(1.円筒研削盤10の構成)
次に、本発明に係る研削装置である円筒研削盤10の実施形態の一例を、図1〜図20に基づいて詳細に説明する。図1に示す円筒研削盤10は、ベッド20と、テーブル21と、Z軸駆動装置22と、砥石台30と、X軸駆動装置31(砥石車送り装置に相当)と、主軸台40と、心押台41と、ツルーイング装置50と、接触検知装置60と、X軸位置センサ70(位置検知装置に相当)と、定寸装置80と、制御装置90と、を備える。
テーブル21及び砥石台30は、ベッド20上に載置される。主軸台40及び心押台41は、テーブル21上に載置される。Z軸駆動装置22は、テーブル21をベッド20上でZ軸方向(図1参照)に移動させる。Z軸駆動装置22は、制御装置90によってサーボアンプ71を介して駆動が制御される。X軸駆動装置31(砥石車送り装置)は、砥石台30をベッド20上でX軸方向(図1参照)に移動させる。X軸駆動装置31は、制御装置90によってサーボアンプ24を介して駆動が制御される。
Z軸駆動装置22及びX軸駆動装置31は、それぞれサーボモータ、ボールねじ等を用いて構成される公知の駆動装置である。Z軸駆動装置22及びX軸駆動装置31は、砥石台30のX軸方向位置、及びテーブル21のZ軸方向位置をそれぞれ検出するためのX軸位置センサ70(位置検知装置)及びZ軸位置センサ23をそれぞれ備える。X軸位置センサ70及びZ軸位置センサ23は、各サーボモータの回転位相位置を検出可能なエンコーダを備えて構成される。
砥石台30は、回転軸線C2を備える砥石車33と、砥石車33が軸承される砥石軸34と、砥石車33及び砥石軸34を回転軸線C2周りに回転可能に支承する軸頭35と、砥石軸34を回転駆動させるためのモータ等を備える回転駆動装置(図示せず)と、を備える。回転駆動装置は、制御装置90によってサーボアンプ92aを介して駆動が制御される。
このような構成により、砥石台30は、砥石車33を回転可能に支持する。そして、上述のX軸駆動装置31は、砥石台30を、後述する工作物Wの回転軸線C1と直交(交差)する方向(X軸方向)に作動させ、砥石車33を工作物Wに対して接近及び離間(進退移動)させて研削加工を実施する。
主軸台40は、テーブル21の上面の一端側(図1において左側)に配置される。心押台41は、テーブル21の上面の他端側(図1において右側)に配置される。主軸台40は、制御装置90によってサーボアンプ92bを介して制御される駆動装置(図示せず)を備え、この駆動装置の駆動により回転軸線C1周りに回転する主軸42を備える。工作物W(本実施形態では円柱を例示)は、主軸42及び心押台41によって回転軸線C1周りに回転可能に支持される。そして、制御装置90によって主軸42の回転駆動が制御されて工作物Wが回転軸線C1周りに回転する。
図1に示すように、主軸台40には、ツルーイング装置50が備えられる。ツルーイング装置50は、砥石車33による予め設定された本数(例えば50本)の工作物Wの研削が終了する毎に、砥石車33の外周面を円板状のツルアSによってツルーイングする。ツルーイング装置50は、ツルアSを回転可能に支持するツルア台51と、モータ等からなりツルアSを回転軸線C3周りに回転駆動させる回転駆動装置(図示せず)と、を備える。回転駆動装置は、サーボアンプ92cを介して制御装置90によって制御される。
図1に示すように、接触検知装置60は、主軸台40に設けられる。接触検知装置60は、砥石車33の径(第一径)を算出するために用いる装置である。図1に示すように、接触検知装置60は、検知ピン16と、主軸台40に固定され検知ピン16を支持する支持台17と、検知センサであるAEセンサ18と、を備える。AEセンサ18は、検知ピン16又は支持台17に固定される(本実施形態では、支持台17に固定されている)。
AEセンサ18は、砥石車33及びテーブル21がそれぞれ移動し砥石車33の外周面が検知ピン16に接触したときの接触を検知する。このとき、接触の検知と同時に、AEセンサ18は、接触信号S1を制御装置90に送信する。
検知ピン16は、検知ピン16と砥石車33の外周面とが接触した状態を示す図3に示すように、支持台17の基準位置P1から砥石車33側に向かうX軸方向においてピン長さL1を有して固定される。後に詳述するが、ピン長さL1は、変化する因子である。また、X軸方向における基準位置P1と工作物Wの回転軸線C1との距離L2は、変化しない因子であり、よって基準位置P1は変化せず、予め制御装置90の記憶部106が備える。接触検知装置60による接触検知の動作は、後述する砥石車33の外周面へのツルーイングの前後において実施される。
なお、図3において、位置Pbは、ツルーイングの前後において、砥石車33を検知ピン16に接触させ、AEセンサ18(検知センサ)が接触信号S1を発するときにX軸位置センサ70(位置検知装置)により検知されるX軸方向における工作物Wの回転軸線C1を基準とした砥石車33の回転軸線C2の相対的な位置とする。以降の説明においても、相対位置といった場合、同様である。ただし、この態様はあくまで一例であって、基準位置はどこに設定してもよい。また、図3において、砥石車33の半径(第一径)はR(直径D=2R)とする。
また、検知ピン16は、毎ツルーイング後において、先端がX軸方向に所定のピン研削量A(所定量に相当)だけ研削除去される(図4参照)。詳細には、制御装置90が、図3における砥石車33を位置Pb(研削前)から位置Pb(研削後)にピン研削量A分だけX軸方向に前進させ、検知ピン16の先端をピン研削量Aだけ研削除去する。これにより、検知ピン16のピン長さL1は、各ツルーイング後において先端の研削が実施される毎に、理論上、ピン研削量Aずつ減少する。なお、検知ピン16の先端を研削する理由は、荒れた先端面を整え、砥石車33の外周面との接触検知精度を向上させるためである。
AEセンサ18は、前述したように、検知ピン16の先端が砥石車33の外周面と接触したときに、制御装置90に接触信号S1を送信する。AEセンサ18は、砥石車33と工作物W等とが接触した際に発生する砥石の破壊音波や工作物W等の破断音波等の弾性波(アコースティック・エミッション(AE))を検知する公知のセンサである。公知であるため、これ以上の詳細な説明については省略する。
X軸位置センサ70(位置検知装置)は、工作物W(の回転軸線C1)に対する砥石車33(の回転軸線C2)の相対的な位置を検知する。詳細には、X軸位置センサ70(位置検知装置)は、検知ピン16の先端と砥石車33の外周面との接触が検知された時点における砥石車33のX軸方向における相対的な位置を前述のエンコーダによって検知する。
定寸装置80は、図1に示すように、ベッド20上に設置される。定寸装置80は、工作物Wに対して砥石車33側と反対側の空間に配置される。定寸装置80は、工作物Wが砥石車33によって研削される際、工作物Wの被研削部Waの径を研削加工中に計測可能な装置である。
定寸装置80は、1対の測定子80aの先端部を研削中の工作物Wの被研削部Waに係合させ、その外径(径)を連続的に直接測定する。そして、定寸装置80は、被研削部Waの仕上げ寸法の径(直径)が予め設定された所定寸法Fbとなった場合に、定寸信号S2を制御装置90の数値制御装置91に送信する。
制御装置90は、接触検知(ツルーイング前)→ツルーイング→接触検知(ツルーイング後)→検知ピン16の先端研削→複数(例えば50本)の工作物Wの研削→接触検知(ツルーイング前)→ツルーイング→接触検知(ツルーイング後)→検知ピン16の先端研削・・を順に繰返し行なうよう円筒研削盤10を制御する。詳細については後述する。
次に、円筒研削盤10を制御する制御装置90の構成について説明する。前述したように、制御装置90は、数値制御装置91,種々の制御値及びプログラムを保持する記憶部106,及び入出力装置110を備える。数値制御装置91は、図略のインタフェースと、装置全体を管理する中央制御装置(CPU)と、を備える。
記憶部106には、工作物Wの研削aの加工プログラム,工作物Wの研削bの加工プログラム,砥石車33のツルーイングプログラム,検知ピン16と砥石車33との接触検知プログラム,ツルーイング後に検知ピン16の先端を研削する検知ピン研削プログラム,砥石車33の半径である径R(第一径)の初期データ,検知ピン16の長さL1の初期データ等が記憶されている。
また、数値制御装置91には、インタフェース(図略)を介して入出力装置110が接続され、入出力装置110によって種々のデータが入力されるようになっている。入出力装置110は、データの入力等を行うためのキーボード、データの表示を行うCRT等の表示装置が備えられている。
また、数値制御装置91には、接触検知装置60から送信される接触信号S1が増幅器72及びインタフェース(図略)を介して入力される。また、数値制御装置91には、定寸装置80から送信される定寸信号S2が増幅器72及びインタフェース(図略)を介して入力される。これらの増幅器72は、接触検知装置60及び定寸装置80からの検知信号に応じて、オン・オフ信号を数値制御装置91側へ出力するよう構成されている。
また、数値制御装置91は、Z軸駆動装置22及びX軸駆動装置31の各サーボモータとサーボアンプ71,24を介して接続される。また、サーボアンプ71,24は、X軸位置センサ70(位置検知装置)及びZ軸位置センサ23がそれぞれ備えるエンコーダと接続され、各サーボモータの回転位相情報が取得される。そして、数値制御装置91から送信される位置指令値に基づき、各サーボアンプ71,24を介してZ軸駆動装置22及びX軸駆動装置31の各サーボモータの回転位相がフィードバック制御される。
これにより、数値制御装置91は、砥石台30及びテーブル21を所望の位置に移動させ、砥石車33を検知ピン16,ツルアS及び工作物W等と接触させる。そして、記憶部106が備えるツルーイングプログラム,接触検知プログラム,検知ピン研削プログラム及び研削加工プログラムによって、各処理が実行される。
また、数値制御装置91は、図2に示すように、接触検知部93,ピン長さ更新部95,第一砥石車径算出部96,第二砥石車径算出部105,定寸オフセット値算出部97,及びピン長さ補正量算出部98を備える。記憶部106は、ピン長さ記憶部94,砥石車径記憶部99を備える。数値制御装置91,及び記憶部106は、ツルーイングプログラムであるツルーイング制御部101,接触検知プログラムである接触検知制御部102,検知ピン研削プログラムである検知ピン研削制御部103,研削aの加工プログラムである研削制御部104a及び研削bの加工プログラムである研削制御部104bを備える。
ピン長さ記憶部94は、検知ピン16の現在のピン長さL1を記憶する。ピン長さ記憶部94は、初期には、新品状態の検知ピン16のピン長さL1(例えば、10mm)を記憶部106から取得し記憶する。
ピン長さ更新部95は、ツルーイング前の接触検知、ツルーイング及びツルーイング後の接触検知の各プログラムが実行された後、検知ピン研削プログラムが実行される度に、ピン長さ記憶部94が記憶する現在の「ピン長さL1」を、ピン研削量A(例えば0.001mm)ずつ減少方向に更新する。つまり、例えば250回のツルーイングが終了した後には、ピン長さL1データは、250回の研削によって、計算上、9.75mm(=10−(250X0.001))となる(図5、G1参照)。
このように、本実施形態では、検知ピン16が毎ツルーイング後に研削され変化する量は、所定のツルーイング回数(例えば250回)までは、予め設定した一定の値(0.001mm)のみ、即ち、ピン研削量Aのデータ上の値のみとする。つまり、本実施形態においては、実際には含まれるであろうピン研削量Aの誤差分、即ちピン長さ補正量Bは考慮に入れない(図5、G2参照)。これにより、ピン長さ更新部95は、毎ピン研削後に現在のピン長さL1を、0.001mmずつ減少させて更新する。
ただし、ツルーイング回数が、所定のツルーイング回数(例えば250回)を超えた251回目においては、ピン長さ更新部95は、所定のツルーイング回数(例えば250回)までの更新内容とは異なる処理を行なう。詳細については、後述する作動の説明において行なう。
第一砥石車径算出部96は、図3に示す接触検知において現在の砥石車33の半径R(第一径)を算出する処理部である。現在の砥石車33の半径R(第一径)を算出するため、ツルーイングの前後において、それぞれ接触検知プログラムが実行される。詳細については後述するが、接触検知制御部102によって、砥石台30及びテーブル21を、砥石車33の外周面と検知ピン16の先端とを接近させる方向に移動させ、図3に示すように砥石車33の外周面を検知ピン16の先端に接触させる。砥石車33の外周面が検知ピン16の先端に接触すると、AEセンサ18(検知センサ)が接触を検知し、増幅器72及びインタフェース(図略)を介して数値制御装置91の接触検知部93に接触信号S1を送信する。
接触信号S1を受信して検知したときに、砥石車33の回転軸線C2の相対的な位置Pb(図3参照)をX軸位置センサ70で検出し、第一砥石車径算出部96に送信する。なお、本実施形態においては、位置Pbは、工作物Wの回転軸線C1に対するX軸方向における相対位置である。
また、詳細については後述するが、第一砥石車径算出部96は、位置Pbと、ピン長さ記憶部94に記憶される現在の検知ピン16の長さL1(図3参照)とに基づいて、砥石車33の現在の半径R(第一径)を算出する。算出された半径R(第一径)は、第一砥石車径算出部96から砥石車径記憶部99に送信し砥石車径記憶部99で記憶する。なお、このとき「砥石車33の半径R(第一径)」は、今回、第一砥石車径算出部96によって算出された後、次回、第一砥石車径算出部96によって算出されるまでの間、適用される。
第二砥石車径算出部105は、研削制御部a104aの一部であり、図6に示すように、工作物Wの被研削部Waが研削される際において砥石車33の半径Ra(第二径)を算出する処理部である。詳細には、半径Ra(第二径)は、定寸装置80から定寸信号S2が発せられた時点においてX軸位置センサ70により検知される砥石車33の相対的な位置Pa(図6参照)及び工作物Wの被研削部Waの径の所定寸法Fbに基づき算出される。詳細については後述する。
定寸オフセット値算出部97は、定寸オフセット値βを算出する処理部である。ここでいう、定寸オフセット値βとは、定寸装置80から定寸信号S2が発せられた時点においてX軸位置センサ70により検知される砥石車33のX軸方向における相対的な位置Pa及び予め設定された工作物Wの被研削部Waの径の所定寸法Fbに基づき算出される砥石車33の半径Ra(第二径)と、第一砥石車径算出部96で算出された現在の砥石車33の半径R(第一径)との差(ずれ)の値である。詳細については後述する。
なお、換言すると、定寸オフセット値βは、誤差を含むピン長さL1に基づき演算された現在の砥石車33の半径R(第一径)に基づく誤差を含む回転軸線C2の相対的な位置Pcと、定寸装置80の計測により既知となった砥石車33の半径Ra(第二径)に基づく誤差を含まない回転軸線C2の相対的な位置Paとの差でもある(図6参照)。
このとき、現在の砥石車33の回転軸線C2の相対的な位置Pcとは、図3に示すように、第一砥石車径算出部96が回転軸線C2の相対的な位置Pbを使用して算出した半径R(第一径)の砥石車33を半径Ra(第二径)の砥石車33と工作物W側の端面位置が一致するよう重ね合わせた状態における回転軸線C2の相対的な位置である。つまり、位置Pcと位置Paとのずれは、半径R(第一径)と半径Ra(第二径)との差に等しい。
また、定寸信号S2とは、研削制御部a104aの制御による駆動制御装置92の制御によって砥石車33が工作物Wの回転軸線C1方向に向って接近し、砥石車33の外周面が工作物Wの被研削部Waと接触して被研削部Waが研削加工される際(図6参照)、被研削部Waの径が予め設定された所定寸法Fbになると、定寸装置80から定寸オフセット値算出部97に送信される信号である。
前述したように、定寸オフセット値βは、ツルーイング後、演算するたびに誤差が累積される。このため、図7に示すように、定寸オフセット値βは、ツルーイング回数が増えていくに従い、大きくなる傾向がある。本実施形態では、ツルーイング回数250回という比較的長い期間に亘って、誤差を累積させ、累積した誤差を利用して、ツルーイング250回以降における工作物Wの研削を効率的に行なうものである。詳細については後に述べる。
なお、上記において、定寸オフセット値βに含まれる誤差は、ピン長さL1の誤差によるものと説明したが、これだけではない。外気温の変化に伴うベッド20、テーブル21、砥石台30等の熱膨張及び熱収縮等も定寸オフセット値βに含まれる誤差の要因となりうる。ただし、熱膨張及び熱収縮よる誤差は累積するものではないため今回の発明においては考慮しない。
ピン長さ補正量算出部98は、砥石車33の初期の定寸オフセット値β1(=0、図7参照)と所定回数(本実施形態では250回)のツルーイングの後における定寸オフセット値β2(図7参照)との差分(β2−β1)を、ツルーイングの所定回数(例えば250回)で除算して、検知ピン16の長さのピン長さ補正量B(=(β2−β1)/250)を算出する。
つまり、ピン長さ補正量Bは、ツルーイング回数250回までにおけるツルーイング毎に発生する誤差の平均値である。このようにして、ピン長さ補正量算出部98は、ツルーイングが所定回数(例えば250回)以上行われた以降(251回目以降)における検知ピン16の長さのピン長さ補正量Bを求める。そして、ツルーイング251回目以降において、検知ピン16の長さは、各ツルーイングの度に、ピン長さ更新部95によって、ピン研削量A(0.001mm)+ピン長さ補正量Bずつ減少される(図5参照)。
(2.作動)
次に、円筒研削盤10(研削装置)の作動について図2のブロック図、図8−図13のフローチャート1−6等に基づいて説明する。まず作動の概要について説明する。本発明に係る円筒研削盤10(研削装置)の作動は、大きく二つの処理領域に分類できる。
一つ目の処理領域は、ツルーイング回数250回までの間において砥石車33により複数の工作物Wの被研削部Waを研削するとともに、複数の工作物Wの研削の間に、接触検知、ツルーイング及び検知ピン研削を行なう第一処理領域である。
二つ目の領域は、ツルーイング回数251回〜500回までの間において、第一処理領域における作動によって取得したデータに基づいて設定される条件に基づき、砥石車33により複数の工作物Wの被研削部Waを研削するとともに、複数の工作物Wの研削の間に、接触検知、ツルーイング及び検知ピン研削を行なう第二処理領域である。
本実施形態に係る円筒研削盤10では、前述したように、砥石車33が研削を工作物Wに対して、例えば複数(例えば50本)行なった後には、「接触検知(ツルーイング前)→ツルーイング→接触検知(ツルーイング後)→検知ピン16の先端研削」が記載順に複数(例えば50本)の工作物Wの研削毎に繰返し行なわれる。この繰り返しは、第一処理領域及び第二処理領域を通して、ツルーイングの回数が、例えば500回になるまで行なわれる。
このとき、ツルーイング回数「500回」とは、例えば、ツルアSによりツルーイングを行なうたびに径が小さくなる砥石車33において、砥石車としての性能を維持することが可能な径を確保できるツルーイング回数の最大値である。ただし、この回数はあくまで一例であって、使用する砥石車に応じて任意に設定すればよい。
また、本実施形態において、ツルーイング回数500回の半分であるツルーイング回数250回までの処理領域である第一処理領域では、従来から使用される定寸オフセット(後に詳細に説明する)の手法を用いて工作物Wの研削加工を実施していく。なお、本実施形態では、図5,図7のグラフに示すように、ツルーイング回数1回,20回,50回,80回,100回,150回,200回,250回における各データを代表として示す。
(2−1.全体の作動)
以上を踏まえた上で、まず、円筒研削盤10(研削装置)の全体の作動について説明する。フローチャート1においては、第一処理領域におけるツルーイング回数250回までの間に研削する工作物Wの研削を工作物研削aとする。また、第二処理領域におけるツルーイング回数251回〜500回までの間に研削する工作物Wの研削を工作物研削bとする。また、説明の前提条件として、砥石車33は、新品である。また、検知ピン16も新品である。
ステップS10(図8,フローチャート1)では、作動に必要な各種項目の数値の入力を入出力装置110から行なう。入力する各種項目の数値は、新品時における砥石車33の半径R,早送り前進可能な工作物Wの径Fa,仕上げ研削完了時の工作物Wの径Fb(所定寸法に相当する),早送り前の砥石車33と工作物Wの離間距離M1,新品時における検知ピン16のピン長さL1(例えば10mm),検知ピン16の基準位置P1と工作物Wの回転軸線C1との距離L2,ツルアSの径N(直径),ツルアSの回転軸線C3と工作物Wの回転軸線C1との間の距離L3,定寸オフセット値β等である。なお、定寸オフセット値βは、砥石車33の交換直後においてのみ「0」を入力し、その後は、次の砥石車33が交換されるまで自動で更新される。
(2−2.工作物研削a)
ステップS20(研削制御部a104a)(工作物研削a)では、記憶部106に記憶された研削aの加工プログラムが作動し、工作物Wの被研削部Waの研削が実施される。このとき砥石車33の回転軸線C2の(待機)位置Pc1,砥石車33の半径R(新品の径),工作物Wの回転軸線C1,早送り前の砥石車33と工作物Wの離間距離M1の状態は、図14に示すとおりである。
なお、待機位置Pc1は、図3で説明した回転軸線C2が相対位置Pcに位置する砥石車33が離間距離M1だけ後退し待機位置に移動した場合の相対的な位置である。また、位置Pa1も回転軸線C2が相対位置Paに位置する砥石車33が離間距離M1だけ後退し待機位置に移動した場合の相対的な位置である。そして、今回、砥石車33は新品であるので、実際には、待機位置Pc1は、位置Pa1と一致しており、定寸オフセット値βは、「0」であるものとする。
ここで、工作物研削a(ステップS20)の詳細について、サブルーチンである、図9のフローチャート2及び図14に基づき説明する。フローチャート2に示すように、ステップS20Aでは、数値制御装置91の制御により、一本目の工作物Wに対して、砥石車33が(待機)位置Pc1から離間距離M1だけX軸方向に早送り前進される(図14参照)。これにより、砥石車33の外周面が、工作物Wの回転軸線C1を中心とする半径(Fa/2)の位置に短時間で到達できる。
このとき、半径(Fa/2)は、一本目の工作物Wの被研削部Waの初期の半径よりも大きい。従って、砥石車33がX軸方向に早送り前進されても、砥石車33の外周面と工作物Wの被研削部Waとは衝突しない。
ステップS20Bでは、研削制御部104の制御によって、砥石車33が被研削部Wa側に向って所定の切り込み速度で、所定深さだけ切り込まれ粗研削が実行される。このとき、前述したように、被研削部Waの外径は、定寸装置80により測定され、データが研削制御部104に送信される。そして、定寸装置80が測定した寸法が、予め設定された外径に到達すると、到達した時点から研削制御部104の制御によって、ステップS20Cの精研削が実行される。
精研削は、粗研削よりも切り込み速度を遅くする等の公知の研削条件の変更によって対応する。そして、上記と同様、定寸装置80が測定した寸法が予め設定された外径に到達したときは、到達した時点から研削制御部104の制御によって、ステップS20Dの仕上げ研削が実行される。仕上げ研削においても、精研削よりも切り込み速度を遅くする等の公知の所定の研削条件の変更によって対応する。
そして、ステップS20Eにおいて、図略の判定部が、定寸信号S2が定寸オフセット値算出部97に送信されたか否かを判定する。ここでは、定寸装置80が測定した寸法が、予め設定された径Fb(所定寸法に相当する)に到達し、定寸信号S2が発せられれば、YesにしたがってステップS20Fに移動し、処理を行なう。また、定寸信号S2が発せられていなければ、ステップS20Dに戻り、ステップS20Eで定寸信号S2が発せられYesとなるまでステップS20D,S20Eが繰り返し実行される。
そして、ステップS20Fでは、定寸信号S2が発せられた時点における、砥石車33の回転軸線C2の位置PaをX軸位置センサ70(位置検知装置)が取得し、第二砥石車径算出部105に送信する。
ステップS20G(第二砥石車径算出部105)では、砥石車33の半径Ra(第二径)を算出する。半径Ra(第二径)は、定寸装置80から定寸信号S2が発せられた時点においてX軸位置センサ70により検知される砥石車33の相対的な位置Pa及び工作物Wの被研削部Waの径の所定寸法Fbに基づき算出される(図6参照)。つまり、Ra=Pa−Fb/2によって半径Ra(第二径)を算出する。そして、算出した半径Ra(第二径)を砥石車径記憶部99に送信し記憶させる。
ステップS20Hでは、砥石車径記憶部99から、現在の砥石車33の半径R(第一径,砥石車径)及び第二砥石車径算出部105が算出した半径Ra(第二径,砥石車径)を取得する。半径R(第一径)は、先回のツルーイング時に実施した接触検知によって取得する砥石車33の回転軸線C2の相対的な位置Pbと、ピン長さ記憶部94に記憶される現在の検知ピン16の長さL1とに基づいて算出される。よって、今回のように、砥石車33を新品に交換した直後であって、先回のツルーイングがない場合、半径R(第一径)は、新品時における砥石車33の半径Rを砥石車径記憶部99から取得する。
ステップS20I(定寸オフセット値算出部97)では、定寸オフセット値βを算出する。定寸オフセット値βは、下記式(1)によって算出される。
β=R−Ra・・・(1)
R;砥石車33の第一径
Ra;砥石車33の第二径
なお、図6において、定寸オフセット値βは、半径R(第一径)及び半径Ra(第二径)を有する各砥石車33の工作物W側の外周位置を一致させた状態とした場合における各回転軸線C2の位置Pcと位置Paとの差(ずれ)として記載している。しかし、これは、砥石車33の半径Ra(第二径)と、第一砥石車径算出部96で算出された現在の砥石車33の半径R(第一径)との間の差と同意である。そして、ステップS20Jでは、砥石車33の回転軸線C2が、(Fa/2+M1+R+β)の位置Pa1に早送り後退される(図14参照)。
つまり、砥石車33の後退位置Pa1は、先回の待機位置Pc1に対し、定寸オフセット値βだけずれた位置に後退する(ただし、今回は、R(第一径)=Ra(第二径)であり、よってβ=0)。これにより、毎回サイクルタイムを同一とすることができるので、効率的である。
一本の工作物Wの研削が終了すると、図8のフローチャート1のステップS30で、研削数のカウンタ(図略)のカウント数c1が一つ増加される。ステップS40(判定部)では、工作物WがステップS20において所定数(例えば、50本)研削されたか否か、即ち、ステップS30でカウントしたカウント数c1が所定数(例えば、50)に達したか否か、が判定される。
所定数に達していればYesに従いステップS50(図8,フローチャート1)の処理を行なう。しかし、所定数に達していなければ、Noに従いステップS20(S20A〜S20J)に戻る。そして、ステップS40においてYesとなるまで、ステップS20〜S40の処理を繰り返し行なう。
(2−3.ツルーイング前の接触検知)
ステップS50(接触検知制御部102)(図8,フローチャート1)では、図10のフローチャート3に示す接触検知プログラムが作動しツルーイング前の接触検知の処理を行なう。具体的には、まず、数値制御装置91が、テーブル21を移動させ、図15に示す状態とする(砥石車33は回転軸線C2がPc1に位置する)。
そして、ステップS50A(図10,フローチャート3)において、数値制御装置91の制御により、砥石車33を検知ピン16に向けて早送り前進させる。このとき、砥石車33の先端と検知ピン16の先端との間の離間距離はM3である。また、基準位置P1からの検知ピン16のピン長さはL1である。また、早送り前進させる前における砥石車33の位置Pc1は、上記工作物研削aにおいて適用した位置Pc1と同じである。
そして、ステップS50A(図10,フローチャート3)では、駆動制御装置92の制御により、検知ピン16に対して、砥石車33を(待機)位置Pc1から、砥石車33の先端と検知ピン16の先端との間の離間距離M3に対し、(M3−Δm3)だけX軸方向に早送り前進させる。このとき、Δm3は、砥石車33の先端と検知ピン16の先端とが衝突しない値であればいくつでもよく任意に設定すればよい。ただし、Δm3は、ステップS50Bにおいて、砥石車33が低速で前進しながら検知ピン16の先端との接触を探る区間の長さであるので、あまり大きな値でないことが好ましい。
その後、ステップS50B(図10,フローチャート3)では、砥石車33を、低速でΔm3(例えば0.01mm)だけ前進させる。ただし、前進させる量0.01mmはあくまで一例であって、任意に設定すればよい。ステップS50C(接触検知部93)では、砥石車33の先端と検知ピン16の先端とが接触したか否かを判定する。
具体的には、砥石車33の先端と検知ピン16の先端とが接触すると、AEセンサ18が砥石車33と検知ピン16との接触により発生する弾性波を検知し、接触信号S1を送信する。よって、接触信号S1が送信されたことをもって砥石車33の先端と検知ピン16の先端とが接触したと判定し、Yesに従いステップS50Dに移動する。
また、ステップS50C(図10,フローチャート3)において、接触信号S1が送信されない場合、Noに従いステップS50Bに戻り、ステップS50CでYesとなるまでS50B及びステップS50Cの処理を繰り返し行なう。ステップS50Dでは、X軸位置センサ70が砥石車33の回転軸線C2の位置Pbを取得し、第一砥石車径算出部96に送信する。ステップS50Eでは、ピン長さ記憶部94に記憶される現在の検知ピン16の長さL1を取得する。
ステップS50F(第一砥石車径算出部96)(図10,フローチャート3)では、位置Pbと、ピン長さ記憶部94に記憶される現在の検知ピン16の長さL1とに基づいて、現在の砥石車33の半径R(第一径、砥石車径)を演算する(図3及び下記式(2)参照)。
R=Pb−P1−L1・・・(2)
Pb;接触信号S1が送信されたときにおける砥石車33の回転軸線C2の相対的な位置
P1;検知ピン16の基準位置P1
L1;基準位置P1から突出する検知ピン16のピン長さ
そして、算出された現在の砥石車33の半径R(第一径)は砥石車径記憶部99に送信され古い砥石車33の半径Rのデータが更新されて記憶される。現在の砥石車33の半径R(第一径)が算出できたら、ステップS50G(図10,フローチャート3)によって、砥石車33の回転軸線C2が、図15に示す(P1+L1+M3+R+β)の位置Pa1に早送り後退される。なお、定寸オフセット値βは、フローチャート1のステップS20で最後の工作物Wにおいて算出された値を適用する。また、検知ピン16のピン長さL1については、新品状態の今回においては、初期値である例えば10mmを適用し、以降においては、ピン長さ記憶部94に更新して記憶されるピン長さL1を取得して使用する。
(2−4.ツルーイング)
ステップS60(ツルーイング制御部101)(図8,フローチャート1)では、図11のフローチャート4に示すツルーイングプログラムが作動し砥石車33の外周面のツルーイングを行なう。具体的には、ステップS60A(図11,フローチャート4)において、まず、数値制御装置91が、テーブル21を移動させ、図16に示す状態とする(砥石車33は回転軸線C2がPc1に位置する)。そして、砥石車33を検知ピン16に向けて、M2+J/2だけ早送り前進させる(図17参照)。
図16に示すように、早送り前進させる前の状態では、X軸方向における砥石車33の先端とツルアSの先端との間の離間距離はM2である。ツルアSの直径はN(半径はN/2)である。また、工作物Wの回転軸線C1とツルアSの回転軸線C3との離間距離はL3である。また、回転軸線C3の相対的な基準位置をP2とする。Jは、砥石車33をツルーイングにより除去する半径厚さである。砥石車33の半径Rは、接触検知時と同様である。また、早送り前進させる前における砥石車33の位置Pc1は、上記工作物研削aにおいて適用した位置Pc1と同じである。
その後、ステップS60B(図11,フローチャート4)で、ツルアSを図17における左方向へトラバースし、砥石車33の外周面を径方向にJ/2だけ除去する。次に、ステップS60Cで、J/2だけ前進する。そして、ステップS60Dで、ツルアSを図17における右方向へトラバースし、砥石車33の外周面を径方向にさらにJ/2だけ除去する。
ステップS60E(演算部)(図11,フローチャート4)では、砥石車径R(R=R−2×J)を演算し、現在の砥石車33の半径R(第一径)として砥石車径記憶部99に記憶する。そして、ステップS60F(図11,フローチャート4)によって、砥石車33の回転軸線C2が、(P2+N/2+M2+R+β)の位置Pa1に早送り後退される。なお、定寸オフセット値βは、フローチャート1のステップS20で最後の工作物Wにおいて算出された値を適用する。
(2−5.ツルーイング後の接触検知)
次に、ステップS70(図8,フローチャート1)において、ステップS50(S50A〜S50F)と同様の処理を行なう。ただし、このとき、ステップS50E(図10,フローチャート3)において、第一砥石車径算出部96が算出した現在の砥石車33の半径R(第一径)は、次回のツルーイングまでの間に実施される工作物Wの研削加工において、定寸オフセット値βを算出する際の砥石車径である半径R(第一径)として使用される。
(2−6.検知ピン研削)
次に、ステップS80(検知ピン研削制御部103)(図8,フローチャート1)において、図12のフローチャート5に示す検知ピン研削プログラムが作動され、検知ピン研削が実施される。具体的には、図12に示すフローチャート5のステップS80Aにおいて、まず、数値制御装置91が、テーブル21を移動させ、図18に示す状態とする(砥石車33は回転軸線C2がPc1に位置する)。そして、駆動制御装置92が、砥石車33を検知ピン16に向けて、M4だけ早送り前進させ検知ピン16の先端に接触させる。
次に、ステップS80B(図12、フローチャート5)において、砥石車33をX軸方向に寸法「A」だけ前進させ、検知ピン16の先端を「ピン研削量A」だけ研削し除去する(図4参照)。本実施形態においては、ピン研削量Aは、例えば,0.001mm(1μm)である。
ただし、0.001mm(1μm)は、あくまで一例を例示しただけである。ピン研削量Aは、0.001mmより大きくてもよいし、0.001mmより小さくてもよい。これにより、検知ピン16のピン長さL1は、検知ピン研削制御部103の制御により各ツルーイング後において先端の研削が実施される毎に、理論上、0.001mm(1μm)ずつ減少する。
しかし、実際には、ピン長さL1は、ツルーイングが実施されるたびに0.001mmずつ減少するとは限らない。減少量としては、0.001mm以上の場合もあるし、0.001mmを下回る場合もある。しかし、本実施形態では、図5のG1に示すように、ピン長さL1は、データ上、例えば0.001mmずつ減少するものとする。このように、ピン研削量Aは誤差を含むデータである。
次に、ステップS80C(ピン長さ更新部95)(図12,フローチャート5)において、ピン長さ演算部(図略)がピン長さL1(=L1−A)を演算し、ピン長さ記憶部94に記憶し更新する。
次に、ステップS80D(図12,フローチャート5)において、砥石車33の回転軸線C2が、(P1+L1+M4+R+β)の位置Pa1に早送り後退される。なお、定寸オフセット値βは、フローチャート1のステップS20で最後の工作物Wにおいて算出された値を適用する。
ステップS90(図8,フローチャート1)では、フローチャート1のステップS30でカウントした研削数のカウント数c1が0にリセットされる。ステップS100(図8,フローチャート1)では、ツルーイング回数のカウンタのカウント数c2を、ステップS100を通過する度に一つずつ増加させる。
ステップS110(図8,フローチャート1)では、ツルーイング回数のカウンタのカウント数c2が251以上か否かが判定される。カウント数c2が251より少なければ、Noに従いステップS120に移動する。そして、前記ステップS80Cの内容として、ステップS120が実行される。ピン長さ記憶部94に記憶されるピン長さL1のデータを、ピン研削後のピン長さL1(L1(ピン研削後)=L1(ピン研削前)−A)に更新し、ピン長さ記憶部94に記憶する。
このとき、ツルーイング回数が250回までの間における代表のツルーイング回数(例えば、1回,20回,50回,80回,100回,150回,200回,250回)、ツルーイング一回あたりのピン研削量A、ツルーイング一回あたりのピン長さ補正量B、代表のツルーイング回数の間におけるツルーイング回数C、代表のツルーイング回数時におけるピン更新長さD、代表のツルーイング回数時におけるピン長さL1、代表のツルーイング回数時における定寸オフセット値β等は図5,図7,図19に示すとおりである。その後、ステップS20に戻り、ステップS110において、ツルーイング回数のカウント数c2が251以上と判定されるまで、ステップS20〜ステップS110の処理が繰り返し実施される。
また、ステップS110において、カウント数c2が251以上と判定された場合は、Yesに従い、ステップS130に移動する。ステップS130では、カウント数c2が500に到達したか否かが判定される。ステップS130において、カウント数c2が500に到達していなければ、Noに従いステップS140に移動する。また、ツルーイング回数のカウント数が500に到達すれば、Yesに従いプログラムを終了する。
ステップS140(ピン長さ補正量算出部98)では、検知ピン16のピン長さ補正量B(B=(β2−β1)/250回(ツルーイングの所定回数))が算出される。ここで、β1は、砥石車33の初期の定寸オフセット値である。本実施形態においてβ1は、0である(図7参照)。また、β2は、所定回数(本実施形態では250回)のツルーイングの後における定寸オフセット値であり、図7に示すように、本実施形態においては、例えば0.2mmである。これにより、ピン長さL1のピン長さ補正量Bは、0.0008mm(=0.2/250)となる。
ステップS150では、ツルーイング回数のカウント数c2が252以上であるか否かが図略の判定部により判定される。カウント数c2が251であればNoに従いステップS160に移動する。前記ステップS80の内容としてステップS160が実行される。ステップS160では、検知ピン16のピン長さL1のずれ量(誤差)をリセットするため、ピン長さ記憶部94に記憶される検知ピン16のピン長さL1から0.2mm(β2)を減じ、ピン長さL1を変更点P3(図5参照)とし、ピン長さL1を真値に近づける。ピン長さL1をピン長さ記憶部94に記憶に記憶する。
上記において、定寸オフセット値0.2mm(β2)は、250回実施されてきたツルーイングによって累積されてきたピン長さL1のずれ(誤差)である。そこで、ツルーイング251回目において、砥石車33の初期の定寸オフセット値β1と所定回数(250回)のツルーイングの後における定寸オフセット値との差分に基づいて、ピン長さ記憶部94に記憶されている検知ピン16のピン長さL1を更新する(図5,図19参照)。
また、ステップS160では、ピン長さ更新部95が、さらに、上記β2の変更に加え、上述した検知ピン16が研削されたピン研削量A(例えば0.001mm)と、ステップS130においてピン長さ補正量算出部98により算出された上記検知ピンのピン長さ補正量B(=0.0008mm)とに基づいて、ピン長さ記憶部94に記憶される検知ピン16の長さL1を更新する。つまり、ツルーイング後において、検知ピン16の長さL1を、ピン研削量Aの0.001mmだけでなく、ピン長さ補正量算出部98で算出したピン長さ補正量B(例えば、0.0008mm)もあわせた分、即ち、0.0018mm(1.8μm)ずつ減少させる。従って、ステップS160では、ピン長さ更新部95が、ピン研削後のピン長さL1を(L1(研削後)=L1(研削前)−A−B−0.2)に更新する。そして、その後ステップS180に移動する。
また、ステップS150において、ツルーイング回数のカウント数c2が252以上であると判定された場合は、Yesに従い、ステップS170に移動する。前記ステップS80の内容としてステップS170が実行される。ステップS170では、上述した検知ピン16が研削されたピン研削量A(例えば0.001mm)と、ステップS130においてピン長さ補正量算出部98により算出された上記検知ピンのピン長さ補正量B(=0.0008mm)と、に基づいて、ピン長さ記憶部94に記憶される検知ピン16の長さが更新される。つまり、ステップS170では、ピン長さ更新部95が、ピン研削後のピン長さL1を(L1(研削後)=L1(研削前)−A−B)に更新する。そして、その後ステップS180に移動する。
このように、ツルーイング251回目〜500回までは、図5に示すように、ツルーイングする度にピン研削量Aの0.001mmだけでなく、ピン長さ補正量算出部98で算出したピン長さ補正量B(例えば、0.0008mm)もあわせた分、即ち、0.0018mm(1.8μm)ずつ減少させる。つまり、ツルーイング250回目までは、ピン長さL1は、誤差を含んだ長さとして演算してきたが、ツルーイング251回目から500回目までは、ツルーイング250回目までに累積してきた定寸オフセット値に基づき、一回のツルーイング毎に含まれるピン長さL1の平均誤差量(ピン長さ補正量Bに相当)を求め、その平均誤差量によってピン長さL1を変更していく。
このとき、ツルーイング回数が251回〜500回までの間における代表のツルーイング回数(例えば、251回,300回,350回,400回,450回,500回)、ツルーイング一回あたりのピン研削量A、ツルーイング一回あたりのピン長さ補正量B、代表のツルーイング回数の間のツルーイング回数C、代表のツルーイング回数時におけるピン更新長さD、代表のツルーイング回数時におけるピン長さL1、代表のツルーイング回数時における定寸オフセット値β等は図5,図7,図19に示すとおりである。
第二処理領域のステップS180(研削制御部b104b)(工作物研削b)は、第一処理領域のステップS20(工作物研削a)のサブルーチン(ステップS20A〜S20J)と類似のサブルーチン(図13,フローチャート6,ステップS180A〜S180F)を備える。第一処理領域におけるステップS20(ステップS20A〜S20E)は、ステップS180A〜S180Eと同じ内容である。しかし、ステップS180のサブルーチンは、定寸オフセット値βを演算するためのステップS20F〜S20Iに相当する処理部を有していない。また、ステップS20Jに対応するステップS180Fでは、砥石車33の回転軸線C2が、(Fa/2+M1+R)の位置Pa1(Pc1)に早送り後退される(図20参照)。つまり、ステップS180Fでは、定寸オフセット値βに関わる項を有さない。
このように、ツルーイング回数が251回〜500回までの間においては、工作物Wの研削時における定寸オフセット値βは、「0」とすることができ、砥石車33の位置を駆動制御装置92の制御によって補正する必要が無くなり効率的である。
この後、第一処理領域のステップS30、S40と同じ内容である第二処理領域のステップS190、S200の処理を経て、ツルーイング回数が250回までの間における処理部であるステップS50〜S110,及びS130,S140〜S200(第二処理領域)まで順次処理される。そして、ステップS130において、ツルーイング回数のカウンタ(図略)のカウント数c2が500を超えたと判定された場合にプログラムが終了される。
(3.その他)
なお、上記実施形態では、ツルーイング251回目からは、ツルーイングする度にピンのピン研削量A(0.001mm)だけでなく、ピン長さ補正量算出部98で算出したピン長さ補正量B(例えば、0.0008mm)もあわせた分、即ち、0.0018mm(1.8μm)ずつ減少させるようにした。
しかし、この態様には限らない。別の態様として、ツルーイングが所定の回数(例えば250回)に達した後、次に実施されるツルーイング(251回目)後において、ピン長さ更新部95が、ピン長さ記憶部94に記憶されている検知ピン16のピン長さL1を、砥石車33の初期の定寸オフセット値β1(0)と所定回数(250回)のツルーイングの後における定寸オフセット値(0.2mm)との差分だけ加算、若しくは減算して更新するだけでも良い。
このとき、所定の回数は、250回に限らず、何回でもよい。ツルーイング回数が少ないうちは、検知ピン16のピン長さL1の累積誤差は、それほど大きくないため、定寸オフセット値βの値もそれほど大きくなく補正量も小さい。従って、研削におけるサイクルタイムの観点から、相応の効果は望める。
(4.実施形態による効果)
上記実施形態によれば、円筒研削盤10(研削装置)は、砥石車33と、砥石車33を回転可能に支持する砥石台30と、工作物Wを回転可能に支持する主軸台40と、砥石車33を工作物Wの回転軸線C1と交差する方向に作動させ工作物Wに対して接近及び離間させるX軸駆動装置31(砥石車送り装置)と、砥石車33の外周面のツルーイングを行なうツルーイング装置50と、砥石車33によって研削される検知ピン16、及び、砥石車33が検知ピン16に接触したときに接触信号S1を発するAEセンサ18(検知センサ)を備える接触検知装置60と、工作物Wに対する砥石車33の相対的な位置を検知するX軸位置センサ70(位置検知装置)と、工作物Wの被研削部Waの径を計測し、被研削部Waの径が予め設定された所定寸法Fbとなった場合に定寸信号S2を発する定寸装置80と、砥石車33によって複数の工作物Wをそれぞれ定寸装置80から定寸信号S2が発せられるまで研削する動作、ツルーイングの動作、ツルーイングの後に検知ピン16に接触させ且つ検知ピン16を所定量研削する動作を順に繰返す制御を行なう制御装置90と、を備える。
制御装置90は、検知ピン16の長さを記憶するピン長さ記憶部94と、検知ピン16が所定量を研削された場合にピン長さ記憶部94に記憶される検知ピン16の長さを更新するピン長さ更新部95と、ツルーイングの後に砥石車33を検知ピン16に接触させてAEセンサ18(検知センサ)が接触信号S1を発するときにX軸位置センサ70(位置検知装置)により検知される砥石車33の相対的な位置Pbと、ピン長さ記憶部94に記憶される検知ピン16の長さL1とに基づいて、砥石車33の第一径Rを算出する第一砥石車径算出部96と、定寸信号S2が発せられた時におけるX軸位置センサ70(位置検知装置)により検知される砥石車33の相対的な位置Pa及び被研削部Waの径の所定寸法Fbに基づき算出される砥石車33の第二径Raを算出する第二砥石車径算出部105と、第一砥石車径算出部96で算出された砥石車33の第一径Rと、第二砥石車径算出部105で算出された砥石車33の第二径Raとの差を定寸オフセット値βとして算出する定寸オフセット値算出部97と、を備える。そして、ピン長さ更新部95は、砥石車33の初期の定寸オフセット値β1と所定回数のツルーイングの後における定寸オフセット値β2との差分に基づいて、ピン長さ記憶部94に記憶されている検知ピン16の長さL1を補正する。
このように、検知ピン16が、毎ツルーイング後に所定量研削される。このとき、実際に検知ピン16が研削された研削量は、制御上の数値であるピン研削量Aと一致するとは限らない。このため、研削量がピン研削量Aと一致していない場合には、検知ピン16がピン研削量A研削されるたびに実際の長さと演算上の長さとの差が誤差として累積していく。そこで、このように累積した誤差を、所定回数(例えば250回)のツルーイングがされたタイミングにおいて、定寸オフセット値算出部97が、定寸オフセット値β2として算出する。そして、ピン長さ更新部95が、砥石車33の初期の定寸オフセット値β1と所定回数のツルーイングの後における定寸オフセット値β2との差分に基づいて、ピン長さ記憶部94に記憶されている検知ピン16の長さL1を補正する。これにより、検知ピン16のピン長さL1は、累積された誤差分がキャンセルされ、真値に近い長さとなるので、以降の研削加工においては、初期状態と同様の条件から加工が開始できる。このため、ツルーイング回数が250回目以降における初期においては、ピン長さ更新部95が検知ピン16の長さを補正しない場合と比べて、砥石車33の外径が、真の外径に近い値で演算されるので、その分、加工効率は向上する。
また上記実施形態においては、制御装置90は、さらに、砥石車33の初期の定寸オフセット値β1と所定回数(例えば250回)のツルーイングの後における定寸オフセット値との差分を、ツルーイングの所定回数(例えば250回)で除算して、検知ピン16のピン長さ補正量Bを算出するピン長さ補正量算出部98を備える。そして、ツルーイングの所定回数(例えば250回)以降において、ピン長さ更新部95は、検知ピン16が研削されたピン研削量Aと、ピン長さ補正量算出部98により算出される検知ピン16のピン長さ補正量Bとに基づいて、ピン長さ記憶部94に記憶される検知ピン16の長さを更新する。
これにより、所定回数(例えば250回)のツルーイング以降からは、ツルーイングする度に検知ピン16が研削されたピン研削量A(例えば0.001mm)だけでなく、ピン長さ補正量算出部98で算出したピン長さ補正量B(例えば、0.0008mm)もあわせた分ずつ減少させる。このように、所定回数(例えば250回)のツルーイングまでは、ピン長さL1は、誤差を含んだ長さとして演算してきたが、所定回数以降のツルーイングから最後のツルーイングまでは、所定回数のツルーイングまでに累積してきた定寸オフセット値に基づき、一回のツルーイング毎に含まれるピン長さL1の平均誤差量を求め、その平均誤差量を含めてピン長さL1を変更していく。これにより、工作物Wの研削時における定寸オフセット値βは「0」となり、工作物Wを研削する度に砥石車33の位置を数値制御装置91の制御によって補正する必要が無くなり効率的である。このため、低コストで砥石車33の径を精度よく把握でき、加工効率が向上するとともに砥石車33の径が常に精度よく把握できるので、砥石車33を使用限界まで使用しやすくなり効率的である。
なお、本実施形態では、接触検知の手段としてAEセンサ18を用いたものを示したが、これに限定するものではなく、例えば、砥石車33、つまり砥石軸34の回転トルクや回転速度等の変化を検知することで砥石車33への接触を検知するようなものでも良く、これによっても、上記と同様の作用効果を奏することができる。
また、本実施形態では、円筒研削盤10に適用したものを示したが、これに限定するものではなく、例えば、クランクシャフト等を研削する研削盤にも適用することができ、従来では、砥石車径の管理が困難であった研削盤でも、容易に砥石車径を管理することができ、作業効率をより高めることができる。
また、本実施形態では、定寸装置として、インプロセスの装置を設けたが、これに限らず、ポストプロセスの定寸装置によって構成しても良い。