きく)なる。
これに対して、図4(c)に示すように、固体と液体の界面張力γSLが大きければ(すなわち、ぬれ性の度合いが低ければ)、接触角θは大きく(すなわち、cosθの値が小さく)なる。
このように、従来の液滴式の測定装置では、この接触角を測定することで、ぬれ性を評価する。
(2.コロナ処理)
次に、対象物OBJとしてPETフィルム(膜厚:25μm)に対して、コロナ処理を用いた表面改質処理を適用した場合の測定例を示す。なお、対象物OBJとしては、前処理としてシリコン処理がなされたものとそうでないものとの2種類を用意した。
図5は、コロナ処理装置を含むコーティングプロセスの模式図である。図5を参照して、プロセス300は、処理対象の対象物OBJを順次供給するための供給ローラ302と、処理後の対象物OBJを巻き取るための巻取ローラ308とを含み、これらのローラ間に、コーターマシン310およびコロナ処理装置320が配置される。
コーターマシン310は、主ローラ312と副ローラ314とを含み、両ローラの間に対象物OBJを通過させるとともに、対象物OBJの一方面または両面にコーティング剤316を連続的に塗布する。
コロナ処理装置320は、主ローラ322の表面に対向してコロナ放電を発生させるための電極群324が配置されており、この電極群324は高電圧を供給するための直流電源部326と電気的に接続されている。また、主ローラ322および電極群324を覆うように外筐体328が設けられている。なお、対象物OBJは、コロナ処理装置320の前段に配置された搬送ローラ304と、コロナ処理装置320の後段に配置された搬送ローラ306とによって、連続的に搬送される。
今回の実験例においては、株式会社ヒラノエンテック製のコンマコーター(登録商標)を用いるとともに、ソフタル社製のコロナ処理装置を用いた。そして、対象物OBJから発生する蛍光量の測定には、株式会社センテックの蛍光センサー(型式:OL221)を用いた。
なお、表面改質処理および蛍光量測定は、ロール・トゥ・ロール方式での試験とした。また、対象物OBJの幅は300mmとし、コーターマシン310でのコーティング幅は280mmとした。また、対象物OBJの搬送速度は、6m/minとした。
以下の表には、コロナ処理(コロナ放電)に用いた電圧値と各処理後の対象物OBJを測定した際の蛍光センサーの表示値を対応付けて示す。
(a)PETフィルム(膜厚:25μm/シリコン処理なし)
(b)PETフィルム(膜厚:25μm/シリコン処理あり)
上述の測定結果によれば、コロナ処理装置320によるコロナ放電の放電電圧が大きくなるほど、より多くの蛍光が測定されていることがわかる。すなわち、コロナ放電の放電電圧が大きくなるほど、対象物OBJの表面改質の度合いは大きくなると考えられるので、対象物OBJの表面改質の度合い(ぬれ性)と測定された蛍光強度との間には、強い相関関係があるといえる。
(その他)
上述の例では、対象物OBJの典型例として、PETフィルムを用いた場合の実験例を示したが、他の材質、たとえば、プラスチックなどの樹脂材料、ガラスやシリコンなどの無機材料、金属材料などにも、本実施の形態に係る測定装置は適用可能である。
[C1.測定装置の構成(その1)]
図6は、本発明の実施の形態に係る測定装置100の模式的な外観図である。図7は、本発明の実施の形態に係る測定装置100の光学的な構造を示す模式図である。図8は、本発明の実施の形態に係る測定装置100の電気的な構造を示す模式図である。
図6を参照して、測定装置100は、測定処理部102と、照射測定ヘッド部104とを含む。後述するように、照射測定ヘッド部104は、対象物OBJに対して紫外線を照射するための光学系と、対象物OBJで生じる蛍光を検出するための光学系とを有する。
測定処理部102は、照射測定ヘッド部104と接続されており、照射測定ヘッド部104に対して紫外線の照射指令を与えるとともに、照射測定ヘッド部104において検出された蛍光強度を示す信号を処理して、各種の情報などを出力する。
なお、後述するように、対象物OBJに対して表面改質処理が実行される前後で蛍光を検出するような使用形態においては、1つの測定処理部102に対して、複数の照射測定ヘッド部104が接続されるようにしてもよい。たとえば、図5に示すコーティングプロセスにおいては、コロナ処理の前後を測定点としてもよい。
図7を参照して、照射測定ヘッド部104は、紫外線を発生するためのUV発光素子22と、ダイクロイックミラー24と、集光レンズ38と、対象物OBJからの蛍光を検出するためのフォトダイオード28とを含む。照射測定ヘッド部104においては、UV発光素子22、ダイクロイックミラー24、および集光レンズ38が光軸Ax1上に整列配置される。UV発光素子22で発生する蛍光励起用の紫外線は、集光レンズ38を通じて光軸Ax1に沿って伝搬した後、光軸Ax1上に配置される対象物OBJへ集光する。なお、蛍光励起用の紫外線の照射径(スポット径)は、対象物OBJのうち、ぬれ性を評価したい範囲に応じて適宜設定することが好ましい。
本実施の形態に係るUV発光素子22は、一例として、主発光ピークを365nmとする紫外線を発生する。なお、紫外線LEDであるUV発光素子22に代えて、紫外線ランプなどを用いてもよい。
対象物OBJに紫外線が照射されることで、上述したように、その表面にある官能基から蛍光が発生する。この対象物OBJで生じた蛍光の大部分は、励起用の紫外線と同一の経路(光軸Ax1)上を、励起用の紫外線の伝搬方向とは逆方向に伝搬してダイクロイックミラー24に入射する。
ダイクロイックミラー24は、入射する光の波長成分に応じて、その伝搬方向を変化させる一種の光フィルタである。具体的には、ダイクロイックミラー24は、紫外線が光軸Ax1に沿って入射すると、その伝搬方向を維持したまま、入射した紫外線を透過させる。一方、ダイクロイックミラー24は、蛍光(可視光)が光軸Ax1に沿って入射すると、その伝搬方向を90°変化させた上で異なるポートから射出する。典型的には、ダイクロイックミラー24の反射面は、金属蒸着により形成される。本実施の形態に係るダイクロイックミラー24としては、たとえば、410nmより短い波長を透過域とし、かつ、410nmより長い波長を反射域とすることで、紫外線と蛍光(可視光)とを分離することができる。
そのため、対象物OBJで生じた蛍光の多くは、光軸Ax1に沿って紙面左側から紙面右側に伝搬した後、ダイクロイックミラー24においてその伝搬方向を紙面下側に曲げられる。そして、対象物OBJで生じた蛍光は、光軸Ax2に沿って紙面上側から紙面下側に伝搬して、フォトダイオード28に入射する。
なお、UV発光素子22の射出面から集光レンズ38までの距離Lと、集光レンズ38から対象物OBJまでの距離とは、略同一となるように構成することが好ましい。
このように、図7に示す照射測定ヘッド部104においては、ダイクロイックミラー24が対象物OBJから受けた蛍光の伝搬方向を変更することで、同一の光軸Ax1上を伝搬する励起用の紫外線と検出対象の蛍光とを分離することができる。そのため、対象物OBJから発生する微弱な蛍光であっても、確実に検出できる。
次に、図8を参照して、測定処理部102は、処理の実行主体となるCPU(Central Processing Unit)40と、表示部42と、設定ボタン44と、発振子52と、記憶部54と、電源装置56と、インターフェイス部58とを含む。
CPU40は、予め格納されたプログラムなどに従ってコマンドを順次実行することで、測定装置100全体の処理を司る。具体的には、CPU40は、ユーザにより指定されたタイミング、および/または、対象物OBJの搬送位置などに応答して、照射測定ヘッド部104に対して励起用の紫外線の照射開始を指示するとともに、照射測定ヘッド部104により検出された対象物OBJからの蛍光の大きさを示す信号に基づいて、対象物OBJの表面におけるぬれ性を示す値(あるいは、検出された蛍光強度の生値)を算出および/または出力する。
表示部42は、一例として、LCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode-Ray tube)などのディスプレイ、セグメント表示器、あるいは、表示ランプといった通知手段を含む。測定処理部102の表示部42の一例として、図6に示す模式図においては、検出された蛍光強度や算出されたぬれ性を示す値を表示するためのセグメント表示器と、測定装置100の状態などを示すためのLED表示器とが例示されている。
設定ボタン44は、各種のスイッチやボタンといった指示受付手段を含む。設定ボタン44は、ユーザによる操作を受付けて、その操作に応じたコマンドをCPU40へ出力する。図6に示す模式図においては、設定の変更/反映などを指示するためのボタンが例示されている。
発振子52は、CPU40などが処理を実行する際の動作クロックを発生する。
記憶部54は、一例としてE2PROM(Electrically Erasable and Programmable Read only Memory)などからなり、CPU40で実行されるプログラムを格納したり、C
PU40で算出されたぬれ性を示す値および/または照射測定ヘッド部104により検出された値などを格納したりする。
電源装置56は、駆動電源Vccなどを受けて、測定装置100の内部において必要な各種電圧値をもつ電源を生成して供給する。
インターフェイス部58は、測定装置100の外部にある各種装置との間でデータの遣り取りを仲介する。一例として、インターフェイス部58は、対象物OBJにおける表面改質処理の良否を示す判定出力46と、対象物OBJからの蛍光量に基づいて算出される、従来の液滴法と互換性を保つための接触角を示す接触角アナログ出力48と、ユーザなどからの測定開始を指示するための測定開始入力50とを入出力する。なお、判定出力46および接触角アナログ出力48については、後述する。
なお、本明細書において「出力」とは、各種表示装置に目的とする情報(データ)を表示してユーザに通知すること、および、外部装置に目的とする情報(データ)を伝送することを含む。さらに、本明細書における「出力」には、測定装置100とプリンタなどを接続し、プリンタから情報が印刷された紙媒体を出力することも含む。
照射測定ヘッド部104は、励起用の紫外線を照射するためのUV投光部1042と、対象物OBJで生じる蛍光を検出するための蛍光受光部1041とを含む。
UV投光部1042は、上述したUV発光素子22に加えて、UV発光素子22を駆動するための投光駆動回路20を含む。投光駆動回路20には、駆動電力に加えて、CPU40からの制御信号が与えられる。この制御信号が活性化(ON)になると、投光駆動回路20からUV発光素子22に対して電力が供給され、UV発光素子22が励起用の紫外線の照射を開始する。
また、蛍光受光部1041は、上述したフォトダイオード(PD)28に加えて、増幅回路32と、A/Dコンバータ36とを含む。増幅回路32は、フォトダイオード28から出力される電圧信号(検出された蛍光強度の大きさに比例)を所定の増幅率で増幅し、その増幅後の信号をA/D(Analog to Digital)コンバータ36へ出力する。A/Dコ
ンバータ36は、増幅回路32から入力されるアナログ信号を量子化することでデジタル信号を生成し、この生成されたデジタル信号をCPU40へ出力する。なお、A/Dコンバータ36は、電源装置56により供給される参照電圧VREFを電圧基準として、量子化を行う。
[C2.測定装置の構成(その2)]
測定装置100の設置環境において、対象物OBJで生じる蛍光と同じ波長域を含む光源(照明装置)などが存在する場合には、この光源(照明装置)からの光が外乱となり得る。そのため、このような外乱を抑制するために、励起用の紫外線の強度を周期的に変化させる(一種の変調をする)ことが好ましい。
図9は、本発明の実施の形態の第1変形例に係る測定装置100Aの電気的な構造を示す模式図である。図9に示す測定装置100Aは、図8に示す測定装置100に比較して、投光駆動回路20に対して所定周期のパルス信号を駆動信号として入力するように変更したUV投光部1044を採用するとともに、HPF(High Pass Filter)30および外乱光除去フィルタ34をさらに追加した蛍光受光部1043を採用したものである。
すなわち、UV投光部1044からは、投光駆動回路20に対して与えられるパルス信号(駆動信号)に対応して発生する、その強度が周期的に変化する紫外線が対象物OBJに対して照射される。その結果、紫外線強度の変化周期に同期して、対象物OBJで生じる蛍光強度も時間的に変化する。
一方、蛍光受光部1043においては、このように時間的に強度が変化する蛍光をフォトダイオード28により受光すると、その検出結果をHPF30に入力して、検出結果に含まれる交流成分を抽出する。この抽出された交流成分は、外乱光除去フィルタ34によって、投光駆動回路20に対して与えられるパルス信号の周期(周波数)と実質的に同じ周期成分が抽出される。より具体的には、外乱光除去フィルタ34では、増幅回路32により増幅された交流成分と紫外線に含まれる周期成分との間の相関値が順次算出される。この相関値が対象物OBJから発生した蛍光の強度を示す値となる。
そして、外乱光除去フィルタ34からの出力信号(アナログ信号)がA/Dコンバータ36によって量子化されることで、デジタル信号が出力される。
なお、外乱となる照明装置の光源(典型的には、蛍光灯)が特定の周期(たとえば、商用電源の周波数)で変動することが予め分かっているのであれば、励起用の紫外線の強度を変化させる周期としては、このような変動周期よりも短くすることが好ましい。
その他の構成については、図7および図8を用いて説明した測定装置100と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
このように、本実施の形態の第1変形例に係る測定装置100Aによれば、その設置環境にある光源からの外乱に影響されず、対象物OBJから発生する蛍光強度(表面のぬれ性を示す値)を安定して測定することができる。
[C3.測定装置の構成(その3)]
測定装置100の周囲環境(温度など)に依存して、照射測定ヘッド部から照射される励起用の紫外線の強度が変動する場合が考えられる。この場合には、検出される蛍光強度の外乱となり得るので、対象物OBJに対して照射する紫外線の強度は一定とすることが望ましい。以下では、このような外乱を抑制するために、照射測定ヘッド部から照射される紫外線強度をモニタすることで、対象物OBJに照射される紫外線を一定に維持する構成について例示する。
図10は、本発明の実施の形態の第2変形例に係る測定装置100Bの電気的な構造を示す模式図である。図10に示す測定装置100Bは、図9に示す測定装置100Aに比較して、投光量制御回路21と、モニタフォトダイオード(PD)25と、増幅回路26と、A/Dコンバータ27とをさらに含むように変更したUV投光部1046を採用したものである。
このUV投光部1046においては、UV発光素子22の照射面に隣接してモニタフォトダイオード25が配置され、UV発光素子22から対象物OBJへ照射される紫外線の強度を連続的に検知する。このモニタフォトダイオード25から出力される電圧信号(検出された紫外線強度の大きさに比例)は、増幅回路26へ入力されて、所定の増幅率で増幅される。この増幅後の電圧信号は、A/Dコンバータ27により量子化されてデジタル信号としてCPU40へ与えられる。
CPU40は、A/Dコンバータ27からのデジタル信号を予め設定した基準値と比較することで、投光量制御回路21に対する制御指令を生成する。投光量制御回路21は、CPU40からの制御指令に従って、投光駆動回路20へ供給する電力を調整する。これにより、投光駆動回路20からUV発光素子22へ供給される電力がフィードバック制御される。その結果、UV発光素子22から対象物OBJに対して照射される励起用の紫外線の強度が一定に維持される。
その他の構成については、図7および図8を用いて説明した測定装置100と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
このように、本実施の形態の第2変形例に係る測定装置100Bによれば、対象物OBJから発生する蛍光強度(表面のぬれ性を示す値)を安定して測定することができる。
[C4.測定装置の構成(その4)]
上述の測定装置の例では、励起用の紫外線と対象物OBJから発生する蛍光とが同一の光軸上を伝搬するような光学系について例示した。これに対して、励起用の紫外線の伝搬経路と対象物OBJから発生する蛍光の伝搬経路とを異ならせるようにしてもよい。
図11は、本発明の実施の形態の第3変形例に係る測定装置100Cの光学的な構造を示す模式図である。図11に示す測定装置100Cにおいては、照射測定ヘッド部104Aは、励起用の紫外線を照射するためのUV投光部1047と、対象物OBJで生じる蛍光を検出するための蛍光受光部1048とを含む。
UV投光部1047は、UV発光素子22と、集光レンズ38Aとを含む。UV発光素子22および集光レンズ38Aは、対象物OBJに対して所定の入射角をなす光軸Ax3上に整列配置される。したがって、UV発光素子22で発生する励起用の紫外線は、集光レンズ38Aを透過した後、光軸Ax3に沿って伝搬して対象物OBJに対して所定の入射角で入射する。
対象物OBJにおいては、紫外線の入射角に対応する反射角で発生した蛍光が伝搬する。すなわち、対象物OBJの垂直軸に関して、光軸Ax3と対称となる光軸Ax4に沿って、対象物OBJで発生した蛍光は伝搬する。
蛍光受光部1048においては、この光軸Ax4上に、波長フィルタ39、集光レンズ38Bおよびフォトダイオード28が整列配置される。波長フィルタ39は、UV投光部1047から照射される励起用の紫外線がフォトダイオード28へ直接的に入射することを抑制するための光フィルタである。すなわち、波長フィルタ39は、測定対象の蛍光が入射した場合には透過させる一方で、測定対象ではない紫外線が入射した場合にはカットするような特性を有する。
したがって、励起用の紫外線の照射によって対象物OBJで発生した蛍光は、波長フィルタ39を透過した後、集光レンズ38Bによって集光されて、フォトダイオード28で結像するようになっている。そして、フォトダイオード28が対象物OBJから発生した蛍光の強度を検出する。
なお、対象物OBJの種類に依存して、発生する蛍光の波長が異なる場合などには、測定対象の波長毎に、UV投光部1047および/または蛍光受光部1048を複数しておき、必要に応じて、適切なものを選択するようにしてもよい。
その他の構成については、図7〜図10を用いて説明した測定装置と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
[C5.測定装置の構成(その5)]
上述の測定装置の例では、紫外線LEDであるUV発光素子を用いて励起用の紫外線を発生する構成について例示したが、紫外線ランプなどを用いてもよい。以下、図11に示す測定装置の構成において、紫外線の発生源として、紫外線ランプを採用した構成について例示する。
図12は、本発明の実施の形態の第4変形例に係る測定装置100Dの光学的な構造を示す模式図である。図13は、図12に示す紫外線ランプ(メタルハライドランプ)の発光スペクトルの一例を示す図である。図14は、図12に示す波長フィルタの特性の一例を示す図である。
図12に示す測定装置100Dにおいては、照射測定ヘッド部104Bは、励起用の紫外線を照射するためのUV投光部1045と、対象物OBJで生じる蛍光を検出するための蛍光受光部1049とを含む。なお、蛍光受光部1049の構成については、上述の図11に示す蛍光受光部1049と同様である。
UV投光部1045は、紫外線ランプ23と、集光レンズ38Aと、波長フィルタ39Aとを含む。紫外線ランプ23としては、典型的には、メタルハライドランプが用いられる。紫外線ランプ23、集光レンズ38A、および波長フィルタ39Aは、対象物OBJに対して所定の入射角をなす光軸Ax3上に整列配置される。
図13に示すように、紫外線ランプ23は、上述のUV発光素子とは異なり、比較的広い帯域にわたって紫外線を照射する。なお、紫外線ランプ23から照射される光には、可視光領域の波長成分も含み得る。そのため、紫外線ランプ23から照射される可視光を含む光のうち、紫外線成分のみを抽出して対象物OBJに照射する必要がある。なぜならば、可視光成分を含む光を照射すると、対象物OBJから生じる蛍光と混ざってしまい、蛍光強度を正確に測定することができないからである。
そこで、測定装置100DのUV投光部1045においては、紫外線ランプ23の照射方向に波長フィルタ39Aを配置して、対象物OBJからの蛍光強度の検出に必要な紫外線成分のみを抽出する。一方、測定装置100Dの蛍光受光部1049においては、対象物OBJから生じた蛍光のみを選択的に抽出するための波長フィルタ39Bが配置される。
これらの波長フィルタ39Aおよび39Bの波長透過特性の一例を図14に示す。図14には、対象物OBJにおいて表面改質処理において生じる官能基の吸収スペクトルのピークが310nm付近に存在する場合の例を示す。
図14に示す例では、波長フィルタ39Aは、バンドパスフィルタ(BPF)またはローパスフィルタ(LPF)からなり、310nm付近を中心とした波長帯域の光を透過させるとともに、それ以外の波長成分を遮断する。すなわち、UV投光部1045の波長フィルタ39Aは、紫外線ランプ23から発生する波長成分のうち、目的の官能基の吸収スペクトルに対応する波長成分のみを抽出することを目的としている。
一方、蛍光受光部1049の波長フィルタ39Bは、ハイパスフィルタ(HPF)またはバンドパスフィルタ(BPF)からなり、対象物OBJの表面に生じる目的の官能基から生じる蛍光以外の外乱となりうる成分を遮断する。特に、UV投光部1045から照射される励起用の紫外線が直接的または間接的にフォトダイオード28に入射することを抑制することを目的としている。そのため、図14に示すように、蛍光受光部1049の波長フィルタ39Bのカットオフ波長は、UV投光部1045の波長フィルタ39Aの透過波長帯域より長波長側に設定される。
第4変形例に係る測定装置100Dにおいては、対象物OBJの表面に生じる官能基の種類などに応じて、波長フィルタ39Aを変更することで、照射する紫外線の主波長成分を調整することができる。そのため、UV発光素子を使用する場合に比較して、汎用性を高めることができる。
さらに、波長透過特性が互いに異なる複数の波長フィルタ39Aおよび39Bを用意しておき、目的となる対象物OBJの材質(すなわち、その表面に生じる官能基の吸収波長および発生する蛍光の波長)に応じて、適切な波長フィルタを選択するようにしてもよい。
その他の構成については、図7〜図11を用いて説明した測定装置と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
[D1.制御構造(その1)]
次に、本実施の形態に係る測定装置100における制御構造について説明する。
図15は、本発明の実施の形態に係る測定装置100の制御構造を示す模式図である。図15に示す制御構造は、基本的には、対象物OBJに対して表面改質処理を行った後においてのみ蛍光強度を検出する測定方法に適用される。すなわち、上述の実験例のうち、コロナ処理の例で示すように、表面改質処理があるレベルに達するまでは、表面から蛍光を発しない材質に適している。言い換えれば、図15に示す制御構造は、表面改質処理前における蛍光強度がゼロであるような対象物OBJを評価する場合に使用される。
図15を参照して、測定装置100は、その制御構造として、バッファ400と、表示データ生成部402と、判定部404と、換算部406と、データベース408とを含む。一例として、測定装置100は、照射測定ヘッド部104により検出された検出値(蛍光強度)を入力として、判定出力、蛍光強度、接触角を出力する。
なお、典型的には、表示データ生成部402、判定部404、換算部406は、CPU40がプログラムを実行することで実現され、バッファ400およびデータベース408は、記憶部54の所定領域に実現される。
具体的には、計測開始トリガに応答して、バッファ400は、照射測定ヘッド部104からの検出値を取得して格納する。この計測開始トリガに同期して、照射測定ヘッド部104へは、紫外線の照射指令が与えられる。バッファ400に格納された検出値は、表示データ生成部402、判定部404、換算部406からそれぞれアクセス可能となっている。なお、バッファ400には、複数のサンプル時刻において検出された値を平均化した結果を格納してもよい。さらに、ノイズなどを除去するための各種の前処理(フィルタリング処理)を行ってもよい。
表示データ生成部402は、バッファ400に格納された蛍光強度(検出値)を表示するためのデータ、典型的には、セグメント表示器を駆動するための信号を生成する。
判定部404は、バッファ400に格納された蛍光強度(検出値)に基づいて、対象物OBJにおけるぬれ性の良否を判定する。具体的には、判定部404は、バッファ400に格納された蛍光強度の値としきい値とを比較して、蛍光強度の値がしきい値より大きければ、目的とする程度のぬれ性を確保できていると判断する。このしきい値は、対象物OBJの製造プロセスに応じて、必要なぬれ性の度合いに対応する値に設定される。
換算部406は、バッファ400に格納された蛍光強度(検出値)に基づいて、従来の液滴法を用いた接触角測定装置により算出される接触角と実質的に等価な値を算出する。すなわち、従来の液滴法を用いた接触角測定装置を本実施の形態に係る測定装置100にリプレースする場合などを想定すると、管理装置などとの間でインターフェイスされるデータに互換性があることが好ましい。そのため、本実施の形態に係る測定装置は、データベース408に、対象物OBJから検出される蛍光強度とそのときの接触角とを対応付けたテーブル410(あるいは、関係式または関数)などを用意しておき、換算部406が、対応するテーブル410を参照して、バッファ400に格納された蛍光強度を用いて、接触角を算出する。なお、上述の実験結果にも示すように、発生する蛍光強度は、対象物OBJの材質に依存するので、対象物OBJの材質(種類)の別にテーブル410を複数用意しておき、目的の対象物OBJの材質(種類)に応じたテーブル410を選択的に使用することが好ましい。
図16は、図3に示す実験結果を接触角と蛍光強度との関係についてプロットしたグラフを示す図である。図16に示すように、接触角の大きさと蛍光強度との間にも、強い相関関係があることがわかる。そのため、図16に示すような対応関係を予め実験的に取得しておき、この対応関係を参照して、対象物OBJから検出される蛍光強度に対応付けられた蛍光強度を算出する。
ここで、図16に示すような対応関係、および、図15に示すテーブル410の作成方法について説明する。
基本的には、上述の実験例と同様に、目的の対象物OBJに対して様々な条件で表面改質処理を行う。なお、対象物OBJについては、均質な材料で複数のサンプルを用意することが好ましい。そして、それぞれ表面改質処理された後の対象物OBJに対して、本実施の形態に係る測定装置を用いて蛍光強度を検出するとともに、従来の接触角測定装置を用いて接触角を計測する。このように、複数の異なるぬれ性をもつように表面改質処理された対象物OBJについて、本実施の形態に係る測定装置100により検出された蛍光強度と対応する接触角の測定値とを関連付けることにより、当該対象物OBJについての蛍光強度と接触角との対応関係(テーブル410)を生成することができる。
[D2.制御構造(その2)]
上述の図15に示す制御構造においては、表面改質処理前の対象物OBJからは、実質的に蛍光が発生しない場合に適している。一方、上述の実験例のうち、プラズマ処理の例で示すように、対象物OBJの材質などによっては、表面改質処理前の状態であっても、対象物OBJからは、幾分かの蛍光が発する場合がある。このような場合には、処理前後において変化した蛍光強度の大きさに基づいて、対象物OBJにおけるぬれ性を評価することが好ましい。
図17は、本発明の実施の形態に係る測定装置100の制御構造の変形例を示す模式図である。図17参照して、測定装置100は、その変形例の制御構造として、バッファ411,412と、差分演算器414と、表示データ生成部402と、判定部404と、換算部416と、データベース408とを含む。
典型的には、表示データ生成部402、判定部404、換算部416、差分演算器414は、CPU40がプログラムを実行することで実現され、バッファ411,412およびデータベース408は、記憶部54の所定領域に実現される。
一例として、測定装置100は、表面改質処理前の対象物OBJから検出された蛍光強度と、表面改質処理後の対象物OBJから検出された蛍光強度との差分に基づいて、対象物OBJにおけるぬれ性を評価するための結果(判定出力、蛍光強度、接触角など)を出力する。
具体的には、バッファ411には、照射測定ヘッド部104を用いて表面改質処理前の対象物OBJから検出された蛍光強度が格納され、バッファ412には、照射測定ヘッド部104を用いて表面改質処理後の対象物OBJから検出された蛍光強度が格納される。なお、単一の照射測定ヘッド部104を用いて、処理前後における蛍光強度を検出するようにしてもよいが、図1に示すように、表面改質処理前および表面改質処理後の位置にそれぞれ照射測定ヘッド部104を配置して、2つの照射測定ヘッド部104がそれぞれ検出する蛍光強度をバッファ411および412へそれぞれ格納するようにすることが好ましい。なお、この場合には、2つの照射測定ヘッド部104の間での校正を行う必要がある。
差分演算器414は、バッファ412に格納された検出値(処理後)からバッファ411に格納された検出値(処理前)を差し引いて、蛍光強度の差分を算出する。
表示データ生成部402は、差分演算器414で算出された蛍光強度の差分(蛍光強度の変化量)を表示するためのデータ、典型的には、セグメント表示器を駆動するための信号を生成する。
判定部404は、差分演算器414で算出された蛍光強度の差分に基づいて、対象物OBJにおけるぬれ性の良否を判定する。具体的には、判定部404は、差分演算器414で算出された蛍光強度の差分としきい値とを比較して、蛍光強度の差分がしきい値より大きければ、目的とする表面改質処理が行われたと判断する。このしきい値は、対象物OBJの製造プロセスに応じて、必要な表面改質処理の度合いに対応する値に設定される。
換算部416は、図15に示す換算部406と同様に、バッファ411および412にそれぞれ格納された蛍光強度(検出値)に基づいて、従来の液滴法を用いた接触角測定装置により算出される接触角と実質的に等価な接触角をそれぞれ算出する。さらに、換算部416は、それぞれの検出値から算出された接触角の間の差分をとり、接触角の変化量を出力する。このとき、換算部416は、対象物OBJから検出される蛍光強度とそのときの接触角とを対応付けたテーブル410(あるいは、関係式または関数)をデータベース408から読み出して、接触角を算出する。なお、換算部416は、表面改質処理前および表面改質処理後においてそれぞれ算出される接触角そのものを出力するようにしてもよい。
[E.処理手順]
以下、本実施の形態に係る測定処理の手順について説明する。
(1.ぬれ性評価処理(その1))
図18は、本発明の実施の形態に係るぬれ性評価処理(その1)の手順を示すフローチャートである。図18に示すぬれ性評価処理は、図15に示す制御構造に対応して実行されるものであり、基本的には、表面改質処理後の対象物OBJから測定された蛍光強度のみに基づいて、対象物OBJのぬれ性を評価する。
まず、ステップS100において、対象物OBJからの蛍光強度の測定タイミングであるか否かを判断する。より具体的には、対象物OBJについての表面改質処理がバッチ的に実行される場合には、そのバッチ処理が完了した場合に、測定タイミングであると判断される。あるいは、対象物OBJについての表面改質処理が連続的に実行される場合には、所定周期毎に測定タイミングが決定される。
蛍光強度の測定タイミングでなければ(ステップS100においてNO)、ステップS100の処理が繰返される。
一方、蛍光強度の測定タイミングであれば(ステップS100においてYES)、処理はステップS102に進む。ステップS102において、測定開始指令を発行する。ステップS104において、測定開始指令に応答して、照射測定ヘッド部104から励起用の紫外線を対象物OBJに向けて照射する。ステップS106において、照射測定ヘッド部104において、対象物OBJで生じる蛍光を検出する。ステップS108において、検出された蛍光に対してノイズ除去処理(フィルタリング処理)を行った上で、蛍光強度(代表値)を取得する。
ステップS110において、取得した蛍光強度としきい値とを比較して、対象物OBJにおけるぬれ性の良否を判定する。続くステップS112において、対象物OBJの種類に応じた関係式(テーブル)を選択し、選択された関係式を用いて、取得した蛍光強度に対応する接触角を算出する。すなわち、ステップS112において、対象物の種類の別に予め取得された複数の対応関係のうち、選択された対応関係に従って、検出された蛍光強度に対応する接触角が算出される。
そして、ステップS114において、出力処理を行う。具体的には、ステップS108において取得された蛍光強度、ステップS110において決定されたぬれ性の良否判定結果、および、ステップS112において算出された接触角の少なくとも1つを表示あるいは外部装置へ出力する。すなわち、ステップS114において、検出された蛍光強度から対象物OBJの表面におけるぬれ性を示す値を出力する。このとき、対象物OBJの表面におけるぬれ性を示す値として検出された蛍光強度が出力される。
ステップS116において、ぬれ性評価処理の終了が指示されたか否かを判断する。ぬれ性評価処理の終了が指示されていなければ(ステップS116においてNO)、ステップS100以下の処理が繰返される。一方、ぬれ性評価処理の終了が指示されていれば(ステップS116においてYES)、ぬれ性評価処理は終了する。
なお、図18に示すフローチャートにおいては、評価出力として、3つの結果(蛍光強度、ぬれ性の良否判定結果、接触角)を算出する場合の処理を例示するが、これらの3つの結果をすべて算出する必要はなく、適用されるプロセスなどに応じて、必要な結果を適宜選択してもよい。このことは、後述する図19に示すフローチャートにおいても同様である。
(2.ぬれ性評価処理(その2))
図19は、本発明の実施の形態に係るぬれ性評価処理(その2)の手順を示すフローチャートである。図19に示すぬれ性評価処理は、図17に示す制御構造に対応して実行されるものであり、基本的には、表面改質処理前の対象物OBJから検出された蛍光強度と表面改質処理後の対象物OBJから検出された蛍光強度とに基づいて、対象物OBJのぬれ性を評価する。
まず、ステップS200において、表面改質処理前の対象物OBJからの蛍光強度の測定が指示されたか否かを判断する。表面改質処理前の対象物OBJからの蛍光強度の測定が指示されていなければ(ステップS200においてNO)、ステップS200の処理が繰返される。
表面改質処理前の対象物OBJからの蛍光強度の測定が指示されていれば(ステップS200においてYES)、処理はステップS202に進む。ステップS202において、第1回目の測定開始指令を発行する。続くステップS204において、測定開始指令に応答して、照射測定ヘッド部104から励起用の紫外線を表面改質処理前の対象物OBJに向けて照射する。ステップS206において、照射測定ヘッド部104において、対象物OBJで生じる蛍光を検出する。ステップS208において、検出された蛍光に対してノイズ除去処理(フィルタリング処理)を行った上で、表面改質処理前の対象物OBJについての蛍光強度(代表値)を取得する。
続くステップS210において、対象物OBJに対して、表面改質処理を実行する。そして、ステップS212において、表面改質処理後の対象物OBJからの蛍光強度の測定が指示されたか否かを判断する。表面改質処理後の対象物OBJからの蛍光強度の測定が指示されていなければ(ステップS212においてNO)、ステップS212の処理が繰返される。
表面改質処理後の対象物OBJからの蛍光強度の測定が指示されていれば(ステップS212においてYES)、処理はステップS214へ進む。
ステップS214において、第2回目の測定開始指令を発行する。続くステップS216において、測定開始指令に応答して、照射測定ヘッド部104から励起用の紫外線を表面改質処理後の対象物OBJに向けて照射する。ステップS218において、照射測定ヘッド部104において、対象物OBJで生じる蛍光を検出する。ステップS220において、検出された蛍光に対してノイズ除去処理(フィルタリング処理)を行った上で、表面改質処理後の対象物OBJについての蛍光強度(代表値)を取得する。
なお、図5に示すような連続プロセスにおいては、表面改質処理の前段および後段にそれぞれ照射測定ヘッド部104を配置することが好ましい。この場合には、第1回目の測定開始指令は、表面改質処理の前段に配置された照射測定ヘッド部104に与えられ、第2回目の測定開始指令は、表面改質処理の後段に配置された照射測定ヘッド部104に与えられることになる。
その後、ステップS222において、表面改質処理前の対象物OBJから取得した蛍光強度と表面改質処理後の対象物OBJから取得した蛍光強度との差分を算出する。続くステップS224において、算出した蛍光強度の差分としきい値とを比較して、対象物OBJにおけるぬれ性の良否を判定する。
ステップS226において、対象物OBJの種類に応じた関係式(テーブル)を選択し、選択された関係式を用いて、表面改質処理前の対象物OBJから取得した蛍光強度および表面改質処理後の対象物OBJから取得した蛍光強度にそれぞれ対応する2つの接触角を算出する。続くステップS228において、算出した2つの接触角の間での差分を算出する。この算出した接触角の差分が表面改質処理によって、ぬれ性の改善度合いを示す。
そして、ステップS230において、出力処理を行う。具体的には、ステップS220において取得された蛍光強度の差分、ステップS224において決定されたぬれ性の良否判定結果、および、ステップS228において算出された接触角の差分(変化量)の少なくとも1つを表示あるいは外部装置へ出力する。すなわち、表面改質処理前において対象物OBJで生じる蛍光を検出した結果と、表面改質処理後において対象物OBJで生じる蛍光を検出した結果との差に基づいて、対象物OBJの表面におけるぬれ性を示す値が算出される。このとき、対象物OBJの表面におけるぬれ性を示す値として検出された蛍光強度が出力される。
ステップS232において、ぬれ性評価処理の終了が指示されたか否かを判断する。ぬれ性評価処理の終了が指示されていなければ(ステップS232においてNO)、ステップS200以下の処理が繰返される。一方、ぬれ性評価処理の終了が指示されていれば(ステップS232においてYES)、ぬれ性評価処理は終了する。
[F.適用例]
上述のようなぬれ性の評価処理での結果に基づいて、表面改質プロセスで生じる変動を抑制するように調整してもよい。すなわち、ぬれ性の評価結果をフィードバックすることで、表面改質処理(プラズマ処理やコロナ処理)での各種条件を動的に調整するようにしてもよい。
図20は、本発明の実施の形態に係る表面改質プロセス500の一例を示す模式図である。なお、図20には、典型例として、大気圧プラズマ処理の例を示す。
図20を参照して、対象物OBJは、搬送手段の典型例である搬送コンベア502上に配置されて、紙面右方向から左方向へ順次搬送される。搬送コンベア502は、駆動ローラ504および506などによって駆動力が与えられる。これらの駆動ローラ504および506の回転数は、コンベアコントローラ508などによって制御される。コンベアコントローラ508は、典型的には、PLC(Programmable Logic Controller)によって
構成される。コンベアコントローラ508は、測定装置100からの指令に応じて、駆動ローラ504および506の回転数、すなわち、搬送コンベアの移動速度を調整する。
また、搬送コンベア502の上流側から順に、対象物OBJに対してプラズマ処理をするための反応器530および測定装置100が配置される。
反応器530には、混合器516およびバルブ518を通じて、プラズマ処理のガス雰囲気を形成するためのガスが供給される。混合器516は、酸素を保持するボンベ512およびアルゴンガスを保持するボンベ522に連結されている。ボンベ512と混合器516とを接続する経路には、バルブ514が設けられ、ボンベ512と混合器516とを接続する経路には、バルブ524が設けられる。バルブ514および524は、それぞれ酸素およびアルゴンの供給量を調整可能となっている。そのため、バルブ514および524の開度を調整することで、反応器530へ供給されるガスの混合比が変更される。
また、反応器530には、高周波電源532から高周波電圧が供給されており、ガス雰囲気内で放電が生じることでプラズマが発生する。この発生するプラズマにより、対象物OBJに対して表面改質処理がなされる。
この表面改質処理がなされた後の対象物OBJは、照射測定ヘッド部104が配置された位置に移動された後、照射測定ヘッド部104から励起用の紫外線が照射され、蛍光強度が検出される。なお、対象物OBJが照射測定ヘッド部104の照射/測定位置に到着したことは、図示しないセンサーなどで検出され、この検出に応答して、測定開始指令が発行される。
照射測定ヘッド部104で検出された対象物OBJからの蛍光強度に基づいて、測定処理部102において、対象物OBJのぬれ性が評価される。また、測定処理部102では、ぬれ性の評価結果に基づいて、コンベアコントローラ508に対して、速度調整要求が与えられる。たとえば、反応器530によりプラズマ処理された後の対象物OBJの状態に応じて、各対象物OBJに対するプラズマ処理の時間をより長くすべきか、あるいは、より短くすべきかが判断され、この判断結果に基づいて、搬送コンベア502の搬送速度が調整される。すなわち、表面改質プロセス500においては、測定装置100により測定された対象物OBJにおけるぬれ性の評価結果がフィードバックされて、プラズマ処理が最適な状態に維持される。なお、後述するように、搬送コンベア502の搬送速度以外にも、各種の操業パラメータを動的に調整してもよい。
次に、上述のような表面改質プロセスにおいて、操業パラメータを動的に調整する方法について説明する。
図21は、本発明の実施の形態に係る表面改質プロセスの調整処理の手順を示すフローチャートである。
図21を参照して、まず、ステップS300において、図18や図19に示すようなぬれ性評価処理を用いて、対象物OBJについてのぬれ性の評価結果を取得する。続くステップS302において、ぬれ性の評価結果を取得した対象物OBJの数が規定数を超えたか否かを判断する。ぬれ性の評価結果を取得した対象物OBJの数が規定数を超えていなければ(ステップS302においてNO)、ステップS300の処理が繰返される。
すなわち、ステップS300およびS302においては、対象の表面改質プロセスにおける全体的な挙動を観察するために、統計的に有意な数のサンプル(ぬれ性の評価結果)を取得する。
ぬれ性の評価結果を取得した対象物OBJの数が規定数を超えていれば(ステップS302においてYES)、処理はステップS304へ進む。ステップS304において、取得されたぬれ性の評価結果に対して統計処理を行う。続くステップS306において、統計処理の結果に基づいて、対象の表面改質プロセスでの変動の傾向を取得する。たとえば、対象物OBJに対する表面改質の度合いが過剰であるとか、表面改質の度合いが不足しているといった全体的な傾向などである。
そして、ステップS308において、取得した表面改質プロセスの傾向に基づいて、調整すべきパラメータの種類および/またはパラメータの変更量を決定する。たとえば、図20に示すような表面改質処理としてプラズマ処理を採用する場合には、(a)対象物OBJの搬送速度(すなわち、処理時間)、(b)気体混合比、(c)気体流量、(d)高周波電源の電源電圧、(e)高周波電源の周波数などが調整対象のパラメータとなる。また、表面改質処理としてコロナ処理を採用する場合には、(f)コロナ処理の時間、(g)コロナ発生の電圧値、(h)対象物の搬送速度などが調整対象のパラメータとなる。
たとえば、過去の5回分のぬれ性を示す値の平均値が所定のしきい値より小さければ、すなわち、算出された接触角の値が所定値より大きければ、ぬれ性が悪化していると判断し、対象物OBJの搬送速度を遅くして、処理時間をより長くする。
そして、ステップS310において、決定したパラメータを決定した変更量だけ変更する。その後、ステップS300における処理が繰返される。
[F.作用効果]
本実施の形態に係る測定方法によれば、対象物に励起用の紫外線を照射し、この照射された紫外線によって発生する蛍光強度に基づいて、当該対象物におけるぬれ性が評価される。すなわち、励起用の紫外線が照射されるとほぼ同時に発生する蛍光を検出するだけで、対象物のぬれ性を評価することができる。また、対象物に励起用の紫外線を照射するだけでよいので、対象物に損傷などを与えない非破壊検査とすることができる。
そのため、本実施の形態によれば、対象物表面のぬれ性を高速かつ非破壊で評価することができ、これにより、インライン検査に適したものとなる。
また、本実施の形態に係る測定方法によれば、表面改質処理の良否および/または表面改質処理の効果の度合いなどに基づいて、表面改質処理のパラメータなどを動的に調整することもできる。そのため、周辺環境の変化や対象物のばらつきなどによって、表面改質処理の結果が目的とする状態からずれたとしても、それを修正しながら操業することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。