本発明に係るレーザ治療装置の実施形態の例を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施形態において、上記特許文献に記載された技術を任意に援用することが可能である。また、以下に説明する実施形態及び変形例のいくつかを任意に組み合わせることができる。
方向を定義しておく。装置光学系から患者に向かう方向を前方向とし、その逆方向を後方向とする。また、前方向に直交する水平方向を左右方向とする。更に、前後方向と左右方向の双方に直交する方向を上下方向とする。
〈第1の実施形態〉
[構成]
本実施形態に係るレーザ治療装置1の構成の一例を図1に示す。レーザ治療装置1は、患者眼Eに対してレーザ治療を施すために使用される。レーザ治療は、眼底Efや隅角に対して施される。隅角は、角膜Ecと虹彩Eiとが接触している部位である。図1に示す符号Elは水晶体を示す。
レーザ治療装置1は、光源ユニット2と、スリットランプ顕微鏡3と、光ファイバ4と、処理ユニット5と、操作ユニット6と、表示ユニット7とを備える。なお、スリットランプ顕微鏡3に代えて、手術用顕微鏡や、倒像鏡や、眼内挿入タイプの観察装置などを用いてもよい。
光源ユニット2とスリットランプ顕微鏡3は、光ファイバ4を介して光学的に接続されている。光ファイバ4は、1つ以上の導光路を有する。光源ユニット2と処理ユニット5は、信号を伝送可能に接続されている。スリットランプ顕微鏡3と処理ユニット5は、信号を伝送可能に接続されている。操作ユニット6と処理ユニット5は、信号を伝送可能に接続されている。信号の伝送形態は有線でも無線でもよい。
処理ユニット5は、ハードウェアとソフトウェアとの協働によって動作するコンピュータを含む。処理ユニット5が実行する処理については後述する。操作ユニット6は、各種のハードウェアキー及び/又はソフトウェアキー(GUI)を含んで構成される。ハードウェアキーの例として、スリットランプ顕微鏡3に設けられたボタン・ハンドル・ノブや、スリットランプ顕微鏡3に接続されたコンピュータ(処理ユニット5等)に設けられたキーボード・ポインティングデバイス(マウス・トラックボール等)や、別途に設けられたフットスイッチ・操作パネルなどがある。ソフトウェアキーは、たとえばスリットランプ顕微鏡3や上記コンピュータに設けられた表示デバイスに表示される。
(光源ユニット2)
光源ユニット2は、患者眼Eに照射される光を発生する。光源ユニット2は、照準光源2aと、治療光源2bと、ガルバノミラー2cと、遮光板2dとを含む。なお、図1に示す部材以外の部材を光源ユニット2に設けることができる。たとえば、光ファイバ4の直前位置に、光源ユニット2により発生された光を光ファイバ4の端面に入射させる光学素子(レンズ等)を設けることができる。
(照準光源2a)
照準光源2aは、レーザ治療を施す部位に照準を合わせるための照準光LAを発生する。照準光源2aとしては任意の光源が用いられる。たとえば、患者眼Eを目視観察しつつ照準を合わせる構成が適用される場合、術者眼E0により認識可能な可視光を発する光源(レーザ光源、発光ダイオード等)が照準光源2aとして用いられる。また、患者眼Eの撮影画像を観察しつつ照準を合わせる構成が適用される場合、撮影画像を取得するための撮像素子が感度を有する波長帯の光を発する光源(レーザ光源、発光ダイオード等)が照準光源2aとして用いられる。照準光LAは、ガルバノミラー2cに導かれる。照準光源2aの動作は、処理ユニット5により制御される。
(治療光源2b)
治療光源2bは、治療用のレーザ光(治療光LT)を発する。治療光LTは、その用途に応じて可視レーザ光でも不可視レーザ光でもよい。また、治療光源2bは、異なる波長のレーザ光を発する単一のレーザ光源又は複数のレーザ光源であってよい。治療光LTは、ガルバノミラー2cに導かれる。治療光源2bの動作は、処理ユニット5により制御される。
(ガルバノミラー2c)
ガルバノミラー2cは、反射面を有するミラーと、ミラーの向き(反射面の向き)を変更するアクチュエータとを含んで構成される。照準光LAと治療光LTは、ガルバノミラー2cの反射面の同じ位置に到達するようになっている。なお、照準光LAと治療光LTをまとめて「照射光」と呼ぶことがある。ガルバノミラー2c(の反射面)の向きは、少なくとも、照射光を光ファイバ4に向けて反射させる向き(照射用向き)と、照射光を遮光板2dに向けて反射させる向き(停止用向き)とに変更される。ガルバノミラー2cの動作は、処理ユニット5により制御される。
(遮光板2d)
ガルバノミラー2cが停止用向きに配置されている場合、照射光は遮光板2dに到達する。遮光板2dは、たとえば照射光を吸収する材質及び/又は形態からなる部材であり、遮光作用を有する。
本実施形態では、照準光源2aと治療光源2bは、それぞれ連続的に光を発生する。そして、ガルバノミラー2cを照射用向きに配置させることで、照射光を患者眼Eに照射させる。また、ガルバノミラー2cを停止用向きに配置させることで、患者眼Eに対する照射光の照射を停止させる。
他の実施形態において、照準光源2a及び/又は治療光源2bは、断続的に光を発生可能に構成されてよい。すなわち、照準光源2a及び/又は治療光源2bは、パルス光を発生可能に構成されてよい。そのためのパルス制御は処理ユニット5により実行される。この構成が適用される場合、ガルバノミラー2c及び遮光板2dを設ける必要はない。
(スリットランプ顕微鏡3)
スリットランプ顕微鏡3は、患者眼Eの前眼部及び眼底Efの観察に用いられる装置である。より詳しく説明すると、スリットランプ顕微鏡3は、患者眼Eをスリット光で照明し、この照明野を拡大観察するための眼科装置である。なお、「観察」には、肉眼での観察と、撮像素子による撮影画像の観察の一方又は双方が含まれる。
スリットランプ顕微鏡3は、照明部3aと、観察部3bと、接眼部3cと、レーザ照射部3dとを含む。照明部3aには、図2に示す照明系10が格納されている。観察部3bと接眼部3cには観察系30が格納されている。観察部30dには更に撮影系40が格納されている。レーザ照射部3dにはレーザ照射系50が格納されている。
図示は省略するが、スリットランプ顕微鏡3には、従来と同様に、レバー、ハンドル、ボタン、ノブ等の操作部材が設けられている。これら操作部材は、機能的に操作ユニット6に含まれる。図1に示す構成では、操作ユニット6からの信号を受けた処理ユニット5がスリットランプ顕微鏡3を制御するようになっているが、このような電気的な駆動力を用いて動作する機構だけでなく、操作者が印加した駆動力を用いて動作する機構を適用することもできる。
(スリットランプ顕微鏡3の光学系)
図2を参照してスリットランプ顕微鏡3の光学系について説明する。患者眼Eには、眼底Efや隅角のレーザ治療に用いられるコンタクトレンズCLが当接される。スリットランプ顕微鏡3は、照明系10と、観察系30と、撮影系40と、レーザ照射系50とを含む。
(照明系10)
照明系10は、患者眼Eを観察するための照明光を出力する。照明部3aは、照明系10の光軸(照明光軸)10aの向きを左右方向及び上下方向に変更可能に構成されている。それにより、患者眼Eの照明方向を任意に変更することができる。
照明系10は、光源11と、集光レンズ12と、フィルタ13、14及び15と、スリット絞り16と、結像レンズ17、18及び19と、偏向部材20とを含む。
光源11は照明光を出力する。照明系10に複数の光源を設けてもよい。たとえば、定常光を出力する光源(ハロゲンランプ、LED等)と、フラッシュ光を出力する光源(キセノンランプ、LED等)の双方を光源11として設けることができる。また、前眼部観察用の光源と眼底観察用の光源とを別々に設けてもよい。光源11は、少なくとも可視光を出力する。光源11は、更に赤外光を出力可能であってよい。また、可視光を出力する可視光源と、赤外光を出力する赤外光源の双方を光源11として設けることができる。集光レンズ12は、光源11から出力された光を集めるレンズ(系)である。光源11の動作は、処理ユニット5により制御される。
フィルタ13〜15は、それぞれ、照明光の特定の成分を除去又は弱める作用を持つ光学素子である。フィルタ13〜15としては、たとえば、ブルーフィルタ、無赤色フィルタ、減光フィルタ、防熱フィルタ、角膜蛍光フィルタ、色温度変換フィルタ、演色性変換フィルタ、紫外線カットフィルタ、赤外線カットフィルタ、可視光カットフィルタなどがある。各フィルタ13〜15は、照明光の光路に対して挿脱可能とされている。フィルタ13〜15の挿脱は、処理ユニット5により制御される。
スリット絞り16は、スリット光(細隙光)を生成するためのスリットを形成する。スリット絞り16は、一対のスリット刃を含む。これらスリット刃の間隔を変更することによりスリット幅が変更される。また、これらスリット刃を一体的に回転させることによりスリットの向きが変更される。このときの回転中心は照明光軸10aである。スリット絞り16以外の絞り部材を照明系10に設けることができる。この絞り部材の例として、照明光の光量を変更するための照明絞りや、照明野のサイズを変更するための照明野絞りがある。また、これら絞り部材以外の部材を用いて照明光の光量や照明野のサイズを変更することが可能である。このような部材の例として液晶シャッタがある。スリット絞り16、照明絞り、照明野絞り、及び液晶シャッタのそれぞれの動作は、処理ユニット5により制御される。
結像レンズ17、18及び19は、照明光の像を形成するためのレンズ系である。偏向部材20は、結像レンズ17、18及び19を経由した照明光を偏向して患者眼Eに照射させる。偏向部材20としては、たとえば反射ミラー又は反射プリズムが用いられる。
上記以外の部材を照明系10に設けることができる。たとえば、偏向部材20の後段に、拡散板を挿脱可能に設けることができる。拡散板は、照明光を拡散することにより、照明野の明るさを一様にする。また、照明光による照明野の背景領域を照明する背景光源を設けることができる。
(観察系30)
観察系30は、患者眼Eからの照明光の戻り光を術者眼E0に案内する光学系である。観察系30は、左右両眼での観察を可能とする左右一対の光学系を含む。左右の光学系は実質的に同一の構成を有するので、図2には一方の光学系のみが示されている。
観察部3bは、観察系30の光軸(観察光軸)30aの向きを左右方向及び上下方向に変更可能に構成されている。それにより、患者眼Eの観察方向を任意に変更することができる。
観察系30は、対物レンズ31と、変倍レンズ32及び33と、保護フィルタ34と、結像レンズ35と、偏向部36と、視野絞り37と、接眼レンズ38とを含む。
対物レンズ31は、患者眼Eに対峙する位置に配置される。変倍レンズ32及び33は、変倍光学系(ズームレンズ系)を構成する。各変倍レンズ32及び33は、観察光軸30aに沿って移動可能とされている。変倍光学系の他の例として、観察系30の光路に対して選択的に挿入可能な複数の変倍レンズ群を設けることができる。これら変倍レンズ群は、それぞれ異なる倍率を付与するように構成されている。観察系30の光路に配置された変倍レンズ群が変倍レンズ32及び33として用いられる。このような変倍光学系により、患者眼Eの肉眼観察像や撮影画像の倍率(画角)を変更できる。倍率の変更は、たとえば、操作ユニット6に含まれる観察倍率操作ノブを操作することにより行われる。また、操作ユニット6に含まれるスイッチ等による操作に基づいて、処理ユニット5が倍率を制御するようにしてもよい。
保護フィルタ34は、治療光LTを遮蔽するフィルタである。それにより、術者眼E0をレーザ光から保護することができる。保護フィルタ34は、たとえば、レーザ治療(又はレーザ出力)の開始トリガに対応して光路に挿入される。通常の観察時には、保護フィルタ34は光路から退避される。保護フィルタ34の挿脱は、処理ユニット5により制御される。また、見かけ上の色味の変化を減少させる多層膜構造のフィルタを用いることも可能である。このフィルタは、たとえば常に光路に配置される。
結像レンズ35は、患者眼Eの像を結ばせるレンズ(系)である。偏向部36は、光の進行方向を術者の眼幅に合わせるように平行移動させる光学部材であり、プリズム36a及び36bを含んで構成される。接眼レンズ38は偏向部36と一体的に移動する。偏向部36と接眼レンズ38は接眼部3cに格納されている。観察系30における他の部材は、観察部3bに格納されている。
(撮影系40)
撮影系40は、患者眼Eを撮影するための光学系である。撮影系40は、ビームスプリッタ41と、結像レンズ42と、イメージセンサ43とを含む。撮影系40は観察系30から分岐している。ビームスプリッタ41は、観察系30の結像レンズ35と偏向部36との間に配置されている。ビームスプリッタ41は、たとえばハーフミラーである。結像レンズ41は、患者眼Eの像をイメージセンサ43上に結ばせるレンズ(系)である。イメージセンサ43は、たとえば、CCDやCMOS等の撮像素子を含むエリアセンサである。イメージセンサ43から出力される信号(画像信号、映像信号)は、処理ユニット5に送られる。
観察系30における左右の光学系の双方に撮影系40が設けられてもよいし、一方のみに撮影系40が設けられてもよい。左右双方の撮影系40が設けられる場合、患者眼Eの立体画像(ステレオ画像)を取得することが可能である。立体画像は静止画像又は動画像である。立体画像は、後述の立体視を行う場合などに利用される。
(レーザ照射系50)
レーザ照射系50は、光源ユニット2から光ファイバ4を介してスリットランプ顕微鏡3に伝送された照射光を患者眼Eに導く光学系である。レーザ照射系50は、コリメータレンズ51と、光スキャナ52と、ミラー53と、リレーレンズ54及び55と、ミラー56と、コリメータレンズ57と、偏向部材58とを含む。
コリメータレンズ51は、光ファイバ4から出力された照射光を平行光束にする。光スキャナ52は、照射光を2次元的に偏向する。光スキャナ52は、たとえば一対のガルバノスキャナを含む。光スキャナ52の動作は、処理ユニット5により制御される。
ミラー53は、光スキャナ52を経由した照射光を反射して、その進行方向を変える。リレーレンズ54及び55は、ミラー53により反射された照射光をリレーする。ミラー56は、リレーレンズ54及び55を経由した照射光を反射して、その進行方向を変える。コリメータレンズ57は、リレーレンズ54及び55を経由した照射光を平行光束にする。偏向部材58は、対物レンズ31の後方に配置され、コリメータレンズ57を経由した照射光を偏向して患者眼Eに照射させる。
(コンタクトレンズCL)
眼底Efや隅角のレーザ治療を行う場合、角膜EcにコンタクトレンズCLが当接される。各種のレーザ治療を行うために、倍率や形態が異なる複数のコンタクトレンズが準備されている。ユーザは、治療種別や治療部位や患者眼Eの状態などに応じてコンタクトレンズを選択する。
[照射条件]
本例では、予め設定されたパターンの照射光が患者眼Eに適用される。照射光のパターンには様々な条件(照射条件)がある。照射光の投影像をスポットと呼ぶ。照射条件としては、複数のスポットの配列パターン(配列条件)、配列パターンのサイズ(配列サイズ条件)、配列パターンの向き(配列方向条件)、各スポットのサイズ(スポットサイズ条件)、スポットの間隔(スポット間隔条件)などがある。照射条件には、パターンやスポット以外の事項に関するものも含まれる。たとえば、照射光の強度(パワー)や波長が照射条件に含まれる。これら照射条件に基づく制御は、従来のパターン照射型レーザ治療装置と同様にして実行される。
[制御系]
レーザ治療装置1の制御系について、図3を参照しながら説明する。レーザ治療装置1の制御系は、処理ユニット5に設けられた制御部101を中心に構成される。図3においては、いくつかの構成部位が省略されている。
(制御部101)
制御部101は、レーザ治療装置1の各部を制御する。たとえば、制御部101は、光源ユニット2の制御、表示ユニット7の制御、照明系10の制御、観察系30の制御、レーザ照射系50の制御、コンタクトレンズCLの移動制御などを行う。制御部101は、少なくとも図3に示す各要素を制御する。たとえば、制御部101は、前述した照射条件に基づく制御を実行する。
光源ユニット2の制御として、制御部101は、照準光源2aの制御、治療光源2bの制御、ガルバノミラー2cの制御などを行う。照準光源2a及び治療光源2bの制御は、照射光の出力のオン/オフ、照射光の出力強度(出力光量)の制御などを含む。また、1つ以上の治療光源2bにより複数種別の治療光LTを出力可能な構成が適用される場合、制御部101は、治療光LTを選択的に出力させるように治療光源2bを制御する。ガルバノミラー2cの制御は、ガルバノミラー2cの反射面の向きを変更する制御を含む。
表示ユニット7は、制御部101の制御を受けて各種の情報を表示する。表示ユニット7は、LCD等のフラットパネルディスプレイ、CRTディスプレイなどの任意の表示デバイスを含んで構成される。表示ユニット7は、たとえばスリットランプ顕微鏡3又は処理ユニット5(コンピュータ)に設けられる。表示ユニット7の制御は表示制御部1011によって実行される。
照明系10の制御として、制御部101は、光源11の制御、フィルタ13〜15の制御、スリット絞り16の制御、その他の絞り部材の制御などを行う。光源11の制御は、照明光の出力のオン・オフ、照明光の出力強度(出力光量)の制御などを含む。フィルタ13〜15の制御は、照明光軸10aに対してフィルタ13〜15をそれぞれ挿脱する制御を含む。フィルタ13〜15の制御は、フィルタ駆動部13Aを制御することにより行われる。スリット絞り16の制御は、一対のスリット刃の間隔を変更する制御と、一対のスリット刃を一体的に移動・回転させる制御とを含む。前者の制御は、スリット幅の変更制御に相当する。後者の制御は、スリット幅を一定に保った状態で照明光(スリット光)の照射位置を変更する制御に相当する。その他の絞り部材には、前述のように、照明光の光量を変更するための照明絞りや、照明野のサイズを変更するための照明野絞りがある。スリット絞り16、照明絞り、照明野絞りの制御は、絞り駆動部16Aを制御することによりそれぞれ行われる。
観察系30の制御として、制御部101は、変倍レンズ32及び33の制御、保護フィルタ34の制御などを行う。変倍レンズ32及び33の制御は、変倍駆動部32Aを制御してこれらを観察光軸30aに沿って移動させる制御、或いは、異なる倍率の変倍レンズ群を観察系30の光路に配置させる制御である。それにより、観察倍率(画角)が変更される。保護フィルタ34の制御は、保護フィルタ駆動部34Aを制御して、保護フィルタ34を観察光軸30aに対して挿脱するものである。
レーザ照射系50の制御として、制御部101は、光スキャナ52の制御などを行う。制御部101は、たとえば、光スキャナ52に含まれる2つのガルバノミラーの向きをそれぞれ変更する。それにより、光源ユニット2から光ファイバ4を介して入射された照射光が2次元的に偏向される。
制御部101は、記憶部102に記憶されたデータの読み出し処理や、記憶部102に対するデータの書き込み処理を行う。
制御部101は、マイクロプロセッサ、RAM、ROM、ハードディスクドライブ等を含む。ハードディスクドライブには、制御プログラム等のコンピュータプログラムが予め記憶されている。制御部101の動作は、コンピュータプログラムと上記ハードウェアとが協働することによって実現される。また、制御部101は、外部装置と通信するための通信デバイスを含んでいてもよい。
(記憶部102)
記憶部102は各種のデータやコンピュータプログラムを記憶する。記憶部102は、たとえばRAM、ROM、ハードディスクドライブ等の記憶装置を含む。
(画像取得部103)
画像取得部103は、患者眼Eの画像を取得する。画像取得部103により取得される画像は、照明系10によるスリット光の照明野を含む患者眼Eの領域を表す画像(広域画像)である。広域画像は、スリット光を用いて撮影される画像(スリット撮影画像)よりも広い範囲を描出した画像である。たとえば、広域画像には、スリット絞り16を全開にした状態における撮影野(照明野)と等しい広さの範囲、或いはそれより広い範囲が描出される。
一例として、画像取得部103は、レーザ治療装置1の外部に格納された広域画像を受け付けるための構成を備えていてよい。この構成は、たとえば、ネットワークを通じて外部装置とデータの送受信を行うための通信デバイスや、記録媒体に記録されたデータを読み出すためのデバイス(ドライブ装置等)を含む。
他の例として、画像取得部103は、患者眼Eを撮影するための構成を備えていてよい。その具体例として、画像取得部103は、スリットランプ顕微鏡3の一部であってよく、或いは、他のモダリティの少なくとも一部を含んでいてもよい。他のモダリティの例として、眼底カメラ、走査型レーザ検眼鏡(SLO)、光干渉断層計(OCT)、超音波診断装置、磁気共鳴画像装置(MRI)等のイメージング装置がある。
広域画像の例として、赤外光を用いて撮影された赤外画像、可視光を用いて撮影されたカラー画像、所定成分が除外された可視光を用いて撮影された画像(レッドフリー画像等)、患者に蛍光剤を投与して撮影された蛍光造影画像、蛍光剤を投与せずに撮影された自発蛍光造影画像(自家蛍光造影画像)、眼底カメラを用いて取得された眼底像、スリットランプ顕微鏡を用いて取得された画像(前眼部像、眼底像、隅角像等)、SLOを用いて取得されたSLO画像、OCTを用いて取得されたOCT画像、超音波診断装置を用いて取得された超音波画像、MRIを用いて取得されたMRI画像などがある。
広域画像は、患者眼Eの画像を解析して得られた、所定のパラメータの分布画像であってよい。たとえば、OCTを用いて取得された3次元画像を解析して得られた網膜層厚の分布画像を広域画像として用いることが可能である。また、広域画像は、患者眼Eを検査して得られた、所定のパラメータの分布画像であってよい。たとえば、視野検査により得られた視野や感度の分布画像を広域画像として用いることが可能である。
(データ処理部110)
データ処理部110は各種のデータ処理を行う。データ処理部110には、合成画像生成部111が設けられている。
(合成画像生成部111)
合成画像生成部111は、画像取得部103により取得された広域画像とイメージセンサ43からの出力に基づくスリット撮影画像との合成画像を生成する。合成画像生成部111は、広域画像とスリット撮影画像との間の位置合わせ処理を少なくとも実行する。
位置合わせ処理の例を説明する。合成画像生成部111は、スリット撮影画像を解析することで患者眼Eの所定部位に相当する第1画像領域を特定し、かつ、広域画像を解析することで患者眼Eの所定部位に相当する第2画像領域を特定する。これら解析処理は、画像中の領域を特定するための公知の画像処理を含む。更に、合成画像生成部111は、第1画像領域と第2画像領域とが一致するようにスリット撮影画像の位置と広域画像の位置とを合わせる。ここで、スリット撮影画像が表す範囲は広域画像が表す範囲に含まれることを考慮すると、広域画像の座標系におけるスリット撮影画像の座標(範囲)を求めるようにしてよい。
更に、合成画像生成部111は、広域画像とスリット撮影画像とを合成して単一の画像を生成する処理を実行してよい。この処理は、たとえば、上記の位置合わせがなされたスリット撮影画像を広域画像に埋め込むことにより実現される。
単一の画像を生成するための画像合成処理が実行されない場合においては、位置合わせがなされたスリット撮影画像と広域画像とを、たとえばレイヤ機能を用いて重ねて表示することが可能である。このような重畳画像は合成画像の一例である。
広域画像及び/又はスリット撮影画像が動画像である場合、フレームごとに位置合わせ処理が実行される。単一の画像を生成するための画像合成処理や、重畳画像を提示するための表示処理についても同様である。
(操作ユニット6、表示ユニット7)
操作ユニット6は、各種のハードウェアキー及び/又はソフトウェアキーを含む。表示ユニット7は、たとえばフラットパネルディスプレイを含む。操作ユニット6の少なくとも一部と表示ユニット7の少なくとも一部とを一体的に構成することが可能である。タッチパネルディスプレイはその一例である。
[合成画像の提示]
表示制御部1011は、合成画像生成部111により生成された合成画像を表示ユニット7に表示させる。合成画像生成部111が前述した単一の画像を生成した場合、表示制御部1011は、この単一の画像を表示ユニット7に表示させる。他方、合成画像生成部111が単一の画像を生成しない場合(たとえば位置合わせ処理のみを実行する場合)、表示制御部1011は、広域画像を第1のレイヤに表示させ、かつスリット撮影画像を第2のレイヤに表示させる。このとき、第2のレイヤは第1のレイヤの前面に配置されてよい。また、第1のレイヤ及び/又は第2のレイヤの不透明度(アルファ値)を任意に設定することができる。
広域画像及び/又はスリット撮影画像が動画像である場合、合成画像生成部111は一連の合成画像(フレーム)を生成する。表示制御部1011は、この一連の合成画像を表示ユニット7に動画表示させる。動画表示とは、一連の合成画像を所定のレート(フレームレート)で切り替え表示させる処理である。動画表示については第2の実施形態で更に詳しく説明する。
合成画像の提示態様の例を図4に示す。図4には、眼底Efのレーザ治療を行う際に提示される合成画像が示されている。この合成画像は、広域画像G1とスリット撮影画像G2により構成されている。スリット撮影画像G2は、スリット光の照射範囲内における眼底Efの形態を表す正面画像である。広域画像G1は、スリット撮影画像G2の範囲を含む領域における眼底Efの形態を表す正面画像である。
[効果]
本実施形態に係るレーザ治療装置の効果について説明する。
レーザ治療装置(1)は、患者眼(E)のレーザ治療に用いられる。このレーザ治療装置は、照射系(光源ユニット2、レーザ照射系50等)と、照明系(10)と、撮影系(観察系30、撮影系40)と、画像取得部(103)と、合成画像提示部(合成画像生成部111、表示制御部1011等)とを含む。
照射系は、光源(照準光源2a、治療光源2b)から出力されたレーザ光を患者眼に照射する。照明系は、患者眼をスリット光で照明する。撮影系は、患者眼からのスリット光の戻り光を撮像素子(イメージセンサ43)に導く。画像取得部は、スリット光の照明野を含む患者眼の領域を表す第1画像(広域画像)を取得する。合成画像提示部は、画像取得部により取得された第1画像(広域画像)と、撮像素子からの出力に基づく患者眼の第2画像(スリット撮影画像)との合成画像を提示する。
本実施形態によれば、照準合わせやレーザ照射の対象となる比較的狭い範囲をスリット光で観察しながら、それを含む比較的広い範囲の状態を広域画像で把握することが可能である。したがって、患者が眩しさを感じないようにスリット光の照射範囲を制限しつつ、患者眼のどの部位に照準合わせやレーザ照射が行われるか容易に把握することができる。
〈第2の実施形態〉
本実施形態では、スリット撮影画像が動画像である場合における様々な典型例を説明する。本実施形態のレーザ治療装置は、第1の実施形態と同様の全体構成及び光学系を備えていてよい(図1及び図2を参照)。以下、第1の実施形態における構成要素及び符号を適宜準用する。
レーザ治療装置の制御系の構成例を図5に示す。本例の画像取得部103には赤外撮影系104が設けられている。赤外撮影系104は、赤外光を用いて患者眼Eを撮影する。特に、本例の赤外撮影系104は、赤外光を用いた動画撮影が可能である。赤外撮影系104は、スリット撮影画像を取得するための撮影系40とは別に設けられている(ただし、撮影系40の一部と赤外撮影系104の一部とが共通であってもよい)。したがって、本例においては、スリット光(可視光)を用いた撮影と、赤外光を用いた撮影とを並行して行うことが可能である。
赤外撮影系104は、たとえば、赤外光源から出力された赤外光で患者眼Eを照明する光学系と、患者眼Eからの赤外光の戻り光を、赤外域に感度を持つ撮像素子に導く光学系とを含む。赤外撮影系104の光路の一部と撮影系40の光路の一部とが共通であってよい。その場合、赤外撮影系104の光路と撮影系40の光路とは、ダイクロイックミラー等のビームスプリッタによって分離される。
更に、赤外撮影系104と撮影系40とが同軸に配置された構成を適用することが可能である。それにより、双方によって取得された画像の間の位置合わせが容易になる。
赤外撮影系104の変倍系と撮影系40の変倍系(変倍レンズ32及び33)は、共通であってもよいし、異なっていてもよい。共通の変倍系が設けられる場合、光学系の構成が簡易になり、かつ、画像間の位置合わせが容易になるという利点がある。それぞれに変倍系が設けられる場合、それぞれ任意の倍率(画角)の画像を取得できるという利点がある。画像間の位置合わせについては、双方の倍率を考慮することにより、又は画像処理を実行することにより実現可能である。
本実施形態の使用形態について、いくつかの典型例を説明する。以下に説明する典型例を任意に組み合わせることが可能である。
第1の使用形態を説明する。本実施形態において、スリット撮影画像(第2画像)は動画像である。合成画像生成部111は、スリット撮影画像の各フレームと、広域画像との合成画像を生成する(合成処理については第1の実施形態と同様である)。広域画像が静止画像である場合、スリット撮影画像の各フレームがこの静止画像に合成される。また、広域画像も動画像である場合については後述する。
表示制御部1011は、生成された合成画像を表示する。このとき、表示制御部1011は、複数のフレームに対応する複数の合成画像(合成フレーム)に基づいて動画を表示させることが可能である。広域画像が静止画像である場合、同じ広域画像を背景としてスリット撮影画像が動画表示される。このとき、動画表示の途中で他の広域画像(静止画像等)に切り替えることが可能である。なお、スリット撮影画像(動画像)の全てのフレームについて上記処理を実行する必要はなく、たとえば所定のレートで間引きをするよう構成してよい。
第2の使用形態を説明する。スリット撮影画像の取得(スリット光を用いた動画撮影)と並行して合成画像の提示を行うことが可能である。すなわち、スリット光を用いて患者眼Eを動画撮影しつつ、スリット撮影画像と広域画像との合成画像をリアルタイムで提示することが可能である。これを実現するためのレーザ治療装置の動作の例を説明する。
スリット光による撮影はイメージセンサ43を用いて行われる。イメージセンサ43は、既定の撮影レートで撮影を行う。イメージセンサ43は、この撮影レートに同期したタイミングで、各フレームに相当する画像信号を順次に出力する。イメージセンサ43から出力された画像信号は、合成画像生成部111にリアルタイムで逐次に入力される。合成画像生成部111は、リアルタイムで入力されるフレームと広域画像とをリアルタイムで逐次に合成する。合成画像(合成フレーム)は、表示制御部1011にリアルタイムで逐次に入力される。表示制御部1011は、リアルタイムで入力される合成フレームに基づく動画像を、たとえば撮影レートに同期したフレームレートで表示させる。
第3の使用形態を説明する。本例では、スリット撮影画像及び広域画像の双方が動画像であるとする。スリット光は可視光であり、スリット撮影画像は可視動画像である。広域画像は、赤外撮影系104により取得される赤外動画像である。スリット撮影画像と広域画像とを並行して取得することが可能である(つまり、双方の撮影を並行して行うことが可能である)。また、第2の使用形態と同様に、可視撮影及び赤外撮影の少なくとも一方と、合成画像の提示とを並行して行うことも可能である(つまり、合成画像をリアルタイムで提示することが可能である)。
合成画像生成部111には、スリット撮影画像のフレームと、広域画像のフレームとが入力される。リアルタイムで合成画像を提示する場合などには、スリット撮影画像のフレームがリアルタイムで逐次に入力されつつ、広域画像のフレームがリアルタイムで逐次に入力される。
合成画像生成部111は、スリット撮影画像のフレームと広域画像のフレームとの対応付けを行う。双方がリアルタイムで入力される場合、双方の入力タイミングに基づきフレームの対応付けが行われる。また、撮影系40による撮影と赤外撮影系104による撮影とが同期されている場合、この同期制御に基づいてフレームの対応付けが行われる。対応付けの他の例として、生体情報を用いる方法がある。たとえば、患者の心拍(心電図、OCT等で得られる血流情報等)に基づき双方のフレームを対応付けることが可能である。
次に、合成画像生成部111は、互いに対応付けられたスリット撮影画像のフレームと広域画像のフレームとの合成画像(合成フレーム)を生成する。生成された合成フレームは、たとえばリアルタイムで逐次に表示制御部1011に入力される。表示制御部1011は、合成画像生成部111から入力される合成フレームに基づく動画像を、たとえばスリット撮影画像及び/又は広域画像の撮影レートに同期したフレームレートで表示させる。
本実施形態の変形例を説明する。本例の制御系の構成例を図6に示す。図6に示す例においては、移動機構105が設けられ、かつ、制御部101に移動制御部1012が設けられている。
移動機構105は、照射系(少なくともレーザ照射系50の少なくとも一部)、照明系10(の少なくとも一部)及び撮影系(観察系30及び撮影系40の少なくとも一部)を移動する機能を備える。移動機構105は、たとえば、移動される光学系等が搭載された可動ステージと、この可動ステージを移動させるためのアクチュエータとを含む。
移動制御部1012は、赤外撮影系104により取得される赤外動画像に基づいて移動機構105を制御することにより、照射系、照明系及び撮影系を患者眼Eの動きに追従させる。すなわち、移動制御部1012は、患者眼Eに対する照射系等のトラッキングを実行する。トラッキングは、たとえば次の一連の処理をリアルタイムで実行することにより実現される:(1)患者眼Eの所定部位に相当する画像領域を、リアルタイムで取得される赤外動画像のフレームから順次に特定する処理;(2)順次に特定される画像領域の位置の経時的変化(つまり、フレーム間における画像領域の変位)を求める処理;(3)順次に求められる画像領域の変位をキャンセルするように移動機構105を移動させる処理。なお、処理(1)及び(2)についてはデータ処理部110にて実行するよう構成することが可能である。また、処理(1)における所定部位の例として、視神経乳頭、血管、病変部、隅角、瞳孔などがある。
本実施形態に係るレーザ治療装置の効果について説明する。
撮像素子(イメージセンサ43)は、患者眼(E)を動画撮影する。第2画像(スリット撮影画像)は、この動画撮影により取得される動画像を含む。合成画像提示部(合成画像生成部111及び表示制御部1011)は、この動画像と第1画像(広域画像)との合成画像を提示する。
このような構成によれば、照準合わせやレーザ照射の対象となる比較的狭い範囲をスリット光で動画観察しながら、それを含む比較的広い範囲の状態を広域画像で把握することが可能である。
本実施形態において、合成画像提示部は、スリット光を用いた動画撮影と並行して合成画像の提示を実行することができる。すなわち、スリット光を用いた動画撮影を行いながら、スリット撮影画像(動画像)と広域画像との合成画像をリアルタイムで提示することが可能である。
このような構成によれば、照準合わせやレーザ照射の対象となる比較的狭い範囲をスリット光によりリアルタイムで動画観察しながら、それを含む比較的広い範囲の状態を広域画像で把握することが可能である。
本実施形態において、スリット光は可視光を含み、第2画像は可視動画像であってよい。また、画像取得部(103)は、赤外光を用いて患者眼を動画撮影する赤外撮影系(104)を含んでよい。更に、第1画像(広域画像)は、赤外撮影系により取得される赤外動画像を含んでよい。合成画像提示部は、赤外動画像と可視動画像との合成画像を提示することができる。
このような構成によれば、照準合わせやレーザ照射の対象となる比較的狭い範囲をスリット光(可視光)により動画観察しながら、それを含む比較的広い範囲の状態を赤外光により動画観察することが可能である。ここで、広域画像は赤外動画像であるから患者がそれを視認することはなく、患者が視認するのは従来と同じスリット光だけである。したがって、従来と同程度の眩しさを患者に感じさせた状態で、より広範囲の状態を把握することが可能である。
本実施形態において、撮像素子による可視動画撮影と赤外撮影系による赤外動画撮影とを並行して実行することが可能である。更に、合成画像提示部は、可視動画撮影及び赤外動画撮影と並行して合成画像の提示を実行することができる。
このような構成によれば、照準合わせやレーザ照射の対象となる比較的狭い範囲をスリット光(可視光)によりリアルタイムで動画観察しながら、それを含む比較的広い範囲の状態を赤外光によりリアルタイムで動画観察することが可能である。
本実施形態のレーザ治療装置は、次の構成要素を更に備えていてよい:照射系、照明系及び撮影系を移動するための移動機構(105);赤外撮影系により取得される赤外動画像に基づいて移動機構を制御することにより、照射系、照明系及び撮影系を患者眼の動きに追従させる移動制御部(1012)。
このような構成によれば、本実施形態で実現される上記の観察態様のいずれかにおいて、患者眼に対する光学系等のトラッキングを行うことが可能である。それにより、患者眼の動き(眼球運動、拍動、体動等)が観察、撮影、照準合わせ、レーザ照射等に与える影響を低減することが可能である。
〈第3の実施形態〉
本実施形態では、スリット撮影画像と広域画像との合成画像とともに情報を提示する様々な典型例を説明する。本実施形態のレーザ治療装置は、第1の実施形態と同様の全体構成及び光学系を備えていてよい(図1及び図2を参照)。以下、第1の実施形態における構成要素及び符号を適宜準用する。
レーザ治療装置の制御系の構成例を図7に示す。本例のデータ処理部110には注目領域特定部112が設けられている。注目領域特定部112は、合成画像提示部の一部として機能し、広域画像(第1画像)を解析して患者眼Eの注目部位に相当する注目領域を特定する。患者眼Eの注目部位の例として、視神経乳頭、黄斑、血管、隅角、病変部、レーザ治療の対象領域などがある。広域画像中における注目領域を特定する処理は、たとえば、画素値に関する公知の領域特定処理(閾値処理、二値化、輪郭抽出、画像フィルタ等)や、パターンマッチング等の画像処理を含む。また、注目部位の例であるレーザ治療の対象領域は、たとえば、レーザ治療の準備として行われる術前プランニングにおいて設定される。
第1画像(広域画像)は蛍光造影画像であってよい。蛍光造影画像は、血管の位置や出血の範囲などを特定するために利用される。注目領域特定部112は、蛍光造影画像を解析することで、血管や血液に関する病変部に相当する注目領域を特定することができる。この領域特定処理は、たとえば、画素値に関する公知の領域特定処理(閾値処理、二値化、輪郭抽出、画像フィルタ等)を含む。
表示制御部1011は、注目領域特定部112により特定された注目領域を示す情報(付帯情報)を、スリット撮影画像と広域画像との合成画像とともに提示する。付帯情報は合成画像に埋め込まれていてよい。この埋め込み処理は合成画像生成部111により実行される。或いは、合成画像と付帯情報とを異なるレイヤに表示させるようにしてもよい。
付帯情報の提示態様の例を図8に示す。図8には、広域画像G1とスリット撮影画像G2との合成画像が示されている(図4を参照)。更に、この合成画像とともに付帯情報Hが提示されている。付帯情報Hは、たとえば、術前プランニングにおいて設定されたレーザ治療の対象領域を示す。
このような付帯情報を提示することにより、レーザ治療において注目すべき部位を術者に報知することができる。この注目すべき部位としては、レーザ治療を施すべき部位や、レーザ治療を施すべきでない部位がある。
図8に示す例によれば、術者は、レーザ治療の対象領域の全体を広域画像G1にて把握することができる。スリット撮影画像G2は、この治療対象領域の一部のみを描出しているに過ぎない。スリット撮影画像G2のみを利用して観察を行っていた従来の技術では、このような治療対象領域の全体を認識することができなかった。しかし、本実施形態によれば、治療対象領域の全体を認識することができ、現在のスリット撮影画像G2が治療対象領域のどの部分を表しているか、治療対象領域のどの部分に対して照準合わせやレーザ照射が実施されたか、といったことを術者は容易に把握することが可能である。
〈第4の実施形態〉
本実施形態では、スリット撮影画像と広域画像との合成画像を観察視野内に提示するための様々な典型例を説明する。本実施形態のレーザ治療装置は、第1の実施形態と同様の全体構成を備えていてよい(図1を参照)。以下、第1の実施形態における構成要素及び符号を適宜準用する。
前述したように、観察系30は、患者眼Eからのスリット光の戻り光を接眼レンズ38に案内する。更に、観察系30は、術者が双眼で患者眼Eを観察するための左右一対の光学系を備える。すなわち、観察系30は、左右一対の接眼レンズ38を含む双眼観察系である。
本実施形態の合成画像提示部は、広域画像(第1画像)又は広域画像とスリット撮影画像との合成画像を観察系30の光路を通じて接眼レンズ38に導くための提示光学系を含む。提示光学系の例を図9に示す。
図9に示す提示光学系60は、表示部61と、集光レンズ62と、ビームスプリッタ63とを含む。提示光学系60は観察系30から分岐している。表示部61は、たとえばフラットパネルディスプレイ又はマイクロプロジェクタを含む。表示部61は表示制御部1011によって制御される(図10を参照)。ビームスプリッタ63は、たとえばビームスプリッタ43と偏向部36との間に配置されている。ビームスプリッタ63は、たとえばハーフミラーである。
表示制御部1011は、画像取得部103により取得された広域画像又は合成画像生成部111により生成された合成画像を、表示部61に表示させる。表示部61から出力された光束は、集光レンズ62を通過し、ビームスプリッタ63により反射されて観察系30の光路に導かれる。観察系30の光路に入射した光束は、偏向部36と視野絞り37を経由して接眼レンズ38に導かれる。
術者は、接眼レンズ38を介して広域画像又は合成画像を観察することが可能である。すなわち、術者は、スリット光を用いた患者眼Eの顕微鏡観察と、提示光学系60により提供される広域画像又は合成画像の観察とを、並行して行うことができる。広域画像が提供される場合、術者は、スリット撮影画像(顕微鏡観察像)と広域画像との重畳画像(合成画像)を視認することができる。合成画像が提供される場合、術者は、スリット撮影画像と合成画像との重畳画像(合成画像)を視認することができる。
表示制御部1011は、患者眼Eのスリット撮影画像(顕微鏡観察像)に対する広域画像又は合成画像の位置合わせを行うことが可能である。この処理は、たとえば、第1の実施形態で説明した、スリット撮影画像と広域画像との位置合わせと同様にして実行することが可能である。
前述のように、観察系30は双眼観察系である。画像取得部103により取得された広域画像が立体画像である場合、左眼に提示されるべき左広域画像を左眼側光学系を介して提示し、かつ、右眼に提示されるべき右広域画像を右眼側光学系を介して提示するよう構成することが可能である。その具体例として、左眼側光学系と右眼側光学系のそれぞれに提示光学系60を設ける構成を適用できる。この構成によれば、立体画像としての広域画像(又は、少なくとも広域画像が立体画像である合成画像)を術者に提示可能である。
第1の実施形態で説明したように、観察系30の左右の光学系の双方に撮影系40を設けることができる。このような左右一対の撮影系40が設けられる場合、左撮影系にて取得されるスリット撮影画像と広域画像との合成画像を左眼側光学系を介して提示し、かつ、右撮影系にて取得されるスリット撮影画像と広域画像との合成画像を右眼側光学系を介して提示することが可能である。この構成によれば、少なくともスリット撮影画像が立体画像である合成画像を術者に提示可能である。なお、広域画像も立体画像である場合には、スリット撮影画像と広域画像の双方が立体画像である合成画像(立体合成画像)を術者に提示することができる。
立体画像が術者に提示される場合、術者は、立体視用の部材(眼鏡)を装用してよい。或いは、立体視用の部材を観察系30に配置可能な構成を適用することができる。また、立体視用の部材が不要な方式の3次元ディスプレイを設けることも可能である。いずれにしても、合成画像提示部は、双眼観察系30の一対の光路を通じて広域画像(第1画像)又は合成画像を立体視可能に一対の接眼レンズ38に導くよう構成されていればよい。
なお、立体視可能な合成画像を表示ユニット7(表示手段)に提示するよう構成することが可能である。そのための処理は、上記と同様であってよい。
観察系30を介した広域画像又は合成画像の提示を任意にオン/オフできるように構成することが実用上便利である。術者は、操作ユニット6(操作部)を介してそのための操作を行うことができる。合成画像提示部(表示制御部1011)は、操作ユニット6からの出力に基づいて、広域画像(第1画像)又は合成画像が接眼レンズ38に導かれる状態(広域画像又は合成画像を術者眼E0にて視認可能な状態)と、広域画像(第1画像)又は合成画像が接眼レンズ38に導かれない状態(広域画像又は合成画像を術者眼E0にて視認可能でない状態)とを切り替える。それにより、スリット光を用いた患者眼Eの顕微鏡観察のみを行いたい場合には広域画像等の提示をオフにすることができ、広域画像等を観察したい場合にはその提示をオンにすることができる。
本明細書において説明したいくつかの実施形態は、本発明を実施するための例示に過ぎない。本発明を実施しようとする者は、本発明の要旨の範囲内において任意の変形、省略、追加、置換等を施すことが可能である。そのような変形例について以下に説明する。なお、上記の実施形態に含まれる任意の構成や、以下の変形例に含まれる任意の構成を組み合わせることが可能である。