以下に添付図面を参照して、時間測定装置、距離測定装置、移動体、時間測定方法、及び距離測定方法の実施形態を詳細に説明する。以下の実施形態によって本発明が限定されるものではなく、以下の実施形態における構成要素には当業者が容易に想到できるもの、実質的に同一のもの、及びいわゆる均等の範囲のものが含まれる。以下の実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換、変更、及び組み合わせを行うことができる。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る距離測定装置1の構成を例示するブロック図である。本実施形態に係る距離測定装置1は、移動体(自動車等)に搭載され、LIDAR技術を利用して自機から対象物(他車両、障害物、歩行者等)までの距離を測定する走査型レーザレーダである。距離測定装置1は、対象物に向けて走査光を照射し、走査光を照射してから走査光が対象物に反射(散乱)された反射光を受光するまでの時間である光飛行時間に基づいて、自機から対象物までの距離を算出する。距離測定装置1は、例えば車両のバッテリから電力の供給を受ける。
距離測定装置1は、時間測定装置2、測定制御部5、及び対象物認識部6を含む。
時間測定装置2は、走査光が照射された照射タイミングと反射光が受光された受光タイミングとの時間差に基づいて光飛行時間を測定する。測定制御部5は、測定された光飛行時間に基づいて対象物までの距離を算出する。対象物認識部6は、算出された距離に基づいて、走査光の走査範囲内に存在する対象物を認識するための処理を行い、対象物に関する対象物情報を生成する。対象物情報は、例えば距離、位置、移動方向、移動速度、種類(自動車、二輪車、分離帯、電柱、人物、動物等)等を含んでもよい。測定制御部5は、生成された対象物情報を車両のECU(Electronic Control Unit)51に出力し、ECU51から距離(光飛行時間)の測定を制御するための測定制御信号を入力する。測定制御部5は、ECU51から入力された測定制御信号、時間測定装置2から入力される同期信号等に基づいて、時間測定装置2を制御するための信号(LD(Laser Diode)駆動信号等)を生成する。
時間測定装置2は、投光系11、受光光学系12、検出系13、同期系14、及び時間算出部15を含む。
投光系11は、走査光を生成し、走査光を所定の走査範囲(車両前方の領域等)に照射する機構である。本実施形態に係る投光系11は、LD21、LD駆動部22、及び投光光学系23を含む。
LD21は、LD駆動部22から出力される駆動電流に応じてパルス状のレーザ光を出力する半導体素子であり、例えば端面発光レーザ等である。LD駆動部22は、測定制御部5からのLD駆動信号に応じてパルス状の駆動電流を出力する回路であり、例えば、駆動電流を蓄積するコンデンサ、コンデンサとLD21との導通/非導通を切り換えるトランジスタ、電源等から構成される。投光光学系23は、LD21から出力されたレーザ光を調光する機構であり、レーザ光を平行化させるカップリングレンズ、レーザ光の進行方向を変化させる偏向器としての回転ミラー等から構成される。投光光学系23から出力されたパルス状のレーザ光が走査光となる。
受光光学系12は、走査範囲に照射された走査光が他車両等の対象物に反射された反射光を受光するための機構であり、集光レンズ、平行化レンズ等から構成される。
検出系13は、反射光を光電変換し、光飛行時間を算出するための電気信号を生成する機構である。本実施形態に係る検出系13は、時間測定PD(Photodiode)31及びPD出力検出部32を含む。時間測定PD31は、反射光の光量に応じた電流(検出電流)を出力するフォトダイオードである。PD出力検出部32は、時間測定PD31からの検出電流に応じた電圧(検出電圧)を生成するI/V変換回路等から構成される。
同期系14は、走査光を光電変換し、走査光の照射タイミングを調整するための同期信号を生成する機構である。本実施形態に係る同期系14は、同期検知PD41及び走査光検出部42を含む。同期検知PD41は、走査光の光量に応じた電流を出力するフォトダイオードである。PD出力検出部42は、同期検知PD41からの電流に応じた電圧を利用して同期信号を生成する回路である。
時間算出部15は、検出系13により生成された電気信号(検出電圧等)及び測定制御部5により生成されたLD駆動信号に基づいて光飛行時間を算出する回路であり、例えばプログラムにより制御されるCPU(Central Processing Unit)、適宜なIC(Integrated Circuit)等により構成される。
図2は、第1の実施形態に係る投光系11及び同期系14の構成を模式的に例示する図である。図3は、第1の実施形態に係る受光光学系12の構成を模式的に例示する図である。図4は、第1の実施形態に係る投光系11と受光光学系12との位置関係を模式的に例示する図である。図2〜図4は、Z軸方向を鉛直方向(上下方向)とするXYZ−3次元直交座標系に基づいて作成されている。
図2に示されるように、投光系11は、LD21、LD21からの光の光路上に配置されたカップリングレンズ61、カップリングレンズ61を通過した走査光68の光路上に配置された反射ミラー62、及び反射ミラー62により反射された走査光68の光路上に配置された回転ミラー63を含む。本例では、カップリングレンズ61と回転ミラー63との間の反射ミラー62を配置し光路を折り返すことにより、装置の小型化が図られている。LD21から出射された光は、カップリングレンズ61により所定のビームプロファイルの光に整形された後、反射ミラー62により反射され、回転ミラー63によりZ軸周りに偏向される。
回転ミラー63は、Z軸に平行な回転軸に固定された複数の反射面64A,64Bを有する。反射ミラー62からの光が反射面64A,64Bに反射されることにより、回転ミラー63の偏向範囲に対応する有効走査領域内が走査光68により1軸方向(本例ではY軸方向)に走査される。本例に係る偏向範囲(有効走査領域)は、距離測定装置1の+X側(例えば車両の前方側)の領域である。
また、回転ミラー63は、反射ミラー62からの走査光68を再び反射ミラー62に反射させ、走査光68を同期系14に送る役割も担っている。同期系14は、同期検知PD41、及び回転ミラー63から反射ミラー62を介して反射された走査光68を同期検知PD41に結像させる集光レンズ66を含む。本例では、回転ミラー63が走査範囲の最上流点である左走査端より更に上流側に回転したときに、走査光68が再び反射ミラー62に反射され、集光レンズ66を介して同期検知PD41に受光される。なお、反射ミラー62は、回転ミラー63が走査範囲の最下流点である右走査端より更に下流側に回転したときに走査光68を再び反射ミラー62に反射させるように配置されてもよい。同期検知PD41は、集光レンズ66を介して受光した走査光68を光電変換した電流を出力する。当該電流は同期信号を生成するために利用される。
なお、本例では、光源としてLD21が用いられているが、光源はこれに限られるものではない。例えば、VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting LASER:面発光レーザ)、有機EL(Electro-Luminescence)素子、LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)等の他の発光素子を用いてもよい。
また、本例に係る回転ミラー63は2つの反射面64A,64Bを有しているが、反射面の数はこれに限られるものではなく、1面でもよいし、3面以上でもよい。少なくとも2つの反射面を回転軸に対して異なる角度で固定することにより、有効走査領域をZ軸方向に切り替えることが可能である。また、偏向器としてポリゴンミラー(回転多面鏡)、ガルバノミラー、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラー等を用いてもよい。
図3に示すように、受光光学系12は、反射ミラー62、回転ミラー63、及び集光レンズ73を含む。反射ミラー62及び回転ミラー63は、上記投光系11及び同期系14と共用される。回転ミラー63は、投光系11から照射され有効走査領域内にある対象物に反射された反射光69を反射ミラー62に反射させる。反射ミラー62は、回転ミラー63からの反射光69を集光レンズ73に反射させる。集光レンズ73は、反射ミラー62からの反射光69を時間測定PD31に結像させる。時間測定PD31は、集光レンズ73を介して受光した反射光69を光電変換する。これにより、反射光69が受光された受光タイミングの検出、反射光69の光量に応じて電気信号(検出電圧等)の生成等が可能となる。
本例では、投光系11(投光光学系23)と受光光学系12とが同一の筐体内に設置されている。この筐体は、投光系11からの走査光68の光路上及び受光光学系12への反射光69の光路上に開口部を有し、開口部がウィンドウ(光透過窓部材)75により塞がれている。ウィンドウ75は、例えばガラス、樹脂等から構成される。
図4に示すように、投光系11と受光光学系12とはZ軸方向に重なるように配置されている。投光系11から照射された走査光68は、反射ミラー62により反射され、受光光学系12に受光され、時間測定PD31により光電変換される。これにより、走査光68が照射された照射タイミングの検出等が可能となる。
上記のように、投光系11と受光光学系12とで反射ミラー62及び回転ミラー63を共用することにより、LD21からの光の照射範囲と時間測定PD31の受光可能範囲との相対的な位置ずれを小さくすることができ、安定した測定を実現することが可能となる。
検出系13は、図1及び図3に示すように、受光光学系12を介して反射光69を受光する時間測定PD31、及び時間測定PD31が出力する検出電流に基づく検出電圧を出力するPD出力検出部32を含む。反射光69は、回転ミラー63及び反射ミラー62により集光レンズ73に導かれ、集光レンズ73により時間測定PD31に集光する。なお、図3に示す例では、集光レンズ73が2枚のレンズで構成されているが、1枚のレンズでもよいし、3枚以上のレンズでもよいし、ミラー光学系を用いてもよい。
同期系14は、図1及び図2に示されるように、走査光68を受光する同期検知PD41、及び同期検知PD41が出力する電流に基づく電圧を出力するPD出力検出部42を含む。本例に係るPD出力検出部42は、アナログの電圧信号を、閾値電圧を基準として2値化したデジタル信号を生成する2値化回路等であり得る。PD出力検出部42からの出力は同期信号として測定制御部5に入力される。
図5は、第1の実施形態に係る同期系14により生成される同期信号を例示するタイミングチャートである。回転ミラー63からの走査光68が同期検知PD41に受光される度に、同期検知PD41からの電流がPD出力検出部42に入力される。その結果、PD出力検出部42は所定の同期検知間隔Ts毎に同期信号を出力する。回転ミラー63からの走査光68を同期検知PD41に照射するための同期点灯を行うことにより同期信号を得ることができ、同期信号に基づいて回転ミラー63の回転タイミングを得ることができる。そして、LD21を同期点灯してから所定の開始時間T1経過後にLD21を所定のパルス間隔T2毎にパルス点灯させることにより、有効走査領域を走査することができる。すなわち、同期検知PD41に走査光68が照射されるタイミングの前後期間にLD21がパルス点灯するようにLD駆動信号を生成することにより、有効走査領域を走査することができる。
なお、上記においては、走査光68又は反射光69の受光素子として、PDを用いる例を示したが、これに限られるものではなく、例えばAPD(Avalanche Photo Diode)、ガイガーモードAPDであるSPAD(Single Photon Avalanche Diode)等を用いてもよい。APDやSPADはPDより感度が高いため、検出精度や検出距離の点で有利である。
測定制御部5は、同期系14のPD出力検出部42からの同期信号に基づいてLD駆動信号を生成し、LD駆動信号をLD駆動部22及び時間算出部15に出力する。すなわち、LD駆動信号は、同期信号に対して遅延した発光制御信号(周期的なパルス信号)である。
LD駆動部22は、測定制御部5からLD駆動信号を入力されると、LD駆動信号に応じたパルス幅(デューティー比)でLD21に駆動電流を印加する。これにより、LD21はパルス状のレーザ光を出力する。なお、LD21の安全性や耐久性の観点からLD21のデューティ比を制限する必要があるため、パルス幅は狭いことが望ましい。そのため、パルス幅は10ns〜数十ns程度に設定される。
時間算出部15は、検出系13のPD出力検出部32からの光電圧及び測定制御部5からのLD駆動信号に基づいて、走査光68が照射されてから反射光69が受光されるまでの光飛行時間を算出する。LD駆動信号に基づいて走査光68が照射された照射タイミングを得ることができ、検出電圧に基づいて反射光69が受光された受光タイミングを得ることができ、照射タイミングと受光タイミングとの時間差に基づいて光飛行時間を算出することができる。
図6は、第1の実施形態の第1の例に係る光飛行時間Δtの算出法を例示するグラフである。図7は、第1の実施形態の第2の例に係る光飛行時間Δtの算出法を例示するグラフである。図6の第1の例、及び図7の第2の例は、検出電流を取得する手段としてPDの代わりにAPDを用いた場合の例である。図6に示す第1の例では、走査光68が照射されたことを示す照射パルス81と反射光69が受光されたことを示す受光パルス82とがそれぞれ曲線形状を有している。図7に示す第2の例では、照射パルス83と受光パルス84とがそれぞれ矩形状を有している。図6に示す第1の例では、照射パルス81のピーク位置を照射タイミングt1とし、受光パルス82のピーク位置を受光タイミングt2とする。図7に示す第2の例では、照射パルス83の立ち上がり位置を照射タイミングt1とし、受光パルス84の立ち上がり位置を受光タイミングt2とする。光飛行時間Δtは、t2−t1により算出することができる。
上記のように時間算出部15により算出された光飛行時間Δtは、測定制御部5に出力される。測定制御部5は、光飛行時間Δtの1/2を距離データとして対象物認識部6に出力する。対象物認識部6は、複数回の走査により取得された複数の距離データに基づいて、対象物までの距離、対象物の位置等を認識し、これらの認識結果を含む対象物情報を生成して測定制御部5に出力する。測定制御部5は、対象物認識部6からの対象物情報をECU51に転送する。ECU51は、対象物認識部6からの対象物情報に基づいて、例えば車両の操舵制御、速度制御等を行う。
移動体に搭載される距離測定においては、100mオーダーの測距可能距離が求められる。100m先に存在する対象物から帰ってくる反射光69の光量を電気信号に換算すると、一般的に数nW〜数十nW程度である。つまり、数nWに対応する電圧を高精度で検知できることが求められる。数nW程度の電圧は、ランダムノイズの影響を受けやすい。ランダムノイズとしては、大きく分けて回路ノイズとショットノイズとがある。回路ノイズは、抵抗から生じる熱雑音や基板が放射ノイズを拾うことにより生じるノイズであり、通常は数mV程度である。ショットノイズは、光量計測に伴う白色雑音であり、光量の時間平均の平方根に比例し、感度が高い場合や外乱光が強い場合には数十mVを超える。従って、ショットノイズは回路ノイズより問題になりやすい。また、ノイズの大きさが光量の時間平均の平方根に比例することから分かるように、ショットノイズはDC光検出の際にも白色雑音として生じる。
図8は、周囲の照度が比較的小さい場合における反射光69の検出電圧の波形を例示するグラフである。図9は、周囲の照度が比較的大きい場合における反射光69の検出電圧の波形を例示するグラフである。照度が小さい場合(太陽光が弱い場合等)には、図8に示すように、反射光69の受光に対応するターゲットピーク85以外のノイズは目立たない。これに対し、照度が大きい場合(太陽光が強い場合等)には、図9に示すように、DC成分が増大するだけでなく、ターゲットピーク85以外のランダムノイズ(ショットノイズ)も増大する。DC成分についてはハイパスフィルタ等により除去することができるが、ランダムノイズについてはハイパスフィルタでは除去することができない。
図10は、周囲の照度が比較的大きい場合であってDC成分を除去した場合における反射光69の検出電圧の波形を例示するグラフである。図10に示すように、反射光69の受光を検出するための閾値電圧(検出閾値)をランダムノイズの上限値より大きい値に設定することにより、ターゲットピーク85のみを検出することが可能となる。
しかし、実際の車両の走行環境においては、太陽光が窓ガラス、ボンネット等の高反射物体により反射され、周囲の照度が特に大きく、特に強い太陽光が受光光学系12に入射する場合がある。図11は、周囲の照度が特に大きい場合であってDC成分を除去した場合における反射光69の検出電圧の波形を例示するグラフである。このような場合、ショットノイズにより生じる電圧(ノイズ電圧)が増大し、ノイズ電圧が閾値電圧を超えて誤検出が発生する。特に、高反射物体が受光光学系12に近い位置にある場合には、ノイズ電圧は更に大きくなり、誤検出の頻度が高くなる。
上記のように、閾値電圧を基準としてターゲットピーク85を検出する方式では、ノイズ電圧による誤検出を防ぐために閾値電圧をノイズ電圧より十分大きい値に設定する必要がある。通常、閾値電圧はノイズ電圧が最大となる場合(照度が特に大きい場合等)を想定して決定される。そのため、ノイズ電圧が比較的小さい場合(照度が比較的小さい場合等)には、閾値電圧が過剰に大きくなり、ターゲットピーク85を検知可能な距離、すなわち測距可能距離が小さくなってしまう。従って、閾値電圧は、ノイズ電圧による誤検出が発生しない範囲内で最小に設定されることが望ましい。
以下に、対象物までの距離(対象物距離)がターゲットピーク85とノイズ電圧との関係に及ぼす影響について記述する。図12は、対象物距離が比較的小さい場合におけるターゲットピーク85とノイズ電圧との関係を例示するグラフである。図13は、対象物距離が比較的大きい場合におけるターゲットピーク85とノイズ電圧との関係を例示するグラフである。
図12に示すように、対象物距離が比較的小さい場合(本例では10m〜40m)には、ノイズ電圧が大きい場合であっても、ターゲットピーク85も大きくなるため、ターゲットピーク85とノイズ電圧との判別は容易となる。対象物の光反射率が大きい場合にもターゲットピーク85は大きくなる。このような場合には、閾値電圧の設定は容易である。一方、図13に示すように、対象物距離が比較的大きい場合(本例では50m〜70m)には、ターゲットピーク85が小さくなるため、ターゲットピーク85とノイズ電圧との判別が困難となる。対象物の光反射率が小さい場合には、更に両者の判別が困難となる。このような場合には、閾値電圧の設定は非常に困難となる。
図14は、対象物距離、ターゲットピーク85のピーク強度、及びノイズ電圧の推定範囲の関係を例示するグラフである。本例に係るノイズ電圧の推定範囲は、西日等の強い太陽光を想定している。ノイズ電圧の推定範囲はエラーバー151の長さで表示されており、この例では、0mVから300mVである。ターゲットピーク85のピーク強度の電圧は、近距離(10m〜20m程度)での測距において飽和している。ノイズ電圧による誤測距を避けて閾値電圧を設定する場合、図14のように、例えば400mVに閾値電圧を設定することになるが、これでは50m以上遠距離の測距においてはピーク強度が閾値電圧よりも小さくなるため、測距できなくなることが分かる。すなわち、測距可能距離を大きくするためには、閾値電圧を低く設定し、且つノイズ電圧とターゲットピーク85とを判別する技術が必要となる。
反射光69の受光を誤検出するその他の要因として、雨、霧等がある。この場合もショットノイズと同様に、雨、霧等に起因するノイズ電圧が閾値電圧を超える可能性がある。図15は、ターゲットピーク85と雨に起因するノイズピーク95とを含む検出電圧の波形を例示するグラフである。本例では、時間「0」が走査光68の照射タイミングであり、雨1〜3に起因する3つのノイズピーク95と、正規の対象物に起因する1つのターゲットピーク85とが検出されている。ノイズピーク95を危険情報とは認識せずにターゲットピーク85のみを危険情報と認識する必要があるが、図15に示すような情報のみからではそのような認識をすることができない。
そこで、本実施形態においては、ターゲットピーク85とノイズピーク95とを判別するために、検出電圧が閾値電圧を超えている時間を示すパルス幅を利用する。
図16は、パルス幅Wt,Wn1〜Wn3を例示するグラフである。図16に示すグラフは、横軸を照射タイミングからの経過時間とし、縦軸を検出系13(PD出力検出部32)から出力される検出電圧とした波形である。図16に示す波形には、1つのターゲットピーク85と、3つのノイズピーク95−1〜95−3と、ターゲットピーク85に対応するパルス幅(ターゲットパルス幅)Wtと、各ノイズピーク95−1〜95−3に対応する3つのパルス幅(ノイズパルス幅)Wn1〜Wn3とが示されている。各パルス幅Wt,Wn1〜Wn3は、各ピーク85,95−1〜95−3の検出電圧が閾値電圧を超えている時間を示している。付言すると、閾値電圧における立ち上がりから立ち下がりまでが、パルス幅である。
上記のような波形は、有効走査領域への1回の走査につき1つ取得される。従って、同一の有効走査領域に対して複数回の走査を行うことにより、複数の波形が取得される。各波形におけるピーク85,95−1〜95−3の位置及び形状、並びにパルス幅Wt,Wn1〜Wn3は、有効走査領域内の状況の変化、すなわち対象物の変化(他車両、障害物等の相対距離の変化等)及びノイズの変化(日光、雨等のノイズ要因の発生又は消滅等)に応じて変化する。
同一の有効走査領域に対して複数回の走査を行う場合、通常、走査実行間の時間間隔は短いため、対象物の変化量は比較的小さくなる。これに対し、当該時間間隔内におけるノイズの変化量は、一般的に対象物の変化量より大きくなる。日光、雨、霧、回路内の電気的状況等のノイズ要因は瞬時に変化する場合が多いからである。従って、複数の走査を行った場合、複数のオシロ波形間におけるノイズパルス幅Wn1〜Wn3の変化量は、ターゲットパルス幅Wtの変化量より大きく現れることとなる。従って、複数回の走査に対応する複数のオシロ波形におけるパルス幅の変化、ばらつき等を監視することにより、ターゲットパルス幅Wtに対応するターゲットピーク85と、ノイズパルス幅Wn1〜Wn3に対応するノイズピーク95とを判別することが可能となる。
図17は、第1の実施形態に係る時間算出部15の機能構成を例示するブロック図である。本実施形態に係る時間算出部15は、ピーク検出部101、ヒストグラム生成部102、パルス幅検出部103、ノイズ判別部104、及び光飛行時間算出部105を含む。
ピーク検出部101は、検出電圧(検出系13のPD出力検出部32から出力される検出信号、例えば図16に示すような波形)を監視し、検出電圧が閾値電圧を超えたピークを検出する。
ヒストグラム生成部102は、光飛行時間(例えば図16に示す波形の横軸の値)又は光飛行時間から算出された前記対象物までの距離を階級とし、前記ピーク検出部101により検出されたピーク(例えば図16に示すターゲットピーク85及びノイズピーク95−1〜95−3)の数を度数とするヒストグラムを生成する。
パルス幅検出部103は、ピーク検出部101により検出されたピークの検出電圧が閾値電圧を超えている時間を示すパルス幅(例えば図16に示すターゲットパルス幅Wt及びノイズパルス幅Wn1〜Wn3)を検出する。
ノイズ判別部104は、ヒストグラム生成部102により生成されたヒストグラムと、複数回の走査においてパルス幅検出部103により検出されたパルス幅の変化とに基づいて、反射光69以外の要因であるノイズに起因する偽の光飛行時間を判別する。
光飛行時間算出部105は、ノイズ判別部104による判別結果に基づいて、反射光69による真の光飛行時間を算出する。
上記各部101〜105は、例えば1又は複数の集積回路により実現される。各部101〜105は、CPU等のプロセッサにプログラムを実行させること、すなわちソフトウェアにより実現されてもよい。また、各部101〜105は、専用のIC等のプロセッサ、すなわちハードウェアにより実現されてもよい。また、各部101〜105は、ソフトウェア及びハードウェアを併用して実現されてもよい。複数のプロセッサを用いる場合、各プロセッサは、各部101〜105のうちの1つを実現してもよいし、各部101〜105のうちの2以上を実現してもよい。
以下に、表1〜表3を参照して本実施形態に係るノイズ判別処理を詳細に説明する。下記表1は、階級幅を2mとし、走査回数(以下、フレーム数と表現する場合がある)を5とした場合におけるヒストグラムデータを例示する表である。
先ず、任意の距離で階級を区切る。表1の例では、1つの階級幅が2mとなっている。1回目の走査においては、20m−22mの階級に1つのピーク(度数1)が入っており、30m−32mの階級に1つのピークが入っている。2回目の走査においては、24m−26mの階級に1つのピークが入っており、30m−32mの階級に1つのピークが入っている。同様に5回の走査により同様のデータを取得して合計度数を算出すると、30m−32mの階級の合計度数が5となり、その他のいくつかの階級において合計度数が1又は2となっている。
このように複数回の走査を行うと、ターゲットピークは1つの階級に集中して出現し、ノイズピークは複数の階級に分散して出現する。これは、走査中における対象物の移動量は微小であることが多いのに対し、ショットノイズは瞬間的且つランダムな場所に出現することが多いからである。従って、最も度数が大きい階級に対応するピークがターゲットピークであり、その他のピークはノイズピークであると類推することができる。従って、表1の例では、30m−32mの階級に含まれる5つのピークに対応する5つの距離又は時間の平均値を計算することにより、確度の高い距離又は時間(光飛行時間)を求めることができる。このような測定処理を、便宜上「フレーム間処理」と称する。
ここで、上記のようなフレーム間処理では、階級幅の設定やフレーム数の設定に配慮が必要である。表2は、階級幅を1mとし、フレーム数を3とした場合におけるヒストグラムデータを例示する表である。
階級幅を狭くすると、検出されたピークの距離又は時間が階級の境界近くに分散している場合に、ターゲットピークが誤差により真の階級(表2の例では31m−32m)の隣の階級(30m−31m)に入ってしまう可能性が高くなる。また、フレーム数を少なくすると、ターゲットピークが属する真の階級とは異なる偽の階級(表2の例では27m−28m)にターゲットピークと同数のノイズピークが偶然入ってしまう可能性が高くなる。このような現象が発生すると、ターゲットピークとノイズピークとを判別することができなくなる。特に、車両等の移動体に搭載される距離測定装置1(時間測定装置2)においては、有効走査領域内の状況が時々刻々と変化すると共に、適切な運転制御を実現させるために迅速な測距処理が必要となるため、フレーム数を多くすることができない場合が多い。
そこで、本実施形態においては、フレーム数を増加させることなく、高精度なノイズ判別処理を実現するために、複数のピークのパルス幅の標準偏差σに基づいて、ターゲットピークが属する真の階級とノイズピークが属する偽の階級とを判別する。表3は、階級幅を1mとし、フレーム数を3とし、パルス幅の標準偏差σを用いた判別を行う場合におけるヒストグラムデータを例示する表である。
ショットノイズに起因するノイズピークの検出電圧はランダムな大きさで閾値電圧を超えるため、複数のフレーム間におけるノイズピークのパルス幅(図16中Wn1〜Wn3)の標準偏差σは、複数のフレーム間におけるターゲットピークのパルス幅(図16中Wt)の標準偏差σより大きくなる可能性が高い。従って、表3又は表2に例示するように、度数が同一の2つの階級(27m−28m及び31m−32m)が競合した場合、それぞれの階級に属するピークのパルス幅の標準偏差σを比較し、標準偏差σが小さい方が真の階級であると判断することができる。このような測定処理を、便宜上「σ検閲フレーム間処理」と称する。
なお、表3の例では、標準偏差σが1以下である場合にのみ真の階級となる権利が与えられている。車両等の移動体に搭載される距離測定装置1においては、有効走査領域内に他車両等の真の対象物が存在する場合に、その対象物に起因するピークのパルス幅の標準偏差σが1より大きくなることはほとんどないからである。しかし、真の階級の標準偏差σは必ずしも1以下でなくてもよい。例えば、真の階級の候補が複数存在する場合であって、いずれの標準偏差σも1より大きい場合には、標準偏差σが最も小さい階級を真の階級と判断してもよい。
図18は、第1の実施形態に係る距離測定装置1におけるノイズ判別処理を例示するフローチャートである。ノイズ判別部104は、ヒストグラム生成部102により生成されたヒストグラムを参照し、度数が2以上の階級があるか否かを判断する(S101)。度数が2以上の階級がない場合(S101:No)、距離又は光飛行時間の測定は不可能であると判断し(S102)、所定の処理を行う。一方、度数が2以上の階級がある場合(S101:Yes)、ノイズ判別部104は最も度数が大きい階級を特定し(S103)、最も度数が大きい階級に属するピークのパルス幅の標準偏差σを算出する(S104)。このとき、最も度数が大きい階級が複数存在する場合(例えば度数が3の階級が2つ以上存在する場合等)、それらの全ての階級について標準偏差σを算出する。
その後、ノイズ判別部104は、標準偏差σが1以下である階級が1つ以上あるか否かを判断する(S105)。標準偏差σが1以下である階級が1つ以上ない場合(S105:No)、換言すれば、全ての標準偏差σが1より大きい場合、ノイズ判別部104は、最も度数が大きい階級を偽の階級と判断し(S106)、再びステップS101を実行する。一方、標準偏差σが1以下である階級が1つ以上ある場合(S105:Yes)、ノイズ判別部104は、標準偏差σが1以下である階級をA階級とし(S107)、A階級が1つのみであるか否かを判断する(S108)。
A階級が1つのみである場合(S108:Yes)、ノイズ判別部104は、A階級を真の階級と判断し(S109)、真の階級の距離の平均値又は光飛行時間の平均値を算出する(S110)。一方、A階級が1つのみでない場合(S108:No)、標準偏差σが最も小さい階級を真の階級と判断し(S111)、ステップS110を実行する。
なお、上記においては、パルス幅の標準偏差を利用してターゲットピークとノイズピークとを判別する例を示したが、パルス幅の利用方法はこれに限られるものではなく、例えばパルス幅の平均値等を利用して判別することも可能である。
上記距離測定装置1又は時間測定装置2の機能を実現するプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD−ROM、メモリカード、CD−R及びDVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されてコンピュータ・プログラム・プロダクトとして提供される。
また、プログラムをインターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。また、プログラムをダウンロードさせずにインターネット等のネットワーク経由で提供するように構成してもよい。また、プログラムをROM等の適宜な記憶装置に予め組み込んで提供するように構成してもよい。また、プログラムは上記複数の機能のうちプログラムにより実現可能な機能を含むモジュール構成となっていてもよい。プログラムにより実現される機能は、記憶媒体からプログラムを読み出して実行することによりRAM等の主記憶装置にロードされる。すなわち、プログラムにより実現される機能は主記憶装置上に生成される。
以上のように、本実施形態によれば、ヒストグラムとパルス幅とに基づいてノイズを判別することにより、反射光の受光を検出する閾値電圧を比較的低く設定し、且つフレーム数(走査回数)を比較的少なくした場合であっても、高精度にノイズを判別することが可能となる。これにより、測距可能距離の向上、測定精度の向上、及び測定処理の高速化を同時に実現することが可能となる。
(実施例1)
以下に、第1の実施形態に係る実施例1について説明する。上記第1の実施形態に係る距離測定装置1を用いて、1m四方の反射率が10%(@870nm)の黒幕を対象物として距離を測定した。このとき、走査光68から15μs遅延した場所でのショットノイズをオシロスコープにより観察し、人口太陽灯(セリック株式会社製 SOLAX XC-500E)を距離測定装置1の正面に設置してショットノイズの標準偏差が100mVとなるように調整した。人口太陽灯の設置は、西日を正面から入射するという条件を想定したものである。
図19は、実施例1に係る対象物距離とピーク強度との関係を例示するグラフである。図19のグラフには、上記対象物に反射された反射光69の検出電圧をオシロスコープで観察したときのピーク強度と、ショットノイズの範囲を示すエラーバー151とが示されている。
ショットノイズの標準偏差が100mVである場合、ショットノイズの範囲は300mVであった。本実施例では、閾値電圧が400mVに設定されている。反射光69のピーク強度は、図19及び図12〜図14に示すように、距離が遠くになるに従って小さくなった。
図19に示すように、閾値電圧を400mVとすると、ショットノイズが閾値電圧を超えることは略なくなるが、対象物距離が50m程度になったときにピーク強度が閾値電圧を下回り、測距ができなくなる。また、300mVはショットノイズの範囲の上限値であるから、閾値電圧を300mVとする場合、ある一定の割合でショットノイズが閾値電圧を超えることが予測される。また、閾値電圧を100mV又は200mVとすると、図19に示すように、測距可能距離は伸びるが、ショットノイズが閾値電圧を超える割合がかなり高くなる。従って、閾値電圧を下げる場合には、ショットノイズと反射光69のピーク強度とを判別する技術が必要となる。
本実施例では、閾値電圧を100mV〜400mVに設定し、それぞれの閾値電圧について測距成功率を調査した。測距成功率とは、実際の対象物距離と距離測定装置1により測定された測定値とが略一致した場合(誤差が所定範囲内である場合)に成功とし、実際の対象物距離と測定値とが一致しない場合(誤差が所定範囲外である場合)又は測距不可能な場合(例えば、反射光69のピーク強度が閾値電圧より低い場合等)に失敗とし、全結果に対する成功の割合を示すものである。
使用したオシロスコープはアジレント製DSC−X 3054Aであり、サンプリングレートを4GSa/s、横軸を2μS/divとしてショットノイズの標準偏差を算出した。測距を10mから100mまで10m間隔で行い、フレーム間処理のフレーム数(走査回数)を3とし、図18に示すフローチャートと同じ手順によりパルス幅の標準偏差σを用いた検閲を行った。ここではパルス幅の標準偏差σが1.0以下であれば真の値(ターゲットピーク)が属する真の階級であるとし、真の階級に属する複数の距離の平均値を最終的な距離とした。なお、本実施例では距離を求めているが、光飛行時間を求めるようにしてもよい。パルス幅の標準偏差σが1.0以下の階級が2つ以上ある場合には、最も低いパルス幅の標準偏差σを有する階級を真の階級とした。本実施例に用いられた投光系11等は、図2〜図4に示した構成と同様であり、回転ミラー63は500rpmで回転するものであった。すなわち、1つのフレームは60msであり、3つのフレームに要する時間は180msであった。ヒストグラムの階級幅を1mとし、測距成功率を算出するための試験回数Nを100とした。
図20は、実施例1に係る対象物距離と測距成功率との関係を例示するグラフである。図20には、閾値電圧を100mV、200mV、300mV、又は400mVに設定し、上記σ検閲フレーム間処理を行った場合の測距成功率の変化が示されている。図20に示すように、閾値電圧を比較的低い値100mV又は200mVに設定した場合、西日を想定した大きなショットノイズが存在する環境下であっても、対象物距離が50m程度まで80%以上の高い測距成功率を得ることができた。また、このように閾値電圧を100mV〜200mVの比較的低い値に設定することができれば、測距可能距離を長くすることができる。図20には、閾値電圧を100mVに設定した場合、対象物距離100mまでの測距成功率が50%以上になることが示されている。
図21は、比較例1に係る対象物距離と測距成功率との関係を例示するグラフである。図21には、閾値電圧を100mV、200mV、300mV、又は400mVに設定し、上記フレーム間処理(パルス幅の標準偏差σを考慮しない処理方法)を行った場合の測距成功率の変化が示されている。図21に示すように、閾値電圧を比較的低い値100mV又は200mVに設定した場合、西日を想定した大きなショットノイズが存在する環境下であっても、対象物距離が50m程度まで50%以上の測距成功率を得ることができた。
図22は、比較例2に係る対象物距離と測距成功率との関係を例示するグラフである。本比較例は、フレーム間処理及びσ検閲フレーム間処理のいずれも行わず、通常の閾値電圧設定だけを行う測距方法による測距成功率を示している。図22には、ショットノイズの電圧より十分高い閾値電圧(例えば300mV以上)を設定すると、近距離での測距成功率は図20に示す実施例1(σ検閲フレーム間処理)における結果及び図21に示す比較例1(フレーム間処理)における結果とほとんど相違ないが、ショットノイズの電圧に近い閾値電圧(例えば200mV以下)を設定すると、測距成功率が急激に下がることが示されている。
図23は、フレーム数と測距成功率との関係についてフレーム間処理とσ検閲フレーム間処理との比較結果を例示するグラフである。ここでは対象物距離を40mとし、ヒストグラムの階級幅を1mとした場合が示されている。表2及び表3において、フレーム間処理において生じる問題の要因の1つとして、フレーム数が少ないことを挙げた。図23に示すように、フレーム間処理及びσ検閲フレーム間処理共に、フレーム数が5程度であれば高い測距成功率が望まれる。しかし、上記のように、1フレームあたり60ms程度の時間が必要であるため、実用上十分な処理速度を得るためにはフレーム数ができるだけ少ないことが望ましい。図23に示すように、フレーム間処理においてはフレーム数が3のときの測距成功率が50%程度となるが、σ検閲フレーム間処理においてはフレーム数が3のときの測距成功率が80%程度となる。このように、σ検閲フレーム間処理を利用することにより、少ないフレーム数でも高い測距成功率を得ることができ、測定処理の高速化を図ることが可能となる。
図24は、ヒストグラムの階級幅と測距成功率との関係についてフレーム間処理とσ検閲フレーム間処理との比較結果を例示するグラフである。ここでは対象物距離を40mとし、フレーム数を3とした場合が示されている。表2及び表3において、フレーム間処理において生じる問題の要因の1つとして、ヒストグラムの階級幅が狭いことを挙げた。図24に示すように、フレーム間処理及びσ検閲フレーム間処理共に、階級幅が2m程度であれば高い測距成功率を望める。しかし、階級幅が広すぎるとターゲットピークが属する階級にノイズピークが含まれてしまう可能性が高くなるため、階級幅はある程度狭いことが望ましい。図24に示すように、フレーム間処理においては階級幅が1m程度のときの測距成功率が50%程度となるが、σ検閲フレーム間処理においては階級幅が1m程度のときの測距成功率が80%前後となる。このように、σ検閲フレーム間処理を利用することにより、階級幅を狭くしても高い測距成功率を得ることができ、測距精度を向上させることが可能となる。
以下に、他の実施形態について図面を参照して説明するが、第1の実施形態と同一又は同様の作用効果を奏する箇所については同一の符号を付してその説明を省略する。
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る距離測定装置1のノイズ判別部104は、ヒストグラムの階級のパルス幅の標準偏差σを算出する際に、対象となる階級(第1階級)に隣接する階級(第2階級)に属するデータを考慮に入れる。ターゲットピークが隣接する2つの階級の境界に位置する場合、異なるフレーム間で当該ターゲットピークに関するデータが隣接する2つの階級に分散されてしまう可能性がある。このような現象は、パルス幅の標準偏差σ、延いては対象物距離又は光飛行時間の測定精度が低下する要因となる。そこで、本実施形態においては、このようにデータが隣接する階級に分散される現象を救済することを目的とする。
下記表4は、階級幅を1mとし、フレーム数を3とし、隣接する階級に属する値を考慮してパルス幅の標準偏差σを算出する第1の例に係るヒストグラムデータを例示する表である。
表4に示す例では、ターゲットピークに対応するデータ(検出電圧)が30m−31mの階級と31m−32mの階級とにそれぞれ1つずつ含まれ、ノイズピークに対応するデータが26m−27mの階級と27m−28mの階級とにそれぞれ1つずつ含まれている。このような場合、各階級にはそれぞれ1つずつしかデータが入っていないため、パルス幅の標準偏差σを算出することができない。そこで、本実施形態では、隣接する2つの階級に含まれる全てのデータを用いてパルス幅の標準偏差σを算出し、当該標準偏差σが閾値(例えば1.0)以下であれば当該全てのデータをターゲットピークに対応するデータと判断する。これにより、30m−31mの階級と31m−32mの階級とに含まれるデータから導き出された距離(平均距離)31.1mが真の値と判断され、26m−27mの階級と27m−28mの階級とに含まれるデータから導き出された距離27.5mが偽の値と判断される。
下記表5は、階級幅を1mとし、フレーム数を3とし、隣接する階級に属する値を考慮してパルス幅の標準偏差σを算出する第2の例に係るヒストグラムデータを例示する表である。
表5に示す例では、31m−32mの階級にターゲットピークのデータが2つ含まれ、27m−28mの階級にノイズピークのデータが2つ含まれている。そして、31m−32mの階級のパルス幅の標準偏差σ及び27m−28mの階級のパルス幅の標準偏差σは共に1.0以下となっている。このような場合にも、どちらが真の階級か判断することが困難となる。そこで、本実施形態では、ターゲットピークのデータが隣接する階級に含まれていることを想定し、標準偏差σを算出した階級(27m−28m及び31m−32m)に隣接する階級に含まれるデータを利用して真の値を判断する。
本例では、先ず標準偏差σを算出した階級に属するパルス幅の平均値Waを算出し、当該平均値Waを基準とする所定範囲内(本例では±20%以内)に、隣接する階級に属するパルス幅が入っているか否かに基づいて、値の真偽を判別する。表5に示す例では、31m−32mの階級のパルス幅の平均値Waが4.5mであり、その±20%の範囲が3.6m−5.4mであり、隣接する階級(30m−31m)のパルス幅3.9mが当該範囲に入っているため、30m−31mの階級のデータ(度数)を31m−32mの階級に取り込み、取り込み後のデータに基づいて算出される距離31.1m又は光飛行時間を真の値と判断する。一方、27m−28mの階級のパルス幅の平均値Waは3.6mであり、その±20%の範囲は2.9m−4.3mであり、隣接する階級(26m−27m)のパルス幅2.2mは当該範囲に入っていないため、26m−27mの階級のデータは27m−28mの階級に取り込まれない。これにより、27m−28mの階級の度数(2)は31m−32mの階級の度数(3)より小さくなるため、27m−28mの階級は偽の階級と判断される。
なお、表4に示す第1の例のように隣接する階級に含まれる全てのデータを用いて標準偏差σを算出しない理由は、隣接する階級のデータを取り入れることの影響が、度数に応じて異なるからである。上記のような測定処理を、便宜上「隣接階級取り込み処理」と称する。
図25及び図26は、第2の実施形態に係る距離測定装置1におけるノイズ判別処理を例示するフローチャートである。ノイズ判別部104は、ヒストグラム生成部102により生成されたヒストグラムを参照し、度数が2以上の階級があるか否かを判断する(S201)。度数が2以上の階級がない場合(S201:No)、図26に示すステップS221以降の処理を実行する。度数が2以上の階級がある場合(S201:Yes)、ノイズ判別部104は最も度数が大きい階級を特定し(S202)、最も度数が大きい階級に属するピークのパルス幅の標準偏差σを算出する(S203)。このとき、最も度数が大きい階級が複数存在する場合(例えば度数が3の階級が2つ以上存在する場合等)、それらの全ての階級について標準偏差σを算出する。
その後、ノイズ判別部104は、標準偏差σが1以下である階級が1つ以上あるか否かを判断する(S204)。標準偏差σが1以下である階級が1つ以上ない場合(S204:No)、換言すれば、全ての標準偏差σが1より大きい場合、ノイズ判別部104は、最も度数が大きい階級を偽の階級と判断し(S205)、再びステップS201を実行する。一方、標準偏差σが1以下である階級が1つ以上ある場合(S204:Yes)、ノイズ判別部104は、標準偏差σが1以下である階級をA階級とし(S206)、A階級が1つのみであるか否かを判断する(S207)。
A階級が1つのみである場合(S207:Yes)、ノイズ判別部104はA階級を真の階級と判断し(S208)、真の階級の距離の平均値又は光飛行時間の平均値を算出する(S209)。一方、A階級が1つのみでない場合(S207:No)、ノイズ判別部104は、各A階級に隣接する階級に度数があるか否かを判定する(S210)。隣接する階級に度数がない場合(S210:No)、標準偏差σが最も小さい階級を真の階級と判断し(S211)、ステップS209を実行する。
一方、隣接する階級に度数がある場合(S210:Yes)、A階級に属するパルス幅の平均値Waを算出し、更に平均値Waの±20%の範囲を算出する(S212)。その後、ノイズ判別部104は、A階級に隣接する階級に属するパルス幅Wが平均値Waの±20%の範囲に入っているか否かを判断する(S213)。隣接する階級に属するパルス幅Wが平均値Waの±20%の範囲に入っていない場合(S213:No)、ノイズ判別部104はステップS211を実行する。一方、隣接する階級に属するパルス幅Wが平均値Waの±20%の範囲に入っている場合(S213:Yes)、ノイズ判別部104は、平均値Waの±20%以内となったパルス幅Wに対応するデータ(距離データ又は光飛行時間データ)をA階級に取り込む(S214)。その後、ノイズ判別部104は、A階級が1つのみであるか否かを判断し(S215)、A階級が1つのみでない場合(S215:No)、ステップS211を実行し、A階級が1つのみである場合(S215:Yes)、ステップS208を実行する。
度数が2以上の階級がない場合(S201:No)、ノイズ判別部104は、図26に示すように、度数が1の階級が隣接して存在しているか否かを判断する(S221)。例えば、表4において、26m−27mの階級と27m−28mの階級との関係、及び30m−31mの階級と31m−32mの階級との関係が、「度数が1の階級が隣接して存在している」ことに相当する。
度数が1の階級が隣接して存在している場合(S221:Yes)、ノイズ判別部104は、隣接する階級(例えば、表4における30m−31mの階級)を含めて基の階級(例えば、表4における31m−32mの階級)の標準偏差σを算出し(S222)、標準偏差σが1以下となる階級が1つであるか否かを判断する(S223)。標準偏差σが1以下となる階級が1つである場合(S223:Yes)、ノイズ判別部104は、隣接する階級に属するデータ(距離データ又は光飛行時間データ)を基の階級に取り込み(S224)、基の階級の距離又は光飛行時間の平均値を算出する(S225)。一方、標準偏差σが1以下となる階級が1つでない場合(S223:No)、ノイズ判別部104は、標準偏差σが最も小さい階級を真の階級と判断し(S226)、真の階級の距離又は光飛行時間の平均値を算出する(S227)。
また、度数が1の階級が隣接して存在しない場合(S221:No)、ノイズ判別部104は、度数が1の階級が1つだけ存在するか否かを判断する(S228)。度数が1の階級が1つも存在しない場合(S228:No)、距離又は光飛行時間の測定は不可能であると判断し(S229)、所定の処理を行う。一方、度数が1の階級が1つだけ存在する場合(S228:Yes)、当該階級の距離又は光飛行時間を真の値と判断する(S230)。
以上のように、本実施形態によれば、ヒストグラムの階級のパルス幅の標準偏差を算出する際に、隣接する階級に属するデータが考慮される。これにより、ターゲットピークが隣接する2つの階級の境界に位置し、ターゲットピークに関するデータが隣接する2つの階級に分散される現象を救済することが可能となる。これにより、距離又は光飛行時間の測定精度を向上させることが可能となる。
(実施例2)
以下に、第2の実施形態に係る実施例2について説明する。上記第2の実施形態に係る距離測定装置1を用い、上記実施例1と同様の条件で距離を測定した。
図27は、実施例2に係る対象物距離と測距成功率との関係を例示するグラフである。図27には、閾値電圧を100mV、200mV、300mV、又は400mVに設定し、上記隣接階級取り込み処理を行った場合の測距成功率の変化が示されている。図27に示すように、閾値電圧を比較的低い値100mV又は200mVに設定した場合、西日を想定した大きなショットノイズが存在する環境下であっても、対象物距離が40m程度まで80%以上の高い測距成功率を得ることができた。また、このように閾値電圧を100mV〜200mVの比較的低い値に設定することができれば、測距可能距離を長くすることができる。図27には、閾値電圧を100mVに設定した場合、対象物距離100mまでの測距成功率が60%以上になることが示されている。
図28は、フレーム数と測距成功率との関係についてフレーム間処理とσ検閲フレーム間処理と隣接階級取り込み処理との比較結果を例示するグラフである。ここでは対象物距離を40mとし、ヒストグラムの階級幅を1mとした場合が示されている。図28に示すように、隣接階級取り込み処理によれば、少ないフレーム数であっても、σ検閲フレーム間処理より更に高い測距成功率を得ることが可能となる。これにより、測定精度の向上と測定処理の高速化とを高いレベルで両立させることが可能となる。
図29は、ヒストグラムの階級幅と測距成功率との関係についてフレーム間処理とσ検閲フレーム間処理と隣接階級取り込み処理との比較結果を例示するグラフである。ここでは対象物距離を40mとし、フレーム数を3とした場合が示されている。図29に示すように、隣接階級取り込み処理によれば、階級幅を狭く設定した場合であっても、σ検閲フレーム間処理より更に高い測距成功率を得ることが可能となる。これにより、測定精度を更に向上させることが可能となる。
上記実施形態に係る距離測定装置1又は時間測定装置2を車両等の移動体に搭載することにより、移動体の自動運転システム等の性能を大きく向上させることが可能となる。距離測定装置1又は時間測定装置2は、例えば車両のバンパー付近、バックミラー付近等に取り付けることができる。
自動運転システムは、距離測定装置1又は時間測定装置2の測定結果に基づいて、対象物の形状や大きさの推定、対象物の位置情報の算出、移動情報の算出、対象物の種類の認識等を行い、危険の有無を判断する。自動運転システムは、危険が有ると判断した場合には、警報音等による操縦者への注意喚起、ハンドルやブレーキの自動操作等の危険回避行動を実行するための指令を移動体のECU51に出力する。
自動運転システムは、距離測定装置1又は時間測定装置2と一体的に構成されてもよいし、距離測定装置1又は時間測定装置2とは別体に構成されてもよい。自動運転システムは、ECU51が行う制御の少なくとも一部を行ってもよい。
上記実施形態では、距離測定装置1が搭載される移動体として自動車を例にとって説明したが、移動体は自動車以外の車両、航空機、無人航空機、船舶、ロボット等であってもよい。
以上の説明で用いた具体的な数値、形状等は一例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
上記実施形態の距離測定装置1又は時間測定装置2は、パルス光が照射された対象物の2D画像を取得する集積回路を有し、パルス光の反射を利用して3D読み出しを行うことにより対象物までの距離を求めるTOF法に利用されてもよい。これにより、TOF法でのフレームレートをさらに向上させることができる。また、上記実施形態の距離測定装置1又は時間測定装置2は、移動体におけるセンシングの他、モーションキャプチャ技術、測距計、3次元形状計測技術等の幅広い分野に応用することが可能なものである。
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図するものではない。この新規な実施形態はその他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更、及び組み合わせを行うことができる。この実施形態及びその変形は発明の範囲及び要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。