駆動源としては、燃料の燃焼で動力を発生する内燃機関等のエンジンや電動モータなどが用いられる。電気式無段変速部は、例えば遊星歯車装置等の差動機構を有して構成されるが、インナロータおよびアウタロータを有する対ロータ電動機を用いることも可能で、それ等のロータの何れか一方に駆動源が連結され、他方に中間伝達部材が連結される。対ロータ電動機は、モータジェネレータと同様に力行トルクおよび回生トルクを選択的に出力できるもので、差動用回転機として機能する。駆動源や中間伝達部材は、必要に応じてクラッチや変速歯車等を介して上記差動機構等に連結される。中間伝達部材には、必要に応じて走行駆動用回転機が直接または変速歯車等を介して連結される。回転機は回転電気機械のことで、具体的には電動モータ、発電機、或いはその両方の機能を択一的に用いることができるモータジェネレータである。差動用回転機として発電機を採用し、走行駆動用回転機として電動モータを採用することもできるが、種々の運転状態を想定した場合、差動用回転機、走行駆動用回転機の何れもモータジェネレータを用いることが望ましい。
電気式無段変速部の差動機構としては、シングルピニオン型或いはダブルピニオン型の単一の遊星歯車装置が好適に用いられる。この遊星歯車装置はサンギヤ、キャリア、およびリングギヤの3つの回転要素を備えているが、それ等の回転速度を1本の直線で結ぶことができる共線図において、例えば中間に位置する回転速度が中間の回転要素(シングルピニオン型遊星歯車装置のキャリア、ダブルピニオン型遊星歯車装置のリングギヤ)に駆動源が連結され、両端の回転要素に差動用回転機および中間伝達部材が連結されるが、中間の回転要素に中間伝達部材を連結するようにしても良い。この3つの回転要素は、常に差動回転可能であっても良いが、任意の2つをクラッチにより一体的に連結できるようにして、運転状態に応じて一体回転させるようにしたり、差動用回転機が連結される回転要素をブレーキにより回転停止できるようにしたりして、差動回転を制限することも可能である。複数の遊星歯車装置を組み合わせた差動機構を採用することもできる。
機械式有段変速部としては、遊星歯車式や平行軸式の変速機が広く用いられており、例えば複数の油圧式摩擦係合装置が係合、解放されることによって複数のギヤ段(ATギヤ段)が成立させられるように構成される。複数のATギヤ段は前進ギヤ段が適当であるが、後進ギヤ段であっても良い。
複数の模擬ギヤ段は、それぞれの変速比を維持できるように出力回転速度に応じて駆動源回転速度を制御することによって成立させられるが、各変速比は必ずしも機械式有段変速部のATギヤ段のように一定値である必要はなく、所定範囲で変化させても良いし、各部の回転速度の上限や下限等によって制限が加えられても良い。複数の模擬ギヤ段は、予め定められた模擬ギヤ段変速条件に従って変速されるようにすることが望ましい。模擬ギヤ段変速条件は、例えば出力回転速度およびアクセル開度(操作量)等の車両の運転状態をパラメータとして予め定められたアップ変速線やダウン変速線等の変速マップが適当であるが、その他の自動変速条件を定めることもできるし、シフトレバーやアップダウンスイッチ等による運転者の変速指示に従って変速するものでも良い。
複数の模擬ギヤ段の段数は複数のATギヤ段の段数以上で、各ATギヤ段に対してそれぞれ1または複数の模擬ギヤ段を成立させるように割り当てられる。複数のATギヤ段の変速条件は、模擬ギヤ段の変速タイミングと同じタイミングで変速が行なわれるように定められる。模擬ギヤ段の段数はATギヤ段の段数の2倍以上(例えば2倍〜3倍程度)が適当である。ATギヤ段の変速は、中間伝達部材やその中間伝達部材に連結される走行駆動用回転機の回転速度が所定の回転速度範囲内に保持されるように行なうもので、模擬ギヤ段の変速は、駆動源回転速度が所定の回転速度範囲内に保持されるように行なうものであり、それ等の段数は適宜定められる。一般的な車両の場合、ATギヤ段の段数は例えば2速〜6速程度の範囲内が適当で、模擬ギヤ段の段数は例えば5速〜12速程度の範囲内が適当である。これ等の段数の範囲を越えて設定することもできる。
模擬ギヤ段の変速タイミングと同じタイミングでATギヤ段の変速を行なう態様は、例えば共通の変速条件(変速マップなど)に従って同時に変速判断が行なわれる場合の他、模擬ギヤ段の変速判断が為された時に既にATギヤ段の変速制御が実行中の場合であっても良い。所定の待機時間を設けて変速タイミングを合わせるようにしても良い。このような同時変速においては、例えば両者の変速応答時間(変速指令出力からイナーシャ相開始までの遅れ時間)の相違に拘らず両者の変速時のイナーシャ相(変速比の変化に応じて入力側部材の回転速度が変化する時間帯)の少なくとも一部が重複(オーバーラップ)するように、模擬ギヤ段の変速指令出力を遅延させる同期制御を行なうことが望ましい。変速指令出力の遅延を解除するタイミング、すなわち変速指令を出力するタイミングは、例えばATギヤ段の変速指令出力後の経過時間が、両者の変速応答時間の差に応じて予め実験やシミュレーション等により定められた遅延時間に達したか否かによって判断できるが、ATギヤ段の変速時の中間伝達部材の回転速度変化からイナーシャ相開始を検出したり、変速を実行する摩擦係合装置の油圧すなわち係合トルク等から変速の進行度合を検出したりして判断しても良い。
変速制限部は、例えば機械式有段変速部が油圧に基づいて変速される場合、作動油温度が低いと油圧制御の精度が損なわれて変速ショックが生じ易くなるため、変速回数を減らすために所定のATギヤ段(禁止ATギヤ段)への変速を禁止し、作動油温度が所定値以上になったら変速禁止を解除するように構成される。また、変速制御に関与するソレノイドバルブ等の異物噛み込み等によるフェール時も、関係するATギヤ段(禁止ATギヤ段)への変速を禁止し、フェールが解消した場合には変速禁止を解除するように構成される。また、人為的操作に従って所定のATギヤ段(禁止ATギヤ段)への変速を禁止したり、その変速禁止を解除したりすることも可能であるなど、種々の態様が可能である。このように禁止ATギヤ段への変速が禁止される場合でも、模擬ギヤ段については、その禁止ATギヤ段に対応する(割り当てられた)模擬ギヤ段の全部または一部への変速が許容され、アサイン崩れが発生する可能性がある。
復帰制御部は、解除条件が成立した場合に複数種類の復帰条件に従って禁止ギヤ段への変速禁止を解除するもので、例えば模擬ギヤ段およびATギヤ段の変速が何れも不要な車両状態の場合は無条件で直ちに禁止ATギヤ段への変速禁止を解除するように構成される。また、禁止ATギヤ段の変速禁止解除に伴ってATギヤ段がアップ変速される場合で車両が駆動状態の時には、走行駆動用回転機の回生制御によって中間伝達部材の回転速度を低下させる上で、例えばバッテリー充電制限が無い車両状態の場合に、模擬ギヤ段の変速を伴うことを条件として禁止ATギヤ段への変速禁止を解除するように構成される。禁止ATギヤ段の変速禁止解除に伴ってATギヤ段がダウン変速される場合、例えばバルブフェール等によるダウン変速の禁止がフェール解消によって解除された場合などに、車両が被駆動状態の時には、走行駆動用回転機の力行制御によって中間伝達部材の回転速度を上げる上で、バッテリー放電制限が無いことを復帰条件にしても良い。また、例えば低負荷で且つ定常走行状態である車両状態の場合には、ATギヤ段の単独変速であっても変速制御が容易で変速ショックが比較的小さいため、模擬ギヤ段の変速の有無に関係無く禁止ATギヤ段への変速禁止を解除するように構成される。これ等の復帰条件は、変速の種類や車両の駆動・被駆動状態等に応じて適宜定めることができる。
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明が適用された電子制御装置80を有する車両10に備えられた車両用駆動装置12の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御のための制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両用駆動装置12は、エンジン14と、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース16(以下、ケース16という) 内において共通の軸心上に配設された、エンジン14に直接或いは図示しないダンパーなどを介して間接的に連結された電気式無段変速部18と、電気式無段変速部18の出力側に連結された機械式有段変速部20とを直列に備えている。また、車両用駆動装置12は、機械式有段変速部20の出力回転部材である出力軸22、その出力軸22に連結された差動歯車装置24、差動歯車装置24に連結された一対の車軸26、および車輪28等を備えている。車両用駆動装置12において、エンジン14や第2回転機MG2から出力される動力(特に区別しない場合にはトルクや力も同義) は、機械式有段変速部20へ伝達され、その機械式有段変速部20から差動歯車装置24等を介して駆動輪28へ伝達される。車両用駆動装置12は、例えば車両10において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ) 型車両に好適に用いられるものである。なお、電気式無段変速部18や機械式有段変速部20等はエンジン14などの回転軸心(上記共通の軸心) に対して略対称的に構成されており、図1ではその回転軸心の下半分が省略されている。
エンジン14は、車両10の走行用の駆動源であり、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。このエンジン14は、電子制御装置80によってスロットル弁開度或いは吸入空気量、燃料供給量、点火時期等の運転状態が制御されることによりエンジントルクTe が制御される。本実施例では、エンジン14は、トルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく電気式無段変速部18に連結されている。
電気式無段変速部18は、第1回転機MG1と、エンジン14の動力を第1回転機MG1、および電気式無段変速部18の出力回転部材である中間伝達部材30に機械的に分割する動力分割機構としての差動機構32と、中間伝達部材30に動力伝達可能に連結された第2回転機MG2とを備えている。電気式無段変速部18は、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される電気式差動部であり、電気式無段変速機である。第1回転機MG1は差動用回転機に相当し、また、第2回転機MG2は、走行用の駆動源として機能する電動機であって、走行駆動用回転機に相当する。車両10は、走行用の駆動源として、エンジン14および第2回転機MG2を備えているハイブリッド車両である。
第1回転機MG1および第2回転機MG2は、電動機(モータ) としての機能および発電機(ジェネレータ) としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。第1回転機MG1および第2回転機MG2は、各々、車両10に備えられたインバータ50を介して、車両10に備えられたバッテリー52に接続されており、電子制御装置80によってインバータ50が制御されることにより、第1回転機MG1および第2回転機MG2の各々の出力トルク(力行トルクまたは回生トルク) であるMG1トルクTg およびMG2トルクTm が制御される。バッテリー52は、第1回転機MG1および第2回転機MG2の各々に対して電力を授受する蓄電装置である。
差動機構32は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、サンギヤS0、キャリアCA0、およびリングギヤR0の3つの回転要素を差動回転可能に備えている。キャリアCA0には連結軸34を介してエンジン14が動力伝達可能に連結され、サンギヤS0には第1回転機MG1が動力伝達可能に連結され、リングギヤR0には中間伝達部材30および第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。差動機構32において、キャリアCA0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能する。
機械式有段変速部20は、中間伝達部材30と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する有段変速機である。中間伝達部材30は、機械式有段変速部20の入力回転部材(AT入力回転部材)としても機能する。中間伝達部材30には第2回転機MG2が一体回転するように連結されているので、機械式有段変速部20は、第2回転機MG2と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する有段変速機である。機械式有段変速部20は、例えば第1遊星歯車装置36および第2遊星歯車装置38の複数組の遊星歯車装置と、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2の複数の係合装置(以下、特に区別しない場合は単に係合装置CBという) とを備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、車両10に備えられた油圧制御回路54内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL4(図4参照)から各々出力される調圧された各係合油圧Pcbによりそれぞれのトルク容量(係合トルク) Tcbが変化させられることで、それぞれ作動状態(係合や解放などの状態) が切り換えられる。
機械式有段変速部20は、第1遊星歯車装置36および第2遊星歯車装置38の各回転要素(サンギヤS1、S2、キャリアCA1、CA2、リングギヤR1、R2) が、直接的に或いは係合装置CBやワンウェイクラッチF1を介して間接的(或いは選択的) に、一部が互いに連結されたり、中間伝達部材30、ケース16、或いは出力軸22に連結されている。
機械式有段変速部20は、係合装置CBのうちの所定の係合装置の係合によって、変速比γat(=AT入力回転速度ωi /出力回転速度ωo )が異なる複数のギヤ段のうちの何れかのギヤ段が形成される。本実施例では、機械式有段変速部20にて形成されるギヤ段をATギヤ段と称する。AT入力回転速度ωi は、機械式有段変速部20の入力回転部材の回転速度(角速度) であって、中間伝達部材30の回転速度と同値であり、また、第2回転機MG2の回転速度であるMG2回転速度ωm と同値である。AT入力回転速度ωi は、MG2回転速度ωm で表すことができる。出力回転速度ωo は、機械式有段変速部20の出力回転速度である出力軸22の回転速度であって、電気式無段変速部18と機械式有段変速部20とを合わせた全体の車両用自動変速機40の出力回転速度でもある。
機械式有段変速部20は、図2の係合作動表に示すように、複数のATギヤ段として、AT1速ギヤ段(1st)〜AT4速ギヤ段(4th)の4速の前進用のATギヤ段が形成される。AT1速ギヤ段の変速比γatが最も大きく、高速側すなわちハイ側のAT4速ギヤ段側程、変速比γatが小さくなる。図2の係合作動表は、各ATギヤ段と係合装置CBの各作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「△」はエンジンブレーキ時や機械式有段変速部20のコーストダウン変速時に係合、空欄は解放をそれぞれ表している。AT1速ギヤ段を形成するブレーキB2には並列にワンウェイクラッチF1が設けられているので、発進時や加速時にはブレーキB2を係合させる必要は無い。なお、係合装置CBが何れも解放されることにより、機械式有段変速部20は、動力伝達を遮断するニュートラル状態とされる。
機械式有段変速部20は、電子制御装置80によって、運転者のアクセル操作や車速V等に応じて係合装置CBのうちの解放側係合装置の解放と係合装置CBのうちの係合側係合装置の係合とが制御される、所謂クラッチツークラッチ変速により、形成されるATギヤ段が切り換えられる。すなわち、複数のATギヤ段の何れかが選択的に形成される。例えば、AT2速ギヤ段「2nd」からAT3速ギヤ段「3rd」へのアップ変速(2→3アップ変速) では、図2の係合作動表に示すように、解放側係合装置となるブレーキB1が解放されると共に、AT3速ギヤ段「3rd」にて係合させられる係合装置(クラッチC1およびクラッチC2) のうちで2→3アップ変速前には解放されていた係合側係合装置となるクラッチC2が係合させられる。この際、ブレーキB1の解放過渡油圧やクラッチC2の係合過渡油圧が予め定められた変化パターンなどに従って調圧制御される。
図4は、上記係合装置CBを係合解放制御するリニアソレノイドバルブSL1〜SL4を含む油圧制御回路54の要部を示す回路図である。油圧制御回路54は、エンジン14によって回転駆動される機械式オイルポンプ100、およびエンジン非作動時にポンプ用電動機102によって回転駆動される電動式オイルポンプ104を、係合装置CBの油圧源として備えている。これ等のオイルポンプ100、104から出力された作動油は、それぞれ逆止弁106、108を介してライン圧油路110に供給され、プライマリレギュレータバルブ等のライン圧コントロールバルブ112により所定のライン圧PLに調圧される。ライン圧コントロールバルブ112にはリニアソレノイドバルブSLTが接続されており、リニアソレノイドバルブSLTは、電子制御装置80によって電気的に制御されることにより、略一定圧であるモジュレータ油圧Pmoを元圧として信号圧Pslt を出力する。そして、その信号圧Pslt がライン圧コントロールバルブ112に供給されると、ライン圧コントロールバルブ112のスプール114が信号圧Pslt によって付勢され、排出用流路116の開口面積を変化させつつスプール114が軸方向へ移動させられることにより、その信号圧Pslt に応じてライン圧PLが調圧される。ライン圧PLは、例えば出力要求量であるアクセル開度θacc 等に応じて調圧される。上記リニアソレノイドバルブSLTはライン圧調整用の電磁調圧弁で、ライン圧コントロールバルブ112は、リニアソレノイドバルブSLTから供給される信号圧Pslt に応じてライン圧PLを調圧する油圧制御弁である。これ等のライン圧コントロールバルブ112およびリニアソレノイドバルブSLTを含んでライン圧調整装置118が構成されている。
ライン圧調整装置118によって調圧されたライン圧PLの作動油は、ライン圧油路110を介してリニアソレノイドバルブSL1〜SL4等に供給される。リニアソレノイドバルブSL1〜SL4は、前記クラッチC1、C2、ブレーキB1、B2の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)120、122、124、126に対応して配置されており、電子制御装置80から供給される油圧制御指令信号Satに従ってそれぞれ出力油圧(係合油圧Pcb)が制御されることにより、クラッチC1、C2、ブレーキB1、B2が個別に係合解放制御され、前記AT1速ギヤ段〜AT4速ギヤ段の何れかのATギヤ段が形成される。これ等のリニアソレノイドバルブSL1〜SL4は、電子制御装置80から供給される油圧制御指令信号Satに従ってクラッチC1、C2、ブレーキB1、B2を選択的に係合させるソレノイドバルブである。
図3は、電気式無段変速部18および機械式有段変速部20における各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。図3において、電気式無段変速部18を構成する差動機構32の3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に相当するサンギヤS0の回転速度(MG1回転速度ωg )を表すg軸であり、第1回転要素RE1に相当するキャリアCA0の回転速度(エンジン回転速度ωe )を表すe軸であり、第3回転要素RE3に相当するリングギヤR0の回転速度(MG2回転速度ωm 、AT入力回転速度ωi )を表すm軸である。また、機械式有段変速部20の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素RE4に相当するサンギヤS2の回転速度、第5回転要素RE5に相当する相互に連結されたリングギヤR1およびキャリアCA2の回転速度(出力回転速度ωo )、第6回転要素RE6に相当する相互に連結されたキャリアCA1およびリングギヤR2の回転速度、第7回転要素RE7に相当するサンギヤS1の回転速度、をそれぞれ表す軸である。縦線Y1、Y2、Y3の相互の間隔は、差動機構32のギヤ比(歯数比) ρ0に応じて定められる。また、縦線Y4、Y5、Y6、Y7の相互の間隔は、第1、第2遊星歯車装置36、38の各ギヤ比ρ1、ρ2に応じて定められる。
図3の共線図を用いて表現すれば、電気式無段変速部18の差動機構32において、第1回転要素RE1にエンジン14(図中の「ENG」参照) が連結され、第2回転要素RE2に第1回転機MG1(図中の「MG1」参照) が連結され、中間伝達部材30と一体回転する第3回転要素RE3に第2回転機MG2(図中の「MG2」参照) が連結されて、エンジン14の回転が中間伝達部材30を介して機械式有段変速部20へ伝達されるように構成されている。電気式無段変速部18では、縦線Y2を横切る各直線L0、L0Rにより、サンギヤS0、キャリアCA0、およびリングギヤR0の相互の回転速度の関係が示される。
また、機械式有段変速部20において、第4回転要素RE4はクラッチC1を介して中間伝達部材30に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸22に連結され、第6回転要素RE6はクラッチC2を介して中間伝達部材30に選択的に連結されると共にブレーキB2を介してケース16に選択的に連結され、第7回転要素RE7はブレーキB1を介してケース16に選択的に連結されるようになっている。機械式有段変速部20では、係合装置CBの係合解放制御によって縦線Y5を横切る各直線L1、L2、L3、L4、LRにより、各ATギヤ段「1st」、「2nd」、「3rd」、「4th」、「Rev」における各回転要素RE4〜RE7の相互の回転速度の関係が示される。Revは後進ギヤ段で、クラッチC1およびブレーキB2を係合したAT1速ギヤ段「1st」と同じであり、入力要素である第4回転要素RE4が逆回転方向へ回転駆動されることによって成立させられる。
図3中に実線で示す、直線L0および直線L1、L2、L3、L4は、少なくともエンジン14を駆動源として走行するエンジン走行が可能なハイブリッド走行モードでの前進走行における各回転要素の相対回転速度を示している。このハイブリッド走行モードでは、差動機構32において、キャリアCA0に入力されるエンジントルクTe に対して、第1回転機MG1による負トルク(回生トルク)である反力トルクTg が正回転にてサンギヤS0に入力されると、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるエンジン直達トルクTd 〔=Te /(1+ρ0) =−(1/ρ0) ×Tg 〕が現れる。そして、アクセル開度θacc 等の要求駆動力に応じて、エンジン直達トルクTd とMG2トルクTm との合算トルクが車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段〜AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された機械式有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。このとき、第1回転機MG1は正回転にて負トルクを発生する発電機として機能する。第1回転機MG1の発電電力Wg は、バッテリー52に充電されたり、第2回転機MG2にて消費される。第2回転機MG2は、発電電力Wg の全部または一部を用いて、或いは発電電力Wg に加えてバッテリー52からの電力を用いて、MG2トルクTm を出力する。
図3に図示はしていないが、エンジン14を停止させると共に第2回転機MG2を駆動源として走行するモータ走行が可能なモータ走行モードでの共線図では、差動機構32において、キャリアCA0はゼロ回転とされ、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるMG2トルクTm が入力される。このとき、サンギヤS0に連結された第1回転機MG1は、無負荷状態とされて負回転にて空転させられる。つまり、モータ走行モードでは、エンジン14は駆動されず、エンジン14の回転速度であるエンジン回転速度ωe はゼロとされ、MG2トルクTm (ここでは正回転の力行トルク) が車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段「1st」〜AT4速ギヤ段「4th」のうちの何れかのATギヤ段が形成された機械式有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。
図3中に破線で示す、直線L0Rおよび直線LRは、モータ走行モードでの後進走行における各回転要素の相対回転速度を示している。このモータ走行モードでの後進走行では、リングギヤR0には負回転にて負トルクとなるMG2トルクTm が入力され、そのMG2トルクTm が車両10の後進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段が形成された機械式有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。電子制御装置80は、AT1速ギヤ段「1st」〜AT4速ギヤ段「4th」のうちの前進用の低速側(ロー側) ギヤ段としてのAT1速ギヤ段「1st」を形成した状態で、前進用の電動機トルクである前進用のMG2トルクTm (ここでは正回転の正トルクとなる力行トルク;特にはMG2トルクTmFと表す) とは正負が反対となる後進用の電動機トルクである後進用のMG2トルクTm (ここでは負回転の負トルクとなる力行トルク;特にはMG2トルクTmRと表す) を第2回転機MG2から出力させることで後進走行を行うことができる。このように、本実施例の車両10では、前進用のATギヤ段(つまり前進走行を行うときと同じATギヤ段) を用いて、MG2トルクTm の正負を反転させることで後進走行を行う。ハイブリッド走行モードにおいても、エンジン14を正回転方向へ回転させたまま、直線L0Rのように第2回転機MG2を負回転とすることが可能であるので、モータ走行モードと同様に後進走行を行うことが可能である。なお、入力回転を反転して出力する後進用ギヤ段を有する機械式有段変速部を採用することもできる。
車両用駆動装置12では、エンジン14が動力伝達可能に連結された第1回転要素RE1としてのキャリアCA0と、第1回転機MG1が動力伝達可能に連結された第2回転要素RE2としてのサンギヤS0と、第2回転機MG2が動力伝達可能に連結された第3回転要素RE3としてのリングギヤR0と、の3つの回転要素を有する差動機構32を備えて、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される電気式無段変速部18が構成される。つまり、エンジン14が動力伝達可能に連結された差動機構32と、その差動機構32に動力伝達可能に連結された第1回転機MG1とを有して、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより、差動機構32の差動状態が制御される電気式無段変速部18が構成される。電気式無段変速部18は、中間伝達部材30の回転速度であるMG2回転速度ωm に対する連結軸34の回転速度(すなわちエンジン回転速度ωe )の変速比γ0(=ωe /ωm )が無段階(連続的)で変化させられる電気的な無段変速機として作動させることができる。
例えば、ハイブリッド走行モードにおいては、機械式有段変速部20にて所定のATギヤ段が形成されることで駆動輪28の回転に拘束されるリングギヤR0の回転速度に対して、第1回転機MG1の回転速度を制御することによってサンギヤS0の回転速度が上昇或いは下降させられると、キャリアCA0の回転速度(すなわちエンジン回転速度ωe )が上昇或いは下降させられる。従って、エンジン14を駆動源として走行するエンジン走行では、エンジン14を効率の良い運転点にて作動させることが可能である。つまり、所定のATギヤ段が形成された機械式有段変速部20と無段変速機として作動させられる電気式無段変速部18とで、車両用自動変速機40が全体として無段変速機を構成することができる。
また、電気式無段変速部18を有段変速機のように変速させることも可能であるので、ATギヤ段が形成される機械式有段変速部20と有段変速機のように変速させる電気式無段変速部18とで、車両用自動変速機40全体として有段変速機のように変速させることができる。つまり、車両用自動変速機40において、出力回転速度ωo に対するエンジン回転速度ωe の変速比γt(=ωe /ωo )が異なる複数のギヤ段(模擬ギヤ段と称する) の何れかを選択的に成立させるように、機械式有段変速部20と電気式無段変速部18とを協調制御することが可能である。変速比γtは、直列に配置された、電気式無段変速部18と機械式有段変速部20とで形成されるトータル変速比であって、電気式無段変速部18の変速比γ0と機械式有段変速部20の変速比γatとを乗算した値(γt=γ0×γat) となる。
複数の模擬ギヤ段は、例えば図5に示すように、それぞれの変速比γtを維持できるように出力回転速度ωo に応じて第1回転機MG1によりエンジン回転速度ωe を制御することによって成立させることができる。各模擬ギヤ段の変速比γtは必ずしも一定値(図5において原点0を通る直線)である必要はなく、所定範囲で変化させても良いし、各部の回転速度の上限や下限等によって制限が加えられても良い。図5は、複数の模擬ギヤ段として模擬1速ギヤ段〜模擬10速ギヤ段を有する10段変速が可能な場合である。この図5から明らかなように、複数の模擬ギヤ段は、出力回転速度ωo に応じてエンジン回転速度ωe を制御するだけで良く、機械式有段変速部20のATギヤ段の種類とは関係無く所定の模擬ギヤ段を成立させることができる。
模擬ギヤ段は、例えば機械式有段変速部20の各ATギヤ段と1または複数種類の電気式無段変速部18の変速比γ0との組合せによって、機械式有段変速部20の各ATギヤ段に対してそれぞれ1または複数種類を成立させるように割り当てられる。図6は、ギヤ段割当(ギヤ段割付) テーブルの一例であり、AT1速ギヤ段に対して模擬1速ギヤ段〜模擬3速ギヤ段が成立させられ、AT2速ギヤ段に対して模擬4速ギヤ段〜模擬6速ギヤ段が成立させられ、AT3速ギヤ段に対して模擬7速ギヤ段〜模擬9速ギヤ段が成立させられ、AT4速ギヤ段に対して模擬10速ギヤ段が成立させられるように予め定められている。図7は、図3と同じ共線図上において機械式有段変速部20のATギヤ段がAT2速ギヤ段の時に、模擬4速ギヤ段〜模擬6速ギヤが成立させられる場合を例示したものであり、出力回転速度ωo に対して所定の変速比γtを実現するエンジン回転速度ωe となるように電気式無段変速部18が制御されることによって、各模擬ギヤ段が成立させられる。
図1に戻って、車両10は、エンジン14、電気式無段変速部18、および機械式有段変速部20などの制御を行うコントローラとして機能する電子制御装置80を備えている。図1は、電子制御装置80の入出力系統を示す図であり、また、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、車両10の各種制御を実行する。電子制御装置80は変速制御装置に相当し、必要に応じてエンジン制御用やハイブリッド制御用、変速制御用等に分けて複数の電子制御装置を有して構成される。
電子制御装置80には、車両10に備えられたエンジン回転速度センサ60、MG1回転速度センサ62、MG2回転速度センサ64、出力回転速度センサ66、アクセル開度センサ68、スロットル弁開度センサ70、油温センサ72、シフトポジションセンサ76、バッテリーセンサ78などから、エンジン回転速度ωe 、第1回転機MG1の回転速度であるMG1回転速度ωg 、AT入力回転速度ωi であるMG2回転速度ωm 、車速Vに対応する出力回転速度ωo 、運転者の加速要求量(すなわちアクセルペダルの操作量) であるアクセル開度θacc 、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、油圧制御回路54の作動油温度toil 、車両10に備えられたシフト操作部材としてのシフトレバー56の操作位置(操作ポジション)POSsh、バッテリー52のバッテリー温度THbat やバッテリー充放電電流Ibat 、バッテリー電圧Vbat など、制御に必要な各種の情報が供給される。また、電子制御装置80からは、車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置、点火装置等のエンジン制御装置58、インバータ50、油圧制御回路54などに、エンジン14を制御するためのエンジン制御指令信号Se 、第1回転機MG1および第2回転機MG2を制御するための回転機制御指令信号Smg、ポンプ用電動機102および係合装置CBの作動状態を制御するための(すなわち機械式有段変速部20の変速を制御するための) 油圧制御指令信号Satなどが、それぞれ出力される。油圧制御指令信号Satは、例えば係合装置CBの各々の油圧アクチュエータ120〜126へ供給される各係合油圧Pcbを調圧する各リニアソレノイドバルブSL1〜SL4を駆動するための指令信号(駆動電流) である。
シフトレバー56の操作ポジションPOSshは、例えばP、R、N、D、Sポジションである。Pポジションは、係合装置CBの何れもの解放によって機械式有段変速部20が動力伝達不能なニュートラル状態とされ且つ機械的に出力軸22の回転が阻止(ロック) されるP(パーキング)レンジを選択する操作ポジションである。Rポジションは、機械式有段変速部20のAT1速ギヤ段が形成された状態で後進用のMG2トルクTmRにより車両10の後進走行を可能とするR(リバース)レンジを選択する操作ポジションである。Nポジションは、車両用自動変速機40がニュートラル状態とされるN(ニュートラル)レンジを選択する操作ポジションである。Dポジションは、機械式有段変速部20のAT1速ギヤ段〜AT4速ギヤ段の変速を伴って模擬1速ギヤ段〜模擬10速ギヤ段の総ての模擬ギヤ段を用いて自動変速制御を実行し、或いは電気式無段変速部18を無段階で変速する無段変速制御を実行して、前進走行を可能とするD(ドライブ)レンジを選択する操作ポジションである。Sポジションは、Dポジションに隣接して設けられており、Dレンジが選択された状態でシフトレバー56がSポジションへ操作されると、アップダウンスイッチやレバー等の手動操作(マニュアル操作)で機械式有段変速部20のAT1速ギヤ段〜AT4速ギヤ段の変速を伴って模擬1速ギヤ段〜模擬10速ギヤ段の任意の模擬ギヤ段を選択したり、高速側模擬ギヤ段への変速が制限された複数の変速レンジを選択したりすることが可能なS(シーケンシャル)モードを選択することができる。シフトレバー56は、人為的に操作されることで複数のレンジへ切り換えることができるレンジ切換操作部材に相当し、本実施例ではSモードを選択するSモード選択スイッチを兼ねている。
電子制御装置80は、例えばバッテリー充放電電流Ibat およびバッテリー電圧Vbat などに基づいてバッテリー52の蓄電残量(充電状態)SOCを算出する。また、電子制御装置80は、例えばバッテリー温度THbat およびバッテリー52の蓄電残量SOCに基づいて、バッテリー52の入力電力の制限を規定する充電可能電力(入力可能電力) Win、およびバッテリー52の出力電力の制限を規定する放電可能電力(出力可能電力) Wout を算出する。充放電可能電力Win、Wout は、例えばバッテリー温度THbat が常用域より低い低温域ではバッテリー温度THbat が低い程低くされ、また、バッテリー温度THbat が常用域より高い高温域ではバッテリー温度THbat が高い程低くされる。また、充電可能電力Winは、例えば蓄電残量SOCが大きな領域では蓄電残量SOCが大きい程小さくされる。放電可能電力Wout は、例えば蓄電残量SOCが小さな領域では蓄電残量SOCが小さい程小さくされる。
電子制御装置80は、車両10における各種制御を実行するために、ハイブリッド制御部82、無段変速制御部84、AT変速制御部86、および模擬有段変速制御部88を機能的に備えている。
ハイブリッド制御部82は、エンジン14の作動を制御するエンジン制御部としての機能と、インバータ50を介して第1回転機MG1および第2回転機MG2の作動を制御する回転機制御部としての機能を備えており、その制御機能によりエンジン14、第1回転機MG1、および第2回転機MG2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。例えばアクセル開度θacc および車速V等に基づいて要求駆動パワーPdem (見方を変えれば、そのときの車速Vにおける要求駆動トルクTdem )を算出し、バッテリー52の充放電可能電力Win、Wout 等を考慮して、要求駆動パワーPdem を実現するように、エンジン14、第1回転機MG1、および第2回転機MG2を制御する指令信号(エンジン制御指令信号Se および回転機制御指令信号Smg) を出力する。エンジン制御指令信号Se は、例えばそのときのエンジン回転速度ωe におけるエンジントルクTe を出力するエンジンパワーPe の指令値である。回転機制御指令信号Smgは、例えばエンジントルクTe の反力トルク(そのときのMG1回転速度ωg におけるMG1トルクTg )を出力する第1回転機MG1の発電電力Wg の指令値であり、また、そのときのMG2回転速度ωm におけるMG2トルクTm を出力する第2回転機MG2の消費電力Wm の指令値である。
ハイブリッド制御部82は、走行モードとして、モータ走行モード或いはハイブリッド走行モードを車両状態に応じて選択的に成立させる。例えば、要求駆動パワーPdem が予め定められた閾値よりも小さなモータ走行領域(例えば低車速で且つ低駆動トルクの領域)にある場合には、エンジン14を停止して第2回転機MG2だけで走行するモータ走行モードを成立させる一方で、要求駆動パワーPdem が予め定められた閾値以上となるハイブリッド走行領域にある場合には、エンジン14を作動させて走行するハイブリッド走行モードを成立させる。ハイブリッド走行モードでは、回生制御される第1回転機MG1からの電気エネルギーおよび/またはバッテリー52からの電気エネルギーを第2回転機MG2へ供給し、その第2回転機MG2を駆動(力行制御)して駆動輪28にトルクを付与することにより、エンジン14の動力を補助するためのトルクアシストを必要に応じて実行する。また、モータ走行領域であっても、バッテリー52の蓄電残量SOCや放電可能電力Wout が予め定められた閾値未満の場合には、ハイブリッド走行モードを成立させる。モータ走行モードからハイブリッド走行モードへ移行する際のエンジン14の始動は、走行中か停車中かに拘らず、例えば第1回転機MG1によりエンジン回転速度ωe を引き上げてクランキングすることにより行うことができる。
無段変速制御部84は、電気式無段変速部18を無段変速機として作動させて車両用自動変速機40全体として無段変速機として作動させるもので、例えばエンジン最適燃費線等を考慮して、要求駆動パワーPdem を実現するエンジンパワーPe が得られるエンジン回転速度ωe とエンジントルクTe となるように、エンジン14を制御すると共に第1回転機MG1の発電電力Wg を制御することで、電気式無段変速部18の無段変速制御を実行して電気式無段変速部18の変速比γ0を変化させる。この制御の結果として、車両用自動変速機40を無段変速機として作動させた場合の全体の変速比γtが制御される。
AT変速制御部86は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された(すなわち予め定められた) ATギヤ段変速マップを用いて機械式有段変速部20の変速判断を行い、必要に応じて機械式有段変速部20の変速制御を実行して機械式有段変速部20のAT1速ギヤ段〜AT4速ギヤ段を自動的に切り換えるように、ソレノイドバルブSL1〜SL4により係合装置CBの係合解放状態を切り換えるための油圧制御指令信号Satを油圧制御回路54へ出力する。上記ATギヤ段変速マップは変速条件で、例えば図8に「AT」を付して示した変速線にて定められており、実線はアップ変速線で破線はダウン変速線であり、所定のヒステリシスが設けられている。この変速マップは、例えば出力回転速度ωo (ここでは車速Vなども同意) およびアクセル開度θacc (ここでは要求駆動トルクTdem やスロットル弁開度θthなども同意) をパラメータとする二次元座標上に定められており、出力回転速度ωo が高くなるに従って変速比γatが小さい高速側(ハイ側)のATギヤ段に切り換えられ、アクセル開度θacc が大きくなるに従って変速比γatが大きい低速側(ロー側)のATギヤ段に切り換えられるように定められている。AT変速制御部86はまた、運転者のマニュアル操作による模擬ギヤ段の変速指示によっても、図6の割当テーブルに従って必要に応じてATギヤ段を切り換える。例えば模擬3速ギヤ段と模擬4速ギヤ段との変速を含む場合はAT1速ギヤ段とAT2速ギヤ段との間の変速を行い、模擬6速ギヤ段と模擬7速ギヤ段との変速を含む場合はAT2速ギヤ段とAT3速ギヤ段との間の変速を行い、模擬9速ギヤ段と模擬10速ギヤ段との変速を含む場合はAT3速ギヤ段とAT4速ギヤ段との間の変速を行なう。
模擬有段変速制御部88は、電気式無段変速部18を有段変速機のように変速させて車両用自動変速機40全体として有段変速機のように変速させるものである。模擬有段変速制御部88は、予め定められた模擬ギヤ段変速マップを用いて車両用自動変速機40の変速判断を行い、AT変速制御部86による機械式有段変速部20のATギヤ段の変速制御と協調して、前記複数の模擬ギヤ段の何れかを選択的に成立させるように電気式無段変速部18の変速制御(有段変速)を実行する。模擬ギヤ段変速マップは、ATギヤ段変速マップと同様に出力回転速度ωo およびアクセル開度θacc をパラメータとして予め定められた変速条件である。図8は、模擬ギヤ段変速マップの一例であって、実線はアップ変速線であり、破線はダウン変速線である。模擬ギヤ段変速マップに従って模擬ギヤ段が切り換えられることにより、電気式無段変速部18と機械式有段変速部20とが直列に配置された車両用自動変速機40全体として有段変速機と同様の変速フィーリングが得られる。車両用自動変速機40全体として有段変速機のように変速させる模擬有段変速制御は、例えば運転者によってスポーツ走行モード等の走行性能重視の走行モードが選択された場合や要求駆動トルクTdem が比較的大きい場合に、車両用自動変速機40全体として無段変速機として作動させる無段変速制御に優先して実行するだけでも良いが、所定の実行制限時を除いて基本的に模擬有段変速制御が実行されても良い。模擬有段変速制御部88はまた、運転者のアップダウンスイッチ等のマニュアル操作による変速指示によっても、その変速指示に応じて模擬ギヤ段を切り換える。
模擬有段変速制御部88による模擬有段変速制御と、AT変速制御部86による機械式有段変速部20の変速制御とは、協調して実行される。本実施例では、AT1速ギヤ段〜AT4速ギヤ段の4種類のATギヤ段に対して、模擬1速ギヤ段〜模擬10速ギヤ段の10種類の模擬ギヤ段が割り当てられている。このようなことから、模擬3速ギヤ段と模擬4速ギヤ段との間での変速(模擬3⇔4変速と表す) が行われるときにAT1速ギヤ段とAT2速ギヤ段との間での変速(AT1⇔2変速と表す) が行なわれ、また、模擬6⇔7変速が行われるときにAT2⇔3変速が行なわれ、また、模擬9⇔10変速が行われるときにAT3⇔4変速が行なわれる(図6、図8参照) 。そのため、模擬ギヤ段の変速タイミングと同じタイミングでATギヤ段の変速が行なわれるように、ATギヤ段変速マップが定められている。具体的には、図8における模擬ギヤ段の「3→4」、「6→7」、「9→10」の各アップ変速線は、ATギヤ段変速マップの「1→2」、「2→3」、「3→4」の各アップ変速線と一致している(図8中に記載した「AT1→2」等参照) 。また、図8における模擬ギヤ段の「3←4」、「6←7」、「9←10」の各ダウン変速線は、ATギヤ段変速マップの「1←2」、「2←3」、「3←4」の各ダウン変速線と一致している(図8中に記載した「AT1←2」等参照) 。または、図8の模擬ギヤ段変速マップによる模擬ギヤ段の変速判断に基づいて、ATギヤ段の変速指令をAT変速制御部86に対して出力するようにしても良い。このように、AT変速制御部86は、機械式有段変速部20のATギヤ段の切換えを、模擬ギヤ段が切り換えられるときに行う。模擬ギヤ段の変速タイミングと同じタイミングでATギヤ段の変速が行なわれるため、エンジン回転速度ωe の変化を伴って機械式有段変速部20の変速が行なわれるようになり、その機械式有段変速部20の変速に伴うショックがあっても運転者に違和感を与え難くされる。
模擬有段変速制御部88には、模擬ギヤ段およびATギヤ段の変速応答時間の相違に拘らず両者の変速時のイナーシャ相の少なくとも一部が重複するように、模擬ギヤ段の変速指令出力を遅延させる同期変速制御部が必要に応じて設けられる。変速指令出力の遅延を解除するタイミングは、例えばATギヤ段の変速指令出力後の経過時間が、予め定められた遅延時間に達したか否かによって判断できるが、ATギヤ段の変速時の中間伝達部材30の回転速度変化(MG2回転速度ωm の変化)からイナーシャ相開始を検出するようにしても良い。
電子制御装置80はまた、図1に示されるように故障診断部(OBD;On Board Diagnosis)90、変速制限部92、および復帰制御部94を機能的に備えている。
故障診断部90は、変速制御を含む各種のコントロールシステムやセンサ、アクチュエータ等の故障診断を行なうとともに、表示器に異常表示したり故障内容を記憶したりする。また、必要に応じて故障内容に応じて予め定められたフェールセーフを実施する。
変速制限部92は、予め定められた禁止条件に従って機械式有段変速部20のAT1速ギヤ段〜AT4速ギヤ段の中の何れかのATギヤ段(禁止ATギヤ段)への変速を禁止するものである。例えば、油圧制御の精度が悪くなる低油温時、すなわち作動油温度toil が予め定められた低油温判定値toil*以下である場合を禁止条件として、変速ショック等を抑制するために、機械式有段変速部20の変速頻度が少なくなるように、例えばAT3速ギヤ段以上の高速側ATギヤ段への変速を禁止する。必要に応じてAT2速ギヤ段以上の高速側ATギヤ段への変速を禁止してAT1速ギヤ段に固定したり、AT4速ギヤ段のみ禁止したりしても良い。バッテリー温度THbat が低い場合や第2回転機MG2の温度が高い時なども、バッテリー52の充放電制限によって変速制御が損なわれる可能性があるため、低油温時と同様に所定のATギヤ段への変速を禁止しても良い。また、ATギヤ段の変速に関与する前記リニアソレノイドバルブSL1〜SL4のバルブスティック(異物噛み込みなど)等によるフェール時も、そのフェールを禁止条件として、関係するATギヤ段への変速が禁止される。人為的操作やその他の要因を禁止条件として、所定のATギヤ段(禁止ATギヤ段)への変速を禁止することもできる。一方、このように禁止ATギヤ段への変速が禁止される場合でも、模擬ギヤ段については、その禁止ATギヤ段に対応する(割り当てられた)模擬ギヤ段への変速が許容される。また、作動油温度toil が低油温判定値toil*を超えたりバルブスティックが解消したりして、禁止ATギヤ段への変速に関する解除条件が成立した場合には、その変速禁止を解除する。
ここで、上記変速制限部92によって機械式有段変速部20の所定の禁止ATギヤ段への変速が禁止されると、その変速禁止によって模擬ギヤ段とATギヤ段との割当関係がずれるアサイン崩れが発生する可能性がある。その場合に、変速禁止が解除されると、ATギヤ段の単独変速が行なわれて変速ショック等による違和感を生じさせる可能性がある。模擬ギヤ段の変速タイミングに合わせてATギヤ段を変速すれば、エンジン回転速度ωe の変化を伴ってATギヤ段の変速が行なわれるため、変速ショック等による違和感を抑制できるが、ATギヤ段の変速が遅くなってアサイン状態が長引くことにより、故障診断部90が誤った故障診断を行なったり燃費やNV性能が悪化したりする恐れがある。
前記復帰制御部94は、このように変速制限部92による禁止ATギヤ段への変速禁止が解除された場合に、変速ショック等による違和感を抑制するとともに、故障診断部90の誤診断や燃費、NV性能の悪化を抑制しつつ、模擬有段変速制御部88による通常の模擬有段変速制御、すなわち図6に示す割当テーブル通りの変速制御へ復帰させるもので、図9のステップS1〜S6(以下、単にS1〜S6という)に従って信号処理を行なう。
図9のS1では、変速制限部92による禁止ATギヤ段への変速禁止を解除する解除条件が成立したか否かを判断する。具体的には、例えば作動油温度toil が低油温判定値toil*を超えたか否か、バルブスティックが解消したか否か、等を判断するが、変速制限部92から解除条件が成立したか否かの情報を読み込むようにしても良い。そして、解除条件が成立した場合には、S2以下を実行する。
S2では、禁止ATギヤ段への変速禁止の解除に拘らずATギヤ段および模擬ギヤ段の変速が何れも不要な車両状態か否かを判断する。図10は、模擬6速ギヤ段から模擬8速ギヤ段までのアップ変速に関する変速マップで、模擬6→7アップ変速線(模擬6速ギヤ段から模擬7速ギヤ段へのアップ変速線)はAT2→3のアップ変速線と共通である。この変速マップは、アクセル開度θacc および車速V(出力回転速度ωo でも実質的に同じ)をパラメータとして定められており、車速Vが高くなるに従って模擬ギヤ段やATギヤ段を高速側ギヤ段へ変速させるように定められている。そして、例えば作動油温度toil が低油温判定値toil*以下で、AT3速ギヤ段以上への変速が禁止された場合の解除時に、斜線で示すように模擬6→7アップ変速線よりも低車速側の車両状態で、模擬ギヤ段が模擬6速ギヤ段以下であり、且つATギヤ段がAT2速ギヤ段以下の場合は、AT3速ギヤ段以上の禁止ATギヤ段への変速禁止の解除に拘らずATギヤ段および模擬ギヤ段共に変速が不要で、S2の判断はYES(肯定)になる。S2は復帰条件Iで、このように変速が不要であれば、禁止ATギヤ段への変速禁止を直ちに解除しても何等問題が無いため、S6を実行して禁止ATギヤ段への変速禁止を解除する。これにより、その後の車両状態の変化に応じて、模擬有段変速制御部88により図6に示す割当テーブル通りの通常の変速制御が行なわれる。なお、バルブフェール等によって低速側のATギヤ段や中間のATギヤ段への変速が禁止され、復帰時にダウン変速の可能性がある場合は、ダウン変速マップ等に基づいてS2の判断を行なえば良い。図10は、実質的に図8の変速マップと同じである。
S2の判断がNO(否定)の場合、すなわち禁止ATギヤ段への変速禁止の解除に伴ってその禁止ATギヤ段へ変速する必要がある場合には、S3を実行し、低負荷で且つ定常走行状態の車両状態か否かを判断する。低負荷か否かは、例えばエンジン回転速度ωe やアクセル開度θacc 、スロットル弁開度θth、AT入力トルク等の全部または一部が、それぞれ予め定められた低負荷判定値以下か否かによって判断できる。定常走行状態か否かは、例えばエンジン回転速度ωe やアクセル開度θacc 、スロットル弁開度θth、車速V、AT入力トルク等の全部または一部の変化が、それぞれ予め定められた定常判定値以下か否かによって判断できる。このS3は復帰条件IIで、このように低負荷で且つ定常走行状態の場合には、ATギヤ段の変速制御が容易で変速ショックが比較的小さくなるため、模擬ギヤ段の変速の有無に拘らずS6を実行して禁止ATギヤ段への変速禁止を解除する。これにより、多少の変速ショック等による違和感を生じさせる可能性があるものの、アサイン崩れを速やかに解消して模擬有段変速制御部88による通常の変速制御へ復帰することにより、故障診断部90による誤診断や燃費、NV性能の悪化を抑制することができる。
図11は、作動油温度toil が低油温判定値toil*以下で、AT3速ギヤ段以上への変速が禁止されている状態から、低油温判定値toil*を超えてAT3速ギヤ段以上への変速禁止が解除された場合のタイムチャートの一例である。時間t1は、作動油温度toil が低油温判定値toil*を超えて解除条件が成立し、S1の判断がYESになった時間である。時間t1よりも前では、例えば図10のA点のように模擬ギヤ段は7速で、ATギヤ段はAT3速ギヤ段への変速禁止によってAT2速ギヤ段に制限されている。その場合、変速禁止の解除に伴ってAT2→3の単独アップ変速が必要であるが、復帰条件IIを満足する場合は、変速ショックが比較的小さいため、そのままAT2→3の単独アップ変速を実行することで、模擬有段変速制御部88による通常の変速制御へ速やかに復帰することにより、アサイン崩れによる故障診断部90の誤診断や燃費、NV性能の悪化を優先的に解消することができる。図11の実線は、復帰条件IIが成立して直ちにAT2→3の単独アップ変速が行なわれた場合である。
S3の判断がNOの場合、すなわち禁止ATギヤ段への変速禁止の解除に伴ってその禁止ATギヤ段へ変速する必要があるとともに、低負荷で且つ定常走行状態である復帰条件IIを満たさない場合には、S4を実行し、模擬ギヤ段の変速を伴うATギヤ段変速となる車両状態か否かを判断する。例えば、図10においてB点からC点へ車速Vが変化した場合、模擬7速ギヤ段から模擬8速ギヤ段へのアップ変速判断が為され、模擬ギヤ段およびATギヤ段の同時変速になることでS4の判断はYESになる。S5では、低負荷で且つバッテリー充電制限が無い車両状態か否か、すなわち模擬ギヤ段およびATギヤ段の同時変速を適切に行なうことができるか否かを判断する。低負荷か否かは、例えばエンジン回転速度ωe やアクセル開度θacc 、スロットル弁開度θth、AT入力トルク等の全部または一部が、それぞれ予め定められた低負荷判定値以下か否かによって判断できる。バッテリー充電制限が無いか否かは、例えばバッテリー52の充電可能電力Winが予め定められた充電制限判定値Win* 以下か否かによって判断できる。このように低負荷領域で且つバッテリー52の充電制限が無い場合には、車両駆動状態で車速Vの上昇に伴うAT2→3アップ変速時に、第2回転機MG2の回生制御で中間伝達部材30の回転速度ωi を低下させることにより、変速ショックを適切に抑制することが可能である。
上記S4およびS5は復帰条件III で、何れか一方の判断がNOの場合はS2以下を繰り返し実行する。その場合に、S4はYESでS5がNOの場合、模擬ギヤ段の変速のみが行なわれる。また、S4およびS5の判断が何れもYESの場合は、S6を実行して禁止ATギヤ段への変速禁止を解除する。この場合は、模擬ギヤ段の変速を伴うことでエンジン回転速度ωe が変化するとともに、第2回転機MG2の回生制御でAT2→3アップ変速時のイナーシャを適切に吸収できるため、加減速走行時などでも変速ショック等による違和感を適切に抑制できる。すなわち、加減速走行時にATギヤ段の単独変速を行なうと変速ショック等で違和感を生じさせる可能性が高いため、アサイン崩れによって故障診断部90による誤診断や燃費、NV性能の悪化が長引く可能性があるものの、模擬ギヤ段との同時変速になる車両状態になるまで待つことにより、模擬ギヤ段との同時変速により変速ショック等による違和感の発生を優先的に抑制するのである。図11のタイムチャートの破線は、復帰条件III に従って復帰制御が行なわれた場合で、車速Vの増加に伴って模擬ギヤ段の7→8アップ変速が行なわれる時間t2まで待って、ATギヤ段の2→3アップ変速が行なわれた場合である。なお、復帰条件II(S3)に従って2→3アップ変速が行なわれる場合も、車両駆動状態の時には第2回転機MG2の回生制御で変速時のイナーシャを吸収することが望ましく、復帰条件IIにもバッテリー52の充電制限に関する条件を加えることができる。また、S5を省略し、S4の判断がYESになった場合には、そのままS6を実行して禁止ATギヤ段への変速禁止を解除するようにしても良い。
このように本実施例の車両10の変速制御装置(電子制御装置80)によれば、模擬有段変速制御部88により車両用自動変速機40全体の変速比γtが異なる複数の模擬ギヤ段が成立させられるため、手動変速または自動変速による模擬ギヤ段の変速時にエンジン回転速度ωe が段階的に増減変化させられるようになり、機械式有段変速機と同様の変速フィーリングが得られる。例えば加速時に車速Vの増加に伴って模擬ギヤ段が連続的にアップ変速されると、その模擬ギヤ段の変化に応じてエンジン回転速度ωe がリズミカルに増減変化させられるため、優れた加速フィーリングが得られる。
また、複数のATギヤ段のそれぞれに対して1以上の模擬ギヤ段を成立させるように割り当てられ、模擬ギヤ段の変速タイミングと同じタイミングでATギヤ段の変速が行なわれるため、ATギヤ段の変速時には同時に模擬ギヤ段も変速され、エンジン14の回転速度変化を伴って機械式有段変速部20の変速が行なわれるようになり、機械式有段変速部20の変速ショック等による違和感が抑制されてドラビリが向上する。
また、変速制限部92による禁止ATギヤ段への変速禁止の解除条件を満たした場合に、模擬ギヤ段の変速を伴うことを条件として禁止ATギヤ段への変速を許容する復帰条件III の他に、模擬ギヤ段の変速を伴うことなく禁止ATギヤ段への変速を許容する復帰条件IIや、模擬ギヤ段およびATギヤ段の変速が何れも不要な場合の復帰条件Iが定められ、その3種類の復帰条件に従って禁止ATギヤ段への変速禁止が解除されるため、車両状態に応じて変速ショックが優先的に防止され、或いは故障診断部90の誤診断や燃費、NV性能の悪化が優先的に防止されて、それ等の両立を図ることができる。
具体的には、禁止ATギヤ段への変速禁止の解除に拘らずATギヤ段および模擬ギヤ段の変速が共に不要である車両状態の場合、すなわち復帰条件I(S2)が成立して禁止ATギヤ段への変速禁止が解除される場合は、変速ショックが発生する恐れが無く、模擬有段変速制御部88による割当テーブル通りの通常の変速制御へ速やかに復帰することにより、故障診断部90の誤診断や燃費、NV性能の悪化等が適切に抑制される。
また、低負荷で且つ定常走行状態である車両状態の場合、すなわち復帰条件II(S3)が成立して禁止ATギヤ段への変速禁止が解除される場合は、ATギヤ段の変速制御が容易で変速ショックが比較的小さいため、多少の変速ショック等による違和感を生じさせる可能性があるものの、アサイン崩れを速やかに解消して模擬有段変速制御部88による通常の変速制御へ復帰することにより、故障診断部90の誤診断や燃費、NV性能の悪化等を優先的に抑制することができる。
また、模擬ギヤ段の変速を伴うとともに低負荷で且つバッテリー充電制限が無い車両状態の場合、すなわち復帰条件III (S4およびS5)が成立して禁止ATギヤ段への変速禁止が解除される場合は、模擬ギヤ段の変速を伴うことでエンジン回転速度ωe が変化するとともに、第2回転機MG2の回生制御でAT2→3アップ変速時のイナーシャを適切に吸収できるため、加減速走行時などでも変速ショック等による違和感を適切に抑制することができる。すなわち、加減速走行時にATギヤ段の単独変速を行なうと変速ショック等で違和感を生じさせる可能性が高いため、アサイン崩れによって故障診断部90による誤診断や燃費、NV性能の悪化が長引く可能性があるものの、模擬ギヤ段との同時変速まで待つことにより変速ショック等による違和感の発生を優先的に抑制するのである。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。