JP2019035052A - 油脂の精製方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】風味良好な油脂を得ること。また、精製後の油脂のモドリ現象の発生を抑制すること。さらに、モドリ現象の発生が抑制された、風味良好な油脂を、時間的損失や収率の悪化を抑え、短時間で、且つ高収率で得ること。
【解決手段】油脂100質量部と0.1質量部以上25質量部未満の水とを加熱及び加圧する工程を有する油脂の精製方法であって、水単独の亜臨界状態での温度及び圧力をT及びPとしたとき、加熱及び加圧する上記工程を、系内の温度がTとなり全圧がPとなる条件で行う、油脂の精製方法。上記油脂の精製方法は、油脂と水とを加圧及び加熱する上記工程の前後での油脂中のジアシルグリセロールの含有量の変動が5質量%以下であることが好ましい。
【選択図】なし

Description

本発明は油脂の精製方法に関する。
食用とする油脂の精製は、(1)不純物の除去、及び(2)油脂風味の改良を主な目的とする。油脂の精製は、採油し得られた粗油に対して、通常、脱ガム工程、脱酸工程、漂白工程及び脱臭工程の順に行うことが知られており、これらの精製工程を経ることで異味異臭のない油脂が得られる。
しかし、上記工程を経て精製された油脂は、精製直後は無味無臭であっても、その保管中に「モドリ現象」と呼ばれる現象が発生することが知られている。
このモドリ現象とは、精製された油脂の風味が経日的に劣化する現象のことであり、その発生原因は明らかになっていないが、精製後も油脂中に残存しやすい、アルデヒド類やトリグリセリドの分解物、及びこれらの誘導体等の微量成分の影響が示唆されている。
モドリ現象は油種によっても発生の程度が異なり、パーム油や、パーム分別油及びパーム油を原料の一として含むエステル交換油等のパーム系油脂、及びシア脂や、シア分別油、シア脂を原料の一として含むエステル交換油脂等のシア系油脂においては、モドリ現象が発生しやすいことが知られていた。
とりわけ、パーム油やパーム系油脂においては、常温保存、又は冷蔵保存によってもモドリ現象が発生しやすくなることが確認されており、その対策が望まれていた。
このモドリ現象について、例えば、特許文献1や特許文献2には、精製工程中にリン酸やクエン酸、アスコルビン酸などの、酸を加えることでモドリ現象の発生を抑制する手法が開示されている。特許文献3には、吸着剤と水酸化ナトリウム等のアルカリ物質とをその共存下で油脂と接触させるモドリ現象の発生抑制方法が開示されている。
しかし、これらの手法は、精製する油脂と酸や塩基とが接触するため、油脂の変性、トリグリセリドの分解を伴いやすかった。また、酸や塩基を除く工程が必要となる場合があり、時間的損失や収率の悪化など、油脂の精製効率が低下し易かった。
「モドリ現象」の抑制を課題とするものではないが、油脂の精製方法として出願人は特許文献4において、油脂を水存在下で、加圧しながら加熱する工程を含むことを特徴とする食用油脂の精製方法を開示している。
しかし、特許文献4で開示された油脂の精製方法は、食用油脂中に含まれる、比較的低分子量の塩素化合物を低減することを目的とするものである。同文献に記載の油脂の精製方法は、油脂100質量部に対する水の添加量が25〜400質量部と多くなっているため、加圧しながら加熱する工程の後、油脂に長時間の脱水工程を適用することが必要となる他、脱水時に油脂の減少が起こりやすいために、油脂の収率が低下し易かった。
特開2006−028466号公報 特開2016−169391号公報 特開2016−123331号公報 WO2011/1389578号公報
したがって、本願が解決しようとする課題は、風味良好な油脂が得られる油脂の精製方法を提供することにある。
次に、精製後のモドリ現象の発生が抑制された油脂が得られる油脂の精製方法を提供することにある。
さらに、モドリ現象の発生が抑制された、風味良好な油脂を、時間的損失や収率の悪化を抑え、短時間で、且つ高収率で得ることができる油脂の精製方法を提供することにある。
本発明者等は、特定量の水と油脂とを、特定の温度及び圧力で加熱及び加圧する工程を経ることにより、風味良好な油脂が得られるという知見を得た。
また、上記工程を経て得られた油脂は、精製後のモドリ現象の発生が抑制されるという知見を得た。
さらに、上記工程を経ることで、特に油脂の脱臭工程の時間を短縮することができ、風味良好な油脂が得られるため、工程の効率化を図ることができるという知見を得た。
本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものであり、油脂100質量部と0.1質量部以上25質量部未満の水とを加熱及び加圧する工程を有する油脂の精製方法であって、水単独の亜臨界状態での温度及び圧力をT及びPとしたとき、加熱及び加圧する上記工程を、系内の温度がTとなり全圧がPとなる条件で行う油脂の精製方法に関する。
本発明の油脂の精製方法によれば、風味良好な油脂を得ることができる。
また、本発明の油脂の精製方法によれば、精製後のモドリ現象の発生が抑制され、経時的にも風味良好な油脂を得ることが可能になる。
さらに、本発明の油脂の精製方法によれば、モドリ現象の発生が抑制された、風味良好な油脂を、時間的損失や収率の悪化を抑え、短時間且つ高収率で、製造することが可能になる。
以下、本発明の油脂の精製方法について、その好ましい実施形態に基づき、詳細に説明する。
本発明の油脂の精製方法は、特定量の水と特定量の油脂とを、特定の温度及び特定の圧力で加熱及び加圧するものである。
まず最初に、本発明の油脂の精製方法が適用される油脂について述べる。
本発明の油脂の精製方法が適用される油脂としては、食用油脂が挙げられる。食用油脂としては、特に限定されず、例えばパーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油及びサフラワー油等の植物油脂、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、魚油及び鯨油等の動物油脂、並びにこれらの油脂に水素添加、分別及びエステル交換から選択される一又は二以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。
本発明の油脂の精製方法は、上記油脂から選択される1種の油脂に適用することができる。本発明の油脂の精製方法は、上記油脂から選択される2種以上を組合せた混合油脂に対しても適用することができる。
次に、本発明の油脂の精製方法に用いられる水について述べる。
本発明の油脂の精製方法に用いられる水としては、特に限定されず、例えば、水道水、ミネラルウォーター、イオン交換処理水、蒸留水を使用することができる。
本発明においては、これらの水を、単独で用いることもでき、又は二種以上を組合せて用いることもできる。
本発明の油脂の精製方法では、水の存在量が、上記油脂100質量部に対して、該水を0.1質量部以上、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上となるように調整し、且つ25質量部未満、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下となるように調整する。油脂100質量部に対する水の存在量が0.1質量部未満である場合、下記に詳述する、油脂と水とを加圧及び加熱する工程を経ても、モドリ現象の発生を抑制できない。また、油脂100質量部に対する水の添加量が25質量部以上である場合、油脂の分解が同時に起こるため、収率が悪化する他、精製が不十分となる。
尚、油脂が含水している場合、その水分量も含めて、油脂に対する水の使用量が上述の範囲となるように調整する。油脂中の含水量は常法により測定される。
次に、本発明の油脂の精製方法における加熱条件及び加圧条件について述べる。
本発明の油脂の精製方法は、上記油脂及び上記水の加熱及び加圧を、水単独の亜臨界状態での温度及び圧力をT及びPとしたとき、系内の温度がTとなり全圧がPとなる条件で行うものである。油脂は飽和蒸気圧が低く、油脂を加圧した状態で加熱した場合、油脂はほとんど気化しない。そうすると、系内で水及び油脂を加熱及び加圧した場合、観察される系内の圧力、即ち全圧は水の分圧と実質的に同じである。本発明の油脂の精製方法は、系内の温度及び全圧が、水が単独で亜臨界状態となる条件で加熱及び加圧を行うものである。したがって、本発明の油脂の精製方法においては、実質的に、系内に存在する水が亜臨界状態となる温度及び圧力で油脂及び水の加熱及び加圧を行っていると言える。
尚、「油脂及び水の加熱及び加圧を、水単独の亜臨界状態での温度及び圧力をT及びPとしたとき、系内の温度がTとなり全圧がPとなる条件で行う」ことを、以下では単に「亜臨界水処理」と記載することがあり、亜臨界水処理を行う工程を単に「亜臨界水処理工程」と記載する場合がある。
本発明においては、亜臨界水処理工程を経ることで、モドリ現象の抑制された、経時的にも風味のよい、精製された油脂が得られる。
この理由は明らかとなっていないが、油脂と水とが、水が亜臨界状態となるように共に加圧しながら加熱されている間に、モドリ現象の原因と推定されるアルデヒド類やトリグリセリドの分解物、及びこれらの誘導体が低減されるためであると推測される。
油脂及び水を、系内の温度及び全圧が、水単独で超臨界点(374℃、及び22MPa)となる条件で加熱及び加圧した場合、油脂中のトリグリセリドの分解が進行し、脂肪酸やジアシルグリセロールのような油脂の分解物が多く産生される他、水に油脂が溶解することにより、精製された油脂の収率が低下してしまう他、油脂に元来含まれる酸化現象を抑制する成分が分解されてしまうという問題が生じる。
そのため、本発明の油脂の精製方法においては、油脂及び水の加熱及び加圧を、高温高圧であって、且つ系内の温度及び全圧が水単独で超臨界点未満となる条件、すなわち、系内の温度及び全圧を水単独で亜臨界状態となる条件に設定する必要がある。
ここで、本発明の油脂の精製方法における「亜臨界状態」とは、上記水の超臨界点未満の温度であって、その温度における水の飽和蒸気圧以上の高温高圧状態をいう。
本発明の油脂の精製方法においては、油脂及び水の加熱温度及び加圧条件を、系内の温度が100℃以上374℃未満であり、且つ系内の全圧が0.1MPa以上22MPa未満とすることができる。加熱温度は、好ましくは100〜370℃、より好ましくは150〜250℃である。加圧条件は、好ましくは0.1〜21MPa、より好ましくは0.3〜21MPa、最も好ましくは1〜17MPaである。
加熱温度と加圧条件が上記範囲を下回る場合、精製された油脂のモドリ現象の抑制が困難になる。また、加熱温度と加圧条件が上記範囲を上回る場合、超臨界状態となった水で油脂が分解されてしまう上、精製された油脂の収率が低下しやすい。
本発明の油脂の精製方法において、油脂の分解を抑制しながら亜臨界水処理工程を経ることが、精製後の油脂のモドリ現象を抑制し、経時的に風味良好な油脂を得る観点、収率よく精製された油脂を得る観点から好ましい。
そのため、本発明の油脂の精製方法は、亜臨界水処理工程の前後での油脂中のジアシルグリセロールの含有量の変動が5質量%以下となることが好ましい。本発明において「ジアシルグリセロールの含有量の変動」とは、亜臨界水処理を行った後の油脂中のジアシルグリセロールの含有量(質量%)から、亜臨界水処理を行う前の油脂中のジアシルグリセロールの含有量(質量%)を差し引いた値の絶対値を意味する。ジアシルグリセロールの含有量の変動を5質量%以下にするためには、油脂に対する水の使用量や加熱温度・加圧条件を適宜調整すればよい。ジアシルグリセロールの含有量の変動を5質量%以下とすることにより、モドリ現象が抑制された油脂を高収率で得られる点から好ましい。油脂中のジアシルグリセロールの含有量の変動が4質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。
油脂中のジアシルグリセロールの含有量の変動は、例えば下記の方法で測定することができる。
油脂中のジアシルグリセロールの変動は、例えば下記の方法で測定することができる。
ガスクロマトグラフィ又は逆相HPLCで油脂を分析し、亜臨界水処理を施す前の油脂中のトリグリセロール、ジアシルグリセロール及びモノグリセロールの含有量をそれぞれ測定する。そして、トリグリセロール、ジアシルグリセロール及びモノグリセロールの総量に対するジアシルグリセロールの割合(質量%)を算出し、亜臨界水処理を施す前の油脂中のジアシルグリセロールの含有量(質量%)とする。同様にして、亜臨界水処理を施した後の油脂中のジアシルグリセロールの含有量(質量%)を測定する。そして、得られた亜臨界水処理を施す前の油脂中のジアシルグリセロールの含有量の値と亜臨界水処理を施した後の油脂中のジアシルグリセロールの含有量の値との差分の絶対値を求めることによって、「ジアシルグリセロールの含有量の変動」を算出する。尚、ガスクロマトグラフィ及び逆相HPLCは常法に則って行うことができる。
上記亜臨界水処理工程を行う直前、上記油脂と上記水とは二相に分離した状態である場合がある。また、上記亜臨界水処理工程を行う直前、油脂中に水が分散した状態である場合がある。油脂と水との界面面積を増加させ、効率よく油脂の精製を行う観点から、油脂中に水が分散した状態であることが好ましい。
油脂中に水を分散させる手法として、撹拌羽根等を用いた撹拌や震盪など、任意の手法をとることが可能である。
本発明の油脂の精製方法において、油脂中に水が分散した状態で亜臨界水処理を行う場合、油脂中に存在する水滴のサイズをより細かくするために、油脂と水とを混合した混合物に均質化処理を施すことによって、油脂中に水を分散させることが好ましい。均質化処理を施すことにより、油脂100質量部に対する水の存在量が少ない場合であっても、十分に油脂の精製を行うことができるようになり、且つその結果として、脱水工程の時間を短縮しやすくなる。
本発明の油脂の精製方法において均質化処理を行う場合、均質化処理に用いる装置としては、ケトル型チーズ乳化釜、ステファンミキサーのような高速せん断乳化釜、スタティックミキサー、インラインミキサー、ホモゲナイザー、コロイドミル、ディスパーミル、高速せん断ミキサー等が挙げられる。均質化処理は、例えば、1〜100MPaの均質化圧力にて行なうことができる。均質化処理は1段で行うことができ、多段で行うことができる。
本発明の油脂の精製方法においては、上記亜臨界水処理を密閉容器中で行うことが可能であり、流通式反応容器で行うことも可能である。
ここで、油脂の亜臨界水処理を密閉容器中で行う場合について述べる。
密閉容器中で油脂の亜臨界水処理を行う場合、例えば、油脂と水とを加熱機付の密閉可能な反応容器に入れて密閉し、加熱機で所定温度まで昇温し、設定温度下で、所定の圧力条件であることを確認しながら、所定時間保持する方法が挙げられる。
本発明の油脂の精製方法において亜臨界水処理を密閉容器中で行う場合、上記加熱温度及び上記加圧条件での反応時間は、好ましくは1〜40分、より好ましくは1〜25分、さらに好ましくは1〜10分である。
そして、上記亜臨界水処理後、好ましくは水を除去し油脂のみを回収する。
密閉容器中で油脂の亜臨界水処理を行う場合の、水の除去方法として、例えば、容器内を常圧にもどし冷却して水を液状にもどしてから静置により自然分離する方法や、遠心分離する方法、ヘキサンやジエチルエーテル等の溶剤で油脂を抽出する方法、系を常圧〜陰圧とした後に加熱して水を蒸発させる方法などを挙げることができる。
次に、油脂の亜臨界水処理を流通式反応容器中で行う場合について述べる。
油脂の亜臨界水処理を流通式反応容器中で行う場合、例えば高圧ポンプ、加熱機付き反応容器、冷却機、背圧弁装置等を組合せてなる連続処理装置を用いて、亜臨界水処理を行う方法が挙げられる。
以下、本法について詳述する。
上記方法で行う場合、まず、油脂と水とを高圧ポンプを用いて、加熱機付き反応容器に移送する。この時、加熱機付き反応容器に移送する前に、予め予備加熱装置により、油脂と水とを予備加熱しておくことが、昇温時間を短縮することができるため、好ましい。
油脂と水とを予備加熱する場合、油脂と水とをそれぞれを予備加熱した後に合わせることができる。また、油脂と水とを混合して混合物を得、得られた混合物を予備加熱することができる。本発明の油脂の精製方法においては、油脂と水とを混合した後、特に均質化処理した後に、予備加熱を行うことが、対油脂の水分含量が少量であっても、流通式反応容器において効率よく亜臨界水処理を行うことができるため好ましい。
予備加熱における加熱温度は好ましくは60〜350℃、より好ましくは100〜300℃、最も好ましくは、流通式反応容器における反応の設定温度の上下30℃以内である。
次に、油脂と水とを、反応容器内に設定温度・設定圧力下で所定の時間滞留させる。
本発明の油脂の精製方法において流通式反応容器を用いて亜臨界水処理を行う場合、上記加熱温度及び上記加圧条件における反応時間は、好ましくは1〜30分、より好ましくは1〜20分、さらに好ましくは1〜15分である。なお、連続式反応の場合は滞留時間を反応時間とするのが一般的である。
そして、上記亜臨界水処理の後、好ましくは水を除去し、油脂のみを回収する。
流通式反応容器を用いる油脂の精製方法における水の除去方法としては、例えば、冷却して水を液状にもどしてから静置して自然分離させる方法、遠心分離する方法や、ヘキサンやジエチルエーテル等の溶剤で油脂を抽出する方法、系を常圧〜陰圧とした後に加熱して水を蒸発させる方法を挙げることができる。
この際、冷却機等により、水が亜臨界状態を保持できなくなる温度・圧力まで、冷却、及び/又は減圧を行うことができる。
この際、常温・常圧の状態としてもよく、高温のまま減圧してもよく、又、高圧のまま冷却してもよい。
油脂の精製工程中における亜臨界水処理工程の工程順や、精製する油脂の組成への影響等を考慮し、冷却、及び/又は減圧の操作については、任意の条件を設定することができる。
なお、反応容器内の圧力の制御は、冷却機の前又は後、好ましくは冷却機の後に設置する背圧弁装置により調整する。
ここまで述べてきたように、本発明における、油脂の亜臨界水処理は、密閉容器中でも流通式反応容器中でも可能である。本発明の油脂の精製方法においては、予備加熱装置や背圧弁装置が必要なく、設備が簡便である点では、密閉容器中で行うことが好ましい。一方、反応開始前に予備加熱装置を挿入することが容易であり、従来の精製工程に組み込み易く、トータルの反応時間を短縮することができる点、さらに油脂の加水分解が抑えられた、ジアシルグリセロール含有量の低い精製油脂を、短時間の反応時間で得ることが可能な点で、流通式反応容器を用いて油脂の亜臨界水処理を行うことが好ましい。
次に、本発明の油脂の精製方法全体における、油脂の亜臨界水処理工程の工程順について述べる。
従来の油脂の精製方法は、前述の通り、脱ガム工程、脱酸工程、漂白工程、脱臭工程からなるが、本発明の油脂の精製方法では、上記亜臨界水処理工程を、上述の精製工程のどの部分にも挿入することができる。とりわけ、上記亜臨界水処理工程の後に脱臭工程を行うことが、特に亜臨界水処理工程に次いで脱臭工程を行うことが、次に示す2点の理由から精製工程の短縮を行うことができるため好ましい。
(理由1)亜臨界水処理工程によっても、油脂の風味が改善されるため、脱臭工程の工程時間を短縮した場合であっても風味良好な油脂が得られる。
尚、亜臨界水処理工程によって油脂の風味が改善される理由は特定できていないが、亜臨界水処理工程により、油脂の風味に影響するとされる物質、例えばアルデヒド類やトリグリセリドの分解物、及びこれらの誘導体等が分解されることが原因であると推察される。
(理由2)通常、減圧水蒸気蒸留によって行われる油脂の脱臭工程は、水蒸気の吹込み前に、予備的に減圧しながら所定の温度まで加熱を行う。亜臨界水処理工程後の油脂に脱臭処理を施すことによって、亜臨界水処理工程後の油脂中の水分が脱水され、亜臨界水処理後の脱水工程を省略することが可能となるため、効率よく油脂を精製することができる。
本発明の精製方法で得られた油脂は、従来知られた精製方法で得られた油脂と同じく、食用油脂として、飲食品の原料等に何ら制限なく使用することができる。
本発明の精製方法で得られた油脂は、従来知られた精製方法で得られた油脂と比較して、油脂のモドリ現象が抑制されているため、油脂、及び、油脂を含有する飲食品の経時的な風味の劣化が抑制されているという特徴を有する。
上記飲食品の例としては、例えば、マーガリン、ショートニング、ファットスプレッド、風味ファットスプレッド、ドレッシング、マヨネーズ、冷菓、スプレー用油脂、フライ用油脂、チョコレート用油脂、バッター用油脂等の油脂加工食品をはじめ、フラワーペースト、餡等の製菓製パン用素材、洋菓子、和菓子、パン、スナック、カレー、シチュー、グラタン、調味料、即席調理食品、畜産加工品、水産加工品、野菜加工品の油脂を使用する飲食品を挙げることができる。
次に、本発明の油脂の風味改良方法について述べる。
本発明の油脂の風味改良方法は、油脂100質量部と0.1質量部以上25質量部未満の水とを加熱及び加圧する工程を有し、水単独の亜臨界状態での温度及び圧力をT及びPとしたとき、加熱及び加圧する上記工程を、系内の温度がTとなり全圧がPとなる条件で行う。
本発明の油脂の風味改良方法は、上記のようにして油脂を精製することを特徴とするものである。油脂の種類は食用の油脂であれば特に限定されるものではなく、精製方法については上述の通りである。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。しかし、本発明は以下の実施例より何ら制限されるものではない。
(製造例1)
フィジカルリファイニングを行ったRBDシアオレイン油(シア脂の分別軟部油)に対し、市販品の活性白土(ガレオンアースV2R、水澤化学工業社製)を対油4質量%用いて、常法に従って漂白を行い、シアオレイン漂白油を得た。尚、シアオレイン漂白油中のジアシルグリセロール含有量は8.4質量%であった。
(製造例2)
フィジカルリファイニングを行ったRBDパーム油に対し、製造例1と同様に市販品の活性白土(ガレオンアースV2R、水澤化学工業社製)を対油2質量%用いて、常法に従って漂白を行い、パーム漂白油を得た。尚、パーム漂白油中のジアシルグリセロール含有量は6.0質量%であった。
(製造例3)
フィジカルリファイニングを行ったRBDパーム分別軟部油に対して、ナトリウムメトキシドを触媒として用いて、ランダムエステル交換を行い、エステル交換されたパーム分別軟部油(以下、単にエステル交換されたパーム分別軟部油のことをIE−PLと記載する場合がある)を得た。
エステル交換は、ナトリウムメトキシドを原料油脂に対して0.2質量%添加した後、減圧下、80〜120℃で0.5〜1時間攪拌しながら、常法に従い、反応を行った。
得られたIE−PLに対して、製造例1と同様に市販品の活性白土(ガレオンアースV2R、水澤化学工業社製)を対油2質量%用いて、常法に従って漂白を行い、漂白されたIE−PLを得た。(以下、IE−PL漂白油と記載する場合がある)IE−PL漂白油中のジアシルグリセロール含有量は6.8質量%であった。
(製造例4)
フィジカルリファイニングを行ったRBDナタネ油に対して、製造例1と同様に市販品の活性白土(ガレオンアースV2R、水澤化学工業社製)を対油1質量%用いて、常法に従って漂白を行い、漂白されたナタネ油を得た(以下、ナタネ漂白油と記載する場合がある)。ナタネ漂白油中のジアシルグリセロール含有量は1.2質量%であった。
上記製造例1〜4で製造されたシアオレイン漂白油、パーム漂白油、IE−PL漂白油、ナタネ漂白油を用いて下記の実験を行った。
シアオレイン漂白油を用いて、比較例1〜5及び実施例1〜8の試験を行った。
パーム漂白油を用いて、比較例6及び実施例9の試験を行った。
IE−PL漂白油を用いて、比較例7及び実施例10の試験を行った。
ナタネ漂白油を用いて、比較例8及び実施例11の試験を行った。
以下、実施例1〜11及び比較例1〜8、並びにそれら結果について詳述する。
(実施例1)
はじめに、製造例1で得られたシアオレイン漂白油を、反応容器として流通式反応容器(長さ40cm、内径2.5cmのSUS製管)を使用して、下記の通り、水と共に加圧しながら加熱を行った。シアオレイン漂白油100質量部に対し水を10質量部使用した。具体的には、下記の通り亜臨界水処理を行った。
まず、油脂及び水については流通式反応容器に移送する前に、インラインの均質化装置を用いて均質化処理を施した後、予備加熱装置を用いて170℃まで予備加熱を行った。
次に、予備加熱を行った油脂及び水を予備加熱装置から流通式反応容器へと移送し、油脂と水とを共に加圧しながら加熱を行った。この時の流通式反応容器の反応温度は150℃であり、圧力は8MPaであり、流通式反応容器内での滞留時間は5分間であった。油脂の亜臨界水処理工程の後のジアシルグリセロール含有量の変動は0.2質量%であった。
亜臨界水処理の後、流通式反応容器から、脱臭装置に移送し、230℃、80分、吹込み水蒸気量対油3質量%での減圧水蒸気蒸留による脱臭工程を経て、精製された油脂を得た。尚、亜臨界水処理工程後の脱水については、脱臭工程において、予備的に減圧しながら所定の温度まで加熱を行なった際、油脂中の水分が脱水された。脱臭後に油脂の水分含量を測定すると200ppm以下となっていた。
(実施例2)
製造例1で得られたシアオレイン漂白油を、実施例1に使用したものと同じ反応容器を使用して、油脂と水とを共に加圧しながら加熱を行った。
尚、230℃まで予備加熱を行い、流通式反応容器の反応温度を200℃、流通式反応容器内での滞留時間を3分間とした他は、実施例1と同様に亜臨界水処理工程を実施した。亜臨界水処理工程の前後でのジアシルグリセロール含有量の変動はなかった。
この後、流通式反応容器から脱臭装置に移送し、230℃・80分、吹込み水蒸気量対油3質量%での減圧水蒸気蒸留による脱臭工程を経て、精製油脂を得た。尚、亜臨界水処理工程後の脱水については、脱臭工程において、予備的に減圧しながら所定の温度まで加熱を行なった際に油脂中の水分は脱水されており、脱臭後に油脂の水分含量を測定すると200ppm以下となっていた。
(実施例3)
製造例1で得られたシアオレイン漂白油を、実施例1に使用したものと同じ反応容器を使用して、水と共に加圧しながら加熱を行った。
油脂100質量部に対して水が4質量部となるように調整し、230℃まで予備加熱を行い、流通式反応容器の反応温度を200℃、流通式反応容器内での滞留時間を3分間とした他は、実施例1と同様に亜臨界水処理工程を実施した。亜臨界水処理工程の後のジアシルグリセロール含有量の変動は0.6質量%であった。
この後、流通式反応容器から脱臭装置に移送し、230℃・80分、吹込み水蒸気量対油3質量%での減圧水蒸気蒸留による脱臭工程を経て、精製油脂を得た。尚、亜臨界水処理工程後の脱水については、脱臭工程において、予備的に減圧しながら所定の温度まで加熱を行なった際に油脂中の水分が脱水されており、脱臭後に油脂の水分含量を測定すると200ppm以下となっていた。
(実施例4)
製造例1で得られたシアオレイン漂白油を、実施例1に使用したものと同じ反応容器を使用して、水と共に加圧しながら加熱を行った。
油脂100質量部に対して水が2質量部となるように調整し、230℃まで予備加熱を行い、流通式反応容器の反応温度を200℃、流通式反応容器内での滞留時間を3分間とした他は、実施例1と同様に亜臨界水処理工程を実施した。亜臨界水処理工程の後のジアシルグリセロール含有量の変動は0.3質量%であった。
この後、流通式反応容器から脱臭装置に移送し、230℃・80分、吹込み水蒸気量対油3質量%での減圧水蒸気蒸留による脱臭工程を経て、精製油脂を得た。尚、亜臨界水処理工程後の脱水については、脱臭工程において、予備的に減圧しながら所定の温度まで加熱を行なった際に油脂中の水分が脱水されており、脱臭後に油脂の水分含量を測定すると200ppm以下となっていた。
(実施例5)
製造例1で得られたシアオレイン漂白油を、実施例1に使用したものと同じ反応容器を使用して、水と共に加圧しながら加熱を行った。油脂100質量部に対して水が1質量部となるように調整し、230℃まで予備加熱を行い、流通式反応容器の反応温度を200℃、流通式反応容器内での滞留時間を3分間とした他は、実施例1と同様に亜臨界水処理工程を実施した。亜臨界水処理工程の後のジアシルグリセロール含有量の変動は0.4質量%であった。
この後、流通式反応容器から脱臭装置に移送し、230℃・80分、吹込み水蒸気量対油3質量%での減圧水蒸気蒸留による脱臭工程を経て、精製油脂を得た。尚、亜臨界水処理工程後の脱水については、脱臭工程において、予備的に減圧しながら所定の温度まで加熱を行なった際に油脂中の水分が脱水されており、脱臭後に油脂の水分含量を測定すると200ppm以下となっていた。
(実施例6)
製造例1で得られたシアオレイン漂白油を、実施例1に使用したものと同じ反応容器を使用して、水と共に加圧しながら加熱を行った。尚、油脂100質量部に対して水が0.5質量部となるように調整し、230℃まで予備加熱を行い、流通式反応容器の反応温度を200℃、流通式反応容器内での滞留時間を3分間とした他は、実施例1と同様に亜臨界水処理工程を実施した。亜臨界水処理工程の後のジアシルグリセロール含有量の変動は0.5質量%であった。
この後、流通式反応容器から脱臭装置に移送し、230℃・80分、吹込み水蒸気量対油3質量%での減圧水蒸気蒸留による脱臭工程を経て、精製油脂を得た。尚、亜臨界水処理工程後の脱水については、脱臭工程において、予備的に減圧しながら所定の温度まで加熱を行なった際に油脂中の水分は脱水されており、脱臭後に油脂の水分含量を測定すると200ppm以下となっていた。
(実施例7)
油脂と水に対して均質化処理を行わなかった以外は実施例1と同様の処理を行い、精製された油脂を得た。亜臨界水処理工程の後のジアシルグリセロール含有量の変動は0.5質量%であった。
(実施例8)
小型オートクレーブ(圧力容器)に、製造例1で得られたシアオレイン漂白油500gと水とを、油脂100質量部に対して2質量部となるように入れ、容器内の気相を窒素置換してから密閉し、容器内圧力を3MPaとし、150℃達温から20分間加熱し、亜臨界水処理を行った。亜臨界水処理工程の後のジアシルグリセロール含有量の変動は0.6質量%であった。
処理後、常圧にもどした後、油脂を四つ口フラスコに移して、230℃・80分、吹込み水蒸気量対油3質量%での減圧水蒸気蒸留による脱臭工程を経て、精製油脂を得た。尚、亜臨界水処理工程後の脱水については、脱臭工程において、予備的に減圧しながら所定の温度まで加熱を行なった際に油脂中の水分が脱水されており、脱臭後に油脂の水分含量を測定すると200ppm以下となっていた。
(実施例9)
製造例2で得られたパーム漂白油を、実施例4と同様の条件で亜臨界水処理工程を実施した。亜臨界水処理工程の後のジアシルグリセロール含有量の変動は0.3質量%であった。
その後、油脂を流通式反応容器から脱臭装置に移送し、250℃・50分、吹込み水蒸気量対油3質量%での減圧水蒸気蒸留による脱臭工程を経て、精製油脂を得た。尚、亜臨界水処理工程後の脱水については、脱臭工程において、予備的に減圧しながら所定の温度まで加熱を行なった際に油脂中の水分が脱水されており、脱臭後に油脂の水分含量を測定すると200ppm以下となっていた。
(実施例10)
製造例3で得られた、IE−PL漂白油に、実施例4と同様の条件で亜臨界水処理工程を実施した。亜臨界水処理工程の後のジアシルグリセロール含有量の変動は0.5質量%であった。
この後、油脂を流通式反応容器から脱臭装置に移送し、250℃・50分、吹込み水蒸気量対油3質量%での減圧水蒸気蒸留による脱臭工程を経て、精製油脂を得た。尚、亜臨界水処理工程後の脱水については、脱臭工程において、予備的に減圧しながら所定の温度まで加熱を行なった際に油脂から水分が脱水されており、脱臭後に油脂の水分含量を測定すると200ppm以下となっていた。
(実施例11)
製造例4で得られたナタネ漂白油に、実施例4と同様の条件で亜臨界水処理工程を実施した。亜臨界水処理工程の後のジアシルグリセロール含有量の変動は0.3質量%であった。
その後、油脂を流通式反応容器から脱臭装置に移送し、250℃・50分、吹込み水蒸気量対油3質量%での減圧水蒸気蒸留による脱臭工程を経て、精製油脂を得た。尚、亜臨界水処理工程後の脱水については、脱臭工程において、予備的に減圧しながら所定の温度まで加熱を行なった際に油脂中の水分が脱水されており、脱臭後に油脂の水分含量を測定すると200ppm以下となっていた。
(比較例1)
製造例1で得られたシアオレイン漂白油1000gを四つ口フラスコに量りとり、250℃で60分間、吹込み水蒸気量対油3質量%での減圧水蒸気蒸留による脱臭を行い、比較例1の精製油脂を得た。脱臭後に油脂の水分含量を測定すると200ppm以下となっていた。
(比較例2)
製造例1で得られたシアオレイン漂白油1000gを四つ口フラスコに量りとり、230℃で120分間、吹込み水蒸気量対油3質量%での減圧水蒸気蒸留による脱臭を行い、比較例2の精製油脂を得た。脱臭後に油脂の水分含量を測定すると200ppm以下となっていた。
(比較例3)
製造例1で得られたシアオレイン漂白油1000gを四つ口フラスコに量りとり、230℃で80分間、吹込み水蒸気量対油3質量%での減圧水蒸気蒸留による脱臭を行い、比較例3の精製油脂を得た。脱臭後に油脂の水分含量を測定すると200ppm以下となっていた。
(比較例4)
製造例1で得られたシアオレイン漂白油に対して水を添加することなく、油脂のみに対して実施例1と同条件で、均質化処理、予備加熱、流通式反応容器での加圧しながらの加熱、脱臭を行い、比較例4の精製油脂を得た。
(比較例5)
製造例1で得られたシアオレイン漂白油100質量部に対して水を50質量部添加した他は、実施例1と同条件で、均質化処理、予備加熱、流通式反応容器での加圧しながらの加熱、脱臭を行い、比較例5の精製油脂を得た。亜臨界水処理工程の後のジアシルグリセロール含有量の変動は1.1質量%であった。
比較例5における亜臨界水処理工程後の脱水については、脱臭工程の前に、3000rpm、15分の遠心分離により油水を分離させ油相を回収した。脱臭後に油脂の水分含量を測定すると200ppm以下となっていた。
(比較例6)
製造例2で得られたパーム漂白油1000gを四つ口フラスコに量りとり、250℃で50分間、吹込み水蒸気量対油3質量%での減圧水蒸気蒸留による脱臭を行い、比較例6の精製油脂を得た。脱臭後に油脂の水分含量を測定すると200ppm以下となっていた。
(比較例7)
製造例3で得られた、IE−PL漂白油1000gを四つ口フラスコに量りとり、250℃で50分間、吹込み水蒸気量対油3質量%での減圧水蒸気蒸留による脱臭を行い、比較例7の精製油脂を得た。脱臭後に油脂の水分含量を測定すると200ppm以下となっていた。
(比較例8)
製造例4で得られた、ナタネ漂白油1000gを四つ口フラスコに量りとり、250℃で50分間、吹込み水蒸気量対油3質量%での減圧水蒸気蒸留による脱臭を行い、比較例8の精製油脂を得た。脱臭後に水分含量を測定すると200ppm以下となっていた。
[風味評価]
実施例1〜11及び比較例1〜8で精製された油脂の風味を下記の方法で評価した。
実施例1〜11及び比較例1〜8で精製された油脂を、小さじに2g量りとり、直接口に含んで、以下に示す評価基準に則り、油脂に異味を感じるか否かを訓練された専門パネラー10人で評価した。10人の専門パネラーの評点の平均値が8.0〜8.5である場合は×、8.6〜9.0である場合は△、9.1〜9.5である場合は○、9.6〜10.0である場合は◎と評価した。評価結果を表1及び2に示した。
風味評価については精製当日、精製から3日後、精製から7日後に行い、経日的な風味の変化を評価した。
風味評価の経時変化については、実施例1〜11及び比較例1〜8によって得られた精製油脂のうち、シアオレイン漂白油及びナタネ漂白油を使用した精製油脂は60℃恒温槽中で保管したものに対して行い、パーム漂白油及びIE−PL漂白油を使用した精製油脂については、冷蔵庫内(測定温度5℃)で保管したものに対して行った。
また、経日的な風味評価は、60℃恒温槽中で保管した油脂については、60℃に調温された状態で風味評価を行い、冷蔵庫内で保管した油脂については、油脂が固化している状態で風味評価を行った。
尚、精製から3日後、又は精製から7日後に実施した風味評価の結果が◎若しくは○である場合、モドリ現象が抑制されており、△若しくは×である場合はモドリ現象が発生していると判定した。
風味評価の基準
10:口に含んでも異味がしない。
9:口に含んで2〜3秒してから異味を感じる。
8:口に含んだ直後に異味を感じる。
実施例1と比較例1〜3とを比較すると、油脂精製の方法を問わず、従来の油脂の精製方法で精製された場合であっても、精製直後の精製油脂はいずれも風味が良好であった。しかし、比較例1〜3の精製方法によって精製された油脂は、脱臭温度や脱臭時間にかかわらず、経日的にモドリ現象が発生した。
一方、実施例1の油脂の精製方法では、亜臨界水処理を脱臭工程の前に行うことにより、脱臭工程の時間を短縮化しても、風味は良好であり、かつモドリ現象の発生が抑制された精製油脂が得られた。このことから、亜臨界水処理工程を経ることで脱臭時間の短縮化を図ることができるため、精製の工程の所要時間を短縮化できることが示唆された。
次に、油脂100質量部に対しての水分量が異なる、実施例1と比較例4とを比較すると、比較例4ではモドリ現象が発生していることから、単に油脂に対して加圧しながら加熱するだけで油脂のモドリ現象が抑制されるのではなく、油脂と共に存在する水が亜臨界状態となることによって、油脂が精製され、その結果としてモドリ現象が抑制されていることが示唆された。
同様に油脂100質量部に対する水分量が異なる、実施例1と比較例5を比較すると、加圧しながら加熱する際に、油脂と共に存在する水分量によってモドリ現象の発生の有無に差異が生じることが分かった。このことから、油脂と共に存在する水分が単に多ければよいのではなく、一定の水分量の範囲にあることにより、精製された油脂のモドリ現象の発生を抑制することが示唆された。
実施例1と実施例2とはともに、モドリ現象の発生が認められなかった。このことから、予備加熱温度と反応温度とを調整することにより、滞留時間を短縮できることが示唆された。
次に、実施例1と実施例7とを比較すると、亜臨界水処理の前の均質化処理の有無によって、モドリ現象の発生に差が生じていた。これは、均質化処理を行い、油脂中に水分が微細な状態で存在することで、より高度に精製がなされたためであると考えられる。
次に、実施例1と実施例8を比較すると、密閉容器で亜臨界水処理を行った場合であっても、流通式反応容器で亜臨界水処理を行った場合であっても、処理を行う容器に依らず、モドリ現象の発生が抑制された油脂を得ることができることが分かった。
実施例1〜8では、モドリ現象の発生はみられなかった。一方で、油脂100質量部に対する水分量によって、長期的に保存した際に生じる風味の変化の度合いに差がみられた。
次に、異なる油脂種に対して亜臨界水処理を施した場合について、パーム漂白油に対して亜臨界水処理を施した実施例9と比較例6、IE−PL漂白油に対して亜臨界水処理を施した実施例10と比較例7、ナタネ漂白油に対して亜臨界水処理を施した実施例11と比較例8とを比較してみると、精製直後の風味はやはりいずれの油脂であっても良好であった。しかしながら、亜臨界水処理を施していない比較例6、比較例7、比較例8ではモドリ現象が確認された。一方、実施例9、実施例10及び実施例11では十分にモドリ現象が抑制された、経時的に風味の良好な油脂が得られることが確認された。即ち、異なる油脂種であっても、本発明の油脂の精製方法を施した油脂において、モドリ現象の抑制効果の程度に差異はみられなかった。このことから、本発明の油脂の精製方法によれば、油脂種を問わず、モドリ現象を抑制できることが確認された。

Claims (6)

  1. 油脂100質量部と0.1質量部以上25質量部未満の水とを加熱及び加圧する工程を有する油脂の精製方法であって、
    水単独の亜臨界状態での温度及び圧力をT及びPとしたとき、加熱及び加圧する上記工程を、系内の温度がTとなり全圧がPとなる条件で行う、油脂の精製方法。
  2. 油脂と水とを加圧及び加熱する上記工程の前後での油脂中のジアシルグリセロールの含有量の変動が5質量%以下である、請求項1に記載の、油脂の精製方法。
  3. 油脂と水とを加圧及び加熱する上記工程の前に、均質化処理を行う、請求項1、又は請求項2のいずれか一項に記載の油脂の精製方法。
  4. 油脂と水とを加圧及び加熱する上記工程を密閉容器中で行う、請求項1〜3のいずれか1項に記載の油脂の精製方法。
  5. 油脂と水とを加圧及び加熱する上記工程を流通式反応容器中で行う、請求項1〜3のいずれか1項に記載の油脂の精製方法。
  6. 油脂100質量部と0.1質量部以上25質量部未満の水とを加熱及び加圧する工程を有する油脂の風味改良方法であって、
    水単独の亜臨界状態での温度及び圧力をT及びPとしたとき、加熱及び加圧する上記工程を、系内の温度がTとなり全圧がPとなる条件で行う、油脂の風味改良方法。
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