以下に、本発明の一実施形態の物体検出装置100について、図面を参照して説明する。
図1には、物体検出装置100の概略的構成がブロック図にて示されている。
物体検出装置100は、物体(例えば先行車両、停車車両、構造物、歩行者等)の有無や、該物体までの距離等の物体情報を検出する走査型レーザレーダである。物体検出装置100は、一例として、移動体としての車両(例えば自動車)に搭載され、例えば自動車のバッテリ(蓄電池)から電力の供給を受ける。
物体検出装置100は、投光系10、受光光学系30、光検出器40、時間計測部45、測定制御部46、物体認識部47などを備えている。
投光系10は、光源としてのLD10(レーザダイオード)、LD駆動部12、投光光学系20を含む。
LD10は、端面発光レーザとも呼ばれ、LD駆動部12(ドライブ回路)により駆動され、レーザ光を射出する。LD駆動部12は、測定制御部46から出力されるLD駆動信号(矩形パルス信号)を用いてLD10を点灯(発光)させる。LD駆動部12は、一例として、LD10に電流を供給可能に接続されたコンデンサ、該コンデンサとLD10との間の導通/非導通を切り替えるためのトランジスタ、該コンデンサを充電可能な充電手段等を含む。測定制御部46は、自動車のECU(エレクトロニックコントロールユニット)からの測定制御信号(測定開始信号や測定停止信号)を受けて測定開始や測定停止を行う。
図2(A)には、投光光学系20、同期系50が模式的に示されている。図2(B)には、受光光学系30が模式的に示されている。以下では、図2(A)等に示されるZ軸方向を鉛直方向とするXYZ3次元直交座標系を適宜用いて説明する。
投光光学系20は、図2(A)に示されるように、LD10からの光の光路上に配置されたカップリングレンズ22と、該カップリングレンズ22を介した光の光路上に配置された反射ミラー24と、該反射ミラー24で反射された光の光路上に配置された偏向器としての回転ミラー26と、を含む。ここでは、装置を小型化するために、カップリングレンズ22と回転ミラー26との間の光路上に反射ミラー24を設けて光路を折り返している。
そこで、LD10から出射された光は、カップリングレンズ22により所定のビームプロファイルの光に整形された後、反射ミラー24で反射され、回転ミラー26でZ軸周りに偏向される。
回転ミラー26でZ軸周りの所定の偏向範囲に偏向された光が投光光学系20から投射された光、すなわち物体検出装置100から投光された光である。
回転ミラー26は、回転軸(Z軸)周りに複数の反射面を有し、反射ミラー24からの光を回転軸周りに回転しながら反射(偏向)することで該光により上記偏向範囲に対応する有効走査領域を水平な1軸方向(ここではY軸方向)に1次元走査する。ここでは、偏向範囲、有効走査領域は、物体検出装置100の+X側である。以下では、回転ミラー26の回転方向を「ミラー回転方向」とも呼ぶ。
回転ミラー26は、図2(A)から分かるように、反射面を2面(対向する2つの面)有しているが、これに限らず、1面でも3面以上でも良い。また、少なくとも2つの反射面を設け、回転ミラーの回転軸に対して異なった角度で傾けて配置して、走査・検出する領域をZ軸方向に切り替えることも可能である。
受光光学系30は、図2(B)に示されるように、投光光学系20から投射され有効走査領域内にある物体で反射(散乱)された光を反射する回転ミラー26と、該回転ミラー26からの光を反射する反射ミラー24と、該反射ミラー24からの光の光路上に配置され、該光を後述する時間計測用PD42に結像させる結像光学系と、を含む。
図2(C)には、LDから反射ミラー24までの光路と、反射ミラー24から時間計測用PD42までの光路が示されている。
図2(C)から分かるように、投光光学系20と受光光学系30は、Z軸方向に重なるように配置されており、回転ミラー26と反射ミラー24は、投光光学系20と受光光学系30で共通となっている。これにより、物体上におけるLDの照射範囲と時間計測用PD42の受光可能範囲の相対的な位置ずれを小さくでき、安定した物体検出を実現できる。
そこで、投光光学系20から投射され物体で反射(散乱)された光は、回転ミラー26、反射ミラー24を介して結像光学系に導かれ、該結像光学系により時間計測PD42に集光する(図2(B)参照)。図2(B)では、装置を小型化するために、回転ミラー26と結像光学系との間に反射ミラー24を設けて光路を折り返している。ここでは、結像光学系は2枚のレンズ(結像レンズ)で構成されているが、1枚のレンズとしても良いし、3枚以上のレンズとしても良いし、ミラー光学系を用いても良い。
光検出器40は、図2(B)及び図1に示されるように、投光光学系20から投射され有効走査領域内にある物体で反射(散乱)された光を受光光学系30を介して受光する受光素子としての時間計測用PD42(フォトダイオード)と、該時間計測用PD42の出力電流に基づく電圧信号である受光信号を検出する回路装置としてのPD出力検出部44と、を含む。
PD出力検出部44は、図3(A)に示されるように、波形処理回路としての波形処理回路60、二値化回路70などを含む。
波形処理回路60は、時間計測用PD42からの出力電流(電流値)を電圧信号(電圧値)に変換する電流電圧変換器60a(例えばTIA:トランスインピーダンスアンプ)と、該電流電圧変換器からの電圧信号を増幅する信号増幅器60b(例えばVGA:高リニアリティアナログ可変利得アンプ)とを有する(図4(A)及び図4(B)参照)。なお、図4(A)では波形処理回路60の一例が符号60−1で示され、図4(B)では波形処理回路60の他の例が符号60−2で示されている。
二値化回路70は、信号増幅器60bからのアナログの電圧信号(出力電圧)を閾値電圧を基準に二値化し、その二値化信号(デジタル信号)を検出信号として時間計測部45に出力する。
同期系50は、図2(A)及び図1に示されるように、LD10から出射されカップリングレンズ22を介して反射ミラー24で反射された光であって回転ミラー26で偏向され反射ミラー24で再び反射された光の光路上に配置された同期レンズ52と、該同期レンズ52を介した光の光路上に配置された受光素子としての同期検知用PD54と、該同期検知用PD54の出力電流に基づく電圧信号である受光信号を検出する回路装置としてのPD出力検出部56と、を含む。
反射ミラー24は、上記偏向範囲に対して回転ミラー26の回転方向上流側に配置され、回転ミラー26で上記偏向範囲の上流側に偏向された光が入射される。そして、回転ミラー26で偏向され反射ミラー24で反射された光が同期レンズ52を介して同期検知用PD54に入射される。このとき、同期検知用PD54からの出力電流がPD出力検出部56に送られる。
PD出力検出部56は、図3(B)に示されるように、PD出力検出部44と同様に、波形処理回路60、二値化回路70などを含んで構成される。
なお、反射ミラー24は、上記偏向範囲に対して回転ミラー26の回転方向下流側に配置されても良い。そして、回転ミラー26で偏向され反射ミラー24で反射された光の光路上に同期系50が配置されても良い。
回転ミラー26の回転により、該回転ミラー26の反射面で反射された光が同期検知用PD54で受光される度に同期検知用PD54から電流が出力される。すなわち、同期検知用PD54からは定期的に電流が出力されることになる。
このように回転ミラー26からの光を同期検知用PD54に照射するための同期点灯を行うことで、同期検知用PD54での受光タイミングから、回転ミラー26の回転タイミングを得ることが可能となる。
そこで、LD10を同期点灯してから所定時間経過後にLD10をパルス点灯することで有効走査領域を光走査することができる。すなわち、同期検知用PD54に光が照射されるタイミングの前後期間にLD10をパルス点灯することで有効走査領域を光走査することができる。
ここで、時間計測や同期検知に用いる受光素子としては、上述したPD(Photo Diode)の他、APD(Avalanche Photo Diode)、ガイガーモードAPDであるSPAD(Single Photon Avalanche Diode)等を用いることが可能である。APDやSPADは、PDに対して感度が高いため、検出精度や検出距離の点で有利である。
PD出力検出部56は、同期検知用PD54からの出力電流に基づく電圧信号である受光信号を検出(二値化)すると、同期信号(二値化信号)を測定制御部46に出力する。
測定制御部46は、PD出力検出部56からの同期信号に基づいてLD駆動信号を生成し、該LD駆動信号をLD駆動部12及び時間計測部45に出力する。
すなわち、LD駆動信号は、同期信号に対して遅延した発光制御信号(周期的なパルス信号)である。
LD駆動信号がLD駆動部12に入力されると、LD駆動部12からLD10に駆動電流が印加され、LD10から発光パルスが出力される。なお、LD10の安全性やLD10の耐久性の観点からLD10の発光のデューティが制限されるため、発光パルスはパルス幅が狭い方が望ましく、該パルス幅は、一般に10ns〜数十ns程度に設定される。また、パルス間隔は一般に数十μ秒程度である。
PD出力検出部44は、時間計測用PD42からの出力電流を電圧信号に変換し、増幅し、二値化し、二値化信号(デジタル信号)を検出信号として時間計測部45に出力する。
時間計測部45は、測定制御部46からのLD駆動信号の入力タイミングとPD出力検出部44からの検出信号(二値化信号)の立上りタイミングと立下りタイミングとの間の所定タイミング(例えば立上がりタイミングと立下がりタイミングとの中間のタイミング)との時間差を、LDでの発光タイミングと時間計測用PD42での受光タイミングの時間差として求め、該時間差を時間計測結果として測定制御部46に出力する。
測定制御部46は、時間計測部45からの時間計測結果を距離に変換することで物体までの往復距離を算出し、該往復距離の1/2を距離データとして物体認識部47に出力する。
物体認識部47は、測定制御部46からの1走査もしくは複数の走査で取得した複数の距離データに基づいて、どこに物体があるかを認識し、その物体認識結果を測定制御部46に出力する。測定制御部46は、該物体認識結果をECUに転送する。
ECUは、転送された物体認識結果に基づいて、例えば自動車の操舵制御(例えばオートステアリング)、速度制御(例えばオートブレーキ)等を行う。
図4(A)及び図4(B)には、それぞれ本実施形態の光検出器の波形処理回路60の具体例である波形処理回路60−1、60−2が示されている。
波形処理回路60−1は、図4(A)に示されるように、電流電圧変換器60a、信号増幅器60bを含む。
時間計測用PD42で受光されると物体からの反射光パルスが、時間計測用PD42で受光量が電流値に変換され、該電流値が出力電流として波形処理回路60−1に入力される。波形処理回路60−1では、入力された電流値が電流電圧変換器60aで電圧値に変換され、該電圧値が信号増幅器60bで増大され、受光信号(出力電圧)として出力される。
この際、信号増幅器60bとして負帰還の機能を有する、例えばオペアンプOAを含む非反転増幅回路(負帰還回路)を用い、その増幅度を小さくとることにより、帰還が強くかかり、受光信号にアンダーシュート及びオーバーシュートが生じる。物体からの反射光パルスは、発光パルスと略同一の波形を有しており、そのパルス幅は上述のように10ns〜数十nsである。この反射光パルスに十分速く応答できること(高速応答性)が「回路装置」や「光検出器」には望まれる。なお、非反転増幅回路(負帰還回路)に代えて、受光信号に少なくともアンダーシュートを発生させる反転増幅回路(正帰還回路)を用いても良い。
コストなどを考慮すると、波形処理回路60−1の現実的な周波数帯域としては、数十MHz〜百数十MHz程度が好ましい。また、波形処理回路60−1における信号増幅率が高いほど太陽光などの外乱や内部ノイズに対して検出エラーが起きにくくなるため、信号増幅率は大きい方が良く、一般に5倍以上が望ましい。これらの周波数帯域と増幅率の要求から、オペアンプ(例えばVGA)としてはGB積(Gain Band width product:利得帯域幅積)が大きい(約500MHz以上)ものを用いることが望ましい。
アンダーシュート、オーバーシュートが起きる原理は、質点、ばね、減衰器で構成される位置制御の系において、ばね定数を大きくしすぎる(帰還を強くかけすぎる)と、定常位置から行き過ぎたり(オーバーシュート)戻ったり(アンダーシュート)を繰り返し、減衰振動をしながら定常位置に落ち着く、という現象と同様の原理である。
一方、図4(B)に示される波形処理回路60−2は、電流電圧変換器60a、信号増幅器60bに加えてハイパスフィルタ60cを含む。
波形処理回路60−2では、波形処理回路60−1と同様に時間計測用PD42からの電流値(出力電流)が電流電圧変換器60aで電圧値に変換され、該電圧値が信号増幅器60bで増幅され、受光信号として出力される。
そして、この増幅後の電圧値(受光信号)をハイパスフィルタ60cに通すことによってアンダーシュートを誘発する。これは、本来なだらかにグラウンドレベルに戻っていく受光信号のうち、低周波成分だけをカットすることによって急峻な信号を実現する方法であり、この方法では、信号増幅器60bでアンダーシュートを起こしても良いが起こさなくても良い。すなわち、ハイパスフィルタが設けられる場合には、アンダーシュートを起こすために信号増幅器60bは必須ではないため、設けられなくても良い。
図5(A)には比較例1の受光信号波形が示され、図5(B)には本実施形態の実施例1の受光信号波形が示されている。
図5(A)に示される比較例1の受光信号波形は、アンダーシュートを発生させない場合に、ノイズが乗った5つの受光信号の波形と、受光信号毎に計測される受光時刻2(該受光信号の立下りが閾値電圧と一致するタイミング)のシミュレーション結果である。ノイズは白色ノイズとした。アンダーシュートを発生させない場合、受光信号(出力電圧)の立下りが遅く(緩やかであり)、ノイズに起因するゆらぎにより、受光時刻2の計測誤差が大きくなることがわかる。
図5(B)に示される実施例1の受光信号波形は、アンダーシュートを発生させた場合に、ノイズが乗った5つの受光信号の波形と、受光信号毎に計測される受光時刻2のシミュレーション結果である。
結果として、実施例1では、比較例1と比較して、受光信号の立下りが速く(急であり)、ノイズに起因するゆらぎを抑制でき、受光時刻2の計測誤差を小さくできることがわかる。
比較例1では、5回の測定での測定誤差が11ns(距離に換算すると1.6m)であるのに対し、実施例1の場合には、5回の測定での測定誤差は3ns(距離に換算すると0.5m)となる。
図5(A)に示される受光信号波形(比較例1)、図5(B)に示される受光信号波形(実施例1)は、それぞれ図6(A)、図6(B)に示される負帰還回路60b−1、60b−2にFWHM(半値全幅)=10ns、ピーク電圧10mVの釣鐘型パルスを入力して得られる波形にノイズが重畳されたものである。つまり、比較例1、実施例1の受光信号波形は、それぞれ図4(A)、図4(B)に示される負帰還回路60b−1、60b−2を、図2(A)に示される信号増幅器60bとして用いた場合をシミュレートした結果である。
各負帰還回路は、一端が接地され又は該一端にバイアス電圧が印加され、他端がオペアンプOAの−の入力端に接続された抵抗R1と、オペアンプOAにそれぞれ並列に接続された抵抗R2及びコンデンサCとを有している。オペアンプOAの+の入力端には、電流電圧変換器60aからの電圧値が入力される。なお、各負帰還回路において、コンデンサCは、必須ではない。
この場合、R2/R1が小さいほど負帰還が強くなり、アンダーシュート量が大きくなる。
比較例1では、C=10pF、R1=51Ω、R2=1kΩとされている。実施例1では、C=0.5pF、R1=510Ω、R2=3kΩとされている。
実施例1は、R2/R1が比較的小さく、アンダーシュート量が大きくなる。一方、比較例1では、R2/R1が比較的大きく、アンダーシュート量が略0である。
また、受光信号を検出(二値化する)するための「閾値電圧」は、比較例1及び実施例1のいずれも30mVとなっており(図5(A)及び図5(B)参照)、同条件(入力される反射光パルスと閾値電圧が同じ場合)での時間計測結果の精度が実施例1の方が比較例1よりも高いことがわかる。「閾値電圧」は、外来ノイズの大きさ等を考慮して決定され、一般的に数十mV程度である。つまり、「閾値電圧」は、外来ノイズを誤検知するのを防ぐためグラウンドレベルよりもある程度大きいことが好ましく、また受光信号を検出(二値化)して検出信号(二値化信号)の立上がりと立下りの間の所定タイミング(例えば中間タイミング)を受光タイミングとするような場合は精度を上げるために極力小さい値に設定されることが好ましい。従って、閾値電圧の適正な値は、自ずと決まってくる。
図7(A)、図7(B)には、比較例2の受光信号波形、負帰還回路60b−3が示されている。比較例2のように、負帰還を用いた増幅回路において、増幅率(増幅度)を大きくしすぎたり入力信号に対して回路の周波数帯域を狭くしすぎたりすると(例えば増幅率21倍、周波数帯域12MHz、図7(B)参照)、帰還が強くなりアンダーシュートが起こらない(図7(A)参照)。
比較例2では、C=10pF、R1=51Ω、R2=1kΩとされている。
図8には、本実施形態の実施例2の光検出器の構成が示されている。実施例2の光検出器は、図8(A)及び図8(B)に示されるように、二値化回路70の後段に信号判定回路80を有している。
図9には、実施例2における受光信号波形と二値化回路出力が示されている。
実施例2では、時間計測用PD42から波形処理回路に信号電荷が入力されていないとき、すなわち時間計測用PD42が信号光を受光していないときの該波形処理回路の出力電圧である基準レベルBLに対して上下に閾値が1つずつ設定されている。信号判定回路80は、受光信号が閾値1、2を横切るタイミングT1、T2、T3、T4を計測する。時間計測用PD42での受光タイミングをどの時点に決めるかはシステムに依るが、時間計測部45において例えば受光タイミングTをT1、T2、T3、T4の平均値として決める場合を考える。
T1、T2、T3、T4の回路ノイズや時間計測回路(例えば時間計測部45)に起因する計測誤差をそれぞれΔT1、ΔT2、ΔT3、ΔT4とした場合、受光タイミングT=(T1+T2+T3+T4)/4の計測誤差は、ΔT=(ΔT12+ΔT22+ΔT32+ΔT42)1/2/4となる。これは、ΔT1〜ΔT4が同程度とした場合、1つの計測タイミングだけを用いて時間計測を行う場合の2倍、2つの計測タイミングを用いて時間計測を行う場合の√2倍計測誤差が小さくなることを意味している。
また、図10(B)に示される実施例2は、図10(A)に示される閾値を基準レベルBLに対して同じ側(例えば上側)にしか設けない場合(比較例3)と比べても有利である。これは、基準レベルBLに対して片側だけに閾値を複数設ける場合、ある程度大きい信号でなければ複数の閾値を超えないため閾値を複数設けたメリットがないが、基準レベルBLに対して両側に閾値を設けることで、小さい信号に対しても閾値を複数設けたメリットがあるからである。
また、実施例2では、信号判定回路80が、受光タイミングから判断されるターゲット(物体)までの距離の計測結果が、想定している検出距離の範囲から外れている場合には「異常」と判定する。これにより、誤検出を減らすことができる。
また、信号判定回路80は、例えば図9においてT1が測定されていないのにT3が測定されたような場合、つまり、本来の受光信号の極性(特性)からは考えられない計測タイミングが得られた場合(図9の場合には閾値2を横切る信号が単独で現れた場合)に「異常」と判定する。これにより、誤検出を防ぐことができる。
実施例2では、受光信号が閾値を横切った時刻(二値化タイミング)の計測は、基本的に全ての閾値について常に行う。
図11には、閾値を1つだけ用いる場合に、ノイズの有無による二値化回路出力の違いが示されている。図11(A)のようにノイズが無い場合は二値化回路出力から物体からの反射光が一目瞭然であるが、ノイズが大きく閾値を超えてしまう場合には、図11(B)の二値化回路出力(1)、(2)、(3)、(4)のどれが物体からの反射光を示しているのかがわからず、物体が無いときでも「物体有り」と誤判定してしまうことが懸念される。
例えば特許文献6(特開2002−022827号公報)に記載の方法でパルス幅を基にノイズ判定を行えば(1)、(2)はノイズとして除去できるが、(3)、(4)はパルス幅が近いためノイズかどうかの判定ができない。
ここで、図12には、基準レベルに対して両側に閾値を設けた場合のノイズの有無による二値化回路出力の違いが示されている。図12(A)のようにノイズが無い場合とは異なり、図12(B)のようにノイズが有る場合は、一見、図11の場合と同様にパルス幅の近い右側の3つのパルス(二値化回路出力(3)、(4)、(5)に対応)はノイズかどうかの判別ができないように見える。
しかし、閾値1に対応する二値化回路出力と閾値2に対応する二値化回路出力を、異なる時間計測回路に入力するなどの方法で、どの閾値を横切ったタイミングなのかを区別できるようにしておき(つまり、T1、T2、T3、T4を区別できるということ)、時間差T3−T1があらかじめ設定されていた時間よりも大きい場合は「異常」と判定することで、受光信号とノイズを区別することができる。ここでは1つの例として時間差T3−T1を用いる場合について説明したが、これは原理的にT4−T1、T4−T2、T3−T1、T3−T2のどの時間差を用いても有効である。
また、上記判別方法に加えて、T2−T1やT4−T3の値から分かるパルス幅が細すぎたり太すぎたりする場合には「異常」と判定するという判別方法を取り入れることで、物体検出の確実性を更に増すことができる。
また、上記と同様の原理で、T3−T1、T4−T1、T3−T2、T4−T2のいずれかの時間差が想定よりも小さい場合には「異常」と判定することで、受光信号よりも時間幅の長いノイズによる誤検知を防ぐことができる。この場合にも上記と同様に、T2−T1やT4−T3の値から分かるパルス幅が細すぎたり太すぎたりする場合には「異常」と判定する判別方法を取り入れることで、物体検出の確実性を更に増すことができる。
検出対象からの受光光量として想定される最小の受光光量から想定される最大の受光光量までを考えれば、受光信号波形として想定される波形の範囲は限定される。つまり、最小受光光量に対応する計測時刻を時系列の早い順にT1a、T2a、T3a、…とし、最大受光光量に対応する計測時刻を時系列の早い順にT1b、T2b、T3b、…としたときに、飽和波形の効果を除けば、例えば想定される最小のT3−T1の値はT3a−T1aであり、想定される最大のT3−T1の値はT3b−T1bである(図13参照)。半導体素子の飽和の影響等により波形が崩れる場合には、このように単純に最大値・最小値が決まるとは限らないが、いずれにせよ最大値、最小値を決めることはできる。このようにして求めることができる時間幅の最大値、最小値を基にして基準時間幅を決定できる。
例えば統計的な考え方から、最小光量受光時のT1、T3の計測結果の標準偏差をそれぞれσ_T1a, σ_T3aとし、最大光量受光時のT1、T3の計測結果の標準偏差をそれぞれσ_T1b, σ_T3bとすると、
(T3a-T1a)-3(σ_T3a2+σ_T1a2)1/2≦T3-T1≦(T3b-T1b)+3(σ_T3b2+σ_T1b2)1/2
の場合のみ受光信号が正常であると判定することで高い確率で物体の誤検出を防ぐことができる。
例えばT3b-T1b=20ns, T3a-T1a=10ns, σ_T1a=σ_T3a=1ns, σ_T1a=σ_T3a=0.5nsであれば、5ns ≦ T3-T1 ≦ 23nsの場合に受光信号が正常であると判定すればよいことになる。
ここではT3−T1を基準に受光信号の正常異常判定を行う場合について述べたが、他の計測時刻の差(T4−T2やT4−T1等)を用いる場合にも同様のことが言える。ここに挙げた基準時間幅の決定方法はあくまで一例であり、その決定方法は当然ながらシステムの仕様に依存する。
以上説明した受光信号の正常/異常判定は、信号判定回路80によって実施することができる。
図14には、波形処理回路において、電流電圧変換器と信号増幅器との間に接続されたクランプ回路の3つの具体例が示されている。
図14(A)の波形処理回路のクランプ回路では、負極が接地された直流電圧源E1の正極とダイオードD1の正極(アノード)とが接続され、ダイオードD1の負極(カソード)が電流電圧変換器の出力端と信号増幅器の入力端に接続されている。このため、プラス側の電圧が一定値でクランプされる。
図14(B)の波形処理回路のクランプ回路では、正極が接地された直流電圧源E2の負極とダイオードD2の負極(カソード)とが接続され、ダイオードD2の正極(アノード)が電流電圧変換器の出力端と信号増幅器入力端に接続されている。このため、マイナス側の電圧が一定値でクランプされる。
図14(C)の波形処理回路では、図14(B)のクランプ回路と図14(C)のクランプ回路が電流電圧変換器と信号増幅器との間に並列に接続されている。このため、正負両側の電圧が一定値でクランプされる。
以上のように構成される各クランプ回路によって、半導体素子の飽和による波形の崩れを防ぐことができる。図14(A)〜図14(C)に示される各クランプ回路ではクランプ電圧を調整するための直流電圧源を有しているが、クランプ電圧の調整が不要であればこの直流電圧源は有さなくても良い。
また、図15に示されるように、クランプ回路を構成するダイオードD3のカソード(負極)を受光素子と電流電圧変換器に接続し、正極(アノード)を接地しても良い。この場合、電流電圧変換器への入力電流値を一定値以下にすることで、半導体素子の飽和による波形の崩れを防ぐことができる。また、受光回路(PD出力検出部)の初段で信号をクランプすることにより、それ以降の全ての半導体素子の飽和特性を無視できることになるため、基準時間幅を決める上で有利である。また、飽和特性の悪い素子も選ぶことができるようになるため、部品選定の幅も広がる。
図16には、受光素子(例えば時間計測用PD42)の後段にクランプ回路が設けられない場合(図16(A))と設けられる場合(図16(B))の受光信号波形の模式図が示されている。クランプ回路が無い場合、飽和特性により受光信号の立下りが極端に遅くなる場合があり、これは基準時間幅を決める上で不利である。また、飽和特性によってはアンダーシュートがうまく出ない場合があり、その場合には本発明の効果が得られない。クランプ回路を設けて飽和を無くすことで、これらの問題を解決することができる。
受光信号の正常/異常判定をするための基準時間幅を決める際、想定される波形の範囲が狭ければ狭いほど本発明の効果は大きく出るため、このようなクランプ回路により効果的な誤検知防止が実現できる。
以上のように、実施例2では、受光信号に強くアンダーシュートが誘起されていることを前提として、基準レベル(例えばグラウンドレベル)よりも上の領域と下の領域それぞれに閾値を設けて二値化タイミングの計測を行い、それらの二値化タイミングを用いて信号の正常異常判定及び時間計測を行う。
以上説明した実施例2の回路装置としてのPD出力検出部は、受光素子(時間計測用PD42)の出力電流に基づく電圧信号(受光信号)にアンダーシュートを発生させる波形処理回路と、アンダーシュートが発生した電圧信号を複数の閾値で二値化する信号処理回路80と、を備え、複数の閾値は、基準レベルよりも大きい第1の閾値(閾値1)と、基準レベルよりも小さい第2の閾値(閾値2)を含む。
この場合、受光信号の立ち下りを急峻にできるためノイズの影響を抑制でき、受光信号の立ち下りタイミング(立ち下り中の任意のタイミング)を安定して精度良く検出できる。
なお、一般に発光パルスは立ち上がりが比較的鋭く立下りが比較的鈍いため、受光信号も立ち上がりが比較的鋭く立ち下がりが比較的鈍くなる。そこで、受光信号にアンダーシュートを発生させない場合、受光信号の立ち上りタイミング(立ち上がり中の所定タイミング)は比較的精度良く検出できるが、立ち下りタイミング(立ち下り中の所定タイミング)を精度良く検出することは困難である。
また、閾値を1つしか用いない場合に比べて、一回の測定において、ノイズが載った受光信号が二値化されるタイミングの数が多いため、該受光信号が二値化されたタイミングを精度良く検出できる。
さらに、基準レベルに対して片側だけに閾値を複数設ける場合、ある程度大きな信号でなければ複数の閾値を超えないため、閾値を複数設けた効果(例:測距精度の向上)を発揮することができないが、基準レベルに対して両側に閾値を設けることで、小さい信号に対しても閾値を複数設けた効果を発揮することができる。すなわち、基準レベルに対して片側だけに閾値を複数設ける構成と比較して有利である。
結果として、受光素子の出力電流に基づく電圧信号を精度良く検出することができる。
なお、基準レベルに対する少なくとも一側に複数の閾値を設けても良い。この場合、受光信号が二値化されたタイミングを更に精度良く検出できる。
また、基準レベルは、受光素子が信号光(例えば物体からの反射光)を受光していないときの波形処理回路の出力電圧であることが好ましい。
また、アンダーシュートが発生した受光信号が第1の閾値で二値化されたタイミング(二値化タイミング)と第2の閾値で二値化されたタイミング(二値化タイミング)に基づいて該受光信号が正常か否かを判定する信号判定回路80を更に備えることが好ましい。
信号判定回路80は、判定結果が肯定的な(正常と判定した)受光信号のみを出力しても良いし、判定結果によらず判定結果と受光信号の二値化タイミングを後段の時間計測部45に出力しても良い。そこで、時間計測部45は、判定結果が肯定的な場合にのみ受光信号の二値化タイミングを用いて時間計測を行うようにしても良い。
この場合、受光波形として想定される波形と計測結果(二値化タイミング)が整合する場合にのみ信号を正常と判定することで、回路ノイズやショットノイズに起因する誤検出を減らすことができる。
また、信号判定回路80は、アンダーシュートが発生した受光信号を第1の閾値で二値化した複数のタイミング(例えばT1、T2)及び第2の閾値で二値化された複数のタイミング(例えばT3、T4)のうち、2つのタイミングをタイミング対としたときに、複数のタイミング対それぞれの2つのタイミングの時間差に基づいて該受光信号が正常か否かの判定を行うことが好ましい。
この場合、回路ノイズやショットノイズに起因する誤検出を減らすことができる。例えば時間差T3−T1に基づいて正常か否かの判定を行う場合、細いパルスが適当なタイミングで上下に2つ出ない限りは、ノイズと受光信号を区別することができる。
また、信号判定回路80は、予め設定された基準時間幅よりも2つの二値化タイミングの時間差が小さい場合に、電圧信号が正常であると判定しても良い。
この場合、遅い(幅の太い)ノイズに起因するパルスの誤検知を防止できる。
また、信号判定回路80は、予め設定された基準時間幅よりも2つの二値化タイミングの時間差が大きい場合に、電圧信号が正常であると判定しても良い。
この場合、例えば、時間差T2−T1と基準時間幅を比較すれば細いノイズによるパルスの誤検知を防止でき、時間差T3−T1と基準時間幅を比較すれば短い間隔で上下に出たノイズによるパルスの誤検知を防止できる。
また、信号判定回路80は、時間的に隣接する2つの二値化タイミングを1つの組み合わせとしたときに、複数の組み合わせそれぞれの2つの二値化タイミングの時間差に基づいて判定を行うことが好ましい。
この場合、回路ノイズやショットノイズに起因する誤検出を減らすことができる。例えば時間差T3−T1及び時間差T2−T1に基づいて正常/異常判定を行う場合、T2−T1が想定よりも短い場合に「異常」と判定する設定にすれば、細いパルスが適当なタイミングで上下に二つ出た場合もノイズと判断することができる。すなわち、ノイズが受光波形とかなり似た形状をしていない限り、ノイズと受光信号を区別できる。
また、波形処理回路は、受光信号をクランプするクランプ回路を有していても良い。
この場合、過大な光が入射したときに出力が飽和して波形が崩れることを抑制することができ、受光信号の正常/異常判定を正確に行うことができる。
また、受光素子と波形処理回路との間に接続され、受光素子の出力電流をクランプするクランプ回路を更に備えていても良い。
この場合、受光回路(PD出力検出部)の初段で信号をクランプすることで、後段の信号増幅器(オペアンプ)等の半導体素子の飽和特性の影響を小さくすることができ、想定される受光波形をより限定的にできるため、ノイズ起因の誤検出防止の効果が大きくなる。
また、波形処理回路は、信号増幅器60b(増幅回路)を含むため、受光信号にアンダーシュートを容易に発生させることができる。
また、フィルタ回路がアンダーシュートを誘起する場合、信号増幅器60bの増幅率を必ずしもアンダーシュートが発生するように設定する必要がない。
また、フィルタ回路がハイパスフィルタである場合、アンダーシュートが発生した受光信号の低周波成分をカットするため、グランドレベルへの復帰時間を確実に遅くすることができる。
また、実施例2のPD出力検出部(回路装置)と、受光素子としての時間計測用PD42とを備える光検出器によれば、信号光(例えば物体からの反射光)を精度良く検出できる。
また、実施例2の物体検出装置は、光源としてのLD10を含む投光系と、該投光系から投光され物体で反射された光を受光素子で受光する光検出器と、を備えている。
この場合、物体情報を精度良く検出できる。
また、実施例2の物体検出装置は、光源での発光タイミングと回路装置の出力に基づく受光素子での受光タイミングとに基づいて、物体までの距離を算出する、時間計測回路45及び測定制御部46の一部を含む演算手段を更に備えている。
この場合、物体までの距離をより精度良く求めることができる。
また、物体検出装置100と、該物体検出装置100が搭載される移動体と、を備える移動体装置によれば、物体までの距離を正確に測定でき、該距離に応じて移動体を適切に制御することができる。この結果、安全性に優れた移動体装置を提供できる。
また、物体検出装置100と、該物体検出装置100の出力に基づいて、物体情報(物体の有無、物体の位置、物体の移動方向及び物体の移動速度の少なくとも1つ)を求める監視制御装置300と、を備えるセンシング装置1000によれば、物体情報を安定して精度良く取得することができる。
また、センシング装置1000は移動体に搭載され、監視制御装置300は物体の位置情報及び移動情報の少なくとも一方に基づいて危険の有無を判断するため、例えば移動体の操縦制御系、速度制御系等に危険回避のための有効な情報を提供することができる。
また、移動体と、該移動体に搭載される物体検出装置100又は該移動体に搭載されるセンシング装置1000と、を備える移動体装置によれば、衝突安全性に優れる。
また、実施例2の信号検出方法は、受光素子で光を受光する工程と、受光素子の出力電流を電圧信号に変換する工程と、該電圧信号にアンダーシュートを発生させる工程と、アンダーシュートが発生した電圧信号を基準レベルよりも大きい少なくとも1つの第1の閾値で二値化する工程と、アンダーシュートが発生した電圧信号を基準レベルよりも小さい少なくとも1つの第2の閾値で二値化する工程と、を含む。
この場合、受光素子の出力電流に基づく電圧信号を精度良く検出することができる。
また、実施例2の物体検出方法は、光源を発光させて光を投光する工程と、投光され物体で反射された光を受光素子で受光する工程と、受光素子の出力電流を電圧信号に変換する工程と、電圧信号にアンダーシュートを発生させる工程と、アンダーシュートが発生した電圧信号を基準レベルよりも大きい少なくとも1つの第1の閾値で二値化する工程と、アンダーシュートが発生した電圧信号を基準レベルよりも小さい少なくとも1つの第2の閾値で二値化する工程と、を含む。
この場合、物体情報を精度良く求めることができる。
また、実施例2の物体検出方法は、アンダーシュートが発生した電圧信号を第1及び第2の閾値で二値化したタイミングに基づいて受光素子での受光タイミングを求める工程と、光源での発光タイミングと受光タイミングとに基づいて物体までの距離を算出する工程と、を更に含む。
この場合、物体までの距離を精度良く求めることができる。
ところで、図17には、互いに異なる反射率を持つ、等距離にある複数(例えば3つ)の物体からの反射光を時間計測用PD42が受光したときの複数(例えば3つ)の受光信号1〜3の波形が示されている。図17から分かるように、物体間の反射率の違いにより複数の受光信号間で最大値が異なると、受光時刻1(τ1)及び受光時刻2(τ2)の計測結果が変化するため、受光時刻1と受光時刻2の片方だけを用いて時間計測用PD42での受光タイミングを検出してTOF法による距離測定を行うと測定距離が物体の反射率に依存してしまう。
そこで、物体からの反射光パルスの受光時刻(受光タイミング)を例えば(τ1+τ2)/2とすることで、距離測定結果の光量依存性を小さくすることができる。
また、fを関数として反射光パルスの受光時刻をτ1+f(τ2-τ1)とし、τ1を基準としてパルス幅(τ2-τ1)を基に受光時刻を補正する方法もある。
なお、上記実施例2では、信号判定回路は、PD出力検出部の一部とされているが、時間計測部の一部であっても良い。すなわち、受光信号の正常/異常判定をPD出力検出部ではなく、時間計測部が行っても良い。
要するに、上記実施例2のPD出力検出部(回路装置)において、信号判定回路は設けられていなくても良い。
また、上記実施例2では、時間計測部が時間計測用PD42での受光タイミングを検出しているが、これに代えて、PD出力検出部が時間計測用PD42での受光タイミングを検出しても良い。例えば、PD出力検出部は、信号判定回路を有する場合は信号判定回路の後段に、信号判定回路を有さない場合は二値化回路の後段に受光タイミング検出回路を有しても良い。
また、上記実施形態では、受光素子としての時間計測用PD42の受光信号にアンダーシュートを発生させているが、これに加えて又は代えて、受光素子としての同期検知用PD54の受光信号にアンダーシュートを発生させても良い。この場合、同期検知用PDと、PD出力検出部56の信号増幅器及びハイパスフィルタの少なくとも一方とを含んで「光検出器」を構成することができる。この場合、同期タイミングを高精度に検知できるため、有効走査領域を精度良く走査することができる。この場合、同期タイミングの誤検知を抑制できる。また、PD出力検出部56に実施例2の2つの閾値を用いる手法を適用しても良い。この場合、信号の誤検知を抑制でき、同期タイミングをより高精度に検知できる。
図18には、物体検出装置100を備えるセンシング装置1000が示されている。センシング装置1000は、移動体に搭載され、物体検出装置100に加えて、該物体検出装置100に電気的に接続された監視制御装置300を備えている。物体検出装置100は、車両のバンパー付近やバックミラーの近傍に取り付けられる。監視制御装置300は、物体検出装置100での検出結果に基づいて、物体の形状や大きさの推定、物体の位置情報の算出、移動情報の算出、物体の種類の認識等の処理を行って、危険の有無を判断する。そして、危険有りと判断した場合には、アラーム等の警報を発して移動体の操縦者に注意を促したり、ハンドルを切って危険を回避する指令を移動体の操舵制御部に出したり、制動をかけるための指令を移動体のECUに出す。なお、センシング装置1000は、例えば車両のバッテリから電力の供給を受ける。
なお、監視制御装置300は、物体検出装置100と一体的に設けられても良いし、物体検出装置100とは別体に設けられても良い。また、監視制御装置300は、ECUが行う制御の少なくとも一部を行っても良い。
また、上記実施形態では、光源として、単一のLDを用いているが、これに限られない。例えば、複数のLDが1次元又は2次元に配列されたLDアレイ、VCSEL(面発光レーザ)、VCSELが1次元又は2次元に配列されたVCSELアレイ、他のレーザ、LED(発光ダイオード)、複数のLEDが1次元又は2次元に配列されたLEDアレイ、有機EL素子、複数の有機EL素子が1次元又は2次元に配列された有機ELアレイなどを用いても良い。複数のLDが1次元配列されたLDアレイとしては、複数のLDが積層されたスタック型のLDアレイや複数のLDが横に並べられたLDアレイが挙げられる。例えば、半導体レーザとして、LDをVCSELに代えれば、アレイ内の発光点の数をより多く設定することができる。
また、上記実施形態では、負帰還回路の後段に設けるフィルタ回路として、ハイパスフィルタを用いているが、低周波をカットするバンドパスフィルタを用いても良い。
また、上記実施形態では、波形処理回路は、アンダーシュートを発生させる負帰還回路を有しているが、これに代えて、受光信号にアンダーシュートを発生させる正帰還回路を有していても良い。
また、波形処理回路は、電流電圧変換器とハイパスフィルタとで構成されても良い。
また、電流電圧変換器は、波形処理回路の構成要素でなくても良い。すなわち、受光素子と波形処理回路との間に電流電圧変換器が接続されても良い。
また、投光光学系は、カップリングレンズを有していなくても良いし、他のレンズを有していても良い。
また、投光光学系、受光光学系は、反射ミラーを有していなくても良い。すなわち、LDからの光を、光路を折り返さずに回転ミラーに入射させても良い。
また、受光光学系は、受光レンズを有していなくも良いし、他の光学素子(例えば集光ミラー)を有していても良い。
また、偏向器として、回転ミラーに代えて、例えば、ポリゴンミラー(回転多面鏡)、ガルバノミラー、MEMSミラー等の他のミラーを用いても良い。
また、同期系は、同期レンズを有していなくも良いし、他の光学素子(例えば集光ミラー)を有していても良い。
また、上記実施形態では、投光系として、偏向器を用いる走査型が用いられているが、偏向器を用いない非走査型を用いても良い。具体的には、光源からの光を直接又はレンズを介して投光するようにしても良い。
また、上記実施形態では、物体検出装置が搭載される移動体として自動車を例にとって説明したが、該移動体は、自動車以外の車両、航空機、船舶、ロボット等であっても良い。
また、以上の説明で用いた具体的な数値、形状などは、一例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なことは言うまでもない。
以上の説明から明らかなように、上記実施形態のPD出力検出部(回路装置)、光検出器、物体検出装置100、センシング装置1000、移動体装置、信号検出方法、物体検出方法は、物体までの距離を測定する所謂Time of Flight(TOF)法を用いる技術又はTOF法に用いられる技術であり、移動体におけるセンシングの他、モーションキャプチャ技術、測距計、3次元形状計測技術などの産業分野などで幅広く用いることができる。すなわち、本発明の光検出器、回路装置、物体検出装置、センシング装置は、必ずしも移動体に搭載されなくても良い。
なお、上記実施形態は二値化回路及びパルスの識別方法に関するものであり、例えば特願2015−187568号公報に記載されている受光系を用いた測距精度向上方法と組み合わせることで更に効果を発揮することも可能である。
以下に、発明者が上記実施形態を発案するに至った思考プロセスを説明する。
近年、光源と受光素子と各駆動回路から構成され、光源からの発光ビームを測距対象物へ照射して、発光ビームの射出タイミングとその測距対象物からの反射光を受光した受光素子での受光タイミングの時間差、位相遅れを信号処理部にて信号処理して検出することで、対象物までの往復の距離を測定するTime of Flight(TOF)法を用いた測距装置が、車両などのセンシングやモーションキャプチャ技術、測距計などの産業分野などで広く用いられている。
その一例として航空機や鉄道、車載など広く使用されているレーザレーダがある。レーザレーダとしては様々なものが知られているが、例えば特許文献1〜4に開示されているように、光源から射出されたレーザ光を回転ミラーで走査し、物体で反射もしくは散乱された光を再度回転ミラーを介して光検出器で検出することで、所望の範囲の物体の有無やその物体までの距離を検出できる走査型レーザレーダがある。
このように、レーザ光と、光検出器で検出できる検出可能領域の両方を走査する走査型レーザレーダは、検出が必要な部分のみにレーザ光を集中できるので、検出精度や検出距離の点で有利であり、また、光検出器で検出可能な領域も最小限にすることができるため、光検出器のコスト的にも有利である。ただし、走査型レーザレーダにおいては通常、データの積算ができないため、非走査型のレーザレーダと比較して検知エラーが起こりやすく、特に遠距離物体の検出においてその課題が顕著である。また、同様の理由により遠距離で高い距離検出精度を実現することが困難であるという課題がある。
レーザレーダは他の方式に対しては検出精度の点で有利であるが、例えばレーザレーダを車に載せ、前方の物体の有無やその物体までの距離に応じて車を停止させたり操舵回避させたりする判断をすることを考えた場合、非常に高精度な距離計測精度が必要となるため、距離計測精度は非常に重要である。
TOF法による距離計測精度に関して、測距対象物からの反射光を受光素子で受光した時刻の時間計測精度が特に重要である。TOF法における時間計測精度と距離計測精度の関係は1ns ⇔ 150mmであり、操舵回避や自律走行を考えた際に要求される距離計測精度は100mmのオーダーであるため、時間計測精度としては数百ピコ秒オーダーの精度が求められる。また、時間計測を行う際、受光信号の振幅に応じて計測結果の補正を行う方法が知られており、受光信号の振幅を知るために受光信号のパルス幅を正確に計測することも重要である。
また、検知可能距離としては100mオーダーのものが求められており、一般的に100m先の物体から反射されて帰ってくる光量は数nW〜数十nW程度である。
以上をまとめると、受光系の応答としては、数nW受光時の時間計測結果のばらつきが数百ピコ秒オーダーであることが求められる。数nW程度の微弱光に対する受光信号は信号強度が小さいため、回路ノイズや外光によるショットノイズ等の影響を受けやすく、距離計測精度と物体検出信頼性に課題が出る。
上記ノイズの影響を低減する手法として、特許文献5に記載のように、パルス波形をA/D変換して、高速フーリエ変換などを利用する方法があるが、処理速度の点で実現が困難である。また、特許文献5に記載のように、パルス波形を遅延回路で遅延させた信号を用いてランダムノイズを低減する方法が知られているが、この方法では200mの距離を測ろうとすると遅延時間が1us程度と非常に大きく、回路的に実現しようとすると、回路規模が大きくなってしまう。さらに、遅延回路は一般に温度の影響を受けやすく、温度によって遅延量が変化することによる精度の低下が懸念される。
他に、特許文献6に記載のような、あらかじめ設定された削除パルス幅と装置の検出した反射波のパルス幅を比較して、削除パルス幅に満たないパルス幅をもった反射波を距離測定に利用しないようにするという方法を上記ノイズを低減する方法として用いることもできるが、この方法では実際の反射波として想定されるパルス幅に近いパルス幅を持ったノイズによる物体誤検出を防ぐことはできない。
そこで、発明者らは、受光光量を増やすことなく低コストで距離測定精度を向上し、更にノイズ起因の物体誤検出を抑制するために、上記実施形態(特に実施例2)を発案した。